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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153062
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20221004BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/203
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056095
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠矢
(72)【発明者】
【氏名】石井 力
(72)【発明者】
【氏名】河村 功士
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA13
3D054BB01
3D054CC11
3D054DD09
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】乗員を迅速かつ安定して保護可能なエアバッグを提供すること。
【解決手段】膨張完了時に乗員側に配置される乗員側パネル56と、膨張完了時に車体側に配置される車体側パネル55と、膨張完了時に前端側の領域を構成する前側パネル58と、膨張完了時に後端側の領域を構成する後側パネル59と、を備える構成とされるとともに、対応する縁部相互を、平面的な結合作業により、結合可能に、構成される。乗員側パネルと車体側パネルとが、外形形状を略同一に設定される。前側パネルと後側パネルとが、外形形状を、長軸を左右方向に略沿わせた略楕円形状とされるとともに、それぞれ、外周縁を、車体側パネル及び乗員側パネルの対応する縁部に結合させて、車体側パネル及び乗員側パネルを、対応する左縁相互若しくは右縁相互をそれぞれ結合させることにより、膨張完了時に、前後方向側で離隔して、配置される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納部位に折り畳まれて収納されるとともに、内部に膨張用ガスを流入させて、座席に着座した乗員を保護可能に膨張するエアバッグであって、
可撓性を有したシート体からなる複数の基材の周縁を結合させて袋状とされて、
前記基材が、膨張完了時に前記乗員側に配置される乗員側パネルと、膨張完了時に車体側に配置される車体側パネルと、膨張完了時に前端側の領域を構成する前側パネルと、膨張完了時に後端側の領域を構成する後側パネルと、を備える構成とされるとともに、対応する縁部相互を、平面的な結合作業により、結合可能に、構成され、
前記乗員側パネルと前記車体側パネルとが、外形形状を略同一に設定され、
前記前側パネルと前記後側パネルとが、外形形状を、長軸を左右方向に略沿わせた略楕円形状とされるとともに、それぞれ、外周縁を、前記車体側パネル及び前記乗員側パネルの対応する縁部に結合させて、前記車体側パネル及び前記乗員側パネルを、対応する左縁相互若しくは右縁相互をそれぞれ結合させることにより、膨張完了時に、前後方向側で離隔して、配置される構成とされることを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
前記車体側パネルと前記乗員側パネルとの対応する左縁相互若しくは右縁相互をそれぞれ結合させて構成される左側結合部位及び右側結合部位が、膨張完了時に前後方向に略沿った直線状に配置される構成であることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
内部に、膨張完了時の前記乗員側パネルと前記車体側パネルとの上下方向側での離隔距離を規制するテザーが、配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ。
【請求項4】
前記基材が、織布から形成され、
前記前側パネル及び前記後側パネルが、ともに、経糸若しくは緯糸を、膨張完了時の前後方向に略沿わせるようにして、裁断されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納部位に折り畳まれて収納されるとともに、内部に膨張用ガスを流入させて、座席に着座した乗員を保護可能に膨張するエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグとしては、運転席に着座した乗員を保護するためのステアリングホイール用として、ステアリングホイールの上面を全面にわたって覆うように膨張させる構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。このエアバッグは、膨張完了時に運転者側に配置される運転者側壁部と、ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、運転者側壁部と車体側壁部との間に配置される側壁部と、を有して、膨張完了形状を略円錐台状としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-20737公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来のエアバッグでは、膨張完了形状を円錐台状としているものの、膨張完了時に、車体側壁部が、周縁を浮き上がらせるように湾曲して配置されることとなり、車体側壁部の周縁付近とステアリングホイールとの間に隙間が生じて、乗員を迅速に保護する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、乗員を迅速かつ安定して保護可能なエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエアバッグは、収納部位に折り畳まれて収納されるとともに、内部に膨張用ガスを流入させて、座席に着座した乗員を保護可能に膨張するエアバッグであって、
可撓性を有したシート体からなる複数の基材の周縁を結合させて袋状とされて、
基材が、膨張完了時に乗員側に配置される乗員側パネルと、膨張完了時に車体側に配置される車体側パネルと、膨張完了時に前端側の領域を構成する前側パネルと、膨張完了時に後端側の領域を構成する後側パネルと、を備える構成とされるとともに、対応する縁部相互を、平面的な結合作業により、結合可能に、構成され、
乗員側パネルと車体側パネルとが、外形形状を略同一に設定され、
前側パネルと後側パネルとが、外形形状を、長軸を左右方向に略沿わせた略楕円形状とされるとともに、それぞれ、外周縁を、車体側パネル及び乗員側パネルの対応する縁部に結合させて、車体側パネル及び乗員側パネルを、対応する左縁相互若しくは右縁相互をそれぞれ結合させることにより、膨張完了時に、前後方向側で離隔して、配置される構成とされることを特徴とする。
【0007】
本発明のエアバッグは、乗員側パネルと車体側パネルと前側パネルと後側パネルとの4枚から構成されるもので、膨張完了時の前端側の領域と、後端側の領域と、において、車体側パネルと乗員側パネルとが、縁部を直接結合されておらず、間に、それぞれ、前側パネル,後側パネルを介在させるようにして、外周壁を構成している。また、前側パネルと後側パネルとは、エアバッグの膨張完了時に、前後方向側で相互に離隔して配置される構成である。すなわち、本発明のエアバッグでは、膨張完了時の前端側の領域と後端側の領域とには、車体側パネルを直接乗員側パネルと結合させるような結合部位が配置されないことから、膨張完了時の車体側パネルにおける前縁側や後縁側には、乗員側パネル側に引っ張られる前後の中間部位(左縁相互若しくは右縁相互を直接結合させている領域)と相違して、乗員側パネル側に向かって引っ張るような引張力が作用せず、車体側パネルにおける膨張完了時の前端側の領域及び後端側の領域が、前側パネル若しくは後側パネルの膜長の追加により、逆に、乗員側パネル側から離隔するように押し下げられるような状態となって、収納部位の周縁を構成している車体側部材から浮き上がるように配置されることを、抑制できる。そのため、本発明のエアバッグは、膨張完了時における前端側の領域と後端側の領域とを、収納部位の周縁の車体側部材に密着させるように、膨張させることができることから、膨張完了時において、乗員を受け止めた際に、この前端側の領域と後端側の領域とを、迅速に、車体側部材によって支持させることができ、車体側部材からの反力を確保して、乗員を迅速に安定して受け止めることができる。
【0008】
したがって、本発明のエアバッグでは、乗員を迅速かつ安定して保護することができる。
【0009】
また、本発明のエアバッグは、乗員側パネル、車体側パネル、前側パネル、及び、後側パネルにおける対応する縁部相互を、平面的な結合作業により結合すれば、製造することができて、立体的な結合作業が不要であり、簡便に製造することができる。
【0010】
さらに、本発明のエアバッグにおいて、車体側パネルと乗員側パネルとの対応する左縁相互若しくは右縁相互をそれぞれ結合させて構成される左側結合部位及び右側結合部位を、膨張完了時に前後方向に略沿った直線状に配置させる構成とすれば、膨張完了時のエアバッグの左右方向側の幅寸法の増大を抑制して、エアバッグの容積が、不必要に増大することを抑制でき、かつ、エアバッグを、収納部位の周縁を厚く覆うように膨張させることが可能となって、好ましい。
【0011】
さらにまた、上記構成のエアバッグにおいて、内部に、膨張完了時の乗員側パネルと車体側パネルとの上下方向側での離隔距離を規制するテザーを、配設させる構成とすれば、膨張完了時に、乗員側パネルが、車体側パネルから過度に離隔して配置されることを防止できて、好ましい。
【0012】
さらにまた、上記構成のエアバッグにおいて、基材を、織布から形成し、前側パネル及び後側パネルを、ともに、経糸若しくは緯糸を膨張完了時の前後方向に略沿わせるようにして、裁断させる構成とすれば、エアバッグの膨張時に、前側パネルと後側パネルとが必要以上に伸びがたく、高い反発力を確保して、乗員受止時に、大きく変形することを抑制できて、受止ストロークを長くせずに、乗員を安定して受け止めることが可能となって、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態であるエアバッグを使用したハンドル用エアバッグ装置を示す概略平面図である。
図2図1のハンドル用エアバッグ装置の車両搭載時の概略縦断面図である。
図3図1のハンドル用エアバッグ装置に使用されるエアバッグを単体で膨張させた状態の概略斜視図である。
図4図3のエアバッグの平面図である。
図5図3のエアバッグの前後方向に沿った概略縦断面図である。
図6図3のエアバッグの左右方向に沿った概略縦断面図である。
図7図3のエアバッグを構成する基材を並べた状態を示す平面図である。
図8】実施形態のハンドル用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、ハンドル用のエアバッグ20を、例に採り、説明をする。エアバッグ20は、図1,2に示すようなハンドルWに搭載されるハンドル用エアバッグ装置(以下「エアバッグ装置」と省略する)Mに使用されている。ハンドルWは、ハンドル本体1と、ハンドル本体1の中央のボス部Bの上部に配置されるエアバッグ装置Mと、を備えている。ハンドル本体1は、実施形態の場合、車両の操舵時に把持する略円環状のリング部Rと、リング部Rの略中央に配置されてシャフトSSに連結されるボス部Bと、ボス部Bとリング部Rとを連結する4本のスポーク部Sと、を備えている。なお、実施形態において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両に搭載されたハンドルWの直進操舵時を基準とするものであり、ハンドルWを組み付けるシャフトSS(図2参照)の軸方向に沿った上下を上下方向とし、シャフトSSの軸直交方向である車両の前後を前後方向とし、シャフトSSの軸直交方向である車両の左右を左右方向として、前後・上下・左右の方向を示すものである。
【0015】
ハンドル本体1は、図1,2に示すように、リング部R、ボス部B、スポーク部Sの各部を連結するように配置されて、アルミニウム合金等の金属からなる芯金3を、備えている。芯金3におけるリング部Rの部位と、各スポーク部Sにおけるリング部R側の部位と、には、合成樹脂製の被覆層5が、被覆されている。また、芯金3におけるボス部Bの部位には、シャフトSSを挿入させてナットN止めするための鋼製のボス4が、配設されている。さらに、ハンドル本体1の下部には、ボス部Bの下方を覆う合成樹脂製のロアカバー6が、配設されている。
【0016】
エアバッグ装置Mは、図1に示すように、ハンドルWの略中央のボス部Bに配置されるもので、折り畳まれて収納されるエアバッグ20と、エアバッグ20に膨張用ガスを供給するインフレーター11と、エアバッグ20とインフレーター11とを収納して保持する収納部位としてのケース12と、折り畳まれたエアバッグ20を覆うエアバッグカバー14と、エアバッグ20とインフレーター11とをケース12に取り付けるためのリテーナ10と、を備えている。
【0017】
インフレーター11は、図2に示すように、複数のガス吐出口11bを有した略円柱状の本体部11aと、インフレーター11をケース12に取り付けるためのフランジ部11cと、を備えている。フランジ部11cには、リテーナ10の図示しない各ボルトを貫通させるための図示しない貫通孔が、形成されている。
【0018】
収納部位としてのケース12は、板金製として、図2に示すように、インフレーター11を下方から挿入させて取り付ける略長方形状の底壁部12aと、底壁部12aの外周縁から上下に延びる周壁部12bと、を備えている。周壁部12bの上端には、外方へ延びる取付片12cが、形成され(図1参照)、この取付片12cには、図示しないホーンスイッチ機構の取付基板が取り付けられている。そして、この図示しない取付基板を利用して、ケース12が、ハンドルWの芯金3に取付固定され、エアバッグ装置Mが、シャフトSSに装着済みのハンドル本体1のボス部Bの上部に搭載されることとなる。また、ケース12の周壁部12bには、リベット15等を利用して、エアバッグカバー14の側壁部14cが、取り付けられている(図2参照)。実施形態の場合、エアバッグ20とインフレーター11とは、エアバッグ20内に配置させたリテーナ10の図示しないボルトを取付手段として、この図示しないボルトを、エアバッグ20の後述する流入用開口の周縁の取付孔、ケース12の底壁部12a、及び、インフレーター11のフランジ部11cに貫通させて、図示しないナット止めすることにより、ケース12の底壁部12aに取り付けられている。
【0019】
エアバッグカバー14は、合成樹脂製として、ケース12に収納されたエアバッグ20の上方を覆う天井壁部14aと、天井壁部14aの外周縁付近から下方に延びる略四角筒形状の側壁部14cと、を備えている。天井壁部14aには、膨張するエアバッグ20に押されて前後に開く2枚の扉部14b,14bが、形成されている。
【0020】
エアバッグ20は、袋状のバッグ本体21と、バッグ本体21の膨張完了形状を規制するテザー45と、を備える構成とされている。
【0021】
バッグ本体21は、図1,2の二点鎖線に示すように、膨張完了時に、車体側部材としてのハンドルWにおけるリング部Rの上面を略全面にわたって覆うように配設されるもので、実施形態の場合、膨張完了形状を、上下方向側から見て、、前後方向側を幅広とした略長円状とされるとともに、左右方向側から見て前後の全域にわたって厚さを略一定として、構成されている(図3~6参照)。詳細には、バッグ本体21は、図4に示すように、上下方向側から見た膨張完了形状を、前縁21aと後縁21bとを略円弧状に湾曲させ、左縁21cと右縁21dとを前後方向に沿った略直線状とした略小判形状とされている。実施形態の場合、バッグ本体21は、膨張完了時の外形形状を、前後左右で略対称として、構成されている。
【0022】
バッグ本体21は、膨張完了時に乗員としての運転者MD側に配置される乗員側壁部32と、膨張完了時に車体側となるハンドルW側に配置される車体側壁部26と、乗員側壁部32と車体側壁部26との外周縁相互を連結するように配置される側壁部35と、を備えている。実施形態のバッグ本体21では、膨張完了状態において、側壁部35は、前後左右の略全域にわたって、幅寸法を略一定として構成され、乗員側壁部32と車体側壁部26とは、外形形状を略同一として、前後方向側を幅広とした略長円状(略小判形状)とされるとともに、ハンドルWのリング面RFに略沿うように、略平行に配置される構成である。また、実施形態のバッグ本体21では、側壁部35の領域に、バッグ本体21を構成する後述する乗員側パネル56,車体側パネル55,前側パネル58,後側パネル59の対応する縁部相互を結合させて構成される結合部位が、配設されている。具体的には、側壁部35において、左右方向側で対向する左壁部35c,右壁部35dにおける前後の中央側の部位には、左側結合部位39L,右側結合部位39Rが、それぞれ、左壁部35c,右壁部35d上下の略中央において前後方向(リング面RF)に略沿うような直線状として、配設されており(図8参照)、側壁部35における前壁部35aの周縁から左壁部35c,右壁部35dの前側の領域にかけてには、この左側結合部位39L,右側結合部位39Rの前端を、相互に連結するようにして、2つの前上側結合部位37U,前下側結合部位37Dが配設され、側壁部35における後壁部35bの周縁から左壁部35c,右壁部35dの後側の領域にかけては、同様に、左側結合部位39L,右側結合部位39Rの後端を相互に連結するようにして、2つの後上側結合部位38U,後下側結合部位38Dが、配設されている(図3,5参照)。すなわち、前上側結合部位37U及び前下側結合部位37Dは、それぞれ、前壁部35aと、車体側壁部26若しくは乗員側壁部32と、の境界部位を構成しており、後上側結合部位38U及び後下側結合部位38Dは、それぞれ、後壁部35bと、車体側壁部26若しくは乗員側壁部32と、の境界部位を構成している。
【0023】
車体側壁部26において、前後左右の略中央となる位置には、インフレーター11の本体部11aを下方から挿入させて、インフレーター11のガス吐出口11bから吐出される膨張用ガスを内部に流入させるための流入用開口27が、略円形に開口して形成されている。また、車体側壁部26における流入用開口27の周縁には、リテーナ10の図示しないボルトを挿通させるための取付孔28が、4個形成されている。さらに、車体側壁部26において、流入用開口27の前方となる前端近傍の領域(バッグ本体21における前端側部位23の下面側)には、バッグ本体21内に流入した余剰の膨張用ガスを排気するためのベントホール29,29が、左右対称となる2箇所に、形成されている。
【0024】
実施形態のエアバッグ20では、後述するごとく、内部に、車体側壁部26の前後左右の略中央(流入用開口27付近)と、乗員側壁部32の前後左右の略中央と、を、連結するようにテザー45が、配設されることから、乗員側壁部32は、バッグ本体21の膨張完了時には、前後左右の中央を、他の領域よりも車体側壁部26側に位置させるように(相対的に僅かに凹ませるように)、配置されることとなる(図5参照)。そして、乗員側壁部32は、膨張完了時にテザー45よりも前方に位置する前側中央領域33を、ハンドルWのリング面RFに対して、傾斜させるように配置される構成とされている(図8参照)。乗員側壁部32における前側中央領域33は、膨張完了時に、運転者MD(乗員)の頭部MHの前方に位置して、頭部MHを受け止める領域であり、リング面RFより鉛直方向に近づくように、リング面RFに対して傾斜して配置されるもので、実施形態の場合、頭部MHに略沿うように、配置される。
【0025】
実施形態のバッグ本体21は、図4に示すように、膨張完了時における左右方向側の幅寸法W1を、ハンドルWにおけるリング部Rのリング径D(図1参照)よりも大きく設定され、また、膨張完了時における前後方向側の幅寸法W2を、左右方向側の幅寸法W1よりも大きく設定されている。具体的には、バッグ本体21の膨張完了時における左右方向側の幅寸法W1は、リング部Rのリング径Dの4/3程度に設定され、前後方向側の幅寸法W2は、左右方向側の幅寸法W1の5/4程度に設定されている。さらに、バッグ本体21は、前後の略全域にわたって厚さ寸法を略一定とされているが、前後の中央付近の厚さ寸法T1は、前端側部位23及び後端側部位24の厚さ寸法T2よりも、僅かに小さく設定されている(図5参照)。
【0026】
バッグ本体21内に配設されるテザー45は、車体側壁部26における流入用開口27周縁と乗員側壁部32の前後左右の中央付近とを連結するように配置されて、膨張完了時における乗員側壁部32の中央付近と流入用開口26周縁との離隔距離を規制するもので、実施形態の場合、流入用開口27の左右両側となる2箇所に、形成されている。テザー45は、図7に示すような2枚のテザー用基材47U,47Dから構成される。テザー用基材47U,47Dは、それぞれ、車体側壁部26側と乗員側壁部32側とに結合される取付側部位48U,48Dと、取付側部位48U,48Dの外周縁から延びる2つのテザー構成部49U,49Dと、を備える構成とされ、車体側壁部26側と乗員側壁部32側とに、取付側部位48U,48Dを結合させた状態で、対応する各テザー構成部49U,49Dの端部相互を結合させることにより、テザー45を形成している。
【0027】
実施形態のバッグ本体21は、可撓性を有したシート体からなる複数の基材の周縁を結合させて袋状に構成されるもので、実施形態の場合、図7に示すように、膨張完了時に乗員としての運転者MD側に配置される乗員側パネル56と、膨張完了時に車体側となるハンドルW側に配置される車体側パネル55と、膨張完了時のバッグ本体21の前端側の領域を構成する前側パネル58と、膨張完了時のバッグ本体21の後端側の領域を構成する後側パネル59と、の4枚の基材から、構成されている。これらの乗員側パネル56,車体側パネル55,前側パネル58,後側パネル59は、対応する縁部相互を、平面的な結合(縫合)作業により、結合可能に、構成されている。
【0028】
乗員側パネル56と車体側パネル55とは、外形形状を略同一に設定されて、左右方向側に幅広とした略樽形状とされている(図7参照)。前側パネル58と後側パネル59とは、外形形状を略同一に設定されて、長軸を左右方向に略沿わせた略楕円形状とされている。詳細には、乗員側パネル56及び車体側パネル55は、前縁55a,56aと後縁55b,56bとを、それぞれ、曲率を同一とした略円弧状に湾曲させ、左縁55c,56cと右縁55d,56dとを、それぞれ、前後方向に沿った略直線状として、前後左右で対称の略樽形状とされている。乗員側パネル56は、乗員側壁部32と、側壁部35における左壁部35c,右壁部35dの上半分程度の領域と、を構成し、車体側パネル55は、車体側壁部26と、側壁部35における左壁部35c,右壁部35dの下半部程度の領域と、を構成している。前側パネル58及び後側パネル59は、上縁58a,59aと下縁58b,59bとを、それぞれ、曲率を同一とした略円弧状に湾曲させた上下で対称の略レンズ形状(凸レンズ状)とされている(図7参照)。前側パネル58は、側壁部35における前壁部35aの領域を構成し、後側パネル59は、側壁部35における後壁部35bの領域を構成している。前側パネル58,後側パネル59における上縁58a,59a,下縁58b,59bは、湾曲形状を、対応する乗員側パネル56,車体側パネル55の前縁55a,56a,後縁55b,56bと、一致させて構成されており、乗員側パネル56,車体側パネル55,前側パネル58,後側パネル59は、左右方向側の幅寸法を同一とされている。また、実施形態では、乗員側パネル56,車体側パネル55の四隅と、前側パネル58,後側パネル59の両縁49と、には、タブ部55e,56e,58c,59cが、配設されている。このタブ部55e,56e,58c,59cは、乗員側パネル56,車体側パネル55,前側パネル58,後側パネル59の対応する縁部相互の結合作業時に折り込まれて共縫いされるもので、乗員側パネル56,車体側パネル55,前側パネル58,後側パネル59の対応する縁部相互を縫着(結合)させて形成される結合部位の交点(具体的には、前上側結合部位37U,前下側結合部位37D,後上側結合部位38U,後下側結合部位38D,左側結合部位39L,右側結合部位39Rの4つの交点)の部位に配置され、これらの交点近傍部位を補強するために、配設されている。
【0029】
実施形態では、バッグ本体21を構成する乗員側パネル56,車体側パネル55,前側パネル58,後側パネル59と、テザー45を構成するテザー用基材47U,47Dと、は、それぞれ、ポリエステル糸やポリアミド糸等からなる経糸と緯糸とを使用して平織り等により織成された可撓性を有した織布から、構成されている。具体的には、実施形態の場合、図7に示すように、車体側パネル55は、経糸VT及び緯糸HTをバイアス方向に沿わせるように(斜め45°で交差させるように)、裁断して形成され、乗員側パネル56,前側パネル58,後側パネル59は、経糸VTを前後方向に略沿わせ、緯糸HTを左右方向に略沿わせるように、裁断して形成されている。
【0030】
次に、実施形態のエアバッグ20の製造について述べる。車体側パネル55にテザー用基材47Dの取付側部位48Dを重ね、流入用開口27の周縁となる部位で、縫合糸を用いて縫着させ、孔開け加工により、流入用開口27と取付孔28とを形成する。乗員側パネル56にテザー用基材47Uの取付側部位48Uを縫着させる。次いで、車体側パネル55と乗員側パネル56とを、外表面側を接触させつつ、平らに展開した状態で重ね、左縁55c,56c相互,右縁55d,56d相互を、それぞれ、左側結合部位39L,右側結合部位39Rを形成するように、縫合糸を用いて縫着させる。その後、車体側パネル55と乗員側パネル56とを、前縁55a,56a相互を離隔させるように前縁55a,56a側を開き、前側パネル58を重ね、前側パネル58の下縁58bと車体側パネル55の前縁55aとを、前下側結合部位37Dを形成するように、縫合糸を用いて縫着させ、同様に、前側パネル58の上縁58aと乗員側パネル56の前縁56aとを、縫着させて、前上側結合部位37Uを形成する。車体側パネル55と乗員側パネル56とを、後縁55b,56b相互を離隔させるように後縁55b,56b側を開き、後側パネル59を重ね、後側パネル59の下縁59bと車体側パネル55の後縁55bとを、後下側結合部位38Dを形成するように、縫合糸を用いて縫着させ、同様に、後側パネル59の上縁59aと乗員側パネル56の後縁56bとを縫着させて、後上側結合部位38Uを形成すれば、袋状のバッグ本体21を形成することができる。このバッグ本体21を、縫代を外部に露出させないように、流入用開口27を利用して反転させた後、テザー構成部49U,49Dの先端相互を結合させてテザー45を形成すれば、エアバッグ20を製造することができる。
【0031】
このようにして製造したエアバッグ20は、以下のようにして、車両に搭載することができる。まず、図示しないボルトを取付孔から突出させるようにして、内部にリテーナ10を配置させた状態で、エアバッグ20を、ケース12内に収納可能に折り畳む。その後、折り畳んだエアバッグ20をケース12に収納させ、インフレーター11の本体部11aを下方から挿入させて、底壁部12aから突出させた図示しないボルトと、ナットと、を利用して、インフレーター11とエアバッグ20とをケース12に取り付ける。さらに、ケース12にエアバッグカバー14を被せて、リベット15等を利用して、ケース12にエアバッグカバー14を取り付け、その後、ケース12の取付片12cに図示しないホーンスイッチ機構を組み付ければ、エアバッグ装置Mを組み立てることができる。このエアバッグ装置Mは、予めシャフトSSに締結しておいたハンドル本体1に対して、ホーンスイッチ機構の図示しない取付基板を利用して取り付ければ、車両に搭載することができる。
【0032】
実施形態のエアバッグ装置Mでは、インフレーター11のガス吐出口11bから膨張用ガスが吐出されれば、エアバッグ20が、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、エアバッグカバー14の扉部14b,14bを押し開き、ケース12から突出して、図1,2の二点鎖線及び図8に示すように、ハンドルWの上面を略全面にわたって覆うように、膨張を完了させることとなる。
【0033】
そして、実施形態のエアバッグ20では、バッグ本体21は、乗員側パネル56と車体側パネル55と前側パネル58と後側パネル59との4枚から構成されるもので、膨張完了時の前端側の領域(前端側部位23)と、後端側の領域(後端側部位24)と、において、車体側パネル55と乗員側パネル56とが、縁部を直接結合されておらず、間に、それぞれ、前側パネル58,後側パネル59を介在させるようにして、外周壁を構成している。また、前側パネル58と後側パネル59とは、エアバッグ20の膨張完了時に、前後方向側で相互に離隔して配置される構成である。すなわち、実施形態のエアバッグ20では、膨張完了時の前端側部位23と後端側部位24とには、車体側パネル55を直接乗員側パネル56と結合させるような結合部位が配置されないことから、膨張完了時の車体側パネル55における前縁55a側や後縁55b側には、乗員側パネル56側に引っ張られる前後の中間部位(左縁55c,56c相互若しくは右縁55d,56d相互を直接結合させている領域)と相違して、乗員側パネル56側に向かって引っ張るような引張力TS(図3参照)が作用せず、膨張完了時の車体側パネル55における前端側の領域及び後端側の領域が、前側パネル58若しくは後側パネル59の膜長の追加により、逆に、乗員側パネル56側から離隔するように押し下げられるような状態(図3に示すような張力TLを作用させるような態様)となって、膨張完了時の前端側部位23及び後端側部位24が、収納部位としてのケース12の周縁を構成している車体側部材(ハンドルWのリング部R)から浮き上がるように配置されることを、抑制できる。そのため、実施形態のエアバッグ20は、膨張完了時における前端側部位23と後端側部位24とを、収納部位(ケース12)の周縁の車体側部材であるハンドルWのリング部Rに密着させるように、膨張させることができることから、膨張完了時において、乗員としての運転者MDを受け止めた際に、この前端側部位23と後端側部位24とを、迅速に、リング部Rによって支持させることができ、リング部Rからの反力を確保して、運転者MDを迅速に安定して受け止めることができる。
【0034】
したがって、実施形態のエアバッグ20では、乗員としての運転者MDを迅速かつ安定して保護することができる。
【0035】
また、実施形態のエアバッグ20は、乗員側パネル56、車体側パネル55、前側パネル58、及び、後側パネル59における対応する縁部相互を、平面的な結合作業により結合すれば、製造することができて、立体的な結合作業が不要であり、簡便に製造することができる。
【0036】
さらに、実施形態のエアバッグ20では、車体側パネル55と乗員側パネル56とが、左縁55c,56c,右縁55d,56dを、それぞれ、前後方向に略沿った直線状に形成されて、車体側パネル55と乗員側パネル56との対応する左縁55c,56c相互若しくは右縁55d,56d相互をそれぞれ結合させて構成される左側結合部位39L及び右側結合部位39Rが、膨張完了時に前後方向に略沿った直線状に配置される構成である。そのため、膨張完了時のエアバッグ20の左右方向側の幅寸法の増大を抑制して、エアバッグ20の容積が、不必要に増大することを抑制でき、かつ、エアバッグ20を、収納部位(ケース12)の周縁であるリング部Rの上面側を厚く覆うように膨張させることができる。なお、このような点を考慮しなければ、車体側パネル及び乗員側パネルの外形形状を、左縁及び右縁を略直線状としなくとも、例えば、左縁及び右縁を、前縁及び後縁と曲率を異ならせて左右の外方に突出するように湾曲させた外形形状として、車体側パネル及び乗員側パネルを構成してもよい。
【0037】
さらにまた、実施形態のエアバッグ20では、バッグ本体21の内部に、膨張完了時の乗員側パネル56(乗員側壁部32)と車体側パネル55(車体側壁部26)との上下方向側での離隔距離を規制するテザー45が、配設されていることから、膨張完了時に、乗員側パネル56(乗員側壁部32)が、車体側パネル55(車体側壁部26)から過度に離隔して配置されることを防止できる。また、実施形態のエアバッグ20では、バッグ本体21の内部にテザー45を配設させることにより、乗員側壁部32が、バッグ本体21の膨張完了時に、前後左右の中央を、他の領域よりも車体側壁部26側に位置させるように(相対的に僅かに凹ませるように)、配置されることとなって、膨張完了時にテザー45よりも前方に位置する前側中央領域33を、ハンドルWのリング面RFに対して、傾斜させるように配置させることとなる(図8参照)。この乗員側壁部32における前側中央領域33は、エアバッグ20の膨張完了時に、運転者MD(乗員)の頭部MHの前方に位置して、頭部MHを受け止める領域であって、膨張完了時に、リング面RFより鉛直方向に近づくように、リング面RFに対して傾斜して配置されることとなる。すなわち、前側中央領域33は、頭部MHに略沿うように配置されることから、頭部MHを広い面で安定して受け止めることができる。
【0038】
さらにまた、実施形態のエアバッグ20では、織布からなる前側パネル58及び後側パネル59が、ともに、経糸VTを前後方向に略沿わせ、緯糸HTを左右方向に略沿わせるように、裁断して形成されている。そのため、エアバッグ20の膨張時に、前端側部位23及び後端側部位24を構成している前側パネル58と後側パネル59とが必要以上に伸びがたく、高い反発力を確保して、運転者MDの受止時に、大きく変形することを抑制できて、受止ストロークを長くせずに、運転者MDを安定して受け止めることができる。なお、このような点を考慮しなければ、前側パネル及び後側パネルを、経糸及び緯糸をバイアス方向に沿わせるように(斜め45°で交差させるように)、裁断して形成してもよい。
【0039】
なお、実施形態では、ハンドル用のエアバッグ20を例に採り、説明したが、本発明を適用可能なエアバッグは、ハンドル用に限られるものではなく、例えば、ミッドマウントタイプの助手席用エアバッグ装置に使用されるエアバッグにも、適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
11…インフレーター、12…ケース(収納部位)、20…エアバッグ、21…バッグ本体、23…前端側部位、24…後端側部位、26…車体側壁部、32…乗員側壁部、35…側壁部、39L…左側結合部位、39R…右側結合部位、45…テザー、55…車体側パネル、55b…左縁、55c…右縁、56…乗員側パネル、56b…左縁、56c…右縁、58…前側パネル、59…後側パネル、MD…運転者(乗員)、W…ハンドル(車体側部材)、M…ハンドル用エアバッグ装置(エアバッグ装置)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8