(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153172
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】録音装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056272
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 純弥
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220BB04
5D220BC02
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で雑音成分を低減できる録音装置を提供する。
【解決手段】検知した音をアナログ信号に変換する音検知部が出力したアナログ信号に対して、カットオフ周波数以下の成分を減衰させて出力するハイパスフィルタと、ハイパスフィルタを通過したアナログ信号を、デジタル信号に変換するAD変換部とを備える録音装置を提供する。AD変換部が出力するデジタル信号に対して、デジタルノイズを重畳する信号処理部を更に備えてよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知した音をアナログ信号に変換する音検知部が出力した前記アナログ信号に対して、カットオフ周波数以下の成分を減衰させて出力するハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタを通過した前記アナログ信号を、デジタル信号に変換するAD変換部と
を備える録音装置。
【請求項2】
前記カットオフ周波数が、4kHz以上、20kHz以下である
請求項1に記載の録音装置。
【請求項3】
前記AD変換部が出力する前記デジタル信号に対して、デジタルノイズを重畳する信号処理部を更に備える
請求項1または2に記載の録音装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記カットオフ周波数以下の周波数帯の少なくとも一部に、前記デジタルノイズを重畳する
請求項3に記載の録音装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記カットオフ周波数以下の周波数帯の全体に、前記デジタルノイズを重畳する
請求項3に記載の録音装置。
【請求項6】
前記デジタルノイズがホワイトノイズである
請求項3から5のいずれか一項に記載の録音装置。
【請求項7】
前記デジタルノイズを重畳した前記デジタル信号を、外部に送信する通信部を更に備える
請求項3から6のいずれか一項に記載の録音装置。
【請求項8】
前記信号処理部は、前記デジタルノイズを重畳した前記デジタル信号を、記憶媒体に保存する
請求項3から6のいずれか一項に記載の録音装置。
【請求項9】
前記ハイパスフィルタが受動素子で構成されており、能動素子を含まない
請求項1から8のいずれか一項に記載の録音装置。
【請求項10】
前記ハイパスフィルタが二次フィルタとして機能する
請求項1から9のいずれか一項に記載の録音装置。
【請求項11】
前記ハイパスフィルタの次数、または、前記カットオフ周波数の少なくとも一方が可変である
請求項1から9のいずれか一項に記載の録音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、録音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雑音信号を低減させる録音装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開平3-295400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
録音装置においては、簡易な構成で雑音成分を低減できることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明のひとつの態様においては、録音装置を提供する。録音装置は、検知した音をアナログ信号に変換する音検知部が出力したアナログ信号に対して、カットオフ周波数以下の成分を減衰させて出力するハイパスフィルタを備えてよい。録音装置は、ハイパスフィルタを通過したアナログ信号を、デジタル信号に変換するAD変換部を備えてよい。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の一つの実施形態に係る録音装置100の構成例を示すブロック図である。
【
図2】ハイパスフィルタ110の構成例を示す回路図である。
【
図3】アナログ信号の周波数スペクトルと、ハイパスフィルタ110の周波数特性の一例を示す図である。
【
図4】アナログ信号に含まれる振動雑音の周波数スペクトルの例を示す図である。
【
図5】ハイパスフィルタ110に入力されるアナログ信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図6】ハイパスフィルタ110が出力するアナログ信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図7】信号処理部130が重畳するデジタルノイズの一例を示す図である。
【
図8】デジタルノイズが重畳されたデジタル信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図9】録音装置100および音検知部10が搭載された回路基板360の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る録音装置100の構成例を示すブロック図である。録音装置100は、音検知部10が検知した音に対応する音データを、記憶媒体20に記憶する。録音装置100は、建築用の工具等の、使用者により携帯される装置に設けられてよい。一例として録音装置100は、インパクトドライバに設けられる。録音装置100は、工具等の装置の使用者等による音声を除外して、装置の動作音を録音してよい。
【0009】
音検知部10は、録音装置100に含まれていてよく、外部の装置であってもよい。音検知部10は、検知した音をアナログの電気信号(単にアナログ信号と称する)に変換して出力する。音検知部10は、例えばマイクロホンのように、音圧を検知して、音圧波形に応じたアナログ信号を出力する。
【0010】
記憶媒体20は、録音装置100に含まれていてよく、外部の装置であってもよい。記憶媒体20は、音データに対して専用に設けられたメモリであってよく、他のデータも記憶するメモリであってもよい。
【0011】
録音装置100は、ハイパスフィルタ110およびAD変換部120を備える。ハイパスフィルタ110は、音検知部10が出力したアナログ信号に対して、所定のカットオフ周波数以下の成分を減衰させて出力する。カットオフ周波数は、人の音声を除去できる周波数であってよい。カットオフ周波数は、例えば4kHz以上の周波数である。人の音声の主成分は、概ね2kHz以下である。カットオフ周波数を4kHz以上の周波数に設定することで、人の音声の大部分を除去できる。このため、音声に含まれ得る個人情報、機密情報を除去した音データを録音できる。また、カットオフ周波数は、20kHz以下の周波数である。これにより、建築用の工具等の装置が動作したときに生じる動作音を録音できる。動作音は、例えばネジ、ボルト等の金属部品が、こすれ、または、ぶつかる音である。カットオフ周波数は、4kHz以上、20kHz以下の範囲で変更可能であってよい。
【0012】
AD変換部120は、ハイパスフィルタ110が出力したアナログ信号を、所定のビット数のデジタル信号に変換する。AD変換部120は、所定の周期でアナログ信号をサンプリングして、時系列のデジタル信号を出力する。本例によれば、AD変換部120の前にハイパスフィルタ110が配置されている。このため、AD変換部120に入力されるアナログ信号の振幅を小さくできる。従って、デジタル信号におけるデジタル値の範囲を、比較的に小さい振幅に割り当てることができ、デジタル信号における振幅分解能を向上できる。このため、対象の信号を高精度に録音できる。
【0013】
録音装置100は、信号処理部130、制御部140および通信部150の少なくとも一つを更に備えてよい。信号処理部130は、AD変換部120が出力するデジタル信号に対して所定の処理を行う。信号処理部130は、例えばデジタル信号に対して所定の演算を行い、デジタルフィルタ処理を行ってよい。信号処理部130は、デジタル信号に対して、ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数以下の周波数成分を低減させてよい。これにより、人の音声をより確実に除去できる。
【0014】
信号処理部130は、所定の処理を行ったデジタル信号を、記憶媒体20に記憶してよい。また、信号処理部130は、所定の処理を行ったデジタル信号を、通信部150を介して外部に送信してもよい。
【0015】
制御部140は、信号処理部130の動作を制御する。制御部140は、信号処理部130のデジタルフィルタ処理におけるカットオフ周波数を調整してよい。制御部140は、信号処理部130を制御して、デジタル信号を記憶媒体20に記憶させてよく、デジタル信号を外部に送信させてもよい。制御部140は、使用者等から入力される指示に応じて、信号処理部130の動作を制御してよい。
【0016】
通信部150は、信号処理部130から指定された信号を外部に送信する。通信部150は、信号処理部130が処理したデジタル信号を、外部に送信してよい。通信部150は、デジタル信号を外部のサーバーに送信してよい。当該サーバーは、デジタル信号に含まれる音の情報を解析してよい。サーバーは、音の情報に基づいて、上述した工具等の動作状況を解析してよい。より具体的には、サーバーは、デジタル信号に含まれる音の情報から、インパクトドライバーによるネジ等の締結が完了したか否かを判定してよい。本例によれば、通信部150が外部に送信するデジタル信号には、人の音声の情報がほとんど含まれない。このため、個人情報または機密情報の漏洩を防ぐことができる。
【0017】
ハイパスフィルタ110は、次数およびカットオフ周波数等の特性が可変であってよい。制御部140は、ハイパスフィルタ110の特性を制御してよい。
【0018】
例えば制御部140は、音検知部10が出力するアナログ信号の振幅に応じて、ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数を制御してよい。制御部140は、アナログ信号の振幅が大きいほど、カットオフ周波数を高く制御してよい。制御部140は、アナログ信号の振幅が大きいほど、ハイパスフィルタ110の次数を高く制御してよい。これにより、アナログ信号から除去される成分が増大するので、AD変換部120に入力されるアナログ信号の振幅を抑制できる。制御部140は、AD変換部120が出力するデジタル信号に応じて、ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数または次数を制御してもよい。制御部140は、デジタル信号の値が飽和した(すなわち、デジタル信号が最大値となった)場合に、ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数をより高い値に設定し、または、次数をより高い次数に設定してよい。これにより、デジタル信号の値が飽和することを抑制できる。
【0019】
図2は、ハイパスフィルタ110の構成例を示す回路図である。本例のハイパスフィルタ110は、入力部11、第1コンデンサ111、第2コンデンサ112、コイル113、抵抗114、および、出力部121を備える。入力部11は、音検知部10からアナログ信号が入力される端子である。出力部121は、AD変換部120にアナログ信号を出力する端子である。
【0020】
第1コンデンサ111および第2コンデンサ112は、入力部11および出力部121の間に直列に設けられる。コイル113は、第2コンデンサ112および出力部121の接続ノードと、基準電位との間に設けられる。基準電位は、例えばグランド電位である。抵抗114は、第2コンデンサ112および出力部121の接続ノードと、基準電位との間に設けられる。コイル113と抵抗114は、互いに並列に設けられている。このような構成によりハイパスフィルタ110は、高周波成分を出力部121に通過させ、低周波成分をコイル113および抵抗114を介して基準電位に出力する。
【0021】
ハイパスフィルタ110は、スイッチ115、スイッチ116、スイッチ117およびスイッチ118の少なくとも一つを備えてよい。スイッチ115は、第1コンデンサ111と並列に設けられ、第1コンデンサ111の両端を接続するか否かを切り替える。つまりスイッチ115は、入力部11から伝送されたアナログ信号を、第1コンデンサ111に通過させるか、スイッチ115に迂回させるかを切り替える。
【0022】
スイッチ116は、第2コンデンサ112と並列に設けられ、第2コンデンサ112の両端を接続するか否かを切り替える。つまりスイッチ116は、入力部11から伝送されたアナログ信号を、第2コンデンサ112に通過させるか、スイッチ116に迂回させるかを切り替える。
【0023】
スイッチ117は、コイル113と直列に設けられ、入力部11から伝送されたアナログ信号の成分を、コイル113を介して基準電位に出力させるか否かを切り替える。スイッチ118は、抵抗114と直列に設けられ、入力部11から伝送されたアナログ信号の成分を、抵抗114を介して基準電位に出力させるか否かを切り替える。
【0024】
制御部140は、それぞれのスイッチを制御してよい。それぞれのスイッチを制御することで、ハイパスフィルタ110の次数およびカットオフ周波数を調整できる。
図2の例のハイパスフィルタ110は、コンデンサおよびスイッチの組み合わせを直列に2組備えている。他の例では、ハイパスフィルタ110は、コンデンサおよびスイッチの組み合わせを直列に3組以上備えてもよい。
【0025】
第1コンデンサ111の容量をC1[F]、第2コンデンサ112の容量をC2[F]、コイル113の容量をL[H]、抵抗114の抵抗値をR[Ω]とする。それぞれのスイッチのオン抵抗は0とし、配線等における寄生成分は0とする。
【0026】
スイッチ115およびスイッチ116がオン、スイッチ117およびスイッチ118がオフの場合、ハイパスフィルタ110はバイパスモードとなり、入力部11から出力部121までの伝達関数は1となる。従って、アナログ信号の周波数特性は変化しない。
【0027】
スイッチ115がオフ、スイッチ116がオン、スイッチ117がオフ、スイッチ118がオンの場合、ハイパスフィルタ110は一次フィルタとして機能し、カットオフ周波数fcは下式となる。
fc=1/(2π×(C1×R))
【0028】
スイッチ115がオフ、スイッチ116がオン、スイッチ117がオン、スイッチ118がオフの場合、ハイパスフィルタ110は二次フィルタとして機能し、カットオフ周波数fcは下式となる。
fc=1/(2π×(C1×L)0.5)
【0029】
スイッチ115がオン、スイッチ116がオフ、スイッチ117がオフ、スイッチ118がオンの場合、ハイパスフィルタ110は一次フィルタとして機能し、カットオフ周波数fcは下式となる。
fc=1/(2π×(C2×R))
【0030】
スイッチ115がオン、スイッチ116がオフ、スイッチ117がオン、スイッチ118がオフの場合、ハイパスフィルタ110は二次フィルタとして機能し、カットオフ周波数fcは下式となる。
fc=1/(2π×(C2×L)0.5)
【0031】
スイッチ115がオフ、スイッチ116がオフ、スイッチ117がオフ、スイッチ118がオンの場合、ハイパスフィルタ110は一次フィルタとして機能し、カットオフ周波数fcは下式となる。ただし、C1とC2の直列合成容量をC3とする。
fc=1/(2π×(C3×R))
【0032】
スイッチ115がオフ、スイッチ116がオフ、スイッチ117がオン、スイッチ118がオフの場合、ハイパスフィルタ110は二次フィルタとして機能し、カットオフ周波数fcは下式となる。
fc=1/(2π×(C3×L)0.5)
【0033】
このように、各スイッチを制御することで、ハイパスフィルタ110の次数およびカットオフ周波数を制御できる。本例では、ハイパスフィルタ110がシングルエンド回路の例を説明したが、ハイパスフィルタ110は全作動回路であってもよい。ハイパスフィルタ110の具体的回路は本例に限定されない。
【0034】
また、ハイパスフィルタ110は、
図2に示すように受動素子で構成され、増幅器等の能動素子を含まないことが好ましい。受動素子のみでハイパスフィルタ110を構成することで、ハイパスフィルタ110が出力するアナログ信号の振幅が増幅されることを防げる。このため、AD変換部120に入力するアナログ信号の振幅を抑制できる。
【0035】
図3は、アナログ信号の周波数スペクトルと、ハイパスフィルタ110の周波数特性の一例を示す図である。
図3における横軸は周波数を示し、縦軸はスペクトル強度を示す。本例のハイパスフィルタ110は、二次フィルタとして機能している。ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数をfcとする。カットオフ周波数fcは、ゲインが-6dBとなる周波数である。
【0036】
本例のアナログ信号は、録音対象である対象信号の周波数成分と、発話ノイズの周波数成分とを含む。本例の対象信号は、例えばインパクトドライバ等の工具が発生する金属音である。本例の対象信号のスペクトルのピーク周波数は、20kHzより大きい。発話ノイズは、人の音声によるノイズである。発話ノイズのスペクトルは、主に1kHz~4kHzの帯域に分布している。発話ノイズのスペクトルのピーク周波数は、4kHzより小さい。
【0037】
カットオフ周波数fcは、発話ノイズのスペクトルのピーク周波数より高いことが好ましい。カットオフ周波数fcは、4kHz以上である。カットオフ周波数fcは、発話ノイズのスペクトルの上端周波数より大きくてよい。例えばカットオフ周波数fcは、10kHz以上であってもよい。ただし、カットオフ周波数fcは、対象信号のピーク周波数より低いことが好ましい。例えばカットオフ周波数fcは、20kHz以下である。対象信号のピーク周波数をf1、対話ノイズのピーク周波数をf2とする。カットオフ周波数fcは、ピーク周波数f1およびピーク周波数f2の中間周波数に設定されてよく、中間周波数±5kHzの範囲内に設定されてよく、中間周波数±3kHzの範囲内に設定されてよく、中間周波数±1kHzの範囲内に設定されてもよい。これにより、対象信号の成分を残留させることと、発話ノイズの成分を除去することを両立しやすくなる。制御部140は、アナログ信号に含まれる発話ノイズ等のノイズ成分のピーク周波数と、対象信号のピーク周波数とに基づいて、ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数fcを設定してよい。制御部140は、ハイパスフィルタ110をバイパスモードに設定した状態でアナログ信号をAD変換部120に入力し、信号処理部130に周波数スペクトルを解析させてよい。
【0038】
発話ノイズは、使用者等の会話が含まれている。使用者の会話には、使用者自身または他人の個人情報、および、業務上の機密情報が含まれ得る。本例の録音装置100によれば、このような個人情報および機密情報が含まれる発話ノイズを除去した信号を記録できる。
【0039】
図4は、アナログ信号に含まれる振動雑音の周波数スペクトルの例を示す図である。アナログ信号には、振動雑音成分に加えて、
図3に示した発話ノイズ成分および対象信号成分が含まれてよい。
図4では、発話ノイズ成分を省略している。
【0040】
振動雑音は、例えば工具の振動により生じる音である。振動雑音のスペクトルは、主に1kHz~3kHzに分布している。ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数fcを4kHz以上に設定することで、振動雑音成分も除去できる。
【0041】
図5は、ハイパスフィルタ110に入力されるアナログ信号の時間波形の一例を示す図である。アナログ信号には、対象信号の成分と、発話ノイズ等のノイズ成分が含まれている。信号振幅はこれらの成分の和になるので、信号振幅が大きい。
【0042】
図6は、ハイパスフィルタ110が出力するアナログ信号の時間波形の一例を示す図である。当該アナログ信号からは、発話ノイズ等のノイズ成分が除去されている。このため、対象信号成分が周期的に観察され、また、全体的な振幅が小さくなっている。当該アナログ信号をAD変換部120に入力するので、AD変換部120の各ビットを効率よく利用して、振幅方向の分解能を向上できる。
【0043】
信号処理部130は、AD変換部120が出力するデジタル信号に対して所定の処理を行う。信号処理部130は、デジタル信号に対してデジタルフィルタ処理を行ってよい。当該デジタルフィルタは、通過帯域と阻止帯域との間の過渡領域において、ゲインが最小値から最大値まで直線的に変化する特性を有してよい。デジタルフィルタの境界周波数fbは、ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数fcと一致していてよく、カットオフ周波数fcより小さくてよく、大きくてもよい。
【0044】
一例として、ハイパスフィルタ110の伝達関数gA(f)は下式となる。
gA(f)=f2×(1+(2π×(f/fc))2)
また、デジタルフィルタの伝達関数gD(f)は下式となる。なお、過渡領域の帯域をfb1~fb2とする。
f<fb1において、
gD(f)=1/A ただし、Aは設定される定数。
f≧fb2において、
gd(f)=(1+(2π×(f/fc))2)/f2
【0045】
また信号処理部130は、AD変換部120が出力するデジタル信号に対して、デジタルノイズを重畳してもよい。信号処理部130は、発話ノイズの成分が解析できないように、発話ノイズの成分の周波数帯域の少なくとも一部に、デジタルノイズを重畳することが好ましい。
【0046】
図7は、信号処理部130が重畳するデジタルノイズの一例を示す図である。
図7においては、デジタルノイズが重畳されたデジタル信号の周波数スペクトルと、ハイパスフィルタ110の周波数特性を示している。デジタル信号には、デジタルノイズの成分と、対象信号の成分が含まれる。
【0047】
信号処理部130は、ハイパスフィルタ110のカットオフ周波数fc以下の周波数帯域の少なくとも一部に、デジタルノイズを重畳する。信号処理部130は、カットオフ周波数fc以下の周波数帯の全体に、デジタルノイズを重畳してもよい。信号処理部130は、カットオフ周波数fcよりも大きい周波数帯域にも、デジタルノイズを重畳してよい。例えば信号処理部130は、カットオフ周波数fcと、対象信号のスペクトルのピーク周波数との間の帯域の少なくとも一部に、デジタルノイズを重畳してもよい。
【0048】
信号処理部130は、発話ノイズのスペクトルのピーク周波数を含む帯域にデジタルノイズを重畳してよい。信号処理部130は、デジタルフィルタの過渡領域の下限周波数fb1以下の帯域にデジタルノイズを重畳してよく、上限周波数fb2以下の帯域にデジタルノイズを重畳してもよい。
【0049】
信号処理部130は、1kHz以上の帯域にデジタルノイズを重畳してよい。これにより、発話ノイズの帯域のほぼ全体にわたって、デジタルノイズを重畳できる。信号処理部130は、0.5kHz以上の帯域にデジタルノイズを重畳してよく、0Hz以上の帯域にデジタルノイズを重畳してもよい。
【0050】
デジタルノイズを重畳することで、記録するデジタル信号からは、発話ノイズの内容を解析することが困難となる。デジタルノイズは、いわゆるホワイトノイズであってよい。つまりデジタルノイズは、ノイズ重畳の対象となる帯域の全体にわたって、スペクトル強度がほぼ一定となるノイズであってよい。例えばデジタルノイズは、スペクトル強度の変動幅が、スペクトル強度の平均値の±3dBの範囲内であってよい。
【0051】
図8は、デジタルノイズが重畳されたデジタル信号の時間波形の一例を示す図である。本例の波形は、
図6に示した波形に対して、デジタルノイズ成分が重畳されている。デジタルノイズ成分の振幅は、対象信号成分の振幅より小さくてよく、大きくてもよい。
【0052】
本例によれば、AD変換部120よりも後段においてデジタルノイズを重畳するので、AD変換部120に入力するアナログ信号の振幅は増大しない。そして、デジタルノイズを重畳することで、音声情報を秘匿化できる。通信部150は、音声情報が秘匿化された信号を外部に送信できる。また、記憶媒体20は、音声情報が秘匿化された信号を記録できる。
【0053】
図9は、録音装置100および音検知部10が搭載された回路基板360の一例を示す図である。回路基板360には、録音装置100および音検知部10以外の回路も設けられてよい。回路基板360には、記録媒体20も設けられてよい。
【0054】
回路基板360には、防振材380が設けられる。防振材380は、回路基板360よりも弾性率が低い材料で形成される。例えば防振材380は、シリコンゲルで形成されている。防振材380は、回路基板360と、回路基板360が収容される筐体の壁との間に配置されている。本例の防振材380は、回路基板360の一部分を周回するように設けられている。これにより、音検知部10の振動を抑制して、アナログ信号における振動成分を抑制できる。
【0055】
防振材380は、回路基板360に対して複数設けられてよい。また、防振材380は、複数の回路基板360に対して共通に設けられてもよい。本例では、複数の回路基板360が積層して設けられている。2つの回路基板360の間には、支持部370が配置されている。支持部370は、2つの回路基板360の間隔を規定する。支持部370は、回路基板360からの熱を外部に放出するヒートシンクとして機能してもよい。防振材380は、複数の回路基板360および支持部370を周回するように設けられてよい。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0057】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0058】
10・・・音検知部、11・・・入力部、20・・・記憶媒体、100・・・録音装置、110・・・ハイパスフィルタ、111・・・第1コンデンサ、112・・・第2コンデンサ、113・・・コイル、114・・・抵抗、115・・・スイッチ、116・・・スイッチ、117・・・スイッチ、118・・・スイッチ、120・・・AD変換部、121・・・出力部、130・・・信号処理部、140・・・制御部、150・・・通信部、360・・・回路基板、370・・・支持部、380・・・防振材