(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153818
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】測距装置、及び測距方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20221005BHJP
G01S 7/484 20060101ALI20221005BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20221005BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S7/484
G01S17/42
G01C3/06 120Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056543
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐司
(72)【発明者】
【氏名】田中 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】西山 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 健介
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA03
2F112BA06
2F112CA04
2F112DA04
2F112DA09
2F112DA11
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2F112EA05
2F112FA14
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2F112GA01
5J084AA04
5J084AA05
5J084AB17
5J084AC07
5J084AD01
5J084BA02
5J084BA04
5J084BA14
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5J084BB02
5J084BB04
5J084BB14
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5J084CA03
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5J084CA53
5J084CA59
5J084CA62
5J084CA64
5J084EA04
5J084EA07
(57)【要約】
【課題】広い測距領域を高い空間分解能で測距可能にすること。
【解決手段】本発明の一態様に係る測距装置は、発光部(3)と、前記発光部(3)により発せられた光(L0)を複数の光束(L1)に分割する光分割部(41)と、前記複数の光束(L1)を2軸方向に走査させ、照射領域(500)側へ照射する光走査部(120)と、前記光走査部(120)により走査された前記複数の光束(L2)が、前記照射領域(500)側に存在する物体(200)により反射又は散乱された光(R1)を受光し、受光信号(S)を出力する複数の受光部(8)と、前記複数の受光部(8)により出力された複数の受光信号(S)から取得される前記物体(200)に関する距離情報(Dat)を出力する距離情報出力部(187)と、を有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部と、
前記発光部により発せられた光を複数の光束に分割する光分割部と、
前記複数の光束を2軸方向に走査させ、照射領域側へ照射する光走査部と、
前記光走査部により走査された前記複数の光束が、前記照射領域側に存在する物体により反射又は散乱された光を受光し、受光信号を出力する複数の受光部と、
前記複数の受光部により出力された複数の受光信号から取得される前記物体に関する距離情報を出力する距離情報出力部と、を有する測距装置。
【請求項2】
前記光走査部により走査された前記複数の光束は、第1光束と、第2光束と、を含み、
前記複数の受光部は、第1受光部と、第2受光部と、を含み、
前記第1受光部は、前記第1光束が前記物体により反射又は散乱された光を受光し、前記受光信号を出力し、
前記第2受光部は、前記第2光束が前記物体により反射又は散乱された光を受光し、前記受光信号を出力する請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記発光部により光が発せられた発光時刻と、前記物体により反射又は散乱された該光が前記受光部により受光された受光時刻と、の時間差情報を出力する複数の時間差情報出力部を有し、
前記距離情報出力部は、前記時間差情報に基づいて取得される前記物体に関する距離情報を出力し、
前記複数の受光部は、第1受光部と、第2受光部と、を含み、
前記複数の時間差情報出力部は、第1時間差情報出力部と、第2時間差情報出力部と、を含み、
前記第1時間差情報出力部は、前記第1受光部により出力された前記受光信号に基づく前記時間差情報を出力し、
前記第2時間差情報出力部は、前記第2受光部により出力された前記受光信号に基づく前記時間差情報を出力する請求項1又は2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記複数の時間差情報出力部のそれぞれは、第1計測部と、第2計測部と、を含み、前記第1計測部及び前記第2計測部の各計測結果に基づいて前記時間差情報を出力し、
前記第1計測部は、第1の時間分解能で前記時間差情報を出力し、
前記第2計測部は、前記第1の時間分解能より高い第2の時間分解能で前記時間差情報を出力する請求項3に記載の測距装置。
【請求項5】
前記第1計測部は、演算器により発せられるクロックを計数することで取得される前記時間差情報を出力し、
前記第2計測部は、入力信号の伝搬方向に沿って直列に接続された複数の遅延素子を有し、前記入力信号が伝搬された前記遅延素子の個数に基づき取得される前記時間差情報を出力する請求項4に記載の測距装置。
【請求項6】
発光部と、
前記発光部により発せられた光を複数の光束に分割する光分割部と、
前記複数の光束を2軸方向に走査させ、照射領域側へ照射する光走査部と、
前記光走査部により走査された前記複数の光束が、前記照射領域側に存在する物体により反射又は散乱された光を受光し、受光信号を出力する複数の受光部と、を有する測距装置による測距方法であって、
前記発光部により光が発せられた発光時刻と、前記物体により反射又は散乱された光が前記受光部により受光された受光時刻と、の時間差情報を出力する複数の時間差情報出力工程と、
前記時間差情報に基づいて取得される距離情報を出力する距離情報出力工程と、を含み、
前記複数の受光部は、第1受光部と、第2受光部と、を含み、
前記複数の時間差情報出力工程は、第1時間差情報出力工程と、第2時間差情報出力工程と、を含み、
前記第1時間差情報出力工程では、前記第1受光部により出力された前記受光信号に基づく前記時間差情報を出力し、
前記第2時間差情報出力工程では、前記第2受光部により出力された前記受光信号に基づく前記時間差情報を出力する測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置、及び測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光部により発せられた光を照射領域に照射し、照射領域内の物体からの光に基づき、物体までの距離を測定する測距装置が知られている。
【0003】
また、光源から出力された光源光を分割した複数の照射光を照射領域に照射し、照射領域内の物体に到達した複数の照射ポイントからの光に基づき、物体に関する距離情報を算出する構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、測距装置では、発光部の寿命やアイセーフの要請等のために、発光部による単位時間当たりの発光可能時間が制限されることで、広い照射領域に密な間隔で光を照射できず、広い測距領域を高い空間分解能で測距することに改善の余地がある。特許文献1の構成では、光源光を分割した数により照射領域と照射光の間隔が決定されるため、上記課題を解決できない。
【0006】
本発明は、広い測距領域を高い空間分解能で測距可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る測距装置は、発光部(3)と、前記発光部(3)により発せられた光(L0)を複数の光束(L1)に分割する光分割部(41)と、前記複数の光束(L1)を2軸方向に走査させ、照射領域(500)側へ照射する光走査部(120)と、前記光走査部(120)により走査された前記複数の光束(L2)が、前記照射領域(500)側に存在する物体(200)により反射又は散乱された光(R1)を受光し、受光信号(S)を出力する複数の受光部(8)と、前記複数の受光部(8)により出力された複数の受光信号(S)から取得される前記物体(200)に関する距離情報(Dat)を出力する距離情報出力部(187)と、を有する。
【0008】
なお、上記括弧内の参照符号は、理解を容易にするために付したものであり、一例にすぎず、図示の態様に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、広い測距領域を高い空間分解能で測距できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一般的な測距装置と照射領域との関係を説明する図である。
【
図2】実施形態に係る測距装置の全体構成例を示す斜視図である。
【
図3】
図2のLD及びAPD周辺の構成例を示す部分拡大斜視図である。
【
図4】光走査部の構成例を示す部分拡大斜視図である。
【
図5】回折格子による光分割例を示す図であり、
図5(a)は側面図、
図5(b)は斜視図、
図5(c)は前面図である。
【
図6】実施形態に係る測距装置の全体構成例を示すブロック図である。
【
図7】実施形態に係る測距装置の制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図8】実施形態に係るTDCの構成例を示すブロック図である。
【
図9】クロックカウンタによる時間計測例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の構成部分には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0012】
また以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための測距装置を例示するものであって、本発明を以下に示す実施形態に限定するものではない。以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張している場合がある。
【0013】
なお、以下に示す図でX軸、Y軸及びZ軸により方向を示す場合があるが、X軸に沿うX方向は、実施形態に係る測距装置が備えるポリゴンミラーの回転軸である第1軸に沿う方向を示す。Z軸に沿うZ方向は、実施形態に係る測距装置が備える回転ステージの回転軸である第2軸に沿う方向を示す。X軸とZ軸は交差する。Y軸に沿うY方向は、X軸及びZ軸の両方に交差する方向を示す。
【0014】
また、X方向で矢印が向いている方向を+X方向、+X方向の反対方向を-X方向と表記し、Y方向で矢印が向いている方向を+Y方向、+Y方向の反対方向を-Y方向と表記し、Z方向で矢印が向いている方向を+Z方向、+Z方向の反対方向を-Z方向と表記する。測距装置は+Y方向側に光を照射するものとする。但し、これらは測距装置の使用時における向きを制限するものではなく、測距装置は任意の向きで配置可能である。
【0015】
実施形態に係る測距装置は、発光部と、発光部により発せられた光を複数の光束に分割する光分割部と、該複数の光束を2軸方向に走査させ、照射領域側へ照射する光走査部と、光走査部により走査された複数の光束が、照射領域側に存在する物体により反射又は散乱された光を受光し、受光信号を出力する複数の受光部と、複数の受光部により出力された複数の受光信号から取得される物体に関する距離情報を出力する距離情報出力部と、を有するものである。
【0016】
このような測距装置には、周囲に存在する物体に関する距離情報を取得可能なLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)装置等が挙げられる。物体に関する距離情報には、測距装置から物体までの距離を示す情報や、物体の有無を示す情報等が含まれる。
【0017】
また照射領域とは、測距装置によって走査された光が照射される領域をいう。測距装置は、照射領域内で略直交する2軸方向に光を走査させることで、照射領域側に存在する物体に対して光を照射できる。
【0018】
ここで、
図1は、一般的な測距装置100wと照射領域500との関係を説明する図である。
図1に示すように、測距装置100wは、照射領域500内でX方向及びY方向の2軸方向に照射光Lwを走査させる。測距装置100wは、照射領域500側に存在する物体200によって照射光Lwが反射又は散乱された戻り光Rwに基づき、物体200に関する距離情報Datを取得する。
【0019】
図1において、角度範囲Awxは、測距装置100wがX方向に光を走査させる角度範囲を示し、角度範囲Awyは、測距装置100wがY方向に光を走査させる角度範囲を示す。角度間隔Pwは走査される照射光Lw同士の間隔を示す。角度間隔Pwは、単位時間当たりの発光時間及び走査速度等に応じて決定される。
【0020】
角度範囲Awx、Awyで表される照射領域500は、測距装置100wにより測距可能な測距領域に対応する。また角度間隔Pwは測距装置100wによる空間分解能に対応する。なお、照射領域500wのY方向における位置は、
図1に示すものに限定されず、任意の位置であってよい。
【0021】
ここで、測距装置で用いられる半導体レーザ等の発光部は、発光部の寿命やアイセーフの要請等のために、単位時間(例えば1秒)当たりの発光部による発光可能時間が制限される場合がある。なお、アイセーフとは、発光部により発せられた光が人間の眼に入射しても、人間の眼に障害を与えないことをいう。
【0022】
発光部の発光可能時間が制限されることで、測距装置100wから照射領域500への照射光Lwの角度間隔Pwが疎になる場合がある。また角度間隔Pwが密になるように照射光Lwを照射すると、照射領域500の範囲が小さくなる。従って、広い測距領域を高い空間分解能で測距することに改善の余地がある。
【0023】
実施形態では、発光部により発生られた光を複数の光束に分割し、分割された複数の光束のそれぞれを2軸方向に走査させて照射領域へ照射することで、測距装置から照射領域への照射光の角度間隔を密にする。例えば発光部により発せられた光を所定方向で5つに分割すると、分割しない場合に対して該方向で1/5の角度間隔で所定の照射領域内に光を照射できる。これにより、角度間隔に対応した空間分解能が得られ、広い測距領域を高い空間分解能で測距可能にする。
【0024】
以下、サービスロボットに搭載され、サービスロボットの進行方向又は周囲に存在する物体に関する距離情報をTOF(Time of Flight)方式で取得可能な測距装置を一例として、実施形態を説明する。
【0025】
サービスロボットとは、工場内での資材運搬、接客施設での商品運搬及び案内業務、施設内警備、或いは清掃等の主に役務の目的で使用される自律移動型の移動体をいう。また移動体とは移動可能な物体をいう。
【0026】
サービスロボットに搭載される測距装置は、サービスロボットの進行方向又は周囲に存在する物体を検出したり、サービスロボットが動作する施設の施設内地図等を作成したりするために使用される。
【0027】
<測距装置100の構成例>
(全体構成)
まず、
図2乃至
図4を参照して、実施形態に係る測距装置100の全体構成例を説明する。
図2は、測距装置100の全体構成の一例を説明する斜視図である。また
図3は、LD及びAPDの周辺の構成の一例を説明する部分拡大斜視図である。
図4は光走査部120の構成の一例を説明する部分拡大斜視図である。
【0028】
図2乃至
図4に示すように、測距装置100は、ベース板1と、保持部2と、LD(Laser Diode)3と(
図3参照)、コリメートレンズ4と、ポリゴンミラー5と、穴あきミラー6と、受光レンズ7と、APD(Avalanche Photodiode)8と、イケール9と、回転ステージ10とを有する。
【0029】
ベース板1は、保持部2と回転ステージ10が設けられた基台部である。但し、基台部はベース板1等の平板状の部材に限定されるものではなく、回転ステージ10と保持部2が設けられる構成部であれば如何なるものであってもよい。例えばサービスロボットの筐体に保持部2と回転ステージ10を設ける場合には、サービスロボットの筐体が基台部に対応する。
【0030】
ベース板1は平板状の部材であり、平板の-Z方向側の面上の異なる領域に保持部2と回転ステージ10が固定されている。回転ステージ10は、ベース板1の+Y方向側の領域にネジ等で固定され、保持部2はベース板1における回転ステージ10の-Y方向側の領域に結合部材11を介してネジ等で固定されている。
【0031】
ベース板1の材質に特段の制限はないが、回転ステージ10は重量が大きい場合があるため、金属材料等の剛性が高い材料を含んでベース板1を構成すると好適である。
【0032】
保持部2は、天井パネル21と、背面パネル22とを組み合わせて構成された逆L字型の部材ある。天井パネル21及び背面パネル22はそれぞれ平板状の部材であり、天井パネル21と背面パネル22が結合することで保持部2を構成している。天井パネル21及び背面パネル22の材質に特段の制限はないが、例えば金属材料又は樹脂材料等を適用可能である。
【0033】
天井パネル21の+Z方向側の面には、LD3、コリメートレンズ4及び穴あきミラー6が設けられている。背面パネル22の+Y方向側の面には、受光レンズ7及びAPD8が設けられている。保持部2は、天井パネル21にLD3を保持し、また背面パネル22にAPD8を保持している。
【0034】
LD3は光を発する発光部の一例である。LD3は、パルス光であるレーザ光L0を+Z軸方向側に発する。但し、発光部はLDに限定されるものではなく、LED(light emitting diode)等を用いてもよい。
【0035】
レーザ光L0の波長は特に制限されないが、近赤外波長領域等の非可視の波長領域のレーザ光を用いると、人間にレーザ光を視認させずに測距できるため、より好適である。
【0036】
コリメートレンズ4は、ガラス材料又は樹脂材料を含んでなり、レーザ光L0を略コリメート(略平行化)する。コリメートレンズ4を必ずしも設けなくてもよいが、コリメートレンズ4を設けると、レーザ光L0の広がりが抑制され、光利用効率が向上する。
【0037】
コリメートレンズ4によりコリメートされたレーザ光L0は、回折格子41に入射し、回折格子41によって5つの光束L1に分割される。回折格子41は、レーザ光L0を複数(ここでは5つ)の光束L1に分割する光分割部の一例である。
【0038】
複数の光束L1は、穴あきミラー6に設けられた貫通孔61を通過してポリゴンミラー5の反射面51に入射する。なお、回折格子41の作用と複数の光束L1については、別途
図5を参照して詳述する。
【0039】
ポリゴンミラー5は、複数の反射面51を含み、第1軸A1周りに回転しながら反射面51でレーザ光L1を反射することで、レーザ光L1の反射光に対応する走査レーザ光L2を第1軸A1周りに走査させる回転多面体である。なお、反射面51は複数の反射面の総称表記である。
【0040】
ポリゴンミラー5は、回転により第1軸A1を中心にした円の一部を描くようにして、反射面51による反射光を走査させる。第1軸A1周りに走査される光は、換言すると第1軸A1を中心にした円の円周方向に沿って走査される光である。
【0041】
ポリゴンミラー5は正六角柱状の部材である。正六角柱における正六角形の各辺に対応する外周面に、6つの反射面51が形成されている。ポリゴンミラー5は、アルミニウム等の金属材料で形成した略正六角柱状の部材の外周面を、切削又は鏡面研磨することで製作できる。但し、これに限定されるものではなく、例えば金属材料又は樹脂材料等で形成した略正六角柱状の部材の外周面に、アルミニウム等を鏡面蒸着してポリゴンミラー5を製作してもよい。
【0042】
なお、
図2では、正六角柱状で反射面51の面数が6面であるポリゴンミラー5を例示するが、回転多面体はこれに限定されるものではない。例えば、正三角柱状で3面の反射面を有する回転多面体であってもよいし、正五角柱状で5面の反射面を有する回転多面体であってもよい。
【0043】
回転多面体の面数に応じて、回転多面体による光の走査角度範囲が異なる。例えば、面数が多いほど走査角度範囲は狭くなり、面数が少ないほど走査角度範囲は広くなる。要求される走査角度範囲に応じて回転多面体の面数を適宜決定することができる。
【0044】
ポリゴンミラー5には、ポリゴンミラー5の中心軸と回転軸が略一致するように第1軸モータが取り付けられている。ポリゴンミラー5は第1軸モータを駆動源にして第1軸A1周りに回転する。
【0045】
ポリゴンミラー5の回転方向は一定であり、例えば
図2における第1軸回転方向A11に沿って連続回転する。但し、第1軸回転方向A11とは反対方向である一定の回転方向にポリゴンミラー5を連続回転させてもよい。
【0046】
ポリゴンミラー5の反射面51に入射したレーザ光L1は、反射面51で反射され、+Y方向側に照射される。ポリゴンミラー5の回転により、レーザ光L1の入射方向に対する反射面51の角度が連続的に変化することで、反射面51による反射光は第1軸A1周りに走査され、走査レーザ光L2として+Y方向側に照射される。なお、
図2は、第1軸A1周りに走査される走査レーザ光L2のうち、任意のタイミングに+Y方向側に照射される1つのレーザビームである走査レーザ光L2を例示している。
【0047】
測距装置100の+Y方向側に物体が存在すると、走査レーザ光L2が物体で反射又は散乱された戻り光が測距装置100に戻される。戻り光は、再びポリゴンミラー5の反射面51に入射し、ポリゴンミラー5の回転により第1軸A1周りに走査される。走査される戻り光のうち、穴あきミラー6に到達する戻り光は、穴あきミラー6によって-Y方向側に反射される。
【0048】
本実施形態では、ポリゴンミラー5でレーザ光L1が反射される反射面51と、ポリゴンミラー5で戻り光が反射される反射面51は同じ反射面である。同じ反射面で反射された戻り光がAPD8で受光される。
【0049】
換言すると、APD8は、ポリゴンミラー5に含まれる複数の反射面51のうち、所定の面で反射された走査レーザ光L2が物体で反射又は散乱された後、再び所定の面で反射された戻り光を受光する。
【0050】
穴あきミラー6は、走査レーザ光L2が物体で反射又は散乱された戻り光を偏向させる光偏向部である。この穴あきミラー6は貫通孔61を含む。貫通孔61は、LD3が発する光を通過させる開口部であり、穴あきミラー6における反射面が設けられた領域の一部に形成されている。穴あきミラー6に入射する光のうち、反射面に入射する光は反射され、貫通孔61に入射する光は通過する。
【0051】
なお、本実施形態では、光偏向部が開口部としての貫通孔を有する構成を例示するが、これに限定されるものではない。光偏向部における反射面が設けられた領域の一部を透明にし、この透明な領域を透過させることで開口部として機能させてもよい。また、光偏向部としてビームスプリッターやハーフミラー等を用いることもできる。
【0052】
穴あきミラー6は、コリメートレンズ4でコリメートされたレーザ光L1を、貫通孔61を通して通過させ、走査レーザ光L2が物体で反射又は散乱された戻り光を、反射面によりAPD8に向けて反射することができる。
【0053】
穴あきミラー6で反射された光は、受光レンズ7により集光されながらAPD8に入射する。受光レンズ7は必ずしも設けなくてもよいが、受光レンズ7を設けると、APD8に入射するレーザ光の入射効率が向上する点で好適である。
【0054】
APD8は、5つのAPD81乃至85からなり、物体により反射又は散乱された光に基づいて、受光信号を出力する複数の受光部の一例である。なお、APD8は、APD81乃至85の総称表記である。APD8は、アバランシェ増倍と呼ばれる現象を利用して受光感度を向上させたフォトダイオードの一種である。但し、受光部はAPDに限定されるものではなく、APD以外のPD(Photodiode)や、光電子増倍管等を用いてもよい。また複数の受光部ごとで、APDやPD等の異なる受光部を用いてもよい。
【0055】
イケール9は、L字形に形成された部材であり、ポリゴンミラー5を支持する支持部である。イケール9は、底面(-Z方向側の面)が回転ステージ10の載置面101に接触し、ネジ等により載置面101上に固定されている。またイケール9は基板91を介し、底面に交差する前面(+X方向側の面)にポリゴンミラー5を固定する。イケール9の材質に特段の制限はないが、剛性を高く確保するために金属等の高剛性の材料を含んで構成されると好適である。
【0056】
回転ステージ10は、第2軸A2周りにイケール9を回転させることで、イケール9に固定されたポリゴンミラー5の反射面51で反射された走査レーザ光L2を、第2軸A2周りに走査させる回転機構である。
【0057】
回転ステージ10は、ベース板1上で、保持部2が設けられた領域とは異なる領域に設けられている。従って回転ステージ10が回転しても、保持部2、並びに保持部2が保持するLD3及びAPD8はそれぞれ不動であり、ベース板1に固定された状態が維持される。
【0058】
回転ステージ10は、回転により第2軸A2を中心にした円の一部を描くようにして、ポリゴンミラー5の反射面51による反射光を走査させる。第2軸A2周りに走査される光は、換言すると第2軸A2を中心にした円の円周方向に沿って走査される光である。
【0059】
図4に示すように、回転ステージ10は、載置面101と、ベアリング102と、マグネット103と、モータコア104とを有する。
【0060】
載置面101は、第2軸A2(
図2参照)周りに回転可能な面である。載置面101はイケール9を載置する。ベアリング102は、載置面101の回転を滑らかにする部材である。ボールベアリング又はクロスローラベアリング等の各種のものを適用できる。
【0061】
マグネット103は永久磁石からなる。モータコア104はモータを構成するステータの鉄心に該当する部材である。マグネット103とモータコア104とを含んでモータが構成されている。電流に応じてマグネット103が回転することで、ベアリング102を介して載置面101が回転する。
【0062】
回転ステージ10の回転方向は一定である。例えば
図2における第2軸回転方向A21に沿って連続回転する。但し、第2軸回転方向A21とは反対方向である一定の回転方向に連続回転させてもよい。
【0063】
図2に示すように、LD3により発せられ、コリメートレンズ4によりコリメートされたレーザ光L0は、第2軸A2に沿ってポリゴンミラー5の反射面51に入射するように、LD3、コリメートレンズ4及び回転ステージ10の位置及び角度が調整されている。
【0064】
例えば、測距装置100は、レーザ光L0の光軸と第2軸A2が同軸になるように構成されている。ここで、レーザ光L0の光軸はレーザビームの中心を通る軸を意味する。また同軸は複数の軸が略一致していることを意味する。
【0065】
走査レーザ光L2は、ポリゴンミラー5の回転により第1軸A1周りに走査されるとともに、回転ステージ10の回転により第2軸A2周りに走査される。測距装置100は、交差する2つの軸周りにレーザ光を走査させることができる。ポリゴンミラー5と回転ステージ10は、回折格子41により分割された複数の光束L1をX方向及びZ方向の2軸方向に走査させ、照射領域側へ照射する光走査部120を構成している。
【0066】
なお、本実施形態では、第1軸A1と第2軸A2が略直交する構成を例示するが、これに限定されるものではなく、第1軸A1に対して第2軸A2が傾いて配置されてもよい。
【0067】
また、
図2乃至
図4では、測距装置100が外装カバーを備えない構成を例示したが、測距装置100は、LD3、ポリゴンミラー5、APD8又は回転ステージ10等の構成部の一部又は全部を覆うための外装カバーを備えてもよい。
【0068】
外装カバーを備えると、測距装置100の内部へのゴミや埃等の侵入を防ぎ、ポリゴンミラー5等にゴミや埃等が付着することを防止できる。またポリゴンミラー5や回転ステージ10が高速回転すると、回転に伴う風切り音が大きくなる場合があるが、外装カバーを設けることで音が周囲に伝わることを抑制できる。外装カバーの材質には、金属又は樹脂材料等を適用可能である。
【0069】
一方で、外装カバーを設けると、外装カバーにおける走査レーザ光L2が出射する出射窓以外の部分が走査レーザ光L2を遮るため、走査角度範囲が制限され、測距装置100による物体200の検出範囲又は測距範囲が制限される場合がある。走査レーザ光L2の波長に対して光透過性を有する透明な樹脂材料で外装カバーを構成すると、このような走査角度範囲の制限を緩和できるため、好適である。
【0070】
次に、
図5を参照して回折格子41による光分割を説明する。
図5は、回折格子41による光分割の一例を示す図である。
図5(a)は回折格子41の側面図、
図5(b)は回折格子41を-Z方向側から視た斜視図、
図5(c)は回折格子41を+Z方向側から視た前面図である。
【0071】
図5に示すように、回折格子41は、平面視が略円形形状を有し、レーザ光L0に対して光透過性を有する透明な平板状部材である。回折格子41の前面(-Z方向側の面)又は後面(+Z方向の面)の少なくとも一方に周期構造が形成されている。回折格子41は、入射されるレーザ光L0を、周期構造が配列する方向に沿って回折させることで、複数の光束に分割する。
【0072】
本実施形態では、回折格子41は、レーザ光L0を光束L11乃至L15の5つの光束に分割する。なお、光束L1は光束L11乃至L15の総称表記である。光束L11は、回折格子41の0次光(透過光)であり、光束L12乃至L15は、それぞれの伝搬方向に沿って配列する周期構造による1次回折光である。
【0073】
光束L11乃至L15は、伝搬方向が相互に異なる平行光束である。光束L11乃至L15は、それぞれ穴あきミラー6を通過し、光走査部120によりX方向及びY方向に走査される。光束L11乃至L15の走査レーザ光L21乃至L25は、それぞれ照射領域500における異なる位置に照射される。
【0074】
なお、本実施形態では、平面視が略円形形状の回折格子41を例示するが、これに限定されるものではなく、矩形形状や楕円形状等であってもよい。またレーザ光L0が5つの光束に分割される構成を例示するが、複数であれば分割数に制限はなく、要求される空間分解能等に応じて適宜選択可能である。さらに、回折格子41の前面中央を透過する光束L11と、4つの対角方向に分割されるL12乃至L15の構成を例示したが、各光束が分割される方向は、これに限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択可能である。
【0075】
次に
図6は、測距装置100の全体構成の一例を示すブロック図である。
図2乃至
図5を用いて既に説明した構成については適宜説明を省略する。なお、
図6における太い実線で示した矢印は光の流れを示し、太い破線で示した矢印は電気信号の流れを示している。
【0076】
図6に示すように、測距装置100は、受発光部110と、光走査部120と、出射窓130と、制御部140とを有する。
【0077】
制御部140は、外部コントローラ300、受発光部110及び光走査部120のそれぞれに電気的に接続し、信号及びデータを相互に送受可能である。また制御部140は、光走査部120を制御する光走査制御部150を含む。
【0078】
制御部140は、電気回路又は電子回路等を有する制御回路基板を含み、例えば背面パネル22(
図2参照)等に設置されている。従ってポリゴンミラー5及び回転ステージ10が回転しても、制御部140を構成する制御回路基板は不動である。
【0079】
外部コントローラ300は、サービスロボットを制御するためのコントローラであり、ROS (Robot Operating System)を搭載するBoard PC(Personal Computer)等からなる。
【0080】
受発光部110は、LD基板111と、発光ブロック112と、穴あきミラー6と、穴あきミラーホルダ62と、受光ブロック113と、APD基板114とを有する。
【0081】
LD基板111は、制御部140からの発光制御信号Drv1に応じてLD3を発光させる電気回路を含む。
【0082】
発光ブロック112は、LD3と、LDホルダ31と、コリメートレンズ4と、コリメートレンズホルダ40とを含む。LDホルダ31はLD3を保持する部材である。コリメートレンズホルダ40はコリメートレンズ4を保持する部材である。穴あきミラーホルダ62は、穴あきミラー6を保持する部材である。
【0083】
受光ブロック113は、受光レンズ7と、受光レンズホルダ71と、APD8と、APDホルダ80とを含む。受光レンズホルダ71は受光レンズ7を保持する部材である。APDホルダ80はAPD8を保持する部材である。
【0084】
APD基板114は、APD8が受光した光強度に応じた電気信号である受光信号Sを制御部140に出力する電気回路を含む。
【0085】
光走査部120は、基板91と、回転ステージ10とを含む。基板91には、ポリゴンミラー5と、第1軸モータ161と、第1軸エンコーダ162と、第1軸ドライバ基板163と、同期検知LED164と、発電コイル165とが設けられている。また回転ステージ10には、第2軸モータ171と、第2軸エンコーダ172と、第2軸ドライバ基板173と、同期検知PD174と、給電コイル175とが設けられている。
【0086】
発電コイル165と給電コイル175の組は、給電部170を構成している。給電部170は、電磁誘導により第1軸モータ161等に非接触で給電できる。なお、給電とは電力を供給することをいう。
【0087】
第1軸モータ161は、ポリゴンミラー5を回転させる回転駆動部である。第1軸モータ161には、DC(Direct Current)モータ又はAC(Alternating Current)モータ等を適用できる。
【0088】
第1軸エンコーダ162はロータリエンコーダであり、ポリゴンミラー5の回転角度を検出する検出部である。
【0089】
第1軸ドライバ基板163は、第1軸モータ161に駆動信号を供給する電気回路等を含む基板である。第1軸ドライバ基板163は、第1軸エンコーダ162による検出信号に基づき、所定の回転数で回転するようにポリゴンミラー5を制御できる。
【0090】
ここで、ポリゴンミラー5の回転数は、第1軸ドライバ基板163により制御され、光走査制御部150によっては制御されない。換言すると、ポリゴンミラー5の回転数は、光走査制御部150の非制御対象である。但し、ポリゴンミラー5の回転の開始及び停止は、光走査制御部150からのポリゴン制御信号Drv2に基づいて行われる。なお、回転数の制御は、回転速度の制御と換言することもできる。
【0091】
同期検知LED164は、ポリゴンミラー5の回転角度に基づき、ポリゴンミラー5の回転に同期する光信号Optを出力する同期出力部である。
【0092】
具体的には、同期検知LED164は、第1軸エンコーダ162によるポリゴンミラー5の回転角度の検出信号に基づきパルス光を発する。同期検知LED164が発するパルス光はポリゴンミラー5の回転に同期する光信号Optに対応し、同期検知LED164はパルス光を発することで光信号Optを出力できる。
【0093】
発電コイル165は、電磁誘導により逆起電力を発生し、第1軸モータ161、第1軸エンコーダ162及び第1軸ドライバ基板163のそれぞれに給電するコイルである。
【0094】
第2軸モータ171は、回転ステージ10を回転させるモータである。第2軸モータ171には、DCモータ、ACモータ又はステッピングモータ等の各種モータを適用可能である。第2軸エンコーダ172は、回転ステージ10の回転角度を検出するロータリエンコーダである。
【0095】
第2軸ドライバ基板173は、第2軸モータ171に駆動信号を供給する電気回路等を含む基板である。第2軸ドライバ基板173は、光走査制御部150からのステージ制御信号Drv3に基づき、回転ステージ10を回転させる。
【0096】
また、第2軸ドライバ基板173は、第2軸エンコーダ172が検出した回転ステージ10の回転角度を、第2軸回転角度信号Rotとして光走査制御部150にフィードバックする。光走査制御部150は、第2軸回転角度信号Rotに基づき、回転ステージ10を制御できる。
【0097】
ここで、回転ステージ10の回転数は、光走査制御部150により制御され、光走査制御部150の制御対象である。
【0098】
同期検知PD174は、同期検知LED164が発するパルス光を受光した信号を第2軸ドライバ基板173に出力する。例えば、同期検知LED164は、第1軸エンコーダ162がポリゴンミラー5の回転原点に対応する角度を検出したタイミングでパルス光を発する。
【0099】
同期検知PD174は、同期検知LED164が発したパルス光を受光することで、ポリゴンミラー5の回転への同期タイミングを検知する。第2軸ドライバ基板173は、同期検知PD174からの入力信号に基づき、ポリゴンミラー5の回転への同期タイミングを示す同期信号Synを制御部140に出力する。
【0100】
給電コイル175は、発電コイル165に対向配置され、第2軸ドライバ基板173から通流される電流に応じて、電磁誘導により発電コイル165に逆起電力を発生させるコイルである。
【0101】
例えば給電コイル175に電流を通流すると、電磁誘導により非接触で発電コイル165に逆起電力が発生する。発電コイル165は、発生した逆起電力を、第1軸モータ161、第1軸エンコーダ162及び第1軸ドライバ基板163のそれぞれに電力Powとして供給できる。
【0102】
なお、本実施形態では、給電部170が電磁誘導により非接触給電する構成を例示するが、これに限定されるものではない。例えば給電部170は、回転接点により給電することもできる。ここで回転接点とは、回転体に配置された金属製リングとブラシを介して、回転体に電気的に接続する構成をいう。このような回転接点を用いて、外部から第1軸モータ161等に給電することもできる。
【0103】
図6に示すように、制御部140は、外部コントローラ300からの測距制御信号Ctlに応答して発光制御信号Drv1を出力し、LD基板111を介してLD3を発光させる。LD3により発せられ、コリメートレンズ4でコリメートされたレーザ光L0は、回折格子41により5つの光束L1に分割される。光束L1は、穴あきミラー6を通ってポリゴンミラー5の反射面51に入射し、反射面51で反射された後、出射窓130を透過して、測距装置100から外部に向けて走査レーザ光L2として照射される。
【0104】
出射窓130は、レーザ光L0の波長に対して光透過性を有するガラス材料又は樹脂材料を含んでなる。出射窓130は、測距装置100が装置全体を覆う不透明な外装カバーを備える場合に、走査レーザ光L2を透過して出射させる窓として機能する部材である。
【0105】
走査レーザ光L2が物体200により反射又は散乱された戻り光R2は、出射窓130を透過してポリゴンミラー5の反射面51に入射する。そして反射面51で反射され、穴あきミラー6によりAPD8に向けて戻り光R1として反射される。
【0106】
戻り光R1は、受光レンズ7により集光されながらAPD8に入射する。APD8がこの入射光を受光した受光信号Sは、APD基板114を介して制御部140に出力される。制御部140は、受光信号に基づき、物体200までの距離を示す距離情報Datを演算により取得し、この距離情報Datを外部コントローラ300に出力できる。
【0107】
走査レーザ光L2は、5つの光束L11乃至L15がそれぞれ走査された5つの走査レーザ光L21乃至L25からなる。また戻り光R2は、照射領域500に照射された走査レーザ光L21乃至L25のそれぞれに対する戻り光R21乃至R25からなる。戻り光R1は、戻り光R21乃至R25のそれぞれがポリゴンミラー5により反射された戻り光R11乃至R15からなる。
【0108】
APD81は、戻り光R11を受光して受光信号S1を出力する。APD82は、戻り光R12を受光して受光信号S2を出力する。APD83は、戻り光R13を受光して受光信号S3を出力する。APD84は、戻り光R14を受光して受光信号S4を出力する。APD85は、戻り光R15を受光して受光信号S5を出力する。
【0109】
APD81は、光束L11に由来する戻り光R11を受光可能に配置されている。同様に、APD82は、光束L12に由来する戻り光R12を、APD83は光束L13に由来する戻り光R13を、APD84は光束L14に由来する戻り光R14を、APD85は光束L15に由来する戻り光R15を、それぞれ受光可能に配置されている。
【0110】
言い換えると、光束L1に由来する走査レーザ光L2は、走査レーザ光L21(第1光束)と、走査レーザ光L22(第2光束)と、を含む。APD8は、APD81(第1受光部)と、APD82(第2受光部)と、を含む。APD81は、走査レーザ光L21が物体200により反射又は散乱された戻り光R11に基づいて、受光信号S1を出力する。APD82は、走査レーザ光L22が物体200により反射又は散乱された戻り光R12に基づいて、受光信号S2を出力する。
【0111】
なお、走査レーザ光L2は、走査レーザ光L21乃至L25の総称表記であり、戻り光R2は、戻り光R21乃至R25の総称表記であり、戻り光R1は、戻り光R11乃至R15の総称表記である。
【0112】
また、
図6において、測距装置100が備える光走査装置400は、LD3と、光走査部120と、APD8と、光走査制御部150とを含んで構成されている。
【0113】
また、測距装置100は、サービスロボットが搭載するバッテリから供給される電力により動作可能である。但し、これに限定されるものではなく、測距装置100自身が搭載するバッテリから電力供給されてもよい、またサービスロボットの動作範囲が広くない場合等には、商用電源からケーブルを用いて給電されるように構成してもよい。
【0114】
(制御部140のハードウェア構成)
次に、
図7は、測距装置100が有する制御部140のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図7に示すように、制御部140は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)180と、CPU(Central Processing Unit)181と、ROS I/F(Interface)182と、を有する。
【0115】
演算器の一例であるFPGA180は、LDコントローラ183と、TDC(Time to Digital Converter)190と、TDCコントローラ184と、距離演算器185と、SPI(Serial Peripheral Interface) I/F186と、ライダー I/F187と、ミラー I/F188と、を有する。
【0116】
LDコントローラ183は、LD3を制御する回路である。SPI I/F186は、FPGA180内部の各回路同士を接続するバスである。
【0117】
TDCコントローラ184は、LDコントローラ183と、TDC190と、を制御する。そして、LD3がレーザ光L0を発光した発光時刻tsと、該レーザ光L0が物体200により反射又は散乱された後、戻り光R1としてAPD8により受光された受光時刻teと、の時間差を計測させ、計測結果を距離演算器185に出力する。
【0118】
具体的には、TDCコントローラ184は、LDコントローラ183を介してLD3を発光させ、回折格子41により分割された光束L1の走査レーザ光L2を照射領域500に照射させる。照射領域500側に存在する物体200により該走査レーザ光L2が反射又は散乱された戻り光R2は、ポリゴンミラー5で反射され、戻り光R1としてAPD8により受光される。APD8は、戻り光R1に応じた受光信号Sを出力する。受光信号Sは、トランスインピーダンスアンプ及びオペアンプ等を通して増幅処理され、TDC190に入力される。
【0119】
TDC190は、TDCコントローラ184の制御下で、APD8により出力される受光信号Sに基づき、時間差を計測するデジタル回路である。また、TDC190は、発光時刻tsと受光時刻teとの時間差情報Δtを出力する複数の時間差情報出力部の一例である。なお、TDC190は、TDC191乃至195の総称表記であり、TDC191乃至195は何れも同じ回路である。但し、発光時刻tsと受光時刻teとの時間差情報Δtを出力できれば、TDC191乃至195は異なる回路構成であってもよい。
【0120】
TDC191は、APD81が出力する受光信号S1に基づいて時間差情報Δt1を出力し、TDC192は、APD82が出力する受光信号S2に基づいて時間差情報Δt2を出力する。同様に、TDC193は、受光信号S3に基づいて時間差情報Δt3を出力し、TDC194は、受光信号S4に基づいて時間差情報Δt4を出力し、TDC195は、受光信号S5に基づいて時間差情報Δt5を出力する。
【0121】
換言すると、TDC190は、TDC191(第1時間差情報出力部)と、TDC192(第2時間差情報出力部)と、を含み、TDC191は、APD81(第1受光部)により出力された受光信号S1に基づく時間差情報Δt1を出力し、TDC192は、APD82(第2受光部)により出力された受光信号S2に基づく時間差情報Δt2を出力する。
【0122】
距離演算器185は、TDCコントローラ184を介して入力した時間差情報Δt1乃至Δt5に基づき、以下の(1)式から物体200に関する距離情報Datを演算により取得する。
Datn={c・Δtn}/2 ・・・(1)
【0123】
なお、(1)式における添え字のnは、5つに分割された光束L11乃至L15を区別するためのものである。例えば、光束L11に由来する時間差はΔt1、距離情報はDat1であり、光束L12に由来する時間差はΔt2、距離情報はDat2である。また、cは光速を表す。距離情報Datの単位は[m]、時間差Δtnの単位は[s]、光速cの単位は[m/s]である。
【0124】
光束L11乃至L15は、1つのレーザ光L0が分割されたものであるため、発光時刻tsは何れも同じ時刻であり、戻り光R11乃至R15の受光時刻teが、反射又は散乱された物体200に関する距離に応じて異なる。従って、光束L11乃至L15のそれぞれを、測距のためのプローブ光である走査レーザ光L21乃至L25として独立して使用できる。
【0125】
距離演算器185で取得された距離情報Datは、ライダー I/F187を介してFPGA180からCPU181に出力される。ライダー I/F187は、APD8により出力された受光信号Sから、距離演算器185によって取得される物体200に関する距離情報を出力する距離情報出力部の一例である。
【0126】
ミラー I/F188は、光走査部120を制御するためのインターフェースである。CPU181は、制御部140全体に制御を統括するシステムコントローラである。
【0127】
ROS I/F182は、外部コントローラ300との信号及びデータの送受を行うインターフェースである。CPU181は、ROS I/F182を介して距離情報Datを外部コントローラ300に送信し、測距制御信号Ctlを外部コントローラ300から受信できる。
【0128】
(TDC190の詳細構成)
次に、TDC190のさらに詳細な構成について説明する。
図8は、TDC190の構成の一例を示すブロック図である。
図8に示すように、TDC190は、クロックカウンタ81と、TDL(Tapped Delay Line)82と、を有する。なお、TDC191乃至195は、何れも
図8に示す構成を有する。
【0129】
クロックカウンタ81は、FPGA180のクロックを計数することで時間を計測するデジタル回路であり、第1計測部の一例である。
【0130】
ここで、FPGA180の動作クロックは数百[MHz]程度であるため、クロックカウンタ81による時間分解能は、数[ns]単位になる。数[ns]の時間分解能を距離に換算すると、数十[cm]単位となる。計測ばらつき等を考慮すると、クロックカウンタ81の時間分解能に基づく測距精度はさらに低くなる。LiDAR等の測距装置では一般的に数[mm]から数[cm]単位の精度が要求されるため、クロックカウンタ81の時間分解能は不十分である。
【0131】
そのため、本実施形態では、クロックカウンタ81に加えてTDL82を設けている。TDL82は、TDC190への入力信号の伝搬方向に沿って直列に接続された複数の遅延素子を有し、入力信号が伝搬された遅延素子の個数に基づき時間差を計測するデジタル回路であり、第2計測部の一例である。
【0132】
信号が遅延素子1個を伝搬する時間は、デバイスにもよるが、100[ps]程度であるため、TDL82を用いることで、100[ps]ないしはそれより小さな数十[ps]単位の時間分解能による時間計測が可能となり、測距精度を一桁以上向上させることができる。一方、TDL82だけでは、中距離LiDAR等で要求される30[m]程度の距離の測定は、FPGAの回路規模から鑑みて非現実的である。そのため、クロックカウンタ81とTDL82とを組み合わせることで、30[m]程度の距離を高い距離分解能で測距可能になる。
【0133】
換言すると、TDC190は、クロックカウンタ81(第1計測部)と、TDL82(第2計測部)と、を含み、クロックカウンタ81及びTDL82の各計測結果に基づいて時間差情報Δtを出力する。クロックカウンタ81は、数[ns]の時間分解能(第1の時間分解能)で時間差情報Δtを出力し、TDL82は、数[ns]の時間分解能より高い数百[ps]ないしは数十[ps]単位(第2の時間分解能)で時間差情報Δtを出力する。
【0134】
図9は、クロックカウンタ81による時間計測の一例を示すタイミングチャートである。
図9における上段は、FPGA180の動作クロック信号CNT_CLKを示し、その1つ下段は、クロックカウンタ81により計数される動作クロック数を示している。その1つ下段は、発光時刻tsに対応する計数の開始タイミング信号CNT_STAを示し、さらにその1つ下段は、受光時刻teに対応する計数の終了タイミング信号CNT_STOを示している。
【0135】
図9におけるタイミング95は、発光時刻tsの検出タイミングを示し、タイミング96は受光時刻teの検出タイミングを示している。タイミング97は、クロックカウンタ81による計数の開始タイミングを示し、タイミング98は、クロックカウンタ81による計数の終了タイミングを示している。
【0136】
FPGA180の最大クロック周波数が500[MHz]であるとすると、最大で(1+α)とクロックの積に比例して信号の取り込みタイミングがずれるため、(1+α)×0.3[m]の測距精度となる。なお、αは1未満の定数を表す。
【0137】
図10は、TDL82の構成の一例を示す図である。
図10は、TDLで用いられる構成のうち、最も構成がシンプルなフラッシュ型TDLの構成を示している。
図10に示すように、TDL82は、遅延素子DLYと、フリップフロップFFと、DLYエンコーダ83とを有する。なお、遅延素子DLYは、遅延素子DLY1乃至DLY4の総称表記であり、フリップフロップFFは、フリップフロップFF1乃至FFNの総称表記である。
【0138】
図10に示すように、基準となる終了タイミング信号CNT_STOの後段において、遅延時間τを与える遅延素子DLY1乃至DLY4が直列に接続されている。遅延時間τは、FPGA180の動作クロックの周期よりも短く、一般に100[ps]以下である。なお、遅延素子の個数は適宜選択できる。
【0139】
終了タイミング信号CNT_STOが入力されると、遅延素子DLY1、DLY2、DLY3、DLY4、・・・の順に終了タイミング信号CNT_STOが伝搬する。
【0140】
動作クロック信号CNT_CLKの立ち上がりで、TDL82の状態をフリップフロップFFに取り込む。DLYエンコーダ83は、フリップフロップFFの出力に基づき、何番目の遅延素子まで終了タイミング信号CNT_STOが伝搬されたかを検出し、動作クロック信号CNT_CLKの入力から終了タイミング信号CNT_STOまでの間の時間差情報Δtを出力する。
【0141】
なお、TDL82の構成は、
図10に示すフラッシュ型TDLに限定されるものではなく、確率的TDLやバーニア型TDL等を適用して、時間分解能のさらなる向上を図ることもできる。
【0142】
<測距装置100の作用効果>
次に、測距装置100の作用効果について説明する。
【0143】
近年、工場内での資材運搬、接客施設での商品運搬及び案内業務、施設内警備、或いは清掃等の主に役務の目的で、自律移動型のサービスロボットの開発及び導入が進んでいる。また、このようなサービスロボットの進行方向又は周囲に存在する物体を検出したり、サービスロボットが動作する施設の施設内地図等を作成したりするために、LiDAR装置等の測距装置が使用されることが多くなっている。
【0144】
測距装置には、例えば重力方向に交差する平面内で光を走査し、該平面内に存在する物体までの距離を測定する2次元測距装置が知られている。また重力方向に交差する平面内に加えて重力に沿う方向にも光を走査し、3次元空間に存在する物体までの距離を測定する3次元測距装置が知られている。
【0145】
3次元測距装置は、3次元的な広い範囲に存在する物体を検出し、測距を行える点で好適であるが、その反面で、装置の構造及び制御が複雑になり、また装置が高価になる場合がある。例えば2次元測距装置に対して3次元測距装置は20倍乃至30倍程度の価格が想定される。装置の構造及び制御の複雑さ、並びに装置の価格は、ロボットの中では比較的廉価なサービスロボットに測距装置を搭載するための制約の一つになり得る。
【0146】
一方、測距装置で用いられる半導体レーザ等の発光部は、発光部の寿命やアイセーフの要請等のために、発光部による単位時間(例えば1秒)当たりの発光可能時間が制限される場合がある。
【0147】
発光部の発光可能時間が制限されることで、測距装置から照射領域に照射される光の角度間隔が疎になる場合がある。また角度間隔が密になるように照射光を照射すると、照射領域の範囲が小さくなる。
【0148】
例えば、測距装置による測距領域を、光の照射方向と交差する方向に少しずつずらしながら、同じ領域に対し複数回の測距を行うことで、光の角度間隔を密にすることも考えられるが、この場合には複数回の測距を行うため、測距のための時間が長くなる。また発光部の個数を増やすことも考えられるが、この場合には、発光部を増やした分、測距装置のコストが増大する。
【0149】
従って、短時間での測距が可能であって、装置コストを抑えつつ、広い測距領域を高い空間分解能で測距することに改善の余地がある。
【0150】
本実施形態では、LD3(発光部)と、LD3により発せられたレーザ光L0(光)を複数の光束L1に分割する回折格子41(光分割部)と、複数の光束L1を2軸方向に走査させ、照射領域500側へ照射する光走査部120と、を有する。また光走査部120により走査された走査レーザ光L2(複数の光束)が、照射領域500側に存在する物体200により反射又は散乱された戻り光R2(光)を受光し、受光信号Sを出力する複数のAPD8(受光部)と、複数のAPD8により出力された複数の受光信号Sから取得される物体200に関する距離情報Datを出力するライダー I/F187(距離情報出力部)と、を有する。
【0151】
レーザ光L0を複数の光束L1に分割し、分割された複数の光束L1をそれぞれ2軸方向に走査させて照射領域500へ照射することで、測距装置100から照射領域500に照射される走査レーザ光L2の角度間隔Pw(
図1参照)を密にすることができる。例えばレーザ光L0を所定方向で5つに分割すると、分割しない場合に対して該方向において1/5の角度間隔Pwで走査レーザ光L2光を所定の照射領域500内に照射できる。これにより、角度間隔Pwに対応した空間分解能が得られるため、広い測距領域を高い空間分解能で測距できる。
【0152】
また1つのレーザ光L0を複数の光束L1に分割するため、分割された個数分の光束L1がほぼ同時に得られ、走査レーザ光L2をそれぞれ異なる位置に照射できる。走査レーザ光L2が照射された位置ごとで距離情報Datを取得できるため、分割された個数分、単位時間当たりに取得できる距離情報Datの測距点数を増やすことができる。その結果、短時間でより多くの距離情報Datを示す測距点群を得ることができる。さらに、測距点数を増やすことで、測距装置100のコストを測距点数で除算して得られる1測距点数当たりのコストを抑制できる。
【0153】
また、本実施形態では、複数の光束L1に由来する走査レーザ光L2(光走査部により走査された複数の光束)は、走査レーザ光L21(第1光束)と、走査レーザ光L22(第2光束)と、を含み、複数のAPD8は、APD81(第1受光部)と、APD82(第2受光部)と、を含む。APD81は、走査レーザ光L21が物体200により反射又は散乱された戻り光R11を受光し、受光信号S1を出力し、APD82は、走査レーザ光L22が物体200により反射又は散乱された戻り光R12を受光し、受光信号S2を出力する。
【0154】
この構成により、分割された複数の光束L1ごとで、対をなすAPD8の受光信号Sから距離情報Datを取得できるため、測距点数を増やすことができる。
【0155】
また、本実施形態では、LD3によりレーザ光L0が発せられた発光時刻tsと、該レーザ光L0が物体200により反射又は散乱された後、APD8により受光された受光時刻teと、の時間差情報Δtを出力する複数のTDC190(時間差情報出力部)を有する。TDC190は、時間差情報Δtに基づいて取得される物体200に関する距離情報Datを出力する。
【0156】
APD8は、APD81と、APD82と、を含み、TDC190は、TDC191(第1時間差情報出力部)と、TDC192(第2時間差情報出力部)と、を含む。TDC191は、APD81により出力された受光信号S1に基づく時間差情報Δt1を出力し、TDC192は、APD82により出力された受光信号S2に基づく時間差情報Δt2を出力する。
【0157】
この構成により、分割された複数の光束L1ごとで、対をなすAPD8の受光信号Sを並列に処理して距離情報Datを取得できるため、多くの測距点数を高速に得ることができる。
【0158】
また、本実施形態では、TDC191乃至TDC195(複数の時間差情報出力部)のそれぞれは、クロックカウンタ81(第1計測部)と、TDL82(第2計測部)と、を含み、クロックカウンタ81及びTDL82の各計測結果に基づいて時間差情報Δtを出力する。クロックカウンタ81は、数[ns]の時間分解能(第1の時間分解能)で時間差情報Δtを出力し、TDL82は、数[ns]の時間分解能より高い数百[ps]ないし数十[ps]単位(第2の時間分解能)で時間差情報Δtを出力する。
【0159】
クロックカウンタ81は、FPGA180(演算器)により発せられるクロックを計数することで取得される時間差情報Δsを出力し、TDL82は、終了タイミング信号CNT_STO(入力信号)の伝搬方向に沿って直列に接続された複数の遅延素子DLYを有し、入力信号が伝搬された遅延素子DLYの個数に基づき取得される時間差情報Δtを出力する。
【0160】
この構成により、30[m]程度の距離を高い距離分解能で測距できる。
【0161】
なお、本実施形態では、光走査部120がポリゴンミラー5と回転ステージ10を有する構成を例示したが、光走査部120はこれに限定されるものではなく、光を走査可能であれば如何なる構成であってもよい。例えば、光走査部120は、2軸方向に光走査可能なMEMSミラーやガルバノミラー等を備えてもよく、この場合にも上述した測距装置100と同様の作用効果が得られる。
【0162】
また、本実施形態では、演算器としてFPGA180を例示したが、演算器はASICであってもよい。
【0163】
また、従来のTDC IC等のTDCは、処理可能な信号数が2個又は4個等に制限されたが、本実施形態では、複数のTDCを1つのデジタル回路で実現する。そのため、回路規模が許す限り、自由にレーザ光L0を分割して複数の光束L1の数を増やし、その分、測距点数を増やすことができる。
【0164】
複数の受光部を有する従来の測距装置では、信号のデジタル処理回路は1つのみであり、複数の測距点数を同時に得られないが、本実施形態では、複数の受光部のそれぞれと対をなしてデジタル処理回路を備えるため、並行して測距可能な測距点数を増やすことができる。
【0165】
(他方式との比較)
ここで、本実施形態と他の測距方式とを比較する。
【0166】
まず、照射領域500に拡げたパルス光を照射するフラッシュ型3DLiDAR装置と比較する。測距装置100は、走査レーザ光L2を照射領域500に照射するため、照射光は光減衰を抑えて長距離を伝搬できる。そのため、測距装置100は、光の拡大に伴い光減衰しやすいフラッシュ型3DLiDAR装置と比較して測距可能な距離範囲が長い利点がある。本実施形態では、この利点を確保しながら、単位角度当たりの測距点数を増やし、空間分解能を向上できる。
【0167】
また、本実施形態では、ポリゴンミラー5及び回転ステージ10の回転により、2軸方向に走査レーザ光L2を照射するため、フラッシュ型3DLiDAR装置と比較して、より広い角度範囲に光を照射できる。
【0168】
また、本実施形態に係る測距装置100は、ポリゴンミラー5の所定面で反射された走査レーザ光L2の物体200による戻り光R2が、ポリゴンミラー5の同じ所定面で反射された後、APD8で受光される、いわゆる同軸LiDAR装置である。同軸LiDAR装置には、複数の測距装置を用いた際の測距装置同士のクロストークを低減できる利点があり、本実施形態においても、フラッシュ型3DLiDAR装置と比較してクロストークを低減できるという利点が得られる。
【0169】
次に、発光部により発せられた光を分割せずに走査させる走査型3DLiDAR装置と比較する。本実施形態では、レーザ光L0を分割した分、測距点数を増やすことができるため、必要な測定点数を得るためにかかる時間が短く済む。これにより、測距装置100をサービスロボットに搭載した場合において、サービスロボットの周囲の障害物への反応時間を確保できる等の効果が得られる。
【0170】
また、3DLiDAR装置において、測距点数を増やすために発光部の個数を増やすと、レーザ等の発光部は高価であるため、3DLiDAR装置のコストが増大する。
【0171】
またN個の発光部と、1個の受光部とを有する3DLiDAR装置の場合、複数の戻り光が受光部に同時に入射しないように、複数の発光部は1つずつ順次発光する必要があるため、単位時間当たりの測距点数は制限される。この制限を緩和するために複数の受光部を設けると、装置コストがさらに増大する。
【0172】
これに対し、本実施形態では、発光部の個数を増やさず、比較的安価なAPD等の受光部の個数を増やすことで測距点数を増やしているため、測距装置100のコストを低減できる。
【0173】
以上、実施形態を説明してきたが、本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0174】
例えば、測距装置100が搭載される移動体は、サービスロボットに限定されるものではない。例えば移動体は、自動車、車両、電車、汽車又はフォークリフト等の陸上を移動可能なものや、飛行機、気球又はドローン等の空中を移動可能なもの、船、船舶、汽船又はボート等の水上を移動可能なものであってもよい。
【0175】
また、測距装置100において走査される光は、レーザ光に限定されるものではなく、指向性を有さない光であってもよい。またレーダー等の波長の長い電磁波等を光の一種として用いることもできる。
【0176】
なお、実施形態は、測距方法を含む。例えば、測距方法は、発光部と、前記発光部により発せられた光を複数の光束に分割する光分割部と、前記複数の光束を2軸方向に走査させ、照射領域側へ照射する光走査部と、前記光走査部により走査された前記複数の光束が、前記照射領域側に存在する物体により反射又は散乱された光を受光し、受光信号を出力する複数の受光部と、を有する測距装置による測距方法であって、前記発光部により光が発せられた発光時刻と、前記物体により反射又は散乱された光が前記受光部により受光された受光時刻と、の時間差情報を出力する複数の時間差情報出力工程と、前記時間差情報に基づいて取得される距離情報を出力する距離情報出力工程と、を含み、前記複数の受光部は、第1受光部と、第2受光部と、を含み、前記複数の時間差情報出力工程は、第1時間差情報出力工程と、第2時間差情報出力工程と、を含み、前記第1時間差情報出力工程では、前記第1受光部により出力された前記受光信号に基づく前記時間差情報を出力し、前記第2時間差情報出力工程では、前記第2受光部により出力された前記受光信号に基づく前記時間差情報を出力する。この測距方法により、上述した測距装置と同様の作用効果が得られる。
【0177】
実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係をこれに限定するものではない。
【符号の説明】
【0178】
3…LD(発光部の一例)、41…回折格子、5…ポリゴンミラー、8…APD(受光部の一例)、81…クロックカウンタ、82…TDL、120…光走査部、140…制御部、180…FPGA(演算器)、181…CPU、182…ROS I/F、183…LDコントローラ、184…TDCコントローラ、185…距離演算器、186…SPI I/F、187…ライダー I/F(距離情報出力部)、188…ミラー I/F、190…TDC、200…物体、500…照射領域、L0…レーザ光、L1…光束、L2…走査レーザ光、R1、R2…戻り光、S…受光信号、Dat…距離情報、Δt…時間差情報、A1…第1軸、A2…第2軸