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特開2022-153273複合構造物および複合構造物を備えた半導体製造装置
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  • 特開-複合構造物および複合構造物を備えた半導体製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153273
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】複合構造物および複合構造物を備えた半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20221004BHJP
   C23C 24/04 20060101ALI20221004BHJP
   C23C 24/10 20060101ALI20221004BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20221004BHJP
   H01L 21/205 20060101ALN20221004BHJP
   H01L 21/31 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
C23C24/04
C23C24/10 C
C04B35/44
H01L21/205
H01L21/31 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017676
(22)【出願日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021055620
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021156216
(32)【優先日】2021-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 亮人
【テーマコード(参考)】
4K044
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044BA12
4K044BC02
4K044BC05
4K044CA13
4K044CA14
4K044CA23
4K044CA27
4K044CA29
5F004AA15
5F004BA20
5F004BB22
5F004BB29
5F004BD04
5F004BD05
5F004CA02
5F004CA03
5F004CA06
5F004DA18
5F045AA08
5F045AC00
5F045BB15
5F045EB03
5F045EC05
5F045EM05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐パーティクル性(low-particle generation)を高めることができる半導体製造装置用部材および半導体製造装置を提供する。
【解決手段】複合構造物10は、基材15と、基材15上に設けられ、プラズマ雰囲気に曝露される表面を有する構造物20とを備える。構造物がYAlを主成分として含み、かつ、格子定数および/またはX線回析の特定のピークの強度比が特定の条件を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、
前記構造物がYAlを主成分として含み、かつ下記式(1)で算出される格子定数a、b、cが、a>7.382、b>10.592、c>11.160の少なくとも1つを満たす、複合構造物:
【数1】

(式1において、dは格子面間隔、(hkl)はミラー指数であり、格子定数a、b、cの算出において、β=108.54°とする)。
【請求項2】
前記格子定数が、a7.393、b10.608、c11.179の少なくとも1つを満たす、請求項1記載の複合構造物。
【請求項3】
前記格子定数が、a7.404、b10.627、c11.192の少なくとも1つを満たす、請求項1記載の複合構造物。
【請求項4】
基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、
前記構造物がYAlを主成分として含み、かつ下記式(2)で算出されるピーク強度比γが1.15以上2.0以下である、複合構造物:

γ=β/α・・・(2)

(式2において、αはYAl単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°のピークの強度であり、βはミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°のピークの強度である)。
【請求項5】
前記ピーク強度比γが1.20以上である、請求項4記載の複合構造物。
【請求項6】
前記ピーク強度比γが1.24以上である、請求項4記載の複合構造物。
【請求項7】
基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、
前記構造物がYAlを主成分として含み、
請求項1に規定される下記式(1)で算出される格子定数a、b、cが、a>7.382、b>10.592、c>11.160の少なくとも1つを満たすか、または
請求項4に規定される下記式(2)で算出されるピーク強度比γが1.15以上2.0以下である、複合構造物。
【請求項8】
耐パーティクル性が要求される環境において用いる、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合構造物。
【請求項9】
半導体製造装置用部材である、請求項8に記載の複合構造物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の複合構造物を備えた、半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置用部材として好ましく用いられる、耐パーティクル性(low-particle generation)に優れた複合構造物およびそれを備えた半導体製造用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面にセラミックスをコートして、基材に機能を付与する技術が知られている。例えば、半導体製造装置などのプラズマ照射環境下で用いられる半導体製造装置用部材として、その表面に耐プラズマ性が高い被膜を形成したものが用いられている。被膜には、例えば、アルミナ(Al)、イットリア(Y)等の酸化物系セラミックス、フッ化イットリウム(YF)、イットリウムオキシフッ化物(YOF)などのフッ化物が用いられる。
【0003】
さらに酸化物系セラミックスとしては、酸化エルビウム(Er)あるいはErAl12、酸化ガドリニウム(Gd)あるいはGdAl12、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:YAl12)または、YAlなどを用いた保護層を用いる提案がなされている(特許文献1乃至特許文献3)。半導体の微細化に伴い、半導体製造装置内の各種部材にはより高いレベルでの耐パーティクル性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016-528380号公報
【特許文献2】特表2020-172702号公報
【特許文献3】特表2017-514991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、今般、イットリウムおよびアルミニウムの酸化物YAl(以下、「YAM」と略記する)を主成分として含む構造物の格子定数と、プラズマ腐食に伴うパーティクル汚染の指標である耐パーティクル性との間に相関関係があることを見出し、耐パーティクル性に優れた構造物の作成に成功した。
【0006】
また、本発明者らは、YAMを主成分として含む構造物が示す、YAM単斜晶における二つの特定のミラー指数に帰属される回折角におけるX線回析のピークの強度比と、耐パーティクル性との間に相関関係があることを見出した。本発明はまたかかる知見にもとづくものである。
【0007】
したがって、本発明は、耐パーティクル性(low-particle generation)に優れた複合構造物の提供をその目的としている。さらにこの複合構造物の半導体製造装置用部材としての用途、およびそれを用いた半導体製造装置の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明による複合構造物は、基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、前記構造物がYAlを主成分として含み、かつ下記式(1)で算出される格子定数が、a>7.382、b>10.592、c>11.160の少なくとも1つを満たすことを特徴とするものである。
【数1】
(式1において、dは格子面間隔、(hkl)はミラー指数である。)
【0009】
また、本発明による複合構造物は、基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、前記構造物がYAlを主成分として含み、かつ下記式(2)で算出されるピーク強度比γが1.15以上2.0以下であることを特徴とするものである。

γ=β/α・・・(2)

(式2において、αはYAl単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°のピークの強度であり、βはミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°のピークの強度である。)
【0010】
また本発明による複合構造物は、耐パーティクル性が要求される環境において用いられるものである。
【0011】
さらに、本発明による半導体製造装置は、上記の本発明による複合構造物を備えた者である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による構造物を有する部材の模式断面図である。
図2】標準プラズマ試験1後の構造物表面からの深さとフッ素原子濃度との関係を示すグラフである。
図3】標準プラズマ試験2後の構造物表面からの深さとフッ素原子濃度との関係を示すグラフである。
図4】構造物の表面の標準プラズマ試験1および2後のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
複合構造物
本発明による複合構造物の基本構造を、図1を用いて説明する。図1は、本発明による複合構造物10の断面模式図である。複合構造物10は、基材15の上に設けられた構造物20とからなり、構造物20は表面20aを有する。
【0014】
本発明による複合構造物が備える構造物20は、いわゆるセラミックコートである。セラミックコートを施すことにより、基材15に種々の物性・特性を付与することが出来る。なお、本明細書にあっては、構造物(またはセラミック構造物)とセラミックコートとは、特に断らない限り、同義に用いる。
【0015】
複合構造物10は、例えば、チャンバーを有する半導体製造装置のチャンバー内部に設けられる。複合構造物10がチャンバーの内壁を構成してもよい。チャンバーの内部には、SF系やCF系のフッ素系ガスなどが導入されプラズマが生じ、構造物20の表面20aはプラズマ雰囲気に曝露される。そのため、複合構造物10の表面にある構造物20には耐パーティクル性が要求される。また、本発明による複合構造物は、チャンバーの内部以外に実装される部材として用いられてもよい。本明細書において、本発明による複合構造物が用いられる半導体製造装置は、アニール、エッチング、スパッタリング、CVDなどの処理を行う任意の半導体製造装置(半導体処理装置)を含む意味に用いる。
【0016】
基材
本発明において基材15は、その用途に用いられる限り特に限定されず、アルミナ、石英、アルマイト、金属あるいはガラスなどを含んで構成され、好ましくはアルミナを含んで構成される。本発明の好ましい態様によれば、基材15の構造物20が形成される面の算術平均粗さRa(JISB0601:2001)は、例えば5マイクロメータ(μm)未満、好ましくは1μm未満、より好ましくは0.5μm未満とされる。
【0017】
構造物
本発明において、構造物はYAMを主成分として含むものである。また、本発明の一つの態様によれば、YAMは多結晶体である。
【0018】
本発明において、構造物の主成分とは、構造物のX線回折(X-ray Diffraction:XRD)による定量又は準定量分析により、構造物20に含まれる他の化合物よりも相対的に多く含まれる化合物をいう。例えば、主成分は、構造物中に最も多く含まれる化合物であり、構造物において主成分が占める割合は、体積比又は質量比で50%よりも大きい。主成分が占める割合は、より好ましくは70%より大きく、90%より大きいことも好ましい。主成分が占める割合が100%であってもよい。
【0019】
本発明において、構造物がYAMに加え含んでいてもよい成分としては、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化ユウロビウム、酸化ガドリニウム、酸化エルビウム、酸化イッテルビウムなどの酸化物、およびイットリウムフッ化物、イットリウムオキシフッ化物などのフッ化物があげられ、これらの二以上の複数を含んでいてもよい。
【0020】
本発明において、構造物は単層構造に限られず、多層構造であってもよい。組成の異なるYAMを主成分とする層を複数備えることもでき、また、基材と構造物との間に別の層、例えばYを含む層が設けられていてもよい。
【0021】
格子定数
本発明において、YAMを主成分として含む構造物は、上記式(1)で算出される格子定数aが、a>7.382、b>10.592、c>11.160の少なくとも1つを満たすとされる。これにより、耐パーティクル性を向上させることができる。本発明の好ましい態様によれば、格子定数は好ましくはa7.393、b10.608、c11.179の少なくとも1つを満たし、より好ましくはa7.404、b10.627、c11.192の少なくとも1つを満たす。さらに好ましくはaが7.430以上および/またはcが11.230以上を満たす。
【0022】
YAMの格子定数は、ICDDカード(リファレンスコード:01-083-0933)によると、格子定数はa=7.3781(Å)、b=10.4735(Å)、c=11.1253(Å)である。本発明は、格子定数a、b、cが、a>7.382、b>10.592、c>11.160の少なくとも1つを満たす、新規の複合構造物であり、これは優れた耐パーティクル性を備える。
【0023】
ここで、格子定数は、以下の方法により算出される。すなわち、基材上のYAMを主成分として含む構造物20に対してアウトオブプレーン測定によるθ-2θスキャンでX線回折(X-ray Diffraction:XRD)を行う。構造物20に対するXRDにより、YAMの単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(013)に帰属される回折角2θ=26.7°のピーク、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°のピーク、ミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°のピークについて、ピーク位置(2θ)を測定する。なお、本発明における構造物20は格子定数a=7.3781、b=10.4735、c=11.1253よりも大きい新規の構造物であることから、XRDによって実際に計測される各ミラー指数(hlk)に帰属されるピーク位置(2θ)は、各ミラー指数(hkl)に帰属される理論上のピーク位置(2θ)よりも、各々、低角度側に0.1~0.4°シフトする。続いて、各ピークに対する格子面間隔(d)をブラッグの式λ=2d・sinθより算出する。ここで、λはXRDに使った特性X線の波長である。最後に、格子定数a、b、cを式1より算出する。なお、式1において、dは格子面間隔、(hkl)はミラー指数である。また、格子定数a、b、cの算出において、β=108.54°を用いた。その他、格子定数の測定はJISK0131に準拠する。
【数1】
【0024】
ピーク強度比
本発明の一つの態様によれば、YAMの単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°近傍のピークの強度をα、ミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°近傍のピークの強度をβとしたとき、γ=β/αとして算出されるピーク強度比が1.1よりも大とされる。これにより、耐パーティクル性を向上させることができる。本発明の好ましい態様によれば、ピーク強度比γは1.2以上、より好ましくは1.3以上である。
【0025】
本発明の別の態様によれば、上記式(1)で規定される条件とは独立して、またはそれに重ねての特性として、YAMを主成分として含む構造物は、下記式(2)で算出されるピーク強度比γが、1.15以上2.0以下を満たすことで、優れた耐パーティクル性を備えるものとなる。すなわち、基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、この構造物がYAMを主成分として含み、かつ下記式(2)で算出されるピーク強度比γが1.15以上2.0以下である

γ=β/α ・・・(2)
式(2)において、αはYAl単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°のピークの強度であり、βはミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°のピークの強度である。
【0026】
本発明において、「回折角2θ=29.6°のピーク」とは、製造により膜に残存する応力の影響等を勘案し、その測定にあって角度幅を許容するものであり、例えば29.6±0.4°(29.2°以上30.0°以下)の範囲にあるピークを許容し、また、「回折角2θ=30.6°」とは、同様に、例えば30.6°±0.4°(30.2°以上31.0°以下)の範囲にあるピークを許容する。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、ピーク強度比γが1.20以上、または1.22以上を満たす。ピーク強度比γが1.24以上または1.30以上を満たすことがさらに好ましい。ピーク強度比γの上限は2.0以下、より好ましくは1.80以下である。
【0028】
ピーク強度比γの測定方法は好ましくは以下のとおりである。すなわち、XRD装置を使用し、測定条件として、特性X線はCuKα(λ=1.5418Å)、とした。YAMの単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6±0.4°程度(29.2°以上30.0°以下)近傍のピークの強度をα、ミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°±0.4°程度(30.2°以上31.0°以下)のピークの強度をβとして、γ=β/αとしてピーク強度比を算出する。この時の強度α、βは、測定されたスペクトルに対して、2次微分法を用いてプロファイルフィッティングすることで算出した。なお、本発明における構造物20は格子定数a=7.3781、b=10.4735、c=11.1253よりも大きい新規の構造物であることから、XRDによって実際に計測される各ミラー指数(hlk)に帰属されるピーク位置(2θ)は、各ミラー指数(hkl)に帰属される理論上のピーク位置(2θ)よりも、各々、低角度側に0.1~0.4°シフトする。
【0029】
フッ素の侵入深さ
本発明の好ましい態様によれば、本発明による複合構造物が備える構造物は、特定のフッ素系プラズマに曝されたとき、表面から所定の深さでのフッ素原子濃度を所定値よりも小であるものが好ましい耐パーティクル性を示す。本発明のこの態様による複合構造物は、以下の2つの条件下でのフッ素系プラズマに曝露された後、以下に示すそれぞれの表面からの深さにおけるフッ素原子濃度を満たすものである。本発明にあっては、2つの条件下でのフッ素系プラズマに曝露する試験を、標準プラズマ試験1および2とそれぞれ呼ぶこととする。
【0030】
標準プラズマ試験1および2は半導体製造装置内で想定される種々の条件を想定したものである。標準プラズマ試験1はバイアス電力を印加した条件であり、構造物がチャンバー内部においてシリコンウエハ周辺に位置するフォーカスリング等の部材として用いられ、ラジカル及びイオン衝突による腐食環境に曝されることを想定した試験条件である。標準プラズマ試験1ではSFプラズマに対する性能を評価している。一方、標準プラズマ試験2はバイアスを印加しない条件であり、構造物がチャンバー内部においてシリコンウエハと概ね垂直方向に位置する側壁部材やシリコンウエハに対向する天板部材として用いられ、イオン衝突が少なく、主にラジカルによる腐食環境に曝されることを想定した試験条件である。本発明の好ましい態様によれば、本発明による複合構造物は、少なくとも、これら試験のいずれか一つのフッ素濃度の所定値を満たす。
【0031】
(1)プラズマ曝露条件
基材上のYAMを主成分として含む構造物について、誘導結合型反応性イオンエッチング(ICP-RIE)装置を用いて、その表面をプラズマ雰囲気に曝露する。プラズマ雰囲気の形成条件は、以下の2条件とする。
【0032】
標準プラズマ試験1:
プロセスガスとしてSF 100sccm、電源出力としてICP用のコイル出力を1500W、バイアス出力を750Wとする。
【0033】
標準プラズマ試験2:
プロセスガスとしてSF 100sccm、電源出力としてICP用のコイル出力を1500W、バイアス出力をOFF(0W)とする。つまり静電チャックのバイアス用の高周波電力には印加しない。
【0034】
標準プラズマ試験1および2に共通して、チャンバー圧力は0.5Pa、プラズマ曝露時間は1時間とする。この条件により形成されたプラズマ雰囲気に、前記構造物表面が曝露されるように、前記半導体製造装置用部材は、前記誘導結合型反応性イオンエッチング装置に備えられた静電チャックで吸着されたシリコンウエハ上に配置する。
【0035】
(2)構造物表面の、深さ方向におけるフッ素原子濃度の測定方法
標準プラズマ試験1~2後の構造物の表面について、X線光電子分光法(XPS)を用いて、イオンスパッタを用いた深さ方向分析により、スパッタ時間に対するフッ素(F)原子の原子濃度(%)を測定した。続いて、スパッタ時間を深さに換算するため、イオンスパッタによりスパッタされた箇所とスパッタされていない箇所の段差(s)を触針式表面形状測定器で測定した。段差(s)とXPS測定に用いた全スパッタ時間(t)よりスパッタ単位時間に対する深さ(e)をe=s/tにより算出し、スパッタ単位時間に対する深さ(e)を用いてスパッタ時間を深さに換算した。最後に、表面20aからの深さと、その深さ位置でのフッ素(F)原子濃度(%)を算出した。
【0036】
本態様において、本発明による複合構造物は、上記準プラズマ試験1および2後、以下に示すそれぞれの表面からの深さにおけるフッ素原子濃度を満たす。
【0037】
標準プラズマ試験1後:
表面から10nmの深さでのフッ素原子濃度F110nmが3.0%未満であり、より好ましくは、F110nmが1.5%以下さらに好ましくは、F110nmが1.0%以下である。
【0038】
標準プラズマ試験2後:
表面から10nmの深さでのフッ素原子濃度F310nmが3.0%未満であり、より好ましくは、F310nmが1.0%以下、さらに好ましくは、F310nmが0.5%以下である。
【0039】
複合構造物の製造
本発明による複合構造物は、上記した格子定数を備える構造物を基材上に実現出来る限り、合目的的な種々の製造方法により製造されてよい。すなわち、基材上に、YAlを主成分として含み、かつ上記した格子定数を備える構造物を形成できる方法により製造されてよく、例えば、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)によって構造物を基材上に形成できる。PVD法の例としては、電子ビーム物理気相蒸着(EB-PVD)、イオンビームアシスト蒸着(IAD)、電子ビームイオンアシスト蒸着(EB-IAD)、イオンプレーティング、スパッタリング法等が挙げられる。CVD法の例としては熱CVD、プラズマCVD(PECVD)、有機金属CVD(MOCVD)、ミストCVD、レーザーCVD、原子層堆積(ALD)等が挙げられる。また、本発明の別の態様によれば、基材の表面に脆性材料等の微粒子を配置し、該微粒子に機械的衝撃力を付与することで形成することができる。ここで、「機械的衝撃力の付与」方法には、高速回転する高硬度のブラシやローラーあるいは高速に上下運動するピストンなどを用いる、爆発の際に発生する衝撃波による圧縮力を利用する、または、超音波を作用させる、あるいは、これらの組み合わせが挙げられる。
【0040】
また、本発明による複合構造物は、エアロゾルデポジション法(AD法)により好ましく形成することができる。「AD法」は、セラミックス等の脆性材料などを含む微粒子をガス中に分散させた「エアロゾル」をノズルから基材に向けて噴射し、金属やガラス、セラミックスやプラスチックなどの基材に高速で微粒子を衝突させ、この衝突の衝撃により脆性材料微粒子に変形や破砕を起させ、それによりこれらを接合させて、基材上に微粒子の構成材料を含む構造物(セラミックコート)を、例えば層状構造物または膜状構造物としてダイレクトに形成させる方法である。この方法によれば、特に加熱手段や冷却手段などを必要とせず、常温で構造物の形成が可能であり、焼成体と同等以上の機械的強度を有する構造物を得ることができる。また、微粒子を衝突させる条件や微粒子の形状、組成などを制御することにより、構造物の密度や機械強度、電気特性などを多様に変化させることが可能である。そして、以下に説明する諸条件を、本発明による複合構造体を実現するよう、すなわち式(1)で算出される格子定数a、b、cが満されるよう、または式(2)で算出されるピーク強度比γが満たされるよう設定することで、本発明による複合構造物を製造することができる。
【0041】
本願明細書において「微粒子」とは、一次粒子が緻密質粒子である場合には、粒度分布測定や走査型電子顕微鏡などにより同定される平均粒径が5マイクロメータ(μm)以下のものをいう。一次粒子が衝撃によって破砕されやすい多孔質粒子である場合には、平均粒径が50μm以下のものをいう。
【0042】
また、本願明細書において「エアロゾル」とは、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、乾燥空気、これらを含む混合ガスなどのガス(キャリアガス)中に前述の微粒子を分散させた固気混合相体を指し、「凝集体」を含む場合も包含するが、好ましくは実質的に微粒子が単独で分散している状態をいう。エアロゾルのガス圧力と温度は、求める構造物の物性等を勘案して任意に設定されてよいが、ガス中の微粒子の濃度は、ガス圧を1気圧、温度を摂氏20度に換算した場合に、吐出口から噴射される時点において0.0003mL/L~5mL/Lの範囲内であることが好ましい。
【0043】
エアロゾルデポジションのプロセスは、通常は常温で実施され、微粒子材料の融点より十分に低い温度、すなわち摂氏数100度以下で構造物の形成が可能である。本願明細書において「常温」とは、セラミックスの焼結温度に対して著しく低い温度で、実質的には0~100℃の室温環境をいう。本願明細書において「粉体」とは、前述した微粒子が自然凝集した状態をいう。
【実施例0044】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例で用いた構造物の原料として、以下の表に示されるものを用意した。
【表1】
【0046】
表中、メジアン径(D50(μm))とは、各原料の粒子径の累積分布における50%の径である。各粒子の径は、円形近似にて求めた直径を用いた。
【0047】
これらの原料と、製膜条件(キャリアガスの種類及び流量など)との組み合わせを変化させて基材上に構造物を備えた複数のサンプルを作製した。得られたサンプルについて標準プラズマ試験1~2後の耐パーティクル性の評価を行った。なお、この例では、サンプルの作製にはエアロゾルデポジション法を用いている。
【0048】
【表2】
【0049】
表に示すように、キャリアガスには、窒素(N)又はヘリウム(He)が用いられる。エアロゾルは、エアロゾル発生器内において、キャリアガスと原料粉体(原料微粒子)とが混合されることで得られる。得られたエアロゾルは、圧力差によってエアロゾル発生器に接続されたノズルから、製膜チャンバーの内部に配置された基材に向けて噴射される。この際、製膜チャンバー内の空気は真空ポンプによって外部に排気されている。
【0050】
サンプル
以上のようにして得られたサンプル1~5の構造物のそれぞれは、主成分としてYAMの多結晶体を含み、その多結晶体における平均結晶子サイズは、いずれも30nm未満であった。
【0051】
なお、結晶子サイズの測定には、XRDを用いた。すなわち、XRD装置として「X‘PertPRO/パナリティカル製」を使用した。XRDの測定条件として、特性X線はCuKα(λ=1.5418Å)、管電圧45kV、管電流40mA、Step Size 0.0084°、Time per Step 80秒以上、とした。平均結晶子サイズとして、シェラーの式による結晶子サイズを算出した。シェラーの式中のKの値として0.94を用いた。
【0052】
基材上のYAMの結晶相の主成分の測定は、XRDにより行なった。XRD装置として「X‘PertPRO/パナリティカル製」を使用した。XRDの測定条件として、特性X線はCuKα(λ=1.5418Å)、管電圧45kV、管電流40mA、Step Size 0.0084°、Time per Step 80秒以上、とした。主成分の算出にはXRDの解析ソフト「High Score Plus/パナリティカル製」を使用した。ICDDカード記載の準定量値(RIR=Reference Intensity Ratio)を用いて、回折ピークに対してピークサーチを行った際に求められる相対強度比により算出した。なお、積層構造物である場合における、YAMの多結晶の主成分の測定においては、薄膜XRDにより、最表面から1μm未満の深さ領域の測定結果を用いることが望ましい。
【0053】
標準プラズマ試験
また、これらのサンプル1~5について、上記した条件の標準プラズマ試験1および2を行い、当該試験後の耐パーティクル性の評価を以下の手順で行った。ICP-RIE装置には「Muc-21 Rv-Aps-Se/住友精密工業製」を使用した。標準プラズマ試験1および2に共通で、チャンバー圧力は0.5Pa、プラズマ曝露時間は1時間とした。この条件により形成されたプラズマ雰囲気に、サンプル表面が曝露されるように、サンプルを、誘導結合型反応性イオンエッチング装置に備えられた静電チャックで吸着されたシリコンウエハ上に配置した。
【0054】
フッ素の侵入深さの測定
標準プラズマ試験1および2後のサンプルの表面について、X線光電子分光法(XPS)を用いて、イオンスパッタを用いた深さ方向分析により、スパッタ時間に対するフッ素(F)原子の原子濃度(%)を測定した。XPS装置として「K-Alpha/Thermo Fisher Scientific製」を使用した。続いて、スパッタ時間を深さに換算するため、イオンスパッタによりスパッタされた箇所とスパッタされていない箇所の段差(s)を触針式表面形状測定器で測定した。段差(s)とXPS測定に用いた全スパッタ時間(t)よりスパッタ単位時間に対する深さ(e)をe=s/tにより算出し、スパッタ単位時間に対する深さ(e)を用いてスパッタ時間を深さに換算した。最後に、サンプル表面からの深さと、その深さ位置でのフッ素(F)原子濃度(%)を算出した。
【0055】
標準プラズマ試験1および2後の構造物表面からの深さとフッ素原子濃度が以下の表に示されるとおりであった。

標準プラズマ試験1後:
【表3】

標準プラズマ試験2後:
【表4】
【0056】
また、上記データをグラフとして示せば、図2及び図3のとおりとなる。
【0057】
SEM像
標準プラズマ試験1および2後の構造物の表面のSEM像を次のように撮影した。すなわち、走査型電子顕微鏡(Sccaning Electron Microscope;SEM)を用い、プラズマ曝露面の腐食状態より評価した。SEMは「SU-8220/日立製作所製」を使用した。加速電圧は3kVとした。結果の写真は、図4に示されるとおりであった。
【0058】
面粗さ(算術平均高さSa)
標準プラズマ試験1後の構造物の面粗さについて、レーザー顕微鏡を用いISO25178に定めるSa(算術平均高さ)を評価した。レーザー顕微鏡は「OLS4500/オリンパス製」を使用した。対物レンズはMPLAPON100XLEXTを用い、カットオフ値λcは25μmとした。結果は、以下の表に示されるとおりであった。
【表5】
【0059】
格子定数の測定
X線回折を用いて、サンプルのYAMの格子定数を以下の手順で評価した。XRD装置として「Aeris/パナリティカル製」を使用した。XRDの測定条件として、特性X線はCuKα(λ=1.5418Å)、管電圧40kV、管電流15mA、Step Size 0.0054°、Time per Step 300秒以上、とした。YAMの単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(013)に帰属される回折角2θ=26.7°のピーク、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°のピーク、ミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°のピークについて、ピーク位置(2θ)を測定する。なお、本発明における構造物20は格子定数a=7.3781、b=10.4735、c=11.1253よりも大きい新規の構造物であることから、XRDによって実際に計測される各ミラー指数(hlk)に帰属されるピーク位置(2θ)は、各ミラー指数(hkl)に帰属される理論上のピーク位置(2θ)よりも、各々、低角度側に0.1~0.4°シフトする。続いて、各ピークに対する格子面間隔(d)をブラッグの式λ=2d・sinθより算出する。ここで、λはXRDに使った特性X線の波長である。最後に、格子定数a、b、cを式1より算出する。なお、式1において、dは格子面間隔、(hkl)はミラー指数である。また、格子定数a、b、cの算出において、β=108.54°を用いた。その他、格子定数の測定はJISK0131に準拠する。各サンプルの格子定数は表2に示されるとおりであった。
【0060】
ピーク強度比の測定
XRD装置として「Aeris/パナリティカル製」を使用した。XRDの測定条件として、特性X線はCuKα(λ=1.5418Å)、管電圧40kV、管電流15mA、Step Size 0.0054°、Time per Step 300秒以上、とした。YAMの単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°近傍のピークの強度をα、ミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°近傍のピークの強度をβとして、γ=β/αとしてピーク強度比を算出した。この時の強度α、βは、測定されたスペクトルに対して、2次微分法を用いてプロファイルフィッティングすることで算出した。なお、本発明における構造物20は格子定数a=7.3781、b=10.4735、c=11.1253よりも大きい新規の構造物であることから、XRDによって実際に計測される各ミラー指数(hlk)に帰属されるピーク位置(2θ)は、各ミラー指数(hkl)に帰属される理論上のピーク位置(2θ)よりも、各々、低角度側に0.1~0.4°シフトする。
【0061】
【表6】
【0062】
ピーク強度比の測定
XRD装置として「Smart-Lab/リガク製」を使用した。XRDの測定条件として、特性X線はCuKα(λ=1.5418Å)、管電圧45kV、管電流200mA、ステップ幅 0.0054°、スピード/計測時間を2°/min以下とした。YAMの単斜晶における、ミラー指数(hkl)=(122)に帰属される回折角2θ=29.6°±0.4(29.2°~30.0°)のピークの強度をα、ミラー指数(hkl)=(211)に帰属される回折角2θ=30.6°±0.4°(30.2°~31.0°)のピークの強度をβとして、γ=β/αとしてピーク強度比を算出した。この時の強度α、βは、測定されたスペクトルに対して、2次微分法を用いてプロファイルフィッティングすることで算出した。なお、本発明における構造物20は格子定数a=7.3781、b=10.4735、c=11.1253よりも大きい新規の構造物であることから、XRDによって実際に計測される各ミラー指数(hlk)に帰属されるピーク位置(2θ)は、各ミラー指数(hkl)に帰属される理論上のピーク位置(2θ)よりも、各々、低角度側に0.1~0.4°シフトする。
【0063】
【表7】
【0064】
結果の評価
以上の結果を踏まえて、上記した表2において、標準プラズマ試験1および2のいずれでもプラズマ腐食の影響が少なかった場合を「◎」、標準プラズマ試験1および2のいずれか1つでプラズマ腐食の影響が少なかった場合を「〇」、標準プラズマ試験1および2のいずれの条件においてもプラズマ腐食の影響があった場合を「×」とする評価とした。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、構造物、基材などの形状、寸法、材質、配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0066】
10・・・複合構造物、15・・・基材、20・・・構造物、20a・・・構造物の表面
図1
図2
図3
図4