(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153800
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法
(51)【国際特許分類】
E21D 5/12 20060101AFI20221005BHJP
E21D 5/10 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
E21D5/12
E21D5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056509
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【弁理士】
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雄充
(72)【発明者】
【氏名】大高 範寛
(57)【要約】
【課題】地山の硬さに影響を受けることなく、地山の凹凸形状にもスムーズに追随でき、地山とライナープレートとの間を確実に閉塞できる、作業性、確実性、及び安全性に優れたライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法を提供する。
【解決手段】地山10の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレート11の裏込材漏洩防止構造であって、前記地山10に接する弾性部材3を備えた板状部材2が、前記ライナープレート11の周方向フランジ11aに重ね合わせて取り付けられた状態で、前記地山10と前記ライナープレート11との間を閉塞する構成をなす。前記弾性部材も前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取り付ける場合もある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレートの裏込材漏洩防止構造であって、
前記地山に接する弾性部材を備えた板状部材が、前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取り付けられた状態で、前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞する構成をなすことを特徴とする、裏込材漏洩防止構造。
【請求項2】
前記弾性部材も前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取けられていることを特徴とする、請求項1に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項3】
前記板状部材は、複数の板状部材を前記ライナープレートの周方向に沿って並設して形成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項4】
前記板状部材は、バネ鋼板であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項5】
前記板状部材は、地山に向かって反り上がる傾斜面を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項6】
前記弾性部材は、複数の弾性部材を前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞するように周方向にずらし重ね合わせて形成されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項7】
前記弾性部材は、ゴム板であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項8】
前記弾性部材は、地山側が幅広となるほぼ逆等脚台形状に形成されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項9】
前記板状部材及び/又は前記弾性部材の表面に剥離加工が施されていることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造。
【請求項10】
地山の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレートの裏込材漏洩防止工法であって、
前記地山に接する弾性部材を備えた板状部材を、前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取り付けた状態で前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞した後、前記地山と前記ライナープレートと前記弾性部材を備えた板状部材とが形成する空間内に裏込材を充填する工程を繰り返し行い、前記地山と前記ライナープレートとを一体化して円筒形等の壁体を構築することを特徴とする、裏込材漏洩防止工法。
【請求項11】
前記裏込材を充填する工程後に前記弾性部材を備えた板状部材を取り外し、前記裏込材を充填する工程前に前記弾性部材を備えた板状部材を取り付ける作業を繰り返し行うことを特徴とする、請求項10に記載した裏込材漏洩防止工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、立坑又は横坑を形成する地山の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法の技術分野に属する。
本明細書において、前記「地山」とは、地山のほか、横坑の場合に老朽化したトンネルを含む等、ライナープレートの背面側に存在する土木構造物を含む意で用いている。また、前記「円筒形等の壁体」とは、断面が円形のほか、小判形、矩形、馬蹄形等のライナープレートを用いて構築可能な立体構造物全般を指す。
【背景技術】
【0002】
立坑又は横坑を形成する地山の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレートの裏込材漏洩防止構造として、例えば、特許文献1には、ライナープレートと孔壁面(地山)との間の空隙を閉塞する閉止用の鉄板を、その基端部はライナープレートとボルト接合手段で取り付け、先端部は前記孔壁面(削孔壁)に打ち込んだりスポンジ(緩衝材)を介在させたりすることにより前記空隙を閉塞する、裏込めモルタル止め金具を用いた裏込材漏洩防止構造が開示されている(同文献1の請求項1、2の記載等を参照)。
【0003】
この特許文献1に係る裏込めモルタル止め金具によると、従来、ライナープレートと孔壁面との間を閉塞するべく、掘削土を埋め戻したり、土嚢を介装させたりする必要がなくなるので、作業を能率的に行えることなど多くの効果を奏する旨の記載が認められる(詳しくは同文献1の[発明の効果]を参照)。
また、特許文献1に記載はないものの、例えばトンネル等の横坑にライナープレートを構築する場合、従来であれば横坑の坑口にコンパネを設置することによりライナープレートと横坑との間の空隙を閉塞して裏込め材を充填していたが、この特許文献1に係る裏込めモルタル止め金具を利用すれば、コンパネを設置する作業を省略できるので、やはり作業を能率的に行えることなどが推察される。
【0004】
ところで、特許文献2には、同文献2の
図3に、充填材の逸出防止用シール材(20)がライナープレートの周方向フランジにボルト接合された裏込材漏洩防止構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3156774号公報
【特許文献2】特開2010-248714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る技術は、鉄板を孔壁面に打ち込む技術であり、前記孔壁面(削孔壁)の土質が硬質な場合に実施不能という問題があるが、そもそも、鉄板を孔壁面に打ち込む技術は壁面の崩落を助長又は誘発する虞があり、作業員の安全性やライナープレートを損傷するという致命的な問題があった。場合によっては作業を一旦中断せざるを得ないという問題もあった。
また、前記孔壁面(削孔壁)の土質が硬質な場合、打ち込む手法に替えてスポンジを用いる技術も開示されてはいるが、スポンジを介在させる構成は、鉄板が片持ち梁構造となるので裏込7材の重みで鉄板が撓んで隙間が生じやすいことを勘案すると、スポンジを介在させるだけで果たして孔壁面の凹凸形状に追随し前記空隙を閉塞できるのか甚だ疑問である。また、裏込材がスポンジに強固に接着してしまい剥離せず、スポンジも固化してしまうことにより繰り返し使用することができず、さらに、裏込材の中にスポンジが残置される可能性が高いことも解決するべき課題となっている。
【0007】
特許文献2に係る技術は、充填材の逸出防止用シール材20の具体的形態が不明であるが故に、円筒管(ライナープレート)14の外周面に沿って、かつ地山1の凹凸形状に追随して充填材の逸出防止構造を実現できる形態(立体的構成)が想到できず、実現性に欠ける問題があった。
【0008】
本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、地山の硬さに影響を受けることなく、地山の凹凸形状にもスムーズに追随でき、地山とライナープレートとの間を確実に閉塞できる、施工性、確実性、及び安全性に優れたライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る裏込材漏洩防止構造は、地山の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレートの裏込材漏洩防止構造であって、
前記地山に接する弾性部材を備えた板状部材が、前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取り付けられた状態で、前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞する構成をなすことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記弾性部材も前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記板状部材は、複数の板状部材を前記ライナープレートの周方向に沿って並設して形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載した発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記板状部材は、バネ鋼板であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載した発明は、請求項1~4のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記板状部材は、地山に向かって反り上がる傾斜面を有することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載した発明は、請求項1~5のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記弾性部材は、複数の弾性部材を前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞するように周方向にずらし重ね合わせて形成されることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載した発明は、請求項1~6のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記弾性部材は、ゴム板であることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載した発明は、請求項1~7のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記弾性部材は、地山側が幅広となるほぼ逆等脚台形状に形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載した発明は、請求項1~8のいずれか1項に記載した裏込材漏洩防止構造において、前記板状部材及び/又は前記弾性部材の表面に剥離加工が施されていることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載した発明に係る裏込材漏洩防止工法は、地山の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレートの裏込材漏洩防止工法であって、前記地山に接する弾性部材を備えた板状部材を、前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取り付けた状態で前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞した後、前記地山と前記ライナープレートと前記弾性部材を備えた板状部材とが形成する空間内に裏込材を充填する工程を繰り返し行い、前記地山と前記ライナープレートとを一体化して円筒形等の壁体を構築することを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載した発明は、請求項10に記載した裏込材漏洩防止工法において、前記裏込材を充填する工程後に前記弾性部材を備えた板状部材を取り外し、前記裏込材を充填する工程前に前記弾性部材を備えた板状部材を取り付ける作業を繰り返し行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法によれば、前記地山に接する弾性部材(ゴム板)を備えた板状部材(バネ鋼板)が、前記ライナープレートの周方向フランジに重ね合わせて取り付けられた状態で、前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞する構成で実施するので、以下の効果を奏する。
(1)地山には、弾性部材が接する構成で実施し、地山に打ち込む等の工程を必要としないので、地山が硬質な場合でも十分にできるし、地山の崩落を助長又は誘発する虞もない。よって、施工性、安全性に優れている。
(2)地山とライナープレートとの間を板状部材で支持した弾性部材で閉塞すると共に、地山との際は弾性部材が接する構成で実施するので、裏込材の自重は主に板状部材が負担し、地山の凹凸形状には主に弾性部材がスムーズ(柔軟)に追随することができる。よって、施工性、確実性に優れている。
(3)前記弾性部材を2種用意し、前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞するように周方向にずらして重ね合わせて形成する等、裏込材漏洩防止に必要な強度・剛性、かつ柔軟性を備えるという二律背反する条件を満たす構造を実現できるので、立坑や横坑を問わず地山(トンネル含む)とライナープレートとを確実に一体化することができ、品質性、信頼性が高い裏込材漏洩防止工法を実現できる。
(4)弾性部材及び/又は板状部材の表面にテフロン(登録商標)加工、フッ素加工等の剥離加工を施して実施する場合は、裏込材を充填する工程後に適宜取り外し、前記裏込材を充填する工程前に適宜取り付ける等、使い回すことができるので、利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法の実施例を示した立面図である。
【
図2】
図1に係る板状部材及び弾性部材の実施例を示した正面図である。
【
図3】Aは、
図1に係る板状部材(バネ鋼板)の実施例を示した平面図であり、Bは、ライナープレートの周方向フランジを示した平面図である。
【
図4】A、Bは、2種の弾性部材(ゴム板)の実施例を示した平面図である。
【
図5】Aは、
図1に係る板状部材及び弾性部材の実施例を示した平面図であり、Bは、
図4Aで示したゴム板のうち第1のゴム板の配置状態を示した参考図である。
【
図6】
図4Aの第1のゴム板と
図4Bの第2のゴム板とを重ね合わせた状態を示した説明図である。
【
図7】本発明に係るライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法の異なる実施例を示した立面図である。
【
図8】本発明に係るライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法の異なる実施例を示した立面図である。
【
図9】A~Cは、本発明に係るライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法を適用する立坑を平面的に示した説明図であり、Dは、同横坑を正面的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係るライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法の実施例を図面に基づいて説明する。
【0023】
前記ライナープレートの裏込材漏洩防止構造は、
図1~
図6に示したように、立坑(又は横坑)を形成する地山10の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレート11の裏込材漏洩防止構造であって、前記地山10に接する弾性部材3を備えた板状部材2が、前記ライナープレート11の周方向フランジ11aに重ね合わせて取り付けられた状態で、前記地山10と前記ライナープレート11との間を閉塞する構成をなしている。
ちなみに、図中の符号7は裏込材、符号8はボルト、符号9はナット、符号20は掘削底面、符号30はライナープレート立坑内を示している。
【0024】
本実施例に係るライナープレート11は、あくまでも一例として、
図1と
図9Aに示したように、平面視が1/4円弧状(所謂C形)で高さが50cmのものを周方向に4つ、高さ方向に2段に連結し、外径3.5m程度、高さ1mの円筒形の壁体に形成される。
本発明に係る前記弾性部材3を備えた板状部材2(以下、前記弾性部材3と前記板状部材2とを合わせて裏込材漏洩防止部材1と纏めていう場合がある。)は、段階的に掘削する毎に、その都度1~2m程度の高さ(深さ)構築する前記ライナープレート11の下端に位置する周方向フランジ11aに取り付けることにより、前記ライナープレート11の背面側に充填する裏込材7の漏洩を防止するために供される。
そのため、前記裏込材漏洩防止部材1は、前記周方向フランジ11aに取り付けた場合に、前記裏込材7の重量に耐え、かつ前記地山10と前記ライナープレート11との間を閉塞させる構成で実施されている。さらにいえば、前記裏込材漏洩防止部材1は、前記裏込材7の重量に対して変形しない(裏込材7を漏洩させない)強度・剛性を備え、かつ、地山10の凹凸形状(例えば、
図9A~C参照)に対して容易に追随して隙間を閉塞する柔軟性を備える、という二律背反する条件を満たした構成を実現するために種々の工夫を施している。
【0025】
前記板状部材2(バネ鋼板2)は、
図3Aに示したように、平面視は前記周方向フランジ11a(
図3B参照)に倣う形状で、側面視は
図1に示したように、地山10側に水平に突き出し、途中から45°程度反り上がり、地山10に接しない長さのくの字状に形成されている。
前記バネ鋼板2の平面視形状を前記ライナープレート11の周方向フランジ11aに合わせる意義は、前記周方向フランジ11aへの取り付け作業を機械的に行うことができる等、施工性が良いからである。よって、前記バネ鋼板2の平面視形状は、
図9B、Dに示したような、J形のライナープレート12に適用する場合はこれに合わせてJ形に、
図9B~Dに示したような、S(ストレート)形のライナープレート13に適用する場合はこれに合わせてS形に、
図9Cに示したような、L形のライナープレート14に適用する場合はこれに合わせてL形に形成して実施することが好ましい。もとより、バネ鋼板2の板厚は構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
【0026】
本実施例において、前記板状部材2としてバネ鋼板2を用いる意義は、地山10の凹凸形状によってはバネ鋼板2が地山10に接する場合を想定しており、この場合にも適宜柔軟に対応し前記弾性部材(ゴム板)3と相まって良好な閉塞状態を実現するためである。また、前記バネ鋼板2は、
図2にも示したように、図示例では45°程度反り上がる傾斜面を有する状態を示しているが、これに限定されない。バネ鋼板2の傾斜角度は0°~80°を適用範囲とし、より望ましいのは、10°~45°の範囲とされる。
【0027】
前記弾性部材3は、地山10の凹凸形状に対し、より柔軟に対応可能なように複数枚使用し、これらを規則的に重ね合わせた構成で実施している。具体的には、前記ライナープレート11の周方向フランジ11a(
図3B参照)のボルト孔11bの数(図示例では10個)を目安に設計する。本実施例では一例として、前記ボルト孔11bの数(10個)に合わせて10枚の第1のゴム板31と10枚の第2のゴム板32との2種を用い、前記ボルト孔11bと芯を一致させた同数の板状部材2のボルト孔2aに通すボルト8に、第1のゴム板31と第2のゴム板32とを1枚ずつ順に通して重ねる態様で実施している(
図5Aと
図6参照)。ちなみに、
図5Bは、板状部材2上における第1のゴム板31の配置状態を示した参考図である。このように、第1のゴム板31同士は、本実施例ではその一部が僅かにラップする程度に近づけて配設している。
【0028】
前記弾性部材(ゴム板)3は、複数枚、さらに云えば複数種(本実施例では2種)のゴム板(第1のゴム板31と第2のゴム板32)を用い、これらを周方向にずらして重ね合わせることにより前記地山10と前記ライナープレート11との間を閉塞している。
具体的に、本実施例に係る第1のゴム板31は、
図4Aに示したように、あくまでも一例として、隣接するバネ鋼板2のボルト孔2a(周方向フランジ11aのボルト孔11b)同士の間隔に略等しい幅寸で、かつ地山10に十分に届く程度の長さを有するほぼ逆等脚台形状に形成し、その対称軸線上の基端部に、前記ボルト孔2aと芯が一致するボルト孔31aが穿設されている。一方、本実施例に係る第2のゴム板32は、第1のゴム板31と同形同大で、対称軸線上から左方へ偏倚させた位置にボルト孔32aが穿設されている。このように本実施例では、同形同大のゴム板31、32をボルト孔31a、32aの穿設位置を変えるだけで2種のゴム板31、32を用意する等、経済性、合理性に優れた工夫が施されている。ちなみに、図示例に係る第1のゴム板31、第2の32のサイズは、一例として、縦寸(符号L参照)が220mm程度、先端部の横寸(符号M参照)が195mm程度、基端部の横寸(符号N参照)が150mm程度で実施されている。
【0029】
本実施例に係るゴム板3(第1のゴム板31、第2のゴム板32)のサイズを、隣接するバネ鋼板2のボルト孔2a同士の間隔に略等しい幅寸で実施する意義は、これよりも幅狭だと無駄にゴム板3の枚数を増やすことになり不経済であり、また、これよりも幅広だと地山10への追随性が損なわれる虞が高いからである。
前記ゴム板3を逆等脚台形状に形成する意義は、先端部が地山10に接触することにより隣接するゴム板3同士の間隔が広がりやすくなることを勘案した結果である。
本実施例では、前記バネ鋼板2のボルト孔2a毎に前記第1のゴム板31を10枚並設することにより、
図5Bに示したように、地山10とライナープレート11(立孔内30)との間の大部分を閉塞する構成で実施している。そして、前記バネ鋼板2のボルト孔2a毎に前記第2のゴム板32を10枚並設することにより、地山10と第1のゴム板31との隙間S(
図5B参照)を十分に閉塞し、もって地山10とライナープレート11との間の完全に閉塞している。
【0030】
もっとも、前記隙間Sの有無にかかわらず、本実施例に係る裏込材漏洩防止部材1は、2種のゴム板3(第1のゴム板31、第2のゴム板32)を用いて行う。つまり、第1のゴム板31の中間部を左右に拡径した形状で実施すれば、前記隙間Sは閉塞するので、第1のゴム板31だけで実施することも可能ではあるが、本実施例では、前記2種のゴム板31、32を周方向に少しずらして重ね合わせる構成で実施している。その理由は、閉塞状態を確実に保持しつつ柔軟に追随する構造を呈することができ、かつ2種のゴム板31、32を連続的に重ね合わせる重ね合わせ効果により前記裏込材7の重量に対する耐力(抵抗力)を効果的に高めることができるという、前記二律背反する条件を経済的、かつ合理的に実現させるためである。
【0031】
つまり、図示例に係る裏込材漏洩防止部材1を用いた裏込材漏洩防止構造は、前記二律背反する条件を満たす構成を、経済性、合理性、及び確実性の観点から現状最もバランスが取れたベストモードとして考えられる適用例を示したものであり、本発明に係る裏込材漏洩防止構造の技術的思想は、当然に本実施例に係るベストモードの限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う部材変更、設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のため言及する。例えば、前記弾性部材(ゴム板)3の材質、大きさ、又は形状等は、地山10とライナープレート11とが形成する空間の形状や大きさ、或いは地山10の性状等に応じて適宜設計変更可能である。また、
図7に例示したように、地山10と重ね代4を形成するような長いサイズのゴム板3’で実施すると、裏込材7がゴム板3’の重ね代4を介して地山10を略水平に押圧する押圧効果により、相対的に前記裏込材7の重量に対する耐力をより高めることもできる。
【0032】
上記構成の裏込材漏洩防止構造を実現する裏込材漏洩防止工法は、地山10の周方向及び軸方向に複数連結されて円筒形等の壁体を形成するライナープレート11の裏込材漏洩防止工法であって、前記地山10に接する弾性部材3を備えた板状部材2を、前記ライナープレート11の周方向フランジ11aに重ね合わせて取り付けた状態で前記地山10と前記ライナープレート11との間を閉塞した後、前記地山10と前記ライナープレート11と前記弾性部材3を備えた板状部材2とが形成する空間内に裏込材7を充填する工程を繰り返し行い、前記地山10と前記ライナープレート11とを一体化して円筒形等の壁体を構築する。
なお、前記弾性部材3を備えた板状部材2は、前記周方向フランジ11aに予め取り付けておくことにより、前記ライナープレート11と一体化しておくこともできる。
【0033】
したがって、本発明に係るライナープレートの裏込材漏洩防止構造および裏込材漏洩防止工法によれば、前記地山10に接する弾性部材(ゴム板)3を備えた板状部材(バネ鋼板)2が、前記ライナープレート11の周方向フランジ11aに重ね合わせて取り付けられた状態で、前記地山と前記ライナープレートとの間を閉塞する構成で実施するので、以下の効果を奏する。
(1)地山10には、弾性部材3が接する構成で実施し、地山10に打ち込む等の工程を必要としないので、地山10が硬質な場合でも十分にできるし、地山10の崩落を助長又は誘発する虞もない。よって、施工性、安全性に優れている。
(2)地山10とライナープレート11との間を板状部材2で支持した弾性部材3で閉塞すると共に、地山10との際は弾性部材3が接する構成で実施するので、裏込材7の自重は主に板状部材2が負担し、地山10の凹凸形状(
図9A~C参照)には主に弾性部材3がスムーズ(柔軟)に追随することができる。よって、施工性、確実性に優れている。
(3)前記弾性部材3(31、32)を2種用意し、前記地山10と前記ライナープレート11との間を閉塞するように周方向にずらして重ね合わせて形成する等、裏込材7の漏洩防止に必要な強度・剛性、かつ柔軟性を備えるという二律背反する条件を満たす構造を実現できるので、立坑30や横坑30’を問わず地山10(トンネル10’含む)とライナープレート11とを確実に一体化することができ、品質性、信頼性が高い裏込材漏洩防止工法を実現できる。
(4)弾性部材及び/又は板状部材の表面に、テフロン(登録商標)加工、フッ素加工等の剥離加工を施して実施する場合は、裏込材7を充填する工程後に適宜取り外し、前記裏込材7を充填する工程前に適宜取り付ける等、使い回すことができるので、利便性を向上させることができる。
【0034】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、前記板状部材(バネ鋼板)2は、
図9A~Dに示したようなライナープレート11~14の形状に倣う形状に適宜設計変更可能であり、前記弾性部材(ゴム板)3は、地山10(10’)とライナープレート11~14とが形成する隙間を閉塞する好ましい形態に適宜設計変更可能である。なお、前記弾性部材(ゴム板)3は、本実施例では前記周方向フランジ11のボルト孔11a毎にボルト接合して実施しているが、形態を拡径する等して1つ置きのボルト孔11aにボルト接合して実施することもできる。
また、
図1~
図7に係る弾性部材3は、前記ライナープレート11の周方向フランジ11aのボルト孔11bにボルト接合する手段で実施しているがこれに限定されず、ライナープレート11(の周方向フランジ11a)に直接的に取り付けないで実施することもできる。例えば、
図8に示したような、前記板状部材(バネ鋼板)2にボルト8’とナット9’を用いたボルト接合手段で取り付けて実施することもできるし、或いは図示は省略するが、前記板状部材(バネ鋼板)2に貼着手段又は溶着手段等で取り付けて実施することもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 裏込材漏洩防止部材
2 板状部材(バネ鋼板)
2a ボルト孔
3 弾性部材(ゴム板)
31 第1のゴム板
31a ボルト孔
32 第2のゴム板
32a ボルト孔
3’ 弾性部材(ゴム板)
4 重ね代
7 裏込材
8 ボルト
9 ナット
8’ ボルト
9’ ナット
10 地山
10’ トンネル
11 ライナープレート(C形)
11a 周方向フランジ
11b ボルト孔
12 ライナープレート(J形)
13 ライナープレート(S形)
14 ライナープレート(L形)
20 掘削底面
30 ライナープレート立坑内
30’ ライナープレート横坑内
S 隙間