(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153686
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】硬化物、形状記憶部材、結紮具、縫合糸、及び、ウェアラブルデバイス
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20221005BHJP
A61L 17/12 20060101ALI20221005BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20221005BHJP
C08G 63/47 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08F290/06
A61L17/12
C08L101/16
C08G63/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056339
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】宇都 甲一郎
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
【テーマコード(参考)】
4C081
4J029
4J127
4J200
【Fターム(参考)】
4C081AC02
4C081BA16
4C081CA171
4C081CC01
4C081DA04
4J029AA02
4J029AB01
4J029AC02
4J029AD01
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4J029AE17
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4J029BA02
4J029BA10
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4J029EH01
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4J029JB131
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4J127AA04
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4J127BE34Y
4J127BF132
4J127BF13X
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4J127BF15X
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4J127BF472
4J127BF47X
4J127FA43
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4J200AA27
4J200AA28
4J200BA03
4J200BA05
4J200BA14
4J200BA18
4J200CA06
4J200DA22
4J200DA28
4J200EA01
4J200EA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低い駆動温度と、大きな変形率とを両立可能な硬化物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される硬化性化合物1と、下記式(2)で表される硬化性化合物2とを含む組成物を硬化させて得られた、結晶性を有する硬化物。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される硬化性化合物1と、下記式2で表される硬化性化合物2とを含む組成物を硬化させて得られた、結晶性を有する硬化物。
【化1】
(式1中、L
1はポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、X
1は硬化性基を有する基を表し、R
1は水素原子、又は、前記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q1は2以上の整数を表し、p1は0以上の整数を表し、q1が2かつp1が0のとき、M
1は単結合、又は、2価の基を表し、q1が2かつp1が1以上のとき、及び、q1が3以上のとき、M
1はp1+q1価の基を表し、複数あるR
1、及び、L
1はそれぞれ同一でも異なってもよく、式2中、L
2は高分子鎖を表し、前記高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、X
2は式1中のX
1が有するのと同一の硬化性基を有する基を表し、R
2は水素原子、又は、前記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q2は2以上の整数を表し、p2は0以上の整数を表し、q2が2かつp2が0のとき、M
2は単結合、又は、2価の基を表し、q2が2かつp2が1以上のとき、及び、q2が3以上のとき、M
2はp2+q2価の基を表し、複数あるR
2、及び、L
2はそれぞれ同一でも異なってもよい)
【請求項2】
前記硬化性化合物1と前記硬化性化合物2との合計含有量に対する、前記硬化性化合物2の含有量のモル基準の比が0.01~0.65である、請求項1に記載の硬化物。
【請求項3】
前記高分子鎖における、前記オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、前記D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、前記L-乳酸に由来する繰り返し単位の繰り返し数の合計が、10~100である、請求項1又は2に記載の硬化物。
【請求項4】
前記硬化性化合物1が、以下の式1Bで表される、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化物。
【化2】
(式1B中、M
1Bは、r1価の基であり、L
1Bはポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、X
1Bは硬化性基を有する基を表し、r1は2以上の整数を表し、複数あるL
1Bはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
前記硬化性化合物2が、以下の式1Cで表される、請求項4に記載の硬化物。
【化3】
(式1C中、M
1Cは、r2価の基であり、L
1Cは高分子鎖を表し、前記高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、X
1Cは、前記X
1Bが有するのと同一の硬化性基を有する基を表し、r2は2以上の整数を表し、複数あるL
1Cはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項6】
以下の方法により準備される試験体が結晶性を有しない、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化物。
(試験体の準備方法:前記硬化性化合物2の500mgと、過酸化ベンゾイルの15mgと、キシレンの695μLとを混合して得られる組成物を80℃に加熱して重合させ、得られた重合体をアセトンで洗浄し、メタノール中で収縮させた後、減圧乾燥させて試験体を得る)
【請求項7】
前記硬化性化合物1が以下の式1Dで表される、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化物。
【化4】
(式1D中、AL
2は炭素数1~20個のアルキレン基を表し、X
1Dは硬化性基を有する基を表し、L
Dは炭素数1~5の炭化水素基を表し、炭素数wは2~100の整数を表す。)
【請求項8】
前記炭化水素基が、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、及び、-CH2C(CH3)2CH2-からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項7に記載の硬化物。
【請求項9】
前記硬化性化合物2が以下の式1Eで表される、請求項7又は8に記載の硬化物。
【化5】
(式1E中、L
1Eaは、高分子鎖を表し、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、L
1Ebは、単結合、又は、ポリ(オキシアルキレン)基からなる高分子鎖を表し、X
1Eは前記X
1Dが有するのと同一の硬化性基を有する基を表す。)
【請求項10】
前記比が、0.15~0.60である、請求項2に記載の硬化物。
【請求項11】
前記比が、0.15~0.40である、請求項10に記載の硬化物。
【請求項12】
前記比が、0.40~0.55である、請求項10に記載の硬化物。
【請求項13】
結晶化度が、10.0~24.0%である、請求項1~12のいずれか1項に記載の硬化物。
【請求項14】
前記結晶化度が、15.0~20.0%である、請求項13に記載の硬化物。
【請求項15】
示唆走査熱量計によって測定される結晶の融解ピーク温度が、36.0~42.0である、請求項1~14のいずれか1項に記載の硬化物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の硬化物を含む形状記憶部材。
【請求項17】
請求項16に記載の形状記憶部材を含む結紮具。
【請求項18】
請求項16に記載の形状記憶部材を含む縫合糸。
【請求項19】
請求項16に記載の形状記憶部材を含むウェアラブルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物、形状記憶部材、結紮具、縫合糸、及び、ウェアラブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル樹脂は優れた生分解性を有することが知られており、研究が進められている。非特許文献1には、温度応答性ポリ(ε-カプロラクトン)膜が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Controlled Release,2006,vol.110,p408-413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載された膜は、付与された変形を記憶し、所定の温度(この温度を、以下「駆動温度」ともいう。)に加熱すると、変形が付与される前の形状に戻るという、形状記憶能を有していた。しかし、記憶できる変形量(以下、「変形率」ともいう。)については、改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、低い駆動温度と、大きな変形率とを両立可能な硬化物を提供することを課題とする。
また、本発明は、形状記憶部材、結紮具、縫合糸、及び、ウェアラブルデバイスを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] 後述する下記式1で表される硬化性化合物1と、後述する式2で表される硬化性化合物2とを含む組成物を硬化させて得られた、結晶性を有する硬化物。
[2] 上記硬化性化合物1と上記硬化性化合物2との合計含有量に対する、上記硬化性化合物2の含有量のモル基準の比が0.01~0.65である、[1]に記載の硬化物。
[3] 上記硬化性化合物2が有する高分子鎖における、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位の繰り返し数の合計が、10~100である、[1]又は[2]に記載の硬化物。
[4] 上記硬化性化合物1が、後述する式1Bで表される、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化物。
[5] 上記硬化性化合物2が、後述する式1Cで表される、[4]に記載の硬化物。
[6] 以下の方法により準備される試験体が結晶性を有しない、[1]~[5]のいずれかに記載の硬化物。
(試験体の準備方法:上記硬化性化合物2の500mgと、過酸化ベンゾイルの15mgと、キシレンの695μLとを混合して得られる組成物を80℃に加熱して重合させ、得られた重合体をアセトンで洗浄し、メタノール中で収縮させた後、減圧乾燥させて試験体を得る。)
[7] 上記硬化性化合物1が後述する式1Dで表される、[1]~[5]のいずれかに記載の硬化物。
[8] 式1D中の炭化水素基が、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、及び、-CH2C(CH3)2CH2-からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[7]に記載の硬化物。
[9] 上記硬化性化合物2が後述する式1Eで表される、[7]又は[8]に記載の硬化物。
[10] 上記比が、0.15~0.60である、[2]に記載の硬化物。
[11] 上記比が、0.15~0.40である、[10]に記載の硬化物。
[12] 上記比が、0.40~0.55である、[10]に記載の硬化物。
[13] 結晶化度が、10.0~24.0%である、[1]~[12]のいずれかに記載の硬化物。
[14] 結晶化度が、15.0~20.0%である、[13]に記載の硬化物。
[15] 示唆走査熱量計によって測定される結晶の融解ピーク温度が、36.0~42.0である、[1]~[14]のいずれかに記載の硬化物。
[16] [1]~[15]のいずれかに記載の硬化物を含む形状記憶部材。
[17] [16]に記載の形状記憶部材を含む結紮具。
[18] [16]に記載の形状記憶部材を含む縫合糸。
[19] [16]に記載の形状記憶部材を含むウェアラブルデバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低い駆動温度と大きな変形率とを両立可能な硬化物を提供できる。また、本発明によれば、形状記憶部材、結紮具、縫合糸、及び、ウェアラブルデバイスを提供することも課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の結紮具の実施形態の一例の平面模式図である。
【
図3】結紮具を広げ硬化物の軟化点(融点付近の温度)まで加熱し、その後冷却してテンポラリー形状を固定した後、結紮対象となる生体部位に巻き付けた状態の結紮具の正面模式図である。
【
図4】生体部位がテンポラリー形状に戻った結紮具によって結紮された状態を示す正面模式図である。
【
図5】テンポラリー形状の本縫合糸をSD(Sprague-Dawley)ラットの背中の切開部に適用した状態を示す画像である。
【
図6】SDラットの背中を37℃に温めた湯を噴霧して加温したところ、本縫合糸が収縮し(パーマネント形状に戻り)、切開部が閉鎖された状態を示す画像である。
【
図7】本発明のウェアラブルデバイスの実施形態の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
(用語の定義)
本明細書において、パーマネント形状とは、内部(残留)応力が緩和された状態、言い換えれば、熱力学的に最も安定な形状を意味し、典型的には、外部から応力を与えない状態で、結晶の融解温度付近(又はそれ以上)に硬化物を加熱して、その後、室温まで冷却した際に得られる形状を意味する。
なお、結晶の融解温度とは、硬化物の示差走査熱量測定を行い、その昇温過程における吸熱ピークのピークトップの温度を意味する(複数の吸熱ピークを有する場合、最も高温側のピークのピークトップ温度とする)。融解温度付近とは、示差走査熱量測定の吸熱ピークの高温側の終端温度程度を意味する。なお、硬化物の示差走査熱量測定は、後述する実施例に記載の方法により行うものとする。
【0012】
本明細書において、テンポラリー形状とは、外部から応力を与えて変形させた状態で、結晶の融解温度付近に加熱後、結晶化温度程度(又はそれ以下)に冷却されることで、結晶化等によって一時的に変形が固定された際の形状を意味する。なお、結晶化温度とは、硬化物の示差走査熱量測定を行い、その冷却過程における発熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0013】
[硬化物]
本発明の実施形態に係る硬化物は、後述する式1で表される硬化性化合物1と、後述する式2で表される硬化性化合物2とを含む組成物を硬化させて得られる結晶性を有する硬化物である。
【0014】
上記硬化物により本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下に説明する機序は、推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の課題が解決される場合であっても、上記構成を有する部材は、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
硬化物の形状記憶能は、結晶の融解と再形成によって固定されたテンポラリー形状の硬化物を再加熱することで再び結晶が融解し、架橋点間の引き伸ばされた高分子鎖がもとの状態にもどり、パーマネント形状が再現されることで実現される。
【0016】
硬化物の結晶の融解温度は形状の遷移のトリガーとなる温度(駆動温度)である。硬化物を生体に適用し、体温(生体表面温度や生体内温度)を駆動温度とすることを企図すれば、おのずと結晶の融解温度(融点)を低下させる必要がある。
【0017】
従来、融点を低下させるには、硬化物の架橋点間の分子鎖をより短くすることが有効であると考えられてきた。
引用文献1では、上記知見に基づき、末端2官能性のポリ(ε-カプロラクトン)マクロモノマーと、末端4官能性のポリ(ε-カプロラクトン)マクロモノマーとを含む組成物を硬化させ、得られる硬化物の結晶の融解温度を42~3℃程度まで低下させることに成功している。
【0018】
しかし、本発明者らの検討によれば、架橋点間の分子鎖をより短くするという方針では、融点を低下することはできても、より大きな変形率を有する硬化物を得ることは難しいことを知見している。
一方で、変形率の向上を企図して、単に架橋点間の分子鎖を長くすると、硬化物の結晶性が高まり、結晶の融解温度、すなわち、駆動温度が高くなってしまうということもまた本発明者らは知見している。
すなわち、駆動温度の低下と、変形率の向上とはトレードオフの関係があり、両立は難しかった。
【0019】
本発明者らは、硬化物の融点を生体温度に維持しつつ、従来よりも優れた変形率を有する形状記憶部材の開発に鋭意取り組んだ。その結果、D-乳酸に由来する繰り返し単位(以下「D-乳酸単位」ともいう。)、L-乳酸に由来する繰り返し単位(以下「L-乳酸単位」ともいう。)、及び、後述する式3で表される繰り返し単位(以下「単位3」ともいう。)をいずれも有する共重合体からなる分子鎖をその構造中に含む硬化性化合物2を用いれば、架橋点間の分子鎖が長くとも、結晶構造を形成しにくいため、融点を低く維持しつつ、優れた変形率を有する硬化物が得られることを知見し、本発明を完成させた。以下では、本硬化物が有する各成分について詳述する。
【0020】
本発明の実施形態に係る硬化物(以下、「本硬化物」ともいう。)は、後述する式1で表される硬化性化合物1と、後述する式2で表される硬化性化合物2を含む組成物を硬化させて得られる結晶性を有する硬化物である。
なお、硬化物が「結晶性を有する」とは、後述する実施例に記載した方法によってDSC(示差走査熱量)測定(昇温速度5℃/分)を行った場合に、融解ピークが検出されることを意味する。
【0021】
結晶の融解ピークの温度としては特に制限されないが、31.0~48.0℃が好ましい。
なかでも、硬化物をウェアラブルデバイス、及び、縫合糸等として、体表面に接触させて駆動させる場合、融解ピーク温度は、生体表面温度を考慮して、31.0~35.0℃が好ましく、32.0~34.5℃がより好ましい。
一方、硬化物を結紮糸等として、生体内に配置又は留置して駆動させる場合、融解ピーク温度は、生体内温度を考慮して、35.0~43.0℃とすることが好ましく、35.0℃を超えて、42.0℃以下が好ましい。
【0022】
硬化物の結晶化度としては特に制限されないが、示唆走査熱量計による測定で得られる結晶化度が10.0~24.0%であることが好ましい。硬化物を生体表面で駆動させる場合、10.0~15.0%が好ましく、生体内で駆動させる場合、15.0~24.0%が好ましく、15.0~20.0%がより好ましく、下限は15.0%を超えることが更に好ましい。
【0023】
〔組成物〕
硬化物を得る方法は特に制限されないが、後述する硬化性化合物1と硬化性化合物2と、必要に応じてその他の成分とを含む組成物にエネルギーを与えて(典型的には、加熱して)、硬化させて得ることができる。以下では、硬化物の製造に用いる組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0024】
<硬化性化合物1>
硬化物の製造に用いる組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)には、以下の式1で表される硬化性化合物1が含まれる。
組成物中における硬化性化合物1の含有量としては特に制限されないが、後述する硬化性化合物2との関係では、その合計を100モル%としたとき、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、35モル%以上が更に好ましく、40モル%以上が特に好ましい。
上限は、99モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下が更に好ましく、85モル%以下が特に好ましい。
【0025】
なかでも、硬化物を生体表面で駆動させる場合、硬化性組成物1の含有量は、45~60モル%が好ましい。
また、硬化物を生体内で駆動させる場合、硬化性組成物1の含有量は、60~99モル%が好ましく、60~85モル%がより好ましい。
【0026】
【0027】
式1中、L1はポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、X1は硬化性基を有する基を表し、R1は水素原子、又は、上記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q1は2以上の整数を表し、p1は0以上の整数を表し、q1が2かつp1が0のとき、M1は単結合、又は、2価の基を表し、q1が2かつp1が1以上のとき、及び、q1が3以上のとき、M1はp1+q1価の基を表し、複数あるR1、及び、L1はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0028】
式1のL1のポリ(オキシアルキレンカルボニル)基とは、オキシアルキレンカルボニル基を繰り返し単位として有する高分子鎖からなる2価の基であり、具体的には、以下の式IIで表される基である。
【0029】
【0030】
式II中、L21はアルキレン基を表し、L21のアルキレン基の炭素数としては特に制限されないが、1~20個が好ましく、2~10個がより好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、L21としては、炭素数が2~10個のアルキレン基が更に好ましい。
【0031】
また、式II中、nは、2以上の数を表し、特に制限されないが、2~200が好ましく、2~100がより好ましく。5~50が更に好ましく、10~30が特に好ましい。
【0032】
後述するが、硬化性化合物1は環状エステルの開環重合によって調製することもできる。この場合、開環重合開始剤(例えば多価アルコール)と、モノマー(例えば、ラクトン化合物)との仕込み比によってnの数を調製できる。より具体的には、多価アルコールのヒドロキシ基1つに対して、ラクトン化合物が所望のn数反応するよう仕込めばよい。
【0033】
なお、上記nの数は、硬化物の1H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定により決定できる。
【0034】
式1に戻り、X1は硬化性基を有する基である。本明細書において、硬化性基を有する基とは、硬化性基そのもの、又は、その構造中に硬化性基を部分構造として有する原子団を意味する。
X1の硬化性基を有する基としては特に制限されないが、以下の式(III)で表される基が好ましい。
【0035】
【0036】
式III中、Zは硬化性基を表し、L3は単結合、又は、2価の基を表す。また、「*」は結合位置を表す。
L3の2価の基としては特に制限されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR20-(R20は水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基(炭素数1~10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、L3としては、単結合、又は、-O-、-C(O)-、アルキレン基、-NR20-、及び、これらの組み合わせが好ましい。
【0037】
式III中、Zの硬化性基とは、硬化反応に関与する基をいう。硬化性基としては、特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、ラジカル重合が可能な基が好ましく、エチレン性不飽和結合を有する基がより好ましい。エチレン性不飽和結合を有する基としては特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、及び、アリル基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル、及び、メタクリロイルのいずれか一方、又は、両方を意味する。
【0038】
式1に戻り、M1のp+q価の基としては、M1が2価の基である場合には、その形態は特に制限されないが、式IIIのL3の2価の基としてすでに説明した基が好ましい。
【0039】
M
1が3価以上の基である場合には、特に制限されないが、例えば、以下の式(4a)~(4d)で表される基が挙げられる。
【化4】
【0040】
式4a中、L3は3価の基を表す。T3は単結合又は2価の基を表し、3個のT3は互いに同一でも異なってもよい。
L3としては、窒素原子、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L3の具体例としては、グリセロール残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0041】
式4b中、L4は4価の基を表す。T4は単結合又は2価の基を表し、4個のT4は互いに同一でも異なってもよい。
なお、L4の好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L4の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0042】
式4c中、L5は5価の基を表す。T5は単結合又は2価の基を表し、5個のT5は互いに同一でも異なってもよい。
なお、L5の好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L5の具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0043】
式4d中、L6は6価の基を表す。T6は単結合又は2価の基を表し、6個のT6は互いに同一でも異なってもよい。
なお、L6の好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L6の具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0044】
式4a~式4d中、T3~T6で表される2価の基は、すでに説明したM1の2価の基と同様の形態であってもよく、同一でもよい。
また、M1が7価以上の基である場合には、式4a~式4dで表した基を組み合わせた基を用いることができる。
【0045】
式1に戻り、p1は0以上の整数を表し、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が更に好ましい。
また、q1は、2以上の整数を表し、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2が更に好ましい。
【0046】
式1中、R1は水素原子、又は、上記硬化性基を有さない1価の置換基を表す。
硬化性基を有さない1価の置換基としては特に制限されないが、例えば、*-L″-R′で表される基が挙げられる。
上記式中、L″は、単結合、又は、2価の基を表し、R′は、水素原子、又は、炭化水素基(直鎖状、分岐鎖状、若しくは、環状のいずれであってもよい)を表し、*は結合位置を表す。
【0047】
より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、硬化性化合物1は以下の式1Bで表される化合物が好ましい。
【0048】
【0049】
式1B中、M1Bはr1価の基であり、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1中のM1で表される基と同様である。
L1Bはポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、X1Bは硬化性基を有する基を表し、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1におけるL1、及び、X1と同様である。
【0050】
更に優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、硬化性化合物は、以下の式1Dで表される化合物が好ましい。
【0051】
【0052】
式1D中、AL2は炭素数1~20個のアルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数としては特に制限されないが、3個以上が好ましく、10個以下が好ましい。LDは炭素数1~5の炭化水素を表し、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、及び、-CH2C(CH3)2CH2-からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、-CH2CH2CH2CH2-がより好ましい。X1Dは硬化性基を有する基を表し、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1のX1で表される基と同様である。
【0053】
式1D中、wは2以上の整数を表し、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下の整数が好ましい。
【0054】
硬化性化合物1の数平均分子量としては特に制限されないが、一般に、2000~8000が好ましい。
また、硬化性化合物の分子量分布(Mw/Mn)としては特に制限されないが、一般に、1.1~1.6が好ましい。
なお、硬化性化合物1の数平均分子量、重量平均分子量は、後述する実施例に記載した方法によりGPC(Gel Permeation Chromatography)測定により求められる値を意味する。
【0055】
<硬化性化合物2>
組成物には、以下の式2で表される硬化性化合物2が含まれる。
組成物中における硬化性化合物2の含有量としては特に制限されないが、後述する硬化性化合物1との関係では、その合計を100モル%としたとき、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましく、15モル%以上が特に好ましく、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、65モル%以下が更に好ましく、60モル%以下が特に好ましい。
【0056】
なかでも、硬化物を生体表面で駆動させる場合、硬化性組成物2の含有量は、40~55モル%が好ましい。
また、硬化物を生体内で駆動させる場合、硬化性組成物2の含有量は、1~40モル%が好ましく、15~40モル%がより好ましい。
【0057】
【0058】
L2は高分子鎖を表し、上記高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、X2は式1中のX1が有するのと同一硬化性基を有する基を表し、R2は水素原子、又は、上記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q2は2以上の整数を表し、p2は0以上の整数を表し、q2が2かつp2が0のとき、M2は単結合、又は、2価の基を表し、q2が2かつp2が1以上のとき、及び、q2が3以上のとき、M2はp2+q2価の基を表し、複数あるR2、及び、L2はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0059】
式1のL2の高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含む高分子鎖である。なおL2の高分子鎖は上記以外の繰り返し単位を有していてもよく、その場合、ポリ(オキシアルキレン)基(鎖)が好ましい。
【0060】
乳酸には下記式で表されるL-乳酸とD-乳酸という2種類の光学位異性体が存在し、これらをポリエステル化することでポリ乳酸ポリマーが得られる。
【0061】
典型的には、乳酸は、以下の式のとおり環状ラクチドに変換され、開環重合されることにより、ポリマー化することができる。本明細書においては、このD-乳酸から誘導される、ポリマーの繰り返し単位を「D-乳酸に由来する繰り返し単位」、L-乳酸から誘導される、ポリマーの繰り返し単位を「L-乳酸に由来する繰り返し単位」という。
【0062】
【0063】
従って、L
2の高分子鎖は、以下の式で表されるP1の繰り返し単位(オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位)と、P2D(D-乳酸に由来する繰り返し単位)と、P2L(L-乳酸に由来する繰り返し単位)とを有する。なお、下記式中、nは、1~20の整数を表し、2~10の整数が好ましく、3~8の整数がより好ましい。
【化9】
【0064】
L2の高分子鎖におけるP1単位、P2D単位、及び、P2L単位の配列順序は特に制限されず、ランダムでも、トリブロックでも、マルチブロックでもよい。L2の高分子鎖融点をより低く制御しやすい観点では、ランダムに配列されている(ランダム共重合体である)ことが好ましい。L2の高分子鎖は、硬化物(架橋体)において、架橋点間に位置する高分子鎖となるが、この高分子鎖の繰り返し単位の配列がランダムであると、高分子鎖は規則正しい折り畳み構造や伸び切り鎖構造をとりにくく、硬化物の融点がより低くなったり、硬化物が融点を有しなくなる(結晶性を有しなく)なる。
【0065】
L2におけるP1単位、P2D単位、及び、P2L単位の含有量としては特に制限されないが、各単位の合計含有量を100モル%としたとき、P1単位は、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましく、40モル%以上が特に好ましく、50モル%以上が最も好ましく、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。
また、P2D単位、及び、P2L単位は、それぞれ、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましく、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましい。
【0066】
高分子鎖におけるP1単位、P2D単位、及び、P2L単位の繰り返し数としては特に制限されないが、硬化物の変形率がより大きくなりやすい観点では、繰り返し数が10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上が更に好ましく、200以下が好ましく、100以下がより好ましく、70以下が更に好ましい。
【0067】
式2に戻り、X2は硬化性基を有する基である。X2が有する硬化性基は、式1におけるX1が有する硬化性基と同一である。また、X2の基の具体例は、X1の基と同一であり、好適形態も同様である。
また、R2の1価の置換基も、式1におけるR1の1価の置換基と同様のものが挙げられ、好適形態も同様である。
また、M2の2価の基、及び、3価以上の基も、式1におけるM1の2価の基、及び、3価以上の基とそれぞれ同様のものが挙げられ、好適形態も同様である。
【0068】
式2中、p2は0以上の整数を表し、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が更に好ましい。
また、q2は、2以上の整数を表し、3以上が好ましく、8以下が好ましく、6以下がより好ましい。
【0069】
より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、硬化性化合物2は以下の式1Cで表される化合物が好ましい。
【0070】
【0071】
式1C中、M1Cは、r2価の基であり、L1Cは高分子鎖を表し、高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み(更にポリ(オキシアルキレン)基を含んでもよく)、X1Cは、式1BにおけるX1Bが有するのと同一の硬化性基を有する基を表し、r2は2以上の整数を表し、複数あるL1Cはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0072】
ここで、L1Cの高分子鎖、M1Cの2価、又は、3価以上の基、X1Cの硬化性基は、それぞれ、式2におけるL2の高分子鎖、M2の2価、又は、3価以上の基、X2の硬化性基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
r2は、2以上の整数が好ましく、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。r2が上記数値範囲内であると、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる。
【0073】
より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる観点で、硬化性化合物2は以下の式1Eで表される化合物が好ましい。
【0074】
【0075】
式1E中、L1Eaは、高分子鎖を表し、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、L1Ebは、単結合、又は、ポリ(オキシアルキレン)基(鎖)からなる高分子鎖を表し、X1Eは式1DにおけるX1Dが有するのと同一の硬化性基を有する基を表す。
【0076】
ここで、L1Eの高分子鎖、及び、X1Eの硬化性基を有する基は、それぞれ、式2におけるL2の高分子鎖、及び、X2の硬化性基を有する基と同様の基が挙げられ好適形態も同様である。
【0077】
硬化物がより低い融点とより高い変形率を両立できる観点で、以下の方法により準備される試験体が結晶性を有しないことが好ましい。
【0078】
試験体の準備方法:硬化性化合物2の500mgと、過酸化ベンゾイルの15mgと、キシレンの695μLとを混合して得られる組成物を80℃に加熱して重合させ、得られた重合体をアセトンで洗浄し、メタノール中で収縮させた後、減圧乾燥させて試験体を得る。
【0079】
硬化性化合物2の数平均分子量としては特に制限されないが、一般に、8000~40000が好ましい。また、硬化性化合物の分子量分布(Mw/Mn)としては特に制限されないが、一般に、1.10~1.80が好ましい。
なお、硬化性化合物2の数平均分子量、重量平均分子量は、後述する実施例に記載した方法によりGPC(Gel Permeation Chromatography)測定により求められる値を意味する。
【0080】
<硬化性化合物の製造方法>
次に、硬化性化合物1、及び、硬化性化合物2(あわせて、単に「硬化性化合物」ともいう。)の製造方法について説明する。
硬化性化合物の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に硬化性化合物が得られる点で、環状化合物を開環重合して得られた前駆体化合物に、硬化性基を有する基を導入して得る方法が好ましい。
【0081】
環状化合物としては公知の環状化合物を使用することができ、特に制限されないが、加水分解によって開環し得るものが好ましく、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-オクタノイックラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトン、α-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン、及び、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン化合物);グリコリド、及び、ラクチド等の環状ジエステル;等が挙げられる。
【0082】
なかでも、開環重合の反応性が良好である点で、環状化合物としては、ラクトン化合物またはラクチドが好ましく、ラクトン化合物としては、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、及び、ε-パルミトラクトンからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0083】
また、特に硬化性化合物2の合成には、ラクチドを用いることができ、このラクチドとしては、2分子のL-乳酸が脱水縮合して形成されるL-ラクチド(LLラクチド)、2分子のD-乳酸が脱水縮合して形成されるD-ラクチド(DDラクチド)、及び、1分子のL-乳酸と1分子のD-乳酸が脱水縮合して形成されるメソラクチド、並びに、D-ラクチドとL-ラクチドの等量混合物であるDL-ラクチド(ラセミラクチド)等が挙げられる。得られる硬化物の融点がより低くなりやすい点では、DL-ラクチドが好ましい。
【0084】
環状化合物を開環重合して前駆体化合物を得る方法としては特に制限されないが、金属触媒の存在下、アルコールを開始剤として開環重合する方法が挙げられる。
【0085】
・金属触媒
金属触媒としては特に制限されないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、及び、アンチモン等の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、及び、アルコラート等が挙げられる。
より具体的には、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第二スズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ(Tin (II)-ethylhexanoate)、ステアリン酸スズ、テトラフェニルスズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズブトキシド、酸化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-イミン錯体、四塩化チタン、チタン酸エチル、チタン酸ブチル、チタン酸グリコール、チタンテトラブトキシド、塩化亜鉛、酸化亜鉛、ジエチル亜鉛、三酸化アンチモン、三臭化アンチモン、酢酸アンチモン、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、酸化マグネシウム、及び、イットリウムアルコキシド等の化合物が挙げられる。
【0086】
金属触媒の使用量は金属触媒中の金属元素に換算して、環状化合物1モル当たり0.01×10-4~100×10-4モル程度が好ましい。
【0087】
・開始剤
開始剤としては特に制限されないが、1価又は2価以上のアルコールが挙げられる。
【0088】
1価のアルコールとしては特に制限されないが、RIN-OHで表されるアルコールが挙げられ、RINは、置換基を有していてもよい炭素数1~20個の脂肪族炭化水素基を表す。
脂肪族炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数1~20個のアルキル基等が挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、n-デシルアルコール、n-ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラウリルアルコール、エチルラクテート、及び、ヘキシルラクテート等が挙げられる。
【0089】
また、2価以上のアルコール(多価アルコール)としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセロール、及び、ペンタエリスリトールエトキシラート等が挙げられる。
【0090】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、2価のアルコール又は4価のアルコールが好ましく、2価のアルコールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及び、ネオペンチルグリコールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
また、4価のアルコールとしては、ペンタエリスリトール、及び、ペンタエリスリトールエトキシラート等が好ましい。
開始剤の使用量は、特に制限されないが、環状化合物1モル当たり、好ましくは0.0001~0.1モル程度が好ましい。
【0091】
・開環重合
開環重合は、環状化合物の揮散を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。重合温度は、特に制限されないが、100~250℃が好ましい。
重合時間としては特に制限されないが、0.1~48時間程度が好ましい。
【0092】
・硬化性基の導入
環状化合物の開環重合で得られた前駆体化合物に硬化性基を導入する方法としては特に制限されないが、例えば、前駆体化合物が有するヒドロキシ基に対して反応性を示す置換基、及び、硬化性基の両方を有する化合物を反応させる方法(イ)、並びに、前駆体化合物が有するヒドロキシ基を他の官能基に置換し、この置換基に対して反応性を示す官能基、及び、硬化性基の両方を有する化合物を反応させる方法(ロ)等が挙げられる。なかでも、より簡便に硬化性化合物(マクロモノマー)が得られる点で、(イ)の方法が好ましい。
【0093】
上記(イ)の方法で、前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させる化合物としては、特に制限されないが、例えば、硬化性基が(メタ)アクリロイル基である場合、塩化(メタ)アクリル酸、及び、臭化(メタ)アクリル酸等の不飽和酸ハロゲン化合物類等が挙げられる。
前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させる化合物の使用量としては、特に制限されないが、ヒドロキシ基に対し、0.1~20モル当量程度が好ましい。
【0094】
組成物は、上述のとおりの方法で得られる硬化性化合物1と、硬化性化合物2を含んでいれば、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、硬化剤、及び、溶媒が挙げられる。
【0095】
<硬化剤>
硬化剤は、硬化性化合物に作用して、硬化反応を起こさせる機能を有する化合物である。
硬化剤としては、特に制限されず、公知の化合物が使用でき、典型的にはラジカル重合開始剤が好ましい。硬化剤としては、熱エネルギーの付与により硬化反応が進行する熱硬化剤、及び/又は、光照射(光エネルギーの付与)により硬化反応が進行する光硬化剤が使用できる。
【0096】
熱硬化剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、及び、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。
光硬化剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、キサントン、及び、チオキサントン等の芳香族ケトン化合物;2-エチルアントラキノン等のキノン化合物;アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、及び、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン化合物;メチルベンゾイルホルメート等のジケトン化合物;1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム等のアシルオキシムエステル化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物;テトラメチルチウラム、及び、ジチオカーバメート等のイオウ化合物;過酸化ベンゾイル等の有機化酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;有機スルフォニウム塩化合物;ヨードニウム塩化合物;フォスフォニウム化合物;等が挙げられる。
【0097】
組成物中における硬化剤の含有量は、組成物中の硬化性化合物の全質量に対して、0.001~10質量%が好ましい。なお、組成物は、硬化剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の硬化剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0098】
<溶媒>
組成物は、溶媒を含有していてもよい。組成物が含有する溶媒としては特に制限されないが、硬化性化合物、及び、硬化剤を溶解、及び/又は、分散させ得るものであって、硬化反応中に蒸発しにくい溶媒を選択すればよい。
例えば、硬化剤として過酸化ベンゾイル(BPO)を用いる場合、硬化反応の温度は80℃程度となるため、沸点が硬化反応の温度以上となる溶媒が好ましい。このような溶媒を用いると、硬化反応中の溶媒の蒸発がより抑制できるので、気泡の混入がより少ない硬化物が得られやすい。このような溶媒としては例えば、キシレン、酢酸ブチル、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、及び、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0099】
一方、硬化剤として光硬化剤を用いる場合、硬化反応の温度は熱硬化剤を用いる場合よりも一般に低いため、より沸点の低い溶媒を用いても、気泡の混入がより少ない硬化物が得られる。溶媒としては例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、及び、アセトン等が使用できる。
【0100】
組成物中における溶媒の含有量としては特に制限されないが、組成物が溶媒を含有する場合、組成物の全質量を100質量%としたとき、10~90質量%が好ましい。なお、組成物は、溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0101】
〔硬化物の製造方法〕
硬化物の製造方法としては特に制限されず、上記各成分を混合して組成物を得て、組成物にエネルギーを与えて、硬化性化合物を硬化させればよい。
なかでも、更に優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、硬化物の製造方法は、以下の各工程を有することが好ましい。
【0102】
・硬化工程:硬化性化合物と、硬化剤と、を含む組成物にエネルギーを与えて硬化性化合物を硬化させ硬化物を得る工程。
更に、部材の製造方法は以下の工程を有していてもよい。
・乾燥工程:硬化物を乾燥させ、溶媒の少なくとも一部を除去する工程。
【0103】
硬化工程は、硬化性化合物と、硬化剤と、を含有する組成物にエネルギーを与えて、組成物を硬化させる工程である。与えるエネルギーの種類は硬化剤の種類によって適宜選択されればよく、加熱、及び/又は、光照射が好ましい。
【0104】
エネルギーを与える方法としては特に制限されないが、例えば、支持体上に組成物を塗布し、組成物層を形成したうえで、組成物層に光照射、及び/又は、組成物層を加熱し、フィルム状の硬化物を得る方法が挙げられる。
なお、加熱温度・時間、及び、光照射の強度等は、部材の形状、及び、硬化剤の種類等によって適宜選択されればよい。
より具体的には、加熱の温度としては、例えば、40~200℃であってもよい。また、加熱の時間としては、例えば、1分~24時間であってもよい。
【0105】
乾燥工程は、硬化物を乾燥させて、硬化物に含有される溶媒の少なくとも一部を除去する工程である。乾燥の方法は特に制限されず、例えば、20~50℃で、1分~24時間静置する方法、及び、減圧下で保持する方法等が挙げられる。なお、乾燥条件は、硬化物の形状、及び、厚み等によって適宜選択されればよい。
【0106】
なお、本硬化物の大きさ、及び、形状は特に制限されない。用途に応じて適宜定めればよい。本硬化物は、形状記憶能を有し、その駆動温度がより低く、かつ、優れた変形率を有するため、結紮具、及び、縫合糸等の医療器具等に適用できる。また、本硬化物は、形状記憶能を活かし、膜として用いることもできる。例えば、基材と、基材上に配置された接着剤層とを有する接着テープの基材をこの膜とすれば、医療用のテープとして好ましく使用可能である。
【0107】
〔硬化物の使用方法〕
本硬化物の使用方法としては特に制限されないが、上述したとおり、本硬化物は形状記憶能を有する。そのため、本硬化物を応力下で軟化点(結晶の融解温度付近の温度)まで加熱し、冷却することで、テンポラリー形状を固定できる。その後、テンポラリー形状の部材を軟化点まで再加熱すると、パーマネント形状に戻る。
【0108】
[結紮具]
結紮具は、腫瘍、及び、ポリープ等の生体隆起部を結紮して血流を遮断したり、生体隆起部を除去したりするのに用いられる器具である。
本結紮具は、形状記憶能を有する硬化物を備えるため、加温(例えば、体温による加温)によって収縮し、所望の締め付け力を安定して得ることができる。
【0109】
本発明に係る結紮具について、
図1~4を用いて説明する。
図1は、本発明の結紮具の実施形態の一例の平面模式図であり、
図2は、結紮具の正面模式図である。結紮具100はリング状であり、結紮対象部位の結紮時の断面半径に応じた内径となっている。
なお、結紮具の大きさ、及び、形状等は上記に制限されず、結紮対象部位に応じて適宜変更可能である。
【0110】
図3は、結紮具100を広げ硬化物の軟化点(融点付近の温度)まで加熱し、その後冷却してテンポラリー形状を固定した後、結紮対象となる生体部位101に巻き付けた状態の結紮具100の正面模式図である。
結紮具100は、テンポラリー形状のため、生体部位101により(体温で)加熱されて、又は、必要に応じて加熱することでテンポラリー形状に戻る。すなわち、広げる前の形状に戻る。
【0111】
図4は、生体部位101がテンポラリー形状に戻った結紮具100によって結紮された状態を示す正面模式図である。
本結紮具によれば、簡単な操作で(特別な手技を必要とせずに)対象部位を予め設計した締め付け力で締め付けることができる。
【0112】
[縫合糸]
本発明の縫合糸は、本硬化物を含む縫合糸である。縫合糸は、外科手術等の際に、血管を縛ったり、切開した組織や皮膚を縫合するために用いられる糸状の器具である。
【0113】
本縫合糸は、形状記憶能を有する硬化物を含むため、応力を与えて引き伸ばしたテンポラリー形状とした後、縫合対象部分に適用すると、体温により、又は、加温によりパーマネント形状に戻り、すなわち収縮するため、簡単に対象部分を縫合することができる。
【0114】
図5はテンポラリー形状の本縫合糸をSD(Sprague-Dawley)ラットの背中の切開部に適用した状態を示す画像である。画像中、黒く見える糸状の部材が本縫合糸である。
図6は、SDラットの背中を37℃に温めた湯を噴霧して加温したところ、本縫合糸が収縮し(パーマネント形状に戻り)、切開部が閉鎖された状態を示す画像である。
上記のとおり、本縫合糸を用いると、特別な手技を必要とすることなく、簡便に対象部位を縫合できる。
【0115】
[ウェアラブルデバイス]
図6は、本発明のウェアラブルデバイスの実施形態の一例である。ウェアラブルデバイス60は、本体61と、本体61を使用者の身体に保持するための保持部62とを有し、上記保持部62がすでに説明した硬化物を有するウェアラブルデバイスである。
ウェアラブルデバイス60は保持部62によって使用者63の腕に保持されている。
【0116】
本体61は時刻表示ユニットであるが、本発明の実施形態に係るウェアラブルデバイスとしては上記に制限されない。例えば、スマートフォン等の通信機器、及び、使用者の生体情報(脈拍、血圧、体温、及び、皮膚電位等のバイタル・データ)の測定装置等であってもよい。
【0117】
保持部62はすでに説明した硬化物により形成されたフィルムを筒状に成形したものであるが、本発明の実施形態に係るウェアラブルデバイスが有する保持部としては上記に制限されず、硬化物を有していればよく、例えば、支持体と、上記支持体の少なくとも一方の主面に形成された硬化物層とを有する積層体等であってもよい。
【0118】
上記組成物の硬化物は、生体表面の温度を駆動温度とする硬化物が好ましく、具体的には、結晶の融解ピーク温度が、31.0~35.0℃であることが好ましい。
例えば、保持部62はリストバンドであるが、リストバンドを加熱して引き伸ばした状態で冷却し、腕に通る程度の内径に変形させたうえで、腕に装着すると、体温により再び温められ、リストバンドが収縮し、使用者の腕にぴったりと合う内径に変化する。また、取り外す際は、すでにリストバンドは軟化温度以上まで加熱された状態であるため、これを引き伸ばすことで、その部分が室温(例えば、25℃)まで冷却され、ひずみが固定されて、リストバンドの内径がより大きい状態で固定される。このような状態になれば、使用者の腕からリストバンドをとり外すことができる。
上記によれば、使用者の体形等によって複数の長さのリストバンドを準備したり、リストバンドに長さ調整機能を付加したりしなくても、使用者の体形等にぴったりとフィットしたウェアラブルデバイスを提供できる。
【実施例0119】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0120】
[硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)の合成]
下記スキームに基づき、硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)を合成した。
まず初めに、2価の開環重合開始剤である1,4-butanediol(2.21mL、0.025mol)とε-caprolactone(CL)(105.6mL、1mol)、触媒であるTin(II)-2 ethylhexanoate 0.2mLを丸底フラスコに加え、窒素雰囲気下で120℃、24時間反応させた。
【0121】
その後、反応物をhexaneとdiethyl etherの1:1体積比の混合溶媒に再沈殿させ、減圧乾燥することによって、2分岐20量体PCL(以下「2b20PCL」ともいう。)を得た。
【0122】
次に、回収した2b20PCL(50g、0.011mol)の末端基に対して、acryloyl chlorideを10倍量(17.7mL、0.055mol)、triethylamineを11倍量(33.2mL、0.060mol)加え、72時間反応させた。その後、methanol中に再沈殿させて精製を行い、減圧乾燥することで,2b20PCLのマクロモノマーである、硬化性化合物A(PCL macromonomer)を回収した。
【0123】
【0124】
なお、「2b20PCL」の分子量、及び、オキシアルキレンカルボニル基の繰り返し数はGPC、及び、1H-NMRによって求めた。試験条件は以下のとおりである。
GPCの結果から求めた2b20PCLの数平均分子量は3700で、Mw/Mnは1.23だった。
【0125】
・GPC測定条件
測定装置: (東ソー)HLC―8220GPC
検出器:示差屈折率(RI)検出器
使用カラム:「Shodex(商標)」GPC LF―804(80mmI.D.×300mm×2本)
カラム温度:40℃
溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)、流速0.5mL/分
試料:DMFに、0.2質量%で溶解させ、0.45μmのメンブレンフィルタでろ過
分子量標準ポリマー:ポリスチレン(分子量=1970、3930、7920、12140、及び、21030)、0.1質量%
【0126】
・NMR測定条件
測定装置:400MHz NMR(JEOL社製)
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl3)
試料濃度:~30mg/mL(3mass/vol%)
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)
測定手法:1H測定 共鳴周波数400MHz
観測スペクトル幅:0ppm~10ppm
積算回数:128回
測定温度:室温(20~25℃)℃
【0127】
[硬化性化合物2(4b50P(CL-co-DLLA))の合成]
下記スキームに基づき、硬化性化合物2(CLとd,l-Lactide(DLLA)からなる共重合体)の合成を行った。
まず初めに4価の開環重合開始剤であるpentaerythritol(343mg、0.005mol)とε-caprolactone(32mL、0.3mol)、DLLA(14.5g、0.2mol)、触媒であるTin(II)2-ethylhexanoate 0.2mLを丸底フラスコに加え、窒素雰囲気下で140℃、24時間反応させ,4分岐50量体P(CL-co-DLLA)を得た。以下では、これを「4b50P(CL-co-DLLA)」ともいう。
【0128】
その後、末端基に対して、acryloyl chlorideを10倍量、triethylamineを11倍量加え、72時間反応させた。その後、methanol中に再沈殿させて精製を行い、減圧乾燥することで,4b50P(CL-co-DLLA)のマクロモノマーである、硬化性化合物2(4b50P(CL-co-DLLA)macromonomer)を回収した。なお、下記スキーム中、m:nはモル比で6:4である。
【0129】
なお、4b50P(CL-co-DLLA)のGPCで測定した数平均分子量は9900、Mw/Mnは1.44だった。
【0130】
【0131】
[硬化物の調製]
硬化性化合物1と硬化性化合物2とを用いて、組成物を調製し、加熱して硬化させ、硬化物を得た。表1は、組成物の配合である。
硬化性化合物1及び2の合計で500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてbenzoyl peroxideの15mg(硬化性化合物の合計に3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を得た。
【0132】
次に、この組成物をガラス基板に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサーを介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、硬化させた。
得られた硬化物はアセトンで十分に洗浄後、メタノール中で収縮させた後、減圧乾燥(オーバーナイト)させた。
【0133】
[DSC測定]
得られた硬化物の結晶の融解ピーク温度、及び、結晶化度を測定するために、DSC測定を行った。DSC測定は、エスアイアイ社製、「X-DSC 7000」;熱流束型)示差走査熱量分析計を用いて行った。試験条件は下記のとおりである。
【0134】
測定容器:アルミニウム製サンプルパン(φ6.8mm)
試料量・サイズ:サンプル量は約10mgとし、上記サンプルパンに入るように切断して使用した。
【0135】
開始温度: 0℃
昇温速度: 5℃/min
終了温度: 120℃
【0136】
まず、各試料(硬化物)を室温から120℃まで加熱し、120℃に達したら、今度は-5℃まで冷却した。次に、試料の温度が-5℃に達した後、今度は5℃/minの速度で0℃~120℃まで昇温させ、このDSC曲線を取得した。
【0137】
表1には、得られたDSC曲線から読み取った結晶の融解ピーク温度(Tm)と、結晶化度が示されている。結晶化度は、吸熱ピーク面積から、エンタルピー(ΔH)を算出し、(結晶化度)=(ΔH/142)×100として計算した。
なお、それぞれの値は小数点以下2桁まで求めて、四捨五入した。
【0138】
[弾性率の測定]
弾性率は、引張試験で応力-ひずみ曲線を求め、線形部分から算出した。試験片は、長さ17.5±2.5mm、幅5.00±0.90mm、厚み0.14±0.30mmのシート状とし、試験は室温で、引張速度は5mm/分とした。なお、それぞれの値は小数点以下2桁まで求めて、四捨五入した。
【0139】
なお、弾性率の値が低いほど、同じ力を与えた際の変形量が大きくなりやすい。また、破断ひずみの値が大きいほど、より大きな変形を受けても硬化物が破断しにくい。上記のことから、より小さい弾性率と、より大きい破断ひずみを併せ持つ硬化物は、形状記憶材料としてより大きい変形率を有する。
なお、表1中「比」とあるのは、組成物中における硬化性化合物1と硬化性化合物2の含有量に対する硬化性化合物2の含有量のモル基準の比([硬化性化合物2]/[硬化性化合物1+硬化性化合物2])を表している。
また、表1中「-」とあるのは、データが存在しない(結晶性が無く、融点が存在しない)ことを表す。
【0140】
【0141】
表1の結果から、硬化性組成物1と硬化性組成物2とを有する組成物を硬化させて得られた硬化物は、いずれも結晶性を有し、小さい弾性率と、大きい破断ひずみを有しており、形状記憶材料として大きい変形率を有していた。
一方、硬化性組成物1のみを含有する組成物を硬化させて得られた例1Cの硬化物は、弾性率が大きく、形状記憶材料としての変形率は大きくなかった。
また、硬化性組成物2のみを含有する組成物を硬化させて得られた例2Cの硬化物は、結晶性を有しておらず、形状記憶能が発揮されなかった。
【0142】
上記比が0.15~0.40である例4の組成物の硬化物は、例1の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより高く、例5の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、その温度も35.0~43.0℃であり、生体内で駆動させる用途(結紮具等)により適していた。
【0143】
また、上記比が0.40~0.55である例1の組成物の硬化物は、例2の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、また、その温度も32.0~35.0℃であり、生体表面で駆動させる用途(ウェアラブルデバイス、及び、縫合糸等)により適していた。
【0144】
また、結晶化度が、10.0~15.0%である、例1の組成物の硬化物は、例2の組成物の硬化物と例2の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、また、その温度も32.0~35.0℃であり、生体表面で駆動させる用途(ウェアラブルデバイス、及び、縫合糸等)により適していた。
【0145】
また、結晶化度が、15.0~20.0%である、例4の組成物の硬化物は、例1の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより高く、例5の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、その温度も35.0~43.0℃であり、生体内で駆動させる用途(結紮具等)により適していた。
本硬化物は、形状記憶能を有し、その駆動温度がより低く、かつ、優れた変形率を有するため、結紮具、及び、縫合糸等の医療器具等に適用できる。また、本硬化物は、形状記憶能を活かし、膜として用いることもできる。例えば、基材と、基材上に配置された接着剤層とを有する接着テープの基材をこの膜とすれば、医療用のテープとして好ましく使用可能である。