IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栗本鐵工所の特許一覧

<>
  • 特開-磁気粘性流体装置 図1
  • 特開-磁気粘性流体装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154073
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】磁気粘性流体装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 37/02 20060101AFI20221005BHJP
   F16F 9/53 20060101ALI20221005BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F16D37/02 E
F16F9/53
F16D63/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056940
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 宏貴
(72)【発明者】
【氏名】榮 淳
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 修一
(72)【発明者】
【氏名】上嶋 優矢
(72)【発明者】
【氏名】辻 仁志
(72)【発明者】
【氏名】古家 知弘
(72)【発明者】
【氏名】末廣 隆史
【テーマコード(参考)】
3J058
3J069
【Fターム(参考)】
3J058AB27
3J058BA16
3J058CC13
3J069AA41
3J069DD25
3J069EE35
(57)【要約】
【課題】磁気粘性流体装置を提供する。
【解決手段】磁気粘性流体装置1は、磁性体からなる回転子7と、回転子7に隙間50を介して対向し磁性体からなる対向ヨーク10と、対向ヨーク10と回転子7との隙間50に介在する磁気粘性流体5と、通電時に対向ヨーク10、磁気粘性流体5および回転子7を通過する磁路を形成するコイル11と、を備える。隙間50の大きさは、0.3mm以下である。回転子7及び対向ヨーク10の少なくとも一方は、所定の炭素含有量を有し、前記所定の炭素含有量は、0.2質量%以下である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなる回転子と、
前記回転子に隙間を介して対向し磁性体からなる対向ヨークと、
前記対向ヨークと前記回転子との前記隙間に介在する磁気粘性流体と、
通電時に前記対向ヨーク、前記磁気粘性流体および前記回転子を通過する磁路を形成するコイルと、
を備える磁気粘性流体装置において、
前記隙間の大きさは、0.3mm以下であり、
前記回転子及び前記対向ヨークの少なくとも一方は、所定の炭素含有量を有し、
前記所定の炭素含有量は、0.2質量%以下である、
ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気粘性流体装置において、
前記隙間の大きさは、0.1mm以上0.3mm以下である、
ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された磁気粘性流体に印加する磁場の強さを変えることにより、回転部の回転抵抗を変えることのできる磁気粘性流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された磁気粘性流体装置では、回転可能に支持されたロータの外周にディスクが固設され、このディスクを挟むように電磁石のヨークが配設されている。ディスクとヨークとの隙間には磁気粘性流体が介在している。この装置は、磁気抵抗を小さくするために、ヨーク(特許文献1では「ヨーク24」と称している)およびディスク(特許文献1では「ディスク26」と称している)に磁性体を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-202745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の磁気粘性流体装置では、磁気抵抗を小さくするために、磁路上のヨークおよびディスク(回転子)に磁性体を使用しているが、磁性体は残留磁気を帯び易い。ヨークおよび回転子が残留磁気を帯びると、その残留磁気によって磁気粘性流体に常に弱い磁場が付与されることとなり、その結果、コイルに電流を印加していないときの回転部(回転子等)の回転抵抗(以下「残留トルク」という。)が大きくなってしまう。
【0006】
一般に、残留トルクの増加は、磁気粘性流体装置の用途範囲を狭めることとなるため、残留トルクは、限りなくゼロに近いことが望まれる。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みて創案されたものであり、残留トルクが小さい磁気粘性流体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁気粘性流体装置は、磁性体からなる回転子と、前記回転子に隙間を介して対向し磁性体からなる対向ヨークと、前記対向ヨークと前記回転子との前記隙間に介在する磁気粘性流体と、通電時に前記対向ヨーク、前記磁気粘性流体および前記回転子を通過する磁路を形成するコイルと、を備えるものを前提とし、前記隙間の大きさは、0.3mm以下であり、前記回転子及び前記対向ヨークの少なくとも一方は、所定の炭素含有量を有し、前記所定の炭素含有量は、0.2質量%以下である、ことを特徴とする。
【0009】
かかる構成を備える磁気粘性流体装置によれば、残留トルクを小さくすることができる。
【0010】
上記の磁気粘性流体装置は、前記隙間の大きさは、0.1mm以上0.3mm以下である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、残留トルクが小さい磁気粘性流体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体装置を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体装置において、回転子および第2ヨークの炭素含有量と残留トルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書において、ケーシング9から見てシャフト6側を上側とし、シャフト6と反対側を下側として方向を称する場合がある。
【0014】
本実施形態に係る磁気粘性流体装置1は、図1に示すように、回転部2、装置本体3、磁路形成部4、磁気粘性流体5等で構成されている。
【0015】
回転部2は、シャフト6、回転子7等で構成されている。
【0016】
シャフト6は、後述するケーシング9に形成された軸穴にベアリング8を介して回転自在に支持されている。
【0017】
回転子7には、本実施形態では、円板状のディスクが採用されている。回転子7は、シャフト6の端面に固定されており、シャフト6と一体に回転する。回転子7は、磁性体で構成されている。回転子7の具体的な材質は、後述の実験結果を参照。
【0018】
装置本体3は、本実施形態では、磁性体からなるケーシング9で構成されている。ケーシング9は、回転子7を回転自在に収容している。ケーシング9は、後述する磁路形成部4の第1ヨークとしても機能する。さらに、ケーシング9は、後述する第2ヨーク10を収容している。また、ケーシング9内には、コイル11およびボビン12を嵌め込む空間と、シャフト6の端部および回転子7を回転自在に収容する空間とが形成されている。
【0019】
図1に例示するケーシング9は、2部材9A,9Bが組み合わされて、図示しないビスで締結されることにより構築されている。一方のケーシング部材9Aの軸穴には、既述したようにベアリング8が嵌め込まれている。他方のケーシング部材9Bは、ケーシング部材9Aの中に、コイル11、ボビン12、シャフト6、回転子7、磁気粘性流体5および第2ヨーク10を収容するようにして、ケーシング部材9Aに下側から締結されている。ケーシング部材9Bは、回転子7と第2ヨーク10との間に形成されている隙間50の大きさを変更可能とするため、隙間50の大きさに応じた複数のものが用意されている。
【0020】
第2ヨーク10は、本実施形態では、回転子7と同じ径の円柱部材である。第2ヨーク10は、ケーシング部材9Bに固定されている。第2ヨーク10は、隙間50を介して回転子7に対向している。すなわち、第2ヨーク10は、回転子7に隙間50を介して対向する対向ヨークを構成している。第2ヨーク10は、回転子7と同じ炭素含有率を有する磁性体で構成されている。第2ヨーク10の具体的な材質は、後述の実験結果を参照。
【0021】
コイル11は、ケーシング9に嵌め込まれたボビン12に巻き付けられており、電源線14を介して外部から電流値制御可能に電流が供給される。コイル11に電流が印加されると、図1の矢印Pが示す方向に沿って、第1ヨーク(ケーシング9)、第2ヨーク10、磁気粘性流体5および回転子7上に磁路が形成される。
【0022】
磁路形成部4は、回転子7および、隙間50に介在する磁気粘性流体5を貫通する磁路を形成するように設けられたものである。本実施形態では、磁路形成部4は、第1ヨークとして機能するケーシング9、第2ヨーク10、コイル11、ボビン12、コイル11に電流を供給する電流供給装置等で構成される。
【0023】
磁気粘性流体5は、回転子7と第2ヨーク10との隙間50に充填されている。図1では、灰色に塗り潰した領域に磁気粘性流体5が充填されている。
【0024】
なお、磁気粘性流体5は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体である。磁性粒子として、例えばナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなるものを使用することができる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3~40vol%とすることができる。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0025】
上記構成を備える磁気粘性流体装置1において、コイル11に電流を印加すると、図1の矢印Pに示す方向に沿って磁路が形成され、第2ヨーク10と回転子7との隙間50に介在する磁気粘性流体5に磁場の強さに応じた粘度(ずり応力)が発現する。これにより、回転部2(シャフト6、回転子7等)と装置本体3(第2ヨーク10が固定されたケーシング9)との間で、コイル11に印加される電流値の大きさに応じたトルク伝達がなされる。
【0026】
隙間50の大きさは、本実施形態では、0.1mmから0.3mmの範囲において設定された大きさであり、好ましくは0.1mmから0.2mmの範囲において設定された大きさであり、更に好ましくは0.1mmに設定された大きさである。
【0027】
回転子7および第2ヨーク10を構成する磁性体が含有する炭素の量、すなわち回転子7および第2ヨーク10の炭素含有量は、本実施形態では、0.2質量%以下に設定された量である。例えば、回転子7および第2ヨーク10を構成する磁性体は、いずれも炭素含有量が0.2[質量%]以下の炭素鋼であるS10C、S15C、S20C、SS400、GB08、GB10、Q195(A/B/C)およびQ235(A/B)のうちから選択されたものであってもよい。
【0028】
このように、隙間50の大きさ並びに回転子7および第2ヨーク10の炭素含有量が設定された磁気粘性流体装置1は、後述する実験結果が示すように、コイル11に電流を印加していないときの回転子7および第2ヨーク10の残留磁気が小さく、回転部2の回転抵抗(残留トルク)が小さい。
【0029】
<実験結果>
磁気粘性流体装置1において、隙間50の大きさ並びに回転子7および第2ヨーク10の炭素含有量についての上記の数値範囲において、上記の効果を奏することを確認するために、隙間50の大きさ並びに回転子7および第2ヨーク10の炭素含有量をそれぞれ異なる値に設定した磁気粘性流体装置1の試験機を9つ製造し、それぞれの試験機で残留トルクを測定する実験を行った。
【0030】
試験機として製造された磁気粘性流体装置1の主要部品の寸法、材質、シャフト6の回転速度、印加磁束密度、隙間50の大きさ(以下「ギャップ」という。)および測定時間は、次のとおりである。
・回転子7の厚さ:20[mm]
・回転子7の外径:46[mm]
・第2ヨーク10の厚さ:46[mm]
・第2ヨーク10の外径:46[mm]
・第1ヨークの材質:SS400
・回転子7および第2ヨーク10の材質:S10C;S20C;S25C
・シャフト6の回転速度:10[rpm]
・印加磁束密度:0.5[T]
・ギャップ:0.1;0.3;0.5[mm]
・測定時間:60[秒間]
【0031】
回転子7および第2ヨーク10の材質、ならびに、ギャップを変えて製造された9つの試験機のうち、本発明の実施例は、当該材質がS10C(炭素含有量0.1[質量%])であり且つギャップが0.1[mm]であるもの(実施例1)、当該材質がS20C(炭素含有量0.2[質量%])であり且つギャップが0.1[mm]であるもの(実施例2)、当該材質がS10C(炭素含有量0.1[質量%])であり且つギャップが0.3[mm]であるもの(実施例3)、および、当該材質がS20C(炭素含有量0.2[質量%])であり且つギャップが0.3[mm]であるもの(実施例4)の4つである。9つの試験機のうち、実施例1ないし実施例4以外の5つのものは、比較例である。
【0032】
試験機の残留トルクの測定は、図1に示す、シャフト6に取り付けられているトルク測定器20により行った。トルク測定器20は、平板の直径が20[mm]であり平板の間隔が1[mm]である平行平板型回転粘度計である。トルク測定器20により測定した残留トルクの値は、コイル11への電流供給を止めてから経時的に変動する。したがって、試験機の残留トルクの測定方法として、コイル11への電流供給を止めてから60[秒間]残留トルクを測定するものの、測定開始後30[秒]~60[秒]までの30[秒間]の測定値の中央値を残留トルクの測定値とした。
【0033】
回転子7および第2ヨーク10の材質(炭素含有量)とギャップとがそれぞれ異なる9つの試験機の残留トルクを測定した結果は、図2に示すとおりである。
【0034】
図2に示す結果から、次のことがわかる。
【0035】
磁気粘性流体装置1において、ギャップが0.1[mm]である場合、回転子7および第2ヨーク10の炭素含有量が0.2[質量%]以下(実施例1および実施例2)であれば、炭素含有量が0.2[質量%]を超える場合(ギャップ0.1[mm]、炭素含有量0.25[質量%]の比較例)に比べて残留トルクが大きく減少していることがわかる。
【0036】
ギャップが0.3[mm]である場合であっても、同様の傾向が見られる。すなわち、ギャップが0.3[mm]である小さな磁気粘性流体装置1において、回転子7および第2ヨーク10の炭素含有量が0.2[質量%]以下(実施例3および実施例4)であれば、炭素含有量が0.2[質量%]を超える場合(ギャップ0.3[mm]炭素含有量0.25[質量%]の比較例)に比べて残留トルクが減少していることがわかる。
【0037】
したがって、磁気粘性流体装置1において、ギャップが0.1[mm]~0.3[mm]であり、かつ、回転子7および第2ヨーク10の炭素含有量が0.2[質量%]以下である場合に、残留トルクが小さいことがわかる。
【0038】
なお、ギャップが0.5[mm]である磁気粘性流体装置1の場合、炭素含有量0.2[質量%]を境に有意な変化は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、内部に封入された磁気粘性流体に印加する磁場の強さを変えることにより、回転部の回転抵抗を変えることのできる磁気粘性流体装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気粘性流体装置
2 回転部
3 装置本体
4 磁路形成部
5 磁気粘性流体
6 シャフト
7 回転子
9 ケーシング(第1ヨーク)
10 第2ヨーク(対向ヨーク)
11 コイル
20 トルク測定器
50 隙間
図1
図2