IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-テンショナ 図1
  • 特開-テンショナ 図2
  • 特開-テンショナ 図3
  • 特開-テンショナ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153744
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/12 20060101AFI20221005BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F16H7/12 A
F16F15/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056422
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】重本 一成
【テーマコード(参考)】
3J048
3J049
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BC02
3J048CB07
3J048EA01
3J049AA03
3J049BB05
3J049BB15
3J049BH20
3J049CA01
(57)【要約】
【課題】スプリングのサージングを抑制することができ、それにより、故障を防止できるとともに設計の自由度を向上させることができるテンショナを提供する。
【解決手段】エンジンEに立設されるシャフト11に回動可能に設けられたアーム12と、円筒部12aにベアリング13を介して回転自在に設けられたプーリ14と、シャフト11の先端側に設けられ、エンジンEに係止されるベースプレート15と、ねじりコイルばねから成り、巻線16aの一方の先端部16cがアーム12に係止されるとともに、巻線16aの他方の先端部16dがベースプレート15に係止され、プーリ14がベルト3を押圧するよう、アーム12を所定方向に回動付勢するスプリング16と、スプリング16の外周の外方から内方に向かって、スプリング16の軸線方向に隣接する巻線16a同士の間に圧入されるスプリングクリップ19と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を伝達するためのベルトが設けられた機器に取り付けられ、前記ベルトに張力を与えるためのテンショナであって、
前記機器の表面から外方に所定長さ延び、当該機器に立設される軸状部材と、
この軸状部材の長さ方向に沿って延びる中心軸線に対して平行に延びかつ当該中心軸線から所定距離離れた軸線を中心とする円筒部を有し、前記軸状部材が貫通した状態で、当該軸状部材に対し回動可能に設けられたアームと、
前記円筒部の外周面にベアリングを介して回転自在に設けられたプーリと、
前記軸状部材の先端側において、前記アームを覆うように設けられ、前記機器に係止されるベースプレートと、
ねじりコイルばねから成り、前記アームと前記ベースプレートとの間に、前記軸状部材と同心状に配置され、巻線の一方の先端部が前記アームに係止されるとともに、巻線の他方の先端部が前記ベースプレートに係止され、前記プーリが前記ベルトを押圧するよう、前記アームを所定方向に回動付勢するスプリングと、
前記スプリングの外周の外方から内方に向かって、当該スプリングの軸線方向に隣接する巻線同士の間に圧入されることにより、当該スプリングの軸線方向の振動を抑制する振動抑制部材と、
を備えていることを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記アームに設けられ、前記スプリングの前記アーム側の端面に当接するリング状のアーム側当接部材と、
前記ベースプレートに設けられ、前記スプリングの前記ベースプレート側の端面に当接するリング状のベースプレート側当接部材と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記アーム側当接部材は、前記スプリングにおける巻線の前記一方の先端部の付近から周方向に延びるとともに、前記スプリング側に高さが次第に高くなるように傾斜し、全体が前記スプリングの前記アーム側の端面に当接する第1傾斜部を有し、
前記振動抑制部材は、前記スプリングの周方向において、前記第1傾斜部の最も低い位置である第1傾斜開始位置と、当該第1傾斜部の最も高い位置である第1傾斜終了位置との間に配置されており、
前記アーム側当接部材は、前記振動抑制部材よりも前記第1傾斜開始位置側に設けられ、前記スプリングの軸線方向に沿って突出し、当該スプリングの前記アーム側の端面に当接する第1突起部を、さらに有していることを特徴とする請求項2に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記ベースプレート側当接部材は、前記スプリングにおける巻線の前記他方の先端部の付近から周方向に延びるとともに、前記スプリング側に高さが次第に高くなるように傾斜し、全体が前記スプリングの前記ベースプレート側の端面に当接する第2傾斜部を有し、
前記振動抑制部材は、前記スプリングの周方向において、前記第2傾斜部の最も低い位置である第2傾斜開始位置と、当該第2傾斜部の最も高い位置である第2傾斜終了位置との間に配置されており、
前記ベースプレート側当接部材は、前記振動抑制部材よりも前記第2傾斜開始位置側に設けられ、前記スプリングの軸線方向に沿って突出し、当該スプリングの前記ベースプレート側の端面に当接する第2突起部を、さらに有していることを特徴とする請求項3に記載のテンショナ。
【請求項5】
前記振動抑制部材は、前記スプリングの周方向において、前記第1突起部と前記第2突起部との間に配置されることを特徴とする請求項4に記載のテンショナ。
【請求項6】
前記振動抑制部材は、前記アームにおいて、前記スプリングの周方向に不動な状態で取り付けられることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のテンショナ。
【請求項7】
前記アームには、前記振動抑制部材が着脱自在に取り付けられるとともに、当該振動抑制部材を前記スプリングの周方向に不動な状態で係止する係止凹部が設けられていることを特徴とする請求項6に記載のテンショナ。
【請求項8】
前記振動抑制部材は、樹脂成形品から成り、
前記スプリングの外周の外側に位置する本体部と、
この本体部から前記スプリングの内方に向かって所定長さ延び、当該スプリングの軸線方向に隣接する巻線同士の隙間にそれぞれ圧入される複数の圧入爪と、
を有していることを特徴とする請求項1から7に記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイミングベルトなどの各種のベルトに張力を与えるためのテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のテンショナとして、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。このテンショナは、車両用のエンジンのシリンダブロックに取り付けられ、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するタイミングベルトに張力を与えるものである。具体的には、中央部に貫通孔を有するベースプレートと、一端部が貫通孔に嵌合した状態でベースプレートに立設され、長さ方向に貫通するボアを有するピボットシャフトと、このピボットシャフトに、それが貫通した状態でかつピボットシャフトに対して偏心した状態で回動可能に設けられたピボットアームと、このピボットアームにボールベアリングを介して回転自在に取り付けられたプーリと、ピボットシャフトの外周側に巻き付けられ、一端部がベースプレートに、他端部がピボットアームに係止されたねじりコイルばねから成るスプリングなどを備えている。
【0003】
上記のように構成されたテンショナは、エンジンのシリンダブロックに突設されたボルトを、ピボットシャフトのボアに貫通した状態で固定される。そして、ピボットアームが、スプリングの付勢力によってタイミングベルト側に回動し、これにより、ピボットアームと一体のプーリが、タイミングベルトに摺接した状態で、これに張力を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005-511984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のテンショナでは、エンジンの運転時において、スプリングがエンジンの振動に共振し、スプリングの軸線方向に非常に激しく振動する現象、いわゆるサージングが生じることがある。このようなサージングが生じると、スプリングの曲げ応力が増大し、それにより、スプリングが折損するおそれがある。また、サージングを生じないよう、スプリングを設計し、そのようなスプリングを用いたテンショナを製作することは可能である。しかし、その場合には、テンショナの設計上の制約が多くなり、テンショナの設計の自由度が低下してしまう。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、スプリングのサージングを抑制することができ、それにより、故障を防止できるとともに設計の自由度を向上させることができるテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、動力を伝達するためのベルト(実施形態におけるタイミングベルト3(以下、本欄において同じ))が設けられた機器(エンジンE)に取り付けられ、ベルトに張力を与えるためのテンショナ1であって、機器の表面から外方に所定長さ延び、機器に立設される軸状部材(シャフト11)と、この軸状部材の長さ方向に沿って延びる中心軸線C1に対して平行に延びかつ中心軸線から所定距離離れた軸線C3を中心とする円筒部12aを有し、軸状部材が貫通した状態で、軸状部材に対し回動可能に設けられたアーム12と、円筒部の外周面にベアリング13を介して回転自在に設けられたプーリ14と、軸状部材の先端側において、アームを覆うように設けられ、機器に係止されるベースプレート15と、ねじりコイルばねから成り、アームとベースプレートとの間に、軸状部材と同心状に配置され、巻線16aの一方の先端部16cがアームに係止されるとともに、巻線の他方の先端部16dがベースプレートに係止され、プーリがベルトを押圧するよう、アームを所定方向に回動付勢するスプリング16と、スプリングの外周の外方から内方に向かって、スプリングの軸線方向に隣接する巻線同士の間に圧入されることにより、スプリングの軸線方向の振動を抑制する振動抑制部材(スプリングクリップ19)と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、アームとベースプレートとの間には、軸状部材と同心状に、ねじりコイルばねから成るスプリングが配置されており、その巻線の一方の先端部がアームに係止されるとともに、巻線の他方の先端部がベースプレートに係止されている。そして、このスプリングによって、アームが所定方向に回動付勢されることにより、アームの上記円筒部の外周面にベアリングを介して回転自在に設けられたプーリがベルトを押圧し、そのベルトに張力を与える。
【0009】
また、スプリングには、その外周の外方から内方に向かって、スプリングの軸線方向に隣接する巻線同士の間に、振動抑制部材が圧入されている。これにより、機器の運転時に、その振動がテンショナに伝わる場合でも、スプリングの巻線が振動抑制部材によって軸線方向に不動に拘束されているので、スプリングのサージングを抑制することができる。その結果、テンショナの故障を防止できるとともに設計の自由度を向上させることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のテンショナにおいて、アームに設けられ、スプリングのアーム側の端面に当接するリング状のアーム側当接部材(アーム側スプリングシート17)と、ベースプレートに設けられ、スプリングのベースプレート側の端面に当接するリング状のベースプレート側当接部材(ベースプレート側スプリングシート18)と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、スプリングにおいて、アーム側及びベースプレート側の端面にはそれぞれ、アームに設けられたリング状のアーム側当接部材、及びベースプレートに設けられたリング状のベースプレート側当接部材が当接する。これにより、ねじりコイルばねから成るスプリングのコイル部の両端面が軸線方向に不動に拘束され、スプリングのサージングの抑制度合を高めることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のテンショナにおいて、アーム側当接部材は、スプリングにおける巻線の一方の先端部16cの付近から周方向に延びるとともに、スプリング側に高さが次第に高くなるように傾斜し、全体がスプリングのアーム側の端面に当接する第1傾斜部17cを有し、振動抑制部材は、スプリングの周方向において、第1傾斜部の最も低い位置である第1傾斜開始位置17Sと、第1傾斜部の最も高い位置である第1傾斜終了位置17Eとの間に配置されており、アーム側当接部材は、振動抑制部材よりも第1傾斜開始位置側に設けられ、スプリングの軸線方向に沿って突出し、スプリングのアーム側の端面に当接する第1突起部17bを、さらに有していることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、スプリングのコイル部におけるアーム側の端面(以下、本欄において「アーム側端面」という)に、上記の第1傾斜部及び第1突起部が当接することにより、アーム側端面の大部分がアーム側当接部材によって拘束される。また、振動抑制部材は、スプリングの周方向において、第1傾斜部の第1傾斜開始位置と第1傾斜終了位置の間で、かつ第1突起部よりも第1傾斜終了位置側に配置される。これにより、第1傾斜部の第1傾斜終了位置と第1突起部の間におけるスプリングの隣接する巻線同士を、振動抑制部材によって効果的に拘束することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のテンショナにおいて、ベースプレート側当接部材は、スプリングにおける巻線の他方の先端部16dの付近から周方向に延びるとともに、スプリング側に高さが次第に高くなるように傾斜し、全体がスプリングのベースプレート側の端面に当接する第2傾斜部18cを有し、振動抑制部材は、スプリングの周方向において、第2傾斜部の最も低い位置である第2傾斜開始位置18Sと、第2傾斜部の最も高い位置である第2傾斜終了位置18Eとの間に配置されており、ベースプレート側当接部材は、振動抑制部材よりも第2傾斜開始位置側に設けられ、スプリングの軸線方向に沿って突出し、スプリングのベースプレート側の端面に当接する第2突起部18bを、さらに有していることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、スプリングのコイル部におけるベースプレート側の端面(以下、本欄において「ベースプレート側端面」という)に、上記の第2傾斜部及び第2突起部が当接することにより、ベースプレート側端面の大部分がベースプレート側当接部材によって拘束される。また、振動抑制部材は、スプリングの周方向において、第2傾斜部の第2傾斜開始位置と第2傾斜終了位置の間で、かつ第2突起部よりも第2傾斜終了位置側に配置される。これにより、第2傾斜部の第2傾斜終了位置と第2突起部の間におけるスプリングの隣接する巻線同士を、振動抑制部材によって効果的に拘束することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のテンショナにおいて、前記振動抑制部材は、スプリングの周方向において、第1突起部と第2突起部との間に配置されることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、振動抑制部材を、スプリングの周方向において、第1突起部と第2突起部との間に配置することにより、スプリングの巻線同士、並びにスプリングのアーム側端面及びベースプレート側端面を、効果的に拘束することができる。これにより、サージングの抑制効果をより一層高めることができるとともに、スプリングのダンピングの増大を防止することができる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載のテンショナにおいて、振動抑制部材は、アームにおいて、スプリングの周方向に不動な状態で取り付けられることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、振動抑制部材が、スプリングの周方向に不動な状態でアームに取り付けられるので、テンショナの作動時に、振動抑制部材が適正な位置に対してスプリングの周方向にずれることがない。これにより、振動抑制部材を適正な位置に長期間にわたって維持することができ、スプリングにおけるサージングの抑制効果を長期間にわたって確保することができる。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載のテンショナにおいて、アームには、振動抑制部材が着脱自在に取り付けられるとともに、振動抑制部材をスプリングの周方向に不動な状態で係止する係止凹部(クリップ取付部23b)が設けられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、アームに上記の係止凹部を設けることにより、その係止凹部に、振動抑制部材を容易に取り付けることができるとともにスプリングの周方向に不動な状態に容易に係止することができる。また、振動抑制部材は、アームに着脱自在に取り付けられるので、振動抑制部材のメンテナンスや交換を容易に行うことができる。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項1から7に記載のテンショナにおいて、振動抑制部材は、樹脂成形品から成り、スプリングの外周の外側に位置する本体部19aと、この本体部からスプリングの内方に向かって所定長さ延び、スプリングの軸線方向に隣接する巻線同士の隙間にそれぞれ圧入される複数の圧入爪19bと、を有していることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、上記の本体部と複数の圧入爪とを有する振動抑制部材を、樹脂成形品で比較的容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態によるテンショナを、車両用のエンジンに取り付けかつタイミングベルトに張力を与えた状態を示す斜視図である。
図2】(a)はテンショナの外観を示す斜視図であり、(b)は(a)のA-A線に沿って切断したときのテンショナの内部構造を示す断面図である。
図3】(a)はテンショナのアーム、アーム側スプリングシート、ベースプレート側スプリングシート、及びスプリングクリップを分解して示す斜視図であり、(b)はスプリングクリップを拡大して示す斜視図である。
図4】(a)はアーム側スプリングシート、スプリング及びスプリングクリップが装着されたアームを示す平面図、(b)はスプリングの拘束を説明するための側面図、(c)は(b)のB-B線に沿って切断したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるテンショナを、車両用のエンジンに取り付けた状態を示しており、図2(a)及び(b)は、テンショナの外観及び内部構造をそれぞれ示している。これら図に示すように、テンショナ1は、一端部がエンジンE(機器)にねじ込まれたスタッドボルト2を介して、エンジンEの外面の所定位置に取り付けられている。具体的には、テンショナ1は、エンジンEのクランクシャフトの動力をカムシャフト(いずれも図示せず)に伝達するためのタイミングベルト3(ベルト)の付近に取り付けられ、このタイミングベルト3に対し、後述するプーリ14を押し付けることによって、張力を与える。
【0026】
図2(a)及び(b)に示すように、このテンショナ1は、スタッドボルト2が貫通し、このスタッドボルト2の長さ方向に所定長さ延びる軸状に形成されたシャフト11と、このシャフト11が貫通し、シャフト11に対して回動可能なアーム12と、このアーム12の後述する円筒部12aの外周にベアリング13を介して回転自在に設けられたプーリ14と、シャフト11が貫通し、アーム12の上部を覆うように設けられるとともに、エンジンEに立設された固定ロッド4(図1参照)に係止されるベースプレート15と、ねじりコイルばねから成り、プーリ14がタイミングベルト3を押圧するよう、アーム12を所定方向に回動付勢するスプリング16と、アーム12に収容された状態で設けられ、スプリング16のコイル部16bにおけるアーム12側(図2(b)の下側)の端面に当接するアーム側スプリングシート17(アーム側当接部材)と、ベースプレート15に収容された状態で設けられ、スプリング16のコイル部16bにおけるベースプレート15側(図2(b)の上側)の端面に当接するベースプレート側スプリングシート18(ベースプレート側当接部材)と、スプリング16の巻線16a同士の間に圧入され、スプリング16の軸線方向の振動を抑制するためのスプリングクリップ19(振動抑制部材)などを備えている。
【0027】
シャフト11は、所定の径を有する本体部11aと、エンジンE側にフランジ部11bを有している。また、シャフト11には、本体部11aの中心軸線C1に対して偏心した軸線C2に沿って、スタッドボルト2が貫通する軸孔11cが設けられている。
【0028】
アーム12は、エンジンE側の半部(図2(b)の下半部)に、上記シャフト11の中心軸線C1及び上記軸線C2に対して偏心した軸線C3を中心とする円筒部12aを有している。この円筒部12aの外周面に、ベアリング13を介して、所定の径を有するプーリ14が回転自在に取り付けられている。また、アーム12には、上記シャフト11の本体部11aが貫通するシャフト孔12bが設けられている。
【0029】
さらに、アーム12のエンジンEと反対側の半部(図2(b)の上半部)には、図3(a)に示すように、内側に上記シャフト孔12bを有する円筒状のシャフトガイド壁21と、このシャフトガイド壁21と同心状で、その外側にほぼ円筒状に形成された内壁22と、これらのシャフトガイド壁21及び内壁22と同心状で、内壁22の外側にほぼ円筒状に形成された外壁23とを有している。
【0030】
上記の外壁23には、上方に開放する凹状に形成され、スプリング16の巻線16aの一方の先端部16cを係止するためのスプリング係止部23aが設けられている。また、外壁23には、スプリング係止部23aよりも所定距離、離れた位置に、上方に開放する凹状に形成され、スプリングクリップ19を着脱自在に取り付けるためのクリップ取付部23bが設けられている。
【0031】
図2に示すように、ベースプレート15は、中央部がアーム12側に凹むように形成された凹部31を有しており、この凹部31に前記シャフト11及びスタッドボルト2が貫通している。また、凹部31には、リテーナ30が収容され、このリテーナ30から突出したスタッドボルト2の先端部にナット5が締め付けられている。
【0032】
また、ベースプレート15には、上部の周縁部から下方に延び、エンジンE側の固定ロッド4に係合するロッド係合部32が設けられている。ロッド係合部32には、長孔32aが形成されており、この長孔32aに固定ロッド4が貫通した状態で係合することにより、ベースプレート15は、周方向に不動な状態に保持される。
【0033】
さらに、ベースプレート15には、その径方向及び上方に開放した状態に形成され、スプリング16の巻線16aの他方の先端部16dを係止するためのスプリング係止部15aが設けられている。
【0034】
スプリング16は、巻線16aが複数回(本実施形態では3回)巻かれたコイル部16bを有している。コイル部16bは、直径がアーム12の内壁22よりも大きくかつ外壁23よりも小さくなっており、軸線方向に隣接する巻線16a同士の間に隙間を有するように形成されている。また、前述したように、スプリング16では、巻線16aのアーム12側の先端部16cが、アーム12の前記スプリング係止部23aに、ベースプレート15側の先端部16dが、ベースプレート15の前記スプリング係止部15aに係止されている。
【0035】
図3(a)に示すように、アーム側スプリングシート17は、内径がアーム12の内壁22よりも若干大きく、外径がアーム12の外壁23よりも若干小さく、平面形状が所定幅を有するリング状に形成されている。また、アーム側スプリングシート17の内側には、上方に所定高さを有する円筒状のガイド壁17aが設けられている。
【0036】
また、アーム側スプリングシート17には、周方向の所定位置に軸線方向に所定長さ突出する第1突起部17bが設けられている。また、アーム側スプリングシート17には、第1突起17bの付近から反時計方向に延びるとともに、スプリング16側(図3の上方)に高さが次第に高くなるように傾斜する第1傾斜部17cが設けられている。なお、以下の説明では、第1傾斜部17cの高さが最も低い位置を第1傾斜開始位置17Sとし、第1傾斜部17cの高さが最も高い位置を第1傾斜終了位置17Eとするものとする。
【0037】
一方、ベースプレート側スプリングシート18は、上述したアーム側スプリングシート17に対し、内側のガイド壁17aが省略されていること以外は、アーム側スプリングシート17とほぼ同様で、上下反転した状態に構成されている。すなわち、ベースプレート側スプリングシート18は、内径がベースプレート15の凹部31よりも若干大きく、外径がベースプレート15の外径よりも小さく、平面形状が所定幅を有するリング状に形成されている。また、ベースプレート側スプリングシート18には、周方向の所定位置に軸線方向に所定長さ突出する第2突起部18bが設けられ、この第2突起部18bの付近から反時計方向に延びるとともに、スプリング16側(図3の下方)に高さが次第に高くなるように傾斜する第2傾斜部18cが設けられている。なお、以下の説明では、第2傾斜部18cの高さが最も低い位置を第2傾斜開始位置18Sとし、第2傾斜部18cの高さが最も高い位置を第2傾斜終了位置18Eとするものとする。
【0038】
図3(b)は、スプリングクリップ19を拡大して示している。同図に示すように、スプリングクリップ19は、所定の樹脂材料から成る樹脂成形品で構成されており、本体部19aと、この本体部19aからほぼ平行に所定長さ突出する複数(本実施形態では3つ)の圧入爪19bとを有している。
【0039】
図4(a)は、アーム側スプリングシート17、スプリング16、及びスプリングクリップ19が装着されたアーム12を示す平面図である。また、図4(b)は、図4(a)において、アーム12を省略するとともに、ベースプレート側スプリングシート18を追加した側面図を示している。図4(b)に示すように、スプリング16には、コイル部16bの下側(アーム12側)及び上側(ベースプレート15側)の両端面にそれぞれ、アーム側スプリングシート17及びベースプレート側スプリングシート18が当接している。
【0040】
具体的には、コイル部16bの下側の端面には、アーム側スプリングシート17の第1傾斜部17c及び第1突起部17bが当接する。一方、コイル部16bの上側の端面には、ベースプレート側スプリングシート18の第2傾斜部18c及び第2突起部18bが当接する。
【0041】
また、スプリングクリップ19は、図4(b)に示すように、コイル部16bの周方向において、アーム側スプリングシート17の第1突起部17bと、ベースプレート側スプリングシート18の第2突起18bとの間に位置している。加えて、スプリングクリップ19は、図4(c)に示すように、各圧入爪19bが巻線16a同士の隙間に圧入されている。なお、最も下側の圧入爪19bは、アーム側スプリングシート17とコイル部16bの最も下側の巻線16aとの間に圧入されている。
【0042】
なお、図2(b)に示す符号7及び8はそれぞれ、シャフト11のフランジ部11bとアーム12との間、及びアーム12とベースプレート15との間に介装されたシムであり、これらのシム7及び8により、アーム12が軸線C3を中心として円滑に回動するようになっている。
【0043】
以上のように構成されたテンショナ1では、アーム12とベースプレート15の間に配置されたスプリング16によって、アーム12が所定方向に回動付勢されることにより、アーム12の円筒部12aに設けられたプーリ14がタイミングベルト3を押圧し、そのタイミングベルト3に適切な張力を与えることができる。
【0044】
また、スプリング16には、その外周の外方から内方に向かって、スプリング16の軸線方向に隣接する巻線16a同士の間に、スプリングクリップ19の圧入爪19bが圧入されている。これにより、スプリング16は、その軸線方向に不動に拘束される。
【0045】
加えて、スプリング16のコイル部16bにおけるアーム12側(図4(b)の下側)及びベースプレート15側(図4(b)の上側)の端面にそれぞれ、アーム側スプリングシート17及びベースプレート側スプリングシート18が当接する。より具体的には、アーム側スプリングシート17では、第1傾斜部17cの第1傾斜開始位置17Sから第1傾斜終了位置17Eまでの全体、及び第1突起部17bが、コイル部16bの端面に当接する。一方、ベースプレート側スプリングシート18では、第2傾斜部18cの第2傾斜開始位置18Sから第2傾斜終了位置18Eまでの全体、及び第2突起部18bが、コイル部16の端面に当接する。これにより、スプリング16のコイル部16bの両端面が軸線方向に不動に拘束される。
【0046】
以上のように、スプリング16のコイル部16bが拘束されることにより、エンジンEの運転時に、その振動がテンショナ1に伝わる場合でも、スプリング16のサージングを抑制することができる。
【0047】
また、スプリングクリップ19は、スプリング16の周方向において、アーム側スプリングシート17の第1突起部17bとベースプレート側スプリングシート18の第2突起部18bとの間に配置されることにより、上述したスプリング16のサージングの抑制に加えて、スプリング16のダンピングの増大を防止することができる。
【0048】
さらに、スプリングクリップ19は、アーム12のクリップ取付部23bに対し、スプリング16の周方向に不動な状態で取り付けられるので、テンショナ1の作動時に、スプリングクリップ19が周方向にずれることがない。これにより、スプリングクリップ19を適正な位置に長期間にわたって維持することができる。加えて、スプリングクリップ19は、アーム12のクリップ取付部23bに着脱自在に取り付けられているので、スプリングクリップ19のメンテナンスや交換を容易に行うことができる。
【0049】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、テンショナ1を車両用のエンジンEに適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、動力を伝達するためのベルトが設けられた各種の機器に適用可能である。また、実施形態ではスプリング16として、巻線16aが3回巻かれたねじりコイルばねを採用したが、それ以上の回数、巻線が巻かれたねじりコイルばねを採用可能であることはもちろんである。その場合には、隣接する巻線同士の隙間の数分、圧入爪19bを有するスプリングクリップが用いられる。
【0050】
また、スプリングクリップ19は、アーム12の凹状に形成されたクリップ取付部23bに取り付けるようにしたが、例えば、スプリングクリップ19の本体部19aに、上下方向に延びかつ下方に開口するスリットを形成し、そのスリットを介して、アーム12の外壁23に差し込んだ状態で、スプリングクリップ19をアーム12に取り付けることも可能である。
【0051】
また、実施形態で示したテンショナ1、スプリング16、アーム側スプリングシート17、ベースプレート側スプリングシート18及びスプリングクリップ19の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 テンショナ
2 スタッドボルト
3 タイミングベルト(ベルト)
11 シャフト
12 アーム
12a 円筒部
13 ベアリング
14 プーリ
15 ベースプレート
15a スプリング係止部
16 スプリング
16a 巻線
16b コイル部
16c アーム側の先端部
16d ベースプレート側の先端部
17 アーム側スプリングシート(アーム側当接部材)
17b 第1突起部
17c 第1傾斜部
17S 第1傾斜開始位置
17E 第1傾斜終了位置
18 ベースプレート側スプリングシート(ベースプレート側当接部材)
18b 第2突起部
18c 第2傾斜部
18S 第2傾斜開始位置
18E 第2傾斜終了位置
19 スプリングクリップ(振動抑制部材)
19a 本体部
19b 圧入爪
23a スプリング係止部
23b クリップ取付部(係止凹部)
E エンジン(機器)
C1 シャフトの中心軸線
C2 スタッドボルトの中心軸線
C3 プーリの中心軸線
図1
図2
図3
図4