(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154164
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】放射線治療用スペーサー及びスペーサーデリバリーシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
A61N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057068
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】福瀧 修司
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬史
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AR02
(57)【要約】
【課題】患者への負担を軽減できる放射線治療用スペーサーを提供すること。
【解決手段】放射線治療用スペーサー1は、内部に流体を封入可能なバルーン本体21と、バルーン本体21の内外を連通する連通流路3と、を有するバルーン部と、連通流路3を閉止する閉止部4と、を備え、バルーン部2は、生分解性材料により形成される。閉止部4は、生分解性材料により形成されていてもよい。バルーン部2は、内部に流体Fが封入されていない状態においては、扁平形状に形成されていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体を封入可能なバルーン本体と、前記バルーン本体の内外を連通する連通流路と、を有するバルーン部と、
前記連通流路を閉止する閉止部と、を備え、
前記バルーン部は、生分解性材料により形成される放射線治療用スペーサー。
【請求項2】
前記閉止部は、生分解性材料により形成される請求項1に記載の放射線治療用スペーサー。
【請求項3】
前記バルーン部は、内部に流体が封入されていない状態においては、扁平形状に形成される請求項1又は2に記載の放射線治療用スペーサー。
【請求項4】
前記バルーン部は、該バルーン部の内部を区画する区画部を有する請求項1~3のいずれかに記載の放射線治療用スペーサー。
【請求項5】
前記閉止部は、前記バルーン部の外部から内部への流体の流入を許容すると共に前記バルーン部の内部から外部への流体の流出を禁止する請求項1~4のいずれかに記載の放射線治療用スペーサー。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の放射線治療用スペーサーを生体内に留置するためのスペーサーデリバリーシステムであって、
先端に前記バルーン部が取り付けられた流体注入管と、
内側に前記バルーン部及び前記流体注入管を収容可能であって、前記バルーン部及び前記流体注入管が先端側からこの順に配置される外筒と、
前記バルーン部の後側において前記流体注入管と前記外筒との間に配置され、前記バルーン部を前記外筒の先端側から押し出し可能な押し子部材と、を備えるスペーサーデリバリーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療用スペーサー及びスペーサーデリバリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線治療時に、患部(腫瘍)の周囲の正常組織を放射線被曝から保護するために、患部と正常組織との間に、放射線治療用スペーサーが挿入されることが行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の放射線治療用スペーサーは、シリコン製のバルーン体により構成され、放射線治療前に、患部と正常組織との間に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射線治療用スペーサーは、放射線治療後に、患者の体内から取り出される。放射線治療後に、放射線治療用スペーサーを患者の体内から再手術により取り出すことは、患者への負担も大きくなる。そのため、患者への負担を軽減できる放射線治療用スペーサーが望まれている。
【0005】
本発明は、患者への負担を軽減できる放射線治療用スペーサー及びスペーサーデリバリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内部に流体を封入可能なバルーン本体と、前記バルーン本体の内外を連通する連通流路と、を有するバルーン部と、前記連通流路を閉止する閉止部と、を備え、前記バルーン部は、生分解性材料により形成される放射線治療用スペーサーに関する。
【0007】
また、前記閉止部は、生分解性材料により形成されることが好ましい。
【0008】
また、前記バルーン部は、内部に流体が封入されていない状態においては、扁平形状に形成されることが好ましい。
【0009】
また、前記バルーン部は、該バルーン部の内部を区画する区画部を有することが好ましい。
【0010】
また、前記閉止部は、前記バルーン部の外部から内部への流体の流入を許容すると共に前記バルーン部の内部から外部への流体の流出を禁止することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、放射線治療用スペーサーを生体内に留置するためのスペーサーデリバリーシステムであって、先端に前記バルーン部が取り付けられた流体注入管と、内側に前記バルーン部及び前記流体注入管を収容可能であって、前記バルーン部及び前記流体注入管が先端側からこの順に配置される外筒と、前記バルーン部の後側において前記流体注入管と前記外筒との間に配置され、前記バルーン部を前記外筒の先端側から押し出し可能な押し子部材と、を備えるスペーサーデリバリーシステムに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、患者への負担を軽減できる放射線治療用スペーサー及びスペーサーデリバリーシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の放射線治療用スペーサーの内部に流体を封入した状態を示す斜視図である。
【
図2】放射線治療用スペーサーの内部に流体を注入していない状態を示す斜視図である。
【
図3】放射用治療用スペーサーを丸めた状態を示す斜視図である。
【
図4】スペーサーデリバリーシステムに放射線治療用スペーサーを丸めて収容した状態を示す図である。
【
図5】スペーサーデリバリーシステムの先端から放射線治療用スペーサーを押し出した状態を示す図である。
【
図6】スペーサーデリバリーシステムの先端から押し出された放射線治療用スペーサーに流体を注入する状態を示す図である。
【
図7】放射線治療用スペーサーに流体を注入した後に放射線治療用スペーサーから流体注入管を引き抜いた状態を示す図である。
【
図8】第2実施形態の放射線治療用スペーサーを示す斜視図である。
【
図9】第3実施形態の放射線治療用スペーサーを示す斜視図である。
【
図10】第4実施形態の放射線治療用スペーサーを示す斜視図である。
【
図11A】放射線治療用スペーサーの使用状態の一例においてバルーン部に流体を注入した状態を示す図である。
【
図11B】放射線治療用スペーサーの使用状態の一例において閉止部により連通流体流路を閉止した状態を示す図である。
【
図12】放射線治療用スペーサーの使用状態の他の例において閉止部により連通流体流路を閉止した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明に係る放射線治療用スペーサー1は、放射線治療時に、患者の患部(腫瘍)の周囲の正常組織を放射線被曝から保護するために、患部と正常組織との間に挿入される。
【0015】
図1に示すように、放射線治療用スペーサー1は、連通流体流路3を有するバルーン部2と、閉止部4と、を備える。本実施形態においては、閉止部4は、連通流体流路3の少なくとも一部により構成される。
【0016】
バルーン部2は、袋状に形成される。バルーン部2は、内部に流体Fを封入可能である。バルーン部2は、内部に流体Fが封入されて膨らんだ状態で、患部と正常組織との間に留置(配置)される。
【0017】
バルーン部2は、バルーン本体21と、複数の区画接合部22(区画部)と、連通流体流路3(連通流路)と、を有する。バルーン本体21は、複数の区画部22によりバルーン本体21の内部が区画されると共に連通流体流路3が設けられた状態で、例えば、2枚の長方形状のシートの周縁が接合されることで形成される。
図2に示すように、バルーン部2は、内部に流体Fが封入されない状態においては、扁平形状に形成される。
【0018】
バルーン本体21を構成する2枚のシートは、例えば、長辺方向の長さが30~250mm、短辺方向の幅が30mm~250mmで形成され、内部に流体Fを収容することで、
図1に示すように、バルーン本体21を、例えば、厚さ5mm~30mm程度に膨らませることができる。バルーン本体21は、
図2に示すように、内部に流体Fを注入する前においては、平面視で長方形状に形成され、厚さが、例えば1mm程度のシート状に形成される。
【0019】
バルーン本体21がシート状に形成されるため、例えば、
図3に示すように、バルーン部2を丸めたり折り畳んだりすることで、例えば、腹腔鏡手術の際に用いるトロカール等の筒状部材の内部を容易に通すことができる大きさまで、バルーン部2を小さくすることができる。バルーン部2を丸めたり折り畳んだりすることで、例えば、後述するスペーサーデリバリーシステム5により、例えば患者の腹壁を1cm~2cm切開して、小さく切開した部分から放射線治療用スペーサー1を挿入して、患部と正常組織との間に、放射線治療用スペーサー1を容易に留置できる。
【0020】
連通流体流路3は、筒状に形成され、バルーン部2の内外を連通する。連通流体流路3には、バルーン部2の内部に注入される流体Fが流通される。連通流体流路3は、
図1及び
図2に示すように、バルーン本体21の一方の長辺の中央部において、バルーン本体21の短手方向に沿って延びる筒状に形成される。連通流体流路3は、一端がバルーン本体21の内部に配置されると共に、他端がバルーン本体21の外部に配置される。なお、連通流体流路3を、バルーン本体21の一方の長辺の中央部以外の部分に配置してもよい。また、連通流体流路3の他端を、バルーン本体21の内部に配置してもよい。
【0021】
閉止部4は、連通流体流路3を閉止する。本実施形態においては、閉止部4は、連通流体流路3に設けられ、連通流体流路3の少なくとも一部により構成される。閉止部4は、バルーン部2の外部から内部への流体Fの流入を許容すると共にバルーン部2の内部から外部への流体Fの流出を禁止する。
【0022】
閉止部4は、連通流体流路3を通してバルーン部2の内部に流体を注入した後に、バルーン部2の内部から流体が逆流して外部に移動しないように、流体が通過する以外の場合には連通流体流路3が隙間なく潰れて構成される。本実施形態においては、閉止部4は、閉止時において、チューブが潰れた形状に形成される。これにより、連通流体流路3に流体注入管52が挿入された状態においては、流体Fをバルーン部2の内部に流体注入管52を介して注入や吸引ができ、流体Fをバルーン部2の内部に注入した後には、流体注入管52を連通流体流路3から引き抜くことで、連通流体流路3は、潰れた状態となった閉止部4により閉止される。閉止部4において流体注入管52を使用してバルーン部2の内部に流体Fを注入したりバルーン部2の内部から流体Fを吸引したりすることで、バルーン部2の内部への流体Fの出し入れが可能となる。これにより、バルーン部2の内部に注入する流体Fの量を調整できる。
【0023】
なお、本実施形態においては、閉止部4を、閉止時において、チューブが潰れた形状に形成したが、これに限定されない。本実施形態の閉止部4以外にも、バルーン部2の外部から内部への流体Fの流入を許容すると共にバルーン部2の内部から外部への流体Fの流出を禁止する構成として、例えば、鳥のクチバシ(ダックビル)形状に形成されるダックビルバルブや、弁座を有したシートバルブ等の一方弁を用いることができる。
【0024】
バルーン本体21の内部には、連通流体流路3を通して、
図3に示すように、例えば、流体注入管52が挿入される。バルーン本体21の内部には、流体注入管52を介して、流体Fが注入又は吸引される。バルーン部2の内部に注入される流体Fとしては、体内に残留しても人体に影響のないものが使用され、例えば、水、生理食塩水又は混合溶液などの液体や、空気、酸素又は窒素などの気体や、ゲル状態の物質が用いられる。また、放射線治療時に、放射線の減衰効果が高くなるように液体に混合物質を混ぜたり、流体を認識したりし易いように色を付けてもよい。
【0025】
複数の区画接合部22は、
図1及び
図2に示すように、バルーン部2の内部を区画する。本実施形態においては、複数の区画接合部22は、バルーン本体21の内部側において、バルーン本体21を構成する2枚のシートの一部が接合されることで形成される。
【0026】
複数の区画接合部22は、バルーン部2の内部をバルーン部2の長手方向において複数部分に区画するように、バルーン部2の長手方向の途中の2箇所において、バルーン部2の短手方向に沿って直線状に延びる。区画接合部22は、バルーン部2の一方の長辺から他方の長辺の手前まで延びる。
【0027】
バルーン部2の内部は、短手方向の大部分において、複数の区画接合部22により複数の区画部分211a,211b,211aに区画される。複数の区画部分211a,211b,211aは、バルーン部2の長手方向に所定間隔をあけて配置され、バルーン部2の短手方向に延びる。複数の区画部分211a,211b,211aは、バルーン部2の長手方向の両端部に配置される端部区画部211a,211aと、バルーン部2の長手方向の中間に配置される中間区画部211bと、を有する。
【0028】
バルーン部2における短手方向の他方の端部側の一部には、隣り合う区画部分211a,211b,211aを連通させる連通路212が形成される。連通路212は、バルーン部2の内部の複数の区画部分211a,211b,211aにおいて流体Fの移動を許容する。
【0029】
流体注入管52を介して連通流体流路3を通してバルーン部2の内部に注入された流体Fは、バルーン部2の中間区画部211bに充填されつつ、中間区画部211bを通って、連通路212を流通し、端部区画部211a,211aに充填される。複数の区画部分211a,211b,211aに充填された流体Fは、連通路212を介して、互いが移動可能な状態で、バルーン部2の内部に封入されている。
【0030】
バルーン部2の内部に流体Fが収容された状態においては、バルーン部2は、
図1に示すように、複数の区画部分211a,211b,211aに流体Fが収容されることで、膨らんだ状態となり、複数の膨出部23が形成される。バルーン部2は、複数の区画接合部22においては、複数の膨出部23よりも厚さが小さいため、曲がり易い。
【0031】
放射線治療用スペーサー1が患部と正常組織との間に留置され、バルーン部2の内部に流体Fが収容されて膨らんだ状態においては、患部と正常組織との間にスペースを確保することができる。これにより、放射線治療において、放射線治療用スペーサー1により形成されたスペースにより、患部に高強度の放射線を照射しても、放射線を減衰させることができ、正常組織への放射線の影響を最小限に抑えることができる。
【0032】
放射線治療用スペーサー1を患者の体内に留置した状態において、放射線治療用スペーサー1を、体内の臓器や組織と固定することもできる。固定方法としては、例えば、放射線治療用スペーサー1の縁と臓器や組織とを縫合する方法が挙げられる。放射線治療用スペーサー1の縁に縫合用孔を設けることで、縫合の際に、手技が簡便になる。また、その他の固定方法としては、例えば、生分解性材料で構成されたクリップにより放射線治療用スペーサー1を体内の臓器や組織と固定する方法や、放射線治療用スペーサー1の表面を荒らして体内の留置場所から移動することを妨げる方法や、フィブリンのりなどで放射線治療用スペーサー1の表面を体内の臓器や組織に接着する方法が挙げられる。
【0033】
以上の放射線治療用スペーサー1において、バルーン部2及び閉止部4は、生分解性材料により形成される。バルーン部2及び閉止部4の材料としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)やポリカプロラクトン(PCL)やポリグリコール酸(PGA)やポリジオキサノン(PDO)などの生分解性材料や、これらの生分解性材料の共重合体や混合物などが使用される。本実施形態においては、放射線治療用スペーサー1の全部が、生分解性材料により形成される。
【0034】
バルーン部2及び閉止部4が生分解性材料により形成されるため、バルーン部2及び閉止部4は、患者の体内において時間の経過と共に分解される。バルーン部2及び閉止部4は、生分解性材料により形成されることで、例えば、2週間~半年程度の期間で分解される。例えば、放射線治療が4週間程度の通院で行われることを想定した場合、生分解性材料で形成したバルーン部2及び閉止部4は、例えば、4~8週間程度の期間で分解されることが好ましい。生分解性材料で形成したバルーン部2及び閉止部4が時間の経過と共に分解されるため、放射線治療用スペーサー1を患者の体内に留置した後において、放射線治療用スペーサー1を患者の体内から取り出すことが不要となる。よって、バルーン部2及び閉止部4を生分解性材料により形成することで、放射線治療用スペーサー1を患者の体内から取り出すための手術が不要となるため、患者への負担を軽減できる。
【0035】
次に、スペーサーデリバリーシステム5を用いて、放射線治療用スペーサー1を患者の患部と正常組織との間に留置する方法について説明する。スペーサーデリバリーシステム5は、放射線治療用スペーサー1を患者の体内(生体内)に留置するために用いられる。本実施形態においては、スペーサーデリバリーシステム5の外筒51における放射線治療用スペーサー1が留置される端部側を先端側とし、スペーサーデリバリーシステム5の外筒51の先端側とは反対側を後側とする。
【0036】
スペーサーデリバリーシステム5は、例えば患者の腹壁を1cm~2cm切開して、放射線治療用スペーサー1を患部と正常組織との間に運んで留置させることができると共に、患部と正常組織との間に留置した放射線治療用スペーサー1に流体Fを注入して膨らませることができる。
【0037】
まず、
図4に示すように、スペーサーデリバリーシステム5を用いて、放射線治療用スペーサー1を患者の患部と正常組織との間に留置する前に、事前に、放射線治療用スペーサー1をスペーサーデリバリーシステム5の外筒51の先端にセットする。スペーサーデリバリーシステム5は、
図4に示すように、外筒51と、外筒51の内部に配置される流体注入管52と、流体注入管52と外筒51との間に配置される中間筒53(押し子部材)と、を有する。
【0038】
外筒51には、内側にバルーン部2及び流体注入管52を収容可能である。流体注入管52の先端には、バルーン部2が取り付けられている。外筒51には、バルーン部2及び流体注入管52が先端側からこの順に配置される。中間筒53は、バルーン部2の後側において流体注入管52と外筒51との間に配置される。中間筒53は、バルーン部2を外筒51の先端側から押し出し可能である。
【0039】
放射線治療用スペーサー1をスペーサーデリバリーシステム5にセットする場合には、
図3に示すように、放射線治療用スペーサー1の連通流体流路3に流体注入管52の先端を挿入した状態で、バルーン部2を例えば丸めたり折り畳んだりして、
図4に示すように、外筒51の先端側の内部に配置する。
【0040】
そして、中間筒53を、流体注入管52と外筒51との間における放射線治療用スペーサー1の後側に配置する。中間筒53は、外筒51に対して先端側に移動させることが可能に構成される。
【0041】
放射線治療用スペーサー1を患者の体内に留置する場合には、放射線治療用スペーサー1を外筒51の内部の先端にセットしたスペーサーデリバリーシステム5により、例えば患者の腹壁を1~2cm切開した部分から、外筒51の先端を、患者の患部と正常組織との間に送り込む。
【0042】
続けて、外筒51の先端を、患部まで送り込んだ後、
図5に示すように、流体注入管52の先端に挿入された放射線治療用スペーサー1を外筒51の先端から押し出すように、中間筒53及び流体注入管52を、外筒51の先端の外側に向けて移動させる。これにより、外筒51の先端側の内部に丸めた状態で配置した放射線治療用スペーサー1を、外筒51の先端から押し出すことができる。
【0043】
そして、放射線治療用スペーサー1を外筒51の先端から押し出した状態で、
図6に示すように、流体注入管52を介して、連通流体流路3を通して、バルーン部2の内部に流体Fを注入する。バルーン部2の内部に流体Fを注入することで、バルーン部2を、患部と正常組織との間において膨らませる。
【0044】
この状態においては、
図1に示すように、バルーン部2は、複数の区画接合部22により区画された状態で、患部と正常組織との間に留置される。バルーン部2を、膨らんだ状態で、厚さが小さい区画接合部22において曲げることができる。そのため、区画接合部22により区画された複数の区画部分211a,211b,211aが、バルーン部2が留置される部分にフィットして、バルーン部2が留置される部位に掛かる余分な圧力を軽減することができる。
【0045】
次に、
図6に示す状態から、流体注入管52を後側に移動させることで、連通流体流路3に挿入された流体注入管52の先端を、連通流体流路3から引き抜く。この場合、
図7に示すように、連通流体流路3は、閉止部4により、バルーン部2の内部から外部への流体Fの流出が禁止される。これにより、バルーン部2から流体注入管52を引き抜くだけで、閉止部4により、バルーン部2の連通流体流路3を容易に閉止できる。この状態で、放射線治療が行われる。
【0046】
放射線治療の終了後には、放射線治療用スペーサー1を腹腔内から取り出さなくてもよい。より具体的には、バルーン部2及び連通流体流路3が生分解性材料により形成されるため、放射線治療用スペーサー1は、腹腔内において、時間の経過と共に分解される。よって、放射線治療用スペーサー1を患者の体内を留置した後に、放射線治療用スペーサー1を患者の体内から取り出さなくてよい。
【0047】
本実施形態に係る放射線治療用スペーサー1によれば、以下の効果が奏される。
【0048】
本実施形態の放射線治療用スペーサー1を、バルーン本体21と、バルーン本体21の内外を連通する連通流体流路3と、を有するバルーン部2と、連通流体流路3を閉止する閉止部4と、を備えて構成し、バルーン部2を、生分解性材料により形成した。これにより、バルーン部2は、患者の体内において分解されるため、放射線治療用スペーサー1を患者の体内を留置した後に、バルーン部2を患者の体内から取り出さなくてよい。よって、患者への負担を軽減できる。
【0049】
また、本実施形態においては、閉止部4を、生分解性材料により形成した。これにより、バルーン部2及び閉止部4を患者の体内に留置した場合に、患者の体内においてバルーン部2及び閉止部4の両方が分解されるため、バルーン部2及び閉止部4を患者の体内から取り出さなくてよい。よって、患者への負担をより軽減できる。
【0050】
また、本実施形態においては、バルーン部2は、内部に流体Fが封入されていない状態においては、扁平形状に形成される。これにより、バルーン部2を例えば丸めたり折り畳むことで、例えば患者の腹壁を小さく切開した部分から、バルーン部2を、例えばスペーサーデリバリ-システム5の外筒51を通して患者の体内に送り込むことができる。よって、放射線治療用スペーサー1を患者の体内に留置する場合に、開腹手術を行わなくてよいため、患者への負担を軽減できる。また、放射線治療用スペーサー1を、バルーン部2を備えることでバルーン形状とした。これにより、放射線治療用スペーサー1を、少量の生分解性材料を用いて大きく膨らませることでバルーン形状に形成できるため、例えば、生分解性材料を用いたスポンジ状の放射線治療用スペーサーを使用する場合と比べて、使用する生分解性材料を少量にできる。これにより、患者の体内において分解する生分解性材料を少量にできるため、患者の体内における炎症作用を抑えることができる。
【0051】
また、本実施形態においては、バルーン部2は、バルーン部2の内部を区画する複数の区画接合部22を有する。これにより、バルーン部2は、複数の区画接合部22により区画された状態で、患部と正常組織との間に留置される。バルーン部2を、区画接合部22において曲げることができる。よって、バルーン部2における区画接合部22により区画された複数の区画部分211a,211b,211aを、バルーン部2が留置される部分にフィットさせることができるため、バルーン部2が留置される部位に掛かる余分な圧力を軽減することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、閉止部4は、バルーン部2の外部から内部への流体Fの流入を許容すると共にバルーン部2の内部から外部への流体Fの流出を禁止する。これにより、バルーン部2の内部に流体Fを注入している途中に、バルーン部2の内部から外部に流体Fが流れ出ることがないため、バルーン部2の内部に流体Fを容易に注入することができる。また、バルーン部2の内部に流体Fを容易に注入した後に、バルーン部2から流体注入管52を引き抜くだけで、バルーン部2の連通流体流路3を容易に閉止できる。
【0053】
また、スペーサーデリバリーシステム5は、先端にバルーン部2が取り付けられた流体注入管52と、内側にバルーン部2及び流体注入管52を収容可能であって、バルーン部2及び流体注入管52が先端側からこの順に配置される外筒51と、バルーン部2の後側において流体注入管52と外筒51との間に配置され、バルーン部2を外筒51の先端側から押し出し可能な中間筒53と、を備える。これにより、中間筒53によりバルーン部2を押し出して、流体注入管52により流体Fをバルーン部2に注入することで、患者の体内に放射線治療用スペーサー1を容易に留置させることができる。
【0054】
次に、第2実施形態について説明する。
図8に示すように、第2実施形態の放射線治療用スペーサー1Aは、第1実施形態が区画接合部22を備えているのに対して、2つの区画部材25を備えている点が異なる。第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0055】
第2実施形態の放射線治療用スペーサー1Aは、2つの区画部材25(区画部)を備える。2つの区画部材25は、バルーン部2の外面の一部を押さえてバルーン部2の内部を複数の区画部分213a,213b,213aに区画する。区画部材25は、細幅で細長の環状に形成される。2つの区画部材25は、バルーン部2の長手方向の途中の2箇所において、バルーン部2の短手方向に沿うようにバルーン本体21を周回して配置される。
【0056】
複数の区画部分213a,213b,213aは、バルーン部2の長手方向に並んで形成され、バルーン部2の短手方向に延びる。複数の区画部分213a,213b,213aは、バルーン部2の長手方向の両端部に配置される端部区画部213a,213aと、バルーン部2の長手方向の中間に配置される中間区画部213bと、を有する。
【0057】
本実施形態においては、2つの区画部材25は、細幅の部分でバルーン本体21を構成する2枚のシートを完全に押さえ付けるのではなく、バルーン部2の内部の複数の区画部分213a,213b,213a同士において流体Fの移動を許容する。
【0058】
2つの区画部材25は、生分解性材料により形成される。これにより、第1実施形態と同様に、患者の体内において分解されるため、放射線治療用スペーサー1Aを患者の体内を留置した後に、放射線治療用スペーサー1Aを患者の体内から取り出さなくてよい。よって、患者への負担を軽減できる。
【0059】
なお、第2実施形態においては、区画部を、バルーン部2を周回する区画部材25により形成したが、これに限定されない。区画部を、バルーン部2を周回しない構成として、例えば、一方の端部が開放したU字状の区画部材により形成してもよい。
【0060】
第3実施形態について説明する。
図9に示すように、第3実施形態の放射線治療用スペーサー1Bは、第1実施形態の放射線治療用スペーサー1Aが連通流体流路3の少なくとも一部により構成される閉止部4を備えているのに対して、閉止部を、連通流体流路3に栓をすることで閉鎖する栓部材4Aにより構成した点が異なる。第3実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0061】
第3実施形態の放射線治療用スペーサー1Bは、閉止部を、連通流体流路3を閉鎖する栓部材4Aにより構成する。第3実施形態の栓部材4Aは、閉止部の一例である。栓部材4Aは、連通流体流路3に栓をすることで、連通流体流路3を閉鎖する。
【0062】
栓部材4Aは、生分解性材料により形成される。これにより、第1実施形態と同様に、栓部材4Aが患者の体内において分解されるため、放射線治療用スペーサー1Bを患者の体内を留置した後に、放射線治療用スペーサー1Bを患者の体内から取り出さなくてよい。よって、患者への負担を軽減できる。
【0063】
第4実施形態について説明する。
図10に示すように、第4実施形態の放射線治療用スペーサー1Cは、第1実施形態の放射線治療用スペーサー1が連通流体流路3の少なくとも一部により構成される閉止部4を備えているのに対して、閉止部を、連通流体流路3を挟み込むことで閉鎖するクリップ部材4Bにより構成した点が異なる。第4実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0064】
第4実施形態の放射線治療用スペーサー1Cは、閉止部を、連通流体流路3を閉鎖するクリップ部材4Bにより構成する。クリップ部材4Bは、放射線治療用スペーサー1Cの外部において、連通流体流路3の途中において連通流体流路3の軸に交差する方向に沿って挟み込むことで、連通流体流路3を閉鎖する。
【0065】
クリップ部材4Bは、生分解性材料により形成される。これにより、第1実施形態と同様に、クリップ部材4Bが患者の体内において分解されるため、放射線治療用スペーサー1Cを患者の体内を留置した後に、放射線治療用スペーサー1Cを患者の体内から取り出さなくてよい。よって、患者への負担を軽減できる。
【0066】
次に、放射線治療用スペーサーの使用状態の一例について説明する。
図11Aに示すように、放射線治療用スペーサー1Dを患者10の体内に留置する場合、患者10の腹壁11を切開した部分から放射線治療用スペーサー1Dを患部12と正常組織13との間に送り込んで留置する。本使用状態においては、バルーン部2の内部に連通する連通流体流路3A(連通流路)は、患者10の体内に留置されたバルーン部2の内部から患者10の体外まで延びている。閉止部4Cは、連通流体流路3Aにおけるバルーン部2の内部側の端部に設けられている。
【0067】
この状態で、
図11Aに示すように、連通流体流路3Aの内部に流体注入管52を通して、流体注入管52により、バルーン部2の内部に流体Fを注入し又はバルーン部2の内部から流体Fを吸引することで、バルーン部2の内部に注入する流体Fの量を調整しながら、バルーン部2を、患部12と正常組織13との間において膨らませる。
【0068】
そして、バルーン部2の内部に流体Fを注入した後に、流体注入管52を連通流体流路3Aから引き抜くことで、
図11Bに示すように、連通流体流路3Aにおけるバルーン部2の内部側の端部に設けられた閉止部4Cにより、バルーン部2の内部において連通流体流路3Aを閉止する。この状態で、放射線治療が行われる。
【0069】
なお、
図11Bの閉止部4Cに代えて、
図12に示す放射線治療用スペーサーの使用状態の他の例のように、放射線治療用スペーサー1Eを使用して、連通流体流路3Aにおける患者10の体外に配置される部分に閉止部4Dを設けてもよい。この場合には、連通流体流路3Aにおける患者10の体外に配置される部分に設けられた閉止部4Dにより、連通流体流路3Aを閉止できる。
【0070】
本使用状態の例によれば、連通流体流路3Aを、患者10の体外まで延びる長さに構成した。これにより、所定期間(例えば、4週間)に亘って複数回の放射線治療を行う場合に、放射線を照射する前(治療前)に流体Fを注入してバルーン部2を膨らませ、放射線の照射が終了した後(治療後)に流体Fを吸引してバルーン部2を萎ませることができる。よって、所定期間に亘る放射線治療において、放射線の照射を行わないときにバルーン部2を萎ませられるので、体内に留置された放射線治療用スペーサーによる患者10の内臓の圧迫を低減でき、患者10への負担を軽減できる。
【0071】
以上、本発明の放射線治療用スペーサー1、1A、1B、1C、1D、1Eの好ましい各実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0072】
例えば、前記実施形態においては、放射線治療用スペーサー1を、スペーサーデリバリーシステム5により、患者の患部と正常組織との間に留置したが、これに限定されない。放射線治療用スペーサー1を、開腹手術により、患者の患部と正常組織との間に留置してもよい。この場合においても、バルーン部2及び閉止部4が生分解性材料により形成されるため、放射線治療用スペーサー1を、患者の体内から取り出さなくてよい。
【0073】
また、前記実施形態においては、連通流体流路3を筒状に形成したが、これに限定されない。連通流体流路3を、バルーン部2の内部と外部とを連通する単なる開口により構成してもよい。
【0074】
また、前記実施形態においては、バルーン部2を、平面視で長方形状に形成したが、これに限定されない。バルーン部を、平面視で、円状や楕円状などに形成してもよい。
【0075】
また、前記実施形態において、閉止部を、生分解性材料により形成してもよいし、生分解性材料により形成しなくてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1、1A、1B、1C、1D、1E 放射線治療用スペーサー
2 バルーン部
3 連通流体流路(連通流路)
4 閉止部
5 スペーサーデリバリーシステム
21 バルーン本体
22 区画接合部(区画部)
25 区画部材(区画部)
51 外筒
52 流体注入管
53 中間筒(押し子部材)
F 流体