IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エッペンドルフ アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特開-ピペット・チップ 図1
  • 特開-ピペット・チップ 図2
  • 特開-ピペット・チップ 図3
  • 特開-ピペット・チップ 図4
  • 特開-ピペット・チップ 図5
  • 特開-ピペット・チップ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153323
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ピペット・チップ
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20221004BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20221004BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
G01N35/10 G
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022050053
(22)【出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】21165248.2
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591121683
【氏名又は名称】エッペンドルフ エスイー
【氏名又は名称原語表記】Eppendorf SE
【住所又は居所原語表記】Barkhausenweg 1, 22339 Hamburg,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】ヴィート ブラベッツ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ピペット・チップのマウントに十分に密に密封して固締することができ、かつ装着力や排出力が低減され、寸法精度および強度が向上した製造特性を有し、異なる種類のピペット・チップに印をつけるのにより適したピペット・チップを提供する。
【解決手段】プラスチック製のピペット・チップが、液体を通すための下部開口部4を下端部3に有しておりピペット装置のマウント24に固締するための上部開口部6を上端部5に有する細長い管状本体2を備え、上部開口部4の横にマウント用のシート領域23が管状本体2の内周20にあり、管状本体2は、上部開口部6の横に軸方向に延びる複数の平坦部を外周9に有し、管状本体2は、平坦部を通る断面が円弧多角体の輪郭を外周9に有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製のピペット・チップであって、液体を通すための下部開口部(4)を下端部(3)に有しておりピペット装置のマウント(24)に固締するための上部開口部(6)を上端部(5)に有する細長い管状本体(2)を備え、前記上部開口部(6)の横に、前記マウント用(24)のシート領域(23)が前記管状本体(2)の内周にあり、前記管状本体(2)は、前記上部開口部(6)の横に軸方向に延びる複数の平坦部(12)を外周(9)に有し、前記管状本体(2)は、前記平坦部を通る断面が円弧多角体の輪郭を外周に有することを特徴とする、ピペット・チップ。
【請求項2】
前記平坦部(12)が前記シート領域(23)の少なくとも一部にわたり軸方向に延びている、請求項1に記載のピペット・チップ。
【請求項3】
前記平坦部(12)が前記管状本体(2)の前記上端部(5)からある距離まで上方に延びている、請求項1または2に記載のピペット・チップ。
【請求項4】
前記平坦部(12)が前記管状本体(2)の前記上端部(5)まで延びている、請求項1から3のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項5】
前記平坦部(12)が前記管状本体(9)の外周(11)にあるショルダ(10)まで下方に延びている、請求項1から4のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項6】
前記管状本体(2)が3個から10個、好ましくは3個、4個、または5個の平坦部(12)を有する、請求項1から5のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項7】
前記平坦部(12)が前記平坦部を通る断面が均一に広がり、かつ/または均一に湾曲している、請求項1から6のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項8】
前記管状本体(2)が前記平坦部を通る前記断面が等辺等角の円弧多角体(15)の外形部を有する、請求項1から7のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項9】
前記平坦部(12)が、前記管状本体(2)の中心軸に平行に、または前記管状本体(2)の中心軸の周りを螺旋状に走る、請求項1から8のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項10】
前記管状本体(2)が前記平坦部(12)を通る前記断面が円形の外形部を内周(20)に有する、請求項1から9のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項11】
前記管状本体(2)が前記シート領域(23)の前記内周(20)に少なくとも1つのシール構造部(32)であって、内方に突出して周方向に延びているシール構造部(32)、および/または、周方向に、連続的に走行するか、あるいは互いに離間している複数の部分を有する少なくとも1つの内方に突出するガイド構造部(36)、および/または、周方向に、連続的に走行するか、あるいは互いに離間している複数の部分を有する少なくとも1つの内方に突出する制動構造部(34)を有する、請求項1から10のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項12】
前記管状本体(2)が、前記内周(20)上に前記管状本体(2)を貫通する縦断面において波形の輪郭を有するいくつかのシール構造部(32)、および/またはガイド構造部(36)、および/または制動構造部(34)を有する、請求項11に記載のピペット・チップ。
【請求項13】
前記管状本体(2)が、幅広部(21)および/または挿入面取り部(22)を前記上部開口部(6)に有する、請求項1から12のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項14】
少なくとも1つの熱可塑性樹脂、好ましくは少なくとも1つのポリオレフィン、好ましくは少なくとも1つのポリプロピレンおよび/またはエチレンから製造される、請求項1から13のうちの一項に記載のピペット・チップ。
【請求項15】
以下の特徴のうちの1つ以上を備える、請求項1から14のうちの一項に記載のピペット・チップ:
・前記管状本体(2)の前記円弧多角体(15)の角部における壁厚が、0.3mmから1mmの範囲内にあり;
・前記シート領域(23)が下方に先細りする直径を有する内円錐形であり、前記シート領域の円錐角が1度から6度の範囲、好ましくは1.5度から2.5度の範囲から選択され;
・前記シート領域(23)がマウントに装着するように設計されており、前記円錐形マウント(24)の円錐角、または前記マウントの円錐部が、1.0度から10度の範囲、好ましくは1.3度から7度の範囲、より好ましくは1.5度から3度の範囲から選択され;
・前記シール構造部(32)および/または前記ガイド構造部(36)および/または前記制動構造部(34)が、前記シート領域(23)にわたり前記管状本体(2)の長手方向に分布しており;
・前記平坦部(12)の領域(前記シール構造部および/または前記ガイド構造部および/または前記制動構造部(34)の外側)における前記管状本体(2)の壁厚が、最も薄い箇所で最大0.3mmであり;
・前記平坦部(12)の領域(前記シール構造部および/または前記ガイド構造部および/または前記制動構造部の外側)における前記管状本体(2)の壁厚が、最も薄い箇所で最小0.1mmであり;
・前記平坦部(12)が前記管状本体(2)の長手方向に少なくとも長さ4mmにわたって延びており;
・前記平坦部(12)が前記管状本体(2)の長手方向に少なくとも2つのシール構造部(32)および/またはガイド構造部(36)および/または制動構造部(34)にわたって延びている。
【請求項16】
請求項1から15のうちの一項、または上述の実施形態のうちの1つに記載の複数のピペット・チップを備え、異なるピペット・チップ・タイプのピペット・チップが、設計の異なる平坦部(12)および/または前記平坦部(12)に異なる認識部を有する、ピペット・チップ・システム。
【請求項17】
請求項1から15のうちの一項に記載の少なくとも1つのピペット・チップ、ピペット・チップ(1)を装着するための単一のマウント(24)を有するシングルチャネル・ピペット装置(25)、および/または複数のピペット・チップ(1)を同時に装着するための複数のマウント(24)を有するマルチチャネル・ピペット装置を備えた、ピペット・システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペット・チップに関する。
【0002】
ピペット・チップは、特に、臨床検査室、生物検査室、生化学検査室および化学検査室で液体を計量するために、ピペットや他の計量装置と共に使用される。以下、ピペットや他の計量装置を、まとめて「ピペット装置」と呼ぶこととする。ピペット・チップは通常、細長い管状本体を有し、管状本体はその下端部に液体を通すための下部開口部と、その上端部にピペット装置のマウントに固締するための上部開口部とを有する。ピペット・チップは、全体として円錐形をしており、その断面は下部開口部から上部開口部に向けて広くなっている。標準化された円錐形、またはそれぞれ切頭円錐台状のマウント(作業用コーン)は、標準的な幾何学的形状で知られているが、この幾何学的形状は、多くの製造業者によって一様に使用され、各ピペット・チップのサイズに関して円錐形のマウント特定の平均直径や特定の円錐角で特徴付けられている。
【0003】
マルチチャネル・ピペット装置は、液体を1つ以上の容器から同時に吸引したり、液体を1つ以上の容器にそれぞれ排出したりする役目をする。これらは、マトリックス状に配置されている複数の容器を有するマイクロタイター・プレートを処理するのにしばしば使用される。このことを達成するために、マルチチャネル・ピペット装置は、1つ以上の平行な列に互いに平行に配置されているいくつかの円錐形のマウントを有し、この上にピペット・チップを固締することができる。一列に8個、12個、16個、または24個のマウントを有するマルチチャネル・ピペットが、米国国家規格協会(ANSI)標準に準拠した96(8×12)個または384(16×24)個の容器(ウェル)を有するマイクロタイター・プレートとともによく使用されるフォーマットの用途で知られている。96個または384個のマウントを有する投与ヘッドを用いたマルチチャネル計量装置もまた、知られている。96個または384個の容器を備えたマイクロタイター・プレートの隣り合う容器の間隔に応じて、隣り合うマウントは、互いに9mmまたは4.5mm離間している。
【0004】
エア・クッション式ピペット装置として設計される場合、ピペット装置は、少なくとも1つの空気変位装置を有し、この空気変位装置は少なくとも1つのマウントの貫通孔に連通接続されている。液体をマウントに固締されているピペット・チップに吸入し液体をそこから排出するために、エア・クッションが変位装置を用いて変位可能である。変位装置は、一般的に、その中で移動可能なプランジャを備えたシリンダとして設計されている。しかし、1つの変位チャンバおよび少なくとも1つの可変壁を備えている変位装置もまた知られており、この壁の変形によってエア・クッションが変位する。
【0005】
容積式ピペット装置としての本実施形態では、小型のプランジャがピペット・チップに配置されており、ピペット・チップがマウントに装着されている場合には、そのピペット・チップはマウントの貫通孔で変位可能なピペット装置のプランジャ駆動装置の連結要素に連結される。
【0006】
好ましくは、液体が単一の工程または数回のわずかな工程でピペット・チップに吸入される。ピペット操作時には、液体が単一の目盛で排出され、分注時には数回の目盛で排出される。
【0007】
ピペット装置は、概して、ピペット・チップをマウントから押し離すためにピペット・チップの上縁部で作用するエジェクタを有する。マルチチャネル・ピペット装置では、エジェクタはいくつかのピペット・チップの上縁部に同時に押圧されることが可能である。エジェクタを用いて、ユーザは汚染されたピペット・チップを把持することなくマウントから取り外すことができる。
【0008】
ピペット装置は、ユーザが片手だけで保持し作動させることのできる手動式ピペットであってもよい。ピペット装置はまた、1つ以上のマウントを備えた投与ヘッドがロボット・アームや作業面の上の別の搬送システムで変位可能な、投与ステーション(「ピペット・ステーション」)または投与機械(「ピペット機械」)であってもよい。ピペット装置はまた、投与に加えて液体のさらなる処理(混合、加熱、分析など)を行うことの可能な実験機械(「ワークステーション」)の一部分であってもよい。
【0009】
不正確な投与を防ぐため、ピペット・チップはマウントに十分に堅固に、あるいはそれぞれに密封式に固締されなければならない。さらに、ピペット・チップをマウントに装着し、マウントから排出する力は、大きすぎてはいけない。従来のピペット・チップは、円錐形のマウントとの接触領域では肉厚で剛性がある。装着中、ピペット・チップはマウントによって周囲で弾性的に拡張する。ばね特性は急であるため、高い装着力を加える必要がある。装着後、マウントとピペット・チップとの間には対応する高静摩擦が生じ、排出中にこの静摩擦を超える力が必要となる。ユーザは、ピペット・チップを装着したり排出したりするのに高圧力を受ける。これは、「累積外傷性障害」(CTD)という用語に要約される障害の引き金となり得る。モータ駆動装置を用いて装着や排出を行う場合、このような駆動装置はそれに対応して強力でなければならず、電力消費が高い。
【0010】
米国特許第6,197,259号は、ピペット・チップを記載している。このピペット・チップは、比較的低い6ポンド(26.7N)の軸方向装着力を加えることによって、ピペットのマウントに確実に装着することができ、比較的低い3ポンド(13.3N)の排出力を加えることによって、ピペットから排出することができる。ピペット・チップは、円錐形の上端部を有し、その上端部の内径は、ピペット・チップが装着されることとなるピペットのマウントの直径よりも大きい。さらに、ピペット・チップは、中空の中央部と、その上端部と中央部の間の接続部に環状シール領域とを有する。中央部は、シール領域の上およびその隣に、壁厚が0.2mmから0.5mmの間の側壁を有する。環状シール領域は、値「x」よりも小さい内径を有し、マウントが挿入されたときに径方向に拡張するためにマウントのシール域の下端部と係合するように設計されている。これにより、マウントのシール域とピペット・チップのシール領域との間が液密封止される。さらに、シール領域の隣の内側では、ピペット・チップは、ピペット・チップをマウントで安定させるためにマウントの外面と係合する側方安定装置を有する。この側方安定装置は、少なくとも3つの接触部を互いに円周方向に離れて有しており、この接触部はピペット・チップの内面から内方に延びている。接触部間の直径方向の距離は、接触部がマウントの下端部と容易に係合し、接触部が配置されているピペット・チップの側壁が拡張することなく、下端部がスライドして通過することができるように寸法決めされている。マウントのシール域の下端部がピペット・チップのシール領域と係合するとき、ピペット・チップはシール領域でそれのすぐ近くへ伸張する。接触部がピペット・チップをマウントに案内すると、ピペット・チップの側壁が接触部間で内方に変形し、拡張はせず、このことによって、マウントを押圧する力が最小になる。装着力を高めることで、マウントをピペット・チップにより深く押し込むことが可能である。したがって、ピペット・チップをマウントから解除するために大きな排出力を加えなければならない。内方に突出した接触部があると、この設計は比較的大きなピペット・チップにのみ適する。
【0011】
米国特許第6,568,288号は、互いに軸方向に離間している環状シール領域と、実質的に円筒形の側方案内領域とを有するピペット・チップを記載しており、シール領域は十分に薄いので、ピペットのマウントが互いに軸方向に離間している環状シール域と、実質的に円筒形の側方案内領域とを貫通するときにシール域のシール面とシール領域とが圧入され気密封止される。シール領域の壁厚は、0.2mmから0.5mmの間であることが好ましい。シール面は環状凸部の外面であり、環状凸部はマウントの下端部に隣接して径方向外方に突出している。ピペット・チップは、マウントへの装着を制限するために、環状の上向きで内方に向くショルダを内周側に有する。装着には約2ポンド(8.9N)、排出には約1ポンド(4.45N)の力が必要である。深部停止部があるために、マルチチャネル・ピペット装置を用いてトレイまたはラックからいくつかのピペット・チップを同時に採取する際に挿入することが不完全となり得る。トレイまたはラックが側縁部の間でわずかに下方に下がっている場合、2つの外側のマウントを2つの外側のピペット・チップのショルダに装着すると、他のマウントがその間に配置されたピペット・チップに十分に挿入されなくなる可能性がある。
【0012】
米国特許第6,967,004B2号は、側壁に内側シール面を備えた環状シール領域を有するピペット・チップを記載しており、内側シール面はシール領域で十分に薄いので、わずかに拡張して、シール面とピペット・チップに挿入されたピペットのマウントのシール域とが圧入され気密封止される。ピペット・チップは、マウントの挿入を制限する内方および上方に面する環状ショルダを有する。マウントは、直径の異なる2つの円筒部を有する。その環状のシール域は、円筒部の下端部とマウントの径方向に延びている移行部の最外縁との間にある接続部でシール縁部を囲む。好ましくは、ピペット・チップを挿入したり排出したりする力は、2ポンド(8.9N)未満である。深部停止部によって、マルチチャネル・ピペット装置を用いていくつかのピペット・チップを同時に採取する際にマウントの挿入が不完全となる可能性がある。
【0013】
欧州特許公開第2138234A1号は、ピペット・チップを記載しており、このピペット・チップは細長い筒状部の上端部に、可撓性の筒状の接続部を有し、その輪郭は、ピペット装置のマウントに解放可能に接続するためのシート領域の弾性を増加させる波形の断面を有する。シート領域は、マウントに装着する際に20%を超えて可逆的に拡張可能である。シール・シートを達成するために、波形の輪郭はマウント上で円滑に伸張されなければならず、その結果、さらなる弾性はほんのわずかである。したがって、ピペット・チップを精密に製造することが求められる。さらに、径方向内方に突出するショルダがシート領域と筒状領域との間に存在し、マウント用の深部停止部を生成する。深部停止部によって、マルチチャネル・ピペット装置を用いてピペット・チップを取り出す間にマウントの挿入が不十分になることがある。
【0014】
欧州特許公開第2606977A1号は、液体を通すための下部開口部を下端部に有し、上端部に上部開口部を有する、細長いチューブ形状のピペット・チップを記載しており、上部開口部の横には内周にシート領域があり、このシート領域はピペット装置の標準的な円錐形マウントに装着する役割をする。シート領域は、径方向内方に突出する軸方向に延びるリブを備えた保持領域と、この保持領域の下に、円周を走行する内方に突出するシール領域を備えたシール領域とを有する。このシート領域は、ピペット・チップがマウントに保持され密封されることを確実にする装着力でマウントに取り付けられている間、リブが部分的に塑性変形し、シート領域のリブの外側に弾性変形が生じるように設計されている。シール領域の下に、ピペット・チップは、上部開口部に向かって円錐状に広がり装着を制限する制動領域を有する。これによって、ピペット装置のマウントに信頼性の高い密封が確保され、排出のために加えられる排出力が実質的に低減される。この設計は、公称容積が2.5mL、5.0mL、および10mLの比較的大きなピペット・チップに特に適している。精巧なリブの製造が難しいため、より小さなピペット・チップにはあまり適していない。
【0015】
欧州特許公開第3115110A1号は、ピペット・チップを記載しており、このピペット・チップは、管状本体と、ピペット装置の円錐マウントに装着されているシート領域であって、上部開口部から離れた内周に周方向の内方に突出するシール突起を有するシート領域と、シール突起の下にある周方向の制動領域であって、マウントよりも下方に向かってより大きく先細りしている制動領域と、このシール突起の上にある周方向の内方に突出した支持突起とを備える。シール突起は弾性変形してマウントに密封式に固締可能であり、制動領域は、マウントのさらに下方に位置し、支持突起は、予荷重なしでマウントのさらに上方に位置するか、または周方向の間隙をわたす距離にある。ピペット・チップは、ピペット装置のマウントに効果的に密封し高信頼性で固締可能であり、少ない力の作用でマウントから排出することができ、また、より小さなピペット・チップのサイズに極めて適している。欠点は、マウントに固締されていてマウントから引き抜かれるときに、依然として大きな力がかかることである。
【0016】
国際特許公開第2011/091308A2号は、ピペット・チップを記載しており、このピペット・チップは、近位部の基端部に環状フランジと、近位部に、周方向に互いに離間した軸方向に対向するリブを有する。フランジは、ピペット・チップの剛性を高め、ピペット・チップ上のディスペンサの位置合わせを容易にすることを意図している。リブは、近位領域におけるピペット・チップの軸方向の拡張性を制限することを意図している。充填体積が200μlおよび1,000μlであるピペット・チップの、5つの異なるピペットへの装着力は、1,000g(10N)を超え、2,000g(20N)までの範囲である。
【0017】
人間工学的に最適化されたピペット・チップが、米国特許第7335337B1号から知られており、このピペット・チップは、操作上信頼性の高い方法でピペットに固定可能であり、装着力および排出力が低減される。ピペット・チップは、弾性拡張要素を有し、これを用いて軸方向の装着力および排出力が低減される。この弾性拡張要素は、内周にわたり走行しているシール・リングの上にあるピペット・チップの上部に配置されている。これらは、ピペット・チップの円筒形または円錐形の区画間の壁厚が減少した外方に湾曲した領域によって形成されている。ピペットのマウントがピペット・チップの上部開口部に挿入されると、拡張要素は平坦に引き出され、区画化された壁部分は拡張する。ピペット・チップは、壁区画の内側のリブによってマウント上で案内され、整列する。しかしながら、円周シール・リングの領域にあるピペット・チップは、壁厚が大きく、わずかにしか拡張することができないため、装着力は依然として高く、拡張要素が平坦に引き伸ばされると、装着力は著しく増加する。
【0018】
国際特許公開第2018/213196A1号は、近位部を備えたピペット・チップを記載しており、近位部は、ピペット・チップが対応して設計されている排出装置に取り付けられ、それと密封的に係合されるときに、壁部が膨張したり圧縮したりしやすくなるように設計されている交互の長手方向に向いている溝部およびパネルを有する。これらの手段により、ピペット・チップを排出装置に固締し、ピペット・チップを液体の排出装置から外すための軸力が低減される。溝部は、段付きのV字形またはU字形である。複数の溝部およびパネルは、近位部の周縁に交互に配置されている。溝部を形成するために、溝部とパネルの間の狭い領域およびほぼ直角の角部には、射出金型内での射出成形時に可塑化プラスチック化合物を充填する必要がある。これによって、出力が制限され、ピペット・チップの寸法精度と強度が低下する。また、ピペット・チップがマウントに固締されている間に溝部の基部で破裂し、かつ密封式にマウントに着座しない危険性もある。さらに、ピペット・チップの近位部の構造がはっきりとしているために、ピペット・チップに印をつけることは困難である。
【0019】
このような背景に対して、本発明の目的は、ピペット・チップのマウントに十分に密に密封して固締することができ、かつ装着力や排出力が低減され、寸法精度および強度が向上した製造特性を有し、異なる種類のピペット・チップに印をつけるのにより適したピペット・チップを提供することである。
【0020】
本目的は、請求項1の特徴を有するピペット・チップにより達成される。ピペット・チップの有利な実施形態は、従属請求項において特定されている。
【0021】
本発明によるプラスチック製のピペット・チップが、細長い管状本体を備え、この管状本体は、液体を通すための下部開口部を下端部に有しているとともにピペット装置のマウントに固締するための上部開口部を上端部に有しており、マウント用のシート領域が上部開口部の横の管状本体の内周にあり、管状本体は、上部開口部の横の外周に軸方向に延びる複数の平坦部を有し、管状本体は、平坦部を通る断面が円弧多角体の輪郭を外周に有することを特徴とする。
【0022】
本発明によるピペット・チップは、平坦部の領域の壁厚が平坦部の2つの側縁部よりも薄い。これにより、ピペット装置のマウントに固締する際のピペット・チップの変形が改善され、比較的わずかな装着力でも、ピペット・チップをマウントに確実に密閉することができる。ピペット・チップは、ピペット装置の規定のマウントに特定の力で固締されている間に弾性変形するように設計されてもよい。しかし、ピペット・チップはまた、ピペット装置の規定のマウントに特定の力で固締されている間にのみ塑性変形するように設計されてもよい。弾性変形中、装着力は変形に比例して増加する。弾性変形は、ピペット・チップがマウントから外された後に完全に逆戻りすることができる。弾性閾値を超えると、塑性変形が生じる。塑性変形は、ピペット・チップがマウントから外された後に独立して逆戻りしない不可逆的な変形である。塑性変形では、変形とともに装着力がまったく増加しないか、増加してもわずかである。ピペット・チップは平坦部の領域では上部開口部の横の壁厚が最も小さいので、弾性変形または塑性変形は平坦部の領域で生じることが好ましい。これによって、ピペット・チップをマウントに密封して装着する力の作用を最小限に抑えることができる。塑性変形の場合、装着力を設定した制限値に制限することが可能である。
【0023】
管状本体の断面において、それぞれが円弧状の輪郭を有する平坦部が、円弧多角体の形をした管状本体の外周を画定する。円弧多角体では、辺は、それぞれ2つの隣接する端点間に延びる円弧によって形成される。好ましい実施形態によると、円弧多角体がルーローの多角体などの等辺等角円弧多角体である。円弧多角体は多角形を元とし、その辺は隣接する2つの端点間の円弧で置き換えられ、その中間点は反対側の端点になる。円の交点(共通面)が、円弧多角体を形成する。元の多角体は凸形でなければならず、自己交差してはいけない。等辺等角の円弧多角体は、同じ長さの辺と同じサイズの内角を持つ正多角形を元にしている。特殊な場合として、幅が一定の本体があり、その基礎となる多角形の角部の数が奇数であり、そのため本体のあらゆる直径が同じ量(一定の幅)になる。
【0024】
特に有利なのは、断面の厚肉領域と薄肉領域との関係が良好なことである。薄肉領域は、マウントに固締している間にピペット・チップを拡張させるのに必要な力を減少させ、それによって減少した装着力にも影響する。可撓性が増大すると、ピペット・チップは、異なる形状および/または寸法を有するマウントでより容易に使用することが可能となる。厚壁領域はまた、ピペット・チップをマウントから確実に外すためのピペットのエジェクタの接触面として、有利に使用可能である。ピペット・チップの設計に応じて、厚肉領域は、ピペット・チップが挿入されており、その上縁部に厚肉領域によって支持される孔を有するトレイ(ピペット・チップ用ホルダ)において、効果的なマウントとしても使用可能である。したがって、断面の厚肉領域と薄肉領域の比と、拡張力の低減との組み合わせが特に有利である。さらに、ピペット・チップおよび製造に必要なプラスチック材料の断面積、したがって重量は、円弧多角体の形状をした管状本体の外形部によって低減することができる。別の利点は、外形部が円弧多角体の形をしたピペット・チップの特別な外観によって、ピペット・チップの種類を区別するのが可能になることである。
【0025】
外形部が円弧多角体の形状をしたピペット・チップと従来の中空円筒形のピペット・チップとをシミュレートして比較すると、マウントに装着されている間に加わる拡張力を最大約35%低減できることが示されている。
【0026】
射出成形による製造では、従来のピペット・チップの溝部の領域よりも平坦部での圧力損失が少ないため、平坦部の領域の射出金型のキャビティをプラスチック化合物で良好に充填できるという利点がある。このことによってまた、ウェルド・ラインが減少し、より寸法的に正確で強力なピペット・チップを得ることができる。このように強度を高めることによって、装着力によって壁厚が最も薄い箇所でのピペット・チップの破裂を防止することができる。
【0027】
別の利点は、平坦部を使用してピペット・チップを識別できることである。特に、ピペット・チップおよび/またはその製造に関する情報は、たとえば、ピペット・チップのサイズや材料、またはピペット・チップの純度グレード、製造者、ブランド、および/または製造に使用される製造ツールなど、射出成形中の平坦部に適用可能である。ピペット・チップの大きさとは、ピペット・チップで投与可能な最大量のことである。上述の基準の少なくとも1つが互いに異なるピペット・チップは、本出願において、「異なるピペット・チップ・タイプのピペット・チップ」とも呼ばれる。その識別部は、射出成形中に、浮き上がった文字、くぼんだ文字、数字、文字、または記号の形で作成することも、後で印刷することも可能である。さらに、たとえば印刷、筆記用具による表示、またはラベルの貼付によって、ユーザによる識別が可能である。さらに、この平坦部は、異なるピペット・チップ・タイプを互いに区別するための識別特徴のように使用可能である。
【0028】
平坦部は、作業面または他の表面上に置かれたピペット・チップが転がり落ちるのを防ぐために、回転保護部としても機能することができる。
【0029】
一実施形態によると、本発明は、排他的に、円弧多角体の辺が外側に湾曲し、その結果、平坦部は管状本体を通る断面が外方に(凸状に)湾曲した輪郭部を有するピペット・チップに関する。別の実施形態によると、本発明はまた、円弧多角体の辺が内側に湾曲し、その結果、平坦部は管状本体を通る断面が内方に(凹状に)湾曲した輪郭部を有する、上述のピペット・チップに関する。別の実施形態によると、平坦部の輪郭が、大きくまたは排他的に外側に湾曲しているか、大きくまたは排他的に内側に湾曲している。本発明の一実施形態によると、曲率半径が特定の輪郭に沿って一定である。別の実施形態によると、曲率半径が特定の輪郭に沿って、あるいはその一部に沿って変動する。別の実施形態によると、平坦部の輪郭が断面的に等しくあるいは異なって湾曲している。たとえば、2つの縁部での平坦部の輪郭が、外側または直線状に湾曲しており、それらの間で外側または内側に湾曲しているので、全体としてほぼV字形である。別の実施形態によると、平坦部の輪郭が断面的に異なって湾曲している。曲率が異なる場合、これらは、曲率半径が異なる曲線、または曲率半径が同じか異なる外側曲線または内側曲線であってもよい。
【0030】
曲率は、特定の輪郭の曲率半径の逆数を表す。
【0031】
別の実施形態によると、平坦部を通る断面はすべて、管状本体は、同じ曲率半径で湾曲した平坦部において1つの輪郭のみを有するか、または、異なる断面において異なる曲率半径で湾曲した輪郭部を有し、この輪郭の曲率は、断面ごとに徐々に変化することが好ましい。別の実施形態によると、平坦部が、異なる断面において外方に湾曲した輪郭部と内方に湾曲した輪郭部を有し、この輪郭の曲率は、断面ごとに徐々に変化することが好ましい。
【0032】
別の実施形態によると、管状本体の壁厚は、それぞれの場合、平坦部において各平坦部の2つのエッジ領域のうちの1つから始まりその中心領域に向かって、管状本体を貫通する断面で徐々に減少する。壁厚を徐々に薄くすることによって、射出金型のキャビティを均一に充填でき、ピペット・チップをマウントに固締するときの過剰な応力が防止される。
【0033】
別の実施形態によると、平坦部が管状本体の上端部からある距離まで上方に延びている。このことによって、ピペット・チップの上端部の周りを走る上縁部が均一な壁厚を有することが可能となり、このことはピペット装置の吐出装置を用いてピペット・チップをマウントから排出するのに有利である。別の実施形態によると、ピペット・チップの上縁部が、周縁フランジである。このフランジは、ピペット・チップをピペット・チップ用ホルダ(ラック)の孔に保持するために使用可能である。
【0034】
別の実施形態によると、平坦部が管状本体の上端部まで延びている。平坦部を上端部まで延ばすことは、ピペット・チップをより小さな力の作用で変形させるのに有利である。
【0035】
別の実施形態によると、管状本体がその外周にショルダを有する。ピペット・チップは、ピペット・チップ用ホルダの孔でショルダによって支持されることができる。別の実施形態によると、平坦部が下方に、少なくともショルダまでかそれを越えて延びている。
【0036】
別の実施形態によると、管状本体がその周縁に3個から10個、好ましくは3個、4個、または5個の平坦部を有する。平坦部がいくつかあることによって、ピペット・チップを変形させる力をさらに小さくすることができる。さらに、異なるピペット・チップ・タイプは、異なる数および/または寸法(異なる幅および/または曲率を備えるなど)の平坦部を有するピペット・チップによって、異なることを識別することができる。
【0037】
別の実施形態によると、平坦部はすべて、幅と曲線が同じである。
【0038】
別の実施形態によると、平坦部が、管状本体の中心軸に平行に、または管状本体の中心軸の周りを螺旋状に走る。螺旋状に走行すると、各平坦部は、たとえば、管状本体の周縁の一部にのみ、または管状本体の周縁の周りに1回以上延びる。
【0039】
別の実施形態によると、シート領域が円錐形および/または円筒形である。
【0040】
別の実施形態によると、管状本体がシート領域の内周に内方に突出して周方向に延びる少なくとも1つのシール構造部、および/または、周方向に連続的に走行するか、あるいは互いに離間している複数の部分を有する少なくとも1つの内方に突出するガイド構造部、および/または、周方向に連続的に走行するか、あるいは互いに離間している複数の部分を有する少なくとも1つの内方に突出する制動構造部を有する。別の実施形態によると、シール構造部がシール・ビードであり、かつ/または、ガイド構造部がガイド・ビードおよび/またはガイドリブおよび/またはバンプまたはいぼ状のガイド突起であり、かつ/または、制動構造部が制動ビードおよび/または円錐形の制動領域である。
【0041】
シール構造部がピペット装置のマウントとピペット・チップとの間にリング支持部を形成し、したがって、ピペット・チップをマウントに装着するときに低摩擦力で効果的なシールを形成する。内方に突出するシール構造部の代わりに、シート領域は、表面シールを有していてもよく、この表面シールは、たとえば、円錐形または円筒形、または断面が円錐形および断面が円筒形の表面によって形成される。
【0042】
ガイド構造部は、ピペット装置のマウントとピペット・チップとの間に、周方向に互いに離間しているリング支持部またはいくつかの環状支持部、および/または周方向に互いに離間しているいくつかの略点状の支持部を提供し、したがって、ピペット・チップをマウントに装着するときに低摩擦力で効果的に案内する。ガイド構造部のために、壁分注(容器の壁に向けて液体を分注する)の際に、ピペット・チップの下端部に側面から力が加わっても、ピペット・チップがマウントに安定して保持される。
【0043】
制動構造部は、マウントとピペット・チップとの間にリング支持部、または環状支持部、またはランプ状支持部を提供し、マウントがピペット・チップに挿入して移動するのを制動する。制動効果は、制動構造部やマウントの幾何学的形状と、ピペット・チップやマウントの材料特性(特に弾性や剛性)とによって決定される。
【0044】
別の実施形態によると、ガイド構造部がシール構造部の上方に配置され、かつ/または、制動構造部がシール構造部の下方に配置される。別の実施形態によると、ガイド構造部とシール構造部とが合致し、かつ/または、シール構造部と制動構造部とが合致する。このことを達成するために、ガイド・ビードをシール・ビードとして形成することもでき、かつ/またはシール・ビードを摩擦ビードとして形成することもできる。
【0045】
別の実施形態によると、管状本体は、内周上に管状本体を貫通する縦断面において波形の輪郭を有するいくつかのシール構造部、および/またはガイド構造部、および/または摩擦構造部を有する。
【0046】
別の実施形態によると、管状本体が上部開口部に幅広部を有し、かつ/または内周に挿入面取り部を有する。幅広部および/または挿入面取り部は、ピペット装置のマウントをピペット・チップ内に簡単に挿入させる。
【0047】
別の実施形態によると、ピペット・チップが排他的に管状本体からなる。別の実施形態によると、ピペット・チップはエア・クッション式ピペット・チップであり、すなわち、エア・クッション式ピペット装置と共に使用するように設計されている。別の実施形態によると、エア・クッション式ピペット・チップが排他的に管状本体からなる。
【0048】
別の実施形態によると、ピペット・チップが管状本体および別の構成要素からなる。別の構成要素は、たとえば、管状本体内に配置され、その中で移動可能な小さなプランジャである。これは、容積式確動変位ピペット・チップ、すなわち、容積式ピペット装置と共に使用することができるピペット・チップを指す。
【0049】
別の実施形態によると、ピペット・チップが、少なくとも1つの熱可塑性樹脂、好ましくは少なくとも1つのポリオレフィン、好ましくは少なくとも1つのポリプロピレンおよび/またはポリエチレンから製造される。
【0050】
別の実施形態によると、ピペット・チップは、以下の特徴のうちの1つ以上を有する:
・管状本体の円弧多角体の角部における壁厚が、0.3mmから1mmの範囲内にあり;
・シート領域が下方に先細りする直径を有する内円錐形であり、シート領域の円錐角が1度から6度の範囲、好ましくは1.5度から2.5度の範囲から選択され;
・シート領域がマウントに装着するように設計されており、円錐形マウントの円錐角、またはマウントの円錐部が、1.0度から10度の範囲、好ましくは1.3度から7度の範囲、より好ましくは1.5度から3度の範囲から選択され;
・シール構造部および/またはガイド構造部および/または制動構造部が、シート領域にわたり管状本体の長手方向に分布しており;
・平坦部の領域(シール構造部および/またはガイド構造部および/または制動構造部の外側)における管状本体の壁厚が、最も薄い箇所で最大0.3mmであり;
・平坦部の領域(シール構造部および/またはガイド構造部および/または制動構造部の外側)における管状本体の壁厚が、最も薄い箇所で最小0.1mmであり;
・平坦部が管状本体の長手方向に少なくとも長さ4mmにわたって延びており;
・平坦部が管状本体の長手方向に少なくとも2つのシール構造部および/またはガイド構造部および/または制動構造部にわたって延びている。
【0051】
さらに、本発明は、請求項1から15のうちの一項、または上述の実施形態のうちの1つに記載の複数のピペット・チップを備えたピペット・チップ・システムに関し、異なるピペット・チップ・タイプのピペット・チップが、設計の異なる平坦部および/または平坦部に異なる認識部を有する。
【0052】
さらに、本発明は、請求項1から15のうちの一項、または上述の実施形態のうちの1つに記載の少なくとも1つのピペット・チップ、ピペット・チップを装着するための単一のマウントを有するシングルチャネル・ピペット装置、および/または複数のピペット・チップを同時に装着するための複数のマウントを有するマルチチャネル・ピペット装置を有するピペット・システムに関する。
【0053】
本出願では、「垂直」および「水平」、「頂部」および「底部」の用語、ならびにこれらに由来するたとえば「上」、「下」などの用語は、管状本体の中心軸が垂直に向いており、上部開口部が上部にあり下部開口部が下部にある、ピペット・チップの配置を示す。
【0054】
本出願では、管状本体の各横断面は、管状本体の中心軸に垂直に向いている面である。管状本体の各縦断面は、管状本体の中心軸が延びる面である。
【0055】
さらに、平坦部の中央領域は、平坦部の2つの側縁部を通る直線状または帯状の領域を示し、その直線または領域は、平坦部の2つの側縁部からの距離が同じであってもよく、平坦部の2つの側縁部からの距離が異なっていてもよい。
【0056】
例示的実施形態の添付の図面を参照しつつ、本発明を以下にさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】三角形の円弧多角体の輪郭を備えたピペット・チップの、側面図(図1a)、90°回転させた側面図(図1b)、図1bの線C-Cに沿った断面図(図1c)、底面図(図1d)、上面図(図1e)、下から斜め側方に見た斜視図(図1f)、上から斜め側方に見た斜視図(図1g)。
図2】縁部が丸い三角形の円弧多角体の輪郭を備えたピペット・チップの、側面図(図2a)、90°回転させた側面図(図2b)、図2bの線C-Cに沿った断面図(図2c)、底面図(図2d)、上面図(図2e)、下から斜め側方に見た斜視図(図2f)、上から斜め側方に見た斜視図(図2g)。
図3】矩形の円弧多角体の輪郭を備えたピペット・チップの、側面図(図3a)、90°回転させた側面図(図3b)、図3bの線C-Cに沿った断面図(図3c)、底面図(図3d)、上面図(図3e)、下から斜め側方に見た斜視図(図3f)、上から斜め側方に見た斜視図(図3g)。
図4】三角形の円弧多角体の輪郭を備えた別のピペット・チップの、側面図(図4a)、90°回転させた側面図(図4b)、図4bの線C-Cに沿った断面図(図4c)、底面図(図4d)、上面図(図4e)、下から斜め側方に見た斜視図(図4f)、上から斜め側方に見た斜視図(図4g)。
図5】輪郭が直線の平坦部と、断面が環状である湾曲した輪郭部を備える平坦部と、輪郭がルーロー多角形の平坦部とを備えた、シート領域を通るピペット・チップの重なっている断面図。
図6】異なる形状の異なるピペット・チップの内周における径方向変位の際の、全体的な変形のシミュレーションを示す図。
【0058】
以下の様々な例示的実施形態の説明では、同じ名前で識別される構造や構成部品には、同じ参照番号が付けられている。
【0059】
図1によると、ピペット・チップ1が、細長い管状本体2を有し、細長い管状本体2がその下端部3に下部開口部4と、その上端部5に上部開口部6とを有する。下部開口部4は、上部開口部6よりも小さい。
【0060】
概して、管状本体2の内径および外径は、下部開口部4から上部開口部6にかけて大きくなる。管状本体2は、下部に円錐部7と、その上にヘッド部8とを有し、ヘッド部8は、下部ヘッド部分8.1においてわずかに円錐形であり、上部ヘッド部分8.2において円錐形がより強い(図1a、1f)。円錐部7の近傍には、下方に向く外側ショルダ10が、管状本体2の外周9をヘッド部8の底面の周りに走っている。
【0061】
管状本体2のヘッド部8は、三角形の断面であり、それぞれ隣り合う2つの角部11の間に、弓上の外側に湾曲した輪郭部13を備えた平坦部12を有する(図1d)。したがって、管状本体2は、全体としてヘッド部8の横断面では、ルーロー三角形とも呼ばれる正三角形の円弧多角体15の形状をした外形部14を有する。円弧多角体15の形状をした外形部14と、その円形内形部16との場合、ヘッド部8は、円弧多角体15の角部11が最も肉厚である箇所17を有し、角部の中央に最も肉薄の箇所18を有し、最も肉厚の箇所17から最も肉薄の箇所18へと徐々に壁厚が小さくなる。
【0062】
管状本体2は、上部に、壁厚が対応して移行する円周縁部19を有する(図1g)。
【0063】
管状本体2は、上端部5に、内周20に挿入面取り部22を備えた幅広部21を有する。これは図1cに詳しく示されている。
【0064】
上部開口部6の隣に、管状本体2は、内周20にピペット装置25の円錐形マウント24用のほぼ円錐形のシート領域23を有する。このシート領域23は延びてヘッド部8に入り、たとえば2度から6度の円錐角を有する。シート領域23が、ピペット・チップ1のシール・シート用の表面シールをマウント24に形成する。
【0065】
管状本体2は、シート領域23の下の内周20に、ピペット・チップを製造する際に射出金型のコアで保持するための円周リング溝26を有する(図1c)。
【0066】
ヘッド部8の下端部では、管状本体2の内形部が、下方に向かって先細りしている円錐部7に円滑に移行する(図1c)。
【0067】
ピペット装置25のマウント24に固締するために、1つ以上のピペット・チップ1をピペット・チップ用のホルダの孔に入れて準備しておくことができ、これらは孔の縁にあるショルダ10によって支持されている。図1cによると、ピペット装置25のマウント24が挿入面取り部22を備えた幅広部21を通して上部開口部6でピペット・チップ1に簡単に挿入可能である。マウント24に固締されている間、ピペット・チップ1は、平坦部12の領域で弾性変形および/または塑性変形することができ、これによって装着力が低減し、比較的小さな装着力で、マウント24のシール・シートをシート領域22に確実に密着させることができる。角部11間の肉薄の領域によって、ピペット・チップ1をピペット装置25のマウント24に装着する際に必要な拡張力が低減することとなり、同時に、様々な形状のマウント23をするピペット・チップ1をピペット装置25で使用する際の対応する装着力が低減して可撓性が増すこととなる。
【0068】
液体をピペット操作した後、ピペット・チップ1をマウント24から容易に排出することができる、というのは、排出するのに加えられる排出力もまた低減するからである。排出するために、マウント24上で案内されるピペット装置25の排出スリーブが、ピペット・チップ1の上端部5で円周縁部19に押圧され、ピペット・チップ1がマウント24から解体される。角部11の肉厚領域によって、ピペット・チップ1が高信頼性で排出される、というのは、この領域がエジェクタを装着するために上縁部19に大きな支持面をもたらすからである。肉厚領域はまたヘッド部8の底面にあるショルダ10に形成されているので、さらに、ピペット・チップ用ホルダの孔のエッジ領域で有効に支持する。さらに、この断面形状によって、マウント24に装着した際の応力が均等に分布することが促進され、ピペット・チップ1がヘッド部8で破裂することが防止される。最後に、ヘッド部8の断面形状はまた、ピペット・チップ1の射出成形中に可塑化プラスチック化合物を射出金型に均一に充填するのにも有利である。
【0069】
図2のピペット・チップ1は、ヘッド部8の横断面に丸みのある角部11すなわち丸み部27を備えた角部11を有する点で、図1のピペット・チップと異なる。丸み部27は、平坦部12の曲率半径よりも小さい。
【0070】
図3のピペット・チップ1は、ヘッド部9の横断面に円弧状の外方に湾曲した輪郭部13を備えた4つの平坦部12を有する点で、図1のピペット・チップと異なり、この輪郭部13が互いに4つの角部11で当接する。このピペット・チップ1の外形部は、ルーローによる正方形の円弧多角体15の形状を有する。
【0071】
図1のピペット・チップの有利な効果は、角部11および平坦部12の数が多い場合に、図3のピペット・チップに大いにもたらされる。
【0072】
図4のピペット・チップ1は、好ましくは、図1から3のピペット・チップ1(200μlなど)よりも小さい充填体積(10μlなど)をピペット操作するように設計されている。図4のピペット・チップ1は、特に、細長い管状本体2が円錐部7にわたる円錐中心部28と、その上の円錐形の移行部29と、その上の円周フランジ30を備えた、上端部5で径方向外方へ突出している円錐形のヘッド部8とを有する点で、上述のものと異なる。上述の部分7、28、29、およびフランジ30は直接隣接している。管状本体2の外径は、下端部3からフランジ30にかけて基本的に徐々に大きくなる。中心部では、充填レベルマーカを形成する小径の突起部31を有する。管状本体2の内径もまた、管状本体2の下端部3から上端部5にかけて基本的に徐々に大きくなる。
【0073】
管状本体2は、シート領域23の内周20に、2つの内方に突出し割れていない周方向のシール・ビード33の形態をしたシール構造部32を有する。シール・ビード33は軸方向に互いに離間している。下部シール・ビード33は、同時に、制動ビード34の形態をした制動構造部34でもある。制動構造部34は、ピペット装置25のマウント24の挿入を停止する機能を有する。このことを達成するために、下部シール・ビード33の内径は、上部シール・ビード33よりも小さい。シート領域23は、シール・ビード33の上方に、複数(3など)のガイド・バンプ37またはガイド突起の形態をしたガイド構造部36を内周に有する。ガイド・バンプ37またはガイド突起は同じ横断面上に均等に分布している。管状本体2は、上端部5に、ガイド構造部36の上で終端する挿入面取り部22を内周20に備えた幅広部21を有する。
【0074】
フランジ30は、下側に、ヘッド部8から径方向外方に延びる下方突起リブ38を有する。
【0075】
このピペット・チップ1はまた、丸み部27を備えた3つの丸い角部11と、その角部11の間に円弧状の外方に湾曲した輪郭部13を備える3つの平坦部12とを有する。フランジ30の下側から始まって、平坦部12は管状本体2の軸方向に移行部29の上縁領域まで延びる。
【0076】
図4による1つ以上のピペット・チップ1をピペット・チップ用のホルダに設けることが可能である。この場合、ピペット・チップがホルダの孔に挿入され、フランジ30の下側のリブ38によって孔の縁で支持される。図4cによると、マウント24は、ガイド構造部36までピペット・チップ1に部分的に挿入されるのみである。マウント24がシール・ビード33および制動ビード35まで前進するので、ピペット・チップ1がマウント24に固締して位置合わせされ、密封される。
【0077】
比較のために、図5は、中空の円筒形ピペット・チップ1.1、隣接する円筒領域39の間に外方に湾曲した輪郭部13を備えた平坦部12を有するピペット・チップ1、隣接する円筒領域39の間に直線状の輪郭部40を備えた平坦部12を有するピペット・チップ1.3、および均一な三角形の円弧多角体15の外形部を備えたピペット・チップ1.4の、シート領域23を通る断面図を示す。
【0078】
ピペット・チップ1.1~1.4はすべて、最大外径および内径が同じである。
【0079】
中空の円筒形ピペット・チップ1.1と比較して、外方に湾曲した平坦部12を備えたピペット・チップ1.2は、明らかに断面積が小さく、最も肉薄の箇所17で明らかに壁厚が小さい。
【0080】
外方に湾曲した平坦部12を備えたピペット・チップ1.2と比較して、直線状の平坦部12を有するピペット・チップ1.3は、さらに断面積が小さく、最も肉薄の箇所17でさらに壁厚が小さい。
【0081】
円弧多角体15の外形部を備えたピペット・チップ1.4は、壁が最も薄い箇所17 で、断面積が最小であり壁厚が最小である。
【0082】
次の表は、外形の異なるピペット・チップのシミュレーションによる、シート領域の断面積、および内周で0.1mm拡張させるのに必要な径方向の拡張力を示す。さらに、この表は、二行目に示す円形断面を備えたピペット・チップに対する各断面形状についての拡張力の相対的な節約を示す。

番号
断面形状
断面積
拡張力
力の相対的な節約


薄い円環
(t=0.25mm)
3.89mm
(1.668N)
0.4914/49.14%


厚い円環
(t=0.6mm)
9.99mm
(3.394N)
1.0000/100.00%


溝部が1個の円環
9.74mm2
(3.242N)
0.9554/95.54%


溝部が3個の円環
9.23mm2
(2.940N)
0.8664/86.64%


溝部が10個の円環
7.46mm2
(2.174N)
0.6408/64.08%


三角形のチップ
8.01mm2
(2.682N)
0.7904/79.04%


ルーローの三角形
5.89mm2
(2.207N)
0.6504/65.04%


ルーローの長方形
5.84mm2
(2.162N)
0.6370/63.70%


ルーローの多角形
5.82mm2
(2.125N)
0.6224/62.24%

【0083】
図6は、異なるピペット・チップの断面のシミュレーションで算出された変形(相対弾性拡張)を示す。灰色の濃淡に応じて、変形の程度を異なる灰色の濃淡で示す。
【0084】
行1に列挙されているピペット・チップは、断面積が最小であり、相対力の最大限節約するために、0.1mmの径方向拡張に対して必要な拡張力が最小である。しかし、図16によると、最大の変形がこの断面形状(最大相対拡張:0.77=77%)で起こり、ピペット・チップが容易に裂ける。
【0085】
厚い環状断面を有する表の行2のピペット・チップは、断面積が最大で拡張力が最大である。図6によると、変形は比較的軽微である(最大相対拡張:0.60)。
【0086】
表の行3から行5によると、溝部が1個、3個または10個の環状断面を有するピペット・チップは、それに対応して断面積や必要とされる拡張力が減少し、その結果、相対的に力がある程度節約される。図6は、溝部に比較的大きな変形(最大相対拡張:0.162、0.160、0.139)と応力とが生じ、ピペット・チップがそこでかなり容易に引き裂かれることを示している。
【0087】
行6の線形平坦部を有するピペット・チップでは、断面積および必要な拡張力著しく大きく減少し、対応して相対的に力がある程度節約される。図6は、弾性変形(弾性相対拡張:0.105)と応力が比較的小さいことを示しており、これによりピペット・チップがシート領域で裂けないように保護されている。
【0088】
表の行7から行9によると、外形が円弧多角体のピペット・チップは、断面積がさらに小さく、拡張力が小さく、力の相対的な節約が大きい。図6によると、変形(弾性相対拡張:0.83)と断面の張力がさらに低減し、裂けないよう保護が向上する。
【符号の説明】
【0089】
1 ピペット・チップ
2 管状本体
3 下端部
4 下部開口部
5 上端部
6 上部開口部
7 円錐部
8 ヘッド部
9 外周
10 ショルダ
11 角部
12 平坦部
13 湾曲した輪郭部
14 外形部
15 円弧多角体
16 内形部
17 肉厚の箇所
18 肉薄の箇所
19 円周縁部
20 内周
21 幅広部
22 挿入面取り部
23 シート領域
24 マウント
25 ピペット装置
26 リング溝
27 丸み部
28 中心部
29 移行部
30 フランジ
31 直径突起部
32 シール構造部
33 シール・ビード
34 制動構造部
35 制動ビード
36 ガイド構造部
37 ガイド・バンプ
38 リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】