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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154121
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】液体フィルター用濾材
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20221005BHJP
   B01D 27/00 20060101ALI20221005BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20221005BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D27/00
D04H1/4374
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057011
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優美子
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
【テーマコード(参考)】
4D019
4D116
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA13
4D019BB05
4D019BC20
4D019BD01
4D019CA02
4D019DA01
4D019DA03
4D019DA05
4D116AA07
4D116BB01
4D116BC13
4D116BC76
4D116BC77
4D116FF15B
4D116GG12
4D116GG26
4D116GG28
4D116GG29
4D116GG30
4D116UU20
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA23
4L047AB08
4L047BA21
4L047CA02
4L047CA05
4L047CA19
4L047CB08
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、高粘性流体を通液した際の圧力損失が小さく、かつ異物の除去性能に優れた液体フィルター用濾材を提供する。
【解決手段】液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層をこの順に含む多層構造の液体フィルター用濾材であって、すべての濾材層は湿式不織布からなり、中間濾材層の湿式不織布の平均孔径が、液体流入側濾材層および液体流出側濾材層の湿式不織布の平均口径より小さいことを特徴とする液体フィルター用濾材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層をこの順に含む多層構造の液体フィルター用濾材であって、すべての濾材層は湿式不織布からなり、中間濾材層の湿式不織布の平均孔径が、液体流入側濾材層および液体流出側濾材層の湿式不織布の平均口径より小さいことを特徴とする液体フィルター用濾材。
【請求項2】
合計厚みが1.6~2.5mm、合計目付が250~450g/mである、請求項1に記載の液体フィルター用濾材。
【請求項3】
ガーレ透気度が4.5(100cc/秒)以下である、請求項1または2に記載の液体フィルター用濾材。
【請求項4】
液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層がいずれも平均繊維径が1000nm以下のナノファイバーおよび平均繊維径が15μm以下のバインダー繊維を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の液体フィルター用濾材。
【請求項5】
ナノファイバーが、ポリエステル、ポリアミドまたはポリプロピレンからなる、請求項4に記載の液体フィルター用濾材。
【請求項6】
液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層の各層の全ての層おいて、ナノファイバーの含有量が7~60重量%かつバインダー繊維の含有量が10~90重量%である、請求項1~5のいずれかに記載の液体フィルター用濾材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の液体フィルター用濾材を用いたカートリッジ型液体フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体フィルター用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体・エレクトロニクス分野、ケミカル分野において、粘度の高い液体製品の製造時に液中に含まれる異物を効果的に除去する技術が求められている。通常このような高粘性液体濾過には有機繊維からなるスパンボンド不織布やメルトブロー不織布が多く用いられてきた(例えば、特開2018-126721号公報)。
【0003】
このなか、デバイスの微小化、塗膜やフィルムの薄膜化に伴い、粘度の高い液中でより微小な異物を取り除く必要が出てきた。しかし、高粘性液向けの従来の濾材では、孔径が大きいため微小な異物を十分に取り除けない。
【0004】
孔径を小さくするためには、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布にカレンダー加工を施して圧密化を図る方法や、メルトブロー不織布を積層して捕集率を上げる方法が検討されてきた。しかし、これらの方法では、得られる孔径の均一性に欠けるため、濾過精度を保つために濾材厚みを大きくする必要があり、濾過抵抗が増大する懸念がある。さらに、大きな孔から異物が通過するうえに、通液時の濾過液と濾材間の摩擦が増加し、圧力損失が増大する(例えば、特許第6560101号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-126721号公報
【特許文献2】特許第6560101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高粘性流体を通液した際の圧力損失が小さく、かつ異物の除去性能に優れた液体フィルター用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層をこの順に含む多層構造の液体フィルター用濾材であって、すべての濾材層は湿式不織布からなり、中間濾材層の湿式不織布の平均孔径が、液体流入側濾材層および液体流出側濾材層の湿式不織布の平均口径より小さいことを特徴とする液体フィルター用濾材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高粘性流体を通液した際の圧力損失が小さく、かつ異物の除去性能に優れた液体フィルター用濾材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
〔濾材の層構成〕
本発明の液体フィルター用濾材は、液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層をこの順に含む多層構造の液体フィルター用濾材である。
本発明の液体フィルター用濾材は、液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾
材層をこの順に含む構成体を濾材中に含めば、さらに他の層を備える多層構成であってもよい。層の合計数は、液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層を含めて、例えば3~10層である。
【0011】
本発明の液体フィルター用濾材は、すべての濾材層が湿式不織布からなり、かつ中間濾材層の湿式不織布の平均孔径が、液体流入側濾材層および液体流出側濾材層の湿式不織布の平均孔径より小さい。
【0012】
本発明では、湿式不織布を用いることで、従来のスパンボンド不織布やメルトブロー不織布と比較して、孔径の均一な構造を形成するができ、目付や厚みが小さいにも関わらず、微小な孔径により、高い濾過精度を有する。なお、従来の液体フィルター用濾材では、積層された各濾材の平均孔径が流入側から流出側にかけて小さくなる傾斜をつけることでダスト除去率を向上させる手法がとられるが、このとき、高粘性流体に対する摩擦抵抗が最も大きい流出側最外層に負荷が集中し、流出側最外層濾材の空隙が保てず、濾過中の圧力損失が増大する恐れがある。本発明ではこの問題が発生しない。
【0013】
また、従来の液体フィルター用濾材では、濾過精度を向上させるため濾材を10層以上に積層する手法が一般にとられるが、濾材枚数を10層以上とし濾材全層の厚みが2.5mm以上になると、濾過液との摩擦増加による濾過抵抗の増加や処理量の低下が避けられず、さらにフィルターカートリッジ加工時に十分な濾過面積を得ることができず、濾過液が流れ込む圧力を分散できないため濾材への負荷が集中し、濾材の厚み方向の圧縮を招く。本発明ではこの問題が発生しない。
【0014】
本発明の液体フィルター用濾材では、積層した各濾材の平均孔径が流入側から流出側にかけて小さくなったのち、再び大きくなる方向の傾斜を含むことにより、最も平均孔径が小さい濾材よりも流出側に積層された平均孔径の大きな濾材が緩衝材としての役割と形状サポートの役割を果たすため、最も平均孔径が小さい濾材の空隙が保たれ、高粘性流体処理中の圧力損失の上昇が緩やかとなる。
【0015】
また、本発明の液体フィルター用濾材では、平均孔径を流入側から流出側にかけて小さくしたのち、再び大きくする傾斜をつけることにより、最も平均孔径の小さい濾材でいったん捕集されたのち押し出されてしまう異物を再捕集することができるため、異物除去性を向上させることができる。
【0016】
〔厚み、目付、透気度〕
本発明の液体フィルター用濾材は、濾過精度の維持とカートリッジ型への加工性の観点から、合計厚みが、好ましくは1.6~2.5mmである。
濾材を構成する各層の厚みは、好ましくは0.1mm以上である。である。各層の厚みが0.1mm未満のものを用いると、異物捕集性を保つためには濾材を圧密化する必要があり、これにより高粘性流体を通液した際に圧力損失が増大する恐れがあり好ましくない。
【0017】
本発明では、合計の層数が3層以上であり、かつ厚みが1.6~2.5mmの濾材を使用し、各層が微小かつ均一な孔径を有することにより、高い濾過精度を保つことができ、濾過抵抗が小さく、濾材として高い処理量を得ることができる。本発明では、さらに、濾材の厚みが小さいことで、カートリッジ内に格納できる濾材面積を大きくすることができるメリットもある。
【0018】
本発明の液体フィルター用濾材は、濾材内部で十分に異物を捕集しながらも、通液抵抗を低減させる観点から、合計目付が好ましくは250~450g/mであり、積層する
濾材各層において局所的な目詰まりや捕集率低下を防ぐため、各層の目付が好ましくは15~90g/mである。
本発明の液体フィルター用濾材は、高粘性液体の通液抵抗を低減させる観点から、ガーレ透気度が、好ましくは4.5(100cc/秒)以下である。
【0019】
〔層の密度〕
本発明の液体フィルター用濾材において、各層の密度は、好ましくは0.05~0.7g/cmである。密度が0.05g/cm未満であると取扱い性が悪くなるおそれがあり好ましくない。他方、密度が0.7g/cmを超えると高い濾過処理量が得られなくなるおそれがあり好ましくない。
【0020】
〔層内構成の好ましい態様〕
本発明の液体フィルター用濾材は、液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層が、いずれも平均繊維径が1000nm以下のナノファイバーおよび平均繊維径が15μm以下のバインダー繊維を含むことが好ましい。
【0021】
平均繊維径が1000nm以下のナノファイバーを全ての層が含むことで、高粘性流体を通液した際の圧力損失が小さく、かつ異物の除去性能に優れた液体フィルター用濾材を得ることができる。
【0022】
液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層の全ての層において、平均繊維径1000nm以下のナノファイバーは、好ましくは7~60重量%を占める。いすれの層においても、さらに平均繊維径が15μm以下のバインダー繊維を含み、平均繊維径1000nm以下のナノファイバーと平均繊維径15μm以下のバインダー繊維との合計で100重量%となることが好ましい。
【0023】
〔ナノファイバーの形状〕
本発明におけるナノファイバーは、好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは200~800nmの平均繊維径を有する。この繊維径は、ナノファイバーの単繊維径である。平均繊維径が1000nmを超えると濾過効率が低下するおそれがあり好ましくない。他方、平均繊維径が200nm未満であると濾材内の空隙率が低下し、濾過処理量が低下するおそれがあり好ましくない。
【0024】
平均繊維径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて倍率30000倍で単繊維断面写真を撮影して測定することができる。その際、測長機能を有する透過型電子顕微鏡(TEM)では、測長機能を使用して測定することができる。測長機能の無い透過型電子顕微鏡(TEM)では、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。
【0025】
なお、単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、平均繊維径を算出するための繊維径には、単繊維の横断面の外接円の直径を用いるものとする。
【0026】
ナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは0.4~1.5mmである。平均繊維長が0.4mm未満であると工程性が低下するおそれがあり好ましくない。他方、平均繊維長が1.5mmを超えると分散性不良により凝集繊維塊となりろ過効率や強度が低下するおそれがあり好ましくない。
平均繊維径Dに対する平均繊維長Lの比L/Dは、抄紙における水への分散性の観点から、好ましくは200~4000、さらに好ましくは800~2500である。
【0027】
〔ナノファイバーの材質〕
ナノファイバーを構成するポリマーは、例えばポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドである。
ナノファイバーは、好ましくはポリエステル、ポリアミドまたはポリプロピレンからなる。
【0028】
ナノファイバーとしてポリエステル繊維を用いる場合、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。ポリエステル繊維は、延伸糸、未延伸糸、半延伸糸いずれでもよい。
【0029】
ポリフェニレンスルフィド繊維を用いる場合、それを形成するポリアリーレンスルフィドには、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位からなるものを例示することができる。なかでも、p-フェニレンスルフィド単位を好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含有しているものが好ましく、特にポリ(p-フェニレンスルフィド)が好ましい。ポフェニレンスルフィド繊維は延伸糸、未延伸糸、半延伸糸いずれでもよい。
【0030】
〔ナノファイバー含有量〕
本発明の液体フィルター用濾材は、液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層の各層の全ての層おいて、平均繊維径が1000nm以下のナノファイバーの含有量が、好ましくは7~60重量%であり、かつ平均繊維径が15μm以下のバインダー繊維の含有量が好ましくは93~40重量%である。このバインダー繊維の平均繊維径は、濾材の細孔径を適切化する観点から、好ましくは2~15μm、さらに好ましくは3~13μmである。
【0031】
ナノファイバーのみを用いて濾材を構成すると、圧縮耐性が低く処理中の潰れが危惧される。本発明では、ナノファイバーより太いバインダー繊維を混ぜることにより、空隙率が高く、かつ圧縮強度に優れた濾材が得ることができる。
【0032】
高粘性流体を処理するには、処理中にも不織布の空隙を保つことが肝要である。高粘性流体は濾材内を通過する際の濾材繊維との摩擦が非常に大きいため、濾材空隙が保てず圧密化してしまうと著しく処理量が低下し、圧力損失が増大する。
【0033】
本発明では、液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層をこの順に含む多層構造の液体フィルター用濾材であって、すべての濾材層は湿式不織布からなり、中間濾材層の湿式不織布の平均孔径が、液体流入側濾材層および液体流出側濾材層の湿式不織布の平均口径より小さいことを特徴とする構成をとることにより、流体が流れ込んだ際に濾材の繊維と繊維の間の空隙を保つことができ、処理中の圧力損失上昇を低減させることができる。
【0034】
〔バインダー繊維〕
上記のバインダー繊維は、熱接着性繊維である。濾過層にバインダー繊維が含まれることにより、不織布の強度やネットワーク構造および収縮による嵩向上などの効果が得られ
る。バインダー繊維の平均繊維長は、濾材強度を安定させるに十分なバインダー間の接着点を持ち、かつ濾材の地合乱れをなくす観点から、好ましくは3~10mmである。
バインダー繊維として未延伸糸を用いることができ、その場合、未延伸しとして、紡糸速度が600~1500m/分で紡糸された未延伸ポリエステル繊維が好ましい。
【0035】
このポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレタレート、ポリブチレンテレフタレートを例示することができ、生産性、水への分散性などの理由から、好ましくはポリエチレンテレフタレートまたは共重合ポリエチレンテレフタレートである。
【0036】
バインダー繊維として、複合繊維を用いることもできる。この複合繊維として、抄紙時のドライヤー温度により融着接着効果を発現するポリマー成分、たとえば非結晶性共重合ポリエステルが鞘部に配置され、これらのポリマーより融点が20℃以上高い他のポリマーが芯部に配置された芯鞘型複合繊維が好ましい。これは、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維の形態であってもよい。非結晶性共重合ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびジエチレングリコールを主成分として用いることがコスト面からも好ましい。
【0037】
〔添加材〕
液体流入側濾材層、中間濾材層および液体流出側濾材層には、ナノファイバーの分散を助けるとともに空隙率の向上に寄与する繊維素材をさらに含有してもよい。この繊維素材は、非バインダー繊維であり、本発明におけるナノファイバーよりも太繊度の繊維である。この繊維状物として、平均繊維径が2~15μmのポリエステル繊維が好ましい。
【0038】
さらに、紙用に用いられる繊維素材として、例えば、木材パルプ、天然パルプ、アラミドやポリエチレンを主成分とする合成パルプ、ナイロン、アクリル、ビニロン、レーヨン等の成分を含む合成繊維または半合成繊維を含有してもよい。
【0039】
〔カートリッジ〕
本発明の液体フィルター用濾材において、濾材はカートリッジ型であることが好ましい。本発明によれば、さらに液体フィルター用濾材を用いたカートリッジ型液体フィルターが提供される。カートリッジ型液体フィルターの形状としては好ましくは円筒状であり、最内層のコア材と最外層のプロテクターとの間に本発明の液体フィルター用濾材を円筒状かつプリーツ状に配することが好ましい。プリーツの折りピッチ(山と谷との距離)は、好ましくは5~30mmである。コア材の直径は、好ましくは10~200mmである。
【0040】
〔ナノファイバーの製造方法〕
ナノファイバーは、例えば国際公開第2005/095686号パンフレットや国際公開第2008/130019号パンフレットに開示された方法で製造することができる。
【0041】
すなわち、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる島成分と、該繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に対して溶解し易いポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」という)からなる海成分とから構成される海島型複合繊維を作成し、これに対してアルカリ水溶液を用いてアルカリ減量処理を施し、海成分の易溶解性ポリマーを島成分の繊維形成性熱可塑性ポリマーの繊維から溶解除去することで製造することができる。
【0042】
海成分の易溶解性ポリマーは、島成分の繊維形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比が、好ましくは200以上、さらに好ましくは300~3000である。この溶解速度比であると海成分と島成分との分離がし易く好ましい。
【0043】
海島型複合繊維において、海成分のポリマーと島成分のポリマーとの溶融粘度比(海/島)は、好ましくは1.1~2.0、さらに好ましくは1.3~1.5である。この比が1.1未満であると、溶融紡糸時に島成分同士が接合しやすく好ましくなく、他方2.0を超えると、粘度差が大きすぎ紡糸調子が低下しやすく好ましくない。
海島型複合繊維の断面における島成分の個数、すなわち島数は、例えば100以上、さらに例えば500~2000である。
【0044】
海島型複合繊維における海成分と島成分との重量比率は、好ましくは20:80~80:20である。この範囲であると、島成分と島成分との間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易になり、島成分のナノファイバーへの転換が容易になり好ましい。海成分が80重量%を越えると海成分の厚みが厚くなりすぎ、他方20重量%未満であると海成分の量が少なくなりすぎ、島成分とそれに隣接する他の島成分との間に接合が発生しやすくなり好ましくない。
【0045】
海島型複合繊維を紡糸する溶融紡糸に用いられる口金として、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群(ピンレス)を有するものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分の流れとその間を埋めるように流路を設計されている海成分の流れとを合流し、これを圧縮することにより海島断面を形成する紡糸口金を用いることができる。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーまたはエジェクターにより引き取り、未延伸糸を得る。引き取り速度は好ましくは200~5000m/分である。200m/分未満であると生産性が低下するおそれがあり好ましくない。他方、5000m/分を超えると紡糸の安定性が低下するおそれがあり好ましくない。
【0046】
得られた海島型複合繊維に、海成分を溶解して島成分を繊維として残すアルカリ減量処理を行い、アルカリ減量処理後に残った繊維を所定の繊維長にカットすることで、本発明に用いるナノファイバーを得ることができる。このカットは、例えば10~1000万本、さらに例えば100~100万本に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッターで行うことができる。なお、所定の繊維長へのカットは、アルカリ減量処理の前に行ってもよい。
【0047】
〔アルカリ減量〕
上記のアルカリ減量処理において、海島型複合繊維は、アルカリ溶液の重量に対して、好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.4~3重量%とする。0.1重量%未満であると、アルカリ減量処理後の排水が困難になるおそれがあり好ましくない。他方、5重量%を超えると、アルカリ減量時に島成分として残った繊維同士が絡み合うおそれがあり好ましくない。
【0048】
アルカリ減量処理の時間は、好ましくは5~60分間、さらに好ましくは10~30分間である。5分間未満であるとアルカリ減量が不十分となるおそれがあり好ましくない。他方、60分間を超えると繊維として残す島成分まで溶解されるおそれがあり好ましくない。
【0049】
アルカリ減量処理において用いるアルカリ水溶液のアルカリ濃度は、好ましくは2~10重量%である。2重量%未満であるとアルカリ不足となり減量速度が極めて遅くなるおそれがあり好ましくない。他方、10重量%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ島成分まで減量されるおそれがあり好ましくない。
【0050】
アルカリ減量処理の後、島成分の繊維の分散性を高めるために、島成分の繊維の表面に分散剤を付着させることが好ましい。分散剤といて、例えば、高松油脂(株)製の型式Y
M-81)を用いることができる。分散剤の付着量は、島成分の繊維重量に対して例えば0.1~5.0重量%である。
【0051】
〔湿式不織布の製造方法〕
本発明の液体フィルター用濾材は、濾過効率の観点から、濾材を構成する各層が湿式不織布からなることが好ましい。
【0052】
湿式不織布を製造する方法として、例えば長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機を用いて抄紙し、その後、熱処理してナノファイバーとバインダー繊維を熱接着する方法をとることができる。熱処理は、抄紙工程後に、例えば、ヤンキードライヤーやエアースルードライヤーを用いて行うことができる。
【0053】
熱処理の後、例えば、金属ローラー/金属ローラー、金属ローラー/ペーパーローラー、金属ローラー/弾性ローラーを用いて、カレンダー加工やエンボス加工を施してもよい。
【0054】
本発明の液体フィルター用濾材を構成する各層を1層ごとに湿式抄紙した後に積層してもよいし、本発明の液体フィルター用濾材を多層抄きで製造してもよい。
【実施例0055】
本発明の実施例および比較例を詳述する。なお、実施例の測定項目は下記の方法で測定した。「重量%」を「wt%」と表記することがある。
【0056】
(1)平均繊維径
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)を使用し、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し測定した。ただし、繊維径は、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた(n数5の平均値)。
【0057】
(2)平均繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の極細短繊維(短繊維A)を基盤上に寝かせた状態とし、20~500倍で繊維長Lを測定した(n数5の平均値)。その際、SEMの測長機能を活用して繊維長Lを測定した。
【0058】
(3)目付け
JIS P8124(紙のメートル坪量測定方法)に基づいて目付を測定した。
【0059】
(4)平均厚み
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の測定方法)に基づいて厚みを測定した。測定荷重は75g/cmにて、n=5で測定し、平均値を求めた。
【0060】
(5)ガーレ透気度
JIS P8117(紙および板紙の透気度試験方法)に基づいて実施した。
【0061】
(6)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットした。そのデータをもとに、せん断速度-溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000sec-1の時の溶融粘度を読み取った。
【0062】
(7)平均孔径
PMI社製パームポロメーターにより測定した。
【0063】
(8)粘度
東機産業株式会社製粘度計により、回転数3rpmの時の粘度を読み取った。
【0064】
(9)高粘性流体通液時の圧力損失
カルボキシメチルセルロース水溶液 0.6wt%を作製し、濾材をはめたカートリッジに12L/minの流速で全量濾過し、1次側と2次側の圧力差を測定した。
【0065】
(10)1μm初期捕集率
Air Cloeaneer Test Dust(ACファイン2ダスト)水分散液0.3ppmを作製し、濾材をはめたカートリッジに10L/minの流速で全量濾過し、開始から1分ごとに3分目までの濾過前後の粒子数を測定し、3分目までの平均の捕集率を計算した。
【0066】
〔実施例1〕
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリエチレングリコールを全ジオール成分あたり4重量%および5-ナトリウムスルホイソフタル酸を全ジカルボ酸成分あたり9モル%共重合したポリエチレンテレフタレート共重合体を使用し、海:島=30:70(重量比)、島数=836の海島型複合未延伸糸を、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して、一旦巻き取り未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を、延伸倍率4.0倍でローラー延伸し、次いで180℃で熱セットし、海島型複合延伸糸として巻き取った。これを繊維長0.5mm(平均繊維長0.5mm)にカットしてアルカリ減量することにより、平均繊維径700nmかつ平均繊維長0.5mmのナノファイバーAを得た。さらに、同様にして、平均繊維径400nmかつ平均繊維長0.5mmのナノファイバーA’を得た。
【0067】
(第1層の湿式不織布)
ナノファイバーAを不織布の全重量あたり7重量%、その他の成分として繊度1.7dtex(平均繊維径12.6μm)×繊維長5mm(平均繊維長5mm)のポリエチレンテレフタレート繊維(非バインダー繊維B)と、繊度1.7~2.2dtex(平均繊維径12.6~14.4μm)の低融点ポリエチレンテレフタレート共重合体繊維(バインダー繊維C、融点110℃)とを93重量%用い、ナノファイバーAとの合計で100重量%となるように配合して、スラリーを作製した。このとき、非バインダー繊維Bとバインダー繊維Cと重量比率は68:32とした。
【0068】
上記スラリーに分散剤および消泡剤を添加して分散させたスラリーを湿式抄紙し、ニップローラーで脱水しその後巻き取った。引き続いて、ベルト式乾燥機に巻出しながら導入し、加熱収縮によりバインダー繊維間のネットワークを形成して構造固定したのち、一定の張力にて巻き取り、湿式不織布を得た。なお、分散剤および消泡剤の重量は、ナノファイバーA、非バインダー繊維Bおよびバインダー繊維Cの合計重量100重量部に対して、それぞれ1~5重量部および10~20重量部である。
【0069】
(第2層から第5層の湿式不織布)
ナノファイバーAを不織布の全重量あたり、第2層は10重量%、第3層は30重量%、第4層は40重量%、第5層は15重量%とナノファイバーA’を15重量%配合し、非バインダー繊維Bおよびバインダー繊維Cの量をナノファイバーとの合計量で100重量%となるように配合する他は第1層の湿式不織布と同様にして第2層から第5層の湿式不織布を製造した。
【0070】
(積層)
上記の方法で作製した湿式不織布を、ナノファイバーAの重量割合が小さい濾材から順番に流入側から第5層まで積層した。そののち、第1層から第4層の湿式不織布を逆の順番で積層し、合計9層の湿式不織布の層からなる濾材を得た。
得られた濾材の平均孔径は流入側の第1層から第5層にかけて段階的に小さくなる傾斜を持ち、第5層目から流出側の第9層にかけて再び大きくなる傾斜を備えていた。
【0071】
濾材の目付は383g/m、厚みは1.9mm、ガーレ透気度は4.00であった。粘度400mPa・sのカルボキシメチルセルロース(以降、「CMC」と略記する。)水溶液を12L/minの流量で濾材に通液した際の圧力損失は0.13MPaであり、ACファインダストの1μm粒子除去率は99.79%であった。評価結果を表1に示す。
【0072】
〔比較例1〕
実施例1における第1層から第5層において、第3層の層数を2層にし、第4層の層数を3層に増加させ、第1層から第5層までを全層数8層で構成する以外は実施例1と同様に実施した。得られた濾材の平均孔径は流入側から流出側にかけて段階的に小さくなる傾斜を備えていた。濾材の目付は292g/m、厚みは1.7mm、ガーレ透気度は3.79であった。粘度400mPa・sのCMC水溶液を12L/minの流量で濾材に通液した際の圧力損失は0.15MPaであり、ACファインダストの1μm粒子除去率は99.85%であった。評価結果を表1に示す。
【0073】
〔比較例2〕
ナノファイバーAを700nm×繊維長0.5mm(平均繊維長0.5μm)のポリプロピレンに変更し、バインダー繊維Cを繊度0.8dtex(平均繊維径10.1μm)×繊維長5mm(平均繊維長5mm)の芯部分がポリプロピレン、鞘部分がポリエチレンの芯鞘型複合繊維に変更し、ナノファイバーAを濾材重量に対して10~60重量%に段階的に増加させ、ナノファイバーAとバインダー繊維Cとを合計して100重量%となるように配合してスラリーを作製したのち、実施例1と同様の方法で、湿式抄紙により濾材を得た。得られた濾材をナノファイバーAの重量割合が小さい濾材から順番に流入側~第5層まで積層した。積層して得られた濾材の平均孔径は流入側から流出側にかけて段階的に小さくなる傾斜を持った。また、積層して得られた濾材の目付は300g/m、厚みは1.6mm、ガーレ透気度は4.30であった。粘度400mPa・sのCMC水溶液を12L/minの流量で濾材に通液した際の圧力損失は0.18MPaであり、ACファインダストの1μm粒子除去率は99.55%であった。評価結果を表1に示す。
【0074】
〔比較例3〕
平均孔径が異なる市販のメルトブロー不織布を積層して、濾材を得た。得られた濾材の目付は349g/m、厚みは1.7mm、ガーレ透気度は4.62であった。粘度400mPa・sのCMC水溶液を12L/minの流量で濾材に通液した際の圧力損失は0.18MPaであり、ACファインダストの1μm粒子除去率は99.40%であった。評価結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例4〕
市販のメルトブロー不織布を積層して、濾材を得た。得られた濾材の目付は483g/m、厚みは3.5mm、ガーレ透気度は4.26であった。粘度400mPa・sのCMC水溶液を12L/minの流量で濾材に通液した際の圧力損失は0.27MPaであり、ACファインダストの1μm粒子除去率は97.90%であった。評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
以下、結果を説明する。実施例1は、粘度400mPa・sのCMC水溶液を2L/minの流量で通液した際の圧力損失が0.13MPaでありながら、1μm粒子の除去率が99.79%という高い捕集率を有している良好な結果であった。
【0078】
比較例1は流入側から流出側にかけて孔径を小さくする方向の傾斜をつけた構造で、1μm粒子の除去率は99.55%以上と概ね良好であるが、積層した各濾材の平均孔径が流入側から流出側にかけて小さくなる傾斜のみのため、全層ガーレ透気度が実施例1よりも小さいにもかかわらずCMC粘度400mPa・sを流量12L/minで通液した際の圧力損失が0.15と大きくなった。
【0079】
比較例2も同様に、積層した各濾材の平均孔径が流入側から流出側にかけて小さくなる傾斜のみをもたせた濾材ゆえにCMC 粘度400kPa・sを流量12L/minで通液した際の圧力損失が0.18と大きくなった。
【0080】
比較例3はメルトブロー不織布であるがゆえに孔径を小さくするために全層のガーレ透気度が4.62と大きくなり、その結果粘度400mPa・sのCMC水溶液を12L/minの流量で通液した際の圧力損失が0.15MPaと高いものであった。
【0081】
比較例4は平均孔径5μmの濾材を16層積層し、厚みを3.5mm、目付を483g/mと分厚い濾材にすることでガーレ透気度を4.5以下である4.26に小さくしつつ、粒子除去率の向上を図ったものであるが、5000mPa・sのCMC水溶液を2L/minの流量で通液した際の圧力損失が0.27とさらに高い上に、1μm粒子の除去率が97.9%しか得られなかった。メルトブロー不織布では孔径の不均一性により濾過精度を高めるには圧密化や濾材の多数積層が行われるが、これによりガーレ透気度値が大きくなり、高粘性流体の通液時の抵抗が大きくなることがわかった。他方、ナノファイバーを使用した濾材の場合には、孔径の均一性により厚みが薄く、ガーレ透気度が低くても高い捕集率を有し、厚みが小さいことにより高粘性流体の通液時の摩擦が発生する距離が短くてすむため、圧力損失を低減できることがわかった。また、積層した各濾材の平均孔径が流入側から流出側にかけて小さくなったのち、再び大きくなる方向の傾斜を含むことにより、流出側の平均孔径の大きい濾材がサポートの役割を果たすことによって高粘性流体を通液した際の圧力損失を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の液体フィルター用濾材は、液体を濾過するフィルターとして用いることができる。特に、食品、飲料、製薬およびエレクトロニクス業界での製品製造プロセスに用いることができる。特に、高粘性の液体中の異物濾過用のフィルター(デプスフィルター)として好適である。