(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154166
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】転がり軸受装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 43/04 20060101AFI20221005BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20221005BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20221005BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F16C43/04
F16C19/38
F16C33/78 Z
F16J15/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057070
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J040
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J040AA12
3J040BA04
3J040EA16
3J040FA05
3J040HA30
3J117AA10
3J117BA10
3J117HA02
3J117HA04
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
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3J216CB13
3J216CB19
3J216CC70
3J216DA01
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701BA80
3J701DA09
3J701FA13
3J701FA46
3J701FA60
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】連結環の装着作業の作業性の向上を図ることができ、かつ、転がり軸受装置の組立後においても、連結環の取り外しを容易に行うことができる、転がり軸受装置の構造を実現する。
【解決手段】連結環21を、1対の係止部本体34a、34bと繋ぎ部35とを有するものとし、全体を欠円環形状に構成する。係止部本体34a、34bの外周面のそれぞれを、繋ぎ部35よりも外径が大きくかつ係止部本体34a、34bのうちで最も外径の大きい円筒面部39と、円筒面部39の軸方向両側に配置された外側斜面部40及び中央側斜面部41とを有するものとし、外側斜面部40及び中央側斜面部41のそれぞれを、軸方向に関して円筒面部39から離れるほど径方向内側に向かう方向に傾斜した、円すい筒面又は凸曲面とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に単列の内輪軌道をそれぞれ有し、内周面に係止凹溝をそれぞれ有する1対の内輪と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の転動体と、
前記係止凹溝にそれぞれ係止した1対の係止部本体と、前記1対の係止部本体をつなぐ繋ぎ部とを有し、前記1対の内輪を連結する連結環と、を備え、
前記連結環は、円周方向1個所に不連続部を有する欠円環形状をなし、軸方向両側の端部のそれぞれの内周面が円筒面であり、
前記1対の係止部本体の外周面のそれぞれは、前記繋ぎ部よりも外径が大きく、かつ、前記係止部本体のうちで最も外径の大きい、軸方向中間部に配置された円筒面部と、軸方向に関して前記円筒面部よりも前記繋ぎ部から遠い側に配置された外側斜面部と、軸方向に関して前記円筒面部よりも前記繋ぎ部に近い側に配置された中央側斜面部と、を有し、
前記外側斜面部及び前記中央側斜面部のそれぞれは、軸方向に関して前記円筒面部から離れるほど径方向内側に向かう方向に傾斜した、円すい筒面又は凸曲面である、
転がり軸受装置。
【請求項2】
前記1対の内輪の突き合わせ部を密封するシール部材をさらに備える、
請求項1に記載した転がり軸受装置。
【請求項3】
前記1対の係止部本体のうち、少なくとも一方の係止部本体は、軸方向に関して前記外側斜面部よりも前記繋ぎ部から遠い側の端面に、前記連結環の中心軸に対して直交する仮想平面上に存在する平坦面を有する、
請求項1~2のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項1~3のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置の製造方法であって、
帯状の金属板の幅方向両側の端面に、互いに反対方向に傾斜した傾斜面を形成した後、前記金属板にプレスによる曲げ加工を施し、前記金属板の断面形状を略M字形に変化させる工程を含む、前記連結環を製造する工程を備える、
転がり軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を回転自在に支持するために、ハブユニット軸受と呼ばれる転がり軸受装置が使用されている。
図11及び
図12は、トラックやバスなどの重量が嵩む車両の車輪(駆動輪)を、回転自在に支持しかつ回転駆動するために用いられる転がり軸受装置の1例として、特開2008-75832号公報(特許文献1)に記載された構造を示している。
【0003】
転がり軸受装置100は、車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持する。車軸管101の内側には、駆動軸103が挿通されている。駆動軸103の端部にはフランジ104が備えられており、該フランジ104には、ハブ輪102が固定されている。ハブ輪102には、駆動輪105及び制動用回転体106がそれぞれ固定されている。このような構成により、駆動輪105及び制動用回転体106を車軸管101に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸103からのトルクを駆動輪105及び制動用回転体106に伝達可能としている。
【0004】
転がり軸受装置100は、
図12に示すように、複列円すいころ軸受であり、使用状態で回転する外輪107と、使用状態で回転しない1対の内輪108a、108bと、複数個の転動体109a、109bと、シール部材110と、連結環111とを備える。
なお、転がり軸受装置100に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図12の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図12の右側である。
【0005】
外輪107は、内周面に複列の外輪軌道112a、112bを有している。外輪107は、ハブ輪102に締り嵌めで内嵌されている。
【0006】
1対の内輪108a、108bのそれぞれは、外周面に単列の内輪軌道113a、113bを有している。1対の内輪108a、108bは、互いに対向する小径側端面同士を突き合わせた状態で、車軸管101に外嵌されている。
【0007】
転動体109a、109bは、円すいころであり、外輪軌道112a、112bと内輪軌道113a、113bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0008】
シール部材110は、1対の内輪108a、108bの突き合わせ部114の径方向内側に配置されている。シール部材110は、突き合わせ部114を通じて、車軸管101の内部に存在するデフオイルやコンタミネーション(ディフェレンシャルギアから発生する酸化摩耗粉)、泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止する。
【0009】
車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持するための転がり軸受装置100にあっては、車軸管101に対する転がり軸受装置100の着脱を可能とするために、1対の内輪108a、108bを、車軸管101に対して隙間嵌めで外嵌している。また、車軸管101の内部空間は、図示しないデフケースの内部空間と連通しているため、内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間には、デフオイルが侵入する可能性がある。また、泥水が、外部から内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間に流れ込む可能性もある。そこで、シール部材110を、突き合わせ部114の径方向内側に配置して、デフオイルやコンタミネーション、泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止している。
【0010】
連結環111は、全体が円環状で、U字状の断面形状を有している。連結環111は、外向鍔状の1対の係止部115と、1対の係止部115をつないだ略円筒状の繋ぎ部116とを有する。連結環111は、繋ぎ部116によりシール部材110を径方向内側から覆った状態で、1対の係止部115のそれぞれを、1対の内輪108a、108bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹溝117a、117bに係止している。これにより、連結環111は、1対の内輪108a、108bを軸方向に連結している。そして、ハブ輪102を外嵌した転がり軸受装置100を車軸管101に組み付ける際に、内輪108a、108bに作用する摩擦によって、1対の内輪108a、108bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された内輪108aと車軸管101との衝突によって、該内輪108aが車軸管101から軸方向に抜け出したりするのを防止する。
【0011】
なお、特開2008-75832号公報には、転がり軸受装置100により、車軸管101に対して駆動輪105を回転自在に支持する構造が開示されているが、転がり軸受装置により、ナックルやビームアクスルのスピンドルに対して従動輪を回転自在に支持する従動輪支持装置の構造も、従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特開2008-75832号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置100には、次のような面で、さらなる改良の余地がある。
【0014】
従来構造の転がり軸受装置100は、連結環111を円周方向に連続した円環形状に構成し、かつ、連結環111を構成する繋ぎ部116の外径を、内輪108a、108bの内周面のうち、繋ぎ部116を内嵌する部分から軸方向に外れた部分の内径よりも大きくしている。このため、従来構造の転がり軸受装置100にあっては、一方の係止部115を一方の内輪18aの係止凹溝117aに係止する作業を行った後、他方の係止部115を他方の内輪18bの係止凹溝117bに係止する作業を行う必要がある。このため、連結環111の装着作業が面倒で、装着作業の作業性が低くなる。
【0015】
一方、転がり軸受装置100には、組立後に、アキシアル隙間の測定を行わなければならない場合がある。そして、この場合には、装着後の連結環111を取り外す必要がある。この理由は、突き合わせ部114の密封性を確保するためのシール部材110が、転がり軸受装置100のアキシアル隙間(予圧)の測定の障害になるためである。シール部材110が、アキシアル隙間の測定の障害になる理由について説明するために、先ず、アキシアル隙間の測定方法について説明する。
【0016】
複列転がり軸受のアキシアル隙間は、
図13に示すような方法により測定することが知られている。先ず、
図13の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yの小径側端面同士を突き合わせるとともに、1対の内輪108x、108yの周囲に転動体109x、109yを配置した状態で、一方の内輪108x(又は108y)を下側に向けかつ他方の内輪108y(又は108x)を上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを、ダイヤルゲージなどの変位計119により測定し、該測定値を基準値とする(ダイヤルを0にセットする)。
【0017】
次に、
図13の(B)に示すように、片側列の転動体109x及び内輪108xを外輪107xの片側列の軌道輪に対して組み付けた状態で、内輪108xを上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から内輪108xの大径側端面までの軸方向高さ(Hout)を変位計119により測定する。同様に、図示は省略するが、他側列の転動体109y及び内輪108yを上下反転した外輪107xの他側列の軌道輪に対して組み付けた状態で、内輪108yを上側に向けて基準面118に載置する。そして、基準面118から内輪108yの大径側端面までの軸方向高さ(Hin)を変位計119により測定する。最後に、2つの軸方向寸法(Hin ,Hout)を合計し、合計値[-(Hin+Hout)]をアキシアル隙間とする。
【0018】
以上説明したようなアキシアル隙間の測定方法では、
図13の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yの小径側端面同士を突き合わせた状態での、基準面118から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを基準値として利用している。このため、転がり軸受装置100にシール部材110を装着したままでは、1対の内輪108x、108yの小径側端面同士の接触状態が変化し、アキシアル隙間を正確に測定できない可能性がある。
【0019】
したがって、転がり軸受装置100の組立後に、アキシアル隙間の測定を行う必要がある場合には、連結環111を取り外し、シール部材110を取り外す必要がある。ただし、従来構造の転がり軸受装置100にあっては、連結環111を円周方向に連続した円環形状に構成し、かつ、繋ぎ部116の外径を、内輪108a、108bの内周面のうち、繋ぎ部116を内嵌する部分から軸方向に外れた部分の内径よりも大きくしているため、装着後の連結環111を取り外すことは困難である。
【0020】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、連結環の装着作業の作業性の向上を図ることができ、かつ、連結環の取り外しを容易に行うことができる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置は、外輪と、1対の内輪と、複数の転動体と、連結環とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記1対の内輪は、外周面に単列の内輪軌道をそれぞれ有し、内周面に係止凹溝をそれぞれ有する。
前記転動体は、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置される。
前記連結環は、前記係止凹溝にそれぞれ係止した1対の係止部本体と、前記1対の係止部本体をつなぐ繋ぎ部とを有し、前記1対の内輪を連結する。
本発明の転がり軸受装置では、前記連結環は、円周方向1個所に不連続部を有する欠円環形状をなし、軸方向両側の端部のそれぞれの内周面が円筒面である。
前記1対の係止部本体の外周面のそれぞれは、前記繋ぎ部よりも外径が大きく、かつ、前記係止部本体のうちで最も外径の大きい、軸方向中間部に配置された円筒面部と、軸方向に関して前記円筒面部よりも前記繋ぎ部から遠い側に配置された外側斜面部と、軸方向に関して前記円筒面部よりも前記繋ぎ部に近い側に配置された中央側斜面部と、を有する。
前記外側斜面部及び前記中央側斜面部のそれぞれは、軸方向に関して前記円筒面部から離れるほど径方向内側に向かう方向に傾斜した、円すい筒面又は凸曲面である。
【0022】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記1対の内輪の突き合わせ部を密封するシール部材をさらに備えることができる。
【0023】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記1対の係止部本体のうち、少なくとも一方の係止部本体を、軸方向に関して前記外側斜面部よりも前記繋ぎ部から遠い側の端面に、前記連結環の中心軸に対して直交する仮想平面上に存在する平坦面を有するものとすることができる。
【0024】
本発明の転がり軸受装置の一態様では、前記連結環を金属板製とし、前記係止部本体のそれぞれを、軸方向中間部に配置された大径筒部と、軸方向に関して前記大径筒部よりも前記繋ぎ部から遠い側に配置された外側折曲部と、軸方向に関して前記大径筒部よりも前記繋ぎ部に近い側に配置された中央側折曲部と、を有するものとすることができる。
そして、前記大径筒部の外周面に前記円筒面部を設け、かつ、前記外側折曲部の外周面に前記外側斜面部を設け、かつ、前記中央側折曲部の外周面に前記中央側斜面部を設けることができる。さらに、前記外側折曲部の先端面を円筒面とすることができる。
【0025】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置の製造方法は、本発明の一態様にかかる転がり軸受装置の製造方法であり、帯状の金属板の幅方向両側の端面に、互いに反対方向に傾斜した傾斜面を形成した後、前記金属板にプレスによる曲げ加工を施し、前記金属板の断面形状を略M字形に変化させる工程を含む、前記連結環を製造する工程を備える。
前記金属板の幅方向両側の端面に傾斜面を形成する方法は特に問わないが、たとえば、プレス加工(コイニング加工)や切削加工を採用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、連結環の装着作業の作業性の向上を図ることができ、かつ、転がり軸受装置の組立後においても、連結環の取り外しを容易に行うことができる、転がり軸受装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を取り出して示す、断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置から連結環を取り出して示す図であり、
図4(A)は斜視図であり、
図4(B)は半部断面模式図である。
【
図5】
図5(A)は、実施の形態の第1例にかかる連結環を製造するのに使用する金属板を示す断面図であり、
図5(B)は、幅方向両側の端面に傾斜面を形成した金属板を示す断面図であり、
図5(C)は、傾斜面を形成した金属板に曲げ加工を施して得られる中間素材を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例に関して、連結環の装着作業を説明するために示す、断面図である。
【
図7】
図7は、比較例を説明するために示す図であり、
図7(A)は、連結環を製造するのに使用する金属板を示す断面図であり、
図7(B)は、傾斜面を形成しない金属板を曲げ加工して得られる中間素材を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第2例を示す、
図3に相当する図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の第2例を示す、
図6に相当する図である。
【
図11】
図11は、従来構造の転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
【
図12】
図12は、従来構造の転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
【
図13】
図13(A)及び
図13(B)は、従来から知られているアキシアル隙間の測定方法を工程順に説明するために示す、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図7を用いて説明する。本例では、本発明の転がり軸受装置を、トラックやバスなどの重量が嵩む大型車両用の駆動輪支持装置に適用している。
【0029】
〔駆動輪支持装置の全体構成〕
駆動輪支持装置1は、
図1に全体構成を示すように、転がり軸受装置2と、車軸管3と、ハブ輪4と、駆動軸5とを備える。駆動輪支持装置1は、トラックの後輪などの駆動輪6及び制動用回転体7を回転自在に支持するとともに、駆動輪6及び制動用回転体7に駆動トルクを伝達するものであり、全浮動型の構成を有する。
【0030】
なお、駆動輪支持装置1に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図1の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図1の右側である。
【0031】
転がり軸受装置2は、車軸管3の軸方向外側の端部の周囲に、ハブ輪4を回転自在に支持している。転がり軸受装置2は、車軸管3の外周面とハブ輪4の内周面との間に配置されている。
【0032】
車軸管3は、アクスルハウジングとも呼ばれており、円筒形状を有し、軸方向内側の端部が図示しないデフケースにつながっている。このため、車軸管3は、使用時にも回転しない。車軸管3の内部空間は、デフケースの内部空間に連通している。車軸管3は、外周面の軸方向外側部に、円筒面状の円筒面部8を有する。また、車軸管3は、外周面のうち、円筒面部8の軸方向内側に隣接する部分に軸方向外側を向いた段差面9を有し、円筒面部8の軸方向外側に隣接する部分に、円筒面部8よりも小径の雄ねじ部10を有する。雄ねじ部10には、転がり軸受装置2に予圧を付与するためのナット11が螺合されている。
【0033】
駆動軸5は、アクスルシャフトとも呼ばれており、中実状で、車軸管3の内側に挿通されている。駆動軸5は、車軸管3と同軸に配置されている。駆動軸5の軸方向内側の端部は、図示しないディフェレンシャルギアに連結されている。このため、駆動軸5は、使用時に回転する。駆動軸5は、車軸管3から突出した軸方向外側の端部に、外向フランジ状のフランジ12を備えている。フランジ12には、複数本のボルト13によりハブ輪4が固定されている。
【0034】
ハブ輪4は、円環形状を有している。ハブ輪4は、内周面に円筒面状の嵌合面14を有しており、外周面の軸方向中間部に回転フランジ15を有している。回転フランジ15には、ハブボルトやスタッドなどの結合部材16により、駆動輪6が固定されている。ハブ輪4の軸方向内側には、制動用回転体7がボルト13により固定されている。
【0035】
駆動輪支持装置1は、上記構成により、駆動輪6及び制動用回転体7を車軸管3に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸5からのトルクを駆動輪6及び制動用回転体7に伝達可能としている。また、全浮動型の駆動輪支持装置1においては、車両の荷重は、駆動軸5によっては支承されず、車軸管3によって支承される。駆動軸5は、トルクの伝達のみを負担する。
【0036】
以下、本例の転がり軸受装置2の具体的な構造について、
図2~
図4を参照して説明する。
なお、転がり軸受装置2に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図2及び
図3の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図2及び
図3の右側である。
【0037】
〈転がり軸受装置〉
転がり軸受装置2は、背面組み合わせ型の複列円すいころ軸受であり、外輪回転型である。転がり軸受装置2は、使用状態で回転する外輪17と、使用状態で回転しない1対の内輪18a、18bと、複数個の転動体19a、19bと、シール部材20と、連結環21とを備える。
【0038】
《外輪》
外輪17は、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。外輪17は、外周面に円筒面を有しており、内周面に円すい凹面状の複列の外輪軌道22a、22bを有している。外輪17は、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、ハブ輪4の内周面に備えられた嵌合面14に対し締り嵌めで内嵌固定される。このため、外輪17は、ハブ輪4とともに回転する。
【0039】
《内輪》
1対の内輪18a、18bのそれぞれは、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。1対の内輪18a、18bのそれぞれは、外周面の軸方向中間部に、円すい凸面状の単列の内輪軌道23a、23bを有している。1対の内輪18a、18bは、内輪軌道23a、23bの軸方向両側に、大鍔部24a、24bと小鍔部25a、25bとをそれぞれ有する。このため、1対の内輪18a、18bのそれぞれは、大鍔部24a、24bを備えた大径側端部の外径が、小鍔部25a、25bを備えた小径側端部の外径よりも大きくなっている。
【0040】
1対の内輪18a、18bのそれぞれは、小径側端部の内周面に、略矩形状の断面形状を有する、係止凹溝26a、26bを有している。係止凹溝26a、26bのそれぞれは、内輪18a、18bの内周面にのみ開口しており、内輪18a、18bの全周にわたり備えられている。内輪18a、18bの内周面は、軸方向に関して係止凹溝26a、26bから大径側端面側に外れた部分に、円筒面状の小径面部27a、27bを有しており、軸方向に関して係止凹溝26a、26bから小径側端面側に外れた部分に、小径面部27a、27bよりも内径の大きい、円筒面状の大径面部28a、28bを有している。1対の内輪18a、18bのそれぞれは、小径面部27a、27bと大径側端面との間に、円弧状の母線形状を有する面取り部(R面取り)29a、29bを有する。面取り部29a、29bは、連結環21の装着作業時に、案内面として機能する。
【0041】
1対の内輪18a、18bは、互いの小径側端面同士を突き合わせた状態で、外輪17の径方向内側に、外輪17と同軸に配置されている。1対の内輪軌道23a、23bは、複列の外輪軌道22a、22bと径方向に対向する位置に、複列に配置されている。また、1対の内輪18a、18bの小径側端面同士を面接触させるように突き合わせることで、突き合わせ部30が構成される。
【0042】
1対の内輪18a、18bは、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、車軸管3の外周面に備えられた円筒面部8に対し隙間嵌めで外嵌されている。また、1対の内輪18a、18bは、車軸管3の外周面に備えられた段差面9とナット11との間に、軸方向に挟持されている。これにより、転がり軸受装置2には、所定の予圧が付与される。たとえば、転がり軸受装置2のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ又は若干量の正もしくは負の値になるように、ナット11の螺合量(螺合位置)を設定している。
【0043】
本例では、1対の内輪18a、18bは、同一部材によって構成されており、軸方向に関して反対向きに配置されている。このため、1対の内輪18a、18bは、軸方向に関する向きが反対である点を除いて、各部の形状及び寸法は互いに同じである。ただし、本発明を実施する場合に、1対の内輪として、各部の形状及び寸法が互いに異なる部材を使用することもできる。
【0044】
《転動体》
複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、円すいころであり、たとえば軸受鋼製又はセラミック製である。複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、外輪軌道22a、22bと内輪軌道23a、23bとの間に、保持器31a、31bにより転動自在に保持された状態で配置されている。また、軸方向外側列の転動体19aのそれぞれは、軸方向外側の端面の一部を大鍔部24aに接触対向させ、かつ、軸方向内側の端面の一部を小鍔部25aに近接対向させている。軸方向内側列の転動体19bのそれぞれは、軸方向内側の端面の一部を大鍔部24bに接触対向させ、かつ、軸方向外側の端面の一部を小鍔部25bに近接対向させている。
【0045】
《シール部材》
シール部材20は、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部30を密封するためのもので、突き合わせ部30の径方向外側に位置する、転がり軸受装置2の内部空間32に配置されている。
【0046】
シール部材20は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などの弾性材製で、略円筒形状を有している。シール部材20は、突き合わせ部30を軸方向に跨ぐように、1対の内輪18a、18bの小鍔部25a、25bに対し外嵌(圧入)されている。なお、本発明を実施する場合には、シール部材を、弾性材製のシール部と、金属製の芯金とからを構成することもできる。また、シール部材を、突き合わせ部の径方向内側に配置することもできる。
【0047】
《連結環》
連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するためのもので、金属板製である。連結環21は、
図4(A)に示すように、円周方向1個所に不連続部33を有しており、欠円環状に構成されている。このため、連結環21は、C字形の端面形状を有し、不連続部33の円周方向幅を小さくすることで弾性的に縮径可能である。また、連結環21は、
図3に示すように、略M字形の断面形状を有しており、軸方向に関して対称(線対称)な断面形状を有する。
【0048】
連結環21は、1対の係止部本体34a、34bと、1対の係止部本体34a、34bをつなぐ繋ぎ部35とからなる。連結環21は、繋ぎ部35を軸方向中間部に有しており、係止部本体34a、34bを軸方向両側の端部に有している。
【0049】
連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に跨ぐようにして、1対の内輪18a、18bに内嵌されている。そして、連結環21は、1対の係止部本体34a、34bのそれぞれを、1対の内輪18a、18bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹溝26a、26bに対し係止している。これにより、連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結している。したがって、本例の転がり軸受装置2によれば、転がり軸受装置2を車軸管3に組み付ける際に内輪18a、18bに作用する摩擦によって、1対の内輪18a、18bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された内輪18aと車軸管3との衝突によって、軸方向外側に配置された内輪18aが車軸管3から軸方向に抜け出したりすることを防止できる。
【0050】
繋ぎ部35は、円筒形状を有しており、軸方向にわたり外径寸法及び内径寸法が一定である。繋ぎ部35の外周面は、連結環21を1対の内輪18a、18bに装着(内嵌)した状態で、大径面部28a、28bに対して接触するか、又は、大径面部28a、28bに対して隙間を介して対向する。
【0051】
1対の係止部本体34a、34bのそれぞれは、略U字形の断面形状を有しており、軸方向中間部に配置された大径筒部36と、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35から遠い側に配置された外側折曲部37と、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35に近い側に配置された中央側折曲部38とからなる。
【0052】
大径筒部36は、円筒形状を有しており、軸方向にわたり外径寸法及び内径寸法が一定である。大径筒部36の外周面は、円筒面状の円筒面部39からなる。円筒面部39は、繋ぎ部35よりも外径が大きく、かつ、係止部本体34a、34bのうちで最も外径が大きい。
【0053】
円筒面部39の外径は、連結環21に縮径させる方向の力が加わっていない自由状態で、内輪18a、18bの小径面部27a、27bの内径よりも大きく、かつ、内輪18a、18bの面取り部29a、29bの径方向外側端縁の直径よりも小さい。また、円筒面部39の外径は、連結環21の自由状態で、係止凹溝26a、26bの溝底の直径よりもわずかに大きい。このため、連結環21を1対の内輪18a、18bに装着した状態で、円筒面部39は、係止凹溝26a、26bのそれぞれの溝底に対し面接触している。これにより、連結環21の装着状態での姿勢を安定させている。
【0054】
円筒面部39の表面粗さは、後述する連結環21の装着作業において、内輪18a、18bの内周面に対する摩擦抵抗を低減するために、係止部本体34a、34b(連結環21)の外周面のうちで最も小さくなっている。本発明を実施する場合には、円筒面部に摩擦抵抗を低減するための表面処理を施すこともできる。表面処理としては、たとえば、イオン窒化処理、DLCコーティング処理、TiNコーティング処理、リン酸塩皮膜、鏡面状ラッピング処理、及び、磨き処理などを採用することができる。
【0055】
外側折曲部37は、円すい筒形状を有しており、軸方向に関して大径筒部36から離れるほど径方向内側に向かう方向に伸長している。外側折曲部37の外周面は、母線形状が直線状の円すい筒面(テーパ面)である、外側斜面部40からなる。本発明を実施する場合に、外側斜面部を、母線形状が凸円弧状の凸曲面とすることもできる。外側折曲部37の内周面は、外側斜面部40と平行に配置された円すい筒面48と、円すい筒面48の小径側端部と外側斜面部40の小径側端部とをつなぐ、軸方向にわたり内径が変化しない円筒面49とから構成されている。このため、本例の連結環21は、軸方向両側の端部のそれぞれの内周面に、円筒面49を有している。
【0056】
中央側折曲部38は、円すい筒形状を有しており、軸方向に関して大径筒部36から離れるほど径方向内側に向かう方向に伸長している。中央側折曲部38の外周面は、母線形状が直線状の円すい筒面(テーパ面)である、中央側斜面部41からなる。本発明を実施する場合に、中央側斜面部を、母線形状が凸円弧状の凸曲面とすることもできる。
【0057】
したがって、係止部本体34a、34bのそれぞれの外周面は、円筒面部39と、円筒面部39よりも繋ぎ部35から遠い側に配置された外側斜面部40と、円筒面部39よりも繋ぎ部35に近い側に配置された中央側斜面部41とから構成されている。また、円筒面部39と外側斜面部40とは滑らかに連続しており、かつ、円筒面部39と中央側斜面部41とは滑らかに連続している。
【0058】
本例では、外側斜面部40と中央側斜面部41との、連結環21の中心軸に対する傾斜角度を、互いに同じ大きさとしている。ただし、本発明を実施する場合には、外側斜面部の傾斜角度と中央側斜面部の傾斜角度とを、互いに異ならせることもできる。
【0059】
本例の連結環21は、係止部本体34a、34bのそれぞれを、大径筒部36と、大径筒部36の軸方向両側に配置された外側折曲部37及び中央側折曲部38とから構成することで、大径筒部36の外周面の一部をなす円筒面部39の軸方向幅を短くしている。具体的には、大径筒部36の軸方向幅は、係止部本体34a、34bの軸方向幅の1/3~1/2程度である。
【0060】
本例の連結環21は、軸方向中間部の円周方向の複数箇所に、開口窓42を有する。複数の開口窓42は、円周方向に等間隔に離隔して配置されており、それぞれが連結環21を径方向に貫通している。開口窓42のそれぞれは、略矩形状の開口形状を有している。開口窓42のそれぞれは、繋ぎ部35と、繋ぎ部35の軸方向両側に配置された1対の中央側折曲部38とにわたる範囲に備えられている。
【0061】
本例では、連結環21に複数の開口窓42を形成することで、連結環21による1対の内輪18a、18bの連結力、及び、連結環21を縮径するのに必要な力の大きさ(縮径力)の調整を行っている。ただし、本発明を実施する場合に、開口窓は省略することもできる。また、突き合わせ部を密封するためのシール部材を、突き合わせ部の径方向内側に配置する構成を採用した場合には、連結環に形成した開口窓から、シール部材の装着状態を確認することもできる。さらに、開口窓42を、後述するように、連結環21を弾性的に縮径させて、係止部本体34a、34bのそれぞれを係止凹溝26a、26bから取り外す際に、プライヤの先端爪部を挿入するために利用することもできる。
【0062】
以上のような構成を有する連結環21は、たとえば、次のようにして製造することができる。まず、
図5の(A)に示すような、素材となる帯状の金属板50を用意する。金属板50の幅方向両側の端面には、金属板50を打ち抜き加工する際に形成された破断面51が形成されている。
【0063】
本例では、帯状の金属板50の幅方向両側の端面に、プレス加工(コイニング加工)又は切削加工を施す。これにより、
図5の(B)に示すように、金属板50の幅方向両側の端面に、互いに反対方向に傾斜した傾斜面52を形成し、破断面51を除去する。1対の傾斜面52は、互いに同じ角度だけ傾斜している。傾斜面52を形成した後の金属板50の断面形状は、等脚台形状となる。
【0064】
金属板50の幅方向両側の端面に傾斜面52を形成した後は、打ち抜き加工を施して、開口窓42を金属板50の長手方向に等間隔に形成する。次いで、金属板50にロール成形などの曲げ加工を施すことにより、
図5の(C)に示すように、金属板50の断面形状を直線形から略M字形に変化させて、中間素材53を得る。
【0065】
中間素材53は、繋ぎ部35となる平板部54を幅方向中間部に有し、それぞれが係止部本体34a、34bとなる屈曲板部55を幅方向両側部に有する。屈曲板部55の先端面は、平板部54の幅方向(
図5の(C)の左右方向)に伸長した、平坦面56になっている。平坦面56は、金属板50の断面形状を変化させる以前に傾斜面52であった部分が、金属板50の断面形状を変化させた際に、平板部54の幅方向に伸長するように向きが変化したものである。
【0066】
中間素材53を形成した後は、中間素材53を欠円環形状に曲げ成形して、連結環21を得る。具体的には、平板部54から繋ぎ部35を形成し、かつ、1対の屈曲板部55から係止部本体34a、34bを形成する。この際、屈曲板部55の先端面に形成された平坦面56は、円筒面49となる。
【0067】
《密封装置》
図1及び
図2に示すように、本例の転がり軸受装置2は、外輪17の内周面と1対の内輪18a、18bの外周面との間に存在する内部空間32の軸方向両側の開口部を塞ぐために、1対の密封装置43a、43bをさらに備える。一方の密封装置43aは、外輪17の内周面の軸方向外側部と内輪18aを構成する大鍔部24aの外周面との間に配置されている。他方の密封装置43bは、外輪17の内周面の軸方向内側部と内輪18bを構成する大鍔部24bの外周面との間に配置されている。このような密封装置43a、43bにより、内部空間32に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止するとともに、外部空間に存在する泥水などの異物が内部空間32に侵入することを防止している。
【0068】
次に、連結環21の装着作業について、
図6を参照して説明する。なお、連結環21の装着作業は、係止部本体34a、34bの外周面(特に円筒面部39)に、潤滑剤を塗布して行うことができる。
【0069】
本例では、連結環21の装着作業を、1対の内輪18a、18bの小径側端面同士を突き合わせた状態で、連結環21を、1対の内輪18a、18bのうち、一方の内輪18bの内側に大径側端面側から挿入して行う。このために先ず、連結環21を、内輪18bの大径側端面側(軸方向内側)に、内輪18bと同軸に配置する。
なお、図示は省略するが、連結環21の装着作業は、連結環21を、1対の内輪18a、18bのうち、他方の内輪18aの内側に大径側端面側から挿入して行うこともできる。また、連結環21の装着作業は、連結環21及び1対の内輪18a、18bの中心軸を、水平方向以外のその他の方向(たとえば鉛直方向)に向けて行うこともできる。
【0070】
図6の(A)に示すように、連結環21を、内輪18bに対して軸方向に相対移動させて、係止部本体34aの外周面の一部をなす外側斜面部40を、内輪18bに備えられた面取り部29bに当接させる。この状態で、外側斜面部40と面取り部29bとの当接部における共通接線の、連結環21の中心軸に対する傾斜角度αは、45°以下になる。
【0071】
そして、外側斜面部40を面取り部29bに沿って移動させることで、連結環21のうち挿入方向前側部(係止部本体34aを含む部分)を縮径させながら、連結環21を内輪18bの内側に軸方向に押し込む。本例では、外側斜面部40と面取り部29bとの当接部における共通接線の、連結環21の中心軸に対する傾斜角度αが45°以下になるように、外側斜面部40の傾斜角度を規制しているため、面取り部29bに対して外側斜面部40を円滑(スムーズ)に移動させることができる。また、連結環21を押し込むのに必要な力を小さくすることができる。
【0072】
図6の(B)に示すように、連結環21を内輪18bの内側に押し込んでいくと、係止部本体34aの外周面の一部をなす円筒面部39が、内輪18bの小径面部27bに当接し、かつ、係止部本体34bの外周面の一部をなす中央側斜面部41が、内輪18bの面取り部29bに当接する。この状態で、中央側斜面部41と面取り部29bとの当接部における共通接線の、連結環21の中心軸に対する傾斜角度βは、45°以下になる。
【0073】
これにより、中央側斜面部41を面取り部29bに沿って移動させることで、連結環21のうち挿入方向後側部(係止部本体34bを含む部分)を縮径させながら、連結環21を内輪18bの内側に軸方向に押し込む。本例では、中央側斜面部41と面取り部29bとの当接部における共通接線の、連結環21の中心軸に対する傾斜角度βが45°以下になるように、中央側斜面部41の傾斜角度を規制しているため、面取り部29bに対して中央側斜面部41を円滑に移動させることができる。また、連結環21を押し込むのに必要な力を小さくすることができる。
【0074】
そして、連結環21を内輪18bの内側にさらに押し込んでいくと、
図6の(C)に示すように、係止部本体34a、34bのそれぞれの外周面の一部をなす円筒面部39が、内輪18bの小径面部27bに対して摺接する。本例では、円筒面部39の表面粗さを、係止部本体34a、34bの外周面のうちのその他の部分の表面粗さよりも小さくしているため、円筒面部39と小径面部27bとの間に作用する摩擦力を小さくできる。したがって、連結環21を軸方向に押し込むのに必要な力を小さくできる。
【0075】
最終的に、連結環21の軸方向外側の端部が、軸方向外側に配置された内輪18aの軸方向内側の端部(小径側端部)の内側に位置するまで、連結環21を軸方向に押し込む。そして、係止部本体34aと、内輪18aの内周面に備えられた係止凹溝26aとの軸方向位置を一致させ、かつ、係止部本体34bと、内輪18bの内周面に備えられた係止凹溝26bとの軸方向位置を一致させる。すると、連結環21が弾性的に拡径し、
図3に示したように、係止部本体34a、34bのそれぞれが、係止凹溝26a、26bの内側に入り込み、係止凹溝26a、26bに対して同時に係止される。本例では、このような連結環21を軸方向に押し込んで行う装着作業により、連結環21を1対の内輪18a、18bに装着することができる。
【0076】
以上のような本例の転がり軸受装置2によれば、連結環21の装着作業の作業性の向上を図ることができ、かつ、転がり軸受装置2の組立後においても、連結環21を容易に取り外すことができる。
すなわち、本例では、連結環21を欠円環状に構成し、かつ、連結環21を構成する1対の係止部本体34a、34bの外周面のそれぞれを、円筒面部39と、円筒面部39の軸方向両側に配置された外側斜面部40及び中央側斜面部41とから構成している。このため、1対の内輪18a、18bの小径側端面同士を突き合わせた状態で、連結環21を、1対の内輪18a、18bのうち、一方の内輪18b(18a)の内側に軸方向に押し込む作業を行うだけで、連結環21を効率良く縮径することができ、1対の係止部本体34a、34bのそれぞれを係止凹溝26a、26bに対し同時に係止することができる。このため、連結環21の装着作業を簡略化することができ、連結環21の装着作業の作業性の向上を図ることができる。また、連結環21の装着作業の自動化を図る面で有利になる。
【0077】
また、外側斜面部40と面取り部29bとが当接した状態で、当該当接部における共通接線の、連結環21の中心軸に対する傾斜角度αを45°以下に規制している。このため、面取り部29bに対して外側斜面部40を円滑に移動させることができる。また、連結環21を押し込むのに必要な力を小さくすることができる。
【0078】
また、中央側斜面部41と面取り部29bとが当接した状態で、当該当接部における共通接線の、連結環21の中心軸に対する傾斜角度βを45°以下に規制している。このため、面取り部29bに対して中央側斜面部41を円滑に移動させることができる。また、連結環21を押し込むのに必要な力を小さくすることができる。
【0079】
さらに、本例の連結環21は、円周方向1個所に不連続部33を有する欠円環形状をなし、弾性的に縮径可能である。このため、不連続部33の円周方向幅を小さくし、連結環21を弾性的に縮径することで、係止部本体34a、34bのそれぞれを係止凹溝26a、26bから取り外すことができる。したがって、装着後の連結環21を1対の内輪18a、18bから容易に取り外すことができる。この結果、転がり軸受装置2の組立後に、前記
図13に示したような、アキシアル隙間の測定を行う場合にも、連結環21を取り外し、アキシアル隙間の測定を行うことができる。
【0080】
また、本例では、金属板50の幅方向両側の端面に傾斜面52を形成することにより、連結環21の軸方向両側の端部のそれぞれの内周面を円筒面49としている。このため、円筒面49の表面性状を良好にできるとともに、円筒面49と円すい筒面48との接続部(縁部)及び円筒面49と外側斜面部40との接続部に、バリなどが発生することを防止できる。したがって、連結環21を内輪18bの内側に押し込む際に、外側斜面部40と円筒面49との接続部が、内輪18bに引っ掛かることを防止できる。このため、連結環21の装着作業の作業性の向上を図れる。
【0081】
これに対し、たとえば、
図7の(A)→(B)に示すように、幅方向両側の端面が破断面51のままである金属板50に、ロール成形などの曲げ加工を施して、金属板50の断面形状を略M字形に変化させた場合、中間素材53aの幅方向両側部に備えられた屈曲板部55aの先端面は、平板部54の幅方向(
図7の(B)の左右方向)に対して傾斜したテーパ面57となる。テーパ面57は、金属板50の断面形状を変化させる以前に破断面51であった部分であるため、表面性状が良好でない可能性がある。また、中間素材53aを欠円環状に曲げ形成して、図示しない連結環を形成した際に、テーパ面57から構成される面と外側斜面部40(
図3参照)との接続部などには、バリが発生しやすくなる。このため、
図6に示したように、前記連結環を内輪18bの内側に押し込む際に、バリが内輪18bに対して引っ掛かりやすくなる。したがって、連結環の装着作業の作業性が低下する可能性がある。本例では、連結環21の軸方向両側の端部のそれぞれの内周面を円筒面49に加工しているため、このような不都合が生じることを防止できる。
【0082】
なお、本例の連結環21は、
図12に示した従来構造の連結環と同様に、1対の係止部本体34a、34bのそれぞれを、係止凹溝26a、26bに対し順番に係止することもできる。
【0083】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図8及び
図9を用いて説明する。
【0084】
本例の転がり軸受装置2aは、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するための連結環21aの構造のみが、実施の形態の第1例の構造とは異なる。本例の連結環21aは、軸方向に関して非対称な断面形状を有している。
【0085】
連結環21aは、1対の係止部本体34c、34dと、1対の係止部本体34c、34dをつなぐ繋ぎ部35とからなる。繋ぎ部35の構造は、実施の形態の第1例の構造と同じである。
【0086】
軸方向外側に配置された係止部本体34cは、軸方向中間部に配置された大径筒部36と、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35から遠い側(軸方向外側)に配置された外側折曲部37aと、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35に近い側に配置された中央側折曲部38とからなる。
【0087】
係止部本体34cを構成する大径筒部36及び中央側折曲部38のそれぞれの構造は、実施の形態の第1例の大径筒部36及び中央側折曲部38のそれぞれの構造と同じである。すなわち、大径筒部36は、円筒形状を有しており、軸方向にわたり外径寸法及び内径寸法が一定である。また、大径筒部36の外周面は、円筒面状の円筒面部39からなる。中央側折曲部38は、円すい筒形状を有しており、軸方向に関して大径筒部36から離れるほど径方向内側に向かう方向に伸長している。中央側折曲部38の外周面は、母線形状が直線状の円すい筒面である、中央側斜面部41からなる。
【0088】
外側折曲部37aは、径方向外側が凸になった湾曲筒形状を有しており、軸方向に関して大径筒部36から離れるほど径方向内側に向かう方向に伸長している。外側折曲部37aの外周面は、母線形状が凸円弧状の凸曲面である、外側斜面部40aからなる。また、本例の場合にも、
図9の(A)に示すように、連結環21aの装着作業時に、軸方向外側に配置された係止部本体34cの外周面の一部をなす外側斜面部40aを、内輪18bに備えられた面取り部29bに当接させた状態で、外側斜面部40aと面取り部29bとの当接部における共通接線の、連結環21aの中心軸に対する傾斜角度αを45°以下に規制している。また、外側折曲部37aの内周面のうち、外側斜面部40aの小径側端部につながった部分を、軸方向にわたり内径が変化しない円筒面49としている。円筒面49は、連結環21aの素材である金属板50の破断面51に、プレス加工又は切削加工を施すことにより性状を整えた傾斜面52(
図5(B)参照)、又は金属板50の厚さ方向側面に直交する平坦面からなる。
【0089】
軸方向内側に配置された係止部本体34dは、軸方向中間部に配置された大径筒部36と、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35から遠い側(軸方向内側)に配置された外側折曲部37bと、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35に近い側に配置された中央側折曲部38とからなる。
【0090】
係止部本体34dを構成する大径筒部36及び中央側折曲部38のそれぞれの構造は、係止部本体34cを構成する大径筒部36及び中央側折曲部38のそれぞれの構造と同じである。
【0091】
外側折曲部37bは、略J字形の断面形状を有している。外側折曲部37bは、径方向外側に配置された屈曲筒部44と、平板部45とからなる。
【0092】
屈曲筒部44は、大径筒部36の軸方向内側の端部と、平板部45の径方向外側の端部とをつないでいる。屈曲筒部44は、径方向外側が凸になった湾曲筒形状を有しており、軸方向に関して大径筒部36から離れるほど径方向内側に向かう方向に伸長している。屈曲筒部44の外周面は、母線形状が凸円弧形状の凸曲面である、外側斜面部40bからなる。
【0093】
平板部45は、円環平板形状を有している。平板部45の軸方向内側面は、連結環21aの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面46からなる。また、平板部45の内周面は、軸方向にわたり内径が変化しない円筒面49である。円筒面49は、連結環21aの素材である帯状の金属板50の破断面51に、プレス加工又は切削加工を施すことにより性状を整えた傾斜面52(
図5(B)参照)、又は金属板50の厚さ方向側面に直交する平坦面からなる。
【0094】
したがって、係止部本体34cの外周面は、円筒面部39と、円筒面部39の軸方向両側に配置された外側斜面部40a及び中央側斜面部41とからなる。また、係止部本体34dの外周面は、円筒面部39と、円筒面部39の軸方向両側に配置された外側斜面部40b及び中央側斜面部41とからなる。さらに、係止部本体34dは、軸方向に関して外側斜面部40bよりも繋ぎ部35から遠い軸方向内側の端面に、平坦面46を有する。
【0095】
以上のような構成を有する本例では、
図9の(A)及び(B)に示すように、連結環21aの装着作業時に、軸方向内側を向いた平坦面46を、治具47の先端面により押圧することで、連結環21aを軸方向に押し込むことができる。このため、連結環21aの装着作業の作業性のさらなる向上を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0096】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図10を用いて説明する。
【0097】
本例の転がり軸受装置2bは、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するための連結環21bの構造のみが、実施の形態の第1例及び第2例の構造とは異なる。本例の連結環21bは、軸方向に関して対称な断面形状を有している。
【0098】
連結環21bは、1対の係止部本体34e、34fと、1対の係止部本体34e、34fをつなぐ繋ぎ部35とからなる。軸方向内側に配置された係止部本体34f及び繋ぎ部35のそれぞれの構造は、実施の形態の第2例の係止部本体34d及び繋ぎ部35のそれぞれの構造と同じである。
【0099】
軸方向外側に配置された係止部本体34eは、軸方向中間部に配置された大径筒部36と、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35から遠い側(軸方向外側)に配置された外側折曲部37bと、軸方向に関して大径筒部36よりも繋ぎ部35に近い側に配置された中央側折曲部38とからなる。
【0100】
係止部本体34eを構成する大径筒部36及び中央側折曲部38のそれぞれの構造は、実施の形態の第1例及び第2例の場合と同じである。係止部本体34eを構成する外側折曲部37bの構造は、軸方向に関する向きが反対になる点を除き、実施の形態の第2例の係止部本体34dを構成する外側折曲部37bの構造と同じである。つまり、外側折曲部37bは、略J字形の断面形状を有しており、外周面に外側斜面部40bを有する屈曲筒部44と、軸方向外側面に平坦面46を有する平板部45とからなる。また、平板部45の内周面は、軸方向にわたり内径が変化しない円筒面49である。円筒面49は、連結環21bの素材である帯状の金属板50の破断面51に、プレス加工又は切削加工を施すことにより性状を整えた傾斜面52(
図5(B)参照)、又は金属板50の厚さ方向側面に直交する平坦面からなる。
【0101】
本例では、連結環21bの装着作業時に、挿入方向前方側に位置する係止部本体34e(34f)の外周面の一部をなす外側斜面部40bを、面取り部29b(29a)に対して当接させ、外側斜面部40bを面取り部29b(29a)に沿って移動させる。また、外側斜面部40bと面取り部29b(29a)との当接部における共通接線の、連結環21bの中心軸に対する傾斜角度が45°以下になるように、外側斜面部40bの傾斜角度を規制している
【0102】
以上のような構成を有する本例の連結環21bは、軸方向に関して対称形状を有しており、軸方向両側の端面に平坦面46を有しているため、装着作業時における方向性をなくすことができる。このため、連結環21bの装着作業の作業性のさらなる向上を図ることができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第2例と同じである。
【0103】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0104】
本発明を実施する場合に、突き合わせ部を密封するためのシール部材は、省略することもできる。シール部材を備える場合には、シール部材の構造及び配置位置などは、実施の形態の各例で説明したものに限定されず、適宜変更することができる。本発明を実施する場合に、連結環を構成する各部の寸法及び傾斜角度などは、実施の形態の各例で説明したものに限定されず、適宜変更することができる。本発明の転がり軸受装置は、駆動輪支持装置に限らず、従動輪支持装置を含む各種機械装置の回転支持部に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 駆動輪支持装置
2、2a、2b 転がり軸受装置
3 車軸管
4 ハブ輪
5 駆動軸
6 駆動輪
7 制動用回転体
8 円筒面部
9 段差面
10 雄ねじ部
11 ナット
12 フランジ
13 ボルト
14 嵌合面
15 回転フランジ
16 結合部材
17 外輪
18a、18b 内輪
19a、19b 転動体
20、20a シール部材
21、21a 連結環
22a、22b 外輪軌道
23a、23b 内輪軌道
24a、24b 大鍔部
25a、25b 小鍔部
26a、26b 係止凹溝
27a、27b 小径面部
28a、28b 大径面部
29a、29b 面取り部
30 突き合わせ部
31a、31b 保持器
32 内部空間
33 不連続部
34a~34f 係止部本体
35 繋ぎ部
36 大径筒部
37、37a、37b 外側折曲部
38 中央側折曲部
39 円筒面部
40、40a、40b 外側斜面部
41 中央側斜面部
42 開口窓
43a、43b 密封装置
44 屈曲筒部
45 平板部
46 平坦面
47 治具
48 円すい筒面
49 円筒面
50 金属板
51 破断面
52 傾斜面
53、53a 中間素材
54 平板部
55、55a 屈曲板部
56 平坦面
57 テーパ面
100 転がり軸受装置
101 車軸管
102 ハブ輪
103 駆動軸
104 フランジ
105 駆動輪
106 制動用回転体
107、107x 外輪
108a、108b、108x、108y 内輪
109a、109b、109x、109y 転動体
110 シール部材
111 連結環
112a、112b 外輪軌道
113a、113b 内輪軌道
114 突き合わせ部
115 係止部
116 繋ぎ部
117a、117b 係止凹溝
118 基準面
119 変位計