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特開2022-153700100℃以上で使用可能なプロトン伝導膜及び燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153700
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】100℃以上で使用可能なプロトン伝導膜及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1067 20160101AFI20221005BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20221005BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20221005BHJP
   H01M 8/102 20160101ALI20221005BHJP
   H01M 8/1072 20160101ALI20221005BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01M8/1067
H01B1/06 A
H01M8/1018
H01M8/102
H01M8/1072
C08F293/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056359
(22)【出願日】2021-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発/水素利用等高度化先端技術開発/高伝導無水系電解質膜の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 篤史
(72)【発明者】
【氏名】梶田 貴都
(72)【発明者】
【氏名】田中 春佳
(72)【発明者】
【氏名】大塚 由美子
【テーマコード(参考)】
4J026
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4J026HA02
4J026HA06
4J026HA22
4J026HA29
4J026HA39
4J026HA40
4J026HB08
4J026HB22
4J026HB29
4J026HC06
4J026HC22
4J026HC29
4J026HE02
5G301CD01
5G301CE01
5H126AA05
5H126GG18
5H126JJ08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】100℃以上で使用可能なプロトン伝導膜、特に、100℃以上150℃以下の中温域で使用可能な無水系プロトン伝導膜、及び燃料電池を提供する。
【解決手段】プロトン伝導膜は、ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、前記ポリマーは、AブロックとBブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含み、前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してハードドメインを形成しており、前記Bブロックは、プロトン受容性基を有し、且つ前記プロトン供与剤で膨潤されており、前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導膜であって、
ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、
前記ポリマーは、AブロックとBブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含み、
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してハードドメインを形成しており、
前記Bブロックは、プロトン受容性基を有し、且つ前記プロトン供与剤で膨潤されており、
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしている、
100℃以上で使用可能である、
プロトン伝導膜。
【請求項2】
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の主鎖は、
末端部以外には、
熱で容易に分解する官能基を有さない、及び/又は、
酸で容易に分解する官能基を有さない、
主鎖である、
請求項1に記載のプロトン伝導膜。
【請求項3】
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、
1箇所の開始点、又は、
2箇所以上の開始点
からモノマーが付加重合して得られる、
ブロック共重合体である、
請求項1又は2に記載のプロトン伝導膜。
【請求項4】
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、前記Aブロックと前記BブロックとをRAFT重合する事に依り製造される、
ポリマーである、
請求項1~3のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項5】
前記RAFT剤は、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカーボネート、及びキサンタートから成る群から選ばれる少なくとも1種のチオカルボニルチオ化合物である、
請求項1~4のいずれか1項にプロトン伝導膜。
【請求項6】
前記RAFT剤は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有し、逐次的にAブロック、Bブロック、Aブロックと連結させる事に依り、前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成できる、又は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であり、中央部に炭化水素基を有する前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成でき、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の末端部以外には、前記RAFT剤の残基であるトリチオカーボネートユニットを含まない、
RAFT剤である、
請求項1~4のいずれか1項にプロトン伝導膜。
【請求項7】
前記プロトン供与剤は、硫酸、及びリン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種で構成されるプロトン供与剤である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項8】
前記Aブロックは、ポリスチレン系ポリマー、ポリアクリル酸エステル系ポリマー、ポリメタクリル酸エステル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリアリレート系ポリマー、ポリエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルイミド系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリフェニレンエーテル系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリベンゾイミダゾール系ポリマー、及びポリフルオロエチレン系ポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のポリマーで構成されるブロックである、
請求項1~7のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項9】
前記Bブロックが有するプロトン受容性基は、含窒素複素環基である、
請求項1~8のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項10】
前記含窒素複素環基は、ピリジン環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、イミダゾリン環基、オキサゾール環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、トリアゾール環基、及びテトラゾール環基から成る群から選ばれる少なくとも1種の含窒素複素環基である、
請求項9に記載のプロトン伝導膜。
【請求項11】
前記Bブロックを構成する繰り返し単位は、ビニル系モノマー、エーテル系モノマー、エステル系モノマー、アミド系モノマー、及びシリコーン系モノマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のモノマーで構成されるブロックである、
請求項1~8のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項12】
前記Bブロックは、ピリジン環を有するビニルポリマー、イミダゾール環を有するビニルポリマー、ピラゾール環を有するビニルポリマー、イミダゾリン環を有するビニルポリマー、オキサゾール環を有するビニルポリマー、ピリミジン環を有するビニルポリマー、ピラジン環を有するビニルポリマー、トリアゾール環を有するビニルポリマー、及びテトラゾール環を有するビニルポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のポリマーで構成されるブロックである、
請求項1~8のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項13】
100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能である、
請求項1~12のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項14】
プロトン伝導膜の製造方法であって、
前記プロトン伝導膜は、ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、
1箇所の開始点、又は、2箇所以上の開始点からモノマーが付加重合して合成される、A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む、前記ポリマーを製造する工程を含み、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の主鎖は、末端部以外には、熱で容易に分解する官能基を有さない、及び/又は、酸で容易に分解する官能基を有さない、主鎖であり、
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成しており、
前記Bブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、プロトン受容性基を有しており、
前記ポリマーは、前記Aブロックと前記Bブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含み、
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしており、
前記プロトン伝導膜は、100℃以上で使用可能である、
プロトン伝導膜の製造方法。
【請求項15】
プロトン伝導膜の製造方法であって、
前記プロトン伝導膜は、ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、AブロックとBブロックとをRAFT重合する事に依り、ポリマーを製造する工程を含み、
前記RAFT剤は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有し、又は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であり、
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成しており、
前記Bブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、プロトン受容性基を有しており、
前記ポリマーは、前記Aブロックと前記Bブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型ブロック共重合体を含み、
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしており、
前記プロトン伝導膜は、100℃以上で使用可能である、
プロトン伝導膜の製造方法。
【請求項16】
前記硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有するRAFT剤は、4-[(2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]-4-シアノペンタン酸、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸ペンタフルオロフェニルエステル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸 N-ヒドロキシスクシンイミジル、3-[[(ベンジルチオ)カルボノチオイル]チオ]プロピオン酸、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸、シアノメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]トリチオカーボネート、3-ブテニル-2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン、フタルイミドメチルブチルトリチオカーボネート、2-(2-アルボキシエチルスルファニルチオカルボニルスルファニル)プロピオン酸、4-((((2-カルボキシエチル)チオ)カルボノチオイル)チオ)-4-シアノペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノール、及びシアノメチルドデシルトリチオカーボネートから成る群から選ばれる少なくとも1種のトリチオカーボネートである、又は、
前記硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であるRAFT剤は、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジドデシルビス(カルボノトリチオエート)、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジブチルビス(カルボノトリチオエート)、及び1,4-フェニレンビス(メチレン)ジオクタデシルビス(カルボノトリチオエート)から成る群から選ばれる少なくとも1種のトリチオカーボネートである、
請求項14又は15に記載のプロトン伝導膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、100℃以上で使用可能なプロトン伝導膜、特に、100℃以上150℃以下の中温域で使用可能な無水系プロトン伝導膜、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、架橋ポリマー及び可塑剤を含み、前記架橋ポリマーが、、前記架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の10mol%以上のプロトン受容性基を有し、前記可塑剤が、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物を含み、且つ50℃以上120℃以下の温度範囲で粘弾性固体である、プロトン伝導膜が開示されている。このプロトン伝導膜は、無水環境下でも高いプロトン伝導性を示す事が出来、燃料電池におけるプロトン伝導膜として使用出来る。
【0003】
特許文献2には、プロトン伝導膜であって、共有結合で繋がれている第1の部分及び第2の部分を有するポリマー、並びに可塑剤を含み、前記第1の部分は、前記プロトン伝導膜の使用温度において、相互に凝集してドメインを形成しており、且つ前記ドメイン間を前記第2の部分が橋架けしており、前記第2の部分が、プロトン受容性基を有し、且つ前記可塑剤が、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物を含み、それによって前記可塑剤が前記第2の部分に浸透して、前記可塑剤を含まない場合に比べて前記ポリマーのガラス転移温度が下がっている、プロトン伝導膜が開示されている。このプロトン伝導膜は、低湿又は無水の環境下でも高いプロトン伝導性を示す事が出来、燃料電池におけるプロトン伝導膜として使用出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-135715号
【特許文献2】特開2020-68130号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たなプロトン伝導膜、及び燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明は、以下の通りである。
【0007】
本発明は、新たなプロトン伝導膜、及び燃料電池を提供する。
【0008】
本発明は、新たな、特に、100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能な無水系プロトン伝導膜、及び燃料電池を提供する。
【0009】
項1.
プロトン伝導膜であって、
ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、
前記ポリマーは、AブロックとBブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含み、
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してハードドメインを形成しており、
前記Bブロックは、プロトン受容性基を有し、且つ前記プロトン供与剤で膨潤されており、
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしている、
100℃以上で使用可能である、
プロトン伝導膜。
【0010】
項2.
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の主鎖は、
末端部以外には、
熱で容易に分解する官能基を有さない、及び/又は、
酸で容易に分解する官能基を有さない、
主鎖である、前記項1に記載のプロトン伝導膜。
【0011】
項3.
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、
1箇所の開始点、又は、
2箇所以上の開始点
からモノマーが付加重合して得られる、
ブロック共重合体である、前記項1又は2に記載のプロトン伝導膜。
【0012】
項4.
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、前記Aブロックと前記BブロックとをRAFT重合する事に依り製造される、
ポリマーである、前記項1~3のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【0013】
項5.
前記RAFT剤は、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカーボネート、及びキサンタートから成る群から選ばれる少なくとも1種のチオカルボニルチオ化合物である、前記項1~4のいずれか1項にプロトン伝導膜。
【0014】
項6.
前記RAFT剤は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有し、逐次的にAブロック、Bブロック、Aブロックと連結させる事に依り、前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成できる、又は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であり、中央部に炭化水素基を有する前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成でき、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の末端部以外には、前記RAFT剤の残基であるトリチオカーボネートユニットを含まない、
RAFT剤である、前記項1~4のいずれか1項にプロトン伝導膜。
【0015】
項7.
前記プロトン供与剤は、硫酸、及びリン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種で構成されるプロトン供与剤である、前記項1~6のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【0016】
項8.
前記Aブロックは、ポリスチレン系ポリマー、ポリアクリル酸エステル系ポリマー、ポリメタクリル酸エステル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリアリレート系ポリマー、ポリエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルイミド系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリフェニレンエーテル系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリベンゾイミダゾール系ポリマー、及びポリフルオロエチレン系ポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のポリマーで構成されるブロックである、前記項1~7のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【0017】
項9.
前記Bブロックが有するプロトン受容性基は、含窒素複素環基である、前記項1~8のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【0018】
項10.
前記含窒素複素環基は、ピリジン環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、イミダゾリン環基、オキサゾール環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、トリアゾール環基、及びテトラゾール環基から成る群から選ばれる少なくとも1種の含窒素複素環基である、前記項9に記載のプロトン伝導膜。
【0019】
項11.
前記Bブロックを構成する繰り返し単位は、ビニル系モノマー、エーテル系モノマー、エステル系モノマー、アミド系モノマー、及びシリコーン系モノマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のモノマーで構成されるブロックである、前記項1~8のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【0020】
項12.
前記Bブロックは、ピリジン環を有するビニルポリマー、イミダゾール環を有するビニルポリマー、ピラゾール環を有するビニルポリマー、イミダゾリン環を有するビニルポリマー、オキサゾール環を有するビニルポリマー、ピリミジン環を有するビニルポリマー、ピラジン環を有するビニルポリマー、トリアゾール環を有するビニルポリマー、及びテトラゾール環を有するビニルポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のポリマーで構成されるブロックである、前記項1~8のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【0021】
項13.
100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能である、前記項1~12のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【0022】
項14.
プロトン伝導膜の製造方法であって、
前記プロトン伝導膜は、ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、
1箇所の開始点、又は、2箇所以上の開始点からモノマーが付加重合して合成される、A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む、前記ポリマーを製造する工程を含み、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の主鎖は、末端部以外には、熱で容易に分解する官能基を有さない、及び/又は、酸で容易に分解する官能基を有さない、主鎖であり、
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成しており、
前記Bブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、プロトン受容性基を有しており、
前記ポリマーは、前記Aブロックと前記Bブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含み、
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしており、
前記プロトン伝導膜は、100℃以上で使用可能である、
プロトン伝導膜の製造方法。
【0023】
項15.
プロトン伝導膜の製造方法であって、
前記プロトン伝導膜は、ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、AブロックとBブロックとをRAFT重合する事に依り、ポリマーを製造する工程を含み、
前記RAFT剤は、硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有し、又は、硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であり、
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成しており、
前記Bブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、プロトン受容性基を有しており、
前記ポリマーは、前記Aブロックと前記Bブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型ブロック共重合体を含み、
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしており、
前記プロトン伝導膜は、100℃以上で使用可能である、
プロトン伝導膜の製造方法。
【0024】
項16.
前記硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有するRAFT剤は、4-[(2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]-4-シアノペンタン酸、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸ペンタフルオロフェニルエステル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸 N-ヒドロキシスクシンイミジル、3-[[(ベンジルチオ)カルボノチオイル]チオ]プロピオン酸、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸、シアノメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]トリチオカーボネート、3-ブテニル-2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン、フタルイミドメチルブチルトリチオカーボネート、2-(2-アルボキシエチルスルファニルチオカルボニルスルファニル)プロピオン酸、4-((((2-カルボキシエチル)チオ)カルボノチオイル)チオ)-4-シアノペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノール、及びシアノメチルドデシルトリチオカーボネートから成る群から選ばれる少なくとも1種のトリチオカーボネートである、又は、
前記硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であるRAFT剤は、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジドデシルビス(カルボノトリチオエート)、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジブチルビス(カルボノトリチオエート)、及び1,4-フェニレンビス(メチレン)ジオクタデシルビス(カルボノトリチオエート)から成る群から選ばれる少なくとも1種のトリチオカーボネートである、前記項14又は15に記載のプロトン伝導膜の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、新たなプロトン伝導膜、及び燃料電池を提供する事が出来る。
【0026】
本発明は、新たな、特に、100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能な無水系プロトン伝導膜、及び燃料電池を提供する事が出来る。
【0027】
本発明のプロトン伝導膜は、特に、燃料電池におけるプロトン伝導膜として、好適に使用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のプロトン伝導膜が機能を発現する機構を表す図である。
図2】本発明のプロトン伝導膜の製造方法を表す図である。ポリマー末端部以外に残基の入らない重合方法に依り、A-B-A型ブロックポリマーを合成する。RAFT剤(可逆付加開裂連鎖移動剤):RAFT剤を用いる事に依り、分子量分布を狭く、ポリマー末端の制御も可能である。トリチオカーボネートユニットを2つ以上有するRAFT剤で、前記2つ以上のトリチオカーボネートユニット間は、化学的に安定な炭化水素基をするRAFT剤を用いる。ユニット間に、エステル、エーテル、アミド等が含まれる事は好ましくない。
図3】本発明のプロトン伝導膜の製造方法を表す図である。Aブロック、及びBブロックに、Tgが100℃~150℃のコポリマーを採用する重合方法に依り、A-B-A型ブロックポリマーを合成する。好ましいAブロック:ポリ4-tert-ブチルスチレン(Tg:150℃)。好ましいBブロック:ポリ2-ビニルピリジン(Tg:100℃)、ポリ4-ビニルピリジン(Tg:150℃)。
図4】実施例1(実線)及び2(破線)(本発明のプロトン伝導膜)のプロトン伝導率の測定結果を表す図である。
図5】実施例1及び2(本発明のプロトン伝導膜)のガラス転移温度(Tg)の測定結果を表す図である。
図6】比較例2のプロトン伝導膜のガラス転移温度(Tg)の測定結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(1)プロトン伝導膜
本発明のプロトン伝導膜は、特に、100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能な無水系プロトン伝導膜であり、燃料電池に好適に使用出来る。
【0030】
本発明のプロトン伝導膜は、
ポリマー、及びプロトン供与剤を含み、
前記ポリマーは、AブロックとBブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含み、
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、前記プロトン供与剤中で、相互に凝集してハードドメインを形成しており、
前記Bブロックは、プロトン受容性基を有し、且つ前記プロトン供与剤で膨潤されており、
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けしている、
100℃以上で使用可能である、ことを特徴とする。
【0031】
プロトン伝導膜の使用温度
本発明のプロトン伝導膜は、好ましくは、100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能である。
【0032】
本発明のプロトン伝導膜の使用温度は、プロトン伝導膜を使用する際の温度であり、好ましくは、室温以上であり、より好ましくは、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上であり、更に好ましくは、100℃以上である。本発明のプロトン伝導膜の使用温度は、好ましくは、200℃以下であり、より好ましくは、150℃以下、140℃以下、130℃以下、120℃以下、110℃以下である。本発明のプロトン伝導膜は、特に、100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能な無水系プロトン伝導膜であり、燃料電池に好適に使用出来る。
【0033】
ポリマー
本発明のプロトン伝導膜は、ポリマーを含む。
【0034】
本発明のプロトン伝導膜において、共有結合で繋がれるAブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有するポリマーがブロック共重合体である場合、ブロック共重合体のAブロックを第1の部分と呼び、ブロック共重合体のびBブロックを第2の部分と呼ぶ事が有る。
【0035】
前記ポリマーは、AブロックとBブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む。
【0036】
本発明のプロトン伝導膜のブロック共重合体は、Aブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有するポリマーである。
【0037】
本発明のプロトン伝導膜のドメインは、ポリマーのAブロック(第1の部分)が共有結合以外の分子間力により凝集している部分を指し、温度等の環境の変化に応じて可逆的にガラス状態と溶融状態とを変化させられる凝集部分の事である。
【0038】
前記共有結合以外の分子間力は、好ましくは、ファン・デル・ワールス(van der Waals)力、電荷移動力、クーロン力、疎水結合力、水素結合力、イオン結合力、配位結合力等、又は、これらの組み合わせの分子間力等が挙げられる。前記共有結合以外の分子間力は、これら分子間力に限定されない。
【0039】
本発明では、プロトン伝導膜の使用温度において、ポリマーのAブロック(第1の部分)が相互に凝集して形成しているドメインは、好ましくは、ガラス状態、結晶状態等である。
【0040】
前記ガラス状態は、固体の非晶質状態を指す。ドメインがガラス状態であるか、又は、結晶状態であるかは、示差走査熱量(DSC)測定によって判断出来る。より具体的には、吸熱ステップが見られる場合(ピークが見られる場合もある)は、ガラス状態である。吸熱ステップは無く、シャープな吸熱ピークのみが見られる場合は、結晶状態である。
【0041】
本発明のプロトン伝導膜の橋架けは、ポリマーのBブロック(第2の部分)が、前記ドメイン間を橋架けしている構造を指す。
【0042】
本発明のプロトン伝導膜は、その使用温度において、前記ドメインを形成しているAブロック(第1の部分)と、橋架けをしているBブロック(第2の部分)とが、全体として、架橋構造を形成している。
【0043】
本発明の効果を損なわない限り、本発明のポリマーは、好ましくは、化学架橋点(共有結合性架橋点)を含み、より好ましくは、物理架橋点のみからなるプロトン伝導膜を作製した後に、化学架橋点を生成させて得られるポリマーである。
【0044】
プロトン供与剤
本発明のプロトン伝導膜は、プロトン供与剤(可塑剤)を含む。
【0045】
本発明のプロトン伝導膜が含むプロトン供与剤(可塑剤)は、好ましくは、プロトン輸送に関わるプロトン供与性化合物を含み、ポリマーであるBブロック(第2の部分)とよく混和し、十分に浸透している。
【0046】
前記混和は、夫々の分子、即ち、プロトン供与剤(可塑剤)、及びBブロック(第2の部分)の分子同士が、分子レベルで、自発混合している事である。前記混合のギブズエネルギー:△mixGは、絶対値の大きな負の値と成ることを意味する。
【0047】
ΔmixG(混合のギブズエネルギー)=ΔmixH-TΔmixS
ΔmixH:混合のエンタルピー
ΔmixS:混合のエントロピー
T:混合時の絶対温度
で表される。
【0048】
ΔmixHが負で大きな絶対値と成り、TΔmixSが大きな正の値と成れば、ΔmixGは負の大きな絶対値と成る為、分子レベルで良く混合されている。液体のプロトン供与剤(可塑剤)を用いる時、プロトン供与剤(可塑剤)とBブロック(第2の部分)とが良く混和された状態を実現する。
【0049】
前記浸透は、浸透媒体(通常液体)と被浸透媒質のΔmixGが絶対値の大きな負の値を採る事に依り、促進される。前記浸透媒体と非浸透媒質を接触させるだけで、浸透媒体が非浸透媒質に対して自発的に浸み込み、分子レベルでの均一混合を実現する。
【0050】
前記浸透媒体がプロトン供与剤(可塑剤)であり、被浸透媒質がポリマーであるBブロック(第2の部分)である場合、通常ΔmixGの値は、主に正となるΔmixSの大きさの程度に依存するが、これは負の値と成っても、大きな絶対値とは成らない。その結果、大きな浸透は生じない。
【0051】
本発明のプロトン伝導膜は、Bブロック(第2の部分)がコンフォメーション変化を生じ易いフレキシブルなポリマーであって、プロトン受容性基を有しており、且つ可塑剤が、好ましくは、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物を含む。
【0052】
本発明のプロトン伝導膜は、Bブロック(第2の部分)のプロトン受容性基とプロトン供与性化合物との間でイオン性の引力相互作用を生ずるペアと成っている。
【0053】
コンフォメーション変化を生じ易いフレキシブルなポリマーであるBブロック(第2の部分)とプロトン供与剤(可塑剤)との混合を考える時、Bブロック(第2の部分)のフレキシブルさに由来し、TΔmixSは、中程度の大きさの正の値を実現出来る事から、ΔmixGは、負の値を採る。更に、Bブロック(第2の部分)とプロトン供与剤(可塑剤)とは混合すると発熱するペアである事から、そのペア数の数にも依存して、ΔmixHは、絶対値の大きな負の値を採る。このイオン性の引力相互作用の寄与に因って、ΔmixGも絶対値の大きな負の値と成り、プロトン供与剤(可塑剤)がBブロック(第2の部分)に浸透し易くなる。
【0054】
浸透した後も、Bブロック(第2の部分)のプロトン受容性基と、プロトン供与剤(可塑剤)中のプロトン供与性化合物との間のイオン性の引力相互作用の寄与に因って、ΔmixGが負である事が維持される。
【0055】
本発明のプロトン伝導膜は、プロトン供与剤(可塑剤)が自然に浸み出して行く事は無い。
【0056】
プロトン供与剤(可塑剤)は、好ましくは、ポリマーのガラス転移温度を下げる事が出来る。本発明のプロトン伝導膜は、ポリマーのガラス転移温度は、ポリマーのBブロック(第2の部分)のガラス転移温度に相当する。
【0057】
本発明のプロトン伝導膜が含むプロトン供与剤(可塑剤)は、好ましくは、プロトン供与剤は、硫酸、及びリン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種で構成されるプロトン供与剤である。
【0058】
プロトン伝導膜が機能を発現する機構
本発明のプロトン伝導膜は、特に、100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能な無水系プロトン伝導膜であり、燃料電池に好適に使用出来る。本発明のプロトン伝導膜は、低湿又は無水の環境下でも高いプロトン伝導性を示すことが出来る。
【0059】
図1を用いて、本発明のプロトン伝導膜が機能を発現する機構を説明する。
【0060】
以下に説明する機構は、本発明のプロトン伝導膜を限定するものではない。
【0061】
図1は、本発明のプロトン伝導膜が機能を発現する機構を説明する概略図である。
【0062】
本発明のプロトン伝導膜において、共有結合で繋がれるAブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有するポリマーがブロック共重合体である場合、ブロック共重合体のAブロックを第1の部分と呼び、ブロック共重合体のびBブロックを第2の部分と呼ぶ。
【0063】
図1のプロトン伝導膜は、共有結合で繋がれるAブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有するポリマー、並びにプロトン供与剤(可塑剤)を含む。
【0064】
Aブロック(第1の部分)は、プロトン伝導膜の使用温度において、相互に凝集してドメインを形成する。プロトン伝導膜の中では、Aブロック(第1の部分)が形成するドメイン間をBブロック(第2の部分)が橋架けする。
【0065】
本発明のプロトン伝導膜は、これに依り、膜形状を維持する。
【0066】
本発明のプロトン伝導膜は、前記構造を有し、Aブロック(第1の部分)がナノメーターオーダーで、規則的且つ周期的に配置される為、不規則的且つ非周期的に配置された共有結合によって架橋するプロトン伝導膜に比べて、より大きな破断伸度、及び/又は、引張強度を有する。
【0067】
本発明のプロトン伝導膜は、好ましくは、溶媒キャスト法、スピンコート法、又はホットメルト法に依り、作製する事が出来る。
【0068】
本発明のプロトン伝導膜は、従来のプロトン伝導膜に比べて、平滑且つ薄く作製する事が出来、更に、大面積化を可能とする。
【0069】
本発明のプロトン伝導膜が含むプロトン供与剤(可塑剤)は、好ましくは、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物を含む。
【0070】
前記プロトン供与性化合物から、プロトンが遊離する。プロトンが遊離すると、プロトン供与性化合物はアニオンと成る。ポリマーのBブロック(第2の部分)にプロトン受容性基が存在する為、一部の遊離プロトンがプロトン受容性基に結合する。これに依り、Bブロック(第2の部分)のプロトン受容性基がカチオンと成る。
【0071】
図1に示される様に、本発明のプロトン伝導膜中では、アニオン化されたプロトン供与性化合物と、遊離プロトンと、カチオン化されたプロトン受容性基との間でイオン性相互作用生じる。この様なイオン性相互作用は、プロトン伝導膜の膜内全体に亘って存在し、無水の環境下でも遊離プロトンが容易に移動する。
【0072】
本発明のプロトン伝導膜に、高いプロトン伝導性を付与出来る。
【0073】
前記形成されるアニオンとカチオンとの間でイオン性相互作用が働く為、好ましくは、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物は、膜内に留まる事が出来る。プロトン供与剤(可塑剤)としての、好ましくは、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物は、本発明のプロトン伝導膜から漏出し難い、又は漏出しないものである。
【0074】
前記イオン性相互作用に依り、プロトン供与剤(可塑剤)がBブロック(第2の部分)に浸透し易く成る。
【0075】
本発明のプロトン伝導膜が含むポリマーと可塑剤とを接触させる事に依り、プロトン供与剤(可塑剤)がポリマーに自発的に浸透し、均一な混合相と成る。
【0076】
本発明のプロトン伝導膜では、ポリマーとプロトン供与剤(可塑剤)とが共存していても、プロトン供与剤(可塑剤)は主にポリマーのBブロック(第2の部分)に浸透し、ポリマーのAブロック(第1の部分)のドメインの状態は維持される。
【0077】
前記浸透が進み、即ちプロトン供与剤(可塑剤)が大量にBブロック(第2の部分)に浸透し、プロトン供与剤(可塑剤)を含まない場合に比べて、ポリマーのガラス転移温度が下がる。ポリマーのガラス転移温度が下がる事に依り、ポリマー鎖のセグメント運動は活発に成り、本発明のプロトン伝導膜に高いプロトン伝導性を付与出来る。
【0078】
図1では、プロトン供与性化合物として、プロトン供与性の二塩基酸として描かれている。プロトン供与性化合物としては、これには限定されない。
【0079】
本発明のプロトン伝導膜において、共有結合で繋がれているAブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有するポリマーは、ブロック共重合体である。本発明のプロトン伝導膜において、共有結合で繋がれているAブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有するポリマーは、バリエーションの多様性や取り扱い易さの観点から、ブロック共重合体である。
【0080】
本発明のプロトン伝導膜について、共有結合で繋がれているAブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有するポリマーはブロック共重合体である。ブロック共重合体は、Aブロック、及びBブロックを有する。
【0081】
ブロック共重合体
ブロック共重合体は、少なくともAブロック(第1の部分)、及びBブロック(第2の部分)を有し、Cブロック(第3の部分)やDブロック(第4の部分)を含んでいても良い。
【0082】
Aブロック(第1の部分)
Aブロックを構成するポリマーは、夫々、下記列記するポリマーを含んだポリマーであり、ガラス転移温度は100℃以上のポリマーである。
【0083】
本発明のガラス転移温度(Tg)は、10℃/分の昇温速度で測定して得られるDSC曲線に基づいて、JIS K 7121:2012に準拠して得られる値である。
【0084】
本発明のプロトン伝導膜では、Aブロックは、プロトン伝導膜の使用温度において、相互に凝集してドメインを形成する。
【0085】
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してハードドメインを形成する。
【0086】
Aブロックは、プロトン伝導膜の使用温度において、相互に凝集してドメインを形成するものであれば、特に限定されない。
【0087】
本発明では、接頭辞の「ポリ」は、2以上のモノマーを含むポリマーを指す。
【0088】
本発明のプロトン伝導膜が含むAブロックは、好ましくは、ポリスチレン系ポリマー、ポリアクリル酸エステル系ポリマー、ポリメタクリル酸エステル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリアリレート系ポリマー、ポリエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルイミド系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリフェニレンエーテル系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリベンゾイミダゾール系ポリマー、及びポリフルオロエチレン系ポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のポリマーで構成されるブロックである。前記Aブロックは、これらに限定されない。
【0089】
ポリスチレン系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、スチレン部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリスチレン系ポリマーは、好ましくは、ポリスチレン、ポリアセチルスチレン、ポリアニソイルスチレン、ポリベンゾイルスチレン、ポリビフェニルスチレン、ポリブロモエトキシスチレン、ポリブロモメトキシスチレン、ポリブロモスチレン、ポリブトキシメチルスチレン、ポリ-tert-ブチルスチレン、ポリブチリルスチレン、ポリクロロフルオロスチレン、ポリクロロメチルスチレン、ポリクロロスチレン、ポリシアノスチレン、ポリジクロロスチレン、ポリジフルオロスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリエトキシメチルスチレン、ポリエトキシスチレン、ポリフルオロメチルスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリヨードスチレン、ポリメトキシカルボニルスチレン、ポリメトキシメチルスチレン、ポリメチルスチレン、ポリメトキシスチレン、ポリパーフルオロスチレン、ポリフェノキシスチレン、ポリフェニルアセチルスチレン、ポリフェニルスチレン、ポリプロポキシスチレン、ポリトルオイルスチレン、ポリトリメチルスチレン等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリスチレン系ポリマーは、これらに限定されない。
【0090】
ポリアクリル酸エステル系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、アクリル酸エステル部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリアクリル酸エステル系ポリマーは、好ましくは、ポリアクリル酸アダマンチル、ポリアクリル酸-tert-ブチル、ポリアクリル酸-tert-ブチルフェニル、ポリアクリル酸シアノヘプチル、ポリアクリル酸シアノヘキシル、ポリアクリル酸シアノメチル、ポリアクリル酸シアノフェニル、ポリアクリル酸フルオロメチル、ポリアクリル酸メトキシカルボニルフェニル、ポリアクリル酸メトキシフェニル、ポリアクリル酸ナフチル、ポリアクリル酸ペンタクロロフェニル、ポリアクリル酸フェニル等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリアクリル酸エステル系ポリマーは、これらに限定されない。
【0091】
ポリメタクリル酸エステル系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、メタクリル酸エステル部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリメタクリル酸エステル系ポリマーは、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリロニトリル、ポリメタクリル酸アダマンチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸-tert-ブチル、ポリメタクリル酸-tert-ブチルフェニル、ポリメタクリル酸シクロエチル、ポリメタクリル酸シアノエチル、ポリメタクリル酸シアノメチルフェニル、ポリメタクリル酸シアノフェニル、ポリメタクリル酸シクロブチル、ポリメタクリル酸シクロデシル、ポリメタクリル酸シクロドデシル、ポリメタクリル酸シクロブチル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸シクロオクチル、ポリメタクリル酸フルオロアルキル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリメタクリル酸イソボルニル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリメタクリル酸フェニル、ポリメタクリル酸トリメチルシリル、ポリメタクリル酸キシレニル等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリメタクリル酸エステル系ポリマーは、これらに限定されない。
【0092】
ポリオレフィン系ポリマーは、繰り返し単位として、オレフィン部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリオレフィン系ポリマーは、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリα-オレフィン等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。前記ポリオレフィン系ポリマーは、これらに限定されない。
【0093】
ポリスルホン系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、スルホン部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリスルホン系ポリマーは、好ましくは、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリスルホン系ポリマーは、これらに限定されない。
【0094】
ポリアリレート系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、アリレート部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリアリレート系ポリマーは、好ましくは、ポリアリレート等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリアリレート系ポリマーは、これに限定されない。
【0095】
ポリエーテルケトン系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、エーテルケトン部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリエーテルケトン系ポリマーは、好ましくは、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリエーテルケトン系ポリマーは、これらに限定されない。
【0096】
ポリエーテルイミド系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、エーテルイミド部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリエーテルイミド系ポリマーは、好ましくは、ポリエーテルイミド等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリエーテルイミド系ポリマーは、これに限定されない。
【0097】
ポリフェニレンスルフィド系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、フェニレンスルフィド部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリフェニレンスルフィド系ポリマーは、好ましくは、ポリフェニレンスルフィド等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリフェニレンスルフィド系ポリマーは、これに限定されない。
【0098】
ポリフェニレンエーテル系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、フェニレンエーテル部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリフェニレンエーテル系ポリマーは、好ましくは、ポリフェニレンエーテル等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリフェニレンエーテル系ポリマーは、これに限定されない。
【0099】
ポリカーボネート系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、カーボネート部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリカーボネート系ポリマーは、好ましくは、ポリカーボネート等である。ポリカーボネート系ポリマーは、これに限定されない。
【0100】
ポリベンゾイミダゾール系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、ベンゾイミダゾール部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリベンゾイミダゾール系ポリマーは、好ましくは、ポリベンゾイミダゾール等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリベンゾイミダゾール系ポリマーは、これに限定されない。
【0101】
ポリフルオロエチレン系ポリマーは、好ましくは、繰り返し単位として、フルオロエチレン部分を50mol%以上有するポリマーである。ポリフルオロエチレン系ポリマーは、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等を含み、ガラス転移温度は100℃以上である。ポリフルオロエチレン系ポリマーは、これらに限定されない。
【0102】
本発明では、接頭辞の「ポリ」は、2以上のモノマーを含むポリマーを指す。
【0103】
本発明のプロトン伝導膜の使用温度に応じて、好ましくは、ガラス転移温度、又は融解温度がそのプロトン伝導膜の使用温度より高いものを選択して、Aブロックとする。
【0104】
Aブロックは、プロトン供与性化合物を含むプロトン供与剤(可塑剤)との混和性の低さ、取り扱い易さ、又は低コスト等の観点から、好ましくは、ポリスチレン系ポリマーである。
【0105】
Bブロック(第2の部分)
Bブロックを構成するポリマーは、夫々、下記列記するポリマーを含んだポリマーであり、ガラス転移温度は100℃以上でも100℃以下でもよい。
【0106】
本発明のガラス転移温度(Tg)は、10℃/分の昇温速度で測定して得られたDSC曲線に基づいて、JIS K 7121:2012に準拠して得られた値である。
【0107】
本発明のプロトン伝導膜では、Bブロックは、プロトン受容性基を有する。
【0108】
前記Bブロックは、プロトン受容性基を有し、且つプロトン供与剤で膨潤されている。
【0109】
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けする。
【0110】
プロトン受容性基は、好ましくは、含窒素複素環基である。
【0111】
含窒素複素環基は、好ましくは、ピリジン環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、イミダゾリン環基、オキサゾール環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、トリアゾール環基、及びテトラゾール環基から成る群から選ばれる少なくとも1種の含窒素複素環基である。含窒素複素環基は、含窒素複素環基は、より、好ましくは、含窒素複素芳香環基であり、更に好ましくは、ピリジン環基、イミダゾール環基等である。
【0112】
Bブロック1g当たりのプロトン受容性基の量(モル数)は、特に限定されない。Bブロック1g当たりのプロトン受容性基の量(モル数)は、好ましくは、0.1mmol/g以上、0.5mmol/g以上、1.0mmol/g以上、2.5mmol/g以上、又は5.0mmol/g以上である。
【0113】
Bブロック1g当たりのプロトン受容性基の量(モル数)は、Bブロックの合成を容易にし、得られるポリマーのハンドリング性を確保する観点から、好ましくは、50mmol/g以下、40mmol/g以下、30mmol/g以下、又は25mmol/g以下である。
【0114】
Bブロックを構成する繰り返し単位は特に限定されない。Bブロックを構成する繰り返し単位は、好ましくは、ビニル系モノマー、エーテル系モノマー、エステル系モノマー、アミド系モノマー、及びシリコーン系モノマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のモノマーで構成される、或はモノマーに由来する。Bブロックを構成する繰り返し単位は、モノマーの入手性に優れ、分子修飾が容易な事から、より好ましくは、ビニル系モノマーに由来するモノマーである。
【0115】
本発明では、接頭辞の「ポリ」は、2以上のモノマーを含むポリマーを指す。
【0116】
本発明では、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の双方を包含する概念である。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリルアミド」等についてもこれに準じて理解されるべきである。
【0117】
Bブロックと成り得るポリマーは、好ましくは、ピリジン環を有するビニルポリマー、イミダゾール環を有するビニルポリマー、ピラゾール環を有するビニルポリマー、イミダゾリン環を有するビニルポリマー、オキサゾール環を有するビニルポリマー、ピリミジン環を有するビニルポリマー、ピラジン環を有するビニルポリマー、トリアゾール環を有するビニルポリマー、及びテトラゾール環を有するビニルポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種のポリマーで構成されるブロックである。
【0118】
Bブロックとなり得るポリマーは、これらに限定されない。
【0119】
ピリジン環を有するビニルポリマー:ポリ(2-ビニルピリジン)、又はポリ(4-ビニルピリジン)等。
【0120】
イミダゾール環を有するビニルポリマー:ポリ(1-ビニルイミダゾール)、ポリ(2-メチル-1-ビニルイミダゾール)、ポリ(2-ビニルイミダゾール)、ポリ(4-ビニルイミダゾール)、ポリ(2-フェニル-1-ビニルイミダゾール)、ポリ(1-ビニルカルバゾール)、又はポリ((メタ)アクリル酸2-(1H-イミダゾール-1-イル)エチル)等。
【0121】
ピラゾール環を有するビニルポリマー:ポリ(1-ビニルピラゾール)、又はポリ(3-ビニルピラゾール)等。
【0122】
イミダゾリン環を有するビニルポリマー:ポリ(1-ビニル-2-イミダゾリン)、ポリ(1-ビニル-2-メチルイミダゾリン)、ポリ(2-ビニル-2-イミダゾリン)、又はポリ((メタ)アクリル酸2-(1H-イミダゾリン-1-イル)エチル)等。
【0123】
オキサゾール環を有するビニルポリマー:ポリ(2-フェニル-5-ビニルオキサゾール)等。
【0124】
ピリミジン環を有するビニルポリマー:ポリ(5-ビニルピリミジン)、又はポリ(2,4-ジクロロ-6-ビニルピリミジン)等。
【0125】
ピラジン環を有するビニルポリマー:ポリ(2-ビニルピラジン)、ポリ(2,5-ジメチル-3-ビニルピラジン)、又はポリ(2-メチル-5-ビニルピラジン)等。
【0126】
トリアゾール環を有するビニルポリマー:ポリ(2,4-ジアミノ-6-ビニルトリアジン)等。
【0127】
テトラゾール環を有するビニルポリマー:ポリ(1-ビニル-1H-テトラゾール)、ポリ(2-ビニル-2H-テトラゾール)、ポリ(5-ビニル-1H-テトラゾール)、又はポリ(1-メチル-5-ビニル-1H-テトラゾール)等。
【0128】
Bブロックと成り得るポリマーは、より好ましくは、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(1-ビニルイミダゾール)等である。
【0129】
Bブロックにおいて、より高いプロトン伝導率を確保し、イオン性相互作用によって可塑剤の漏出をより抑制できる観点から、プロトン受容性基は、好ましくは、Bブロックを構成する繰り返し単位の10mol%以上の割合で存在する。
【0130】
Bブロックを構成する繰り返し単位中に、プロトン受容性基の存在割合は、好ましくは、15mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、95mol%以上、96mol%以上、又は97mol%以上である。
【0131】
Bブロックを構成する繰り返し単位中に、プロトン受容性基の存在割合は、好ましくは、99.5mol%以下、99mol%以下、98mol%以下、95mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、40mol%以下、又は35mol%以下である。
【0132】
Bブロックは、プロトン供与剤(可塑剤)と組み合わさって、プロトン伝導膜を形成し、それによって高い分子運動性を提供している。
【0133】
Bブロック単独のガラス転移温度(Tg)は、比較的高くても良い。Bブロックのガラス転移温度(Tg)が過度に高いと、プロトン供与剤(可塑剤)と混合された後にも分子運動性が十分に向上しない可能性がある。
【0134】
Bブロックのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、400℃以下、350℃以下、300℃以下、又は250℃以下、200℃以下、150℃以下、100℃以下、50℃以下、0℃以下である。
【0135】
Bブロックは、好ましくは、ガラス転移温度を2つ以上有する。Bブロックがプロトン供与剤(可塑剤)と混ざる事で、この混合物が低いガラス転移温度を有する。それに依って、得られるプロトン伝導膜の使用時に、Bブロックが高い分子運動性を維持する事が出来る。更に遊離プロトンが存在する事に依って、高いプロトン伝導性を実現する事が出来る。
【0136】
ブロック共重合体の配列
Aブロック、及びBブロックによって構成されるブロック共重合体の配列は、特に限定されない。Aブロック、及びBブロックによって構成されるブロック共重合体の配列は、好ましくは、次の型である。
【0137】
AA・・・AABB・・・BBAA・・・AA:トリブロック共重合体、A-B-A型とも記す。
【0138】
AA・・・AABB・・・BBAA・・・AABB・・・BB:テトラブロック共重合体、A-B-A-B型とも記す。
【0139】
本発明の効果をより発揮される観点から、ブロック共重合体は、好ましくは、Aブロック、及びBブロックに依って構成されるA-B-A型のトリブロック共重合体である。
【0140】
A-B-A型のトリブロック共重合体の一例は、式1である。
【0141】
【化1】
【0142】
式中、pは、好ましくは、2以上の整数であり、例えば、2以上、10以上、30以上、50以上、100以上、200以上、500以上、800以上、1,000以上、1,500以上、又は2,000以上である。式中、pは、好ましくは、20,000以下、15,000以下、10,000以下、8,000以下、5,000以下、又は4,000である。
【0143】
式中、qは、好ましくは、1以上の整数であり、例えば、1以上、5以上、15以上、25以上、50以上、又は75以上である。式中、qは、好ましくは、1,000以下、500以下、400以下、250以下、又は150以下である。
【0144】
本発明の効果を損なわない限り、ブロック共重合体には、好ましくは、Aブロック、及びBブロックと異なる、他のモノマー、又はポリマーを更に有する。
【0145】
本発明のプロトン伝導膜では、ブロック共重合体には、好ましくは、ブロック共重合体を製造する際に使用する開始剤、カップリング剤、連鎖移動剤等の残基をポリマー末端部以外には有さない。
【0146】
本発明のプロトン伝導膜が含むブロック共重合体は、特に好ましくは、連鎖移動剤の残基をポリマー末端部以外には有さない。
【0147】
ブロック共重合体に、連鎖移動剤の残基を更に有する場合の例は、式2である。本発明は、下記式2で表される様な、ポリマー中央部にトリチオカーボネートがあるポリマーを採用しない。
【0148】
【化2】
【0149】
式中、-R、及び-S-C(S)-S-は、連鎖移動剤の残基である。
【0150】
式中、mは、例えば、1以上、10,000以下の整数である。
【0151】
式中、nは、例えば、1以上、1,000以下の整数である。
【0152】
本発明のプロトン伝導膜では、好ましくは、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の主鎖は、
末端部以外には、
熱で容易に分解する官能基を有さない、及び/又は、
酸で容易に分解する官能基を有さない、
主鎖である。
【0153】
本発明のプロトン伝導膜では、好ましくは、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、
1箇所の開始点、又は、
2箇所以上の開始点
からモノマーが付加重合して得られる、
ブロック共重合体である。
【0154】
本発明のプロトン伝導膜では、好ましくは、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、前記Aブロックと前記BブロックとをRAFT重合する事に依り製造される、
ポリマーである。
【0155】
本発明のプロトン伝導膜では、好ましくは、
前記RAFT剤は、
1つの硫黄原子のみから重合が進行するトリチオカーボネートユニットを1つ有し、逐次的にAブロック、Bブロック、Aブロックと連結させる事に依り、前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成できる、又は、
1つの硫黄原子のみから重合が進行するトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であり、中央部に炭化水素基を有する前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成でき、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の末端部以外には、前記RAFT剤の残基であるトリチオカーボネートユニットを含まない、
RAFT剤である。
【0156】
本発明のプロトン伝導膜の有用性
燃料電池用の固体電解質膜には、高触媒活性が必要で有り、100℃~150℃程度で使用出来る電解質膜が求められている。
【0157】
従来のA-B-A型のブロックポリマーによるプロトン伝導膜は、Aブロックとして、凝集してドメインを形成する部分と、Bブロックとして、プロトン受容基(ピリジン環基等)を有し、プロトン供与剤中で膨潤してドメイン間を橋掛けする部分とを有し、膜として使用可能な温度は100℃未満である。
【0158】
従来のA-B-A型ポリマー鎖中に、重合工程で形成されるRAFT剤由来の残基が残り、残基部分は熱に不安定である傾向が有る。従来のプロトン伝導膜は、高温で使用すると、ポリマー鎖が切断される事に依り、100℃以上で膜強度が維持出来ない傾向が有る。従来のプロトン伝導膜は、100℃以上の温度で使用すると、その形状、強度等を保持する事が困難と成る傾向が有る。
【0159】
本発明のプロトン伝導膜は、特に、プロトン供与剤、及びA-B-A型のブロックポリマーを有し、Aブロックは、プロトン供与剤中で凝集する部分であり、Bブロックは、プロトン受容基を有する部分であり、従来技術と比較して、特に、Aブロック、及びBブロックは、共に、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上であり、更に、ブロックポリマー鎖の末端部以外には、重合工程で使用するRAFT剤の残基が入っていない事を特徴とする。
【0160】
本発明のプロトン伝導膜は、特に、第一に、ポリマーの末端部以外に残基の入らない重合方法に依り、A-B-A型ブロックポリマーを合成する点と、第二に、Aブロック、及びBブロックに、ガラス転移温度(Tg)が100℃~150℃程度のコポリマーを採用する点を特徴点とする。
【0161】
本発明のプロトン伝導膜では、第一に、ポリマーの末端部以外に残基の入らない重合方法によりA-B-A型ブロックポリマーを作製する。本発明の重合工程では、特定のRAFT剤(可逆付加開裂連鎖移動剤)を用いる事に依り、ポリマーの分子量分布を狭く制御出来、ポリマー末端の制御も容易である。前記重合工程で、好ましく使用するRAFT剤は、硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有する、又は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つのトリチオカーボネートユニット間は化学的に安定な炭化水素基、例えば、ユニット間にエステル、エーテル、アミド等を含まないRAFT剤である。
【0162】
本発明のプロトン伝導膜では、第二に、重合工程で、好ましくは、Aブロック、及びBブロックとして、好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が100℃~150℃程度のコポリマーを採用する。前記Aブロックとして、好ましくは、ポリ4-tert-ブチルスチレン(Tg:150℃)を使用し、前記Bブロックとして、ポリ4-ビニルピリジン(Tg:150℃)を使用する。本発明のプロトン伝導膜は、100℃~150℃で、良好に使用できる。
【0163】
(2)プロトン伝導膜の製造方法
プロトン伝導膜の製造方法(1)
本発明のプロトン伝導膜は、ポリマー、及びプロトン供与剤を含む。
【0164】
本発明のプロトン伝導膜の製造方法(1)は、
1箇所の開始点、又は、2箇所以上の開始点からモノマーが付加重合して、A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む、前記ポリマーを製造する工程を含む。
【0165】
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の主鎖は、末端部以外には、熱で容易に分解する官能基を有さない、及び/又は、酸で容易に分解する官能基を有さない、主鎖である。
【0166】
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成する。
【0167】
前記Bブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、プロトン受容性基を有する。
【0168】
前記ポリマーは、前記Aブロックと前記Bブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む。
【0169】
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けする。
【0170】
前記プロトン伝導膜は、100℃以上で使用可能である。
【0171】
1箇所の開始点、又は、2箇所以上の開始点からモノマーが付加重合して、A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む、前記ポリマーを製造する工程
工程は、逐次的にAブロック、Bブロック、Aブロックと連結させる事に依り、前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成する工程である。
【0172】
A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の主鎖は、末端部以外には、熱で容易に分解する官能基を有さない、及び/又は、酸で容易に分解する官能基を有さない。
【0173】
主鎖は、好ましくは、炭素-炭素の単結合で連結されている。
【0174】
Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成する。
【0175】
Aブロックは、好ましくは、スチレン系のポリマーである。
【0176】
Bブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、プロトン受容性基を有する。
【0177】
Bブロックは、好ましくは、ビニルピリジン系のポリマーである。
【0178】
ポリマーは、AブロックとBブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む。
【0179】
前記Bブロックは、Aブロックのドメイン間を橋架けする。
【0180】
プロトン伝導膜の製造方法(2)
本発明のプロトン伝導膜は、ポリマー、及びプロトン供与剤を含む。
【0181】
プロトン伝導膜の製造方法(2)は、
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、AブロックとBブロックとをRAFT重合する事に依り、ポリマーを製造する工程を含む。
【0182】
前記RAFT剤は、トリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基である。
【0183】
前記Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成する。
【0184】
前記Bブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、プロトン受容性基を有する。
【0185】
前記ポリマーは、前記Aブロックと前記Bブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型の単位を有するブロック共重合体を含む。
【0186】
前記Bブロックは、前記Aブロックのドメイン間を橋架けする。
【0187】
前記プロトン伝導膜は、100℃以上で使用可能である。
【0188】
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、AブロックとBブロックとをRAFT重合する事に依り、ポリマーを製造する工程を含む。
【0189】
RAFT剤は、トリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基である。
【0190】
RAFT剤は、好ましくは、4-[(2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]-4-シアノペンタン酸、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸ペンタフルオロフェニルエステル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸 N-ヒドロキシスクシンイミジル、3-[[(ベンジルチオ)カルボノチオイル]チオ]プロピオン酸、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸、シアノメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]トリチオカーボネート、3-ブテニル-2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン、フタルイミドメチルブチルトリチオカーボネート、2-(2-アルボキシエチルスルファニルチオカルボニルスルファニル)プロピオン酸、4-((((2-カルボキシエチル)チオ)カルボノチオイル)チオ)-4-シアノペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノール、及びシアノメチルドデシルトリチオカーボネート1,4-フェニレンビス(メチレン)ジドデシルビス(カルボノトリチオエート)、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジブチルビス(カルボノトリチオエート)、及び1,4-フェニレンビス(メチレン)ジオクタデシルビス(カルボノトリチオエート)から成る群から選ばれる少なくとも1種のトリチオカーボネートである。
【0191】
Aブロックは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上のポリマーであり、相互に凝集してドメインを形成する。
【0192】
Aブロックは、好ましくは、スチレン系のポリマーである。
【0193】
Bブロックは、プロトン受容性基を有し、好ましくは、ビニルピリジン系のポリマーである。
【0194】
ポリマーは、AブロックとBブロックとが共有結合で繋がれているA-B-A型ブロック共重合体を含む。
【0195】
記Bブロックは、Aブロックのドメイン間を橋架けする。
【0196】
ブロック共重合体の合成
Aブロック、及びBブロックを有するブロック共重合体の合成方法は、アニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合等の付加重合であれば特に限定されない。
【0197】
Aブロック、及びBブロックを有するブロック共重合体の合成方法は、好ましくは、以下の方法を用いる。
【0198】
好ましくは、少量の重合開始剤の存在下、RAFT剤(可逆的付加開裂連鎖移動剤)と、Aブロック(又はBブロック)を構成するモノマーとを重合させた後、単離精製してAブロック(又はBブロック)を含むマクロRAFT剤を合成する。
【0199】
次に、前記マクロRAFT剤とBブロック(又はAブロック)を構成するモノマーとを、少量の重合開始剤存在下重合させる事に依って、Aブロック及びBブロックを有するブロック共重合体を合成する。
【0200】
本発明のプロトン伝導膜では、好ましくは、前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、1箇所の開始点、又は、2箇所以上の開始点からモノマーが付加重合して得られる、ブロック共重合体である。
【0201】
重合開始剤
重合開始剤は、好ましくは、アゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤等である。
【0202】
アゾ系ラジカル重合開始剤:アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート等。
【0203】
過酸化物系ラジカル重合開始剤:ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等。
【0204】
重合開始剤は、これらに限定されない。
【0205】
RAFT剤(可逆的付加開裂連鎖移動剤)
本発明のプロトン伝導膜では、例えば、前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体は、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いて、前記Aブロックと前記BブロックとをRAFT重合する事に依り製造される、ポリマーである。
【0206】
本発明のプロトン伝導膜では、例えば、前記RAFT剤は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有し、逐次的にAブロック、Bブロック、Aブロックと連結させる事に依り、前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成し、又は、
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ以上有し、当該2つ以上のトリチオカーボネートユニット間が炭化水素基であり、中央部に炭化水素基を有する前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体を合成し、
前記A-B-A型の単位を有するブロック共重合体の末端部以外には、前記RAFT剤の残基であるトリチオカーボネートユニットを含まない、RAFT剤である。
【0207】
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を2つ持つトリチオカーボネートユニットを1つ有するRAFT剤の化学構造
R-S-C(=S)-S-R
前記Rは、例えば、同一の官能基である化学構造を採る。
【0208】
前記RAFT剤を用いると、トリチオカーボネートユニットの硫黄原子2つから、両サイドに重合が進行し、以下の構造を有する化合物を製造する。
【0209】
R-polymer-S-C(=S)-S-polymer-R
polymerの中央部に、トリチオカーボネートユニットが残基として残り、100℃~150℃程度の中温域では、プロトン伝導膜としての使用に耐えられない傾向が有る。
【0210】
硫黄原子と隣接炭素原子間にモノマーが挿入されるように重合が進行しうる箇所を1つ持つトリチオカーボネートユニットを2つ(以上)有するRAFT剤
R1-S-C(=S)-S-R2-S-C(=S)-S-R3
前記R1とR3は、好ましくは、同一の官能基である化学構造を採る。
【0211】
前記RAFT剤を用いると、R1の隣のS、R3の隣のSからは、重合が進行しない、以下の構造を有する化合物を製造する。
【0212】
R1-S-C(=S)-S-polymer-R2-polymer-S-C(=S)-S-R3
末端部の-S-C(=S)-S-R3、R1-S-C(=S)-S-は、剥がれ落ちる可能性は有る。
【0213】
R2が、熱、酸等に強く、ポリマーに大きな影響を受けず、100℃~150℃程度の中温域では、プロトン伝導膜としての使用に耐えられる。
【0214】
本発明は、RAFT重合に限らず、一般的に、ポリマーの中央部に、熱、酸等に弱い残基が入る合成法は、好ましくない。本発明は、例えば、カップリング法で合成する場合、エステル、エーテル部位を持つものは。好ましくない。
【0215】
好ましいRAFT剤
RAFT剤は、好ましくは、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカーボネート、及びキサンタート等のチオカルボニルチオ化合物が挙げられる。
【0216】
RAFT剤は、好ましくは、ビス(n-オクチルメルカプト-チオカルボニル)ジスルフィド、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、S,S’-ビス(α,α’-ジメチル-α’’-酢酸)トリチオカーボネート、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸、シアノメチルドデシルトリチオカーボネート、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオネート、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジドデシルビス(カルボノトリチオエート)、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジブチルビス(カルボノトリチオエート)、及び1,4-フェニレンビス(メチレン)ジオクタデシルビス(カルボノトリチオエート)等である。
【0217】
RAFT剤は、これらに限定されない。
【0218】
RAFT剤は、好ましくは、4-[(2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]-4-シアノペンタン酸、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸ペンタフルオロフェニルエステル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸 N-ヒドロキシスクシンイミジル、3-[[(ベンジルチオ)カルボノチオイル]チオ]プロピオン酸、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸、シアノメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]トリチオカーボネート、3-ブテニル-2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン、フタルイミドメチルブチルトリチオカーボネート、2-(2-アルボキシエチルスルファニルチオカルボニルスルファニル)プロピオン酸、4-((((2-カルボキシエチル)チオ)カルボノチオイル)チオ)-4-シアノペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノール、及びシアノメチルドデシルトリチオカーボネート、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジドデシルビス(カルボノトリチオエート)、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジブチルビス(カルボノトリチオエート)、及び1,4-フェニレンビス(メチレン)ジオクタデシルビス(カルボノトリチオエート)から成る群から選ばれる少なくとも1種のトリチオカーボネートである。
【0219】
RAFT剤を適宜に選択する事に依って、目的とするブロック共重合体の配列を合成する事が出来る。
【0220】
Aブロック、及びBブロックの平均重合度
Aブロックの平均重合度は、特に限定されない。
【0221】
Aブロックの平均重合度は、好ましくは、2以上、10以上、30以上、50以上、100以上、又は150以上である。Aブロックの平均重合度は、2以上であれば、プロトン伝導膜の使用温度において、Aブロックが相互に凝集してドメインを形成し易く成る。
【0222】
Aブロックの平均重合度は、好ましくは、2,000以下、1,000以下、800以下、500以下、又は300以下である。Aブロックの平均重合度は、10,000以下であれば、試料として取り扱い易く成る。
【0223】
例えば、A-B-A型のトリブロック共重合体の場合、Aブロックの平均重合度は、含まれるAブロックの成分の合計平均重合度の値とする。
【0224】
Bブロックの平均重合度は、特に限定されない。
【0225】
Bブロックの平均重合度は、好ましくは、2以上、10以上、30以上、50以上、100以上、200以上、500以上、800以上、1,000以上、1,500以上、又は2,000以上である。Bブロックの平均重合度は、2以上であれば、可塑剤と混合してより均一な混合相が形成され易く成る。
【0226】
Bブロックの平均重合度は、好ましくは、20,000以下、15,000以下、10,000以下、8,000以下、5,000以下、又は4,000である。Bブロックの平均重合度は、20,000以下であれば、プロトン伝導膜の酸性度又は塩基性度を調整し易く成る。
【0227】
本発明において、平均重合度は、1H-NMR法に依って求める事が出来る。
【0228】
プロトン供与剤(可塑剤)
本発明のプロトン伝導膜が含むプロトン供与剤(可塑剤)は、好ましくは、プロトン輸送に関わるプロトン供与性化合物を含み、ポリマーであるBブロック(第2の部分)とよく溶解し、十分に浸透している。
【0229】
本発明のプロトン伝導膜に含まれるプロトン供与剤(可塑剤)は、好ましくは、pKa2.5以下、pKa2.3以下、pKa2.1以下、pKa2.0以下、pKa1.0以下、pKa0.0以下、pKa-1.0以下、又はpKa-2.0以下のプロトン供与性化合物を含む。プロトン供与剤(可塑剤)は、酸性度が大きいプロトン供与性化合物、プロトンを放出する傾向が大きい化合物を含む。
【0230】
本発明において、pKaは、25℃水中での酸解離定数とし、硫酸、又はリン酸の様に多段階解離する化合物は、第一段階解離における値pKa1の事である。
【0231】
例えば、硫酸のpKaは-3.0、リン酸のpKaは1.83である(参考文献:「化学便覧」、改訂5版、日本化学会、pp.II-332-333、「Evans group pKa table,Harvard University」)。
【0232】
プロトン供与性化合物は、好ましくは、硫酸、リン酸、又はエタンジスルホン酸、若しくは4-ヒドロキシベンゼン-1,3-ビス(スルホン酸)等の有機酸である。プロトン供与性化合物は、より好ましくは、硫酸及びリン酸から選択される1種以上である。
【0233】
プロトン供与性化合物は、好ましくは、プロトン伝導膜の使用温度において揮発蒸散、又は分解しない程度の高い沸点、又は分解温度を有する。この観点から、プロトン供与性化合物の沸点、又は分解温度は、好ましくは、120℃超、150℃以上、又は200℃以上である。
【0234】
プロトン供与剤が含むプロトン供与性化合物は、好ましくは、硫酸、及びリン酸から成る群から選択される1種以上のプロトン供与性化合物であり、硫酸、又はリン酸である。硫酸の沸点は、約290℃(分解)である。リン酸の沸点は約213℃(分解)である。
【0235】
プロトン供与剤(可塑剤)は、好ましくは、プロトン供与性化合物のみから構成される、或は、プロトン供与性化合物とその他の可塑剤とから構成される。
【0236】
好ましくは、その他のプロトン供与性を有さない可塑剤を併用する。その他のプロトン供与性を有さない可塑剤は、好ましくは、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリオールエステル等である。
【0237】
その他の可塑剤の使用割合は、可塑剤の全質量を100質量部とする時に、好ましくは、50質量部以下、30質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は1質量部以下とする、又はその他の可塑剤を全く使用しない。
【0238】
本発明において、アルキレン基は、メチレン基、アルキルメチレン基、及びジアルキルメチレン基を包含する概念である。
【0239】
プロトン受容性基に対するプロトン供与性化合物のモル比
プロトン受容性基に対するプロトン供与性化合物のモル比(プロトン供与性化合物/プロトン受容性基)は、特に限定されない。
【0240】
プロトン受容性基に対するプロトン供与性化合物のモル比(プロトン供与性化合物/プロトン受容性基)は、好ましくは、プロトン供与性化合物が可塑剤としての機能を確保する観点から、1.0以上、1.1以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2.0以上、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.4以上、2.5以上、2.6以上、2.7以上、2.8以上、2.9以上、3.0以上、3.1以上、3.4以上、3.5以上、3.6以上、3.7以上、3.8以上、3.9以上、4.0以上、4.1以上、4.2以上、又は4.3以上である。
【0241】
前記モル比の上限は、特に限定されない。モル比の上限は、好ましくは、膜強度を維持し、膜としての安定性を確保する観点から、10.0以下、9.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.5以下、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.4以下、又は4.3以下である。
【0242】
ブロック共重合体とプロトン供与剤(可塑剤)との割合
ブロック共重合体とプロトン供与剤(可塑剤)との使用割合は、得られるプロトン伝導膜の分子運動性を高め、十分に高いプロトン伝導性を得る観点から、ブロック共重合体、及びプロトン供与剤(可塑剤)の合計100質量部に対するプロトン供与剤(可塑剤)の使用割合は、好ましくは、50質量部以上、60質量部以上、65質量部以上、70質量部以上、75質量部以上、又は80質量部以上である。
【0243】
膜強度を維持し、膜としての安定性を確保する観点から、ブロック共重合体、及びプロトン供与剤(可塑剤)の合計100質量部に対するプロトン供与剤(可塑剤)の使用割合は、90質量部以下、85質量部以下、82質量部以下、80質量部以下、75質量部以下、70質量部以下、又は65質量部以下である。
【0244】
本発明において、プロトン供与剤(可塑剤)に含まれる、好ましくは、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物によって供与可能なプロトンの総モル数は、好ましくは、前記プロトン受容性基によって受容可能なプロトンの総モル数よりも多い。
【0245】
プロトン伝導膜の性質
プロトン伝導膜の形態
本発明のプロトン伝導膜は、100℃以上で使用可能であり、特に、100℃以上、150℃以下の中温域で使用可能である。本発明のプロトン伝導膜は、好ましくは、無水系プロトン伝導膜であり、燃料電池に好適に使用出来る。
【0246】
本発明のプロトン伝導膜は、100℃以上の温度範囲において、好ましくは、粘弾性固体である。
【0247】
前記粘弾性固体は、粘性、及び弾性を有する固体であって、流動性を示さず、形状を維持する固体を意味する。粘弾性固体である物質は、応力を加えて小さな変形を生じさせる時に、変形に対する応力が、変形直後に最大に成り、時間の経過と共に低下するものの、最終的に0ではない一定値と成る性質を有する。粘弾性固体である物質は、その状態で変形させていく応力を取り除くと、変形が小さくなり、場合によっては元の形に戻る性質を有している。
【0248】
本発明のプロトン伝導膜では、プロトン供与剤(可塑剤)は、プロトン供与性化合物を含み、プロトンを供与してアニオン化する。Bブロックのプロトン受容性基は、プロトンを受容してカチオン化する事に依って、プロトン供与剤(可塑剤)のプロトン供与性化合物とBブロックのプロトン受容性基との間に、静電気的相互作用が働き、プロトン供与剤(可塑剤)としてのプロトン供与性化合物がプロトン伝導膜に留まる。
【0249】
前記作用に依り、プロトン伝導膜の全体として粘弾性固体の状態を維持出来る。
【0250】
この様な粘弾性固体は、その特徴的な力学特性(柔軟性)に依り、プロトン伝導膜内での分子運動を促進し、それに依ってプロトン伝導性を促進する。
【0251】
プロトン伝導膜の膜厚
本発明のプロトン伝導膜は、成形加工性に優れ、ホットメルト法、溶媒キャスト法等に依り製膜出来る事から、従来のプロトン伝導膜に比べて、薄膜化する事が出来る。
【0252】
本発明のプロトン伝導膜の膜厚は、好ましくは、1.00mm以下、0.90mm以下、0.80mm以下、0.75mm以下、0.73mm以下、0.72mm以下、0.71mm以下、0.70mm以下、0.68mm以下、0.65mm以下、0.60mm以下、0.55mm以下、0.50mm以下、0.45mm以下、0.40mm以下、0.35mm以下、0.30mm以下、0.28mm以下、0.25mm以下、0.23mm以下、又は0.20mm以下である。
【0253】
この膜厚は、好ましくは、0.05mm以上、又は0.10mm以上である。
【0254】
プロトン伝導膜のガラス転移温度
本発明のプロトン伝導膜は、ブロック共重合体、及びプロトン供与剤(可塑剤)を含む事に依り、膜の全体として高い分子運動性を示す。プロトン伝導膜の高い分子運動性は、ガラス転移温度(Tg)が低い事に依って評価する事が出来る。
【0255】
本発明のプロトン伝導膜では、導入されているプロトン供与剤(可塑剤)自身の分子運動性が高い事と並んで、Bブロック(第2の部分)とプロトン供与剤(可塑剤)とから成る混合物としてのガラス転移温度(Tg)が低い。
【0256】
本発明のプロトン伝導膜は、低温においても分子運動性を維持する事が出来、従って高いプロトン伝導性を得る事が出来る。
【0257】
プロトン伝導膜のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、プロトン伝導膜の使用温度の下限値以下であり、より好ましくは、室温未満、5℃未満、2℃以下、0℃以下、-20℃以下、-40℃以下、-60℃以下、-65℃以下、-70℃以下、-75℃以下、-80℃以下、-84℃以下、-85℃以下、又は-85℃未満であってもよい。
【0258】
本発明のガラス転移温度(Tg)は、10℃/分の昇温速度で測定して得られたDSC曲線に基づいて、JIS K 7121:2012に準拠して得られた値である。
【0259】
プロトン伝導膜のプロトン伝導率
本発明のプロトン伝導膜は、低湿、又は無水環境下で、高いプロトン伝導率を示す。
【0260】
本発明のプロトン伝導膜のプロトン伝導率は、50℃低湿、又は無水環境下において、好ましくは、0.003S/cm以上であり、0.0032S/cm以上、0.005S/cm以上、0.010S/cm以上、0.014S/cm以上、0.015S/cm以上、0.030S/cm以上、0.040S/cm以上、0.050S/cm以上、0.075S/cm以上、0.080S/cm以上、0.090S/cm以上、又は0.095S/cm以上である。
【0261】
本発明のプロトン伝導膜のプロトン伝導率は、120℃低湿、又は無水環境下において、好ましくは、0.010S/cm以上、0.020S/cm以上、0.030S/cm以上、0.050S/cm以上、0.075S/cm以上、0.100S/cm以上、0.125S/cm以上、0.150S/cm以上、0.175S/cm以上、又は0.200S/cm以上である。
【0262】
プロトン伝導膜の水含有率
本発明のプロトン伝導膜は、膜中に水を含有しない場合でも、高いプロトン伝導率を示す。プロトン伝導膜の水含有率は、膜の全質量を100質量部とする時に、好ましくは、1質量部以下、0.1質量部以下、0.01質量部以下、又は0.001質量部以下である。
【0263】
プロトン伝導膜の作製
本発明のプロトン伝導膜は、好ましくは、ブロック共重合体に、プロトン供与剤(可塑剤)を導入する事に依って作製できる。ブロック共重合体へのプロトン供与剤(可塑剤)の導入は、特に限定されない。
【0264】
ブロック共重合体へのプロトン供与剤(可塑剤)の導入は、好ましくは、次の工程(i)~(iv)によって行う。
【0265】
工程(i)
(i)ブロック共重合体を溶媒中に溶解、又は分散させて、ブロック共重合体の溶液、又は分散液を調製する工程。
【0266】
用いる溶媒は、好ましくは、比較的容易に蒸発する溶媒、より好ましくは、揮発性溶媒である。溶媒は、好ましくは、メタノール、エタノール等アルコール系溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;ピリジン等のピリジン系溶媒;水、及びこれらの混合溶媒等である。溶媒は、これらに限定されない。
【0267】
工程(ii)
(ii)工程(i)で得られたブロック共重合体の溶液、又は分散液の溶媒を除去して、ブロック共重体膜を形成する工程。
【0268】
溶媒を除去する手段は、特に限定されない。溶媒を除去する手段は、好ましくは、室温、又は加熱による蒸発である。適宜、好ましくは、乾燥等の操作を加える。
【0269】
工程(iii)
(iii)プロトン供与剤(可塑剤)を溶媒中に溶解、又は分散させて、プロトン供与剤(可塑剤)の溶液、又は分散液を調製する工程。
【0270】
用いる溶媒は、好ましくは、ブロック共重合体、及びプロトン供与剤(可塑剤)との親和性が高く、強酸に安定な極性溶媒から選択される。用いる溶媒は、好ましくは、比較的容易に蒸発する溶媒である。用いる溶媒は、好ましくは、水、メタノール、エタノール等アルコール系溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;等である。用いる溶媒は、これらに限定されない。
【0271】
溶媒の使用量は、プロトン供与剤(可塑剤)、及び工程(ii)で得られたブロック共重体膜の合計100質量部に対して、好ましくは、500質量部以上、750質量部以上、1,000質量部以上、1,250質量部以上、又は1,500質量部以上である。
【0272】
溶媒の使用量は、プロトン供与剤(可塑剤)、及び工程(ii)で得られたブロック共重体膜の合計100質量部に対して、好ましくは、5,000質量部以下、4,500質量部以下、4,000質量部以下、3,500質量部以下、又は3,000質量部以下である。
【0273】
工程(iv)
(iv)工程(ii)で得られたブロック共重体膜を、工程(iii)で調製したプロトン供与剤(可塑剤)の溶液、又は分散液中に浸漬させて、そして、溶媒を除去する事に依り、本発明のプロトン伝導膜を得る工程。
【0274】
溶媒を除去する手段は、特に限定されない。溶媒を除去する手段は、好ましくは、室温、又は加熱に依る蒸発である。溶媒を除去する手段は、適宜、乾燥等の操作を加える。
【0275】
本発明のプロトン伝導膜を膜状に成形する事は、前記工程(iv)において、溶媒を除去する前に、好ましくは、キャスト法、プレス法等の方法に依って、適宜行う。又は、上記工程(iv)を経た後、好ましくは、ホットメルト法等の方法に依って行う。
【0276】
好ましいプロトン伝導膜の製造方法1(図2
本発明のプロトン伝導膜の製造方法として、好ましい第1の態様は、ポリマーの末端部以外に残基の入らない重合方法に依り、A-B-A型ブロックポリマーを作製する方法である。
【0277】
RAFT剤(可逆付加開裂連鎖移動剤):RAFT剤を用いる事に依り、分子量分布を狭く、ポリマー末端の制御が容易である。トリチオカーボネートユニットを2つ以上有するRAFT剤で、前記2つ以上のトリチオカーボネートユニット間は、化学的に安定な炭化水素基をするRAFT剤を用いる。
【0278】
ユニット間に、エステル、エーテル、アミド等が含まれる事は好ましくない。
【0279】
本発明のプロトン伝導膜は、100℃~150℃で使用可能である。
【0280】
好ましいプロトン伝導膜の製造方法2(図3
本発明のプロトン伝導膜の製造方法として、好ましい第2の態様は、Aブロック、及びBブロックに、ガラス転移温度(Tg)が100℃~150℃のコポリマーを採用する重合方法に依り、A-B-A型ブロックポリマーを作製する方法である。
【0281】
好ましいAブロック:ポリ4-tert-ブチルスチレン(Tg:150℃)
好ましいBブロック:ポリ2-ビニルピリジン(Tg:100℃)、ポリ4-ビニルピリジン(Tg:150℃)
本発明のプロトン伝導膜は、100℃~150℃で使用可能である。
【0282】
(3)燃料電池
本発明の燃料電池は、本発明のプロトン伝導膜を有する。
【0283】
本発明の燃料電池は、好ましくは、燃料流路を有する燃料極側セパレータ、燃料極側触媒層、本発明のプロトン伝導膜、空気極側触媒層、及び空気流路を有する空気極側セパレータがこの順で積層された積層体を有する。
【0284】
本発明の燃料電池は、好ましくは、燃料流路を有する燃料極側セパレータ、燃料極側ガス拡散層、燃料極側触媒層、本発明のプロトン伝導膜、空気極側触媒層、空気極側ガス拡散層、及び空気流路を有する空気極側セパレータがこの順で積層された積層体を有する。
【実施例0285】
以下、本発明を、実施例の形式で詳細に説明する。
【0286】
以下の実施例は、本発明の用途を何ら限定するものではない。
【0287】
(1)実施例1
実施例1のプロトン伝導性電解質膜の作製
実施例1では、下記スキーム1に従った。
【0288】
第1工程
RAFT剤残基であるトリチオカーボネート(S-C(=S)-S))基が分子鎖の中央部には存在せず、両端に存在し、ガラス転移温度(Tg)が100℃よりも高いaブロックを有するabaトリブロック共重合体として、ポリ(4-tert-ブチルスチレン)-b-ポリ(2-ビニルピリジン)-b-ポリ(4-tert-ブチルスチレン)(以下、「BPBトリブロック共重合体」とも称する。)を合成した。
【0289】
第2工程
前記BPBトリブロック共重合体膜(単に「BPB膜」とも称する。)を硫酸(H2SO4)(プロトン供与剤(可塑剤))で膨潤させる事に依って、実施例1のプロトン伝導性電解質膜を作製した。
【0290】
BPBの、両端のBは、ポリ(4-tert-ブチルスチレン)の略号であり、プロトン伝導性電解質膜の使用温度において、相互に凝集してガラス状態のドメインを形成しており、本発明のaブロックである。また、中央のPは、ポリ(2-ビニルピリジン)の略号であり、本発明のbブロックである。
【0291】
【化3】
【0292】
(1-1)第1工程
工程1-1
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製の2-ビニルピリジンモノマーを通す事で、2-ビニルピリジンモノマーを精製した。
【0293】
次いで、精製した2-ビニルピリジンモノマー、RAFT剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を、夫々、49 g(0.47 mol)、187 mg(0.269 mmol)、13 mg(0.073 mmol)ずつ量り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合させる事に依って、溶液を調製した。
【0294】
次いで、窒素ガスで55分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において、500 rpmで攪拌させながら重合を行った。
【0295】
2時間後にフラスコを液体窒素中に漬ける事で重合反応を完全に停止させた。
【0296】
RAFT剤は、1,4-フェニレンビス(メチレン)ジドデシルビス(カルボノトリチオエート)を使用した。
【0297】
2-ビニルピリジンモノマーとRAFT剤とのモル比は、およそ1730:1とした。
【0298】
前記反応溶液にクロロホルム(良溶媒)を添加し、約8質量%のポリマー溶液を調製した。
【0299】
次いで、ポリマー溶液を約1200 mLのヘキサン(貧溶媒)中に滴下して、粉末状のポリマー(ポリ(2-ビニルピリジン)粗精製物)を析出させた。
【0300】
次いで、得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させた後に、再び、クロロホルム中に溶解させ、ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。
【0301】
ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去し、精製したポリ(2-ビニルピリジン)を得た。
【0302】
次いで、精製したポリ(2-ビニルピリジン)を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、プロトン核磁気共鳴分光(1H-NMR)法により、平均重合度を決定した。
【0303】
平均重合度は1180、平均分子量は約12万であった。
【0304】
次いで、精製したポリスチレンをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して約0.3質量%の溶液を調製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量分布(Mw/Mn)を決定した。分子量較正用に標準ポリスチレンを用いた。
【0305】
その結果、Mw/Mn=1.73であった。溶出液はTHF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラムGMHHR-Mを2本連結させた状態で測定を行った。
【0306】
工程1-2
前記工程1-1で得られた精製ポリ(2-ビニルピリジン)は、その両端部にRAFT剤残基が導入されている。これをマクロRAFT剤(分子量の大きなRAFT剤であるので、「マクロRAFT剤」と呼ぶ。)として、4-tert-ブチルスチレンモノマーとの重合を行った。
【0307】
4-tert-ブチルスチレンモノマーは、n-ブチル-sec-ブチルマグネシウムのヘキサン溶液(濃度0.7 M)をモノマーの10分の1の体積量混合し、約1時間撹拌した後にアルミナカラムを通すことで精製した。
【0308】
次いで、精製した4-tert-ブチルスチレンモノマー、マクロRAFT剤、AIBN、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を、夫々、9.53 g(0.0595 mol)、10.0 g(0.0810 mmol)、1.4 mg(0.0081 mmol)、9.4 gずつ量り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合させることで溶液を調製した。
【0309】
次いで、窒素ガスで25分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて120℃、500 rpmにおいて攪拌させながら重合を行った。
【0310】
4.5時間後にフラスコを液体窒素中に漬ける事で重合反応を完全に停止させた。
【0311】
4-tert-ブチルスチレンモノマーとマクロRAFT剤とのモル比は、おおよそ735:1とした。
【0312】
前記反応溶液にクロロホルムを添加し、約8質量%のポリマー溶液を調製した。
【0313】
次いで、ポリマー溶液を約300mLのアセトニトリル中に滴下して、粉末状のBPBトリブロック共重合体粗精製物を析出させた。
【0314】
次いで、得られたポリマーをデカンテーションにより分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させた後に、再びクロロホルム中に溶解させ、ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。
【0315】
ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去し、精製したBPBトリブロック共重合体を得た。
【0316】
実施例1の精製したBPBトリブロック共重合体をBPB-1とも称する。
【0317】
BPB-1を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H-NMR法に依り、平均重合度を決定した。
【0318】
aブロック(Bブロック)成分の合計の平均重合度は227、bブロック(Pブロック)成分の平均重合度は1180であり、全体の数平均分子量は約16万であった。
【0319】
ポリ(4-tert-ブチルスチレン)の密度は0.94g/cm3、ポリ(2-ビニルピリジン)の密度は1.14g/cm3であることから、BPB-1におけるポリ(4-tert-ブチルスチレン)の体積分率は26%であった。
【0320】
BPB-1をTHFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、GPCによりMw/Mnを決定したところ、Mw/Mn=1.64であった。溶出液はTHF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラムGMHHR-Mを2本連結させた状態で測定を行った。
【0321】
(1-2)第2工程
前記得られたBPB-1約1gを、ピリジン溶媒約10gに溶解させた。
【0322】
次いで、溶液をパーフルオロアルコキシアルカン(以下、PFAと称する)製容器(内径4 cm)に注ぎ、50℃で約X日間静置させる事で、揮発性溶媒(ピリジン)を蒸発させた。
【0323】
次いで、真空乾燥器を用いて、50℃で約1日間乾燥させる事で、揮発性溶媒を完全に除去し、BPB-1膜を得た。
【0324】
濃硫酸(97%)0.89 gを水とメタノール(重量比1:1)の混合溶媒20 mLに溶解した溶液をPFA製容器(内径4 cm)に注ぎ、その溶液中にBPB-1膜269 mgを浸漬させ、40℃で約2日間静置させる事で揮発性溶媒(水とメタノール)を蒸発させた。
【0325】
その後、真空乾燥器を用いて、50℃で約2日間乾燥させる事で、揮発性溶媒を完全に除去し、BPB-1膜をH2SO4(プロトン供与剤(可塑剤))で、膨潤させたBPB-1/H2SO4膜1.13 g(厚さ0.60 mm)を実施例1のプロトン伝導性電解質膜として得た。
【0326】
実施例1のプロトン伝導性電解質膜では、BPB-1とH2SO4の重量比は24:76であり、ピリジル基(即ち、ピリジン環基)に対する硫酸のモル比は4.3であった。
【0327】
(1-3)評価
ガラス転移温度(Tg)の測定
前記得られた実施例1のプロトン伝導性電解質膜の試料について、JIS K 7121:2012に準拠し、昇温速度10℃/分の条件にて、-85℃~200℃の温度範囲で示差走査熱量(DSC)測定を行ったところ、図5のDSCサーモグラムが得られ、2つのTgが見られた。
【0328】
Tgの1つは-76℃であり、プロトン伝導膜の使用温度(例えば、室温以上150℃以下の範囲)よりも低く、これはbブロック(Pブロック)とH2SO4(プロトン供与剤(可塑剤))の混合相に由来するものと考えられる。
【0329】
もう1つのTgはaブロック(Bブロック)に由来するもので、148℃であり、プロトン伝導膜の使用温度(例えば、150℃以下の温度)よりも高かった。
【0330】
それ故、実施例1のプロトン伝導性電解質膜は、100℃以上、150℃以下の高温でも膜として利用できることが示唆された。
【0331】
交流インピーダンス測定
厚さ0.1mmの白金網を電極として用い、実施例1のプロトン伝導性電解質膜の試料に対して交流インピーダンス測定を行った。
【0332】
電極間距離を0.70cmとして対向配置した一対の電極間に、短冊状に切り取った実施例1のプロトン伝導性電解質膜の試料(厚さ0.58 mm、幅2.44 mm、長さ約1 mm)を挟み込んだ。電極間に挟み込んだ試料を小型環境試験機SH-242(エスペック社製)に入れて、温度140℃、相対湿度が実質0%RHの条件下で1時間以上乾燥させた。
【0333】
温度、相対湿度の測定にはプロフェッショナル温湿度計testo635-2(テストー社製)を用いた。
【0334】
温度125℃、相対湿度が実質0%RHにおいてポテンショ/ガルバノスタットVSP-300(BioLogic社製)を用いて、電圧50mV、周波数を106Hzから100Hzの範囲で変化させて、無加湿条件下で交流インピーダンス測定を行った。
【0335】
ナイキストプロットにおける実軸との交点から膜の抵抗値を読み取った処、2.2×102Ωであった。
【0336】
下記数式(1)によってこのプロトン伝導性電解質膜の試料のプロトン伝導率を求めた処、0.23 S/cmであった。この結果は、加湿したナフィオン(登録商標)膜に匹敵する非常に高いプロトン伝導率である。
【0337】
プロトン伝導率=電極間距離/(膜の厚さ×膜の幅×抵抗値) (1)
【0338】
次いで、測定条件を温度110℃、相対湿度が実質0%RHで交流インピーダンス測定を行った処、抵抗値の絶対値が、ほぼ一定と成る周波数領域における抵抗値は2.6×102Ωであり、プロトン伝導率は0.19 S/cmであった。
【0339】
測定条件を温度95℃、相対湿度が実質0%RHで交流インピーダンス測定を行った処、抵抗値の絶対値が、ほぼ一定と成る周波数領域における抵抗値は3.1×102Ωであり、プロトン伝導率は0.16 S/cmであった。
【0340】
測定条件を温度80℃、相対湿度が実質0%RHで交流インピーダンス測定を行った処、抵抗値の絶対値が、ほぼ一定と成る周波数領域における抵抗値は4.0×102Ωであり、プロトン伝導率は0.12 S/cmであった。
【0341】
測定条件を温度65℃、相対湿度が実質0%RHで交流インピーダンス測定を行った処、抵抗値の絶対値が、ほぼ一定と成る周波数領域における抵抗値は5.3×102Ωであり、プロトン伝導率は0.092 S/cmであった。
【0342】
測定条件を温度50℃、相対湿度が実質0%RHで交流インピーダンス測定を行った処、抵抗値の絶対値が、ほぼ一定と成る周波数領域における抵抗値は7.5×102Ωであり、プロトン伝導率は0.066 S/cmであった。
【0343】
測定条件を温度35℃、相対湿度が実質0%RHで交流インピーダンス測定を行った処、抵抗値の絶対値が、ほぼ一定と成る周波数領域における抵抗値は1.1×103Ωであり、プロトン伝導率は0.043 S/cmであった。
【0344】
測定条件を温度20℃、相対湿度が2.9%RHで交流インピーダンス測定を行った処、抵抗値の絶対値が、ほぼ一定と成る周波数領域における抵抗値は1.9×103Ωであり、プロトン伝導率は0.026 S/cmであった。
【0345】
実施例1のプロトン伝導率の測定結果を、表1及び図4に示す。
【0346】
図4中では、●と実線で表されている。
【0347】
実施例1のプロトン伝導性電解質膜は、Tgが100℃以上のポリ(4-tert-ブチルスチレン)成分を有しながらも、温度の上昇に伴ってプロトン伝導率が大きくなる傾向が見られた。これは、温度の上昇に伴って擬流動状態のプロトン伝導混合相の分子運動性が上がり、その結果プロトン伝導性が向上した事に因ると考えられる。
【0348】
(2)実施例2
実施例2では、下記スキーム2に従った。
【0349】
第1工程
RAFT剤残基であるトリチオカーボネート(S-C(=S)-S))基が分子鎖の中央部には存在せず、片末端にのみ存在するBPBトリブロック共重合体を合成した。
【0350】
第2工程
BPB膜をH2SO4で膨潤させる事に依って、実施例2のプロトン伝導性電解質膜を作製した。
【0351】
【化4】
【0352】
(2-1)第1工程
工程1-1
実施例1の工程1-2と同様にして精製した4-tert-ブチルスチレンモノマー、RAFT剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジエチルベンゼンを、夫々8.8 g(0.055 mol)、188 mg(0.516 mmol)、8.4 mg( 0.0515 mmol)、8.7 gずつ量り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合させることによって溶液を調製した。
【0353】
次いで、窒素ガスで65分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて130℃において、500rpmで攪拌させながら重合を行った。
【0354】
6時間後にフラスコを液体窒素中に漬ける事で、重合反応を完全に停止させた。
【0355】
RAFT剤としては、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸を使用した。
【0356】
4-tert-ブチルスチレンモノマーとRAFT剤とのモル比は、およそ107:1とした。
【0357】
前記反応溶液を約100 mLのソルミックス(貧溶媒)中に滴下して、粉末状のポリマー(ポリ(4-tert-ブチルスチレン)粗精製物)を析出させた。
【0358】
得られたポリマーをデカンテーションにより分離し、真空乾燥に依って、十分に乾燥させた後に、クロロホルム(良溶媒)中に溶解させ、ソルミックス中に滴下してポリマーを析出させた。
【0359】
ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去し、精製したポリ(4-tert-ブチルスチレン)を得た。
【0360】
実施例1と同様にして、1H-NMR測定、GPC測定を行ったところ、この精製したポリ(4-tert-ブチルスチレン)の平均重合度は71、平均分子量は約1.1万、Mw/Mnは1.4であることがわかった。
【0361】
工程1-2
前記工程1-1で得られた精製ポリ(4-tert-ブチルスチレン)は、その方末端部にRAFT剤残基が導入されている。これをマクロRAFT剤として、2-ビニルピリジンモノマーとの重合を行った。
【0362】
実施例1の工程1-1と同様にして2-ビニルピリジンを精製し、精製した2-ビニルピリジンモノマー、マクロRAFT剤、AIBNを、夫々14.6 g(0.139 mol)、0.792 g(0.0695 mmol)、3.3 mg(0.021 mmol)ずつ量り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合させることで溶液を調製した。
【0363】
そして、窒素ガスで30分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃、500rpmにおいて攪拌させながら重合を行った。
【0364】
3.5時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合反応を完全に停止させた。
【0365】
2-ビニルピリジンモノマーとマクロRAFT剤とのモル比は、おおよそ2000:1とした。
【0366】
前記反応溶液にクロロホルムを添加し、約8質量%のポリマー溶液を調製した。
【0367】
次いで、ポリマー溶液を約450 mLのアセトニトリル中に滴下して、粉末状のポリ(4-tert-ブチルスチレン)-b-ポリ(2-ビニルピリジン)ジブロック共重合体(以下、「BPジブロック共重合体」とも称する)粗精製物を析出させた。
【0368】
得られたポリマーをデカンテーションにより分離し、真空乾燥に依って、十分に乾燥させた後に、再びクロロホルム中に溶解させ、アセトニトリル中に滴下してポリマーを析出させた。
【0369】
ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去し、精製したBPジブロック共重合体を得た。
【0370】
この精製したBPジブロック共重合体を「BP-1」とも称する。
【0371】
1H-NMR測定、GPC測定を行った処、BP-1の第1aブロック(Bブロック)成分全体の平均重合度は71、第2bブロック(Pブロック)成分の平均重合度は818、全体の数平均分子量は約9.7万で、Mw/Mn=1.8であった。
【0372】
工程1-3
上述した工程1-2で得られた精製BP-1は、その方末端部にRAFT剤残基が導入されている。マクロRAFT剤として、再度4-tert-ブチルスチレンモノマーとの重合を行った。
【0373】
RAFT剤として工程1-2で得られたマクロRAFT剤を用い、溶媒としてDMFとジエチルベンゼンを用いた以外は、工程1-1と同様にして4-tert-ブチルスチレンを重合した。
【0374】
4-tert-ブチルスチレンモノマーとマクロRAFT剤とのモル比は、おおよそ300:1とした。
【0375】
工程1-2と同様にして粗生成物を精製し、BPBトリブロック共重合体を得た。実施例2の精製したBPBトリブロック共重合体を「BPB-2」とも称する。
【0376】
1H-NMR測定、GPC測定を行った処、BPB-2のaブロック成分全体の平均重合度は219、bブロック成分の平均重合度は818、全体の数平均分子量は約12.1万で、Mw/Mn=1.8であった。
【0377】
(2-2)第2工程
実施例1と同様にして、BPB-2膜をH2SO4で膨潤させ、プロトン伝導性電解質膜(「BPB-2/H2SO4膜」とも称する、厚さ1.0 mm)を作製した。
【0378】
BPB-2とH2SO4の重量比は25:75であり、ピリジル基に対する硫酸のモル比は4.5で、実施例1と、ほぼ等しいものを得た。
【0379】
(2-3)評価
ガラス転移温度の測定
実施例1と同様にしてプロトン伝導性電解質膜のDSC測定を行った処、図5のDSCサーモグラムが得られ、-84℃と151℃にTgが見られた。
【0380】
前者(-84℃のTg)は、プロトン伝導膜の使用温度(例えば室温以上150℃以下の範囲)よりも低く、これはbブロック(Pブロック)とH2SO4の混合相に由来するものと考えられる。
【0381】
後者(151℃のTg)は、aブロック(Bブロック)に由来するもので、プロトン伝導膜の使用温度(例えば140℃以下の温度)よりも高かった。
【0382】
それ故、実施例2のプロトン伝導性電解質膜は、100℃以上の高温でも膜として利用できることが示唆された。
【0383】
交流インピーダンス測定
交流インピーダンス測定を実施例1と同様に行い、無加湿下でのプロトン伝導率を測定した。
【0384】
実施例2のプロトン伝導率の測定結果を、表1及び図4に示す。
【0385】
図4中では■と破線で表されている。
【0386】
無加湿条件下、且つ20℃~140℃の温度の領域において、実施例2のプロトン伝導性膜は0.022~0.23 S/cmの伝導率を示し、実施例1のプロトン伝導性電解質膜と同程度の高いプロトン伝導率を示すことがわかった。
【0387】
(3)比較例1
比較例1では、実施例2の工程1-2で得られたジブロック共重合体、BP-1をH2SO4で膨潤させる事に依って、比較例1のプロトン伝導性電解質膜の作製を試みた。
【0388】
BPB-2とH2SO4の重量比は21:79であり、ピリジル基に対する硫酸のモル比は4.5で、実施例1と、ほぼ等しい混合比のものを得た。
【0389】
実施例2のBPBトリブロック共重合体では、B成分からなる孤立ハードドメイン間をPブロックの分子鎖が橋架けするが、比較例1のBPジブロック共重合体では、B成分からなる孤立ハードドメイン間をPブロックの分子鎖が橋架け出来ない為、100℃以上で膜として使用できないと考えられる。
【0390】
(4)比較例2
比較例2では、下記スキーム3に従った。
【0391】
4-tert-ブチルスチレンモノマーの代わりに、スチレンモノマーを使用した以外は、実施例1と、ほぼ同様にして、RAFT剤残基であるトリチオカーボネート基が分子鎖の中央部には存在せず、両端に存在するポリスチレン-b-ポリ(2-ビニルピリジン)-b-ポリスチレン(以下、「SPSトリブロック共重合体」とも称する。)を合成(Sの合計の数平均重合度307、Pの数平均重合度1180、全体の数平均分子量15.5万、Mw/Mn=1.6、φ=22%、以下、「SPS-1」と称する)した。
【0392】
このSPS-1膜をH2SO4で膨潤させる事に依って、比較例2のプロトン伝導性電解質膜を作製した。
【0393】
SPS-1とH2SO4の重量比は23:77であり、ピリジル基に対する硫酸のモル比は4.4で、そのモル比が実施例2と、ほぼ等しいものを得た。
【0394】
SPSとの文言において、両端のSは、ポリスチレンの略号である。
【0395】
【化5】
【0396】
(4-1)評価
ガラス転移温度の測定
実施例1と同様にしてプロトン伝導性電解質膜のDSC測定を行った処、図6のDSCサーモグラムが得られ、-83℃と100℃にTgが見られた。
【0397】
いずれもプロトン伝導膜の使用温度(例えば室温以上150℃以下の範囲)よりも低い。
【0398】
前者(-83℃のTg)は、BブロックとH2SO4の混合相に由来するものと考えられる。
【0399】
後者(100℃のTg)は、Aブロックに由来するものと考えられる。
【0400】
比較例2のプロトン伝導性電解質膜は100℃以上の高温では十分に膜形状を維持出来ないと考えられる。
【0401】
(5)比較例3
比較例3では、下記スキーム4に従った。
【0402】
第1工程
RAFT剤残基であるトリチオカーボネート基が分子鎖の中央ブロック中に存在するABAトリブロック共重合体として、ポリスチレン-b-ポリ(4-ビニルピリジン)-b-ポリスチレン(以下、「S4PSトリブロック共重合体」とも称する。)を合成した。
【0403】
第2工程
S4PSトリブロック共重合体膜(単に「S4PS膜」とも称する。)をH2SO4で膨潤させることによって、比較例3のプロトン伝導性電解質膜を作製した。
【0404】
S4PSとの文言において、中央の4Pは、ポリ(4-ビニルピリジン)の略号である。
【0405】
【化6】
【0406】
(5-1)第1工程
工程1-1
実施例1の工程1-2と同様にして精製したスチレンモノマー、RAFT剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を、夫々9.1 g(0.088 mol)、136 mg(0.262 mmol)、5.1 mg(0.0311 mmol)ずつ量り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合させる事に依って、溶液を調製した。
【0407】
そして、窒素ガスで40分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて、130℃において、500rpmで攪拌させながら重合を行った。
【0408】
4時間後にフラスコを液体窒素中に漬ける事で重合反応を完全に停止させた。
【0409】
RAFT剤は、S,S’-ビス(α,α’-ジメチル-α’’-酢酸)トリチオカーボネートを使用した。
【0410】
スチレンモノマーとRAFT剤とのモル比は、およそ333:1とした。
【0411】
前記反応溶液にTHF(良溶媒)を添加し、約8質量%のポリマー溶液を調製した。
【0412】
ポリマー溶液を約700 mLのメタノール(貧溶媒)中に滴下して、粉末状のポリマー(ポリスチレン粗精製物)を析出させた。
【0413】
得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させた後に、再び、THF中に溶解させ、メタノール中に滴下してポリマーを析出させた。
【0414】
ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去し、精製したポリスチレンを得た。
【0415】
実施例1と同様にして1H-NMR測定、GPC測定を行った処、この精製したポリスチレンの平均重合度は149、平均分子量は約1.5万、Mw/Mnは1.2である事がわかった。
【0416】
工程1-2
前記工程1-1で得られた精製ポリスチレンは、その方末端部にRAFT剤残基が導入されている。これをマクロRAFT剤として、4-ビニルピリジンモノマーとの重合を行った。
【0417】
実施例1の工程1-1と同様にして4-ビニルピリジンを精製し、精製した4-ビニルピリジンモノマー、マクロRAFT剤、AIBNを、夫々39 g(0.37 mol)、0.917 g(0.0611 mmol)、30.2 mg(0.184 mmol)ずつ量り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合させる事で溶液を調製した。
【0418】
そして窒素ガスで40分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃、500rpmにおいて攪拌させながら重合を行った。
【0419】
40分後にフラスコを液体窒素中に漬ける事で重合反応を完全に停止させた。
【0420】
4-ビニルピリジンモノマーとマクロRAFT剤とのモル比は、おおよそ5670:1とした。
【0421】
前記反応溶液にクロロホルムを添加し、約8質量%のポリマー溶液を調製した。
【0422】
このポリマー溶液を約1500 mLのヘキサン中に滴下して、粉末状のS4PSトリブロック共重合体粗精製物を析出させた。
【0423】
得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させた後に、再びクロロホルム中に溶解させ、ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。
【0424】
ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去し、精製したS4PSトリブロック共重合体を得た。
【0425】
比較例3の精製したS4PSトリブロック共重合体を「S4PS-1」とも称する。
【0426】
1H-NMR測定、GPC測定を行った処、S4PS-1のaブロック(Sブロック)成分全体の平均重合度は149、bブロック(4Pブロック)成分の平均重合度は1270、全体の数平均分子量は約14.9万、Mw/Mn=1.7であった。
【0427】
(5-2)第2工程
実施例1と同様にして、S4PS-1膜をH2SO4で膨潤させ、プロトン伝導性電解質膜(「S4PS-1/H2SO4膜」とも称する、厚さ約0.7 mm)を作製した。
【0428】
S4PS-1とH2SO4の重量比は20:80であり、ピリジル基に対する硫酸のモル比は4.9で、実施例1と、ほぼ等しいものを得た。
【0429】
(6)表1及び2
【0430】
【表1】
【0431】
【表2】
【0432】
(7)実施例のまとめ
実施例1は、二官能性RAFT剤を用いた例である。
【0433】
実施例2は、逐次的にA、B、Aと3段階で、A-B-Aトリブロック共重合体を合成する方法である。実施例2の方法に依り、ポリマー中央部に分解性の残基は入らない。
【0434】
本発明のプロトン伝導膜では、ポリマーの中央部は、熱、酸等で分解し易い残基を有さず、且つ、ポリマーのエンドブックは、ガラス転移温度が150℃程度である。本発明のプロトン伝導膜は、前記ポリマーのトリブロックポリマーから成り、中温域(100℃~150℃)、無加湿条件下において、高い伝導率(~0.1 S/cm)を発現する高分子電解質膜である。
【0435】
本発明のプロトン伝導膜では、ポリマーのミッドブロックは、塩基性基を有し、且つ、強酸性の液状電解質に溶解し、ポリマーのエンドブロックは、強酸性液状電解質に溶解しない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6