(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153928
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】セラミックグリーンシート用バインダー、セラミックグリーンシートバインダー用組成物、セラミックグリーンシート製造用組成物及びその製造方法、セラミックグリーンシート、並びに、積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20221005BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20221005BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20221005BHJP
C04B 35/636 20060101ALI20221005BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20221005BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20221005BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20221005BHJP
C08L 29/14 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B28B1/30 101
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
C04B35/622
C04B35/636 500
C04B35/468
C08L1/00
C08L33/00
C08L29/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056708
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智文
(72)【発明者】
【氏名】神戸 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】神谷 大介
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
【テーマコード(参考)】
4G052
4J002
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G052DA05
4G052DA08
4J002AB011
4J002AB01W
4J002BE062
4J002BE06X
4J002BG042
4J002BG04X
4J002BG052
4J002BG05X
4J002BG072
4J002BG07X
4J002DM006
4J002FD206
4J002GF00
4J002GQ05
5E001AJ02
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082KK01
(57)【要約】
【課題】強度に優れるセラミックグリーンシートを提供すること。
【解決手段】ナノセルロースを含む、セラミックグリーンシート用バインダー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースを含む、セラミックグリーンシート用バインダー。
【請求項2】
前記ナノセルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、
請求項1に記載のセラミックグリーンシート用バインダー。
【請求項3】
酸化セルロースを含む、セラミックグリーンシートバインダー用組成物であって、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、
セラミックグリーンシートバインダー用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミックグリーンシートバインダー用組成物より作製された、セラミックグリーンシート用バインダー。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセラミックグリーンシート用バインダーを含む、セラミックグリーンシート製造用組成物。
【請求項6】
請求項4に記載のセラミックグリーンシート用バインダーを含む、セラミックグリーンシート製造用組成物。
【請求項7】
バインダー樹脂及びセラミック粉体をさらに含む、
請求項5又は6に記載のセラミックグリーンシート製造用組成物。
【請求項8】
前記バインダー樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂及び/又は(メタ)アクリル系樹脂を含む、
請求項7に記載のセラミックグリーンシート製造用組成物。
【請求項9】
ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート製造用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースと、前記セラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、前記セラミックグリーンシート製造用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
【請求項10】
ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート製造用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースを撹拌し、連続して前記セラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、前記セラミックグリーンシート製造用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
【請求項11】
請求項5~8のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造用組成物より作製された、セラミックグリーンシート。
【請求項12】
請求項11に記載のセラミックグリーンシートを用いる、積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシート用バインダー、セラミックグリーンシートバインダー用組成物、セラミックグリーンシート製造用組成物及びその製造方法、セラミックグリーンシート、並びに、積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックグリーンシートは、セラミック粉体とバインダーとを含むスラリー組成物を用いて形成され、例えば、セラミックコンデンサの製造に使用されている。一般的に、セラミックグリーンシートを積層することにより、セラミックコンデンサが製造される。より詳細には、まず、セラミックグリーンシート上に内部電極となる金属ペーストを印刷したのちグリーンシートを積層し、加熱圧着することにより積層体を製造する。続いて、積層体に熱処理(脱脂処理)を施すことにより、積層体中に含まれるバインダー樹脂を熱分解し、その後、高温焼結する。こうして得られたセラミック焼結体に外部電極を形成し、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0003】
セラミックグリーンシートのバインダーとしては、ポリビニルアセタール樹脂や(メタ)アクリル系樹脂が一般に使用されている。
例えば、特許文献1には、特定組成のポリビニルアセタール樹脂をバインダーとして含むセラミックグリーンシート用スラリー組成物が開示されている。また、特許文献2には、特定組成の(メタ)アクリル系樹脂をバインダーとして含むセラミックグリーンシート用スラリー組成物が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、特定組成の(メタ)アクリレート共重合体を含む積層セラミックコンデンサ製造用スラリー組成物が開示されている。特許文献4には、バインダーとして、水酸基含有樹脂とポリイソシアネートとの反応生成物を含むセラミックグリーンシートが開示されている。特許文献5には、特定の低分子量アクリル重合体と、アクリル樹脂及びブチラール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の特定の樹脂を含むことをセラミックグリーンシート成形用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-089354号公報
【特許文献2】国際公開第2018/235907号
【特許文献3】特開2015-231924号公報
【特許文献4】特開2005-193573号公報
【特許文献5】特開2017-165630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層セラミックコンデンサ等の電子部品は高性能化や小型化が進んでおり、その材料として使用されるセラミックグリーンシートも薄くすることが求められる。セラミックグリーンシートを薄くすると強度の低下が問題となる。
特許文献1~5のセラミックグリーンシートにおいては、ポリビニルアセタール樹脂や(メタ)アクリル系樹脂がバインダーとして使用され、セラミックグリーンシートの強度や伸度の向上に優れるとされるセラミックグリーンシートの材料組成が提案されているが、セラミックグリーンシートのさらなる強度の向上が課題となっている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強度に優れるセラミックグリーンシートを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、セラミックグリーンシートにおけるバインダー成分としてナノセルロースを使用することによりセラミックグリーンシートの強度を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、具体的には以下のとおりである。
[1]
ナノセルロースを含む、セラミックグリーンシート用バインダー。
[2]
前記ナノセルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、
[1]に記載のセラミックグリーンシート用バインダー。
[3]
酸化セルロースを含む、セラミックグリーンシートバインダー用組成物であって、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、
セラミックグリーンシートバインダー用組成物。
[4]
[3]に記載のセラミックグリーンシートバインダー用組成物より作製された、セラミックグリーンシート用バインダー。
[5]
[1]又は[2]に記載のセラミックグリーンシート用バインダーを含む、セラミックグリーンシート製造用組成物。
[6]
[4]に記載のセラミックグリーンシート用バインダーを含む、セラミックグリーンシート製造用組成物。
[7]
バインダー樹脂及びセラミック粉体をさらに含む、
[5]又は[6]に記載のセラミックグリーンシート製造用組成物。
[8]
前記バインダー樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂及び/又は(メタ)アクリル系樹脂を含む、
[7]に記載のセラミックグリーンシート製造用組成物。
[9]
ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート製造用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースと、前記セラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、前記セラミックグリーンシート製造用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
[10]
ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート製造用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースを撹拌し、連続して前記セラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、前記セラミックグリーンシート製造用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
[11]
[5]~[8]のいずれかに記載のセラミックグリーンシート製造用組成物より作製された、セラミックグリーンシート。
[12]
[11]に記載のセラミックグリーンシートを用いる、積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強度に優れるセラミックグリーンシートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0012】
<セラミックグリーンシート用バインダー>
本発明のセラミックグリーンシート用バインダーは、ナノセルロースを含む。本発明のセラミックグリーンシート用バインダーとは、セラミック粉体を成形してグリーンシートを製造するための結着剤を指す。
本発明におけるナノセルロースとは、セルロース系原料をナノ化したものである。ナノセルロースは、補強用フィラーとして、セラミック粉体界面と相互作用して補強し、セラミックグリーンシートの強度を向上すると考えられる。また、ナノセルロースは、グリーンシートを焼成する工程において熱分解され、セラミックグリーンシートのバインダー用途に適する。
【0013】
[ナノセルロース]
本発明に用いられるナノセルロースは、セルロース系原料をナノ化したものである。
植物の主成分はセルロースであり、セルロース分子が束になったものがセルロースミクロフィブリルと称される。セルロース系原料中のセルロースもまた、セルロースミクロフィブリルの形態で含まれている。本発明におけるナノセルロースは、セルロースをナノ化したものの総称を表し、微細セルロース繊維やセルロースナノクリスタル等を含む。微細セルロース繊維は、セルロースナノファイバー(CNFとも記載する)ともいう。
【0014】
本発明におけるナノセルロースは、市販のナノセルロースを用いることもでき、針葉樹パルプ等のセルロース系原料から調製することにより得られたものを用いることもできる。ナノセルロースを調製する場合、例えば、Cellulose Commun., 14(2), 62(2007)、及び、国際公開2018/230354号パンフレット等を参照して調製することができる。
本発明において用いられるナノセルロースとしては、セルロース系原料を機械解繊によって微細化して得られるナノセルロースであってもよく、化学変性して得られるナノセルロースであってもよい。本発明におけるナノセルロースは、好ましくは化学変性ナノセルロースである。ナノセルロースとして化学変性ナノセルロースを用いることにより、効率的にセルロース系原料を微細化することができ、容易にナノセルロースを入手できる傾向にある。
化学変性としては、セルロース構造の一部を変化させるものであれば特に制限されず、例えば、酸化変性、リン酸化変性、及びカルボキシメチル化変性等が挙げられる。酸化変性においては、セルロース系原料を酸化することによって、セルロース構造の少なくとも一部にカルボキシ基が導入される。リン酸化変性においては、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基の少なくとも一部にリン酸基を含む化合物又はその塩が脱水反応してリン酸エステルが形成され、リン酸基又はその塩が導入される。カルボキシメチル化変性においては、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基の少なくとも一部にカルボキシメチル基をエーテル結合させ、カルボキシメチル基が導入される。
【0015】
これらの変性の中でも好ましくは酸化変性である。したがって、本発明におけるナノセルロースは、好ましくは、セルロース系原料を酸化して得られる酸化セルロースのナノ化したものである。すなわち、本発明におけるナノセルロースは、好ましくは、酸化ナノセルロースを含む。
酸化方法としては、特に制限されないが、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(以下、TEMPOとも記載する)等のN-オキシル化合物を用いる酸化、及び次亜塩素酸又はその塩を用いる酸化等が挙げられる。なお、ここでいう次亜塩素酸又はその塩を用いる酸化とは、次亜塩素酸又はその塩がセルロース系原料に作用して起こる酸化を指す。
【0016】
本発明におけるナノセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によってセルロース系原料を酸化して得られる酸化セルロースのナノ化したものであることが好ましい。ここで、上記酸化セルロースは、セルロース系原料の酸化物ともいうことができる。本発明におけるナノセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含むことが好ましい。
次亜塩素酸又はその塩によってセルロース系原料を酸化して得られるものに由来するナノセルロースを用いることにより、グリーンシートを製造する際のスラリーのハンドリング性に優れ、また、得られるグリーンシート表面が均一になり品質に優れる傾向にある。また、上記酸化セルロースは、解繊性に一層優れ、容易にナノ化させてナノセルロースとすることができる。そのため、効率的にセラミックグリーンシート用バインダーあるいはセラミックグリーンシート製造用組成物を得ることができる。
【0017】
本発明におけるナノセルロースは、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化によって得られ、この酸化においてTEMPO等のN-オキシル化合物を用いないことが好ましい。このため、本発明におけるナノセルロースは、N-オキシル化合物を実質的に含まないことが好ましい。したがって、ナノセルロースは、N-オキシル化合物による環境や人体への影響が十分に低減されており安全性が高い。ここで、本明細書において、ナノセルロースが「N-オキシル化合物を実質的に含んでいない」とは、酸化セルロースを製造する際にN-オキシル化合物を用いていない、又は、酸化セルロース中におけるN-オキシル化合物に由来する窒素の含有量が、2.0ppm以下、好ましくは1.0ppm以下であることを意味する。酸化セルロース中のN-オキシル化合物の量は、原料パルプ等のセルロース系原料からの増加分であることが好ましい。N-オキシル化合物の含有量は、公知の手段で測定することができる。公知の手段としては、微量全窒素分析装置を用いる方法が挙げられる。N-オキシル化合物の含有量は、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0018】
本発明におけるナノセルロースが酸化ナノセルロースを含む場合、カルボキシ基を含むが、当該カルボキシ基はH型(-COOH)であってもよく、塩型(-COO-X+:X+は塩型を形成するアニオンである)であってもよく、カルボキシ基を他の化合物と反応させて共有結合を形成し修飾された態様であってもよい。塩の種類は、特に制限されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩及び有機アミン塩等が挙げられる。上記他の化合物としては、第一級、第二級、及び第三級のいずれかのアミンを好適に挙げることができる。
【0019】
本発明におけるセルロース系原料とは、セルロースを主体とした材料であれば特に限定はなく、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロース及びセルロース原料を機械的処理することで解重合した微細セルロース等が挙げられる。なお、セルロース系原料として、パルプを原料とする結晶セルロースなどの市販品をそのまま使用することができる。その他、おからや大豆皮等、セルロース成分を多量に含む未利用バイオマスを原料としてもよい。また、セルロース系原料を酸化する場合、酸化剤を原料パルプの中に浸透しやすくする目的でセルロース系原料を適度な濃度のアルカリで処理してもよい。
【0020】
(カルボキシ基量)
本発明における酸化ナノセルロース及び酸化セルロースのカルボキシ基量は、0.20mmol/g以上2.0mmol/g未満であることが好ましい。当該カルボキシ基量が0.20mmol/g以上であると、酸化セルロースに十分な解繊性を付与することができる。一方、カルボキシ基量が2.0mmol/g未満であると、粒子状のセルロースの比率が少なく品質が均一な酸化ナノセルロースを得ることができる。これによって、酸化ナノセルロースの分散性が向上し、不織布への結着性を一層高めることができると考えられる。こうした観点から、本発明におけるナノセルロース及び酸化セルロースのカルボキシ基量は、より好ましくは0.5mmol/g以上であり、更に好ましくは0.6mmol/g以上であり、より更に好ましくは0.65mmol/g以上である。カルボキシ基量の上限については、より好ましくは1mmol/g以下であり、更に好ましくは0.9mmol/gであり、より更に好ましくは0.8mmol/g以下である。
【0021】
なお、カルボキシ基量(mmol/g)は、酸化セルロースを水と混合した水溶液に0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から下記式を用いて算出した値である。詳細は、後述する実施例に記載の方法にしたがう。カルボキシ基量は、酸化反応の反応時間、反応温度、反応液のpH等を変更することにより調整することができる。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量(g)
【0022】
本発明における酸化セルロースは、N-オキシル化合物を用いない場合、例えば、反応系内における次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度を比較的高濃度(例えば、14質量%~43質量%)とした条件でセルロース系原料を酸化すること等により得ることができる。また、本発明における酸化セルロースは、N-オキシル化合物を用いない場合、有効塩素濃度、反応の際のpH、反応温度等の反応条件を適宜制御することによっても製造することができる。こうして得られた酸化セルロースは、好適には、セルロースを構成するグルコピラノース環の水酸基のうち少なくとも2個が酸化された構造を有し、より具体的には、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入された構造を有することが好ましい。なお、酸化セルロースが有するグルコピラノース環におけるカルボキシ基の位置は、固体13C-NMRスペクトルにより解析することができる。
【0023】
本発明におけるナノセルロースは、1本単位の繊維の集合体である。本発明におけるナノセルロースは、少なくとも1本のCNFを含んでいればよく、CNFが主成分であることが好ましい。ここでCNFが主成分であるとは、ナノセルロースに占めるCNFの割合が50質量%超過であること、好ましくは70質量%超過であること、より好ましくは80質量%超過であることを指す。上記割合の上限は100質量%であるが、98質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
【0024】
本発明におけるナノセルロースの平均繊維長は、50nm以上800nm以下であることが好ましい。平均繊維長が800nmを超える場合、ナノセルロースを含む分散液が増粘する傾向にある。また、平均繊維長が50nmより小さいとナノセルロースの特長である粘性が発現し難くなると共に結着性が低下する傾向にある。また、平均繊維長が50nm以上800nm以下であることにより、バインダーの粘度の上昇を抑え、セラミックグリーンシート製造用組成物としたとき塗工性が一層向上できると共に良好な結着性を付与することができると考えられる。
本発明におけるナノセルロースの平均繊維幅は、特に制限されないが、2.0nm以上5.0nm以下であることが好ましい。平均繊維幅が2.0nm以上5.0nm以下であることにより、バインダー組成物の粘度の上昇を抑え、セラミックグリーンシート製造用組成物としたとき塗工性が一層向上できると考えられる。
【0025】
平均繊維長は、50nm以上550nm以下の範囲がより好ましく、50nm以上500nm以下の範囲がさらに好ましく、50nm以上400nm以下の範囲がよりさらに好ましい。平均繊維幅は2.0nm以上4.5nm以下の範囲がより好ましく、2.5nm以上4.0nm以下の範囲がより好ましい。
【0026】
本発明におけるナノセルロースにおいて、平均繊維幅と平均繊維長との比で表されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)は、20以上200以下であることが好ましい。
アスペクト比が200以下であることにより、結着性を一層高めることができると考えられる。こうした観点から、アスペクト比は、より好ましくは190以下であり、さらに好ましくは180以下である。
その一方で、アスペクト比が低すぎる、すなわち、ナノセルロースの形状が細長い繊維状というよりも太い棒状である場合、偏在により凝集が起こり、分散性が低下する傾向にある。そのため、アスペクト比は、好ましくは20以上であり、より好ましくは30以上であり、さらに好ましくは40以上である。
【0027】
なお、平均繊維幅及び平均繊維長は、ナノセルロースの濃度が概ね1~10ppmとなるようにナノセルロースと水とを混合し、十分に希釈したセルロース水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いてナノセルロースの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
[ナノセルロースの製造方法]
本発明のセラミックグリーンシート用バインダーとして用いることができるナノセルロースの一例の製造方法、具体的には、N-オキシル化合物の実質的な非存在下、次亜塩素酸又はその塩を用いセルロース系原料の酸化によって酸化セルロースを得て(工程Aともいう)、当該酸化セルロースからナノセルロースを得る(工程Bともいう)製造方法を以下に記載する。
【0029】
(工程A:酸化セルロースの製造)
セルロース系原料の酸化に使用される次亜塩素酸又はその塩としては、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び次亜塩素酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすさの点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0030】
セルロース系原料の酸化により酸化セルロースを製造する方法としては、セルロース系原料と、次亜塩素酸又はその塩を含む反応液とを混合する方法が挙げられる。反応液に含まれる溶媒は、取り扱いやすい点や副反応が生じにくい点で、水が好ましい。
酸化においては、次亜塩素酸又はその塩の使用量は特に制限されないが、有効塩素濃度が6質量%以上43質量%以下の次亜塩素酸又はその塩を用いることが好ましい。有効塩素濃度が6質量%以上43質量%以下の次亜塩素酸又はその塩を用いることにより、酸化セルロース中のカルボキシ基量を十分に多くでき、十分に微細化が進行し、酸化反応の後の機械解繊処理を省略できる。
また、反応液(反応系)における次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度も、6~43質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
酸化セルロースの微細化をより円滑に進行させる観点から、有効塩素濃度の下限値は、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、よりさらに好ましくは8.5質量%以上、さらにより好ましくは9質量%以上、一層好ましくは14質量%以上である。また、セルロースが過度に分解することを抑制する観点から、反応液の有効塩素濃度は、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは38質量%以下である。反応液の有効塩素濃度の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができる。
【0032】
なお、次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、以下のように定義される。次亜塩素酸は水溶液として存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸の水素が他の陽イオンに置換された化合物である。例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶媒中(好ましくは水溶液中)に存在するため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量として濃度が測定される。ここで、次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素について、次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は、非結合塩素(Cl2)の2原子と同じ酸化力を持ち、有効塩素=2×(NaClO中の塩素)となる。測定の具体的な手順としては、まず試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム及び酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し有効塩素濃度を測定する。
【0033】
ナノセルロースの製造方法の反応における、pHの調整の有無や、pHの範囲は任意であるが、pHを5.0以上の範囲に調整しながら行うとよい。この範囲であると、セルロース系原料の酸化反応を十分に進行させることができ、酸化セルロース中のカルボキシ基量が十分に多くなり、撹拌による微細化が進行しやすい傾向にある。反応系のpHは、より好ましくは7.0以上、さらに好ましくは8.0以上である。反応系のpHの上限については、特に制限されず、好ましくは14.5以下であり、より好ましくは14.0以下、さらに好ましくは13.0以下である。また、反応系のpHの範囲は、より好ましくは7.0~14.0、さらに好ましくは8.0~13.5である。
【0034】
反応中は、酸化反応によりセルロース系原料にカルボキシ基が生成することに伴い反応系のpHが低下する。このため、酸化反応を効率良く進行させる観点から、アルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム等)又は酸(例えば、塩酸等)を反応系中に添加し、反応系のpHを調整しながら酸化反応を行うことが好ましい。
【0035】
以下、次亜塩素酸又はその塩として次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合を例にして、酸化セルロースを製造する方法についてさらに説明する。
【0036】
次亜塩素酸ナトリウムを用いてセルロース系原料の酸化を行う場合、反応液は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液であることが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を目的とする濃度(例えば、目的濃度:6質量%~43質量%の範囲)に調整する方法としては、目的濃度よりも有効塩素濃度の低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を濃縮する方法、目標濃度よりも有効塩素濃度の高い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈する方法、及び次亜塩素酸ナトリウムの結晶(例えば、次亜塩素酸ナトリウム5水和物)を溶媒に溶解する方法等が挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈する方法、又は次亜塩素酸ナトリウムの結晶を溶媒に溶解する方法により酸化剤としての有効塩素濃度に調整することが、自己分解が少なく(すなわち、有効塩素濃度の低下が少なく)、有効塩素濃度の調整が簡便であるため好ましい。
【0037】
セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合する方法は特に限定されないが、操作の容易性の観点から、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にセルロース系原料を加えて混合することが好ましい。
【0038】
セルロース系原料の酸化反応を効率良く進行させるために、酸化反応中は、セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液を撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌の方法としては、例えば、撹拌翼付き撹拌機、ホモミキサー、ディスパー型ミキサー、ホモジナイザー、外部循環撹拌等が挙げられる。これらのうち、セルロース系原料の酸化反応が円滑に進行し、酸化セルロースの重合度を所定値以下に調整しやすい点で、ホモミキサー及びホモジナイザー等のせん断式撹拌機、撹拌翼付き撹拌機、並びにディスパー型ミキサーのうち1種又は2種以上を用いる方法が好ましく、攪拌翼付き撹拌機を用いる方法が特に好ましい。撹拌翼付き撹拌機を用いる場合、撹拌機としては、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼、後退翼、アンカー翼、ゲート翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼、ヘリカルリボン翼、スクリュー翼(ドラフトチューブ付き等)等の公知の撹拌翼を備える装置を使用することができる。また、撹拌翼付き撹拌機を用いる場合、回転速度50~1000rpmにて撹拌を行うことが好ましい。また、一軸混錬機、二軸混錬機等の多軸混錬機も使用することができる。
【0039】
酸化反応における反応温度は、通常15℃~100℃の範囲であればよい。酸化反応の進行をより高める観点から、反応温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは30℃超過、さらに好ましくは31℃以上であり、よりさらに好ましくは35℃以上である。反応温度を高くするほど粘度は高くなり、反応系の均一性が低下する傾向にある。反応系の均一性を高め、生産性を向上する観点から、反応温度は、好ましくは60℃以下、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。
酸化反応の反応時間は、酸化の進行の程度にしたがって設定することができるが、通常15分~50時間程度である。酸化反応の進行をより高める観点から、反応時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは2時間超過、さらに好ましくは3時間以上である。
【0040】
反応を行う際の圧力は、特に制限されないが、通常、常圧以上1.0MPaG以下(ゲージ圧、以下同様。)の範囲である。ここで常圧とは、大気圧に等しい圧量である。
加圧下で酸化を行うことにより、次亜塩素酸又はその塩の使用量を抑えられ、より効率的に酸化セルロースを製造できる傾向にある。効率性の観点から、圧力は、好ましくは0.1MPaG以上1.0MPaG以下である。このとき、次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、0質量%超過43質量%以下であればよく、効率性を高める観点から、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上10質量%以下である。
【0041】
酸化セルロースの製造では、セルロース系原料を酸化した後、当該酸化反応を停止するための処理を行ってもよい。酸化反応を停止する処理としては、特に制限されないが、例えば、酸や金属触媒を添加する方法が挙げられる。また、次亜塩素酸又はその塩を還元する方法が好適に挙げられる。酸化反応を停止する処理としては、具体的には、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を添加する方法が挙げられる。還元剤の添加量は、次亜塩素酸又はその塩の量(有効塩素濃度)に応じて適宜調整すればよい。
【0042】
上記反応により得られた酸化セルロースを含む溶液を用いて、遠心分離やろ過等の公知の単離処理を行い、さらに必要に応じて精製することにより、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物として酸化セルロースを得ることができる。また、単離処理においては、酸化セルロースを含む溶液のpHを4以下に調整する等して酸化セルロース中のカルボキシ基の一部又は全部をH型(-COOH)にしてもよい。また、上記反応により得られた酸化セルロースを含む溶液をそのまま用いてもよく、例えば、次の解繊工程に供してもよい。
【0043】
(還元処理工程)
上記酸化処理後のセルロース繊維は、必要に応じて還元剤により還元させてもよい。これにより、アルデヒド基及びケトン基の少なくとも一部が還元され、水酸基に戻る。なお、カルボキシ基は還元されない。そして、この還元により得られる酸化セルロースの、後述するセミカルバジド法によって算出されるカルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含有量は、好ましくは0.3mmol/g以下、より好ましくは0.1mmol/g以下である。カルボニル基量が0.3mmol/g以下であることにより、ナノセルロースの分子量低下が抑制され、溶剤中での増粘効果を長期間維持することができる傾向にある。なお、カルボニル基が0.3mmol/gを超えると、長期保存による凝集物の発生や、粘度が時間経過と共に著しく低下する傾向にある。
上記還元反応に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することができ、例えば、LiBH4、NaBH3CN、NaBH4等が挙げられる。コスト及び利用可能性という観点から、これらの中でもNaBH4が好ましい。
上記還元剤の量は、酸化セルロースの質量を基準として、0.1~20質量%の範囲であればよい。反応条件は、室温または室温より若干高い温度で、10分~10時間の範囲であればよい。
【0044】
セミカルバジド法による、カルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含有量の測定は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、まず、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうする。次いで、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌する。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えて、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式に従い、試料中のカルボニル基量を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応してシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシル基とは反応しないことから、上記測定により、カルボニル基量のみを定量できると考えられる。
【0045】
酸化セルロースは、分散液の形態であることが好ましい。ここでいう分散液とは、酸化セルロースを含む懸濁液である。上記分散液は、酸化の際に用いた溶媒を含んでいてもよい。また、分散媒を適宜添加して分散液の形態としてもよい。酸化セルロースが分散液であることにより、取り扱いがしやすく、また、微細化が進行しやすい傾向にある。
本発明における酸化セルロースが分散液である場合、分散液の全量を100質量%としたとき、酸化セルロースの量は、通常0.1質量%以上95質量%以下の範囲であり、好ましくは1質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上30質量%以下である。
【0046】
酸化セルロースは、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩を用いて酸化して得られる繊維状セルロースを含む。酸化セルロースは、酸化セルロース繊維ともいう。すなわち、酸化セルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む。なお、植物の主成分はセルロースであり、セルロース分子が束になったものがセルロースミクロフィブリルと称される。セルロース系原料中のセルロースもまた、セルロースミクロフィブリルの形態で含まれている。
【0047】
(工程B:解繊処理)
ナノセルロースは、上記で得られた酸化セルロースを必要に応じて解繊してナノ化することにより得ることができる。酸化セルロースを解繊する方法としては、マグネチックスターラー等を用いた弱い撹拌による方法、機械的解繊による方法等が挙げられる。
【0048】
機械的解繊の方法としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸又は多軸混錬機、自転公転撹拌機、振動型撹拌機等の各種混合・撹拌装置による方法が挙げられる。これらの装置を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用し、好ましくは分散媒中で酸化セルロースを処理することにより、酸化セルロースをナノ化してナノセルロースを製造することができる。
【0049】
酸化セルロースの解繊は、解繊がより進んだナノセルロースを製造できる点で、超高圧ホモジナイザーによる方法を好ましく用いることができる。超高圧ホモジナイザーによる解繊処理を適用する場合、解繊処理時の圧力は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは120MPa以上であり、さらに好ましくは150MPa以上である。解繊処理回数は特に限定されないが、解繊を十分に進行させる観点から、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上である。また、上記酸化セルロースは、自転公転撹拌機及び振動型撹拌機等による温和な撹拌によっても十分に解繊できる。振動型撹拌機としては、例えば、ボルテックスミキサー(タッチミキサー)が挙げられる。すなわち、上記酸化セルロースによれば、温和な解繊条件により解繊処理を行った場合にも、均一化されたナノセルロースを得ることができる。
【0050】
解繊処理は、好ましくは上記酸化セルロースを分散媒と混合した状態で行われる。当該分散媒としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。分散媒の具体例としては、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキサイド等が挙げられる。溶媒としては、これらのうちの1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
上記分散媒のうち、アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、メチルセロソルブ、エチレングリコール及びグリセリン等が挙げられる。エーテル類としては、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン及びメチルエチルケトン等が挙げられる。
【0052】
本発明におけるナノセルロースは、以下のゼータ電位及び光透過率を満たすことが好ましい。
【0053】
(ゼータ電位)
本発明におけるナノセルロースは、好ましくはゼータ電位が-30mV以下である。ゼータ電位が-30mV以下(すなわち、絶対値が30mV以上)であると、ミクロフィブリル同士の反発が十分に得られ、機械的解繊時に表面電荷密度が高いナノセルロースが生じやすくなる。これにより、ナノセルロースの分散性が向上し、分散液としたときの粘度安定性に優れる傾向にある。
ゼータ電位が-100mV以上(すなわち、絶対値が100mV以下)の場合には、酸化の進行に伴う繊維方向の酸化切断が抑制される傾向にあるため、均一なサイズのナノセルロースを得ることができ、結着性がより高まる傾向にある。
【0054】
本発明におけるナノセルロースのゼータ電位は、-35mV以下が好ましく、-40mV以下がより好ましく、-50mV以下がさらに好ましい。また、ゼータ電位の下限については、-70mV以上が好ましく、-65mV以上がより好ましく、-60mV以上がさらに好ましい。ゼータ電位の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができる。
なお、本明細書においてゼータ電位は、ナノセルロースと水とを混合してナノセルロースの濃度を0.1質量%としたセルロース水分散体につき、pH8.0、20℃の条件で測定した値である。
具体的には、以下の方法に従い測定することができる。
ナノセルロースの水分散体に純水を加えて、ナノセルロースの濃度が0.1%になるように希釈する。希釈後のナノセルロースの水分散体に、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.0に調整して、大塚電子社製ゼータ電位計(ELSZ-1000)等のゼータ電位測定装置によりゼータ電位を20℃で測定する。
【0055】
(光透過率)
本発明におけるナノセルロースは、凝集物が少なく、分散媒中に分散させたナノセルロース分散体は、微細セルロース繊維の光散乱等が少なく、高い光透過率を示す傾向にある。具体的には、本発明におけるナノセルロースは、水と混合して固形分濃度0.1質量%とした混合液における光透過率が95%以上であることが好ましい。当該光透過率は、より好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上である。なお、光透過率は、分光光度計により測定した波長660nmでの値である。また、光透過率は、ナノセルロースを含む水分散体を用いて測定することができる。
具体的には、以下の方法に従い測定することができる。
ナノセルロースの水分散体を10mm厚の石英セルに入れて、JASCO V-550等の分光光度計により波長660nmの光透過率を測定する。
【0056】
ゼータ電位及び光透過率は、次亜塩素酸又はその塩を用いて酸化することにより制御でき、特に、酸化反応の反応時間、反応温度、撹拌条件等を調整することにより制御することができる。具体的には、反応時間を長くする、及び/又は反応温度を高くするに従って、セルロース系原料中のセルロースミクロフィブリル表面への酸化が進行し、静電的反発や浸透圧によりフィブリル間の反発が強まることにより平均繊維幅がより小さくなる傾向がある。また、酸化をより進行させる側(すなわち、酸化度合いを高くする側)に酸化の反応時間、反応温度及び撹拌条件の1つ以上を設定する(例えば、反応時間を長くする)ことによってゼータ電位を高くできる傾向にある。
【0057】
本発明に用いられる酸化セルロースの重合度は600以下であることが好ましい。酸化セルロースの重合度が600を超えると、解繊に大きなエネルギーを要する傾向にあり、十分な易解繊性を発現することができず、ナノセルロースの分散性の低下、ひいては強度の低下を招来する傾向にある。易解繊性の観点からは、酸化セルロースの重合度の下限は特に設定されない。ただし、酸化セルロースの重合度が50未満であると、繊維状というより粒子状のセルロースの割合が多くなり、ナノセルロースとしての効果が低下する恐れがある。上記の観点から、酸化セルロースの重合度は、50以上600以下の範囲であることが好ましい。
【0058】
酸化セルロースの重合度は、より好ましくは580以下であり、さらに好ましくは560以下であり、よりさらに好ましくは550以下であり、一層好ましくは500以下であり、より一層好ましくは450以下である。重合度の下限については、分散液の粘度安定性及び塗工性を良好にする観点から、より好ましくは80以上であり、さらに好ましくは90以上であり、よりさらに好ましくは100以上であり、一層好ましくは110以上であり、より一層好ましくは120以上である。重合度の好ましい範囲は、既述の上限及び下限を適宜組み合わせることにより定めることができる。
酸化セルロースの重合度は、粘度法により測定された平均重合度(粘度平均重合度)である。詳細は、以下の記載の方法に従う。
pH10に調整した水素化ホウ素ナトリウム水溶液に酸化セルロースを加え、25℃で5時間、還元処理を行う。水素化ホウ素ナトリウム量は、酸化セルロース1gに対して0.1gとする。還元処理後、吸引ろ過にて固液分離、水洗を行い、得られた酸化セルロースを凍結乾燥させる。純水10mlに乾燥させた酸化セルロース0.04gを加えて2分間撹拌した後、1M銅エチレンジアミン溶液10mlを加えて溶解させる。その後、キャピラリー型粘度計にて25℃でブランク溶液の流下時間とセルロース溶液の流下時間測定する。ブランク溶液の流下時間(t0)とセルロース溶液の流下時間(t)、化学変性セルロースの濃度(c[g/ml])から次式のように相対粘度(ηr)、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を順次求め、粘度測の式から酸化セルロースの重合度(DP)を計算する。
ηr=η/η0=t/t0
ηsp=ηr-1
[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
DP=175×[η]
【0059】
なお、酸化セルロースの重合度は、次亜塩素酸又はその塩を用いて酸化することにより制御でき、特に、酸化反応の際の反応時間、反応温度、pH、及び次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度等を変更することにより調整することができる。具体的には、酸化度を高めると重合度が低下する傾向があることから、重合度を小さくするには、例えば酸化の反応時間及び/又は反応温度を大きくする方法が挙げられる。他の方法として、酸化セルロースの重合度は、酸化反応時の反応系の攪拌条件によって調整することができる。例えば、攪拌翼等を用いて反応系を十分に均一化した条件下であれば、酸化反応が円滑に進行し、重合度が低下する傾向がある。一方、スターラーによる攪拌等のように反応系の攪拌が不十分となりやすい条件下では、反応が不均一になりやすく、酸化セルロースの重合度を十分に低減することが難しい。また、酸化セルロースの重合度は、原料セルロースの選択によっても変動する傾向がある。このため、セルロース系原料の選択によって酸化セルロースの重合度を調整することもできる。
【0060】
[その他の成分]
本発明のセラミックグリーンシート用バインダーは、ナノセルロース以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分として、ナノセルロース以外のバインダー成分を含んでいてもよい。バインダー成分としては、特に制限されず、セラミックグリーンシートに用いることができる結着性のある成分が挙げられる。例えば、後述するバインダー樹脂を好適に挙げることができる。
その他の成分として、ナノセルロースの分散媒を挙げることができる。分散媒としては、上記[ナノセルロースの製造方法]にて挙げた分散媒と同様のものを挙げることができる。
【0061】
<セラミックグリーンシートバインダー用組成物>
本発明におけるナノセルロースは、酸化セルロースに由来しうる。そのため、上記酸化セルロースは、セラミックグリーンシート用バインダーの材料として使用することができる。
特に、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、酸化セルロース(以下、次亜酸化セルロースともいう)は、解繊性に一層優れる傾向にあり、セラミックグリーンシート用バインダーを作製に好適に用いることができる。本発明の一つは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、酸化セルロースを含むセラミックグリーンシートバインダー用組成物である。
【0062】
本発明のセラミックグリーンシートバインダー用組成物とは、セラミックグリーンシート用バインダーを製造するための材料組成物を指し、当該組成物よりナノセルロースを含むセラミックグリーンシート用バインダーを得ることができる。したがって、本発明の一つは、本発明のセラミックグリーンシートバインダー用組成物より作製されたセラミックグリーンシート用バインダーである。
本発明のセラミックグリーンシートバインダー用組成物は、撹拌等により適宜せん断力等を加えることにより、ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート用バインダーとすることができる。また、本発明のセラミックグリーンシートバインダー用組成物とセラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料とを一緒に含む混合物を撹拌することにより、ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート製造用組成物とすることもできる。
本発明のセラミックグリーンシートバインダー用組成物に含まれる酸化セルロースやその酸化セルロースに由来するナノセルロース等の態様は、前記<セラミックグリーンシート用バインダー>にて述べた酸化セルロースやナノセルロース等の態様と同様である。
【0063】
<セラミックグリーンシート製造用組成物>
本発明のセラミックグリーンシート用バインダーは、セラミックグリーンシートの製造に用いることができる。本発明の一つは、本発明のバインダーを含むセラミックグリーンシート製造用組成物(以下、単にシート製造用組成物ともいう)である。本発明のシート製造用組成物より、セラミックグリーンシートを得ることができる。本発明のシート製造用組成物の態様は、特に制限されないが、スラリー状であることが好ましい。
【0064】
本発明のセラミックグリーンシート製造用組成物は、少なくとも本発明のバインダーを含んでいればよいが、さらにセラミック粉体を含むことが好ましい。本発明のセラミックグリーンシート製造用組成物は、さらにバインダー樹脂を含むことが好ましい。
【0065】
(セラミック粉体)
セラミック粉体としては、セラミック材料として公知のものを使用でき、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、フェライト類、水酸化アルミ、炭化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、黒鉛類、ガラス系材料等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セラミックグリーンシート製造用組成物が例えば積層セラミックコンデンサ等の誘電体層に用いられる場合、セラミックグリーンシート製造用組成物を構成するセラミック粉体としては、チタン酸バリウムが好適に用いられる。そして、このチタン酸バリウム系の誘電体セラミックを誘電体材料として用いる場合、各種電気特性を改良するために、様々な副成分を添加することが行われてもよい。副成分としては、例えば、希土類元素、Mg、Mn等が挙げられる。
【0066】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に制限されないが、セラミックグリーンシートの製造に用いられる樹脂を使用することができる。バインダー樹脂としては、具体的には、ポリビニルアセタール樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。バインダー樹脂は、市販品を用いてもよく、重合等により調製して用いてもよい。
【0067】
ポリビニルアセタール樹脂
本明細書において、ポリビニルアセタール樹脂とは、ポリビニルアルコールにアルデヒドを反応させてアセタール化した樹脂である。ポリビニルアセタール樹脂には、ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を架橋したものも含まれる。
【0068】
上記ポリビニルアルコールとしては、特に限定されず、例えば、重合度が1000~10000の範囲のものを使用すればよい。
【0069】
上記アルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β-フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。
【0070】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、エチレン性不飽和単量体に由来する成分を含有する変性ポリビニルアセタール樹脂であってもよい。上記エチレン性不飽和単量体に由来する成分としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリルメタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのエチレン性不飽和単量体に由来する成分を含有する場合、上記エチレン性不飽和単量体の含有量は2.0モル%未満であることが好ましい。
【0071】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、主鎖にα-オレフィンセグメントをランダムに含有する変性ポリビニルアセタール樹脂であってもよい。α-オレフィンとしては特に限定されず、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレン等に由来するものが挙げられる。
【0072】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造方法としては特に限定されず、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下でポリビニルアルコール樹脂の水溶液に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、特に制限されないが、通常10~100モル%の範囲である。
【0073】
ポリビニルアセタール樹脂としては、公知の樹脂を用いることができ、例えば、特開2006-89354号公報に記載のポリビニルアセタール樹脂を挙げることができる。
ポリビニルアセタール樹脂は市販品を用いることもでき、市販品としては、例えば、積水化学工業社の「エスレック」シリーズ、クラレ社の「モビタール」シリーズ等が挙げられる。
【0074】
(メタ)アクリル系樹脂
本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル系単量体に由来する単位を少なくとも含む樹脂である。
【0075】
上記(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル化合物、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物、(ジ)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート化合物、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0076】
これらの具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル等を;(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル化合物として、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル等を;(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物として、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等を;(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル化合物として、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル等を;(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル化合物として、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等を;(ジ)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート化合物として、N-[2-(メチルアミノ)エチル](メタ)アクリレート、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル](メタ)アクリレート、N-[2-(エチルアミノ)エチル](メタ)アクリレート及びN-[2-(ジエチルアミノ)エチル](メタ)アクリレート等を;エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物として、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等を;ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート化合物として、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等を、それぞれ挙げることができる。(メタ)アクリル系単量体としては、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
セラミック粉体の分散安定性をより高める観点から、(メタ)アクリル系単量体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を含むことが好ましい。
【0077】
上記(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位(以下「(メタ)アクリル単位」ともいう)を主体とする重合体であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂における(メタ)アクリル単位の含有割合は、(メタ)アクリル系樹脂の全構造単位に対して、通常70質量%以上であればよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体以外の、スチレン等の芳香族ビニル単量体;マレイミド、N-置換マレイミド化合物等のイミド基含有ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニル単量体(以下「その他のビニル単量体」ともいう)に由来する構造単位を有していてもよい。
【0078】
上記(メタ)アクリル系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、特に制限されないが、通常10,000~500,000の範囲であればよい。(メタ)アクリル系樹脂のGPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、通常50,000~2,000,000の範囲であればよい。
(メタ)アクリル系樹脂は、ラジカル重合法、アニオン重合法等の公知の重合方法により製造することができる。
【0079】
(メタ)アクリル系樹脂としては、国際公開第2018/235907号に記載の(メタ)アクリル系樹脂等を挙げることができる。
(メタ)アクリル系樹脂は市販品を用いることもでき、市販品としては、例えば、共栄社化学社の「オリコックス」シリーズ、日油社の「マープルーフ」シリーズ、東亞合成社の「アロンAS」シリーズ等が挙げられる。
【0080】
(その他の成分)
本発明のシート製造用組成物は、その他の成分として、さらに、セルロース系樹脂等のバインダー樹脂、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0081】
本発明のシート製造用組成物におけるナノセルロースの含有量は、セラミック粉体100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましい。ナノセルロースの含有量が0.01質量部以上であることにより、セラミックグリーンシートの強度を向上できる傾向にある。また、ナノセルロースの含有量が10質量部以下であることにより、スラリー粘度の安定性が高まり、塗工性が向上する傾向にある。ナノセルロースの含有量は、強度を一層向上する観点から、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.2質量部以上であり、よりさらに好ましくは0.4質量部以上である。ナノセルロースの含有量は、スラリー粘度の安定性をより高め、塗工性を一層向上させる観点から、より好ましくは8質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以下であり、よりさらに好ましくは3質量部以下である。
【0082】
本発明のシート製造用組成物がバインダー樹脂を含むとき、バインダー樹脂の含有量は、セラミック粉体100質量部に対して、通常1質量部以上40質量部以下の範囲である。バインダー樹脂の含有量の下限は、2質量部以上であってもよく、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよい。バインダー樹脂の含有量の上限は、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよい。
【0083】
本発明のシート製造用組成物はスラリー状であることが好ましく、有機溶剤を含むことが好ましい。有機溶剤としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酪酸2-エチルヘキシル等のエステル類;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、α-テルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。バインダーの溶解性及び有機溶媒の除去のしやすさの観点から、芳香族炭化水素類とアルコール類との混合溶媒、ケトン系溶媒が好ましく、トルエンとエタノールとの混合溶媒、メチルエチルケトンがより好ましく、トルエンとエタノールとの混合溶媒がさらに好ましい。芳香族炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒における質量比(すなわち、芳香族炭化水素系溶媒の質量:アルコール系溶媒の質量、特にトルエンの質量:エタノールの質量)は、好ましくは30:70~70:30の範囲である。
有機溶剤の含有量は、スラリー状になる量であれば特に制限されず、適宜調整すればよいが、通常シート製造用組成物の固形分量に対して、0.1~5倍量の範囲であればよく、0.3~1倍量の範囲であってもよい。
【0084】
[セラミックグリーンシート製造用組成物の製造方法]
本発明のシート製造用組成物は、本発明のバインダーと、当該組成物を構成するその他の成分を適宜混合することにより製造することができる。また、本発明のシート製造用組成物は、上述したように、酸化セルロース、好ましくは次亜酸化セルロースを用いて製造することもできる。
酸化セルロースは、シート製造用組成物製造の際に、分散させる操作や混錬する操作によって、組成物中で解繊されて少なくとも一部がナノセルロースとなりうる。具体的には、酸化セルロースとシート製造用組成物の酸化セルロース以外の材料とを配合して、分散あるいは混錬操作等の撹拌を行い混合物中で解繊させたり、酸化セルロースの使用者が自ら解繊してナノ化させたりすることによって、ナノセルロースとすることができる。上記撹拌としては、上述した(工程B:解繊処理)によって行うことができる。
【0085】
本発明の好適な態様の一つは、ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート製造用組成物の製造方法であって、酸化セルロースと、前記セラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、前記セラミックグリーンシート製造用組成物を得る工程を含み、前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法である。
【0086】
本発明の好適な態様の一つは、ナノセルロースを含むセラミックグリーンシート製造用組成物の製造方法であって、酸化セルロースを撹拌し、連続して前記セラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、前記セラミックグリーンシート製造用組成物を得る工程を含み、前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法である。
【0087】
セラミックグリーンシート製造用組成物のナノセルロース以外の材料とは、当該組成物に含まれうる、任意の材料であり、例えば、上述したその他のバインダー成分やセラミック粉体等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、本明細書において「連続して材料を添加する」とは、撹拌による酸化セルロースの微細化と材料の添加とを一連で行うことを意味する。撹拌と添加を一連で行う具体的な態様としては、例えば、酸化セルロースを撹拌して微細化することと上記材料を添加することをワンポットで操作する態様;酸化セルロースの撹拌を行いながら、同時に上記材料を添加する態様;等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明のシート製造用組成物は、例えば、以下のとおり製造することができる。
まず、セラミック粉体の分散液を調製する。調製方法は特に制限されないが、セラミック粉体に、必要に応じて分散剤を加え、溶剤とともに、ビーズミル等で撹拌することにより、セラミック粉体の分散液を得ることができる。
次に、上記セラミック粉体の分散液に、酸化セルロース、及び必要に応じてバインダー樹脂を加え、自転公転ミキサー等で撹拌してスラリー状になるまで適宜せん断力を加え、シート製造用組成物を得ることができる。
【0089】
<セラミックグリーンシート>
本発明のセラミックグリーンシートは、本発明のセラミックグリーンシート製造用組成物を用いて作製することができる。本発明のセラミックグリーンシートの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、本発明のシート製造用組成物をポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)等の剥離性の支持体上に流延成形し、加熱等により溶剤等を溜去させた後、支持体から剥離する方法等が挙げられる。
【0090】
<積層セラミックコンデンサ>
本発明のセラミックグリーンシートは、例えば、積層セラミックコンデンサの製造に用いることができる。
本発明のセラミックグリーンシートに導電ペーストを塗布したものを積層することにより、本発明のセラミックグリーンシートと誘電体層とから形成された積層セラミックコンデンサを製造することができる。積層セラミックコンデンサを製造する方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
【0091】
具体的には、まず、本発明のシート製造用組成物を、離型処理されたPET等の支持体上に塗布する。続いて、乾燥処理によって支持体上のスラリー組成物から揮発成分を除去して成膜し、セラミックグリーンシートを得る。このセラミックグリーンシート上に、内部電極となる金属ペーストを印刷して乾燥し、電極付きセラミックグリーンシートを支持体から剥離する。これを複数枚積層して加熱圧着することにより積層体を作製し、積層体を所定の形状に切断してセラミックグリーンチップを得る。得られたセラミックグリーンチップを熱処理することによって脱脂(バインダーの熱分解)を行った後、セラミックを高温で焼結する。こうして積層セラミックコンデンサが得られる。
また、上記金属ペーストの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、バインダー樹脂に、金属等の導電性粉末、分散剤、可塑剤、溶剤等を混合する方法等が挙げられる。
【実施例0092】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0093】
[製造例1:酸化セルロースの調製]
有効塩素濃度が33質量%である次亜塩素酸ナトリウム水溶液に純水を加えて撹拌し、有効塩素濃度21質量%液700gを調整した。そこへ、35質量%塩酸を加えて撹拌し、pH11の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。
上記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を新東科学社製の撹拌機(スリーワンモータ、BL600)にて三枚後退翼型撹拌羽根を使用して200rpmで撹拌しながら恒温水浴にて30℃に加温した後、セルロース系原料として、ティーディーアイ社の粉末パルプ(VP-1)を50g加えた。
セルロース系原料を供給後、同じ恒温水槽で30℃に保温しながら、48質量%水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを11に調整して、2時間、撹拌機にて同条件で撹拌を行った。
反応終了後、遠心分離(1000G、10分間)及びデカンテーション、除いた液に相当する量の純水を追加して分散、を繰り返すことにより精製した酸化セルロースを回収した。カルボキシ基量を測定したところ、0.70mmol/gであった。その後、塩酸を加えて酸化セルロースのカルボキシ基を塩型(-COO-Na+)からプロトン型(-COO-H+)とし、pH2.5の水分散体を得た。そこへ同量のエタノールを加えて分散させ、遠心分離(1000G、10分間)及びデカンテーション、除いた液に相当する量のエタノールを追加して分散、を繰り返すことにより、分散媒を水からエタノールに替えてプロトン型酸化セルロースを回収した。これをエタノールで濃度調整して10質量%濃度のプロトン型酸化セルロースのエタノール分散液を得た。
酸化セルロース中のN-オキシル化合物由来の残留窒素成分は、1.0ppm以下であった。なお、残留窒素成分は、微量全窒素分析装置(日東精工アナリテック(株)製、装置名:TN-2100H)を用いて窒素量として測定し、原料パルプからの増加分として算出した。
【0094】
なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は以下の方法により測定した。
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度の測定)
次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を純水に加えた水溶液0.582gを精密に量り、純水50mlを加え、ヨウ化カリウム2g及び酢酸10mlを加え、直ちに密栓して暗所に15分間放置した。15分間の放置後、遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した結果(指示薬 デンプン試液)、滴定量は34.55mlであった。別に空試験を行い補正し、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1mlが3.545mgClに相当するので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は21質量%である。
【0095】
酸化セルロースのカルボキシ基量は以下の方法により測定した。
(カルボキシ基量の測定)
酸化セルロースの濃度を0.5質量%に調整した酸化セルロース水分散体60mlに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いてカルボキシ基量(mmol/g)を算出した。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロースの質量(g)
【0096】
[製造例2:ナノセルロースの調製]
セルロース系原料として、製造例1と同じ粉末パルプを準備した。
TEMPOを0.16g及び臭化ナトリウムを1.0gビーカーに入れ、純水を加えて撹拌して水溶液とし、上記機械解繊した針葉樹クラフトパルプを10.0g加えた。
上記水溶液をスターラーで撹拌しながら恒温水浴にて25℃に加温した後、0.1M水酸化ナトリウムを加えて撹拌し、pH10.0の水溶液とした。そこへ、有効塩素濃度13.2質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液25.8gを加え、同じ恒温水槽で25℃に保温した状態で、0.1M水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを10.0に調整して、120分間スターラーで撹拌を行った。反応終了後、遠心分離(1000G、10分間)及びデカンテーション、除いた液に相当する量の純水を追加して分散、を繰り返すことにより精製した酸化セルロースを回収した。カルボキシ基量を測定したところ、1.50mmol/gであった。
この酸化セルロースに純水を加え2質量%濃度の分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバーストラボ」にて200MPaで、20パス処理し、ナノセルロースの水分散体を得た。
なお、超高圧ホモジナイザーでは、内蔵された超高圧解繊部に酸化セルロース水分散液を循環通液させて解繊を進めた。その解繊部への通液1回分を1パスと呼んでいる。
その後、塩酸を加えてナノセルロースのカルボキシ基を塩型(-COO-Na+)からプロトン型(-COO-H+)とし、pH2.5の水分散体を得た。そこへ同量のエタノールを加えて分散させ、遠心分離(1000G、10分間)及びデカンテーション、除いた液に相当する量のエタノールを追加して分散、を繰り返すことにより、分散媒を水からエタノールに替え、さらに濃度調整して2質量%濃度のプロトン型CNFのエタノール分散液を得た。〔繊維長と繊維幅の測定方法〕にて分析した結果、含まれるナノセルロースは平均繊維長860nm、平均繊維幅3.6nmであった。
【0097】
[実施例1]
<スラリー組成物の調製>
セラミック粉体として粒子径0.1μm堺化学工業(株)製「BT-01」)100質量部、分散剤として日油(株)製「マリアリムSC-0505K」1質量部、並びに、溶剤としてトルエン35質量部及びエタノール35質量部を、粒子径0.1mmのジルコニアビーズ100質量部と共に、ビーズミル(アイメックス(株))製「イージーナノ RMB」)を用いて500rpmで5時間攪拌した後、ジルコニアビーズをろ別し、チタン酸バリウム分散液を調製した。
この分散液171質量部に対し、バインダー樹脂(積水化学工業(株)製「エスレックBH-6」)10質量部、可塑剤(フタル酸ジイソノニル)2質量部、製造例1の酸化セルロース(10質量%エタノール分散液)2質量部(固形分として0.2質量部)、トルエン15質量部、エタノールを酸化セルロースからの持ち込み分と合わせて15質量部加えた後、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで5分間攪拌して、スラリー組成物を調製した。スラリー組成物を〔繊維長と繊維幅の測定方法〕にて分析した結果、平均繊維長154nm、平均繊維幅3.4nmのナノセルロースが確認された。すなわち、製造例1の酸化セルロースは解繊されてナノセルロース含有組成物が得られていることが確認された。
【0098】
平均繊維長及び平均繊維幅は以下の方法により測定した。
〔平均繊維長及び平均繊維幅の測定〕
オックスフォード・アサイラム社製 走査型プローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードでナノセルロースの形状観察を行った。
平均繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて二値化し解析を行った。繊維100本以上について、繊維長=「周囲長」÷2として平均繊維長を求めた。
平均繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅[nm]を求めた。なお、今回の分析ではファイバー状ではなく粒状(平均高さ10nm~30nm)のものも見られたが、それらは形状よりチタン酸バリウムのナノ粒子又はその破砕物や凝集物であると推測されたため、ナノセルロースの形状計測からは除外した。
【0099】
<スラリー組成物のハンドリング性>
上記で得られたスラリー組成物を、乾燥後のグリーンシート厚みが50μmになるように、可変式アプリケーターを用いて離型処理済みPETフィルム上に塗工し、塗工物を作製した。この際のスラリーのハンドリング(塗工のしやすさ)下記基準に基づいて評価した。
◎:スラリーの流動性が高く、塗工速度を上げても容易に塗工できた
○:スラリーの流動性は中程度で、標準的な塗工速度(10cm/min)で塗工できた
△:スラリーの流動性が低く、塗工速度を落とさないと均一な塗工ができなかった
×:スラリー中に異物や凝集物が多く存在し、均一な塗工ができなかった
【0100】
<セラミックグリーンシートの表面状態の評価>
上記で得られた塗工物を通風乾燥機内で100℃×15分間の乾燥を行うことによりセラミックグリーンシートを作製した。この際、セラミックグリーンシートの表面状態を下記基準に基づいて目視で評価した。
◎:表面全体が均一で滑らかな状態であった
○:表面がややざらついた状態になった
△:表面のざらつきに加え、少量の凝集物や凹みが見られた
×:凝集物や凹みが多く見られた
【0101】
<セラミックグリーンシートの引張強度の測定>
上記で作製したセラミックグリーンシートから4cm×1cmの試験片を切り出し、引張試験機にて、引張速度10mm/minで常態(25℃)でのセラミックグリーンシートの引張物性を測定し、最大強度(MPa)を求めた。
【0102】
[実施例2~4]
製造例1の酸化セルロースの添加量を表1に示す量としたこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0103】
[実施例5]
製造例1の酸化セルロースに替えて製造例2のナノセルロースを用い、添加量を表1のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0104】
[比較例1]
酸化セルロースを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0105】
実施例1~5及び比較例1のセラミックグリーンシートの物性を表1に示す。
【0106】
【0107】
[実施例6~10]
実施例1~5におけるバインダー樹脂:積水化学工業(株)製「エスレックBH-6」を、共栄社化学(株)製「オリコックスKC-7000F」に替えたこと以外は、実施例1~5のそれぞれと同様に行った。
【0108】
[比較例2]
比較例1におけるバインダー樹脂:積水化学工業(株)製「エスレックBH-6」を、共栄社化学(株)製「オリコックスKC-7000F」に替えたこと以外は、比較例1と同様に行った。
【0109】
実施例6~10及び比較例2のセラミックグリーンシートの物性を表1に示す。
【0110】