(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153751
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】電池セル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20221005BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20221005BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20221005BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M50/489
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056433
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】大田 正弘
(72)【発明者】
【氏名】宮田 航成
(72)【発明者】
【氏名】野地 洋平
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H021BB01
5H021EE03
5H021EE04
5H021EE10
5H021HH03
5H021HH06
5H028AA08
5H028BB05
5H028HH05
5H028HH08
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029HJ04
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】電極積層体を均一に保持でき、積層ずれ及び電極の耐久性を改善できる電池セルを提供すること。
【解決手段】正極と、負極とが、電解質層を介して交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルであって、電池セルは、電極積層体を保持するチューブ状の絶縁部材を有し、絶縁部材は、熱収縮性を有しかつ熱収縮の主収縮方向が電極積層体の積層方向である、電池セル。絶縁部材の、電極積層体の集電体タブ延出方向の熱収縮率は-5%~5%であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極とが、電解質層を介して交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルであって、
前記電池セルは、前記電極積層体を保持するチューブ状の絶縁部材を有し、
前記絶縁部材は、熱収縮性を有しかつ熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向である、電池セル。
【請求項2】
前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の熱収縮率は-5%~5%である、請求項1に記載の電池セル。
【請求項3】
前記絶縁部材の、前記積層方向の熱収縮率は5%~80%である、請求項1又は2に記載の電池セル。
【請求項4】
前記絶縁部材の、前記主収縮方向を熱収縮させた際の、前記電極積層体の電極面側の厚みをtv、前記電極積層体の積層面側の厚みをthとした場合に、以下の式(1)の関係を満たす、請求項1~3のいずれかに記載の電池セル。
5%<|(tv-th)/tv)|≦150% ・・・式(1)
【請求項5】
前記絶縁部材は、前記電極積層体の積層面側に溶着部を有し、
前記溶着部の延出長さは、前記絶縁部材の厚さの1.2~3倍である、請求項1~4のいずれかに記載の電池セル。
【請求項6】
前記絶縁部材の、前記主収縮方向を熱収縮させた際の、前記絶縁部材の内部空間の高さは、前記電極積層体の積層高さと同一であり、
前記絶縁部材の内部空間の断面積は、前記電極積層体の断面積の1.0~1.2倍である、請求項1~5いずれかに記載の電池セル。
【請求項7】
前記電極積層体は、前記絶縁部材との間に均圧化部材を有する、請求項6に記載の電池セル。
【請求項8】
前記絶縁部材の集電体タブ延出方向の長さは、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の長さの0.98~1.2倍である、請求項1~7のいずれかに記載の電池セル。
【請求項9】
前記絶縁部材の開口面積は、前記電極積層体の端面面積よりも小さい、請求項1~8のいずれかに記載の電池セル。
【請求項10】
正極と、電解質層と、負極と、が交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルの製造方法であって、
熱収縮性を有しかつチューブ状の絶縁部材の内部空間に、前記電極積層体を、前記絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向となるように配置する配置工程と、
前記絶縁部材の前記電極積層体の積層面側に配置される面を加熱して熱収縮させる加熱工程と、を有する、電池セルの製造方法。
【請求項11】
熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向となる前記絶縁部材は、前記絶縁部材の、前記電極積層体の電極面側に配置される面を予め加熱して熱収縮させることにより形成される、請求項10に記載の電池セルの製造方法。
【請求項12】
前記加熱工程における加熱温度は、60℃以上である、請求項10又は11に記載の電池セルの製造方法。
【請求項13】
前記加熱工程における加熱温度、及び前記絶縁部材の前記電極積層体の電極面側に配置される面を予め加熱する温度のうち少なくともいずれかは、60℃以上である、請求項11に記載の電池セルの製造方法。
【請求項14】
前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の両端部を加熱し、絞り部を形成する絞り部形成工程を有する、請求項10~13のいずれかに記載の電池セルの製造方法。
【請求項15】
前記絞り部形成工程は、前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の一端部を加熱する第1絞り部形成工程と、前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の他端部を加熱する第2絞り部形成工程と、を有し、前記第1絞り部形成工程と、前記第2絞り部形成工程との間に、前記配置工程が行われる、請求項14に記載の電池セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギー密度を有する二次電池として、リチウムイオン二次電池等の二次電池が幅広く普及している。液系の二次電池は、正極と負極との間にセパレータを存在させ、液体の電解質(電解液)を充填したセル構造を有する。また、電解質が固体である全固体電池の場合には、正極と負極との間に固体電解質が存在するセル構造を有する。この単セルが複数積層された積層体により二次電池が構成される。これらは、いずれも外装体で密封包装されている。
【0003】
上記積層体を有する二次電池のセル構造として、例えば、正極とセパレータと負極とが積層された積層型電極体を備える非水電解質二次電池において、積層型電極体の外周に非水電解質を保持する多孔質シートを巻き付け、積層型電極体の積層構造を維持できるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記積層体を有する二次電池は、正極、負極、固体電解質の間で積層ずれを生じることが問題となる。特許文献1に開示された技術は、積層体を保持する力が弱いため、積層体に対する多孔質シートの巻き付け時、外装体に積層体を収容する際、外部からの衝撃が加えられた際等に積層ずれが生じる可能性がある。積層ずれの可能性を考慮して電析を防止するために正極と負極の寸法差を大きくする場合、エネルギー密度が低下する。また、シート状体を積層体に巻き付けて積層体を保持しようとする場合、巻き付け端部に段差が生じるため、積層体に応力分布が発生し、初期性能や耐久性が低下し、電極自体の耐久性にも改善の余地がある。
【0006】
上記課題を解決するため、チューブ状に構成された熱収縮フィルム内に積層体を挿入し、加熱により熱収縮フィルムを収縮させることで、積層体を保持し積層ずれを抑制することも考えられる。しかし、単に積層体を収容した熱収縮フィルムを加熱すると、積層体の積層面に加えられる応力により、電極間距離が不均一になる恐れや、電極が変形する恐れがある。上記の事態を防止するために、熱収縮フィルムの例えば積層面のみを加熱して収縮させた場合、二次電池使用時の温度上昇や自然収縮により熱収縮フィルムの未加熱の面が収縮して、電極間距離が不均一になる恐れや、電極が変形する恐れがある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、電極積層体を均一に保持でき、積層ずれ及び電極の耐久性を改善できる電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、正極と、負極とが、電解質層を介して交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルであって、前記電池セルは、前記電極積層体を保持するチューブ状の絶縁部材を有し、前記絶縁部材は、熱収縮性を有しかつ熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向である、電池セルに関する。
【0009】
(2) 前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の熱収縮率は-5%~5%である、(1)に記載の電池セル。
【0010】
(3) 前記絶縁部材の、前記積層方向の熱収縮率は5%~80%である、(1)又は(2)に記載の電池セル。
【0011】
(4) 前記絶縁部材の、前記主収縮方向を熱収縮させた際の、前記電極積層体の電極面側の厚みをtv、前記電極積層体の積層面側の厚みをthとした場合に、以下の式(1)の関係を満たす、(1)~(3)のいずれかに記載の電池セル。
5%<|(tv-th)/tv)|≦150% ・・・式(1)
【0012】
(5) 前記絶縁部材は、前記電極積層体の積層面側に溶着部を有し、前記溶着部の延出長さは、前記絶縁部材の厚さの1.2~3倍である、(1)~(4)のいずれかに記載の電池セル。
【0013】
(6) 前記絶縁部材の、前記主収縮方向を熱収縮させた際の、前記絶縁部材の内部空間の高さは、前記電極積層体の積層高さと同一であり、前記絶縁部材の内部空間の断面積は、前記電極積層体の断面積の1.0~1.2倍である、(1)~(5)のいずれかに記載の電池セル。
【0014】
(7) 前記電極積層体は、前記絶縁部材との間に均圧化部材を有する、(1)~(6)のいずれかに記載の電池セル。
【0015】
(8) 前記絶縁部材の集電体タブ延出方向の長さは、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の長さの0.98~1.2倍である、(1)~(7)のいずれかに記載の電池セル。
【0016】
(9) 前記絶縁部材の開口面積は、前記電極積層体の端面面積よりも小さい、(1)~(8)のいずれかに記載の電池セル。
【0017】
(10) また、本発明は、正極と、電解質層と、負極と、が交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルの製造方法であって、熱収縮性を有しかつチューブ状の絶縁部材の内部空間に、前記電極積層体を、前記絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向となるように配置する配置工程と、前記絶縁部材の前記電極積層体の積層面側に配置される面を加熱して熱収縮させる加熱工程と、を有する、電池セルの製造方法に関する。
【0018】
(11) 熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向となる前記絶縁部材は、前記絶縁部材の、前記電極積層体の電極面側に配置される面を予め加熱して熱収縮させることにより形成される、(10)に記載の電池セルの製造方法。
【0019】
(12) 前記加熱工程における加熱温度は、60℃以上である、(10)又は(11)に記載の電池セルの製造方法。
【0020】
(13) 前記加熱工程における加熱温度、及び前記絶縁部材の前記電極積層体の電極面側に配置される面を予め加熱する温度のうち少なくともいずれかは、60℃以上である、(11)に記載の電池セルの製造方法。
【0021】
(14) 前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の両端部を加熱し、絞り部を形成する絞り部形成工程を有する、(10)~(13)のいずれかに記載の電池セルの製造方法。
【0022】
(15) 前記絞り部形成工程は、前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の一端部を加熱する第1絞り部形成工程と、前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の他端部を加熱する第2絞り部形成工程と、を有し、前記第1絞り部形成工程と、前記第2絞り部形成工程との間に、前記配置工程が行われる、(14)に記載の電池セルの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電極積層体を均一に保持でき、積層ずれ及び電極の耐久性を改善できる電池セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る電池セルの概要を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る電池セルの概要を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る絶縁部材の概要を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る絶縁部材の構成を示す側面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る電池セルの構成を示す側面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る電池セルの概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0026】
《第1実施形態》
<電池セル>
図1は、本実施形態に係る電池セル1の概要を示す斜視図である。本実施形態に係る電池セル1は、電極積層体3と、電極積層体3を包囲して保持する絶縁部材2と、電極積層体3の両端部から延出する正極集電体タブ4及び負極集電体タブ5と、を有する。電池セル1は、例えば電解質として固体電解質を有する固体電池セルであるが、電解質として液体の電解質を有する液系の二次電池に対しても、本発明の構成を適用できる。電池セル1は、ラミネートフィルム等により形成される任意の外装体(図示省略)に収容される。以下の説明及び図面において、X方向とは電極積層体3の有する電極面に沿った方向(以下、「電極面方向」と記載する場合がある)を示し、Y方向とは上記集電体タブの延出方向(以下、「集電体タブ延出方向」と記載する場合がある)を示し、Z方向とは電極積層体3の積層面に沿った方向(以下、「積層方向」と記載する場合がある)を示す。
【0027】
(電極積層体)
図2は、電極積層体3の概要を示すY方向の断面図である。電極積層体3は、
図2に示すように、負極31と、正極32と、が交互に複数積層され、負極31と正極32との間に固体電解質層33が積層された積層体である。本実施形態において、電極積層体3は全体として略直方体形状を有し、Y方向の断面の高さがh1であり、Y方向の断面積がS1である。
【0028】
[負極]
負極31は、特に限定されるものではなく、固体電池の負極として用いられる公知の負極を適用することができる。負極31は、例えば、シート状の負極集電体と、シート状の負極活物質層により構成される。
【0029】
負極集電体は、特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス(SUS)箔、銅(Cu)箔等の金属箔を用いることができる。複数の負極31の負極集電体は、負極集電体タブ5と電気的に接続される。負極集電体タブ5は、負極集電体と一体に成形されたものであってもよく、負極集電体とは異なる部材であり、溶接、溶着等によって負極集電体と電気的に接続されたものであってもよい。
【0030】
負極活物質層を構成する物質としては、特に限定されるものではなく、固体電池の負極活物質として公知の物質を適用することができる。その組成についても特に制限はなく、負極活物質以外に固体電解質、導電助剤や結着剤等を含んでいてもよい。
【0031】
負極活物質は、電池セル1が例えばリチウムイオン固体電池セルである場合、リチウムイオンを吸蔵・放出することができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、Si、SiO、及び黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料等が挙げられる。
【0032】
[正極]
正極32は、特に限定されるものではなく、固体電池の正極として用いられる公知の正極を適用することができる。正極32は、例えば、シート状の正極集電体と、シート状の正極活物質層により構成される。
【0033】
正極集電体は、特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス(SUS)箔、アルミ(Al)箔等の金属箔を用いることができる。複数の正極32の正極集電体は、正極集電体タブ4と電気的に接続される。正極集電体タブ4は、正極集電体と一体に成形されたものであってもよく、正極集電体とは異なる部材であり、溶接、溶着等によって正極集電体と電気的に接続されたものであってもよい。
【0034】
正極活物質層を構成する物質としては、特に限定されるものではなく、固体電池の正極活物質として公知の物質を適用することができる。その組成についても特に制限はなく、正極活物質以外に固体電解質、導電助剤や結着剤等を含んでいてもよい。
【0035】
正極活物質は、特に限定されるものではなく、電池セル1が例えばリチウムイオン固体電池セルである場合、例えば、二硫化チタン、二硫化モリブデン、セレン化ニオブ、等の遷移金属カルコゲナイド、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2、LiMn2O4)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等の遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0036】
[固体電解質層]
固体電解質層33は、負極31と、正極32との間に積層され、例えば層状に形成される。固体電解質層33は、少なくとも固体電解質材料を含有する層である。上記固体電解質材料を介して、正極活物質及び負極活物質の間のイオン移動を行うことができる。
【0037】
固体電解質材料としては、特に限定されないが、例えば、硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料、窒化物固体電解質材料、ハロゲン化物固体電解質材料等を挙げることができる。
【0038】
(絶縁部材)
絶縁部材2は、
図2~
図5に示すように、電極積層体3を収容可能な内部空間を有するチューブ状の絶縁部材である。絶縁部材2は、加熱することで収縮する熱収縮性を有する部材であり、例えば熱収縮フィルムにより構成される。絶縁部材2として熱収縮性を有するチューブ状の絶縁部材を用いることで、シート状の絶縁部材を電極積層体3に巻き付ける場合と比較して、電極積層体3の電極面に段差が生じないように電池セル1を構成できる。従って、電極や固体電解質の割れを防止できる。
【0039】
熱収縮フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系収縮フィルム、ポリスチレン系収縮フィルム、ポリオレフィン系収縮フィルム、ポリ塩化ビニル系収縮フィルム、ポリカーボネート系収縮フィルム、ポリエチレン系収縮フィルム、ポリプロピレン系収縮フィルム、等を用いることができる。上記熱収縮フィルムは、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
絶縁部材2は、
図3及び
図4に示すように、内部に電極積層体3を配置可能な内部空間を有するチューブ状の形状を有する。絶縁部材2は、電極積層体3の電極面側に配置される面A1及び面A2と、電極積層体3の積層面側に配置される面B1及び面B2と、を有し、集電体タブ延出方向の両端は開口している。絶縁部材2は、本実施形態において段差を有しないシームレスの形状であるが、1枚の熱収縮フィルムの端部同士を溶着して構成されるものであってもよい(第2実施形態において詳述する)。
【0041】
絶縁部材2は、熱収縮の主収縮方向が電極積層体3の積層方向である。本明細書において、「主収縮方向」とは、絶縁部材2の内部空間に電極積層体3を配置し、加熱により絶縁部材2を熱収縮させて電極積層体3を保持する際の、熱収縮による熱収縮率が他の方向よりも高い方向を示す。絶縁部材2の上記構成は、本実施形態において、電極積層体3の電極面側に配置される絶縁部材2の面A1及び面A2よりも、電極積層体3の積層面側に配置される絶縁部材2の面B1及び面B2の方が、熱収縮による熱収縮率が高いことと同義である。上記構成を有する絶縁部材2により、絶縁部材2の内部空間に電極積層体3を配置した後に、加熱により、面B1及び面B2が主に熱収縮するため、電極積層体3の積層面に過度な応力が加えられることを抑制できる。従って、電極間距離が不均一になることや、電極が変形することを防止できる。なお、熱収縮率は、収縮前の長さに対する、収縮前の長さと収縮後の長さとの差の、比率(百分率)として算出される。
【0042】
絶縁部材2の、主収縮方向が電極積層体3の積層方向である上記構成は、例えば、絶縁部材2の電極面方向である面A1及び面A2が、加熱によりあらかじめ熱収縮された面であることで実現できる。これにより、絶縁部材2の内部空間に電極積層体3を配置し、加熱により絶縁部材2の面B1及び面B2を熱収縮させて電池セル1を構成した後に、外部から熱が加えられた場合であっても、絶縁部材2の熱収縮は抑制される。従って、電池セル1を構成した後に電極間距離が不均一になることや、電極が変形することを防止できる。上記以外に、絶縁部材2の面A1及び面A2を、熱収縮が小さい材料で構成し、面B1及び面B2を、熱収縮が大きい材料で構成して、主収縮方向が電極積層体3の積層方向である絶縁部材2を構成してもよい。
【0043】
絶縁部材2の、集電体タブ延出方向の熱収縮率は、-5%~5%であることが好ましい。絶縁部材2を構成する熱収縮フィルムは、異方性を有しており、
図3に示す絶縁部材2の周方向であるTD方向に収縮することで、電極積層体3に対する保持力が発生する。一方で、絶縁部材2の集電体タブ延出方向であるMD方向に対し、膨張や収縮が発生すると、電極積層体3を構成する電極及び電解質層がずれる方向に応力が働く。このため、絶縁部材2のMD方向の熱収縮率は0%に近いことが好ましい。絶縁部材2のMD方向の熱収縮率が5%を超える場合、上記応力が静止摩擦力を上回り、積層ずれが発生する恐れがある。絶縁部材2のMD方向の熱収縮率が-5%未満である場合、積層ずれの発生に加えて、絶縁部材2の体積が増加することで、電池セル1のエネルギー密度が低下する恐れがある。
【0044】
絶縁部材2の、
図3に示すTD方向の熱収縮率は、5%~80%であることが好ましい。絶縁部材2のTD方向の熱収縮率が5%未満である場合、絶縁部材2の熱収縮による電極積層体3に対する保持力が不十分となり、電極の積層ずれが発生する恐れがある。絶縁部材2のTD方向の熱収縮率が80%を超える場合、電極積層体3に対して過度の保持力が発生し、電極積層体3の変形や電極の積層ずれ、電極の変形等が発生する恐れがある。
【0045】
絶縁部材2の、主収縮方向である面B1及び面B2を熱収縮させた状態において、
図4に示す電極積層体3の電極面側に配置される面A1及び面A2の厚みをtv、電極積層体3の積層面側に配置される面B1及び面B1の厚みをthとした場合に、以下の式(1)の関係を満たすことが好ましい。
5%<|(tv-th)/tv)|≦150% ・・・式(1)
【0046】
上記式(1)における|(tv-th)/tv)|が5%未満である場合、電極積層体3の変形や電極の積層ずれ、電極の変形等が発生する恐れがある。上記式(1)における|(tv-th)/tv)|が150%を超える場合、熱収縮量が大きすぎることから寸法精度が低下し、また、絶縁部材2にシワが出来やすくなる。
【0047】
なお、tv>thである場合、絶縁部材2を予め熱収縮させる方向はX方向であることが好ましく、面A1及び面A2を熱収縮させる温度Txが、面B1及びB2熱収縮させる温度Tzよりも大きい(Tx>Tz)ことにより、電極積層体3に対して均一な保持力を加えることができる。tv<thである場合、面A1及び面A2を熱収縮させる温度Txが、面B1及びB2熱収縮させる温度Tzよりも小さい(Tx<Tz)ことにより、電極積層体3に対して均一な保持力を加えることができる。また、絶縁部材2の熱収縮温度であるTx及びTzは、60℃以上であることが好ましい。電池セル1がリチウムイオン二次電池である場合、リチウムイオン二次電池の使用温度上限は60℃程度であるため、60℃以上で絶縁部材2を熱収縮させることにより、電池セル1の使用中に絶縁部材2の熱収縮が起こることを抑制できる。即ち、電池セル1の使用中における電極積層体3の変形や電極の積層ずれ、電極の変形等を抑制できる。
【0048】
絶縁部材2の主収縮方向である面B1及び面B2を熱収縮させた状態において、絶縁部材2の内部空間の高さh2は、電極積層体3の積層高さh1と同一であることが好ましい。これにより、絶縁部材2により電極積層体3に対して保持力が発揮された状態となる。また、絶縁部材2の内部空間の断面積S2は、電極積層体3の断面積S1の1.0~1.2倍であることが好ましい。これにより、電池セル1のエネルギー密度の低下や、電極積層体3の変形を防止することができる。なお電極積層体3の断面積S1は、電極積層体3を構成する電極のサイズが種類によって異なる場合、各電極を含む矩形の領域における断面積を意味する。
【0049】
絶縁部材2の熱収縮による圧縮応力は、電極積層体3を構成する電極及び電解質層間における最も弱い静止摩擦力よりも大きいことが好ましい。これにより、絶縁部材2により電極積層体3に対して均一な保持力を加えることができる。仮に上記圧縮応力が上記を満たさない場合、電極積層体3において静止摩擦力が不十分となる箇所が生じる。従って、電池セル1の使用時における振動や衝突などの外力により、静止摩擦力が最も小さい箇所を起点として電極積層体3の電極の積層ずれが生じる恐れがある。
【0050】
絶縁部材2の集電体タブ延出方向の長さL1は、電極積層体3の集電体タブ延出方向の長さの0.98~1.2倍であることが好ましい。上記が0.98倍未満である場合、電極積層体3の絶縁性及び絶縁部材2による電極積層体3の保持力を十分に確保することが困難になる。上記が1.2倍を超える場合、充放電に寄与しない箇所の体積が増加するため、電池セル1のエネルギー密度が低下する。
【0051】
絶縁部材2の開口面積は、電極積層体3の端面面積よりも小さいことが好ましい。
図5に示すように、絶縁部材2の開口する両端部には、絞り部21が形成されている。これにより、電極積層体3のY方向の電極ずれを防止できる。
【0052】
電池セル1は、上記以外の構成を有していてもよい。例えば、電極積層体3は、絶縁部材2との間に均圧化部材を有していてもよい。これにより、電極積層体3の厚みを均一化することができるため、電極積層体3に対する保持力を均一化することができる。均圧化部材としては、応力により変形可能な任意の材料を用いることができる。
【0053】
均圧化部材の例としては、例えば、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料、表面が絶縁処理されたアルミニウム、SUS等の表面絶縁処理金属材料を用いることができる。比剛性・比強度の高い材料を用いることにより、均圧化部材の厚みを小さくできることから、均圧化部材として、表面絶縁処理金属材料を用いることがより好ましい。
【0054】
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係る電池セル1aについて説明する。第1実施形態と共通する箇所に付いては、説明を省略する場合がある。本実施形態に係る電池セル1aは、
図6に示すように、溶着部22を有する絶縁部材2aを有する。
【0055】
溶着部22は、シート状の熱収縮フィルムの端部同士を溶着させ、チューブ状の絶縁部材2aを得る際に形成される溶着部である。溶着部22は、例えば、シート状の熱収縮フィルムの端部同士を一部重ね合わせて、加熱することで溶着及び溶断を行うことにより形成される。このように絶縁部材2aを構成することで、電極積層体3に対してシート状の熱収縮フィルムを巻き付け、熱収縮フィルムの端部同士を溶着及び溶断する製造方法を適用できるので、電池セル1aの製造工程を簡易化できる。なお、溶着部22は、電極積層体3の積層面側に配置される。このため、電池セル1aの設置面である電極面側には段差が生じないため、電極積層体3の電極の積層ずれの問題は生じない。
【0056】
溶着部22の延出長さdは、絶縁部材2aの厚さの1.2~3倍であることが好ましい。上記が1.2倍未満である場合、溶着部22を形成する際の加熱により、絶縁部材2aの溶着部22の近傍の箇所が熱収縮することで、電極積層体3の積層方向に対する保持力が均一にならない問題が生じる。上記が3倍を超える場合、充放電に寄与しない箇所の体積が増加するため、電池セル1のエネルギー密度が低下する。
【0057】
<電池セルの製造方法>
本実施形態に係る電池セルの製造方法は、熱収縮性を有しかつチューブ状の絶縁部材の内部空間に、電極積層体を、絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が電極積層体の積層方向となるように配置する配置工程と、絶縁部材の電極積層体の積層面側に配置される面を加熱して熱収縮させる加熱工程と、を有する。また、絶縁部材の、電極積層体の集電体タブ延出方向の両端部を加熱し、絞り部を形成する絞り部形成工程を有していてもよい。
【0058】
(配置工程)
配置工程は、熱収縮性を有しかつチューブ状の絶縁部材の内部空間に、電極積層体を配置する工程である。この際に、絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が電極積層体の積層方向となるように、電極積層体を配置する。なお、上記チューブ状の絶縁部材は、例えば、シート状の熱収縮フィルムの端部同士を溶着させることで形成される。この場合、配置工程と上記チューブ状の絶縁部材の形成は、電極積層体をシート状の熱収縮フィルムで包み、熱収縮フィルムの端部同士を溶着させることで同時に行われてもよい。絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が電極積層体の積層方向となる絶縁部材は、例えば、熱収縮フィルムによりチューブ状の絶縁部材が形成される前又は後に、熱収縮フィルムの一部(電極積層体の電極面側に配置される箇所)を予め加熱することで熱収縮させることにより形成される。この際、熱収縮フィルムを予め加熱する温度は、60℃以上であることが好ましい。
【0059】
(加熱工程)
加熱工程は、絶縁部材の電極積層体の積層面側に配置される面を加熱して熱収縮させる工程である。加熱工程により、絶縁部材が電極積層体に密着して保持力が発揮される。また、積層面側に配置される面を加熱して熱収縮させることで、電極積層体の積層面に対して過度な応力が加えられることを抑制できる。従って、電極間距離が不均一になることや、電極が変形することを防止できる。加熱工程における加熱温度は、60℃以上であることが好ましい。
【0060】
(絞り部形成工程)
絞り部形成工程は、上記加熱工程後の絶縁部材の開口端部に、端部形状に応じて形成された型を押し当てて加熱することで、絞り部を形成する工程である。絞り部が形成されることで、電極積層体のY方向の電極ずれを防止できる。絞り部形成工程における加熱温度は、加熱工程における加熱温度よりも高い温度とすることができる。
【0061】
絞り部形成工程は、絶縁部材の、電極積層体の集電体タブ延出方向に配置される一端部を加熱する第1絞り部形成工程と、絶縁部材の、電極積層体の集電体タブ延出方向に配置される他端部を加熱する第2絞り部形成工程と、を有する。また、第1絞り部形成工程と、第2絞り部形成工程との間に、配置工程が行われることが好ましい。これにより、第1絞り部形成工程により形成される絞り部を用いて、積層体の位置決めを容易に行うことができる。
【0062】
以上、本発明に関する実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0063】
本発明の電池セルの製造方法は、上記実施形態の記載に限定されない。例えば、絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が電極積層体の積層方向となる絶縁部材は、熱収縮率が異なる複数の材料により構成されていてもよいし、チューブ状の絶縁部材の形成は、シート状の熱収縮フィルムを溶着させる代わりに、チューブ状に形成されたシームレスの絶縁部材を用いるものであってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1、1a 電池セル
2、2a 絶縁部材
22 溶着部
3 電極積層体
31 負極
32 正極
33 固体電解質層(電解質層)
【手続補正書】
【提出日】2021-04-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極とが、電解質層を介して交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルであって、
前記電池セルは、前記電極積層体を保持するチューブ状の絶縁部材を有し、
前記絶縁部材は、熱収縮性を有しかつ熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向である、電池セル。
【請求項2】
前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の熱収縮率は-5%~5%である、請求項1に記載の電池セル。
【請求項3】
前記絶縁部材の、前記積層方向の熱収縮率は5%~80%である、請求項1又は2に記載の電池セル。
【請求項4】
前記絶縁部材の、前記主収縮方向を熱収縮させた際の、前記電極積層体の電極面側の厚みをtv、前記電極積層体の積層面側の厚みをthとした場合に、以下の式(1)の関係を満たす、請求項1~3のいずれかに記載の電池セル。
5%<|(tv-th)/tv)|≦150% ・・・式(1)
【請求項5】
前記絶縁部材は、前記電極積層体の積層面側に溶着部を有し、
前記溶着部の延出長さは、前記絶縁部材の厚さの1.2~3倍である、請求項1~4のいずれかに記載の電池セル。
【請求項6】
前記絶縁部材の、前記主収縮方向を熱収縮させた際の、前記絶縁部材の内部空間の高さは、前記電極積層体の積層高さと同一であり、
前記絶縁部材の内部空間の断面積は、前記電極積層体の断面積の1.0~1.2倍である、請求項1~5いずれかに記載の電池セル。
【請求項7】
前記電極積層体は、前記絶縁部材との間に均圧化部材を有する、請求項6に記載の電池セル。
【請求項8】
前記絶縁部材の集電体タブ延出方向の長さは、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の長さの0.98~1.2倍である、請求項1~7のいずれかに記載の電池セル。
【請求項9】
前記絶縁部材の開口面積は、前記電極積層体の端面面積よりも小さい、請求項1~8のいずれかに記載の電池セル。
【請求項10】
正極と、負極とが、電解質層を介して交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルの製造方法であって、
熱収縮性を有しかつチューブ状の絶縁部材の内部空間に、前記電極積層体を、前記絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向となるように配置する配置工程と、
前記絶縁部材の前記電極積層体の積層面側に配置される面を加熱して熱収縮させる加熱工程と、を有する、電池セルの製造方法。
【請求項11】
熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向となる前記絶縁部材は、前記絶縁部材の、前記電極積層体の電極面側に配置される面を予め加熱して熱収縮させることにより形成される、請求項10に記載の電池セルの製造方法。
【請求項12】
前記加熱工程における加熱温度は、60℃以上である、請求項10又は11に記載の電池セルの製造方法。
【請求項13】
前記加熱工程における加熱温度、及び前記絶縁部材の前記電極積層体の電極面側に配置される面を予め加熱する温度のうち少なくともいずれかは、60℃以上である、請求項11に記載の電池セルの製造方法。
【請求項14】
前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の両端部を加熱し、絞り部を形成する絞り部形成工程を有する、請求項10~13のいずれかに記載の電池セルの製造方法。
【請求項15】
前記絞り部形成工程は、前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の一端部を加熱する第1絞り部形成工程と、前記絶縁部材の、前記電極積層体の集電体タブ延出方向の他端部を加熱する第2絞り部形成工程と、を有し、前記第1絞り部形成工程と、前記第2絞り部形成工程との間に、前記配置工程が行われる、請求項14に記載の電池セルの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
(10) また、本発明は、正極と、負極とが、電解質層を介して交互に積層配置された電極積層体を有する電池セルの製造方法であって、熱収縮性を有しかつチューブ状の絶縁部材の内部空間に、前記電極積層体を、前記絶縁部材の熱収縮の主収縮方向が前記電極積層体の積層方向となるように配置する配置工程と、前記絶縁部材の前記電極積層体の積層面側に配置される面を加熱して熱収縮させる加熱工程と、を有する、電池セルの製造方法に関する。