(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153587
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】チロシン誘導体及びそれらを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/439 20060101AFI20221004BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20221004BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20221004BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221004BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20221004BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221004BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20221004BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221004BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20221004BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20221004BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221004BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20221004BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20221004BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61K31/439
A61K31/7068
A61P35/00
A61P11/00
A61P15/00
A61P1/18
A61P1/04
A61P1/16
A61P25/00
A61P35/02
A61P43/00 105
A61P13/08
A61P13/12
A61P21/00
A61P1/02
A61P13/02
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/54
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122538
(22)【出願日】2022-08-01
(62)【分割の表示】P 2019528632の分割
【原出願日】2017-11-30
(31)【優先権主張番号】15/365,120
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514182366
【氏名又は名称】タイム,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,スティーブン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】がんの治療において、細胞増殖を低減させるための組成物、キット及び方法を提供する。
【解決手段】チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学的に結合された、又は物理的に会合している抗がん剤とを含む組成物及びキットを提供する。また、対象における細胞増殖の低減法も提供し、該方法は、それを必要とする対象にチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学的に結合された、又は物理的に会合している抗がん剤とを含む組成物を投与することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)α-メチル-DL-チロシン、及び前記α-メチル-DL-チロシンに共有結合された抗がん剤、ここで前記抗がん剤がエベロリムス、シロリムス、テムシロリムス、又はカペシタビン;並びに、
(b)メラニン、メトキサレン、メラノタンII、又はそれらの組合せ;
を含む組成物。
【請求項2】
前記抗がん剤が、リンカーを通じて前記α-メチル-DL-チロシンに共有結合されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物の有効量を含む、対象におけるがんの治療法で使用するための組成物。
【請求項5】
前記がんが、非小細胞肺がん、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍、肝臓がん、精巣がん、白血病、リンパ腫、虫垂がん、胆管がん(biliary cancer,cholangiocarcinoma)、結腸がん、大腸がん、胚細胞腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、肺がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、腎臓がん、肉腫、甲状腺がん、舌がん、扁桃腺扁平上皮細胞がん、又は尿路上皮がんの少なくとも一つである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記がんが膵臓がんである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
経口、皮下、静脈内、経皮、経膣、経直腸、又はそれらの任意の組合せでの投与に適切な、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
有効量の一つ又は複数の追加の治療薬をさらに含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物と適切な包装とを含むキット。
【請求項10】
追加の治療薬をさらに含む、請求項9に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、一般的に、例えばがんの治療において細胞増殖を低減させるための組成物、キット及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]入手可能な最新の罹患率データである2008年の米国国立がん研究所の監視、疫学及び最終結果(Surveillance Epidemiology and End Results,SEER)データベ
ースによれば、11,958,000人の米国人が浸潤がんに冒されている。がんは、米国で心臓疾患に次ぐ第二の死因で、4人に一人ががんで死亡している。毎日およそ1600人の米国人ががんで死亡していると推定されている。がんの医学的、感情的及び心理的コストに加えて、がんは個人にも社会にも相当の財務負担を強いている。国立衛生研究所は、2010年におけるがんの総コストは2638億ドルであったと推定している。その上、早期死亡のために生産性にさらに1401億ドルの損失があると推定している。
【0003】
[0003]今日のがん治療は、手術、ホルモン療法、放射線、化学療法、免疫療法、標的療法、及びそれらの組合せを含む。がんの外科的切除は著しく進歩したが、高い疾患再発の可能性が残る。アロマターゼ阻害薬及び黄体形成ホルモン放出ホルモン類似体及び阻害薬などの薬物を用いたホルモン療法は、前立腺がん及び乳がんの治療に比較的有効である。コンフォーマル陽子線療法、定位放射線手術、定位放射線療法、術中放射線療法、化学修飾剤、及び放射線増感剤といった放射線技術及び関連技術はがん細胞を殺すのに有効であるが、周辺の正常組織をも殺したり変化させたりする可能性がある。アミノプテリン、シスプラチン、メトトレキサート、ドキソルビシン、ダウノルビシンなどの化学療法薬は、単独で及び組み合わせて、多くはDNA複製過程を変更することにより、がん細胞を殺すのに有効である。生物学的応答調節剤(BRM)療法、生物学的療法、バイオセラピー、又は免疫療法は、がん細胞増殖を変化させるか又は自然免疫応答に影響を及ぼすもので、インターフェロン、インターロイキン、及びその他のサイトカインならびに抗体、例えばリツキシマブ及びトラスツズマブ、そしてさらにはシプリューセル-T(Sipuleucel-T)のようながんワクチンなどの生物剤を患者に投与することを含む。
【0004】
[0004]化学療法を用いるがん治療は、用量制限的な副作用によって妨げられることが多い。そのような副作用は、多くは化学療法薬の非がん細胞に対する作用に起因する。こうした化学療法の制限のため、標的療法及び部位特異的化学療法が開発されるに至った。
【0005】
[0005]最近、がんと闘うための新しい標的療法が開発された。化学療法はがん細胞も正常細胞も殺すが、がん細胞の方により大きな効果があるという作用様式であるため、これらの標的療法は化学療法とは異なる。標的療法は、がん細胞の増殖、分裂、及び転移を制御するプロセスやがん細胞に自然死をもたらすシグナルに影響を及ぼすことによって作用する。標的療法の一つのタイプは、トラスツズマブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、センツキシマブ(centuximab)、ダサチニブ及びニロチニブなどの増殖シグナル阻害薬を含む。標的療法の別のタイプは、がんが周辺の血管系及び血液供給を増加させるのを防ぐベバシズマブなどの血管形成阻害薬を含む。標的療法の最後のタイプは、直接がん細胞死を誘導できるアポトーシス誘導薬を含む。
【0006】
[0006]部位特異的化学療法は、抗がん剤を標的分子によって優先的にがん細胞に指向させる。標的分子は、治療されるがんに対して特異的な親和性を有する。抗体は、抗がん剤を特定タイプのがんに指向させるために使用できる標的分子の例である。抗体は、特定タイプのがん細胞の表面に発現されている抗原を認識できる。抗がん剤を抗体に結合させる
ことにより、標的とするがん細胞に抗がん剤を特異的に運ぶことができる。
【0007】
[0007]これらの治療はいずれもある程度は有効であったが、いずれも欠点及び制限を有する。治療の多くは高価であることに加えて、それらはあまりにも不正確であることが多いか又はがん細胞がそれらに適応できて耐性を持つようになる。
【0008】
[0008]そこで、更なるがん治療を求める大きな需要がある。特に、他の形態の治療に対して耐性を持つようになったがんの治療に対する需要がある。
【発明の概要】
【0009】
[0009]本発明は、がんの治療に関連するものを含む過度の細胞増殖を低減するための組成物、キット、及び方法、ならびに併用療法を提供する。一定の態様において、本発明は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学的に結合された、又は物理的に会合している抗がん剤とを含む組成物を提供する。他の態様において、有効量のそのような組成物を投与することを含む細胞増殖の低減法及び/又はがんの治療法を提供する。一部の態様においては、他の治療薬と併せて投与される併用療法も提供する。他の態様において、本発明は、そのような組成物を適切な包装と共に含むキットを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0010]本発明の主題は、本開示の一部を形成する以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解できるであろう。本発明は、本明細書中に記載及び/又は示されている特定の製品(生成物)、方法、条件又はパラメーターに限定されないこと、そして本明細書中で使用されている専門用語は、ほんの一例として特定の態様を説明するためのものであり、特許請求されている本発明を制限することを意図したものではないことは理解されるはずである。
【0011】
[0011]本明細書において別段の規定のない限り、本願に関連して使用されている科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。さらに、文脈によって別に要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0012】
[0012]上記及び本開示全体を通じて使用されている以下の用語及び略語は、別段の指示がない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0013】
[0013]本開示において、文脈が明白に他の場合を指示していない限り、単数形の“a”、“an”及び“the”はその複数形の指示対象も含み、特定の数値への言及は少なくともその特定の値を含む。従って、例えば、“ある一つの化合物”への言及は、そのような化合物及び当業者に公知のその等価物の一つ又は複数への言及でもあることなどである。“複数”という用語は、本明細書においては、一つより多いことを意味する。値の範囲が表されている場合、別の態様は、その一方の特定値から及び/又はそのもう一方の特定値までを含む。同様に、値が“約”という先行詞の使用によって近似値として表されている場合、その特定の値は別の態様を形成することは理解されるであろう。全ての範囲は包括的であり且つ結合可能である。
【0014】
[0014]本明細書中で使用されている“成分”、“組成物”、“化合物の組成物”、“化合物”、“薬物”、“薬理活性物質(pharmacologically active agent)”、“活性剤”、“薬剤”、“治療薬(therapeutic)”、“療法”、“治療”、又は“医薬(medicament)”
という用語は、本明細書においては、対象(ヒト又は動物)に投与した場合に、局所及び/又は全身作用により所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を誘導する化合物(一つ又
は複数)又は組成物(composition of matter)のことを言うのに互換的に使用される。
【0015】
[0015]本明細書中で使用されている“治療”又は“療法”という用語(ならびにそれらの異なる語形)は、予防的(preventative, prophylactic)、治癒的、又は緩和的治療を含む。本明細書中で使用されている“治療する”という用語は、状態、疾患又は障害の少なくとも一つの有害作用又は悪影響又は症状を緩和又は軽減することを含む。
【0016】
[0016]上記及び本開示全体を通じて使用されている“有効量”という用語は、関係する障害、状態、又は副作用の治療に関して所望の結果を達成するために有効な量(用量及び必要な期間)のことを言う。当然のことながら、本発明の成分の有効量は、選択された特定の化合物、成分又は組成物、投与経路、及び各人に所望の結果を引き出す成分の能力だけでなく、緩和される病状又は状態の重症度、個人のホルモンレベル、年齢、性別、体重、患者の状態、及び治療される病的状態の重症度、特定の患者がその後従う併用薬物療法又は特別食などの要因、及び当業者が認識するであろうその他の要因に応じて患者ごとに変動し、適切な用量は主治医の判断となるであろうことは理解されるはずである。投与計画は、改良された治療応答が提供されるように調整することができる。有効量は、治療上の有益効果が成分の何らかの有毒又は有害作用を上回る量でもある。
【0017】
[0017]“薬学的に許容可能な”とは、健全な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比に見合う過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又はその他の問題合併症なしに、ヒト及び動物の組織と接触するのに適切な化合物、材料、組成物、及び/又は剤形のことを言う。
【0018】
[0018]本発明の範囲内で、開示された化合物は薬学的に許容可能な塩の形態で製造できる。“薬学的に許容可能な塩”とは、親化合物がその酸塩又塩基塩の製造によって修飾されている開示化合物の誘導体のことを言う。薬学的に許容可能な塩の例は、アミンなどの塩基性残基の鉱酸又は有機酸の塩;カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩又は有機塩などであるが、これらに限定されない。薬学的に許容可能な塩は、例えば非毒性の無機酸又は有機酸から形成された親化合物の従来型の非毒性塩又は第四級アンモニウム塩などである。例えば、そのような従来型の非毒性塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸から誘導された塩;及び酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸などの有機酸から製造された塩などである。これらの生理学的に許容可能な塩は、当該技術分野で公知の方法、例えば、遊離アミン塩基を過剰の酸と共に水性アルコール中に溶解することにより、又は遊離カルボン酸を水酸化物などのアルカリ金属の塩基又はアミンで中和することにより製造される。
【0019】
[0019]本明細書中に記載の化合物は代替の形態で製造されてもよい。例えば、多くのアミノ含有化合物は酸付加塩として使用又は製造できる。多くの場合、そのような塩は化合物の単離及び取扱い特性を改良する。例えば、試薬、反応条件などに応じて、本明細書中に記載の化合物は、例えばそれらの塩酸塩又はトシル酸塩として使用又は製造できる。同形の結晶形(isomorphic crystalline forms)、全てのキラル形及びラセミ体、N-オキシド、水和物、溶媒和物、及び酸塩水和物も本発明の範囲内に含まれると想定されている。
【0020】
[0020]本発明の一定の酸性又は塩基性化合物は双性イオンとして存在しうる。遊離酸、遊離塩基及び双性イオンを含む全ての形態の化合物が本発明の範囲内に含まれると想定されている。アミノ基とカルボキシ基の両方を含有する化合物は、しばしばそれらの双性イ
オン形と平衡状態で存在することは当該技術分野では周知である。従って、例えばアミノ基及びカルボキシ基の両方を含有する本明細書中に記載の任意の化合物は、それらの対応する双性イオンへの参照も含む。
【0021】
[0021]“立体異性体”という用語は、同一の化学組成を有するが、空間における原子又は基の配置に関して異なる化合物のことを言う。
【0022】
[0022]“投与する”という用語は、本発明の化合物又は組成物を直接投与するか、又は体内で等価の量の活性化合物又は物質を形成するプロドラッグ、誘導体又は類似体を投与することのいずれかを意味する。
【0023】
[0023]“対象”、“個人”、及び“患者”という用語は、本明細書中では互換的に使用され、本発明による医薬組成物を用いた治療(予防的治療を含む)が提供される動物、例えばヒトのことを言う。本明細書において“対象”という用語は、ヒト及びヒト以外の動物のことを言う。“ヒト以外の動物”及び“ヒト以外の哺乳動物”という用語は、本明細書中では互換的に使用され、すべての脊椎動物、例えば、ヒト以外の霊長類(特に高等霊長類)、ヒツジ、イヌ、齧歯動物(例えばマウス又はラット)、モルモット、ヤギ、ブタ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマなどの哺乳動物、ならびに爬虫類、両生類、ニワトリ、及びシチメンチョウなどの非哺乳動物を含む。
【0024】
[0024]本明細書において、“阻害薬”という用語は、タンパク質、ポリペプチド又は酵素の発現又は活性を阻害する化合物を含むが、必ずしも発現及び/又は活性の完全阻害を意味するわけではない。むしろ、阻害は、所望の効果をもたらすのに十分な程度、及び期間、タンパク質、ポリペプチド又は酵素の発現及び/又は活性を阻害することを含む。
【0025】
[0025]本明細書において、“プロモーター”という用語は、タンパク質、ポリペプチド又は酵素の発現又は活性を促進する化合物を含むが、必ずしも発現及び/又は活性の完全促進を意味するわけではない。むしろ、促進は、所望の効果をもたらすのに十分な程度、及び期間、タンパク質、ポリペプチド又は酵素の発現及び/又は活性を促進することを含む。
【0026】
[0026]“化学的に結合された”とは、化学結合による2個の原子の連結のことを言う。化学結合は、1個の原子(分子の一部でありうる)と別の原子(分子の一部でありうる)との電子的相互作用に由来する結合である。化学結合は、共有結合か又は非共有結合でありうる。
【0027】
[0027]“物理的に会合している(physically associated)”とは、化学結合以外の手段
によってごく近接して維持されている2個の分子のことを言う。物理的会合分子の一例は、一つの分子の他の分子のサンプルへの含浸である。別の例は、一つの分子が別の分子によって被包されている場合である。
【0028】
[0028]“リンカー”という用語は、2個の分子を間接的に化学結合させる、又は間接的に物理会合させることを可能にする化学部分のことを言う。2個の分子を間接的に化学結合するリンカーは、2個の分子がリンカーを通じて連結されるように、2個の分子のそれぞれと別の化学結合を形成する。2個の分子を間接的に物理会合させるリンカーは、2個の分子がリンカーを通じて物理的に会合するように、2個の分子のそれぞれと別の物理的会合を形成する。リンカーは、2個の分子の一方に化学結合し、2個の分子の他方と物理的に会合することによって2個の分子を連結することもできる。
【0029】
[0029]一態様において、本発明は、抗がん剤をがん細胞に特異的に指向させる化学療法
を提供する。何らかの特定の作用機序に拘束されるつもりはないが、本発明の組成物は特異的にがん細胞を標的にすることにより、部位特異的化学療法を提供する。本発明の組成物のチロシンヒドロキシラーゼ部分はがん細胞に吸収されると考えられている。チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と抗がん剤を化学結合、又は物理的に会合させることにより、抗がん剤がチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に随伴してがん細胞に、及び/又はがん細胞の内部に運ばれる。このようにして、抗がん剤は、非がん細胞に優先してがん細胞に方向付けられる。
【0030】
[0030]本発明は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学的に結合された、又は物理的に会合された抗がん剤とを含む組成物を提供する。
【0031】
[0031]本発明の組成物に使用できる代表的チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬は、チロシン誘導体を含み、これらは典型的には大部分のがん及び炎症組織に迅速に吸収される。従って、一部の態様において、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬はチロシン誘導体である。本発明の組成物に使用できる代表的チロシン誘導体は、メチル (2R)-2-アミノ-
3-(2-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート、D-チロシンエチルエステルヒドロクロリド、メチル (2R)-2-アミノ-3-(2,6-ジクロロ-3,4
-ジメトキシフェニル)プロパノエート、H-D-Tyr(TBU)-アリルエステルHCl、メチル (2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-4,5-ジメトキシフェニル
)プロパノエート、メチル (2R)-2-アミノ-3-(2-クロロ-3-ヒドロキシ
-4-メトキシフェニル)プロパノエート、メチル (2R)-2-アミノ-3-(4-
[(2-クロロ-6-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル)プロパノエート、メチル
(2R)-2-アミノ-3-(2-クロロ-3,4-ジメトキシフェニル)プロパノエ
ート、メチル (2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-5-フルオロ-4-ヒドロキ
シフェニル)プロパノエート、ジエチル 2-(アセチルアミノ)-2-(4-[(2-
クロロ-6-フルオロベンジル)オキシ]ベンジルマロネート、メチル (2R)-2-
アミノ-3-(3-クロロ-4-メトキシフェニル)プロパノエート、メチル (2R)
-2-アミノ-3-(3-クロロ-4-ヒドロキシ-5-メトキシエニル)プロパノエート、メチル (2R)-2-アミノ-3-(2,6-ジクロロ-3-ヒドロキシ-4-メ
トキシフェニル)プロパノエート、メチル (2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート、H-DL-tyr-OMe HCl、H-3,5-ジヨード-tyr-OME HCl、H-D-3,5-ジヨード-tyr-OME
HCl、D-チロシンメチルエステルヒドロクロリド、D-チロシン-OMe HCl、メチル D-チロシネートヒドロクロリド、D-チロシンメチルエステルHCl、H-
D-Tyr-OMe-HCl、(2R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、(2R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)メチルエステルヒドロクロリド、メチル (2R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロ
パノエートヒドロクロリド、メチル (2R)-2-アザニル-3-(4-ヒドロキシフ
ェニル)プロパノエートヒドロクロリド、3-クロロ-L-チロシン、3-ニトロ-L-チロシン、3-ニトロ-L-チロシンエチルエステルヒドロクロリド、DL-m-チロシン、DL-o-チロシン、Boc-Tyr(3,5-I2)-OSu、Fmoc-tyr(3-NO2)-OH、α-メチル-L-チロシン、α-メチル-D-チロシン、及びα-メチル-DL-チロシン(DL-2-メチル-3-(4-ヒドロキシフェニル)アラニンとしても知られる)の一つ又は複数を含む。これらのチロシン誘導体は、本明細書においては“代表的チロシン誘導体”と呼ばれる。一部の態様において、チロシン誘導体はα-メチル-DL-チロシンである。
【0032】
[0032]本発明の組成物に使用できる抗がん剤は、がんに対して活性な任意の薬剤を含み、アルキル化薬、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬、細胞毒性抗生物質、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、アロマターゼ阻害薬、シグナル伝達阻害
薬、遺伝子発現及びその他の細胞機能を調節するタンパク質の機能を変更する薬剤、がん細胞にアポトーシスを遂げさせるように誘導する薬物、及び血管新生を阻害する薬物を含む。
【0033】
[0033]本発明で使用できる代表的抗がん剤は、5-フルオロウラシル、酢酸アビラテロン(abiraterone acetate)、アセチルコリン、アド-トラスツズマブエムタンシン(ado-trastuzumab emtansine)、アファチニブ(afatinib)、アルデスロイキン(aldesleukin)、ア
レクチニブ(alectinib)、アレムツズマブ(alemtuzumab)、アリトレチノイン(alitretinoin)、アミノレブリン酸、アナストロゾール、アナストロゾール、アプレピタント(aprepitant)、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ・エルウィニア・クリサンチミー(asparaginase erwinia chrysanthemi)、アテゾリズマブ(atezolizumab)、アキシチニブ(axitinib)、アザ
シチジン、ベリノスタット(belinostat)、ベンダムスチン(bendamustine)、ベンジルイソチオシアネート、ベバシズマブ、ベキサロテン(bexarotene)、ビカルタミド(bicalutamide)、ブレオマイシン、ブリナツモマブ(blinatumomab)、ボルテゾミブ、ボスチニブ(bosutinib)、ブレンツキシマブ・ベドチン(brentuximab vedotin)、ブスルファン、カバジタキセル(cabazitaxel)、カボザンチニブ(cabozantinib)、カペシタビン(capecitabine)、カ
ルボプラチン、カルフィルゾミブ(carfilzomib)、カルムスチン(carmustine)、セリチニ
ブ(ceritinib)、セツキシマブ、クロラムブシル、シスプラチン、クロファラビン(clofarabine)、コビメチニブ(cobimetinib)、クリゾチニブ(crizotinib)、シクロホスファミド
、シタラビン、ダブラフェニブ(dabrafenib)、ダカルバジン(dacarbazine)、ダカルバジ
ン、ダクチノマイシンダラツムマブ(daratumumab)、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシ
タビン(decitabine)、デフィブロチドナトリウム(defibrotide sodium)、デガレリクス(degarelix)、デニロイキンジフチトクス(denileukin diftitox)、デノスマブ(denosumab)
、デキサメタゾン、デクスラゾキサン(dexrazoxane)、ジヒドロテストステロン(DHT
)、ジヌツキシマブ(dinutuximab)、ドセタキセル、ドキソルビシン、エロツズマブ(elotuzumab)、エルトロンボパグ(eltrombopag)、エンザルタミド(enzalutamide)、エピルビシン(epirubicin)、エリブリンメシル酸塩(eribulin mesylate)、エルロチニブ(erlotinib)、エトポシド、エベロリムス(everolimus)、エキセメスタン(exemestane)、エキセメスタン、フィルグラスチム(filgrastim)、リン酸フルダラビン、フルタミド(flutamide)、フ
ルベストラント(fulvestrant)、フルベストラント、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゲム
ツズマブ(gemtuzumab)、ゲムツズマブオゾガマイシン(gemtuzumab ozogamicin)、グルカ
ルピダーゼ(glucarpidase)、酢酸ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イブリツモマブチウキセタン(ibritumomab tiuxetan)、イブルチニブ(ibrutinib)、イダルビシン、イデラリシ
ブ(idelalisib)、イホスファミド、イマチニブ、イミキモド(imiquimod)、インターフェ
ロンアルファ-2b、イピリムマブ(ipilimumab)、イリノテカン、イキサベピロン(ixabepilone)、イキサゾミブ(ixazomib)、ランレオチド(lanreotide)、ラパチニブ(lapatinib)、レナリドミド(lenalidomide)、レンバチニブ(lenvatinib)、レトロゾール(letrozole)
、ロイコボリン(leucovorin)、ロイプロリド、ロムスチン(lomustine)、メクロレタミン(mechlorethamine)、酢酸メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ(mesna)、メトトレキサート、マイトマイシンC、ミトキサントロン(mitoxantrone)、ネシツムマブ(necitumumab)、ネララビン(nelarabine)、ネツピタント(netupitant)、ニロチニ
ブ、ニルタミド(nilutamide)、ニボルマブ(nivolumab)、オビヌツズマブ(obinutuzumab)
、オファツムマブ(ofatumumab)、オラパリブ(olaparib)、オマセタキシンメペスクシナート(omacetaxine mepesuccinate)、オシメルチニブ(osimertinib)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、オゾガマイシン(ozogamicin)、パクリタキセル、パルボシクリブ(palbociclib)、パリフェルミン(palifermin)、パミドロネート(pamidronate)、パニツムマブ(panitumumab)、パノビノスタット(panobinostat)、パゾパニブ(pazopanib)、ペグアスパラガー
ゼ(pegaspargase)、ペグインターフェロンアルファ-2b、ペムブロリズマブ(pembrolizumab)、ペメトレキセド(pemetrexed)、ペルツズマブ(pertuzumab)、プレリキサホル(plerixafor)、ポマリドミド(pomalidomide)、ポナチニブ(ponatinib)、プララトレキセート(p
ralatrexate)、プレドニゾン、プロカルバジン、プロプラノロール、塩化ラジウム223(radium 223 dichloride)、ラロキシフェン(raloxifene)、ラムシルマブ(ramucirumab)、ラスブリカーゼ(rasburicase)、レゴラフェニブ、リツキシマブ、ロラピタント(rolapitant)、ロミデプシン(romidepsin)、ロミプロスチム(romiplostim)、ルキソリチニブ(ruxolitinib)、シルツキシマブ(siltuximab)、シプリューセル-t、ソニデジブ(sonidegib)、ソラフェニブ、スニチニブ(sunitinib)、タリモジーン・ラハーパレプベック(talimogene
laherparepvec)、タモキシフェン、テモゾロミド(temozolomide)、テムシロリムス(temsirolimus)、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ(thiotepa)、チピラシル(tipiracil)、トポテカン、トレミフェン、トレミフェン、トシツモマブ(tositumomab)、トラベクテ
ジン(trabectedin)、トラメチニブ(trametinib)、トラスツズマブ、トレチノイン、トリ
フルリジン、ウリジントリアセタート(uridine triacetate)、バンデタニブ(vandetanib)、ベムラフェニブ(vemurafenib)、ベネトクラックス、ビンブラスチン、ビンクリスチン
、ビノレルビン(vinorelbine)、ビスモデギブ(vismodegib)、ボリノスタット(vorinostat)、ジブ-アフリベルセプト(ziv-aflibercept)、ゾレドロン酸(zoledronic acid)、及び
それらの薬学的に許容可能な塩などである。これらの抗がん剤は、本明細書においては“代表的抗がん剤”と呼ばれる。
【0034】
[0034]一部の態様において、抗がん剤は、5-フルオロウラシル、カペシタビン、シスプラチン、エルロチニブ、エベロリムス、ゲムシタビン、イリノテカン、ランレオチド酢酸塩、ロイコボリン、マイトマイシンC、オキサリプラチン、パクリタキセル、タキソテール、及びスニチニブリンゴ酸塩の一つ又は複数である。
【0035】
[0035]本発明の一部の態様において、抗がん剤はチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学的に結合している。抗がん剤は、共有結合によってチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合できる。チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と抗がん剤間の共有結合は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬上の反応性官能基と抗がん剤上の反応性官能基との化学反応によって形成されうる。チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬上の反応性官能基は、エステル、カルボン酸、アミド、アミノ基、ヒドロキシル基、及び活性化された芳香族又は脂肪族の炭素原子などでありうる。抗がん剤上の反応性官能基は、エステル、カルボン酸、アミド、アミノ基、ヒドロキシル基、活性化された芳香族又は脂肪族の炭素原子、スルフィド、及びシアノ基などでありうる。従って、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬上の官能基と抗がん剤上の官能基との反応は、エーテル、アミン、エステル、アミド、チオエステル、チオエーテル、カルバメート、及び尿素をもたらしうる。本発明の態様で必要とされる種類の共有結合の製造法は当該技術分野で一般的に知られている。例えば、Michael B.Smith及びJerry MarchによるMarch’s Advanced Organic Chemistry,Reactions,Mechanism,and
Structure(John Wiley & Sons 2001)参照。
【0036】
[0036]抗がん剤が共有結合によってチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合している本発明の例示的態様は、カペシタビンのヒドロキシル基とα-メチルチロシンのカルボン酸基との縮合によって得られるエステルである。
【0037】
【0038】
[0037]他の態様において、抗がん剤はチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に非共有結合によって化学結合している。一部の態様において、非共有結合はイオン結合である。チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と抗がん剤間のイオン結合は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬上の塩形成官能基と抗がん剤上の塩形成官能基との化学反応によって形成できる。チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬上の塩形成官能基は、カルボン酸、アミノ基、及び酸性ヒドロキシル基などでありうる。抗がん剤上の塩形成官能基は、カルボン酸、アミノ基、酸性ヒドロキシル基、及び酸性チオールなどでありうる。本発明の態様で必要とされる種類の非共有結合の製造法は当該技術分野で一般的に知られている。例えば、Michael B.Smith及びJerry MarchによるMarch’s Advanced Organic Chemistry,Reactions,Mechanism,and Structure(John Wiley & Sons 2001)参照。
【0039】
[0038]抗がん剤が非共有結合であるイオン結合によってチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合している本発明の例示的態様は、D-チロシンエチルエステルとロイコボリンの反応によって得られる塩である。
【0040】
【0041】
[0039]本発明の他の態様において、抗がん剤はリンカーを通じてチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合している。一部の態様において、リンカーは、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と抗がん剤の両方に化学結合を形成し、従ってチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と抗がん剤を分離している化学部分である。従って、一部の態様において、本発明は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬-抗がん剤複合体(conjugate)を提供する。チロシン
ヒドロキシラーゼ阻害薬とリンカー間の共有結合は、例えば、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬上の反応性官能基とリンカー上の反応性官能基との反応によって形成されるカルバメート結合、アミド結合、エステル結合、アミノ結合、及びエーテル結合などであろう。抗がん剤とリンカー間の共有結合は、例えば、抗がん剤上の反応性官能基とリンカー上の反応性官能基との反応によって形成されるジスルフィド結合、カルバメート結合、アミド結合、エステル結合、アミノ結合、及びエーテル結合などであろう。従って、一部の態様において、リンカーは、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と反応する反応性官能基と、抗がん剤と反応する反応性官能基とを有する化学部分である。一部の態様において、リンカーは2個の官能基を有する分子で、その一つはチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬上の官能基と共有結合を形成でき、そのもう一つは抗がん剤上の官能基と共有結合を形成できる。一部の態様において、リンカーは、2個以上の反応性官能基を有する脂肪族化合物、2個以上の反応性官能基を有する芳香族化合物、炭水化物、アミノ酸、ペプチド、ジアミノ化合物、ポリアミノ化合物、ジオール、ポリオール、アミノ-アルコール、エタノールアミン、ジアミド、ポリアミド、脂質、及びポリエチレングリコールから選ばれる。本発明の態様で必要とされる化学結合の製造法は当該技術分野で一般的に知られている。例えば、Michael B.Smith及びJerry MarchによるMarch’s Advanced Organic Chemistry,Reactions,Mechanism,and Structure(John Wiley & Sons 2001)参照。
【0042】
[0040]一部の態様において、リンカーは生理的条件下で切断されうるので、それによってチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と抗がん剤は分離する。一部の態様において、リンカーは複合体ががん細胞に取り込まれた時に切断される。一部の態様において、リンカーは、がん細胞内又はがん細胞表面に存在する酵素によって切断される。
【0043】
[0041]一部の態様においては、単一のリンカーが複数の抗がん剤と単一のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合されていてもよい。
【0044】
[0042]本発明の他の態様において、抗がん剤はチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と物理的に会合している。一部の態様において、抗がん剤はチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と含浸によって物理的に会合している。含浸は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と固体の抗がん剤に、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と抗がん剤の少なくとも一方に前記チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と前記抗がん剤の他方を含浸させるのに有効な時間及び条件下で、力を印加することによって達成できる。含浸によって形成された組成物及び含浸の方法は、2015年4月23日に公開された米国特許出願公開第2015/0112116-A1号に示されており、その内容は全面的に引用によって本明細書に援用する。
【0045】
[0043]他の態様において、抗がん剤はチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と被包によって物理的に会合している。
【0046】
[0044]他の態様において、リンカーは、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬を抗がん剤に物理的会合を通じて、又は物理的会合と化学結合の組合せを通じて連結する。一部の態様において、抗がん剤はリポソーム内に被包される。このリポソームはその外表面に共有結合された一つ又は複数のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬を有している。この態様において、リポソームは、化学(共有)結合によってチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に結合し、物理的会合(被包)によって抗がん剤に結合しているリンカーである。
【0047】
[0045]本発明の一部の態様において、本発明の組成物は、一つ又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む。薬学的に許容可能な賦形剤は当該技術分野で公知である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,Mack Publishing Company(1990)参照。
【0048】
[0046]対象におけるがんの治療法も、過度の細胞増殖を低減する方法と同様に提供する。そのような方法は、がん細胞を標的とする有効量の組成物を投与することを含みうる。適切な態様は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合された又は物理的に会合している抗がん剤とを含む有効量の上記組成物を投与することを含む方法である。他の適切な方法は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合された又は物理的に会合している抗がん剤を含む有効量の上記組成物を一つ又は複数の追加の治療薬と共に投与することを含む。
【0049】
[0047]追加の治療薬を含む又は含まない組成物は、単一の剤形又は任意の数の所望の剤形(個別の剤形を含む)で提供できる。代表的な剤形は、錠剤、カプセル、カプレット、無菌の水溶液又は有機溶液、再構成可能粉末、エリキシル、液体、コロイド、又はその他のタイプの懸濁液、エマルション、ビーズ、ビーズレット(小ビーズ)、顆粒、ミクロ粒子、ナノ粒子、及びそれらの組合せなどである。投与される組成物の量は、当然ながら、治療される対象、対象の体重、治療される状態の重症度、投与の様式、及び処方医の判断による。
【0050】
[0048]追加の治療薬を含む又は含まない組成物の投与は、経口、経鼻、皮下、静脈内、筋肉内、経皮、経膣、経直腸、又はそれらの任意の組合せを含む様々な経路を通じて実施
できる。経皮投与は、例えば、オレイン酸、1-メチル-2-ピロリドン、又はドデシルノナオキシエチレングリコールモノエーテルを用いて実施できる。
【0051】
[0049]追加の治療薬を含む又は含まない本組成物が投与される対象は、哺乳動物、好ましくはヒトでありうる。
【0052】
[0050]代表的方法は、がんが非小細胞肺がんである方法を含む。一定の態様において、非小細胞肺がんはステージIVの非小細胞肺がんである。さらに他の態様において、がんは、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍、肝臓がん、精巣がん、白血病、リンパ腫、虫垂がん、胆管がん(biliary cancer,cholangiocarcinoma)、結腸がん、大腸がん(colorectal cancer)、胚細胞腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、肺がん、
神経芽細胞腫、前立腺がん、腎臓がん、肉腫、甲状腺がん、舌がん、扁桃腺扁平上皮細胞がん、又は尿路上皮がんである。一部の態様において、がんは膵臓がんである。
【0053】
[0051]本方法は、開示された投与ステップだけでなく、前記対象における前記がんの進行及び/又は細胞増殖の程度を評価するステップも含む。評価ステップは投与ステップの前又は後に実施できる。
【0054】
[0052]適切な態様は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合された又は物理的に会合している抗がん剤とを含む上記組成物を投与することを含みうる。組成物中のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬はチロシン誘導体でありうる。チロシン誘導体は、上記代表的チロシン誘導体の一つ又は複数でありうる。
【0055】
[0053]上記組成物中の抗がん剤は、がんに対して活性な任意の薬剤を含み、アルキル化薬、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬、細胞毒性抗生物質、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、アロマターゼ阻害薬、シグナル伝達阻害薬、遺伝子発現及びその他の細胞機能を調節するタンパク質の機能を変更する薬剤、がん細胞にアポトーシスを遂げさせるように誘導する薬物、及び血管新生を阻害する薬物を含む。抗がん剤は、上記代表的抗がん剤の一つ又は複数でありうる。
【0056】
[0054]対象におけるがんの治療法も提供し、該方法は、それを必要とする対象に、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合された又は物理的に会合している抗がん剤とを含む有効量の上記組成物を投与することを含む。適切な態様において、組成物は、経口、皮下、静脈内、経皮、経膣、経直腸、又はそれらの任意の組合せで投与される。経皮投与は、オレイン酸、1-メチル-2-ピロリドン、又はドデシルノナオキシエチレングリコールモノエーテルを用いて実施できる。他の態様において、組成物は、5~7日間の組成物投与と1~2日間の組成物非投与からなるサイクル中に投与される。組成物は、少なくとも6回の前記サイクルのコースにわたって投与できる。がんを治療するための組成物中のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬はチロシン誘導体でありうる。チロシン誘導体は、上記代表的チロシン誘導体の一つ又は複数でありうる。
【0057】
[0055]がんを治療するための組成物中に使用できる抗がん剤は、がんに対して活性な任意の薬剤を含み、アルキル化薬、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬、細胞毒性抗生物質、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、アロマターゼ阻害薬、シグナル伝達阻害薬、遺伝子発現及びその他の細胞機能を調節するタンパク質の機能を変更する薬剤、がん細胞にアポトーシスを遂げさせるように誘導する薬物、及び血管新生を阻害する薬物を含む。抗がん剤は、上記代表的抗がん剤の一つ又は複数でありうる。
【0058】
[0056]がんを治療する方法における対象は哺乳動物であり得、その哺乳動物はヒトでありうる。一部の態様において、対象はヒトである。
【0059】
[0057]がんを治療する代表的な方法は、がんが非小細胞肺がんである方法を含む。一定の態様において、非小細胞肺がんはステージIVの非小細胞肺がんである。他の態様において、がんは、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍、肝臓がん、精巣がん、白血病、リンパ腫、虫垂がん、胆管がん(biliary cancer,cholangiocarcinoma)、結腸がん、大腸がん(colorectal cancer)、胚細胞腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫
、肺がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、腎臓がん、肉腫、甲状腺がん、舌がん、扁桃腺扁平上皮細胞がん、又は尿路上皮がんである。一部の態様において、がんは膵臓がんである。
【0060】
[0058]別の適切な態様はさらに、前記対象における前記がんの進行を評価することを含む。評価ステップは前記投与ステップの前の実施できる又は評価ステップは前記投与ステップの後に実施できる。
【0061】
[0059]一部の態様において、がんの治療法はさらに、一つ又は複数の追加の治療薬を投与することを含む。そのような追加の治療薬は、上記組成物の成分である抗がん剤と同じ、又は異なる抗がん剤を含みうる。一部の態様において、追加の治療薬は上記代表的抗がん剤の一つ又は複数である。
【0062】
[0060]他の態様において、追加の治療薬は、一つ又は複数の追加のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬、メラニン及び/又はメラニンプロモーター、p450 3A4プロモーター、ロイシンアミノペプチダーゼ阻害薬、及び成長ホルモン阻害薬を含みうる。一部の態様において、追加の治療薬(すなわち、メラニン、プロモーター及び/又は阻害薬)の少
なくとも二つが同時に投与される。他の態様において、追加の治療薬の少なくとも三つが同時に投与される。追加の治療薬のそれぞれは同時に投与できる。
【0063】
[0061]一部の態様において、追加の治療薬は一つ又は複数のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬である。代表的チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬はチロシン誘導体を含む。チロシン誘導体は、上記代表的チロシン誘導体の一つ又は複数でありうる。
【0064】
[0062]一部の態様において、追加の治療薬は、メラニン、メラニンプロモーター、又はそれらの組合せの少なくとも一つを含む。従って、メラニンが使用できる、一つ又は複数のメラニンプロモーターが使用できる、及びメラニンと一つ又は複数のメラニンプロモーターの両方が使用できる(別の剤形又は同じ剤形のいずれかで)。本発明によるメラニンプロモーターは、メラニンの産生及び/又は活性を増大する化合物である。増大したメラニンレベルは、炎症を低減し(例えば、TNFの抑制を通じて)、隔離されたリンパ系を排除すると考えられている。メラニンは光触媒であるので、フリーラジカルを生成する化学反応を促進でき、このフリーラジカルががん細胞に接近できる。代表的メラニンプロモーターは、メトキサレン及びメラノタンIIである。
【0065】
[0063]一部の態様において、追加の治療薬はp450 3A4プロモーターを含む。“シトクロムp450 3A4”(“p450 3A4”と略記できる)は、酵素のシトクロムp450スーパーファミリーのメンバーで、体内の生体異物の代謝に関与している混
合機能オキシダーゼである。それはすべてのシトクロムの最も広い基質範囲を有する。代表的p450 3A4プロモーターは、5,5’-ジフェニルヒダントイン(例えば、Dilantinとして市販されている)、バルプロ酸、及びカルバマゼピンで、これらはp450 3A4酵素の発現を誘導すると考えられている。
【0066】
[0064]一部の態様において、追加の治療薬はロイシンアミノペプチダーゼ阻害薬(あるいはロイシルアミノペプチダーゼ阻害薬としても知られる)を含む。ロイシンアミノペプ
チダーゼは、ペプチド及び/又はタンパク質のN末端のロイシン残基の加水分解を選択的に触媒する酵素である。代表的ロイシンアミノペプチダーゼ阻害薬は、N-[(2S,3R)-3-アミノ-2-ヒドロキシ-4-フェニルブチリル]-L-ロイシン、及びラパマイシンである。
【0067】
[0065]一部の態様において、追加の治療薬は成長ホルモン阻害薬を含む。成長ホルモン(例えば、膵臓成長ホルモンなど)は、細胞複製を誘導する。代表的成長ホルモン阻害薬は、オクトレオチド、ソマトスタチン、及びセグリチドである。
【0068】
[0066]一部の態様において、追加の治療薬はD-ロイシンを含む。D-ロイシンは、天然に存在するL-ロイシンの立体異性体で、ポリペプチド及びタンパク質に取り込まれるロイシンの形態である。
【0069】
[0067]対象における細胞増殖の低減法も提供し、該方法は、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と該チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合された又は物理的に会合している抗がん剤とを含む有効量の組成物を投与することを含む。適切な態様において、成分は、経口、皮下、静脈内、経皮、経膣、経直腸、又はそれらの任意の組合せで投与される。経皮投与は、オレイン酸、1-メチル-2-ピロリドン、又はドデシルノナオキシエチレングリコールモノエーテルを用いて実施できる。他の態様において、組成物は、5~7日間の組成物投与と1~2日間の組成物非投与からなるサイクル中に投与される。組成物は、少なくとも6回の前記サイクルのコースにわたって投与できる。細胞増殖を低減するための組成物中のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬はチロシン誘導体でありうる。チロシン誘導体は、上記代表的チロシン誘導体の一つ又は複数でありうる。
【0070】
[0068]細胞増殖を低減するための組成物中に使用できる抗がん剤は、がんに対して活性な任意の薬剤を含み、アルキル化薬、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬、細胞毒性抗生物質、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、アロマターゼ阻害薬、シグナル伝達阻害薬、遺伝子発現及びその他の細胞機能を調節するタンパク質の機能を変更する薬剤、がん細胞にアポトーシスを遂げさせるように誘導する薬物、及び血管新生を阻害する薬物を含む。抗がん剤は、上記代表的抗がん剤の一つ又は複数でありうる。
【0071】
[0069]細胞増殖を低減する方法における対象は哺乳動物であり得、その哺乳動物はヒトでありうる。一部の態様において、対象はヒトである。
【0072】
[0070]細胞増殖を低減する代表的な方法は、細胞増殖ががんである方法を含む。一部の態様において、がんは非小細胞肺がんである。一定の態様において、非小細胞肺がんはステージIVの非小細胞肺がんである。他の態様において、がんは、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍、肝臓がん、精巣がん、白血病、リンパ腫、虫垂がん、胆管がん(biliary cancer,cholangiocarcinoma)、結腸がん、大腸がん(colorectal cancer)、胚細胞腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、肺がん、神経芽細胞腫、前立腺がん
、腎臓がん、肉腫、甲状腺がん、舌がん、扁桃腺扁平上皮細胞がん、又は尿路上皮がんである。一部の態様において、がんは膵臓がんである。
【0073】
[0071]別の適切な態様はさらに、前記対象における前記がんの進行を評価することを含む。評価ステップは前記投与ステップの前の実施できる又は評価ステップは前記投与ステップの後に実施できる。
【0074】
[0072]一部の態様において、細胞増殖の低減法はさらに、一つ又は複数の追加の治療薬を投与することを含む。そのような追加の治療薬は、上記組成物の成分である抗がん剤と同じ、又は異なる抗がん剤を含みうる。一部の態様において、追加の治療薬は上記代表的
抗がん剤の一つ又は複数である。
【0075】
[0073]他の態様において、追加の治療薬は、一つ又は複数の追加のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬、メラニン及び/又はメラニンプロモーター、p450 3A4プロモーター、ロイシンアミノペプチダーゼ阻害薬、及び成長ホルモン阻害薬を含みうる。一部の態様において、追加の治療薬(すなわち、メラニン、プロモーター及び/又は阻害薬)の少
なくとも二つが同時に投与される。他の態様において、追加の治療薬の少なくとも三つが同時に投与される。追加の治療薬のそれぞれは同時に投与できる。
【0076】
[0074]一部の態様において、追加の治療薬は一つ又は複数のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬である。代表的チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬はチロシン誘導体を含む。チロシン誘導体は、上記代表的チロシン誘導体の一つ又は複数でありうる。
【0077】
[0075]一部の態様において、追加の治療薬は、メラニン、メラニンプロモーター、又はそれらの組合せの少なくとも一つを含む。従って、メラニンが使用できる、一つ又は複数のメラニンプロモーターが使用できる、及びメラニンと一つ又は複数のメラニンプロモーターの両方が使用できる(別の剤形又は同じ剤形のいずれかで)。本発明によるメラニンプロモーターは、メラニンの産生及び/又は活性を増大する化合物である。増大したメラニンレベルは、炎症を低減し(例えば、TNFの抑制を通じて)、隔離されたリンパ系を排除すると考えられている。メラニンは光触媒であるので、フリーラジカルを生成する化学反応を促進でき、このフリーラジカルががん細胞に接近できる。代表的メラニンプロモーターは、メトキサレン及びメラノタンIIである。
【0078】
[0076]一部の態様において、追加の治療薬はp450 3A4プロモーターを含む。“シトクロムp450 3A4”(“p450 3A4”と略記できる)は、酵素のシトクロムp450スーパーファミリーのメンバーで、体内の生体異物の代謝に関与している混
合機能オキシダーゼである。それはすべてのシトクロムの最も広い基質範囲を有する。代表的p450 3A4プロモーターは、5,5’-ジフェニルヒダントイン(例えば、Dilantinとして市販されている)、バルプロ酸、及びカルバマゼピンで、これらはp450 3A4酵素の発現を誘導すると考えられている。
【0079】
[0077]一部の態様において、追加の治療薬はロイシンアミノペプチダーゼ阻害薬(あるいはロイシルアミノペプチダーゼ阻害薬としても知られる)を含む。ロイシンアミノペプチダーゼは、ペプチド及び/又はタンパク質のN末端のロイシン残基の加水分解を選択的に触媒する酵素である。代表的ロイシンアミノペプチダーゼ阻害薬は、N-[(2S,3R)-3-アミノ-2-ヒドロキシ-4-フェニルブチリル]-L-ロイシン、及びラパマイシンである。
【0080】
[0078]一部の態様において、追加の治療薬は成長ホルモン阻害薬を含む。成長ホルモン(例えば、膵臓成長ホルモンなど)は、細胞複製を誘導する。代表的成長ホルモン阻害薬は、オクトレオチド、ソマトスタチン、及びセグリチドである。
【0081】
[0079]一部の態様において、追加の治療薬はD-ロイシンを含む。D-ロイシンは、天然に存在するL-ロイシンの立体異性体で、ポリペプチド及びタンパク質に取り込まれるロイシンの形態である。
【0082】
[0080]また、本明細書において提供されるのは、特異的にがん細胞を標的にする療法を含むキットである。代表的キットは、チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬と前記チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬に化学結合された又は物理的に会合している抗がん剤とを含む組成物と共にそのための適切な包装を含む。キットは、一つ又は複数の別個の容器、仕切り又
はコンパートメントと、任意に投与に関する説明書などの情報資料を含みうる。例えば、各組成物は、ボトル、バイアル、又はシリンジに収納でき、情報資料は、プラスチック製のフォルダ又は袋(plastic sleeve or packet)に収納されるか又はラベルに提供できる。一部の態様において、キットは、複数の個別容器(例えばパック)を含み、それぞれは本明細書中に記載された組成物の一つ又は複数の単位剤形を含有する。例えば、キットは、それぞれ本明細書中に記載された組成物の一単位用量を含有する複数のシリンジ、アンプル、ホイルパケット、又はブリスターパック、又はそれらの任意の様々な組合せを含むことができる。キットの容器は気密、防水(例えば、湿度又は蒸発の変化に対して不透過性)、及び/又は遮光性でありうる。キットは、任意に、組成物の投与に適切なデバイス、例えばシリンジ、吸入器、ピペット、鉗子、計量スプーン、スポイト(dropper)(例えば
点眼器)、スワブ(例えば綿棒又は木製スワブ)、又は任意のそのような送達デバイスを含む。一部の態様において、キットは一つ又は複数の追加の治療薬をさらに含む。一部の態様において、追加の治療薬は、上記組成物の成分である抗がん剤と同じ又は異なる抗がん剤、追加のチロシンヒドロキシラーゼ阻害薬、メラニン、メラニンプロモーター、p450 3A4プロモーター、ロイシンアミノペプチダーゼ阻害薬、成長ホルモン阻害薬、及びD-ロイシンから選ばれる。
【0083】
[0081]以下の実施例は、説明のためだけに提供されるものであり、決して本発明の範囲を制限しようとするものではない。
【実施例0084】
実施例1
[0082]上記組成物のチロシンヒドロキシラーゼ部分が膵臓細胞に取り込まれる能力を以下の研究によって示す。
【0085】
[0083]背景:SM88は、5剤療法の新規組合せ(シロリムス、メラニン、メラノタン、フェニトイン、及びチロシン異性体)で、一緒に投与されると抗がん活性を示し、毒性はほとんど乃至全くないことが、30人の患者の予備研究で示されている[J Clin
Oncol 31,2013(suppl;abstr e22095)及びHoffmanら GynOncol,130(1),e43]。この研究は、チロシン剤のα-メチル-DL-チロシンの毒性に関する前臨床動物データと、可能性ある作用機序について報告している。
【0086】
[0084]材料及び方法:α-メチル-DL-チロシンを用い、Sprague Dawleyラットとビーグル犬で、7日間の漸増用量と28日間の反復投与を用いる前臨床動物モデル毒性学研究を行った。試験品及び対照品/ビヒクル品は、毎日又は週3回、4週間にわたって、25、75、150、及び300mg/kgの用量レベルで投与された。研究項目には、死亡率、臨床観察、体重、摂餌量、心電図検査、及び眼科検査が含まれていた。さらに、血液学、凝固、臨床化学及び尿検査のパラメーターも、処置前期間中と第29日(主及び回復動物)及び第55日(回復動物)に評価した。血液サンプルは、毒物動態プロフィールを決定するために、第1日及び第27日に、処置に対して8時点で採取した。
【0087】
[0085]結果:すべての試験ラットは、性別に関わりなく、膵臓、卵巣及び子宮の一貫した臓器体積減少を示した(膵臓においては細胞体積の減少及びチモーゲン顆粒(zymogenous vacuoles)濃度の低下)。これらの変化は、α-メチル-DL-チロシンを中止すると
完全に可逆的であった。連続28日間の結果、300mg/kg/日の雄においては平均体重増加の減少が見られ(これは摂餌量の減少と相関していた)、全用量群の雌では平均体重増加の用量関連の増加が見られた。イヌではそのような観察は見られなかった。死亡なし、臨床徴候なし、ECGへの影響なし、眼科的所見なし、血液学、凝固、臨床化学及
び尿検査のパラメーターに変化なし、その他の臓器重量に変化なし、そして300mg/kgまでの用量の異性体投与に起因する肉眼的及び顕微鏡的所見なしであった。結果として、週3回4週間投与された場合のチロシン剤についての無影響量(NOEL)は、150(イヌの場合)及び300(ラットの場合)mg/kgと決定された。第27日に得られた150mg/kg(イヌ)の血漿中Cmax値は、雄及び雌でそれぞれ41.7μg/ml及び41.36μg/mlであった。AUC0-Tlast値は、717.7(雄)及び724.8(雌)hr*μg/mlであった。第1日と第27日との間の血漿中合計異性体濃度の差は、該薬剤への全身暴露が一般的に用量依存的に増加し、その増加様式は用量比例的増加をわずかに下回ることを示している。一般に、薬剤の最大濃度レベル(Cmax)は投与後2~6.7時間で到達した。Tmax後、薬剤の血漿中濃度は、第1日は7.9~9.3時間及び第27日は8.4~9.6時間の範囲の平均推定T1/2値で徐々に低下した。測定されたすべての毒物動態パラメーターについて0.3~1.8の範囲の性比によって明らかなように、主な又は一貫した性関連の差はなかった。4週間の処置期間にわたって、AUC0-Tlast及びAUCINF(Cmax)蓄積比(第27日/第1日)は、25、75及び150mg/kgで処置された動物で0.6~1.8(0.8~1.6)の範囲であり、薬剤は週3回27日間にわたって150mg/kgまでの用量で投与された場合に蓄積しないことを示唆している。ラットの場合も結果は同様であった。
(a)α-メチル-DL-チロシン、及び前記α-メチル-DL-チロシンに共有結合された抗がん剤、ここで前記抗がん剤がエベロリムス、シロリムス、テムシロリムス、又はカペシタビン;並びに、
(b)メラニン、メトキサレン、メラノタンII、又はそれらの組合せ;
を含む組成物。
前記がんが、非小細胞肺がん、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍、肝臓がん、精巣がん、白血病、リンパ腫、虫垂がん、胆管がん(biliary cancer,cholangiocarcinoma)、結腸がん、大腸がん、胚細胞腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、肺がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、腎臓がん、肉腫、甲状腺がん、舌がん、扁桃腺扁平上皮細胞がん、又は尿路上皮がんの少なくとも一つである、請求項4に記載の組成物。