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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154096
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/118 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
F16D27/118
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056974
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(57)【要約】
【課題】回転伝達装置に内蔵された噛み合い式電磁クラッチが、即時に接続できるようにする。
【解決手段】入力軸3及び出力軸4と、通電により磁力を発生させる電磁石10と、磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、第1部材及び第2部材にそれぞれ設けられ第1部材及び第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって入力軸3と出力軸4との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、第1部材の突起の数及び第2部材の突起の数のうち一方を偶数、他方を奇数とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸(3)及び出力軸(4)と、通電により磁力を発生させる電磁石(10)と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸(3)と前記出力軸(4)との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、
前記第1部材の突起の数及び前記第2部材の突起の数は、一方が偶数であり他方は奇数である回転伝達装置。
【請求項2】
前記第1部材及び前記第2部材は、少なくとも前記突起の表面に熱処理による強度向上部を備えている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
入力軸(3)及び出力軸(4)と、通電により磁力を発生させる電磁石(10)と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸(3)と前記出力軸(4)との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、
前記第1部材は前記電磁石(10)に隣接して配置される環状のロータ(20)であり、前記第2部材は前記ロータ(20)に隣接して配置される環状のアーマチュア(30)であり、
前記ロータ(20)は、前記入力軸(3)又は前記出力軸(4)が挿通される軸穴(23)と、前記突起と前記軸穴(23)との間で前記ロータ(20)の部材を軸方向へ貫通する穴(26)を備えている回転伝達装置。
【請求項4】
入力軸(3)及び出力軸(4)と、通電により磁力を発生させる電磁石(10)と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸(3)と前記出力軸(4)との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、
前記第1部材は前記電磁石(10)に隣接して配置される環状のロータ(20)であり、前記第2部材は前記ロータ(20)に隣接して配置される環状のアーマチュア(30)であり、
前記電磁石(10)はコア(11)及びコイル(12)を備え、前記ロータ(20)は軸受部(73)によって前記コア(11)の外径面(11a)に回転自在に支持されており、前記軸受部(73)を挟んで前記ロータ(20)と前記コア(11)との間に非磁性体からなる磁気遺洩防止部材(80)を介在している回転伝達装置。
【請求項5】
入力軸(3)及び出力軸(4)と、通電により磁力を発生させる電磁石(10)と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸(3)と前記出力軸(4)との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、
前記第1部材は前記電磁石(10)に隣接して配置される環状のロータ(20)であり、前記第2部材は前記ロータ(20)に隣接して配置される環状のアーマチュア(30)であり、
前記ロータ(20)は、前記入力軸(3)又は前記出力軸(4)が挿通される軸穴(23)を備え、前記軸穴(23)に挿通される前記入力軸(3)又は前記出力軸(4)が非磁性体からなる磁気遺洩防止部を備えている回転伝達装置。
【請求項6】
入力軸(3)及び出力軸(4)と、通電により磁力を発生させる電磁石(10)と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸(3)と前記出力軸(4)との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、
前記第1部材と前記第2部材との間、又は、前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方とそれに接離する他の部材との間に衝撃緩衝部材(91,92)を備えている回転伝達装置。
【請求項7】
前記衝撃干渉部材(91,92)を覆う金属製のカバー(93)を備えている請求項6に記載の回転伝達装置。
【請求項8】
入力軸(3)及び出力軸(4)と、通電により磁力を発生させる電磁石(10)と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸(3)と前記出力軸(4)との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、
前記電磁石(10)への通電時に前記突起同士の噛み合いが解除され、非通電時には前記突起同士の噛み合う回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力伝達経路上において、動力の伝達と遮断の切換えに用いられる回転伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両等における動力伝達経路上において、動力の伝達と遮断の切換えに回転伝達装置が用いられている。例えば、車両用ステアリング装置に用いられる回転伝達装置として、特許文献1に記載されたものがある。この回転伝達装置は、ステアリングホイールの回転が入力される操作部と、車両の進行方向へ向けて車輪を転舵する転舵部との間の動力伝達経路上に組み込まれるものである。
【0003】
内部に電磁クラッチが内蔵されており、この電磁クラッチが通常時は開放状態となって、操作部と転舵部との間が機械的に分離している。通常運転時には、ステアリングホイールの操作量に応じて転舵用アクチュエータを作動させ、左右の車輪を必要な舵角だけ転舵させる、いわゆるステアバイワイヤ(steer-by-wire)方式を採用している。また、ステアバイワイヤに不具合が生じた場合等の非常時には、電磁クラッチが係合状態となり、操作部から転舵部へ回転を伝達することができるようになっている。
【0004】
電磁クラッチは、電磁石の作用によって、軸方向に対して相対移動可能なロータとアーマチュアとを備えている。ロータとアーマチュアとが接近することにより、ロータの端面に形成されている歯と、アーマチュアの端面に形成されている歯とが、互いに噛み合うことによって回転が伝達される。また、ロータとアーマチュアとが離反することにより、ロータの歯とアーマチュアの歯との噛み合いが解除されて、回転の伝達が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-165453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、歯面の噛み合いでトルクを伝達する噛み合い式電磁クラッチ、いわゆるツースクラッチを用いた従来の回転伝達装置では、互いに噛み合うロータ側の歯数とアーマチュア側の歯数が同一に設定されている。また、両者の歯が噛み合った際に、対応する全ての歯同士が、回転方向及びその反対方向に対してほぼ隙間なく噛み合うように、歯の数と歯の間隔が設定されている。このような状態は、回転方向に対してガタがないという利点はあるものの、歯と歯の隙間が少ないため、両者に回転数差があるとスムーズに噛み合えず、電磁クラッチの接続にタイムラグが生じるという問題がある。特に、非常時等においては、電磁クラッチは即時に接続できることが望ましい。
【0007】
また、特許文献1の回転伝達装置では、電磁クラッチのロータの内径面と電磁石のフィールフドコアの外径面との間に軸受を備え、ロータは電磁石に対して軸受によって支持されている。このため、通電時に、ロータに作用するべき磁力が、軸受を介して内径側(軸心側)へ逃げてしまうおそれがある。また、ロータは、内径側の軸に対してスプラインで接続されているため、このスプライン嵌合部分を通じて内径側(軸心側)へ磁力が逃げてしまうおそれもある。ロータに作用する磁力が低下すると、アーマチュアの吸引力が低下するという問題があるので、電磁石による磁力が他へ回りにくい構造が求められる。
【0008】
さらに、特許文献1の回転伝達装置では、電磁石のコイルに通電すると、アーマチュアがロータに衝突し、通電を遮断すると回転体にアーマチュアが衝突するため、その衝撃による振動と衝突音が発生するという問題がある。部材同士が衝撃をもって衝突することは、その部材の寿命を長く確保する観点から抑制することが望ましい。また、振動や衝撃音の発生は運転上不快であるので、できる限り低減したいという要請がある。
【0009】
また、特許文献1の回転伝達装置では、電磁石のコイルに通電を行うと噛み合い式電磁クラッチ(ツースクラッチ)が結合してトルク伝達を行い、通電を遮断するとその結合が解除されるようになっている。しかし、この構造では、車両が電気失陥してしまった場合にクラッチが繋がらない、すなわち、ハンドル操作が出来ない状態に陥るという問題がある。
【0010】
そこで、この発明の課題は、回転伝達装置に内蔵された噛み合い式電磁クラッチが、即時に接続できるようにすることを第1の課題とし、電磁石による磁力がアーマチュアの吸引に必要な部位以外へ回りにくいようにすることを第2の課題とする。また、電磁石のコイルへの通電及び通電の遮断時に、部材同士の間に生じる衝撃を抑制することを第3の課題とし、電気的な不具合が生じた場合にクラッチが繋がらない事態を防止することを第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の課題を解決するために、この発明は、入力軸及び出力軸と、通電により磁力を発生させる電磁石と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸と前記出力軸との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、前記第1部材の突起の数及び前記第2部材の突起の数は、一方が偶数であり他方は奇数である回転伝達装置を採用した。
【0012】
ここで、前記第1部材及び前記第2部材は、少なくとも前記突起の表面に熱処理による強度向上部を備えている構成を採用することができる。
【0013】
また、上記第2の課題を解決するために、この発明は、入力軸及び出力軸と、通電により磁力を発生させる電磁石と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸と前記出力軸との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、前記第1部材は前記電磁石に隣接して配置される環状のロータであり、前記第2部材は前記ロータに隣接して配置される環状のアーマチュアであり、前記ロータは、前記入力軸又は前記出力軸が挿通される軸穴と、前記突起と前記軸穴との間で前記ロータの部材を軸方向へ貫通する穴を備えている回転伝達装置を採用した。
【0014】
上記第2の課題を解決するための別の手段として、この発明は、入力軸及び出力軸と、通電により磁力を発生させる電磁石と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸と前記出力軸との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、前記第1部材は前記電磁石に隣接して配置される環状のロータであり、前記第2部材は前記ロータに隣接して配置される環状のアーマチュアであり、前記電磁石はコア及びコイルを備え、前記ロータは軸受部によって前記コアの外径面に回転自在に支持されており、前記軸受部を挟んで前記ロータと前記コアとの間に非磁性体からなる磁気遺洩防止部材を介在している回転伝達装置を採用した。
【0015】
さらに、上記第2の課題を解決するための別の手段として、この発明は、入力軸及び出力軸と、通電により磁力を発生させる電磁石と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸と前記出力軸との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、前記第1部材は前記電磁石に隣接して配置される環状のロータであり、前記第2部材は前記ロータに隣接して配置される環状のアーマチュアであり、前記ロータは、前記入力軸又は前記出力軸が挿通される軸穴を備え、前記軸穴に挿通される前記入力軸又は前記出力軸が非磁性体からなる磁気遺洩防止部を備えている回転伝達装置を採用した。
【0016】
また、上記第3の課題を解決するために、この発明は、入力軸及び出力軸と、通電により磁力を発生させる電磁石と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸と前記出力軸との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、前記第1部材と前記第2部材との間、又は、前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方とそれに接離する他の部材との間に衝撃干渉部材を備えている回転伝達装置を採用した。
【0017】
ここで、前記衝撃干渉部材を覆う金属製のカバーを備えている構成を採用することができる。
【0018】
上記第4の課題を解決するために、この発明は、入力軸及び出力軸と、通電により磁力を発生させる電磁石と、前記磁力の発生によって互いに接近又は離反する第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材にそれぞれ設けられ前記第1部材及び前記第2部材が互いに接近した際に噛み合う突起とを備え、前記突起同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって前記入力軸と前記出力軸との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行う回転伝達装置において、前記電磁石への通電時に前記突起同士の噛み合いが解除され、非通電時には前記突起同士の噛み合う回転伝達装置を採用した。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、回転伝達装置に内蔵された噛み合い式電磁クラッチが、即時に接続できるようになり、また、電磁石による磁力がアーマチュアの吸引に必要な部位以外へ回りにくいようにすることができる。さらに、電磁石のコイルへの通電及び通電の遮断時に、部材同士の間に生じる衝撃を抑制することができ、電気的な不具合が生じた場合にクラッチが繋がらない事態を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の第1の実施形態を示す縦断面図
図2A】クラッチの結合状態を示す図1の要部拡大図
図2B】クラッチの結合解除状態を示す図1の要部拡大図
図3A】アーマチュアの歯面を示す側面図
図3B】ロータの歯面を示す側面図
図4A】中立状態におけるロータの歯とアーマチュアの歯の位置関係を示す側面図
図4B】一方向への回転状態におけるロータの歯とアーマチュアの歯の位置関係を示す側面図
図4C】他方向への回転状態におけるロータの歯とアーマチュアの歯の位置関係を示す側面図
図5A】中立状態におけるロータの歯とアーマチュアの歯の位置関係を示す側面図
図5B】一方向への回転状態におけるロータの歯とアーマチュアの歯の位置関係を示す側面図
図5C】他方向への回転状態におけるロータの歯とアーマチュアの歯の位置関係を示す側面図
図6】アーマチュアの歯面を示す平面図
図7A】アーマチュアの歯面を示す平面図
図7B図7Aの要部拡大断面図
図8】アーマチュアを示す斜視図
図9】アーマチュアを示す斜視図
図10】この発明の第2の実施形態を示す要部拡大縦断面図
図11図10のロータを示す側面図
図12】この発明の第3の実施形態を示す要部拡大縦断面図
図13】第3の実施形態に対する参考例を示す要部拡大縦断面図
図14A】この発明の第4の実施形態を示す要部拡大縦断面図(クラッチの結合状態)
図14B】この発明の第4の実施形態を示す要部拡大縦断面図(クラッチの結合解除状態)
図15】この発明の第5の実施形態を示す要部拡大縦断面図
図16】この発明の第6の実施形態を示す要部拡大縦断面図
図17A】この発明の第7の実施形態を示す要部拡大縦断面図(クラッチの結合解除状態)
図17B】この発明の第7の実施形態を示す要部拡大縦断面図(クラッチの結合状態)
図18】この発明の回転伝達装置を備えたステアリング装置を示す全体図
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は、この発明の第1実施形態に係る回転伝達装置1を示している。この回転伝達装置1は、両端が開放した筒状のケース2と、外部から回転が入力される入力軸3と、入力軸3から伝達する回転を外部に出力する出力軸4と、入力軸3と出力軸4との間に設けられる電磁クラッチとして、電磁石10、ロータ20、アーマチュア30、回転部材40とを備えている。
【0022】
ケース2は、円筒状の大径筒部2aと、大径筒部2aの内径よりも小さい内径をもつ円筒状の小径筒部2bと、大径筒部2aと小径筒部2bを連結する連結部2cとを備えている。大径筒部2aの小径筒部2b側とは反対側の端部は、蓋5で閉じられている。大径筒部2aと小径筒部2bと連結部2cは、継ぎ目の無い一体の部材として形成されている。入力軸3は、その一端がケース2内に収容され、他端がケース2の小径筒部2bの開口端から突出した状態に設けられている。入力軸3は、小径筒部2bに対して軸受部71で軸回り回転自在に支持され、軸受部71よりも他端側では、グリース等の潤滑材が外部に漏れ出ないように、適宜シール部材(図示せず)によってケース2の内外が液密に封止されている。出力軸4は、入力軸3と同一直線上に並んで配置されている。出力軸4は、その一端がケース2の小径筒部2bの開口端から突出した状態とされ、他端がケース2内に収容されている。出力軸4は、蓋5に対して軸受部76で軸回り回転自在に支持され、軸受部76よりも一端側では、適宜シール部材(図示せず)によってケース2の内外が液密に封止されている。
【0023】
この発明の回転伝達装置1を用いたステアリング装置(車両用操舵装置)100を、図18に示す。ステアリング装置100は、左右一対の転舵輪(転舵部)103に接続されるラック104と、ラック104を左右に移動可能に収容するラックハウジング105と、ラック104に噛み合うピニオン(図示せず)と、ラックハウジング105に着脱可能に固定された回転伝達装置1と、運転者により操舵されるステアリングホイール(操作部)109と、ステアリングホイール109の回転を、回転伝達装置1を通じて伝達するステアリングシャフト106、及び、それらの制御装置等を備えている。ラック104の両端は、ボールジョイント102を介して左右の転舵輪103のナックルアーム101に接続されており、ラック104が左右に移動すると、その移動に応じてナックルアーム101が回動し、転舵輪103の向きが変化するようになっている。ラックハウジング105には、ラック104を左右に駆動する転舵用モータ107が取り付けられている。ここで、ラックハウジング105に対する転舵用モータ107の取り付け位置と、ラックハウジング105に対する回転伝達装置1の取り付け位置は互いに離れている。ステアリングシャフト106のステアリングホイール109側の端部には、ステアリングホイール109に操舵反力を付与する反力モータ108が取り付けられている。反力モータ108は、ステアリングホイール109の操舵角を検出する舵角センサを内蔵して、運転状態に応じてステアリングホイール109に適切な負荷を加え、運転者に対して操舵感を与えている。進行方向に従って操舵が可能である転舵輪103,103は、車両の前輪のみに設定される場合もあるし、前輪及び後輪の両方に設定される場合もある。
【0024】
このステアリング装置100は、いわゆるステアバイワイヤ(steer-by-wire)方式を採用している。通常の運転時(以下、通常時と称する)は、電磁クラッチの接続は解除された状態である。このため、回転伝達装置1を挟んで、入力軸3と出力軸4とは機械的に分離されている。通常時において、制御装置は、運転者が行うステアリングホイール109の操作量(回転角度)の信号、及び、その他各種センサからの信号に対応して、転舵用アクチュエータ107を動作させて、左右の転舵車輪103,103を必要な舵角だけ転舵させる。すなわち、電磁クラッチが接続状態のときにのみ、ステアリングホイール109の回転が転舵輪103に伝達される。また、ステアバイワイヤに不具合が生じた場合等の非常時には、電磁クラッチが接続状態となり、ステアリングホイール109側から転舵輪103側へ回転を伝達できるようになっている。
【0025】
電磁クラッチは、図1及び図2に示すように、電磁石10とロータ20とアーマチュア30と回転部材40とを備えている。
【0026】
電磁石10は、ケース2内において、入力軸3寄りに設けられている軸心周りの環状部材である。電磁石10は、ケース2の内面に圧入固定されたコア(フィールドコア)11と、そのフィールドコア11に巻回された電磁用のコイル12とを備え、コイル12への通電によって電磁力を発生させる。フィールドコア11は、軸方向他端側に位置する環状の基部と、その基部の内径側端及び外径側端からそれぞれ軸方向一端側へ伸びる対の円筒状部材とからなる断面コ字状の断面である。フィールドコア11の基部と入力軸3とは、軸受部72を介して回転自在に支持されている。
【0027】
ロータ20は、磁性体で構成された環状部材である。ロータ20の軸心には、入力軸3が挿通される軸穴23が設けられている。軸穴23の内面と入力軸3とはセレーション結合され、ロータ20と入力軸3とは軸回り相対回転が規制され、また、ロータ20と入力軸3とは軸方向への相対移動も規制されている。さらに、ロータ20は、電磁石10に対して軸方向への相対移動が規制されているが、電磁石10に対しては軸受部73を介して軸回り回転自在である。この実施形態では、軸受部73は、フィールドコア11の内径側の円筒状部材の外径面と、ロータ20の内径面との間に配置されている。ロータ20の電磁石10に向く側の反対側の面であるロータ面21には複数の突起が設けられて、クラッチの歯面を構成している。ロータ20の突起を、以下、入力歯22と称する。入力歯22は、入力軸3の軸周りに、すなわち、ロータ20の軸周りに環状に配列された多数の歯で構成されている。それぞれの入力歯22は、突出方向へ向かって徐々に狭くなるように断面三角形状、又は、断面台形状等の山形の断面を成し、それらが軸周り等分方位に配置されている。
【0028】
アーマチュア30は、同じく磁性体で構成された環状部材である。アーマチュア30の軸心には、入力軸3が挿通される軸穴34が設けられている。軸穴34の内面と入力軸3の外周面とは間隙をもって対向している。アーマチュア30のロータ20に向く側の面であるアーマチュア面31には複数の突起が設けられて、クラッチの歯面を構成している。アーマチュア30の突起を、以下、出力歯32と称する。出力歯32は、入力軸3の軸周りに、すなわち、アーマチュア30の軸周りに環状に配列された多数の歯で構成されている。それぞれの出力歯32は、入力歯22と同様の形状を成し、突出方向へ向かって徐々に狭くなるように断面三角形状、又は、断面台形状等の山形の断面を成し、それらが軸心周り等分方位に配置されている。
【0029】
回転部材40は、アーマチュア30を支持する部材であり、同じく磁性体で構成された環状部材である。回転部材40は、ケース2に対して軸方向への相対移動が規制され、且つ、軸受部74によってケース2に対して軸回り回転自在に支持されている。また、アーマチュア30は、回転部材40に対して軸方向への相対移動が許容され、且つ、回転部材40に対して軸回りの相対回転が規制されている。出力軸4は、ケース2を挟んで入力軸3とは反対側に位置している。回転部材40の軸心には、出力軸4が挿通される軸穴41が設け有れている。軸穴41の内面と出力軸4とはセレーション結合され、回転部材40と出力軸4とは軸回り相対回転が規制され、また、回転部材40と出力軸4とは軸方向への相対移動も規制されている。また、回転部材40と入力軸3とは、軸受部75を介して軸回り回転自在に支持されている。
【0030】
回転部材40は、アーマチュア30のアーマチュア面41とは反対側の面に設けられた凹部33に入り込んでいる。回転部材44の端面42は、アーマチュア30の凹部33のフラットな底面33aに面接触可能なフラット面である。回転部材40の外周面43は、アーマチュア30の凹部33の内周面33bに対してセレーション結合されている。また、回転部材40とアーマチュア30とは、復帰機構50によって、凹部33の底面33bと回転部材40の端面42とが互いに当接する方向へ付勢されている。復帰機構50は、アーマチュア30に係止されているピン52を、コイルバネ51の付勢力で回転部材40側へ引っ張る構成となっており、その復帰機構50が軸回りに等分方位で配置されている。
【0031】
上記の構成で、軸受部71,72,73,74,75,76は、いずれも外輪と内輪との間に転動体としてボールを配置した玉軸受を採用しているが、これを他の形式の転がり軸受や滑り軸受等とすることも可能である。
【0032】
また、この実施形態では、ロータ20に対するアーマチュア30の接続を規制するロック機構60を備えている。ロック機構60は、入力歯21と出力歯31とが噛み合っていない状態であるときに、すなわち、クラッチが開放状態であるときに、ロータ20に対するアーマチュア30の接近動作を規制するものである。ロック機構60、アーマチュア30の外周面全周に設けられた溝部64と、溝部64に対して進退自在のロックピン61と、ロックピン61を駆動する駆動部62とを備えている。駆動部62は、例えば、ソレノイドによって構成することができる。ロックピン61はケース2に取り付けられており、ロックピン61はケース2に設けられた穴63を通過して、その先端がアーマチュア30に対向している。ソレノイドの励磁によってロックピン61が前進し、ロックピン61の先端が溝部64に入り込むことで、アーマチュア30のロータ20側への移動が規制されるので、クラッチが接続されることはない。これにより、振動等によりクラッチが誤接続されることを申しできる。また、ソレノイドの励磁が解除されれば、図示しない復帰ばねの付勢力によって、ロックピン61が後退しアーマチュア30のロックは解除される。
【0033】
図2に示すように、電磁石10が非励磁状態のときには、復帰機構50の付勢力によって、アーマチュア30のアーマチュア面31はロータ20のロータ面21から離反した状態に維持されている。このため、入力歯22と出力は32とが噛み合っておらず、電磁クラッチの接続は解除された状態にある。通電により電磁石10が励磁状態になると、図3に示すように、アーマチュア30は、電磁石10の磁力(電磁力)によってロータ20側に吸引される。これにより、入力歯22と出力は32とが噛み合い、電磁クラッチは接続された状態になる。これにより、アーマチュア30は、ロータ20とともに軸回り回転可能となり、入力軸3の回転は、ロータ20、アーマチュア30、回転部材40を介して、出力軸4に伝達される状態となる。このように、電磁クラッチは、歯面の噛み合いでトルクを伝達する電磁式ツースクラッチを構成している。
【0034】
(第1の実施形態)
ここで、第1の実施形態について説明する。図3Aは、アーマチュア面31を、図4Aは、ロータ面21を示している。この実施形態では電磁クラッチに関し、請求項でいう第1部材をアーマチュア30とし、第2部材をロータ20と規定する。アーマチュア30の出力歯32の数(第1部材の突起の数)と、ロータ20の入力歯22の数(第2部材の突起の数)は、一方が偶数であり他方は奇数となっている。図では、アーマチュア30の出力歯32の数が偶数(4つ)であり、ロータ20の入力歯22の数が奇数(5つ)となっているが、これを逆にして、アーマチュア30の出力歯32の数を奇数、ロータ20の入力歯22の数を偶数としてもよい。また、偶数として採用する数値は4には限定されず、2,6,8,10等の任意の偶数を採用してよい。また、奇数として採用する数値は5には限定されず、1,3,7,9,11等の任意の奇数を採用してよい。いずれの場合も、入力歯22、出力歯32は軸回り等分方位に設定されることが望ましく、すなわち、隣り合う歯同士の成す角α、βはそれぞれ統一されていることが望ましい。
【0035】
ここで、従来例のアーマチュア30の歯面を図9に示す。図9はアーマチュア30の歯面を例示しているが、従来例では、ロータ20の歯面もアーマチュア30と同一の歯の形状であり、また、同一の歯の数であるので、従来例のロータ20の歯面は図示省略している。従来は、対応する全ての歯の側面同士が、回転方向及びその反対方向に対してほぼ隙間なく噛み合い、両者は回転方向に対してガタがない状態であった。このため、歯と歯の隙間が少ないため、両者に回転数差があるとスムーズに噛み合えず、電磁クラッチの接続にタイムラグが生じるという問題があった。
【0036】
これに対して、この発明では、互いに噛み合う歯面のうち、一方の歯数を偶数、他方の歯数を奇数としたことにより、複数組の歯の山同士が同時に当接する、すなわち、歯の山と谷が噛み合わず、歯の山同士が当接して互いに噛み合わない事態を防止することができる。これにより、歯と歯がスムーズに噛み合うので、電磁クラッチの接続時におけるタイムラグの発生を抑制できる。また、この実施形態では、互いに噛み合う歯面のそれぞれにおいて、軸回りに隣り合う歯同士の周方向への間隔を広げて、歯と歯の噛み合い時に、一方の歯の山が他方の谷に対向し、同時に、他方の歯の山が一方の歯の谷に対向する確率を向上させている。すなわち、歯の山同士が当接して互いに噛み合わない事態となる確率を低下させている。これにより、電磁クラッチの歯と歯の噛み合いをさらにスムーズにしている。なお、互いに噛み合う歯面の一方の歯数と他方の歯数とは、互いに素な関係(両者の数値をともに割り切ることができる正の整数が1のみである関係)であることがさらに好ましい。
【0037】
図4Aは、図3A図3Bに示した一方の歯数を4、他方の歯数を5とした歯面を対向させた状態を示している。通電により電磁石10が励磁状態になると、まずはこのようなに歯の山が対側の歯の谷に入り込んだ状態となる。図4Bは、図4Aの状態から入力軸3(ロータ20)が一方向Aへ回転した状態を示している。図中右寄りに位置する入力歯22と出力歯32が当接して回転を伝達している。図4Cは、図4Aの状態から入力軸3(ロータ20)が他方向Bへ回転した状態を示している。図中下寄りに位置する入力歯22と出力歯32が当接して回転を伝達している。
【0038】
図5A図5Cは、参考例として、一方の歯数を4、他方の歯数を4とした歯面を対向させた状態を示している。歯の数が同数であるので、隣り合う歯同士の成す角α、βは、α=βとなっている。通電により電磁石10が励磁状態になると、まずは図5Aに示すように、歯の山が対側の歯の谷に入り込んだ状態となる。図5Bは、図5Aの状態から入力軸3(ロータ20)が一方向Aへ回転した状態を示している。4つの全ての入力歯22と出力歯32が当接して回転を伝達している。図4Cは、図4Aの状態から入力軸3(ロータ20)が他方向Bへ回転した状態を示している。4つの全ての入力歯22と出力歯32が当接して回転を伝達している。しかし、この例では、4組の対向する歯同士の位相が完全に一致した状態で、ロータ20とアーマチュア30が接近すると、4組の歯の山同士が当接して、スムーズな噛み合いができない事態が生じ得る。このため、この発明の歯数の構成とすることが、円滑な電磁クラッチの接続に効果的である。
【0039】
なお、上記のように、軸回りに隣り合う歯同士の周方向への間隔を、それに噛み合う対側の歯の周方向への幅よりも大きくしたことにより、実際に歯と歯が噛み合って回転が伝達される際に、回転方向へのガタが大きくなる傾向がある。しかしながら、両者の歯数を互いに異ならせ、且つ、一方を偶数、他方を奇数とすることで、少なくとも1組の歯と歯の噛み合い箇所のみで回転を伝達することから、歯数が同一である場合に比べて回転方向へのガタを小さくすることが可能である。また、この場合、噛み合う歯が常に一対となるので、従来例に比べて歯の周方向への幅を大きくでき、歯の強度を増加させることができる。図6及び図8は、歯の周方向への幅を大きくした例である。従来例を示す図9との比較で、歯の裾部での周方向への幅W1(歯の半径方向への全長のうち中央部での幅を図示)、及び、W1よりも狭く設定された歯の頂部での周方向への幅W2(歯の半径方向への全長のうち中央部での幅を図示)は、いずれも従来例よりも大きく確保できている。ここでは、アーマチュア30の出力歯32を例示しているが、ロータ20の入力歯22についても同様である。ここで、軸回りに隣り合う歯同士の周方向への間隔と、歯の周方向への幅に関し、この発明では、歯同士の噛み合い及び噛み合いの解除によって、入力軸3と出力軸4との間での回転の伝達及び遮断の切り替えを行うことが前提であり、歯同士の間隔は、対側の歯が入り込むことができる大きさであることが当然に求められる。すなわち、隣り合う出力歯32同士の間隔は、そこに入り込む入力歯22の幅よりも大きいことが当然に求められる。
【0040】
この実施形態の変形例を図7A及び図7Bに示す。この例は、ロータ20及びアーマチュア30の少なくとも入力歯22、出力歯32の表面に、熱処理による強度向上部を備えたものである。ここでは、アーマチュア30の出力歯32を例示しており、図7Bに示すように、出力歯32の表面にのみ所定の深さで強度向上部32aを設けている。このように強度向上部を設けたことにより、部材の耐久性を高めることができ、また、その熱処理を必要な歯の部分のみに限定、さらには表面のみに限定したことにより、コストダウンが可能である。熱処理の手法は、例えば、高周波焼入れでもよく、あるいは、レーザ焼入れでもよい。図では、アーマチュア30の出力歯32を例示しているが、ロータ20の入力歯22についても同様である。
【0041】
(第2の実施形態)
つぎに、第2の実施形態について説明する。回転伝達装置1の基本構成は第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略し、以下、その差異点を中心に説明する。この実施形態においても、電磁クラッチに関し、請求項でいう第1部材をアーマチュア30とし、第2部材をロータ20と規定する。これらの事項は、後述の他の実施形態についても同様とする。
【0042】
図10は、回転伝達装置1の要部を示している。また、図11は、図10に示すロータ20の側面図である。図10に示すように、ロータ20は、入力軸3が挿通される軸穴23と、入力歯22と軸穴23との間に設けられ、ロータ20の部材を軸方向へ貫通する穴26を備えている。この実施形態では、穴26として、図11に示すように、ロータ20の軸心周りに設けられた円弧状の長孔を複数配置している。これにより、ロータ20は、軸穴23周囲の環状を成す内径部25aと、入力歯22が形成される外径部25bと、内径部25aと外径部25bとを結ぶ柱部25cとで構成されている。外径部25bは、軸方向一方側へ伸びて、軸受部73の支持部24となっている。内径部25a、外径部25b及び柱部25cで囲まれた空間が穴26である。穴26を設けたことにより、内径部25aと外径部25bとを結ぶ磁性体の断面積を少なくし、内径側へ磁気が通りにくい構造とすることができる。これにより、軸心側、すなわち、入力軸3側への磁気の漏洩を防止している。
【0043】
従来の回転伝達装置1では、通電時に、ロータ20に作用するべき磁力が、軸受等を介して内径側(軸心側)へ逃げてしまうことで、アーマチュア30に対する吸引力が低下するという問題があった。図13は、従来の回転伝達装置1における磁力の遺洩ルートX,Yを示している。この実施形態では、上記のようにロータ20に穴23を設けることで、電磁石10による磁力が内径側(軸心側)へ回りにくい構造とでき、遺洩ルートXを通じて遺洩する磁力を低減し、その結果、アーマチュア30に対する吸引力を向上させることができる。
【0044】
(第3の実施形態)
つぎに、第3の実施形態について説明する。この実施形態は、図12に示すように、軸受部73を挟んでロータ20とフィールドコア11との間に、非磁性体からなる磁気遺洩防止部材80を介在させたものである。軸受部73は、ロータ20の支持部24の内径面24aと、フィールドコア11の外径面11aとの間に配置されている。この実施形態では、軸受部73は、外輪73aと内輪73bとの間に転動体73cを配置した転がり軸受であり、その軸受部73の内輪73bの内径側に、間座として非磁性体からなる磁気遺洩防止部材80を挿入している。これにより、電磁石10による磁力が内径側(軸心側)へ回りにくい構造とでき、遺洩ルートY(図13参照)を通じて遺洩する磁力を低減し、その結果、アーマチュア30に対する吸引力を向上させることができる。なお、非磁性体として、例えば、樹脂やセラミック等を採用することができる。
【0045】
なお、上記第2の実施形態、第3の実施形態以外にも、磁力の遺洩を低減する手法がある。例えば、第3の実施形態では、軸受部73の内輪73bの内径側に磁気遺洩防止部材80を挿入しているが、磁気遺洩防止部材80を軸受部73の外輪73aの外径側に設けてもよく、あるいは、軸受部73を構成する部材自体を、非磁性体としてもよい。例えば、転動体73cであるボールをセラミック球にしてもよい。また、入力軸3が非磁性体からなる磁気遺洩防止部を備える構成としてもよい。このとき、入力軸3全体を非磁性体からなる磁気遺洩防止部としてもよいし、入力軸3の一部、例えば、軸受部73に接する部位のみ、あるいは、軸受部73に接する部位の表層部のみを、非磁性体からなる磁気遺洩防止部としてもよい。
【0046】
(第4、第5の実施形態)
つぎに、第4の実施形態及び第5の実施形態について説明する。第4の実施形態は、図14A及び図14Bに示すように、アーマチュア30とそれに接離する回転部材40との間に、衝撃緩衝部材91を備えたものである。衝撃緩衝部材91は、アーマチュア30と回転部材40の衝突による衝撃を緩和し、振動や衝突音を低減させることができる。衝突緩衝部材91としては弾性部材であることが好ましく、例えば、ゴム材料、金属やその他素材からなるばね(コイルばね、板ばね、皿ばね等)、あるいは、樹脂材料を採用できる。第5の実施形態は、図15に示すように、ロータ20とアーマチュア30との間に、衝撃緩衝部材91を備えたものである。衝撃緩衝部材91は、ロータ20とアーマチュア30との衝突による衝撃を緩和し、振動や衝突音を低減させることができる。衝突緩衝部材91の素材としては、前述の場合と同様である。なお、第4の実施形態と第5の実施形態とを組み合わせ、アーマチュア30と回転部材40との間、及び、ロータ20とアーマチュア30との間の両方に、衝突緩衝部材91を配置してもよい。第4の実施形態、第5の実施形態は、電磁クラッチを構成する第1部材と第2部材との間、又は、その第1部材及び第2部材のいずれか一方とそれに接離する他の部材との間というように、電磁クラッチの接続又は接続解除の動作によって、互いに接触又は離反する部材間に衝撃緩衝部材91を備える主旨である。
【0047】
(第6の実施形態)
つぎに、第6の実施形態について説明する。第6の実施形態は、図16に示すように、衝突緩衝部材92を、金属製のカバー93で覆ったものである。カバー93は、全周に亘って衝突緩衝部材92を覆う環状部材で構成することができる。ここで、衝突緩衝部材92は、第4の実施形態や第5の実施形態で例示した種々の衝撃緩衝部材91とすることができる。
【0048】
(第7の実施形態)
つぎに、第7の実施形態について説明する。第7の実施形態は、図17A及び図17Bに示すように、電磁石10への通電時に、電磁クラッチの接続が解除され、非通電時に電磁クラッチが接続されるようにしたものである。
【0049】
このような接続機構とするために、この実施形態では、図17A及び図17Bに示すように、前述の実施形態におけるロータに対応する部材を軸方向に対して2部品に分割して、そのうち、軸方向一方側(入力軸3側)の部材をロータ20、軸方向他方側(出力軸4側)の部材をアーマチュア30としている。ここでは、請求項でいう第1部材は回転部材40、第2部材はアーマチュア30と規定する。
【0050】
ロータ20は、軸受部73によって、電磁石10に対して軸回り回転自在に支持されている。軸受部73の内径側には、電磁石10との間に、非磁性体からなる磁気遺洩防止部材94が設けられている。また、ロータ20は、アーマチュア30を吸引する面積を広く確保するために、外径側へ突出するフランジが設けられている。アーマチュア30は、入力軸3に対してスプライン等により相対回転不能に固定され、軸方向へは相対移動が許容されている。すなわち、アーマチュア30は、入力軸3に対して軸方向へスライド可能である。また、入力軸3とアーマチュア30との間には、ばね等からなる弾性部材29が設けられている。これにより、アーマチュア30は、ロータ20から離反する方向へ付勢されている。磁気遺洩防止部材94は、電磁石10のフィールドコア11の外径面11aに沿う円筒部94aと、その円筒部94aから外径側へ立ち上がる側部9bへ立ち上がる断面L字状であり、方向が異なる2面でもって、軸受部73とフィールドコア11とを隔てている。
【0051】
図17A及び図17Bに示すように、アーマチュア30のロータ20に向く側の反対側の面であるアーマチュア面31には複数の突起が設けられて、クラッチの歯面を構成している。このアーマチュア30の突起が入力歯に相当する(図中の符号32に相当)。入力歯の構成は、前述の各実施形態と同様である。回転部材40のアーマチュア30に向く側の面である回転部材面44にも複数の突起が設けられて、クラッチの歯面を構成している。この回転部材40の突起が出力歯に相当する(図中の符号45に相当)。
【0052】
電磁石10が励磁状態のときには、図17Aに示すように、電磁石10の磁力(電磁力)によってアーマチュア30がロータ20側に吸引される。これにより、アーマチュア30のアーマチュア面31は回転部材40の回転部材面44から離反した状態に維持されている。このため、入力歯22と出力は32とが噛み合っておらず、電磁クラッチの接続は解除された状態にある。通電により電磁石10が励磁状態になると、図17Bに示すように、弾性部材29の付勢力によって、アーマチュア30は回転部材40側へ押し付けられる。これにより、入力歯22と出力は32とが噛み合い、電磁クラッチは接続された状態になる。これにより、回転部材40は、アーマチュア30及びロータ20とともに軸回り回転可能となり、入力軸3の回転は、ロータ20、アーマチュア30、回転部材40を介して、出力軸4に伝達される状態となる。この構成であれば、電磁石10への通電により電磁クラッチの接続が解除され、非通電時には電磁クラッチが接続される形態となる。このため、電気失陥等の不具合が生じた再に、ハンドル操作が出来ない事態を回避することができる。
【0053】
上記のように、この発明の構成について第1~第7の実施形態を例に説明したが、第1~第7の実施形態の構成は、それぞれ単独で実施可能であるとともに、組み合わせが可能な限りにおいて、それぞれの実施形態の要部を組み合わせて選択的に用いることができる。例えば、第1の実施形態に対して、第2~第6の実施形態の中から選択される単一の又は複数の実施形態の態様を付加してもよい。また、第7の実施形態に対して、第2~第6の実施形態の中から選択される単一の又は複数の実施形態の態様を付加してもよい。また、上記の各実施形態における入力軸3と出力軸4とを逆転させて、電磁石10側に出力軸4を、回転部材40側に入力軸3を配置してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 回転伝達装置
3 入力軸
4 出力軸
10 電磁石
11 コア(フィールドコア)
11a 外径面
12 コイル
20 ロータ
30 アーマチュア
40 回転部材
73 軸受部
91,92 衝撃緩衝部材
93 カバー
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17A
図17B
図18