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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153693
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】センサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/07 20060101AFI20221005BHJP
   G01R 31/28 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01R33/07
G01R31/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056349
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】挽地 友生
【テーマコード(参考)】
2G017
2G132
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AD53
2G017BA05
2G017BA15
2G132AK20
(57)【要約】
【課題】スイッチング特性の再現性改善と平均消費電流の削減とを両立可能なセンサ装置を提供する。
【解決手段】センサ装置1は、所定の物理量を電気信号に変換するセンサ素子と、センサ素子に駆動信号を供給する駆動回路20と、センサ素子から出力される電気信号を2値化した2値結果信号31を出力する処理回路30と、2値結果信号31を複数回取り込み、所定の論理判定処理を行う判定回路60と、判定回路60の出力信号を取り込むラッチ回路70と、出力端子80と、駆動回路20又は処理回路30のうち少なくとも一方を、動作電流が供給される動作期間と、動作電流が遮断される休止期間とを、所定の周期で繰り返すよう間欠制御する制御信号を出力する制御回路50とを備え、前記動作期間に前記所定の判定処理が実行され、前記動作期間の途中で判定回路60の出力論理が切り替わらないことが確定した際に、前記動作期間を中断して休止期間に遷移する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の物理量を電気信号に変換するセンサ素子と、
前記センサ素子に駆動信号を供給する駆動回路と、
前記センサ素子から出力される前記電気信号を2値化した2値結果信号を出力する処理回路と、
前記2値結果信号を複数回取り込み、所定の論理判定処理を行う判定回路と、
前記判定回路の2値出力信号を取り込むラッチ回路と、
前記駆動回路及び前記処理回路のうち少なくとも一方を、動作電流が供給される動作期間と、動作電流が遮断される休止期間とを、所定の周期で繰り返すよう間欠制御する制御信号を出力する制御回路と、を備え、
前記動作期間に前記所定の判定処理が実行され、前記動作期間の途中で前記判定回路の出力論理が切り替わらないことが確定した際に、前記動作期間を中断し、前記休止期間に遷移することを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
前記所定の論理判定処理は、全回一致判定処理であることを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記所定の論理判定処理は、多数決判定処理であることを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記センサ素子は、磁気センサ素子であることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のセンサ装置。
【請求項5】
前記磁気センサ素子は、ホール素子であることを特徴とする請求項4に記載のセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホール素子は、磁気センサとして非接触での位置や角度の検出が可能であることから様々な用途に用いられている。ホール素子の用途の一例としては、磁気スイッチがある。磁気スイッチは、例えば、ホール素子と、増幅器や比較器を含む周辺回路とを有し、ホール素子及び周辺回路が半導体チップの上に集積化されて形成されている。磁気スイッチは、磁気の検出方法に着目した分類として、S極とN極との両極の磁界を検出可能な両極磁界検出型や、時間経過と共にS極とN極とが交互に変わる交番磁界を検出可能な交番磁界検出型があることが知られている。
【0003】
一般にセンサ素子は熱雑音に代表される雑音を内在する。雑音に起因する動作点や復帰点(磁電変換スイッチング特性)の再現性が低く、揺らぎが大きい場合、機構の検出位置に代表される被検出量の揺らぎに繋がる。被検出量の揺らぎを低減させて、センサ素子の検出精度を高めるため、センサ出力を多数回読み込んで判定処理を行う技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、一般にセンサ素子は、感度を高くして信号(S)レベルを上げるとともに上述の雑音(N)レベルを下げて良好なS/N比(信号対雑音比)を得るためには、多くの駆動電流を必要とする。一方でセンサ装置がバッテリ駆動の携帯機器に搭載されるような場合、低消費電流であることが求められる。そこで、センサ装置全体としての平均消費電流を削減するために、検出動作を行う短い動作期間(アウェイク期間)と、計時動作のみを行う長い休止期間(スリープ期間)とを交互に反復する間欠駆動技術が広く用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3―252526号公報
【特許文献2】特開2018-36252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるような多数回判定技術を、特許文献2に記載されるような間欠駆動技術と組み合わせた場合、(単位信号処理期間)×(判定回数)で規定されるより長い動作期間が必要となる。動作期間が長くなるほど、駆動周期全体に対する動作期間の割合、すなわちデューティ比を増大させ、平均消費電流削減の効果を弱めてしまう。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑み、スイッチング特性の再現性改善と間欠駆動による平均消費電流の削減とを両立可能なセンサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセンサ装置は、所定の物理量を電気信号に変換するセンサ素子と、前記センサ素子に駆動信号を供給する駆動回路と、前記センサ素子から出力される前記電気信号を2値化した2値結果信号を出力する処理回路と、前記2値結果信号を複数回取り込み、所定の論理判定処理を行う判定回路と、前記判定回路の2値出力信号を取り込むラッチ回路と、前記駆動回路及び前記処理回路のうち少なくとも一方を、動作電流が供給される動作期間と、動作電流が遮断される休止期間とを、所定の周期で繰り返すよう間欠制御する制御信号を出力する制御回路と、を備え、前記動作期間に前記所定の判定処理が実行され、前記動作期間の途中で前記判定回路の出力論理が切り替わらないことが確定した際に、前記動作期間を中断し、前記休止期間に遷移することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スイッチング特性の再現性改善と間欠駆動による平均消費電流の削減を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るセンサ装置のブロック図である。
図2】(a)は本実施形態に係るセンサ装置の印加磁束密度に対する増幅信号及び比較基準電圧の関係を示す関係図、(b)及び(c)は、それぞれ、VOUT=“H”及びVOUT=“L”の場合における、本実施形態に係るセンサ装置の印加磁束密度に対する処理回路の出力電圧を示す関係図、(d)は本実施形態に係るセンサ装置の印加磁束密度に対するラッチ回路の出力電圧を示す関係図である。
図3】本実施形態に係るセンサ装置の弱磁場⇒強磁場⇒弱磁場で遷移する場合のタイミング図である。
図4】本実施形態に係るセンサ装置の弱磁場⇒動作点にほぼ等しい印加磁束密度が印加された場合のタイミング図である。
図5】(a)乃至(c)は本発明の実施形態に係るセンサ装置における印加磁束密度対平均消費電流の関係を示す関係図、(d)は従来技術のセンサ装置における印加磁束密度対平均消費電流の関係を示す関係図である。
図6】(a)は本実施形態に係るセンサ装置における一致判定回数に対する動作点及び復帰点の再現性の関係を示す関係図、(b)は本実施形態に係るセンサ装置における一致判定回数に対する平均消費電流の関係を示す関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るセンサ装置を、図面を参照して説明する。実施形態に係るセンサ装置は、半導体基板に設けられた磁気スイッチを備えている。なお、説明に際し、半導体基板に作用する磁束密度からアナログ信号への変換特性を「磁電変換特性」と呼称し、当該磁束密度から論理信号への変換特性を「磁電変換スイッチング特性」と呼称する。また、乗算記号として「*」を用いて表記する。例えば、後述する「A*VSIG」は、AとVSIGとの積を意味している。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るセンサ装置1の構成例を示す概略図である。
センサ装置1は、半導体基板2に設けられている。センサ装置1は、ホール素子10、駆動回路20、処理回路30、制御回路50、判定回路60、ラッチ回路70、出力端子80を備えている。
【0013】
ホール素子10は、ホール素子駆動電流IDRVと、半導体基板2に対して垂直方向に印加される磁束密度(以下、「印加磁束密度」とする)Bとに比例するホール素子出力信号VSIGを出力する磁気検出可能なセンサ素子、すなわち磁気センサ素子である。
【0014】
駆動回路20は、センサ素子としてのホール素子10に、駆動信号としてのホール素子駆動電流IDRVを供給する回路である。駆動回路20は、入力された駆動制御信号51の論理値に応じてホール素子10を駆動するホール素子駆動電流IDRVをオン/オフ制御するように構成される。ここで、ホール素子駆動電流IDRVを供給する、すなわちオンした状態を「駆動回路20の動作状態」と呼称し、ホール素子駆動電流IDRVを供給しない、すなわちオフした状態を「駆動回路20の休止状態」と呼称する。
【0015】
処理回路30は、入力された駆動制御信号51の論理値に応じて、動作状態/休止状態が切り換えられるように構成される。処理回路30は、例えば、入力される電気信号としてのホール素子出力信号VSIGを増幅する増幅器と、増幅されたホール素子出力信号VSIGと基準電圧との大小関係に応じた2値結果信号31を出力する比較器と、を有して構成されている。
【0016】
処理回路30は、動作状態においては、入力されるホール素子出力信号VSIGを増幅率A(A>0)倍に増幅して所定の基準電圧と比較することによって、印加磁束密度Bの大小を判定し、判定結果を示す2値結果信号31を出力するように構成される。所定の基準電圧は、出力論理信号71に応じて、互いに異なる2個の基準電圧の何れか一方、すなわち第1の基準電圧又は第2の基準電圧(≠第1の基準電圧)に切り換えられ、いわゆるヒステリシス特性を備えるように構成される。また、処理回路30は、休止状態においては、その増幅及び比較動作に必要となる動作電流を遮断して消費電流を削減するとともに、印加磁束密度Bの大小に関わらず、2値結果信号31はローレベル(VOUT=“L”)を出力するように構成される。
【0017】
制御回路50は、ラッチ回路70から出力される出力論理信号71の論理値に応じて、制御信号としての駆動制御信号51を出力し、駆動回路20及び処理回路30を、動作状態又は休止状態に切り換えるとともに、判定回路60が動作期間中に2値結果信号31を複数回取り込むためのレジスタクロック信号52及び動作期間から休止期間への遷移時にラッチ回路70が多数回判定の結果を示す判定結果信号61を取り込むためのラッチクロック信号53を出力するように構成される。
【0018】
判定回路60は、レジスタクロック信号52に同期して2値結果信号31をシリアルデータとして取り込み、所定の多数回判定処理を行い、多数回判定処理の結果を示す2値出力信号としての判定結果信号61を出力するように構成される。本実施形態において、所定の多数回判定処理は、全回一致判定処理を用いている。後述する全回一致判定処理は、2値結果信号31を4回以上取り込み、4回連続で判定結果が一致した場合に検出状態と解除状態とを遷移させる例である。
【0019】
ラッチ回路70は、ラッチクロック信号53に同期して判定結果信号61をラッチし、出力論理信号71である電圧VOUTを出力するように構成される。電圧VOUTは、出力端子80へ供給されるとともに、処理回路30及び制御回路50へそれぞれ供給(フィードバック)される。
【0020】
続いて、本発明の実施形態に係るセンサ装置1の磁電変換特性について、図を用いて説明する。
【0021】
図2(a)~図2(d)は、センサ装置1の磁電変換特性を示す磁電変換特性図である。詳細に説明すれば、図2(a)は印加磁束密度Bに対する、処理回路30内部の増幅信号(A*VSIG)、比較基準電圧VBOP及び比較基準電圧VBRPの関係を示す関係図である。
【0022】
増幅信号(A*VSIG)は、印加磁束密度Bに対して比例関係を有している。ここで、磁電変換特性における動作点となる印加磁束密度Bを動作点BOP、磁電変換特性における復帰点となる印加磁束密度Bを復帰点BRPと定義する。この場合、動作点BOP、復帰点BRPにおける増幅信号(A*VSIG)は、それぞれ、比較基準電圧VBOP、VBRPである。動作点BOPと復帰点BRPとの差はヒステリシス幅BHYS、比較基準電圧VBOPと比較基準電圧VBRPとの差は、比較基準ヒステリシス電圧VBHYSである。
【0023】
図2(b)は、電圧VOUTがハイレベル(VOUT=“H”)の場合の印加磁束密度Bに対する2値結果信号31である電圧VCMPを示している。B<BOPのときVCMP=“L”、B>BOPのとき、電圧VCMPはハイレベル(VCMP=“H”)となる。この磁電変換特性自体は動作点BOP一点のみを閾値としており、ヒステリシス特性を有しない。
【0024】
図2(c)は、電圧VOUTがローレベル(VOUT=“L”)の場合の印加磁束密度Bに対する2値結果信号31である電圧VCMPを示している。B<BRPのときVCMP=“H”、B>BRPのとき、電圧VCMPはローレベル(VCMP=“L”)となる。図2(c)の図2(b)との違いは、閾値が動作点BOPではなく復帰点BRPである点と、閾値との大小関係と対応する電圧VCMPの論理が逆である点である。図2(c)同様、この磁電変換特性自体は、復帰点BRP一点のみを閾値としており、ヒステリシス特性を有しない。
【0025】
図2(d)は印加磁束密度Bに対する電圧VOUTの関係を示す関係図である。この磁電変換特性は、“H”⇒“L”遷移は動作点BOPを閾値とし、“L”⇒“H”遷移は復帰点BRPを閾値とし、2点の閾値を有するヒステリシス特性を有する。
【0026】
このように、以降の説明に先立って、印加磁束密度Bに対し、各部の信号電圧を規定する。次に図を用いて、センサ装置1の動作について説明する。
【0027】
続いて、センサ装置1における弱磁場⇒強磁場⇒弱磁場遷移時の動作について説明する。
図3は、センサ装置1における弱磁場⇒強磁場⇒弱磁場で遷移する場合の動作タイミングを示すタイミング図である。
【0028】
瞬時消費電流IDDは、動作期間中に所定の動作電流IDDAとなり、休止期間中に所定の休止電流IDD0となる。休止期間には制御回路50内部の基準クロック回路(図示せず)など、最低限の機能のみが動作しており、休止電流は低く抑えられている。動作期間TAW、休止期間TSLが規定され、動作期間と休止期間の合計である駆動周期TCYCが規定されている。駆動周期TCYCは一定値に固定されており、動作期間TAW、休止期間TSLの和が駆動周期TCYCとなる。
【0029】
動作期間TAWは所定の処理期間TSPの自然数倍で規定される。本実施形態では、動作期間TAWnはTSPから4*TSPの間の期間をとり得る。すなわち、次式(1)で表される。
TAWn=n*TSP(n=1,2,3,4) (1)
【0030】
動作期間TAWnが各期間で表されるときの1周期分の平均消費電流は、次式(2)で表される。
IDDn=IDD0+IDDA*nTSP/TCYC(n=1,2,3,4) (2)
【0031】
このとき、休止期間TSnはそれぞれ、次式(3)で表される。
TSLn=TCYC-TAWn=TCYC-n*TSP(n=1,2,3,4) (3)
【0032】
時刻t=0において、駆動制御信号51は“L”であり、センサ装置1は休止状態である。また、印加磁束密度Bは、B=Bw<<BRPを満たす領域にあり、VOUT=“H”、すなわち弱磁場Bwとなっている。2値結果信号31は、センサ装置1が休止状態のため強制的に“L”に固定されている。
【0033】
時刻t=t31で、駆動制御信号51は“L”から“H”に遷移し、センサ装置1は休止状態から動作状態に遷移する。印加磁束密度Bは、動作点BOPを超えて、B>BOPに増加しており、時刻t=t32で2値結果信号31が1回目の“H”となり、時刻t=t33の時点で2値結果信号31が2回目の“H”となり、時刻t=t34の時点で2値結果信号31が3回目の“H”となり、時刻t=t35の時点で4回目の2値結果信号31が“H”となる。このように2値結果信号31が“H”であり続ける限りは、所定の上限回数まで動作状態が継続される。この所定の上限回数は、全回一致判定処理との関係でいえば、一致が要求される回数以上に設定される。
【0034】
1回目から4回目の2値結果信号31が“H”であったため、判定結果信号61は“L”となり、t=t35におけるラッチクロック信号53の立上りエッジによってラッチ回路70にラッチされ、VOUT=“L”、すなわちセンサ装置1は、強磁場Bs(>>BOP)を検出していることを示す検出状態に遷移するとともに、駆動制御信号51が“L”に遷移し、センサ装置1は動作状態から休止状態へと遷移する。
【0035】
続いて、時刻t=t36直前まで休止状態が継続されており、印加磁束密度BはB>BOPを保っている。t=t36の時点で、再び駆動制御信号51は“H”に遷移し、センサ装置1は動作状態となる。ここで1回目の2値結果信号31は“L”であるので、t=t37において、駆動制御信号51は“L”に遷移し、センサ装置1は即座に休止状態へと遷移する。t=t37~t310の期間は、動作状態が打ち切られた休止状態としてセンサ装置1が動作する。
【0036】
続いて、時刻t=t311直前まで休止状態が継続されており、t310~t311の期間において、印加磁束密度Bは、強磁場Bsから減少し、弱磁場Bw(<<BRP)となっている。時刻t=t311の時点で、再び駆動制御信号51は“H”に遷移し、センサ装置1は休止状態から動作状態へ遷移する。時刻t=t312の時点で1回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t313の時点で2回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t314の時点で3回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t315の時点で4回目の2値結果信号31が“H”となる。このように2値結果信号31が“H”であり続ける限り、センサ装置1は、所定の上限回数まで動作状態が継続される。
【0037】
1回目から4回目の2値結果信号31が“H”であったため、判定結果信号61は“H”となり、t=t315におけるラッチクロック信号53の立上りエッジによってラッチ回路70にラッチされ、VOUT=“H”すなわちセンサ装置1は、弱磁場Bwを検出していることを示す解除状態に遷移するとともに、駆動制御信号51が“L”に遷移し、センサ装置1は動作状態から休止状態へと遷移する。
【0038】
次に、印加磁束密度Bが閾値、すなわち動作点BOP及び復帰点BRPにほぼ等しい場合の動作について説明する。本実施形態では、増幅信号(A*VSIG)と比較基準電圧VBOPとの差分が雑音レベル以下である印加磁束密度Bを、「動作点BOPにほぼ等しい」印加磁束密度Bと呼称する。また、増幅信号(A*VSIG)と比較基準電圧VBRPとの差分が雑音レベル以下である印加磁束密度Bを、「復帰点BRPにほぼ等しい」印加磁束密度Bと呼称する。
【0039】
図4は、センサ装置1における弱磁場⇒動作点にほぼ等しい印加磁束密度が印加される際の動作タイミング図である。
【0040】
図4図3との違いは主に印加磁束密度Bが閾値である動作点BOPに対して十分大きい(強磁場)または閾値である復帰点BRPに対して十分小さい(弱磁場)状態になく、雑音による影響を受けやすい点である。本発明の実施形態において、弱磁場(B=Bw)⇒動作点BOPにほぼ等しい印加磁束密度B(B≒BOP)が印加される際の動作について、図を用いて説明する。
【0041】
時刻t=0において、駆動制御信号51は“L”であり、センサ装置1は休止状態である。印加磁束密度Bは、復帰点BRPを下回った状態(B<BRP)であり、VOUT=“H”すなわち弱磁場状態となっている。2値結果信号31は、センサ装置1が休止期間のため強制的にローレベル、すなわち電圧VCMP=“L”に固定されている。
【0042】
時刻t=t41の時点で、駆動制御信号51は“H”に遷移し、センサ装置1は動作状態となる。印加磁束密度BはB≒BOPとなっており、雑音の影響により2値結果信号31はランダムに閾値電圧VTHを超過する/しない状態となり、“H”または“L”を取り得る。時刻t=t42の時点で1回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t43の時点で2回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t44の時点で3回目の2値結果信号31が“L”となり、2値結果信号31が“L”を出力したため、動作状態は規定回数上限値まで継続されず、駆動制御信号51が“L”に遷移し、センサ装置1は動作状態を中断し、休止状態へと遷移する。t=t45においてラッチクロック信号53は出力されず、ラッチ回路70は現論理を保持し、VOUT=“H” すなわち解除状態を保持する。
【0043】
続いて、時刻t=t46直前まで休止状態が継続されており、印加磁束密度BはB≒BOPを保っている。t=t46の時点で、再び駆動制御信号51は“H”に遷移し、センサ装置1は動作状態となる。ここでは1回目の2値結果信号31が“L”であり、t=t47において、駆動制御信号51は“L”に遷移し、センサ装置1は即座に休止状態へと遷移する。t=t47~t410の期間は、動作状態が打ち切られた休止状態としてセンサ装置1が動作する。t=t410においてラッチクロック信号53は出力されず、ラッチ回路70は現論理を保持し、VOUT=“H” すなわち解除状態を保持する。
【0044】
続いて、時刻t=t411直前まで休止状態が継続されており、t410~t411の期間においても印加磁束密度BはB≒BOPを保っている。時刻t=t411の時点で、再び駆動制御信号51は“H”に遷移し、センサ装置1は動作状態となる。時刻t=t412の時点で1回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t413の時点で2回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t414の時点で3回目の2値結果信号31が“H”となり、時刻t=t415の時点で4回目の2値結果信号31が“H”となる。このように2値結果信号31が“H”であり続ける限りは、所定の上限回数まで動作状態が継続される。
【0045】
1回目から4回目の2値結果信号31が“H”であったため、判定結果信号61は“H”となり、t=t415におけるラッチクロック信号53の立上りエッジによってラッチ回路70にラッチされ、VOUT=“L”すなわち検出状態に遷移するとともに、駆動制御信号51が“L”に遷移し、センサ装置1は休止状態へと遷移する。
【0046】
このように、図4では、印加磁束密度Bが動作点BOPにほぼ等しくなり、雑音の影響によって複数の動作期間を経てセンサ装置1が検出状態となる動作について示した。この例は、1回目の動作期間で2回一致、2回目の動作期間で零回一致、3回目の動作期間で4回一致となって検出状態に遷移する例である。雑音はランダムに生起されるため、m回目の動作期間でn回一致する確率は確率論的に決まる。従って、4回一致を経て検出状態へと遷移するまでの間は、零回一致(非検出)、1回一致、2回一致、3回一致の各状態が、動作期間ごとに一定の重みをもって生じることとなる。
【0047】
各状態が生じた際の平均消費電流は、零回一致時にIDD1、1回一致時にIDD2、2回一致時にIDD3、3回一致時にIDD4となる。次に、磁気センサ装置1における印加磁束密度Bと消費電流IDDとの関係について説明する。
【0048】
本発明の実施形態及び従来技術における印加磁束密度Bに対する平均消費電流IDDの違いについて説明する。図5(a)乃至(c)は、センサ装置1における印加磁束密度Bに対する平均消費電流IDD、図5(d)は従来技術のセンサ装置200における印加磁束密度Bに対する平均消費電流IDDにおける説明図である。
【0049】
図5(a)において、印加磁束密度Bが復帰点BRPよりも弱い(B<BRP)領域は、例えば図中の磁性物品100が取り付けられる機器カバー103と、センサ装置1が内蔵される機器筐体102とを、ヒンジ101で接続して開閉可能に構成された開閉検出機構104においては、十分な「開」位置に対応し、印加磁束密度Bが動作点BOPよりも強い(B>BOP)領域は、十分な「閉」位置に対応する。十分な「開」位置と十分な「閉」位置の中間がBRP<B<BOPの領域に相当する。
【0050】
図5(a)に示すように、開閉検出機構104が十分な「開」位置や十分な「閉」位置に置かれた状況下では、2値結果信号31は常に“L”であり、センサ装置1の出力論理信号71は変化しない。また、開閉検出機構104はその動作中の大半の期間は、上述のような「開」位置や「閉」位置となっていることが多い。「開」位置や「閉」位置では、1回目の判定処理で閾値を超過せずに動作期間は打ち切られ、動作期間中に複数回の判定処理が実行されることはなく、動作期間TAW=TSPとなるので、平均消費電流はIDD1となる。動作点BOPや復帰点BRPはセンサ装置1に内在する雑音の影響によって、その閾値には例えば標準偏差σBで表されるような揺らぎが存在する。よって動作点BOP及び復帰点BRPは、有限の繰り返し再現性σBを有し、発生頻度のヒストグラムとして表現可能である。
【0051】
図5(b)において、本発明における「開」⇒「閉」状態遷移時の平均消費電流について説明する。縦軸はセンサ装置1の平均消費電流を表している。IDD1乃至IDD4は図3及び図4中の電流値と対応している。
【0052】
機器カバー103が十分開いている「開」状態では、印加磁束密度Bが十分小さく、B=Bw<<BOPであり、センサ装置1は解除状態すなわちVOUT=”H“である。このとき、処理回路30は図2(c)の磁電変換特性で動作している。
【0053】
機器カバー103が徐々に閉じると、印加磁束密度Bが増加し、やがてB=BRPとなる。この段階では判定回路60では1回検出されることもなく、平均消費電流はIDD1である。
【0054】
機器カバー103がさらに閉じると、図5(a)に示される動作点BOPの繰り返し再現性のヒストグラムの左側の裾野に到達することとなる。機器カバー103がさらに閉じてB=BOPに近づくにつれて判定回路60での多数回判定処理において、1回検出、2回一致、3回一致、のように連続で検出判定される確率が高くなり、平均消費電流はIDD1から増加し、徐々にIDD4に近づく。
【0055】
機器カバー103がさらに閉じてB≒BOPに到達すると、判定回路60では4回一致判定がなされ、センサ装置1が検出状態すなわちVOUT=”L“となり、処理回路30は図2(b)の磁電変換特性での動作に切り替わり、平均消費電流はIDD1まで低下することとなる。
【0056】
その後、機器カバー103がさらに閉じて完全に「閉」状態、印加磁束密度Bは十分大きくB=Bs>>BOPとなる。この状態では、依然として処理回路30は図2(b)の磁電変換特性で動作しているため、平均消費電流はIDD1を維持する。
【0057】
図5(c)において、本発明における「閉」⇒「開」状態遷移時の平均消費電流について説明する。縦軸はセンサ装置1の平均消費電流を表している。図5(b)同様にIDD1乃至IDD4は図3及び図4中の電流値と対応している。
【0058】
機器カバー103が十分閉じている「閉」状態では、印加磁束密度Bが十分大きく、B=Bs>>BOPであり、センサ装置1は検出状態、すなわちVOUT=“L”である。このとき、処理回路30は図2(b)の磁電変換特性で動作している。
【0059】
機器カバー103が徐々に開くと、印加磁束密度Bが減少し、やがてB=BOPとなる。この段階では判定回路60では1回検出されることもなく、平均消費電流はIDD1である。
【0060】
機器カバー103がさらに開くと、図5(a)で示したBRPの繰り返し再現性のヒストグラムの右側の裾野に到達することとなる。機器カバー103がさらに開いてB=BRPに近づくにつれて判定回路60での多数回判定処理において、1回解除、2回一致、3回一致、のように連続で解除判定される確率が高くなり、平均消費電流はIDD1から増加し、徐々にIDD4に近づく。
【0061】
機器カバー103がさらに開いて、印加磁束密度BがB≒BRPに到達すると、判定回路60では4回一致解除判定がなされ、センサ装置1が解除状態すなわちVOUT=“H”となり、処理回路30は図2(c)の磁電変換特性での動作に切り替わり、平均消費電流はIDD1まで低下することとなる。
【0062】
その後、機器カバー103がさらに開いて完全に「開」状態、印加磁束密度Bは十分小さくB=Bw<<BRPとなる。この状態では、依然として処理回路30は図2(c)の磁電変換特性で動作しているため、平均消費電流はIDD1を維持する。
【0063】
図5(d)において、開閉検出機構204は、開閉検出機構104(図5(a)参照)に対して、センサ装置1(図5(a)参照)の代わりにセンサ装置200を有する点で異なるが、その他の点は開閉検出機構104と実質的に同じ構成である。センサ装置200は、機器カバーの開閉状態、すなわち印加磁束密度Bによらず、動作期間中には多数回判定処理が4回実行されるため、動作期間はTAW4=4TSPであり、平均消費電流は一定値IDD4である。これは、動作中の大半の期間を占める「開」位置や「閉」位置でも同様であることを意味し、完全な「開」位置や「閉」位置では平均消費電流をIDD1まで削減可能な、センサ装置1の平均消費電流に対して、センサ装置200の平均消費電流は大きい。
【0064】
次に、本実施形態に係る発明の効果、すなわちセンサ装置1におけるスイッチング点の再現性改善及び実効的な平均消費電流の削減について説明する。
【0065】
図6(a)は、センサ装置1における一致判定回数Njに対する動作点BOPの再現性σBの関係を示す関係図であり、図6(b)は、センサ装置1における一致判定回数Njに対する平均消費電流の関係を示す関係図である。ここで、図6(a)及び図6(b)中の一致判定回数Njは任意の自然数である。
【0066】
図6(a)では、Nj=1、すなわち、1回判定に基づく動作点BOP及び復帰点BRPの再現性σBをσB0と規定する。任意の一致判定回数Njに対する再現性σBは、一致判定回数Njと1回判定に基づく動作点BOP及び復帰点BRPの再現性σB0とを用いて、次式(4)で表すことができる。
σB=σB0/√Nj (4)
【0067】
ここで、再現性σBは、理想的には零である望小特性である。上記式(4)より、一致判定回数Njを大きくとるほど再現性σBは小さく改善されることがわかる。また、σB0ならばσBは必ず零となり、動作点BOP及び復帰点BRPが揺らぎを持たず、検出/解除動作の繰り返し再現性は完全となる。例えば、Nj=4ではσB=0.5*σB0、Nj=16ではσB=0.25*σB0、Nj=64ではσB=0.125*σB0のように抑圧される。一方で、一致判定回数Njを大きくとるほど判定回路60の回路規模が増大する。このため、一致判定回数Njを設定する際には、検出/解除動作の繰り返し再現性の要求仕様及び許容できる判定回路60の回路規模の少なくとも一方を適切に考慮することが好ましい。
【0068】
続いて、図6(b)を参照して、平均消費電流について説明する。
図6(b)に示されている実線L1は、センサ装置1において、印加磁束密度Bがスイッチング点となる動作点BOP及び復帰点BRPに対し、十分に弱い(B<<BRP)又は十分に強い(B>>BOP)範囲にある場合の一致判定回数に対する平均消費電流の関係を示しており、破線L2は、従来のセンサ装置200(図5(d)参照)における一致判定回数Njに対する平均消費電流の関係(比較例)を示している。
【0069】
従来のセンサ装置200においては、印加磁束密度Bによらず一致判定回数Njに比例して平均消費電流IDDが増加するため、平均消費電流はIDDnjとなる。すなわち、従来のセンサ装置200の平均消費電流は、図6(b)において、破線L2で示されている。
【0070】
一方で、センサ装置1では、印加磁束密度Bによって平均消費電流が変化する。より具体的には、動作点BOP及び復帰点BRPの少なくとも一方にほぼ等しいことを満たすスイッチング点(BOP,BRP)に近い印加磁束密度B(図4参照)においては、IDD1以上IDDnj未満の平均消費電流となり、スイッチング点に対し、十分に弱い(B<<BRP)、もしくは十分に強い(B>>BOP)印加磁束密度B(図3参照)においては、平均消費電流はIDD1となる。従って、センサ装置1では、印加磁束密度Bの全範囲にわたって従来のセンサ装置200における平均消費電流(=IDDnj)以下に低減することができる。
【0071】
以上、本発明においては、検出/解除動作の繰り返し再現性の要求仕様に応じて、一致判定回数Njを大きく設定したとしても、スイッチング点に対し、十分弱い/強い印加磁束密度Bが与えられている条件下においては、平均消費電流IDDを十分小さく抑制できることを示した。
【0072】
本発明によれば、多数回比較判定を用いてスイッチング点(動作点及び復帰点)の再現性を改善するとともに、間欠駆動における動作期間を物理量検出結果に基づいて適切に中断する、すなわち休止状態に遷移することによって、センサ装置への通電期間のうち大部分を占める、物理量検出結果に変化のない期間における平均消費電流を削減できる。本発明を適用することによって、バッテリ駆動機器の電池長寿命化、ひいては持続可能な社会の実現へ向けてエネルギー効率の改善を推進可能なセンサ装置を提供できる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した例以外にも様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更をすることができる。
【0074】
例えば、上述したセンサ装置1では、判定回路60における所定の多数回判定処理に全回一致判定処理を用いた例を示しているが、所定の多数回判定処理は全回一致判定処理に限定されない。所定の多数回判定処理は、1回のみの判定結果では揺らぎが大きい動作点の再現性を改善するための判定処理の一例である。すなわち、所定の多数回判定処理は、1回のみの判定結果では揺らぎが大きい動作点の再現性を改善できる判定処理であれば任意であって、例えば、多数決判定等の他の多数回判定処理を用いてもよい。
【0075】
上述したセンサ装置1は、いわゆる片極検出型の磁気スイッチ装置であるが、両極検出型や交番検出型の磁気スイッチ装置として構成されてもよい。センサ装置1が他の検出方式の磁気スイッチ装置として構成される場合、処理回路30の後段に適切な論理回路を追加して、状態遷移が適切に制御されるように構成すればよい。
【0076】
上述した実施形態において、駆動回路20及び処理回路30の両方を、動作状態と休止状態とを切り換え可能に構成された制御回路50を説明したが、これに限定されない。制御回路50は、駆動回路20を動作状態又は休止状態に切り換え可能に構成されていてもよいし、処理回路30を動作状態又は休止状態に切り換え可能に構成されていてもよい。
【0077】
上述した実施形態において、センサ装置1は、ホール素子10をセンサ素子とする磁気スイッチとして構成される例を説明しているが、センサ素子はホール素子に限定されない。センサ素子は、例えば、磁気抵抗(MR)素子、磁気インピーダンス(MI)素子、フラックスゲート型センサ等のホール素子以外の磁気センサ素子を含んで構成されていてもよい。また、センサ素子は、磁気に限らず、例えば、温度、湿度、圧力、赤外線強度、紫外線強度、可視光強度等の各種物理量のうち、少なくとも1つの物理量を検出するセンサ素子を適用してもよい。
【0078】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1:センサ装置
10:ホール素子(磁気センサ素子、センサ素子)
VSIG:ホール素子出力信号(電気信号)
20:駆動回路
30:処理回路
31:2値結果信号
50:制御回路
51:駆動制御信号
60:判定回路
70:ラッチ回路
71:出力論理信号
IDRV:駆動電流(駆動信号)
図1
図2
図3
図4
図5
図6