IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本板硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図1
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図2
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図3
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図4
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図5
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図6
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図7
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図8
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図9
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図10
  • 特開-減圧複層ガラスパネル 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153097
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】減圧複層ガラスパネル
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20221004BHJP
   E06B 3/677 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C03C27/06 101D
E06B3/677
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056151
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】三木 敦史
(72)【発明者】
【氏名】中澤 達洋
【テーマコード(参考)】
2E016
4G061
【Fターム(参考)】
2E016EA01
2E016FA00
2E016GA01
4G061AA02
4G061AA09
4G061BA01
4G061CB02
4G061CD02
4G061CD21
4G061CD24
4G061CD25
(57)【要約】
【課題】吸引孔を封止する吸引孔封止材によって周縁封止材の接着強度が低下するのを防止することができる減圧複層ガラスパネルを提供する。
【解決手段】対向する一対のガラス板1A、1Bと、一対のガラス板1A,1Bの間に形成される間隙に配置される複数の間隔保持部材と、一対のガラス板1A,1Bの周縁3の間隙を封止する周縁封止材11と、一対のガラス板1A,1Bの一方において表裏に貫通した吸引孔4を介して間隙が減圧された状態で吸引孔4を封止する吸引孔封止材15と、を備え、吸引孔4の中心が一対のガラス板1A,1Bのエッジ3Aから10mm以上100mm以下離れた位置に設けられるとともに、吸引孔封止材15の重量の上限が数式に基づいて算出されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対のガラス板と、
一対の前記ガラス板の間に形成される間隙に配置される複数の間隔保持部材と、
一対の前記ガラス板の周縁の前記間隙を封止する周縁封止材と、
一対の前記ガラス板の一方において表裏に貫通した吸引孔を介して前記間隙が減圧された状態で前記吸引孔を封止する吸引孔封止材と、を備え、
前記吸引孔の中心が一対の前記ガラス板のエッジから10mm以上100mm以下離れた位置に設けられるとともに、前記吸引孔封止材の重量の上限が下記式に基づいて算出されたWmaxである減圧複層ガラスパネル。
[数1]
Wmax=K×ln(A/B)×H×C×D/(N×ΔT)
Wmax(g):吸引孔封止材の上限重量
K:補正係数
A(mm):吸引孔の中心からガラス板のエッジまでの距離
B(mm):吸引孔の半径
H(mm):吸引孔の高さ
C(W/mm・K):ガラス板の熱伝導率
D(℃):吸引孔封止材が吸引孔に投入された際に吸引孔の内径側とガラス板のエッジとの間で許容される温度差
N(J/g・K):吸引孔封止材の比熱
ΔT(℃):吸引孔封止材が吸引孔に投入された際における吸引孔封止材と周縁封止材との温度差
【請求項2】
前記吸引孔封止材の重量が0.05g以上5.00g以下である請求項1に記載の減圧複層ガラスパネル。
【請求項3】
前記吸引孔封止材は、一対の前記ガラス板の板面方向における幅が5mm以上25mm以下である請求項1又は2に記載の減圧複層ガラスパネル。
【請求項4】
前記周縁封止材は、一対の前記ガラス板の板面方向における幅が3mm以上12mm以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の減圧複層ガラスパネル。
【請求項5】
前記周縁封止材は、融点が200℃以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の減圧複層ガラスパネル。
【請求項6】
一対の前記ガラス板は矩形状に形成されており、
前記吸引孔が一対の前記ガラス板の前記一方の2辺に近接する隅部に配置されている請求項1から5のいずれか一項に記載の減圧複層ガラスパネル。
【請求項7】
一対の前記ガラス板は矩形状に形成されており、
前記吸引孔が一対の前記ガラス板の前記一方の一辺に沿う中央付近に配置されている請求項1から6のいずれか一項に記載の減圧複層ガラスパネル。
【請求項8】
前記吸引孔封止材は、前記ガラス板の他方の板面に接触している請求項1から7のいずれか一項に記載の減圧複層ガラスパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧複層ガラスパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
減圧複層ガラスパネルは、対向する一対のガラス板を備え、一対のガラス板の間に間隙を設け、当該間隙を減圧状態にして構成されている(例えば、特許文献1)。一対のガラス板の周縁には、その全周に亘って接合して間隙を気密に封止する周縁封止材が備えられ、一対のガラス板のうちの一方のガラス板には、当該ガラス板において表裏に貫通して間隙内の空気を吸引する吸引孔が形成され、吸引孔を介して間隙が減圧された状態で吸引孔封止材によって吸引孔及びその吸引孔の周りが覆われることで吸引孔が封止される。
【0003】
特許文献1に記載の減圧複層ガラスパネルでは、吸引孔が、一対のガラス板の周縁の角部に近接した位置に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/093323号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の減圧複層ガラスパネルにおいて、吸引孔の封止時には吸引孔封止材として例えば300℃の溶融はんだ(封止材)を投入することがある。この場合、吸引孔がガラス板のエッジ近くに配置されていると、吸引孔に投入された溶融はんだの熱がガラス板の周縁部を封止する周縁封止材(例えばはんだ)に伝達されて周縁封止材の温度が上昇する。はんだの融点は通常200℃前後であるため、周縁部封止材の温度が上昇して200℃以上となった場合には、一対のガラス板の接着強度が低下するおそれがある。一方、吸引孔がガラス板のエッジから遠い位置に配置された場合には、周縁封止材の温度上昇は抑制されるものの、吸引孔はガラス板の中央寄りに位置することになるため、吸引孔によって減圧複層ガラスパネルの美観を損なうおそれがある。また、周縁封止材の温度上昇は、吸引孔とガラス板のエッジとの間の距離の他、吸引孔封止材の重量によっても影響される。すなわち、吸引孔封止材の重量が多いほど、吸引孔に投入される吸引孔封止材が有する熱量が増すことになるため、周縁封止材は温度上昇し易くなる。
【0006】
そこで、吸引孔を封止する吸引孔封止材によって周縁封止材の接着強度が低下するのを防止することができる減圧複層ガラスパネルが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る減圧複層ガラスパネルの特徴構成は、対向する一対のガラス板と、一対の前記ガラス板の間に形成される間隙に配置される複数の間隔保持部材と、一対の前記ガラス板の周縁の前記間隙を封止する周縁封止材と、一対の前記ガラス板の一方において表裏に貫通した吸引孔を介して前記間隙が減圧された状態で前記吸引孔を封止する吸引孔封止材と、を備え、前記吸引孔の中心が一対の前記ガラス板のエッジから10mm以上100mm以下離れた位置に設けられるとともに、前記吸引孔封止材の重量の上限が下記式に基づいて算出されたWmaxである点にある。
[数1]
Wmax=K×ln(A/B)×H×C×D/(N×ΔT)
Wmax(g):吸引孔封止材の上限重量
K:補正係数
A(mm):吸引孔の中心からガラス板のエッジまでの距離
B(mm):吸引孔の半径
H(mm):吸引孔の高さ
C(W/mm・K):ガラス板の熱伝導率
D(℃):吸引孔封止材が吸引孔に投入された際に吸引孔の内径側とガラス板のエッジとの間で許容される温度差
N(J/g・K):吸引孔封止材の比熱
ΔT(℃):吸引孔封止材が吸引孔に投入された際における吸引孔封止材と周縁封止材との温度差
【0008】
減圧複層ガラスパネルでは、美観上、吸引孔を一対のガラス板の周縁に近接させて配置することが好ましい。ただし、その場合、吸引孔封止材の重量が増すにつれて、減圧複層ガラスパネルの製造過程において、溶融した吸引孔封止材を吸引孔に投入したときに、吸引孔封止材からガラス板を介して周縁封止材に伝達される熱量が大きくなる。そのため、吸引孔封止材の熱を受けた周縁封止材は、温度が上昇して一部が溶融することがある。そうなると、周縁封止材による一対のガラス板の接着強度が低下する。そこで、本構成では、吸引孔の中心からガラス板のエッジまでの距離を含む数式に基づいて吸引孔封止材の重量の上限が規定されている。これにより、減圧複層ガラスパネルはガラス板の吸引孔に投入する吸引封止材の重量を適正に設定することができ、減圧複層ガラスパネルの製造時において吸引孔封止材による周縁封止材の温度上昇を抑制することができる。その結果、減圧複層ガラスパネルは、周縁封止材の接着強度が低下するのを防止することができ、周縁封止材による一対のガラス板の接着強度を維持することができる。
【0009】
他の特徴構成は、吸引孔封止材の重量が0.05g以上5.00g以下である点にある。
【0010】
吸引孔封止材の重量が0.05g未満であると、吸引孔を小さくしなければ吸引孔を適正に封止することができず、吸引孔が小さい場合には一対のガラス板の間の間隙の吸引工程に時間がかかる。このため、減圧複層ガラスパネルは間隙の減圧状態が不十分になる可能性があり、減圧複層ガラスパネルを製造する際の作業性も低下する。一方、吸引孔封止材の重量が5.00gを越えると、吸引孔封止材によってガラス板の吸引孔近くが過剰に加熱されるため、ガラス板が急激に温度上昇する。そのため、温度上昇したガラス板は、高温の熱衝撃を受けて破壊することがある。したがって、吸引孔封止材の重量が0.05g以上5.00g以下であることが好ましい。
【0011】
他の特徴構成は、前記吸引孔封止材は、一対の前記ガラス板の板面方向における幅が5mm以上25mm以下である点にある。
【0012】
減圧複層ガラスパネルでは、美観上、吸引孔封止材の幅が小さい方が好ましい。本構成では、吸引孔封止材の幅が5mm以上25mmであるので、減圧複層ガラスパネルの大きさに応じて吸引孔の径及び吸引孔封止材の幅を調整することで、吸引孔封止材を目立ち難くすることができる。また、吸引孔封止材の幅が5mm以上25mm以下の場合、吸引孔封止材の熱がガラス板を介して周縁封止材へと伝熱することが抑制され、周縁封止材による一対のガラス板の接着強度を維持することができる。
【0013】
他の特徴構成は、前記周縁封止材は、一対の前記ガラス板の板面方向における幅が3mm以上12mm以下である点にある。
【0014】
本構成のように、周縁封止材の幅が3mm以上12mm以下であれば、減圧複層ガラスパネルにおいて一対のガラス板の周縁を適正に封止することができる。
【0015】
他の特徴構成は、前記周縁封止材は、融点が200℃以上である点にある。
【0016】
本構成のように、周縁封止材の融点が200℃以上であると、吸引孔封止材の融点を200℃以上にすることができるので、適用可能な吸引用封止材の自由度が高くなる。
【0017】
他の特徴構成は、一対の前記ガラス板は矩形状に形成されており、前記吸引孔が一対の前ガラス板の前記一方の2辺に近接する隅部に配置されている点にある。
【0018】
本構成のように、吸引孔が矩形状のガラス板の2辺に近接する隅部に配置されることで、減圧複層ガラスパネルにおいて吸引孔を目立ち難くすることができる。
【0019】
他の特徴構成は、一対の前記ガラス板は矩形状に形成されており、前記吸引孔が一対の前記ガラス板の前記一方の一辺の中央付近に近接して配置されている点にある。
【0020】
本構成のように、吸引孔が矩形状のガラス板の一辺の中央付近に近接して配置されることで、減圧複層ガラスパネルにおいて吸引孔を目立ち難くすることができる。また、吸引孔に投入される吸引孔封止材がガラス板の一辺のみに近接して配置されることで、吸引孔封止材の熱によって温度上昇する周縁封止材の領域を減少させることができる。これにより、吸引孔が形成されたガラス板において、周縁封止材の接着強度の低下を抑制することができる。
【0021】
他の特徴構成は、前記吸引孔封止材は、一対の前記ガラス板の他方の板面に接触している点にある。
【0022】
本構成のように、吸引孔封止材が一対のガラス板の他方の板面に接触することで、吸引孔封止材は一対のガラス板に亘って配置される。これにより、吸引孔封止材によって吸引孔の封止状態を強固に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】減圧複層ガラスパネルの一部切欠き斜視図である。
図2】減圧複層ガラスパネルの吸引孔周辺縦断面図である。
図3】減圧複層ガラスパネルの製造方法を示すフローチャートである。
図4】封止装置を示す断面図である。
図5】封止動作を示す断面図である。
図6】試験モデルの説明図である。
図7】エッジから吸引孔までの距離と周縁封止材の温度上昇量との関係を示すグラフである。
図8】エッジから吸引孔までの距離が10mmと15mmのときにおける、吸引孔封止材の重量と周縁封止材の最高温度との関係を示すグラフである。
図9】エッジから吸引孔までの距離と周縁封止材の温度上昇量との関係を示すグラフである。
図10】エッジから吸引孔までの距離と吸引孔封止材の重量との関係を示すグラフである。
図11】第2実施形態の減圧複層ガラスパネルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る減圧複層ガラスパネルの実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、減圧複層ガラスパネルの一例として、真空複層ガラスパネルとして説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0025】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態に係る減圧複層ガラスパネルについて図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1及び図2に示されるように、減圧複層ガラスパネル(以下、ガラスパネルと称する。)Pは、対向する一対のガラス板1A,1Bと、一対のガラス板1A,1B間に配置される複数のスペーサー2(間隔保持部材の一例)と、を備える。複数のスペーサー2は、一対の前記ガラス板の間に形成される間隙Vに配置される。複数のスペーサー2は、一対のガラス板1A,1Bの板面において一定間隔で配置されている。ガラスパネルPは、一対のガラス板1A,1Bの周縁3の間隙Vを封止する周縁封止材11を備える。また、ガラスパネルPは、一対のガラス板1A,1Bのうち一方のガラス板1Aの表裏に貫通した吸引孔4を有する。吸引孔4は、吸引孔4及びその周縁を覆う吸引孔封止材15で封止されている。吸引孔封止材15は、一対のガラス板1A,1Bの一方において吸引孔4を介して間隙Vが減圧された状態で吸引孔4を封止する。
【0027】
ガラスパネルPにおいて、2枚のガラス板1A,1Bは透明なフロートガラスであり、間隙Vが1.33Pa(1.0×10-2Torr)以下に減圧されている。これは、間隙Vは、その内部の空気が吸引孔4を介して排出されることによって減圧され、間隙Vの減圧状態を維持するために周縁封止材11及び吸引孔封止材15によって封止されている。
【0028】
スペーサー2は円柱状であり、その直径が0.3~1.0mm、高さが30μm~1.0mmである。スペーサー2は、ガラス板1A,1Bに作用する大気圧に起因する圧縮応力を負荷されても座屈しない材料、例えば、圧縮強度が4.9×10Pa(5×10kgf/cm)以上の材料、好ましくは、ステンレス鋼(SUS304)等により形成されている。
【0029】
ガラスパネルPは、図3に示されるフローチャートに基づいて製造される。まず、フロートガラスから成る所定の厚さの2枚のガラス素板(不図示)を所定の寸法、例えば、1200mm×900mmに夫々切断し、同一形状且つ同一サイズであるガラス板1A,1Bを準備する(ステップS31)。次に、ガラス板1Aに、その四隅のうちいずれか1つの近傍において吸引孔4をドリル等によって穿設する(ステップS32:穿設ステップ)。
【0030】
次に、クリーンルームやケミカルクリーンルーム等の空気の汚染状態を化学的又は物理的に制御可能な空間内において、純水ブラシ洗浄、液体洗浄法、光洗浄の少なくとも1つの方法を用いて一対のガラス板1A,1Bを洗浄する(ステップS33:洗浄ステップ)。この液体洗浄法では、純水、脱イオン水などが用いられる。また、洗浄液は、例えば、アルカリ洗剤又はオゾン水を含有する。また、該洗浄液には、研磨材が含有されていてもよい。研磨材としては、例えば酸化セリウムを主成分とする微粒子が用いられる。
【0031】
次に、吸引孔4が穿設されていない洗浄されたガラス板1Bに、複数のスペーサー2をマトリックス状に一定のピッチPdで配置し、洗浄されたガラス板1Aを重ね合わせることで、一対のガラス板1A,1Bのペアリングを行う(ステップS34)。
【0032】
次に、ペアリングされた一対のガラス板1A,1Bをほぼ水平に保ち、溶解温度が250℃以下である周縁封止材11を用いて、一対のガラス板1A,1Bの周縁部V1を封止する(ステップS35:周縁封止ステップ)。
【0033】
周縁封止ステップでは、移動機構(不図示)を、一対のガラス板1A,1Bの間隙Vの周縁部V1に沿ってレール部材(不図示)上を一定速度で移動させ、一対のガラス板1A,1Bの開先部分14から導入板(不図示)を間隙Vに挿入する。これにより、周縁封止材11が導入板を介して一対のガラス板1A,1Bの周縁部V1全体に亘って浸入し、一対のガラス板1A,1Bの周縁部V1が周縁封止材11によって気密に封止される。ここで、開先部分14とは、ガラスパネルPの角部に設けてあり、導入板を間隙Vに挿入する際に、容易に実施できるよう、一対のガラス板1A,1Bの間隙V側の角部を面取りしてある箇所である。
【0034】
次のステップS36において、吸引孔4の近傍において排気カップで吸引孔4を覆うようにガラス板1Aの大気側の主面に取付け、この排気カップに接続された不図示のロータリーポンプやターボ分子ポンプによる吸引により、間隙Vの圧力を1.33Pa以下にまで減圧するべく間隙Vの気体分子を外部へ排出する真空引きを行う(ステップS36)。
【0035】
ただし、本ステップで用いるポンプは上述のロータリーポンプやターボ分子ポンプに限られず、排気カップに接続でき、吸引可能なものであればよい。
【0036】
次いで、吸引孔4を覆う吸引孔封止材15を滴下させて、吸引孔4の近傍のガラス表面と吸引孔封止材15を接着させて吸引孔4を封止する(ステップS37)。これにより、一対のガラス板1A,1B間に形成された間隙Vが密閉される。
【0037】
尚、上述した各工程のうち、一対のガラス板1A,1Bの主面を洗浄して(ステップS33)から吸引孔4の近傍のガラス表面と吸引孔封止材15を接着させて封止する(ステップS37)までの各工程は、夫々、空気の圧力に制御可能な減圧空間(オートクレープ)内で実施される。
【0038】
周縁封止材11は融点が200℃以上である。周縁封止材11の融点が200℃以上であると、吸引孔封止材15の融点を200℃以上にすることができるので、適用可能な吸引孔封止材15の自由度が高くなる。周縁封止材11として、例えば融点が250℃以下であるハンダ、例えば91.2Sn-8.8Zn(共晶点温度:198℃)の組成を有するハンダにTiを加えたハンダを用いて一対のガラス板1A,1Bの周縁3を封止する。しかし、周縁封止材11(ハンダ)は、これに限るものではなく、Sn、Cu、In、Bi、Zn、Pb、Sb、Ga、及びAgから成る群から選択された少なくとも1つの材料を含む金属材料であって融点が250℃以下となる封着材を用いて一対のガラス板1A,1Bの周縁3を封止してもよい。
【0039】
また、周縁封止材11は、Tiに代わって、又は、Tiに加えて、Al、Cr、及びSiから成る群から選択された少なくとも1つの材料を含んでいてもよい。これにより、周縁封止材11と一対のガラス板1A,1Bのガラス成分との接着性を向上させることができる。
【0040】
吸引孔封止材15は融点が200℃以上である。本実施形態では、吸引孔封止材15として、融点が250℃以下であるハンダ、例えば91.2Sn-8.8Zn(共晶点温度:198℃)の組成を有するハンダにTiを加えたハンダを用いて吸引孔4を封止する。しかし、吸引孔封止材15(ハンダ)は、これに限るものではなく、Sn、Cu、In、Bi、Zn、Pb、Sb、Ga、及びAgから成る群から選択された少なくとも1つの材料を含む金属材料であって融点が250℃以下となる封着材を用いて吸引孔4を封止してもよい。尚、Snを選択した場合、90%以上あればよく、また、Cuを添加したSnの場合、Cuの量は、0.1%以下にする必要がある。
【0041】
また、吸引孔封止材15は、Tiに代わって、又は、Tiに加えて、Al、Cr、及びSiから成る群から選択された少なくとも1つの材料を含んでいてもよい。さらに、吸引孔封止材15は、周縁封止材11と異なる成分のハンダを用いてもよい。尚、吸引孔封止材15または周縁封止材11にTi(チタン)を含有させることにより、ガラス板1A,1Bとの密着性が向上する。
【0042】
本実施形態では、間隙Vの圧力を1.33Pa以下にまで減圧するが、これに限るものではなく、ほぼ真空になるまで間隙Vの圧力を減圧してもよい。これにより、ガラスパネルPの断熱性能を更に高めることができる。
【0043】
本実施形態では、一対のガラス板1A,1Bの厚みTgの下限は、0.3mm以上である。また、好ましくは、0.5mm以上である。さらに好ましくは、1mm以上である。一対のガラス板1A,1Bの厚みTgが薄い場合にはガラス自体の蓄熱量が小さくなるので、周縁封止の際に、単位時間あたりの空気中への放熱量が上昇し、周縁封止材11が冷却されやすい。従って、溶融した周縁封止材11の固化を促進させることが可能となる。ただし、ガラス板1A,1Bは薄くなり過ぎる(1mm未満)とガラス板1A,1Bの剛性が低下するため、同じ大きさの外力によるガラス板1A,1Bの変形量が大きくなる。従って、ガラスパネルPにおいて、吸引孔4の間隙部側表面付近に発生する引張応力が大きくなる。
【0044】
一対のガラス板1A,1Bの厚みTgの上限は、15mm以下である。好ましくは、12mm以下である。さらに好ましくは、10mm以下である。厚いガラス板1A,1Bを用いるとガラス板1A,1Bの剛性は増加するため、同じ大きさの外力によるガラス板1A,1Bの変形量が小さくなる。従って、ガラスパネルPにおいて、吸引孔4の間隙部側表面付近に発生する引張応力が小さくなるため、長期耐久性が向上する。一方で、ガラス板1A,1Bの厚みTgが厚くなり過ぎる(15mm超)と、吸引孔封止の際に、吸引孔封止材15の吸引孔4への流入量が減少する。そのため、吸引孔4の間隙部側表面の吸引孔封止材15のはみ出しが小さくなり、吸引孔4の間隙部側表面付近に発生する引張応力を緩和させることが困難となる。
【0045】
一対のガラス板1A,1Bは、フロートガラスであるが、これに限るものではない。一対のガラス板1A,1Bには、上記のような用途に応じて、例えば、型板ガラス、表面処理により光拡散機能を備えたすりガラス、網入りガラス、線入ガラス板、強化ガラス、倍強化ガラス、低反射ガラス、高透過ガラス板、セラミックガラス板、熱線や紫外線吸収機能を備えた特殊ガラス、又は、これらの組み合わせ等、種々のガラスを適宜選択して使用することができる。さらに、一対のガラス板1A,1Bの組成についても、ソーダ珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、各種結晶化ガラス等を使用することができる。
【0046】
本実施形態では、開先部分14はガラス板1A,1Bの間隙V側の角部を平面状に面取りしているが、これに限られるものではなく、曲面状に面取りをする等、導入板を容易に挿入可能とする形態であれば、適宜選択してガラス板1A,1Bに設ける事ができる。
【0047】
スペーサー2のピッチPdは、5mm以上100mm以下であり、好ましくは、5mm以上80mm以下、さらに好ましくは、5mm以上60mm以下である。
【0048】
また、スペーサー2はステンレス鋼により形成されているが、これに限るものではない。スペーサー2は、例えば、インコネル、鉄、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム、チタン等の金属、炭素鋼、クロム鋼、ニッケル鋼、ニッケルクロム鋼、マンガン鋼、クロムマンガン鋼、クロムモリブデン鋼、珪素鋼、真鍮、ハンダ、ジュラルミン等の合金、又は、セラミックやガラス等、高剛性を有するもので形成されてもよい。また、スペーサー2も、円柱状に限らず、角形状や球状等の各種形状であってもよい。
【0049】
間隙Vの高さVhは30μm~1mmである。ただし、スペーサー2の高さと略同一である。
【0050】
尚、間隙Vには、間隙V内の気体分子を吸着するべく蒸発型ゲッターを用いたり、加熱されて活性化することにより気体分子を吸着して除去する非蒸発型ゲッターを用いたりしてもよく、また、非蒸発型ゲッターと蒸発型ゲッターとを併用してもよい。また、間隙Vにおいて、ゲッター材(吸着剤)及び吸着剤収容孔は2ヶ所以上でもよい。
【0051】
本実施形態では、周縁封止材11は、金属導入装置を用いて形成されたが、これに限定されるものではない。周縁封止材11は、陽極接合法、超音波接合法、多段接合法、レーザー接合法及び圧着接合法のいずれか一つの接合方法を用いて形成されてもよい。これにより、周縁封止材11の一対のガラス板1A,1Bへの付着性を向上させることができる。周縁封止材11は金属材料以外であってもよい。
【0052】
また、ガラスパネルPの平面に対する厚み方向視における周縁封止材11の幅Rwは3mm以上12mm以下である。幅Rwが3mmより小さいと、ガラスパネルPの間隙Vの封止を保持することが困難となる。また、幅Rwが12mmを超えると、周縁封止材11を通じて一方のガラス板から他方のガラス板に伝わる熱量が増すため、ガラスパネルPの断熱性が低下する。具体的には、図2に示されるガラスパネルPにおいて、ガラス板1Aを室外側とし、ガラス板1Bを室内側とした場合、室外側の熱は幅広の周縁封止材11を介してガラス板1Aからガラス板1Bに伝わることになるため、ガラスパネルPの断熱性が低下する。さらに好ましくは、幅Rwは3mm以上5mm以下である。この場合、ガラスパネルPの間隙Vの封止を保持することに加え、周縁封止材11による伝熱量をより低減することができる。
【0053】
本実施形態では、封止後の吸引孔封止材15がガラス板1Aの大気側表面より突出している部分を突出部16とする。突出部16の直径Dwは5mm以上25mmである。すなわち、吸引孔封止材15は、一対のガラス板1A,1Bの板面方向における幅が5mm以上25mm以下である。直径Dwは、さらに好ましくは5mm以上15mmである。ただし、突出部16の直径Dwはいずれの場合も後述の吸引孔径Swよりは大きい。また、突出部16の厚みDgは0.1mm以上20mm以下であり、好ましくは、0.1mm以上10mm以下である。
【0054】
本実施形態では、吸引孔径Swは、1mm以上10mm以下である。好ましくは2mm以上5mm以下である。強化ガラスの場合は、吸引孔径Swは、ガラス厚より大きく10mm以下が望ましい。これは、風冷強化の際に、吸引孔4を通じて風を通すためである。
【0055】
また、吸引孔4の上部及び少なくとも下部の少なくともいずれか一方の縁部は曲面状に形成されていてもよく、または面取りされていてもよい(縁部に微小面を設けていてもよい)。
【0056】
吸引孔封止材15による吸引孔4の封止部において、一方のガラス板1Aの大気側表面で吸引孔4の周りに形成されている突出部16は、一方のガラス板1Aの大気側表面との密着性が重要である。突出部16は、一方のガラス板1Aの裏側から見た時に吸引孔封止材15の金属光沢があれば十分密着しており、間隙Vにおける減圧状態が長く維持される。しかし、突出部16の密着が不十分であれば、ガラス板1Aに対して、風圧や、ふき取り掃除の際の圧力等の外力が作用する。また、日射によるガラス板1Aの表裏間の温度差や、室内外の温度差等で発生する反り現象によって、ガラス板1Aに対する吸引孔封止材15の突出部16が剥がされる。
【0057】
尚、吸引孔封止材15の主成分は、Snが72%~99.9%に対し、Zn、Al、Si及びTiの内のいずれかの成分を含有し、鉛の含有量が重量%で0.1%未満である。吸引孔封止材15は金属材料以外であってもよい。
【0058】
図4及び図5に基づいて、吸引孔4を吸引孔封止材15で封止するための封止装置50について説明する。封止装置50は、固形状の吸引孔封止材15をその融点まで加熱する加熱部60と、加熱部60において加熱溶融して表面張力により角の丸くなった吸引孔封止材15の表面に突き刺し自在な押し込みピン形状の先鋭部材70と、先鋭部材70により形成される吸引孔封止材15の表面の突き刺し孔から流出する溶融金属を吸引孔4に誘導する溶融金属誘導部80とを有する。
【0059】
図5に示されるように、溶融金属誘導部80には、吸引孔封止材15を受けることが出来るロート型の金属製の受け具90を設けてある(受け具90の外周部に電熱線を巻いて加熱自在に構成)。また、吸引孔4に溶融金属を誘導する供給口100を受け具90の下部に設けて溶融金属誘導部80に形成してある。また、封止装置50には、圧縮バネ110を介して先鋭部材70を受け具90の上方に配置し、先鋭部材70のピン先を下方に押し下げることで下方の溶融した吸引孔封止材15を上下貫通突き刺し操作自在にする操作機構120を設けてある。
【0060】
さらに、封止装置50は、吸引孔4を囲繞するようにガラス板1Aに対して密接自在なカップ130を有し、そのカップ130の内側に、加熱部60、並びに、溶融金属誘導部80が収容可能に形成される。さらに、カップ130には、カップ130の内側空間を減圧可能な吸気部(不図示)と、カップ130の内側を気密状態で操作機構120をカップ130の外から操作自在なピン押し込み操作装置140とが設けられている。
【0061】
封止装置50において、加熱部60により加熱されて溶融した吸引孔封止材15は、表面張力により略角の取れた液状の塊となる。吸引孔封止材15の表面に、例えば卵の薄皮のように酸化被膜150が形成されていたとしても、先鋭部材70により表面を突き刺すことで、その酸化被膜150の突き刺し部に穴が形成され、その突き刺し部からは主として溶融金属が流出する(図5参照)。流出した溶融金属は溶融金属誘導部80により吸引孔4に誘導されるために、酸化金属が吸引孔4に混入するのを防止しやすくなる。従って、吸引孔4及びその周囲のガラス表面には、酸化金属の混入していない状態で吸引孔封止材15がガラスと接着し、間隙Vの気密性を確保できる。
【0062】
吸引孔4の封止時では例えば195℃の条件下で、約300℃の吸引孔封止材15(例えば「はんだ」)を吸引孔4に投入している。吸引孔4はガラス板1Aのエッジ(端面)3Aから例えば50mm離れている。吸引孔4とガラス板1Aのエッジ3Aとの間の距離が短くなるにつれて、周縁封止材11の温度が上昇する。周縁封止材11は、例えば吸引孔封止材15と同じ「はんだ」が用いられる場合があり、周縁封止材11の温度が融点(例えば200℃)以上になると周縁封止材11の一部が融化するおそれがある。そこで、以下の試験を実施し、ガラス板1Aのエッジ3Aからの距離50mmから近づけた場合の影響、及び、吸引孔封止材15の重量の影響について評価を実施した。
【0063】
図6に、試験に用いる減圧複層ガラスパネルの一部及び各寸法を示す。一対のガラス板1A,1Bは、いずれも板厚3.1(mm)のフロートガラスである。一対のガラス板1A,1Bの一方に吸引孔4を形成する。周縁封止材11及び吸引孔封止材15は、共にSn-Zn合金のはんだであり、融点200℃、密度0.0073(g/mm)、比熱243,000(J/g・K)である。図6に示されるように、吸引孔4の直径を1.4(mm)とし、周縁封止材11を一対のガラス板1A,1Bの周縁3及び両者の間に幅5(mm)、厚み0.2(mm)の寸法で配置した。吸引孔封止材15は、重量4.63(g)であり、吸引孔4に投入されるとともにガラス板1Aの上面において直径9(mm)、高さ10(mm)の領域に配置した。
【0064】
〔試験1〕
吸引孔封止材15を吸引孔4に投入したて吸引孔4を封止する際の周縁封止材11の温度上昇を測定した。ガラス板1Aのエッジ3Aから吸引孔4の中心までの距離(以下、「エッジ距離」と略称する。)は、試験例1~5において、それぞれ、10(mm)、15(mm)、20(mm)、25(mm)、50(mm)とした。吸引孔4への吸引孔封止材15の投入は195℃の環境条件下において行い、その際の周縁封止材11の温度上昇をそれぞれ計測した。試験1の試験結果を表1及び図7に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1及び図7に示されるように、試験例1~試験例5において、周縁封止材11の最高温度が195.1℃から205.4℃まで変化した。試験例1~試験例5のうち、試験例1(エッジ距離:10mm)は温度上昇量が10.4℃であって5℃を上回り、試験例2~試験例5では温度上昇量がいずれも5℃未満であった。
【0067】
〔試験2〕
続いて、エッジ距離を10(mm)と15(mm)とに特定し、それぞれのエッジ距離において吸引孔封止材15の重量を変えて195℃の環境条件下における周縁封止材11の温度上昇を計測した。エッジ距離が10(mm)のときは、試料1~試料3を用いた。エッジ距離が15(mm)のときは、試料2~試料4を用いた。試料1~試料4における吸引孔封止材15の重量は以下の表2に示す通りである。試験2の試験結果を表2及び図8に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2及び図8に示されるように、エッジ距離が10(mm)のときは、吸引孔封止材15の重量が約1.0gから約4.6gに増加するに伴い、周縁封止材11の最高温度が198.2℃から205.4℃まで上昇した。エッジ距離が15(mm)のときは、吸引孔封止材15の重量が約2.0gから約6.1gに増加するに伴い、周縁封止材11の最高温度が197.2℃から200.0℃まで上昇した。図8には、周縁封止材11の初期温度(環境温度)である195℃を「To」で示している。
【0070】
試験2の試験結果(表2及び図8)に基づいて、試料1~試料4における、エッジ距離と周縁封止材11の温度上昇量との関係をグラフ化した(図9参照)。図9から、試料2、試料3、試料4において、温度上昇量が5℃となるエッジ距離が推認または確認できた。
【0071】
図9に示される温度上昇量が5℃となる3つのエッジ距離L1(試料2)、L2(試料3)、L3(試料4)と、各エッジ距離における吸引孔封止材15の重量とを、図10に示すグラフにプロットし、3点(L1,L2,L3)を近似直線で結んだ。当該近似直線は、エッジ距離における吸引孔封止材15の上限重量を示すことになる。
【0072】
上記の近似直線に基づくエッジ距離における吸引孔封止材15の上限重量について、以下考察する。吸引孔4とエッジ3Aとの関係を円筒形と認定することで、円筒の内径側から外径側との間の温度差に基づく伝熱量の算出式に基づき、吸引孔封止材15によるガラス板1Aを介した周縁封止材11への伝熱量E(W)は、以下の式(1)によって算出することができる。
E=2π×C×D×H/ln(A/B) ・・・(1)
ここで、A(mm)は外半径(すなわち、吸引孔4の中心からエッジ3Aまでの距離)である。B(mm)は吸引孔4の半径である。H(mm)は吸引孔4の高さ(すなわち、ガラス板1Aの厚み)である。C(W/mmK)はガラス板1Aの熱伝導率である。D(℃)は吸引孔封止材15が吸引孔4に投入された際に吸引孔4の内径側と外径側(エッジ3A)との間で許容される温度差である。ちなみに、試験1及び試験2では、D=(300-200)=100(℃)である。
【0073】
ガラス板1Aの一辺に配置される周縁封止材11には、上記の伝熱量Eの一部が伝熱される。したがって、周縁封止材11への伝熱量をE1とし、補正係数を「K1」とすることで、伝熱量E1は以下の式(2)によって算出することができる。
E1=K1×2π×C×D×H/ln(A/B) ・・・(2)
【0074】
一方、吸引孔封止材15において周縁封止材11の温度上昇に使用可能な熱量E2は、以下の式(3)によって導かれる。
E2=N×ΔT×W1 ・・・(3)
ここで、N(J/g・K)は吸引孔封止材15の比熱である。ΔT(℃)は、吸引孔封止材15が吸引孔4に投入された際における吸引孔封止材15と周縁封止材11との温度差である。W1(kg)は吸引孔封止材15の重量である。ちなみに、試験1及び試験2に用いた吸引孔封止材15では、N=243,000(J/g・K)であり、ΔT=(300-195)=105(℃)であった。
【0075】
上記の式(1)に基づき、伝熱量E,E1は、エッジ3Aから吸引孔4までの距離(エッジ距離)にほぼ相当するln(A/B)が大きくなるほど減少する。すなわち、伝熱量E,E1は、エッジ距離に反比例する。一方、伝熱量E,E1の発生源である熱量E2は、エッジ距離が大きくなるほど周縁封止材11に伝達される伝熱量が減少することに鑑み、エッジ距離が増加するにつれて当該伝熱量E,E1を維持するには増加させる必要がある。すなわち、熱量E2は、エッジ距離に比例して大きくすることが可能である。また、試験1及び試験2の試験結果に基づくことで、吸引孔封止材15の重量もエッジ距離に比例して大きくすることが可能であることが理解できる。これらを踏まえ、エッジ距離に応じて許容可能な熱量E3は、補正係数「K2」と、吸引孔封止材15の上限重量としての「Wmax」とを用いることで、以下の式(4)によって算出することができる。
E3=K2×E1×(ln(A/B))=N×ΔT×Wmax ・・・(4)
【0076】
上記式(4)の「E1」に上記式(2)の右辺を代入し、新たな補正係数「K」を用いることで、吸引孔封止材15の上限重量(Wmax)は、以下の数1式によって表すことができる。
[数1]
Wmax=K×ln(A/B)×H×C×D/(N×ΔT)
Wmax(g):吸引孔封止材の上限重量
K:補正係数
A(mm):吸引孔の中心からガラス板のエッジまでの距離
B(mm):吸引孔の半径
H(mm):吸引孔の高さ
C(W/mm・K):ガラス板の熱伝導率
D(℃):吸引孔封止材が吸引孔に投入された際に吸引孔の内径側とガラス板のエッジとの間で許容される温度差
N(J/g・K):吸引孔封止材の比熱
ΔT(℃):吸引孔封止材が吸引孔に投入された際における吸引孔封止材と周縁封止材との温度差
【0077】
上記の数1式と、試験2において実際に用いた材料の物性や寸法等とを参照すると、エッジ距離に相当する「A」が変数であるものの、その他はいずれも所定値であることから、新たな補正係数「K3」を用いることで、吸引孔封止材15の重量Wmaxは以下の式(5)によって表すことができる。
Wmax=K3×(lnA-lnB) ・・・(5)
【0078】
また、上記式(5)において、吸引孔4の半径に相当する「B」についても所定値であることから、図10に示されるL1,L2,L3に基づく近似直線は、「y=11.881×ln(x)-26.212」によって表すことができる。
【0079】
これらに基づき、図10において、エッジ距離に対応する、周縁封止材11の温度上昇が5℃以下となる吸引孔封止材15の重量は、近似直線の右側である領域F1,F2に含まれることになり、上記式(4)に基づいてその上限を設定が可能となる。これにより、ガラスパネルPはガラス板1Aの吸引孔4に投入する吸引孔封止材15の重量を適正に設定することができ、ガラスパネルPの製造時において吸引孔封止材15による周縁封止材11の温度上昇を抑制することができる。その結果、ガラスパネルPは、周縁封止材11の接着強度が低下するのを防止することができ、周縁封止材11による一対のガラス板1A,1Bの接着強度を維持することができる。上述の通り、領域F1、F2は、所定のエッジ距離において温度上昇量が5℃以下となる吸引孔封止材15の重量範囲ではある。ただし、5(g)の境界線Wを越える領域F2については、以下の理由により吸引孔封止材15の重量が適正範囲とはいえない。
【0080】
吸引孔封止材15の重量Wは、0,05g以上5.00g以下が好ましい。吸引孔封止材15の重量Wが0.05g未満であると、吸引孔4を小さくしなければ吸引孔4を適正に行うことができず、吸引孔4が小さい場合には間隙Vの吸引工程に時間がかかる。このため、ガラスパネルPは間隙Vの減圧状態が不十分になる可能性があり、ガラスパネルPを製造する際の作業性も低下する。一方、重量Wが5.00gを越えると、吸引孔封止材15によってガラス板1Aの吸引孔4周りが過剰に加熱されるため、ガラス板1Aが急激に温度上昇する。具体的には、300℃で投入される吸引孔封止材15は、195℃のガラス板1Aとは105℃の温度差があるため、吸引孔封止材15の重量に比例する熱量により、ガラス板1Aの一部が急激に温度上昇する。そのため、温度上昇したガラス板1Aは、吸引孔4において高温の熱衝撃を受けて破壊することがある。また、ガラス板1Aは、吸引孔封止材15によって加熱された際に熱破壊しない場合でも、吸引孔封止材15とガラス板1Aとの熱膨張率の差によって加熱時に吸引孔4の周囲にクラックが発生することがあり、その後の温度変化の際に熱破壊する可能性もある。したがって、吸引孔封止材15の上限重量(Wmax)は5.00g以下が好ましい。吸引孔封止材15の重量は、ガラス板1Aの温度上昇の抑制やコスト抑制等の観点から、0.50g以上4.00g以下がより好ましく、1.00g以上3.00g以下がさらに好ましい。
【0081】
なお、吸引孔封止材15は、例えば図4及び図5に示された封止装置50を用いて吸引孔4に投入されるが、吸引孔封止材15が投入される際に封止装置50に酸化被膜150が残存し、酸化被膜150の残存量は一定でない。すなわち、封止装置50にセットされる吸引孔封止材15と吸引孔4に実際の投入される吸引孔封止材15とは同量ではなく、例えば4.00gの吸引孔封止材15を吸引孔4に投入する場合には、4.00gを越える重量の吸引孔封止材15を封止装置50にセットする必要がある。したがって、封止装置50においては、吸引孔4に実際の投入される吸引孔封止材15の重量制御が可能であることが好ましい。
【0082】
〔第2実施形態〕
本実施形態では、図11に示されるように、吸引孔4が矩形状に形成された一対のガラス板1A,1Bの一方の一辺3A1(端面)に沿う中央付近に配置されている。吸引孔4が当該位置に配置された場合にも、ガラスパネルPにおいて吸引孔4を目立ち難くすることができる。また、吸引孔4に投入される吸引孔封止材15がガラス板1Aの一辺3A1のみに近接して配置されることで、吸引孔封止材15の熱によって温度上昇する周縁封止材11の領域を減少させることができる。これにより、吸引孔4が形成されたガラス板1Aにおいて、周縁封止材11の接着強度の低下を抑制することができる。
【0083】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、吸引孔封止材15が一対のガラス板1A,1Bの他方であるガラス板1Bの板面に非接触である例を示したが、吸引孔封止材15はガラス板1Bの板面に接触する構成でもよい。吸引孔封止材15が吸引孔4を有しないガラス板1Bに接触することで、吸引孔封止材15はガラス板1A,1Bに亘って配置される。これにより、吸引孔封止材15によって吸引孔4の封止状態を強固に保持することができる。
【0084】
(2)上記の実施形態では、封止装置50において、吸引孔封止材15の表面を先鋭部材70により突き刺すことで、吸引孔封止材15を吸引孔4に投入する例を示したが、封止装置50は、例えば吸引孔封止材15を載置した容器(不図示)を回動させて吸引孔4に投入する構成でもよい。
【0085】
(3)上記の実施形態のガラスパネルPは、建築物の他、冷凍庫用、冷蔵庫用、冷凍及び冷蔵庫のショーケース用のディスプレイに用いることができる。従来のショーケース用のディスプレイでは、吸引孔4がディスプレイのエッジに近接していないため、ガラス板の外形を大きくして吸引孔4の封止部分を含むガラス板の一辺全体を枠体で隠す必要があった。しかし、上記の実施形態のガラスパネルPであれば、吸引孔4の封止部分がショーケース用のディスプレイのエッジに近くなることで、ショーケースにおいて枠体の領域を小さくすることができるので、ディスプレイの美観(見栄え)が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、減圧複層ガラスパネルに広く利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1A :第1ガラス板
1B :第2ガラス板
2 :スペーサー(間隙保持部材)
3 :周縁
3A :エッジ
3A1 :一辺
4 :吸引孔
11 :周縁封止材
14 :開先部分
15 :吸引孔封止材
16 :突出部
50 :封止装置
Dg :突出部厚み
Dw :突出部直径
V :間隙
V1 :間隙の周縁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11