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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153888
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】低温速硬化レゾール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/06 20060101AFI20221005BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08L61/06
C08K3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056649
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 一樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CC021
4J002CC031
4J002CC041
4J002CC051
4J002CC061
4J002DE076
4J002FD156
4J002GJ01
4J002GM00
4J002GN00
4J002GP03
4J002GQ00
4J002GQ05
(57)【要約】
【課題】
レゾール樹脂を硬化させるには比較的低温領域である120℃の硬化において、素早く硬化するレゾール樹脂組成物を得ることである。
【解決手段】
水を含むレゾール樹脂に、硝酸マグネシウムを溶解させたレゾール樹脂組成物であって、水を含むレゾール樹脂100質量部に対し、硝酸マグネシウム単体を0.1~10質量部溶解させていることを特徴とするレゾール樹脂組成物を提供するに至った。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含むレゾール樹脂に、硝酸マグネシウムを溶解させたレゾール樹脂組成物であって、
水を含むレゾール樹脂100質量部に対し、硝酸マグネシウム単体を0.1~10質量部溶解させていることを特徴とするレゾール樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のレゾール樹脂の固形分が、50~99質量%であることを特徴とする請求項1に記載のレゾール樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾール樹脂を硬化させるには比較的低温領域である120℃の硬化において、素早く硬化するレゾール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、熱、酸、アルカリ、油に対して良好な耐性を示すので、各種成型品、自動車のエンジン用の中子、半導体部品固定用のエポキシ樹脂の硬化剤、フォトレジスト材料、合板用の接着剤として各種分野にて使用されている。
【0003】
フェノール樹脂は、アルカリ触媒を用いて作製されるレゾール樹脂と酸触媒を用いて作製されるノボラック樹脂に大別される。
レゾール樹脂には、メチロール基が存在し、加温することによってメチロール基と芳香環が反応しメチレン結合を生成、あるいはメチロール基同士が縮合し、ジメチレンエーテル結合を生成する。この反応を経て3次元架橋が進み組成物はその硬さが上昇するので、一般的に硬化(反応)と表現される。硬化を速めるため、より硬い硬化物を得る為、しばしば酸性の硬化触媒が用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-140332
【特許文献2】特開2010-170943
【0005】
昨今、環境問題が重要な社会的な課題として国際社会に広く認識されている。解決策として、天然物由来の材料を使用した開発が多数行われている。
このアプローチとは違い、環境問題解決策として、使用電力を抑制する試みも行われている。その為には、より低温、より短時間で行程を終了させることが求められている。
【0006】
特許文献1は、レゾール樹脂を硬化させる一般的な温度、150℃にて硬化反応が行われている。150℃における硬化性は、酸性の硬化触媒を添加していない場合よりも改善されているが、120℃等のレゾール樹脂を硬化させるには比較的低温領域においては、改善の余地があった。
特許文献2は、非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極材料およびその製造方法に関する公報である。Mg-Si系複合粉末とレゾール樹脂のスラリーを硬化させた例が示してあるが、120℃等のレゾール樹脂を硬化させるには比較的低温領域においては、特許文献1同様改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レゾール樹脂を硬化させるには比較的低温である120℃の硬化において、素早く硬化するレゾール樹脂組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らが鋭意検討を行った結果、水を含むレゾール樹脂に、硝酸マグネシウムを溶解させたレゾール樹脂組成物であって、水を含むレゾール樹脂100質量部に対し、硝酸マグネシウム単体を0.1~10質量部溶解させていることを特徴とするレゾール樹脂組成物を提供するに至った。
【発明の効果】
【0009】
120℃等のレゾール樹脂を硬化させるには比較的低温領域にて、素早く硬化するレゾール樹脂組成物であるので、環境に対する負荷を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
レゾール樹脂組成物の一例を示す。
【0011】
レゾール樹脂は、前述のように、フェノール類とアルデヒド類をアルカリ触媒の存在下反応させる事によって得られる。
【0012】
本願発明のレゾール樹脂に使用されるフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、パラ-ターシャリー-ブチルフェノール、パラ-セカンダリー-ブチルフェノール、ナフトール、カテコール、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、ジメチルヒドロキノン、等が挙げられる。
これらフェノール類は、単独で使用しても構わないし、複数個を組み合わせる事もできる。
【0013】
本願発明のレゾール樹脂に使用されるアルデヒド類としては、レゾール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。
例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン(メタホルムアルデヒド)などを単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
好適なアルデヒドとしては、37%-ホルムアルデヒド、若しくは92%-パラホルムアルデヒドである。添加量としてはフェノール類100質量部に対し、37%-ホルムアルデヒドの場合は100~300質量部、より好適には150~250質量部、92%-パラホルムアルデヒドの場合40~150質量部、より好適には50~100質量部である。
【0014】
本願発明のレゾール樹脂に用いられる、フェノール類とアルデヒド類とを反応させる際に用いるアルカリ触媒としては、特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカリ触媒を適宜使用することができる。
これらアルカリ触媒は、単独で使用しても構わないし、複数個を組み合わせる事もできる。
アルカリ触媒の添加量としては、フェノール類100質量部に対し、1~25質量部、より好適には2~20質量部である。
【0015】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えばフェノール類と、アルデヒド類、アルカリ触媒を一括で仕込み反応させる方法、またはフェノール類とアルカリ触媒を仕込んだ後、所定の反応温度にてアルデヒド類を添加する方法等が挙げられる。
このとき、反応温度は50℃~130℃、より好適には60℃~100℃である。
50℃未満であると反応の進行が遅く、かつ未反応のフェノール類が残存するため好ましくなく、また110℃を超える温度では高分子量成分の生成が促進されるため好ましくない。
反応時間は特に制限はなく、アルデヒド類およびアルカリ触媒の量、反応温度により調整すればよい。
分子量の調整は、反応温度と反応時間の制御で行うことが出来る。
【0016】
本願発明のレゾール樹脂は、冷却することによって反応は停止するが、酸性成分である中和剤を添加する事によって、反応を停止させることもできる。中和剤としては、スルファミン酸、ホウ酸、リン酸、シュウ酸、塩酸、硫酸、酢酸、草酸、安息香酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。添加量としては、フェノール類100質量部に対し1~10質量部、より好適には3~7質量部添加すれば、反応は停止する。
【0017】
本願発明のレゾール樹脂は、未反応のホルムアルデヒドの捕捉剤として、尿素、エチレン尿素、ブチル尿素、カルボヒドラジド、1,1-ジメチル尿素、1,1-ジエチル尿素、シアノアセチル尿素、シクロヘキシル尿素、アセチル尿素、アリル尿素、1,3-ジアリル尿素、アプロナール、ベンゾイレン尿素、ベンゾイル尿素、ベンジル尿素、1,3-(ヒドロキシメチル)尿素等の尿素および尿素誘導体を添加できる。添加量としては、フェノール類100質量部に対し1~20質量部、より好適には5~15質量部添加すれば、未反応のホルムアルデヒドを十分に捕捉できる。未反応のホルムアルデヒドを捕捉剤は、反応開始前~反応停止後のいずれにおいても添加することができる。
【0018】
本願発明のレゾール樹脂の固形分は、50~99質量%、より好適には60~90質量%である。レゾール樹脂の固形分が多い時は水を添加し希釈することができる。レゾール樹脂の固形分が少ない時は、水を蒸発させ、濃縮することができる。
【0019】
本願発明のレゾール樹脂組成物は、硝酸マグネシウムが添加される。硝酸マグネシウムの添加量は、水を含むレゾール樹脂100質量部に対し、結晶水を除いた硝酸マグネシウム単体として0.1~10質量部、より好適には0.5~8質量部である。
硝酸マグネシウムは6水和物が存在する。硝酸マグネシウム単体、硝酸マグネシウム・6水和物、いずれを使用しても構わない。硝酸マグネシウムの分子量は148.3、硝酸マグネシウム・6水和物の分子量は256.4である。
【0020】
以下に、本発明について実施例、比較例および試験例等を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例0021】
<レゾール樹脂1の作製方法>
フェノールを100g、37-%ホルムアルデヒドを130g、セパラブルフラスコに秤取った。ふた、撹拌バネをセットし、40℃になった時点で、25%-水酸化ナトリウムを12g添加した。85℃に昇温し、2時間反応させた。50℃に冷却してから、未反応のホルムアルデヒド捕捉剤である尿素を2g添加し、50℃にて30分間撹拌混合し、未反応のホルムアルデヒドと反応させた。その後、エチレングリコール10gを添加し、真空脱水を行い、水90gを取り除いた。これをレゾール樹脂1とした。固形分は78%であった。
【0022】
<レゾール樹脂2の作製方法>
フェノールを100g、92%-パラホルムアルデヒドを80g、セパラブルフラスコに秤取った。ふた、撹拌バネをセットし、40℃になった時点で、トリエチルアミン15g、水酸化バリウム 2gを添加した。75℃に昇温し、3時間反応させた。未反応のホルムアルデヒド捕捉剤である尿素13gを添加し、60℃にて1時間撹拌混合し、未反応のホルムアルデヒドと反応させた。その後、30℃に冷却し、フェノールスルホン酸で中和した。真空脱水を行い、水50gを取り除いた。これをレゾール樹脂2とした。固形分は75%であった。
【0023】
<実施例1~10のレゾール樹脂組成物作製方法>
レゾール樹脂1、100gに対し、硝酸マグネシウム・6水和物を1g、3g、5g、7g、10g添加し均一にした液を、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5のレゾール樹脂組成物とした。レゾール樹脂2、100gに対し、硝酸マグネシウム・6水和物を1g、3g、5g、7g、10g添加し均一にした液を、実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10のレゾール樹脂組成物とした。尚、表1、表3の()内は、結晶水を除いた硝酸マグネシウム単体としての量を示している。
【0024】
<比較例1~12のレゾール樹脂組成物作製方法>
レゾール樹脂1、レゾール樹脂2をそれぞれ、比較例1、比較例7のレゾール樹脂組成物とした。レゾール樹脂1、100gに対し、硝酸ニッケル・6水和物を1g、3g、5g、7g、10g添加し均一にした液を、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6のレゾール樹脂組成物とした。レゾール樹脂2、100gに対し、硝酸マグネシウム・6水和物を1g、3g、5g、7g、10gを添加し均一にした液を、比較例8、比較例9、比較例10、比較例11、比較例12のレゾール樹脂組成物とした。
【0025】
<ゲルタイム測定方法>
硬化の速さを、ゲルタイムを測定することにより判定した。
120±1.0℃に調整したホットプレートに、測定試料1.0gを乗せ、ストップウォッチをスタートする。その試料を長さ200mm、幅20mm、厚さ0.6mmのスパチュラを用い、約5cm角に広げる。その後、スパチュラの先端部より3cm程度ホットプレートに押し付け、かき混ぜるように前後にストロークする。上記の操作を、ホットプレートとスパチュラの間に糸が引くようになるまで続ける。試料が糸を引かなくなった時、ストップウォッチを止め、この時間を120℃ゲルタイムとした。
実施例の結果を表1と表3、比較例の結果を表2と表4に示す。
【0026】
硝酸マグネシウム、硝酸ニッケル等の硬化触媒を添加していない比較例1、比較例7は、硬化触媒を添加しているものより、ゲルタイムが非常に遅かった。レゾール樹脂1、レゾール樹脂2ともに、硬化触媒として硝酸マグネシウムを添加した方が、硝酸ニッケルを添加ものよりもゲルタイムが速く、硝酸マグネシウムの方が、硝酸ニッケルよりも優れた硬化触媒であることが示された。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】