(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153903
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20221005BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B60J1/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056673
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小齊 拓人
(72)【発明者】
【氏名】小枝 清花
(72)【発明者】
【氏名】笹山 道章
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AH01B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK12B
4F100AK15A
4F100AK15B
4F100AK25B
4F100AL01B
4F100BA02
4F100EH46
4F100EJ86
4F100GB31
4F100GB41
4F100JL10B
4F100JN01B
4F100JN28B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】UVC照射から樹脂基板をより効果的に保護できる樹脂積層体。
【解決手段】樹脂基材層10と、前記樹脂基材層10の少なくとも一方の面に位置する樹脂表面層20とを有し、前記樹脂表面層20は透明であり、前記樹脂表面層20がUVCフォトクロミック化合物を含むことよりなる。前記樹脂表面層20の前記UVCクロミック化合物の含有量は、前記樹脂表面層20の樹脂100質量部に対して10~30質量部が好ましく、前記UVCフォトクロミック化合物がクロメン誘導体であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材層と、前記樹脂基材層の少なくとも一方の面に位置する樹脂表面層とを有し、
前記樹脂表面層は透明であり、
前記樹脂表面層がUVCフォトクロミック化合物を含み、
前記樹脂表面層の前記UVCフォトクロミック化合物の含有量が、前記樹脂表面層の樹脂100質量部に対して10~30質量部である、樹脂積層体。
【請求項2】
前記UVCフォトクロミック化合物がクロメン誘導体である、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記クロメン誘導体が3,3-ジフェニル-3H-ベンゾ[F]クロメンである、請求項2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記樹脂表面層が、ポリ塩化ビニル樹脂及びメチルメタクリレート-スチレン樹脂の少なくとも一方を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記樹脂表面層が、UVC照射量に応じて可逆的に変色する、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項6】
前記樹脂表面層が、厚さ0.1~500μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項7】
輸送機の内装材用又は情報端末ハウジング材用である、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光等のUV照射が、樹脂製の物体を含む多くの材料の劣化を引き起こすことがよく知られている。このような物体を保護するために、UV保護剤がよく使用される。UV保護剤の多くは、約275nmから約400nmの地上のUV照射から保護するように設計される。
殺ウイルス又は殺菌(総じて、「殺菌等」ということがある)目的で、人工のUV照射源が使用されることがある。殺菌等目的のUV照射は、UVCスペクトルに対応する280nm以下のUVが用いられる。
【0003】
UV保護の手法としては、表面を構成する樹脂部材にUV保護剤を配合する方法(組み込み法)、樹脂部材の表面にUV保護剤又はUV吸収剤を含むコーティングを施す方法(被覆法)が知られている。
【0004】
UV保護の手法のうち、組み込み法及び被覆法において、使用されるUV保護材は、1)ヒンダードアミン系化合物物とフェノール系化合物とを組み合わせた有機UV吸収分子、2)酸化亜鉛又は二酸化チタンのナノ粒子、グリコシド化合物、メラミン化合物、又は3)UV照射を吸収する無機顔料である。酸化亜鉛又は二酸化チタンのナノ粒子は、日焼け止めローション又は自動車用のセラミック窓の色合いの樹脂膜に使用される化合物である。
これらのUV保護剤の多くは、太陽光ベースの低強度UV照射を遮断するように設計されており、高強度のUVC照射を想定したものではない。あるいは、UVC照射を想定したものであっても効果が不十分である、又は樹脂材料に用いるには熱安定性が低い。さらに、有機系材料をUV保護剤として用いる場合、1~2質量%以上を配合すると相分離し、表面の外観が変化することになる。UV保護剤としてナノ粒子を用いる場合、20~30質量%以上で凝集し、光散乱が表面外観を変化させることになる。UV保護剤としての顔料の配合量が増加するにつれて、顔料が知覚される樹脂の色を変化させることになる。また、充填剤を高濃度に配合すると、樹脂を脆くして亀裂を生じさせることになる。
【0005】
UV保護の手法としては、UV保護剤又は吸収剤を含む透明保護層を樹脂部材の表面に設ける手法がある。この透明保護層は、例えば、上記のヒンダードアミン又は酸化亜鉛又は酸化チタンのナノ粒子等でUVを吸収することにより、表面をUV損傷から保護する。このうち、無機ナノ粒子を用いる方法は添加レベルが増加するにつれて凝集し、光散乱が表面外観を変化させる。
【0006】
他のUV保護手法として、連続無機膜を用いる方法がある。これは、主に工具、家電製品(蛇口、電化製品の前面、ハンドル)、手術用具、及び可動機械部品(ギア、シリンダーヘッド)の腐食防止と耐摩耗性のために塗布されるものである(特許文献1)。例えば、TiN膜等の窒化物層を金属製の蛇口に物理的に蒸着して、腐食や水斑を防止することが知られている。ただし、樹脂基板との熱膨張率差が大きく、使用環境によっては密着不良や温度変化によるクラックを発生させる可能性がある。
【0007】
また、他のUV保護手法として、UVCフォトクロミック化合物検出器の活用がある(特許文献2)。例えば、UVCフォトクロミック化合物を含むインクを塗布したカード状の検出器は、UVC照射時に併用することで照射量の目安となり、必要以上の照射を予防する。但し、この方法では実際には光源-プラスチック部材間の距離や位置により、照射ムラや照射不足が起こっている可能性があり、結果的に必要以上のUVC照射を行っている可能性がある。さらに、インクを使っているため耐久性の求められるプラスチック部材表面に対しては展開できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-032717号公報
【特許文献2】米国特許第6437346号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来にない手法により、UVC照射から樹脂基板をより効果的に保護できる樹脂積層体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
<1>
樹脂基材層と、前記樹脂基材層の少なくとも一方の面に位置する樹脂表面層とを有し、
前記樹脂表面層は透明であり、
前記樹脂表面層がUVCフォトクロミック化合物を含み、
前記樹脂表面層の前記UVCクロミック化合物の含有量が、前記樹脂表面層の樹脂100質量部に対して10~30質量部である、樹脂積層体。
<2>
前記UVCフォトクロミック化合物がクロメン誘導体である、<1>に記載の樹脂積層体。
<3>
前記クロメン誘導体が3,3-ジフェニル-3H-ベンゾ[F]クロメンである、<2>に記載の樹脂積層体。
<4>
前記樹脂表面層が、ポリ塩化ビニル樹脂及びメチルメタクリレート-スチレン樹脂の少なくとも一方を含む、<1>~<3>のいずれかに記載の樹脂積層体。
<5>
前記樹脂表面層が、UVC照射量に応じて可逆的に変色する、<1>~<4>のいずれかに記載の樹脂積層体。
<6>
前記樹脂表面層が、厚さ0.1~500μmである、<1>~<5>のいずれかに記載の樹脂積層体。
<7>
輸送機の内装材用又は情報端末ハウジング材用である、<1>~<6>のいずれかに記載の樹脂積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂積層体は、UVC照射から樹脂基板をより効果的に保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」はその上下限値を含む範囲を表す。
【0014】
(樹脂積層体)
本発明の樹脂積層体は、樹脂基材層と、樹脂基材層の少なくとも一方の面に位置する樹脂表面層とを有する。
以下、本発明の樹脂積層体について、以下に一実施形態を挙げて説明する。
図1の樹脂積層体1は、樹脂基材層10と、樹脂基材層10の一方の面に位置する樹脂表面層20とを有する。なお、本発明はこれに限定されず、樹脂基材層10の両面に樹脂表面層20が位置してもよい。
【0015】
樹脂積層体1の厚さt1は、樹脂積層体1の用途等を勘案して適宜決定される。樹脂積層体1が輸送機内装材用である場合、厚さt1は、例えば1.5~6.0mmとされる。
【0016】
<樹脂基材層>
樹脂基材層10は、UVCを吸収する任意の適切な樹脂を含むことができる。この樹脂は、10,000を超える多くの繰り返しモノマー単位、例えば、10,000~1E+100以上のモノマー単位、又は100,000~100,000,000のモノマー単位等で構成される有機高分子である。モノマー単位の数の上限は、樹脂基材層の用途、寸法等を勘案して決定されるため、実質的に無制限になる。
樹脂基材層10を構成する樹脂としては、例えば、エポキシ、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性オレフィン(TPO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、メチルメタクリレート-スチレン樹脂(MS樹脂)及びシリコーン、又はそれらの任意の組み合わせ等を例示できる。
【0017】
樹脂基材層10は、樹脂以外の任意成分を含んでもよい。任意成分としては、顔料、滑沢剤、難燃剤、充填剤等が挙げられる。
【0018】
樹脂基材層10の厚さt10は、樹脂積層体1の用途等を勘案して適宜決定される。樹脂積層体1が輸送機内装材用である場合、厚さt10は、例えば1.5~6.0mmとされる。
【0019】
<樹脂表面層>
樹脂表面層20は、UVCフォトクロミック化合物(以下、「化合物(P)」ということがある)を含む。化合物(P)は、UVCの照射により、可逆的又は不可逆的に変色する化合物である。樹脂積層体1は、化合物(P)を含む樹脂表面層20を有することで、樹脂積層体1にUVCが照射された際に、樹脂表面層20の化合物(P)がUVCを吸収して、樹脂基材層10の劣化を防止する。加えて、UVCを吸収した化合物(P)が変色して、UVCの被照射範囲が可視化される。このため、殺菌等を目的としたUVC照射において、過剰なUVC照射を防止し、結果的に樹脂基材層10の劣化を長期的に抑制できる。
樹脂表面層20は、透明である。本明細書において「透明」とは、可視光(360~830nm)の透過率が60%以上であることをいう。可視光の透過率は、例えば、UV/VIS/NIR分光計により測定できる。
【0020】
化合物(P)としては、例えば、スピロピラン、スピロオキサジン又はジアリールエテンに基づく材料と、任意の組成物、化合物、組み合わせ、他の材料から形成することができる。即ち、化合物(P)としては、スピロピランベースのフォトフォトクロミック材料(化合物(P1))、スピロオキサジンベースのフォトクロミック材料(化合物(P2))、ジアリールエテンベースのフォトクロミック材料(化合物(P3))を例示できる。また、例えば、化合物(P)としては、クロメン誘導体(化合物(P4))が挙げられる。
【0021】
化合物(P1)としては、例えば、1-(2-ヒドロキシエチル)-3,3-ジメチルインドリノ-6’-ニトロベンゾピロスピラン、1,3,3-トリメチルインドリノベンゾピロスピラン、1,3,3-トリメチルインドリノ-6’-ニトロベンゾピロスピラン、1,3,3-トリメチルインドリノ-6’-ブロモベンゾピロスピラン、1,3,3-トリメチルインドリノ-8’-メトキシベンゾピロスピラン、1,3,3-トリメチルインドリノ-β-ナフトピリロスピラン、1,3,3-トリメチルインドリノナフトスピロオキサジン等が挙げられる。
【0022】
化合物(P2)としては、例えば、2,3-ジヒドロ-2-スピロ-4 ’-[8’-アミノナフタレン-1’(4’H)-オン]ペリミジン、2,3-ジヒドロ-2-スピロ-7’-[8’-イミノ-7’,8’-ジヒドロナフタレン-1’-アミン]ペリミジン等が挙げられる。
【0023】
化合物(P3)としては、例えば、2,3-ビス(2,4,5-トリメチル-3-チエニル)無水マレイン酸、2,3-ビス(2,4,5-トリメチル-3-チエニル)マレイミド、シス-1,2-ジシアノ-1,2-ビス(2,4,5-トリメチル-3-チエニル)エタン、1,2-ビス[2-メチルベンゾ[b]チオフェン-3-イル]-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン、1,2-ビス(2,4-ジメチル-5-フェニル-3-チエニル)‐3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン等が挙げられる。
【0024】
化合物(P4)としては、例えば、3,3-ジフェニル-3H-ベンゾ[F]クロメン、2H-クロメン-2-オン、2,2-ジフェニル-13,13,14,14-テトラメチル-13,14-ジヒドロナフト[1,2-h]-ベンゾ[F]-クロメン、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)-13,13,14,14-テトラメチル-13,14-ジヒドロナフト[1,2-h]-ベンゾ[F]-クロメン2-(2,6-ジメチルモルホリノフェニル)-2-フェニル-13,13,14,14-テトラメチル-13,14-ジヒドロナフト[1,2-h]-ベンゾ[F]-クロメン等が挙げられる。
【0025】
化合物(P)としては、化合物(P4)が好ましく、3,3-ジフェニル-3H-ベンゾ[F]クロメンがより好ましい。
【0026】
樹脂表面層20を構成する樹脂としては、可視光の透過率が高く、かつUVC透過率が高い樹脂が好ましい。樹脂表面層20を構成する樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、MS樹脂等が挙げられる。樹脂表面層20を構成する樹脂の種類は、樹脂基材層10を構成する樹脂の種類と同じでもよいし、異なっていてもよい。但し、樹脂基材層10と樹脂表面層20との接合力をより高める観点から、樹脂表面層20を構成する樹脂の種類は、樹脂基材層10を構成する樹脂の種類と同じことが好ましい。樹脂表面層20の樹脂と樹脂基材層10の樹脂とが同じであるとは、主たる樹脂(混合物の場合は、最も含有量の多い樹脂)の種類が、同じモノマー単位からなることという。
【0027】
樹脂表面層20における化合物(P)の含有量は、樹脂表面層20の樹脂の総質量100質量部に対して、10~30質量部が好ましく、10~25質量部がより好ましく、10~20質量部がさらに好ましい。化合物(P)の含有量が上記下限値以上であれば、樹脂表面層20におけるUVC吸収性能がより高まり、化合物(P)のフォトクロミック性をより良好に視認できる。化合物(P)の含有量が上記上限値以下であれば、樹脂表面層20において化合物(P)による着色を防止して透明性をより高め、樹脂積層体1の初期外観をより良好にできる。
【0028】
樹脂表面層20は、透明性とUVCに対する特性を侵さない範囲で、任意成分を含んでもよい。任意成分としては、例えば、増粘剤、充填剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、難燃剤、防黴剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤等が挙げられる。
【0029】
樹脂表面層20の表面は、滑らかな面(平滑面)にして光沢を付与してもよいし、粗面にして艶消しとしてもよい。
【0030】
樹脂表面層20の厚さt20は、例えば、0.1~500μmが好ましく、0.5~300μmがより好ましく、1~200μmがさらに好ましい。厚さt20が上記下限値以上であれば、樹脂表面層20の厚みの制御が容易になり、UVC吸収性能のムラを低減できる。樹脂表面層20の厚さt20が上記上限値以下であれば、樹脂表面層20の透明性をより高めて、下地(樹脂基材層10)の色調等をより良好に視認できる。
【0031】
樹脂積層体1は、樹脂基材層10と樹脂表面層20との間に接着層を有してもよい。樹脂積層体1は、接着層を有することで、樹脂基材層10と樹脂表面層20とをより強固に接合できる。
接着層の厚さは、例えば1nmから10nm等の任意の適切な厚さとすることができる。接着層の形成方法としては、本技術分野で周知のスパッタリング又は他の堆積技術が挙げられる。
【0032】
樹脂積層体1は、樹脂表面層20の表面に、さらにバリア層を有してもよい。
バリア層としては、水等の潜在的な汚染物質の浸透を防ぐ、耐薬品性に優れる、UVA(320nm超400nm以下)又はUVB(280nm超320nm以下)に対する耐性の高い素材、添加剤を含む。
バリア層を構成する樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーン樹脂等が挙げられる。バリア層に含まれる添加剤としては、酸化ケイ素ガラス、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、充填剤、紫外線吸収剤及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。樹脂表面層20又は樹脂基材層10の防水性、防汚性、耐薬性、UVA耐性、UVB耐性が十分でない場合に、バリア層は樹脂積層体1の表面を保護するのに特に有用である。
【0033】
(樹脂積層体の製造方法)
樹脂積層体の製造方法は、樹脂基材層10の片面又は両面に樹脂表面層20を設ける。
樹脂基材層10は、従来公知の成形方法で得らえる。樹脂基材層10の成形方法としては、例えば、樹脂基材層10を構成する樹脂組成物(基材樹脂組成物)を用い、押出成形法、ブロー成形法、射出成形法等で成形する方法が挙げられる。
【0034】
樹脂表面層20を設ける方法としては、樹脂基材層10の表面に、樹脂表面層20を形成する樹脂組成物(表面樹脂組成物)を塗布し、これを乾燥し又は硬化する方法(コーティング方法)、シート状の樹脂表面層20を作製し、これを樹脂基材層10に貼着する方法が挙げられる。また、多層押出装置を用い、基材樹脂組成物と表面樹脂組成物とを共押出する方法が挙げられる。
【0035】
コーティング法について、説明する。
表面樹脂組成物は、樹脂表面層20を形成する樹脂と、化合物(P)と、必要に応じた任意成分とを含む。加えて、表面樹脂組成物は、必要に応じて有機溶媒等の分散媒を含んでいてもよい。表面樹脂組成物は、分散媒を含むことで、適切な粘度に調節され、樹脂基材層10への塗工がより容易になる。
表面樹脂組成物に含まれる分散媒の種類は、塗工方法、樹脂基材層10への浸食性等を勘案して適宜決定される。
表面樹脂組成物に含まれる分散媒の量は、塗工方法、表面樹脂組成物に求める粘度等を勘案して適宜決定される。
【0036】
塗工方法としては、特に限定されず、例えば、物理蒸着、化学蒸着、スパッタリング、スプレー熱分解、塗工、プラズマコーティング、浸漬コーティング及びラミネーティング等が挙げられる。透明樹脂層は、樹脂基板上に形成することができ、又は代替的には、フィルム層(例えば、PVC樹脂又は本開示で適切であると記載されている他の樹脂マトリックスのいずれか)を事前に形成し、次いで事前に形成されたフィルム層を樹脂基板に積層すること等、透明樹脂層を個別に形成し、樹脂基板に取り付けることができる。得られた透明樹脂層は、本明細書に記載の波長のいずれか等、殺菌等に適したUVC波長のUV照射を吸収する特性を有する。
【0037】
樹脂基材層10に対する表面樹脂組成物の塗工量は、表面樹脂組成物の組成等を勘案して適宜決定され、例えば、1E-4~0.6kg/m2が好ましく、0.0005~0.4kg/m2がより好ましく、0.001~0.3kg/m2がさらに好ましい。
【0038】
表面樹脂組成物を塗工した後、これを乾燥し又は硬化する工程(硬化工程)は、表面樹脂組成物の組成、塗工量等を勘案して適宜決定される。
こうして、表面樹脂組成部を用い、樹脂基材層10の表面に樹脂表面層20を形成することで、樹脂積層体1を製造できる。
よって、本実施形態において、表面樹脂組成物は、UVC劣化抑制剤組成物である。
【0039】
(使用方法)
樹脂積層体1の用途としては、特に限定されず、例えば、不特定多数の人が使用、接触する構造体の表面材が挙げられる。即ち、構造体の表面を構成する部材を樹脂基材層10とし、樹脂基材層10の表面に構造体としては、例えば、航空機、宇宙船、バス、クルーズ船、潜水艦、鉄道車両、レクリエーション用車両等の輸送機、公共又は民間の建物等の内外装及び備品、これらのトイレ又は食品調理エリアの内外装及び備品が挙げられる。これらの構造体は、UVC照射が殺菌等目的で使用されうる建物、移動体の内外装及び備品である。また、樹脂積層体1を適用し得る構造体としては、病院、クリニック、商業施設、駅構内、公共の建物等の情報端末機(特にハウジング材)等、UVC照射が殺菌等目的で使用されうる屋内設備が挙げられる。
中でも、樹脂積層体1のうようとしては、輸送機の内装材用又は情報端末ハウジング材用が好適である。
【0040】
樹脂積層体1を表面に有する構造体に対して、UVCを照射する。これにより、構造体表面に殺菌等処理を施す。この際、構造体は樹脂表面層20を有するため、樹脂基材層10へのUVC照射を抑制し、化合物(P)が変色することで、UVC照射の程度を視認できる。これにより、UVCに暴露されることによる樹脂基材層10の劣化、亀裂、変色のうちの1つ又は複数を低減し又は防止できる。
【0041】
UVC照射強度は、所望の殺菌等の効果を得られる強度であればよい。照射強度は、例えば、0.1~30mW/cm2が好ましく、0.5~20mW/cm2がより好ましく例えば1~10mW/cm2がさらに好ましく、2~5mW/cm2のが特に好ましい。
【0042】
UVCの照射源は、所望の波長でUVC照射を発するUVC源であればよい。UVCの光源としては、例えば、UVC LED、水銀蛍光灯(水銀蒸気ランプとも呼ばれる)が挙げられる。LEDの波長は、約230nmから約280nmまでと低い。水銀蛍光灯は、約254nmの波長の照射を発する。
さらに他のUVCの照射源及びそれらの関連する波長は、ヨウ化クリプトン(KrI)エキシマランプ(190nm)、フッ化アルゴン(ArF)エキシマランプ(193nm)、臭化クリプトン(KrBr)エキシマランプ(207nm)、臭化クリプトン(KrCl)エキシマランプ(222nm)、フッ化クリプトン(KrF)エキシマランプ(248nm)ヨウ化キセノン(XeI)エキシマランプ(253nm)、塩化物(Cl2)エキシマランプ(259nm)及び臭化キセノン(XeBr)エキシマランプ(282nm)を例示できる。
【0043】
上述の通り、本実施形態の樹脂積層体によれば、樹脂基材層の少なくとも一方の面に、UVCフォトクロミック化合物を有する透明な樹脂表面層を有するため、樹脂基材層に対するUVCの影響を軽減して、樹脂基材層の劣化、亀裂、変色を防止できる。加えて、本実施形態の樹脂積層体は、UVCを照射することで、UVCフォトクロミック化合物が変色するため、UVCの照射の程度を容易に視認できる。
【実施例0044】
以下、実施例を基に説明するが本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0045】
(使用原料)
<樹脂>
・PVC:ポリ塩化ビニル樹脂(徳山積水社製)。
<添加剤>
・P-1:3,3-ジフェニル-3H-ベンゾ[F]クロメン(Shanghai Sunwise Chemical社製)、化合物(P)に相当。
・P’-1:Tinuvin NOR 371 FF(BASF社製)、化合物(P)の比較品。
・P’-2:Tinuvin 1577 ED(BASF社製)、化合物(P)の比較品。
【0046】
(実施例1~2、比較例1~5)
PVCの樹脂基材層を用意した。
THF(富士フィルム和光純薬社製)溶媒に、PVCを20質量%になるように加え23℃で2時間攪拌して溶解した。表1~2に従い、溶解液に添加剤を加えて、各例の表面樹脂組成物とした。バーコーターを用いて、各例の表面樹脂組成物を樹脂基材層に塗布した。塗布した表面樹脂組成物を60℃で1時間乾燥させ、厚さ3μmの樹脂表面層を有する樹脂積層体を得た。なお、比較例1では、樹脂表面層を設けていない。
各例の樹脂積層体について、外観、発色、耐変色試験(Y1)を行い、その結果を表中に示す。
【0047】
(評価方法)
<外観>
各例のPVC樹脂積層体を表面側から目視し、樹脂基板に対する色の変化を観察した。
◎:外観変化が視認されなかった。
〇:外観変化が視認されたが、基板を視認できた。
×:外観変化が視認され、基板が視認できなかった。
【0048】
<UVC照射時の発色>
PVC樹脂積層体にUVCを照射し(30秒間)、光発色の有無を観察した。
〇:光可逆発色を視認できた。
×:光可逆発色を視認できなかった。
【0049】
<UVCに対する耐変色性(Y1)>
UVC光源Care222(ウシオ電機社製、商品名、消費電力15W)を照射源として使用した。デジタル紫外線強度計UVC-254A(Lutron社製)を用いて照射量を確認しながら、8,030mJ、24,090mJ、40,150mJ、80,300mJのUVC照射後の色調変化をそれぞれ調べた。各照射量は、現在日本において推奨されている上限照射量(22mJ/日)を1年間(1yr)、3年間(3yr)、5年間(5yr)、10年間(10yr)毎日照射した場合に相当する。紫外線の波長は222nm、温度は23℃である。また色調は、積分球分校測色計Ci7800(商品名、X-rite社製)でイエローネスインデックスを測定した。
【0050】
【0051】
【0052】
表1~2に示す通り、本発明を適用した実施例1~2は、透明樹脂層を設けない樹脂(比較例1)に比べて、UVCに対する耐変色性に優れていた。クロメン誘導体の量が少ない場合(比較例2)、UVC照射時の発色が少なく、UVCに対する耐変色性が十分でななかった。クロメン誘導体の量が多い場合(比較例3)、UVC照射時の発色があり、UVCに対する耐変色性があるが、初期外観に影響を及ぼしていた。
さらに本発明を適用した実施例1は、従来のUVC吸収剤を樹脂層に添加した比較例4~5に比べて、UVCに対する耐変色性に優れていた。さらに、実施例1は、UVC照射時の発色性があるため、UVC被照射部位を可視化することができえいた。