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  • 特開-コーティング剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153740
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/14 20060101AFI20221005BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C09D183/14
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056418
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東條 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 利彦
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL032
4J038DL161
4J038NA01
4J038NA07
4J038NA11
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】
人体や地球環境に有害な有機溶剤を使用しないにもかかわらず、従来品により製造されたものと比較しても良好な光沢、撥水性および防汚性を有するコーティング膜を形成するコーティング剤を提供する
【解決手段】
ポリシラザンと環状シリコーンを含有し、さらに、必要に応じて、末端の官能基が炭化水素であるシリコーンオイルを含有するコーティング剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザンと環状シリコーンを含有するコーティング剤。
【請求項2】
前記ポリシラザンおよび前記環状シリコーンの含有量は、それぞれ、0.1~50%および1~90%である請求項1のコーティング剤。
【請求項3】
前記環状シリコーンがデカメチルシクロペンタシロキサンである請求項1または2のコーティング剤。
【請求項4】
前記コーティング剤が、さらに末端の官能基が炭化水素であるシリコーンオイルを含有する請求項1~3のいずれかのコーティング剤。
【請求項5】
前記シリコーンオイルがジメチルポリシロキサンである請求項4のコーティング剤。
【請求項6】
前記シリコーンオイルを全体の1~50%含有する請求項4または5のコーティング剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング剤に関し、各種産業製品の金属面、塗装面、特に自動車のボディーなどの硬質表面に対し、強い被膜強度、高い撥水力、良好な艶および光沢を与え、さらに優れた作業性を有するコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のボディーなどの硬質表面には、表面保護材を塗布し、艶や光沢を与え表面を保護することが行われている。
このような表面保護剤として、ポリシラザンを主剤としてガラス状のコーティングを施すコーティング剤が使用されている。
【0003】
ポリシラザンはシランの一種であり、シリコン、窒素および活性水素基と化学結合する反応基を持つ化合物である。空気中の水分と反応してシリル基が導入され、塩基性のアンモニアを発生させながら縮合して、非晶質のガラス被膜を形成する。比較的高分子量のポリマーであるため、ガラスコーティング剤として使用する場合には、有機溶剤に溶かし込んで使用する必要があった。
【0004】
特許文献1には、有機ポリシラザン、硬化触媒および反応性シリコーンオイルを含有するコーティング剤が記載されている。このコーティング剤は、特定の特性を有する有機ポリシラザンと反応性シリコーンオイルとを組み合わせることにより、速乾性に優れた被膜を形成している。しかし、有機ポリシラザンの有機溶剤としてエステル系溶剤、石油系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤を使用している。
【0005】
また、特許文献2に記載された撥水性コーティング剤は、ポリシラザンとシロキサン樹脂を含有するもので、自然環境での暴露条件においても汚れの付着や光沢の劣化が少なく、高い撥水性を有するコーティング膜を形成できるとされている。この場合も、ポリシラザンの有機溶剤として炭化水素系溶剤や石油系溶剤などが使われている。
【0006】
これらの従来技術では、コーティング剤の主剤としてポリシラザンを使用しているが、その場合、ポリシラザンは空気中の水分と反応性が強く、水酸基と反応して急激に硬化するため、溶剤として水やアルコール類などは使用することができない。使用できるのは石油系溶剤であるトルエンやキシレン、あるいはエチルベンゼン等の有機溶剤であり、これらを大量に使用しなければならなかった。
しかし、キシレンやトルエン等の有機溶剤は、人体や地球環境に対して有害であることが知られている。このため、このような有機溶剤を使用しないコーティング剤が求められていた。
【0007】
また、このようなコーティング剤を使用して自動車のボディー等を塗装する場合には、これら有機溶剤が高濃度に揮発することになり、自動車の製造者や作業者の健康被害が重大な問題となっていたし、引火の危険もあるため、作業環境を適正な水準に維持するためには多大のコストが必要となっていた。
さらに、これらの有機溶剤を含むコーティング剤は、これを塗布する被処理基材に対してダメージを与えることがあり、このような有機溶剤を使用しないコーティング剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6420539号公報
【特許文献2】特開2015-137284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これら従来技術が有する問題点を解決すべくなされた発明である。人体や地球環境に有害な有機溶剤を使用しないにもかかわらず、従来品により製造されたものと比較しても良好な光沢、撥水性および防汚性を有するコーティング膜を形成するコーティング剤を提供することを目的とする。また、コーティング剤を塗布する被処理基板に対して、無用なダメージを与えることがないコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するために、次の構成を含むものである。
[1] ポリシラザンと環状シリコーンを含有するコーティング剤。
[2] 前記ポリシラザンおよび前記環状シリコーンの含有量は、それぞれ、0.1~50%および1~90%である[1]のコーティング剤。
[3] 前記環状シリコーンがデカメチルシクロペンタシロキサンである[1]または[2]のコーティング剤。
[4] 前記コーティング剤が、さらに末端の官能基が炭化水素であるシリコーンオイルを含有する[1]~[3]のいずれかのコーティング剤。
[5] 前記シリコーンオイルがジメチルポリシロキサンである[4]のコーティング剤。
[6] 前記シリコーンオイルを全体の1~50%含有する[4]または[5]のコーティング剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング剤においては、環状シリコーンオイルを溶剤として使用しているので、人体に対する健康被害の恐れや引火の危険がなく、健康的な環境でコーティングをすることが可能となる。また、環状シリコーンオイルは生分解性を有しているので、放散されても自然環境に悪影響を及ぼすことはないし、被処理基板に対してもダメージを与えることがない。
本発明のコーティング剤によって形成されたコーティング膜は、従来のコーティング膜により形成された被膜と比較しても、良好な艶と光沢を有し、高い撥水性と良好な防汚性を長期間保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のコーティング剤をフィルムに施工した場合のフィルム表面の撥水性能の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明を実施するための具体的な形態について説明する。
本発明のコーティング剤は、ポリシラザンと環状シリコーンを主成分とするものである。また、これに両末端の官能基が炭化水素であるシリコーンオイルを含有することができる。
【0014】
(ポリシラザン)
本発明のコーティング剤において使用されるポリシラザンは、下記一般式(A):
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C3-7シクロアルキル、またはアリールを表し;
は、水素原子、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C3-7シクロアルキル、アリール、または-(CH-SiR111213であり;
11、R12およびR13は、それぞれ独立してC1-6アルキル、またはC1-6アルコキシであり;
mは2~6から選択される整数であり;
、R、およびRの少なくとも1つは水素原子である]
で表される単位からなる主骨格を有する化合物である。
【0015】
本発明で使用されるポリシラザンの例としては、RおよびRがそれぞれ独立して水素原子またはメチルであり、Rが水素原子またはトリ(C1-6アルコキシ)シリルC2-6アルキル、例えば3-(トリC1-6アルコキシシリル)プロピルである、式(A)で表される単位からなる主骨格を有する化合物があげられる。式(A)において、具体的な例としては、(R、R、R)が、(メチル、水素原子、水素原子)、(メチル、メチル、水素原子)、(メチル、メチル、メチル)、(メチル、メチル、3-(トリエトキシシリル)プロピル)、(水素原子、メチル、3-(トリエトキシシリル)プロピル)などである態様があげられる。ポリジシラザンは同じ繰り返し単位からなるものであってもよく、異なる繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0016】
ポリシラザンは溶媒に可溶であるか、または溶媒中に均一に分散可能であるものを使用することができる。使用するポリシラザンの数平均分子量は、好ましくは100~50000であるもの、より好ましくは数平均分子量が300~10000である。
【0017】
ポリシラザンには、通常鎖状、環状、または架橋構造を有するもの、或いは分子内にこれらの複数の構造を同時に有するものがあり、これらの何れも前記ポリシラザンとして使用することができる。これらは、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0018】
ポリシラザンはシランの一種で、空気中の水分と反応して二酸化ケイ素、アンモニア、および水素を発生する。
SiHNH + 2HO → SiO+ NH+ 2H(B)

ポリシラザンの反応性は非常に高い。このため、ポリシラザンのみをコーティング剤の有効成分として使用する場合、特殊な工法(例えばスプレー塗装、スピンコートなど)を利用しなければコーティング剤を均一に塗布できない。したがって、形状の異なる車両(自動車、電車等)、航空機の機体、家具、建物の外壁等の塗装表面(塗装面)にはポリシラザンのみを有効成分とするコーティング剤を均一に塗布することは困難であり、使用によりむしろ美観を損なう恐れがある。また、ポリシザンのみのコーティング剤では光沢が少なく、紫外線によって撥水性が著しく落ちることが屋外に使われる用途では不向きになる。
【0019】
本発明では、無機ポリシラザン(パーヒドロポリシラザン)および有機基を置換基として有する有機ポリシラザンのいずれも使用することができる。一つの態様において、有機ポリシラザンと無機ポリシラザンの混合物を使用することができ、有機ポリシラザン:無機ポリシラザンの重量比は、例えば1:99~80:20、より具体的には20:80~80:20である。ポリシラザンとしては市販されているものを使用することができる。
市販されているポリシラザンには、有機溶剤に溶解された形態にあるものがあり、このようなものも使用することができる。前記有機溶剤に溶解された形態にあるもの(ポリシラザン有機溶剤溶液)として、例えば、「トレスマイル」の商品名で各種の濃度の異なる商品(サンワ化学株式会社製)などが市販されている。
【0020】
本発明のコーティング剤全体に対して、ポリシラザンの含有量は、0.1~50重量%であることが好ましい。有機溶媒中の溶液として入手可能なポリシラザンは、そのまま使用することにより、該有機溶媒を組成物の溶媒として利用することができる。
【0021】
(環状シリコーン)
環状シリコーンとは、ケイ素原子上に2つのメチル基を持つケイ素原子(Si)が酸素(O)原子と結合したジメチルシロキサン単位 (CH3)2Si-O-を有する環状構造をもったシロキサンである。環状シリコーンとして一般的なものが、ジメチルシロキサン単位を有する個数により、D4、D5およびD6と略表示される。
D4がオクタメチルシクロテトラシロキサンであり、ジメチルシロキサン単位を4つ有する環状構造をもったシリコーンオイルである。同様に、同単位を5つ有するものがデカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、同じく6つ有するものがドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)である。
【0022】
(デカメチルシクロペンタシロキサン、D5)
これらの環状シリコーン(低分子ジメチルシロキサン)は、高沸点物質だが揮発性が高いため、室温でも蒸気となって気中へ拡散する特性を有している。また、生分解性を有しており、環境に対して負荷をかけない点に特徴がある。
本発明では、これらの環状シリコーンのなかで、特に、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)を使用することが好ましい。自然環境での分解性や人体・動物に対する影響の観点から、他の環状シリコーンと比較して特に優れているからである。
D5の骨格は、次の(C)式で表される。
D5は、常温で液体であり揮発性があるが、パークロロエチレン代替としてドライクリーニング溶媒としても使用されるなど、環境への安全性が高いという特徴を有する。
本発明では、環状シリコーンを1~90%含有することが好ましい。
【0023】
(シリコーンオイル)
本発明のコーティング剤は、さらに、シリコーンの末端のR基が炭化水素であるシリコーンオイルを含有することができる。特に、シロキサン結合からなる直鎖状ポリマーであるシリコーンオイルの中で、ストレートシリコーンオイルと呼ばれる次の3つのシリコーンオイルを使用することが好ましい。ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルである。これらの中で、特に、次の化学構造式(D)からなる、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。
本発明では、シリコーンオイルを1~50%含有することが好ましい。
【0024】
(コーティング剤の製造)
シリコーン系のコーティング剤は、一般的には、容器内に有機溶媒等の溶剤を投入した後に、一種類ずつシリコーンを、それぞれの溶解を確認しつつ投入して撹拌し、必要に応じて紫外線吸収剤、安定化剤、触媒等を追加的に投入して製造される。本発明の自動車用コーティング剤は、蓋付で撹拌装置がある容器を使用し、容器内が乾燥していることを確認した後に、40℃以下の常温で、作業環境の換気を行いながら作業を行うことが必要である。
【0025】
本発明のコーティング剤には、本発明の目的ないし効果を阻害しない範囲で、必要に応じ、機能性を持つシリコーン、希釈溶媒として有機溶剤、反応促進剤として各種触媒、有機、無機或いは有機無機ハイブリットパウダー等各種微粉末を配合することができる。また、必要に応じ、安定化剤、凍結防止剤、防さび剤、防腐剤、紫外線吸収剤、色素等を配合することもできる。
【0026】
本発明のコーティング剤は通常の手法により使用することが可能であり、コーティングを目的とするものの表面(特に塗装面)に対し、噴霧、塗布等の通常の方法で表面処理を行うことができる。例えば、本発明のコーティング剤をスポンジに含浸させ、塗装面を擦る等して塗布した後、布で拭き上げる方法がもっとも一般的である。また、刷毛塗り、エアゾールスプレーによる方法などを、目的や用途に応じて選択して使用することができる。
その後、必要により乾燥することにより、塗装面全体に防汚性、光沢性(艶)及び撥水性等において長期にわたって優れた塗装面への被膜を形成することができる。
【実施例0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお%値は特に説明が無い限り重量%で表されている。
蓋付で撹拌装置がある容器に、環状シリコーンとしてデカメチルシクロペンタシロキサン(シリコーンオイルTSF405、MOMENTIVE社製)を全体の76%の配合量で15.2kg投入し、蓋をした後に容器内部の気相部分に窒素ガスを流しいれて撹拌した。
次に、窒素ガスを流し入れながら撹拌を継続し、ポリシラザランとして、パーヒドロポリシラザン(トレスマイルNP-110-20、サンワ化学株式会社製)を6%の配合量で1.2kg投入して撹拌を行った。
さらに、シリコーンオイルとして、ジメチルポリシロキサン(シリコーンオイルKF-96-350CS、信越化学工業株式会社製)を全体の18%の配合量で3.6kg投入し、均一に混合して最終的にコーティング剤を20kg製造した。
【0028】
(特性評価)
上記で製造したコーティング剤をプロテクションフィルムに塗布して、本発明のコーティング剤を塗布したことによるプロテクションフィルム表面特性の変化を観察した。
【0029】
(表面状態)
プロテクションフィルム表面に本発明のコーティング剤を施工し、1日乾燥させて硬化させた。その結果、フィルム表面には溶剤によるダメージとして発生する表面状態の変化は観察されなかった。
【0030】
(撥水性能)
その後に、促進耐光性試験で紫外線を30時間照射し、試験前後の接触角、転落角の変化を測定した。接触角は2.5μL、転落角は50μLの水滴で評価した。接触角は高い方が撥水性に優れ、転落角は低い方が水滴の滑落性が良いと評価できる。
結果を図1に示す。図1から明らかなように、本発明のコーティング剤の施工により、プロテクションフィルムの撥水性能が向上していることを確認することができた。特に、1回施工よりも2回施工の方が撥水性能が向上していること、また、30時間の紫外線照射による虐待試験(日光の1週間分に相当)でも撥水効果は持続されていることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によるコーティング剤を用いれば、自動車や電車等の車両の車体、航空機の機体等の塗装面に対し、長期間にわたって良好な撥水性や光沢を維持することができる保護被膜を形成することができる。
図1