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特開2022-153525軽水炉および鉛高速炉向け高温セラミック原子燃料システム
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  • 特開-軽水炉および鉛高速炉向け高温セラミック原子燃料システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153525
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】軽水炉および鉛高速炉向け高温セラミック原子燃料システム
(51)【国際特許分類】
   G21C 3/62 20060101AFI20221004BHJP
   G21C 3/07 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G21C3/62 200
G21C3/07
G21C3/62 600
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117781
(22)【出願日】2022-07-25
(62)【分割の表示】P 2020515899の分割
【原出願日】2018-09-10
(31)【優先権主張番号】15/706,972
(32)【優先日】2017-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ボイラン、フランク、エー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軽水炉および鉛高速炉で使用される改良型事故耐性燃料に関する。
【解決手段】この燃料は、複数層から成る炭化ケイ素被覆のようなセラミック被覆と、U15Nおよび100~10000ppmのホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材(例えばUBまたはZrB)から形成される燃料ペレットとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層から成るセラミック被覆と、
15N燃料であって、ペレット状であり、当該セラミック被覆と当該ペレットとの間に両者間の機械的相互作用および出力異常上昇時の中心線溶融を防止するための大きさの隙間を設けて当該セラミック被覆の内部に配置されたU15N燃料とを含み、当該U15N燃料はUBおよびZrBから成る群より選択したB-10同位体濃度がホウ素の19%~80%であるホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材を混入させたU15Nを含むものであり、
当該U15N燃料のUN純度は90%を超え、
当該ホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材としてのUBまたはZrBと、核分裂性物質であるU15Nとの組み合わせは、反応を起こさない安定な組み合わせである
軽水炉および鉛高速炉向け事故耐性燃料。
【請求項2】
前記セラミック被覆は少なくとも1つのモノリス層および少なくとも1つの複合材層を含む、請求項1の燃料。
【請求項3】
前記セラミック被覆はSiCモノリス層およびSiCセラミック複合材層を含む、請求項2の燃料。
【請求項4】
前記セラミック被覆は全層厚が0.4mmから1.4mmである、請求項1の燃料。
【請求項5】
前記U15N燃料のN-15同位体濃度は75%~99.9%である、請求項1の燃料。
【請求項6】
前記ホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材はUBである、請求項1の燃料。
【請求項7】
前記U15Nペレットの前記ホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材濃度は100ppm~10000ppmである、請求項1の燃料。
【請求項8】
前記U15N燃料の密度は理論密度の80%~99%である、請求項1の燃料。
【請求項9】
少なくともモノリス層および複合材層を含むセラミック被覆と、
当該セラミック被覆内に積み重ねられた複数のU15N燃料のペレットとを含み、当該セラミック被覆と当該ペレットとの間には両者間の機械的相互作用および出力異常上昇時の中心線溶融を防止するための大きさの隙間が設けられており、当該U15N燃料はUBおよびZrBから成る群より選択したB-10同位体濃度がホウ素の19%~80%である100~10000ppmのホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材を混入させたU15Nを含むものであり、
当該U15N燃料のUN純度は90%を超え、
当該ホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材としてのUBまたはZrBと、核分裂性物質であるU15Nとの組み合わせは、反応を起こさない安定な組み合わせである
事故耐性原子燃料。
【請求項10】
前記セラミック被覆はSiCモノリスにSiC複合材繊維の上被を施したものである、請求項9の原子燃料。
【請求項11】
前記U15N燃料はN-15同位体濃度が75%~99.9%である、請求項9原子燃料。
【請求項12】
前記隙間は0.01~0.3mmの隙間である、請求項1の原子燃料。
【請求項13】
前記隙間は0.01~0.3mmの隙間である、請求項9の原子燃料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利に関する陳述
本発明は、エネルギー省との契約第DE-NE0008222号に基づく政府支援の下でなされたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有している。
【0002】
本発明は原子燃料に関し、具体的には、軽水炉および鉛高速炉向け事故耐性燃料に関する。
【背景技術】
【0003】
原子燃料として利用される核分裂性物質には、二酸化ウラン(UO)、二酸化プルトニウム(PuO)、窒化ウラン(UN)および/または二ケイ化三ウラン(USi)が含まれる。燃料棒は、被覆管に核分裂性物質を封じ込めたものである。燃料棒は、原子炉内において、高い核分裂率を維持するに十分な中性子束を炉心内に発生させ、大量のエネルギーが熱として放出されるようにアレイ状にグループ化されている。
【0004】
UOは現在、原子燃料として広く使用されている。しかし、事故耐性燃料(ATF)システム向けの燃料物質としては、USiの方が好ましい。原子燃料の構成材料は、事故耐性を実現するために、燃料集合体への冷却材注入量が最小であることを想定し、燃料温度が約1700℃となる事故に即して設計される。USiは、被膜付きジルコニウム合金被覆と組み合わせた場合に有用である。被膜付きジルコニウム合金被覆は、核分裂性物質の耐用期間中、ペレットが膨張すればそれに応じて膨張できるため、熱伝達を妨げる主因であるペレットと被覆との間の隙間を小さくすることにより、あらゆる過渡的条件下で燃料の中心線温度を融点未満に保つことができる。したがって、USiの融点(1652℃)が比較的低いことは問題ではない。不測の出力過渡変動時における燃料の中心線溶融の問題は、USiの非常に高い熱伝導率が解決してくれる。
【0005】
「設計基準外」事故のような過酷な条件下では、金属被覆が1093℃を超える高温蒸気と発熱反応する可能性がある。原子燃料を保護するこのようなジルコニウム金属被覆は、原子炉温度が最高1204℃に達しうる「冷却材喪失」事故が起こると強度が低下し、燃料棒内の核分裂生成ガスにより膨張する可能性がある。これらのことから、被覆の材料にセラミック材料を使用することが検討されている。
【0006】
炭化ケイ素(SiC)のモノリス、繊維およびそれらの組み合わせのようなセラミック材料は、金属燃料棒の完全なまたは部分的な代替品として、米国特許第6,246,740号、第5,391,428号、第5,338,576号および第5,182,077号、米国特許公報第2006/0039524A1号および第2007/0189952 A1号、ならびに、わずかな言及ながら米国特許第6,697,448号に記述されている。米国特許第9,455,053も参照のこと。
【0007】
しかし、SiCのようなセラミック被覆は、燃料から内部応力がかかっても膨張することができない。ペレットと被覆との間の機械的相互作用を排除するには、燃料ペレットと被覆との間に残す隙間を大きくする必要がある。このような大きな隙間があると、USi燃料は、熱伝導率が非常に大きいが、不測の出力過渡変動時に中心線溶融を起こしやすい。
【0008】
同じ理由で、UO燃料はSiC被覆との併用には不向きである。なぜならば、UOは、融点が非常に高い(2865℃)ものの、熱伝導率が非常に小さいため、大きな出力過渡変動時に中心線溶融が起きやすいからである。
【0009】
UN燃料は、密度が高く(14.4gm/cm)、熱伝導率が非常に高く(UOの最大10倍)、融点も非常に高い(2800℃)ことが知られている。UN燃料の原子燃料としての使用は、これまでガス、金属および塩冷却型原子炉に限られている。なぜならば、この燃料が軽水炉の冷却水に晒されると非常に高エネルギーの反応が生じるため、燃料が封入された燃料棒およびアレイ内で隣接する種々の棒が損傷の危険にさらされ、連鎖的な故障が発生するおそれがあるためである。また、UN燃料の使用を阻むのは、N-15同位体が必要とされることによる経済的要因である。天然窒素の99%以上を構成するN-14同位体は、U14Nの使用を経済的に成り立たなくするほど中性子を吸収する。しかし、N-15同位体の分離には法外なコストがかかる。現行の分離法は1kg当たり何万米ドルものコストがかかり、原子燃料としての利用は経済的に見合わない。
【0010】
原子炉の運転において、ウラン燃料の利用効率を高めて燃料費を削減するには、炉心の寿命を可能な限り長くするのが望ましい。そのための1つの方法は、核分裂性物質の反応度が非常に大きい運転初期の段階に、余剰の中性子を吸収する、中性子吸収断面積の大きい可燃性吸収材を使用することである。時間が経過して、利用可能な中性子が減る後続の運転段階に入ると、可燃性吸収材の中性子吸収断面積が減少するため、燃料の反応度に実質的な影響はない。したがって、可燃性吸収材または毒物は、運転初期の段階において燃料からの過剰な中性子を吸収して抑制するが、後続の運転段階では次第に燃え尽きて、捕獲する中性子が減るため、燃料寿命を長くし、供用期間中の反応度を比較的一定に保つことができる。例えばEP0395920 A2を参照のこと。可燃性吸収材は、所要の機械的制御を最小限に抑えるために一部の燃料棒に組み込まれている。
【0011】
可燃性吸収材の例として、炭化ホウ素、窒化ホウ素、ホウ化ジルコニウム、二ホウ化ジルコニウムなどのホウ素含有化合物が挙げられる。これらの材料は、加圧水型原子炉(PWR)向け燃料集合体に使用される燃料可燃性吸収材一体型(IFBA)棒に使用され、良い結果が得られている。
【発明の概要】
【0012】
以下に記す概要は、本願で開示する実施態様に特有のいくつかの革新的な特徴を理解しやすくするためのものであり、完全な記述を意図するものではない。これらの実施態様のさまざまな局面を完全に理解するには、本願の明細書、請求項および要約書の全体を総合的にとらえる必要がある。
【0013】
本願では、改良型事故耐性燃料について説明する。この燃料は、さまざまな局面において、SiCのようなセラミック材料の複数層から成る被覆、U15Nの燃料ペレット、および当該燃料に混入させたUBまたはZrBのようなホウ素含有材料から成る燃料一体型可燃性吸収材を含む。
【0014】
本願で説明する燃料は、各構成材料、すなわちU15N燃料、セラミック被覆およびホウ素を含有する燃料一体型可燃性吸収材の長所を活かしたものである。例えば、この燃料は、U15Nの比較的高い融点、高い熱伝導率および高い密度、SiC被覆のようなセラミックの高い分解温度および高い硬度、ならびに可燃性吸収材のホウ素成分の高い密度および高い融点を奇貨として、通常運転時の性能を最適化し、既知の原子燃料構成材料の組み合わせの中で最も高い事故耐性を提供するものである。
【0015】
さまざまな局面において、この事故耐性燃料は軽水炉および鉛高速炉で使用可能である。この事故耐性燃料は、複合材セラミック被覆、およびU15Nとホウ素を含有する燃料一体型可燃性吸収材とを含む燃料ペレットにより構成することができる。当該吸収材は、UBおよびZrBから選択できる。燃料一体型UB可燃性吸収材におけるB-10同位体濃度は、例えば、19%~80%である。U15NペレットにおけるUB濃度は、100ppm~10000ppmである。
【0016】
セラミック被覆はSiCでよい。さまざまな局面において、SiC被覆は、少なくとも1つの複合材SiC層および1つのモノリスSiC層から構成してもよい。
【0017】
さまざまな局面において、SiC被覆の全層厚は0.4mm~1.4mmである。
【0018】
或る特定の局面において、U15N燃料は、理論密度の80%~99%の密度を有する。U15N燃料ペレットにおけるN-15同位体濃度は、75%~99.9%とすることができる。U15N燃料のUN純度は90%を超えてよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
添付の図面を参照することにより、本発明の特徴と利点の理解が深まるであろう。
【0020】
図1】被覆と燃料ペレットを含む燃料棒の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願で使用する「a」、「an」および「the」に先導される単数形は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数形をも包含する。したがって、本願で使用する冠詞「a」および「an」は、1つまたは複数の(すなわち、少なくとも1つの)、冠詞の文法上における対象物を表す。例として、「an element」は1つの要素または複数の要素を意味する。
【0022】
非限定的な例として、本願で使用する最上部、最下部、左、右、下方、上方、前、後ろ、およびそれらの変形例などの方向性を示唆する語句は、添付の図面に示す要素の幾何学的配置に関連し、特段の記載がない限り、本願の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0023】
特許請求の範囲を含み、本願では、特段の指示がない限り、量、値または特性を表すあらゆる数字は、すべての場合において「約」という用語により修飾されると理解されたい。したがって、数字と一緒に「約」という用語が明示されていない場合でも、数字の前に「約」という語があるものと読み替えることができる。したがって、別段の指示がない限り、以下の説明で記載されるすべての数値パラメータは、本発明に基づく組成物および方法が指向する所望の特性に応じて変わる可能性がある。最低限のこととして、また均等論の適用を特許請求の範囲に限定する意図はないが、本願に記載された各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を勘案し、通常の丸め手法を適用して解釈するべきである。
【0024】
また、本願で述べるあらゆる数値範囲は、そこに内包されるすべての断片的部分を含むものとする。例えば、「1~10」という範囲は、記述された最小値1と最大値10との間(最小値と最大値を内包)のあらゆる断片的部分を含むことを意図している。すなわち、最小値は1以上、最大値は10以下である。
【0025】
本願で言及する「セラミック複合材」には、SiCやAlのような構造体が含まれる。セラミック複合材は、例えば高密度モノリシックSiCおよびSiC-SiC複合材を含む複数層のセラミック材料から成るのが最も好ましい。セラミック被覆の好ましい一態様において、被覆の内部層は浸透性が極めて低い高密度モノリシックSiCから成る。さまざまな局面において、被覆は、核分裂生成物を閉じ込める余剰能力を与えるために最大3つのモノリシックSiC層から成るようにしてもよい。或る特定の局面において、各層は、黒鉛に似ているが、製造時に生じた欠陥によりグラフェンシート間に共有結合が多少存在する熱分解炭素から成る中間層によって分離される。被覆構造の次の層は、SiC-SiC複合材層のようなセラミック複合材でよい。SiC-SiC複合材は引張状態にあり、熱流束が大きい期間に被覆横断面の半径方向に生じる応力勾配を相殺しようとモノリス層を圧縮状態に保つ。耐腐食性の向上、圧力降下の抑制、熱伝達の向上などのさらなる効果を得るために、さらに別の層を追加してもよい。
【0026】
本願に記述する事故耐性燃料は、さまざまな局面において、セラミック材の被覆、U15Nの燃料ペレット、およびUBまたはZrBのようなホウ素含有材料の燃料一体型可燃性吸収材を含む。
【0027】
本発明の改良型燃料は、軽水炉および鉛高速炉での使用に適している。沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)を含む、通常の水を冷却材に用いる軽水炉(LWR)は、米国で最も一般的に使用されている炉型である。高速炉は、従来型原子力発電所のように熱中性子すなわち低速中性子ではなく、高速中性子によって核分裂連鎖反応を維持する部類の原子炉である。鉛冷却高速炉は、高速中性子スペクトルと、冷却材が溶融鉛または鉛ビスマス共晶であるという特徴を有する。オプションとして、長寿命でモジュラー型の炉心が特徴である電気出力50~150MWの多数のユニットのような或る範囲のプラント定格を選択可能である。冷却材として沸点が1700℃を超える鉛を使用するため、高温運転を大気圧下で沸騰の懸念なしに行うことが可能である。このため、加圧型システムに比べて熱力学的効率が良くなり、建設費が減少し、固有の安全性を達成しやすくなる。空気および水と反応せず、中性子照射による放射化が限定的な鉛冷却材を用いる鉛高速炉技術は、他の技術が冷却材の漏洩防止に必要とする特別の機器および冗長な安全系およびそれに伴う支出が不要である。
【0028】
添付の図面に関して、本発明の改良型事故耐性燃料は、セラミック被覆12、U15N燃料ペレット14、および一体型可燃性吸収材としてのUBやZrBのようなホウ素含有材料の各々の長所を組み合わせたものである。燃料ペレット14の表面と被覆12の内側とを隔てるのは隙間16である。被覆12は、さまざまな局面において、図中で層12A、12Bとして示す複数の層より成る。
【0029】
さまざまな局面において、本願で提案する組み合わせの事故耐性燃料は、セラミック被覆材としてSiCを用いることにより、設計基準外事故時の漏洩による機能不全をきわめて低く抑え、非常な高温(約2545℃)に対する耐性を獲得する。漏洩による機能不全発生率がきわめて低いため、水と反応しやすいU15N燃料およびホウ素含有可燃性吸収材を使用することができる。
【0030】
15Nは、優れた運転経済性に資する高い密度と、高い熱伝導率および高い融点を提供し、高熱伝導率および高融点であるが故に、U15Nペレット14とSiC被覆12との間に、ペレットと被覆との間の機械的相互作用や異常で大幅な出力上昇時の中心線溶融を防止するための大きい隙間16(初装荷時で約0.01~0.3mm)を設けることが必要となる。
【0031】
UBは高密度(12.7g/cm)、高融点(2430℃)であるが、水と反応するため燃料として使用できない。ホウ素は天然で安定同位体B-10およびB-11として存在し、天然のホウ素は約80%がB-11、約20%がB-10である。B-10同位体は、中性子断面積が非常に大きく、炉心内に多量のUBが存在すると原子炉の起動を邪魔するので、燃料として使用できない。ホウ素は、現用のUO燃料ペレットの外側にZrBの形態でごく微量にスプレーされる燃料一体型可燃性吸収材として使用されてきた。ZrBは、UBと同様に焼結工程でUO中の酸素と相互作用し、ペレット内に含まれるホウ素を追い出してBOxを形成することが知られているので、UOペレットの外側にスプレーする必要がある。
【0032】
本願に記述するホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材は、U15Nと相互作用を起こさない。したがって、U-15ペレットを形成する前に、燃料一体型可燃性吸収材をU15N粉末に直接添加し、焼結することができる。この方法は、従来使用されてきたスプレー法に比べて高い均一性が得られるため、大幅なコスト削減および品質向上につながる。この方法は、ペレットにより多くのUBおよびZrBを添加できるので、UBまたはZrBの使用量を最小にするために必要であったB-10同位体の濃縮が不要となり、さらなる有意なコスト削減効果が得られる。本願の燃料システムに使用されるホウ素含有燃料一体型可燃性吸収材のB-10同位体濃度は、19%~80%でよい。UBはまた密度が非常に大きいので、その添加率を大きくしてもU15Nペレット全体のウラン密度に有意な影響はない。
【0033】
本願の燃料システムは、ホウ素含有成分を核分裂性物質粉末に添加して燃料ペレットを形成するため、すべてのペレットの外部表面にホウ素化合物をスプレーして非常に薄い均一な被膜を形成する場合に比べて大幅なコスト削減になる。
【0034】
この燃料製造法は、U15N、SiC、およびUBまたはZrBが有する最良の特徴を活かして、各々の固有の欠点を克服する。例えば、現用の金属被覆にUN燃料と燃料一体型UB可燃性吸収材とを組み合わせても、被覆の漏洩率が比較的高く、冷却材との間で許容できない反応が起きると大規模な燃料破損が生じるため、上手くいかない。U15Nを用いると、高い熱伝導率と高い融点が付与された燃料が中心線溶融を起こさず大きな出力過渡変動に耐えられるようになるため、例えばSiC被覆の使用が許容される。さらには、UBまたはZrBを使用することで、その高い密度によりU15Nの高い初装荷反応度を抑制することが可能となるが、これはペレット形成前に十分なホウ素をU15N粉末に添加する低コストのやり方で実現できる。
【0035】
本願の燃料システムは、被覆としてSiCのようなセラミック材料を含む。セラミック被覆12は、少なくとも1つの複合材層(12Aまたは12B)および1つのモノリス層(12Bまたは12A)から構成される。モノリス層はさまざまな局面において、単一構造として製造される。モノリス層は、被覆に密封性を与える。従来型金属被覆の漏洩率は約1~2ppmであり、その大部分はグリッドと燃料棒との間のフレッチングによるものである。SiCは非常に硬く、ペレットの膨張による内部引張応力に耐えられないが、非常に大きい圧縮応力には耐えることが可能であり、原子炉内の他の構成機器との接触で生じる摩耗(例えばグリッドと燃料棒との間のフレッチング)や冷却材中の異物による腐食および摩耗に対する耐性が非常に高い。したがって、金属被覆に比べて使用時の耐漏洩性がはるかに高い。SiCは、従来の金属被覆に比べて10~100倍優れた漏洩率が期待される。
【0036】
さまざまな局面において、セラミックモノリス層12Aをセラミック複合材層12B(例えばモノリス層の繊維上被)で取り囲んでもよい。さまざまな局面において、セラミックモノリス層はSiC層であり、繊維上被の繊維はSiC繊維である。代替策または追加策として、SiCモノリスの表面にSiC複合材層を、化学蒸着法によって付着させてもよい。
【0037】
さまざまな局面において、SiC複合材層は、単一のSiCモノリス管上にSiC繊維を巻回するか編組みしたもので、それが燃料棒被覆となる。或る特定の局面では、そのあと化学気相含浸法(CVI)により、巻回または編組みしたSiC繊維上被にSiC粒子を浸透させ、繊維中および繊維間の空隙が充填されるようにする。SiC上被への浸透ステップの後に、より高温の化学蒸着法(CVD)を用いて、浸透済み繊維上被に障壁層としての被膜を形成してもよい。手間をかけ過ぎないように、また、費用と製造時間を節減するために、CVIとCVDの両プロセスを単一の容器または装置内で順次行うのが普通である。
【0038】
或る特定の局面において、SiC複合材層は、参照によって本願に組み込まれる同時係属中の米国特許出願第15/187,985号に記述されたのと同様の構成要素より成り、同様な様式を用いて形成することができる(ただし、同文献に記述されているジルコニウム被覆管は使用しない)。或る特定の局面において、SiC被覆は、参照によって本願に組み込まれる同時係属中の2016年8月24日提出の米国特許出願第15/245,933号に記述された方法に従って製造することができる。
【0039】
プロセスの開始に当たり、所望の形状の型体またはSiCモノリス層の外部表面に繊維トウを編組みするか巻回することによって、当該型体またはモノリスにセラミック繊維トウの上被を施すことができる。編組みおよび巻回技術は、当業者には周知である。さまざまな局面において、繊維は、低酸素でほぼ化学量論的なSi/C比を有するSiCセラミックでよい。管体の外側に形成されるSiC複合材は、参照によって本願に組み込まれる米国特許出願公開第2015/0078505号またはY.Katohほか著「Continuous SiC fiber,CV SiC matrix composites for nuclear applications:Properties and irradiation effects」、Journal of Nuclear Materials、第448巻、pp.448~476(2014)に開示されたような、SiC基材が連続的なSiC繊維で強化された複合材から成るものでよい。本願に記述する方法に使用するSiC繊維のタイプとして、例えば、Y.Katohほか著(Journal of Nuclear Materials、第448巻、450)の表1に記載されたHi-Nicalon(登録商標)タイプS繊維(日本、東京都に所在の日本カーボン製)またはTyranno(登録商標)SA3繊維(日本、宇部市に所在の宇部興産製)が挙げられる。
【0040】
さまざまな局面において、例示的な製造方法によると、緻密なSiCモノリス、SiC-SiC複合材およびSiC繊維強化複合材を含むSiC材料より成る複数層の複合材構造体を製造するにあたり、1層以上、好ましくは2層または3層の高純度β相またはα相化学量論的組成SiCが、β相SiCを浸透させた連続的なβ相化学量論的組成SiC繊維の中心層と、細粒で高い結晶度のβ相SiCの外部保護層とで覆われる。さまざまな局面において、最終製品は、ほぼ化学量論的組成のSiC繊維、化学量論的組成で完全に結晶質のSiC基材、および繊維と基材との間の熱分解炭素または複層化された熱分解炭素/SiCの界面相から成るSiC基材の複合材を、連続的なSiC繊維で強化したもの(SiC/SiC複合材)である。
【0041】
編組みによるか巻回によるかにかかわらず、上被の厚さは、上被が施されるセラミックモノリス層の層厚と同程度である。例示的な実施態様において、セラミック被覆はモノリス層から構成され、セラミック複合材層の厚さは0.4~1.4mmである。或る特定の実施態様において、複合材層は、厚さ約0.1mm~1.3mm、好ましくは約0.2mm~1mmの上被で覆われている。モノリス層を覆う上被は、一般的に密度が約45~55%で本質的に多孔質であり、上被の間に空隙や空間を有している。
【0042】
繊維上被を形成した後、上述のように形成されたセラミック基材の隙間を、例えば浸透および塗布ステップによって、乾燥状態のSiCナノ粒子のようなセラミック粉末(ナノサイズ粉末)で充填してもよい。代替策として、SiC繊維基材の隙間にSiCナノ粒子を含むスラリーを浸透させてもよい。
【0043】
CVIは、化学気相状態の所望の材料またはその前駆物質、または気体に同伴された所望の材料またはその前駆物質の粒子を、あらかじめ成形された多孔質の構造体(ここでは繊維上被)の内部表面上に析出させるプロセスである。反応物は、拡散または対流の力によって、あらかじめ成形された多孔質の繊維上被の空隙内に導入される。前駆体ガスが繊維基材中へ拡散すると、繊維表面上で前駆体ガスの分解が連続的に生じて、浸透材が析出する。浸透が進行すると、浸透材が厚くなって空隙を充填し、繊維上被に接着する。商業的に有用な或るCVIプロセスのひとつは、浸透材を拡散によって析出させるために、約1~10kPaという低めの圧力を用いる。低圧で処理する利点は、SiC浸透材の析出が起こる前にガスを繊維の空隙にゆっくり浸透可能なことである。別の有用なCVIプロセスは、拡散プロセスよりも有意に速い(日単位ではなく時間単位)強制流動温度勾配法である。当業者であれは、所望の浸透速度、浸透材密度、および所望の合計処理時間が得られるように温度および圧力を調節できることがわかるであろう。
【0044】
さまざまな局面において、SiCモノリス層12Bを化学蒸着法(CVD)によってセラミック繊維上被12Aの上に付着させるか、または、SiCモノリス層12Aを内包するセラミック複合材繊維上被12Bの上に第3の層(図示せず)を付着させる。典型的な化学蒸着法では、基材を1つ以上の反応性前駆物質に晒して表面を反応および/または分解させ、所望の付着物を生成させる。副産物が生成されることもよくあるが、反応チェンバ内を通るガス流によって除去する。
【0045】
CVDは、広範囲にわたる材料を付着させるために広く商用使用されている。CVDでは一般的に、加熱された被膜形成対象物が入ったチェンバに前駆体ガスを流入させる。本願の方法は、さまざまな局面において、上述の浸透プロセスにより繊維上被の浸透材の密度を最大にすることを目的とする。繊維上被は、被膜形成ステップに先立って取外し可能な型体から分離してもよいし、モノリス層を覆った状態でもよい。加熱された被膜形成対象物の表面上またはその付近で化学反応が起きると、その表面に生じる薄膜が当該対象物を覆う被膜となる。前駆体ガスは、CVIステップでガスを使用した場合、それと同じガス(すなわち水素に同伴されるメチルトリクロロシランまたは他のSiC前駆物質)でよい。
【0046】
本願に記述する組み合わせに用いる燃料はU15Nであり、その主な構成同位体はN-15、残りがN-14である。窒素15は、天然元素から分離して生産される。窒素15を分離するために酸化窒素が使われてきた。原子濃度99.9%までの濃縮が可能である。
【0047】
15Nは、理論密度の80%~99%の密度を有する。N-15同位体のU15N燃料中の濃度は、75%~99.9%である。U15N燃料のUN純度は90%を超えてよい。その残りは、UO、UC、および燃料物質製造プロセスからのその他の微量な残留酸化物および炭素化合物でよい。窒化ウランは使用するにつれて分解し、その結果、分解化合物が徐々に増える。
【0048】
窒化ウランを生産する例示的な手法は、以下に説明するように2段階で行うウラン酸化物(UO)の炭素還元である。
3UO+6C→2UC+UO+4CO(1450℃を超えるアルゴン雰囲気で10~20時間)
4UC+2UO+315→6U15N+4CO
ゾルゲル法および窒素雰囲気での純粋なウランのアーク溶解を用いることもできる。
【0049】
UBまたはZrBのようなホウ素含有可燃性吸収材と、核分裂性物質であるU15Nとの組み合わせは、反応を起こさない安定な組み合わせであるため有効である。UOのような従来型燃料は、実際上、化学量論的組成が変動する。UOにUBまたはZrBを混合すると、ホウ素が過剰酸素と反応して揮発性化合物が生成し、ペレットを焼結するとき当該化合物が放出される。U15Nは、化学量論的な変動のない定比化合物である。したがってU15NにUBまたはZrBを混合して安定な混合物を生成することができる。
【0050】
燃料ペレットは、他の商業分野で既知のペレット製造方法によって形成できる。例えば、粉末状または粒子状のU15N燃料を、まず粒径分布と表面積が比較的均一になるように粒子を均質化してからペレット状にする。粉末状または粒子状の例えばUBのような燃料一体型可燃性吸収材に加えて、或る特定の局面では、潤滑剤や細孔形成剤のような他の添加剤も添加される。U15NペレットのUBの濃度は100ppm~10000ppmであり、さまざまな局面において約1000ppmである。
【0051】
15NおよびUB粒子からのペレットの形成は、所望の「未焼」密度および強度が得られるように、粒子混合物を市販の適当な機械式または液圧式プレスで圧縮することにより行う。
【0052】
基本的なプレスは単動式のダイプラテンが組み込まれているが、最も複雑な様式のプレスは、「複数レベルの」部品を形成できるように複動式のプラテンを具備することがある。プレスは、広範囲にわたる加圧能力に応じて選択可能である。粉末を圧縮して所望のコンパクトなペレットにするために必要な加圧能力は、部品の投影表面積と、粉末の圧縮特性によって決まる荷重係数の積によって求められる。
【0053】
プロセスを開始するに当たって、ダイに粒子混合物を充填する。ダイ充填速度は、主に粒子の流動性に基づく。
【0054】
ダイを充填したら、パンチを粒子の方へ移動させる。パンチが粒子に圧力をかけて圧縮し、ダイの幾何学形状にする。或る特定のペレット形成プロセスでは、ダイに供給した粒子に数百MPaの荷重をかけて二軸圧縮し、円柱形ペレットを形成する。
【0055】
圧縮したペレットを、加熱炉内で制御された雰囲気(通常はアルゴンを含む)中で加熱して焼結する。加熱温度は、焼結中の材料によって異なる。焼結は、圧縮時粒子に形成された機械的結合をより強固な結合に変換してペレットの強度を大幅に高めることにより、未焼ペレットを緻密化する熱的プロセスである。圧縮および焼結済みペレットを冷却し、所望の寸法に機械加工する。例示的なペレットの直径は約1センチメートルまたはそれより若干小さく、長さは1センチメートルまたはそれより若干大きい。
【0056】
本願に記述した組み合わせの事故耐性原子燃料は、少なくともモノリス層および複合材層から成るセラミック被覆に、U15Nに100~10000ppmのホウ素含有可燃性吸収材を混合して形成した燃料ペレットの積層体を収容したものである。
【0057】
本発明をいくつかの例に基づいて説明してきたが、いずれの例も、すべての点において制限的ではなく例示的なものである。したがって、本発明は、詳細な実施態様において、通常の技量を有する当業者が本願の説明から導くことができる多くの変形例が可能である。
【0058】
本願で言及したすべての特許、特許出願、刊行物または他の開示資料は、各々の参考文献が参照により明示的に本願に組み込まれるように、その全体が参照により本願に組み込まれる。本願で参照により組み込まれると言及されたすべての参考文献およびあらゆる資料またはそれらの一部分は、本願に記載された既存の定義、言明または他の開示資料と矛盾しない範囲でのみ本願に組み込まれる。したがって、本願に記載の開示事項は、必要な範囲において、それと矛盾する、参照により本願に組み込まれた資料に取って代わり、本願に明示的に記載された開示事項が決定権をもつ。
【0059】
本発明を、さまざまな例示的な実施態様を参照して説明してきた。本願に記載の実施態様は、開示された発明のさまざまな実施態様のさまざまな詳細度の例示的な特徴を示すものとして理解されたい。したがって、特に断らない限り、可能な範囲において、開示した実施態様における1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面は、本発明の範囲から逸脱することなく、当該開示した実施態様における他の1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面との間で、複合、分割、置換えおよび/または再構成が可能であることを理解されたい。したがって、通常の技量を有する当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施態様のいずれにおいてもさまざまな置換え、変更または組み合わせが可能であることを理解するであろう。当業者はまた、本願を検討すれば、本願に記載された本発明のさまざまな実施態様に対する多くの均等物に気付くか、あるいは単に定常的な実験を用いてかかる均等物を確認できるであろう。したがって、本発明は、さまざまな実施態様の説明によってではなく、特許請求の範囲によって限定される。
図1