IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エンジン 図1
  • 特開-エンジン 図2
  • 特開-エンジン 図3
  • 特開-エンジン 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153887
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/24 20060101AFI20221005BHJP
   F01M 13/04 20060101ALI20221005BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F02F1/24 R
F01M13/04 E
F02F7/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056648
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】東郷 大秋
(72)【発明者】
【氏名】山崎 壮介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【テーマコード(参考)】
3G015
3G024
【Fターム(参考)】
3G015AA06
3G015AA07
3G015BD02
3G015BD10
3G015BD23
3G015BD28
3G015BE06
3G015BE13
3G015BE15
3G015BF07
3G015CA04
3G015CA05
3G015DA04
3G015DA11
3G015EA04
3G015EA11
3G024AA05
3G024AA72
3G024BA24
3G024DA01
3G024DA10
3G024DA17
3G024DA18
3G024EA01
3G024FA08
3G024FA13
3G024FA14
(57)【要約】
【課題】カム軸の軸受け部をシリンダヘッドとは別部材で構成するにおいて、振動や騒音、シール性低下を防止しつつ、PCVオイルセパレータ通路を簡易に形成可能とする。
【解決手段】ヘッドカバー4の内部にカムハウジング17が配置されており、カムハウジング17に形成した上軸受け部20とこれに下方から重なったカムキャップ19とでカム軸15,16を回転自在に保持している。カムハウジング17とカムキャップ19とは、カム軸15,16の間の部位が中間部ボルト23でシリンダヘッド2に共締めされている。ヘッドカバー4とカムハウジング17との間にPCVオイルセパレータ通路42と新気通路43とが形成されている。1つのカムキャップ19とこれに重なった上軸受け部20との吸気側端部はシリンダヘッド1の内向き部に重なっており、これらとシリンダヘッド1とに、ブローバイガスを導入するPCV中間通路28,29が形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された吸気用及び排気用のカム軸が、それぞれ軸方向に離れた複数箇所において上軸受け部と下軸受け部とを介してシリンダヘッドに回転自在に保持されており、
前記シリンダヘッドは、周壁で囲われ上向きに開口してカム室底面を有し、前記カム軸を囲って動弁室を構成するヘッドカバーが、前記シリンダヘッドの周壁に重ね固定されている一方、
前記上軸受け部の群は、前記ヘッドカバーの内部に配置されたカムハウジングの下面に一体に形成されて、前記上軸受け部とカムキャップとの対が前記シリンダヘッドのカム室にボルトで共締めされている構成であって、
前記カムハウジングとヘッドカバーとによってPCVオイルセパレータ通路が形成されている一方、
重なり合った一対のカムキャップと上軸受け部との吸気側端部が前記シリンダヘッドの側壁に上から重なって、前記一対のカムキャップと上軸受け部との吸気側端部には、共締めのためのボルト挿通穴でなくて前記PCVオイルセパレータ通路に連通した第1PCV中間通路が上下に貫通した状態に形成されており、かつ、前記シリンダヘッドには、前記PCV中間通路に連通した第2PCV中間通路が形成されている、
エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ヘッドカバーにPCVオイルセパレータ通路を設けたエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンではブローバイガス(PCVガス)がクランクケースに吹き抜ける現象がある。そこで、ブローバイガスを吸気系に還流させているが、ブローバイガスには油分が含まれているため、油分を除去する(捕集する)オイルセパレータが必要である。そこで、オイルセパレータについて様々な提案が成されている。
【0003】
その例として特許文献1には、シリンダヘッドに、シリンダブロックに設けた通路と連通したブローバイガス通路を形成して、ブローバイガス通路の上端に拡張室を形成し、拡張室でオイルミストを捕集することが開示されている。特許文献1において、拡張室には油分が分離されたブローバイガスを吸気系に送るパイプが接続されている。
【0004】
他方、特許文献2には、ヘッドカバーにオイルセパレータ通路を形成すると共に、シリンダブロック及びシリンダヘッドにブローバイガス通路を内蔵し、シリンダヘッドのブローバイガス通路とヘッドカバーの側部に設けたブローバイガス通路とを連通させた技術が開示されている。
【0005】
ブローバイガスのオイル捕集手段としては、ヘッドカバーの内部にバッフルプレートを配置することによってPCVオイルセパレータ通路を形成し、動弁室に立ち昇ったブローバイガスをPCVオイルセパレータ通路に導くことも行われているが、この場合は、動弁室に充満したオイルミストがブローバイガスに混入してPCVオイルセパレータ通路に流入しやすいという問題がある。これに対して特許文献1,2の技術では、動弁室のオイルミストがブローバイガスに混入することはないため、オイルの消費を抑制できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-250159号公報
【特許文献2】特開2018-084143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2は上記の利点を有するが、まだ改良の余地があると云える。例えば特許文献1についてみると、オイルセパレータ室はある程度の容積が必要でるため、シリンダヘッドに形成すると、シリンダヘッドが大型化することが懸念される。
【0008】
他方、特許文献2では、シリンダブロック及びシリンダヘッドのブローバイガス通路は、シリンダブロック及びシリンダヘッドに設けた外向き膨出部に形成しているため、特許文献2においても、シリンダブロック及びシリンダヘッドが大型化することが懸念される。また、シリンダヘッドに外向き膨出部を形成すると、外向き膨出部は全高に亙って形成せねばならないため、吸気ポートが開口している部位には形成できず、このため設計の自由性が低いという問題もある。
【0009】
さて、シリンダヘッドにブローバイガス通路を形成する場合、シリンダヘッドの排気側は高温になるため、熱害を防止するためにはブローバイガス通路は吸気側に形成されるが、吸気側の部位には吸気ポートや燃料噴射インジェクタなど設けられているため、ブローバイガス通路はこれらと干渉しないように形成する必要がある。
【0010】
本願発明はこのような現状を契機に成されたものであり、構造の複雑化やシリンダヘッドの大型化を招来することもなくてブローバイガスから油分を分離する効果にも優れたエンジンを提供せんすとるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願のエンジンは、
「平行に配置された吸気用及び排気用のカム軸が、それぞれ軸方向に離れた複数箇所において上軸受け部と下軸受け部とを介してシリンダヘッドに回転自在に保持されており、
前記シリンダヘッドは、周壁で囲われ上向きに開口してカム室底面を有し、前記カム軸を囲って動弁室を構成するヘッドカバーが、前記シリンダヘッドの周壁に重ね固定されている一方、
前記上軸受け部の群は、前記ヘッドカバーの内部に配置されたカムハウジングの下面に一体に形成されて、前記上軸受け部とカムキャップとの対が前記シリンダヘッドのカム室にボルトで共締めされている」
という基本構成である。
【0012】
そして、上記基本構成に加えて、
「前記カムハウジングとヘッドカバーとによってPCVオイルセパレータ通路が形成されている一方、
重なり合った一対のカムキャップと上軸受け部との吸気側端部が前記シリンダヘッドの側壁に上から重なって、前記一対のカムキャップと上軸受け部との吸気側端部には、共締めのためのボルト挿通穴でなくて前記PCVオイルセパレータ通路に連通した第1PCV中間通路が上下に貫通した状態に形成されており、かつ、前記シリンダヘッドには、前記PCV中間通路に連通した第2PCV中間通路が形成されている」
という構成を備えている。
【0013】
本願発明において、カムキャップの下端は、シリンダヘッドのカム室底面に当てることも可能ではあるが、シリンダヘッドのカム室底面に周壁と同じ高さのボス部を形成して、このボス部上面にカムキャップの下面を重ねると、ボス部と周壁とは、鋳造してからのフライス加工によって同一高さに正確に加工できるため、カム軸の取付け精度を優れたものとすることができる。
【0014】
また、カムキャップ(下軸受け部)のうち排気側端部は、カムハウジングと一緒にシリンダヘッドに共締めしてもよいし、共締めせずに、下方から挿通したボルトによってカムハウジングの上軸受け部に固定してもよい。更に、第1PCV中間通路が形成されていないカムキャップの吸気側端部についても、カムハウジングと一緒にシリンダヘッドにボルトで共締めしてもよいし、下方から挿通したボルトによって、カムハウジングの上軸受け部に固定してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本願発明では、カム軸の軸受け部はシリンダヘッドとは別体になっているため、シリンダヘッドの構造を単純化して、寸法精度や鋳造の歩留りを向上できる。そして、カムハウジングはヘッドカバーとは別体であるため、バルブの往復動に伴う衝撃がヘッドカバーに作用することはない。従って、膜振動やこれに起因した騒音の発生を防止できる。すなわち、静粛性に優れている。
【0016】
また、カムハウジングとカムキャップとはシリンダヘッドに固定されているため、バルブの往復動によってカム軸が上下動する傾向を呈することはない。従って、カム軸の円滑な回転を保持できると共にVVT装置との芯ズレなども発生せず、メカロスの増大は生じない。
【0017】
また、カムハウジングは、ヘッドカバーの内部に配置されてシリンダヘッドのカム室の部位にカムキャップと一緒に共締めされているため、ヘッドカバーは、シール材を介在させてシリンダヘッドに直接重なる。従って、カムハウジングを設けたことに起因してシール性が低下することはない。
【0018】
このように、カムハウジングとカムキャップとは特有の効果を発揮するが、軸受け機能を有するカムハウジングがPCVオイルセパレータ通路を形成する部材を兼用しているため、PCVオイルセパレータ通路を形成するためのバッフルプレートは不要であり、それだけ構造を簡単化できる。
【0019】
更に、カムキャップは、シリンダヘッドの側壁よりも内側に配置されるものであり、このカムキャップを利用して第1PCV中間通路を形成しているため、特許文献2に比べて第1PCV中間通路の位置は内側に寄っている。従って、シリンダヘッドには、第2PCV中間通路を形成するために外向きの膨らみ部を全高に亙って設ける必要はない。よって、シリンダヘッドの大型化を防止できる。
【0020】
また、第1PCV中間通路及び第2PCV中間通路はヘッドカバーの内側に位置しているため、シリンダヘッドの第2PCV中間通路は、吸気マニホールドが重なっている部位にも形成可能であり、このため、設計の自由性を向上できる。
【0021】
さて、燃料はインジェクタによって霧化し吸気ポート等に噴射しているが、シリンダヘッドに第2PCV中間通路を形成する場合、インジェクタとの干渉を回避する必要がある。この場合、第2PCV中間通路はある程度の断面積が必要である。
【0022】
他方、吸気ポートとインジェクタとの関係を見ると、2つの吸気ポートに対してインジェクタが1本だけ配置されている2ポート・1インジェクタの方式と、個々の吸気ポートに対応してインジェクタを設けた2ポート・2インジェクタの方式とがある。
【0023】
そして、2ポート・1インジェクタの方式の場合は、インジェクタは一対の吸気ポートの間に位置しているため、隣り合った吸気ポート対の間に、カムキャップの吸気側端部を固定するためのボルトが螺合する雌ねじ穴と、第2PCV中間通路とを前後に(クランク軸線方向に)並べて形成できる。
【0024】
しかし、2ポート・2インジェクタの方式では、インジェクタ挿入穴が隣り合った吸気ポート対の間の部位に入り込むため、カムキャップのための雌ねじ穴と第2PCV中間通路とを前後に並べて形成できず、従って、カムキャップの吸気側端部をボルトでシリンダヘッドに固定すると、シリンダヘッドに第2PCV中間通路を形成できなくなる。
【0025】
これに対して本願発明では、カムキャップの吸気側端部はボルトで固定せずに、ボルト挿通穴となるべき部位に第2PCV中間通路を形成しているため、2ポート・2インジェクタ方式のエンジンであっても、隣り合った吸気ポート対の間の部位からブローバイガスを取り込むことができる。従って、シリンダヘッドを有効利用してブローバイガスを取り込むことができる。
【0026】
そして、1つのカムキャップと上軸受け部との吸気側端部はボルトで固定されていないが、カムハウジングは剛性が高いため、カム軸の間に位置したボルトによる押圧力がPCVオイルセパレータ通路の箇所にも波及しており、従って、吸気用カム軸を安定的に保持できる。すなわち、カム軸の保持安定性を損なうことなく、PCV通路を上軸受け部とカムキャップとシリンダヘッドとに形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態の概略分離斜視図である。
図2】実施形態の平面図である。
図3図2のIII-III 視正面図である。
図4図2の IV-IV視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用ガソリンエンジンに適用している。本願では方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、前後方向はクランク軸線方向で、左右方向はクランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向である。
【0029】
前と後ろの区別については、タイミングチェーンが配置されている側を前、ミッションケースが配置されている側を後ろとしている。平面視はシリンダボア軸心方向からみた図であり、スラント型エンジンでは鉛直方向と一致しない場合もある。図1,2に、前後・左右の方向を明示している。
【0030】
(1).基本構造
エンジンは、図3に示すシリンダブロック1とその上面に固定されたシリンダヘッド2、シリンダブロック1及びシリンダヘッド2の前面に多数本のボルトで固定されたチェーンカバー(フロントカバー)3、シリンダヘッド2の上面に重ね固定されたヘッドカバー4を備えている。シリンダヘッド2とヘッドカバー4は図1,2,4で明示している。
【0031】
図1に明示するように、シリンダヘッド2は、左右の側壁5と、側壁5の前端に連続した前壁6と、側壁5の後端に連続した後ろ壁7とを有しており、これらの壁5~7で囲われた内部はカム室底面を有するカム室(凹所)8になっている。図1,2に示すように、シリンダヘッド2の吸気側面2aには、4対の吸気ポート9が開口している。従って、本実施形態のエンジンは4気筒である。
【0032】
図1,2に示すように、シリンダヘッド2における吸気側面2aのうち各吸気ポート9の上方部には、燃料噴射用インジェクタ(図示せず)を取り付けるためのインジェクタ挿入穴10が形成されている。図では、インジェクタ挿入穴10は視認しやすくするために筒状に描いているが、筒状に形成されていない場合もある。また、インジェクタ挿入穴10は実際よりも小さく描いている。
【0033】
なお、インジェクタを吸気マニホールド(図示せず)に取り付けて、霧化燃料を吸気マニホールドに噴射する方式もあるが、この場合は、シリンダヘッド2にはインジェクタ挿入穴10は形成されない。いずれにしても、本実施形態では、1つの気筒に対して前後一対の吸気ポート9が形成されて、個々の吸気ポート9に対応してインジェクタが配置されている。すなわち、2ポート・2インジェクタ方式である。
【0034】
なお、排気ガスは排気側面から排出されるが、気筒の排気ポートは1つに集合して1つの排気出口から排出されるようになっており、図4に排気集合通路11を表示している。図4に示す符号12は冷却水ジャケット、符号13はヘッドボルト挿通穴である。
【0035】
図3に示すように、シリンダヘッド2及びシリンダブロック1の前面にはチェーンカバー3が多数本のボルトで固定されているが、チェーンカバー3にはシリンダヘッド2の上方に突出した上支持部3aが形成されており、上支持部3aに電動式VVT装置(可変バルブタイミング装置)のモータ部14がボルトで固定されている。チェーンカバー3の上支持部3aにヘッドカバー4の前端部4aが上から重なっているため、ヘッドカバー4は、図1に示すように前方に向けて開口している。
【0036】
(2).カム軸の支持構造
図3,4に示すように、シリンダヘッド2よりも高い位置に、吸気弁用カム軸15と排気弁用カム軸16とが配置されている。カム軸15,16は、1つのカムハウジング17と前後に並べて配置された複数のカムキャップ(下軸受け部)18,19とによって回転自在に保持されている。従って、カムハウジング17には、カム軸15,16の上半部に重なるよう下向き開口の半円穴を有する上軸受け部20が一体に形成されている。カムキャップ18,19には、上向き開口の半円穴が形成されている。
【0037】
本実施形態は4気筒であるので、カム軸15,16は4つのカム部を有しており、各カム部を挟んだ前後両側の部位が上軸受け部20とカムキャップ18,19とによって回転自在に保持されている。上軸受け部20及びカムキャップ18,19は板状の形態を成しており、カムハウジング17は、各上軸受け部20が天板21から下向きに突設されたラダーフレーム構造になっている。そして、カムハウジング17は、その全体がヘッドカバー4の内部に収まっている。
【0038】
図1から理解できるように、各カムキャップ18,19のうち前端に位置したフロントカムキャップ18は、シリンダヘッド2の前壁6に上から重なっている一方、フロントカムキャップ18を除いたカム室部カムキャップ19は、両カム軸15,16の間に位置した2か所が、シリンダヘッド2におけるカム室8の底面に立設したボス部22に重なっている。
【0039】
図4に示すとおり、シリンダヘッド2の各ボス部22は、シリンダヘッド2における各壁5~7の上面と同一高さになっており、カムハウジング17と各カム室部カムキャップ19とは、両カム軸15,16の間の位置において、左右2本の中間部ボルト23でシリンダヘッド2のボス部21に共締めされている。カムハウジング17の天板21には、中間部ボルト23が貫通する筒状補強リブ24を形成している。
【0040】
カム室部カムキャップ19及びこれが重なった上軸受け部20は、シリンダヘッド2に固定されることなくボス部22の左右外側に張り出したオーバーハング部26,27を有しており、オーバーハング部26,27でカム軸15,16が挟まれている。また、基本的には、オーバーハング部26,27の左右端部が、カム室部カムキャップ19に下方から挿通した端部ボルト25によって一体に締結(固定)されている。
【0041】
また、カム室部カムキャップ19のオーバーハング部27の下面は肉盗みされて薄くなっており、かつ、カム室部カムキャップ19のうち左右のボルト23の間の部位も肉盗みされている。従って、カム室部カムキャップ19は、左右2本の足部19aがシリンダヘッド2のボス部22に固定されている。
【0042】
上軸受け部20とカム室部カムキャップ19とのオーバーハング部26,27は下方から挿通した端部ボルト25によって一体に締結されているのが基本態様であるが、最も前に位置したカム室部カムキャップ19については、吸気側のオーバーハング部27の端部はシリンダヘッド2の上面に重なっており、オーバーハング部26,27の外端部に、上下に開口した第1PCV中間通路28を空けている。
【0043】
これと整合させるため、シリンダヘッド2のうち最も前に位置したカム室部カムキャップ19が重なった部位には、第1PCV中間通路27に連通した第2PCV中間通路29が空けられている。中間通路は導入通路と呼ぶことも可能である。カム室部カムキャップ19はヘッドカバー4の内部に位置しているので、基本的に、シリンダヘッド2の側壁5の内側に位置している。
【0044】
このため、図4に示すように、シリンダヘッド2の側壁5に、カム室部カムキャップ19の吸気側端部が重なる内向き張り出し部5aを形成している。従って、シリンダヘッド2の側壁5が第2PCV中間通路29の箇所で全高に亙って張り出すことはない(仮に、シリンダヘッド1の側壁5が第2PCV中間通路29の箇所で全高に亙って張り出すと、吸気マニホールドを締結できない。)。
【0045】
第2PCV中間通路29は、シリンダブロック1に形成された通路(図示せず)を介してクランク室に開口しており、クランク室に吹き抜けたブローバイガスは、PCV中間通路28,29を通ってカムハウジング17の上方に立ち昇る。図2に示すように、第1PCV中間通路27(及び第2PCV中間通路29)は、1番目と2番目の気筒の間に位置した第1ボア間部の外側に位置している。
【0046】
フロントカムキャップ18は、カムハウジング17における前端の上軸受け部20と一緒に、ボルト(図示せず)によってシリンダヘッド2の前壁6に固定されている。従って、カムハウジング17の前端部とフロントカムキャップ18とには4つのボルト挿通穴29が形成されて、シリンダヘッド2の前壁6には4つの雌ねじ穴30が形成されている。
【0047】
(3).ヘッドカバーとこれに関連した構造
ヘッドカバー4は、左右の側壁31とこれが繋がった左右の天板32と、これらの後端に繋がった後ろ壁(図示せず)とを備えており、これら側壁31と後ろ壁とはシリンダヘッド2の上面に重なっている。そして、側壁31の下端に外向きのフランジ33を突設し、フランジ33をボルト34によってシリンダヘッド2の上面に固定している。
【0048】
図4に示すように、ヘッドカバー4における周壁の下端面には、その全長に亙って延びる長溝35を形成し、長溝35にシール材36を配置している。シール材36は、Oリング等の嵌め込みタイプでもよいし、ディスペンサを使用して塗布される液状タイプであってもよい。長溝35及びシール材36は、ヘッドカバー4の前端部4の内面にも設けられている。従って、ヘッドカバー4の全周に設けられている。
【0049】
図1に明示するように、ヘッドカバー4の天板32のうち、前端部4aを除いた部分には上向きに開口した長溝37が形成されており、長溝37の箇所に、点火プラグ用イグニッション装置を嵌め入れるためのイグニッションホール用筒部38が形成されている。また、カムハウジング17とシリンダヘッド2にも、イグニッションホール39が形成されている。
【0050】
図4に明示するように、ヘッドカバー4の天板32は、長溝37を挟んだ左右両側の部分が前後方向に長い下向き樋状部40,41になっており、吸気側の下向き樋状部41とカムハウジング17との間にPCVオイルセパレータ通路42を形成し、排気側の下向き樋状部41とカムハウジング17との間に新気通路43を形成している。
【0051】
図4に示すように、ヘッドカバー4の下向き樋状部40,41には、カムハウジング17における天板21の上面に当接する仕切リブ44を形成し、カムハウジング17における天板21に形成した長溝にシール材45を充填している。このシール材45も、Oリング等の嵌め込みタイプでもよいし液状の塗布タイプでもよい。なお、図4では、カムハウジング17及びカム室部カムキャップ19がヘッドカバー4の側壁31に重なっているが、実際には、両者の間には僅かの隙間が空いている。
【0052】
図2に示すように、仕切リブ44は、下向き樋状部40,41の前端と後端にも形成されている。従って、仕切リブ44はループ形状を成しており、シール材45を介してカムハウジング17と重なっている。従って、ブローバイガスや新気がヘッドカバー4とカムハウジング17との境界から漏洩することはない。図示は省略しているが、カムハウジング17の天板21のうちPCVオイルセパレータ通路42に対応した部位には、捕集されたオイルを動弁室に流下させるオイル落とし穴が形成されている。
【0053】
PCVオイルセパレータ通路42の前端部は既述の第1PCV中間通路28に連通しており、ブローバイガスは第1PCV中間通路28からPCVオイルセパレータ通路42に流入して、後方に向けて流れる。PCVオイルセパレータ通路42の後端部には上向きに開口した排出口46が形成されており、排出口46にPCVバルブ(図示せず)が装着されている。エンジンの吸気系が負圧になるとPCVバルブが開いて、ブローバイガスが吸気系(例えば吸気マニホールド)に還流する。
【0054】
図2,4に示すように、PCVオイルセパレータ通路42には、オイルミストを捕集するための邪魔板47を前後方向に並べて配置している。図4に示す邪魔板47はヘッドカバー4から下向きに突設しているが、このようにヘッドカバー4に下向き突設したものと、カムハウジング17の天板21に上向き突設したものとを交互に配置するのが好ましい。この場合は、ブローバイガスは上下に蛇行して流れるが、邪魔板47を左右方向に交互にずらして、ブローバイガスを左右に蛇行させることも可能である。或いは、上下方向の蛇行と左右方向の蛇行とを組み合わせることも可能である。
【0055】
図2に示すように、新気通路43の後端部には新気導入口48が上向きに突設され、新気通路43の前端部には新気排出口49が下向きに開口している。従って、新気導入口48はヘッドカバー4の天板32に設けて、新気排出口48はカムハウジング17の天板21に空けている。
【0056】
(4).まとめ
以上の構成において、カムハウジング17はヘッドカバー4とは別体であるため、エンジンの運転中にバルブの衝撃力がヘッドカバー4に作用することはない。従って、バルブの動きに起因してヘッドカバー4が膜振動したり騒音を発生させたりすることはなく、静粛性に優れている。本実施形態では、カムハウジング17はシール材45を介してヘッドカバー4で下向きに押されているが、カムハウジング17に作用した上向きの力はシール材45で吸収されるため、ヘッドカバー4が膜振動することはない。
【0057】
また、カムハウジング17はその全体がヘッドカバー4の内部に隠れており、シリンダヘッド2に取り付けるに当たってシール性を考慮する必要はないため、カムハウジング17を設けたことによるシール性の低下の問題は全く発生しない。むしろ、ヘッドカバー4に複雑な加工を施す必要がないため、ヘッドカバー4とシリンダヘッド2との間で高いシール性を確保できる利点がある。
【0058】
カム室部カムキャップ19は、左右両端部もシリンダヘッド2に共締めすることが可能であるが、実施形態のように、左右端部を下方から端部ボルト25でカムハウジング17の上軸受け部20に固定すると、カム室部カムキャップ19及びシリンダヘッド2を軽量化して燃費向上に貢献できる利点や、各カム室部カムキャップ19とカムハウジング17とカム軸15,16とを予めユニット化できるため、組み付けの手間を軽減できる利点がある。
【0059】
また、PCVオイルセパレータ通路42は、ヘッドカバー4とカムハウジング17とで囲われた部位に形成されているため、バッフルプレートは不要であり、それだけ構造を簡素化してコストを抑制できる。また、ブローバイガスはヘッドカバー4に形成した第1PCV中間通路28から流入するため、動弁室に浮遊しているオイルミストがブローバイガスに混入することは皆無であり、従って、ブローバイガスのクリーン化を促進できる。
【0060】
さて、第2PCV中間通路29はシリンダヘッド2にも形成されているが、第2PCV中間通路29はある程度の断面積が必要である。この点、2ポート・1インジェクタ方式であると、インジェクタは一対の吸気ポート9の間に位置するため、シリンダヘッド2のうち、1番目の吸気ポート9の対と2番目の吸気ポート9の対との間に、カム室部カムキャップ19の吸気側端部を固定するためのボルトが螺合する雌ねじ穴と、第2PCV中間通路29とを前後に並べて形成できる。
【0061】
しかし、2ポート・2インジェクタ方式であると、インジェクタ挿入穴10が隣り合った吸気ポート対の間の部位に入り込むため、カム室部カムキャップ19のための雌ねじ穴と上部PCV導入通路28とを前後に並べて形成できず、従って、カム室部カムキャップ19の吸気側端部をボルトでシリンダヘッド2に固定すると、上部PCV導入通路28を形成できなくなる。
【0062】
これに対して本実施形態では、カム室部カムキャップ19の吸気側端部はボルトで固定せずに、ボルト挿通穴となるべき部位に上部PCV導入通路28を形成しているため、2ポート・2インジェクタ方式のエンジンであっても、ヘッドカバー4を介してブローバイガスを取り込むことができる。
【0063】
そして、第1PCV中間通路28の箇所において、カム室部カムキャップ19の吸気側端部はカムハウジング17の上軸受け部20とシリンダヘッド2とに挟まれているが、カムハウジング17は剛性が高いため、カム軸15,16の間に位置した2本のボルト23による押圧力がPCVオイルセパレータ通路42の箇所にも波及しており、従って、吸気用カム軸15を安定的に保持できる。また、カムハウジング17が、シール材45を介してヘッドカバー4で押さえられていることによっても、吸気用カム軸15を安定的に保持できる。
【0064】
なお、図4に一点鎖線で示すように、ヘッドカバー4及びシリンダヘッド2に、上部PCV導入通路28の外側に張り出したフランジ50を形成して、上部PCV導入通路28の外側においてもボルト34でヘッドカバー4をシリンダヘッド2に固定することは可能である。この場合は、シール材45を介してカムハウジング17とカム室部カムキャップ19とがシリンダヘッド2に押されるため、吸気用カム軸15の安定性は更に向上する。
【0065】
第1PCV中間通路28と第2PCV中間通路29はブローバイガスの導入通路と成したが、第1PCV中間通路28と第2PCV中間通路29とをブローバイガス排出通路と成して、図4に一点鎖線29aで示すように、第2PCV中間通路29からブローバイガスを吸気マニホールドに送ることも可能である。
【0066】
この場合は、ブローバイガスの導入通路は、PCVオイルセパレータ通路の後端部に連通させることになる。ブローバイガスの導入通路と排出通路とをシリンダヘッド1及びカムハウジング17並びにカムキャップ19に形成すると、寒冷環境下での運転でも、ブローバイガスを保温して凍結を防止できる利点がある。
【0067】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、カムハウジングの上面を構成する天板には、PCVオイルセパレータ通路や新気通路を除いて逃がし穴を空けることも可能である。また、中間部ボルトと端部ボルトとはこれらのうち少なくとも2本を共締めボルトと成したらよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明は、カム軸を備えたエンジンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0069】
2 シリンダヘッド
3 チェーンカバー
4 ヘッドカバー
5 シリンダヘッドの側壁
6 シリンダヘッドの前壁
8 シリンダヘッドのカム室
9 吸気ポート
10 インジェクタ挿通穴
15 吸気用カム軸
16 排気用カム軸
17 カムハウジング
18 フロントカムキャップ
19 カム室部カムキャップ
20 上軸受け部
21 カムハウジングの天板
23 共締め用のボルト
28 第1PCV中間通路
29 第2PCV中間通路
31 ヘッドカバーの側壁
32 ヘッドカバーの天板
42 PCVオイルセパレータ通路
43 新気通路
図1
図2
図3
図4