(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153106
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ハニカム成形体の目封止部形成方法及びハニカム焼成品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 11/02 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
B28B11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056165
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】板津 研
(72)【発明者】
【氏名】藤江 将啓
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 昭博
【テーマコード(参考)】
4G055
【Fターム(参考)】
4G055AA08
4G055AB03
4G055AC10
4G055BA35
4G055BA40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハニカム成形体の角部付近における目封止用スラリーの取り残しを効果的に低減可能な目封止部形成方法を提供する。
【解決手段】四角柱状のハニカム成形体100の第一底面及び第二底面の少なくとも一方の底面にフィルム120を貼り付ける工程と、前記フィルムの底面被覆部に複数の孔を空けて、複数の孔内に目封止用スラリー150を圧入する工程と、前記スラリーを乾燥し、固化させる工程と、第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程と、前記フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する工程とを含み、前記スラリーを除去する工程において、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、複数のブラシ毛220を備え、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを回転させながら接触させること、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAを回転させながら接触させることを含む、目封止部形成方法。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一底面から第二底面まで延びる複数のセル、第一対向側面、及び第二対向側面を備える四角柱状のハニカム成形体を用意する工程と、
一方の主表面に粘着面を有し、他方の主表面に非粘着面を有する少なくとも一枚のフィルムを用意する工程と、
該ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の少なくとも一方の底面に、該粘着面が該少なくとも一方の底面と接触するようにして、該フィルムを貼り付ける工程と、
を含み、
前記フィルムを貼り付ける工程は、
前記少なくとも一方の底面の全面を被覆する底面被覆部と、
前記少なくとも一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部と、
を有するように該フィルムを貼り付けること、並びに、
前記一対のはみ出し部のそれぞれの少なくとも一部の粘着面を、該ハニカム成形体の第一対向側面に接触させるようにして、貼り付けることを含む、
ハニカム成形体のマスキング方法を実施し、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルムの底面被覆部に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
該スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程と、
前記スラリーを除去する工程の後、前記フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する工程と、
を含み、
前記第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、複数のブラシ毛を備え、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを回転させながら接触させること、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAを回転させながら接触させることを含む、
ハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項2】
前記回転ブラシAは、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸の方向に平行に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に垂直である請求項1に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項3】
第一底面から第二底面まで延びる複数のセル、第一対向側面、及び第二対向側面を備える四角柱状のハニカム成形体を用意する工程と、
一方の主表面に粘着面を有し、他方の主表面に非粘着面を有する少なくとも一枚のフィルムを用意する工程と、
該ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の少なくとも一方の底面に、該粘着面が該少なくとも一方の底面と接触するようにして、該フィルムを貼り付ける工程と、
を含み、
前記フィルムを貼り付ける工程は、
前記少なくとも一方の底面の全面を被覆する底面被覆部と、
前記少なくとも一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部と、
を有するように該フィルムを貼り付けること、並びに、
前記一対のはみ出し部のそれぞれの少なくとも一部の粘着面を、該ハニカム成形体の第一対向側面に接触させるようにして、貼り付けることを含む、
ハニカム成形体のマスキング方法を実施し、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルムの底面被覆部に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
該スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する工程と、
前記剥離する工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程と、
を含み、
前記第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸に対して放射状に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に平行で回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸が第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることを含む、
ハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項4】
第一底面から第二底面まで延びる複数のセル、第一対向側面、及び第二対向側面を備える四角柱状のハニカム成形体を用意する工程と、
一方の主表面に粘着面を有し、他方の主表面に非粘着面を有する少なくとも一枚のフィルムを用意する工程と、
該ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の少なくとも一方の底面に、該粘着面が該少なくとも一方の底面と接触するようにして、該フィルムを貼り付ける工程と、
を含み、
前記フィルムを貼り付ける工程は、
前記少なくとも一方の底面の全面を被覆する底面被覆部と、
前記少なくとも一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部と、
を有するように該フィルムを貼り付けること、並びに、
前記一対のはみ出し部のそれぞれの少なくとも一部の粘着面を、該ハニカム成形体の第一対向側面に接触させるようにして、貼り付けることを含む、
ハニカム成形体のマスキング方法を実施し、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルムの底面被覆部に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
該スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する第一スラリー除去工程と、
前記スラリーを除去する工程の後、前記フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する工程と、
前記剥離する工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを更に除去する第二スラリー除去工程と、
を含み、
第一スラリー除去工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、複数のブラシ毛を備え、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを回転させながら接触させること、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAを回転させながら接触させることを含み、
第二スラリー除去工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸に対して放射状に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に平行で回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸が第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることを含む、
ハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項5】
前記回転ブラシAは、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸の方向に平行に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に垂直である請求項4に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項6】
前記回転ブラシAが備えるブラシ毛は、長さが12~20mmの範囲内にあり、線径が0.1~0.6mmの範囲内にある請求項1、2、4又は5に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項7】
前記回転ブラシBが備えるブラシ毛は、長さが12~20mmの範囲内にあり、線径が0.1~0.6mmの範囲内にある請求項3又は4に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項8】
前記回転ブラシAは、ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量が0.5~3mmに設定される請求項1、2、4又は5に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項9】
前記回転ブラシBは、ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量又は第一対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量が3~20mmに設定される請求項3又は4に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の目封止部形成方法を実施することで得られたハニカム成形体を焼成することを含むハニカム焼成品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハニカム成形体の目封止部形成方法に関する。また、本発明はハニカム焼成品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、環境汚染の原因となる炭素を主成分とするパティキュレート(粒子状物質)が多量に含まれている。そのため、一般的にディーゼルエンジン等の排気系には、パティキュレートを捕集するためのフィルタが搭載されている。
【0003】
このようなフィルタとして、第一底面104から第二底面106まで延び、第一底面104が開口して第二底面106に目封止部103を有する複数の第1セル108aと、第一底面104から第二底面106まで延び、第一底面104に目封止部103を有し、第二底面106が開口する複数の第2セル108bとを備え、複数の第1セル108aと複数の第2セル108bは隔壁112を挟んで交互に隣接配置されているハニカム構造体100が知られている(
図10参照)。
【0004】
この種のフィルタにおいては、以下のようなメカニズムにより粒子状物質が捕集される。柱状のハニカム構造体100の上流側の第一底面104に粒子状物質を含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル108aに導入されて第1セル108a内を下流に向かって進む。第1セル108aは下流側の第二底面106が目封止されているため、排ガスは第1セル108aと第2セル108bを区画する多孔質の隔壁112を透過して第2セル108bに流入する。粒子状物質は隔壁112を通過できないため、第1セル108a内に捕集される。第2セル108bに流入した清浄な排ガスは第2セル108b内を下流に向かって進み、下流側の第二底面106から排出される。
【0005】
特許文献1(特開2009-220298号公報)には、目封止部を有する柱状ハニカム構造体の製造方法が開示されている。未焼成のハニカム構造体の一方の底面に、粘着層を備えるマスク(以下、「フィルム」ともいう。)を貼り付け、このマスクの、目封止部が配設されるべきセルを覆っている部分に、画像処理を利用したレーザ加工等によって孔を開けた後、マスクが貼り付けられた底面部を目封止用スラリーに浸漬し、孔からセルの底面部に目封止用スラリーを充填し、乾燥させ、底面に貼り付けたマスクを剥がす。他方の底面についても、同様の方法で目封止部を形成する。その後、目封止部を有する柱状ハニカム構造体を焼成すると、焼成ハニカム構造体が得られ、フィルタとして使用可能となる。
【0006】
当該公報の教示に従って貼り付けたマスクの状態を
図11に示す。当該公報によれば、マスク703はハニカム成形体700の底面701全体を覆うように貼り付けるとともに、底面701からはみ出した部分が側面704に折り込まれることが記載されている。マスクに所定の孔を開けて目封止用スラリーをセルの端部に充填した後、マスクに付着した目封止用スラリーが固化したものがブラッシング装置により除去される。次いで、空気噴射装置を用いてマスクのはみ出した部分が起こされる。起こされたマスクのはみ出し部分がマスク剥離装置の把持爪によって把持され、マスクが剥がされる。
【0007】
特許文献1によれば、ハニカム成形体を破損することなく、容易にマスク付目封止ハニカム成形体からマスクを剥がすことができると記載されている。しかしながら、本発明者の検討結果によれば、マスクがハニカム成形体から上手く剥がれない場合があり、ハニカム製品の歩留まりを低下させることがある。そこで、特許文献2(特開2019-171622号公報)では、貼り付けたフィルムを容易に剥がすことのできるフィルムの貼り付け方法が提案されている。
【0008】
当該公報の教示に従って貼り付けたフィルムの状態を
図2に模式的に示す。
特許文献2によるフィルムを貼り付ける工程は、
少なくとも一方の底面の全面を被覆する底面被覆部123と、
前記少なくとも一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部122、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部124と、
を有するように該フィルム120を貼り付けること、並びに、
前記一対のはみ出し部124のそれぞれの少なくとも一部の粘着面を、該ハニカム成形体の第一対向側面102aに接触させるようにして、貼り付けることを含む。
すなわち、特許文献2では、ハニカム成形体の底面に加えて、対向する一対の側面(第一対向側面102a)にのみフィルムを貼り付けることで、貼り付けたフィルムの剥離性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-220298号公報
【特許文献2】特開2019-171622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の方法でフィルム120を貼り付けた場合、ハニカム成形体100の第二対向側面102b(フィルムが貼り付けられていない対向する一対の側面)に余分な目封止用スラリーが付着する。第二対向側面102bに付着した目封止用スラリーは固化した後、ブラシ掛けにより除去すれば、フィルム120を剥がす工程を容易に実施できる。
【0011】
一方、ハニカム成形体の底面に貼り付けたフィルム120はハニカム成形体100の底面の全面を確実に被覆するという観点から、フィルム120の一対の外縁部122は、ハニカム成形体100の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺から僅かにはみ出ていることが好ましい。このため、フィルム120の一対のはみ出し部124についても、同様にハニカム成形体の幅方向よりも僅かにはみ出た部分125(以下、「マージン部」という)が発生する。マージン部125は、ハニカム成形体の角部付近の目封止用スラリーに覆いかぶさりブラシ掛けを妨げるので、ブラシ掛け後も当該角部付近には目封止用スラリーが僅かに残留する。ブラシ掛けで除去し切れなかった固化後の目封止用スラリーの写真を
図12に例示的に示す。角部付近に残っている目封止用スラリー150は僅かであり、外観上はほとんど問題ない。また、フィルムを剥がす際に悪影響もない。しかしながら、目封止用スラリーが僅かであっても角部付近に残っていると、ハニカム成形体を画像センサを用いて外観検査する時にクラックと誤認されてしまう場合がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、ハニカム成形体の角部付近における目封止用スラリーの取り残しを効果的に低減することを可能とするハニカム成形体の目封止部形成方法を提供することを課題とする。本発明は別の一実施形態において、当該目封止部形成方法を利用したハニカム焼成品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、ハニカム成形体に付着しているスラリーに対して回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシを回転させながら接触させることが有利であることを見出した。本発明は当該知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0014】
[1]
第一底面から第二底面まで延びる複数のセル、第一対向側面、及び第二対向側面を備える四角柱状のハニカム成形体を用意する工程と、
一方の主表面に粘着面を有し、他方の主表面に非粘着面を有する少なくとも一枚のフィルムを用意する工程と、
該ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の少なくとも一方の底面に、該粘着面が該少なくとも一方の底面と接触するようにして、該フィルムを貼り付ける工程と、
を含み、
前記フィルムを貼り付ける工程は、
前記少なくとも一方の底面の全面を被覆する底面被覆部と、
前記少なくとも一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部と、
を有するように該フィルムを貼り付けること、並びに、
前記一対のはみ出し部のそれぞれの少なくとも一部の粘着面を、該ハニカム成形体の第一対向側面に接触させるようにして、貼り付けることを含む、
ハニカム成形体のマスキング方法を実施し、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルムの底面被覆部に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
前記スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程と、
前記スラリーを除去する工程の後、前記フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する工程と、
を含み、
前記第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、複数のブラシ毛を備え、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを回転させながら接触させること、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAを回転させながら接触させることを含む、
ハニカム成形体の目封止部形成方法。
[2]
前記回転ブラシAは、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸の方向に平行に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に垂直である[1]に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
[3]
第一底面から第二底面まで延びる複数のセル、第一対向側面、及び第二対向側面を備える四角柱状のハニカム成形体を用意する工程と、
一方の主表面に粘着面を有し、他方の主表面に非粘着面を有する少なくとも一枚のフィルムを用意する工程と、
該ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の少なくとも一方の底面に、該粘着面が該少なくとも一方の底面と接触するようにして、該フィルムを貼り付ける工程と、
を含み、
前記フィルムを貼り付ける工程は、
前記少なくとも一方の底面の全面を被覆する底面被覆部と、
前記少なくとも一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部と、
を有するように該フィルムを貼り付けること、並びに、
前記一対のはみ出し部のそれぞれの少なくとも一部の粘着面を、該ハニカム成形体の第一対向側面に接触させるようにして、貼り付けることを含む、
ハニカム成形体のマスキング方法を実施し、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルムの底面被覆部に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
前記スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する工程と、
前記剥離する工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程と、
を含み、
前記第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸に対して放射状に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に平行で回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸が第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることを含む、
ハニカム成形体の目封止部形成方法。
[4]
第一底面から第二底面まで延びる複数のセル、第一対向側面、及び第二対向側面を備える四角柱状のハニカム成形体を用意する工程と、
一方の主表面に粘着面を有し、他方の主表面に非粘着面を有する少なくとも一枚のフィルムを用意する工程と、
該ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の少なくとも一方の底面に、該粘着面が該少なくとも一方の底面と接触するようにして、該フィルムを貼り付ける工程と、
を含み、
前記フィルムを貼り付ける工程は、
前記少なくとも一方の底面の全面を被覆する底面被覆部と、
前記少なくとも一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部と、
を有するように該フィルムを貼り付けること、並びに、
前記一対のはみ出し部のそれぞれの少なくとも一部の粘着面を、該ハニカム成形体の第一対向側面に接触させるようにして、貼り付けることを含む、
ハニカム成形体のマスキング方法を実施し、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルムの底面被覆部に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
前記スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを除去する第一スラリー除去工程と、
前記スラリーを除去する工程の後、前記フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する工程と、
前記剥離する工程の後、前記一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーを更に除去する第二スラリー除去工程と、
を含み、
第一スラリー除去工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、複数のブラシ毛を備え、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを回転させながら接触させること、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAを回転させながら接触させることを含み、
第二スラリー除去工程は、第二対向側面のそれぞれに付着している前記スラリーに対して、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸に対して放射状に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に平行で回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸が第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることを含む、
ハニカム成形体の目封止部形成方法。
[5]
前記回転ブラシAは、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸の方向に平行に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に垂直である[4]に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
[6]
前記回転ブラシAが備えるブラシ毛は、長さが12~20mmの範囲内にあり、線径が0.1~0.6mmの範囲内にある[1]、[2]、[4]又は[5]に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
[7]
前記回転ブラシBが備えるブラシ毛は、長さが12~20mmの範囲内にあり、線径が0.1~0.6mmの範囲内にある[3]又は[4]に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
[8]
前記回転ブラシAは、ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量が0.5~3mmに設定される[1]、[2]、[4]又は[5]に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
[9]
前記回転ブラシBは、ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量又は第一対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量が3~20mmに設定される[3]又は[4]に記載のハニカム成形体の目封止部形成方法。
[10]
[1]~[9]の何れか一項に記載の目封止部形成方法を実施することで得られたハニカム成形体を焼成することを含むハニカム焼成品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、ハニカム成形体に目封止部を形成するときに、ハニカム成形体の角部付近における目封止用スラリーの取り残しを効果的に低減することが可能となる。このため、ハニカム成形体の画像センサを用いた外観検査時に目封止用スラリーの取り残しがクラックと誤認されてしまうケースが少なくなり、検査精度の向上につながることが期待できる。また、本発明の一実施形態によれば、目封止用スラリーを除去する工程は自動化が容易であり、取り残した目封止用スラリーの除去作業を人手で実施する必要がないので、生産コストの低減にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】マスキング方法の対象となる四角柱状のハニカム成形体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】ハニカム成形体へのフィルムの貼り方を説明する模式的な斜視図である。
【
図3】はみ出し部の粘着面の面積と、はみ出し部の折り返しによって隠蔽される面積の関係を説明する模式的な側面図である。
【
図4A】はみ出し部の折り返し方法の別の例を説明する模式的な側面図である。
【
図4B】はみ出し部の折り返し方法の更に別の例を説明する模式的な側面図である。
【
図4C】はみ出し部の折り返し方法の更に別の例を説明する模式的な側面図である。
【
図5】(A)は、第一スラリー除去工程において、一方向に回転する回転ブラシのブラシ毛を第二対向側面に接触させる場合に、フィルムのマージン部が第二対向側面の端部(角部)付近の目封止用スラリーに覆いかぶさりブラシ掛けを妨げている様子を示す模式図である。(B)は、フィルムが覆いかぶさった角部付近に残留する目封止用スラリーを示す模式図である。
【
図6】(A)は、第一スラリー除去工程において、
図5に示す方向とは逆方向に回転する回転ブラシAのブラシ毛を更に接触させることで、一方向に回転する回転ブラシでは除去できなかった角部付近の目封止用スラリーを除去する様子を示す模式図である。(B)は角部に残留する狭小化した目封止用スラリーを示す模式図である。
【
図7】回転ブラシAの側断面構造を示す模式図である。
【
図8】回転ブラシBの側断面構造を示す模式図である。
【
図9】(A)は、第二スラリー除去工程において、回転ブラシBを用いて角部に残留する狭小化した目封止用スラリーを除去する様子が模式的に示されている。(B)は、回転ブラシBを用いることで角部に残留する狭小化した目封止用スラリーが除去された後の状態が模式的に示されている。
【
図10】ハニカム構造体(又はハニカム成形体)の断面構造を説明する模式図である。
【
図11】特許文献1において教示されるハニカム成形体へのフィルムの貼り方を説明する模式図である。
【
図12】ブラシ掛けで除去し切れなかった角部付近における目封止用スラリーの例示的な写真である。
【
図13】実施例におけるフィルムの貼り方を説明する模式図である。
【
図14】複数のハニカム成形体に対して第一スラリー除去工程を連続的に行う様子を示す模式図である。
【
図15】複数のハニカム成形体に対して第二スラリー除去工程を連続的に行う様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】
(1.ハニカム成形体)
図1には、マスキング方法の対象となる四角柱状のハニカム成形体の一例を模式的に示す斜視図が記載されている。図示のハニカム成形体100は第一底面104から第二底面106まで延びる複数のセル108、第一対向側面102a、及び第二対向側面102bを備える。複数のセル108は多孔質の隔壁112によって区画形成されている。
【0019】
ハニカム成形体の外形は四角柱状である限り特に限定されないが、例えば、底面が長方形又は正方形の四角柱状とすることができる。また、ハニカム成形体の大きさは、耐熱衝撃性を高めるという観点から、底面の面積が1000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0020】
ハニカム成形体の高さ(第一底面から第二底面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。ハニカム成形体の高さは、例えば50mm~400mmとすることができる。ハニカム成形体の高さと各底面の最大径(ハニカム成形体の各底面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、ハニカム成形体の高さが各底面の最大径よりも長くてもよいし、ハニカム成形体の高さが各底面の最大径より短くてもよい。
【0021】
セルの延びる方向(高さ方向)に直交する断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせ、であることが好ましい。これ等のなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム成形体の焼成品をフィルタとして使用したときに、排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、浄化性能が優れたものとなる。
【0022】
ハニカム成形体は例えば以下の手順で作製可能である。セラミックス原料、分散媒、造孔材及びバインダを含有する原料組成物を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形することによりハニカム成形体が作製される。原料組成物中には分散材等の添加剤を必要に応じて配合することができる。押出成形に際しては、所望の外周輪郭、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。押出成形後、ハニカム成形体は乾燥することが好ましい。
【0023】
セラミックス原料としては、限定的ではないが、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア等のセラミックスを得るための原料が挙げられる。具体的には、限定的ではないが、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、蛇紋石、パイロフェライト、ブルーサイト、ベーマイト、ムライト、マグネサイト等が挙げられる。セラミックス原料は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0024】
(2.マスキング方法)
次に、ハニカム成形体のマスキング方法について説明する。
図2には、ハニカム成形体のマスキング方法の一実施形態によるフィルムの貼り方を説明する模式図が示されている。
【0025】
まず、一方の主表面に粘着面を有し、他方の主表面に非粘着面を有する少なくとも一枚、好ましくは二枚のフィルム120を用意する。フィルム120はハニカム成形体の各底面の面積よりも大きな面積を有するものを使用する。フィルムの材料は、特に制限はないが、後述する孔を形成するための熱加工が容易であるため、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)であることが好ましい。フィルムの粘着面の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴムまたは合成ゴムを主成分とするゴム)、シリコン系樹脂であることが好ましい。
【0026】
フィルムの粘着面の粘着力は、JIS Z0237:2009の試験方法1に準じて測定される値が、1.2~2.5N/cmであることが好ましく、1.4~2.3N/cmであることが更に好ましく、1.6~1.9N/cmであることが特に好ましい。上記粘着力が1.2N/cm以上であることで、後述する余分な目封止用スラリーの除去のためのブラッシングに際してフィルムが剥離するおそれを少なくすることができる。また、上記粘着力が2.5N/cm以下であることで、後述するフィルムの剥離工程においてハニカム成形体の底面からフィルムが剥がれ易くなる。フィルムの厚さは、20~50μmであることが好ましく、30~40μmであることが更に好ましい。フィルムの厚さが20μm以上であることで、シワが生じにくいのでハニカム成形体の底面に正確に貼り付け易い、フィルムを正確に折り込みやすくなる、そして、不必要なセルに目封止用スラリーが充填されるおそれが低減されるといった利点が得られる。また、フィルムの厚さが50μm以下であることで、底面からはみ出した部分を折り込んだ状態が維持されやすくなる。
【0027】
次いで、上記手順で得られたハニカム成形体100の第一底面104及び第二底面106の少なくとも一方の底面に、フィルム120の粘着面がハニカム成形体100の少なくとも一方の底面と接触するようにして、少なくとも一枚のフィルムを貼り付ける。フィルム120は、ハニカム成形体100の第一底面104及び第二底面106の両方に貼り付けることが好ましい。
【0028】
前記フィルム120は、フィルムを貼り付ける各底面(104、106)の全面を被覆する底面被覆部123が形成されるように、貼り付けることが好ましい。これにより、次工程で行われる目封止部形成時に、不必要なセル内に目封止用スラリーが浸入するのを防止することができる。
【0029】
また、前記フィルム120は、フィルムを貼り付ける各底面(104、106)の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った一対の外縁部122、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す一対のはみ出し部124が形成されるように、該フィルム120の大きさを調整し、貼り付けることが好ましい。そして、一対のはみ出し部124のそれぞれの少なくとも一部の粘着面は、ハニカム成形体100の第一対向側面102aに接触させるようにして、貼り付けることが好ましい。これにより、フィルムが適度に剥がれにくくなるので、次工程で行われる目封止部形成時に、フィルムが不用意に剥がれて、不必要なセル内に目封止用スラリーが浸入するのを防止することができる。
【0030】
一対のはみ出し部124をハニカム成形体100の第一対向側面102aに貼り付ける際は、少なくとも一方のはみ出し部124を折り返して、当該折り返されたはみ出し部124の少なくとも一部の粘着面同士を貼り合わせることが好ましい。粘着面同士が貼り合わされたはみ出し部124の外表面は非粘着面となるため、ハニカム成形体100の側面には貼り付かない。従って、後工程で手又は空気噴射装置を用いてフィルムを起こしやすくなるという利点が得られる。また、粘着面同士が貼り合わされたはみ出し部124の外表面を把持してフィルム120を剥がすことで、剥がしたフィルムが手やフィルム剥離装置の把持爪に付着するのを防止することができ、作業効率を高めることができる。折り返した後、粘着面が露出しないように、折り返していないはみ出し部124の粘着面をハニカム成形体の側面に全部貼り付けることが好ましい。
【0031】
前記フィルム120の一対の外縁部122は、各底面(104、106)の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿って形成されている。この際、完全に各底面(104、106)を被覆するために、各底面(104、106)の外周形状を画定する四角形の一方の対辺から僅かにはみ出ていることが好ましい。フィルムのはみ出し長さは、当該四角形の一方の対辺に垂直な方向に2mm以下が好ましく、1.5mm以下が好ましく、例えば0.5~1mmとすることができる。
【0032】
フィルムを剥がす際には、ハニカム成形体100の第一対向側面102aに貼り付けられた一対のはみ出し部124のうち、一方のはみ出し部124のみを把持できれば容易に剥がせる。このため、一方のはみ出し部124のみを折り返して、当該折り返されたはみ出し部124の少なくとも一部の粘着面同士を貼り合わせれば十分である。他方のはみ出し部124は折り返す必要はない。
【0033】
はみ出し部124の折り返し長さは、長いほど非粘着面がはみ出し部124の外表面を形成する面積が大きくなるためフィルム120を起こしやすく、フィルム120を剥離しやすく、また、フィルム120の把持領域を大きくできるという利点が得られる。この観点から、折り返されるはみ出し部124の粘着面の面積のうち、30%以上が隠蔽されるようにはみ出し部124を折り返すことが好ましく、50%以上が隠蔽されるようにはみ出し部124を折り返すことがより好ましく、60%以上が隠蔽されるようにはみ出し部124を折り返すことが更により好ましい。
【0034】
但し、はみ出し部124の折り返し長さは、長いほどフィルム120のハニカム成形体100の側面への粘着力が低下することになる。フィルム120のハニカム成形体100の側面への粘着力が過度に低下すると、次工程で行われる目封止部形成時に、フィルム120が不用意に剥がれて、不必要なセル内に目封止用スラリーが浸入するおそれがある。このため、折り返されるはみ出し部124の粘着面の面積のうち、100%未満が隠蔽されるようにはみ出し部124を折り返すことが好ましく、90%以下が隠蔽されるようにはみ出し部124を折り返すことがより好ましく、80%以下が隠蔽されるようにはみ出し部124を折り返すことが更により好ましい。
【0035】
図3には、折り返されるはみ出し部124の粘着面の面積と、はみ出し部124の折り返しによって隠蔽される粘着面の面積の関係を説明する模式的な側面図が示されている。
図3においては、側面から観察したときに、折り返されるはみ出し部124の粘着面の長さが10であり、折り返し長さは3である。このとき、折り返す前のはみ出し部の粘着面の面積を10とすると、折り返すことで隠蔽されるはみ出し部の粘着面の面積は6であるから、はみ出し部の粘着面の面積のうち60%が隠蔽されているといえる。
【0036】
図2及び
図3に示す例では、はみ出し部124を、はみ出し部124の境界を形成する前記四角形の一辺に平行に折り返したが、折り返しの方法はこれに限られるものではない。例えば、
図4Aに示すように、折り返し後のはみ出し部124の形状が五角形となるように折り返すこともできるし、
図4Bに示すように、折り返し後のはみ出し部124の形状が三角形となるように折り返すこともできる。更には、
図4Cに示すように、折り返し後のはみ出し部124の形状が六角形となるように折り返すこともできる。なお、
図4A、
図4B及び
図4C中の点線は内側に折り返したフィルム部分を示す。
【0037】
各はみ出し部において、フィルムの粘着面がハニカム成形体の側面に接触している面積は、使用する粘着面の材料及びハニカム成形体の材質にもよるが、後工程で剥離し易くするという観点から、800mm2以下であることが好ましく、600mm2以下であることがより好ましく、400mm2以下であることが更により好ましい。但し、フィルムの粘着面がハニカム成形体の側面に接触している面積は、小さいほどフィルムのハニカム成形体100の側面への粘着力が低下することになる。フィルムのハニカム成形体100の側面への粘着力が過度に低下すると、次工程で行われる目封止部形成時に、フィルムが不用意に剥がれて、不必要なセル内に目封止用スラリーが浸入するおそれがある。そこで、各はみ出し部において、フィルムの粘着面がハニカム成形体の側面に接触している面積は、使用する粘着面の材料及びハニカム成形体の材質にもよるが、35mm2以上であることが好ましく、100mm2以上であることがより好ましく、200mm2以上であることが更により好ましい。
【0038】
(3.目封止部の形成)
本発明の一実施形態に係る目封止部形成方法は、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルム120の底面被覆部123に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
前記スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記一対のはみ出し部124が貼り付けられていない第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーを除去する第一スラリー除去工程と、
前記スラリーを除去する工程の後、前記フィルム120を前記ハニカム成形体100から剥離する工程と、
を含み、
第一スラリー除去工程は、第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーに対して、複数のブラシ毛を備え、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを回転させながら接触させること、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAを回転させながら接触させることを含む。
【0039】
本発明の別の一実施形態に係る目封止部形成方法は、
前記マスキング方法を実施した後、
前記フィルム120の底面被覆部123に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
前記スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記フィルム120を前記ハニカム成形体100から剥離する工程と、
前記剥離する工程の後、前記一対のはみ出し部124が貼り付けられていない第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーを除去する第二スラリー除去工程と、
を含み、
第二スラリー除去工程は、第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーに対して、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸に対して放射状に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に平行で回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸が第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることを含む。
【0040】
本発明の更に別の一実施形態に係る目封止部形成方法は、
上記マスキング方法を実施した後、
フィルム120の底面被覆部123に複数の孔を空けて、当該複数の孔内に目封止用スラリーを圧入する工程と、
前記スラリーを乾燥し、固化させる工程と、
前記固化させる工程の後、前記一対のはみ出し部124が貼り付けられていない第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーを除去する第一スラリー除去工程と、
前記スラリーを除去する工程の後、前記フィルム120を前記ハニカム成形体100から剥離する工程と、
前記剥離する工程の後、前記一対のはみ出し部124が貼り付けられていない第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーを更に除去する第二スラリー除去工程と、
を含み、
第一スラリー除去工程は、第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーに対して、複数のブラシ毛を備え、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを回転させながら接触させること、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAを回転させながら接触させることを含み、
第二スラリー除去工程は、第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリーに対して、回転軸を中心に回転可能な基体と、当該基体の表面に植え付けられ、回転軸に対して放射状に延びる複数のブラシ毛とを備え、回転軸が第二対向側面に平行で回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸が第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることを含む。
【0041】
[3.1 目封止用スラリーを圧入する工程]
上記のマスキング方法によりフィルムを貼付した後は、目封止部が配設されるべきセルを覆っているフィルム部分に複数の孔を開けた後、フィルムが貼り付けられた底面部を目封止用スラリーに浸漬し、当該複数の孔からセルの端部に目封止用スラリーを圧入する。フィルムに孔を開ける方法は特に制限はないが、例えば画像処理を利用したレーザ加工によって行うことができる。当該操作を両方の底面に対して実施し、両底面のセルが目封止用スラリーによって交互に封止されたハニカム成形体(以下、「フィルム付目封止ハニカム成形体」ともいう。)を得る。
【0042】
目封止用スラリーは、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカム構造体と同材質であることがより好ましい。バインダとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロースなどを挙げることができる。
【0043】
[3.2 スラリーを乾燥固化する工程]
目封止用スラリーをセルの端部に圧入した後、該スラリーを乾燥固化する際の条件は、特に制限はないが、例えば100~150℃で20~60分とすることができる。
【0044】
[3.3 第一スラリー除去工程]
フィルム付目封止ハニカム成形体の第二対向側面102bには、固化した余分な目封止用スラリーが付着する。固化した余分な目封止用スラリーは除去しておくほうが、後工程でフィルム120を剥がしやすくなるので好ましい。しかしながら、一方向に回転する回転ブラシのブラシ毛220を第二対向側面102bに接触させる場合、フィルム120のマージン部125が第二対向側面102bの角部(又は端部)付近の目封止用スラリーに覆いかぶさりブラシ掛けを妨げるので(
図5(A))、フィルム120が覆いかぶさった角部付近に目封止用スラリー150が残留しやすい(
図5(B))。
図5(A)において、矢印は回転ブラシの回転方向を指す。
【0045】
そこで、第一スラリー除去工程では、第二対向側面102bのそれぞれに付着している前記スラリー150に対して、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAのブラシ毛220を回転させながら接触させる、又は回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシAのブラシ毛220を回転させながら接触させる。これにより、一方向に回転する回転ブラシAでは除去できなかった角部付近の目封止用スラリー150が逆方向に回転する回転ブラシAによって除去されるため(
図6(A))、角部付近に残留する目封止用スラリー150が狭小化される(
図6(B))。
【0046】
回転ブラシAの構造には、特に制限はない。但し、目封止用スラリーの除去効率を高めるという観点からは、例えば、
図7に側断面の構造を示す回転ブラシA200のように、回転軸Oを中心に回転可能な基体210と、当該基体210の表面に植え付けられ、回転軸Oの方向に平行に延びる複数のブラシ毛220とを備え、回転軸Oが第二対向側面102bに垂直であることが好ましい。一実施形態において、基体210の外形は円板状とすることができ、その板面にブラシ毛220を植え付けることができる。本明細書において、“回転軸Oの方向に平行に延びる複数のブラシ毛220”という文脈における“平行”とは、数学的な厳密な平行のみに限られるものではなく、回転軸Oの方向と複数のブラシ毛220の延びる方向のなす角度θが、0~15°の範囲は“平行”の概念に包含される。回転軸Oの方向と複数のブラシ毛220の延びる方向のなす角度は、0~15°であることが好ましく、0~10°であることがより好ましい。
【0047】
目封止用スラリーを除去する際に発生する粉塵がセル内に入り込まないようにするため、目封止用スラリーの除去は吸引装置(図示せず)で吸引しながら行うことが好ましい。従って、前記基体210は、吸引装置に連通する吸引口230を備えており、目封止用スラリーを除去中に吸引装置を稼働させて、粉塵を吸引口230から吸引することが好ましい。吸引口230は例えばホース等の配管を介して吸引装置に連通させることができる。好ましい一実施形態において、基体210は、複数のブラシ毛220が植え付けられている基体210の表面領域が環状(例:円環状)であり、当該表面領域の内周輪郭よりも内側の部分に、吸引装置に連通している吸引口230を備えている。当該構成により、粉塵を効率的に吸引することができる。
【0048】
回転ブラシAは、インバータにより回転数を制御可能なモータによって駆動することが望ましい。回転ブラシAの回転数が可変であることで、ハニカム成形体及び目封止用スラリーの材質に合わせて適切な回転数に設定可能となる。一般に、回転ブラシの回転数が高くなるほど目封止用スラリーの除去効率は上昇するものの、高くなりすぎるとハニカム成形体にダメージを与える原因となるので、両者のバランスを考慮して回転数を設定することが好ましい。回転ブラシAの回転数は、例えば、500~1000rpmとすることができ、典型的には600~900rpmとすることができ、より典型的には700~800rpmとすることができる。
【0049】
回転ブラシAが備えるブラシ毛の長さLは、ブラシ毛の材質及び太さなどに応じて、適宜設定すればよい。ブラシ毛の長さは短くなるほどコシが強くなって目封止用スラリーの除去効率を向上させるが、短くなりすぎるとハニカム成形体を傷つけやすくなることから、両者のバランスを考慮してブラシ毛の長さLを設定することが好ましい。目封止用スラリーの除去効率を高めるという観点からは、ブラシ毛の長さLは20mm以下とすることができ、18mm以下とすることもでき、更には16mm以下とすることもできる。一方、ハニカム成形体へのダメージを抑制するという観点からは、ブラシ毛の長さLは12mm以上とすることができ、13mm以上とすることもでき、更には14mm以上とすることもできる。
【0050】
ブラシ毛の直径(線径)は例えば0.1~0.6mmとすることができ、典型的には0.2~0.5mmとすることができ、より典型的には0.3~0.4mmとすることができる。なお、ブラシ毛の直径(線径)は、ブラシ毛の長さ方向に直交する断面の円相当径を指す。
【0051】
ブラシ毛の材質は、限定的ではないが、例えばナイロン、ポリプロピレン、塩化ビニール、ポリエステル、動物繊維(例えば、馬毛等)などを挙げることができる。これらの中でも、耐摩耗性、柔軟性に優れているため、ナイロンが好ましい。
【0052】
ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向への、回転ブラシAのブラシ毛の押込み量(ブラシ押込み量)は、多いほうが目封止用スラリーの除去効率を高めることができるが、過多になるとブラッシング圧が増加して、ハニカム成形体へのダメージリスクが増加することから、両者のバランスを考慮してブラシ押込み量を設定することが好ましい。ブラシ毛の材質、長さ及び太さにもよるが、目封止用スラリーの除去効率を高めるという観点からは、ブラシ押込み量は例えば0.5mm以上とすることができ、2mm以上とすることもでき、更には3mm以上とすることもできる。一方、ハニカム成形体へのダメージを抑制するという観点からは、ブラシ押込み量は3mm以下とすることができ、2mm以下とすることもでき、更には1mm以下とすることもできる。本明細書において、回転ブラシAのブラシ押し込み量は、
図7に示すように、複数のブラシ毛220が植え付けられている基体210の表面から第二対向側面102bまでの第二対向側面102bに垂直な方向への最小距離Dとブラシ毛の長さLの差を指す。
【0053】
工業的な観点からは、第一スラリー除去工程は、多数のハニカム成形体に対して連続的に実施できることが好ましい。このため、第一スラリー除去工程の好ましい実施形態においては、ハニカム成形体の第二対向側面のそれぞれに対して、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAを平行な方向に相対移動させることを含む。回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシAが柱状ハニカム成形体の第二対向側面のそれぞれに平行な方向に相対移動する方式としては、例えば、
図14に示すように、第二対向側面102bを上下に配置してセルの延びる方向に直角な方向に並べた複数のハニカム成形体100をコンベヤ400で一方向に搬送している間に、定位置にある上下二対の回転ブラシA200によって順次処理する方式が挙げられる。代替的には、第二対向側面を上下に配置してセルの延びる方向(高さ方向)に直角な方向に並べた複数の柱状ハニカム成形体を、平行移動する上下二対の回転ブラシAによって順次処理する方式が挙げられる。上下二対の回転ブラシAのうち、上側の二つの回転ブラシAはそれぞれ回転方向が異なり、下側の二つの回転ブラシAもそれぞれ回転方向が異なる。
【0054】
[3.4 フィルム剥離工程]
固化した余分な目封止用スラリーを除去した後、フィルムを前記ハニカム成形体から剥離する。フィルムの剥離方法に特に制限はなく、手作業でフィルムを引っ張って剥がして行ってもよいが、フィルム剥離装置を用いて自動的に行うことが工業的な観点から好ましい。フィルム剥離装置としては、例えば特許文献1に記載のように、把持爪を有するフィルム剥離装置を使用することができる。特許文献1の全内容を本明細書に参照により組み込む。また、特許文献2に記載のように、フィルムの底面被覆部をブラッシングすることによってフィルムを剥離することもできる。特許文献2の全内容を本明細書に参照により組み込む。
【0055】
[3.5 第二スラリー除去工程]
第一スラリー除去工程を実施することで第二対向側面102bの角部(又は端部)に近い目封止用スラリーの除去が可能となるものの、角部には依然として目封止用スラリー150の取り残しが存在し得る。また、目封止用スラリー150は僅かながら第一対向側面102aへと回り込んで残留している場合もある。そのため、回転ブラシBを用いて第二スラリー除去工程を実施し、角部の目封止用スラリー150を除去することが望ましい。
【0056】
図8には、第二スラリー除去工程で使用するのに適した回転ブラシB300の側断面構造が模式的に示されている。回転ブラシB300は、回転軸Oを中心に回転可能な基体310と、当該基体310の表面に植え付けられ、回転軸Oに対して放射状に延びる複数のブラシ毛320とを備える。一実施形態において、基体310の外形は円柱状とすることができ、その側面にブラシ毛320を植え付けることができる。一実施形態において、第二スラリー除去工程は、第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリー150に対して、回転軸Oが第二対向側面102bに平行となるように、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸Oが第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることを含む。
図9(A)には、回転ブラシBを用いて角部に残留する目封止用スラリー150を除去する様子が模式的に示されている。
図9(B)には、回転ブラシBを用いることで角部に残留する目封止用スラリー150が除去された後の状態が模式的に示されている。
【0057】
回転ブラシB300のブラシ毛320を、第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリー150に対して回転させながら接触させる際、回転軸Oが第二対向側面102bに平行となるように回転ブラシB300を配置することとしたのは、角部に残留する目封止用スラリーを効果的に除去するためである。好ましくは、回転ブラシB300を、第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリー150に対して回転させながら接触させる際、回転軸Oがセル108の延びる方向に平行となるように回転ブラシB300を配置する。
【0058】
また、回転ブラシB300のブラシ毛320を、第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリー150に対して回転させながら接触させる際、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを回転させながら接触させること、又は回転軸Oが第二対向側面に平行で回転方向が途中で逆転する一つの回転ブラシBを回転させながら接触させることとしたのも、角部に残留する目封止用スラリーを効果的に除去するためである。
【0059】
回転ブラシBは、インバータにより回転数を制御可能なモータによって駆動することが望ましい。回転ブラシBの回転数が可変であることで、ハニカム成形体及び目封止用スラリーの材質に合わせて適切な回転数に設定可能となる。一般に、回転ブラシの回転数が高くなるほど目封止用スラリーの除去効率は上昇するものの、高くなりすぎるとハニカム成形体にダメージを与える原因となるので、両者のバランスを考慮して回転数を設定することが好ましい。回転ブラシBの回転数は、例えば、200~700rpmとすることができ、典型的には300~600rpmとすることができ、より典型的には400~500rpmとすることができる。
【0060】
図8を参照すると、回転ブラシBが備えるブラシ毛の長さLは、ブラシ毛の材質及び太さなどに応じて、適宜設定すればよい。ブラシ毛の長さは短くなるほどコシが強くなって目封止用スラリーの除去効率を向上させるが、短くなりすぎるとハニカム成形体を傷つけやすくなることから、両者のバランスを考慮してブラシ毛の長さLを設定することが好ましい。目封止用スラリーの除去効率を高めるという観点からは、ブラシ毛の長さLは20mm以下とすることができ、18mm以下とすることもでき、更には16mm以下とすることもできる。一方、ハニカム成形体へのダメージを抑制するという観点からは、ブラシ毛の長さLは12mm以上とすることができ、13mm以上とすることもでき、更には14mm以上とすることもできる。
【0061】
ブラシ毛の直径(線径)は例えば0.1~0.6mmとすることができ、典型的には0.2~0.5mmとすることができ、より典型的には0.3~0.4mmとすることができる。なお、ブラシ毛の直径(線径)は、ブラシ毛の長さ方向に直交する断面の円相当径を指す。
【0062】
ブラシ毛の材質は、限定的ではないが、例えばナイロン、ポリプロピレン、塩化ビニール、ポリエステル、動物繊維(例えば、馬毛等)などを挙げることができる。これらの中でも、耐摩耗性、柔軟性に優れているため、ナイロンが好ましい。
【0063】
ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向への、回転ブラシBのブラシ毛の押込み量又はハニカム成形体の第一対向側面に垂直な方向への、回転ブラシBのブラシ毛の押込み量(ブラシ押込み量)は、多いほうが目封止用スラリーの除去効率を高めることができるが、過多になるとブラッシング圧が増加して、ハニカム成形体へのダメージリスクが増加することから、両者のバランスを考慮してブラシ押込み量を設定することが好ましい。ブラシ毛の材質、長さ及び太さにもよるが、目封止用スラリーの除去効率を高めるという観点からは、ブラシ押込み量は例えば3mm以上とすることができ、4mm以上とすることもでき、更には5mm以上とすることもできる。一方、ハニカム成形体へのダメージを抑制するという観点からは、ブラシ押込み量は20mm以下とすることができ、15mm以下とすることもでき、更には10mm以下とすることもでき、5mm以下とすることもできる。本明細書において、ハニカム成形体の第二対向側面(第一対向側面)に垂直な方向への、回転ブラシBのブラシ押し込み量は、
図8に示すように、複数のブラシ毛320が植え付けられている基体210の表面から第二対向側面102b(第一対向側面102a)までの第二対向側面102b(第一対向側面102a)に垂直な方向への最小距離Dとブラシ毛の長さLの差を指す。
【0064】
工業的な観点からは、第二スラリー除去工程は、多数のハニカム成形体に対して連続的に実施できることが好ましい。このため、第二スラリー除去工程の好ましい実施形態においては、ハニカム成形体の第一対向側面又は第二対向側面のそれぞれに対して、回転方向の異なる二つ以上の回転ブラシBを平行な方向に相対移動させることを含む。回転ブラシBが柱状ハニカム成形体の第二対向側面に平行な方向に相対移動する方式としては、例えば、
図15に示すように、第二対向側面102bを上下に配置してセルの延びる方向(高さ方向)に直角な方向に並べた複数のハニカム成形体100をコンベヤ400で一方向に搬送している間に、定位置にある上下二対の回転ブラシB300によって順次処理する方式が挙げられる。代替的には、第二対向側面を上下に配置してセルの延びる方向(高さ方向)に直角な方向に並べた複数の柱状ハニカム成形体を、平行移動する上下二対の回転ブラシBによって順次処理する方式が挙げられる。上下二対の回転ブラシBのうち、上側の二つの回転ブラシBはそれぞれ回転方向が異なり、下側の二つの回転ブラシBもそれぞれ回転方向が異なる。
【0065】
なお、第二スラリー除去工程は、第一対向側面102aを回転ブラシB300によって上下から挟むようにして実施しても同様の効果が得られる。このため、第一スラリー除去工程と第二スラリー除去工程の間の工程、例えばフィルム剥離工程において、工程の都合上、ハニカム成形体100を回転させて第二対向側面102bが左右に配置された場合でも、第二対向側面102bが上下に配置されるようにハニカム成形体を再度回転させる必要はない。
【0066】
(4.ハニカム成形体の焼成工程)
本発明の一実施形態によれば、上記目封止部形成方法を実施することで得られたハニカム成形体を焼成することを含むハニカム焼成品の製造方法が提供される。焼成条件は公知の任意の条件を採用すればよく、特に制限はない。
【0067】
焼成工程の前に脱脂工程を行ってもよい。バインダの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300~1000℃程度である。従って、脱脂工程はハニカム成形体を200~1000℃程度の範囲に加熱して実施すればよい。加熱時間は特に限定されないが、通常は、10~100時間程度である。脱脂工程を経た後のハニカム成形体は仮焼体と称される。焼成工程は、ハニカム成形体の材料組成にもよるが、例えば仮焼体を1350~1600℃に加熱して、3~10時間保持することで行うことができる。
【0068】
ハニカム焼成品のそれぞれをハニカムセグメントとして利用し、複数のハニカムセグメントの側面同士を接合材で接合して一体化し、セグメント接合体としてもよい。セグメント接合体は例えば以下のように製造することができる。各ハニカムセグメントの両底面に接合材付着防止用フィルムを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。
【0069】
次に、これらのハニカムセグメントを、ハニカムセグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するハニカムセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するハニカムセグメントの側面同士が接合材によって接合されたセグメント接合体を作製する。セグメント接合体に対しては、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周面にコーティング材を塗工した後、加熱乾燥させて外周壁を形成してもよい。
【0070】
接合材付着防止用フィルムの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、フィルムは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。
【0071】
接合材付着防止用フィルムとしては、例えば厚みが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0072】
接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカム構造体と同材質であることがより好ましい。バインダとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロースなどを挙げることができる。
【実施例0073】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0074】
<試験番号No.1>
縦37mm×横37mm×高さ154mmの直方体状で、各セルが高さ方向に延び、セル密度が46.5個/cm
2であるSiC製の未焼成のハニカム成形体100を用意した。この未焼成のハニカム成形体100の一方の底面全体及び一対の対向する上下側面(第一対向側面102a)の一部を覆うように、縦70mm×横39mmの長方形状の透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)製のフィルム120(厚さ36μm)の粘着面を
図13に示すように貼り付けた。すなわち、フィルム120は、一方の底面の外周形状を画定する四角形の一方の対辺に沿った左右一対の外縁部122、及び、該四角形の他方の対辺からはみ出す上下一対のはみ出し部124と有するように貼り付けた。フィルム120の貼り付け条件は、上側はみ出し長さ26mm、下側はみ出し長さ7mm、折り返し長さ10mmとした。フィルム120は、左右方向にも僅かにはみ出すマージン部125を有しており、左側はみ出し長さ1mm、右側はみ出し長さ1mmであった。
【0075】
フィルム120の、目封止部が配設されるべきセルを覆っている部分に、画像処理を利用したレーザ加工によって孔を開けた後、マスクが貼り付けられた底面部をSiC粉及び金属Si粉を含有する目封止用スラリーに浸漬し、孔からセルの端部に目封止用スラリーを充填した。次に、目封止用スラリーを圧入したハニカム構造体を150℃で0.4時間乾燥し、目封止用スラリーを固化した。
【0076】
その後、上下一対のはみ出し部124が貼り付けられていない第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリーを除去した。具体的には、目封止用スラリーの除去には、
図7に示すような、回転軸Oを中心に回転可能な円板状の基体210と、当該基体210の板面に植え付けられ、回転軸Oの方向に平行(回転軸Oの方向と複数のブラシ毛220の延びる方向のなす角度=10°)に延びる複数のブラシ毛220とを備える回転ブラシA200を用意した。回転ブラシA200の仕様は、円板状基体の直径=90mm、ブラシ毛長さ=20mm、ブラシ毛の線径=0.3mm、ブラシ毛の材質=ナイロン6,6であった。
【0077】
そして、回転ブラシA200の回転軸Oが第二対向側面102bに垂直となるようにして、一方向に回転させながら第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリーに対して回転ブラシA200のブラシ毛220を接触させることで、目封止用スラリーを除去した。このときの回転ブラシA200の操作条件は以下である。
<回転ブラシAの操作条件>
・回転数=700rpm
・ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量=1mm
・ブラッシング時間=5sec
【0078】
目封止用スラリーを除去した後の第二対向側面のそれぞれを目視で観察した。その結果、第二対向側面のそれぞれにおいて、目封止用スラリーが角部付近に残留していることが分かった。残留した目封止用スラリーのセルの延びる方向に直交する方向の長さは、最も長いもので10mm程度であった。また、目封止用スラリーを除去した後の第二対向側面をそれぞれ目視で観察し、ハニカム成形体へのダメージについて確認したが、凹みは見られなかった。
【0079】
<試験番号No.2>
試験番号No.1と同じ条件で、未焼成のハニカム成形体100の用意、フィルム120の貼り付け、目封止用スラリーの充填、及び目封止用スラリーの固化を行った。その後、上下一対のはみ出し部が貼り付けられていない第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリーを除去した。具体的な除去方法は以下である。
【0080】
試験番号No.1と同じ回転ブラシA200を用意して、回転ブラシA200の回転軸Oが第二対向側面102bに垂直となるようにして、一方向に回転させながら第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリーに対して回転ブラシA200のブラシ毛220を接触させることで、目封止用スラリーを除去した。このときの回転ブラシA200の操作条件は以下である。
<回転ブラシAの操作条件>
・回転数=700rpm
・ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量=1mm
・ブラッシング時間=5sec
【0081】
更に、回転ブラシA200の回転軸Oが第二対向側面102bに垂直となるようにして、先ほどとは逆方向に回転させながら第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリーに対して回転ブラシA200のブラシ毛220を接触させることで、目封止用スラリーを除去した。このときの回転ブラシA200の操作条件は以下である。
<回転ブラシAの操作条件>
・回転数=700rpm
・ハニカム成形体の第二対向側面に垂直な方向へのブラシ押込み量=1mm
・ブラッシング時間=5sec
【0082】
目封止用スラリーを除去した後の第二対向側面のそれぞれを目視で観察した。その結果、試験番号No.1に比べて角部付近に残留する目封止用スラリーが有意に狭小化したことが確認された。具体的には、残留した目封止用スラリーのセルの延びる方向に直交する方向の長さは最も長いもので2mm程度まで減少した。また、目封止用スラリーを除去した後の第二対向側面をそれぞれ目視で観察し、ハニカム成形体へのダメージについて確認したが、凹みは見られなかった。
【0083】
<試験番号No.3~8>
試験番号No.2と同じ条件で、未焼成のハニカム成形体100の用意、フィルム120の貼り付け、目封止用スラリーの充填、目封止用スラリーの固化、及び目封止用スラリーの除去を行った。次いで、ハニカム成形体100に貼り付いているフィルム120を剥がした。
【0084】
その後、第二対向側面102bのそれぞれの角部付近に残留している目封止用スラリーを除去した。具体的には、目封止用スラリーの除去には、
図8に示すような、回転軸Oを中心に回転可能な円柱状の基体310と、当該基体310の側面に植え付けられ、回転軸Oに対して放射状に延びる複数のブラシ毛320とを備える回転ブラシB300を用意した。回転ブラシB300の仕様は、表1に示すように、試験番号に応じて変化させた。但し、何れの試験番号においてもブラシ毛の材質はナイロン6,6とした。
【0085】
そして、回転ブラシB300の回転軸Oが第二対向側面102bに平行で、セルの延びる方向に平行となるようにして、一方向に回転(表1中の「順回転」)させながら第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリーに対して回転ブラシB300のブラシ毛320を接触させた。次に、回転ブラシB300の回転軸Oが第二対向側面102bに平行で、セルの延びる方向に平行となるようにして、先ほどとは逆方向に回転(表1中の「逆回転」)させながら第二対向側面102bのそれぞれに付着している目封止用スラリーに対して回転ブラシB300のブラシ毛320を接触させた(試験番号8を除く)。回転ブラシB300の操作条件は表1に示す。
【0086】
目封止用スラリーを除去した後の第二対向側面をそれぞれ目視で観察し、残留した目封止用スラリー(第一対向側面への回り込んだ目封止用スラリーの残留有無を含む)及びハニカム成形体へのダメージについて以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
<残留スラリー>
A:残留した目封止用スラリーのセルの延びる方向に直交する方向の長さが最も長いもので1mm以上
B:残留した目封止用スラリーのセルの延びる方向に直交する方向の長さが最も長いもので0.5mm以上1mm未満
C:残留した目封止用スラリーのセルの延びる方向に直交する方向の長さが最も長いもので0.5mm未満
<ハニカム成形体へのダメージ>
A:基材の凹み量が0.5mm以上
B:凹み量が0.5mm未満
C:凹みなし
【0087】