(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015386
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】浸炭装置および浸炭方法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/22 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
C23C8/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118178
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000168632
【氏名又は名称】高圧ガス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591080531
【氏名又は名称】株式会社日本テクノ
(71)【出願人】
【識別番号】520252789
【氏名又は名称】奥村 望
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】森本 孝
(72)【発明者】
【氏名】八田 正喜
(72)【発明者】
【氏名】篠本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 元気
(72)【発明者】
【氏名】福地 真也
(72)【発明者】
【氏名】椛澤 均
(72)【発明者】
【氏名】奥村 望
【テーマコード(参考)】
4K028
【Fターム(参考)】
4K028AA01
4K028AC03
4K028AC07
4K028AC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スーティングをさらに抑制し、迅速に浸炭が可能な浸炭装置および浸炭方法を提供する。
【解決手段】本発明の浸炭装置は、ワークを収容する処理炉10と、前記処理炉を加熱する加熱部11と、前記処理炉内にキャリアガスとアセチレンを供給するガス供給部20と、前記処理炉に接続され、前記処理炉からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出するイオン付着質量分析装置40と、前記アセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、制御部50と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを収容する処理炉と、
前記処理炉を加熱する加熱部と、
前記処理炉内にキャリアガスとアセチレンを供給するガス供給部と、
前記処理炉に接続され、前記処理炉からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出するイオン付着質量分析装置と、
前記アセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、制御部と、を備える浸炭装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記排出ガス中のアセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内のアセチレン濃度を算出するアセチレン濃度演算手段と、前記処理炉内のアセチレン濃度を予め設定した基準アセチレン濃度に一致するように、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、アセチレン供給量制御手段と、を有する請求項1記載の浸炭装置。
【請求項3】
前記ガス供給部は、少なくとも、前記キャリアガスを供給する第1ガス供給部と、前記アセチレンを供給する第2ガス供給部22と、を有し、前記第1ガス供給部と前記第2ガス供給部は、別々に前記処理炉に接続されている、請求項1または2に記載の浸炭装置。
【請求項4】
前記ガス供給部は、少なくとも、前記キャリアガスを供給する第1ガス供給部と、前記アセチレンを供給する第2ガス供給部22と、前記第1ガス供給部からのキャリアガスと前記第2ガス供給部からのアセチレンを混合する混合器、を有する、請求項1または2に記載の浸炭装置。
【請求項5】
前記処理炉の内部を真空排気する真空排気手段をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の浸炭装置。
【請求項6】
前記ガス供給装置は、前記キャリアガスを供給する第1ガス供給部と、前記アセチレンを供給する第2ガス供給部と、前記キャリアガスと前記アセチレンの混合ガスを供給する第3ガス供給部と、を有する、請求項1または2に記載の浸炭装置。
【請求項7】
ワークを収容した処理炉を加熱した状態で、キャリアガスとアセチレンを前記処理炉内に供給する浸炭方法であって、
前記処理炉に接続されたイオン付着質量分析装置により、前記処理炉からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出し、前記アセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、浸炭方法。
【請求項8】
前記キャリアガスと前記アセチレンを前記処理炉内に別々に供給する、請求項7記載の浸炭方法。
【請求項9】
前記キャリアガスと前記アセチレンを前記処理炉内に供給する前に混合して混合ガスを調製し、前記混合ガスを前記処理炉内に供給する、請求項7記載の浸炭方法。
【請求項10】
前記排出ガス中のアセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内のアセチレン濃度を算出し、算出した前記処理炉内のアセチレン濃度を予め設定した基準アセチレン濃度に一致するように、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、請求項7~9のいずれか1項に記載の浸炭方法。
【請求項11】
前記処理炉内を概ね常圧に維持した状態で、キャリアガスとアセチレンを前記処理炉内に供給する、請求項7~10のいずれか1項に記載の浸炭方法。
【請求項12】
前記処理炉内を減圧下に維持した状態で、前記キャリアガスと前記アセチレンを前記処理炉内に供給する、請求項7~10のいずれか1項に記載の浸炭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸炭装置および浸炭方法に関し、さらに詳しくは浸炭ガスにアセチレンを用いる浸炭装置および浸炭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸炭とは、鋼材の表面に炭素を拡散浸透させる熱処理方法であり、鋼材からなる被処理物品(以下、ワークともいう)の表面硬化方法として広く用いられている。浸炭を行う方法としては、常圧下でガスにより浸炭を行う方法(以下、ガス浸炭という)や、減圧下で浸炭を行う方法(以下、真空浸炭という)が、知られている。
【0003】
ガス浸炭は、ワークが配置された常圧下の処理炉内に、浸炭ガスを供給することにより、浸炭を行う。キャリアガスとしては、炭化水素と空気をNi触媒で反応させた吸熱型変成ガス(RXガス)(主成分は、一酸化炭素、水素、窒素であり、微量成分としてメタンを含む)を用い、鋼中への炭素の浸入を促進させるため、エンリッチガスとして、メタン、プロパン、ブタン等の炭化水素ガスを添加する方法が広く用いられている。
【0004】
一方、真空浸炭は、ワークが配置された減圧下の処理炉内に、浸炭ガスを供給することにより浸炭を行う。真空浸炭の浸炭ガスとしては、従来、メタン、プロパンまたはブタン等の炭化水素ガスが使用されていたが、これらのガスは、供給量が少ない場合には浸炭むらが発生し、供給量が多い場合には熱分解により炉内に煤が大量に生じる(いわゆるスーティング(Sooting))が発生することから制御が難しく、近年、反応性に富むアセチレンが、これらのガスに代えて使用されるようになってきている。
【0005】
ガス浸炭における雰囲気ガスの組成の制御については、カーボンポテンシャルを指標として制御する方法が知られている。ここで、カーボンポテンシャルとは、雰囲気ガスの浸炭能力を意味し、具体的には、所定温度において、雰囲気ガスと平衡に達した時の鋼材表面の炭素濃度で表される。しかしながら、鋼材表面の炭素濃度を直接測定することは困難である。そこで、雰囲気ガスの成分濃度を測定することで、カーボンポテンシャルを推定する方法が用いられている。例えば、吸熱型変成ガスを用いる場合、処理炉内の雰囲気ガス中のCO2濃度とCO濃度の検出値に基づいて算出したカーボンポテンシャルの指標値を、予め定めたカーボンポテンシャルの指標値の基準値と一致するように、処理炉内に供給するエンリッチガスの供給量を調節する方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
一方、真空浸炭では、メタン、プロパンまたはブタン等を浸炭ガスに用いる場合、処理炉内のメタンと水素の濃度を分析することで、浸炭ガスの導入量を調整する方法が開示されている(例えば、特許文献2)。また、アセチレンを浸炭ガスに用いる場合、処理炉内の水素濃度を連続的に検出し、処理炉内の水素濃度が所定の水素濃度を超えないように、アセチレンの導入量を制御する方法が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-162820号公報
【特許文献2】特開昭53-15232号公報
【特許文献3】特開2018-95963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ガス浸炭および真空浸炭のいずれの方法においても、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することで、スーティングをさらに抑制し、迅速に浸炭が可能な浸炭装置および浸炭方法が必要とされている。
【0009】
そこで、本発明は、浸炭ガスとしてアセチレンを使用するガス浸炭および真空浸炭において、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することで、スーティングをさらに抑制し、迅速に浸炭が可能な浸炭装置および浸炭方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、ワークを収容する処理炉と、前記処理炉を加熱する加熱部と、前記処理炉内にキャリアガスとアセチレンを供給するガス供給部と、前記処理炉に接続され、前記処理炉からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出するイオン付着質量分析装置と、前記アセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、制御部と、を備えることを特徴とする浸炭装置である。
【0011】
また、本発明の別の態様は、ワークを収容した処理炉を加熱した状態で、キャリアガスとアセチレンを前記処理炉内に供給する浸炭方法であって、前記処理炉に接続されたイオン付着質量分析装置により、前記処理炉からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出し、前記アセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、ことを特徴とする浸炭方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スーティングをさらに抑制し、迅速に浸炭が可能な浸炭装置および浸炭方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1の浸炭装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】実施の形態1の浸炭方法のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図3】実施の形態1の浸炭装置の構成の別の例を示す模式図である。
【
図4】実施の形態2の浸炭装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図5】実施の形態1、2の浸炭装置に用いる治具の構造の一例を示す模式斜視図である。
【
図6】実施例1におけるアセチレンの分析結果の一例を示すマススペクトルである。
【
図7】実施例1におけるアセチレンの検量線の一例を示すグラフである。
【
図8】実施例1における硬さ試験の結果を示すグラフである。
【
図9A】実施例1におけるテストピース番号1の表面近傍における断面の金属顕微鏡写真である。
【
図9B】実施例1におけるテストピース番号1の内部における断面の金属顕微鏡写真である。
【
図10A】実施例1におけるテストピース番号8の表面近傍における断面の金属顕微鏡写真である。
【
図10B】実施例1におけるテストピース番号8の内部における断面の金属顕微鏡写真である。
【
図11A】実施例1におけるテストピース番号15の表面近傍における断面の金属顕微鏡写真である。
【
図11B】実施例1におけるテストピース番号15の内部における断面の金属顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様に係る浸炭装置は、ワークを収容する処理炉と、前記処理炉を加熱する加熱部と、前記処理炉内にキャリアガスとアセチレンを供給するガス供給部と、前記処理炉に接続され、前記処理炉からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出するイオン付着質量分析装置と、前記アセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、制御部と、を備えること特徴とするものであり、ガス浸炭と真空浸炭に用いられる装置が含まれる。また、本発明で用いる浸炭ガスとは、ワークの表面で反応して、炭素を生成させる炭化水素ガスであり、具体的にはアセチレン、またはアセチレンと不活性ガス、例えば窒素、との混合ガスをいう。
【0015】
また、本発明の別の態様に係る浸炭方法は、ワークを収容した処理炉を加熱した状態で、キャリアガスとアセチレンを前記処理炉内に供給する浸炭方法であって、前記処理炉に接続されたイオン付着質量分析装置により、前記処理炉からの排出ガス中の排出アセチレン濃度を検出し、前記排出アセチレン濃度に基づいて、前記処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、ことを特徴とするものであり、ガス浸炭と真空浸炭に用いられる方法が含まれる。真空浸炭では、一般にキャリアガスを使用せず、浸炭ガスとして、アセチレンのみ、またはアセチレンと窒素との混合ガスを使用する。
【0016】
以下、実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0017】
実施の形態1
(ガス浸炭装置)
図1は、本実施形態に係るガス浸炭装置の構成の一例を示す模式図である。ガス浸炭装置Aは、ワークWを収容する処理炉10と、処理炉10内にキャリアガスとアセチレンを供給するガス供給部20と、処理炉10内からガスを排出させる排気部30と、処理炉10からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出するイオン付着質量分析装置40と、イオン付着質量分析装置40が検出したアセチレン濃度に基づいて、処理炉10内へ導入されるアセチレン濃度を制御する制御部50と、を備えている。
【0018】
処理炉10は、炉内に被処理材であるワークWを収容して加熱すると共に、炉内の雰囲気ガスによって浸炭を行うためのものである。処理炉10は、炉内の雰囲気ガスが、ガス供給装置20からのガスの供給に伴って適宜に外部に排出されるように構成されており、処理中は炉内が常圧に維持されるようになっている。また、炉内には、複数のワークWを収容できるように、治具12が配置されている。ここで、常圧とは、意図的に加圧・減圧操作を行わない、大気圧程度の圧力を意味する。
【0019】
処理炉10には、炉内を加熱する加熱部11と、炉内の温度を測定する温度計14と、炉内の雰囲気ガスを撹拌するファン13と、炉内の圧力を測定する圧力計15と、が設けられている。
【0020】
ガス供給装置20は、複数種類のガスを複数の供給系統から処理炉10内に供給するものである。ガス供給装置20は、キャリアガスを供給する第1ガス供給部21と、アセチレンを供給する第2ガス供給部22と、キャリアガスとアセチレンの混合ガスを供給する第3ガス供給部23と、を備えている。また、ガス浸炭窒化処理を実施する場合にはアンモニアガス供給部(不図示)を追加することも可能である。
【0021】
第1ガス供給部21は、熱処理前の処理炉10内の雰囲気ガスをパージして、処理炉10内の雰囲気ガスをキャリアガス雰囲気に置換するためのものであり、キャリアガスを収容したガスボンベ等から構成されるキャリアガス供給源21aと、キャリアガスの流量を調整するための流量調整弁21bと、制御部50に制御されて開閉する電磁弁21cと、キャリアガスの流量を測定する流量計21dと、キャリアガス供給源21aと処理炉10を繋ぐ供給配管21eと、を備えている。キャリアガスは、処理炉10内の雰囲気のベースガスとなるものであり、大気中の酸素の混入を防止し、炉内が酸化性雰囲気とならないようするために供給するものである。キャリアガスとしては、窒素、アルゴン等の不活性ガス、好ましくは窒素を用いることができる。また、窒素にアセチレンを混合し、炉内酸化雰囲気の更なる低減を図ることもできる。
【0022】
第2ガス供給部22は、所定の流量で、処理炉10内にアセチレンを供給するためのものであり、アセチレンを収容したガスボンベ等から構成されるアセチレン供給源22aと、アセチレンの流量を調整するための流量調整弁22bと、制御部50に制御されて開閉する電磁弁22cと、アセチレンの流量を測定する流量計22dと、アセチレン供給源22aと処理炉10を繋ぐ供給配管22eと、を備えている。
【0023】
浸炭ガスにアセチレンを用いることで、その鋼との高い反応性により、プロパン等の鎖式飽和炭化水素を使用した場合よりも処理炉内の炭素濃度を短時間で上昇させることができるため、処理時間を短縮することが可能となる。また、その高い反応性により制御の応答性を高めることが可能となるだけでなく、同じ炭素数の鎖式飽和炭化水素よりも水素数が少ないことから処理炉内における水素分圧の上昇を抑えることができるため、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することも可能である。また、その高い反応性によって浸炭ムラを低減することができるため、より均一、且つ、高精度の浸炭を行うことが可能となる。また、プロパン等の鎖式飽和炭化水素に比べ、スーティングの発生が少ないという効果も得られる。
【0024】
アセチレンの純度は特に限定されるものではないが、処理炉内の雰囲気制御の精度および応答性の観点から、窒素以外の不純物(特に、酸素、水および炭化水素)が少ないことが好ましい。具体的には、アセチレンの純度は99%以上、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.9%以上である。
【0025】
第3ガス供給部23は、熱処理前の処理炉10内の雰囲気ガスをパージして、処理炉10内の雰囲気ガスをアセチレンの混合されたキャリアガス(以下「プレ混合ガス」という)雰囲気に置換するためのものであり、プレ混合ガスを収容したガスボンベ等から構成されるプレ混合ガス供給源23aと、プレ混合ガスの流量を調整するための流量調整弁23bと、制御部50に制御されて開閉する電磁弁23cと、プレ混合ガスの流量を測定する流量計23dと、プレ混合ガス供給源23aと処理炉10を繋ぐ供給配管23eと、を備えている。プレ混合ガスは、処理炉10内の雰囲気のベースガスとなるものであり、大気中の酸素の混入を防止し、炉内が酸化性雰囲気とならないようするために供給するものである。キャリアガスとしては、窒素、アルゴン等の不活性ガス、好ましくは窒素を用いることができる。第3ガス供給部23は、アセチレンと窒素の流量をその場で制御することは困難な場合や、アセチレンと窒素の必要な流量が予めわかっているような場合に用いることができるが、省略することもできる。
【0026】
排気部30は、処理炉10の排気口(不図示)に接続された排気用配管31と、制御部50に制御されて開閉する電磁弁32と、を備えている。
【0027】
イオン付着質量分析装置(以下、IAMSと略す場合もある)40は、排気部30の排気用配管31にバイパス接続されており、処理炉10からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出することができる。イオン付着質量分析装置40で検出された排出ガス中のアセチレン濃度のデータは、制御部50に送られる。ここで、イオン付着質量分析装置40とは、イオン付着質量分析法を用いた分析装置である。イオン付着質量分析法によれば、試料分子にLi+等のアルカリ金属イオンを付着させてイオン化し、質量分析を行う装置であり、フラグメントを発生させることなく、分子イオンピークを検出することができることが知られている。本発明者らは、イオン付着質量分析装置を用いることで、浸炭時の排出ガス中のアセチレンをオンラインで連続的に分析できることを見出したものである。従来、浸炭時の排出ガス中のアセチレンの分析を行う方法としては、排出ガスをサンプリングして、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析する方法が知られているが、オンラインで連続的に分析できる方法は知られていない。また、質量分析装置としては、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)が知られているが、GC/MSでは、ガスクロマトグラフで分離した成分を質量分析しており、検出対象分子をガスクロマトグラフで分離する必要がある。これに対し、イオン付着質量分析装置ではそのような分離操作が不要であり、より迅速に検出対象分子を分析することができる。そして、後述するように、浸炭時の排出ガス中のアセチレンをオンラインで連続的に分析できることで、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することが可能となる。
【0028】
イオン付着質量分析装置は公知である。例えば、特開2009-264949号公報に記載されているような、アルカリ金属イオンを測定分子に付着させて付着イオンを生成させる付着イオン生成部と、付着イオンの質量分析を行う質量分析部と、データ処理部と、を備えた装置を用いることができる。本発明では、付着イオン生成部に、処理炉からの排出ガスの一部を導入できるように構成することで、排出ガス中のアセチレン濃度の分析を可能としている。
【0029】
制御部50は、温度計14の信号出力に基づき、処理炉10内が所定の温度になるように加熱部11を制御する。また、制御部50は、ガス供給装置20の電磁弁21c~23cを制御して、炉内に必要なガスを供給する。さらに詳しくは、制御部50は、イオン付着質量分析装置40が検出した排出ガス中のアセチレン濃度に基づいて、処理炉10内のアセチレン濃度を算出するアセチレン濃度演算手段51と、処理炉10内のアセチレン濃度を予め設定した基準アセチレン濃度に一致するように、処理炉10内へのアセチレンの供給量を制御する、アセチレン供給量制御手段52と、を備えており、アセチレン供給量制御手段52は、電磁弁21c~23cの少なくとも1つを制御して、炉内に必要なガスを供給する。
【0030】
本実施の形態では、浸炭ガスにアセチレンを用いている。アセチレンは、処理炉内のワークの表面で以下の式に基づいて反応し、浸炭する。
C2H2 → 2C+H2 (式1)
【0031】
処理炉内の炭素濃度を直接測定することは困難である。そのため、従来から実施されている吸熱型変成ガスをキャリアガスとして浸炭する方法では、炉内ガスによる平衡反応からガスの組成を調整することで、炭素濃度を制御する方法が用いられている。本発明者らが行った、キャリガスに窒素を用い、浸炭ガスにアセチレンを用いる浸炭法では、雰囲気ガスの主たる成分は、アセチレン、水素および窒素である。しかしながら、処理炉内のアセチレンを連続的に検出できる分析手段は従来知られていなかった。そのため、これまでの経験値(処理量とアセチレン量)からアセチレンの炉内への送入量を求めたり、処理炉内の水素濃度を連続的に検出し、処理炉内の水素濃度が所定の水素濃度を超えないように、アセチレンの導入量を制御する方法が用いられていた。しかし、アセチレンの熱分解や浸炭反応により生成する水素は、処理炉内に微量に存在する酸素や水分と反応して消耗される可能性があることや、アセチレンの分解率はワークの表面積や使用する治具、さらには温度により変化することから、必ずしも、処理炉内の炭素濃度を推定するパラメータとしては、十分なものではなかった。また、本発明者らの知見によれば、処理炉からの排出ガスをサンプリングしてガスクロマトグラフィーで分析して、排出ガス中のアセチレンと水素の濃度の時系列データを測定したところ、アセチレンと水素の濃度プロファイルには大きなタイムラグが認められた。また、水素濃度の測定では、浸炭に寄与する炉内アセチレンの残存量が直接計測できない。そのため、ある時間で測定した水素濃度に基づいてアセチレンの導入量を制御しても、その導入量が最適ではない可能性もある。しかし、本発明によれば、炭素源となるアセチレンを直接オンラインで連続的に分析できるので、処理炉内の炭素濃度をより高精度に推定することが可能となる。処理炉内の炭素濃度に基づいて、アセチレンの供給量を調整することで、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することが可能となる。
【0032】
(ガス浸炭方法)
次に、本実施の形態に係るガス浸炭装置Aを用いた浸炭方法について説明する。本実施の形態に係る浸炭方法は、ワークを収容した処理炉を加熱した状態で、キャリアガスとアセチレンを処理炉内に供給する浸炭方法であって、処理炉に接続されたイオン付着質量分析装置により、処理炉からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出し、アセチレン濃度に基づいて、処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、ものであり、処理炉内を概ね常圧に維持した状態で、キャリアガスとアセチレンを処理炉内に供給する。
【0033】
図2は、ガス浸炭装置Aによる浸炭のタイムチャートの一例を示す図である。
図2中、「キャリアガス」とは、第1ガス供給部21から供給されるキャリアガスを示し、「アセチレン」とは、第2ガス供給部22から供給されるアセチレンを示す。
【0034】
制御部50は、第1ガス供給部21の電磁弁21cを開いて、処理炉10内に一定流量のキャリアガスを供給して、処理炉10内の雰囲気ガスをキャリアガスに置き換える。この時、処理炉10内に隣接して設けられた前室(不図示)内に予め収容されているワークWを、専用の搬送装置により処理炉10内に移送する。ワークWの移送の完了後、制御部50は、加熱装置11を制御して、予め設定された浸炭温度T1まで処理炉10内を昇温する。ここで、浸炭温度は、800℃~950℃である。また、真空浸炭では、400℃~1100℃である。
【0035】
処理炉10内の温度が浸炭温度T1となると、制御部50は、処理炉10内の温度を浸炭温度T1に維持するように、加熱装置11を制御する。そして、予め設定された第1の保持時間t1の経過後に、制御部50は、第2ガス供給部22の電磁弁22cを開いて、処理炉10内に一定流量のアセチレンを供給して、浸炭を開始する。アセチレンの供給は、予め設定された浸炭時間t2中に連続して、あるいは断続的に行うことができる。処理炉10内に連続して供給されたアセチレンは、ワークWや治具12と反応して消費される。アセチレンの炉内への供給量が少なければ、浸炭ムラにつながり、また供給量が多ければ、スーティングが発生し易くなる。制御部50のアセチレン濃度換算手段51は、イオン付着質量分析装置40が検出したアセチレン濃度から処理炉10内のアセチレン濃度を算出する。そして、アセチレン供給量制御手段52は、その算出した雰囲気ガス中のアセチレン濃度が予め設定された基準アセチレン濃度と一致するように電磁弁22c、および電磁弁21cを制御する。基準アセチレン濃度に満たない場合には、不足分を供給する電磁弁22cを開き、処理炉10内にアセチレンを供給し、炉内アセチレン濃度を高め、基準アセチレン濃度以上となれば、電磁弁22cおよび電磁弁21cの一方または両方を閉じる。
【0036】
例えば、制御部50は、浸炭時間t2中に排出ガス中のアセチレン濃度をモニターし、予め設定した基準アセチレン濃度に一致するように、処理炉10内へのアセチレンの供給量を制御する。具体的には、制御部50のアセチレン濃度演算手段51が、イオン付着質量分析装置40が検出したアセチレン濃度から処理炉10内のアセチレン濃度を算出する。そしてアセチレン供給量制御手段52は、その算出した雰囲気ガス中のアセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度と一致するように、電磁弁22cを制御する。例えば、算出した雰囲気ガス中のアセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度が低いと判断した場合には、電磁弁22cを開き、算出した雰囲気ガス中のアセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度より高いと判断した場合には、電磁弁22cを閉じる。また、電磁弁21cおよび22cをマスフローコントローラに変更してガス流量を制御することもできる。例えば、アセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度より低いと判断した場合には、21cのマスフローコントローラで流量を減らすことで相対的にアセチレン濃度を高めることもできるし、22cのマスフローコントローラで流量を増やすことでアセチレン濃度を高めることもできる。さらに、アセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度より高いと判断した場合には、21cのマスフローコントローラで流量を増やすことで相対的にアセチレン濃度を下げることもできるし、22cのマスフローコントローラで流量を絞ることでアセチレン濃度を下げることもできる。ここで、浸炭中の雰囲気ガス中のアセチレン濃度は、浸炭ムラおよびスーティングの発生を防止するという観点から、0.1~2.0体積%、好ましくは、0.1~1.0体積%である。
【0037】
ここで、基準アセチレン濃度とは、ワークに対して必要かつ十分な浸炭を行うのに要するアセチレン濃度であり、この必要な濃度は、これまで実施して得た実験データをもとに、浸炭ムラ、スーティング、および浸炭深さを考慮して、0.1~2.0体積%になるように決定する。その他に、ガス浸炭炉の密閉度も考慮に入れる必要があり、密閉度が低い浸炭炉ではアセチレンが消費し易いため、多くのアセチレンを供給する必要があるのに対し、密閉度が高い浸炭炉は、アセチレン供給量を減らしても、十分な浸炭深さを確保することができる。
【0038】
次に、アセチレンの供給をn回行った後、制御部50は、予め設定された拡散時間t3の間、キャリアガスのみを供給する状態で炉内を浸炭温度T1に保持する。この間、ワークW中に侵入した炭素が適宜に拡散し、所望の炭素濃度と厚み(深さ)の硬化層が形成される。
【0039】
拡散時間t3が経過後、制御部50は、加熱装置11を制御して予め設定された焼入保持温度まで炉内を降温する。そして、予め設定された焼入保持時間の間、炉内の温度を焼入保持温度に維持するように、加熱装置11を制御する。焼入保持時間の経過後、ワークWは搬送装置によって前室内に搬送され、前室内に設けられた油槽(不図示)内に油焼入時間の間浸漬される。これにより、焼入れが行われる。なお、油槽内は、予め設定された焼入温度に保持されている。
【0040】
以上の手順により、1ロットのワークWに対する浸炭が完了する。制御部50は、次のロットのワークWを処理する場合は、キャリアガスの供給および加熱装置11による加熱を継続し、上記手順を繰り返す。
【0041】
このように、排出ガス中のアセチレン濃度に基づいてアセチレンの供給量を調整するフィードバック制御を可能とすることで、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することができる。これにより、浸炭ムラおよびスーティングの発生を防止しつつ浸炭量を高精度に制御することが可能となる。
【0042】
また、
図3は、本実施形態に係るガス浸炭装置の構成の別の例を示す模式図である。ガス浸炭装置Bは、ワークWを収容する処理炉10と、処理炉10内にキャリアガスとアセチレンを供給するガス供給部20と、処理炉10内からガスを排出させる排気部30と、処理炉10からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出するイオン付着質量分析装置40と、イオン付着質量分析装置40が検出したアセチレン濃度に基づいて、処理炉10内へ導入されるアセチレン濃度を制御する制御部50と、を備えている。
【0043】
ガス浸炭装置Aでは、キャリアガスとアセチレンが、第1ガス供給部21と第2ガス供給部22によりそれぞれ別々に処理炉内に導入されるのに対し、ガス浸炭装置Bでは、浸炭ガスを処理炉に導入する前に、第1ガス供給部21から供給されるキャリアガスと第2ガス供給部22から供給されるアセチレンを混合し、その混合ガスを処理炉内に導入する点が相違する。第1ガス供給部21からのキャリアガスと第2ガス供給部22からのアセチレンは、処理炉に導入する前に、混合器25で混合され処理炉に導入される。これにより、キャリアガスとアセチレンをそれぞれ別々に処理炉内に導入する場合に比べて、処理炉内にアセチレンをより均一に拡散させることができる。混合ガスの組成は、第1ガス供給部21からキャリアガスの流量と第2ガス供給部22からのアセチレンの流量の比を変化させることで調整することができる。
【0044】
以下、ガス浸炭装置Bを用いた浸炭方法について説明する。
制御部50は、第1ガス供給部21の電磁弁21cを開いて処理炉10内に一定流量のキャリアガスを供給して、処理炉10内の雰囲気ガスをキャリアガスに置き換える。この時、処理炉10内に隣接して設けられた前室(不図示)内に予め収容されているワークWを、専用の搬送装置により処理炉10内に移送する。ワークWの移送の完了後、制御部50は、加熱装置11を制御して、予め設定された浸炭温度T1まで処理炉10内を昇温する。次に、均熱時間t1保持後制御部50は、第2ガス供給部22の電磁弁22cを開いて、一定流量のアセチレンを供給して混合器25でキャリアガスと混合させる。この混合ガスが処理炉10内に供給されることで、浸炭が開始される。制御部50は、浸炭時間中に排出ガス中のアセチレン濃度をモニターし、予め設定した基準アセチレン濃度に一致するように、処理炉10内へのアセチレンの供給量を制御する。具体的には、制御部50のアセチレン濃度演算手段51が、イオン付着質量分析装置40が検出したアセチレン濃度から処理炉10内のアセチレン濃度を算出する。そしてアセチレン供給量制御手段52は、第1ガス供給部21からのキャリアガスの供給量を一定に維持する一方で、その算出した雰囲気ガス中のアセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度と一致するように、第2ガス供給部22の電磁弁22cを制御する。例えば、制御部50が、算出した雰囲気ガス中のアセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度が低いと判断した場合には、混合ガス中のアセチレン濃度を増加させるように電磁弁22cを調整する。あるいは、制御部50が、算出した雰囲気ガス中のアセチレン濃度が予め設定した基準アセチレン濃度より高いと判断した場合には、混合ガス中のアセチレン濃度を減少させるように電磁弁22cを調整する。
【0045】
ガス浸炭装置Bを用いた場合でも、排出ガス中のアセチレン濃度に基づいてアセチレンの供給量を調整することで、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することができる。これにより、浸炭ムラおよびスーティングの発生を防止しつつ浸炭量を高精度に制御することが可能となる。
【0046】
実施の形態2
(真空浸炭装置)
本実施の形態は、真空浸炭装置に関するものである。以下、実施の形態1と実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0047】
図4は、本実施形態に係る真空浸炭装置Cの構成の一例を示す模式図である。真空浸炭装置Cは、ワークWを収容する処理炉10と、処理炉10内に窒素とアセチレンを供給するガス供給部20と、処理炉10内を真空排気する真空排気部60と、処理炉10からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出するイオン付着質量分析装置40と、イオン付着質量分析装置40が検出したアセチレン濃度に基づいて、処理炉10内へ導入されるアセチレン濃度を制御する制御部50と、を備えている。
【0048】
本実施の形態に係る真空浸炭装置Cは、排気部30に代えて真空排気部60を用いた以外は、ガス浸炭装置Aと実質的に同一の構成を有している。真空排気部60は、処理炉10の排気口(不図示)に接続された排気用配管31と、制御部50に制御されて開閉する電磁弁32と、処理炉10内を真空排気する真空ポンプを備えている。イオン付着質量分析装置40は、真空排気部60の排気用配管31にバイパス接続されており、処理炉10からの排出ガス中のアセチレン濃度を検出することができる。
【0049】
真空浸炭装置Cでは、真空排気部60により処理炉10内が、例えば1.0Pa以下に減圧され、浸炭工程では、減圧下でアセチレン単独あるいはアセチレンと窒素が炉内に供給されて、浸炭が行われる。本実施の形態に係る真空浸炭装置Bでも、炭素源となるアセチレンを直接オンラインで連続的に分析できるので、炉内に残存するアセチレン濃度(すなわち、排出ガス中のアセチレン濃度)から、処理炉内の炭素濃度をより高精度に推定することが可能となる。これにより、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することが可能となる。
【0050】
(真空浸炭方法)
実施の形態1におけるガス浸炭方法において、処理炉内の昇温に先立って、処理炉内を減圧することおよびキャリアガスを使用しないこと以外は、実施の形態1と同様の方法を用いて浸炭を行うことができる。すなわち、本実施の形態に係る浸炭方法は、ワークを収容した処理炉を加熱した状態で、浸炭工程において、減圧下でアセチレン単独あるいはアセチレンと窒素を処理炉内に供給する浸炭方法であって、処理炉に接続されたイオン付着質量分析装置により、処理炉からの排出ガス中の排出アセチレン濃度を検出し、排出アセチレン濃度に基づいて、処理炉内へのアセチレンの供給量を制御する、ものであり、処理炉内を減圧下に維持した状態で、アセチレンと窒素を処理炉内に供給する。排出ガス中のアセチレン濃度に基づいてアセチレンを断続的に供給することで、処理炉内の炭素濃度をより高精度に制御することができる。これにより、浸炭ムラおよびスーティングの発生を防止しつつ浸炭量を高精度に制御することが可能となる。
【実施例0051】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
(浸炭方法)
本実施例では、
図3のガス浸炭装置Bを使用し、
図2に示すタイムチャートに沿って浸炭を行った。テストピースには、SCM415材(φ20mm×50mm)を15個使用し、表面硬度HV650以上、有効効果深さ(HV550の位置)0.4mm以上を目標とした。第1ガス供給部21には液体窒素を用い、キャリアガスとして窒素を50L/minの流量で使用した。アセチレンは、5L/minの流量で供給した。まず、窒素のみを処理炉内に供給して炉内の雰囲気を窒素で置換した後、混合器でアセチレンを窒素に混合し、混合ガスを処理炉内に導入して、浸炭を開始した。
【0053】
浸炭温度T1は900℃に、焼入保持温度T2は850℃に設定した。浸炭前の第1の保持時間t1は20分に、浸炭時間t2は58分、拡散時間t3は80分に、また焼入保持時間は20分に設定した。拡散工程終了後、焼入保持温度850℃まで降温させ、焼入保持時間20分経過後、ワークWを搬送装置によって移送し、油槽内に油焼入時間の間浸漬した。焼入用の油槽の温度は、80℃に設定した。なお、焼入れ後のワークは洗浄した後、170℃で90分の焼戻しを実施した。
【0054】
図5は、炉内におけるテストピースの配置を示した図である。テストピースは、炉内有効処理寸法:幅600mm×奥行き900mm×高さ500mm、処理重量:最大400kg/lotの炉内に、治具を使用して複数配置した。
【0055】
焼入れ、焼戻し後のテストピースについて硬さ試験を実施すると共に、金属顕微鏡による組織観察を行った。硬さ試験は、荷重300gのマイクロビッカース硬度計で、表面から深さ1.2mmまでの硬さを測定した。
【0056】
(結果)
図6は、浸炭開始から30分経過後の排出ガスをIAMSで分析した結果を示すマススペクトルである。図中、m/z値が33付近に、アセチレンに帰属されるピークが認められた。
図7にアセチレン単体を用いて作成したアセチレンの検量線を示す。この検量線を用いて排出ガス中のアセチレン濃度を算出した。この検量線を用いて算出された排出ガス中のアセチレン濃度は、0.07体積%であった。
【0057】
また、
図8は、硬さ試験の結果を示したグラフであり、図中の番号はテストピースの配置位置を示している。評価したテストピースのいずれも、表面硬さがHV700以上となり、目標とする表面硬さを達成することができた。また、表面からの距離0.4mm
における硬さは、評価したいずれのテストピースもHV550以上となり、目標の有効硬化深さを達成することができた。
図9Aは、テストピース番号1の表面近傍における断面の金属顕微鏡写真である。また、
図9Bは、テストピース番号1の内部における断面の金属顕微鏡写真である。また、
図10Aは、テストピース番号8の表面近傍における断面の金属顕微鏡写真である。また、
図10Bは、テストピース番号8の内部における断面の金属顕微鏡写真である。また、
図11Aは、テストピース番号15の表面近傍における断面の金属顕微鏡写真である。また、
図11Bは、テストピース番号15の内部における断面の金属顕微鏡写真である。これらの図に示されるように、表面近傍および内部のいずれにおいても、良好な組織が得られていることが確認できた。
【0058】
本実施例によれば、処理炉に接続したIAMSを用いて、排出ガス中のアセチレン濃度が分析できることを確認した。そして、その排出ガス中のアセチレン濃度から炉内の雰囲気ガス中のアセチレン濃度を算出することが可能であることを示すことができた。これにより、排出ガス中のアセチレン濃度に基づいて、炉内に供給するアセチレンの濃度を調整するフィードバック制御が可能であることを確認できた。