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特開2022-154004無水マレイン酸製造用触媒及び無水マレイン酸の製造方法
<図面はありません>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154004
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】無水マレイン酸製造用触媒及び無水マレイン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/198 20060101AFI20221005BHJP
   C07D 307/60 20060101ALI20221005BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
B01J27/198 Z
C07D307/60 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056814
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】ワン ボウ
(72)【発明者】
【氏名】アルマンド ボルグナ
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 光紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔平
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 英伸
【テーマコード(参考)】
4C037
4G169
4H039
【Fターム(参考)】
4C037KB02
4C037KB04
4C037KB12
4C037KB13
4G169AA02
4G169AA03
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC40A
4G169BC40B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC52A
4G169BC52B
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CB14
4G169CB74
4G169DA05
4G169FC08
4H039CA42
4H039CC30
(57)【要約】
【課題】n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒であって、触媒活性が高く、低反応温度と高無水マレイン酸収率の両立が可能な無水マレイン酸製造用触媒を提供する。
【解決手段】n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒であって、バナジウムとリンの複合酸化物と、鉄と、ニオブ、モリブデン、イットリウム、セリウム及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種の元素Mとを含み、元素Mと鉄のモル比M/Feが0.05~0.45である、無水マレイン酸製造用触媒。この無水マレイン酸製造用触媒を用いる無水マレイン酸の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒であって、
バナジウムとリンの複合酸化物と、鉄と、ニオブ、モリブデン、イットリウム、セリウム及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種の元素Mとを含み、
元素Mと鉄のモル比M/Feが0.05~0.45である、無水マレイン酸製造用触媒。
【請求項2】
前記元素Mが、セリウム及び/又はハフニウムである、請求項1に記載の無水マレイン酸製造用触媒。
【請求項3】
鉄の含有量が前記バナジウムとリンの複合酸化物に対して1.3~3.0質量%である、請求項1又は2に記載の無水マレイン酸製造用触媒。
【請求項4】
元素Mの含有量が前記バナジウムとリンの複合酸化物に対して0.1~3.0質量%である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の無水マレイン酸製造用触媒。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無水マレイン酸製造用触媒の存在下にn-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造する無水マレイン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒と、この触媒を用いた無水マレイン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブタン、ブテン、ブタジエン等の炭素数4の炭化水素、特に飽和炭化水素のn-ブタンを、気相にて選択的に酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒として、4価のバナジウムと5価のリンから成る複合酸化物触媒(VPO触媒)が知られている。
【0003】
特許文献1には、バナジウムとリンの複合酸化物触媒に助触媒として鉄化合物を併用して触媒活性を高めることが記載されている。
また、特許文献2には、n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒として、バナジウムとリンの複合酸化物よりなるVPO触媒を、ニオブとアンチモン及び/又はビスマスで促進することが記載されている。特許文献2には、比較用触媒としてVPO触媒をNbとFeで促進したものが記載されているが、この触媒のNb/Feモル比は1.7であり、Feに対してNbは過剰量用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-227545号公報
【特許文献2】特表2018-530417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無水マレイン酸製造用触媒としては、触媒活性が高く、より低い反応温度でより高収率で無水マレイン酸を製造できることが望まれているが、VPO触媒のみでは活性が低いために高い反応温度を必要とし、無水マレイン酸収率も低い。
【0006】
VPO触媒にFeを助触媒として用いる特許文献1の触媒であれば、VPO触媒の活性を高めることができ、反応温度を低くすることができるが、無水マレイン酸収率が低い問題がある。
【0007】
特許文献2に記載のVPO触媒にNbとSb及び/又はBiを組み合わせた触媒は、高活性で反応温度を低くしつつ、高い無水マレイン酸収率を得ることができるが、更なる改善が望まれる。
なお、特許文献2には、比較触媒としてVPO触媒をNbとFeで活性化したNb/Feモル比1.7のものが記載されているが、この比較触媒では、特許文献2の発明の低反応温度と高無水マレイン酸収率の両立を達成することはできない。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題を解決し、n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒であって、触媒活性が高く、低反応温度と高無水マレイン酸収率の両立が可能な無水マレイン酸製造用触媒と、この無水マレイン酸製造用触媒を用いた無水マレイン酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、VPO触媒に、第1添加元素として鉄を、第2添加元素として特定の元素Mを用い、第2添加元素Mと第1添加元素Feとのモル比M/Feを所定の範囲とすることで、n-ブタンからの無水マレイン酸の製造において、触媒活性を高め、低反応温度と高無水マレイン酸収率の両立を図ることができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒であって、バナジウムとリンの複合酸化物と、鉄と、ニオブ、モリブデン、イットリウム、セリウム及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種の元素Mとを含み、元素Mと鉄のモル比M/Feが0.05~0.45である、無水マレイン酸製造用触媒。
【0011】
[2] 前記元素Mが、セリウム及び/又はハフニウムである、[1]に記載の無水マレイン酸製造用触媒。
【0012】
[3] 鉄の含有量が前記バナジウムとリンの複合酸化物に対して1.3~3.0質量%である、[1]又は[2]に記載の無水マレイン酸製造用触媒。
【0013】
[4] 元素Mの含有量が前記バナジウムとリンの複合酸化物に対して0.1~3.0質量%である、[1]ないし[3]のいずれかに記載の無水マレイン酸製造用触媒。
【0014】
[5] [1]ないし[4]のいずれかに記載の無水マレイン酸製造用触媒の存在下にn-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造する無水マレイン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、n-ブタンの酸化による無水マレイン酸の製造において、触媒活性を高め、低反応温度と高無水マレイン酸収率を両立することができる。
即ち、本発明の無水マレイン酸製造用触媒は、触媒活性に優れるため、従来よりも低い反応温度で無水マレイン酸を製造することができ、反応温度の低下で副反応が抑制され、この結果、無水マレイン酸を高収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値または物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0017】
[無水マレイン酸製造用触媒]
本発明の無水マレイン酸製造用触媒は、n-ブタンを酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒であって、バナジウムとリンの複合酸化物(以下「VPO触媒」と称す場合がある。)、鉄と、ニオブ、モリブデン、イットリウム、セリウム及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種の元素Mとを含み、元素Mと鉄のモル比M/Feが0.10~0.45であることを特徴とする。
以下において、Feと元素Mを「添加元素」と称す場合がある。
【0018】
なお、本発明において、M/Feモル比は、本発明の無水マレイン酸製造用触媒を製造する際の鉄化合物とM元素を含む化合物(以下「M化合物」と称す場合がある。)の仕込みM/Feモル比に該当するが、本発明の無水マレイン酸製造用触媒の製造において、仕込み量は、ほぼ製造された触媒の構成比に等しいものとなる。
【0019】
<添加元素>
本発明の無水マレイン酸製造用触媒はVPO触媒に添加元素としてFeと元素Mを所定の割合で添加したものである。
【0020】
本発明の無水マレイン酸製造用触媒において、M/Feモル比が0.05~0.45の範囲であることは、本発明に重要な構成要件であり、M/Feモル比が0.05未満であっても0.45を超えても、本発明による触媒活性の向上による低反応温度と高無水マレイン酸収率の効果を得ることはできない。M/Feモル比は、特に0.10~0.40であることが好ましい。
【0021】
元素Mは、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ハフニウム(Hf)の1種又は2種以上である。
触媒活性の向上効果の点から、これらのうち、特にCe及び/又はHfを用いることが好ましい。
【0022】
本発明の無水マレイン酸製造用触媒におけるFeの含有量は、上記M/Feモル比の範囲において、VPO触媒に対して1.3~3.0質量%、特に1.4~2.0質量%であることが好ましく、元素Mの含有量は、上記M/Feモル比の範囲において、VPO触媒に対して0.1~3.0質量%、特に0.3~2.0質量%であることが好ましい。
上記範囲より元素Mが多いと無水マレイン酸収率が大きく低下し、反応温度が大きく上昇する。またMが存在しない場合は無水マレイン酸収率が低下する。
なお、上記Fe及び元素Mの含有量についても、本発明の無水マレイン酸製造用触媒の製造時の原料化合物の仕込み質量%が該当するが、本発明の無水マレイン酸製造用触媒の製造において、仕込み量は、ほぼ製造された触媒の構成比に等しいものとなる。
【0023】
[無水マレイン酸製造用触媒の製造方法]
本発明の無水マレイン酸製造用触媒は、VPO触媒の製造に当たり、反応液中にFe化合物とM化合物を所定の割合で、即ち、前述のM/Feモル比を満たす範囲で存在させること以外は、通常のVPO触媒の製造方法と同様に製造することができる。
【0024】
具体的には、バナジウム化合物、リン化合物、鉄化合物、M化合物、及び有機溶媒を含む混合液を調製し、この混合液を所定の温度で加熱還流して得られた反応生成物から触媒前駆体を回収し、この触媒前駆体を乾燥、焼成することにより本発明の無水マレイン酸製造用触媒を製造することができる。
【0025】
<バナジウム化合物>
バナジウム化合物としては、五酸化バナジウム、メタバナジウム酸アンモニウム、オキシ三ハロゲン化バナジウム等のバナジウム塩などの5価のバナジウム化合物の1種又は2種以上を用いることができるが、最も一般的な原料は五酸化バナジウムである。五酸化バナジウムは市販品をそのまま、あるいは粉砕して使用される。
【0026】
<リン化合物>
リン化合物としては、リン酸が用いられる。リン酸としては、市販されているものが使用でき、例えば98~100質量%純度の無水リン酸を使用することが望ましいが、工業規模で入手が容易で安価な85質量%純度のリン酸であっても充分に使用可能である。
【0027】
<鉄化合物>
鉄化合物としては、塩化第一鉄(II)、酢酸第一鉄(II)、シュウ酸第一鉄(II)、リン酸第二鉄(III)等が例示される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
<M化合物>
M化合物としては、Nb、Mo、Y、Ce、Hfの酸化物、水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、酪酸塩、ベンジル酸塩、アンモニウム塩、硫酸塩、硫化物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
<有機溶媒>
本発明で用いる有機溶媒はそれ自体が還元力を有するものが好ましく、還元力を有する有機溶媒としては、酸化を受けやすい官能基を有するものが挙げられる。典型的にはアルコ-ル性水酸基を有する有機溶媒が好適である。このような有機溶媒の中では、ブタノール(ブチルアルコール)、2-プロパノ-ル、2-メチルプロパノ-ル、ヘキサノール等の炭素数3~6の脂肪族アルコ-ルや、ベンジルアルコ-ルが代表的である。前記有機溶媒は、2種以上混合して使用してもよい。例えば、炭素数3~6の脂肪族アルコ-ルとより還元力の大きなベンジルアルコ-ルを混合して用いるのが好ましい。また、ヒドラジンやシュウ酸等の還元剤を有機溶媒中に存在させることも可能である。
【0030】
これらの有機溶媒のうち、得られる触媒の触媒活性の観点からイソブチルアルコールを用いることが好ましく、イソブチルアルコールとベンジルアルコールとの混合溶媒を用いることがより好ましい。この混合溶媒100容量%中のイソブチルアルコールの割合は85~95容量%で、ベンジルアルコールの割合は15~5容量%であることが好ましい。
【0031】
有機溶媒の量は特に限定されないが、最終的な反応系全体の仕込み量に対して70~90質量%となるように用いることが好ましい。有機溶媒の量がこの範囲であると、混合がし易く混合液の均一性が高くなるため、得られる触媒の活性が高くなる。
【0032】
還元力の大きなベンジルアルコ-ルを混合して使用する場合、ベンジルアルコ-ル:バナジウム化合物(モル比)が通常0.02:1~2:1、特に0.5:1~1.5:1となるように用いることが、得られる触媒の触媒活性の観点から好ましい。
【0033】
<その他の成分>
反応に供する混合液には、必要に応じて目的とする触媒よりなる種晶を存在させてもよい。種晶を用いる場合の種晶の使用量には特に制限はない。
【0034】
<加熱還流>
反応に供する混合液の加熱還流の際の温度及び時間は、使用した有機溶媒の種類によって適宜選択される。通常、80~200℃の範囲であり、使用した有機溶媒の沸点付近の温度で行うのが特に好ましい。加熱還流の温度は、例えば有機溶媒としてイソブチルアルコールを主溶媒として用いた場合、100~110℃程度が好ましい。加熱還流の時間は、加熱還流条件により変動するが、反応系にリン酸を添加してから、通常1~20時間が好適である。
【0035】
この加熱還流工程により、バナジウムを還元するとともに、リン酸と鉄化合物及びM化合物と反応させて4価のバナジウム及びリンを含有する複合酸化物に鉄と元素Mを含有した反応生成物を得る。
【0036】
[触媒前駆体の回収・触媒の製造]
上記のようにして反応を行った後は、反応系を冷却し、反応液から通常の固液分離手段で生成物を分離し、必要に応じてアルコ-ル等の溶媒で洗浄した後、乾燥する。このようにして得られた触媒前駆体は、そのままバインダ-成分あるいは担体成分と混合し、乾燥後、加熱活性化するか、あるいは、前駆体を予め加熱して活性化後、バインダ-成分あるいは担体成分と混合し、乾燥するなどした後、反応器の形態により必要に応じて成形し、触媒として使用される。
【0037】
触媒の加熱活性化条件としては、例えば窒素雰囲気や窒素と空気を適当な割合で混合した雰囲気での加熱・焼成や、原料n-ブタンを含有した反応ガス雰囲気中での加熱・焼成が挙げられる。このような雰囲気中で400~700℃程度で加熱することにより活性化させて、前駆体中の複合酸化物であるリン酸水素バナジル・1/2水塩の少なくとも一部を、触媒活性成分であるピロリン酸ジバナジルに転換させて触媒として使用することができる。
【0038】
[無水マレイン酸の製造方法]
本発明の無水マレイン酸製造用触媒を用いる無水マレイン酸の製造方法は、常法に従って行うことができる。
【0039】
無水マレイン酸原料のn-ブタンは天然ガスからの分離、或いはナフサクラッキング生成物からの分離などによって容易に得ることができる。
【0040】
酸化反応の形式は流動床でも固定床でも或いは輸送床でもよい。
酸化剤としては空気あるいは分子状酸素含有ガスが用いられる。n-ブタン濃度は酸素含有ガスとの合計に対する割合で通常0.1~10容量%、好ましくは0.3~5容量%、酸素濃度はn-ブタン及び酸素含有ガスの合計ガス中の割合として10~30容量%程度で行われる。
【0041】
反応温度は通常300~500℃、好ましくは350~450℃であるが、本発明の無水マレイン酸製造用触媒を用いることで、390~415℃程度の比較的低温で効率的に酸化反応を行うことが可能となる。反応圧力は、通常、常圧もしくは0.05~10kg/cmGの加圧下で行われる。
【実施例0042】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0043】
[実施例1]
<触媒の製造>
五酸化バナジウム(V)3g、シュウ酸第一鉄水和物(Fe(C)・HO)0.309g、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))0.106g、濃度85質量%のリン酸(HPO)2.8mL、イソブチルアルコール27mL、ベンジルアルコール3mLを、100mL丸底フラスコに入れて混合し、120℃にセットした油浴を用いて7時間還流した。得られた溶液を室温まで冷却してろ過を行った。得られたウェットケーキを43mLのイソブチルアルコールで洗浄し、再びろ過した。洗浄後のウェットケーキを箱型乾燥機で130℃にて、15時間乾燥した。得られた乾燥物3gをアルミナ製ボートに積載し、管状炉で100mL/minの窒素を流通させながら550℃で2時間焼成することによって触媒を得た。
【0044】
[実施例2]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の添加量を0.162gに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0045】
[実施例3]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の添加量を0.212gに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0046】
[実施例4]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の添加量を0.265gに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0047】
[実施例5]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の添加量を0.318gに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0048】
[実施例6]
実施例1における、シュウ酸第一鉄水和物(Fe(C)・HO)の添加量を0.275gに変更し、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の添加量を0.144gに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0049】
[実施例7]
実施例1における、シュウ酸第一鉄水和物(Fe(C)・HO)の添加量を0.343gに変更し、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の添加量を0.180gに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0050】
[実施例8]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりにモリブデン(IV)酸アンモニウム((NHMo24・4HO)0.436gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0051】
[実施例9]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりにモリブデン(IV)酸アンモニウム((NHMo24・4HO)0.653gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0052】
[実施例10]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりにモリブデン(IV)酸アンモニウム((NHMo24・4HO)0.871gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0053】
[実施例11]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硝酸イットリウム(Y(NO・6HO)0.112gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0054】
[実施例12]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硝酸イットリウム(Y(NO・6HO)0.159gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0055】
[実施例13]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりにシュウ酸セリウム(Ce(C・9HO)0.0755gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0056】
[実施例14]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりにシュウ酸セリウム(Ce(C・9HO)0.116gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0057】
[実施例15]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりにシュウ酸セリウム(Ce(C・9HO)0.151gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0058】
[実施例16]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硫化ハフニウム(Hf(SO)0.0996gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0059】
[実施例17]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硫化ハフニウム(Hf(SO)0.130gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0060】
[実施例18]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硫化ハフニウム(Hf(SO)0.166gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0061】
[実施例19]
実施例1における、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硫化ハフニウム(Hf(SO)0.199gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0062】
[実施例20]
実施例1における、シュウ酸第一鉄水和物(Fe(C)・HO)の添加量を0.258gに変更し、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硫化ハフニウム(Hf(SO)0.166gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0063】
[比較例1]
実施例1において、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0064】
[比較例2]
実施例1における、シュウ酸第一鉄水和物(Fe(C)・HO)の添加量を0.206gに変更し、ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物(NH(NbO(C(HO)))の代わりに硫化ハフニウム(Hf(SO)0.199gを添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0065】
[触媒活性:無水マレイン酸収率の評価]
各実施例及び比較例で得られた触媒0.9gを、3/8インチ径のSUS製反応管に充填した。この反応管にn-ブタン濃度0.78容量%、酸素濃度20容量%、窒素濃度7容量%、ヘリウム濃度72.21容量%の混合ガスを、17.0mL/minの速度で通過させながら440℃まで加熱し、24時間安定化処理を行った。混合ガスの組成を、n-ブタン濃度4容量%、酸素濃度20容量%、窒素濃度7容量%、ヘリウム濃度69容量%に変更し、8.6mL/minの速度で通過させながら温度を440℃から380℃まで15℃刻みで変更し、各温度で2時間安定化させた後に反応管出口ガスをサンプリングして、ガスクロマトグラフで分析し、n-ブタン転化率85%となる反応温度、および測定温度範囲内における最大無水マレイン酸収率を求めた。
【0066】
これらの評価結果を、各触媒における追加添加した元素の量と添加した鉄元素の量の比をモル(M/Fe)で表したものと共に表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、VPO触媒に、鉄に加えて更に一定量範囲の追加の添加元素Mを含む触媒を用いることによって、低い反応温度でも無水マレイン酸を高収率で製造することができることが分かる。