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特開2022-153201III族窒化物半導体素子とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153201
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20221004BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01L33/32
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056316
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AF42
5F173AG17
5F173AR81
5F241AA40
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA57
5F241CA60
5F241CA65
5F241CA88
5F241CB11
(57)【要約】
【課題】 単純な構造で活性層にかかる歪を緩和することができるIII 族窒化物半導体素子とその製造方法を提供することである。
【解決手段】 n側組成変化層150は、中間層152と組成連続変化層151、153とを有する。中間層152はInを含むIII 族窒化物半導体層である。組成連続変化層151、153は、井戸層161と障壁層162との境界面に垂直な方向に対してIn組成が変化するIII 族窒化物半導体層である。中間層152の膜厚は、井戸層161の膜厚よりも薄い。中間層152のIn組成は、井戸層161のIn組成以下である。組成連続変化層151、153は、中間層152に向かってIn組成が流線形に連続的に変化する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
活性層と、
前記基板と前記活性層との間の下地層と、
を有するIII 族窒化物半導体素子において、
前記活性層は、
井戸層と障壁層とを有し、
前記下地層は、
組成連続変化層を有し、
前記井戸層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、
前記障壁層はIII 族窒化物半導体層であり、
前記組成連続変化層は、
前記井戸層と前記障壁層との境界面に垂直な方向に対してIn組成が変化するIII 族窒化物半導体層であり、
In組成が流線形に連続的に変化すること
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【請求項2】
請求項1に記載のIII 族窒化物半導体素子において、
前記下地層は、
中間層を有し、
前記中間層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、
前記中間層の膜厚は、
前記井戸層の膜厚よりも薄く、
前記中間層のIn組成は、
前記井戸層のIn組成以下であり、
前記組成連続変化層は、
前記中間層に向かってIn組成が流線形に連続的に変化すること
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【請求項3】
請求項2に記載のIII 族窒化物半導体素子において、
前記組成連続変化層は、
前記活性層に近づくにつれてIn組成が指数関数的に増加する第1組成連続変化層を有し、
前記中間層は、
前記第1組成連続変化層と前記活性層との間に位置していること
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のIII 族窒化物半導体素子において、
前記組成連続変化層は、
前記活性層に近づくにつれてIn組成が指数関数的に減少する第2組成連続変化層を有し、
前記第2組成連続変化層は、
前記中間層と前記活性層との間に位置していること
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【請求項5】
請求項4に記載のIII 族窒化物半導体素子において、
前記第2組成連続変化層は、
前記活性層の前記障壁層と接触しており、
前記接触箇所では、
前記第2組成連続変化層のIn組成と前記障壁層のIn組成とは同じであること
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【請求項6】
請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子において、
前記井戸層の格子定数は、
前記中間層の格子定数以上であること
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【請求項7】
請求項6に記載のIII 族窒化物半導体素子において、
前記中間層の格子定数は、
前記組成連続変化層の格子定数の平均値より大きく、
前記組成連続変化層の格子定数の平均値は、
前記障壁層の格子定数より大きいこと
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【請求項8】
基板に中間層と組成連続変化層とを有する下地層を成長させる工程と、
前記下地層より上層に井戸層と障壁層とを有する発光層を成長させる工程と、
を有し、
前記井戸層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、
前記障壁層はIII 族窒化物半導体層であり、
前記中間層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、
前記組成連続変化層は、
積層方向に対してIn組成が変化するIII 族窒化物半導体層であり、
前記下地層を成長させる工程では、
キャリアガスとして水素ガスを含むガスを用いるとともに、
前記水素ガスの流量を変化させながら前記組成連続変化層を成長させること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記下地層を成長させる工程では、
前記水素ガスの流量を線形的に変化させること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記下地層を成長させる工程では、
前記水素ガスの流量を線形的に減少させながら第1組成連続変化層を成長させ、
前記第1組成連続変化層を成長させた後に、前記水素ガスの流量を一定にしながら前記中間層を成長させ、
前記中間層を成長させた後に、前記水素ガスの流量を線形的に増加させながら第2組成連続変化層を成長させること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、III 族窒化物半導体素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体は、発光素子、レーザーダイオード、受光素子等に応用されている。発光素子およびレーザーダイオードにおいては、基板と活性層との間に歪が発生すると明るさが低下する。歪は半導体の結晶性を低下させ、非発光中心が形成されることがある。また、歪がバンド構造を歪め、電子と正孔との重なりが減少し、発光確率が低下するおそれがある。これらの現象はIn組成の大きいInGaN井戸層、すなわち青緑から赤色、例えば、450nm以上の発光波長を有するInGaN井戸層において顕著である。なぜならば井戸層と下地層との格子定数差が非常に大きいため、井戸層の結晶品質の低下やピエゾ電界による特性の悪化を招きやすい。このため、歪を緩和する技術が開発されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基板と発光層との間に超格子層を形成する技術が開示されている。超格子層は組成の異なる2種類の半導体層を交互に繰り返し形成したものである。これにより、発光層に加わる歪を緩和している(特許文献1の段落[0018])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-31591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、超格子は何層も繰り返し形成する必要がある。このため、この半導体発光素子の成長時間は長い。また、半導体の積層構造も複雑である。
【0006】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、単純な構造で活性層にかかる歪を緩和することができるIII 族窒化物半導体素子とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様におけるIII 族窒化物半導体素子は、基板と、活性層と、基板と活性層との間の下地層と、を有する。活性層は、井戸層と障壁層とを有する。下地層は、組成連続変化層を有する。井戸層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。障壁層はIII 族窒化物半導体層である。組成連続変化層は、井戸層と障壁層との境界面に垂直な方向に対してIn組成が変化するIII 族窒化物半導体層である。組成連続変化層では、In組成が流線形に連続的に変化する。
【0008】
このIII 族窒化物半導体素子では、組成連続変化層が発光層に加わる歪を緩和する。組成連続変化層は、繰り返し構造を持たない。このIII 族窒化物半導体素子には超格子構造を形成する必要はない。また、n型コンタクト層と活性層との間のn型半導体層の膜厚が薄くてよい。このため、この半導体素子の電気抵抗は、従来の半導体素子の電気抵抗よりも低い。また、組成連続変化層より上層の半導体結晶の品質が向上する。また、ピエゾ電界が緩和される。これらにより、半導体発光素子の閾値電圧または閾値電流を低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
本明細書では、単純な構造で活性層にかかる歪を緩和することができるIII 族窒化物半導体素子とその製造方法III 族窒化物半導体素子とその製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の発光素子100の概略構成図である。
図2】第1の実施形態の発光素子100のn側組成変化層150および発光層160の積層構造とバンド構造との間の関係を示す図である。
図3】第1の実施形態の発光素子100のn側組成変化層150および発光層160の形成方法を示す図(その1)である。
図4】第1の実施形態の発光素子100のn側組成変化層150および発光層160の形成方法を示す図(その2)である。
図5】第2の実施形態のレーザー素子200の概略構成図である。
図6】キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その1)である。
図7】キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その2)である。
図8】n側組成変化層を形成した場合の発光層の表面のAFM画像である。
図9】n側組成変化層が無い場合の発光層の表面のAFM画像である。
図10】n側組成変化層を形成した場合の半導体発光素子のフォトルミネッセンスの強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、III 族窒化物半導体素子とその製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。しかし、本明細書の技術はこれらの実施形態に限定されるものではない。また、後述する半導体素子の各層の積層構造および電極構造は、例示である。実施形態とは異なる積層構造であってももちろん構わない。そして、それぞれの図における各層の厚みの比は、概念的に示したものであり、実際の厚みの比を示しているわけではない。
【0012】
(第1の実施形態)
1.半導体発光素子(LED)
図1は、第1実施形態の発光素子100の概略構成図である。発光素子100は、フェイスアップ型の半導体発光素子である。発光素子100は、III 族窒化物半導体から成る複数の半導体層を有する。図1に示すように、発光素子100は、基板110と、バッファ層120と、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側組成変化層150と、発光層160と、電子ブロック層170と、p型コンタクト層180と、透明電極TE1と、p電極P1と、n電極N1と、を有している。
【0013】
基板110の主面上には、バッファ層120と、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側組成変化層150と、発光層160と、電子ブロック層170と、p型コンタクト層180とが、この順序で形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。p電極P1は、透明電極TE1の上に形成されている。ここで、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側組成変化層150とは、n型半導体層である。電子ブロック層170と、p型コンタクト層180とは、p型半導体層である。ただし、これらの層は、ノンドープの層を部分的に含んでいる場合がある。このように、発光素子100は、n型半導体層と、n型半導体層の上の発光層と、発光層の上のp型半導体層と、p型半導体層の上の透明電極TE1と、透明電極TE1の上のp電極P1と、n型半導体層の上のn電極N1と、を有する。
【0014】
基板110は、各半導体層を支持する支持基板である。基板110の主面は、例えば、c面である。基板110は、例えば、サファイア基板、AlN基板、Si基板、SiC基板等の異種基板である。基板110は、GaN基板であってもよい。
【0015】
バッファ層120は基板110の主面上に形成されている。サファイア基板のようなヘテロ基板を用いる場合には、バッファ層120は、例えば、低温AlNバッファ層などである。バッファ層120は、それ以外の層であってもよい。GaN基板のようなホモ基板を用いる場合には、バッファ層120はなくてもよい。
【0016】
n型コンタクト層130は、n電極N1と接触する層である。n型コンタクト層130は、バッファ層120の上に形成されている。n型コンタクト層130は、例えば、Siをドープされたn型GaN層である。n型コンタクト層130は、n型AlGaN層であってもよい。
【0017】
n側静電耐圧層140は、半導体層の静電破壊を防止するための静電耐圧層である。n側静電耐圧層140は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n側静電耐圧層140は、例えば、ノンドープのi-AlGaN(0≦Al<1)から成るi-AlGaN層と、Siをドープされたn型AlGaN(0≦Al<1)から成るn型AlGaN層とを積層したものである。
【0018】
n側組成変化層150は、発光層160に加わる歪を緩和する下地層である。n側組成変化層150は、n側静電耐圧層140の上に位置している。後述するように、n側組成変化層150では、組成が膜厚方向に変化している。n側組成変化層150は、n側静電耐圧層140と発光層160との間に位置している。また、n側組成変化層150は、基板110と発光層160との間に位置している。n側組成変化層150は、例えば、InGaN層である。n側組成変化層150は、不純物をドープされていない層である。
【0019】
発光層160は、電子と正孔とが再結合することにより発光する活性層である。発光層160は、n側組成変化層150の上に形成されている。発光層160は、井戸層161と障壁層162とを有している。井戸層161はInを含むIII 族窒化物半導体層である。障壁層162はIII 族窒化物半導体層である。井戸層161と障壁層162とは交互に繰り返し形成されている。井戸層161の膜厚は、例えば、2nm以上10nm以下である。井戸層161のIn組成は、例えば、15%以上である。好ましくは25%以上である。さらに好ましくは、35%以上である。井戸層161の数は、例えば、1層以上3層以下である。もちろん、4層以上あってもよい。井戸層161は例えばInGaN層である。障壁層162は例えばGaN層である。障壁層162のバンドギャップが井戸層161のバンドギャップよりも大きければ、井戸層161および障壁層162はその他の組成であってもよい。
【0020】
電子ブロック層170は、電子をブロックする層である。電子ブロック層170は、発光層160の上に形成されている。電子ブロック層170は、例えば、p型GaN層と、p型AlGaN層と、p型InGaN層とを積層した積層体を、繰り返し形成したものである。電子ブロック層170のp型AlGaN層が、電子をブロックする役割を担う。このため、p型GaN層およびp型InGaN層はなくてもよい。つまり、電子ブロック層170は、単層のp型AlGaN層であってもよい。
【0021】
p型コンタクト層180は、p電極P1と電気的に接続された半導体層である。p型コンタクト層180は、透明電極TE1と接触している。p型コンタクト層180は、電子ブロック層170の上に形成されている。p型コンタクト層180は、例えば、Mgをドープされたp型GaN層である。p型コンタクト層180は、p型AlGaN層であってもよい。
【0022】
透明電極TE1は、p型コンタクト層180の上に形成されている。透明電極TE1の材質は、例えば、ITOである。また、ITOの他に、IZO、ICO、ZnO、TiO2 、NbTiO2 、TaTiO2 等の透明な導電性酸化物を用いることができる。
【0023】
p電極P1は、透明電極TE1の上に形成されている。p電極P1は、透明電極TE1を介してp型コンタクト層180と電気的に接続されている。p電極P1は、例えば、Ni、Au、Ag、Co、In等の金属から成る金属電極である。
【0024】
n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130と接触している。n電極N1は、例えば、Ni、Au、Ag、Co、In、Ti等の金属から成る金属電極である。
【0025】
2.組成変化層
2-1.バンド構造とIn組成
図2は、第1の実施形態の発光素子100のn側組成変化層150および発光層160の積層構造とバンド構造との間の関係を示す図である。図2の下側から順に、半導体の積層構造、In組成、バンド構造が示されている。
【0026】
n側組成変化層150は、組成連続変化層151と、中間層152と、組成連続変化層153と、を有する。組成連続変化層151は、静電耐圧層140と中間層152との間に位置している。中間層152は、組成連続変化層151と組成連続変化層153との間に位置している。組成連続変化層153は、中間層152と障壁層162との間に位置している。
【0027】
中間層152は、組成連続変化層151と発光層160との間に位置している。組成連続変化層153は、中間層152と発光層160との間に位置している。
【0028】
中間層152はInを含むIII 族窒化物半導体層である。
【0029】
組成連続変化層151および組成連続変化層153においては、井戸層161と障壁層162との境界面に垂直な方向に対してIn組成が変化するIII 族窒化物半導体層である。組成連続変化層151および組成連続変化層153においては、中間層152に向かってIn組成が流線形に連続的に変化している。
【0030】
ここで、「流線形に連続的に変化する」とは、図2等に示すような曲線状の変化を示しており、線形に変化するものは含まない。
【0031】
組成連続変化層151および組成連続変化層153においては、基板110の半導体形成面に垂直な積層方向J1に対してIn組成が流線形に連続的に変化している。そのため、組成連続変化層151および組成連続変化層153においては、基板110の半導体形成面に垂直な積層方向J1に対してバンドエネルギーが流線形に連続的に変化している。
【0032】
組成連続変化層151においては、発光層160に近づくにつれてIn組成が指数関数的に増加している。このため、組成連続変化層151においては、発光層160に近づくにつれて電子側(伝導帯)のバンドエネルギーが指数関数的に減少している。このようにIn組成の指数関数的な変化にともなってバンドエネルギーも指数関数的に変化する。
【0033】
中間層152においては、In組成は一定である。このため、中間層152においては、バンドエネルギーも一定である。したがって、バンドギャップも一定である。
【0034】
組成連続変化層153においては、発光層160に近づくにつれてIn組成が指数関数的に減少している。このため、組成連続変化層153においては、発光層160に近づくにつれて電子側(伝導帯)のバンドエネルギーが指数関数的に増加している。このようにIn組成の指数関数的な変化にともなってバンドエネルギーも指数関数的に変化する。
【0035】
組成連続変化層151においては、発光層160に近づくにつれてIn組成が指数関数的に増加している。このため、組成連続変化層151の格子定数は、発光層160に近づくにつれて井戸層の格子定数に近づくように増加している。このようにIn組成の指数関数的な変化にともなって格子定数も指数関数的に変化する。
【0036】
中間層152においては、In組成は一定である。このため、中間層152においては、格子定数も一定である。
【0037】
組成連続変化層153においては、発光層160に近づくにつれてIn組成が指数関数的に減少している。このため、組成連続変化層153の格子定数は、発光層160に近づくにつれて障壁層の格子定数に近づくように減少している。このようにIn組成の指数関数的な変化にともなって格子定数も指数関数的に変化する。
【0038】
2-2.組成変化層と発光層との間の関係
組成連続変化層151のバンドギャップは、障壁層162から遠ざかるほど大きい。組成連続変化層151のバンドギャップは、中間層152に近づくほど小さい。
【0039】
組成連続変化層153は、障壁層162と接触している。組成連続変化層153のバンドギャップは、障壁層162に近づくほど大きい。組成連続変化層153のバンドエネルギーは、障壁層162のバンドエネルギーに漸近的に近づいている。つまり、組成連続変化層153と障壁層162との接触面C1では、バンドエネルギーが等しい。そのため、組成連続変化層153と障壁層162との接触面C1では、組成連続変化層153のIn組成と障壁層162のIn組成とは同じであるとよい。
【0040】
n側組成変化層150の中間層152の積層方向J1の厚さW1は、発光層160の井戸層161の積層方向J1の厚さW2よりも薄い。このため、n側組成変化層150の中間層152での光の吸収が抑制される。したがって、中間層152は薄いことが好ましい。中間層152は1原子層であるとよい。
【0041】
n側組成変化層150の中間層152のバンドギャップE1は、発光層160の井戸層161のバンドギャップE2以上である。つまり、n側組成変化層150の中間層152のIn組成は、発光層160の井戸層161のIn組成以下である。このため、n側組成変化層150の中間層152での光の吸収が抑制される。
【0042】
組成連続変化層151の格子定数は、障壁層162から遠ざかるほど小さい。組成連続変化層151の格子定数は、中間層152に近づくほど大きい。
【0043】
組成連続変化層153は、障壁層162と接触している。組成連続変化層153の格子定数は、障壁層162に近づくほど小さい。組成連続変化層153の格子定数は、障壁層162の格子定数に漸近的に近づいている。つまり、組成連続変化層153と障壁層162との接触面C1では、格子定数が等しい。そのため、組成連続変化層153と障壁層162との接触面C1では、組成連続変化層153の格子定数と障壁層162の格子定数とは同じであるとよい。組成連続変化層153の格子定数は、中間層152に近づくほど大きい。
【0044】
発光層160の井戸層161の格子定数は、n側組成変化層150の中間層152の格子定数以上である。n側組成変化層150の中間層152の格子定数は、組成連続変化層151、153の格子定数の平均値より大きい。組成連続変化層151、153の格子定数の平均値は、発光層160の障壁層162の格子定数より大きい。
【0045】
3.組成変化層および発光層の形成方法
3-1.第1の方法
図3は、第1の実施形態の発光素子100のn側組成変化層150および発光層160の形成方法を示す図(その1)である。図3は、n側組成変化層150および発光層160のバンド構造とガスの供給量との対応関係を示している。図3は、井戸層161がInGaNであり、障壁層162がGaNである場合を示している。図3では、左側から右側に向かって時間が進行する。第1の実施形態では、n側組成変化層150および発光層160を有機金属化学気相成長法(MOCVD法)によりエピタキシャル成長させる。
【0046】
ここで用いるキャリアガスは、水素(H2 )を含有する。キャリアガスは窒素(N2 )を含有するとよい。窒素源として、アンモニアガス(NH3 )を用いる。Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 :「TMG」)を用いる。In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 3 :「TMI」)を用いる。
【0047】
図3に示すように、TMGの流量は供給量SPG1で一定である。NH3 の流量は供給量SPA1で一定である。N2 の流量は、H2 の供給量とN2 の供給量の合計が一定になるように供給量SPN1から供給量SPN0の間で変化させる。
【0048】
TMIの流量は供給量SPI1または供給量SPI0の値をとる。供給量SPI1の値は供給量SPI0の値よりも大きい。TMIの供給量SPI0は、例えば、0sccmである。H2 の流量は供給量SPH0から供給量SPH1の間で変化している。供給量SPH1の値は供給量SPH0の値よりも大きい。H2 の供給量SPH0は、例えば、0sccmである。
【0049】
組成連続変化層151を成長させる際には、水素ガスの流量を変化させながら組成連続変化層151を成長させる。例えば、TMIを一定の供給量SPI1で流しながら、H2 の流量を供給量SPH1から供給量SPH0に線形に減少させる。TMIの流量が一定値であっても、H2 の流量を線形的に減少させることにより、In組成は指数関数的に増加する。
【0050】
In組成が指数関数的に変化するのは、水素ガスがInをある程度エッチングするためであると考えられる。水素ガスの割合がある程度の値を超えると、大部分のInをエッチングするようになる。この場合には、GaNもしくはドープレベルでInが添加されたGaNが成長する。
【0051】
中間層152を成長させる際には、TMIを一定の供給量SPI1で流しながら、H2 の流量を一定の供給量SPH0とする。これにより、積層方向J1にIn組成が一定である中間層152が形成される。
【0052】
組成連続変化層153を成長させる際には、水素ガスの流量を変化させながら組成連続変化層153を成長させる。例えば、TMIを一定の供給量SPI1で流しながら、H2 の流量を供給量SPH0から供給量SPH1に線形に増加させる。TMIの流量が一定値であっても、H2 の流量を線形に増加させることにより、In組成は指数関数的に減少する。
【0053】
このように、下地層であるn側組成変化層150を成長させる工程では、水素ガスの流量を線形的に減少させながら組成連続変化層151を成長させる。組成連続変化層151を成長させた後に、水素ガスの流量を一定にしながら中間層152を成長させる。中間層152を成長させた後に、水素ガスの流量を線形的に増加させながら組成連続変化層153を成長させる。
【0054】
発光層160を成長させる際には、TMG、NH3 、H2 、N2 の流量を一定とする。TMIの流量を供給量SPI1または供給量SPI0のいずれかに切り替える。供給量SPI0が0sccmであれば、GaN層が形成される。
【0055】
3-2.第2の方法
図4は、第1の実施形態の発光素子100のn側組成変化層150および発光層160の形成方法を示す図(その2)である。図4に示すように、TMGの流量は供給量SPG1で一定である。NH3 の流量は供給量SPA1で一定である。N2 の流量は、H2 の供給量とN2 の供給量の合計が一定になるように供給量SPN1から供給量SPN0の間で変化させる。
【0056】
TMIの流量は供給量SPI1で一定の値をとる。H2 の流量は供給量SPH0から供給量SPH1の間で変化する。供給量SPH1の値は供給量SPH0の値よりも大きい。H2 の供給量SPH0は、例えば、H2 の供給量とN2 の供給量の合計の供給量の0.5%程度である。
【0057】
組成連続変化層151を成長させる際には、水素ガスの流量を変化させながら組成連続変化層151を成長させる。例えば、TMIを一定の供給量SPI1で流しながら、H2 の流量を供給量SPH1から供給量SPH0に線形に減少させる。TMIの流量が一定値であっても、H2 の流量を線形的に減少させることにより、In組成は指数関数的に増加する。
【0058】
In組成が指数関数的に変化するのは、水素ガスがInをある程度エッチングするためであると考えられる。水素ガスの割合がある程度の値を超えると、大部分のInをエッチングするようになる。この場合には、GaNもしくはドープレベルでInが添加されたGaNが成長する。
【0059】
中間層152を成長させる際には、TMIを一定の供給量SPI1で流しながら、H2 の流量を一定の供給量SPH0とする。これにより、積層方向J1にIn組成が一定である中間層152が形成される。
【0060】
組成連続変化層153を成長させる際には、水素ガスの流量を変化させながら組成連続変化層153を成長させる。例えば、TMIを一定の供給量SPI1で流しながら、H2 の流量を供給量SPH0から供給量SPH1に線形に増加させる。TMIの流量が一定値であっても、H2 の流量を線形に増加させることにより、In組成は指数関数的に減少する。
【0061】
このように、下地層であるn側組成変化層150を成長させる工程では、水素ガスの流量を線形的に減少させながら組成連続変化層151を成長させる。組成連続変化層151を成長させた後に、水素ガスの流量を一定にしながら中間層152を成長させる。中間層152を成長させた後に、水素ガスの流量を線形的に増加させながら組成連続変化層153を成長させる。
【0062】
発光層160を成長させる際には、TMG、TMI、NH3 の流量を一定とする。H2 の流量を供給量SPH1または供給量SPH0のいずれかに切り替える。供給量SPH0が、H2 の供給量とN2 の供給量の合計の供給量の0.5%程度であれば、良質なInGaN井戸層が形成される。供給量SPH1が、H2 の供給量とN2 の供給量の合計の供給量の10%程度であれば、低In組成またはInがドープレベルに添加されたInGaN障壁層が形成される。
【0063】
4.半導体発光素子の製造方法
第1の実施形態の発光素子100の製造方法について説明する。第1の実施形態では、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、各半導体層の結晶をエピタキシャル成長させる。この製造方法は、基板110に中間層152と組成連続変化層151、153とを有する下地層を成長させる工程と、下地層より上層に井戸層161と障壁層162とを有する発光層160を成長させる工程と、を有する。
【0064】
MOCVD炉の内圧は、例えば、1kPa以上1MPa以下である。必要に応じて減圧成長を行うことが好ましい。半導体製造装置における成長時の内部の圧力が低いほど、半導体層の横方向成長が促進されるからである。基板表面における原料のマイグレーションが促進されるためである。なお、高温条件下では、基板表面における原料のマイグレーションがさらに促進される。
【0065】
基板110を準備する。基板110の主面の上にバッファ層120、n型コンタクト層130、n側静電耐圧層140、n側組成変化層150、発光層160、電子ブロック層170、p型コンタクト層180の順に形成する。
【0066】
次に、スパッタリング等によりp型コンタクト層180の上に透明電極TE1を形成する。次に、p型コンタクト層180からn型コンタクト層130に達する凹部を形成する。露出させたn型コンタクト層130の上にn電極N1を形成し、透明電極TE1の上にp電極P1を形成する。また、その他の熱処理工程等を実施してもよい。
【0067】
5.第1の実施形態の効果
第1の実施形態の発光素子100は、発光層160の直下にn側組成変化層150を有する。組成連続変化層151、153ではIn組成が指数関数的に変化する。このため、基板110の側から発光層160に加わる応力は抑制される。これにより、歪が緩和される。その結果、結晶品質が向上するとともに、形成されるピエゾ電界が弱まる。したがって、発光素子100の発光効率は高い。
【0068】
極性方向、例えばc軸、すなわち{0001}軸方向に垂直な平面、もしくはこれらの面からOFFした平面に積層する場合には、歪緩和による結晶品質の改善に加え、ピエゾ電界の緩和による内部量子効率の改善効果が得られる。これらの効果は結晶を積層する結晶面によって効果の割合が異なる。
【0069】
極性方向の場合、結晶品質の改善に加え、極性の向きによって効果の効き方に差が生じる。-c軸、すなわち[000-1]軸方向に沿って積層する場合には、ピエゾ電界の向きと内部電界の向きが逆になる。このため、ピエゾ電界が多少緩和され、さらに、歪緩和によるピエゾ電界の緩和効果が得られる。
【0070】
一方、+c軸、すなわち[0001]軸方向に沿って積層する場合には歪緩和によるピエゾ電界の緩和の効果が顕著である。
【0071】
また、m軸やa軸に垂直な非極性面やr軸に垂直な半極性面、もしくはこれらの面からOFFした平面に積層する場合には、結晶品質の改善の効果が特に高い。
【0072】
このように、第1の実施形態の技術をどの結晶面に適用する場合であっても、結晶品質が改善され、デバイス特性の改善に結びつく効果が得られる。特に、c軸方向に積層する場合には、結晶品質改善とピエゾ電界緩和との両方の効果が有効的に得られるので好ましい。
【0073】
また、基板110と発光層160との間に超格子層を設ける必要がない。超格子層は、組成の異なる2層を繰り返し形成した層である。超格子層を設ける必要がないため、積層構造が単純である。また、発光素子100を製造する際の製造時間を短縮できる。
【0074】
また、中間層152の膜厚は井戸層161の膜厚よりも薄い。このため、中間層152に形成されるサブバンドのエネルギーは、井戸層161に形成されるサブバンドのエネルギーよりも高い。このため、中間層152における光の吸収はほとんど生じない。
【0075】
6.変形例
6-1.TMIの時間的変化
第1の実施形態では、組成連続変化層151、153を形成する際にTMIの流量を一定の供給量SPI1としている。しかし、組成連続変化層151、153を成長させる際に、TMIの流量を変化させてもよい。TMIを変化させる場合であっても、In組成を指数関数的に変化させることができる。例えば、H2 の流量を変化させながら、TMIの流量を変化させてもよい。
【0076】
6-2.TMIの流量
組成変化層150の中間層152を成長させる際のTMIの流量と、発光層160の井戸層161を成長させる際のTMIの流量と、は変えてもよい。その場合には、発光層160の井戸層161を成長させる際のTMIの流量は、組成変化層150の中間層152を成長させる際のTMIの流量よりも多い。
【0077】
6-3.複数層
複数のn側組成変化層150を繰り返し形成してもよい。繰り返し回数は、例えば、5回以下である。好ましくは、3回以下である。
【0078】
6-4.中間層の有無
組成変化層150は中間層152を有さなくてもよい。その場合には、組成連続変化層151、153が互いに接触することとなる。
【0079】
6-5.井戸層および障壁層
井戸層161はInGaN層に限らず、障壁層162はGaNに限らない。井戸層161は、III 族窒化物半導体であればよい。障壁層162は、III 族窒化物半導体であればよい。ただし、障壁層162のバンドギャップは井戸層161のバンドギャップよりも大きい。
【0080】
6-6.AlInGaN層
組成連続変化層151、153および中間層152は、InGaN層以外のIII 族窒化物半導体層であってもよい。
【0081】
6-7.膜厚
組成連続変化層151、153および中間層152の膜厚は、特に限定されない。中間層152の膜厚は1原子層以上5nm以下であるとよい。組成連続変化層151、153の膜厚は、3nm以上100nm以下であるとよい。好ましくは、5nm以上50nm以下である。より好ましくは、5nm以上30nm以下である。
【0082】
6-8.成膜速度
組成連続変化層151、153および中間層152の成膜速度は、特に限定されない。半導体層の品質の観点から、成膜速度は0.5nm/min以上50nm/min以下であるとよい。
【0083】
6-9.一方のみの組成変化層
組成連続変化層151および組成連続変化層153のうち一方のみを形成してもよい。その場合には、中間層152は、中間層152よりバンドギャップの大きな半導体層と、組成連続変化層と、に挟まれて配置されている。
【0084】
6-10.水素ガスの供給
第1の実施形態では、水素ガスの供給量を線形に変化させる。しかし、水素ガスの供給量の変化量を途中で変えてもよい。その場合には、水素ガスの供給量は傾きの異なる2以上の線形変化をする。
【0085】
6-11.フェイスダウン型
第1の実施形態の技術をフェイスアップ型のLEDのみならずフェイスダウン型のLEDに適用してもよい。その場合には、透明電極の代わりに高い反射率を備える金属電極を用いればよい。
【0086】
6-12.導電型
n側組成変化層150は不純物をドープされていない層である。しかし、n側組成変化層150はn型の不純物またはp型の不純物がドープされていてもよい。
【0087】
6-13.静電耐圧層
静電耐圧層140を形成しなくてもよい場合がある。
【0088】
6-14.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0089】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。
【0090】
1.レーザー素子
図5は、第2の実施形態のレーザー素子200の概略構成図である。レーザー素子200は、基板S1と、n型コンタクト層210と、n側クラッド層220と、n側ガイド層230と、n側組成変化層240と、活性層250と、p側ガイド層260と、p側電子障壁層270と、p側クラッド層280と、p型コンタクト層290と、透明電極TE2と、n電極N2と、p電極P2と、を有する。
【0091】
n側組成変化層240は、第1の組成連続変化層、中間層、第2の組成連続変化層を有する。
【0092】
2.第2の実施形態の効果
第1の実施形態と同様に、レーザー素子200では、活性層250に加わる歪が緩和されている。
【0093】
3.変形例
第1の実施形態とその変形例と自由に組み合わせてよい。
【0094】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。
【0095】
1.半導体発光素子(3次元構造体)
第1の実施形態および第2の実施形態の中間層と組成連続変化層は3次元構造体に応用することができる。例えば、ナノワイヤのような柱状の3次元結晶である。ナノワイヤの途中に活性層を挿入するスタック型の場合には、活性層に隣接する位置に中間層と組成連続変化層とを設けることができる。ナノワイヤの周囲を活性層で同軸状に覆うコアシェル型の場合も同様に、活性層に隣接する位置に中間層と組成連続変化層とを設けることができる。
【0096】
中間層および組成連続変化層は、平坦面の積層に限定されず、3次元構造体が三角形状、台形形状、ドット形状、ストライプ形状の半導体発光素子にも適用可能である。中間層および組成連続変化層を有することにより、半導体発光素子は同様の効果を奏する。もちろん、様々な結晶面を含む3次元構造体に形成される活性層に適用する場合であっても、同様の効果を奏する。
【0097】
(実施形態の組み合わせ)
第1の実施形態から第3の実施形態までを変形例を含めて組み合わせることができる場合がある。
【0098】
(評価試験)
1.サンプルの製作
サンプルを製作するためにMOCVD法を用いた。GaN基板の上にGaN層を成長させたテンプレート基板を製作した。そして、GaN層の上にTMI、TMG、NH3 、H2 、N2 を供給してInGaN層を成膜した。その際に、H2 の流量、TMIの流量を変化させた。そして、成長させた半導体のIn組成等を測定した。
【0099】
2.水素ガスとIn組成
図6は、キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その1)である。図6の横軸はキャリアガスに占める水素ガスの流量(vol%)である。図6の縦軸は半導体のIn組成である。
【0100】
図6に示すように、キャリアガスに占める水素ガスの流量が増加すると、半導体のIn組成は指数関数的に減少する。一方、キャリアガスに占める水素ガスの流量が減少すると、半導体のIn組成は指数関数的に増加する。
【0101】
一般的に、In組成(In/Ga固相比)はIn/Ga気相比よりも低い値となる。In/Ga気相比は、TMG供給分圧に対するTMI供給分圧である。InはGaに比べて表面吸着力が低く、熱やエッチングガスにより分解および再蒸発しやすいからである。エッチング作用を有するキャリアガスである水素ガスを含有しない場合には、In組成(In/Ga固相比)はIn/Ga気相比に最も近くなる。キャリアガス中の水素ガスを増加させるほどIn組成が減少する。これは水素ガスがInのエッチングをするためであると考えられる。
【0102】
図7は、キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その2)である。図7は、図6の縦軸を対数にしたグラフである。図7に示すように、In組成の測定値はある直線上にのる。つまり、キャリアガスに占める水素ガスの流量に対して、In組成は指数関数的に変化している。
【0103】
3.AFM画像
図8は、n側組成変化層を形成した場合の発光層の表面のAFM画像である。図8には、原子ステップが観察される。
【0104】
図9は、n側組成変化層が無い場合の発光層の表面のAFM画像である。図9には、原子ステップが観察されない。また、ピットや表面荒れが生じている。
【0105】
4.フォトルミネッセンス
図10は、n側組成変化層を形成した場合の半導体発光素子のフォトルミネッセンスの強度を示すグラフである。図10の横軸はフォトルミネッセンスのピーク波長である。図10の縦軸はフォトルミネッセンスの強度である。
【0106】
n側組成変化層が無い場合には、フォトルミネッセンスの発光は確認されなかった。
【0107】
5.評価試験のまとめ
このように、組成変化層は歪を緩和する。これにより、発光層等の上層の半導体の結晶性を向上させる。
【0108】
(付記)
第1の態様におけるIII 族窒化物半導体素子は、基板と、活性層と、基板と活性層との間の下地層と、を有する。活性層は、井戸層と障壁層とを有する。下地層は、組成連続変化層を有する。井戸層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。障壁層はIII 族窒化物半導体層である。組成連続変化層は、井戸層と障壁層との境界面に垂直な方向に対してIn組成が変化するIII 族窒化物半導体層である。組成連続変化層では、In組成が流線形に連続的に変化する。
【0109】
第2の態様におけるIII 族窒化物半導体素子においては、下地層は、中間層を有する。中間層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。中間層の膜厚は、井戸層の膜厚よりも薄い。中間層のIn組成は、井戸層のIn組成以下である。組成連続変化層は、中間層に向かってIn組成が流線形に連続的に変化する。
【0110】
第3の態様におけるIII 族窒化物半導体素子においては、組成連続変化層は、活性層に近づくにつれてIn組成が指数関数的に増加する第1組成連続変化層を有する。中間層は、第1組成連続変化層と活性層との間に位置している。
【0111】
第4の態様におけるIII 族窒化物半導体素子においては、組成連続変化層は、活性層に近づくにつれてIn組成が指数関数的に減少する第2組成連続変化層を有する。第2組成連続変化層は、中間層と活性層との間に位置している。
【0112】
第5の態様におけるIII 族窒化物半導体素子においては、第2組成連続変化層は、活性層の障壁層と接触している。接触箇所では、第2組成連続変化層のIn組成と障壁層のIn組成とは同じである。
【0113】
第6の態様におけるIII 族窒化物半導体素子においては、井戸層の格子定数は、中間層の格子定数以上である。
【0114】
第7の態様におけるIII 族窒化物半導体素子においては、中間層の格子定数は、組成連続変化層の格子定数の平均値より大きい。組成連続変化層の格子定数の平均値は、障壁層の格子定数より大きい。
【0115】
第8の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法は、基板に中間層と組成連続変化層とを有する下地層を成長させる工程と、下地層より上層に井戸層と障壁層とを有する発光層を成長させる工程と、を有する。井戸層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。障壁層はIII 族窒化物半導体層である。中間層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。組成連続変化層は、積層方向に対してIn組成が変化するIII 族窒化物半導体層である。下地層を成長させる工程では、キャリアガスとして水素ガスを含むガスを用いるとともに、水素ガスの流量を変化させながら組成連続変化層を成長させる。
【0116】
第9の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、下地層を成長させる工程では、水素ガスの流量を線形的に変化させる。
【0117】
第10の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、下地層を成長させる工程では、水素ガスの流量を線形的に減少させながら第1組成連続変化層を成長させ、第1組成連続変化層を成長させた後に、水素ガスの流量を一定にしながら中間層を成長させ、中間層を成長させた後に、水素ガスの流量を線形的に増加させながら第2組成連続変化層を成長させる。
【符号の説明】
【0118】
100…発光素子
110…基板
120…バッファ層
130…n型コンタクト層
140…n側静電耐圧層
150…n側組成変化層
151、153…組成連続変化層
152…中間層
160…発光層
161…井戸層
162…障壁層
170…電子ブロック層
180…p型コンタクト層
TE1…透明電極
N1…n電極
P1…p電極
200…レーザー素子
300…太陽電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10