(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153127
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】加工物の製造方法、加工物の加工方法、及び加工条件導出装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20221004BHJP
【FI】
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056207
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 和晃
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DE12
5B146DJ01
(57)【要約】
【課題】加工物の実加工に用いる加工条件を短時間で適切に決定する。
【解決手段】加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証するステップと、CAEの妥当性が検証された状態で、CAEにおいて、実験計画法を用いて、加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定するステップと、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出するステップと、加工条件を用いて実加工を実施し加工条件の適切性を確認するステップと、適切性が確認された加工条件を用いて加工物を製造するステップとを含む、加工物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証するステップと、
前記CAEの妥当性が検証された状態で、当該CAEにおいて、実験計画法を用いて、前記加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定するステップと、
前記有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出するステップと、
前記加工条件を用いて前記実加工を実施し当該加工条件の適切性を確認するステップと、
前記適切性が確認された前記加工条件を用いて前記加工物を製造するステップと
を含む、加工物の製造方法。
【請求項2】
前記検証するステップでは、前記複数の因子の因子ごとに当該因子の複数の水準から1つの水準を選択した全ての加工条件のうちの第1の加工条件を特定し、当該第1の加工条件を用いた前記実加工の結果に対する、当該第1の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果の前記妥当性を検証する、請求項1に記載の加工物の製造方法。
【請求項3】
前記決定するステップでは、前記複数の因子の因子ごとに当該因子の複数の水準の一部から1つの水準を選択した第2の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果に基づいて、前記有意な因子を決定する、請求項2に記載の加工物の製造方法。
【請求項4】
前記決定するステップでは、前記検証するステップでの前記第1の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果に更に基づいて、前記有意な因子を決定する、請求項3に記載の加工物の製造方法。
【請求項5】
前記導出するステップでは、前記検証するステップでの前記第1の加工条件を用いた前記実加工の結果と前記CAEによるシミュレーションの結果との関係に基づいて、前記有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択する、請求項2に記載の加工物の製造方法。
【請求項6】
前記決定するステップでは、前記有意な因子として、少なくとも2つの因子を決定し、
前記導出するステップでは、前記CAEにおいて、実験計画法を用いて、前記少なくとも2つの因子間の相互作用の有無を決定し、当該相互作用の有無を用いて、当該少なくとも2つの因子の因子ごとに、当該因子の複数の水準から1つの水準を選択した前記加工条件を導出する、請求項1に記載の加工物の製造方法。
【請求項7】
前記検証するステップでは、前記複数の因子の因子ごとに当該因子の複数の水準から1つの水準を選択した全ての加工条件のうちの第1の加工条件を特定し、当該第1の加工条件を用いた前記実加工の結果に対する、当該第1の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果の前記妥当性を検証する、請求項6に記載の加工物の製造方法。
【請求項8】
前記決定するステップでは、前記複数の因子の因子ごとに当該因子の複数の水準の一部から1つの水準を選択した第2の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果に基づいて、前記有意な因子を決定する、請求項7に記載の加工物の製造方法。
【請求項9】
前記導出するステップでは、前記少なくとも2つの因子の因子ごとに当該因子の複数の水準の全部から1つの因子を選択した第3の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果に基づいて、前記相互作用の有無を決定する、請求項8に記載の加工物の製造方法。
【請求項10】
前記導出するステップでは、前記検証するステップでの前記第1の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果と、前記有意な因子を決定する際の前記第2の加工条件を用いた前記CAEによるシミュレーションの結果とに更に基づいて、前記相互作用の有無を決定する、請求項9に記載の加工物の製造方法。
【請求項11】
前記導出するステップでは、前記検証するステップでの前記第1の加工条件を用いた前記実加工の結果と前記CAEによるシミュレーションの結果との関係に基づいて、前記少なくとも2つの因子ごとに、当該因子の複数の水準から1つの水準を選択する、請求項7に記載の加工物の製造方法。
【請求項12】
加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証するステップと、
前記CAEの妥当性が検証された状態で、当該CAEにおいて、実験計画法を用いて、前記加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定するステップと、
前記有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出するステップと、
前記加工条件を用いて前記実加工を実施し当該加工条件の適切性を確認するステップと
を含む、加工物の加工方法。
【請求項13】
加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証する検証手段と、
前記CAEの妥当性が検証された状態で、当該CAEにおいて、実験計画法を用いて、前記加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定する決定手段と、
前記有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出する導出手段と
を備える、加工条件導出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工物の製造方法、加工物の加工方法、及び加工条件導出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、製品の所定の物理的特性の解析を行う特性解析方法が記載されている。この特性解析方法は、製品の試作品の実測によって得られた属性値を含むパラメータに基づいてその製品の物理的特性を解析する数値シミュレーションを行うステップを含み、そのパラメータには、属性値以外に、試作品の所定の実験結果とその実験の数値シミュレーション結果とを比較した結果によって修正された所定のパラメータが含まれる。
【0003】
特許文献2には、プレス成形品の駆動応力分布を取得するステップと、スプリングバック解析の駆動応力分布を取得するステップと、解析駆動応力分布と成形品駆動応力分布の応力差分分布を下死点の成形品形状に設定するステップと、応力差分分布によるスプリングバック量を取得するステップと、応力差分分布の一部の領域の値を変更してスプリングバック量を取得するステップと、取得したスプリングバック量を比較して、スプリングバック量に乖離が生ずる要因となる部位を特定するステップとを備える、スプリングバック量乖離要因部位特定方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、実測定対象物の表面に位置する測定点を含む1以上の点である実解析点の位置を三次元測定器で測定する工程と、実測定対象物に対して負荷を加えた際の実測定点における所定のパラメータの測定値である実測定値を測定する工程と、測定対象物のCADデータに対して、実解析点に相当する位置に仮想解析点を設定する工程と、CADデータを元に、仮想解析点にメッシュの節点が位置するようにメッシュモデルデータを作成する工程と、メッシュモデルに対して仮想的に負荷を加えた場合の仮想測定点における所定のパラメータの値である仮想測定値を解析アルゴリズムに基づいて算出する工程と、を有し、得られた実測定値と仮想測定値とに基づいて解析アルゴリズムを検証する、CAEの解析アルゴリズム検証方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-171144号公報
【特許文献2】特開2020-179409号公報
【特許文献3】特開2005-182529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加工物の実加工に用いる加工条件は、一般に、技術者の経験、勘、コツ、過去事例等により決定されている。しかしながら、このような決定方法では、試作や見積で必要な加工条件を設定する際に確証が得られず、短時間で加工条件を決定することは困難である。また、加工条件に技術的な裏付けがないので、加工条件を適切に決定することも困難である。
【0007】
本発明の目的は、加工物の実加工に用いる加工条件を短時間で適切に決定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明は、加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証するステップと、CAEの妥当性が検証された状態で、CAEにおいて、実験計画法を用いて、加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定するステップと、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出するステップと、加工条件を用いて実加工を実施し加工条件の適切性を確認するステップと、適切性が確認された加工条件を用いて加工物を製造するステップとを含む、加工物の製造方法を提供する。
【0009】
検証するステップでは、複数の因子の因子ごとに因子の複数の水準から1つの水準を選択した全ての加工条件のうちの第1の加工条件を特定し、第1の加工条件を用いた実加工の結果に対する、第1の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果の妥当性を検証してよい。
【0010】
その場合、決定するステップでは、複数の因子の因子ごとに因子の複数の水準の一部から1つの水準を選択した第2の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果に基づいて、有意な因子を決定してよい。また、決定するステップでは、検証するステップでの第1の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果に更に基づいて、有意な因子を決定してよい。
【0011】
その場合、導出するステップでは、検証するステップでの第1の加工条件を用いた実加工の結果とCAEによるシミュレーションの結果との関係に基づいて、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択してよい。
【0012】
また、本発明は、決定するステップでは、有意な因子として、少なくとも2つの因子を決定し、導出するステップでは、CAEにおいて、実験計画法を用いて、少なくとも2つの因子間の相互作用の有無を決定し、相互作用の有無を用いて、少なくとも2つの因子の因子ごとに、因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出する、加工物の製造方法も提供する。
【0013】
検証するステップでは、複数の因子の因子ごとに因子の複数の水準から1つの水準を選択した全ての加工条件のうちの第1の加工条件を特定し、第1の加工条件を用いた実加工の結果に対する、第1の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果の妥当性を検証してよい。
【0014】
その場合、決定するステップでは、複数の因子の因子ごとに因子の複数の水準の一部から1つの水準を選択した第2の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果に基づいて、有意な因子を決定してよい。また、導出するステップでは、少なくとも2つの因子の因子ごとに因子の複数の水準の全部から1つの因子を選択した第3の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果に基づいて、相互作用の有無を決定してよい。更に、導出するステップでは、検証するステップでの第1の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果と、有意な因子を決定する際の第2の加工条件を用いたCAEによるシミュレーションの結果とに更に基づいて、相互作用の有無を決定してよい。
【0015】
その場合、導出するステップでは、検証するステップでの第1の加工条件を用いた実加工の結果とCAEによるシミュレーションの結果との関係に基づいて、少なくとも2つの因子ごとに、因子の複数の水準から1つの水準を選択してよい。
【0016】
更に、本発明は、加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証するステップと、CAEの妥当性が検証された状態で、CAEにおいて、実験計画法を用いて、加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定するステップと、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出するステップと、加工条件を用いて実加工を実施し加工条件の適切性を確認するステップとを含む、加工物の加工方法も提供する。
【0017】
更にまた、本発明は、加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証する検証手段と、CAEの妥当性が検証された状態で、CAEにおいて、実験計画法を用いて、加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定する決定手段と、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出する導出手段とを備える、加工条件導出装置も提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加工物の実加工に用いる加工条件を短時間で適切に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態における加工条件検証方法の流れを示したフローチャートである。
【
図2】ステップ1での実加工による実測結果を示した図である。
【
図3】ステップ1でのCAEによる解析結果を示した図である。
【
図4-1】(a)は切削速度の値を動かしたときの主分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は主分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図4-2】(a)は切削速度の値を動かしたときの送分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は送分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図4-3】(a)は切削速度の値を動かしたときの加工効率の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は加工効率の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図4-4】(a)は切削速度の値を動かしたときの表面粗さの実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は表面粗さの実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図5-1】(a)は切込量の値を動かしたときの主分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は主分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図5-2】(a)は切込量の値を動かしたときの送分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は送分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図5-3】(a)は切込量の値を動かしたときの加工効率の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は加工効率の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図5-4】(a)は切込量の値を動かしたときの表面粗さの実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は表面粗さの実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図6-1】(a)は送りの値を動かしたときの主分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は主分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図6-2】(a)は送りの値を動かしたときの送分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は送分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図6-3】(a)は送りの値を動かしたときの加工効率の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は加工効率の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図6-4】(a)は送りの値を動かしたときの表面粗さの実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、(b)は表面粗さの実測値及び解析値の関係を示したグラフである。
【
図7】ステップ2及びステップ3で用いる直交表を示した図である。
【
図8】ステップ2でのCAEによる解析結果を示した図である。
【
図9-1】(a),(b)は、ステップ2でのCAEによる解析結果に基づき、主分力について有意な因子を決定する方法を示した図である。
【
図9-2】(a)~(c)は、ステップ2でのCAEによる解析結果に基づき、送分力について有意な因子を決定する方法を示した図である。
【
図9-3】ステップ2でのCAEによる解析結果に基づき、加工効率について有意な因子を決定する方法を示した図である。
【
図9-4】ステップ2でのCAEによる解析結果に基づき、表面粗さについて有意な因子を決定する方法を示した図である。
【
図11】ステップ3でのCAEによる解析結果を示した図である。
【
図12-1】(a),(b)は、ステップ3でのCAEによる解析結果に基づき、主分力について有意な因子間の相互作用の有無を決定する方法を示した図である。
【
図12-2】(a)~(c)は、ステップ3でのCAEによる解析結果に基づき、送分力について有意な因子間の相互作用の有無を決定する方法を示した図である。
【
図12-3】(a),(b)は、ステップ3でのCAEによる解析結果に基づき、加工効率について有意な因子間の相互作用の有無を決定する方法を示した図である。
【
図12-4】ステップ3でのCAEによる解析結果に基づき、表面粗さについて有意な因子間の相互作用の有無を決定する方法を示した図である。
【
図14】各因子の最適加工条件の決定方法について評価項目ごとに示した図である。
【
図15】本発明の実施の形態における加工条件導出装置の機能構成例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
[加工条件検証方法の概要]
図1は、本実施の形態における加工条件検証方法の流れを示したフローチャートである。
【0022】
図示するように、本実施の形態における加工条件検証方法では、まず、加工物の実加工に対するCAEの妥当性が検証される(ステップ1)。次に、CAEの妥当性が検証された状態で、CAEにおいて、実験計画法を用いて、加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子が決定される(ステップ2)。次に、CAEにおいて、実験計画法を用いて、有意な因子間の相互作用の有無が決定され、有意な因子及び有意な因子間の相互作用の有無を用いて、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件が導出される(ステップ3)。最後に、加工条件を用いて実加工が実施され、加工条件の適切性が確認される(ステップ4)。
【0023】
以下、各ステップについて詳細に説明する。尚、ここでは、加工物の加工における複数の因子として、切削速度V[m/min]、切込量ap[mm]、送りF[mm/rev]を例にとって説明する。また、加工物の加工における評価項目としては、7つの評価項目を用いる。この7つの評価項目は、加工負荷に関し、主分力[N]、背分力[N]、送分力[N]を、サイクルタイムに関し、加工効率[mm3/sec]を、製品品質に関し、表面粗さ[μm]、製品曲がり[μm]を、工具寿命に関し、工具温度[℃]を含む。
【0024】
[ステップ1の内容]
ステップ1は、前述の通り、加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証するステップである。具体的には、ステップ1では、実機を用いた実加工と、CAEを用いた解析とを行い、実加工による実測結果とCAEによる解析結果との関係を評価することによって、実加工とCAEとを紐付ける。尚、実加工とCAEとの紐付けは、必ずしも実加工による実測結果とCAEによる解析結果とが一致する状態で行われる必要はない。例えば、実加工による実測結果が常にCAEによる解析結果の何倍かになっている等、実加工による実測結果とCAEによる解析結果との間で何らかの関係が維持された状態で行われればよい。
【0025】
図2は、ステップ1での実加工による実測結果を示した図である。
【0026】
図2では、切削速度V、切込量ap、送りFの各因子の基準の水準をそれぞれ120、0.175、0.175とし、これよりも小さい水準及び大きい水準を設定している。具体的には、切削速度Vについては、小さい水準を80とし、大きい水準を160とし、例外的に追加した極小の水準を40としている。切込量apについては、小さい水準を0.07とし、大きい水準を0.35としている。送りFについては、小さい水準を0.07とし、大きい水準を0.42としている。そして、切削速度V、切込量ap、送りFの各因子について複数の水準から1つの水準を選択することにより、条件1~条件8を構成している。ここで、条件1~条件8は、複数の因子の因子ごとに因子の複数の水準から1つの水準を選択した全ての加工条件のうちの第1の加工条件の一例である。
【0027】
また、
図2では、主分力、背分力、送分力、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目について、2つの実測値を求めており、これらをそれぞれ種別n1、n2の行に示し、これらの平均値を種別aveの行に示している。加工効率については、1つの実測値を求めており、これを種別n1,n2,aveに跨って示している。
【0028】
図3は、ステップ1でのCAEによる解析結果を示した図である。
【0029】
条件1~条件8については、
図2を参照して述べたものと同じなので、説明を省略する
図3では、主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目について、1つの解析値を求めており、これらをそれぞれ種別aveの行に示している。
【0030】
図4-1~
図4-4、
図5-1~
図5-4、
図6-1~
図6-4は、実加工による実測結果とCAEによる解析結果との関係を評価するためのグラフである。尚、本実施の形態では、7つの評価項目を用いるが、ここでは、主分力、送分力、加工効率、表面粗さについてのみ示している。背分力、製品曲がり、工具温度については、図示を省略している。
【0031】
各図の(a)は、因子の値を動かしたときの評価項目の実測値の変化を示す実測値グラフと、因子の値を動かしたときの評価項目の解析値の変化を示す解析値グラフとを含む。実測値グラフは、
図2でその因子以外の他の因子の水準を基準の水準に固定してその因子の水準を変化させたときの評価項目の実測値を示す点をプロットし、各点を直線で結んだものであり、実線で示している。解析値グラフは、
図3でその因子以外の他の因子の水準を基準の水準に固定してその因子の水準を変化させたときの評価項目の解析値を示す点をプロットし、各点を直線で結んだものであり、破線で示している。
【0032】
また、各図の(b)は、因子の各水準について(a)の実測値グラフにおける実測値及び解析値グラフにおける解析値の組み合わせに対応する点をプロットし、これらの点の回帰直線を引いたものである。(b)には、この回帰直線の式、及び、回帰直線のあてはまりの良さを示す決定係数R2も示している。また、(b)には、実測値と解析値との関係の評価内容を示す記号も示している。記号◎は、決定係数R2に関し「R2>0.7」が成り立つという条件、はずれデータがないという条件、マイナスの相関でない(回帰直線の式y=ax+bのaがマイナスでない)という条件の全てが満たされている場合を表す。記号○は、因子の値を動かしても点が変化せずに安定している場合を表す。この場合、相関はないが、記号○の評価として扱うことにする。記号△は、値が微小すぎて変化が埋もれている場合又はよく分からない場合を表す。記号×は、記号◎及び記号○の条件を1つでも満たさない場合を表す。
【0033】
図4-1(a)は、切削速度Vの値を動かしたときの主分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図4-1(b)は、主分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.7807>0.7であり、はずれデータもないが、マイナスの相関なので、記号◎は付されていない。一方で、切削速度Vの値を動かしても
図4-1(b)の点は変化せずに安定しているので、記号○が付されている。
【0034】
また、切削速度Vの値を動かしたときの背分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図4-1(a)に似たグラフとなり、背分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図4-1(b)に似たグラフとなる。従って、背分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図4-1(b)と同様に、記号○が付される。
【0035】
図4-2(a)は、切削速度Vの値を動かしたときの送分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図4-2(b)は、送分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.9034>0.7であり、はずれデータもないが、マイナスの相関なので、記号◎は付されていない。一方で、切削速度Vの値を動かしても
図4-2(b)の点は変化せずに安定しているので、記号○が付されている。加えて、値が微小すぎて変化が埋もれている場合又はよく分からない場合に該当するので、記号△も付されている。
【0036】
図4-3(a)は、切削速度Vの値を動かしたときの加工効率の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図4-3(b)は、加工効率の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.9702>0.7であり、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないので、記号◎が付されている。
【0037】
図4-4(a)は、切削速度Vの値を動かしたときの表面粗さの実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図4-4(b)は、表面粗さの実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないが、R
2が求まらず、R
2>0.7とはならないので、記号◎は付されていない。一方で、切削速度Vの値を動かしても
図4-4(b)の点は変化せずに安定しているので、記号○が付されている。
【0038】
また、切削速度Vの値を動かしたときの製品曲がりの実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図4-1(a)に似たグラフとなり、製品曲がりの実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図4-1(b)に似たグラフとなる。従って、製品曲がりの実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図4-1(b)と同様に、記号○が付される。
【0039】
更に、切削速度Vの値を動かしたときの工具温度の実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図4-3(a)に似たグラフとなり、工具温度の実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図4-3(b)に似たグラフとなる。従って、工具温度の実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図4-3(b)と同様に、記号◎が付される。
【0040】
図5-1(a)は、切込量apの値を動かしたときの主分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図5-1(b)は、主分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.9981>0.7であり、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないので、記号◎が付されている。
【0041】
また、切込量apの値を動かしたときの背分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図5-1(a)に似たグラフとなり、背分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図5-1(b)に似たグラフとなる。従って、背分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図5-1(b)と同様に、記号◎が付される。
【0042】
図5-2(a)は、切込量apの値を動かしたときの送分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図5-2(b)は、送分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.9714>0.7であり、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないので、記号◎が付されている。
【0043】
図5-3(a)は、切込量apの値を動かしたときの加工効率の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図5-3(b)は、加工効率の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=1>0.7であり、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないので、記号◎が付されている。
【0044】
図5-4(a)は、切込量apの値を動かしたときの表面粗さの実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図5-4(b)は、表面粗さの実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないが、R
2=0で、R
2>0.7とはならないので、記号◎は付されていない。一方で切込量apの値を動かしても
図5-4(b)の点は変化せずに安定しているので、記号○が付されている。
【0045】
また、切込量apの値を動かしたときの製品曲がりの実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図5-1(a)に似たグラフとなり、製品曲がりの実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図5-1(b)に似たグラフとなる。従って、製品曲がりの実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図5-1(b)と同様に、記号◎が付される。
【0046】
更に、切込量apの値を動かしたときの工具温度の実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図5-3(a)に似たグラフとなり、工具温度の実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図5-3(b)に似たグラフとなる。従って、工具温度の実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図5-3(b)と同様に、記号◎が付される。
【0047】
図6-1(a)は、送りFの値を動かしたときの主分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図6-1(b)は、主分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.9965>0.7であり、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないので、記号◎が付されている。
【0048】
また、送りFの値を動かしたときの背分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図6-1(a)に似たグラフとなり、背分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図6-1(b)に似たグラフとなる。従って、背分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図6-1(b)と同様に、記号◎が付される。
【0049】
図6-2(a)は、送りFの値を動かしたときの送分力の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図6-2(b)は、送分力の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないが、R
2=0.2477で、R
2>0.7とはならないので、記号◎は付されていない。一方で、送りFの値を動かしても
図6-2(b)の点は変化せずに安定しているので、記号○が付されている。加えて、値が微小すぎて変化が埋もれている場合又はよく分からない場合に該当するので、記号△も付されている。
【0050】
図6-3(a)は、送りFの値を動かしたときの加工効率の実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図6-3(b)は、加工効率の実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.9568>0.7であり、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないので、記号◎が付されている。
【0051】
図6-4(a)は、送りFの値を動かしたときの表面粗さの実測値及び解析値の変化を示すグラフであり、
図6-4(b)は、表面粗さの実測値及び解析値の関係を示したグラフである。この場合、R
2=0.9967>0.7であり、はずれデータもなく、マイナスの相関でもないので、記号◎が付されている。
【0052】
また、送りFの値を動かしたときの製品曲がりの実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図6-1(a)に似たグラフとなり、製品曲がりの実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図6-1(b)に似たグラフとなる。従って、製品曲がりの実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図6-1(b)と同様に、記号◎が付される。
【0053】
更に、送りFの値を動かしたときの工具温度の実測値及び解析値の変化を示すグラフは、図示を省略するが、
図6-3(a)に似たグラフとなり、工具温度の実測値及び解析値の関係を示したグラフは、図示を省略するが、
図6-3(b)に似たグラフとなる。従って、工具温度の実測値及び解析値の関係を示したグラフには、
図6-3(b)と同様に、記号◎が付される。
【0054】
[ステップ2の内容]
ステップ2は、前述の通り、CAEの妥当性が検証された状態で、CAEにおいて、実験計画法を用いて、加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定するステップである。
【0055】
図7は、ステップ2で用いる直交表を示した図である。直交表とは、複数の因子のそれぞれに複数の水準を割り当てた表である。本実施の形態では、複数の因子として、切削速度V、切込量ap、送りFを例にとっているので、これらを直交表の行に設定している。そして、各因子に対して、小さい水準(以下、「小の水準」という)と、大きい水準(以下、「大の水準」という)と、その中間の水準(以下、「中の水準」という)とを割り当てている。具体的には、切削速度Vに対しては、小の水準として80を、大の水準として160を、中の水準として120を、それぞれ割り当てている。切込量apに対しては、小の水準として0.07を、大の水準として0.35を、中の水準として0.175を、それぞれ割り当てている。送りFに対しては、小の水準として0.07を、大の水準として0.42を、中の水準として0.175を、それぞれ割り当てている。
【0056】
図8は、ステップ2でのCAEによる解析結果を示した図である。
【0057】
図8では、切削速度V、切込量ap、送りFの各因子の小の水準及び中の水準の何れかを選択することにより、条件を構成している。具体的には、切削速度Vについては、小の水準80及び中の水準120の何れかを選択している。切込量apについては、小の水準0.07及び中の水準0.175の何れかを選択している。送りFについては、小の水準0.07及び中の水準0.175の何れかを選択している。
【0058】
ところで、ステップ2で新たに構成される条件は、図中太枠で囲んだ条件9~条件12のみである。条件1、条件3、条件5、条件7は、ステップ1で既に構成されている。従って、条件1、条件3、条件5、条件7に対する主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目の解析値は、
図3に示したものを用いればよい。即ち、条件9~条件12に対する主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目の解析値のみを
図8に設定すればよい。ここで、条件1、条件3、条件5、条件7は、ステップ1で述べた第1の加工条件の一例である。また、条件9~条件12は、複数の因子の因子ごとに因子の複数の水準の一部から1つの水準を選択した第2の加工条件の一例である。
【0059】
或いは、条件1、条件3、条件5、条件7に対する主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目の解析値は、
図3に示したものを用いなくてもよい。この場合は、条件1、条件3、条件5、条件7、条件9~条件12が、複数の因子の因子ごとに因子の複数の水準の一部から1つの水準を選択した第2の加工条件の一例となる。
【0060】
図9-1~
図9-4は、ステップ2でのCAEによる解析結果に基づいて評価項目ごとに有意な因子を決定する方法を示した図である。尚、本実施の形態では、7つの評価項目を用いるが、ここでも、主分力、送分力、加工効率、表面粗さについてのみ示している。背分力、製品曲がり、工具温度については、図示を省略している。
【0061】
各図の(a)(存在しない場合はその図全体)は、3つの因子から有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。各図の(b)(存在する場合)は、(a)で残った2つの因子から有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。各図の(c)(存在する場合)は、(b)で残った1つの因子が有意であるかどうかを検証するための分散分析の結果を示した図である。
【0062】
尚、図中、「**」は1%有意を示す。1%有意とは、P値を%表記にして1%以内になっていることである。また、「*」は5%有意を示す。5%有意とは、P値を%表記にして5%以内になっていることである。以下では、P値が5%以下であれば有意であると判断してよいので、1%有意と5%有意の両方を「有意」と判断するものとする。
【0063】
図9-1(a)は、評価項目として主分力を用いた場合に切削速度V、切込量ap、送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切削速度Vが、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が最大なので、除外される。
【0064】
図9-1(b)は、
図9-1(a)で切削速度Vを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量ap及び送りFのP値(上側確率)が
図9-1(a)よりも上昇していないので、切削速度Vを除外した状態で評価される。そして、切込量ap及び送りFの何れも、その検定結果が有意なので、除外されない。従って、切込量ap及び送りFが有意な因子となる。
【0065】
また、評価項目として背分力を用いた場合に切削速度V、切込量ap、送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果は、図示しないが、
図9-1(a),(b)と似た傾向となる。即ち、切削速度Vは除外され、切込量ap及び送りFは除外されない。従って、切込量ap及び送りFが有意な因子となる。
【0066】
図9-2(a)は、評価項目として送分力を用いた場合に切削速度V、切込量ap、送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切削速度Vが、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が最大なので、除外される。
【0067】
図9-2(b)は、
図9-2(a)で切削速度Vを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量ap及び送りFのP値(上側確率)が
図9-2(a)よりも上昇していないので、切削速度Vを除外した状態で評価される。そして、送りFが、その検定結果が有意でないので、除外される。
【0068】
図9-2(c)は、
図9-2(b)で送りFを除外した後の切込量apが有意な因子であるかどうかを検証するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量apのP値(上側確率)が
図9-2(b)よりも上昇していないので、送りFを除外した状態で評価される。そして、切込量apは、その検定結果が有意となっている。従って、切込量apが有意な因子となる。
【0069】
図9-3は、評価項目として加工効率を用いた場合に切削速度V、切込量ap、送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切削速度Vが、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が最大なので、除外される。
【0070】
次に、
図9-3で切削速度Vを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析を行う。しかしながら、ここでは、切込量ap及び送りFのP値(上側確率)が
図9-3よりも上昇し、無効な検定となる。従って、1つ前の状態である
図9-3に戻って評価を行うことで、切込量ap及び送りFが有意な因子となる。
【0071】
図9-4は、評価項目として表面粗さを用いた場合に切削速度V、切込量ap、送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切削速度V、切込量ap、送りFの何れも、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が100となるため、除外されない。これはP値(上側確率)を理論式で算出しているためである。実際には、表面粗さは、切削速度V及び切込量apには依存せず、送りFの2乗に比例する式で求められる。従って、影響があるのは送りFのみであり、切削速度V及び切込量apは任意に決めてよいことになる。
【0072】
また、評価項目として製品曲がりを用いた場合に切削速度V、切込量ap、送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果は、図示しないが、
図9-1(a),(b)と似た傾向となる。即ち、切削速度Vは除外され、切込量ap及び送りFは除外されない。従って、切込量ap及び送りFが有意な因子となる。
【0073】
更に、評価項目として工具温度を用いた場合に切削速度V、切込量ap、送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析では、図示しないが、切削速度V、切込量ap、送りFの検定結果がそれぞれ、1%有意、5%有意、5%有意となる。また、切込量apのP値(上側確率)が最大となるが、切削速度V、切込量ap、送りFの全てが有意となっているため、切込量apは除外されない。従って、切削速度V、切込量ap、送りFの全てが有意な因子となる。
【0074】
尚、上記では、各因子のP値を用いて評価するものとしたが、各因子の影響率又は影響なし率を用いて評価しても同様の結果となる。ここで、ある因子の影響率とは、その因子のP値(上側確率)を全ての因子のP値(上側確率)の合計から減じた値の、全ての因子のP値(上側確率)の合計に対する比率のことである。また、その因子の影響なし率とは、その因子のP値(上側確率)の、全ての因子のP値(上側確率)の合計に対する比率のことである。
【0075】
図10は、
図9-1~
図9-4の結果をまとめた図である。図中、「○」は有意となったことを示し、「×」は有意とならなかったことを示す。
【0076】
ここでは、切込量ap及び送りFが殆どの評価項目で有意となっているので、切込量ap及び送りFについて、次のステップ3で相互作用の有無が確認されることになる。
【0077】
一方、切削速度Vは、主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がりの各評価項目で有意とならなかったので、これらの評価項目に関しては、如何なる値を設定してもよいことになる。但し、ステップ1の結果より、加工効率を大きくするためには切削速度Vを大きくすべきであり、主分力、背分力、送分力、表面粗さ、製品曲がりを小さくするための切削速度Vの影響は不明であり、工具温度を低くするためには切削速度Vを小さくすべきである。加工効率を考えると、切削速度Vを大きくするのが有利であるが、工具温度を考えると、切削速度Vを小さくするのが有利であるため、次のステップ3では間を取って切削速度Vを120とする。
【0078】
[ステップ3の内容]
ステップ3は、前述の通り、CAEにおいて、実験計画法を用いて、有意な因子間の相互作用の有無を決定し、有意な因子及び有意な因子間の相互作用の有無を用いて、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出するステップである。ステップ3でも、
図7に示した直交表を用いる。尚、ステップ3における有意な因子間の相互作用の有無を決定する工程は行わないことも考えられる。
【0079】
図11は、ステップ3でのCAEによる解析結果を示した図である。
【0080】
図11では、切込量ap及び送りFの各因子の全ての水準の何れかを選択することにより、条件を構成している。具体的には、切込量apについては、小の水準0.07、中の水準0.175、大の水準0.35の何れかを選択している。送りFについては、小の水準0.07、中の水準0.175、大の水準0.42の何れかを選択している。ここで、切込量ap及び送りFは、有意な因子として決定された少なくとも2つの因子の一例である。
【0081】
ところで、ステップ3で新たに構成される条件は、図中太枠で囲んだ条件13~条件15のみである。条件1、条件5~条件9は、ステップ1又はステップ2で既に構成されている。従って、条件1、条件5~条件9に対する主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目の解析値は、
図3又は
図8に示したものを用いればよい。即ち、条件13~条件15に対する主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目の解析値のみを
図11に設定すればよい。ここで、条件1、条件5~条件8は、ステップ1で述べた第1の加工条件の一例であり、条件9は、ステップ2で述べた第2の加工条件の一例である。また、条件13~条件15は、少なくとも2つの因子の因子ごとに因子の複数の水準の全部から1つの因子を選択した第3の加工条件の一例である。
【0082】
或いは、条件1、条件5~条件9に対する主分力、背分力、送分力、加工効率、表面粗さ、製品曲がり、工具温度の各評価項目の解析値は、
図3又は
図8に示したものを用いなくてもよい。この場合は、条件1、条件5~条件9、条件13~条件15が、少なくとも2つの因子の因子ごとに因子の複数の水準の全部から1つの因子を選択した第3の加工条件の一例となる。
【0083】
図12-1~
図12-4は、ステップ3でのCAEによる解析結果に基づいて評価項目ごとに有意な因子間の相互作用の有無を決定する方法を示した図である。尚、本実施の形態では、7つの評価項目を用いるが、ここでも、主分力、送分力、加工効率、表面粗さについてのみ示している。背分力、製品曲がり、工具温度については、図示を省略している。
【0084】
各図の(a)(存在しない場合はその図全体)は、2つの因子及びこの2つの因子間の相互作用の因子から有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。各図の(b)(存在する場合)は、(a)で残った2つの因子から有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。各図の(c)(存在する場合)は、(b)で残った1つの因子が有意であるかどうかを検証するための分散分析の結果を示した図である。
【0085】
尚、図中、「**」は1%有意を示す。1%有意とは、P値を%表記にして1%以内になっていることである。また、「*」は5%有意を示す。5%有意とは、P値を%表記にして5%以内になっていることである。以下では、P値が5%以下であれば有意であると判断してよいので、1%有意と5%有意の両方を「有意」と判断するものとする。
【0086】
図12-1(a)は、評価項目として主分力を用いた場合に切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、相互作用ap×Fが、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が最大なので、除外される。
【0087】
図12-1(b)は、
図12-1(a)で相互作用ap×Fを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量ap及び送りFのP値(上側確率)が
図12-1(a)よりも上昇していないので、相互作用ap×Fを除外した状態で評価される。そして、切込量ap及び送りFの何れも、その検定結果が有意となっていない。従って、切込量ap、送りF、相互作用ap×Fの何れも有意でなく、切込量apと送りFとの相互作用はないこととなる。
【0088】
また、評価項目として背分力を用いた場合に切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fから有意でない1つの因子を除外するための分散分析では、図示しないが、まず、相互作用ap×Fが除外される。次に、相互作用ap×Fを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析では、切込量ap及び送りFが有意となり、除外されない。従って、相互作用ap×Fは有意でなく、切込量apと送りFとの相互作用はないこととなる。
【0089】
図12-2(a)は、評価項目として送分力を用いた場合に切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、相互作用ap×Fが、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が最大なので、除外される。
【0090】
図12-2(b)は、
図12-2(a)で相互作用ap×Fを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量ap及び送りFのP値(上側確率)が
図12-2(a)よりも上昇していないので、相互作用ap×Fを除外した状態で評価される。そして、送りFが、その検定結果が有意でないので、除外される。
【0091】
図12-2(c)は、
図12-2(b)で送りFを除外した後の切込量apが有意な因子であるかどうかを検証するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量apのP値(上側確率)が
図12-2(b)よりも上昇していないので、送りFを除外した状態で評価される。そして、切込量apは、その検定結果が有意となっている。従って、相互作用ap×Fは有意でなく、切込量apと送りFとの相互作用はないこととなる。
【0092】
図12-3(a)は、評価項目として加工効率を用いた場合に切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、相互作用ap×Fが、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が最大なので、除外される。
【0093】
図12-3(b)は、
図12-3(a)で相互作用ap×Fを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量ap及び送りFのP値(上側確率)が
図12-3(a)よりも上昇していないので、相互作用ap×Fを除外した状態で評価される。そして、切込量apが、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が最大なので、除外される。
【0094】
次に、
図12-3(b)で切込量apを除外した後の送りFが有意な因子であるかどうかを検証するための分散分析を行う。しかしながら、ここでは、送りFのP値(上側確率)が
図12-3(b)よりも上昇し、無効な検定となる。従って、1つ前の状態である
図12-3(b)に戻って評価を行うことで、切込量ap、送りF、相互作用ap×Fの何れも有意でなく、切込量apと送りFとの相互作用はないこととなる。
【0095】
図12-4は、評価項目として表面粗さを用いた場合に切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果を示した図である。ここでは、切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fの何れも、その検定結果が有意でなく、そのP値(上側確率)が100となるため、除外されない。これはP値(上側確率)を理論式で算出しているためである。実際には、表面粗さは、切込量apには依存せず、送りFの2乗に比例する式で求められる。従って、影響があるのは送りFのみであり、切込量apは任意に決めてよいことになる。
【0096】
また、評価項目として製品曲がりを用いた場合に切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fから有意でない1つの因子を除外するための分散分析の結果は、図示しないが、
図12-1(a),(b)と似た傾向となる。即ち、相互作用ap×Fは除外され、切込量ap及び送りFは除外されない。従って、切込量ap、送りF、相互作用ap×Fの何れも有意でなく、切込量apと送りFとの相互作用はないこととなる。
【0097】
更に、評価項目として工具温度を用いた場合に切込量ap、送りF、切込量と送りとの相互作用ap×Fから有意でない1つの因子を除外するための分散分析では、図示しないが、まず、相互作用ap×Fが除外される。次に、相互作用ap×Fを除外した後の切込量ap及び送りFから有意でない1つの因子を除外するための分散分析では、切込量ap及び送りFが有意となり、除外されない。従って、相互作用ap×Fは有意でなく、切込量apと送りFとの相互作用はないこととなる。
【0098】
尚、上記では、各因子のP値を用いて評価するものとしたが、各因子の影響率又は影響なし率を用いて評価しても同様の結果となる。ここで、ある因子の影響率とは、その因子のP値(上側確率)を全ての因子のP値(上側確率)の合計から減じた値の、全ての因子のP値(上側確率)の合計に対する比率のことである。また、その因子の影響なし率とは、その因子のP値(上側確率)の、全ての因子のP値(上側確率)の合計に対する比率のことである。
【0099】
図13は、
図12-1~
図12-4の結果をまとめた図である。図中、「○」は有意となったことを示し、「×」は有意とならなかったことを示す。
【0100】
ここでは、相互作用ap×Fが全ての評価項目で有意でないので、切込量ap及び送りFについて、何れの評価項目でも相互作用はないこととなる。従って、切込量ap及び送りFについては、個々に条件を決めてよいこととなる。具体的には、ステップ1の結果より、各因子の最適加工条件を決定する。
【0101】
図14は、このような各因子の最適加工条件の決定方法について評価項目ごとに示した図である。尚、条件を自由に設定してよい因子については、その因子の全ての水準に斜線ハッチングを施している。また、条件を固定することが推奨される因子については、その因子の固定すべき水準にクロスハッチングを施している。
【0102】
図14(a)には、評価項目として主分力を用いた場合の切削速度V、切込量ap、送りFの最適加工条件の決定方法を示す。
図13で評価項目として主分力を用いた場合に切削速度Vは「×」となっているので、切削速度Vは、条件を自由に設定してよい因子である。また、
図13で評価項目として主分力を用いた場合に切込量apは「○」となっているので、切込量apは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた切込量apと主分力との関係(
図5-1(a)参照)から、主分力を小さくするには切込量apを小さくすればよいことが分かるので、ここでは切込量apを小さい方の値としている。更に、
図13で評価項目として主分力を用いた場合に送りFは「○」となっているので、送りFは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた送りFと主分力との関係(
図6-1(a)参照)から、主分力を小さくするには送りFを小さくすればよいことが分かるので、ここでは送りFを小さい方の値としている。
【0103】
図14(b)には、評価項目として背分力を用いた場合の切削速度V、切込量ap、送りFの最適加工条件の決定方法を示す。
図13で評価項目として背分力を用いた場合に切削速度Vは「×」となっているので、切削速度Vは、条件を自由に設定してよい因子である。また、
図13で評価項目として主分力を用いた場合に切込量apは「○」となっているので、切込量apは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた切込量apと背分力との関係から、背分力を小さくするには切込量apを小さくすればよいことが分かるので、ここでは切込量apを小さい方の値としている。更に、
図13で評価項目として背分力を用いた場合に送りFは「○」となっているので、送りFは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた送りFと背分力との関係から、背分力を小さくするには送りFを小さくすればよいことが分かるので、ここでは送りFを小さい方の値としている。
【0104】
図14(c)には、評価項目として送分力を用いた場合の切削速度V、切込量ap、送りFの最適加工条件の決定方法を示す。
図13で評価項目として送分力を用いた場合に切削速度Vは「×」となっているので、切削速度Vは、条件を自由に設定してよい因子である。また、
図13で評価項目として送分力を用いた場合に切込量apは「○」となっているので、切込量apは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた切込量apと送分力との関係(
図5-2(a)参照)から、送分力を小さくするには切込量apを小さくすればよいことが分かるので、ここでは切込量apを小さい方の値としている。更に、
図13で評価項目として送分力を用いた場合に送りFは「×」となっているので、送りFは、条件を自由に設定してよい因子である。
【0105】
図14(d)には、評価項目として加工効率を用いた場合の切削速度V、切込量ap、送りFの最適加工条件の決定方法を示す。
図13で評価項目として加工効率を用いた場合に切削速度Vは「×」となっているので、切削速度Vは、条件を自由に設定してよい因子である。また、
図13で評価項目として加工効率を用いた場合に切込量apは「○」となっているので、切込量apは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた切込量apと加工効率との関係(
図5-3(a)参照)から、加工効率を大きくするには切込量apを大きくすればよいことが分かるので、ここでは切込量apを大きい方の値としている。更に、
図13で評価項目として加工効率を用いた場合に送りFは「○」となっているので、送りFは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた送りFと加工効率との関係(
図6-3(a)参照)から、加工効率を大きくするには送りFを大きくすればよいことが分かるので、ここでは送りFを大きい方の値としている。
【0106】
図14(e)には、評価項目として表面粗さを用いた場合の切削速度V、切込量ap、送りFの最適加工条件の決定方法を示す。
図13で評価項目として表面粗さを用いた場合に切削速度Vは「×」となっているので、切削速度Vは、条件を自由に設定してよい因子である。また、
図13で評価項目として表面粗さを用いた場合に切込量apは「×」となっているので、切込量apは、条件を自由に設定してよい因子である。更に、
図13で評価項目として表面粗さを用いた場合に送りFは「○」となっているので、送りFは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた送りFと表面粗さとの関係(
図6-4(a)参照)から、表面粗さを小さくするには送りFを小さくすればよいことが分かるので、ここでは送りFを小さい方の値としている。
【0107】
図14(f)には、評価項目として製品曲がりを用いた場合の切削速度V、切込量ap、送りFの最適加工条件の決定方法を示す。
図13で評価項目として製品曲がりを用いた場合に切削速度Vは「×」となっているので、切削速度Vは、条件を自由に設定してよい因子である。また、
図13で評価項目として製品曲がりを用いた場合に切込量apは「○」となっているので、切込量apは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた切込量apと製品曲がりとの関係から、製品曲がりを小さくするには切込量apを小さくすればよいことが分かるので、ここでは切込量apを小さい方の値としている。更に、
図13で評価項目として製品曲がりを用いた場合に送りFは「○」となっているので、送りFは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた送りFと製品曲がりとの関係から、製品曲がりを小さくするには送りFを小さくすればよいことが分かるので、ここでは送りFを小さい方の値としている。
【0108】
図14(g)には、評価項目として工具温度を用いた場合の切削速度V、切込量ap、送りFの最適加工条件の決定方法を示す。
図13で評価項目として工具温度を用いた場合に切削速度Vは「○」となっているので、切削速度Vは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた切削速度Vと工具温度との関係から、工具温度を低くするには切削速度Vを小さくすればよいことが分かるので、ここでは切削速度Vを小さい方の値としている。また、
図13で評価項目として工具温度を用いた場合に切込量apは「○」となっているので、切込量apは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた切込量apと工具温度との関係から、工具温度を低くするには切込量apを小さくすればよいことが分かるので、ここでは切込量apを小さい方の値としている。更に、
図13で評価項目として工具温度を用いた場合に送りFは「○」となっているので、送りFは、条件を固定することが推奨される因子である。この場合、ステップ1で求めた送りFと工具温度との関係から、工具温度を低くするには送りFを小さくすればよいことが分かるので、ここでは送りFを小さい方の値としている。
【0109】
以上のようにして各因子の最適加工条件が評価項目ごとに決定されるが、この時点では、評価項目ごとに最適加工条件が異なる場合がある。実際に、
図14(a)~(g)でも、評価項目として主分力、背分力、製品曲がりを用いた場合の最適加工条件は同じであるが、それ以外の最適加工条件は異なっている。
【0110】
そこで、ステップ3では、最後に、評価項目ごとに決定した各因子の最適加工条件を用いて、人間の判断又はソフトウェアの処理により、全ての評価項目に対して適切な最適加工条件を、最終的な最適加工条件として決定する。
【0111】
[ステップ4の内容]
ステップ4は、前述の通り、加工条件を用いて実加工を実施し、その加工条件の適切性を確認するステップである。具体的には、ステップ4では、ステップ3で導出された最適加工条件を用いて実機で実加工を行い、ステップ1で取得した実加工による実測結果とCAEによる解析結果との関係が維持されているかを検証する。
【0112】
[追加のステップ]
ステップ1~ステップ4を実行した後に、追加のステップとして、ステップ4で適切性が確認された加工条件を用いて加工物を製造するステップを実行してもよい。
【0113】
[加工条件導出装置の構成例]
上述したステップ1~ステップ3は、ソフトウェアによって自動的に行うことも可能である。ここでは、加工条件導出装置がステップ1~ステップ3の処理を行うものとして、この加工条件導出装置について説明する。
【0114】
図15は、本実施の形態における加工条件導出装置10の機能構成例を示したブロック図である。図示するように、加工条件導出装置10は、実測結果記憶部11と、検証部12と、解析結果記憶部13と、直交表記憶部14と、第1決定部15と、第1決定結果記憶部16と、第2決定部17と、第2決定結果記憶部18と、導出部19とを備える。
【0115】
実測結果記憶部11は、
図2に示した実加工による実測結果を記憶する。即ち、実測結果記憶部11は、予め構成された条件について実機で実加工を実施することで取得された実測結果を、事前に記憶しておけばよい。
【0116】
検証部12は、上述したステップ1を実行する。即ち、検証部12は、その予め構成された条件についてCAEによる解析を行い、
図3に示したCAEによる解析結果を作成する。そして、検証部12は、実測結果記憶部11に記憶された実測結果に対するCAEによる解析結果の妥当性を検証する。検証部12は、この検証結果として、例えば、
図4-1~
図4-4、
図5-1~
図5-4、
図6-1~
図6-4に示したグラフを保持する。
【0117】
解析結果記憶部13は、検証部12により作成されたCAEによる解析結果を記憶する。
【0118】
直交表記憶部14は、
図7に示した直交表を記憶する。
【0119】
第1決定部15は、上述したステップ2を実行する。即ち、直交表記憶部14に記憶された直交表から構成された条件について、CAEによる解析を行い、
図8に示したCAEによる解析結果を作成する。その際、直交表から構成された条件がステップ1で既に構成された条件を含む場合は、その条件についての解析結果としては、解析結果記憶部13に記憶された解析結果を用いる。そして、第1決定部15は、
図8に示したCAEによる解析結果を用いて、有意な因子を決定するための分散分析を行い、
図9-1~
図9-4、
図10に示した分散分析結果を作成する。
【0120】
第1決定結果記憶部16は、第1決定部15により作成されたCAEによる解析結果及び分散分析結果を記憶する。
【0121】
第2決定部17は、上述したステップ3の前段を実行する。即ち、直交表記憶部14に記憶された直交表から構成された条件について、CAEによる解析を行い、
図11に示したCAEによる解析結果を作成する。その際、直交表から構成された条件がステップ1又はステップ2で既に構成された条件を含む場合は、その条件についての解析結果としては、解析結果記憶部13に記憶された解析結果又は第1決定結果記憶部16に記憶された解析結果を用いる。そして、第2決定部17は、
図11に示したCAEによる解析結果を用いて、有意な因子間の相互作用の有無を決定するための分散分析を行い、
図12-1~
図12-4、
図13に示した分散分析結果を作成する。
【0122】
第2決定結果記憶部18は、第2決定部17により作成されたCAEによる解析結果及び分散分析結果を記憶する。
【0123】
導出部19は、上述したステップ3の後段を実行する。即ち、導出部19は、第2決定結果記憶部18に記憶された分散分析結果、検証部12が保持する検証結果のグラフ等を参照して、
図14(a)~(g)に示した評価項目ごとの最適加工条件を導出し、これを保持する。そして、導出部19は、
図14(a)~(g)に示した評価項目ごとの最適加工条件を用いた何らかのソフトウェア処理を行うことにより、全ての評価項目に対して適切な最適加工条件を、最終的な最適加工条件として決定する。
【0124】
尚、これらの機能のうち、検証部12、第1決定部15、第2決定部17、導出部19は、加工条件導出装置10のCPU(図示せず)が、HDD(図示せず)等に記憶されたプログラムをRAM(図示せず)に読み込むことによって実現される。また、実測結果記憶部11、解析結果記憶部13、直交表記憶部14、第1決定結果記憶部16、第2決定結果記憶部18は、加工条件導出装置10のHDD(図示せず)やRAM(図示せず)によって実現される。
【0125】
[本実施の形態の効果]
本実施の形態では、まず、加工物の実加工に対するCAEの妥当性を検証するようにした。次に、CAEの妥当性が検証された状態で、CAEにおいて、実験計画法を用いて、加工物の加工における複数の因子のうちの有意な因子を決定するようにした。次に、CAEにおいて、実験計画法を用いて、有意な因子間の相互作用の有無を決定し、有意な因子及び有意な因子間の相互作用の有無を用いて、有意な因子の複数の水準から1つの水準を選択した加工条件を導出するようにした。最後に、加工条件を用いて実加工を実施し、加工条件の適切性を確認するようにした。これにより、本実施の形態では、加工物の実加工に用いる加工条件を短時間で適切に決定することができるようになった。
【符号の説明】
【0126】
10…加工条件導出装置、11…実測結果記憶部、12…検証部、13…解析結果記憶部、14…直交表記憶部、15…第1決定部、16…第1決定結果記憶部、17…第2決定部、18…第2決定結果記憶部、19…導出部