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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154180
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】検査方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20221005BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20221005BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01N29/12
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057086
(22)【出願日】2021-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本音響学会2021年春季研究発表会予稿集、発行日 2021年3月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗戸 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】高部 晃好
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 直登
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀浩
(72)【発明者】
【氏名】西浦 敬信
(72)【発明者】
【氏名】王 浩南
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD03
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G047AA05
2G047AC05
2G047BA04
2G047BC03
2G047BC04
2G047BC07
2G047GD02
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】検査対象物から発生した異音の大きさが小さい場合でもその異音を高精度に検出する。
【解決手段】実施形態の検査方法は、例えば、検査対象物の作動音または振動を検出して得られた波形データを取得する取得ステップと、前記波形データに対して短時間フーリエ変換を行って複素数スペクトログラムを生成する生成ステップと、前記複素数スペクトログラムに基づいて所定の位相特徴量を算出する第1の算出ステップと、前記位相特徴量に基づいて異常成分の大きさを算出する第2の算出ステップと、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の作動音または振動を検出して得られた波形データを取得する取得ステップと、
前記波形データに対して短時間フーリエ変換を行って複素数スペクトログラムを生成する生成ステップと、
前記複素数スペクトログラムに基づいて所定の位相特徴量を算出する第1の算出ステップと、
前記位相特徴量に基づいて異常成分の大きさを算出する第2の算出ステップと、を含む検査方法。
【請求項2】
前記取得ステップと前記生成ステップの間に、前記波形データに対して、前記短時間フーリエ変換の前処理としての帯域制限処理を行う帯域制限処理ステップを、さらに含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記第1の算出ステップは、前記複素数スペクトログラムにおける実部と虚部に基づいて前記位相特徴量を算出し、
前記検査方法は、前記第1の算出ステップの後に、
前記位相特徴量を周波数方向に微分演算して群遅延を算出する第3の算出ステップと、
前記群遅延に平滑化フィルタ処理を行うフィルタ処理ステップと、をさらに含み、
前記フィルタ処理ステップの後に、前記第2の算出ステップは、前記平滑化フィルタ処理をされた前記群遅延に基づいて前記異常成分の大きさを算出する、請求項1に記載の検査方法。
【請求項4】
前記異常成分の大きさが第1の閾値よりも大きい場合に、前記検査対象物に異常があると判定する判定ステップを、さらに含む請求項2または請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記第1の算出ステップは、前記複素数スペクトログラムの位相を瞬時周波数に基づいて変換することによって前記位相特徴量を算出し、
前記第2の算出ステップは、前記位相特徴量を時間方向に微分演算して前記異常成分の大きさを算出する、請求項1に記載の検査方法。
【請求項6】
前記第2の算出ステップは、前記微分演算した後に、所定時間におけるパワースペクトルをパワースペクトル最大値で除算する補正処理を行う、請求項5に記載の検査方法。
【請求項7】
前記異常成分の大きさが第2の閾値よりも大きい場合に、前記検査対象物に異常があると判定する判定ステップを、さらに含む請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
コンピュータに、
検査対象物の作動音または振動を検出して得られた波形データを取得する取得ステップと、
前記波形データに対して短時間フーリエ変換を行って複素数スペクトログラムを生成する生成ステップと、
前記複素数スペクトログラムに基づいて所定の位相特徴量を算出する第1の算出ステップと、
前記位相特徴量に基づいて異常成分の大きさを算出する第2の算出ステップと、を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータなどの作動部分を有する検査対象物に関して、作動音や振動の波形データを取得し、その波形データに基づいて検査対象物に異常があるか否かを検査する技術がある。その場合、例えば、波高率と呼ばれる指標や、FFT(Fast Fourier Transform)等による周波数分析結果等を検査に用いる。これらの技術によれば、例えば、検査対象物から大きな異音が発生した場合に、その異音を検出し、検査対象物に異常があると判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-71447号公報
【特許文献2】特開2003-214943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術は、検査対象物から発生する異音の大きさが小さいと異音の検出が困難になるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、検査対象物から発生した異音の大きさが小さい場合でもその異音を高精度に検出することができる検査方法、および、プログラムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の検査方法は、例えば、検査対象物の作動音または振動を検出して得られた波形データを取得する取得ステップと、前記波形データに対して短時間フーリエ変換を行って複素数スペクトログラムを生成する生成ステップと、前記複素数スペクトログラムに基づいて所定の位相特徴量を算出する第1の算出ステップと、前記位相特徴量に基づいて異常成分の大きさを算出する第2の算出ステップと、を含む。
このような構成により、例えば、上述の位相特徴量から算出した異常成分の大きさを用いることで、検査対象物の作動部分から発生した異音の大きさが小さい場合でもその異音を高精度に検出することができる。
【0007】
また、前記検査方法では、例えば、前記取得ステップと前記生成ステップの間に、前記波形データに対して、前記短時間フーリエ変換の前処理としての帯域制限処理を行う帯域制限処理ステップを、さらに含む。
このような構成により、例えば、波形データに対して短時間フーリエ変換の前処理としての帯域制限処理を行うことで、異音の検出精度をさらに向上できる。
【0008】
また、前記検査方法では、例えば、前記第1の算出ステップは、前記複素数スペクトログラムにおける実部と虚部に基づいて前記位相特徴量を算出し、前記第2の算出ステップは、前記位相特徴量を周波数方向に微分演算して群遅延を算出した後に、前記群遅延に平滑化フィルタ処理を行い、前記平滑化フィルタ処理をされた前記群遅延に基づいて前記異常成分の大きさを算出する。
このような構成により、例えば、具体的に、位相特徴量を周波数方向に微分演算して群遅延を算出した後に、群遅延に平滑化フィルタ処理を行い、平滑化フィルタ処理をされた群遅延に基づいて異常成分の大きさを算出するという手法によって、高精度な異音検出を実現できる。
【0009】
また、前記検査方法では、例えば、前記異常成分の大きさが第1の閾値よりも大きい場合に、前記検査対象物に異常があると判定する判定ステップを、さらに含む。
このような構成により、例えば、工場出荷時等の所定のタイミングで、検査対象物である製品の異常を判定することができる。
【0010】
また、前記検査方法では、例えば、前記第1の算出ステップは、前記複素数スペクトログラムの位相を瞬時周波数に基づいて変換することによって前記位相特徴量を算出し、前記第2の算出ステップは、前記位相特徴量を時間方向に微分演算して前記異常成分の大きさを算出する。
このような構成により、例えば、具体的に、複素数スペクトログラムの位相を瞬時周波数に基づいて変換することによって位相特徴量を算出し、その位相特徴量を時間方向に微分演算して異常成分の大きさを算出するという手法によって、高精度な異音検出を実現できる。
【0011】
また、前記検査方法では、例えば、前記第2の算出ステップは、前記微分演算した後に、所定時間におけるパワースペクトルをパワースペクトル最大値で除算する補正処理を行う。
このような構成により、例えば、上述の補正処理を行うことで、異音に対応する異常成分の大きさが顕著になり、異音の検出精度をさらに向上できる。
【0012】
また、前記検査方法では、例えば、前記異常成分の大きさが第2の閾値よりも大きい場合に、前記検査対象物に異常があると判定する判定ステップを、さらに含む。
このような構成により、例えば、工場出荷時等の所定のタイミングで、検査対象物である製品の異常を判定することができる。
【0013】
また、実施形態のプログラムは、コンピュータに、検査対象物の作動音または振動を検出して得られた波形データを取得する取得ステップと、前記波形データに対して短時間フーリエ変換を行って複素数スペクトログラムを生成する生成ステップと、前記複素数スペクトログラムに基づいて所定の位相特徴量を算出する第1の算出ステップと、前記位相特徴量に基づいて異常成分の大きさを算出する第2の算出ステップと、を実行させるためのプログラムである。
このような構成により、例えば、コンピュータに上述の各ステップを実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態の検査システムの全体構成図である。
図2図2は、第1実施形態の情報処理装置による処理を示すフローチャートである。
図3図3は、図2のステップS7の処理の詳細を示すフローチャートである。
図4図4は、図2のステップS8の処理の詳細を示すフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態における異音成分の強度レベルの経時変化の様子を示すグラフである。
図6図6は、第2実施形態の情報処理装置による処理を示すフローチャートである。
図7図7は、第2実施形態における(a)位相特徴量と(b)ipctv特徴量と(c)パワースペクトル補正後のipctv特徴量とのそれぞれの経時変化の様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の例示的な実施形態(第1実施形態、第2実施形態)が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0016】
(第1実施形態)
まず、検査対象物の例と従来の検査手法について説明する。検査対象物は、一例として、モータなどの作動部分を有する自動車部品である。一部の自動車部品では、作動時に、継続時間が非常に短い突破的な異音(短パルス異音)を発生させる。この異音は製造ラインにおいて数値化し難いため、これまで、例えば、官能検査員の聴感を基に検出していた。
【0017】
また、波高率と呼ばれる指標や、FFT(Fast Fourier Transform)等による周波数分析結果等を用いて検査することもできる。しかしながら、これらの従来技術は、検査対象物から発生する異音の大きさが小さいと異音の検出が困難になるという問題がある。
【0018】
そこで、以下では、官能検査員に頼らず、また、検査対象物から発生した異音の大きさが小さい場合でもその異音を高精度に検出することができる技術について説明する。
【0019】
図1は、第1実施形態の検査システムSの全体構成図である。検査システムSは、検査装置1と、収音装置2と、制御装置3と、を備える。
【0020】
検査装置1は、内部に収容する検査対象物4やマイク5を外部音から遮蔽する防音設備(防音室など)である。マイク5は、近傍に配置された検査対象物4から発生する音を検出し、波形データを出力する。
【0021】
制御装置3は、検査対象物4に対して接続され、検査対象物4の作動部分の動作を制御する。制御装置3は、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)である。
【0022】
収音装置2は、データロガー6と、情報処理装置7と、を備える。データロガー6は、マイク5から入力した波形データを一時的に記憶する。
【0023】
情報処理装置7は、例えば、コンピュータ装置であり、記憶部71と、入力部72と、出力部73と、通信部74と、処理部75と、を備える。
【0024】
記憶部71は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの各種記憶装置によって構成され、各種プログラム、各種データを記憶する。
【0025】
入力部72は、ユーザが情報を入力する手段であって、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等である。
【0026】
出力部73は、情報を出力する手段であって、例えば、表示装置や音声出力装置である。表示装置は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等である。音声出力装置は、例えば、スピーカである。
【0027】
通信部74は、外部装置(制御装置3、データロガー6等)との通信を行うための通信インタフェースである。
【0028】
処理部75は、例えば、CPU(Central Processing Unit)によって構成され、記憶部71に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能部を実現する。処理部75は、機能部として、取得部751と、前処理部752と、生成部753と、算出部754と、フィルタ処理部755と、判定部756と、制御部757と、を備える。なお、各機能部の一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を含む回路等のハードウェアによって構成されてもよい。
【0029】
取得部751は、外部装置(制御装置3、データロガー6等)から各種情報を取得する。取得部751は、例えば、データロガー6から、検査対象物4の作動音に関する波形データを取得する。なお、本実施形態において、「作動音」とは、正常な作動音だけの場合と、正常な作動音と異音が合わせられている場合とがある。
【0030】
前処理部752は、波形データに対して、短時間フーリエ変換の前処理として、帯域制限処理等を行う。
【0031】
生成部753は、前処理が行われた波形データに対して短時間フーリエ変換を行って複素数スペクトログラムを生成する(詳細は後述)。
【0032】
算出部754は、複素数スペクトログラムに基づいて所定の位相特徴量を算出する第1の算出ステップと、その位相特徴量に基づいて異音成分の強度レベル(異常成分の大きさの一例)を算出する第2の算出ステップと、を行う。
【0033】
算出部754は、第1の算出ステップとして、例えば、複素数スペクトログラムにおける実部と虚部に基づいて位相特徴量を算出する(詳細は後述)。
【0034】
また、算出部754は、第1の算出ステップの後に、位相特徴量を周波数方向に微分演算して群遅延を算出する第3の算出ステップを実行する(詳細は後述)。その場合、異音成分を引き立たせるために、フィルタ処理部755は、群遅延に平滑化フィルタ処理を行うフィルタ処理ステップを行う(詳細は後述)。その後、算出部754は、第2の算出ステップとして、平滑化フィルタ処理後の群遅延に基づいて異音成分の強度レベルを算出する(詳細は後述)。
【0035】
判定部756は、異音成分の強度レベルが第1の閾値よりも大きい場合に、検査対象物4に異常があると判定する(詳細は後述)。
【0036】
制御部757は、各部751~756が実行する処理以外の処理を実行する。制御部757は、例えば、検査対象物4の検査時に、検査対象物4を作動させるために制御装置3を制御する。
【0037】
図2は、第1実施形態の情報処理装置7による処理を示すフローチャートである。まず、ステップS1において、取得部751は、データロガー6から、検査対象物4の作動音に関する波形データを取得する。
【0038】
次に、ステップS2において、前処理部752は、波形データに対して、短時間フーリエ変換の前処理として、帯域制限処理等を行う。
【0039】
次に、ステップS3において、生成部753は、前処理が行われた波形データに対して短時間フーリエ変換を行って複素数スペクトログラムを生成する。
【0040】
次に、ステップS4において、算出部754は、複素数スペクトログラムにおける実部と虚部に基づいて所定の位相特徴量を算出する。位相特徴量は、例えば、Φ(k,l)と表すことができる。kは周波数インデックス数である。lは時間インデックス数である。位相特徴量は、さらに具体的には、例えば、複素数平面において、複素数スペクトログラムにおける実部と虚部に対応する点と原点とを結ぶ線と、実数軸の正方向と、のなす角度である。
【0041】
次に、ステップS5において、算出部754は、位相特徴量を周波数方向に微分演算して群遅延を算出する。群遅延τ(k,l)は、例えば、以下の式(1)の通りである。なお、∇(・)は周波数方向の微分作用素を表す。
τ(k,l)=cos(-∇Φ(k,l)) ・・・式(1)
【0042】
次に、ステップS6において、フィルタ処理部755は、群遅延に平滑化フィルタ処理を行う。平滑化フィルタ処理後の群遅延τ′は、以下の式(2)の通りである。
τ′=Gaussian(τ) ・・・式(2)
【0043】
次に、ステップS7において、算出部754は、平滑化フィルタ処理後の群遅延τ′に基づいて異音成分の強度レベルを算出する。
【0044】
ここで、図3は、図2のステップS7の処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS71において、算出部754は、群遅延τ′を入力する。
【0045】
次に、ステップS72において、算出部754は、周波数インデックスiと、時間インデッインデックスjとを0に初期化する。また、算出部754は、時間インデックス数lの長さの1次元配列であるFを用意(宣言)する。
【0046】
次に、ステップS73において、算出部754は、ステップS79でNoであった後の処理として、iと、回数カウントパラメータのcountを0に初期化する。
【0047】
次に、ステップS74において、算出部754は、τ’(i,j)が閾値αよりも大きいか否かを判定し、Yesの場合はステップS75に進み、Noの場合はステップS76に進む。閾値αは、事前に設定しておく。
【0048】
ステップS75において、算出部754は、countをインクリメント(1増加)する。
【0049】
ステップS76において、算出部754は、iをインクリメント(1増加)する。
【0050】
次に、ステップS77において、算出部754は、iがkに達したか否かを判定し、Yesの場合はステップS78に進み、Noの場合はステップS74に戻る。
【0051】
ステップS78において、算出部754は、countの値をF[j]に代入するとともに、jをインクリメント(1増加)する。
【0052】
次に、ステップS79において、算出部754は、jがlに達したか否かを判定し、Yesの場合はステップS7の処理を終了し、Noの場合はステップS73に戻る。このようにして、1次元配列Fを作成できる。
【0053】
図2に戻って、ステップS7の後、ステップS8において、判定部756は、異音成分の強度レベルが第1の閾値よりも大きい場合に、検査対象物4に異常があると判定する。ここで、図4は、図2のステップS8の処理の詳細を示すフローチャートである。
【0054】
ステップS81において、判定部756は、1次元配列Fを入力する。
【0055】
次に、ステップS82において、判定部756は、jを0に初期化する。
【0056】
次に、ステップS83において、判定部756は、F[j]がβ(第1の閾値)よりも大きいか否かを判定し、Yesの場合はステップS87に進み、Noの場合はステップS84に進む。
【0057】
ステップS87において、判定部756は、異常と判定し、ステップS8の処理を終了する。つまり、F[j]の値が1つでも閾値βを超えている場合、異常と判定する。
【0058】
ステップS84において、判定部756は、jをインクリメント(1増加)する。
【0059】
次に、ステップS85において、判定部756は、jがlに達したか否かを判定し、Yesの場合はステップS86に進み、Noの場合はステップS83に戻る。
【0060】
ステップS86において、判定部756は、正常と判定し、ステップS8の処理を終了する。つまり、F[j]の値がすべて閾値β以下の場合、正常と判定する。
【0061】
次に、図5は、第1実施形態における異音成分の強度レベルの経時変化の様子を示すグラフである。検査対象物4が正常な作動音だけを発生させている場合、強度レベルが0.1以下の範囲で推移する。そして、検査対象物4が正常な作動音に加えて異音も発生させた場合(時間が3.6程度の時点)、強度レベルが0.4程度まで上昇する。したがって、閾値を例えば0.2程度に設定しておけば、正常な作動音を異常と判定することなく、異音だけを検出できる。そして、波形データの振幅ではなく、上述の位相特徴量に基づいて異音成分の強度レベルを算出しているので、異音の大きさが小さくても高精度に検出できる。
【0062】
このように、第1実施形態の検査システムSによれば、上述の位相特徴量から算出した異音成分の強度レベルを用いることで、検査対象物4から発生した異音の大きさが小さい場合でもその異音を高精度に検出することができる。
【0063】
詳細には、以下の通りである。検査対象物4から発生する正常な作動音は、安定したリズムを有していると考えられる。また、作動音に関する波形データは連続的であるが、情報処理装置7で短時間フーリエ変換を行う場合、離散時間信号を用いて波形データを時間方向に離散的に扱う。そして、波形データに関して上述の処理を行った場合、正常な作動音に関しては上述の強度レベルが低くなり、異音に関しては上述の強度レベルが高くなる。よって、検査対象物4から発生した異音の大きさが小さい場合でもその異音を高精度に検出することができる。
【0064】
また、波形データに対して短時間フーリエ変換の前処理としての帯域制限処理を行うことで、異音の検出精度をさらに向上できる。
【0065】
また、具体的に、位相特徴量を周波数方向に微分演算して群遅延を算出した後に、群遅延に平滑化フィルタ処理を行い、平滑化フィルタ処理をされた群遅延に基づいて異常成分の大きさを算出するという手法によって、高精度な異音検出を実現できる。
【0066】
そして、例えば、工場出荷時等の所定のタイミングで、検査対象物4である製品の異常を判定することができる。
【0067】
また、小さな異音だけでなく、検査対象物4の正常な作動音の振幅の分布のばらつきの中に埋もれる異音や、検査対象物4の正常な作動音の周波数分析(FFTの各周波数のパワー成分)の分布のばらつきの中に埋もれる異音であっても、高精度に検出できる。
【0068】
特に、近年、自動車において車両の電動化が進み、車室内が静かになったことで、自動車部品の作動音や異音に関する要求レベルが上がっているため、上述の第1実施形態の技術は非常に有用である。
【0069】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の事項については、重複する説明を適宜省略する。第1実施形態と比べて、図1の構成のうち、情報処理装置7の処理部75において、フィルタ処理部755は不使用で、算出部754と、判定部756の処理内容が異なる。
【0070】
算出部754は、生成部753が生成した複素数スペクトログラムに基づいて所定の位相特徴量を算出する第1の算出ステップと、その位相特徴量に基づいて異音成分の強度レベル(異常成分の大きさの一例)を算出する第2の算出ステップと、を行う。
【0071】
算出部754は、第1の算出ステップとして、複素数スペクトログラムの位相を瞬時周波数に基づいて変換することによって位相特徴量を算出する。また、算出部754は、第2の算出ステップとして、位相特徴量を時間方向に微分演算して異音成分の強度レベルを算出する。また、算出部754は、第2の算出ステップとして、上述の微分演算した後に、所定時間におけるパワースペクトルをパワースペクトル最大値で除算する補正処理を行ってもよい。
【0072】
判定部756は、異音成分の強度レベルが第2の閾値よりも大きい場合に、検査対象物に異常があると判定する判定ステップを実行する。
【0073】
図6は、第2実施形態の情報処理装置7による処理を示すフローチャートである。ステップS1~S3は、図2のステップS1~S3と同様である。
【0074】
ステップS3の後、ステップS11において、算出部754は、複素数スペクトログラムの位相を瞬時周波数に基づいて変換することによって位相特徴量を算出する。ここで、変換とは、例えば、複素数平面で座標を回転させる処理に相当する処理である。
【0075】
次に、ステップS12において、算出部754は、位相特徴量を時間方向に微分演算してから、所定時間におけるパワースペクトルをパワースペクトル最大値で除算する補正処理を行って、異音成分の強度レベルを算出する。
【0076】
この補正処理を行わない場合、例えば、複素数スペクトログラムをF(k,l)とし、瞬時周波数をEipcとすると、微分演算後の位相特徴量v(k,l)(以下、「ipctv特徴量」ともいう。)は、以下の式(3)の通りである。
v(k,l)=|∇ipcF(k,l)| ・・・式(3)
【0077】
また、上述の補正処理を行う場合、微分演算後の位相特徴量v(k,l)(以下、「パワースペクトル補正後のipctv特徴量」ともいう。)は、以下の式(4)の通りである。
v(k,l)={|F(k,l)|/(max(F(k,l))}×
|∇ipcF(k,l)| ・・・式(4)
【0078】
次に、ステップS13において、判定部756は、異音成分の強度レベルが第2の閾値よりも大きい場合に、検査対象物4に異常があると判定する。
【0079】
次に、図7は、第2実施形態における(a)位相特徴量と、(b)ipctv特徴量と、(c)パワースペクトル補正後のipctv特徴量と、のそれぞれの経時変化の様子を示すグラフである。ここでは、時間が1.2程度の時点と1.8程度の時点で、異音が発生している。
【0080】
(a)位相特徴量と(b)ipctv特徴量において、異音時の値が他の時点の値よりも少し大きくなっている。また、(c)パワースペクトル補正後のipctv特徴量においては、異音時の値が他の時点の値よりもさらに顕著に大きくなっている。したがって、パワースペクトル補正後のipctv特徴量を用いることで、特に異音の検出精度を向上させることができることがわかる。
【0081】
このように、第2実施形態の検査システムSによれば、具体的に、複素数スペクトログラムの位相を瞬時周波数に基づいて変換することによって位相特徴量を算出し、その位相特徴量を時間方向に微分演算して異常成分の大きさを算出するという手法によって、高精度な異音検出を実現できる。
【0082】
また、例えば、上述の補正処理を行うことで、異音に対応する異音成分の強度レベルが顕著になり、異音の検出精度をさらに向上できる。
【0083】
そして、例えば、工場出荷時等の所定のタイミングで、検査対象物4である製品の異常を判定することができる。
【0084】
なお、情報処理装置7で実行される上記処理を実行するためのプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【0085】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0086】
例えば、検査対象物4は、自動車部品に限定されず、作動部分を有する物体であれば他の物体であってもよい。
【0087】
また、検査に使用するデータは、検査対象物4の作動音を検出して得られた波形データに限定されず、ほかに、検査対象物4の振動を検出して得られた波形データであってもよい。
【符号の説明】
【0088】
1…検査装置、2…収音装置、3…制御装置、4…検査対象物、5…マイク、6…データロガー、7…情報処理装置、71…記憶部、72…入力部、73…出力部、74…通信部、75…処理部、751…取得部、752…前処理部、753…生成部、754…算出部、755…フィルタ処理部、756…判定部、757…制御部、S…検査システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7