(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154118
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】イヌリン粒状物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/21 20160101AFI20221005BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20221005BHJP
C08B 37/18 20060101ALI20221005BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221005BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20221005BHJP
A61K 31/733 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A23L33/21
A23L2/00 F
C08B37/18
A61P1/04
A61P3/02
A61K31/733
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057008
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】豊原 清綱
(72)【発明者】
【氏名】天池 岳大
(72)【発明者】
【氏名】森口 弥生
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD33
4B018ME04
4B018MF08
4B117LC04
4B117LK13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZC21
4C090AA08
4C090BA43
4C090BD03
4C090BD19
4C090BD20
4C090BD22
4C090BD24
4C090CA04
4C090CA19
4C090CA25
4C090DA09
4C090DA23
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】水等の飲料に対する溶解性に優れたイヌリン粒状物の提供。
【解決手段】イヌリン粒状物であって、前記粒状物の粒度分布が、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して40質量%以下であり、且つ前記粒状物の嵩密度が、200g/L~500g/Lである、前記粒状物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌリン粒状物であって、
前記粒状物の粒度分布が、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して40質量%以下であり、且つ
前記粒状物の嵩密度が、200g/L~500g/Lである、前記粒状物。
【請求項2】
前記粒状物の粒度分布が、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して35質量%以下である、請求項1に記載の粒状物。
【請求項3】
前記粒状物の嵩密度が、300g/L~450g/Lである、請求項1又は2に記載の粒状物。
【請求項4】
前記イヌリン粒状物全体に対するイヌリンの含有割合が、90質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒状物。
【請求項5】
撹拌状態の20℃の水に溶かしたときの溶解時間が、90秒以内である、請求項1~4のいずれか一項に記載の粒状物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のイヌリン粒状物の製造方法であって、下記工程1~3を含む、前記製造方法;
(1)イヌリン粉末に対して水を添加する工程1、
(2)イヌリン粉末を加熱する工程2、
(3)イヌリン粉末を乾燥する工程3。
【請求項7】
前記工程1及び2を同時に行い、その後、工程3を行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程1における水の添加率が、前記イヌリン粉末全体に対して3質量%~6質量%である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程1においてバインダーを添加しない、請求項6~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程2における加熱温度が、40℃~80℃である、請求項6~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粒状物を含有する、組成物。
【請求項12】
腸内短鎖脂肪酸産生を促進するために用いられる、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粒状物を含有する、飲食品。
【請求項14】
一日あたり4g~6g摂取される、請求項13に記載の飲食品。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粒状物を含有する、医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌリン粒状物及びその製造方法、並びに当該イヌリン粒状物を含有する組成物、飲食品及び医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イヌリンは難消化性の水溶性食物繊維として知られている。また、イヌリンは、大腸まで送達されて腸内細菌、特に善玉菌であるビフィズス菌の増殖に寄与することも知られており、カロリーが低くGI(グリセミック・インデックス)値を低く保つ効果があることから、近年注目されている。
【0003】
イヌリンの用途については種々検討がなされており、高濃度溶液から作ったペーストは、そのまったりして味が少ない感触がラードに似ていることから、一部の食品において脂肪の置き換えなどにも利用され始めている。また、各種の苦みなどをマスキングする効果も知られている。
【0004】
また、イヌリンは様々な食品(例えば、ヨーグルト等)や飲料(例えば、水、紅茶、コーヒー等)に混合及び/又は溶解させて用いることが多く、例えば、非特許文献1に記載のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)等が市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】製品情報「Frutafit HD」、Sensus社のホームページ、[令和1年10月1日検索]、インターネット<https://www.inspiredbyinulin.com/product-range.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1等に記載のイヌリンについては、例えば、水等の飲料の温度が低い場合(例えば、常温又はそれ以下の温度)、当該水等の飲料に対する溶解性が悪く、ダマが形成されてしまうという問題があった。また、これにより、イヌリンの結晶化が進行してしまい、溶解性がより悪化してしまうというイヌリン特有の問題もあった。
【0007】
本発明の課題は、水等の飲料に対する溶解性に優れたイヌリン粒状物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
[1]
イヌリン粒状物であって、
前記粒状物の粒度分布が、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して40質量%以下であり、且つ
前記粒状物の嵩密度が、200g/L~500g/Lである、前記粒状物。
[2]
前記粒状物の粒度分布が、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して35質量%以下である、[1]に記載の粒状物。
[3]
前記粒状物の嵩密度が、300g/L~450g/Lである、[1]又は[2]に記載の粒状物。
[4]
前記イヌリン粒状物全体に対するイヌリンの含有割合が、90質量%以上である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の粒状物。
[5]
撹拌状態の20℃の水に溶かしたときの溶解時間が、90秒以内である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の粒状物。
[6]
[1]~[5]のいずれか一つに記載のイヌリン粒状物の製造方法であって、下記工程1~3を含む、前記製造方法;
(1)イヌリン粉末に対して水を添加する工程1、
(2)イヌリン粉末を加熱する工程2、
(3)イヌリン粉末を乾燥する工程3。
[7]
前記工程1及び2を同時に行い、その後、工程3を行う、[6]に記載の製造方法。
[8]
前記工程1における水の添加率が、前記イヌリン粉末全体に対して3質量%~6質量%である、[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9]
前記工程1においてバインダーを添加しない、[6]~[8]のいずれか一つに記載の製造方法。
[10]
前記工程2における加熱温度が、40℃~80℃である、[6]~[9]のいずれか一つに記載の製造方法。
[11]
[1]~[5]のいずれか一つに記載の粒状物を含有する、組成物。
[12]
腸内短鎖脂肪酸産生を促進するために用いられる、[11]に記載の組成物。
[13]
[1]~[5]のいずれか一つに記載の粒状物を含有する、飲食品。
[14]
一日あたり4g~6g摂取される、[13]に記載の飲食品。
[15]
[1]~[5]のいずれか一つに記載の粒状物を含有する、医薬品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水等の飲料に対する溶解性に優れたイヌリン粒状物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】製造例1で得られたイヌリン粒状物(HFX012A-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものである。
【
図2】製造例1で得られたイヌリン粒状物(HFX012A-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものであって、
図1の拡大図である。
【
図3】製造例2で得られたイヌリン粒状物(HFX012B-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものである。
【
図4】製造例2で得られたイヌリン粒状物(HFX012B-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものであって、
図3の拡大図である。
【
図5】製造例3で得られたイヌリン粒状物(HFX012C-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものである。
【
図6】製造例3で得られたイヌリン粒状物(HFX012C-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものであって、
図5の拡大図である。
【
図7】製造例4で得られたイヌリン粒状物(HFX012D-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものである。
【
図8】製造例4で得られたイヌリン粒状物(HFX012D-WG)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものであって、
図7の拡大図である。
【
図9】非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものである。
【
図10】非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものであって、
図9の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明のイヌリン粒状物>
本発明のイヌリン粒状物は、前記粒状物の粒度分布が、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して40質量%以下であり、且つ前記粒状物の嵩密度が、200g/L~500g/Lであることを特徴とするものである。
以下、その詳細について説明する。
【0012】
[イヌリン]
本発明にかかるイヌリンとは、フルクトースがグリコシド結合を介して重合し、その末端にグルコースが結合した多糖ポリマーであるフルクタンを意味する。
上記フルクタンは、D-フルクトフラノースの重合方式によって、(1)β(2→1)グリコシド結合のみで重合した直鎖状フルクタン、(2)β(2→6)グリコシド結合のみで重合した直鎖状フルクタン、並びに(3)β(2→1)グリコシド結合及びβ(2→6)グリコシド結合で重合した分岐状フルクタンに分類される。従来の命名法では、当該(1)を狭義のイヌリンとし、当該(2)をレバン、当該(3)をグラミナンとして、これらを呼び分けていた。しかしながら、本発明においては別途記載する場合を除き、当該(3)の分岐状フルクタンも、イヌリンの定義に含めるものとする。また、当該(1)の直鎖状フルクタンに加えて、当該(3)の分岐状フルクタンのうちβ(2→1)グリコシド結合が90%以上(即ちβ(2→6)グリコシド結合が10%未満)のものを併せて「直鎖状イヌリン」と称し、当該(3)の分岐状フルクタンのうちβ(2→1)グリコシド結合が90%未満(即ちβ(2→6)グリコシド結合が10%以上)のものを「分岐状イヌリン」と称するものとする。
【0013】
上記直鎖状イヌリンとしては、限定されるものではないが、例えば、チコリ、アーティチョーク、タンポポ、キクイモ等のキク科植物や、タマネギ、ニンニク、ニラ等のヒガンバナ科植物等の天然材料に由来するものが挙げられ、良質のイヌリンを高濃度に含むチコリ由来のイヌリンが好ましい。
【0014】
また、上記直鎖状イヌリンを得る方法としては、上記天然材料から、例えば、搾汁して結晶として析出させ、単離・精製する等の方法が挙げられる。また、上記天然材料から単離・精製された市販の直鎖状イヌリンを用いてもよい。市販のチコリ由来イヌリンの具体例としては、Frutafit(登録商標)、Raftiline(登録商標)等が挙げられる。更に、公知の酵素合成法等による方法により、直鎖状イヌリンを得てもよい。市販の合成イヌリンの具体例としては、フジFF(登録商標)等が挙げられる。当該合成イヌリンのサイズとしては、限定されるものではないが、各ポリマー分子の鎖長(重合する単糖単位の数である重合度)は、通常3以上、また、通常100以下、中でも60以下の範囲とするものが好ましい。また、多数のポリマー分子の集合体としての平均鎖長は、通常5以上、また、通常20以下の範囲とするものが好ましい。
【0015】
上記分岐鎖状イヌリンとしては、限定されるものではないが、例えば、テキーラの原料
である多肉質植物であるアガベ(別名「リュウゼツラン」)に豊富に含まれるものが挙げられる(例えば、J. Agric. Food Chem., (2003), 51(2
7):7835-7840;J. Agric. Food Chem., (2006),
54(20):7832-7839等に記載)。
【0016】
上記分岐鎖状イヌリンを得る方法としては、上記アガベ等の原料から、例えば、国際公開第2007/142306号等に記載の単離・精製する方法が挙げられる。具体的には、アガベの茎部分であるピーニャから、細断、搾汁、濾過、精製、濃縮、粉末乾燥等の処理を経ることにより、分岐鎖状イヌリンを含む処理物(別名「アガベイヌリン」)を得ることができる。
【0017】
上述の本発明にかかるイヌリンは、プレバイオティクスとして重要な役割を果たすことが知られている。ヒトを含む動物の多くは、イヌリン加水分解酵素を持たないので、摂取された食物等に含まれるイヌリンは、胃や小腸で消化吸収されることなく大腸に到達する。大腸中の腸内細菌叢(別名「腸内フローラ」)には、イヌリン加水分解酵素であるイヌリナーゼを分泌する菌が含まれており、大腸に到達したイヌリンは、これらの菌の発酵作用によって分解される。かかるイヌリナーゼを分泌する菌には、ビフィズス菌等のいわゆる善玉菌が多数含まれることから、イヌリンを摂取することにより、いわゆる善玉菌が優先的に増加し、いわゆる悪玉菌の繁殖が抑制される。また、イヌリンの発酵過程で乳酸等の有機酸が増加することから、整腸作用も生じることになる。
【0018】
[粒状物]
本発明にかかる粒状物とは、上述のイヌリンを含有する粒子状の組成物を意味する。具体的には、イヌリンを含有する粉末から造粒された粒子の集合体を意味する。そのため、本発明における「イヌリン粒状物」は、この分野で通常用いられる表現である、「イヌリン造粒物」、「イヌリン粒状物の集合体」、「イヌリン造粒子の集合体」、「イヌリン造粒物の集合体」等と表記してもよい。
【0019】
上記イヌリンを含有する粉末とは、上述のイヌリンを含有する粉状の組成物を意味する。具体的には、イヌリンを含有する微細な粒子の集合体を意味する。そのため、本発明における「イヌリンを含有する粉末」は、この分野で通常用いられる表現である、「イヌリン粉末」、「イヌリン粉末を含有する組成物」等と表記してもよい。
なお、上記イヌリンを含有する粉末は、上記[イヌリン]の項にて説明した方法により得られたイヌリンを、この分野で通常行われている自体公知の濃縮・乾燥処理等を行うことにより得ることができる。また、特開2009-261256号公報、特開2005-095032号公報、特開2020-171231、特開2011-45350号公報等に記載の方法等を参照することもできる。
【0020】
また、本発明のイヌリン粒状物について、当該粒状物全体に対するイヌリンの含有割合は、通常50%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。また、上述の[粒状物]の項にて説明したイヌリンを含有する粉末についても、同様に、当該粉末全体に対するイヌリンの含有割合(即ち、イヌリンの純度)は、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
ここで、本発明のイヌリン粒状物、並びに本発明にかかるイヌリンを含有する粉末におけるイヌリン以外の成分としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類等が挙げられる。なお、これらの成分は、本発明の効果の一つである水等の飲料に対する溶解性を損なわない範囲であれば、本発明のイヌリン粒状物、並びに本発明にかかるイヌリンを含有する粉末にそれぞれ含有されていてもよい。
【0021】
[粒度分布]
本発明のイヌリン粒状物は、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して40質量%以下である粒度分布を有する。また、本発明のイヌリン粒状物は、好ましくは、目開き106μmである140メッシュを通過する成分の割合が前記粒状物全体に対して35質量%以下である粒度分布を有する。
【0022】
本発明にかかる粒度分布とは、メッシュを用いたふるい分けによって測定される、本発明のイヌリン粒状物全体における各成分の粒度の分布(%)を意味する。
本発明にかかる粒度分布は、JIS Z 8801-1・2に規定されている標準ふるい及び振動ふるい器を使用して測定することができる。当該標準ふるいとしては、限定されるものではないが、例えば、JIS試験用ふるい(株式会社飯田製作所)等が挙げられる。また、当該振動ふるい器としては、限定されるものではないが、例えば、ミクロ型電磁振動ふるい器(株式会社筒井理化学器機株式会社)等が挙げられる。
本発明にかかる粒度分布を測定する方法は、その一例として、例えば、「市販の振動ふるい器(例えば、ミクロ型電磁振動ふるい器:筒井理化学器機株式会社)に目開き710μmである22メッシュ、目開き500μmである30メッシュ、目開き355μmである42メッシュ、目開き250μmである60メッシュ、目開き180μmである83メッシュ、目開き150μmである100メッシュ、目開き106μmである140メッシュのふるい(例えば、何れもJIS試験用ふるい:株式会社飯田製作所)をそれぞれセットし、当該22メッシュの上から本発明のイヌリン粒状物5g~20gを載せて、当該振動ふるい器の目盛りを10にセットし、5~15分間ふるいにかける。その後、全体の量(5g~20g)に対するそれぞれのメッシュ上に残存する成分の量の割合を算出する。」ことによりなされる。また、特開2019-218322号公報、WO2018/151244号公報、特開2010-51251号公報等に記載の方法等を参照することもできる。
【0023】
[嵩密度]
本発明のイヌリン粒状物は、200g/L~500g/Lの嵩密度を有する。また、本発明のイヌリン粒状物は、好ましくは、300g/L~450g/Lの嵩密度を有する。
【0024】
本発明にかかる嵩密度は、本発明のイヌリン粒状物を最密充填したときの密度を意味する。
本発明にかかる嵩密度は、JIS K 5101に規定されている嵩密度測定器を使用して測定する方法、三薬局方に規定されている試験法の第1法(メスシリンダーを用いる方法)等により測定することができる。
本発明にかかる嵩密度を測定する方法は、その一例として、例えば、「市販の200mLメスシリンダー(例えば、クラスA:アズワン株式会社)を使用し、当該メスシリンダーの上方から当該メスシリンダー内へと、本発明のイヌリン粒状物を自然落下させる。次いで、溢れ出たものをすりきって得られた当該メスシリンダー内の粒状物の質量を測定する。その後、当該メスシリンダーの容積(200mL)で除する(なお、例えば、除された値を5倍して1000mLあたりの嵩密度として算出してもよい)。」ことによりなされる。また、特開2019-218322号公報、特開2020-180073号公報、特開2018-143189号公報等に記載の方法等を参照することもできる。
【0025】
[溶解時間]
本発明のイヌリン粒状物は、撹拌状態の20℃の水に溶かしたときの溶解時間が90秒以内である。
【0026】
本発明にかかる溶解時間は、具体的には、「80mLビーカーに常温水70mLを入れ、マグネチックスターラー(径:8mm、全長:30mm)を用いて300rpmの回転速度で撹拌しつつ、本発明のイヌリン粒状物30gを一度に投入する。次いで、本発明のイヌリン粒状物と水とが接触してから、本発明のイヌリン粒状物が目視で確認できなくなるまでの時間を計測する。」ことにより測定することができる。また、特開2019-218322号公報等に記載の方法等を参照することもできる。
【0027】
<本発明のイヌリン粒状物の製造方法>
本発明のイヌリン粒状物を製造する方法は、下記工程(1)~(3)を含むことを特徴とするものである;
(1)イヌリン粉末に対して水を添加する工程1、
(2)イヌリン粉末を加熱する工程2、
(3)イヌリン粉末を乾燥する工程3。
以下、その詳細について説明する。
【0028】
[工程1]
本発明にかかる工程1は、イヌリン粉末に対して水を添加することによりなされる。
【0029】
本発明にかかる工程1における上記水を添加する方法としては、限定されるものではないが、二流体ノズルスプレー等のスプレーにより水を添加する方法等が挙げられる。当該二流体ノズルスプレーとは、気体の流れにより液体(即ち、水)を粉砕・微粒化して噴出させるものであり、市販のものを用いることができる。
また、本発明にかかる工程1における上記水の添加率としては、イヌリン粉末全体に対して通常3質量%~6質量%であり、好ましくは4.5質量%~5.6質量%である。
ここで、上記水としては、限定されるものではないが、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられ、かかる水の温度としては室温が好ましい。
なお、上記イヌリン粉末は、上述の[粒状物]の項にて説明した通りであり、後述の本発明にかかる工程2及び3においても同様である。
【0030】
本発明にかかる工程1では、上記水に加えて、別途バインダー(別名、「増粘剤」、「造粒促進材」)を添加してもよく、このようなバインダーとしては、限定されるものではないが、メタノール、エタノール、グリセリン等のアルコール、デキストリン、難消化性デキストリン、グアーガム、デンプン、多糖類等の粘性原料等が挙げられる。只、イヌリンは、それ自体にある程度の粘性があるため、バインダーを添加しない方が操作の煩雑性の観点等から好ましい。
【0031】
[工程2]
本発明にかかる工程2は、イヌリン粉末を加熱することによりなされる。
【0032】
本発明にかかる工程2における上記イヌリン粉末を加熱する方法としては、限定されるものではないが、市販の造粒機、ドライヤー等により熱風を吹き込むことにより加熱する方法等が挙げられる。
また、本発明にかかる工程2における上記加熱の温度としては、通常40℃~80℃であり、好ましくは40℃、60℃又は80℃である。また、かかる加熱の処理時間としては、通常1分~10分であり、好ましくは3分~5分である。
【0033】
[工程3]
本発明にかかる工程3は、イヌリン粉末を乾燥することによりなされる。
【0034】
本発明にかかる工程3における上記イヌリン粉末を乾燥する方法としては、限定されるものではないが、この分野で通常行われている乾燥方法等が挙げられる。
また、本発明にかかる工程3における上記乾燥の処理時間としては、通常1分~10分
であり、好ましくは、3分~7分である。
【0035】
上述の本発明にかかる工程1~3の順序としては、下記(i)~(iii)が挙げられ、その中でも下記(ii)が好ましい。
(i)工程1を実施→工程2を実施→工程3を実施
(ii)工程1及び2を同時に実施→工程3を実施
(iii)工程1を実施→工程2及び3を同時に実施
【0036】
本発明のイヌリン粒状物を製造する方法においては、上述の本発明にかかる工程3に引き続いて、得られたイヌリン粒状物を整粒する工程(以下、本発明にかかる工程4と略記する場合がある)を実施してもよい。
本発明にかかる工程4における整粒する方法としては、限定されるものではないが、メッシュを用いてふるい分けする方法等が挙げられる。本発明にかかる工程4における上記メッシュを用いてふるい分けする方法は、JIS Z 8801-1・2に規定されている標準ふるいを使用してなされればよい。当該標準ふるいとしては、限定されるものではないが、JIS試験用ふるい(株式会社飯田製作所)等が挙げられる。
本発明にかかる工程4は、具体的には、「目開き710μmである22メッシュのふるい(例えば、JIS試験用ふるい:株式会社飯田製作所)を使用し、当該メッシュの上から本発明にかかる工程1~3により得られたイヌリン粒状物を自然落下させる。」ことによりなされる。
なお、上記では一例として目開き710μmである22メッシュのふるいのみを用いた方法を記載したが、それ以上の目開きを有するメッシュ(例えば、目開き850μmである18メッシュ、目開き1mmである16メッシュ、目開き1.18mmである14メッシュ、目開き1.4mmである12メッシュ、目開き1.7mmである10メッシュ、目開き2mmである8.6メッシュ、目開き2.36mmである7.5メッシュ、目開き2.8mmである6.5メッシュ、目開き3.35mmである5.5メッシュ、目開き4mmである4.7メッシュ、目開き4.75mmである4メッシュ、目開き5.6mmである3.5メッシュ等)を用いて、本発明にかかる工程4を実施してもよい。
このように、本発明にかかる工程4を行うことにより、極端に粒度が大きい粒子を取り除くことができる。
【0037】
上述の本発明のイヌリン粒状物を製造する方法については、上述の如くなされればよいが、他の実施形態として、この分野で通常行われている自体公知の流動層造粒法によってなされてもよい。当該流動層造粒法とは、湿式造粒法の一つであり、造粒室の下部から熱風を送り込み、原料粒子を空中に巻き上げることにより粒子が流動する状態になる層(即ち、流動層)を形成させ、スプレーノズルにより造粒液体を噴霧して、凝集又は被覆により粒状物に成長させる方法である。流動層造粒の具体的な手法については、この分野で通常行われている手法によりなされればよく、具体的には、特開2019-218322号公報、特開2020-178652号公報、特開2017-55763号公報等に記載の方法を参照することができる。
【0038】
<本発明のイヌリン粒状物を含有する、組成物>
本発明のイヌリン粒状物を含有する、組成物(以下、本発明の組成物と略記する場合がある)とは、上述の本発明のイヌリン粒状物を含有することを特徴とするものである。
【0039】
本発明の組成物には、上述の本発明のイヌリン粒状物に加えて、糖類(例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、マルチトール、ソルビトール、パラチニット、エリスリトール、オリゴ糖等)、塩類(例えば、食塩等)、甘味料(例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アドバンテーム、ネオテーム、プシコース等)、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、アスコルビン酸、リン酸等)、香料、着色
料、保存料、ミネラル類、ビタミン類、アミノ酸、生薬、乳酸菌、カフェイン等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0040】
本発明の組成物の形態としては、限定されるものではなく、例えば、固体、半固体、溶液、懸濁液、分散液等、任意の形態とすることができる。
【0041】
本発明の組成物の摂取量としては、その用途、摂取する固体の種、症状、年齢、性別等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。その一例としては、本発明の組成物に含まれる、本発明のイヌリン粒状物を、成人(体重60kg)1日あたり通常1g~10g、好ましくは4g~6g摂取することが挙げられる。
また、本発明の組成物を摂取する頻度としては、限定されるものではなく、1回の摂取でもよく、継続的な摂取でもよい。その一例としては、通常週に0.5回(即ち、2週に1回)以上、週に1回以上、又は週に2回以上、若しくは1日3回以下、1日2回以下、又は1日1回以下等が挙げられる。
【0042】
本発明の組成物によれば、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進させることができる。本発明において「腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進」とは、腸内の炎症抑制、血糖の上昇抑制等に関与するとされる腸内の短鎖脂肪酸の量を増加させることを意味する。ここで、当該「短鎖脂肪酸」とは、腸内細菌が産生する、炭素数6以下の脂肪酸を意味し、具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、コハク酸、ギ酸、乳酸、カプロン酸等が挙げられ、その中でも酪酸が好ましい。
【0043】
また、本発明の組成物によれば、腸内細菌叢を改善することもできる。当該「腸内細菌叢」とはヒトや動物等の対象の腸の内部に生息している細菌群を意味し、腸内フローラとも称されるものである。腸内細菌叢の組成は、動物種や固体によって異なるが、ヒトでは平均して約3万種類、100兆個~1000兆個の細菌が腸内に生息して腸内細菌叢を構成し、その合計質量は1.5kg~2kgにも達する。本発明において「腸内細菌叢を改善」とは、(i)ヒトや動物等の対象の腸内細菌叢に含まれる1種又は2種以上の細菌の増殖を抑制又は促進して腸内細菌叢の菌組成を変更することにより、或いは(ii)当該対象の腸内細菌叢の1種又は2種以上の細菌の1種又は2種以上の作用を抑制又は促進することにより、当該対象に有益な作用を発現させ、又はかかる作用を増強させることを意味する。その一例としては、プレボテラ属菌の増殖促進、硫化水素酸性菌の増殖抑制等が挙げられる。
【0044】
<本発明のイヌリン粒状物を含有する、飲食品>
本発明のイヌリン粒状物を含有する、飲食品(以下、本発明の飲食品と略記する場合がある)とは、上述の本発明のイヌリン粒状物を含有することを特徴とするものである。
【0045】
本発明の飲食品の形態としては、限定されるものではなく、例えば、固体、半固体、溶液、懸濁液、分散液等、任意の形態とすることができる。
【0046】
本発明の飲食品の種類としては、限定されるものではないが、例えば、飯類(例えば、おにぎり、弁当のご飯、お粥)、菓子類(例えば、アイス、ポテトチップス)、ベーカリー類(例えば、パン、パイ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー)、麺類(例えば、うどん、そば、ラーメン)、冷凍や冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料(例えば、果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料、茶、水、スポーツ飲料)、薬用酒等の発酵食品、調味料(例えば、みりん、食酢、醤油、味噌、ソース等)、スポーツ食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)が挙げられる。また、本発明の飲食品において、その種類が栄養補助食品又は保健機能食品である場合、錠剤、カプセル剤等の形態であるサプリメント、グラノーラ様シリアル、グラノーラ様スネークバーシリアルバー等が挙げられる。当該「保健機能食品」とは、例えば、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進、腸内細菌叢の改善等を目的として飲食品の製造及び/又は販売を行う場合に、保健上の観点から、各国において法規上の制限を受けることがある飲食品のことである。このような飲食品には、疾病リスクの低減可能性、健康への働きかけ(維持・増進)、安全性等を表示することができ、例えば、飲食品の製品本体、容器、包装、説明書、添付文書、宣伝物に表示することができる
【0047】
本発明の飲食品は、通常この分野で行われている公知の製造技術を参照して製造することができる。その際、必要に応じ、糖類(例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、マルチトール、ソルビトール、パラチニット、エリスリトール、オリゴ糖等)、塩類(例えば、食塩等)、甘味料(例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アドバンテーム、ネオテーム、プシコース等)、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、アスコルビン酸、リン酸等)、香料、着色料、保存料、ミネラル類、ビタミン類、アミノ酸、生薬、乳酸菌、カフェイン等を添加してもよい。また、本発明の飲食品は、後述の本発明の医薬品にかかる製造技術に準じて製造することもでき、その場合には、薬学的に許容される担体、添加剤等を用いることもできる。
【0048】
その他、本発明の飲食品の摂取量及びその頻度については、上述の<本発明のイヌリン粒状物を含有する、組成物>の項にて記載した通りである。
【0049】
<本発明のイヌリン粒状物を含有する、医薬品>
本発明のイヌリン粒状物を含有する、医薬品(以下、本発明の医薬品と略記する場合がある)とは、上述の本発明のイヌリン粒状物を含有することを特徴とするものである。
【0050】
本発明の医薬品は、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進するための医薬品、腸内細菌叢を改善するための医薬品(即ち、改善薬)、腸内細菌叢の乱れにより引き起こされ得る疾患(例えば、肥満、糖尿病、動脈硬化、炎症性腸疾患、関節リウマチ、大腸癌、パーキンソン病等)の治療薬又は予防薬等として用いることができる。
【0051】
本発明の医薬品の形態としては、限定されるものではないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、経皮製剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤が挙げられる。
なお、上記液剤及び懸濁剤は、服用直前に水又は適当な媒体に溶解又は懸濁する形のものであり、上記錠剤及び顆粒剤は、必要に応じ、その表面をコーティングしてもよい。更に、本発明の医薬品は、必要に応じ、薬学的に許容される担体及び/又は他の薬効成分を含有していてもよい。当該薬学的に許容される担体としては、具体的には、例えば、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、当該他の薬効成分とは、具体的には、例えば、ビタミン類、ミネラル類、生薬が挙げられる。
【0052】
本発明の医薬品は、本発明のイヌリン粒状物に、上記薬学的に許容される担体及び/又は他の薬効成分を配合し、通常この分野で行われている公知の製造技術を参照して製造することができる。
【0053】
その他、本発明の医薬品の摂取量(即ち、投与量)及びその頻度については、上述の<本発明のイヌリン粒状物を含有する、組成物>の項にて記載した通りである。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0055】
[製造例1]
非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)300gを、流
動層型造粒機(FD-Mp-01E:株式会社パウレック)に収容した。次いで、約80℃の熱風を吹き込み、当該流動層型造粒機の内部に固・気系流動層を形成すると共に、当該固・気系流動層に、水添加率(乾燥減量)5.4質量%となるように、二流体ノズル型スプレーにて水を噴霧した後、噴霧を止め、流動状態で約5分間乾燥させた。このようにして、イヌリン粒状物を得た(以下、本製造例1で得られたイヌリン粒状物を「HFX012A-WG」と記載する場合がある)。
また、本製造例1で得られたイヌリン粒状物の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものを
図1及び2に示す。
【0056】
[製造例2]
上記製造例1における熱風の温度を約60℃に、水添加率(乾燥減量)を5.53質量%にそれぞれ変更したこと以外は上記製造例1と同様の方法により、イヌリン粒状物を得た(以下、本製造例2で得られたイヌリン粒状物を「HFX012B-WG」と記載する場合がある)。
また、本製造例2で得られたイヌリン粒状物の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものを
図3及び4に示す。
【0057】
[製造例3]
上記製造例1における熱風の温度を約40℃に、水添加率(乾燥減量)を5.10質量%にそれぞれ変更したこと以外は上記製造例1と同様の方法により、イヌリン粒状物を得た(以下、本製造例3で得られたイヌリン粒状物を「HFX012C-WG」と記載する場合がある)。
また、本製造例3で得られたイヌリン粒状物の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものを
図5及び6に示す。
【0058】
[製造例4]
上記製造例1における水添加率(乾燥減量)を4.59質量%に変更したこと以外は上記製造例1と同様の方法により、イヌリン粒状物を得た(以下、本製造例4で得られたイヌリン粒状物を「HFX012D-WG」と記載する場合がある)。
また、本製造例4で得られたイヌリン粒状物の状態を走査電子顕微鏡により撮像したものを
図7及び8に示す。
【0059】
また、後述の粒度分布の測定、嵩密度の測定、比較例等に用いた非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)の状態を走査電子顕微鏡により撮像した
ものを
図9及び10に示す。
【0060】
[粒度分布の測定]
上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物及び非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)の粒度分布を測定した。測定方法及びその結果は以下の
通りである。
<測定方法>
振動ふるい器(ミクロ型電磁振動ふるい器:筒井理化学器機株式会社)に目開き710μmである22メッシュ、目開き500μmである30メッシュ、目開き355μmである42メッシュ、目開き250μmである60メッシュ、目開き180μmである83メッシュ、目開き150μmである100メッシュ、目開き106μmである140メッシ
ュのふるい(何れもJIS試験用ふるい:株式会社飯田製作所)をそれぞれセットし、当該22メッシュの上から、上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物10gを載せて、当該振動ふるい器の目盛りを10にセットし、10分間ふるいにかけた。その後、全体の量に対するそれぞれのメッシュ上に残存する成分の量の割合を算出することにより、粒度分布を測定した。
<測定結果>
測定結果を以下の表1に示す。なお、表1に記載の値は、小数点第3位の値を四捨五入したものである。また、その単位はそれぞれ質量%である。
【0061】
【0062】
上記表1から明らかな通り、上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物の粒度分布は何れも、目開き106μmである140メッシュを通過する成分が約30質量%以下であった。また、目開き106μmである140メッシュ、目開き150μmである100メッシュ、目開き180μmである83メッシュ及び目開き250μmである60メッシュに残留する成分の合計が約60質量%~65質量%であり、目開き355μmである42メッシュ、目開き500μmである30メッシュ及び目開き710μmである22メッシュに残留する成分の合計が約7質量%~16質量%であった。換言すると、粒度が106μ以上の比較的大きい成分が多量に含まれていることが分かった。
一方、上記製造例1~4のような造粒処理を行っていない非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)の粒度分布は、目開き106μmである140
メッシュを通過する成分が約90質量%であった。また、目開き106μmである140メッシュ、目開き150μmである100メッシュ、目開き180μmである83メッシュ及び目開き250μmである60メッシュに残留する成分の合計が約7質量%であり、目開き355μmである42メッシュ、目開き500μmである30メッシュ及び目開き710μmである22メッシュに残留する成分の合計が約2質量%であった。換言すると、粒度が106μm未満である比較的小さい成分が多量に含まれていることが分かった。
【0063】
[嵩密度の測定]
上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物及び非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)の嵩密度を測定した。測定方法及びその結果は以下の通
りである。
<測定方法>
200mLメスシリンダー(クラスA:アズワン株式会社)を使用し、当該メスシリンダーの上方から当該メスシリンダー内へと、上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物をそれぞれ自然落下させる。次いで、溢れ出たものをすりきって得られた当該メスシリンダー内の当該イヌリン粒状物の質量を測定する。その後、当該メスシリンダーの容積(200mL)で除する。最後に、除された値を5倍して1000mLあたりの嵩密度として算出した。
<測定結果>
測定結果を以下の表2に示す。
【0064】
【0065】
上記表2から明らかな通り、上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物の嵩密度は何れも、約300g/L~450g/Lであった。
一方、上記製造例1~4のような造粒処理を行っていない非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)の嵩密度は、約700g/Lであった。
【0066】
[実施例1:水に対する溶解性試験]
上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物の水に対する溶解性試験を行った。試験方法及びその結果は以下の通りである。
<試験方法>
80mLビーカーに常温水70mLを入れ、マグネチックスターラー(径8mm、全長:30mm)を用いて300rpmの回転速度に設定し、撹拌状態にした。その後、上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物30gを一度に加え、溶解状態を10分間観察し、溶解状態を目視で評価することにより実施した。
なお、評価基準は以下の4段階に設定した。
◎:ダマの形成がなく、全てが溶ける
〇:ダマの形成がなく、おおむね溶ける
△:ダマの形成は少なく、若干溶け残る
×:ダマの形成があり、大部分が溶け残る
<試験結果>
試験結果を以下の表3に示す。
【0067】
【0068】
[比較例1:水に対する溶解性試験]
上記製造例1~4のように造粒処理をしていない非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)を用いて、上記実施例1と同様に溶解性試験を行った。
その結果を以下に示す。
<試験結果>
試験結果を以下の表4に示す。
【0069】
【0070】
上記実施例1より明らかな通り、上記製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物によれば、水に溶解させたときのダマ形成がなく、概ね溶けることが分かった。また、ダマの形成がなかったことから、イヌリンの結晶化も生じていなかった。特に、上記製造例1及び4で得られた本発明のイヌリン粒状物によれば、ダマの形成がないのはもちろんのこと、全ての成分が溶けることが分かった。
一方、比較例1より明らかな通り、上記製造例1~4のような造粒処理をしていない非特許文献1のイヌリンによれば、水に溶解させたときにダマが形成され、そのまま溶け残
ることが分かった。また、ダマが形成されていることから、イヌリンの結晶化も進行していることが示唆された。
従って、上記製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物と比較例1で用いた非特許文献1のイヌリンの物理的形状等に鑑みると、上記製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物のように目開きメッシュを通過する成分の割合を約30質量%以下とし、且つ嵩密度を約300g/L~450g/L以下とすることにより、驚くべきことに、水への溶解性が格段に向上することが分かった。
【0071】
[実施例2:85%エタノールに対する溶解性試験]
上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物の85%エタノールに対する溶解性試験を行った。試験方法及びその結果は以下の通りである。
<試験方法>
50mL遠沈管に33mLの90%エタノールを入れ、上記製造例1~4で得られたイヌリン粒状物10gを投入し、1分間撹拌した。次いで、3500rpmで10分間遠心分離した。その後、エバポレーターを用いて60℃で凝固させ、当該凝固物を予めその重さを測定したビーカーに入れ、重さを測定した。これにより、85%エタノール中に溶解したイヌリン粒状物の量を測定した。
<試験結果>
試験結果を以下の表5に示す。
【0072】
【0073】
[比較例2:85%エタノールに対する溶解性試験]
上記製造例1~4のような造粒処理をしていない非特許文献1のイヌリン(Frutafit HD:Sensus社)を用いて、上記実施例2と同様に溶解性試験を行った。
その結果を以下に示す。
<試験結果>
試験結果を以下の表6に示す。
【0074】
【0075】
また、上記実施例2より明らかな通り、上記製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物によれば、85%エタノールに溶解した質量は7.2%~8.2%であった。
一方、上記比較例2より明らかな通り、上記製造例1~4のような造粒処理をしていない非特許文献1のイヌリンによれば、85%エタノールに溶解した重量は2.3%であった。
従って、上記製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物と比較例2で用いた非特許文献1のイヌリンの物理的形状に鑑みると、上記製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物のように目開きメッシュを通過する成分の割合を約30質量%以下とし、且つ嵩密度を約300g/L~450g/L以下とすることにより、85%エタノールへの溶解性が格段に向上することが分かった。
【0076】
また、本実施例2及び比較例2の結果は、上記実施例1及び比較例1でそれぞれ導かれた結果を客観的な数値の面からサポートするものとなった。
更に、本実施例2及び比較例2の結果は、上記製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物が、アルコール飲料(例えば、ビール、ワイン、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、リキュール等)へ適応可能なことを示すものともなった。これまで、イヌリンを含有するアルコール飲料は報告されておらず、本製造例1~4で得られた本発明のイヌリン粒状物を用いることにより導かれた本効果(アルコールへの高溶解性)は、特に驚くべきものであった。