(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153790
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】カルボキシメチル化セルロース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20221005BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20221005BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C08B11/12
A23L29/262
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056492
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 未来也
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
【テーマコード(参考)】
4B041
4C090
5H050
【Fターム(参考)】
4B041LC05
4B041LH11
4B041LP25
4C090AA05
4C090BA29
4C090BB12
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB92
4C090BD08
4C090BD36
4C090CA33
4C090CA36
4C090DA11
5H050AA19
5H050BA15
5H050DA11
5H050EA23
5H050HA00
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、均一なカルボキシメチル基の反応を進めることで、高いカルボキシメチル置換度を有しつつ、水溶液にした際に高い粘度を発揮することができる、カルボキシメチル化セルロース又はその塩を提供することを課題とする。
【解決手段】下記条件(A)~(C)を満たすことを特徴とするカルボキシメチルセルロース又はその塩。
条件(A):グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、1.2~2.0を満たすこと。
条件(B):固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすこと。
条件(C):水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすこと。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(A)~(C)を満たすことを特徴とするカルボキシメチルセルロース又はその塩。
条件(A):グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、1.2~2.0を満たすこと。
条件(B):固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすこと。
条件(C):水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすこと。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩を含むことを特徴とする、非水電解質二次電池用結合剤。
【請求項3】
請求項1に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩を含むことを特徴とする、食品用添加剤。
【請求項4】
セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチル化セルロースを得る工程、を含み、
マーセル化セルロースを得る工程を、水を主とする溶媒下で行い、
カルボキシメチル化セルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行う、
カルボキシメチル化セルロースの製造方法であって、
該カルボキシメチル化セルロースが、下記条件(A)~(C)を満たすことを特徴とする、カルボキシメチル化セルロースの製造方法。
条件(A):グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、1.2~2.0を満たすこと。
条件(B):固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすこと。
条件(C):水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすこと。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチル化セルロース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチル化セルロースは、セルロースの誘導体であり、セルロースの骨格を構成するグルコース残基中の水酸基の一部にカルボキシメチル基をエーテル結合させたものである。カルボキシメチル基の量が増えると(すなわち、カルボキシメチル置換度が増加すると)、カルボキシメチル化セルロースは水に溶解するようになる。一方、カルボキシメチル置換度を適度な範囲に調整することにより、水中でもカルボキシメチル化セルロースの繊維状の形状を維持させることができるようになる。繊維状の形状を有するカルボキシメチル化セルロースは、機械的に解繊することにより、ナノスケールの繊維径を有するナノファイバーへと変換することができる(特許文献1)。
【0003】
カルボキシメチル化セルロースの製造方法としては、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、エーテル化剤(カルボキシメチル化剤ともいう。)で処理(カルボキシメチル化。エーテル化とも呼ぶ。)する方法が知られており、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法と、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒下または有機溶媒と水との混合溶媒下で行う方法(特許文献2)が知られており、前者は「水媒法」、後者は「溶媒法」と呼ばれる。
【0004】
この様な従来の水媒法や溶媒法により得られるカルボキシメチル化セルロースは、カルボキシメチル置換度が増加すると均等にグルコース単位あたりのカルボキシメチル基の量が増えることが期待されるが、実際には反応が均一に起こらない箇所もあり、カルボキシメチル基が局在して反応が進んでいると想定される。そのため、カルボキシメチル置換度が一定以上に増加しても、それ以上は局在したカルボキシメチル基の置換反応が主体的に進むのみであり、均一な置換反応が進むことにより水溶液とした際の粘度の上昇(つまり水溶性の増加)が期待されるほど得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/088072号
【特許文献2】特開2017-149901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、均一なカルボキシメチル基の反応を進めることで、高いカルボキシメチル置換度を有しつつ、水溶液にした際に高い粘度を発揮することができる、カルボキシメチル化セルロース又はその塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下〔1〕~〔4〕である。
〔1〕下記条件(A)~(C)を満たすことを特徴とするカルボキシメチルセルロース又はその塩。
条件(A):グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、1.2~2.0を満たすこと。
条件(B):固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすこと。
条件(C):水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすこと。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
〔2〕〔1〕に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩を含むことを特徴とする、非水電解質二次電池用結合剤。
〔3〕〔1〕に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩を含むことを特徴とする、食品用添加剤。
〔4〕セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチル化セルロースを得る工程、を含み、
マーセル化セルロースを得る工程を、水を主とする溶媒下で行い、
カルボキシメチル化セルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行う、
カルボキシメチル化セルロースの製造方法であって、
該カルボキシメチル化セルロースが、下記条件(A)~(C)を満たすことを特徴とする、カルボキシメチル化セルロースの製造方法。
条件(A):グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、1.2~2.0を満たすこと。
条件(B):固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすこと。
条件(C):水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすこと。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、均一なカルボキシメチル基の反応を進めることで、高いカルボキシメチル置換度を有しつつ、水溶液にした際に高い粘度を発揮することができる、カルボキシメチル化セルロース又はその塩を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
すなわち本発明は、下記条件(A)~(C)を満たすことを特徴とするカルボキシメチルセルロース又はその塩である。
条件(A):グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、1.2~2.0を満たすこと。
条件(B):固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすこと。
条件(C):水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすこと。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
【0010】
カルボキシメチル化セルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。
【0011】
<セルロース>
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、マーセル化セルロースの原料として用いることができる。
【0012】
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0013】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
【0014】
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0015】
<マーセル化>
原料として前述のセルロースを用い、マーセル化剤(アルカリ)を添加することによりマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を得る。本発明では、このマーセル化反応における溶媒に水を主として用い、次のカルボキシメチル化の際に有機溶媒と水との混合溶媒を使用することにより、多くのカルボキシメチル基を導入しつつ、且つ均一にカルボキシメチル基が分布したカルボキシメチル化セルロースを経済的に得ることができる。
【0016】
溶媒に水を主として用いる(水を主とする溶媒)とは、水を50質量%より高い割合で含む溶媒をいう。水を主とする溶媒中の水は、好ましくは55質量%以上あり、より好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。特に好ましくは水を主とする溶媒は、水が100質量%(すなわち、水)である。マーセル化時の水の割合が多いほど、セルロースが均一に膨潤し反応性が高まるので、本発明の効果をより発現しやすくなる。水を主とする溶媒中の水以外の(水と混合して用いられる)溶媒としては、後段のカルボキシメチル化の際の溶媒として用いられる有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に50質量%未満の量で添加してマーセル化の際の溶媒として用いることができる。水を主とする溶媒中の有機溶媒は、好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0017】
マーセル化剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられ、これらのうちいずれか1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。マーセル化剤は、これに限定されないが、これらのアルカリ金属水酸化物を、例えば、1~60質量%、好ましくは2~55質量%、より好ましくは3~50質量%の水溶液として反応器に添加することができる。マーセル化剤の使用量は、一実施形態において、セルロース100g(絶乾)に対して0.1モル以上6.5モル以下であることが好ましく、0.3モル以上6.0モル以下であることがより好ましく、0.4モル以上5.5モル以下であることがさらに好ましい。
【0018】
マーセル化の際の水を主とする溶媒の量は、原料の撹拌混合が可能な量であればよく特に限定されないが、セルロース原料に対し、1.5~20質量倍が好ましく、2~10質量倍であることがより好ましい。
【0019】
マーセル化処理は、発底原料(セルロース)と水を主とする溶媒とを混合し、反応器の温度を0~70℃、好ましくは10~60℃、より好ましくは10~40℃に調整して、マーセル化剤の水溶液を添加し、15分~8時間、好ましくは30分~7時間、より好ましくは30分~3時間撹拌することにより行う。これによりマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を得る。
【0020】
マーセル化の際のpHは、9以上が好ましく、これによりマーセル化反応を進めることができる。該pHは、より好ましくは11以上であり、更に好ましくは12以上であり、13以上でもよい。pHの上限は特に限定されない。
【0021】
マーセル化は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からマーセル化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。例えば、2本の軸が撹拌し、上記各成分を混合するようなバッチ型攪拌装置は、均一混合性と生産性の両観点から好ましい。
【0022】
<カルボキシメチル化>
マーセル化セルロースに対し、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、カルボキシメチル化セルロースを得る。本発明では、このカルボキシメチル化反応における溶媒として、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる。マーセル化の際は水を主とする溶媒として用い、カルボキシメチル化の際には水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、カルボキシメチル基が均一に置換したカルボキシメチル化セルロースを経済的に得ることができる。
【0023】
カルボキシメチル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。これらのうち、原料の入手しやすさという点でモノクロロ酢酸、またはモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。カルボキシメチル化剤は、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5~6.0モルの範囲で添加することが好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは5.0モル以下、さらに好ましくは4.0モル以下である。カルボキシメチル化剤は、これに限定されないが、例えば、5~80質量%、より好ましくは30~60質量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
【0024】
マーセル化剤とカルボキシメチル化剤のモル比(マーセル化剤/カルボキシメチル化剤)は、カルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.9~2.45が一般的に採用される。その理由は、0.9未満であるとカルボキシメチル化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0025】
また、本発明では、カルボキシメチル化剤の有効利用率が、15%以上であることが好ましい。より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。カルボキシメチル化剤の有効利用率とは、カルボキシメチル化剤におけるカルボキシメチル基のうち、セルロースに導入されたカルボキシメチル基の割合を指す。本発明では、マーセル化の際に水を主とする溶媒を用い、カルボキシメチル化の際に水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、カルボキシメチル基が均一に置換したカルボキシメチル化セルロースを製造することができる。カルボキシメチル化剤の有効利用率の上限は特に限定されないが、現実的には80%程度が上限となる。なお、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、AMと略すことがある。
【0026】
カルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は以下の通りである:
AM(%)=100×(DS×セルロースのモル数)/ カルボキシメチル化剤のモル数
DS: カルボキシメチル置換度(測定方法は後述する)
セルロースのモル数:パルプ質量(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)/162(162はセルロースのグルコース単位当たりの分子量)。
【0027】
カルボキシメチル化反応におけるセルロース原料の濃度は、特に限定されないが、カルボキシメチル化剤の有効利用率を高める観点から、1~40%(w/v)であることが好ましい。
【0028】
カルボキシメチル化剤を添加するのと同時に、あるいはカルボキシメチル化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成する。本発明では、この水と有機溶媒との混合溶媒下で、カルボキシメチル化反応を進行させる。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からカルボキシメチル化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチル化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
【0029】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に添加してカルボキシメチル化の際の溶媒として用いることができる。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。
【0030】
カルボキシメチル化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20~99質量%であることが好ましく、30~99質量%であることがより好ましく、40~99質量%であることがさらに好ましく、45~99質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
カルボキシメチル化の際の反応媒(セルロースを含まない、水と有機溶媒等との混合溶媒)は、マーセル化の際の反応媒よりも、水の割合が少ない(言い換えれば、有機溶媒の割合が多い)ことが好ましい。本範囲を満たすことで、カルボキシメチル基が均一に置換したカルボキシメチル化セルロースを、より効率的に得ることができるようになる。また、カルボキシメチル化の際の反応媒が、マーセル化の際の反応媒よりも水の割合が少ない(有機溶媒の割合が多い)場合、マーセル化反応からカルボキシメチル化反応に移行する際に、マーセル化反応終了後の反応系に所望の量の有機溶媒を添加するという簡便な手段でカルボキシメチル化反応用の混合溶媒を形成させることができるという利点も得られる。
【0032】
水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、マーセル化セルロースにカルボキシメチル化剤を投入した後、温度を好ましくは10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間、好ましくは15分~1時間程度撹拌する。マーセル化セルロースを含む液とカルボキシメチル化剤との混合は、反応混合物が高温になることを防止するために、複数回に分けて、または、滴下により行うことが好ましい。カルボキシメチル化剤を投入して一定時間撹拌した後、必要であれば昇温して、反応温度を30~90℃、好ましくは40~90℃、さらに好ましくは60~80℃として、30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化(カルボキシメチル化)反応を行い、カルボキシメチル化セルロースを得る。
【0033】
カルボキシメチル化の際には、マーセル化の際に用いた反応器をそのまま用いてもよく、あるいは、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応器を用いてもよい。
【0034】
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和してもよい。また、必要に応じて、副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級してカルボキシメチル化セルロース又はその塩としてもよい。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
【0035】
<カルボキシメチル化セルロース>
本発明で製造されるカルボキシメチル化セルロース(以下、CMCともいう)は、下記条件(A)~(C)を満たすことが重要である。
条件(A):グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、1.2~2.0を満たすこと。
条件(B):固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすこと。
条件(C):水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすこと。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
【0036】
条件(A)としては、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が1.2~2.0である。本発明のカルボキシメチル化セルロースは、均一でかつ高いカルボキシメチル置換度を有することを特徴とする。水媒法や溶媒法で得られる従来のCMCは、高いカルボキシメチル置換度を得ることができても、置換が局在するため
均一な置換とならない。本発明のCMCは、前述する特徴的な製造方法を行うことにより、均一でかつ高い置換度を両立することができる。そのような本発明のCMCはカルボキシメチル置換度が1.3~2.0が好ましく、1.4~1.9がより好ましく、1.4~1.8がさらに好ましい。
【0037】
本発明において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシメチルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0038】
カルボキシメチル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチル化セルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシメチル化セルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する (溶け切らない場合は溶けるまで振盪する)。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0039】
条件(B)としては、CMCの固形分1%(w/v)の水分散体aとした際の粘度Vaが、4000mPa・s以上を満たすことが重要である。従来のCMCでは、カルボキシメチル基の置換が局在しているため、高いDSを持つCMCでも部分的に置換がなされていないグルコース単位が存在しており、水分散体とした際に期待されるほどの粘度を発揮することができなかった。本発明のCMCは、均一なカルボキシメチル基の置換が可能となったことから、初めて高いDSと高い粘度を両立することが可能となった。そのような本発明のCMCは粘度Vaが4200mPa・以上が好ましく、4500mPa・s以上がさらに好ましい。なお、水分散体aのpHとしては中性域(pH6~8)を示し、好ましくはpH6.5~7.5である。
【0040】
また、粘度の測定方法は以下の通りである:
カルボキシメチルセルロース又はその塩を、1000mL容ガラスビーカーに測りとり、蒸留水900mLに分散し、所望の固形分濃度となるように水分散体を調製する。水分散体を25℃で撹拌機を用いて600rpmで3時間撹拌する。その後、B型粘度計 (TVB-10M、東機産業製)で25℃、30rpm、180秒の条件で粘度を測定した。
【0041】
条件(C)としては、水分散体aを、pH12に調整した水分散体bの粘度Vbが、一般式(1)の関係式を満たすことが重要である。
Vb/Va×100≧85・・・(1)
【0042】
カルボキシメチル基が均一に局在することで、pH12などのアルカリ性状態の水分散体でも粘性を高く維持することができる。ゆえに、本発明のCMCは、式(1)を満たすことで、そのようなカルボキシメチル基が均一に分布し置換されていることの指標としてとらえることができる。
【0043】
水分散体bとしては、例えば粘度Vaを測定した後すぐに、水分散体aにpH12になるまで0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することで調整することができ、得られた水分散体bはすぐに粘度Vbを測定する。
なお、粘度Vbの測定は粘度Vaと同様にして測定した。
【0044】
本発明のカルボキシメチル化セルロースは、さらに高いせん断領域の粘度と低いせん断領域の粘度に大きな差がなく、チキソ性が低いことを特徴とする。従来のCMCは、チキソ性が高く静置時に粘度の上昇が大きいため、動的な粘度が高くなればなるほど、作業性が悪化することが懸念される。しかしながら、本発明のカルボキシメチル化セルロースは、カルボキシメチル基が均一に分布しているためチキソ性が低くなっていると想定され、動的な粘度が4000mPa・s以上であっても、静置時の粘度の急激な上昇は起こらないために、作業性に優れるCMCを得ることができる。
【0045】
そのような本発明のカルボキシメチル化セルロースは、カルボキシメチル基が均一に分布し特徴的な性質を示すことから、工業用途、食品用途、化粧品用途などの様々な分野に用いることができるが、特に非水電解質二次電池用結合剤や食品添加剤などに用いることが適している。
【実施例0046】
以下、本発明の実施の形態を実施例により説明するが、本発明はこれにより限定される
ものではない。
【0047】
(実施例1)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水酸化ナトリウム200部を水200部に溶解したものを加え、リンターパルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)4200部と、モノクロロ酢酸230部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、95%である。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度1.51のカルボキシメチル化セルロース1のナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、38%であった。なお、カルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は、上述の通りである。
【0048】
得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、pH7の1%(w/v)水分散体aとし、その粘度Vaは5010mPa・sであった。
【0049】
そののち、水分散体aに0.1N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pH12となる水分散体bを調整し、その粘度Vbは4410mPa・sであった。
【0050】
(比較例1)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロパノール(IPA)540部と、水酸化ナトリウム40部を水85部に溶解したものとを加え、リンターパルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)55部と、モノクロロ酢酸45部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、88%である。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.68のカルボキシメチル化セルロース2のナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、88%であった。
【0051】
得られたカルボキシメチル化セルロース2のナトリウム塩を水に分散し、pH7の1%(w/v)水分散体a'とし、その粘度Va'は5060mPa・sであった。
【0052】
そののち、水分散体a'に0.1N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pH12となる水分散体b'を調整し、その粘度Vb'は3550mPa・sであった。
【0053】
<静置時の粘性評価>
水分散体a及び水分散体a’を、100mlビーカーに50ml加えた。ガラス製の攪拌棒を浸漬し、ゆっくりと手で動かしたときの粘性の感覚について、以下の基準で判断を行った。
〇:水分散体a’と比べ、抵抗を感じない。
△:水分散体a’と比べ、同等の抵抗を感じる
【0054】