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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154009
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】牧草地管理システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20221005BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20221005BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20221005BHJP
【FI】
A01K29/00 A
A01G7/00 603
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056827
(22)【出願日】2021-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 北海道新聞社、北海道新聞、令和2年10月9日 留萌新聞社、日刊留萌新聞、令和2年10月14日 日本経済新聞社、日本経済新聞、令和2年10月16日 全国農業会議所、全国農業新聞、令和2年11月6日 北海道放送、TBSあさチャン!、令和2年10月9日 日本放送協会札幌放送局、NHKニュースおはよう北海道、令和2年10月9日 https://www.indetail.co.jp/projects/?uc=detail-06、令和2年12月3日 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000013711.html、令和2年8月21日
(71)【出願人】
【識別番号】515193103
【氏名又は名称】株式会社INDETAIL
(74)【代理人】
【識別番号】100134706
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】坪井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ペックスタット イブ アンナ ジェイ
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】牧草の植生状況等の情報に基づいて放牧家畜を自動的に適切に誘導することが可能な牧草地管理システム及び牧草地管理方法を提示する。
【解決手段】空撮可能な撮影装置30により取得した植生状況を示す画像情報を画像解析し、AIに基づき採食可否の程度についてフラグ判定を行う。エリアごとに分割された牧草地の各エリアの出入口にはゲートが設けられており、エリア毎に判定された採食可否の程度に応じて時系列に応じた誘導ルートを決定しゲートの開閉制御を行う。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牧草の植生状況を取得する植生状況取得手段と、
前記取得した植生状況から植生データを生成する植生データ生成手段と、
環境データを取得する環境データ取得手段と、
各データを時系列で紐づけた生育情報を保存する第1の記憶手段と、
サンプル情報を保存する第2の記憶手段と、
保存された前記生育情報を前記サンプル情報群と照合しフラグ付けする判定手段と、
放牧家畜の移動範囲を制御する放牧家畜誘導手段と、を備え、
前記放牧家畜誘導手段は前記判定手段によって付与されたフラグに基づいて放牧家畜の移動範囲を制御することを特徴とする、牧草地管理システム。
【請求項2】
前記植生状況取得手段は空撮可能な撮影装置であり、取得される植生状況は空中から撮影した静止画又は動画であることを特徴とする、請求項1に記載の牧草地管理システム。
【請求項3】
前記植生データには、牧草の種類、植生数、丈、色のデータの一又は複数が少なくとも含まれる、請求項1又は請求項2のいずれか1に記載の牧草地管理システム。
【請求項4】
前記環境データには、日付データ及び位置データが少なくとも含まれる、請求項1ないし請求項3のいずれか1に記載の牧草地管理システム。
【請求項5】
前記放牧家畜誘導手段は、岐路において開閉可能なゲートを備えることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか1に記載の牧草地管理システム。
【請求項6】
牧草地が区画手段により複数のエリアと誘導路とに区画されており、
前記生育情報は前記エリアごとに生成され、
前記付与されたフラグに応じて、各エリアの出入口に備えられた前記ゲートが制御されることを特徴とする、請求項5のいずれか1に記載の牧草地管理システム。
【請求項7】
牧場における牧草の植生状況を取得するステップと、
前記取得した植生状況から植生データを生成するステップと、
環境データを取得するステップと、
各データを時系列で紐づけた生育情報を保存するステップと、
保存された前記生育情報を、予め保存されたサンプル情報群と照合してフラグ付けするステップと、
前記フラグ付けに基づき放牧家畜誘導装置を制御するステップと
を有する、牧草地管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜を放牧する牧草地管理システム及び管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[放牧について]
酪農及び肉牛肥育の方法は大きく分けると、「舎飼い」と「放牧」の2通りに大別される。「舎飼い」とは家畜を畜舎で飼育することをいう。これに対して「放牧」は文字通り家畜を放し飼いにすることをいう。「放牧」は「舎飼い」に比べ、国産飼料自給率が高く、環境問題、地産地消、オーガニック志向、アニマルウェルフェアなどの観点で関心が高まっている。
【0003】
アニマルウェルフェア(家畜福祉)とは、誕生から死を迎えるまでに家畜のストレスを極力少なくし、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方をいう。放牧は、適度な運動により牛が健康で病気にかかりにくくなる点においてアニマルウェルフェアに資するものである。と同時に、牛へのストレスを減らすことで肉質や生乳の品質向上に寄与するとされている。実際、「グラスフェッド(=牧草飼育)」の乳牛から得られる乳製品や牛肉はその高い品質から消費者に支持される傾向が強い。
【0004】
飼料コストの観点からも、適切に牧草の生育管理を行うことができれば濃厚飼料等の給餌を最小限に抑えることができることからコスト優位性を見出すことができる。
【0005】
[(完全)放牧の一般的な課題]
このように、放牧には多面的な観点からみて利点が多い。しかし、放牧経営を実践している酪農家は国内牛飼養戸数の約2割にも満たないとされる。その理由は種々挙げられるが、放牧可能な程度に広大な土地を確保することの困難性もさることながら、広大な面積の牧場において大量の家畜管理には労力が要ることが挙げられる。とりわけ、広大な土地のどこの牧草が現時点で採食に適しているかを把握することは容易ではなく、牧草採食の最適化が望まれる。従来、牧場内を人間が巡回し採食適地を見つけ誘導するか、又は完全に自然に任せていた。
【0006】
ここで牧草は、種類によって成長速度や色調、採食に適した時期が異なる。例えばイネ科の代表的な牧草飼料の一つであるネズミムギ(Lolium multiflorum Lam.)は、単子葉植物イネ科ドクムギ属の一年草ないし二年草で、根元で枝分かれして束生し、背丈は30-100cmに達する。全体にすらりとしており、茎には数節があって葉をつける。葉は細長く、ほぼ偏平で緑色である。一方チモシー(オオアワガエリ)はやわらかな多年草でありごく短い地下茎を有し、多数の茎を束状に出す。草丈は50-100cm程度である。葉身は線形で長さ20-50cm、幅は3-9mm、扁平で緑から灰緑色である。
【0007】
小型飛行機、ドローン等で空撮を行うことにより、人力で巡回する労力を低減することは考えられるが、採食適地の判断基準は牧草の生育状態だけでなく、家畜の頭数や状態、排泄等にも左右される。
【0008】
[放牧地の遠隔監視]
ここで放牧地の遠隔監視に関して言えば、家畜監視装置として、特許文献1、特許文献2が開示されている。また牧草の安定的管理の手法として、特許文献3が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-244736
【特許文献2】特許第6646105号
【特許文献3】国際公開2017/134909
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、牧場に放し飼いにされた放牧家畜のそれぞれに装着されセンサーが位置及び移動速度等を検出してコンピュータからなる家畜監視装置に無線で送信し、家畜監視装置が入力された位置及び移動速度に基づいて放牧家畜の行動形態を判定し、行動形態の判定から放牧家畜の体調不良の可能性がある場合には、家畜監視装置が放牧家畜の体調不良の可能性のある通知を家畜の放牧を行う人の所持する端末に無線で送信することを特徴とする家畜監視装置が開示されている。特許文献2には、HAPSで収集された牧場を俯瞰的に捉えた牧場に関するデータと牧場に放し飼いにされた放牧家畜に装着されたセンサーで収集された放牧家畜に関するデータと牧場を動き回るAIロボットで収集された放牧家畜に関するデータ及び牧場に関するデータとをAIサーバ又はAIロボットによるAIの技術を用いて放牧家畜の体調や牧場の植生を解析することを特徴とする放牧家畜監視システムが開示されている。特許文献3には、摂食頻度マップにおいて、摂食が行われた頻度が高い位置ほど、牧草量が少ないと判定し、牧草量の多い場所に優先的に牛が位置するような各々の放牧位置を決定し、当該放牧位置を示す情報を、放牧位置情報として、生成する放牧位置情報生成部を備えること、及び牧場の牧草の分布を制御するための牧草制御情報として、放牧位置情報を出力する放牧位置情報出力部を備え、放牧位置情報を、動作指示として、ドローンへ出力することによって、当該放牧位置情報に応じた動作をドローンに指示することで、牧草量の多い場所に優先的に牛を位置させることを特徴とする情報処理装置が開示されている。
【0011】
しかし、特許文献1に開示の発明では、牧草の植生状況について把握することができない。また、特許文献2に開示の発明では、放牧家畜の誘導を適切に行うことができない。また、特許文献3に開示の発明では、連続稼働時間に制約のあるドローンによる家畜の誘導が適切に行われない場合がある。
【0012】
そこで本発明は、牧草の植生状況等の情報に基づいて放牧家畜を自動的に適切に誘導することが可能な牧草地管理システム及び牧草地管理方法を提示する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明に係る情報処理装置は以下の構成を有する。
【0014】
本発明に係る牧草地管理システムは、牧草の植生状況を取得する植生状況取得手段と、前記取得した植生状況から植生データを生成する植生データ生成手段と、環境データを取得する環境データ取得手段と、各データを時系列で紐づけた生育情報を保存する第1の記憶手段と、サンプル情報を保存する第2の記憶手段と、保存された前記生育情報を前記サンプル情報群と照合しフラグ付けする判定手段と、放牧家畜の移動範囲を制御する放牧家畜誘導手段とを備え、前記放牧家畜誘導手段は前記判定手段によって付与されたフラグに基づいて放牧家畜の移動範囲を制御することを特徴とする。
【0015】
なお、植生状況取得手段は空撮可能な撮影装置を採用することができる。取得される植生状況は空中から撮影した静止画、或いは動画であってよい。また、植生データには、牧草の種類、植生数、丈、色のデータの一又は複数が少なくとも含まれていてよい。そして、環境データには、日付データ及び位置データが少なくとも含まれることを特徴とすることもできる。
【0016】
また、放牧家畜誘導手段は、岐路において開閉可能なゲートを備えることを特徴とすることができる。牧草地は区画手段により複数のエリアと誘導路とに区画されており、生育情報は前記エリアごとに生成され、付与されたフラグに応じて、各エリアの出入口に備えられた前記ゲートが制御されるよう構成しても良い。
【0017】
また、本発明に係る牧草地管理方法は、牧場における牧草の植生状況を取得するステップと、前記取得した植生状況から植生データを生成するステップと、環境データを取得するステップと、各データを時系列で紐づけた生育情報を保存するステップと、保存された前記生育情報を、予め保存されたサンプル情報群と照合してフラグ付けするステップと、前記フラグ付けに基づき放牧家畜誘導装置を制御するステップとを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る牧草地管理システム及び牧草地管理方法によれば、牧草の植生状況等の情報に基づいて放牧家畜を自動的に適切に誘導することが可能となり、作業効率が向上することが期待できる。
【0019】
[用語定義]
なお本発明において、
(1)「植生状況」とは、放牧地における牧草の成長状態、どの程度の牧草が存在しているかに関する情報であり、その状況はデジタルカメラによる撮影画像でもよく、或いは人工衛星からの撮影画像であってもよい。「植生データ」とは、植生状況として得られている画像データの画像解析から得られるデータのことを意味する。一般的な画像解析手法の例としては(1)「計測」すなわち画像中から何らかの数値データを算出する処理、(2)「分類(認識)」すなわち画像に写っている対象を特定する処理、(3)「検出」すなわち画像の中のどこに写っているかを特定する処理が挙げられる。本発明における画像解析にあっては画像内の色彩情報及びその色彩が占める面積を数値データとして算出する処理、画像に写っている草の形状、輪郭といった特徴量に基づく植生種の種類を特定する処理、及び各種類の牧草がどこに写っているかを特定する処理、を、選択的に、或いは複数の処理を複合的に行う。
【0020】
(2)空撮可能な撮像装置として典型的にはドローンを採用することができるがこれに限られない。また植生状況取得手段は必ずしも空撮である必要はなく、例えば地上を走行するラジオコントロールカーに一定程度の高度から撮影可能な撮影装置を備えたものを採用することもできる。
【0021】
(3)「環境データ」としては、植生状況として取得した画像の撮影日時や撮影場所、当該撮影時点における気象情報などが含まれ得る。「生育情報」は「植生データ」と「環境データ」とが紐づけられた情報をいう。
(4)「サンプル情報群」とは、予備学習により得られる、サンプル画像、当該画像の環境データ、当該画像に対して予め付された食用可否/採取可否に関するフラグが一連に紐づけられた情報が複数含まれた情報群であり、AI(Artificial Intelligence)における学習済モデルに相当するものである。
(5)「判定手段」は、「生育情報」を前記サンプル情報群と照合し食用可否/採取可否のフラグ判定を行う。
(6)「放牧家畜誘導手段」は、放牧家畜を能動的にけん引したり追い立てたりするものではなく、管理対象である牧草地のうちどの領域に移動が可能かを規定する構成を有していればよい。具体的には特定の領域への進入を許容ないし禁止するための開放閉鎖手段と、牧草地を領域ごとに区分するための電気牧柵或いは有刺鉄線とを備えることで、牧草を求めて移動する放牧家畜をユーザの意図に沿って誘導することができる。なお開放閉鎖手段の制御は、判定手段によって付与されたフラグに基づいて直接制御されるものであってもよく、またその制御にあたって判定手段によって付与されたフラグを参照して行われる外部からの入力を条件として制御実行するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施例にかかる牧草地管理システムのシステム構造図である。
図2】本実施形態における端末装置又はサーバの構成の一例を示すブロック図である。
図3図1におけるドローン(植生状況取得手段)の構成の一例を示すブロック図である。
図4図1における放牧家畜誘導手段40の機能ブロック図である。
図5図1における放牧家畜誘導手段40を構成するゲート400の実装例を示す写真である。
図6】牧草地が電気牧柵及びゲートにより区分けされている様子を空中から見た状態を示す図である。
図7】サーバの機能ブロック図を示したものである。
図8】学習用データセットに含まれる情報を示した図である。
図9】AIを用いた植生判定の概略図である。
図10】牧草地の画像データの一例である。
図11】ゲート制御の流れを示すフローチャートである。
図12】ユーザが操作する端末装置に表示される操作画面の例である。
図13】各ゲートの時間軸に応じた開閉制御情報を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
[1.システムと構成の説明]
図1は、本実施形態に係る牧草地管理システム1のシステム構造図である。図1に示すように、本牧草地管理システム1は、端末装置10と、サーバ20と、撮影装置30と、放牧家畜誘導手段40とが、ネットワークNWを介して相互に接続されることにより構成される。
【0025】
端末装置10は、サーバ20にアクセスして情報を送受信する機能を有する装置であり、典型的には、パーソナルコンピュータ(PC)を適用可能であるが、携帯電話機、携帯情報端末(PDA)、その他のコンピュータ等を適用してもよい。
【0026】
サーバ20は、端末装置10からの指示に基づき撮影装置30の稼働を制御するほか、撮影装置30から送信される画像を他の関連情報と関連付けて記録する。また端末装置10を介してユーザが入力した情報に基づき画像情報に評価情報を付加して記録する。記録された評価情報に基づき、新たに取得された画像情報に対して評価情報を付加し、これに基づいて放牧家畜誘導手段40を制御する。その詳細は後述する。
【0027】
撮影装置30は、位置特定手段、マッピング手段、移動手段、撮影手段、通信手段を備える。位置特定手段及びマッピング手段はGPS(全地球測位システム)を利用したものであってよく、移動ルートを特定することが可能に構成される。移動手段は飛行による移動であってよく、典型的には無人航空機(ドローン)を適用可能である。また移動手段は走行による移動であってもよく、典型的にはラジオコントロールカーを適用し得る。撮影手段は内蔵のものでも外付けのものでも良く、少なくとも静止画を撮影できるカメラが備えられていればよい。撮影された画像の画像情報は通信手段によりネットワークNWを介してサーバ20に送信される。
【0028】
放牧家畜誘導手段40は、電気牧柵により区分けされた牧草地の各エリアの間、又はエリアと通路との間に設けられた複数のゲート、及び各ゲートの開閉を制御する制御盤を備える。サーバ20からの信号に基づきゲートを開閉制御することにより、放牧家畜が移動可能なエリアを動的に変化させる。
【0029】
ネットワークNWは、端末装置10、サーバ20、撮影装置30、放牧家畜誘導手段40との間で情報を送受信するための通信回線である。例えば、インターネット、LAN、専用線、パケット通信網、電話回線、企業内ネットワーク、その他の通信回線、それらの組み合わせ等のいずれであってもよく、有線であるか無線であるかを問わない。
【0030】
図2は、本実施形態における端末装置10の構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、端末装置10は、各部の動作や処理を制御するためのCPU11、処理に必要なデータを格納するROMや作業領域として機能するRAM等のメモリ12、各種の情報を格納するハードディスク等の記憶装置13、入出力インタフェース14、通信インタフェース15及びこれらを結ぶバス16を備える汎用のコンピュータを適用することができる。
【0031】
また、図示省略するが、本実施形態におけるサーバ20についても図2と同様の構成を備える汎用のコンピュータを適用することができる。このとき、サーバ20は、単一のコンピュータより構成されるものであっても、ネットワークNW上に分散した複数のコンピュータより構成されるものであってもよい。また、単一のコンピュータが端末装置10とサーバ20の機能を備えてもよい。
【0032】
図3は、図1における撮影装置30に相当するドローン300の構成の一例を示すブロック図である。ドローン300には、自機位置を検出するGPSユニット310、牧草地の牧草生育状況を撮影可能なカメラ320、サーバ20との間でデータの授受を行う通信部330、通信部330からの指令信号を受けて駆動するモータ等の駆動部340、駆動部の駆動力により回転して推力を発生させるプロペラ340a、前述のGPSユニット310、カメラ320、通信部330、駆動部340に電力を供給する電源部350も備えられている。ドローン300の制御はサーバ20、ネットワークNWを介して端末装置10において操作者に入力されるコマンドに基づいて行われる。
【0033】
図4は、図1における放牧家畜誘導手段40の機能ブロック図である。放牧家畜誘導手段40は、岐路に設けられるゲート400、放牧家畜の通路と牧草地とを規定し、また牧草地をエリア毎に分割する電気牧柵44、及び電源部42で構成されている。ゲート400は、ネットワークNWを介し端末装置10及びサーバ20とのデータの授受を行う通信部410、通信部410からの指令信号を受けてゲートバーの昇降駆動を行う駆動部420、駆動部を制御することでゲート開閉が行われ、家畜の通行可否を切り替えるゲートバー430で構成されている。端末装置10を介したユーザからの操作信号、又はサーバ20からの信号に基づいて駆動部420はゲートバー430の開閉駆動を行う。電気牧柵44は、接触により放牧家畜や害獣に電気ショックを経験させ、動物の警戒心を利用して柵に近寄りがたくさせるものであり、牧草地の周囲、及び牧草地内の区画の境界線に張り巡らされる。支柱、支柱用の碍子、通電性のワイヤー、ワイヤー緊張具等が含まれてよい。例えばファームエイジ株式会社製のインサルウッド・システム及び電気牧柵用ワイヤーを採用することができる。
【0034】
図5は、放牧家畜誘導手段40を構成するゲート400の実装例を示す図である。通信部410を介して駆動制御の信号を受けた駆動部420は、ワイヤーWの巻取り/解放によりゲートバー430の昇降制御を行う。ゲートバーにはカーテンCuが備えられており、ゲート「閉」時は放牧家畜Caがゲート400を自由に往来するのを阻む。
【0035】
図6(a)は、牧草地が電気牧柵44及びゲート400により区分けされている様子を空中から見た状態を示す図である。本実施例では、牧草地PはA,B,C,D,Eの5グループに区分けされており、所定の期間同一のグループ内で放牧される。各グループの区分けは実線で表示しているが、この実線に沿って電気牧柵が設けられている。各グループに区分けされた牧草地は、例えばA1、A2、・・A7のように更にグリッド状にエリアに細分化されている。細分化された各エリアの境界も実線で表示しているが、この実線に沿って電気牧柵44が設けられている。各エリアの出入り口すなわち岐路にはゲート400(図6(a)では図示しない)が設けられている。放牧家畜は、各エリアの間に設けられた通路CRを通って所定のエリアに向かう。通路CRは誘導路に相当する。
【0036】
図6(b)は、エリアD1、D2、D5、D6が一部通路を挟んで隣り合う地点の拡大図である。細分化された各エリアの入口、すなわち岐路にはゲート400が設けられており、後述する開閉制御に基づいて開閉が制御されている。D1に放牧家畜を誘導する場合、D1の入口のゲート400が「開」制御に、他の入口のゲート400が「閉」制御にされることから、放牧家畜は牧草が適食状態にあるD1の牧草地に誘導される。
【0037】
[2.サーバのデータ構成と学習/推論フロー]
次に、サーバ20に記憶されるデータのデータ構成について説明する。図7はサーバ20の機能ブロック図を示したものである。サーバ20は、学習済モデル記憶部212(第1の記憶手段)、画像情報記憶部214、画像解析データ記憶部216、開閉制御情報記憶部218、飛行条件記憶部220、を備える記憶部210と、制御部230(判定手段)と、通信部240を有する。
【0038】
学習済モデル記憶部212は、以下に述べるような過程で得られる学習済モデルを記憶する。
【0039】
AIで的確な情報を得るためには、十分な予備学習が必要である。本実施形態では、予め植生状況判定用のAI(Artificial Intelligence)を準備し、実際の植生状況画像データを学習用データセットとして予備学習をし、学習済モデルを生成する。
【0040】
学習用データセットには、図8に示す項目に関する情報が含まれる。具体的には、以下の(1)から(4)が含まれる。
(1)画像の撮像日付及び時間(YYYY/MM/DD/tt:tt):画像データから自動取得される
(2)画像の撮像位置:画像データから自動取得される
(3)食用可否の程度/採取可否の程度:(over/perfect/close to/not yet)
(4)牧草種類:「ペレニアルライグラス」「チモシー」「オーチャードグラス」「リードカナリーグラス」その他から複数を選択可能。なお家畜が餌とする粗飼料(牧草)、その他の牧草種類(雑草など)に準ずるもの全般をAIモデルとして適用可能である。
【0041】
図9に示すように、AI利用では、学習フェーズと推論フェーズがある。学習フェーズで、図8に示す各項目に関する情報からなるサンプル情報群を学習用データセットとして用いてモデル学習を行い、学習済モデルを生成する。そして、推論フェーズで、画像情報を入力データとして、学習済モデルに入力して、その出力が食用可否の程度/採取可否の程度として出力されるものである。学習フェーズにおける食用可否の程度/採取可否の程度については、予め放牧に熟練したユーザによる画像判断により上記(3)に記述の4段階のいずれかの評価を付する他、牧草の種類についても同様にユーザによる画像判断に基づいて写されている牧草種類を特定し記録する。
【0042】
画像情報記憶部214は、ドローン300から送信された画像情報を記憶する。画像解析データ記憶部216は、画像情報記憶部214に保存された画像情報に基づいて制御部230が行った解析データを、元の画像情報と紐づけて記憶する。画像解析データ記憶部216は、第2の記憶手段を構成する。開閉制御情報記憶部218は、制御部230により決定されたゲート400の制御情報を記憶する。飛行条件記憶部220は、端末装置10から送信された飛行条件を記憶する。
【0043】
制御部230は、ネットワークNWを介して得られた各種情報を各々の記憶部にて記憶するよう制御するとともに、得られた画像解析データを学習済みモデルと照合して各画像の採食可否(食用可否/採取可否)の情報を付与する処理、牧草地の各エリアの採食可否を判定する処理、各エリアの判定結果に基づいて放牧家畜の誘導順序、すなわち各エリアの時系列的な開閉制御を決定する処理を行う。ここで制御部230は判定手段として機能する。
【0044】
具体的には、制御部230は、付与された採食可否判定結果に応じ、以下の優先順序に基づいて各エリアのゲート開閉制御を提示する。
(1)採食可否判定結果が「perfect」になって5日以上経過したエリア
(2)採食可否判定結果が「perfect」になって3~4日経過したエリア
(3)採食可否判定結果が「perfect」になって0~2日経過したエリア
(4)採食可否判定結果が「close to」のエリア
このように、より速やかに採食されるべきエリアのゲートから順に早い順番で開放されていくことにより、採食可能な状態を越えた(「over」の)牧草が発生する可能性を減らすことができるとともに、一定程度の期間誘導順序を決定しておくことにより悪天候などでドローン300が飛行できない期間があっても適切な放牧家畜の誘導を行うことができる。採食可否判定結果が「over」「not yet」のエリアはゲート開放の対象とはならない。
【0045】
なお開閉制御については、端末装置10に提示されたシナリオ(図示しない)に対しユーザが承認指示を行うことでセットされ、実行される。
【0046】
図10は、牧草地の撮影画像の一例である。ドローン300を用いて空中(地上10m)から撮影した略20m四方の画像である。学習フェーズにおいてはこの撮影画像およびこれに付随する日時・場所等の環境データを含む画像データに基づいて食用/採取可否の程度及び植生している牧草の種類の情報を紐づけて記憶する。推論フェーズにおいては、制御部230は、画像データの入力から、学習フェーズにて得られた学習済モデルに基づいた出力を得る。
【0047】
なお、サーバ20は、学習完了後の適宜のタイミングで、制御部230からの出力データと入力データとを教師データとして再取得し、学習モデルを再学習させる構成としてもよい。例えば、出力データとして得られた食用可否/採取可否の程度の判定フラグが、同一画像データに対してユーザが付する判定フラグと異なる場合、ユーザにより正しく設定された判定フラグを含む教師データをサーバ20へ送信し、この教師データに基づき、学習モデルを再学習させてもよい。
【0048】
[3.ゲート制御のフロー]
次に、牧草地の各エリアの岐路に配置されたゲート400の開閉制御のフローについて説明する。
【0049】
図11は、ゲート制御の流れを示すフローチャートである。ドローン300の飛行ルートは、対象である牧草地のグループ分けに応じて複数のルートが予め設定されている。ユーザは、端末装置10を介して、予め設定されている飛行ルートの中からドローン300の飛行ルート及び飛行予定日時(以下併せて「撮影スケジュール情報」という。)を選択する(ステップS1101)。ここで「飛行ルート」とは、図6で示したように放牧地をAからEのグループで分割しているところ、そのいずれのグループについての植生状況に関する情報を取得するかについての選択となる。グループごとの飛行条件、撮影条件は、個々のグループの地形条件を踏まえてあらかじめ設定している。一定の期間内の放牧家畜の放牧は同一のグループ内で行われる。図12は、ユーザが操作する端末装置10に表示される操作画面の例である。
【0050】
端末装置10に入力された撮影スケジュール情報はネットワークNWを介してサーバ20に送信される(ステップS1102)。受信したサーバ20は撮影スケジュール情報を飛行条件記憶部220に記憶する(ステップS1103)。撮影スケジュール情報により特定された飛行予定日時に、サーバ20はネットワークNWを介してドローン300に飛行指示を送信する(ステップS1104)。ドローン300は指示情報に基づき指定された態様にてグループの牧草地を順次撮影する(ステップS1105)。なお飛行予定日時として将来の特定の日時ではなく、現在を選択することもできる。
【0051】
撮影された画像データはサーバ20に送信され(ステップS1106)、画像データとして記録される(ステップS1107)。画像データにはメタデータとしての撮影日時、撮影場所のGPS情報(環境データに相当する)が併せて保存されている。次にサーバ20は画像データの解析を行う(ステップS1108)。ここで解析においては分類(認識)、検出の処理を行う。また、画像全体の植物分布状態(色彩、密度)から4段階に判別する。処理により得られた情報すなわち植生データは、画像データと一意に紐づけられた生育情報として保存される。
【0052】
次いでサーバ20は、得られたデータを学習済モデルに入力し、画像データごとの採食可否の出力を得る(ステップS1109)。採食可否の情報は「over/perfect/close to/not yet」の4段階のいずれかで出力される。
【0053】
ここで、各グループの撮影ルートにおいて、各エリアの撮影地点は複数存在する。各エリアの採食可否の判定は、当該エリア内の各地点における評価を総合して判定される。具体的には、同一エリア内の撮影ポイントごとの評価を数値化(4,3,2,1)しその平均で算出する。
【0054】
グループ内の各エリアの採食可否の判定が得られたら、各エリアの出入口(放牧家畜誘導の岐路)に配置されている各ゲート400の開閉制御が決定される(ステップS1110)。ドローン300による撮像は一定の時間間隔(1日ないし数日)を置いて行われることから、開閉制御の情報は、エリアごとの採食可否の程度も加味した所定の時間軸を伴ったものとなっている。前の開閉制御情報が設定されている場合は、新たな撮影により上書き更新される。決定された制御情報は各ゲートに送信され(ステップS1111)、ゲートごとに独立して開閉制御が行われる(ステップS1112)。
【0055】
図13は、各ゲート400の時間軸に応じた開閉制御情報を示すイメージ図である。牧草地は一様に牧草が成長するものではなく、日当たりや土壌、繁茂している牧草の種類により成長度合いが異なる。ここでは、D1が「perfect」、D2が「close to」、D3、D4が「over」D5、D6、D7、D8が「not yet」であったとする。この場合、採食可否の程度、及び直近の開放エリアの情報に基づいた判定テーブル(サーバ20が保有)に基づいて、放牧家畜はD1、D2、D5、D6、D7、D8の順に誘導されることが好ましい。したがって、図13に示したように、まずD1のゲートが開放され、その10から12時間後、D1からD2に誘導すべくD1とD2のゲートが開放され、その12時間後、D2とD5のゲートが開放され、更にその12時間後、D5とD6のゲートが開放されていく。
【0056】
なお、上記の実施例においてはゲートの開閉は付与されたフラグに基づいた判定テーブルに基づいて駆動制御される構成としたが、これに限られない。すなわち、判定テーブルに基づいたゲートの開放/閉鎖の予定を端末装置10を介してユーザに提示し、端末装置10を介したユーザの承認操作に基づいて駆動制御される構成とすることもできる。提示された開放/閉鎖の予定とは異なるかたちで、つまり都度ユーザの操作に基づいてゲートの開閉制御を行うこともできる。このように構成することにより、AIによる推奨制御とユーザの経験や他の諸事情に基づく望ましい開閉制御とを場面に応じて使い分けることができ、利便性が向上する。また電気牧柵44に関しては、有刺鉄線、木製の囲いなどで、家畜の進路の特定、及び家畜の保護または外敵からの侵入防止を可能とするものであれば、代替できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る牧草地管理システムによれば、牧草の植生状況等の情報に基づいて放牧家畜を自動的に適切に誘導することが可能となり、作業効率が向上することが期待できる。これにより、生産者の負荷が軽減されるとともに、良質な生産物が提供されることが期待し得る。
【符号の説明】
【0058】
1 牧草地管理システム
10 端末装置
11 CPU
12 メモリ
13 記憶装置
14 入出力インタフェース
15 通信インタフェース
20 サーバ
30 撮影装置(植生状況取得手段)
40 放牧家畜誘導手段
NW ネットワーク


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13