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  • 特開-静電容量式感圧センサ 図1
  • 特開-静電容量式感圧センサ 図2
  • 特開-静電容量式感圧センサ 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154094
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】静電容量式感圧センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/14 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
G01L1/14 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056972
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】田島 善直
(72)【発明者】
【氏名】小濱 孝久
(72)【発明者】
【氏名】住田 栄佑
(57)【要約】
【課題】弾性層にある1種類の弾性材料を用いて作製した静電容量式感圧センサのヒステリシスロス率が高い場合に、別の特定の弾性材料を加えた2種類の弾性材料を用いることで該ヒステリシスロス率を低くする。
【解決手段】第1電極、第1弾性層、第2電極、第2弾性層及び第3電極を順に積層して含む静電容量式感圧センサにおいて、第1弾性層と第2弾性層はそれぞれを23℃において速度0.5mm/分で圧縮及び除圧して測定した静電容量のヒステリシスロス率最大値時の弾性層応力が相異なり、その差異が3kPa以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第1弾性層、第2電極、第2弾性層及び第3電極を順に積層して含む静電容量式感圧センサにおいて、
第1弾性層と第2弾性層はそれぞれを23℃において速度0.5mm/分で圧縮及び除圧して測定した静電容量のヒステリシスロス率最大値時の弾性層応力が相異なり、その差異が3kPa以上であることを特徴とする静電容量式感圧センサ。
【請求項2】
静電容量式感圧センサを23℃において速度0.5mm/分で圧縮及び除圧して測定した静電容量のヒステリシスロス率最大値時のセンサ応力は、第1弾性層の前記弾性層応力と第2弾性層の前記弾性層応力との中間値である請求項1記載の静電容量式感圧センサ。
【請求項3】
第1弾性層及び第2弾性層は発泡体である請求項1又は2記載の静電容量式感圧センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量式感圧センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電容量式感圧センサは、同センサに圧縮力が働くと、誘電体弾性材が圧縮され、誘電体弾性材を介して隔てられた電極間の静電容量が増加するため、その増加を検出し測定することでセンサに働く圧縮力を測定するものである。
【0003】
特許文献1には、検出電極と、その両面に積層した誘電体弾性材と、その両面に積層した駆動電極とを含む静電容量式感圧センサが開示されている。誘電体弾性材の材料としては「例えば弾性ゴム」の記載があるにとどまる。
【0004】
特許文献2には、第1導電層と、第1誘電層と、第2導電層と、第2誘電層と、第3導電層と、第2絶縁層とを順に積層し、第2誘電層が第1誘電層より硬い、さらには第2誘電層のヤング率が第1誘電層のヤング率より大きい、静電容量型センサが開示されている。その目的は、測定できる荷重についてダイナミックレンジの広いセンサを実現するためとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-78925号公報
【特許文献2】特許第6693260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電容量式感圧センサの感度を高める、すなわち、より小さい圧縮力を検出するには、誘電体弾性材にヤング率の小さい柔らかい弾性材料を用いることが有効である。しかし、柔らかい弾性材料(例えば軟質のポリウレタン材料)は、低反発性でヒステリシスロスが大きい傾向がある。本発明者が、ポリウレタン材料を用いた後述する比較例2の静電容量式感圧センサを試作したところ、ヒステリシスロス率は20%を越えた。
【0007】
特許文献1,2ではこの課題について認識されておらず、特許文献2のように第2誘電層のヤング率を第1誘電層のヤング率より大きくしても、この課題を解決するものではなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、弾性層にある1種類の弾性材料を用いて作製した静電容量式感圧センサのヒステリシスロス率が高い場合に、別の特定の弾性材料を加えた2種類の弾性材料を用いることで該ヒステリシスロス率を低くすることにある。
より好ましくは、当該別の特定の弾性材料の1種類を用いて作製した静電容量式感圧センサのヒステリシスロス率よりもさらに低いヒステリシスロス率を得て、計測期間から非計測期間(通常期間)への復帰時間を短縮し、繰り返しの計測に適した静電容量式感圧センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題の要因であるヒステリシスロス率が最大値である時の応力に着目し、検討を重ねて次の手段に到達したものである。
【0010】
本発明の静電容量式感圧センサは、第1電極、第1弾性層、第2電極、第2弾性層及び第3電極を順に積層して含む静電容量式感圧センサにおいて、
第1弾性層と第2弾性層はそれぞれを23℃において速度0.5mm/分で圧縮及び除圧して測定した静電容量のヒステリシスロス率最大値時の弾性層応力が相異なり、その差異が3kPa以上であることを特徴とする。
【0011】
ここで、静電容量式感圧センサを23℃において速度0.5mm/分で圧縮及び除圧して測定した静電容量のヒステリシスロス率最大値時のセンサ応力は、第1弾性層の前記弾性層応力と第2弾性層の前記弾性層応力との中間値であることが好ましい。
【0012】
第1弾性層と第2弾性層は、発泡体であることが好ましい。発泡体は非発泡体よりも柔らかいため、センサの感度を高めることができる。
【0013】
<作用>
第1弾性層と第2弾性層の前記ヒステリシスロス率最大値時の弾性層応力の差異が3kPa以上であることにより、センサの静電容量のヒステリシスロス特性を制御することができ、第1弾性層と第2弾性層の少なくとも高い方の静電容量のヒステリシスロス率最大値に対して、センサの静電容量のヒステリシスロス率最大値が低くなり、計測期間から通常期間への復帰時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弾性層にある1種類の弾性材料を用いて作製した静電容量式感圧センサのヒステリシスロス率が高い場合に、別の特定の弾性材料を加えた2種類の弾性材料を用いることで該ヒステリシスロス率を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は実施例及び比較例の静電容量式感圧センサを示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は各層厚を拡大して示すとともに静電容量のヒステリシスロスの測定方法を示す正面図である。
図2図2は同試験で得られた静電容量-荷重曲線を示し、(a)は比較例1のグラフ図、(b)は比較例4のグラフ図、(c)は実施例1のグラフ図である。
図3図3は同試験で得られた実施例2,3の静電容量-荷重曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1]第1弾性層、第2弾性層
第1弾性層と第2弾性層の各材料としては、各種の誘電体エラストマーを用いることができる。
誘電体エラストマーとしては、特に限定されないが、ポリウレタン、シリコーン、熱可塑性エラストマー、天然ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、架橋ポリロタキサン等を例示できる。
第1弾性層の材料と第2弾性層の材料は、同種の材料で前記ヒステリシスロス率最大値時の弾性層応力の差異が3kPa以上であるものを用いてもよいし、異種の材料で前記ヒステリシスロス率最大値時の弾性層応力の差異が3kPa以上であるものを用いてもよい。
【0017】
第1弾性層と第2弾性層の前記ヒステリシスロス率最大値時の弾性層応力の差異は、10kPa以上であることがより好ましく、11.5kPa以上であることが最も好ましい。この差異が大きいほど、センサの静電容量のヒステリシス特性を制御しやすくなり、センサの静電容量のヒステリシスロス率最大値を低くすることができるからである。
【0018】
[2]第1電極、第2電極、第3電極
これらの電極の材料としては、特に限定されないが、第1弾性層と第2弾性層の圧縮変形に追従できるものが好ましく、導電性粒子層、導電性塗膜、表面又は内部に導電性を付与したエラストマー等を例示できる。
導電性粒子としては、特に限定されないが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、白金、金、銀、銅、ニッケル等の粒子等を例示できる。
エラストマーとしては、特に限定されないが、上記[1]で例示した誘電体エラストマーを例示できる。
【0019】
[3]絶縁層
第1電極の第1弾性層とは反対側に絶縁層を積層して含むことが好ましい。
第3電極の第2弾性層とは反対側に絶縁層を積層して含むことが好ましい。
絶縁層により、電気的な外乱でセンサの静電容量が変化することを防ぐことができ、また、第1電極、第三電極を保護した耐久性を高めることができるからである。
絶縁層の材料としては、特に限定されないが、樹脂板、エラストマー板等を例示できる。
【実施例0020】
図1に示すように、下から、絶縁層、第1電極、第1弾性層、第2電極、第2弾性層、第3電極及び絶縁層を順に積層してなる静電容量式感圧センサの、比較例1~4と実施例1~3を作製した。
【0021】
表1に示すように、各例は、第1弾性層と第2弾性層に用いたポリウレタン材料においてのみ相違するものであり、その他は共通のものである。比較例1~4では、第1弾性層と第2弾性層に同一のポリウレタン材料を用いた。実施例1~3では、第1弾性層と第2弾性層に相異なるポリウレタン材料を用いた。
【0022】
【表1】
【0023】
第1弾性層と第2弾性層に用いたポリウレタン材料は、いずれも株式会社ロジャースイノアックの製品である。
型番「SR-S-15P_t0.5」は、低反発性と柔らかさを特徴とするするポリウレタンフォーム(厚さ0.5mm)をPETフィルム(厚さ50μm)と一体成形したものである。
型番「SS-20P_t0.5」と型番「SS-32P_t0.5」は、高反発性と柔らかさを特徴とするするポリウレタンフォーム(厚さ0.5mm)をPETフィルム(厚さ50μm)と一体成形したものであり、両者は密度が異なる。
型番「WP-24P_t0.5」は、撥水性を付与したポリウレタンフォーム(厚さ0.5mm)をPETフィルム(厚さ50μm)と一体成形したものである。
これらのポリウレタン材料の特性(カタロク値)を、表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
第1電極と第2電極と第3電極は、微粒子の銀粉がポリエステル樹脂に均一に分散された薄膜(厚さ8μm)である。
【0026】
両側の絶縁層は、ポリカーボネートの薄板(厚さ0.5mm)である。
【0027】
第1電極、第1弾性層、第2電極、第2弾性層及び第3電極は、平面視形状が長円形であり、平面視面積が397mmである。
両側の絶縁層は、第1電極等よりも一回り大きい長円形である。
【0028】
絶縁層と第1電極との間、第1電極と第1弾性層との間、第1弾性層と第2電極との間、第2電極と第2弾性層との間、第2弾性層と第3電極との間、第3電極と絶縁層との間は、それぞれ両面粘着テープ(図示略)により接着されている。
【0029】
以上のように構成された実施例1~3及び比較例1~4の静電容量式感圧センサについて、静電容量のヒステリシスロス特性を次のようにして測定した。
【0030】
図1(c)に示すように、試験体を任意の速度で繰り返し圧縮及び除圧することができるストローク試験機と、静電容量を計測できるLCRメータとを使用し、同試験器の剛性の台に静電容量式感圧センサを(第1電極を下側、第3電極を上側にして)載せ、LCRメータの一方の入力端子に第1電極及び第3電極を接続し、他方の入力端子に第3電極を接続した。
同試験機の押し子(下面は平ら)を作動させて絶縁層に当接させ、23℃において速度0.5mm/分で圧縮(下降)及び除圧(上昇)して、静電容量-荷重曲線を3回記録した。最大荷重は10Nとした。
【0031】
図2(a)に比較例1の、(b)に比較例4の、(c)に実施例1の各静電容量-荷重曲線を示す。
図3に実施例2,3の静電容量-荷重曲線(いずれも3回記録したうちの1回)を示す。
【0032】
表1に、各例の静電容量の初期値、最大荷重時の値、変化量、変化率を示す。また、下記の式1で求められるヒステリシスロス率が最大となった時の値、同ヒステリシスロス率最大時の荷重、同ヒステリシスロス率最大時のセンサ応力(ヒステリシスロス率最大時の荷重を第1弾性層及び第2弾性層の平面視面積397mmで除して求められる。)を示す。これらはいずれも記録した3回の平均値である。
ヒステリシスロス率=100×(除圧時の静電容量-圧縮時の静電容量)/(最大荷重時の静電容量変化量)・・・式1
【0033】
比較例1~4では第1弾性層と第2弾性層に同一のポリウレタン材料を用いているから、上記で求められたヒステリシスロス率最大時のセンサ応力は、ヒステリシスロス率最大時の両弾性層の弾性層応力でもあるといえる。
実施例1~3では第1弾性層と第2弾性層に相異なるポリウレタン材料(但し比較例1~4で用いたポリウレタン材料の2種類の組み合わせ)を用いているから、表1に比較例1~4で求められたヒステリシスロス率最大時の両弾性層の弾性層応力の差異を示した。
【0034】
表1のとおり、実施例1~3では、第1弾性層と第2弾性層の少なくとも高い方のヒステリシスロス率最大値に対して、センサのヒステリシスロス率最大値が低くなった。この低くなった程度は、ヒステリシスロス率最大時の両弾性層の弾性層応力の差異が10kPa以上である実施例1,3で大きかった。
特に、ヒステリシスロス率最大時の両弾性層の弾性層応力の差異が11.5kPa以上である実施例1では、両弾性層のヒステリシスロス率最大値に対して顕著に低いセンサのヒステリシスロス率最大値が得られた。よって、実施例1によれば、比較例1及び比較例4のいずれよりも、圧縮後の復元が早くなることから、センサ性能の一つである、計測期間から非計測期間(通常期間)への復帰時間を短縮でき、繰り返しの計測に適するものとなる。
【0035】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
図1
図2
図3