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特開2022-153171眼科画像処理方法および眼科画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153171
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】眼科画像処理方法および眼科画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056271
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】加納 徹也
(72)【発明者】
【氏名】柴 涼介
(72)【発明者】
【氏名】植村 晴香
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AA10
4C316AA11
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB16
4C316FB05
4C316FB06
4C316FB12
4C316FB21
4C316FB23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】depth rangeが拡張されたOCTデータから、所望の組織を良好に観察可能な、眼科画像処理方法および眼科画像処理プログラムを提供すること。
【解決手段】眼科装置1の演算制御部によって、実行される眼科画像処理方法には、取得ステップと、設定ステップと、表示制御ステップと、を少なくとも含む。設定ステップでは、スキャン位置が互いに異なる被検眼の組織のBスキャンOCTデータが複数取得される。設定ステップでは、複数のBスキャンOCTデータのそれぞれにおける被検眼の像が含まれるように、複数のBスキャンOCTデータに対して抽出領域が一括設定される。表示制御ステップでは、それぞれのBスキャンOCTデータから抽出された複数の抽出OCTデータが、予め定められた表示領域において択一的に、且つ、切り換えて表示される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって行われる眼科画像処理方法であって、
スキャン位置が互いに異なる被検眼の組織のBスキャンOCTデータを複数取得する取得ステップと、
前記複数のBスキャンOCTデータのそれぞれにおける被検眼の像が含まれるように、複数のBスキャンOCTデータに対する抽出領域を一括設定する設定ステップと、
それぞれの前記BスキャンOCTデータから抽出された複数の抽出OCTデータを予め定められた表示領域において択一的に、且つ、切り換えて表示する表示制御ステップと、を含む、眼科画像処理方法。
【請求項2】
前記複数のBスキャンOCTデータの相互の位置関係を補正する補正ステップ、を更に含み、
前記設定ステップでは、相互の位置関係が補正された後で、補正後の各BスキャンOCTデータに対して前記抽出領域が設定される、請求項1記載の眼科画像処理方法。
【請求項3】
前記表示制御ステップでは、前記表示領域上において前記抽出OCTデータにおける横方向の倍率が、スキャン密度が互いに異なるBスキャンOCTデータの間で一定となるように、前記抽出OCTデータの基となる前記BスキャンOCTデータのスキャン密度に応じて横方向の倍率を調整する、請求項1又は2記載の眼科画像処理方法。
【請求項4】
前記取得ステップにおいて取得される複数の前記BスキャンOCTデータは、同一のスキャンパターンにおいてスキャン位置が互いに異なるものである、請求項1から3のいずれかに記載の眼科画像処理方法。
【請求項5】
前記スキャンパターンの種類毎に、各スキャン位置の前記BスキャンOCTデータが、他のBスキャンOCTデータと一括して前記抽出領域を設定するか否かが予め定められている、請求項4記載の眼科画像処理方法。
【請求項6】
前記設定ステップでは、複数のBスキャンOCTデータにおいて、前記抽出領域が設定される横断方向の範囲は、互いに異なる複数のうち何れかから選択可能であり、
複数のBスキャンOCTデータのそれぞれのうち選択された横断方向の範囲に対して、前記抽出領域が一括設定される、請求項1から5のいずれかに記載の眼科画像処理方法。
【請求項7】
前記コンピュータのプロセッサによって実行されることによって、請求項1から6のいずれかに記載の眼科画像処理方法が前記コンピュータによって実行される眼科画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の組織のOCTデータを処理する眼科画像処理方法および眼科画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼科分野では、被検眼の組織の断層画像を撮影する装置である、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)が注目を集めている。
【0003】
従来のOCT装置では、depth rangeと呼ばれる深さ方向に関して有効な撮影範囲が狭かったため、撮影されたOCTデータを表示させる場合、撮影範囲全体がそのまま表示されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-55122公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
depth rangeを拡張することについて検討を行ったところ、depth rangeを拡張しても、実質的に必要となる深さ方向の撮影範囲は、被検眼毎に異なっていた。例えば、眼底を撮影する場合、眼底組織の高低差には眼軸長および眼底の湾曲に起因する個体差があるので、実質的に必要とされる深さ方向の撮影範囲が、被検眼毎に異なると考えられる。
【0006】
また、depth rangeが広がるほど、相対的に、OCTデータにおいて被検眼の像が占める割合は少なくなり、余白が占める割合は多くなる。従って、特許文献1と同様に、撮影範囲全体をそのまま表示しようとすると、画面上の表示範囲が肥大化するか、被検眼の像が占める割合が少ないことによって組織を観察し難くなってしまうと考えられる。
【0007】
本開示は、従来技術の問題点に基づいてなされたものであり、depth rangeが拡張されたOCTデータから、所望の組織を良好に観察可能な、眼科画像処理方法および眼科画像処理プログラムを提供すること、を技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様に係る眼科画像処理方法は、コンピュータによって行われる眼科画像処理方法であって、スキャン位置が互いに異なる被検眼の組織のBスキャンOCTデータを複数取得する取得ステップと、前記複数のBスキャンOCTデータのそれぞれにおける被検眼の像が含まれるように、複数のBスキャンOCTデータに対する抽出領域を一括設定する設定ステップと、それぞれの前記BスキャンOCTデータから抽出された複数の抽出OCTデータを予め定められた表示領域において択一的に、且つ、切り換えて表示する表示制御ステップと、を含む。
【0009】
本開示の第2態様に係る眼科画像処理プログラムは、コンピュータのプロセッサによって実行されることによって、第1態様に係る眼科画像処理方法が前記コンピュータによって実行される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、depth rangeが拡張されたOCTデータから、所望の組織を良好に観察しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例に係るOCTシステムの概略構成を示した図である。
図2】実施例に係るOCT光学系を示す図である。
図3】動作を説明するフローチャートである。
図4】異なるスキャンラインで取得されたOCTデータを示す図である。
図5A】1024pt/9mmのスキャン密度で取得されたOCTデータを示した図である。
図5B】512pt/9mmのスキャン密度で取得されたOCTデータを示した図である。
図6A】表示領域に対してOCTデータ全体が表示された状態を示した図である。
図6B】表示領域に対して抽出OCTデータが表示された状態を示した図である。
図7A】ラジアルスキャンのスキャンパターンを示した図である。
図7B】クロススキャンのスキャンパターンを示した図である。
図7C】マルチクロスのスキャンパターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概要>
本開示の実施形態を説明する。なお、以下の<>にて分類された項目は、独立または関連して利用されうる。
【0013】
<全体構成>
以下、本開示における1つの実施形態を説明する。初めに、実施形態に係るOCTシステムを説明する。OCTシステムは、被検眼を撮影し、撮影結果であるOCTデータを表示するために利用される。
【0014】
本実施形態において、OCTシステムは、OCT光学系、画像処理器、および、コンピュータ、を少なくとも含む(図1参照)。実施形態に係る眼科用画像処理プログラムは、コンピュータのプロセッサによって読み出し可能な、不揮発性メモリに格納されている。OCT光学系、画像処理器、および、コンピュータは、OCT装置として一体化されていてもよい(例えば、実施例を参照)。また、OCT光学系、画像処理器、および、コンピュータの一部は、他の一部と別体であってもよい。
【0015】
<OCT光学系>
OCT光学系(図2参照)は、被検眼のOCTデータを撮影するために利用される。OCT光学系は、被検眼の組織に導かれる測定光と、参照光と、のスペクトル干渉信号を検出する。
【0016】
OCT光学系は、例えば、SD-OCT光学系であってもよいし、SS-OCT光学系であってもよい。OCT光学系は、depth rangeの広いOCTデータの取得に適していることが好ましい。なお、SS-OCT光学系が備えるOCT光源は、VCSEL式波長掃引光源であってもよい。
【0017】
また、OCT光学系は、光分割部、走査部(光スキャナともいう)、検出器のうち少なくともいずれかを備えてもよい。光分割部は、OCT光源からの光を測定光と参照光とに分割する。走査部は、被検眼の組織上で測定光を走査するためのデバイスである。走査部は、例えば、走査方向が互いに異なる2つの光スキャナの組み合わせであってもよい。検出器は、被検眼に導かれた測定光と、参照光と、を受光することによって、スペクトル干渉信号を出力する。OCT光学系は、被検眼の組織上であらかじめ定められた複数のスキャンラインに沿って、測定光を走査し、複数のスキャンラインのそれぞれのOCTデータを撮影してもよい。スキャンラインは、検者からの指示に基づいて任意の位置に設定されてもよい。また、あらかじめ定められた複数のスキャンパターンのうちいずれかが選択されることで、スキャンパターンと対応するスキャンラインが設定されてもよい。スキャンパターンとしては、ライン、クロス、マルチ、マップ、ラジアル、サークル、等の種々のものが知られている。
【0018】
<画像処理器>
画像処理器は、OCT光学系から出力されるスペクトル干渉信号を処理して被検眼のOCTデータを取得する。画像処理器は、OCT装置における装置全体の動作を司る制御部によって兼用されていてもよいし、制御部とは別体の画像処理装置であってもよい。
【0019】
<OCTデータ>
OCTデータは、信号データであってもよいし、視覚化された画像データであってもよい。例えば、OCTデータは、被検眼の反射強度特性を示す断層画像データ、被検眼のOCTアンジオデータ(例えば、OCTモーションコントラストデータ)、被検眼のドップラー特性を示すドップラーOCTデータ、被検眼の偏光特性を示す偏光特性データ、等の少なくともいずれかであってもよい。
【0020】
また、OCTデータは、Bスキャンデータ(例えば、Bスキャン断層画像データ、二次元OCTアンジオデータ、等)、正面(En face)データ(例えば、OCT正面データ、正面モーションコントラストデータ、等)、三次元データ(例えば、三次元断層画像データ、三次元OCTアンジオデータ、等)、等の少なくともいずれかであってもよい。
【0021】
<コンピュータ>
コンピュータは、画像処理器が生成する被検眼のOCTデータを取得し、例えば、モニタ上に表示させる。但し、電子レポートまたは紙レポートにおいてOCTデータは表示されてもよい。コンピュータは、少なくとも、プロセッサ(演算制御部)を備える。演算制御部は、CPU、RAM、および、ROM等によって構成されてもよい。プロセッサが眼科用画像観察プログラムを実行することによって、コンピュータが後述の各ステップを実行する。眼科用画像観察プログラムは、演算制御部からアクセス可能な不揮発性の記憶媒体に記憶されていてもよい。
【0022】
<取得ステップ>
まず、OCT光学系を介して被検眼が撮影される。撮影の結果として、画像処理器が被検眼のOCTデータを生成する。その後、画像処理器によって生成されるOCTデータが、コンピュータ1によって取得される。本実施形態では、スキャン位置が互いに異なる被検眼の組織のBスキャンOCTデータが、複数取得される。このとき、複数の前記BスキャンOCTデータは、同一のスキャンパターンにおいてスキャン位置が互いに異なるものであってもよい。
【0023】
<設定ステップ>
次に、設定ステップでは、複数のBスキャンOCTデータに対し、抽出領域が設定される。本実施形態では、複数のBスキャンOCTデータに対する抽出領域が、コンピュータ1によって設定される。抽出領域は、複数のBスキャンOCTデータのそれぞれにおける被検眼の像が含まれるように設定される。
【0024】
なお、抽出領域は、複数のBスキャンOCTデータのうち、被検眼の像の上端の位置が最も浅い位置にあるものと、被検眼の像の下端の位置が最も深い位置にあるものと、の両方が深さ方向に関して見切れないように設定されてもよい。
【0025】
眼底OCTの場合、被検眼の像の上端の位置は、例えば、網膜表層における上端であってもよい。或いは、硝子体の網膜側境界面における上端であってもよい。また、被検眼の像の下端の位置は、例えば、脈絡膜における下端であってもよい。
【0026】
被検眼の像の上端および下端は、OCTデータに対する画像処理によって求められてもよい。例えば、層境界の検出結果に基づいて求めることができる。また、BスキャンOCTデータにおける深さ方向に関する輝度情報に基づいて求めることができる。
【0027】
画像処理によって上端および下端を求める場合、OCTデータから検出される組織の位置に対して、所定のマージンを確保して上端および下端のうち少なくとも一方が設定されてもよい。これによれば、画像処理によって検出し難い組織(硝子体および脈絡膜深層等)が含まれるように、抽出領域を設定できる。
【0028】
<抽出領域が設定される横断方向の範囲の変更について>
本実施形態において、複数のBスキャンOCTデータにおいて、抽出領域が設定される横断方向の範囲は変更可能であってもよい。この場合、複数のBスキャンOCTデータのそれぞれのうち、選択された横断方向の範囲に対して、抽出領域が一括設定される。
【0029】
複数のBスキャンOCTデータにおいて、抽出領域が設定される横断方向の範囲は、互いに異なる複数のうち何れかから選択可能であってもよい。選択可能な範囲は、予め用意されていてもよい。例えば、眼底のOCTデータの場合、眼底中心部(中心窩周辺)である第1の範囲と、眼底中心部および眼底中心部に対する周辺部を含む第2の範囲と、の少なくとも2つの範囲から、選択されてもよい。
【0030】
depth rangeが広がることで、より高低差が大きな領域を1回のBスキャンで撮影できる。このため、BスキャンOCTデータにおける横断方向の撮影範囲についても、従来よりも長大化(広角化)され得る。但し、今日において、眼底OCTを用いた観察・診断においては、周辺部の情報に比べて、眼底中心部の情報が重要視されている。従って、複数のBスキャンOCTデータにおいて、抽出領域が設定される横断方向の範囲が変更可能であることで、横断方向の撮影範囲が長大化しても診断・観察において重要な箇所が、抽出OCTデータとして適切に表示される。
【0031】
<補正ステップ>
更に、複数のBスキャンOCTデータの相互の位置関係を補正する補正ステップが行われてもよい。補正ステップの後で設定ステップが実行されてもよい。つまり、複数のBスキャンOCTデータの相互の位置関係が補正された後で、補正後の各BスキャンOCTデータに対して抽出領域が設定されてもよい。補正ステップにおいて、各BスキャンOCTデータ間の相互の位置関係は、同一の特徴が同一の深さに配置されるように補正されてもよい。例えば、各BスキャンOCTデータにおいて、予め定められた特徴部を検出し、検出された特徴部の位置(横断方向および深さ方向の位置)が揃うように、相互の位置関係が補正されてもよい。特徴部は、黄斑、乳頭、血管、特定の層(または層境界)のうち、何れかであってもよい。この場合、各BスキャンOCTデータにおける特徴部と抽出領域との位置関係が互いに一致するように、各BスキャンOCTデータに対して抽出領域が設定される。
【0032】
また、補正ステップにおいて、各BスキャンOCTデータ間の相互の位置関係は、BスキャンOCTデータを取得した横断面と交差する方向への組織の湾曲を考慮して補正されてもよい。この場合、湾曲が反映された深さ位置に各BスキャンOCTデータにおける組織の像が配置されるように補正されてもよい。この場合、各BスキャンOCTデータには、湾曲を考慮したうえで互いに対応する深さ位置に、抽出領域が設定される。
【0033】
なお、相互の位置関係を補正する際には、例えば、アフィン変換(平行移動、せん断補正、回転補正)が行われてもよい。
【0034】
また、アライメントがズレた状態、および、固視が不適切なタイミング、等で撮影が行われることで、BスキャンOCTデータ中における被検眼の像が傾斜(チルティング)している場合がある。チルティングによって、被検眼の像の高低差は拡大するので、表示領域において被検眼の像の拡大表示が制限されてしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、それぞれのBスキャンOCTデータに対して、チルティング補正が行われてもよい。例えば、撮影時のアライメント状態に基づいて、光軸に対する被検眼の組織の傾斜を推定し、推定した傾斜量に応じてBスキャンOCTデータが補正されてもよい。その結果、より適切に抽出領域を設定できる。
【0035】
<表示制御ステップ>
表示制御ステップでは、予め定められた表示領域において、複数の抽出OCTデータが表示される。表示領域は、少なくとも表示媒体における大きさが予め定められている。更には、表示媒体における配置が予め定められていてもよい。複数の抽出OCTデータは、それぞれのBスキャンOCTデータにおける抽出領域から抽出される。複数の抽出OCTデータは、表示領域において択一的に、且つ、切り換えて表示される。なお、表示領域は、アスペクト比、または、縦方向および横方向の画素数(デバイスピクセル数)が予め定められている。本実施形態では、depth rangeの広いBスキャンOCTデータが取得された場合であっても、BスキャンOCTデータ全体ではなく、BスキャンOCTデータから組織の像位置を含む深さ領域が抽出されて表示される。予め定められた表示領域に対して被検眼の組織の像がより拡大して表示されるので、抽出OCTデータを介して、被検眼の組織の状態が良好に把握されやすい。この場合において、本実施形態では、複数のBスキャンOCTデータにおいて表示領域に抽出され表示される領域(抽出OCTデータ)が、複数のBスキャンOCTデータのそれぞれにおける被検眼の像が含まれるように設定される。このため、それぞれの抽出OCTデータを、予め定められた表示領域において択一的に、且つ、切り換えて表示する場合に、被検眼の像が適切に表示される。すなわち、被検眼の形状の個体差に関わらず、被検眼の像が深さ方向に関して表示領域に納まらない(見切れてしまう)ことが抑制される。
【0036】
また、補正ステップにおいて、複数のBスキャンOCTデータの相互の位置関係が補正されていることによって、表示領域の中で被検眼の像を適切に拡大して表示しやすくなる。
【0037】
<倍率調整>
また、表示制御ステップでは、表示領域上において抽出OCTデータにおける横方向の倍率が、スキャン密度が互いに異なるBスキャンOCTデータの間で一定に維持されてもよい。この場合、横方向の倍率が一定となるように、抽出OCTデータの基となるBスキャンOCTデータのスキャン密度に応じて横方向の倍率が調整されてもよい。
【0038】
<スキャンパターン毎の表示設定>
同一のスキャンパターンにおいてスキャン位置が互いに異なる複数のBスキャンOCTデータによって、抽出OCTデータが表示される場合は、スキャンパターンの種類毎に、各スキャン位置のBスキャンOCTデータが、他のBスキャンOCTデータと一括して抽出領域を設定するか否かが予め定められていてもよい。例えば、一方向のマルチスキャンのようにスキャン方向が互いに一致したBスキャンOCTデータに基づいて抽出OCTデータが表示される場合は、各スキャン位置のBスキャンOCTデータに対して一括して抽出領域が設定されてもよい。これに対し、クロススキャンのように、スキャン方向が直交するOCTデータについては、抽出領域を一致させる必要性が乏しい場合が考えられる。そこで、この場合は、それぞれのBスキャンOCTデータに対する抽出領域は、それぞれのOCTデータにおける像の位置に基づいて個別に設定されてもよい。
【0039】
<抽出領域以外の情報を削除し、保存>
本実施形態では、抽出領域が設定されることにより、抽出領域以外の領域のデータが削減(削除または圧縮)されてもよい。その結果、抽出領域のデータ(つまり、抽出OCTデータ)がメモリに保存されてもよい。抽出OCTデータは、元々のOCTデータと択一的に保存されてもよい(例えば、元々のOCTデータに上書きされてもよい)。
depth rangeが増大しても、保存されるOCTデータのデータ量を抑制できる。
【0040】
「実施例」
以下、実施例として、図1,2に示すOCTシステム(光コヒーレンストモグラフィーシステム)を説明する。
【0041】
図1に示すように、実施例に係るOCTシステムは、光学ユニット10と、本実施例のコンピュータに相当する制御ユニット50と、を少なくとも含む。本実施例において、光学ユニット10と、制御ユニット50と、は、OCT装置として、一体化されている。
【0042】
光学ユニット10は、OCT光学系100(図2参照)を備える。また、制御ユニット50は、本実施例におけるコンピュータであり、OCTシステムの全体を制御する演算制御部(プロセッサ)70を少なくとも備える。演算制御部(以下、単に制御部という)70は、例えば、CPUおよびメモリなどによって構成される。一例として、本実施例では、制御部70が、OCTシステムにおける画像処理器を兼用している。
【0043】
その他、OCTシステムには、記憶部(メモリ)72、入力インターフェース(操作部)75、モニタ80、等が設けられてもよい。各部は、制御部70に接続される。
【0044】
OCT装置の動作を制御するための各種プログラム、初期値等は、メモリ72に記憶されてもよい。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、および、OCT装置に着脱可能に装着されるUSBメモリ等をメモリ72として使用することができる。また、メモリ72には、OCTデータから生成されるOCT画像の他、撮影に関する各種情報が記憶されてもよい。モニタ80は、OCTデータ(OCT画像)を表示してもよい。
【0045】
<OCT光学系>
次に、図2を参照し、本実施例におけるOCT光学系100を説明する。
【0046】
本実施形態のOCT光源11は、低コヒーレントかつ広帯域な光を出射する。例えば、OCT光源11はSLD光源であってもよい。
【0047】
光分割器15は、OCT光源11からの光を、測定光と参照光とに分割する。図1において、光分割器15はファイバカップラとして示す。図1に示すように、測定光は、導光光学系40を介して被検眼に照射される。また、被検眼の戻り光が、導光光学系40を遡って、分光光学系20に導かれる。参照光は、参照光学系30を経て分光光学系20へ導かれる。なお、図1において、測定光の戻り光と参照光とは、カップラ(例えば、図1においては光分割器15)で合波され、その後、分光光学系20へ導かれる。
【0048】
導光光学系40は、図1に示すように、光スキャナ41および対物光学系45等を備えてもよい。光スキャナ41は、被検眼の組織上で測定光を走査するために利用される。光スキャナ41によって走査される測定光が、対物光学系45を介して被検眼の組織上で走査される。
【0049】
眼底OCTを取得する際には、図1に示すように、対物光学系45を介した測定光は1点(旋回点という)を中心に旋回されてもよい。アライメントによって旋回点が前眼部に配置されることで、眼底OCTが取得される。
【0050】
光路長調整部は、測定光と参照光との光路長差を調整する。眼底OCTを撮影する場合は、被検眼毎の眼軸長の個人差に応じて光路長差が補正される。また、前眼部OCTを撮影する場合は、予め定められた値に調整される。光路長調整部は、測定光路および参照光路のうち少なくともいずれかの光路長を変更する。図1では導光光学系40におけるファイバの出射端を光軸方向に移動させることによって、光路長が変更される。
【0051】
本実施形態の分光光学系20はスペクトロメータとして利用される。分光光学系20は、測定光の戻り光と参照光とのスペクトル干渉信号を検出する。
【0052】
<深さ情報の取得>
制御部70は、検出器120によって検出されたスペクトル信号を処理(フーリエ解析)し、被検眼のOCTデータを得る。より詳細には、スペクトル干渉信号は、波長λの関数として書き換えられ、波数k(=2π/λ)に関して等間隔な関数I(k)に変換されてもよい。さらに、フーリエ変換後の情報は、Z空間での実数成分と虚数成分を含む信号として表されてもよい。制御部70は、Z空間での信号における実数成分と虚数成分の絶対値を求めることによりOCTデータを得てもよい。
【0053】
<動作説明>
次に、図3に示すフローチャートに沿って、実施例のOCTシステムで実行される眼科用画像処理方法を説明する。フローチャートの各処理は、眼科用画像処理プログラムに基づいて、制御部70によって実行されてもよい。本実施例では、フローチャートの各処理が実行されることによって、あるスキャンパターンによって取得された複数のOCTデータが、モニタ80上に表示される。便宜上、以下の説明におけるOCTデータは、いずれもBスキャンデータである。また、スキャンラインと対応するOCTデータを、スライスともいう。
【0054】
<S1:取得ステップ>
まず、OCT光学系100の各種調整を経て、被検眼のOCTデータが、撮影される。あらかじめ定められた複数のスキャンパターンのうちいずれかで、OCTデータが撮影されてもよい。まず、ここでは、一方向へのマルチスキャンが行われた場合について説明する。また、特に断りが無い限り、本実施例においてOCTデータは、9mmのスキャン長にて撮影されたものとして説明する。
【0055】
撮影されたOCTデータは、走査速度を示す情報対応付けて装置のメモリへ記憶(保存)されてもよい。これによって、撮影されたOCTデータが、撮影画像として制御部70によって取得される(S1)。一度に複数枚のOCTデータが撮影されたときは、S1のステップにおいて複数枚のOCTデータが取得される。また、複数のOCTデータを取得したときの、スキャンパターンを示す情報(スキャンパターン情報)が取得される(S2)。スキャンパターン情報は、複数枚のOCTデータに対応付けられていてもよい。スキャンパターン情報には、更に、個別のOCTデータにおけるスキャン位置を示す情報が含まれていてもよい。
【0056】
<ズレ補正>
図4に、S1のステップにおいて取得された複数のOCTデータの一例を示す。OCTデータA,B,Cは、一方向へのマルチスキャンにおいて、スキャン位置が互いに異なるものとする。複数のOCTデータは撮影されたタイミングが互いに異なっているので、撮影間で装置と眼との位置関係の変化や、眼の調節状態の変化等に起因して、各々のOCTデータにおける像の位置が異なる場合があり得る。
【0057】
これに対し、本実施例では、複数のOCTデータの相互の位置関係を補正するための画像処理が実行される(S3)。本実施例では、それぞれのOCTデータに共通する少なくとも1つの特徴の位置が一致するように、複数のOCTデータのいずれかを基準として、他のOCTデータがアフィン変換されることによって、補正される。一例として、本実施例では、中心窩のIS/OSの位置が一致するように、複数のOCTデータの相互の位置関係が調整される。
【0058】
<解像度の正規化>
OCTデータは、OCTデータを構成するAスキャンOCTデータの本数(ポイント数)が、スキャン長に対して異なる場合がある。この場合は、横方向の表示倍率がスキャン長に対するポイント数(解像度)に応じて異なってしまう。これに対し、本実施例では、OCTデータにおける横方向の倍率が、一定となるように正規化される。詳細には、それぞれのOCTデータにおける横方向のポイント数がスキャン長に対して一定の値となるように、Aスキャンの補間(又は間引き)が行われる。例えば、図5Bに示す512pt/9mmのOCTデータは、図5Aに示す1024pt/9mmのOCTデータにあわせてAスキャンが補間される。結果、図5Bに示す512pt/9mmのOCTデータが横方向に関して2倍に引き延ばされ、図5Aと略同じ見た目の画像が得られる。本実施例では、それぞれのOCTデータにおけるスキャン長に対するポイント数が正規化されるので、撮影時のAスキャンの設定をユーザが意識することなく、被検眼の組織を観察しやすくなる。
【0059】
<抽出領域の設定>
次に、ズレ補正が行われた後の複数のOCTデータに対して抽出領域が設定される(S4)。ここで、図6Aでは、表示領域300に対してOCTデータ200全体が表示される場合の、表示領域300とOCTデータ200との関係を示している。図6Aに示すように、OCTデータ200全体を表示しようとしてしまうと、被検眼の像が存在しない領域が表示領域の大部分を占めてしまう場合があり得る。また、図6Aに示すように、画像200と表示領域300とのアスペクト比が不一致であることによって、被検眼の像が、相対的にいっそう小さくなってしまう。
【0060】
これに対し、本実施例では、OCTデータ200の一部に抽出領域400を設定し、抽出領域400に含まれる画像領域(抽出OCTデータ)を図6Bに示すように拡大表示する。この場合、まず、OCTデータ200において被検眼の像が含まれる深さ方向の範囲を検出する。検出した範囲が抽出領域400となる。
【0061】
ここで、本実施例では、複数のOCTデータに対して抽出領域は同一の位置に設定される。詳細には、複数のOCTデータのそれぞれにおける被検眼の像が含まれるように、位置ズレ補正後の複数のOCTデータの間で、抽出領域は同一の位置に設定される。本実施例では、複数のOCTデータにおける中心窩のIS/OSの位置に対して、抽出領域の位置関係が互いに一致するように、複数のOCTデータに対して抽出領域が設定される。この場合において、ズレ補正後の複数のOCTデータのうち、被検眼の像の上端の位置が最も浅い位置にあるものと、被検眼の像の下端の位置が最も深い位置にあるものと、の両方が深さ方向に関して見切れないように、抽出領域が設定されてもよい。
【0062】
なお、本実施例において、被検眼の像の上端および下端は、OCTデータに対する層境界の検出結果に基づいて求められる。層検出(セグメンテーション処理)によって検出される複数の層境界のうち、最も浅層側の層境界における上端に基づいて、抽出領域の上端が設定される。同様に、検出される複数の層境界のうち、最も深層側の層境界における下端に基づいて、抽出領域の下端が設定される。このとき、抽出領域の上端および下端は、最も深層側の層境界における上端および下端よりも一定距離だけ離れた位置にマージンを設けて設定されてもよい。このとき、上端側のマージンは、硝子体が抽出領域内に描写されるように設けられてもよい。下端側のマージンは、脈絡膜深層が抽出領域内に描写されるように設けられてもよい。
【0063】
抽出OCTデータは、表示領域300のアスペクト比にあわせて拡大されて表示される。表示領域300のアスペクト比は予め定められている。表示領域300よりも抽出OCTデータ(抽出領域400)のほうが横長である場合は、抽出OCTデータの横幅が表示領域300の横幅と一致するように、抽出OCTデータを拡大表示するときの倍率が求められる。同様に、表示領域300よりも抽出OCTデータ(抽出領域400)のほうが縦長である場合は、抽出OCTデータと表示領域300とのそれぞれの縦方向の幅が一致するように、抽出OCTデータを拡大表示するときの倍率が求められる。
【0064】
<表示制御>
モニタ80上の表示領域300において、マルチスキャンに基づく複数の抽出OCTデータが、択一的に表示される(S6)。表示領域300に表示される抽出OCTデータは、自動または手動で、他のスキャン位置の抽出OCTデータへと切り替わる。このとき、表示される複数のOCTデータにおける同一位置が抽出されているので、スキャンライン間の組織の相違点を適切に把握しやすい。また、各スキャン位置に対応する抽出OCTデータは、各スキャン位置で得られた複数のOCTデータにおける像の位置が事前に考慮されたうえで設定されるので、被検眼の像が表示領域300から見切れにくい。また、各スキャン位置に対応する抽出OCTデータが表示領域300に表示されるときの倍率は一定なので、抽出OCTデータが他のスキャン位置のものへと切替わった前後で、検者に違和感を与えにくい。
【0065】
<抽出領域の修正>
本実施例において、抽出OCTデータの元となるOCTデータは、抽出OCTデータが表示された後も残っている。当初の抽出領域に基づく抽出OCTデータが表示される画面上で、抽出領域を修正する操作を受け付け可能であってもよい。抽出領域における境界の位置(横断方向および深さ方向のいずれかにおける境界の位置)が修正されてもよい。当該操作に基づいて、修正された抽出領域に基づく抽出OCTデータが表示される。これにより、当初の抽出範囲が検者の所期する範囲に設定されていなくても、検者は適切に組織を確認できる。例えば、マウスホイールのスクロール操作や、キーボードのキー操作によって、抽出領域の設定位置が変更されてもよい。
【0066】
<スキャンパターン毎の表示設定>
本実施例では、スキャンパターンの種類毎に、各スキャン位置のBスキャンOCTデータが、他のBスキャンOCTデータと一括して抽出領域を設定するか否かが予め定められている。例えば、上述の一方向のマルチスキャンの場合は、全てのOCTデータに対して一括して抽出領域が設定される。つまり、マルチスキャンを構成する全てのOCTデータを対象としてズレ補正と抽出領域の設定とがまとめて行われる。また、図7Aに示すラジアルスキャンの場合も、同様である。これに対し、図7B,7Cに示すように、クロススキャン、および、マルチクロスでは、スキャンパターンを構成するOCTデータをスキャン方向毎のグループに分けて(図7B図7CのそれぞれにおけるFグループとGグループに分けて)、各グループに含まれるOCTデータ毎に、一括して抽出領域が設定される。
【0067】
「変容例」
以上、実施形態および実施例に基づいて本開示を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、種々の変形が許容される。
【0068】
例えば、上記実施例では、装置が取得したOCTデータのスキャン長は9mmで固定であった。一方、近年は広角化が進展しており、よりスキャン長の長い装置が存在する。しかし、眼底OCTを用いた観察・診断においては、周辺部の情報に比べて、眼底中心部の情報が重要である。
【0069】
このため、スキャン長が長い装置(例えば、15mm以上)の装置において、横断方向に関する抽出領域の範囲を、予め定められた2つの値の間で切換可能であってもよい。例えば、中心窩周辺の範囲(例えば、9mm程度の範囲)と、装置の最大範囲と、の間で切換可能であってもよい。この場合、表示領域300と共に、これら2つの範囲と対応するGUIウィジェットが画面上に設けられていてもよい。GUIウィジェットが操作されることによって、横断方向に関する抽出領域の範囲が切替わる。なお、抽出領域の初期値を、中心窩周辺の範囲と最大範囲と、との何れとするかについては、事前に設定されていてもよい。
【0070】
また、上記実施例では、抽出OCTデータがモニタ80上に表示される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものでは無い。抽出OCTデータは、レポートに表示される際にも、レポートの表示領域にあわせて表示されてもよい。レポートは電子媒体であってもよい。また、紙媒体であってもよい。
【0071】
例えば、上記本実施形態では、被検眼のOCTデータを撮影するための眼科撮影装置を例に挙げて説明したがこれに限定されない。例えば、被検物のOCTデータを撮影するための装置において本実施形態が適用されてもよい。例えば、被検物は、眼、皮膚、血管等の生体であってもよいし、樹脂体等の生体以外の試料であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 OCT装置
70 演算制御部
200 OCTデータ
300 表示領域
400 抽出領域
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C