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特開2022-153925ワークピース上のパターンの画像を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153925
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ワークピース上のパターンの画像を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
H01J37/22 502E
H01J37/22 502H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056705
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】301014904
【氏名又は名称】東レエンジニアリング先端半導体MIテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】金子 功次
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101BB03
5C101FF02
5C101HH38
5C101HH40
(57)【要約】
【課題】スループットを上げることができる画像生成方法を提供する。
【解決手段】本方法は、ワークピースの表面内の基準領域を決定し、基準領域のパターン密度を、基準領域内のパターンの設計データから算定し、算定されたパターン密度と所定の範囲内で近似するパターン密度を持つ複数の調整領域を決定し、基準領域の画像を走査電子顕微鏡で生成し、複数の調整領域のうちの1つの画像を走査電子顕微鏡で生成し、前記1つの調整領域の画像の輝度のヒストグラムと、基準領域の画像の輝度のヒストグラムとの差が小さくなるように、前記1つの調整領域の画像の輝度を調整するためのパラメータの設定値を調整し、ワークピースの表面内の複数の中間領域の複数の画像を走査電子顕微鏡で生成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にパターンが形成されているワークピースの画像を、該画像の輝度を調整しながら生成する方法であって、
前記ワークピースの表面内の基準領域を決定し、
前記基準領域のパターン密度を、前記基準領域内のパターンの設計データから算定し、
前記算定されたパターン密度と所定の範囲内で近似するパターン密度を持つ複数の調整領域を決定し、
前記基準領域の画像を走査電子顕微鏡で生成し、
前記複数の調整領域のうちの1つの画像を前記走査電子顕微鏡で生成し、
前記1つの調整領域の画像の輝度のヒストグラムと、前記基準領域の画像の輝度のヒストグラムとの差が小さくなるように、前記1つの調整領域の画像の輝度を調整するためのパラメータの設定値を調整し、
前記ワークピースの表面内の複数の中間領域の複数の画像を前記走査電子顕微鏡で生成する、方法。
【請求項2】
前記パラメータは、前記走査電子顕微鏡の電子検出感度を決定するアナログパラメータと、画像処理によって輝度を調整するためのデジタルパラメータを含み、
前記方法は、前記アナログパラメータの設定値を調整した後に、前記アナログパラメータの前記調整された設定値を前記走査電子顕微鏡に適用し、
前記複数の中間領域の複数の画像の画像処理に、前記デジタルパラメータの前記調整された設定値を適用することで、前記複数の画像の輝度を調整する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の調整領域のうちの1つの画像を前記走査電子顕微鏡で生成する工程から、前記複数の中間領域の前記複数の画像の輝度を調整する工程までを繰り返す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記パターン密度は、対応するCADパターンの幅と長さとの関係によって定義される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、基板、パネル、マスクなどのワークピース上のパターンの画像を走査電子顕微鏡で生成する方法に関し、特に画像の輝度を調整しながら、複数の画像を連続的に生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡を使った検査および計測では、その結果を安定させるために輝度調整は非常に重要である。例えば、ダイ・トゥー・ダイ検査では、輝度は欠陥検出感度に影響を及ぼし、CD-SEMと呼ばれる計測では、最小、最大輝度が飽和した状態では測長値が安定しない。
【0003】
長時間の検査および計測では、サンプルのチャージや積層膜の状態変化、電子顕微鏡自身のチャージなどの要因で輝度が変化することがある。そこで、予め設定した時間や、サンプル内の予め設定した場所で輝度調整を行い、輝度の変化が検査および計測の結果に与える影響を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-328234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動的に輝度調整を行う従来の機構の多くは、予め設定しておいた狭い領域でビーム照射を行い、取得した画像のヒストグラムに基づいて輝度調整をするというものである。しかしながら、ビーム照射により電子の放出効率が変化しやすいサンプルでは、ビーム照射毎に輝度が変わり、検査、計測の結果に悪影響を及ぼす場合がある。また、輝度変化は、撮像位置の周辺でのビーム照射履歴に影響されることがあり、撮像位置と離れた場所で輝度調整しても、正しい輝度調整が達成できない場合がある。
【0006】
画像の輝度は、対象パターンの線幅や密度で大きく変わる。例えば、パターン密度が低い画像の輝度は高く、一方パターン密度が高い画像の輝度は低い。このため、異なるパターン密度の領域で輝度調整を行うことでは安定した輝度調整ができない。
【0007】
輝度調整のために、検査および計測目的以外でビームを照射する時間は、検査、計測以外の付加的な時間であり、スループットを低下させることになる。特に大きい領域をスキャンする電子顕微鏡の場合には、スループットを大きく低下させることになる。
【0008】
そこで、本発明は、スループットを下げずに適切な輝度調整を実施することができる画像生成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、表面にパターンが形成されているワークピースの画像を、該画像の輝度を調整しながら生成する方法であって、前記ワークピースの表面内の基準領域を決定し、前記基準領域のパターン密度を、前記基準領域内のパターンの設計データから算定し、前記算定されたパターン密度と所定の範囲内で近似するパターン密度を持つ複数の調整領域を決定し、前記基準領域の画像を走査電子顕微鏡で生成し、前記複数の調整領域のうちの1つの画像を前記走査電子顕微鏡で生成し、前記1つの調整領域の画像の輝度のヒストグラムと、前記基準領域の画像の輝度のヒストグラムとの差が小さくなるように、前記1つの調整領域の画像の輝度を調整するためのパラメータの設定値を調整し、前記ワークピースの表面内の複数の中間領域の複数の画像を前記走査電子顕微鏡で生成する、方法が提供される。
【0010】
一態様では、前記パラメータは、前記走査電子顕微鏡の電子検出感度を決定するアナログパラメータと、画像処理によって輝度を調整するためのデジタルパラメータを含み、前記方法は、前記アナログパラメータの設定値を調整した後に、前記アナログパラメータの前記調整された設定値を前記走査電子顕微鏡に適用し、前記複数の中間領域の複数の画像の画像処理に、前記デジタルパラメータの前記調整された設定値を適用することで、前記複数の画像の輝度を調整する工程をさらに含む。
一態様では、前記複数の調整領域のうちの1つの画像を前記走査電子顕微鏡で生成する工程から、前記複数の中間領域の前記複数の画像の輝度を調整する工程までを繰り返す。
一態様では、前記パターン密度は、対応するCADパターンの幅と長さとの関係によって定義される。
【発明の効果】
【0011】
各調整領域内のパターン密度が、基準領域内のパターン密度に近似するように調整領域が選定される。したがって、各調整領域におけるパラメータの調整は、基準領域におけるパラメータの調整の代替とすることができる。本発明によれば、輝度調整をするたびに基準領域の画像を生成する必要がない。言い換えれば、調整領域および中間領域を含む多数のターゲット領域の画像を生成しながら、ターゲット領域に含まれる複数の調整領域において輝度を調整することができる。結果として、調整領域および中間領域を含む多数のターゲット領域の画像生成のスループットを低下させずに、安定した輝度のターゲット領域の画像生成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】画像生成装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】基準領域のパターン密度を算定する一実施形態を説明する模式図である。
図3】基準領域のパターン密度を算定する他の実施形態を説明する模式図である。
図4】基準領域および複数の調整領域の設定方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
図5】画像を生成する動作の一実施形態を説明するフローチャートである。
図6】輝度のヒストグラムの一例を示す図である。
図7図7(a)は、山の全体が低輝度側に偏っている例を示すヒストグラムであり、図7(b)は、山の全体が高輝度側に偏っている例を示すヒストグラムである。
図8図8(a)乃至図8(c)は、アナログパラメータおよびデジタルパラメータを調整する一実施形態を説明するための輝度のヒストグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、画像生成装置の一実施形態を示す模式図である。画像生成装置は、ワークピースWの画像を生成する走査電子顕微鏡1と、走査電子顕微鏡1の動作を制御する動作制御部5を備えている。ワークピースWの例としては、半導体デバイスの製造に使用されるウェーハ、マスク、パネル、基板などが挙げられる。
【0014】
動作制御部5は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。動作制御部5は、プログラムが格納された記憶装置5aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置5bを備えている。記憶装置5aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置5bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、動作制御部5の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0015】
走査電子顕微鏡1は、電子ビームを放出する電子銃15、電子銃15から放出された電子ビームを集束する集束レンズ16、電子ビームをX方向に偏向するX偏向器17、電子ビームをY方向に偏向するY偏向器18、電子ビームをワークピースWにフォーカスさせる対物レンズ20、ワークピースWを支持するステージ31を有する。電子銃15、集束レンズ16、X偏向器17、Y偏向器18、および対物レンズ20は、カラム30内に配置されている。
【0016】
電子銃15から放出された電子ビームは集束レンズ16で集束された後に、X偏向器17、Y偏向器18で偏向されつつ対物レンズ20により集束されてワークピースWの表面に照射される。ワークピースWに電子ビームの一次電子が照射されると、ワークピースWからは二次電子および反射電子などの電子が放出される。ワークピースWから放出された電子は電子検出器26により検出される。
【0017】
電子検出器26は、ワークピースWから放出された電子(二次電子または反射電子)を光に変換するシンチレータ27と、シンチレータ27により変換された光を電気信号に変換する光電子増幅管(PMT)28と、光電子増幅管28から出力された電気信号を増幅するアナログ増幅器29を有している。ワークピースWから放出された電子(二次電子または反射電子)は、シンチレータ27、光電子増幅管28、アナログ増幅器29を含む電子検出器26によって検出される。電子検出器26から出力された電気信号は、画像取得装置32に入力され画像に変換される。このようにして、走査電子顕微鏡1は、ワークピースWの表面の画像を生成する。画像取得装置32は動作制御部5に接続されている。
【0018】
画像生成装置は、走査電子顕微鏡1によって生成された画像の輝度を調整するための機能を有する。以下、輝度調整について詳細に説明する。画像の輝度を調整するためのパラメータ(以下、輝度パラメータともいう)には、アナログパラメータとデジタルパラメータが含まれる。アナログパラメータは、ワークピースWから放出された電子(二次電子または反射電子)を検出する電子検出器26に適用され、デジタルパラメータは、走査電子顕微鏡1によって生成された画像に対して実行されるデジタル処理に適用される。アナログパラメータは、走査電子顕微鏡1が画像を生成するときに適用され、デジタルパラメータは走査電子顕微鏡1によって生成された画像の画像処理に対して適用される。
【0019】
アナログパラメータは、走査電子顕微鏡1の電子検出感度を決定するパラメータである。より具体的には、電子検出器26から出力される電気信号を調整するための複数のアナログパラメータである。これらアナログパラメータには、光電子増幅管28から出力される電気信号のレベルを調整するためのPMTゲインと、アナログ増幅器29から出力される電気信号のレベルを調整するためのアナログゲインと、アナログ増幅器29から出力される電気信号のピークの位置を輝度値に沿ってシフトさせるアナログオフセットが含まれる。
【0020】
PMTゲインは、入射光を電気信号に変換するときの増幅比を変更するためのパラメータである。PMTゲインを上げると、入射光はより強い電気信号に変換される。アナログゲインおよびアナログオフセットは、アナログ増幅器29の動作を調整するためのパラメータである。アナログゲインを上げると、電気信号のピークは下がるが、電気信号の強さが全輝度範囲に亘ってより均一化される。アナログオフセットを上げると、電気信号のピークの位置は高輝度側に移動する。
【0021】
デジタルパラメータは、画像処理によって輝度を調整するためのパラメータである。デジタルパラメータには、デジタルゲインとデジタルオフセットが含まれる。画像処理は、動作制御部5によって画像に対して実行される。デジタルゲインは、画像を構成する全画素の輝度の全体の分布を変更するためのパラメータである。デジタルゲインを上げると、画像の輝度のピークは下がるが、画像を構成する全画素の輝度がより均一化される。デジタルオフセットは、画像全体の輝度のピークの位置を輝度値に沿ってシフトさせるためのパラメータである。デジタルオフセットを上げると、画像全体の輝度のピークの位置は高輝度側に移動する。
【0022】
このように、本実施形態では、5つの輝度パラメータ、すなわちPMTパラメータ、アナログゲイン、アナログオフセット、デジタルゲイン、およびデジタルオフセットを用いて画像の輝度を調整する。ただし、本発明は本実施形態に限定されず、上述した5つの輝度パラメータのうちのいずれかのみを用いてもよいし、あるいは上述した5つの輝度パラメータ以外のパラメータをさらに用いてもよい。また、複数の電子検出器や、異なる検出方法を組み合わせ、それぞれ独立したパラメータを用いてもよい。
【0023】
多くの画像を生成しているとき、ワークピースWの電気的チャージや、走査電子顕微鏡1自身の電気的チャージなどの要因で画像の輝度が変化することがある。そこで、そのような経時的な輝度の変化を補正するために、画像生成装置は、ワークピースW上の複数のターゲット領域のそれぞれの画像を連続的に生成しながら、画像の輝度を調整するように構成されている。より具体的には、画像生成装置は、ワークピースW上の複数のターゲット領域の画像を生成しながら、ある間隔で輝度を調整する。輝度調整の間隔は、時間的間隔またはワークピースW上の距離的な間隔である。このように、画像を生成しながら輝度を定期的に調整することにより、画像生成装置は、経時的な輝度の変化を補正することができる。
【0024】
輝度調整は、同じまたは類似するパターン密度を有する複数の領域で行われる。これら複数の領域は、1つの基準領域と複数の調整領域を含む。基準領域は、輝度調整に用いられる上記輝度パラメータ(すなわち、PMTパラメータ、アナログゲイン、アナログオフセット、デジタルゲイン、およびデジタルオフセット)の初期値を決定するために使用される領域である。各調整領域は、基準領域内のパターン密度と所定の範囲内で近似するパターン密度を持つ領域である。パターン密度については後述する。
【0025】
輝度調整が行われる基準領域および複数の調整領域は、画像生成の対象である複数のターゲット領域に含まれる。基準領域および複数の調整領域は、ワークピースW上の複数のターゲット領域の画像を生成する前に予め決定される。一実施形態では、基準領域および複数の調整領域は、ワークピースW上の複数のターゲット領域の画像を生成している間に決定されてもよい。動作制御部5は、決定された基準領域および複数の調整領域の位置および大きさをその記憶装置5aに保存する。
【0026】
各調整領域は、基準領域のパターン密度と近似するパターン密度を有する領域である。パターン密度は、各領域内のパターンに対応するCADパターンの幅と長さとの関係によって定義される。より具体的には、パターン密度は、対応するCADパターンの幅と長さから算定される。CADパターンは、ワークピースWに形成されたパターンの設計データに含まれるパターンの設計情報によって定義される仮想パターンであり、ポリゴン形状を有している。ワークピースWに形成されたパターンは、設計データ上のCADパターンに従って形成される。ワークピースWに形成されたパターンの設計データは、動作制御部5の記憶装置5a内に予め格納されている。
【0027】
動作制御部5は、基準領域のパターン密度を、基準領域内のパターンの設計データから算定する。同様に、動作制御部5は、撮像しようとするワークピースW上の複数のターゲット領域のそれぞれのパターン密度を、各ターゲット領域内のパターンの設計データから算定する。
【0028】
図2は、ワークピースW上の基準領域のパターン密度を算定する一実施形態を説明する模式図である。この例では、基準領域内に3つのパターンが存在し、図2に示す3つのパターンは、基準領域内に存在する3つのパターンに対応するCADパターンである。動作制御部5は、基準領域のパターン密度を、設計データから算定する。より具体的には、動作制御部5は、基準領域のパターン密度を、設計データ上の対応するCADパターンの寸法から算定する。図2に示す例では、電子ビームの走査方向に沿った寸法は幅と定義され、電子ビームの走査方向に垂直な方向に沿った寸法は長さと定義される。図2に示すように、3つのCADパターンは、3つの幅W1,W2,W3を有する部分を含む。幅W1の部分の長さの合計はL1であり、幅W2の部分の長さの合計はL2+L3であり、幅W3の部分の長さの合計はL4+L5+L6である。基準領域のパターン密度は、基準領域内のパターンに対応する3つのCADパターンの幅W1,W2,W3と、対応する長さL1,L2+L3,L4+L5+L6との関係として表される。
【0029】
図3は、ワークピースW上の基準領域のパターン密度を算定する他の実施形態を説明する模式図である。図3に示す3つのCADパターンは、図2に示す3つのCADパターンと同じであるが、電子ビームの走査方向が図2とは90°異なる。図3に示すように、3つのCADパターンは、3つの幅W1,W2,W3,W4,W5を有する部分を含む。幅W1の部分の長さの合計はL1であり、幅W2の部分の長さの合計はL2+L3+L4であり、幅W3の部分の長さの合計はL5であり、幅W4の部分の長さの合計はL6であり、幅W5の部分の長さの合計はL7である。基準領域のパターン密度は、基準領域内のパターンに対応する3つのCADパターンの幅W1,W2,W3,W4,W5と、対応する長さL1,L2+L3+L4,L5,L6,L7として表される。
【0030】
動作制御部5は、同じようにして、ターゲット領域のうち、基準領域以外の他の領域のパターン密度を算定する。さらに動作制御部5は、基準領域のパターン密度と所定の範囲内で近似するパターン密度を持つ複数の調整領域を決定する。より具体的には、動作制御部5は、基準領域のパターン密度を、ターゲット領域のそれぞれのパターン密度と比較し、基準領域のパターン密度と所定の範囲内で近似するパターン密度を持つ複数の領域をターゲット領域から選択し、選択された領域を調整領域に決定する。調整領域は、輝度調整が行われる領域である。一実施形態では、近似性の判定に使用される上記所定の範囲は、基準領域のパターン密度(すなわち、基準領域内のCADパターンの幅と長さ)を中心とする数値範囲である。
【0031】
図4は、基準領域および複数の調整領域の設定方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ1-1では、ワークピースWの表面内の基準領域が決定される。基準領域の決定は、ユーザーによって実施されてもよいし、あるいは動作制御部5によって実施されてもよい。動作制御部5は、決定された基準領域の位置および大きさをその記憶装置5aに保存する。基準領域の位置および大きさは、パターンの設計データから特定することができる。
ステップ1-2は、動作制御部5は、基準領域のパターン密度を算定する。
ステップ1-3では、動作制御部5は、ターゲット領域のうち、基準領域以外の他の領域のパターン密度を算定する。
ステップ1-4では、動作制御部5は、基準領域のパターン密度を、上記他の領域のそれぞれのパターン密度と比較し、基準領域のパターン密度と所定の範囲内で近似するパターン密度を持つ複数の調整領域を決定する。動作制御部5は、決定された複数の調整領域の位置および大きさをその記憶装置5aに保存する。複数の調整領域の位置および大きさは、パターンの設計データから特定することができる。
【0032】
このようにして、輝度調整が行われる基準領域および複数の調整領域が決定されると、動作制御部5は走査電子顕微鏡1に指令を発して、基準領域、複数の調整領域、および中間領域(後述する)を含む複数のターゲット領域の画像を走査電子顕微鏡1に生成させる。一実施形態では、走査電子顕微鏡1が複数のターゲット領域の画像を生成しながら、動作制御部5は基準領域および複数の調整領域を決定してもよい。
【0033】
以下、画像を生成する動作について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップ2-1では、動作制御部5は走査電子顕微鏡1に指令を発して、基準領域の画像を走査電子顕微鏡1に生成させる。
ステップ2-2では、動作制御部5は、基準領域の画像を走査電子顕微鏡1から受け取り、基準領域の画像の輝度を調整するためのパラメータの設定値を調整する。本実施形態では、パラメータは、上述した5つの輝度パラメータ(すなわち、PMTパラメータ、アナログゲイン、アナログオフセット、デジタルゲイン、およびデジタルオフセット)である。このステップ2-2で調整されたパラメータの設定値は、パラメータの初期値である。一実施形態では、基準領域の画像の輝度を調整するためのパラメータの設定値は、ユーザーにより調整されてもよい。
【0034】
画像全体の輝度は、輝度のヒストグラムによって表現される。輝度のヒストグラムは、輝度を表す横軸と、各輝度を有する画素の数を表す縦軸を有するグラフである。図6は、輝度のヒストグラムの一例を示す図である。グレースケールの画像では、横軸の輝度は、例えば、0から255までの数値である。この輝度の0から255までの数値範囲は一例であり、他の数値範囲であってもよい。一般に、輝度調整は、図6に示すように、ヒストグラムの山の裾野の一端が、輝度の最小値(図6の例では0)にあり、他端が輝度の最大値(図6の例では255)にあることが好ましい。一方、図7(a)のように、ヒストグラムの山の全体が低輝度側に偏っており、山の裾野の左端がヒストグラム上に現れない場合は、画像は暗く、かつ黒つぶれが多く画像に現れる。別の例では、図7(b)のように、ヒストグラムの山の全体が高輝度側に偏っており、山の裾野の右端がヒストグラム上に現れない場合は、画像は明るく、かつ白飛びが多く画像に現れる。よって、ヒストグラムの山形状が図6に示すような形状になるように輝度調整が行われる。
【0035】
図5に戻り、ステップ2-3では、上記5つのパラメータのうち、アナログパラメータであるPMTパラメータ、アナログゲイン、およびアナログオフセットの調整された設定値を走査電子顕微鏡1に適用する。
ステップ2-4では、動作制御部5は走査電子顕微鏡1に指令を発し、複数の中間領域の複数の画像を走査電子顕微鏡1に連続して生成させる。複数の中間領域は、ターゲット領域に含まれる領域であり、基準領域および上記複数の調整領域以外の領域である。複数の中間領域の数は、輝度調整に必要な時間的間隔または距離的間隔に基づいて定められてもよい。
ステップ2-5では、動作制御部5は、上記5つの輝度パラメータのうち、デジタルパラメータであるデジタルゲインおよびデジタルオフセットの調整された設定値を、上記ステップ2-4で生成した複数の中間領域の複数の画像の画像処理に適用する。上述したように、デジタルパラメータは、画像処理により画像の輝度を調整するパラメータであるため、動作制御部5は、生成された画像の輝度をデジタルパラメータにより調整することができる。デジタルパラメータにより輝度が調整された画像は、動作制御部5の記憶装置5a内に保存される。
【0036】
ステップ2-6では、動作制御部5は走査電子顕微鏡1に指令を発し、複数の調整領域のうちの1つの画像を走査電子顕微鏡1に生成させる。
ステップ2-7では、動作制御部5は、上記1つの調整領域の画像を走査電子顕微鏡1から受け取り、上記1つの調整領域の画像の輝度のヒストグラムと、基準領域の画像の輝度のヒストグラムとの差が小さくなるように、上記1つの調整領域の画像の輝度を調整するためのパラメータの設定値を調整する。具体的には、動作制御部5は、上記1つの調整領域の画像の輝度のヒストグラムの山形状が、基準領域の画像の輝度のヒストグラムの山形状に近づく方向にパラメータの設定値を調整する。本実施形態では、パラメータは、上述した5つの輝度パラメータ(すなわち、PMTパラメータ、アナログゲイン、アナログオフセット、デジタルゲイン、およびデジタルオフセット)である。
【0037】
上記ステップ2-7の一実施形態について、図8(a)乃至図8(c)を参照して説明する。一実施形態では、走査電子顕微鏡1は、ワークピースWの同じ領域を繰り返し撮像して複数の画像を生成し、動作制御部5はこれらの画像を積算し、さらに積算された画像の各画素の輝度値を積算枚数で割り算することで平均画像を生成するように構成されている。
【0038】
図8(a)は、積算される前の複数の画像のうちの1つの画像の輝度のヒストグラムを示す図である。上述した5つの輝度パラメータのうち、アナログパラメータは、積算される前の複数の画像のそれぞれに適用される。具体的には、図8(a)の点線で示すように、動作制御部5は、低輝度側と高輝度側で輝度が飽和しない限りにおいて、輝度レンジを広げる方向に(すなわちコントラストが高くなる方向に)アナログパラメータを調整する。
【0039】
図8(b)は、同じ領域の複数の画像を積算し、さらに積算された画像の各画素の輝度値を積算枚数で割り算することで得られた平均画像の輝度のヒストグラムを示す図である。図8(b)から分かるように、各画素の積算された輝度値が積算枚数で割り算されるので、ランダムノイズは平均画像から除去され、SN比が向上された平均画像が得られる。その一方で、平均画像の輝度レンジは狭くなる(すなわちコントラストが低下する)。
【0040】
そこで、図8(c)に示すように、動作制御部5は、上述した5つの輝度パラメータのうち、デジタルパラメータを平均画像に適用して、輝度レンジを広げる(コントラストを高める)。すなわち、図8(c)のヒストグラムの形状が、点線で示す基準領域の画像の輝度のヒストグラムに近づくように、動作制御部5はデジタルパラメータの設定値を調整する。
【0041】
図5に戻り、ステップ2-8では、動作制御部5は、上記5つのパラメータのうち、デジタルパラメータであるデジタルゲインおよびデジタルオフセットの調整された設定値を、上記ステップ2-5で生成した調整領域の画像の画像処理に適用する。デジタルパラメータにより輝度が調整された画像は、動作制御部5の記憶装置5a内に保存される。
【0042】
ステップ2-9では、動作制御部5は、上記5つのパラメータのうち、アナログパラメータであるPMTパラメータ、アナログゲイン、およびアナログオフセットの調整された設定値を走査電子顕微鏡1に適用する。これらのアナログパラメータは、次に画像を生成する前に走査電子顕微鏡1に適用される。
【0043】
ステップ2-10では、動作制御部5は走査電子顕微鏡1に指令を発し、他の複数の中間領域の複数の画像を走査電子顕微鏡1に連続して生成させる。このステップ2-10の複数の中間領域も、ターゲット領域に含まれる領域である。複数の中間領域の数は、輝度調整に必要な時間的間隔または距離的間隔に基づいて定められてよい。
ステップ2-11では、動作制御部5は、上記ステップ2-7で調整されたデジタルパラメータであるデジタルゲインおよびデジタルオフセットの設定値を、上記ステップ2-10で生成した複数の中間領域の複数の画像の画像処理に適用する。複数の中間領域の各画像の輝度はデジタルパラメータにより調整される。デジタルパラメータにより輝度が調整された画像は、動作制御部5の記憶装置5a内に保存される。
【0044】
ステップ2-12では、動作制御部5は、全てのターゲット領域の画像が生成されたか否かを判定する。全てのターゲット領域の画像が生成されていない場合は、動作制御部5は、ステップ2-6以降を繰り返す。全てのターゲット領域の画像が生成された場合は、動作制御部5は、走査電子顕微鏡1に指令を発して、ターゲット領域の画像の生成を終了させる。
【0045】
各調整領域内のパターン密度は、基準領域内のパターン密度に近似している。したがって、各調整領域におけるパラメータの調整は、基準領域におけるパラメータの調整の代替とすることができる。本実施形態によれば、輝度調整をするたびに基準領域の画像を生成する必要がない。言い換えれば、走査電子顕微鏡1が、調整領域および中間領域を含む多数のターゲット領域の画像を生成しながら、動作制御部5は、ターゲット領域に含まれる複数の調整領域において輝度を調整することができる。結果として、調整領域および中間領域を含む多数のターゲット領域の画像生成のスループットを向上することができる。
【0046】
上述した実施形態は説明を簡便にするためワークピースのパターンが表面の1層のみ解像した画像を想定したが、1次電子を高加速し複数の層のパターンが解像した画像でも、複数層の設計データを使い同様の輝度調整手法を用いる事も可能である。例えば、下層に行くに従い検出器に到達する電子が少なく、検出画像に対する輝度の影響が少なくなる場合は、設計値から算出した層毎のパターン密度に一定の比率を乗じ、実際の検出画像に合うよう勘案する手法も想定される。また、電子の検出器は様々な種類がある。例えば2次電子を主に検出する検出器や、反射電子を主に検出する検出器では、各層からの検出画像へ与える輝度の影響は異なるので、検出器の種類に合わせた各層の貢献比率を勘案する手法も想定される。
【0047】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0048】
1 走査電子顕微鏡
5 動作制御部
15 電子銃
16 集束レンズ
17 X偏向器
18 Y偏向器
20 対物レンズ
26 電子検出器
27 シンチレータ
28 光電子増幅管
29 アナログ増幅器
30 カラム
31 ステージ
32 画像取得装置
図1
図2
図3
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図8