(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153189
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20221004BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20221004BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/64 A
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056296
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋元 一摩
(72)【発明者】
【氏名】藤田 慎
(72)【発明者】
【氏名】三枝 昌寛
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE00
5H017EE01
5H017EE06
5H017EE09
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA04
5H050FA17
(57)【要約】
【課題】
リチウムイオン二次電池への外部からの衝撃に対する発熱を抑制した電極を提供すること。
【解決手段】
金属箔と、金属箔の少なくとも一部に形成された導電層と、その導電層の面のうち金属箔に対向する面とは反対の面の少なくとも一部に形成された活物質層と、を有し、導電層は、無機粒子と導電性粒子とからなる複合化粒子を有し、複合化粒子は、無機粒子の少なくとも表面の一部に導電性粒子を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池用電極。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と、
前記金属箔の少なくとも一部に形成された導電層と、
前記導電層の面のうち金属箔に対向する面とは反対の面の少なくとも一部に形成された活物質層と、を有し、
前記導電層は、無機粒子と導電性粒子とからなる複合化粒子を有し、
前記複合化粒子は、前記無機粒子の少なくとも表面の一部に前記導電性粒子を有する
ことを特徴とする、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記無機粒子は、リチウム化合物である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記無機粒子は、LiVOPO4である、請求項1または2のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等と比べ、軽量、高エネルギー密度であるため、携帯電子機器用電源として広く応用されている。また、ハイブリッド自動車や、電気自動車用に搭載される電源として有力な候補ともなっている。そして、近年の携帯電子機器の小型化、高機能化に伴い、これらの電源となるリチウムイオン二次電池への更なる高エネルギー密度化が期待されている。
【0003】
現状のリチウムイオン二次電池は安全性の面でも高水準にあるが、その高容量及び高出力ゆえに、安全性の面でさらなる向上が要望されている。たとえば、リチウムイオン二次電池が過充電されると、発熱する可能性がある。また、内部短絡の発生によっても、発熱する可能性がある。さらに、リチウムイオン二次電池は有機溶媒を含有する非水電解質を含んでいるので、発熱に伴って有機溶媒が化学的に分解してガスが発生し、電池の内圧が上昇する等の不具合が生じる可能性がある。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1は集電体の表面にPTC機能を有する導電層を設ける技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される従来のPTC機能を有する導電層を設けた集電体では、衝撃による内部短絡による発熱の対策としては不十分であるという課題があった。本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、衝撃時に導電層を形成するシェル層がコア粒子から外れにくいことが原因だということを見出した。
【0007】
発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池への外部からの衝撃に対する発熱を抑制した電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極は、金属箔と、前記金属箔の少なくとも一部に形成された導電層と、前記導電層の面のうち金属箔に対向する面とは反対の面の少なくとも一部に形成された活物質層と、を有し、前記導電層は、無機粒子と導電性粒子とからなる複合化粒子を有し、前記複合化粒子は、前記無機粒子の少なくとも表面の一部に前記導電性粒子を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極は、リチウムイオン二次電池への衝撃によって導電層を構成する複合化粒子から導電性粒子が外れて無機粒子が露出する。このとき導電層は、無機粒子の電気抵抗により抵抗層として機能する。そのため、リチウムイオン二次電池の内部短絡を抑制し、それによる発熱も抑制することが可能となる。
【0010】
また、前記無機粒子は、リチウム化合物であることが好ましい。
【0011】
導電層には、電解液中で安定であること以外に、リチウムイオン二次電池に衝撃が加わった場合、導電性粒子が外れやすいことが重要である。硬度が低すぎると導電性粒子への衝撃を吸収し、導電性粒子が無機粒子から外れにくくなり、また、硬度が高すぎると導電性粒子が引き延ばされにくくなるため、やはり導電性粒子が無機粒子から外れにくくなる。本構成にすれば、リチウム化合物は、適切な硬度であり、衝撃が加わった場合、導電性粒子が無機粒子から外れやすい。そのためリチウムイオン二次電池の発熱抑制の効果をさらに向上させることが可能となる。
【0012】
また、前記無機粒子は、LiVOPO4であることが好ましい。
【0013】
本構成により、導電層の無機粒子は熱安定性が向上する。そのため、仮に、内部短絡が抑制された中で、抵抗層にかかる電気的ポテンシャル等により発熱してしまうことがあっても、抵抗層としての機能が維持され、内部短絡の拡大とそれにともなう温度上昇は抑制される。また、導電性粒子が外れやすい硬度を有する点も好ましい。そのため、上記のリチウムイオン二次電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池は発熱抑制の効果をさらに向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池に外部から衝撃が加わり、内部短絡が発生しうる状況になっても、発熱を抑制しうるリチウムイオン二次電池用電極と、それを用いたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池の積層体模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<リチウムイオン二次電池>
図1に本実施形態のリチウムイオン二次電池の積層体模式断面図を示す。
【0018】
1、2、3から構成される正極と、5、6、7から構成される負極と、電解質を含浸させたセパレータ4とを
図1のように作製することでリチウムイオン二次電池の積層体10を作製することができる。ここで、正極は、正極集電体3上、もしくは正極に設けられた導電層2上、に正極活物質層1を形成することで作製することができ、負極は、負極集電体7上、もしくは負極に設けられた導電層6上、に負極活物質層5を形成することで作製することができる。ただし、本発明の効果を発揮するためには、正極集電体3と正極活物質層1の間に導電層2を形成するか、負極集電体7と負極活物質層5の間に導電層6を形成する必要がある。なお、図面中8と9は、それぞれ正極と負極の引出し電極を示す。
【0019】
<導電層を有する金属箔>
本実施形態に係る導電層を有する金属箔は、少なくとも片面の一部、または全面に形成されている導電層があり、導電層上に活物質層が形成されているリチウムイオン二次電池用電極である。この電極に含まれる導電層は、無機粒子であるコア粒子と、コア粒子の少なくとも表面の一部に導電性粒子を有する複合化粒子が含まれることを特徴とする。
【0020】
リチウムイオン二次電池の通常使用時においては、コア粒子表面の導電性粒子によって、良好な電子パスが確保され、導電層として機能する。一方、リチウムイオン二次電池に外部から衝撃が加わり内部短絡が発生しうる状況になった場合においては、コア粒子表面から導電性粒子が外れ、電子パスが失われることによって高抵抗層として機能する。以下、当該機能を与えるために必要な実施形態を説明する。
【0021】
本実施形態の金属箔は、導電性の板材であればよく、例えば、負極用としては、銅、ニッケル又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板(金属箔)を用いることができ、正極用としては、アルミニウム又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0022】
本実施形態の無機粒子は、外部衝撃により内部短絡の起点が形成された場合に、大電流の発生を抑制できるだけの高い抵抗値を持った無機粒子が好ましい。具体的には1.0×106[Ωcm]以上であることが好ましい。例えば、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックスや、LiFePO4、LiVOPO4などのリチウムイオン化合物のように電気抵抗が高い酸化物を用いることができる。
【0023】
この無機粒子は、表面からの導電性粒子の外れやすさを考慮すると、高抵抗であるだけでなく適度な硬度を有することが望ましい。すなわち、無機粒子表面からの導電性粒子の外れやすさは無機粒子の硬度に影響される。無機粒子の硬度が低すぎる場合には、外部からの衝撃が導電性粒子の内部に吸収されて導電性粒子の脱離が困難になる傾向がある。一方、硬度が高すぎる場合には、導電性粒子が変形しにくくなることにより無機粒子と導電性粒子との吸着を解消させる基点が形成されにくく、その結果導電性粒子の脱離が困難になる傾向がある。
【0024】
この無機粒子はリチウムイオン化合物のうちLiVOPO4であることが好ましい。LiVOPO4は、無機粒子の材料のなかでも適度な強度を有するため高抵抗層の形成が容易であると共に、熱安定性が高いため内部短絡による電池内部の温度上昇が生じても電気抵抗を維持できるという安全上の副次的な利点がある。
【0025】
本実施形態の導電性粒子としては、良好な導電性を有する材料であれば特に限定されず、炭素系材料や、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料、ITO等の導電性酸化物、またはそれらの化合物や混合物が挙げられる。無機粒子表面からの外れやすさを考慮すると、無機粒子と比較して柔軟な炭素系材料が好ましい。この炭素系材料としては、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、黒鉛などが挙げられる。
【0026】
この導電性粒子は、無機粒子の少なくとも表面の一部に存在していればよいが、無機粒子表面の50[%]以上を覆っていることが好ましい。同時に、無機粒子の表面の一部に導電性粒子を設けた複合化粒子としてみた場合の抵抗値が50[Ωcm]以下であることが好ましい。これらによれば、リチウムイオン二次電池の通常使用時において出力の低下を抑制することができる傾向がある。
【0027】
<導電性粒子により被覆した無機粒子の被覆率測定>
複合化粒子における導電性粒子による被覆率を測定するには、X線光電子分光法(以下、「XPS」という。)を用いることができる。すなわち、XPSにより無機粒子由来のスペクトルと導電性粒子由来のスペクトルとを取得し、各成分の定量化を行い、導電性粒子由来のスペクトルの定量値を、導電性粒子による無機粒子の被覆率とすることができる。
【0028】
<導電性粒子により被覆した無機粒子の抵抗値測定>
複合化粒子については抵抗計を用いて抵抗値を測定する。抵抗値を測定するには複合化粒子をペレット成型し、作製したペレットに対して、抵抗計で測定を行い、複合化粒子の抵抗値とすることができる。
【0029】
<複合化粒子の製造>
本実施形態の複合化粒子は、無機粒子と導電性粒子とを、遊星ボールミルに充填して粉砕混合し、回収することで製造される。ここで、無機粒子の充填量は、導電性粒子の充填量を1質量部としたとき、5~30質量部であることが好ましく、5~15質量部であることがより好ましい。無機粒子と導電性粒子との充填量は、複合化粒子がリチウムイオン二次電池として通常使用する際は出力を損なわない程度に豊富な量の導電性粒子を有し、リチウムイオン二次電池に外部から衝撃が加わった際は導電性粒子の剥離により無機粒子が露出して高抵抗層となる程度に少ない量の導電性粒子を有する必要がある。上記の範囲内は、両者の機能を発揮させる好ましい充填量の範囲である。
【0030】
<集電体への導電層形成>
得られた複合化粒子と、導電助剤と、バインダとを、水またはN-メチル-2-ピロリドンなどの溶媒に混合分散させてペースト状のスラリーを作製する。次いで、このスラリーを、例えばコンマロールコーターを用いて、アルミ箔や銅箔などの集電体の片面または両面に所定の厚みで塗布し、乾燥炉内に導入して溶媒を蒸発させる。なお、集電体の両面に塗布された場合、導電層となる塗膜の厚みは、両面とも同じ厚みであることが望ましい。また、溶媒蒸発後、ローラープレスによって加圧成形を行ってもよい。前記導電層となる塗膜の厚みは、1[μm]以上、10[μm]未満であることが好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池に外部から衝撃が加わり内部短絡が発生しうる状況になった場合は高抵抗層として十分な機能を発揮することが可能となり、かつ、通常使用時においては出力を低下させることがない。
【0031】
<正極>
正極は後述するように正極用集電体3上、もしくは正極に設けられた導電層2上、に正極活物質層1を形成することで作製することができる。
【0032】
(正極用集電体)
正極用集電体3は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板あるいは金属箔を用いることができる。
【0033】
(正極活物質層)
正極活物質層1は、正極活物質、正極用バインダ、及び、必要に応じた量の正極用導電助剤から主に構成されるものである。
【0034】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6
-)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の電極活物質を使用できる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物が挙げられる。
【0035】
(正極用バインダ)
正極用バインダは、正極活物質同士を結合すると共に、正極活物質と集電体とを結合している。バインダは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。更に、上記の他に、バインダとして、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いてもよい。また、バインダとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダが導電助剤粒子の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO4、LiBF4、LiPF6等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤が挙げられる。
【0036】
(正極用導電助剤)
正極用導電助剤も、正極活物質層1の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素系材料や、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0037】
<負極>
負極は後述するように負極用集電体7上、もしくは負極に設けられた導電層6上、に負極活物質層5を形成することで作製することができる。
【0038】
(負極用集電体)
負極用集電体7は、導電性の板材であればよく、例えば、銅、ニッケル又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0039】
(負極活物質層)
負極活物質層5は、負極活物質、負極用バインダ、及び、必要に応じた量の負極用導電助剤から主に構成されるものである。
【0040】
(負極活物質)
負極活物質としてはグラファイト、酸化シリコン(SiOx)、金属シリコン(Si)等が挙げられる。
【0041】
(負極用バインダ)
負極用バインダとしては特に限定は無く、上記で記載した正極用バインダと同様のものを用いることができる。
【0042】
負極活物質層5中のバインダの含有量も特に限定されないが、負極活物質層全体の1~20質量部であることが好ましい。
【0043】
(負極用導電助剤)
負極用導電助剤としては特に限定は無く、上記で記載した正極用導電助剤と同様のものを用いることができる。
【0044】
<電解質>
電解質としては、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3、CF2SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(CF3CF2CO)2、LiBOB等の塩が使用できる。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(無機粒子であるコア粒子と、該コア粒子の少なくとも表面の一部に導電性粒子を有する複合化粒子の作製)
LiVOPO4を50[g]と、アセチレンブラックを5g、遊星ボールミル用容器に入れ、さらにジルコニアビーズを入れ、回転数500[rpm]、処理時間10分の粉砕混合を行った後、得られた粉末を回収し、無機粒子の少なくとも表面の一部に導電性粒子を有する複合化粒子を得た。
【0048】
(集電体上への導電層形成)
上記の方法で得られた複合化粒子90質量部、アセチレンブラック5質量部、PVdF5質量部、及び溶剤としてN-メチルピロリドンを混合し、導電層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、厚さ12[μm]のアルミ箔の両面に塗布し、100[℃]で乾燥することで導電層が5[μm]である導電層が形成された正極集電体を得た。
【0049】
(正極の作製)
正極活物質としてLiCoO2を96質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを2質量部、バインダとしてPVdFを2質量部、及び溶剤としてN-メチルピロリドンを混合し、活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、上記で得られた導電層が形成された正極集電体の両面に塗布し、100[℃]で乾燥後、ローラープレスによって加圧成形することで正極活物質層を有する正極を得た。
【0050】
(負極の作製)
負極活物質としてSiを83質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを2質量部、バインダとしてポリアミドイミドを15質量部、及び溶剤としてN-メチルピロリドンを混合し、活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、厚さ10[μm]の銅箔の両面に塗布し、100[℃]で乾燥後、ローラープレスによって加圧成形し、真空中、350[℃]で3時間熱処理することで負極活物質層を有する負極を得た。
【0051】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製)
上記で作製した正極と、負極とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んでアルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF6溶液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=3/7(体積比))を注入した後、真空シールし、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0052】
(レート特性の測定)
実施例1で作製した評価用リチウムイオン二次電池について、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用い、温度25[℃]の恒温槽中で電圧範囲を2.8[V]から4.2[V]までとし、0.05[C]での電流値で充電、放電を1サイクル行い、容量が正常であることを確認した。同様に、0.05[C]での電流値で充電を行った後、0.2[C]または2[C]の電流値で放電を行い、それぞれのレートでの放電容量を求め、レート特性(100×2[C]放電容量/0.2[C]放電容量)を求めた。正極集電体上に形成された導電層の抵抗値が低い場合、ハイレートでの電子の移動が阻害されないので高い維持率を示す。
【0053】
(電池表面温度の測定)
実施例1で作製した評価用リチウムイオン二次電池について、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用い、温度25[℃]の恒温槽中で4.2[V]まで充電を行った後、釘刺し試験を行った。釘刺し試験は、温度25[℃]の恒温槽中で前記評価用リチウムイオン二次電池を直径10[mm]の穴のあいたフェノール樹脂板上に固定し、直径3[mm]、長さ65[mm]の鉄製の釘を10[mm/s]の速度で前記評価用リチウムイオン二次電池に対して垂直に突き刺し、電池から10[mm]貫通させ、3分間保持した後、釘を引き抜いた。電池に釘を刺してから30秒後の電池表面温度を測定した。
【0054】
<実施例2~18>
無機粒子の材料、導電性粒子による被覆率、および、導電層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~18のリチウムイオン二次電池を得た。また、得られたリチウムイオン二次電池を用いて、実施例1と同様にして、実施例2~18のレート特性および電池表面温度の測定を実施した。
【0055】
実施例1~18の評価用結果を表1に示す。実施例1~18のように導電性粒子により被覆された無機粒子を含む導電層を正極集電体上に設けることで、レート特性を維持したまま、発熱の抑制効果が得られた。また、無機粒子のなかでも、リチウム化合物を用いた場合は、より高い発熱の抑制効果が認められ、LiVOPO4を用いた場合は、さらに好ましい結果を示した。また、レート特性に関しては、導電性粒子による被覆率と導電層を最適な範囲にすることで、良好な結果が得られた。
【0056】
<比較例1、2>
無機粒子の材料、導電性粒子による被覆率および、導電層の厚みを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1および2のリチウムイオン二次電池を得た。また、得られたリチウムイオン二次電池を用い、実施例1と同様の条件で比較例1、2のレート特性および電池表面温度の測定を実施した。
【0057】
比較例1、2の評価用結果を表1に示す。比較例1は無機粒子が存在せず、導電層は導電性粒子のみを成分としており、比較的高い温度上昇を示した。また比較例2では導電性粒子が存在しておらず、導電層の役割を果たせていないことから、電池表面温度は良好であるものの著しく低いレート特性を示した。
【0058】
集電体上に導電層を設け、前記導電層が、無機粒子であるコア粒子と、該コア粒子の少なくとも表面の一部に導電性粒子を有する複合化粒子を含んでいることで、外部からの衝撃に対してレート特性を維持しつつ発熱を抑制したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
1…正極活物質、2…正極に設けた導電層、3…正極集電体、4…セパレータ、5…負極活物質、6…負極に設けた導電層、7…集電体、8、9…リード、10…リチウムイオン二次電池の積層体。