(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153079
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】尿検体から血中及び尿中の細菌を検出する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20221004BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221004BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01N33/569 F ZNA
G01N33/53 D
G01N33/493 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056120
(22)【出願日】2021-03-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳彦
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB03
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】尿検体を用いて細菌の血液感染の有無を判定する手法を提供する。
【解決手段】対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するための方法であって、(a)尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する第1のアッセイを実施する工程、(b)尿検体中の細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する第2のアッセイを実施する工程、及び、(c)前記工程(a)における第1のアッセイの検出結果と、前記工程(b)における第2のアッセイの検出結果とを比較し、比較結果に基づいて尿中細菌及び/又は血中細菌の有無又は存在量を検出する工程を含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するための方法であって、
(a)尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する第1のアッセイを実施する工程、
(b)尿検体中の細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する第2のアッセイを実施する工程、及び、
(c)前記工程(a)における第1のアッセイの検出結果と、前記工程(b)における第2のアッセイの検出結果とを比較し、比較結果に基づいて尿中細菌及び/又は血中細菌の有無又は存在量を検出する工程
を含む方法。
【請求項2】
細菌由来抗原が、細菌のリボゾームタンパク質L7/L12である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させてから、第1のアッセイを実施する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、尿検体を超音波処理することにより、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、尿検体を溶菌剤で処理することにより、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、尿検体中の細菌細胞を除去してから、第2のアッセイを実施する、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において、尿検体を濾過することにより、尿検体内の尿中細菌を除去する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
検出対象の細菌が、エシェリキア(Escherichia)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、プロテウス(Proteus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、シトロバクター(Citrobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、及びセラチア(Serratia)属から選択される1以上の属の細菌から選択される、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)の第1のアッセイ、及び、工程(b)の第2のアッセイが、
尿検体と、細菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体と、細菌由来抗原を標識するための検出用抗体とを接触させることにより、尿検体内の細菌由来抗原を捕捉すると共に標識し、捕捉された尿検体内の細菌由来抗原を、検出用標識に基づき検出することを含む、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法を実施することにより、対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するためのキットであって、
尿検体中の細菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体と、
細菌由来抗原を標識するための検出用抗体とを含む、キット。
【請求項11】
検体を展開させ、検体と検出用抗体との接触を行うための担体を更に含み、
前記担体上に、第1のアッセイを行うための第1のアッセイ領域、及び、第2のアッセイを行うための第2のアッセイ領域が設けられ、第1及び第2のアッセイ領域の各々に、捕捉用抗体が固定化されている、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
第1のアッセイ領域のみに溶菌剤が塗布されている、請求項11に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するための方法、及び、斯かる方法に利用されるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象の細菌の血液感染の有無を判定するには、対象から採取した血液由来検体内の細菌の有無を、抗原抗体反応等により検出する必要があった(特許文献1:特開2020-54279号公報;特許文献2:特許第5599013号公報;特許文献3:特許第6723293号公報)。しかし、これらの方法は対象からの採血に手間及び時間を要するため、より簡便かつ迅速な手法が求められていた。
【0003】
そこで、尿検体を用いて細菌の血液感染の有無を判定する手法が検討されている(特許文献4:国際公開第2011/007823号)。対象の血中に存在する細菌は対象の体内で分解され、その分解物の一部は糸球体から尿中に排出される。糸球体のサイズバリアの上限は66kDa以下であるところ、それよりも小さな細菌の断片は糸球体から尿中に排出される可能性がある。よって、糸球体から尿中に排出された血中細菌の分解物を抗原として、抗原抗体反応に基づき検出を行えば、尿検体を用いて細菌の血液感染の有無を判定することが可能となる。
【0004】
しかし、大腸菌(Escherichia coli)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等、血液感染のみならず尿路感染の可能性もある細菌の場合は、対象から採取した尿検体内に、尿路感染した細菌が存在する可能性がある。また、採尿時に外陰部等の尿路以外から細菌が混入する例(コンタミネーション)も多い。よって、尿検体から細菌分解物が検出された場合でも、斯かる細菌分解物が血中細菌及び尿中細菌のどちらに由来するのか判別できず、血液感染の正確な判定が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-54279号公報
【特許文献2】特許第5599013号公報
【特許文献3】特許第6723293号公報
【特許文献4】国際公開第2011/007823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、尿検体を用いて細菌の血液感染の有無を判定する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討の結果、尿検体を用いて、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する第1のアッセイと、尿検体中の細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する第2のアッセイとを実施し、検出結果を比較することにより、対象の血中及び/又は尿中の細菌の有無又は存在量を検出し、細菌の血液感染の有無を適切に判定することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明の趣旨は、例えば以下に関する。
[項1]対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するための方法であって、
(a)尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する第1のアッセイを実施する工程、
(b)尿検体中の細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する第2のアッセイを実施する工程、及び、
(c)前記工程(a)における第1のアッセイの検出結果と、前記工程(b)における第2のアッセイの検出結果とを比較し、比較結果に基づいて尿中細菌及び/又は血中細菌の有無又は存在量を検出する工程
を含む方法。
[項2]細菌由来抗原が、細菌のリボゾームタンパク質L7/L12である、項1に記載の方法。
[項3]工程(a)において、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させてから、第1のアッセイを実施する、項1又は2に記載の方法。
[項4]工程(a)において、尿検体を超音波処理することにより、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる、項3に記載の方法。
[項5]工程(a)において、尿検体を溶菌剤で処理することにより、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる、項3に記載の方法。
[項6]工程(b)において、尿検体中の細菌細胞を除去してから、第2のアッセイを実施する、項1~5の何れか一項に記載の方法。
[項7]工程(b)において、尿検体を濾過することにより、尿検体内の尿中細菌を除去する、項6に記載の方法。
[項8]検出対象の細菌が、エシェリキア(Escherichia)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、プロテウス(Proteus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、シトロバクター(Citrobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、及びセラチア(Serratia)属から選択される1以上の属の細菌から選択される、項1~7の何れか一項に記載の方法。
[項9]工程(a)の第1のアッセイ、及び、工程(b)の第2のアッセイが、
尿検体と、細菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体と、細菌由来抗原を標識するための検出用抗体とを接触させることにより、尿検体内の細菌由来抗原を捕捉すると共に標識し、捕捉された尿検体内の細菌由来抗原を、検出用標識に基づき検出することを含む、項1~8の何れか一項に記載の方法。
[項10]項9に記載の方法を実施することにより、対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するためのキットであって、
尿検体中の細菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体と、
細菌由来抗原を標識するための検出用抗体とを含む、キット。
[項11]検体を展開させ、検体と検出用抗体との接触を行うための担体を更に含み、
前記担体上に、第1のアッセイを行うための第1のアッセイ領域、及び、第2のアッセイを行うための第2のアッセイ領域が設けられ、第1及び第2のアッセイ領域の各々に、捕捉用抗体が固定化されている、項10に記載のキット。
[項12]第1のアッセイ領域のみに溶菌剤が塗布されている、項11に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、尿検体を用いて細菌の血液感染の有無を判定する手法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の検出機構の一例である、ストリップ状の検出機構の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、超音波処理を利用した検出方法により、黄色ブドウ球菌の菌液及びL7/L12液を用いてL7/L12(抗原由来抗原)の検出を行った結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、フィルター処理を利用した検出方法により、黄色ブドウ球菌の菌液及びL7/L12液を用いてL7/L12(抗原由来抗原)の検出を行った結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、溶菌剤処理を利用した検出方法1により、黄色ブドウ球菌の菌液及びL7/L12液を用いてL7/L12(抗原由来抗原)の検出を行った結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、溶菌剤処理を利用した検出方法2により、黄色ブドウ球菌の菌液及びL7/L12液を用いてL7/L12(抗原由来抗原)の検出を行った結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、超音波処理を利用した検出方法により、緑膿菌の菌液及びL7/L12液を用いてL7/L12(抗原由来抗原)の検出を行った結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、フィルター処理を利用した検出方法により、緑膿菌の菌液及びL7/L12液を用いてL7/L12(抗原由来抗原)の検出を行った結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、溶菌剤処理を利用した検出方法1により、緑膿菌の菌液及びL7/L12液を用いてL7/L12(抗原由来抗原)の検出を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0012】
[I.尿検体から血中細菌を検出する方法]
本発明の第1の要旨は、対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するための方法(以下適宜「本発明の検出方法」と称する。)に関する。
【0013】
本発明者等は、血液感染のみならず尿路感染や尿路以外からのコンタミネーションの可能性もある細菌について、尿中に存在する細菌ではなく、血中感染する細菌のみを検出するための方策を探索すべく鋭意検討した。その結果、血中の物質は腎臓の糸球体を通じて尿中に排出されること、糸球体による物質の透過にはサイズバリアがあり、血清アルブミン(約66kDa)以上の高分子タンパク質等の大サイズの分子は通さないとされるとの知見に着目した(Tencer et al., Kidney International, (1998), Vol.53, pp.709-715)。血中細菌はそのままでは糸球体のサイズバリアを透過できず、尿中に排出されることはないが、血中細菌の分解物やその排出物に含まれる成分のうち、糸球体のサイズバリアを透過できる物質であれば、糸球体を通じて尿中に排出されることになる。
【0014】
そこで本発明者等は、糸球体のサイズバリアを透過可能な適切な細菌由来抗原を選択すると共に、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する第1のアッセイと、尿検体中の細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する第2のアッセイとを実施するとの技術思想に至った。尿検体に存在する細菌由来抗原のうち、血中細菌に由来する細菌由来抗原は糸球体を通じて排出されたものであるため、その全てが尿中に露出して(即ち細菌細胞外に)存在するのに対し、尿中細菌に由来する細菌由来抗原は糸球体を通過しておらず、その大部分が細菌細胞に含まれた状態で存在する。よって、第1のアッセイでは血中細菌由来抗原及び尿中細菌由来抗原の双方が検出されるのに対し、第2のアッセイでは主に血中細菌由来抗原のみが検出されることになる(なお、尿検体中では尿中細菌の分解や死滅等により、尿中細菌由来抗原の一部が細胞外に放出されて存在すると考えられるが、その量は尿中細菌細胞内に存在する細菌由来抗原と比較すると微量であると考えられる)。よって、これら第1及び第2のアッセイによる検出結果を比較することで、血中細菌の有無や存在量を適切に判定することが可能となると考えられる。
【0015】
即ち、本発明の検出方法は、対象の血中の細菌の有無又は存在量を、対象の尿検体に基づき検出するための方法であって、以下の工程を含む方法である。
(a)尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する第1のアッセイを実施する工程。
(b)尿検体中の細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する第2のアッセイを実施する工程。
(c)前記工程(a)における第1のアッセイの検出結果と、前記工程(b)における第2のアッセイの検出結果とを比較し、比較結果に基づいて尿中細菌及び/又は血中細菌の有無又は存在量を検出する工程。
【0016】
細菌由来抗原としては、検出対象細菌に由来するタンパク質等の生体物質であって、検出対象細菌を特定することができ、且つ、糸球体のサイズバリア(約66kDa)を透過可能な物質であれば、その種類は制限されない。例としては、リボゾームタンパク質L7/L12、DNAやRNA等の核酸、LPSやポリサッカライド等の膜抗原等が挙げられる。中でも細菌由来抗原としては、リボソームタンパク質L7/L12が好ましい。本発明において「リボソームタンパク質L7/L12」、或いは単に「L7/L12」とは、微生物のタンパク質合成に必須のリボゾームタンパク質の1種である。種々の細菌が共通して有するタンパク質であり、そのアミノ酸配列も概ね類似するものの、細菌種毎に若干のアミノ酸配列の相違を有するため、細菌種の特定に適している。更に、糸球体のサイズバリアを透過可能なサイズ(約12kDa)を有するため、細菌由来抗原として理想的な条件を備えている。
【0017】
検出対象細菌も限定されるものではなく、血液感染及び/又は尿路感染や尿路以外からのコンタミネーションの可能性がある細菌であって、前記の細菌由来抗原を有する細菌であれば、その種類は任意である。例としては、エシェリキア(Escherichia)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、プロテウス(Proteus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、シトロバクター(Citrobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、及びセラチア(Serratia)属から選択される1以上の属の細菌から選択される細菌が挙げられる。
【0018】
エシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)の細菌としては、大腸菌(Escherichia coli, E. coli, EC)、エシェリキア・アルベルティ(Escherichia albertii)等が挙げられる。中でも大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。
【0019】
スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)の細菌としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus, S. aureus, SA)、S. epidermidis、S. argenteus等が挙げられる。中でも黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が好ましい。
【0020】
クレブシェラ(Klebsiella)属の細菌としては、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae, K. pneumoniae, KP)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca, K. oxytoca)、クレブシエラ・アエロゲネス(Klebsiella aerogenes, K. aerogenes)等が挙げられる。中でもクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0021】
プロテウス(Proteus)属の細菌としては、ミラビリス変形菌(Proteus milabilis, P.milabilis, PM)、プロテウス・モルガニ(Proteus morganii, P. morganii)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris, P. vulgaris)、プロテウス・レットゲリ(Proteus rettgeri, P. rettgeri)等が挙げられる。中でもミラビリス変形菌(Proteus milabilis)が好ましい。
【0022】
エンテロコッカス(Enterococcus)属の細菌としては、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等が挙げられる。中でもエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)が好ましい。
【0023】
シトロバクター(Citrobacter)属の細菌としては、シトロバクター・フレウンディー(Citrobacter freundii, C. freundii, CF)、シトロバクター・アマロナティカス(Citrobacter amalonaticus, C. amalonaticus)、シトロバクター・ダイバーサス(Citrobacter diversus, C. diversus)等が挙げられる。中でもシトロバクター・フレウンディー(Citrobacter freundii)が好ましい。
【0024】
シュードモナス属(Pseudomonas)の細菌としては、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa, P. aeruginosa, PA)、P. fluorescens、P. phosphorescence、P. putida等が挙げられる。中でも緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が好ましい。
【0025】
セラチア(Serratia)属の細菌としては、セラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens, S. liquefaciens, SL)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens, S. marcescens)、セラチア・フォンティコラ(Serratia fonticola, S. fonticola)等が挙げられる。中でもセラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens)が好ましい。
【0026】
本発明の検出方法では、工程(a)において、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する第1のアッセイを実施すると共に、工程(b)において、尿検体中の細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する第2のアッセイを実施する。なお、これらの工程(a)及び(b)の順序は、特に制限されるものではなく、工程(a)及び(b)を並行して同時に実施してもよく、工程(a)を先に実施してもよく、工程(b)を先に実施してもよい。
【0027】
工程(a)において実施される第1のアッセイでは、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原及び細菌細胞外に存在する細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出する。その手法は制限されないが、例えば尿検体をアッセイに供する前又はアッセイ中に、尿検体内の尿中細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる何らかの処理を行うことが考えられる。斯かる処理としては制限されないが、例としては超音波処理、溶菌剤による処理、加熱処理、凍結融解等が挙げられる。
【0028】
尿検体内の尿中細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる処理の具体的な種類や条件等は、特に制限されるものではなく、検出対象細菌の種類等に応じて適切に選択すればよい。中でも、斯かる処理の種類や条件等の選択の一基準として、細菌の細胞壁構造が挙げられる。細菌の細胞壁構造は、グラム陽性細菌かグラム陰性細菌かによって異なる。グラム陽性細菌は、ペプチドグリカン層にタイコ酸やリポタイコ酸が包埋された比較的厚い細胞壁を有し、外膜を有さない。グラム陰性細菌は、ペプチドグリカン層からなる比較的薄い細胞壁を有すると共に、その外側にリポ多糖類、多糖類、O抗原等からなる外膜を有する。よって、検出対象細菌の細胞壁構造に基づき、斯かる細胞壁構造を破壊して、細菌由来抗原を確実に細菌細胞外に露出させることができるように、処理の種類や条件等を適切に選択することが好ましい。
【0029】
具体的に、超音波処理により細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる場合、その条件は特に制限されるものではないが、例えば以下のとおりである。グラム陽性細菌の場合は、一般的な超音波破砕機等を使用して、尿検体に対し通常1分~15分に亘って超音波処理を行うことが好ましい。グラム陰性細菌の場合は、一般的な超音波破砕機等を使用して、尿検体に対し通常5秒~3分に亘って超音波処理を行うことが好ましい。
【0030】
また、溶菌剤処理により細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる場合、その条件は特に制限されるものではないが、例えば以下のとおりである。グラム陽性細菌の場合は、例えばリゾスタフィン等の酵素、Tween 20やDDAO(N,N-ジメチルドデシルアミンN-オキシド)等の界面活性剤、アルカリ溶菌剤等の溶菌剤を含む溶菌液を、尿検体に対し通常数秒~数分に亘って接触させることにより、溶菌剤処理を行うことが好ましい。グラム陰性細菌の場合は、例えばTween 20やDDAO等の界面活性剤、アルカリ溶菌剤等の溶菌剤を含む溶菌液を、尿検体に対し通常数秒~数分に亘って接触させることにより、溶菌剤処理を行うことが好ましい。斯かる溶菌剤処理は、尿検体をアッセイに供する前に溶菌液と混合することにより実施してもよいが、尿検体をアッセイの何れかの工程で溶菌液と接触させることにより実施してもよい。
【0031】
一方、工程(b)において実施される第2のアッセイでは、尿検体中の細菌細胞内に存在する細菌由来抗原を検出せず、細菌細胞外に存在する細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出する。その手法は制限されないが、工程(a)で行われる細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる処理を、工程(b)では行わず、尿検体中に存在する細菌細胞内の細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させずに、そのままアッセイに供ればよい。或いは、より積極的な処理として、尿検体内の細菌細胞を除去する処理を行った上で、アッセイに供してもよい。斯かる尿検体内の細菌細胞を除去する処理としては、制限されるものではないが、例としてはフィルターによる濾過処理等が挙げられる。
【0032】
具体的に、フィルターによる濾過処理により尿検体内の細菌細胞を除去する場合、その条件は特に制限されるものではなく、細菌由来抗原を通過させると共に、細菌細胞を通過させない、適切な目開き(例えば0.22~0.45μm)を有するシリンジフィルター等のフィルター(例えばMerck Millipore社製シリンジフィルター等)を用いればよい。
【0033】
以上の手順で、工程(a)の第1のアッセイ及び工程(b)の第2のアッセイを実施した後、工程(c)において両アッセイの検出結果を比較する。ここで、検出結果の適切な比較が可能となるように、第1及び第2のアッセイは、先に説明した相違点を除いては、できる限り同一の装置を用い、同一条件及び同一操作で行うことが好ましい。
【0034】
本発明の検出方法による検出の対象は制限されず、細菌の感染を検出することが求められる任意の対象に実施することが可能であるが、通常は哺乳動物、好ましくはヒトである。検出の対象となる検体も特に制限されないが、本発明の趣旨から、通常は対象の尿由来の検体が用いられる。尿由来の検体としては、尿をそのまま検体として使用してもよく、尿に所望の前処理(例えば界面活性剤、酵素、pH調整用試薬等)を加えた上で検体として使用してもよい。
【0035】
第1及び第2のアッセイの具体的な検出手法は、尿検体中の細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出することが可能な免疫学的測定法であれば、その具体的な種類は特に制限されない。例としては、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマト法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチ型イムノクロマトグラフィー検出法等、種々の公知の方法が挙げられる。中でも、本発明では、検出用抗体と捕捉用抗体とを用いるイムノクロマトグラフィー検出法を使用することが好ましい。次節では、第1及び第2のアッセイをイムノクロマトグラフィー検出法で行う場合について説明する。
【0036】
[II.イムノクロマト検出法]
本発明の検出方法は、その一態様として、工程(a)の第1のアッセイ、及び、工程(b)の第2のアッセイが、検出用抗体と捕捉用抗体とを用いるイムノクロマトグラフィー検出法により実施することができる。この場合、工程(a)の第1のアッセイ、及び、工程(b)の第2のアッセイは各々、以下の工程を含むことになる。
(I)尿検体と、細菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体と、細菌由来抗原を標識するための検出用抗体とを接触させることにより、尿検体内の細菌由来抗原を捕捉用抗体により捕捉すると共に、検出用抗体により標識する工程。
(II)捕捉用抗体により捕捉された尿検体内の細菌由来抗原を、検出用標識に基づき検出する工程。
【0037】
捕捉用抗体及び検出用抗体としては、検出対象となる細菌由来抗原(例えば検出対象細菌のリボゾームタンパク質L7/L12)と抗原抗体反応を生じる抗体であれば、その種類は制限されない。但し、検出精度の観点からは、検出対象細菌以外の細菌に由来する成分(例えば検出対象細菌以外の他の細菌のL7/L12)とは抗原抗体反応を生じず、検出対象細菌の細菌由来抗原(例えば検出対象細菌のL7/L12)に対して特異性を有する抗体であることが好ましい。このような検出対象細菌の細菌由来抗原に対する特異性は、捕捉用抗体及び検出用抗体の双方が有していてもよいが、少なくとも捕捉用抗体又は検出用抗体の一方のみが斯かる特異性を有していれば構わない。
【0038】
ここで、態様Aに係る本発明の検出方法によれば、前記工程(I)は以下を含む。
(Ia-1)尿検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌由来抗原との抗原抗体反応により、尿検体中の細菌由来抗原を標識する工程。
(Ia-2)検出用抗体により標識された細菌由来抗原を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌由来抗原-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、尿検体中の細菌由来抗原を捕捉する工程。
【0039】
また、態様Bに係る本発明の検出方法によれば、前記工程(I)は以下を含む。
(Ib-1)尿検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌由来抗原との抗原抗体反応により、尿検体中の細菌由来抗原を捕捉する工程。
(Ib-2)捕捉用抗体により捕捉された細菌由来抗原を含む検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌由来抗原-捕捉用抗体複合体との抗原抗体反応により、尿検体中の細菌由来抗原を標識する工程。
【0040】
本発明の検出方法において、態様A及び態様Bのうち何れの形態を選択するかは、実際に使用する免疫測定法の種類や検体の種類に応じて決定すればよい。免疫測定法としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマト法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法等、種々の公知の免疫学的測定法が挙げられる。
【0041】
以下、特に免疫測定法としてイムノクロマト法を使用し、態様Aに係る本発明の検出方法を実施する場合を例として説明するが、他の免疫測定法を使用する場合は各特徴を適宜変更して実施することができる。
【0042】
捕捉用抗体に使用する固相担体の種類は特に制限されないが、具体的には、セルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride)、グラスファイバー等からなる多孔膜;ガラス、プラスチック、PDMS(Poly(dimethylsiloxane))、シリコン等からなる流路;糸、紙、繊維等が挙げられる。
固相担体に抗体を連結する手法も特に制限されないが、具体的には抗体の疎水性を利用した物理吸着による固定、抗体の官能基を利用した化学結合による固定等の手法が挙げられる。
【0043】
検出用抗体に使用する検出用標識の種類も特に制限されず、検出方法に応じて適宜選択すればよいが、具体的には金コロイド、白金コロイド、パラジウムコロイド等の金属コロイド;セレニウムコロイド、アルミナコロイド、シリカコロイド等の非金属コロイド;着色樹脂粒子、染料コロイド、着色リポソーム等の不溶性粒状物質;アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等の発色反応触媒酵素;蛍光色素、放射性同位体;化学発光標識、生物発光標識、電気化学発光標識等が挙げられる。
【0044】
抗体に標識を付加する手法も特に制限されないが、具体的には抗体の疎水性を利用した物理吸着、抗体の官能基を利用した化学結合等の手法が挙げられる。
【0045】
以下、本発明の細菌検査方法の各工程について個別に説明すると、前記工程(Ia-1)、即ち、検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の細菌由来抗原を標識する工程では、検出用標識を有する検出用抗体を検体と接触させ、検出用抗体と細菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の細菌由来抗原を標識する。検体を検出用抗体と接触させる手法は制限されないが、通常は検出用抗体が含浸された部材領域に、水系検体として調製した検体を導入して一定時間維持することにより実施すればよい。具体的な態様は捕捉の態様等によっても異なるが、例として、固相担体として多孔膜に固定化した捕捉用抗体に検体中の細菌由来抗原を捕捉させた場合には、その多孔膜に検出用抗体を含む水系試薬を導入して透過させることにより、多孔膜上の捕捉用抗体に捕捉された細菌由来抗原に検出用抗体を結合させればよい。別の例として、固相担体として流路上の一領域に固定化した捕捉用抗体に検体中の細菌由来抗原を捕捉させた場合には、検出用抗体を含む水系試薬をその流路に流通させることにより、流路上の捕捉用抗体に捕捉された細菌由来抗原に検出用抗体を結合させればよい。
【0046】
前記工程(Ia-2)、即ち、検出用抗体により標識された細菌由来抗原を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌由来抗原-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌由来抗原を捕捉する工程では、捕捉用抗体を検体と接触させ、捕捉用抗体と細菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の細菌由来抗原を捕捉する。検体を捕捉用抗体と接触させる手法は制限されないが、通常は捕捉用抗体の存在する領域に水系検体として調製した検体を導入して一定時間維持することにより実施すればよい。具体的な態様は捕捉用抗体の固相担体の種類等によっても異なるが、例として、固相担体として多孔膜を使用し、捕捉用抗体を固定化した多孔膜に検体を導入して透過させることにより、多孔膜に固定化された捕捉用抗体に検体中の細菌由来抗原を捕捉させればよい。別の例として、固相担体として流路上の一領域に捕捉用抗体を固定化し、当該流路に検体を流通させることにより、当該流路上の一領域に固定化された捕捉用抗体に検体中の細菌由来抗原を捕捉させてもよい。
【0047】
前記工程(II)、即ち、検体中の細菌由来抗原を検出用標識に基づき検出する工程では、捕捉用抗体により捕捉され、検出用抗体により標識された検出対象の細菌由来抗原を、その検出用標識に基づき検出する。その検出法は特に制限されず、検出用標識の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば金コロイド等の金属コロイドを検出用標識として用いた場合、細菌由来抗原に結合した金コロイドの有無又は存在量を、目視やカメラ等任意の手法で検出すればよい。
【0048】
[III.イムノクロマト検出キット]
本発明の別の要旨は、対象の尿検体に基づき対象の血中及び/又は尿中の細菌を検出するべく、前記のイムノクロマト検出法を実施するためのキット(以下適宜「本発明の検出キット」と称する。)に関する。
【0049】
本発明の検出キットは、前述した捕捉用抗体と検出用抗体とを含む。捕捉用抗体は、通常は固相担体の種類に応じた適切な形態(多孔膜を含む容器、流路を含む容器等)で提供される。検出用抗体は、通常は検出用抗体を水性媒体中に含む水系試薬又は検出用抗体を乾燥した乾燥試薬の形態で提供される。
【0050】
本発明の検出キットは、前述した捕捉用抗体と検出用抗体に加えて、これらの抗体を使用して本発明の検出方法を実施するのに必要な1種又は2種以上の試薬、検出用装置若しくはその構成部材、及び/又は、本発明の検出方法を実施するための手順を記載した指示書を含む。斯かる試薬の種類や指示書の記載内容、更には本発明の検出キットに含まれる他の構成要素は、具体的な免疫学的測定法の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0051】
本発明の検出キットが検出用装置又はその構成部材を含む場合、斯かるキットにより構成される装置は、本発明の検出方法を実施するのに必要な構成要素を備えた装置(以下適宜「本発明の装置」と略称する。)である。本発明の装置の具体的な構成要素は、本発明の検出方法の具体的な実施形態である免疫学的測定法の種類に応じて、適宜調整することができる。前述のように、免疫学的測定法の例としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマト法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法等、種々の公知の免疫学的測定法が挙げられるところ、斯かる種々の免疫学的測定法を実施するために必要な構成要素を備えた装置が、本発明の装置となる。
【0052】
装置の具体例としては、ラテラルフロー方式の装置と、フロースルー方式の装置とを挙げることができる。ここで、ラテラルフロー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させた検出領域を含むメンブレンに対し、検出対象検体及び検出用抗体を平行に展開させ、メンブレンの検出領域に捕捉された目的物質を検出する方法である。一方、フロースルー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させたメンブレンに、検出対象検体及び検出用抗体を垂直に通過させ、メンブレンの表面に捕捉された目的物質を検出する方法である。本発明の検出方法は、ラテラルフロー方式の装置とフロースルー方式の装置の何れに対しても適用することが可能である。
【0053】
ラテラルフロー方式の装置及びフロースルー方式のイムノクロマト検出装置はいずれも公知であり、本開示で説明する事項以外の手順については当業者が技術常識に基づいて適宜設計できる。以下、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の検出機構の概略構成について、図面を参照しながら説明するが、これらはあくまでも検出手順の概略構成の一例に過ぎず、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の構成は図面に例示する態様には何ら限定されない。
【0054】
図1は、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の検出機構の一例である、ストリップ状の検出機構の概略構成を示す断面図である。
図1の検出機構(10)は、クロマト展開用の不溶性膜担体(1)上のストリップ長さ方向一端側(検体流れ(B)の上流側)に、ストリップ状の検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)(このパッドに検出用抗体が含浸されている。)及び検体添加用部材(サンプルパッド)(3)が配置され、他端側(検体流れ(B)の下流側)に吸収用部材(吸収パッド)(4)が配置された状態で、基材(5)上に設けられている。不溶性膜担体(1)上のストリップ長さ方向中央部には、捕捉用抗体が固定化された部位(6)が配置されると共に、必要に応じて対照試薬が固定化された部位(7)が配置されている。なお、対照試薬は、細菌由来抗原とは結合せず検出用抗体とは結合する試薬である。
【0055】
使用時には、検体(A)を検体添加用部材(サンプルパッド)(3)上に適用すると、検体(A)は、検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)を通過して不溶性膜担体(1)を検体流れ(B)の方向に流れる。この際に、検体(A)中の細菌由来抗原(好ましくはL7/L12)が検出用抗体と結合して、細菌由来抗原-検出用抗体複合体が形成される。検体(A)が捕捉用抗体固定部位(6)を通過すると、検体中の細菌由来抗原が捕捉用抗体と結合して、捕捉用抗体-細菌由来抗原-検出用抗体複合体が形成される。さらに、検体(A)が対照試薬固定部位(7)を通過すると、検出用抗体のうち細菌由来抗原と結合していないものが対照試薬(7)と結合し、これによって、検査の終了(すなわち検体(A)が捕捉用抗体(6)を通過したこと)を確認できる。ここで、捕捉用抗体固定部位(6)に存在する捕捉用抗体-細菌由来抗原-検出用抗体複合体中の検出用抗体が有する標識を、公知の手段で検出することにより、細菌由来抗原の有無又は存在量を検出することが出来る。必要に応じて、検出用抗体の標識を公知の手法により増感して、検出を容易にしてもよい。
【0056】
なお、検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)、検体添加用部材(サンプルパッド)(3)、及び/又は対照試薬固定部位(7)は、任意に省略することもできる。本機構において検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)を有しない場合、検体(A)及び検出用抗体を、予め混合した状態又は別々の状態で、同時に又は順次に、不溶性膜担体(1)上の一端に適用することにより、上記の検査と同様の検査を行うことができる。
【0057】
また、捕捉用抗体と検出用抗体とを入れ替えても、同様の検出が可能な検出キットを構築することができる。
【0058】
なお、斯かるイムノクロマト検出キットを用いて本発明の検出方法の第1及び第2のアッセイを実施する場合、同一構成のイムノクロマト検出キットを二つ用意し、一方で第1のアッセイを実施し、他方で第2のアッセイを実施すればよい。或いは、単一のイムノクロマト検出キットに複数のアッセイ領域(上記の不溶性膜担体(1)、検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)、検体添加用部材(サンプルパッド)(3)、及び吸収用部材(吸収パッド)(4)から構成される検出単位となる領域)を設け、単一のイムノクロマト検出キットによって第1及び第2のアッセイを実施してもよい。特に後者の構成とすれば、第1及び第2のアッセイを同一条件で実施しやすくなるという利点がある。
【0059】
また、前記の工程(a)における、尿検体内の尿中細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる処理を行う手段や、前記の工程(b)における、尿検体内の細菌細胞を除去する処理を行う手段を、イムノクロマト検出キットに組み込んでもよい。例えば、工程(a)における細菌由来抗原を細菌細胞外に露出させる処理として、溶菌剤処理を行う場合は、第1のアッセイを実施するイムノクロマト検出キット(又は単一のイムノクロマト検出キットによって第1及び第2のアッセイを実施する場合は、第1のアッセイ領域)の検体添加用部材(サンプルパッド)(3)に予め溶菌液を染み込ませて乾燥させておくことにより、尿検体を第1のアッセイに供すると同時に、尿検体に対して溶菌剤処理を施してもよい。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例I.黄色ブドウ球菌の検出]
本実施例では、検出対象としてグラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を用い、模擬検体を用いてその検出を試みた。
【0062】
(1)黄色ブドウ球菌のL7/L12の取得:
国際公開第2000/06603号公報に記載の方法を参照して、黄色ブドウ球菌のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列(配列番号1)をコードする核酸配列(配列番号2)をクローニングした発現ベクターを調製し、得られた発現ベクターで大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体をLB培地等を用いて培養し、この形質転換体により発現された黄色ブドウ球菌のL7/L12の全長タンパク質を、アフィニティカラムにより発現ベクター由来のタグ配列を利用して、融合タンパク質として精製した。
【0063】
(2)黄色ブドウ球菌のL7/L12に対する抗体の調製:
前記手順で得られた黄色ブドウ球菌のL7/L12の全長タンパク質を用い、国際公開第2000/06603号公報に記載の方法を参照して、黄色ブドウ球菌のL7/L12に対するモノクローナル抗体を作製した。
【0064】
具体的には、前記の黄色ブドウ球菌のL7/L12の全長タンパク質を免疫原として、ハイブリドーマ取得の定法に従い、免疫原の濃度が0.4mg/mLとなるようPBSで調製し、フロイントのアジュバントを同量加え、免疫原量が50μg/回となるようマウスに4回免疫した。試験採血により血清抗体価上昇を確認後、マウスの脾臓細胞を摘出した。摘出したマウス脾臓細胞をミエローマ細胞と融合し、種々のハイブリドーマを取得した。取得した種々のハイブリドーマをHAT培地で培養し、培養上清中の抗体を用いてスクリーニングを行った。スクリーニングはELISA法により実施し、黄色ブドウ球菌(SA)の細菌溶解物、及び、他の複数種の細菌(大腸菌(EC)、緑膿菌(PA)、肺炎球菌(SP)、クレブシエラニューモニエ(KP)、クラミジアニューモニエ(CP)、及びセラチア菌(SM))の細菌溶解物との反応性を検証し、黄色ブドウ球菌(SA)の細菌溶解物のみと反応性を示す特異性抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、黄色ブドウ球菌(SA)及び他の複数種の細菌の細菌溶解物と反応性を示す汎用性抗体を産生するハイブリドーマを選択した。
【0065】
ELISA法による抗体のスクリーニングの手順を以下に示す。上記の各細菌をATCCより購入・培養し、それぞれ1×e8cfu/mLずつ準備し、PBS中に懸濁した。超音波処理によって各細菌を溶菌し、目開き0.45μmのフィルターでろ過してデブリを除去することにより、各細菌の細菌溶解物を得た。ELISA用の96穴ポリスチレンプレートの各ウェルに上記細菌溶解物を50μLずつ滴下し、プレート底面に固相化した。PBS-T(Tween 20入りPBS)で各ウェルを3回洗浄後、1%BSA(Bovine Serum Albumin:牛血清アルブミン)入りのPBSでブロッキング処理を施した。ブロッキング後、PBS-Tで3回洗浄した後、各ウェルに10μg/mLの上述の抗体作製法に記載したハイブリドーマ培養上清中の各抗体を50μLずつ滴下し1時間抗原抗体反応を行った。反応後、PBS-Tで3回洗浄した後、0.5μg/mLの検出用の酵素であるHRP(Horse Radish Peroxidase:ホースラディッシュペルオキシダーゼ)を標識した2次抗体(Goat Anti-mouse IgG:ヤギ抗マウスIgG)を50μLずつ滴下し反応を行った。反応後、PBS-Tで5回洗浄した後、各ウェルに発色基質であるTMB(Tetramethylbenzidine:テトラメチルベンジジン)と過酸化水素の混合物100μLずつを滴下し発色反応を行った。10分後、反応停止液である塩酸を各ウェルに滴下したのち、各ウェルの450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0066】
以上により選択された特異性抗体又は汎用性抗体を産生するハイブリドーマから、モノクローナル抗体を調製した。具体的には、モノクローナル産生の定法に従い、選択したハイブリドーマをウシ胎児血清(FBS)を10%添加したTIL MediaI培地で培養し、マウスの腹腔内に投与し、腹水を回収した。回収した腹水は遠心により浮遊物・赤血球を分離後、目開き0.45μmのフィルターでろ過した。得られたろ液をProtein Gカラムに通して抗体を吸着させることにより、得られたモノクローナル産生抗体をマウス腹水から精製取得した。
【0067】
以上の手順で得られた、黄色ブドウ球菌のL7/L12に対する汎用性モノクローナル抗体13A2、15C2、20B1、46B1、及び52B1、並びに、特異性モノクローナル抗体24C2、30A2、32A2、62A1、及び78C2のうち、検出用抗体としては汎用性モノクローナル抗体15C2を、捕捉用抗体としては特異性モノクローナル抗体24C2を用いて、以下のイムノクロマトキットの作製に供した。
【0068】
(3)検出用抗体及び捕捉用抗体を用いたイムノクロマトキットの作製:
前記手順で得られた黄色ブドウ球菌のL7/L12に対する検出用抗体及び捕捉用抗体を用いて、以下の手順によりイムノクロマトキットを作製した。
【0069】
まず、以下の手順により検出用抗体を金コロイド標識した。即ち、金コロイド溶液(粒径60nm;BBI Solutions社製)0.9mLに0.1Mリン酸カリウム(pH7.5)を混合し、検出用抗体を濃度25μg/mLとなるように加え、室温で10分間静置して、金コロイド粒子表面に検出用抗体を結合させた。次いで、金コロイド溶液における最終濃度が1%となるようにウシ血清アルブミン(BSA)10%水溶液を加え、金コロイド粒子の残余表面をBSAでブロッキングした。続いて、この溶液を遠心分離(15000×rpm、5分間)して金コロイド標識抗体を沈殿させた。上清液を除去し、金コロイド標識抗体を0.25%BSA、2.5%スクロース、35mM NaClを含有する20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.2)に懸濁して、金コロイド標識検出用抗体溶液を得た。
【0070】
前記の手順で得られた金コロイド標識検出用抗体溶液と、前記の捕捉用抗体を用いて、以下の手順により、
図1に示される構成のイムノクロマトグラフィー装置(イムノクロマトキット)を作製した。
【0071】
まず、幅25mm×長さ300mmのニトロセルロース膜を、クロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体(1)として用意した。捕捉用抗体を濃度1.5mg/mLで含む溶液を、このクロマト展開用膜担体(1)におけるクロマト展開開始点側の末端から10mmの位置に、濃度1μL/cmとなるようライン状に塗布して、これを50℃で30分間乾燥し、その後、0.5%カゼイン溶液に浸し、次いで0.2%スクロース溶液に浸し、一晩室温で乾燥させることにより、細菌由来抗原と捕捉用抗体と金コロイド標識検出用抗体との複合体の捕捉部位(6)とした。
【0072】
一方、10mm×300mmの帯状のグラスファイバーパットに、前記の金コロイド標識検出用抗体2mLを含浸せしめ、凍結乾燥させて検出用抗体含浸部材(2)とした。
【0073】
上記のクロマト展開用膜担体(1)及び検出用抗体含浸部材(2)に加え、検体添加用部材(サンプルパッド)(3)として綿布を、吸収用部材(吸収パッド)(4)として濾紙を用意した。これらの部材を基材(5)に貼り合せた後、5mm幅に切断し、
図1に示される構成のイムノクロマトグラフィー装置(イムノクロマトキット)を作製した。斯かる構成のイムノクロマトキットを、以下の各検出方法毎に、第1のアッセイ用及び第2のアッセイ用に個別に作製した。以下適宜、第1のアッセイ用のイムノクロマトキットを「イムノクロマトキット1」、第2のアッセイ用のイムノクロマトキットを「イムノクロマトキット2」と略称する。
【0074】
(4)模擬検体の調製:
次に、検出試験の対象となる模擬検体として、黄色ブドウ球菌の菌液と、黄色ブドウ球菌のリボゾームタンパク質L7/L12の溶液を調製した。なお、液体培地としてはBD BBLトリプチケースソイブロス(Trypticase Soy Broth;ベクトン・ディッキンソン社)を用いた。
【0075】
黄色ブドウ球菌はATCCより購入した。黄色ブドウ球菌の生菌を液体培地にスパイクして、37℃で16時間振盪培養し、濁度(OD=600)が2になるよう調整した菌液を、液体培地で1/1000倍に希釈し、黄色ブドウ球菌の菌液として用いた。この黄色ブドウ球菌の菌液は、尿中に生菌として存在する尿中細菌(及びそこから放出された尿中細菌由来抗原)を模した検体として使用される。
【0076】
一方、前記(1)で調整した黄色ブドウ球菌のリボゾームタンパク質L7/L12を、液体培地で1ng/mL又は3ng/mLに希釈し、黄色ブドウ球菌のL7/L12液として用いた。この黄色ブドウ球菌のL7/L12液は、血液から糸球体を通じて尿に排出された血中細菌由来抗原を模した検体として使用される。
【0077】
これらの模擬検体を、後述の第1のアッセイ(尿検体から血中細菌由来抗原及び尿中細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出するアッセイ)及び第2のアッセイ(尿検体から血中細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出するアッセイ)に供する。両アッセイによる菌液の検出結果に明確な差が生じ(即ち、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量に比して、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量が顕著に少ないか、或いは検出されない)、且つ、L7/L12液の検出結果に殆ど、或いは全く差が生じない(即ち、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね或いは完全に同一である)ことが検証されれば、これら第1及び第2のアッセイの検出結果を比較することにより、尿検体から血中細菌を検出することが可能であると示されることになる。
【0078】
(5)検出方法A~超音波処理を利用した態様:
本実施例では、検体に超音波処理を施してから用いた第1のアッセイと、検体に超音波処理を施さずそのまま用いた第2のアッセイとを実施し、それらの検出結果を比較することにより、尿検体からの血中細菌の検出可能性を検証した。
【0079】
なお、以下の手順中、混合試薬としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、1% Tween 20、0.3% NaCl、及び0.1% カゼインNaの混合液を用いた。本混合試薬は、液状の状態で、アッセイ前に各検体と混合して用いた。また、黄色ブドウ球菌のL7/L12液としては、1ng/mLのものを用いた。
【0080】
以下の手順で第1及び第2のアッセイを実施した。
1.前記の菌液及びL7/L12液を、それぞれ前述の混合試薬と混合し(菌液又はL7/L12液:混合試薬の体積比30:70)、混合液を作製した。
2.菌混合液及びL7/L12混合液をそれぞれ200μLピペットで採取し、超音波破砕機(Bioruptor UCD-200TM)で2分間超音波処理を行った。
3.超音波破砕後の菌液及びL7/L12液を、イムノクロマトキット1に滴下した(第1のアッセイ:115μL、N=3)。
4.菌混合液とL7/L12混合液をそれぞれ200μLピペットで採取し、(超音波破砕機にかけずに)イムノクロマトキット2に滴下した(第2のアッセイ:115μL、N=3)。
5.滴下15分後のイムノクロマトキット1の信号強度をリーダーで測定した(第1のアッセイ:N=3で測定し平均値をグラフ化)。
6.滴下15分後のイムノクロマトキット2の信号強度をリーダーで測定した(第2のアッセイ:N=3で測定し平均値をグラフ化)。
【0081】
第1及び第2のアッセイによる菌液及びL7/L12液の検出結果を
図2のグラフに示す。グラフから明らかなように、菌液の検出結果では、第1のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量に比して、第2のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量は顕著に少なく、両アッセイによる検出結果に明確な差が生じた。これは、菌液に超音波処理を施してから用いた第1のアッセイでは、細菌細胞が破壊されて放出されたL7/L12が多量に検出されたのに対し、菌液をそのまま用いた第2のアッセイでは、細菌細胞内のL7/L12が放出されず、検出されなかったことによると考えられる。一方、L7/L12液の検出結果では、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね同一であり、両アッセイで殆ど差が生じなかった。従って、超音波処理を利用した本態様の検出方法によっても、尿検体から血中細菌を検出可能であることが示された。
【0082】
(6)検出方法B~フィルター処理を利用した態様:
本実施例では、検体をそのまま用いた第1のアッセイと、検体にフィルター処理を施した第2のアッセイとを実施し、それらの検出結果を比較することにより、尿検体からの血中細菌の検出可能性を検証した。
【0083】
なお、以下の手順中、混合試薬としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、5% Tween 20、0.3% NaCl、0.1% カゼインNa、2% DDAO(N,N-ジメチルドデシルアミンN-オキシド)、及び10μg/mL リゾスタフィンの混合液を用いた。本混合試薬は、イムノクロマトキット1及び2の各検体添加用部材(サンプルパッド)(3)に染み込ませて乾燥して用いた。また、黄色ブドウ球菌のL7/L12液としては、3ng/mLのものを用いた。
【0084】
以下の手順で第1及び第2のアッセイを実施した。
1.菌液及びL7/L12液をそれぞれイムノクロマトキット1に滴下した(115μL、N=3)。
2.菌液及びL7/L12液をそれぞれ滅菌フィルター(Merck Millipore社製シリンジフィルター、目開き0.45μm)で濾過した後、イムノクロマトキット2に滴下した(115μL、N=3)。
3.滴下15分後のイムノクロマトキット1の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
4.滴下15分後のイムノクロマトキット2の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
【0085】
第1及び第2のアッセイによる菌液及びL7/L12液の検出結果を
図3のグラフに示す。グラフから明らかなように、菌液の検出結果では、第1のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量に比して、第2のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量は顕著に少なく、両アッセイによる検出結果に明確な差が生じた。これは、菌液をそのまま用いた第1のアッセイでは、細菌細胞が混合試薬により溶菌されて放出されたL7/L12が多量に検出されたのに対し、菌液を滅菌フィルターで濾過してから用いた第2のアッセイでは、細菌細胞が除去された結果、細菌細胞内に存在していたL7/L12が検出されなかったことによると考えられる。一方、L7/L12液の検出結果では、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね同一であり、両アッセイで殆ど差が生じなかった。従って、フィルター処理を利用した本態様の検出方法によっても、尿検体から血中細菌を検出可能であることが示された。
【0086】
(7)検出方法C~溶菌剤処理を利用した態様1:
本実施例では、検体に溶菌剤処理を施してから用いた第1のアッセイと、検体をそのまま用いた第2のアッセイとを実施し、それらの検出結果を比較することにより、尿検体からの血中細菌の検出可能性を検証した。
【0087】
なお、以下の手順中、第1のアッセイ用の混合試薬1としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、1% Tween 20、0.3% NaCl、0.1% カゼインNa、及び10μg/mL リゾスタフィンの混合液を用い、第2のアッセイ用の混合試薬2としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、1% Tween 20、0.3% NaCl、及び0.1% カゼインNaの混合液を用いた。これらの混合試薬1及び2は何れも液状の状態で、それぞれ第1及び第2のアッセイの前に各検体と混合して用いた。また、黄色ブドウ球菌のL7/L12液としては、1ng/mLのものを用いた。
【0088】
以下の手順で第1及び第2のアッセイを実施した。
1.菌液及びL7/L12液をそれぞれ混合試薬1と混合し、イムノクロマトキット1に滴下した(115μL、N=3)。
2.菌液及びL7/L12液をそれぞれ混合試薬2と混合し、イムノクロマトキット2に滴下した(115μL、N=3)。
3.滴下15分後のイムノクロマトキット1の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
4.滴下15分後のイムノクロマトキット2の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
【0089】
第1及び第2のアッセイによる菌液及びL7/L12液の検出結果を
図4のグラフに示す。グラフから明らかなように、菌液の検出結果では、第1のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量に比して、第2のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量は顕著に少なく、両アッセイによる検出結果に明確な差が生じた。これは、菌液を溶菌剤(リゾスタフィン)を含む混合試薬1と混合してから用いた第1のアッセイでは、細菌細胞が混合試薬により溶菌されて放出されたL7/L12が多量に検出されたのに対し、菌液を溶菌剤を含まない混合試薬2と混合してから用いた第2のアッセイでは、細菌細胞内のL7/L12が放出されず、検出されなかったことによると考えられる。一方、L7/L12液の検出結果では、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね同一であり、両アッセイで殆ど差が生じなかった。従って、溶菌剤処理を利用した本態様の検出方法によっても、尿検体から血中細菌を検出可能であることが示された。
【0090】
(8)検出方法D~溶菌剤処理を利用した態様2:
本実施例では、前記検出方法Cの変形例として、検体に溶菌剤処理を施しながら検出を行った第1のアッセイと、検体に溶菌剤処理を施さずに検出を行った第2のアッセイとを実施し、それらの検出結果を比較することにより、尿検体からの血中細菌の検出可能性を検証した。
【0091】
なお、以下の手順中、第1のアッセイ用の混合試薬1としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、5% Tween 20、0.3% NaCl、0.1% カゼインNa/2%DDAO、及び10μg/mL リゾスタフィンの混合液を用い、第2のアッセイ用の混合試薬2としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、5% Tween 20、0.3% NaCl、0.1% カゼインNa、及び2%DDAOの混合液を用いた。これらの混合試薬1及び2は、それぞれイムノクロマトキット1及び2の各検体添加用部材(サンプルパッド)(3)に染み込ませて乾燥して用いた。また、黄色ブドウ球菌のL7/L12液としては、3ng/mLのものを用いた。
【0092】
以下の手順で第1及び第2のアッセイを実施した。
1.濃度調整後の菌液とL7/L12液をイムノクロマトキット1に滴下した(115μL、N=3)。
2.濃度調整後の菌液とL7/L12液をイムノクロマトキット2に滴下した(115μL、N=3)。
3.滴下15分後のイムノクロマトキット1の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
4.滴下15分後のイムノクロマトキット2の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
【0093】
第1及び第2のアッセイによる菌液及びL7/L12液の検出結果を
図5のグラフに示す。グラフから明らかなように、菌液の検出結果では、第1のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量に比して、第2のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量は顕著に少なく、両アッセイによる検出結果に明確な差が生じた。これは、菌液をイムノクロマトキット1の検体添加用部材(サンプルパッド)(3)において溶菌剤(リゾスタフィン)を含む混合試薬1と接触させた第1のアッセイでは、細菌細胞が混合試薬により溶菌されて放出されたL7/L12が多量に検出されたのに対し、菌液をイムノクロマトキット2の検体添加用部材(サンプルパッド)(3)において溶菌剤(リゾスタフィン)を含まない混合試薬2と接触させた第2のアッセイでは、細菌細胞内のL7/L12が放出されず、検出されなかったことによると考えられる。一方、L7/L12液の検出結果では、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね同一であり、両アッセイで殆ど差が生じなかった。従って、溶菌剤処理を利用した本態様の検出方法によっても、尿検体から血中細菌を検出可能であることが示された。
【0094】
[実施例II.緑膿菌の検出]
本実施例では、検出対象としてグラム陰性細菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosaを用い、模擬検体を用いてその検出を試みた。
【0095】
(1)緑膿菌のL7/L12の取得:
国際公開第2000/06603号公報に記載の方法を参照して、緑膿菌のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列(配列番号3)をコードする核酸配列(配列番号4)をクローニングした発現ベクターを調製し、得られた発現ベクターで大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体をLB培地等を用いて培養し、この形質転換体により発現された緑膿菌のL7/L12の全長タンパク質を、アフィニティカラムにより発現ベクター由来のタグ配列を利用して、融合タンパク質として精製した。
【0096】
(2)緑膿菌のL7/L12に対する抗体の調製:
前記手順で得られた緑膿菌のL7/L12の全長タンパク質を用い、国際公開第2000/06603号公報に記載の方法を参照して、緑膿菌のL7/L12に対するモノクローナル抗体を作製した。
【0097】
具体的には、前記の緑膿菌のL7/L12の全長タンパク質を免疫原として、ハイブリドーマ取得の定法に従い、免疫原の濃度が0.4mg/mLとなるようPBSで調製し、フロイントのアジュバントを同量加え、免疫原量が50μg/回となるようマウスに4回免疫した。試験採血により血清抗体価上昇を確認後、マウスの脾臓細胞を摘出した。摘出したマウス脾臓細胞をミエローマ細胞と融合し、種々のハイブリドーマを取得した。取得した種々のハイブリドーマをHAT培地で培養し、培養上清中の抗体を用いてスクリーニングを行った。スクリーニングはELISA法により実施し、緑膿菌(PA)の細菌溶解物、及び、他の複数種の細菌(大腸菌(EC)、黄色ブドウ球菌(SA)、肺炎球菌(SP)、クレブシエラニューモニエ(KP)、クラミジアニューモニエ(CP)、ヘモフィルスインフルエンザ菌(HI)、及びセラチア菌(SM))の細菌溶解物との反応性を検証し、緑膿菌(PA)の細菌溶解物のみと反応性を示す特異性抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、緑膿菌(PA)及び他の複数種の細菌の細菌溶解物と反応性を示す汎用性抗体を産生するハイブリドーマを選択し、モノクローナル抗体を調製した。その詳細な手順は、前記実施例I(2)で説明したとおりである。
【0098】
以上の手順で得られた、緑膿菌のL7/L12に対する汎用性モノクローナル抗体44B2、47A1、51B2、78A2、及び84B2、並びに、特異性モノクローナル抗体6C2、14B2、72A2、73B2、及び85B2のうち、検出用抗体としては特異性モノクローナル抗体72A2を、捕捉用抗体としては汎用性モノクローナル抗体51B2を用いて、以下のイムノクロマトキットの作製に供した。
【0099】
(3)検出用抗体及び捕捉用抗体を用いたイムノクロマトキットの作製:
前記手順で得られた緑膿菌のL7/L12に対する検出用抗体及び捕捉用抗体を用いて、前記実施例I(3)と同様の手順によりイムノクロマトキットを作製した。
【0100】
(4)模擬検体の調製:
次に、検出試験の対象となる模擬検体として、緑膿菌の菌液と、緑膿菌のリボゾームタンパク質L7/L12の溶液を調製した。なお、液体培地としてはBD BBLトリプチケースソイブロス(Trypticase Soy Broth;ベクトン・ディッキンソン社)を用いた。
【0101】
緑膿菌はATCCより購入した。緑膿菌の生菌をにスパイクして、37℃で16時間振盪培養し、濁度(OD=600)が2になるよう調整した菌液を、液体培地で1/1000倍に希釈し、緑膿菌の菌液として用いた。この緑膿菌の菌液は、尿中に生菌として存在する尿中細菌(及びそこから放出された尿中細菌由来抗原)を模した検体として使用される。
【0102】
一方、前記(1)で調整した緑膿菌のリボゾームタンパク質L7/L12を、液体培地で5ng/mL又は10ng/mLに希釈し、緑膿菌のL7/L12液として用いた。この緑膿菌のL7/L12液は、血液から糸球体を通じて尿に排出された血中細菌由来抗原を模した検体として使用される。
【0103】
これらの模擬検体を、後述の第1のアッセイ(尿検体から血中細菌由来抗原及び尿中細菌由来抗原の双方を抗原抗体反応に基づき検出するアッセイ)及び第2のアッセイ(尿検体から血中細菌由来抗原を抗原抗体反応に基づき検出するアッセイ)に供する。両アッセイによる菌液の検出結果に明確な差が生じ(即ち、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量に比して、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量が顕著に少ないか、或いは検出されない)、且つ、L7/L12液の検出結果に殆ど、或いは全く差が生じない(即ち、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね或いは完全に同一である)ことが検証されれば、これら第1及び第2のアッセイの検出結果を比較することにより、尿検体から血中細菌を検出することが可能であると示されることになる。
【0104】
(5)検出方法A~超音波処理を利用した態様:
本実施例では、検体に超音波処理を施してから用いた第1のアッセイと、検体に超音波処理を施さずそのまま用いた第2のアッセイとを実施し、それらの検出結果を比較することにより、尿検体からの血中細菌の検出可能性を検証した。
【0105】
なお、以下の手順中、混合試薬としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、0.25% DDAO、及び0.5% NaClの混合液を用いた。本混合試薬は、液状の状態で、アッセイ前に各検体と混合して用いた。また、緑膿菌のL7/L12液としては、5ng/mLのものを用いた。
【0106】
以下の手順で第1及び第2のアッセイを実施した。
1.前記の菌液及びL7/L12液を、それぞれ前述の混合試薬と混合し(菌液又はL7/L12液:混合試薬の体積比30:70)、混合液を作製した。
2.菌混合液及びL7/L12混合液をそれぞれ200μLピペットで採取し、超音波破砕機(Bioruptor UCD-200TM)で1分間超音波処理を行った。
3.超音波破砕後の菌液及びL7/L12液を、イムノクロマトキット1に滴下した(第1のアッセイ:115μL、N=3)。
4.菌混合液とL7/L12混合液をそれぞれ200μLピペットで採取し、(超音波破砕機にかけずに)イムノクロマトキット2に滴下した(第2のアッセイ:115μL、N=3)。
5.滴下15分後のイムノクロマトキット1の信号強度をリーダーで測定した(第1のアッセイ:N=3で測定し平均値をグラフ化)。
6.滴下15分後のイムノクロマトキット2の信号強度をリーダーで測定した(第2のアッセイ:N=3で測定し平均値をグラフ化)。
【0107】
第1及び第2のアッセイによる菌液及びL7/L12液の検出結果を
図6のグラフに示す。グラフから明らかなように、菌液の検出結果では、第1のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量に比して、第2のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量は顕著に少なく、両アッセイによる検出結果に明確な差が生じた。これは、菌液に超音波処理を施してから用いた第1のアッセイでは、細菌細胞が破壊されて放出されたL7/L12が多量に検出されたのに対し、菌液をそのまま用いた第2のアッセイでは、細菌細胞内のL7/L12が放出されず、検出されなかったことによると考えられる。一方、L7/L12液の検出結果では、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね同一であり、両アッセイで殆ど差が生じなかった。従って、超音波処理を利用した本態様の検出方法によっても、尿検体から血中細菌を検出可能であることが示された。
【0108】
(6)検出方法B~フィルター処理を利用した態様:
本実施例では、検体をそのまま用いた第1のアッセイと、検体にフィルター処理を施した第2のアッセイとを実施し、それらの検出結果を比較することにより、尿検体からの血中細菌の検出可能性を検証した。
【0109】
なお、以下の手順中、混合試薬としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、5.5% DDAO、及び0.5% NaClの混合液を用いた。本混合試薬は、イムノクロマトキット1及び2の各検体添加用部材(サンプルパッド)(3)に染み込ませて乾燥して用いた。また、緑膿菌のL7/L12液としては、5ng/mLのものを用いた。
【0110】
以下の手順で第1及び第2のアッセイを実施した。
1.菌液及びL7/L12液をそれぞれイムノクロマトキット1に滴下した(115μL、N=3)。
2.菌液及びL7/L12液をそれぞれ滅菌フィルター(Merck Millipore社製シリンジフィルタ、目開き0.45μm)で濾過した後、イムノクロマトキット2に滴下した(115μL、N=3)。
3.滴下15分後のイムノクロマトキット1の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
4.滴下15分後のイムノクロマトキット2の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
【0111】
第1及び第2のアッセイによる菌液及びL7/L12液の検出結果を
図7のグラフに示す。グラフから明らかなように、菌液の検出結果では、第1のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量に比して、第2のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量は顕著に少なく、両アッセイによる検出結果に明確な差が生じた。これは、菌液をそのまま用いた第1のアッセイでは、細菌細胞が混合試薬により溶菌されて放出されたL7/L12が多量に検出されたのに対し、菌液を滅菌フィルターで濾過してから用いた第2のアッセイでは、細菌細胞が除去された結果、細菌細胞内に存在していたL7/L12が検出されなかったことによると考えられる。一方、L7/L12液の検出結果では、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね同一であり、両アッセイで殆ど差が生じなかった。従って、フィルター処理を利用した本態様の検出方法によっても、尿検体から血中細菌を検出可能であることが示された。
【0112】
(7)検出方法C~溶菌剤処理を利用した態様1:
本実施例では、検体に溶菌剤処理を施してから用いた第1のアッセイと、検体をそのまま用いた第2のアッセイとを実施し、それらの検出結果を比較することにより、尿検体からの血中細菌の検出可能性を検証した。
【0113】
なお、以下の手順中、混合試薬としては、0.1M Tris-HCl(pH7.5)、0.25% DDAO、及び0.5% NaClの混合液を用いた。本混合試薬は液状の状態で、各検体と混合して用いた。また、溶菌剤として、1%(v/v)DDAOを用いた。また、緑膿菌のL7/L12液としては、10ng/mLのものを用いた。
【0114】
以下の手順で第1及び第2のアッセイを実施した。
1.菌液及びL7/L12液をそれぞれ1%(v/v)DDAOと混合した後、混合試薬と混合し、イムノクロマトキット1に滴下した(115μL、N=3)。
2.菌液及びL7/L12液をそれぞれ混合試薬と混合し、イムノクロマトキット2に滴下した(115μL、N=3)。
3.滴下15分後のイムノクロマトキット1の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
4.滴下15分後のイムノクロマトキット2の信号強度をリーダーで測定した(N=3で測定し平均値をグラフ化)。
【0115】
第1及び第2のアッセイによる菌液及びL7/L12液の検出結果を
図8のグラフに示す。グラフから明らかなように、菌液の検出結果では、第1のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量に比して、第2のアッセイによるL7/L12(細菌由来抗原)の検出量は顕著に少なく、両アッセイによる検出結果に明確な差が生じた。これは、菌液を溶菌剤(DDAO)で溶菌してから混合試薬1と混合して用いた第1のアッセイでは、細菌細胞が混合試薬により溶菌されて放出されたL7/L12が多量に検出されたのに対し、菌液を溶菌剤で溶菌せずに混合試薬2と混合して用いた第2のアッセイでは、細菌細胞内のL7/L12が放出されず、検出されなかったことによると考えられる。一方、L7/L12液の検出結果では、第1のアッセイによる細菌由来抗原の検出量と、第2のアッセイによる細菌由来抗原の検出量とが概ね同一であり、両アッセイで殆ど差が生じなかった。従って、溶菌剤処理を利用した本態様の検出方法によっても、尿検体から血中細菌を検出可能であることが示された。