(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015354
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】分岐付きケーブルの非破壊検査方法及び分岐付きケーブル、分岐付きケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20220114BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220114BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220114BHJP
H02G 15/08 20060101ALI20220114BHJP
G01N 3/52 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
G01N3/08
H01B13/00 519
H01B7/00 305
H02G15/08
G01N3/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118125
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000196565
【氏名又は名称】西日本電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】鶴崎 幸司
(72)【発明者】
【氏名】馬場 徹行
(72)【発明者】
【氏名】梅原 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】首藤 恵介
【テーマコード(参考)】
2G061
5G309
5G375
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061BA04
2G061BA11
2G061CA09
2G061CB01
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA10
2G061EC10
5G309EA04
5G309EA07
5G309RA10
5G375CA02
5G375CB05
5G375DB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マンションやオフィスビル等に敷設され、非破壊での品質保証可能な分岐付きケーブルの非破壊検査方法及び特性値を満足しながらも生産性に優れた分岐付きケーブル、分岐付きケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】分岐付きケーブルで使用されるモールド樹脂のショアA硬度またはショアD硬度に基づき、モールド樹脂の引張強度を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹線ケーブルに支線ケーブルが接続され、その後、当該接続部分がモールド樹脂により被覆された分岐付きケーブルにおける前記モールド樹脂の引張強度を非破壊検査にて評価する分岐付きケーブルの非破壊検査方法であって、
前記モールド樹脂のショアA硬度またはショアD硬度に基づき、前記モールド樹脂の引張強度を評価する分岐付きケーブルの非破壊検査方法。
【請求項2】
前記モールド樹脂の引張強度の評価は、前記モールド樹脂の標準硬化条件の引張強度の1.2倍以下であるか否かを判定するものであり、
前記モールド樹脂のショアA硬度が60~100、好ましくは65~95、より好ましくは75~90である請求項1に記載の分岐付きケーブルの非破壊検査方法。
【請求項3】
幹線ケーブルに支線ケーブルが接続され、その後、当該接続部分がモールド樹脂により被覆された分岐付きケーブルであって、
前記モールド樹脂のショアA硬度が60~100、好ましくは65~95、より好ましくは75~90である分岐付きケーブル。
【請求項4】
前記モールド樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルの変性体、ポリ塩化ビニルが含まれた混練材料のいずれか1つである請求項3に記載の分岐付きケーブル。
【請求項5】
幹線ケーブルに支線ケーブルが接続され、その後、当該接続部分がモールド樹脂により被覆された分岐付きケーブルの製造方法であって、
前記モールド樹脂のショアA硬度が60~100、好ましくは65~95、より好ましくは75~90である分岐付きケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記モールド樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルの変性体、ポリ塩化ビニルが含まれた混練材料のいずれか1つである請求項5に記載の分岐付きケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐付きケーブルの非破壊検査方法及び分岐付きケーブル、分岐付きケーブルの製造方法、詳しくは、マンションやオフィスビル等に敷設され、非破壊での品質保証可能な分岐付きケーブルの非破壊検査方法及び特性値を満足しながらも生産性に優れた分岐付きケーブル、分岐付きケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションやオフィスビルなどの中高層ビルに電力を供給するケーブルとして、分岐付きケーブルが知られている。分岐付きケーブルは、
図5に示すように、幹線ケーブルと幹線ケーブルから分岐された複数の支線ケーブルとを有している。
中高層ビルに敷設された分岐付きケーブルの幹線ケーブルは、その上端部が最上階付近に固定されて鉛直向きに懸架され、その途中部分が中途の階に適宜支持固定されており、各支線ケーブルが各階に引き込まれて分電盤に接続されている。
【0003】
従来より、分岐付きケーブルの導体には銅または銅合金が広く用いられているが、軽量化を目的としてアルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられることもある。しかしながら、現在広く普及している分電盤は銅導体との接続を前提に設計されている。
そこで、支線ケーブル(分電盤に接続するケーブル)の導体を銅または銅合金で構成し、幹線ケーブルをアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成する分岐付きケーブルが用いられるケースが増えている。
分岐付きケーブルの分岐部(幹線ケーブルと支線ケーブルの接続部) には、同一の金属または異なる金属が接続されるため、絶縁や防水等のために、特許文献1に記載のように、モールド樹脂により被覆されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の分岐付きケーブルにはモールド樹脂の特性については何ら規定されていない。このモールド部は、一般的にポリエチレン等の高分子材料が用いられることが多い。その中でも、ポリ塩化ビニルは代表的な材料である。ポリ塩化ビニルは、製法や従業条件、触媒によって分子量分布や結晶化度、架橋の程度にばらつきが生じるだけでなく、副反応生成物や不純物が混入する場合もある。さらには、市販のポリ塩化ビニルには、酸化防止剤、安定剤、着色剤、可塑剤などの添加物が含まれていたり、機能性を高めた機能性材料も多く提供されていることから、一口にポリ塩化ビニルといっても、その組成等は一様ではない。
特性値や規格を満足する範囲内で安価な材料を用いて工業製品を製造し、安価に商用提供することは、ユーザ側にメリットがあるため、工業製品のメーカではよく行われている手法である。分岐付きケーブルにおいても同様であり、安価な材料を用いて製造することが理想であるが、十分な特性値を得たり、製品規格を満足するためには、その安価な材料の最適な硬化条件をその都度設定する必要がある。
【0006】
加えて、分岐付きケーブルで使用されるモールド樹脂は熱硬化性材料であるため、生産性を高めるためには、熱硬化時間を短縮することが効果的である。しかしながら、熱硬化時間を短縮すると、十分な硬化度が得られず、品質面に問題が生じる。生産性と品質は、トレードオフの関係に立ち、製品製造を効率よく行うためには、最適条件を設定する必要がある。
【0007】
さらに、分岐ケーブルのモールド成形用材料の規格として、日本電線工業会(JCS)の規格が用いられることが多い。例えば、JCS 4376には、モールド用のポリ塩化ビニルの引張強さは10MPa以上、伸びが120%以上と規定されている。しかしながら、引張試験は一種の破壊試験であり、実際の製品でモールド部の引張試験を行った場合には、当該箇所が破壊されてしまうため、製品としての価値は失うことになる。
【0008】
そこで、発明者は、引張試験データと相関のある別の試験データに基づくことにより、モールド部(幹線ケーブルと支線ケーブルとの接続部分が被覆された部分)における引張強度の優劣の判定ができることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、マンションやオフィスビル等に敷設され、非破壊での品質保証可能な分岐付きケーブルの非破壊検査方法及び特性値を満足しながらも生産性に優れた分岐付きケーブル、分岐付きケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、幹線ケーブルに支線ケーブルが接続され、その後、当該接続部分がモールド樹脂により被覆された分岐付きケーブルにおける前記モールド樹脂の引張強度を非破壊検査にて評価する分岐付きケーブルの非破壊検査方法であって、前記モールド樹脂のショアA硬度またはショアD硬度に基づき、前記モールド樹脂の引張強度を評価する分岐付きケーブルの非破壊検査方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記モールド樹脂の引張強度の評価は、前記モールド樹脂の標準硬化条件の引張強度の1.2倍以下であるか否かを判定するものであり、前記モールド樹脂のショアA硬度が60~100、好ましくは65~95、より好ましくは75~90である請求項1に記載の分岐付きケーブルの非破壊検査方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、幹線ケーブルに支線ケーブルが接続され、その後、当該接続部分がモールド樹脂により被覆された分岐付きケーブルであって、前記モールド樹脂のショアA硬度が60~100、好ましくは65~95、より好ましくは75~90である分岐付きケーブルである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記モールド樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルの変性体、ポリ塩化ビニルが含まれた混練材料のいずれか1つである請求項3に記載の分岐付きケーブルである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、幹線ケーブルに支線ケーブルが接続され、その後、当該接続部分がモールド樹脂により被覆された分岐付きケーブルの製造方法であって、前記モールド樹脂のショアA硬度が60~100、好ましくは65~95、より好ましくは75~90である分岐付きケーブルの製造方法である。
【0015】
請求項6に記載の発明は、前記モールド樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルの変性体、ポリ塩化ビニルが含まれた混練材料のいずれか1つである請求項5に記載の分岐付きケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接続部におけるモールド樹脂の硬さ(ショアA硬度、ショアD硬度)を測定することにより、製品を破壊することなく、モールド樹脂の引張強度の優劣を評価することができる。これにより、新規の材料を導入する際や生産性に優れた加工条件を探索する際の指標にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例におけるサンプルAのショアA硬度と引張伸びとの関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例におけるサンプルBのショアA硬度と引張伸びとの関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例におけるサンプルAのショアA硬度と引張強度との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例におけるサンプルBのショアA硬度と引張強度との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例に係る分岐ケーブルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例について図面を参考にしながら説明する。
【0019】
(サンプルAの作製)
モールド樹脂として、HSING LUNG SDN.BHD.社製のモールド樹脂(型番FJ60)を用いてモールド成形を行い、分岐ケーブルを作成した。幹線ケーブルは600VのCVケーブルとし、銅を用いて素線直径2.0mmを19本撚り合わせた、断面積60mm2の導体にシースをかけたものを使用した。
支線ケーブルは、銅を用いて、素線直径1.6mmを7本撚り合わせた、断面積が14mm2の導体にシースをかけたものを使用した。
その後、幹線ケーブルと支線ケーブルの接続を行い、その接続箇所に、モールド樹脂を用いてモールド成形を行った。成形時の温度や圧力を適宜変更し、加熱時間を調整することによって、硬度の異なるモールド成形品を作製した。
【0020】
(サンプルBの作製)
モールド樹脂として、サンアロー化成株式会社製のモールド樹脂(型番FX-5500)を用いて、サンプルAと同様にモールド成形品を作製した。
【0021】
(ショアA硬度と引張伸びとの相関性)
ショアA硬度は、JIS K 7215に従い、デューロメータを用いて行った。モールド成形されている部分のうち、任意の5カ所を測定し、その平均値をモールド成形品のショアA硬度とした。
引張伸び試験は、モールド成形の成形条件と同一条件にてサンプルシートを作成し、JIS K 7161-2に従って引張試験を行った。サンプルAの破断伸びの値は、ショアA硬度が80のときの引張伸びを1とする相対値にて算出した。サンプルBの引張伸びの値は、ショアA硬度が82のときの引張伸びを1とする相対値にて算出した。
【0022】
サンプルAのショアA硬度と引張伸びとの関係を示すグラフを
図1、サンプルBのショアA硬度と引張伸びとの関係を示すグラフを
図2に示す。
図1、
図2において、領域Aでは、モールド樹脂が伸びてしまい、元に戻らなくなるまで変形する。そして、モールド樹脂と金属導体とが密着していない箇所が観察された。また、領域Cでは、モールド部に裂けが見られた。領域Bでは、これらの不良が存在しないだけでなく、ショアA硬度による引張伸びの変化が見られず、好適な領域であるといえる。領域BのショアA硬度は概ね60~100の範囲内であった。
【0023】
ショアA硬度は、モールド部の力学特性を把握する上で非破壊で容易に測定でき、重要な特性指標であることが判明した。本手法であれば、製品を破壊することなく、製品の品質を把握することができる。また、新しい材料を導入する際や、生産性のよい加工条件を選定する際の指標としても使用できる。
【0024】
ただし、本試験におけるショアA硬度と引張伸びとの相関については、模擬的に引張応力や曲げ応力を加えるものであって、実際の敷設では想定以上の加重や応力が加わったりすることが容易に想定される。ショアA硬度は、臨界点の範囲を明示するものであって、工業製品として不安が残る。このため、安全率を考慮し、ショアA硬度が65~95であることが好ましい。
また、実際のモールド樹脂には特性上のばらつきがあることも知られており、コンパウンドの状態によるばらつき、製造時のばらつきも発生する。したがって、より安定したモールド製品を安定して商用提供するには、ショアA硬度の範囲を狭めて管理しておいたほうがより好適である。このため、ショアA硬度が75~90であることがより好ましい。
【0025】
なお、ショアA硬度とショアD硬度には、一定の相関があり、JIS K 7215に準拠し、ショアA硬度に代えてショアD硬度を用いることは可能である。
【0026】
(ショアA硬度と引張強度との関係性)
ショアA硬度は、前述した方法で測定しているため、ここでは省略する。
引張強度試験は、モールド成形の成形条件と同一条件にてサンプルシートを作成し、JIS K 7161-2に従って引張試験を行った。サンプルAの引張強度の値は、ショアA硬度が80のときの引張強度を1とする相対値にて算出した。サンプルBの引張強度の値は、ショアA硬度が82のときの引張強度を1とする相対値にて算出した。
【0027】
サンプルAのショアA硬度と引張強度との関係を示すグラフを
図3、サンプルBのショアA硬度と引張強度との関係を示すグラフを
図4に示す。
ショアA硬度が60より小さくなると(領域D)、急激に引張強度が上昇する。ショアA硬度が60以下の領域では、前述したように、モールド樹脂が伸びてしまい、元に戻らなくなるまで変形する。そして、モールド樹脂と金属導体とが密着していない箇所が観察された。
また、ショアA硬度が65の試料(サンプル)は、標準的な硬化条件の引張強度より1.2倍以上の引張強度をもっていた。これは、サンプルA、サンプルBいずれも概ね同じであった。引張強度が、標準的な硬化条件の引張強度より1.2倍以上の値の場合、ショアA硬度が60以下となることから、製造条件として不適である。モールド樹脂が柔らかすぎると、ケーブル敷設時などに外力が加わった際に、大きく変形する場合がある。さらに、金属導体とモールド樹脂との密着が剥がれてしまい、絶縁機能や防水機能が発揮できない可能性がある。
【0028】
なお、一般に引張試験にはばらつきがあることが知られている。このばらつきを考慮し、製造上の安全率を加味すると、基準値を1.2以下とするより、1.1以下とした方が好適である。