(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154081
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】高次脳機能の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056951
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堅田 俊
(72)【発明者】
【氏名】辻村 久
(72)【発明者】
【氏名】三澤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】木村 錬
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CA26
2G045DA35
(57)【要約】
【課題】被験者の高次脳機能を評価するための、客観的で、低侵襲的な方法を提供する。
【解決手段】被験者から採取された生体試料中のD-アスパラギンレベルを測定する工程を含む、実行機能、注意機能及び認知柔軟性から選択される1種以上の高次脳機能の測定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された生体試料中のD-アスパラギンレベルを測定する工程を含む、実行機能、注意機能及び認知柔軟性から選択される1種以上の高次脳機能の測定方法。
【請求項2】
D-アスパラギンレベルが、次式:
〔D-アスパラギン濃度/(D-アスパラギン濃度+L-アスパラギン濃度)〕×100
で示されるD-アスパラギン比率である請求項1記載の方法。
【請求項3】
D-アスパラギンレベルがD-アスパラギン濃度である請求項1記載の方法。
【請求項4】
被験者から採取された生体試料が、血液試料である請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
高次脳機能が少なくとも実行機能を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-アミノ酸を用いた高次脳機能の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実行機能、認知柔軟性、注意機能といった認知機能は、高次脳機能とも呼ばれ、加齢や頭部外傷、脳卒中などによって当該機能が障害されると、日常生活及び社会生活への適応が困難となる場合がある。
高次脳機能の中でも最上位に位置する実行機能は、遂行機能とも言われ、将来の目標達成のために適切な構えを維持する能力と定義され、認知機能の中でも上位に位置し、全ての認知機能が正常に機能するために必須な機能と考えられている(非特許文献1)。また、高次脳機能である認知機能の中の認知柔軟性と注意制御は、新しい行動パターンの促進や、非慣習的な状況における行動の最適化に重要な役割を果たし、人間の目標志向的な行動を支えていると考えられている。
【0003】
斯かる高次脳機能を司る神経基盤は一般に前頭前野 (prefrontal cortex) に存在すると考えられており、したがって、前頭前野の発達が不十分であったり、傷害を受けることによって高次脳機能が低下すると、無計画な行動をする、物事の優先順位をつけられない、いきあたりばったりな行動になってしまう、効率よく仕事ができない、指示されないと行動が開始できない等の症状が現れる。
【0004】
現在、高次脳機能の検査法の一つとして、分割注意、複数課題の処理能力を評価する「TMT(Trail Making Test)A及びB」が確立されており、高次脳機能障害を早期かつ鋭敏に検出できることから広く使用されている。しかしながら、認知症専門医や臨床心理士による定期的検査及び患者の定期的通院が必要なこと、被測定者の気分、体調、やる気などにより点数が左右されることなどから、さらに簡便で客観的な検査法や指標の開発が求められている。また、認知症診断においては脳脊髄液検査が有用とされているが侵襲性が課題となっており、低侵襲診断に応用可能な検査法や指標の開発も必要である。
【0005】
一方、グリシン以外の全てのアミノ酸にはD体とL体という2種類の立体異性体が存在する。L-アミノ酸は生物のタンパク質の構成要素であり、タンパク質に含まれるアミノ酸は原則的にL-アミノ酸であることから、高等動物の生理活動には主としてL体のアミノ酸が関与すると考えられていたが、近年の分析技術の進歩による分離能・感度の向上に伴い、ヒトを含む哺乳類におけるD-アミノ酸の存在とその役割が明らかにされるようになった。
【0006】
最近、健常者における生物学材料中のD-アミノ酸及びL-アミノ酸の量は一定のバランスを保っていること、ある種の疾患ではD-アミノ酸とL-アミノ酸のバランスの崩れがあることが報告され(特許文献1)、当該文献では、アルツハイマー病と血液中のD-アミノ酸との関係についても検討され、アルツハイマー病患者では、D-セリン、D-アラニン、D-メチオニン、D-ロイシン、D-アスパラギン酸、D-フェニルアラニン又はD-アロ-イソロイシンのバランスが変化することが示唆されている。しかしながら、D-セリンについて、脳脊髄液中のD-セリンが早期アルツハイマー診断のバイオマーカーになり得ることを示唆する報告(非特許文献2)と、脳脊髄液中のD-セリンとアルツハイマー病や軽度認知障害との相関は認められないという報告(非特許文献3)が混在する等、脳機能とD-アミノ酸の関連について統一的な見解は得られておらず、高次脳機能との関連についても報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】福井 俊哉、認知神経科学 (2010) 12: 156-164
【非特許文献2】C Madeira, MV Lourenco, C Vargas-Lopes, CK Suemoto, CO Brandao, T Reis, REP Leite, J Laks, W Jacob-Filho, CA Pasqualucci, LT Grinberg, ST Ferreira and R Panizzutti., Transl Psychiatry. 2015;5:1-9. doi:10.1038/tp.2015.52. Epub 2015 May 5.
【非特許文献3】Shorena Samakashvili, Clara Ibanez, Carolina Simo, Francisco J. Gil-Bea, Bengt Winblad, Angel Cedazo-Minguez, Alejandro Cifuentes., Electrophoresis. 2011;32(19):2757-2764. Doi:10.1002/elps.201100139. Epub 2011 Aug 29.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、被験者の高次脳機能を評価するための、客観的で、低侵襲的な方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、斯かる課題に鑑み検討したところ、血中にD-アスパラギンが含まれること、また、D-アスパラギン比率又はD-アスパラギン濃度が高いほどTMT-Bの遂行に時間を要することを発見し、被験者の生体試料中のD-アスパラギンレベルを指標として高次脳機能を測定することができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)に係るものである。
1)被験者から採取された生体試料中のD-アスパラギンレベルを測定する工程を含む、実行機能、注意機能及び認知柔軟性から選択される1種以上の高次脳機能の測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、被験者の高次脳機能を、低侵襲的、客観的に且つ簡便に検査することができ、高次脳機能低下の早期変化を客観的に評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「高次脳機能」は、実行機能、注意機能及び認知柔軟性から選ばれる1種以上の認知機能を意味するが、少なくとも実行機能を含むのが好ましい。
【0014】
本発明において、「実行機能」とは、遂行機能とも言われ、将来の目標達成のために適切な構えを維持する能力と定義され、具体的には、1)課題の表象、2)企画(プランニング)、3)課題の遂行、4)望ましくない反応の抑制、5)評価と必要に応じた修正、の各能力をその構成要素とすると考えられている(前記非特許文献1)。
【0015】
「注意機能」とは、注意制御機能とも云われ、多くの情報の中から、ある重要な情報に意識的に注意を向ける機能をいう(株式会社サイエンス社、大山正・中島義明 編、実験心理学への招待[改訂版]、p99)。注意機能は主に「選択性注意」、「注意の転換」、「注意の分割」の3つの機能から構成される(早稲田大学臨床心理学研究、第13巻、第1号、p33)。ここで、選択性注意とは、多くの刺激や対象から、特定の刺激や対象に注意を向ける機能であり、注意の転換とは、特定の刺激や対象に向けていた注意を必要に応じて中断し、他の刺激や対象に適切に切り替える機能であり、注意の分割とは、複数の対象に同時に注意を配分させる機能である。
【0016】
「認知柔軟性」とは、不適応な考えを入れ替えたり、バランスのある思考や適応した思考を取り入れる能力のことをいう(徳吉陽河・岩崎祥一(2012)認知の柔軟性尺度(CFI)日本語版の作成と妥当性 日本心理学会第76回大会論文集、672)。
【0017】
本発明における高次脳機能(実行機能、注意機能及び認知柔軟性)は、TMT-B(Trail Making Test B)により評価することができる。
TMT-Bは高次脳機能の検査として良く用いられる方法であり、視覚注意、視覚探索、視覚運動協調性、注意の持続と選択、視覚-運動の協調性、情報処理の迅速さ、干渉を伴う短期記憶等、高次の注意機能を反映するとされている。
【0018】
本発明において、「高次脳機能の測定」とは、高次脳機能の状態又は程度、実行機能障害の有無を含み、好ましくは、高次脳機能の状態の測定である。
ここで、「測定」は、「検査」、「判定」、「評価」又は「評価支援」という用語で言い換えることもできる。なお、本明細書において「判定」又は「評価」という用語は、医師による判定や評価を含むものではない。
【0019】
本発明の高次脳機能の測定方法は、被験者から採取された生体試料中のD-アスパラギンレベルを測定する工程を含む。
【0020】
本発明において、被験者は特に限定されないが、例えば、加齢にともない高次脳機能が低下する中高年齢以上のヒト、高次脳機能、例えば実行機能に特徴的な自覚症状(例えば、物事の優先順位をつけられない、いきあたりばったりな行動になってしまう、効率よく作業ができない、指示されないと行動が開始できない、必要に応じて作業内容を修正できない等)を有するヒト、高次脳機能の低下が疑われるヒト等が挙げられる。
【0021】
本発明において、生体試料とは、血液、リンパ液、脳脊髄液、唾液、尿等の体液が主として挙げられ、好ましくは、血液試料である。血液試料としては、例えば血液(全血)及び血液に由来する血清、血漿等が含まれるが、好ましくは血漿である。
血液は、体循環の血管(動脈(末梢動脈)、静脈(末梢静脈)、毛細血管)又は肺循環の血管(肺動脈、肺静脈、肺毛細血管)から採血することができるが、採血の簡便性の観点から、体循環の血管、特に静脈(末梢静脈)から採血をすることが好ましい。
【0022】
本発明において、D-アスパラギンレベルとしては、D-アスパラギンの含量や組成値でも良いが、次式:〔D-アスパラギン濃度/(D-アスパラギン濃度+L-アスパラギン濃度)〕×100で示されるアスパラギンのキラルバランス、すなわちD-アスパラギン比率又はD-アスパラギン濃度が好ましい。
【0023】
生体試料中のD-アスパラギンレベルの測定は、生体試料中のD-アミノ酸とL-アミノ酸を分離して測定できればよく、その手段は限定されないが、一般的には液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせたLC-MS、LC-MS/MS等を用いた分離定量方法を採用できる。
ここで、キラルアミノ酸の分離手法としては、例えば、4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-F)試薬を用いてアミノ酸をNBD誘導体とした後、逆相カラム(1次元目:分子種分離)とキラル識別子を担持した固定相を有するキラルカラム(2次元目:キラル分離)を用いた2次元液体クロマトグラフィー(LC)法により分離定量する方法(J Chromatogr A. 2010 Feb 12;1217(7):1056-62. doi: 10.1016/j.chroma.2009.09.002. Epub 2009 Sep 6)や、1本の逆相カラム(ODSカラム)を用いた1次元LC法(Anal Chim Acta. 2015 May 22;875:73-82. doi: 10.1016/j.aca.2015.02.054. Epub 2015 Feb 23)、アミノ酸を6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシイミジルカルバメート(AQC)誘導体化し、1本のキラルカラムを用いた1次元LC法により分離する方法(J Pharm Biomed Anal. 2015 Nov 10;115:123-9. doi: 10.1016/j.jpba.2015.05.024. Epub 2015 Jun 16)の他、アミノ基をAQC誘導体化した後、弱アニオン交換型の固定相を有する第一のキラルカラムと、両性イオン交換型の固定相を有する第二のキラルカラムとを接続した液体クロマトグラフィーを用いて分離する方法(特開2018-100906号公報)等が知られている。
あるいは、キラルアミノ酸は、後記実施例に示すとおり、アミノ基を2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートと反応させて誘導体化した後、両性イオン交換型の固定相を有するキラルカラムを接続した液体クロマトグラフィーを用いて分離することもでき(特願2021-042055)、キラルアミノ酸の分離には斯かる方法を用いるのが好ましい。尚、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートは、RapiFluor-MS(RFMS)とも称され、市販されている(Waters社)。
【0024】
後記実施例に示すとおり、D-アスパラギン比率及びD-アスパラギン濃度は、高次脳機能の検査として汎用されているTMT-Bの遂行時間と良好な分類相関が認められた。すなわち、TMT-Bの遂行時間はD-アスパラギン比率と正の相関傾向を示し、当該遂行時間はD-アスパラギン濃度と正に相関する。したがって、被験者の生体試料中のD-アスパラギンレベルを測定し、それを基準値と比較することにより、当該被験者の高次脳機能、具体的には実行機能、注意機能及び認知柔軟性から選ばれる1種以上を測定できる。
【0025】
ここで、基準値は、例えば、D-アスパラギンレベルと高次脳機能の状態との関連づけから以下のように設定することができる。
高次脳機能の状態をTMT-Bにより評価する。その評価結果に基づき、高次脳機能が正常と判断される被験体から構成される健常群と、高次脳機能が低いと判断される被験体から構成される高次脳機能障害群を作成する。これとは別途、前述の方法によりD-アスパラギンレベルを測定する。そして高次脳機能の評価結果とD-アスパラギンレベルとの相関性に基づき、高次脳機能の状態を評価するのに適した基準値が決定される。具体的には、各群に属するヒトのD-アスパラギンレベルの統計解析結果に基づき、各群を特徴づけるD-アスパラギンレベルの数値範囲を決定する。この数値範囲は、各群の平均値を中心とした上下の一定範囲に設定することにより決定する。ここで「一定範囲」とは、標準偏差(SD)等の統計数値や、1/2SD値、1/3SD値などを用いてもよいし、予め設定した任意の数値を用いてもよい。又は各群の中央値を中心とした上下の一定範囲に設定することもできる。ここで「一定範囲」とは、第1四分位点や第3四分位点などを用いてもよいし、予め設定した任意の数値を用いてもよい。
そして、例えば、被験者から得られたD-アスパラギンレベルが高次脳機能障害群のD-アスパラギンレベルの範囲内に属する場合には、当該被験者は「高次脳機能が低下している」、「高次脳機能障害がある」又は「高次脳機能障害がある可能性が高い」と評価できる。
【0026】
斯くして、本発明の方法によれば、被験者の高次脳機能の状態や程度を、低侵襲で、簡便かつ的確に評価することができる。
【実施例0027】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0028】
試験例 TMT-Bにより評価された高次脳機能と血中D-アスパラギン比率及びD-アスパラギン濃度の相関解析
〔1.試験概要〕
(試験手順)
65歳以上75歳未満の男女20名(平均年齢71±3歳)を対象に、高次脳機能の評価としてTMT-Bの測定を行い、血中D-アスパラギン比率及びD-アスパラギン濃度との相関解析を行った。TMT-Bは遂行時間(秒)を上限300秒として測定した。また、高次脳機能の測定と同日に前腕静脈より採血を行って血漿を分離した。血漿は-80℃で凍結保管した後、アスパラギン濃度測定を行った。
【0029】
(血中アスパラギン濃度の測定とD-アスパラギン比率の算出)
(1)試料溶液及び標準品の調製
ヒト血漿10μLを10mLスピッチグラス(商品名:強化硬質ねじ口試験管)に入れ、メタノール:水(9:1,v/v)溶液490μLを混合後、遠心機(HITACHI製/CF5RE)にて冷蔵下(4℃)で5分間、3000rpmにて遠心分離を行うことで除タンパクし、上清のアミノ酸を採取した。次いで、別途10mLスピッチグラスに、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、採取上清溶液、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートのジメチルホルムアミド溶液(Waters社製RapiFluor-MS(RFMS)粉末を4.5mg/mL,すなわち10mmol/Lの濃度で超脱水ジメチルホルムアミドに溶解)を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃で10分間加熱することにより試料溶液を調製した。同様に、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、10nmol/L D,L-アミノ酸標準溶液(Asn/アスパラギン、0.2mol/L ホウ酸緩衝液溶解)、RFMS溶液を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃で10分間加熱することによりアミノ酸標準溶液を調製した。
【0030】
(2)Chiral LC-MS/MS分析
(1)で調製した試料溶液を、下記の条件下でChiral LC-MS/MS分析し、L-アスパラギンとD-アスパラギンの分離検出及び定量を行った。
・装置
Exion LCシリーズ(AB SCIEX社)、質量分析計/QTRAP6500+リニアイオントラップ型(AB SCIEX社)
【0031】
・クロマトグラフィー分離
分離キラルカラム:CHIRALPAK ZWIX(+)<DAICEL社>
3.0mm内径×150mm、粒径3μm
カラム温度:45℃
溶離液: 0.1%(v/v)ギ酸及び55mMギ酸アンモニウム含有メタノール:水(90:10,v/v)溶液
溶離法:アイソクラティック
移動相流量:0.25mL/min
注入量:5μL
【0032】
・質量分析
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
極性:正イオン
Curtain Gas(CUR):30psi
Ionspray voltage(IS):4500V
Temperature(TEM):600℃
Ion Source Gas1(GS1):80psi
Ion Source Gas1(GS2):80psi
Collision Gas(CAD):10
【0033】
・検出モード
プリカーサーイオン(Q1)にプロトンイオン付加分子([M+H]+m/z=445)、プロダクトイオンにRFMSフラグメントイオン(m/z=240)を設定した正イオンモードによるSRM(Selected Reaction Monitoring)検出
・D-アスパラギン比率の算出
測定されたL-アスパラギン及びD-アスパラギン濃度から、D-アスパラギン比率(〔D-アスパラギン濃度/(D-アスパラギン濃度+L-アスパラギン濃度)〕×100(%))を算出した。
【0034】
(相関解析)
測定されたTMT-Bの遂行時間とD-アスパラギン比率及びD-アスパラギン濃度について、ピアソンの積率相関分析を行った(統計解析ソフトはGraphPad Prism ver 8.0を使用)。
【0035】
〔2.結果〕
TMT-Bの遂行時間とD-アスパラギン比率の間に正の相関傾向があること、TMT-Bの遂行時間とD-アスパラギン濃度の間に有意な正の相関があること、つまりD-アスパラギン比率及びD-アスパラギン濃度が高いほどTMT-Bの遂行に時間を要することが明らかになった。TMT-Bは実行機能の指標として用いられるテストであることから、D-アスパラギン比率及びD-アスパラギン濃度は高次脳機能評価のマーカーとなることが示された。
【0036】