IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 佐藤 正倫の特許一覧 ▶ 北島 昌夫の特許一覧

<>
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図1
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図2
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図3
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図4
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図5
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図6
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図7
  • 特開-マイクロ液体流路モジュール 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153225
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】マイクロ液体流路モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20221004BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20221004BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
B81B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108089
(22)【出願日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2021054587
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】397003079
【氏名又は名称】佐藤 正倫
(71)【出願人】
【識別番号】511275119
【氏名又は名称】北島 昌夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正倫
(72)【発明者】
【氏名】北島 昌夫
【テーマコード(参考)】
3C081
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA18
3C081BA04
3C081BA23
3C081BA24
3C081CA19
3C081CA32
3C081DA06
3C081DA10
3C081EA28
4G075AA13
4G075AA39
4G075AA56
4G075BA10
4G075BB05
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB50
4G075EC25
4G075EE01
4G075FA01
4G075FA05
4G075FA12
4G075FB03
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC04
4G075FC20
(57)【要約】
【課題】
特許文献1に記載の炭化薄板を複数枚重ねてマイクロ液体流路モジュールとして利用すると、重ね合わせ部分で試料溶液のリークが発生し、隣接するウェルの試料溶液と混合する恐れがあった。また水平方向への試料溶液の移送は困難であった。
【解決手段】
木材或いは竹を400℃以上の温度で炭化した炭化物表面に、複数のウェルを形成し、隣接するウェル間の最近接隔壁の厚さが木材炭化物では1.9mm以下であり更にウェルの深さ方向が、木材或いは竹の、仮道管或いは道管の長さ方向に対して75~90度の角度を有するマイクロ液体流路モジュールを実現した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
400℃以上の温度で炭化された木材或いは竹の炭化物表面に、複数のウェルが形成されたものであって、隣接するウェル間の最近接隔壁の厚さが木材炭化物では1.9mm以下であり、更にウェルの深さ方向が、道管或いは仮道管の長さ方向に対して75~90度の角度を有することを特徴とするマイクロ液体流路モジュール。
【請求項2】
ウェルの表面及び隔壁内の道管或いは仮道管表面が親水化されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ液体流路モジュール。
【請求項3】
少なくとも1個のウェルの底の炭化物が除去されていることを特徴とする請求項1ないし請求項2に記載のマイクロ液体流路モジュール。
【請求項4】
少なくとも1個のウェルの底の炭化物が除去された部分が、光透過性の底板で塞がれていることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載のマイクロ液体流路モジュール。
【請求項5】
ウェル内に親水性の粒状、繊維状、或いは繊維状物を面状にしたもののいずれか、或いはこれらの混合物を配置することを特徴とするマイクロ液体流路モジュールの液体移送促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な多孔質構造(道管、篩管或いは仮道管を含む維管束構造)を有する木材或いは竹の炭化物(これらは通常は板状、ブロック状或いは棒状)に2個以上のウェル(凹部)を設け、ポンプの如き加圧或いは吸引機構を用いないマイクロ液体流路モジュールに関する。ウェルの深さ方向は、道管或いは仮道管の長さ方向に対して75~90度の角度を有している。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは先に特願2020-116631(特許文献1)の出願を行った。特許文献1に記載された発明の概要は、400℃以上の温度で炭化して得られる仮道管、道管或いは木部繊維に対して75~90度の角度を有する炭化薄板の少なくとも片面に、少なくとも1個のウェル(凹部)が設けられたものであって、ウェル(凹部)の底壁の最深部の厚さが1.9mm以下であり、ウェル(凹部)の無い部分の厚さが1.9mmより大きい炭化薄板に関するものである。
【0003】
上記ウェルタイプの炭化薄板を、例えば特許文献1の図9(本発明では図7とした)に示されているように上下に2枚重ねて使用する場合、2枚の境界部分に存在する微小間隙に液が毛細管現象により侵入し、左右に隣接するウェルに移行する恐れがある。即ち隣接するチャンネル間で液のリーク或いは混合の恐れがあるのである。図7において上段の二つのウェルには異なる液体を入れ、下段の二つのウェルには反応開始物を入れておくと二つの反応を同時に行うことができる。この際、上段の左ウェルの液が境界を伝わって右ウェルの液と混合する恐れがあった。また水平方向に液を移送しようとすると液がウェルから流出してしまうので、水平方向に移送することは困難であった。
【0004】
このような現象を防ぐため境界部分を樹脂或いはワックス等でシールすることが必要になる。実際に樹脂、ワックス、粘着剤等でシールするのは複雑な工程になるので、できればこのような工程を必要としない方式が望まれる。
【0005】
本発明者らは複数の炭化薄板を重ねる必要がないマイクロ液体流路モジュールを開発した。本発明者らが開発したマイクロ液体流路モジュールは、特許文献1のウェルの深さ方向に対して略直角の方向にウェルを形成するのである。特許文献1ではウェルの底が仮道管の長さ方向に対して直角であったが、本発明ではウェルの側壁が仮道管(以下導管、篩管などの維管束を代表する用語として用いる)の長さ方向に対して直角(直角が望ましいが75~90度の範囲)である。更に隣接するウェルの最近接部分の厚さ(距離)を1.9mm以下(竹ではこの制限は無い)としたのである。これにより液のリーク或いは混合等の問題が解決された。また水平方向への液の移送も可能になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2020-116631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、隣接するチャンネル間で液のリーク或いは混合の恐れがないマイクロ液体流路モジュールを提供することである。また板状、棒上或いはブロック状木材(以下竹を含む)の水平方向に液体を移送することが可能なマイクロ液体流路モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、400℃以上の温度で炭化された木材或いは竹の炭化物表面に、複数のウェルが形成されたものであって、隣接するウェル間の最近接隔壁の厚さが木材炭化物では1.9mm以下であり更にウェルの深さ方向が木材の仮道管或いは道管の長さ方向に対して75~90度の角度を有するママイクロ液体流路モジュールにより解決された。
【発明の効果】
【0009】
本発明マイクロ液体流路モジュールは液体のリーク或いは混合の恐れがなく、加圧或いは吸引等の外部駆動機構も不要であり、簡便なマイクロ液体流路モジュールである。製造も容易である。更に廃棄の場合も環境への悪影響がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明マイクロ液体流路モジュールの具体例の側断面図と上面図を示す。
図2】本発明マイクロ液体流路モジュールの他の具体例の上面図を示す。
図3】本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図と側断面図を示す。
図4】本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図を示す。
図5】本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図を示す。
図6】本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図を示す。
図7】特許文献1の図9を示す。
図8】本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる炭化物は、木材(例えば角材)を、耐熱容器に入れ不活性雰囲気で所定の焼成温度まで昇温し、その温度で所定の時間加熱炭化後に室温に放冷して得られる。得られた炭化物を道管或いは仮道管とほぼ直角に所定の長さに切断し、木材炭化物のブロックが得られる。このブロックを出発材料として必要サイズに裁断することにより、目的に応じて加工される。
【0012】
図1は、本発明の基本的なマイクロ液体流路モジュールの具体例の側断面図及び上面図である。図1において1は、炭化物ブロックを示す。2、4はブロックに形成された角型断面のウェルである。3は、ウェル間の隔壁である。5は道管或いは仮道管の長さ方向を示す。6、8は円形断面のウェルがブロックに形成された具体例の上面図である。7は両円筒断面ウェル間の隔壁である。図1ではウェルの深さが同じに設定されているが、違っていてもよい。ウェル2に液体を入れると、隔壁の道管或いは仮道管の毛細管現象により瞬時に液体は隔壁3の反対面(ウェル4に面した面)に到達する。隔壁の構成成分は主として炭素であり、非常に疎水性が大きい。従って液体が有機溶剤の場合は、液体は毛細管の出口からウェルの壁面を伝わってウェル4に流入する。最終的には両ウェルの液面が同じ高さになった時点で液体の流入は停止する。
【0013】
それに対して液体が水系の場合、毛細管現象により隔壁の反対側に到達した液体は表面張力が大きいので毛細管の出口で停止し、そこから先に移動することができない。本発明者らは、このような場合に隔壁に接して親水性表面を有する粒状体、繊維状体、或いは繊維状物からなる面状体(布、紙等)、又はこれらの混合物を毛細管の出口(あるいは出入口)に配置することにより、これらの物体と道管或いは仮道管との毛細管現象により液体がウェル4或いはウェル8に効率よく流入することを発見した。これらの液体移動を促進する補助材料を移行促進材料と呼ぶ。
【0014】
隔壁3の厚さ及び隔壁7の最小部(両ウェル間の最近接部)の厚さは1.9mm以下である。好ましくは1mm以下、更に好ましくは0.7mm以下がよい。隔壁の厚さが小さいほど試料液の通過が容易であるが、薄すぎると破損する恐れがあるので0.1mm以上が望ましい。隔壁の断面形状は特に問わない。製作は円形断面の方が容易であるが、隔壁は最近接部で一番薄く、そこから離れると次第に厚くなる。ウェルの形状を角型にすればウェル間距離は全面にわたり一定となる。また円形断面の場合、隔壁は最近接部での厚さをより小さくしても破損しにくい利点がある。ウェルの形状、サイズや深さ、及び数は目的に応じて適宜選ぶことができる。図1には2個のウェルが描かれているが目的に応じて増減できる。
【0015】
以上の説明及び後続の説明でも炭化物ブロックが水平に置かれているが、毛細管現象による液体誘導作用の力は非常に大きいので必ずしも水平に置く必要はなく斜めに置いてもよく、場合によっては垂直において吸い上げることも可能である。その場合、試料液は重力により一番下に位置するウェルに移行する。一旦水平に配置したのち斜めにし、次いで水平に戻すか或いは逆の斜めにすることもできる。このような操作は目的に応じて行うことができる。
【0016】
図2は、本発明のマイクロ液体流路モジュールの他の具体例の上面図である。一般的にマイクロリアクターと呼ばれているものの中で、Y型リアクターと呼ばれるものに相当する。図2で22および24は同じ深さのウェル、25は、隔壁23を介して両ウェルに対面するウェルである。ウェル25の深さはウェル22及び24より深く設定されている。ウェル22と24に異なる成分の液体を入れると、隔壁23を通過してウェル25に流入し反応が起こる。
【0017】
図3は、本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図及び側断面図である。図3で32、34、36はウェルである。ウェル32と34は、同じ深さで浅く設定されている。ウェル36は深く設定されている。35、37は隔壁である。ウェル32及び34に液体を注入すると、液体は隔壁を通してウェル36に流入する。ウェル36に流入した液体は、ウェル32及び34に逆流しないように各ウェルの深さが設定されている。図3の具体例は図2の具体例と同じ機能を有しているが、図2との相違は同一線上にウェルが配置されていることである。
【0018】
ウェル32及び34からウェル36に流入した液体は、そこで反応が起こり反応生成物が得られる。ウェル36の底は黒いので、反応生成物の色を見分けるのが困難な場合もある。ウェル36から反応生成物を取り出して光学測定に供することもできるが面倒である。そこでウェル36の底の炭化物を除去してウェル36が上下に貫通するようにしておき、ウェル36の下に液体を受ける無色透明容器を配置しておけば、容器内に反応生成物が得られるので、光学的測定が容易になる。このように最深部のウェルの底を貫通させる方法は本発明の他の具体例にも適用できる。
【0019】
上記の方法を更に改良した具体例が図8である。図8は、図3の改良版である。図8において38は、無色透明ないし半透明のガラス板或いは樹脂板である。これらの板を以後底板と称する。底板38はウェル36の底の炭化物が除去されてから接着剤で炭化物ブロック1の底に接着されてもよい。炭化物ブロック1にウェルを形成する前に接着しておき、その後ウェルを形成してもよい。接着剤を用いずに、熱溶融性樹脂板を炭化物ブロック1の底に押し付けた状態で加熱溶融して接着することもできる。また熱溶融性樹脂板の代わりに熱溶融性樹脂(蝋、パラフィンを含む)を紙、合成紙、布、不織布、樹脂フィルム等に含侵させるか、塗布或いはラミネートした板状物を炭化物ブロック1の底に押し付けた状態で加熱溶融して接着することもできる。炭化物ブロック1を高温に加熱しておいてこれを上記の板状物に押し付けて接着させることもできる。接着方法として上記の板状物を炭化物ブロック1に乗せ、その上から熱風を吹きつけて溶融接着させることもできる。
【0020】
透明ないし半透明の底板は炭化物ブロック1の底面全体に接着されている必要は無く、最深のウェルの底の炭化物が除去されている部分を塞ぐように接着されていればよい。また柔らかい表面層を有する板、例えば透明なゴム板や粘着性材料層を有する面に圧着してもよい。シリコーンゴムによる縁取り(ウェルの周囲より少し大きい)を有する底板への圧着でもよい。
【0021】
底板の特性としては、使用する液体や溶液が漏れ出さないようなへこみをや壁を設け、取り外しを容易にしたものであってもよい。また底面が均質でなく、測光時に有利なように凹凸や描線を設けた透明または透明と不透明部分を有するものであってもよい。更に、 透明な板と部分的に不透明な板とを重ね合わせたものであってもよい。測定用の光が透過すればよいのである。底板の厚さは0.01~数mmの範囲が望ましい。これより薄いと破れたりハンドリングが困難になる。これより厚くても使用できるが材料の無駄である。
【0022】
通常は最深のウェルに反応生成物が得られるので、少なくともそのウェルに底板が設けられるが、場合によっては必ずしも最深のウェルではないウェルに底板を設けてもよい。図3ではウェルの深さが2レベルであるが、3レベルの深さにしておき、中間の深さのウェルには中間反応生成物が得られ、最深のウェルに最終反応生成物が得られるようにしてもよい。このような場合、中間のウェルにも底板を設けることができる。原理的には3レベル以上の深さも可能である。
【0023】
図4は、本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図である。図4では1個の長い溝状のウェル42の片側に2個のウェル(44、46)が隔壁43及び45を介して3行、合計6個が形成されている。図4の具体例はマルチチャンネルのマイクロ液体流路モジュールである。ウェル42の深さはウェル44の深さより浅く、ウェル44の深さはウェル46の深さより浅く設定されている。ウェル42に試料溶液を入れ、ウェル44には反応試薬を入れておくと、ウェル46に反応生成物が流入する。反応生成物を適当な方法で測定することが可能になる。
【0024】
図5は本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図である。図5において50は試料溶液を入れる大きなウェルである。51は試料溶液の流路であって、ウェル50から各試料溶液受容ウェル52~55までの距離が等しくなるように設定されている。56~59は反応開始物を入れたウェルである。各試料溶液受容ウェルと反応開始物を入れたウェルとの間には隔壁が設けられている。図5では、図4の反応生成物を受けるウェル46に相当するものが省略されている。
【0025】
図6は本発明マイクロ液体流路モジュールの更に他の具体例の上面図である。長いウェル60の両側に10個のウェル61が隔壁62を介して配置されている。ウェル61はウェル60より深く設定されている。反応開始液をウェル60に入れ、異なる検体液をウェル61に入れておくと、同時に10個の検体の反応生成物が得られる。更に検体用ウェルの数を増やすことも容易にできる。
【0026】
以下に図3をもって本発明マイクロ液体流路モジュールの機能を説明する。図3では反応前の出発試薬溶液aの受容ウェル32及び出発試料溶液bの受容ウェル34と両者を別々の経路(隔壁5及び6中の道管或いは仮道管)を経て移送後合一させる混合用受容ウェル36から構成される。
【0027】
各ウェル間の溶液(a、b)の移動量はウェル間の隔壁面積及び厚さ及び隔壁を構成する道管或いは仮道管表面の各試薬溶液との親和性(濡れ性)に依存する。また各ウェルの深さにも依存する。溶液は浅いウェルから深いウェルに向かって移行する。したがって各出発試薬溶液の混合液受容ウェルへの移送量はこれらの条件を調節することにより規定できる。
【0028】
出発試料溶液(a、b)の混合液受容ウェルへの移送開始の制御は重要である。それにはウェル間の隔壁とa或いはbとが要求時間内に接触するような機構の組み込みや操作が必要となる。かかる手段としては隔壁の上端に達するような量のa或いはbを短時間のうちに一挙に出発試料溶液受容ウェルa或いはb中に注入する方法がある。例えば、既知の手法である注射器やマイクロピペットなどを用いて出発試料溶液受容ウェル中に所定量を供給することが出来る。
【0029】
他の方法として出発試料溶液受容ウェルの中に溶液不浸透性の樹脂製や膜製の容器をセットしておき、これにaあるいはbの所定量を入れておき、所定のタイミングで針などを用いて膜に孔をあけて試薬溶液放出させることもできる。さらには隔壁の表面を試料溶液不浸透性の膜などで覆っておき予め設定したタイミングで加熱溶融などの手段により孔をあけることでも良い。
【0030】
異なる組成の反応試薬の量比は混合前の出発試薬溶液用ウェルの容積と混合後のウェルの容積および両者の隔壁面積を目的に合わせて設計、規定することにより調節できる。隔壁は両面平行に限定されるものではない。用途によっては隣接するウェル側の開口面積を広くして取り込み移送量を多くして、最終産物の系外への接続を容易にする目的で取り出し側を狭い円錐形とするなどもできる。
【0031】
液体の移送には通常ポンプなどによる加圧や減圧などの圧力操作を必要とする。本発明では道管或いは仮道管束の毛細管現象の利用によりこれらの外部操作を不要とする。液面の高低差によるヘッド圧が有効に作用する場合はこれを利用すれこともできる。しかし水平に近い位置関係にあるウェル間の移送には工夫が必要である。鋭意検討の結果、移送の対象とする液体に対する濡れ性の高い表面を有する繊維構造物、粉体など移動促進材料を移送液体の受容器周辺に配置することにより溶液のスムースな移送が促進されることを見出した。かかる材料としては各種の液体に対する安定性が高いガラス繊維、具体的にはバインダーなどの添加剤を含まないガラス繊維ろ紙を適宜使用状況に合わせて設置する方法が有効であることを見出した。
【0032】
液体の移動を促進する他の方法として、ウェルの表面及び隔壁内の道管或いは仮道管を親水化することである。親水化の一つの方法として、微量(0.005~0.05重量%)のゼラチンを含む水溶液で処理することがあげられる。ゼラチン水溶液に浸漬した後、取り出して乾燥することによりウェルに供給された水を隣接するウェルに円滑に移行させることが可能になることを見出した。ゼラチンなどの天然化合物の代わりにポリアクリ酸系化合物などの高親水性の合成高分子を用いる方法も有効である。
【0033】
親水化の他の方法として、チタンを結合させた有機化合物で処理することがあげられる。例えば、マツモトファインケミカル株式会社から販売されているオルガチックスTC-300或いはTC-400に浸漬した後、水洗し乾燥することによりウェルに供給された水を隣接するウェルに円滑に移行させることが可能になることを見出した。ゼラチン或いはチタン化合物の痕跡存在が影響しない目的には有効に用いることができる。
【0034】
木材の代わりに竹を用いる場合、以下のような注意が必要である。竹の厚さは、孟宗竹のような太いものでも10数mmであり、また湾曲(リング状)しているので加熱炭化する際に加圧しながら加熱して湾曲した板を平板にすることが望ましい。湾曲した状態で使用することも可能であるが、平板状の方が取り扱いが容易である。また竹は節と節との間隔が長いものでは数100mmもあり、その範囲で道管が連続している。木材は、道管或いは仮道管の長さが0.5~5mm程度なので、道管或いは仮道管方向の厚さが数mmあれば液体の移行は起こらない。これに対して竹は、道管方向の厚さが数10mmでも液体の移行が可能である点が大きな相違である。従って、竹では最近接部の隔壁の厚さが1.9mm以下という制限は不要である。また、目的によっては炭化処理前に予め湾曲させる、あるいは折り曲げて角度を持たせるなどの方法により非平面的な形状への加工も可能である。
【0035】
上記のような特性を考慮すると、竹は図2図4図6等への利用に特に適している。
【0036】
本発明の大きな特長の1つは、材料が木材や竹などの炭化物であるので化学的に極めて安定であることである。酸、アルカリ、塩類を含む腐食性水溶液や各種の有機溶媒、界面活性剤などを含む幅広い溶媒を自由に選べる。また耐熱性に優れているので通常の熱可塑性プラスチック容器では変形、変質が問題となる150℃以上の高温での反応にも利用できることである。また、医療用や生化学の分野で必須のプロセスである加熱・加圧処理に耐えることである。したがって細胞や生理活性物質などの懸濁液を含む培養液系への適用も可能である。
【0037】
さらに本発明の大きな特徴は本質的に再生可能であり、使用後の滅菌や焼却による処理が可能であるなど環境への負荷が極めて低いことである。
【実施例0038】
特許文献1の実施例1に記載された方法と同様にして杉角材の炭化物を得た。得られた炭化物を仮道管とほぼ平行に市販のダイアモンドバンドソーマシンを用い、厚さ10mmにスライスし、さらに長さ22mm、幅10mmのサイズに切断した。次に直径5mmのフラットドリルを用いて直径5mm、深さ約2mm、6mm、2mmのウェルを、ウェル間の最近接部隔壁の厚さ0.5mm、ウェルの中心間の距離が5.5mmになるように1列に3個形成し、図3のようなブロック状の炭化物を得た。
【実施例0039】
実施例1に記載された方法と同様にして作製した炭化物の中央のウェルに、容量1mLの注射筒に取り付けたステンレス針の先端から約0.05mLずつの極性有機溶媒(エチルアルコール)、高沸点の炭化水素溶媒(マシンオイル)、を左右のウェルへの液体の移行の様子を観察しながら、常にウェルが液体で満たされるようにゆっくり滴下した。エチルアルコールは移行速度が速く、数秒以内には左右のウェルを満たした。マシンオイルもおよそ数秒で左右のウェルを満たす様子が観察された。水を滴下した場合は移行の仕方が不安定だったがいずれの場合も1分以上を要した。
(比較例)
実施例2と同様の手順により、ウェル間の隔壁の厚さが3mmのブロック状の炭化物を作製し実施例2と同様の実験をした。いずれの液体を用いた場合も隣接するウェルへの液の移行は30分以上にわたって全く観察されなかった。
【実施例0040】
実施例2と同様の手順によりウェル間の最近接部隔壁厚さを0.5mmに設定した3個の同一深さのウェルを有するブロック状の炭化物を作製し、最端部のウェルに実施例2と同様の手法によりエチルアルコールを供給し、他のウェルへの移行の様子を観察した。エチルアルコールは隣接するウェルを満たしつつ順次他端のウェルに移行しおよそ5分後には全てのウェルがエチルアルコールで満された。
【実施例0041】
実施例3と同様にして4個のウェルを有し、ウェル間の最近接部隔壁厚さを1mmに設定したブロック状の炭化物を作製した。さらに各ウェルにガラス繊維ろ紙片(ワットマン社製GF、約3mg)を充填した。エチルアルコールの代わりに水を使用して実施例3と同様のウェル間の移行の様子を観察した。水は隣接するウェルを満たしつつ順次他端のウェルに移行しおよそ15分後には全てのウェルが水で満された。
【実施例0042】
実施例1と同様の方法で断面が10×10mm、長さ50mmのヒノキ炭化物を得た。これに4mm径、深さ4mm、ウェル間の最近接部隔壁の厚さが1mmのウェルを6個を形成した。これを50℃のゼラチン水溶液に10分間浸漬した後、水洗せずに取り出しペーパーナプキン上に置いて水を除去した。次いで乾いたペーパーナプキン状に放置乾燥した。ウェルが上面になるように置かれたこのサンプルの一番端のウェルを満たすように水を供給し続けたところ、3番目のウェルが水で満たされる時間は約12分、6番目のウェルが水で満たされる時間は約24分であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明による炭化物を使用することにより、既存のマイクロリアクターにおいては必須であった各種溶液の供給や移送用のポンプ機構を必要としないリアクターや多様なデザインのマイクロ流路モジュールの構築が可能になる。具体的にはポンプ系を必要とせずに微少量の試料溶液と反応試薬およびまたは反応試薬溶液を用いた合成反応、検出反応を含む化学反応系や生化学反応系の構築が可能になる。組成が異なる複数の反応系を1枚のモジュール系に組み込めるので多成分系の各種実験の効率的な実施が可能になる。本発明材料は炭素材料であり使用前の滅菌処理や使用後の焼却処理が可能なのでウイルスや細菌を含む有害反応系への適用やこれらを対象とする遺伝子関連開発や医薬品開発研究など幅広い分野での実験が効率化される。本発明材料は本質的にセラミック材料としての特性を有しているので、極性溶媒、非極性溶媒を問わず強酸、強アルカリを含む腐食性溶媒系や耐熱性が要求される反応条件下での微量実験が可能になる。本発明材料は木材起源の毛細管構造を利用しているので断面積を広げるだけでスケールアップが容易であり、少量を扱う実験室段階から大量生産を目的とする製造に向けた構造設計、設備化への移行が効率的に進められる。
【符号の説明】
【0044】
1 炭化ブロック
2、4、6、8、22、24、25、32、34、36、42、44、46、50、52~59、60、61 ウェル
3、7、23、35、37、43、45、62 隔壁
5 道管或いは仮道管の長さ方向
38 底板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8