(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153714
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】移動装置の吸着機構
(51)【国際特許分類】
B25J 15/06 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
B25J15/06 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056386
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000152996
【氏名又は名称】株式会社日本ピスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】有賀 拓真
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS15
3C707FS01
3C707FT06
3C707FT08
(57)【要約】
【課題】変形が生じ易いワークを確実に吸着して移動時の落下を防止でき、耐久性が高く、安定した吸着性を有する吸着機構を実現する。
【解決手段】本発明に係る吸着機構10は、変形可能な包装袋に内容物が収容されたワークWを吸着して移動させる移動装置1の吸着機構であって、先端部中央に開口形成された吸引口22および吸引口22に連通する空間部24を有する筒状の吸着部20と、吸引口22から軸方向に所定寸法離隔した位置において空間部24を塞ぐように配設されて通気孔32を有する仕切部30と、通気孔32を介して空間部24に連通すると共に外部真空源14に接続される接続部40とを備え、吸着部20は金属もしくは樹脂からなる構造材料を用いて形成されており、空間部24において吸引口22と仕切部30とで挟まれた位置に吸引口22の内径よりも大きな内径を有するアンダーカット部26が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を用いて形成された変形可能な包装袋に内容物が収容されたワークを吸着して移動させる移動装置の吸着機構であって、
先端部の中央に開口形成された吸引口、および前記吸引口に連通する空間部を有する筒状の吸着部と、
前記吸引口から軸方向に所定寸法離隔した位置において前記空間部を塞ぐように配設され、1個もしくは複数個の通気孔を有する仕切部と、
前記通気孔を介して前記空間部に連通すると共に、外部真空源に接続される接続部と、を備え、
前記吸着部は、金属もしくは樹脂からなる構造材料を用いて形成されており、前記空間部において、前記吸引口と前記仕切部とで挟まれた位置に、前記吸引口の内径よりも大きな内径を有するアンダーカット部が設けられていること
を特徴とする吸着機構。
【請求項2】
前記ワークは、包装袋内に気体もしくは液体が同封された状態で前記内容物が流動可能に収容されており、前記内容物の流動によって重心が変位するワークであること
を特徴とする請求項1記載の吸着機構。
【請求項3】
前記アンダーカット部は、前記空間部において、周方向の全周に渡って連続的もしくは断続的に設けられていること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の吸着機構。
【請求項4】
前記アンダーカット部は、前記仕切部の前記通気孔に連通する孔部もしくは溝部が内周面に設けられていること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の吸着機構。
【請求項5】
多孔質のゴム、エラストマー、もしくは樹脂、またはそれらの複合材を用いて形成されており、前記吸着部の外周部に嵌設されると共に、先端部が前記吸着部の先端部よりも軸方向外方位置となるように配設された筒状の弾性パッドをさらに備えること
を特徴とする請求項1記載の吸着機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着機構に関し、より詳細には、ワークを吸着して移動させる移動装置の吸着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生産ライン等における搬送や組立を行うためにロボットアーム等の機構を備えてワークの移動を行う移動装置が実用化されている。このようなロボットアーム等の機構の先端には、減圧によってワークを吸着する吸着機構が多く用いられている。
【0003】
例えば、袋状物等のように変形が生じ易いワークを吸着する際に好適な吸着機構が、特許文献1(特開2020-089936号公報参照)、特許文献2(特開2020-023022号公報参照)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-089936号公報
【特許文献2】特開2020-023022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に例示されるような変形が生じ易いワークは、吸着して移動する際に慣性力による変形が生じて落下し易いという問題があった。そこで、特許文献1、特許文献2に開示される技術のように、ワークに当接して吸着する吸着部を形状変化容易な弾性材料により形成することで、ワークへの追従性を高めて落下を防ぐというアプローチがなされていた。
【0006】
しかしながら、弾性材料を用いて形成された吸着部を備える構成は、ワークへの追従性を高められる反面、追従性が良いことで袋の慣性力を抑える効果が損なわれてしまう。したがって、吸着は安定する反面、慣性力による、変形、揺動は大きくなり、袋が慣性方向に飛ばされ易いという課題があった。さらに、パッド自体の変形が大きいため、耐久性が低く、劣化が進むにつれて吸着性能が不安定になるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、袋状物等のように変形が生じ易いワークを確実に吸着して移動時の落下を防止できると共に、耐久性が高く、長期に亘って安定した吸着性能を発揮できる吸着機構を実現することを目的とする。
【0008】
本発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
開示の吸着機構は、樹脂材料を用いて形成された変形可能な包装袋に内容物が収容されたワークを吸着して移動させる移動装置の吸着機構であって、先端部の中央に開口形成された吸引口、および前記吸引口に連通する空間部を有する筒状の吸着部と、前記吸引口から軸方向に所定寸法離隔した位置において前記空間部を塞ぐように配設され、1個もしくは複数個の通気孔を有する仕切部と、前記通気孔を介して前記空間部に連通すると共に、外部真空源に接続される接続部と、を備え、前記吸着部は、金属もしくは樹脂からなる構造材料を用いて形成されており、前記空間部において、前記吸引口と前記仕切部とで挟まれた位置に、前記吸引口の内径よりも大きな内径を有するアンダーカット部が設けられていることを要件とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、袋状物等のように変形が生じ易いワークを確実に吸着して移動時の落下を防止することができる。したがって、高速移動が可能となり、タクトタイムを短縮することができる。また、耐久性が高く、きわめて長期に亘って安定した吸着性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る吸着機構を備える移動装置の概略構成図である。
【
図2】
図1に示す吸着機構の例を示す正面断面図である。
【
図3】
図1に示す吸着機構の他の例を示す正面断面図である。
【
図4】
図1に示す吸着機構の作動を説明する説明図である。
【
図5】本発明の第二の実施形態に係る吸着機構の例を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第一の実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第一の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係る吸着機構10を備える移動装置1の構成図(概略図)である。また、
図2は、本発明の第一の実施形態に係る吸着機構10の正面断面図(概略図)である。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0013】
本発明に係る吸着機構10は、例えば、工業製品の生産ライン等において組立や搬送を行うために、減圧によってワークWを吸着して移動させる移動装置1に装備されている。当該移動装置1の例としては、スカラロボット等に例示される組立・搬送ロボットや取出機等が挙げられる。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る移動装置1は、例えばロボットアーム等によって構成される移動機構12を備えている。この移動機構12の先端に吸着機構10が配設されている。ここで、吸着機構10は、流路16を介して外部真空源(外部減圧源)14に接続されており、流路切換弁18が流路16に設けられている。この流路切換弁18は、吸着機構10を真空(減圧)にする位置と、吸着機構10を大気開放する位置とを切り換える作用をなす。これによれば、吸着機構10を構成する吸着部20の内部を真空すなわち減圧状態とすることでワークWを吸着させることができる(詳細は後述)。一例として、外部真空源(外部減圧源)14には真空ポンプ(減圧ポンプ)が用いられるが、これに限定されるものではなく、その他の真空発生装置(減圧装置)を用いてもよい。なお、変形例として、吸着を解除するための破壊エアを空間部24に導入する流路をさらに設ける構成としてもよい(不図示)。
【0015】
本実施形態に係る吸着機構10は、樹脂材料(例えば、PE、PP、PB等)を用いて薄く(厚さ0.5mm以下程度に)形成された変形可能な包装袋(紙材料、布材料等の表面に樹脂被覆されたものを含む)に内容物が収容されたワークWに対して好適に適用することができる。より具体的には、包装袋内に気体もしくは液体が同封された状態で内容物が流動可能に収容されており、当該内容物の流動によって重心が変位するワークWである。一例として、包装袋に空気と共に収容された粉状体、粒状体等が挙げられるが、この例に限定されるものではない。このようなワークWは、前述の通り、内容物の流動によって形状や重心が変化し、また、搬送時の加速度が大きい程、揺動が大きくなり、吸着部が袋の変形に追従しきれず、真空度が低下して袋が離脱してしまい、安定した搬送ができないという課題があった。なお、ワークWの重量は、主に数十グラムから数キログラム程度が想定されるが、これに限定されるものではない。
【0016】
次に、本実施形態に係る吸着機構10について詳しく説明する。
図2に示すように、吸着機構10は、軸方向先端部における径方向中央位置に1箇所開口形成された吸引口22を有し、且つ、吸引口22に連通するように軸方向後端側に隣接して形成される空間部24を内部に有する筒状の吸着部20を備えている。また、吸引口22から軸方向後端側に所定寸法離隔した位置において、径方向に延設されて空間部24を塞ぐように配置され、軸方向に貫通形成された通気孔32を有する仕切部30を備えている。さらに、通気孔32を介して空間部24に連通すると共に外部真空源(外部減圧源)14に接続される配管42が設けられる接続部40を備えている。
【0017】
一例として、吸着部20、仕切部30、接続部40は、基本の構造材料として金属材料(例えば、アルミニウム合金、ステンレス合金等)、もしくは樹脂材料を用いて構成されている(必要に応じて設けるシール部材や管継手等を除く)。なお、上記樹脂材料として、通常、曲げ弾性率が700MPa以上の硬質樹脂材料(例えば、PA、PBT、POM等)が適用されるが、軟質樹脂材料であっても所定の径方向厚さを確保することで空間部24の減圧による変形率を小さく(例えば、1%以下に)できる場合には適用可能となる。
【0018】
なお、仕切部30に形成される通気孔32の設置数は特に限定されるものではなく、1個もしくは複数個とする構成が考えられる。例えば、金属材料の場合、汎用のパンチングメタルや金網等を用いることでコスト低減を図ることができるが、この構成に限定されるものではない。
【0019】
ここで、本実施形態に係る吸着部20は、空間部24において、吸引口22と仕切部30とで挟まれた位置(すなわち、吸引口22と仕切部30とのそれぞれに隣接する位置)に、吸引口22の内径L1よりも大きな内径L2を有する空間として形成されたアンダーカット部26が設けられている。ただし、
図2に示すような内径L2が一定の直線状となる構成に限定されるものではなく、曲線状もしくはそれらを組合せた形状としてもよい(不図示)。なお、吸引口22の内径L1および軸方向寸法、ならびにアンダーカット部26の内径L2および軸方向寸法は、ワークWの性状(包装袋の変形性、内容物の流動性等)に応じて適宜設定される。
【0020】
上記の例において、アンダーカット部26は、空間部24において、周方向の全周に渡って連続的に設けられる構成としている。ただし、この構成に限定されるものではなく、変形例として、周方向の全周に渡って断続的に設けられる構成としてもよい(不図示)。例えば、周方向の所定位置にリブや溝を設けることによって内周面が断続的となる構成等が挙げられる。
【0021】
さらに別の変形例として、
図3に示すように、アンダーカット部26の内周面に、仕切部30の通気孔32に連通する孔部28(もしくは溝部)が設けられる構成としてもよい。これによれば、アンダーカット部26の内周面にも吸着力を生じさせることができる。
【0022】
上記の本実施形態に係る吸着機構10によれば、
図4(吸着・搬送の動作説明図)に示すように、外部真空源(外部減圧源)14を駆動して、接続部40(配管42)および仕切部30(通気孔32)を介して、吸着部20の吸引口22および空間部24を真空すなわち減圧状態とすることができ、吸引口22にワークWを吸着させることができる。
【0023】
特に、前述のワークW、すなわち、変形可能な包装袋に収容された内容物の流動によって重心が変位するワークWの場合、吸引口22に吸着された後、空間部24内へ引き込まれて、外表面の包装袋が仕切部30に吸着された状態となる。このとき、空間部24のアンダーカット部26の位置で、包装袋が拡張する作用が得られる。これにより、ワークWと吸着部20とのシール部(シール位置S)が、吸引口22の後端側におけるアンダーカット部26との境界部に生じることとなる。従来の吸着機構の場合、ワークWと吸着部20とのシール部(シール位置)は、吸引口の先端部に生じるのが通常であった。これに対して、本実施形態においては上記の通りシール部(シール位置S)をアンダーカット部26との境界部の位置に生じさせることができる。その結果、包装袋の変形が生じてもシール性を確保できる範囲が広くなる効果が得られ、ワークWに対して安定した吸着性を発揮することが可能となる。
【0024】
特に、ワークWの搬送時には、内容物の流動により重心が変位して、角度が付いた状態で包装袋が変形するため、シール部における離隔が生じてワークWが落下する不具合が生じ易い(
図4の例では、吸着機構10の移動方向を矢印Aで示す)。しかしながら、上記の作用効果が得られるため、搬送の際に生じる慣性力によって角度が付いた状態で包装袋が変形しても、シール部(シール位置S)における離隔が生じ難くなる。したがって、従来技術よりも揺動に対して確実で安定した吸着・搬送が可能となるため、ワークWの高速移動が可能となり、タクトタイムを短縮することができる。また、従来技術のように柔軟性が高い材料を用いて吸着部が形成された構成と比較して、金属材料もしくは柔軟性が低い(すなわち、硬い)樹脂材料を用いて吸着部20が形成された構成であるため、耐久性が高く、きわめて長期に亘って安定した吸着性を発揮することができる。
【0025】
ちなみに、ワークWの搬送速度がより一層高速となり、ワークWの揺動角度が増加する場合には、搬送中の吸着解除が生じ易くなるが、そのようなおそれがある場合には、アンダーカット部26の形状寸法は変えず、吸引口22の内径L1を小さくする構成によって、吸着性(安定性)を高めることができる。
【0026】
(第二の実施形態)
続いて、本発明の第二の実施形態に係る吸着機構10について説明する。本実施形態に係る吸着機構10は、前述の第一の実施形態と基本的な構成は同様であるが、幾つかの相違点を有している。以下、当該相違点を中心に本実施形態について説明する。ここで、本実施形態に係る吸着機構10の正面断面図(概略図)を
図5に示す。なお、本実施形態に係る吸着機構10を備える移動装置1の構成例は、
図1と同様であるため図示を省略する。
【0027】
本実施形態に係る吸着機構10は、吸着部20の外周部に嵌設されると共に、吸着部20の先端部20aよりも先端部50aが軸方向外方位置となるように配設された筒状の弾性パッド50を備えている。一例として、弾性パッド50は、多孔質のゴム、エラストマー、もしくは樹脂、またはそれらの複合材を用いて、弾性変形可能に構成されている。
【0028】
本実施形態に係る吸着機構10は、樹脂材料を用いて形成された変形可能な包装袋に内容物が収容されたワークWが以下のような構成を備える場合に、より好適に適用することができる。例として、内容物の流動性が比較的低い構成や、包装袋の変形性が比較的低い構成、等が挙げられる。
【0029】
本実施形態に係る吸着機構10によれば、特に、上記に例示されるようなワークWに対し、弾性パッド50を備える構成によって、吸着部20におけるシール性を高めることができ、ワークWの確実な吸着と安定した搬送が可能となる。したがって、ワークWの高速移動が可能となり、タクトタイムを短縮することができる。また、従来技術のように柔軟性が高い材料のみを用いて吸着部(特に先端部)が形成された構成と比較して、金属材料もしくは柔軟性が低い(すなわち、硬い)樹脂材料を用いて形成された吸着部20に外周部に当該弾性パッド50が嵌設される構成であるため、耐久性を高めて、長期の安定使用を実現することができる。
【0030】
なお、吸着機構10におけるその他の構成については、前述の第一の実施形態と同様であるため、繰り返しの説明を省略する。
【0031】
以上、説明した通り、本発明に係る吸着機構によれば、薄い樹脂シート等により形成された包装袋に内容物が収容されて変形が生じ易いワークに対して、確実に吸着して移動時(揺動時)の変形による落下を防止して安定した搬送を行うことができる。したがって、ワークの高速移動が可能となり、タクトタイムを短縮することができる。また、吸着部の耐久性が高く、きわめて長期に亘って安定した吸着性を発揮することができる。
【0032】
今後、様々な分野で自動化が進むことが想定される中で、ロボット等を用いてワークの吸着・搬送を行う場面が増えるものと考えられる。本発明は、そのような場面で大きな効果をもたらすものであると言える。
【0033】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能である。上記の実施形態では、一つのワークを一つの吸着機構で吸着して搬送する構成を想定して説明を行ったが、これに限定されるものではなく、ワークの大きさや重量に応じて、吸着機構(吸着部)の外形寸法、個数等を適宜、調整することによって、最適な構成とすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 移動装置
10 吸着機構
14 外部真空源(外部減圧源)
20 吸着部
22 吸引口
24 空間部
26 アンダーカット部
30 仕切部
32 通気孔
40 接続部
50 弾性パッド
W ワーク