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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153886
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/24 20060101AFI20221005BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20221005BHJP
   F01M 13/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F02F1/24 R
F02F7/00 L
F01M13/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056646
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】東郷 大秋
(72)【発明者】
【氏名】山崎 壮介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【テーマコード(参考)】
3G015
3G024
【Fターム(参考)】
3G015AA06
3G015AA07
3G015BD02
3G015BD10
3G015BD23
3G015BD28
3G015BE06
3G015BE13
3G015BE15
3G015BF07
3G015CA04
3G015CA05
3G015DA04
3G015DA11
3G015EA04
3G015EA11
3G024AA05
3G024AA72
3G024BA24
3G024DA01
3G024DA10
3G024DA17
3G024DA18
3G024EA01
3G024FA08
3G024FA13
3G024FA14
(57)【要約】
【課題】カム軸の軸受け部をシリンダヘッドとは別体に構成するにおいて、振動や騒音、シール性低下を防止し、かつ、PCVセパレータ通路を簡易に形成可能とする。
【解決手段】ヘッドカバー4の内部にカムハウジング17が配置されており、カムハウジング17に形成した上軸受け部20とこれに下方から重なったカム室部カムキャップ19とでカム軸15,16を回転自在に保持している。カムハウジング17とカム室部カムキャップ19とは、例えばカム軸15,16の間の部位が複数本のボルト23でシリンダヘッド2に共締めされている。ヘッドカバー4とカムハウジング17との間にPCVセパレータ通路42と新気通路43とが形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された吸気用及び排気用のカム軸が、それぞれ軸方向に離れた複数箇所において上軸受け部と下軸受け部とを介してシリンダヘッドに回転自在に保持されており、
前記シリンダヘッドは、周壁で囲われ上向きに開口してカム室底面を有し、前記カム軸を囲って動弁室を構成するヘッドカバーが、前記シリンダヘッドにおける周壁の上面に固定されている構成であって、
前記各上軸受け部は、前記ヘッドカバーの内部に収まる1つのカムハウジングに一体に形成されて、各上軸受け部に、前記下軸受け部を構成するカムキャップが下方から重なっており、
前記カムハウジングと各カムキャップとは、少なくとも複数箇所が前記カムハウジング及びカムキャップ貫通するボルトで前記シリンダヘッドに共締めされている、
エンジン。
【請求項2】
平行に配置された吸気用及び排気用のカム軸が、それぞれ軸方向に離れた複数箇所において上軸受け部と下軸受け部とを介してシリンダヘッドに回転自在に保持されており、
前記シリンダヘッドは周壁で囲われて上向きに開口してカム室底面を有し、前記カム軸を囲って動弁室を構成するヘッドカバーが、前記シリンダヘッドにおける周壁の上面に固定されている構成であって、
前記各上軸受け部は、前記ヘッドカバーの内部に収まる1つのカムハウジングに一体に形成されて、各上軸受け部に、前記下軸受け部を構成するカムキャップが下方から重なっており、前記カムハウジングと各カムキャップとは、少なくとも前記排気用カム軸と吸気用カム軸との間の部位においてボルトで前記シリンダヘッドに共締めされている一方、
前記ヘッドカバーの天板と前記カムハウジングの天板との間に、ブローバイガスから油分を捕集するPCVセパレータ通路と新気を機関内部に導入する新気通路のうち少なくとも一方が形成されている、
エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、カム軸を備えたエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンでは、吸気弁及び排気弁をカム軸で開閉駆動しており、カム軸は、カム部を挟んだ両側の部位が下軸受け部と上軸受け部とによってシリンダヘッドに回転自在に保持されている。
【0003】
カム軸の支持態様としては、下軸受け部をシリンダヘッドに一体に形成し、上軸受け部をカムキャップと成して、この上軸受け部を下軸受け部にボルトで固定することが多いが、下軸受け部をシリンダヘッドとは別部材で構成することも提案されている。
【0004】
その例として特許文献1には、シリンダヘッドのカム室に配置される軸受けケーシンジに各下軸受け部を一体に形成する一方、各上軸受け部をヘッドカバーに一体に形成し、上軸受け部のうち吸気用カム軸と排気用カム軸との間の部位はボルトでシリンダヘッドに共締めし、両カム軸を挟んだ外側の部位では、上軸受け部(ヘッドカバー)と下軸受け部(軸受けケーシング)とをボルトで締結することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2にも、シリンダヘッドとは別体に形成したロアカムキャリアに下軸受け部を一体に形成する一方、ヘッドカバーに、各上軸受け部を一体に形成することが開示されており、特許文献2では、ロアカムキャリアはシリンダヘッドの上面に重ねられており、ヘッドカバーの左右側部とロアカムキャリアの左右側部とがシリンダヘッドにボルトで共締めされている。
【0006】
他方、特許文献3には、各下軸受け部が一体に形成されたロアカムキャリアと、上軸受け部を構成する複数のアッパカムキャリアとでカム軸を回転自在に保持し、かつ、アッパカムキャリアをヘッドカバーで覆い、ヘッドカバーとロアカムキャリアとをシリンダヘッドの上面にボルトで共締めすることが開示されている。
【0007】
各特許文献のように、下軸受け部をシリンダヘッドとは別体に構成すると、シリンダヘッドの構造を簡単化して鋳造の精度や歩留りを向上できる利点がある。そして、いずれの特許文献でも、各下軸受け部を形成した軸受けケーシング又はロアカムキャリアはラダーフレーム構造になっているため、高い剛性を有していると共に組み付け精度にも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07-166956号公報
【特許文献2】特開2007-192104号公報
【特許文献3】特開2007-192105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
各特許文献は上記のような利点を有するが、特許文献1,2のように上軸受け部をヘッドカバーに一体に形成すると、膜振動を誘発して騒音や振動が増大することが懸念される。更に述べると、吸気バルブ及び排気バルブはばねによって上向きに付勢されているため、エンジンの運転によって上軸受け部に上向きの力が小刻みに作用するが、上軸受け部はヘッドカバーの天板に形成されているため、バルブの上昇による衝撃でヘッドカバーの天板を突き上げる状態になって、膜振動が発生しやすくなると懸念される。
【0010】
また、ヘッドカバーはシール材を介してシリンダヘッドに固定されるが、バルブの付勢力がシール性を低下させるように働く点も問題であった。この点について更に述べると、ヘッドカバーはシール材を圧縮させてボルトで固定されているため、シール材の弾性復元力がヘッドカバーをシリンダヘッドから離反させるように働いているが、特許文献1,2では、バルブの付勢力がシール材の弾性復元力を低下させるように作用するため、シール性の低下が懸念される。
【0011】
また、特許文献1,2では、ヘッドカバーの天板の弾性変形等によってカム軸が上下動する傾向を呈するため、カム軸の円滑な回転が阻害されることによるメカロスの増大や、VVT装置(可変バルブタイミング装置)との芯ズレによるメカロスの増大なども懸念される。
【0012】
更に、特許文献2,3のように、ヘッドカバーとロアカムキャリアとをシリンダヘッドにボルトで共締めすると、シリンダヘッドとロアカムキャリアとの重合面と、ヘッドカバーはロアカムキャリアとの重合面とにそれぞれシール材を配置してシールせねばならないため、シール性の低下が特に懸念される。また、ロアカムキャリアはシリンダヘッドと同じ幅になるため、重量増大による燃費悪化も懸念される。
【0013】
さて、レシプロエンジンではブローバイガス(PCVガス)がクランクケースに吹き抜ける現象がある。そこで、ブローバイガスを吸気系に還流させているが、ブローバイガスには油分が含まれているため、油分を除去する(捕集する)にオイルセパレータ室が必要であり、一般に、ヘッドカバーの内部にバッフルプレートを装着することにより、ヘッドカバーの天板とバッフルプレートとの間に形成された空間をPCVセパレータ通路(オイルセパレータ室)と成すことが多く、この場合、ヘッドカバーの天板とバッフルプレートとの間に、オイルの劣化を防止するための新気を取り込む新気導入通路を併設していることも多い。
【0014】
しかし、ヘッドカバーにバッフルプレートを取り付けると、それだけ部材点数が増えて構造が複雑化するという問題がある。
【0015】
本願発明は、このような現状を改善しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願は、請求項1,2で特定した2つの発明を含んでおり、両発明は、
「平行に配置された吸気用及び排気用のカム軸が、それぞれ軸方向に離れた複数箇所において上軸受け部と下軸受け部とを介してシリンダヘッドに回転自在に保持されており、
前記シリンダヘッドは周壁で囲われて上向きに開口してカム室底面を有し、前記カム軸を囲って動弁室を構成するヘッドカバーが、前記シリンダヘッドにおける周壁の上面に固定されている」
という基本構成になっている。
【0017】
そして、請求項1の発明では、上記基本構成において、
「前記各上軸受け部は、前記ヘッドカバーの内部に収まる1つのカムハウジングに一体に形成されて、各上軸受け部に、前記下軸受け部を構成するカムキャップが下方から重なっており、
前記カムハウジングと各カムキャップとは、少なくとも複数箇所が前記カムハウジング及びカムキャップ貫通するボルトで前記シリンダヘッドに共締めされている」
という構成になっている。
【0018】
他方、請求項2の発明は、上記基本構成において、
「前記各上軸受け部は、前記ヘッドカバーの内部に収まる1つのカムハウジングに一体に形成されて、各上軸受け部に、前記下軸受け部を構成するカムキャップが下方から重なっており、前記カムハウジングと各カムキャップとは、少なくとも前記排気用カム軸と吸気用カム軸との間の部位においてボルトで前記シリンダヘッドに共締めされている一方、
前記ヘッドカバーの天板と前記カムハウジングの天板との間に、ブローバイガスから油分を捕集するPCVセパレータ通路と新気を機関内部に導入する新気通路のうち少なくとも一方が形成されている」
という構成になっている。
【0019】
請求項2の発明において、カムキャップ(下軸受け部)のうちカム軸を挟んで外側に位置した部位は、カムハウジングと一緒にシリンダヘッドに共締めしてもよいし、共締めせずに、下方から挿通したボルトによってカムハウジングに固定してもよい。
【0020】
また、カムキャップの下端は、シリンダヘッドのカム室底面に当てることも可能ではあるが、シリンダヘッドのカム室底面に周壁と同じ高さのボス部を形成して、このボス部上面にカムキャップの下面を重ねると、ボス部と周壁とは、鋳造してからのフライス加工によって同一高さに正確に加工できるため、カム軸の取付け精度を優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本願両発明は、カムハウジングはヘッドカバーとは別体であるため、バルブの往復動に伴う衝撃がヘッドカバーに作用することはない。従って、膜振動やこれに起因した騒音の発生を防止できる。すなわち、静粛性に優れている。
【0022】
また、カムハウジングとカムキャップとはシリンダヘッドに固定されているため、バルブの往復動によってカム軸が上下動する傾向を呈することはない。従って、カム軸の円滑な回転を保持できると共にVVT装置との芯ズレなども発生せず、メカロスの増大は生じない。
【0023】
また、本願両発明とも、カムハウジングは、ヘッドカバーの内部に配置されて、シリンダヘッドのカム室の部位にカムキャップと一緒にボルトで共締めされているため、カムハウジングは特許文献2,3のロアカムキャリアに比べて小さくなっている。従って、カムハウジングを軽量化して燃費の改善に貢献できる。また、カムハウジングとシリンダヘッドとの間のシールは不要であるため、シール低下という問題はそもそも発生せず、高いシール性を確保できる。
【0024】
請求項2では、軸受け部材としてのカムハウジングを利用してPCVセパレータ通路又は新気導入通路を形成できるため、従来のバッフルプレートを不要にできる。従って、上記の効果に加えて、部材点数を抑制して構造を簡単化しつつ、PCVセパレータ通路又は新気導入通路を形成できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態の概略分離斜視図である。
図2】実施形態の平面図である。
図3図2のIII-III 視正面図である。
図4図2の IV-IV視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用ガソリンエンジンに適用している。本願では方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、前後方向はクランク軸線方向で、左右方向はクランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向である。
【0027】
前と後ろの区別については、タイミングチェーンが配置されている側を前、ミッションケースが配置されている側を後ろとしている。平面視はシリンダボア軸心方向から見た図であり、スラント型エンジンでは鉛直方向と一致しない場合もある。図1,2に、前後・左右の方向を明示している。
【0028】
(1).基本構造
エンジンは、図3に示すシリンダブロック1とその上面に固定されたシリンダヘッド2、シリンダブロック1及びシリンダヘッド2の前面に多数本のボルトで固定されたチェーンカバー(フロントカバー)3、シリンダヘッド2の上面に重ね固定されたヘッドカバー4を備えている。シリンダヘッド2とヘッドカバー4は図1,2,4で明示している。
【0029】
図1に明示するように、シリンダヘッド2は、左右の側壁5と、側壁5の前端に連続した前壁6と、側壁5の後端に連続した後ろ壁7とを有しており、これらの壁5~7で囲われた内部は、底面を有するカム室(凹所)8になっている。図1,2に示すように、シリンダヘッド2の吸気側面2aには、4対の吸気ポート9が開口している。従って、本実施形態のエンジンは4気筒である。
【0030】
図1,2に示すように、シリンダヘッド2における吸気側面2aのうち各吸気ポート9の上方部には、燃料噴射用インジェクタ(図示せず)を取り付けるためのインジェクタ挿入穴10が形成されている。図では、インジェクタ挿入穴10は視認しやすくするために筒状に描いているが、筒状に形成されていない場合もある。また、インジェクタ挿入穴10は実際よりも小さく描いている。
【0031】
なお、インジェクタを吸気マニホールド(図示せず)に取り付けて、霧化燃料を吸気マニホールドに噴射する方式もあるが、この場合は、シリンダヘッド2にはインジェクタ挿入穴10は形成されない。いずれにしても、本実施形態では、1つの気筒に対して前後一対の吸気ポート9が形成されて、個々の吸気ポート9に対応してインジェクタが配置されている。すなわち、2ポート・2インジェクタ方式である。
【0032】
なお、排気ガスは排気側面から排出されるが、気筒の排気ポートは1つに集合して1つの排気出口から排出されており、図4に排気集合通路11を表示している。図4に示す符号12は冷却水ジャケット、符号13はヘッドボルト挿通穴である。
【0033】
図3に示すように、シリンダヘッド2及びシリンダブロック1の前面にはチェーンカバー3が多数本のボルトで固定されているが、チェーンカバー3にはシリンダヘッド2の上方に突出した上支持部3aが形成されており、上支持部3aに、吸気バルブ用電動式VVT装置(可変バルブタイミング装置)の駆動部14がボルトで固定されている。チェーンカバー3の上支持部3aにヘッドカバー4の前端部4aが上から重なっているため、ヘッドカバー4は、図1に示すように前方に向けて開口している。
【0034】
(2).カム軸の支持構造
図3,4に示すように、シリンダヘッド2よりも高い位置に、吸気弁用カム軸15と排気弁用カム軸16とが配置されている。カム軸15,16は、1つのカムハウジング17と前後に並べて配置された複数のカムキャップ(下軸受け部)18,19とによって回転自在に保持されている。従って、カムハウジング17には、カム軸15,16の上半部に重なるよう下向き開口の半円穴を有する上軸受け部20が一体に形成されている。カムキャップ18,19には、上向きに開口した半円穴が形成されている。
【0035】
本実施形態は4気筒であるので、カム軸15,16は4つのカム部を有しており、各カム部を挟んだ前後両側の部位が上軸受け部20とカムキャップ18,19とによって回転自在に保持されている。上軸受け部20及びカムキャップ18,19は板状の形態を成しており、カムハウジング17は、各上軸受け部20が天板21から下向きに突設されたラダーフレーム構造になっている。そして、カムハウジング17は、その全体がヘッドカバー4の内部に収まっている。
【0036】
図1から理解できるように、各カムキャップ18,19のうち前端に位置したフロントカムキャップ18は、シリンダヘッド2の前壁6に上から重なっている一方、フロントカムキャップ18を除いたカム室部カムキャップ19は、両カム軸15,16の間に位置した2か所が、シリンダヘッド2のカム室8の底面に立設したボス部22に重なっている。
【0037】
図4に示すとおり、シリンダヘッド2の各ボス部22は、シリンダヘッド2における各壁5~7の上面と同一高さになっており、カムハウジング17と各カム室部カムキャップ19とは、両カム軸15,16の間の位置において、左右2本の中間部23でシリンダヘッド2のボス部21に共締めされている。カムハウジング17の天板21には、中間部ボルト23が貫通する筒状補強リブ24を形成している。
【0038】
カム室部カムキャップ19及びこれが重なった上軸受け部20は、シリンダヘッド2に固定されることなくボス部22の左右外側に張り出したオーバーハング部26,27を有しており、オーバーハング部26,27でカム軸15,16が挟まれている。また、基本的には、オーバーハング部26,27の左右端部が、カム室部カムキャップ19に下方から挿通した端部ボルト25によって一体に締結(固定)されている。
【0039】
また、カム室部カムキャップ19のオーバーハング部27の下面は肉盗みされて薄くなっており、かつ、カム室部カムキャップ19のうち左右の中間部ボルト23の間の部位も肉盗みされている。従って、カム室部カムキャップ19は、左右2本の足部19aがシリンダヘッド2のボス部22に固定されている。
【0040】
上軸受け部20とカム室部カムキャップ19とのオーバーハング部26,27は下方から挿通した端部ボルト25によって一体に締結されているのが基本態様であるが、最も前に位置したカム室部カムキャップ19については、吸気側のオーバーハング部27の端部はシリンダヘッド2の上面に重なっており、オーバーハング部26,27の外端部に、上下に開口した上部PCV導入通路28を空けている。これと整合させるため、シリンダヘッド2のうち最も前に位置したカム室部カムキャップ19が重なった部位には、上部PCV導入通路27に連通した下部PCV導入通路29が空けられている。
【0041】
下部PCV導入通路29は、シリンダブロック1に形成された通路(図示せず)を介してクランク室に開口しており、クランク室に吹き抜けたブローバイガスは、PCV導入通路28,29を通ってカムハウジング17の上方に噴出する。図2に示すように、上部PCV導入通路27(及び下部PCV導入通路29)は、ボア間部(隣り合った気筒の間の部位)の外側に位置している。
【0042】
フロントカムキャップ18は、カムハウジング17における前端の上軸受け部20と一緒に、ボルト(図示せず)によってシリンダヘッド2の前壁6に固定されている。従って、カムハウジング17の前端部とフロントカムキャップ18とには4つのボルト挿通穴29が形成されて、シリンダヘッド2の前壁6には4つの雌ねじ穴30が形成されている。
【0043】
最も前のカム室部カムキャップ19の吸気側端部がシリンダヘッド2の側壁5に重なっているため、図1に示すように、この部位では、シリンダヘッド2とヘッドカバー4とは外側に膨れている。
【0044】
(3).ヘッドカバーとこれに関連した構造
ヘッドカバー4は、左右の側壁31とこれが繋がった左右の天板32と、これらの後端に繋がった後ろ壁(図示せず)とを備えており、これら側壁31と後ろ壁とはシリンダヘッド2の上面に重なっている。そして、側壁31の下端に外向きのフランジ33を突設し、フランジ33をボルト34によってシリンダヘッド2の上面に固定している。
【0045】
図4に示すように、ヘッドカバー4における周壁の下端面には、その全長に亙って延びる長溝35を形成し、長溝35にシール材36を配置している。シール材36は、Oリング等の嵌め込みタイプでもよいし、ディスペンサを使用して塗布される液状タイプであってもよい。長溝35及びシール材36は、ヘッドカバー4の前端部4の内面にも設けられている。従って、ヘッドカバー4の全周に設けられている。
【0046】
図1に明示するように、ヘッドカバー4の天板32のうち、前端部4aを除いた部分には上向きに開口した長溝37が形成されており、長溝37の箇所に、点火プラグ用イグニッション装置を嵌め入れるためのイグニッションホール用筒部38が形成されている。また、カムハウジング17とシリンダヘッド2にも、イグニッションホール39が形成されている。
【0047】
図4に明示するように、ヘッドカバー4の天板32は、長溝37を挟んだ左右両側の部分が前後方向に長い下向き樋状部40,41になっており、吸気側の下向き樋状部41とカムハウジング17との間にPCVセパレータ通路(オイルセパレータ通路)42を形成し、排気側の下向き樋状部41とカムハウジング17との間に新気通路43を形成している。
【0048】
図4に示すように、ヘッドカバー4の下向き樋状部40,41には、カムハウジング17における天板21の上面に当接する仕切リブ44を形成し、カムハウジング17における天板21に形成した長溝にシール材45を充填している。このシール材45も、Oリング等の嵌め込みタイプでもよいし液状の塗布タイプでもよい。なお、図4では、カムハウジング17及びカム室部カムキャップ19がヘッドカバー4の側壁31に重なっているが、実際には、両者の間には僅かの隙間が空いている。
【0049】
図2に示すように、仕切リブ44は、下向き樋状部40,41の前端と後端にも形成されている。従って、仕切リブ44はループ形状を成しており、シール材45を介してカムハウジング17と重なっている。従って、ブローバイガスや新気がヘッドカバー4とカムハウジング17との境界から漏洩することはない。図示は省略しているが、カムハウジング17の天板21のうちPCVセパレータ通路42に対応した部位には、捕集されたオイルを動弁室に流下させるオイル落とし穴が形成されている。
【0050】
PCVセパレータ通路42の前端部は既述の上部PCV導入通路28に連通しており、ブローバイガスは上部PCV導入通路28からPCVセパレータ通路42に流入して、後方に向けて流れる。PCVセパレータ通路42の後端部には上向きに開口した排出口46が形成されており、排出口46にPCVバルブ(図示せず)が装着されている。エンジンの吸気系が負圧になるとPCVバルブが開いて、ブローバイガスが吸気系(例えば吸気マニホールド)に還流する。
【0051】
図2,4に示すように、PCVセパレータ通路42には、オイルミストを捕集するための邪魔板47を前後方向に並べて配置している。図4に示す邪魔板47はヘッドカバー4から下向きに突設しているが、このようにヘッドカバー4に下向き突設したものと、カムハウジング17の天板21に上向き突設したものとを交互に配置するのが好ましい。この場合は、ブローバイガスは上下に蛇行して流れるが、邪魔板47を左右方向に交互にずらして、ブローバイガスを左右に蛇行させることも可能である。或いは、上下方向の蛇行と左右方向の蛇行とを組み合わせることも可能である。
【0052】
図2に示すように、新気通路43の後端部には新気導入口48が上向きに突設され、新気通路43の前端部には新気排出口49が下向きに開口している。従って、新気導入口48はヘッドカバー4の天板32に設けて、新気排出口48はカムハウジング17の天板21に空けている。
【0053】
(4).まとめ
以上の構成において、カムハウジング17はヘッドカバー4とは別体であるため、エンジンの運転中にバルブの衝撃力がヘッドカバー4に作用することはない。従って、バルブの動きに起因してヘッドカバー4が膜振動したり騒音を発生させたりすることはなく、静粛性に優れている。本実施形態では、カムハウジング17はシール材45を介してヘッドカバー4で下向きに押されているが、カムハウジング17に作用した上向きの力はシール材45で吸収されるため、ヘッドカバー4が膜振動することはない。
【0054】
また、カムハウジング17はその全体がヘッドカバー4の内部に隠れており、シリンダヘッド2に取り付けるに当たってシール性を考慮する必要はないため、カムハウジング17を設けたことによるシール性の低下の問題は全く発生しない。むしろ、ヘッドカバー4に複雑な加工を施す必要がないため、ヘッドカバー4とシリンダヘッド2との間で高いシール性を確保できる利点がある。
【0055】
カム室部カムキャップ19は、左右両端部もシリンダヘッド2に共締めすることが可能であるが、実施形態のように、カム軸15,16の挟持部をオーバーハング部27に形成して、左右端部を下方から端部ボルト25でカムハウジング17の上軸受け部20に固定すると、カム室部カムキャップ19及びシリンダヘッド2を軽量化して燃費向上に貢献できる利点や、各カム室部カムキャップ19とカムハウジング17とカム軸15,16とを予めユニット化できるため、組み付けの手間を軽減できる利点がある。
【0056】
更に、本実施形態では、各カム室部カムキャップ19は左右の中間部ボルト23の間でも肉盗みされているため、軽量化を更に促進できる。カムハウジング17の上軸受け部20のうち、左右中間部ボルト23の間の部位を肉盗みすることも可能である。
【0057】
また、PCVセパレータ通路42は、ヘッドカバー4とカムハウジング17とで囲われた部位に形成されているため、バッフルプレートは不要であり、それだけ構造を簡素化してコストを抑制できる。また、ブローバイガスはヘッドカバー4に形成した上部PCV導入通路28から流入するため、動弁室に浮遊しているオイルミストがブローバイガスに混入することは皆無であり、従って、ブローバイガスのクリーン化を促進できる。
【0058】
さて、上部PCV導入通路28はシリンダヘッド2にも形成されるが、ある程度の断面積が必要である。この点、2つの吸気ポート9に対して燃料噴射インジェクタが1本だけ配置されている場合は、インジェクタは一対の吸気ポート9の間に位置しているため、シリンダヘッド2のボア間の側方に、カム室部カムキャップ19の吸気側端部を固定するためのボルトが螺合する雌ねじ穴と、上部PCV導入通路28とを前後に並べて形成できる。
【0059】
しかし、一対の吸気ポート9に対応してインジェクタが一対あると、インジェクタ挿入穴10が隣り合った吸気ポート対の間の部位に入り込むため、カム室部カムキャップ19のための雌ねじ穴と上部PCV導入通路28とを前後に並べて形成できず、従って、カム室部カムキャップ19の吸気側端部をボルトでシリンダヘッド2に固定すると、上部PCV導入通路28を形成できなくなる。
【0060】
これに対して本実施形態では、カム室部カムキャップ19の吸気側端部はボルトで固定せずに、ボルト挿通穴となるべき部位に上部PCV導入通路28を形成しているため、2ポート・2インジェクタ方式のエンジンであっても、ヘッドカバー4を介してブローバイガスを取り込むことができる。
【0061】
そして、上部PCV導入通路28の箇所において、カム室部カムキャップ19の吸気側端部はカムハウジング17の上軸受け部20とシリンダヘッド2とに挟まれているが、カムハウジング17は剛性が高いため、カム軸15,16の間に位置した2本の中間部ボルト23による押圧力がPCVセパレータ通路42の箇所にも波及しており、従って、吸気用カム軸15を安定的に保持できる。また、カムハウジング17が、シール材45を介してヘッドカバー4で押さえられていることによっても、吸気用カム軸15を安定的に保持できる。
【0062】
なお、図4に一点鎖線で示すように、ヘッドカバー4及びシリンダヘッド2に、上部PCV導入通路28の外側に張り出したフランジ50を形成して、上部PCV導入通路28の外側においてもボルト34でヘッドカバー4をシリンダヘッド2に固定することは可能である。この場合は、シール材45を介してカムハウジング17とカム室部カムキャップ19とがシリンダヘッド2に押されるため、吸気用カム軸15の安定性は更に向上する。
【0063】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、カムハウジングの上面を構成する天板には、PCVセパレータ通路や新気通路42を除いて逃がし穴を空けることも可能である。ブローバイガスは、動弁室からPCVセパレータ通路に導入してもよい。
【0064】
実施形態では、2本の中間部ボルト23を共締め用ボルトに成したが、4本(PCV通路設けている箇所では3本)のボルト23,25のうち、少なくとも2本を共締めボルトと成したらよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本願発明は、カム軸を備えたエンジンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0066】
2 シリンダヘッド
3 チェーンカバー
4 ヘッドカバー
5 シリンダヘッドの側壁
6 シリンダヘッドの前壁
8 シリンダヘッドのカム室
9 吸気ポート
10 インジェクタ挿通穴
15 吸気用カム軸
16 排気用カム軸
17 カムハウジング
18 フロントカムキャップ
19 カム室部カムキャップ
20 上軸受け部
21 カムハウジングの天板
23 中間部ボルト(共締めボルト)
25 端部ボルト
28 上部PCV導入通路
31 ヘッドカバーの側壁
32 ヘッドカバーの天板
36 ヘッドカバーとシリンダヘッドとの間のシール材
42 PCVセパレータ通路
43 新気通路
45 ヘッドカバーとカムハウジングとの間のシール材
図1
図2
図3
図4