(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154191
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】共振回路、発振回路および電子機器
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20221005BHJP
G01L 9/00 20060101ALI20221005BHJP
G01L 9/08 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H03B5/32 A
G01L9/00 C
G01L9/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057099
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】515217498
【氏名又は名称】株式会社Piezo Studio
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 武仁
(72)【発明者】
【氏名】木村 悟利
【テーマコード(参考)】
2F055
5J079
【Fターム(参考)】
2F055AA40
2F055BB20
2F055CC55
2F055DD09
2F055EE23
2F055FF02
2F055GG32
2F055GG47
5J079AA04
5J079BA02
5J079DA16
5J079FA16
(57)【要約】
【課題】振動子のカット角を修正することなく2次温度特性の頂点温度を制御できる共振回路を提供する。
【解決手段】本発明の共振回路(1)は、2次温度特性を有する振動子(2)と、振動子(2)に接続された負荷容量(3)とを備え、負荷容量(3)の温度特性を用いて、共振回路(1)の温度特性の頂点温度を所望の頂点温度に調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次曲線の温度特性を有する振動子と、前記振動子に接続された負荷容量とを備えた共振回路において、
前記負荷容量の温度特性を用いて、前記共振回路の温度特性の頂点温度を所望の頂点温度に調整するように構成される
共振回路。
【請求項2】
請求項1に記載の共振回路において、
前記負荷容量の温度特性は、前記振動子の温度特性、振動子等価回路定数、および前記負荷容量の容量値に基づいて決定されること
を特徴とする共振回路。
【請求項3】
請求項2に記載の回路において、
前記負荷容量の温度特性は、前記振動子の温度特性に加算する1次温度係数項と、前記容量値の変化に対する共振周波数の変化の感度に基づいて決定されること
を特徴とする共振回路。
【請求項4】
請求項2または3に記載の共振回路において、
前記振動子等価回路定数の等価直列容量は、10fF~100fFであること
を特徴とする共振回路。
【請求項5】
請求項4に記載の共振回路において、
前記振動子は、ランガサイト型圧電単結晶を用いた振動子であること
を特徴とする共振回路。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の共振回路を備えたこと
を特徴とする発振回路。
【請求項7】
請求項6に記載の発振回路を備えたこと
を特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子を用いた共振回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧力センサの種類の一つに、圧電振動子、特に水晶振動子を適用したセンサがある。圧電振動子を用いたセンサは、その精度の高さから、近年では、地中資源探査や化学反応を促進させる装置などの高温環境においても利用されている。高温環境の温度条件はその用途によって様々であるが、圧力以外の環境条件、例えば、周囲温度が変化しても周波数が変化しないように、S/Nの改善が日々研鑽されている。
【0003】
例えば、2次温度特性を有する振動子を利用したセンサの場合、温度に対する周波数変化がなくなる温度、すなわち頂点温度を所望の温度に設計した振動子が適用されてきた。具体的には、2次温度特性の頂点温度に応じて振動子を結晶から切り出す際のカット角を調整することで対応してきた(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Andrey Medvedev, Aleksey Zabelin, Svetlana, Bazalevskaya, Oleg Buzanov, Sergey Sakharov, Vladimir Alenkov, Alexey Dmitrienko and Alexander Blinov, “Investigation of the Electrode Coating Influence on the Frequency Temperature Characteristics of the Resonators Operating at the Rotated Y-Cut Ca3TaGa3Si2O14 Single Crystals”, Joint UFFC, EFTF and PFM Symposium, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カット角を調整して頂点温度を調整する場合には、量産対応向けの切断条件の最適化に時間を要するという問題があった。また、所望の頂点温度毎に異なるカット角が必要になるため振動子の種類が増えることにより振動子の管理が煩雑になる等の問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、振動子のカット角を調整することなく2次温度特性の頂点温度を制御できる共振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の共振回路は、2次曲線の温度特性を有する振動子と、前記振動子に接続された負荷容量とを備えた共振回路において、前記負荷容量の温度特性を用いて、前記共振回路の温度特性の頂点温度を所望の頂点温度に調整するように構成される。
【0009】
また、本発明の共振回路の一構成例において、前記負荷容量の温度特性は、前記振動子の温度特性、振動子等価回路定数、および前記負荷容量の容量値に基づいて決定される。
【0010】
また、本発明の共振回路の一構成例において、前記負荷容量の温度特性は、前記振動子の温度特性に加算する1次温度係数項と、前記容量値の変化に対する共振周波数の変化の感度に基づいて決定される。
【0011】
また、本発明の共振回路の一構成例において、前記振動子等価回路定数の等価直列容量は、10fF~100fFである。
【0012】
また、本発明の共振回路の一構成例において、前記振動子は、ランガサイト型圧電単結晶を用いた振動子である。
【0013】
また、本発明の発振回路は、上記の共振回路を備える。
【0014】
また、本発明の電子機器は、上記の発振回路を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動子のカット角を調整することなく2次温度特性の頂点温度を制御できる共振回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る共振回路の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る温度特性における頂点温度の調整を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る共振回路の具体例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る共振回路の負荷時周波数特性を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係る共振回路の負荷時周波数感度特性を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係る温度特性における頂点温度の調整を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態に係る負荷容量温度特性の具体例を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態に係る共振回路を適用した圧力センサの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<共振回路の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る共振回路の構成例を示す図である。本実施の形態に係る共振回路1は、振動子2と振動子2に接続された負荷容量3とから構成されている。
【0018】
振動子2の等価回路は、等価直列抵抗R1、等価直列容量C1、等価直列インダクタンスL1、等価並列容量C0から構成されており、所定の頂点温度を有する2次曲線の温度特性を有している。負荷容量3は、容量値が温度に応じて変化する温度特性を有している。
【0019】
<負荷容量温度特性による頂点温度の制御>
図2は、本発明の実施の形態に係る温度特性における頂点温度の調整を説明するための図である。本発明の実施の形態では、負荷容量3の負荷容量温度特性を用いて、共振回路1の温度特性の頂点温度を所望の頂点温度に調整するように構成される。より具体的には、負荷容量3の温度特性は、振動子2の温度特性、振動子等価回路定数、および負荷容量の容量値に基づいて決定される。
【0020】
<振動子の周波数温度特性>
振動子2の周波数温度特性を表す2次曲線を式(1)に示す。
周波数温度特性=aT2+bT+c=a(T-T0)2+c’ ・・・(1)
a:2次温度係数[ppm/℃2]
b:1次温度係数[ppm/℃]
c:オフセット項1[ppm]
c’:オフセット項2[ppm]
T:周囲温度[ppm/℃]
T0:頂点温度=-b/(2a)[℃] ・・・(2)
【0021】
<負荷容量と共振周波数の関係>
振動子2に負荷容量3を接続した場合の負荷容量CLと共振回路1の共振周波数の関係式(負荷時周波数)を式(3)に、負荷容量の変化に対する共振周波数の変化の関係式(負荷時周波数感度)を式(4)に示す。
負荷時周波数FL=C1/2/(C0+CL) ・・・(3)
負荷時周波数感度(dFL/dCL)=-C1/2/(C0+CL)2・・・(4)
C1:等価直列容量
C0:等価並列容量
CL:負荷容量
【0022】
<共振回路の周波数温度特性>
ここで、式(1)に示す頂点温度T0を有する振動子の温度特性を、負荷容量温度特性(dCL/dT)[pF/℃]を用いて頂点温度T0’の温度特性に調整することを考える。簡略化のために、式(1)における2次温度係数aは調整前後で変化しないと仮定する。調整後の周波数温度特性、調整後の頂点温度は、式(5)、式(6)で表すことができる。
【0023】
周波数温度特性
=aT2+b’T+c’’=a(T-T0’)2+c’’’・・・(5)
a:2次温度係数[ppm/℃2]
b’:調整後1次温度係数[ppm/℃]
c’’:オフセット項2[ppm]
c’’’:オフセット項3[ppm]
T:周囲温度[ppm/℃]
T0’:調整後頂点温度=-b’/(2a)[℃] ・・・(6)
【0024】
所望の頂点温度T0’を実現するために加算すべき1次温度係数は、式(2)、式(6)より、以下の式(7)で表すことができる。
加算すべき1次温度係数=b’-b=-2a(T0’-T0)・・・(7)
【0025】
一方、1次温度係数と、負荷時周波数感度、負荷容量温度特性の関係は、以下の式(8)で表すことができる。
1次温度係数[ppm/℃]=負荷時周波数感度[ppm/pF]×負荷容量温度特性[pF/℃] ・・・(8)
【0026】
式(4)、式(7)、式(8)によれば、頂点温度T0からT0’への調整を、負荷容量温度特性によって実現する場合、その場合の負荷容量温度特性(dCL/dT)[pF/℃]は、以下の式(9)で表すことができる。
負荷容量温度特性(dCL/dT)[pF/℃]
=1次温度係数[ppm/℃]/負荷時周波数感度[ppm/pF]
=[4a(T0’-T0)・(C0+CL)2]/C1 ・・・(9)
【0027】
このように、頂点温度を所望の値に調整するための負荷容量3の温度特性は、振動子2の温度特性に加算する1次温度係数項と、負荷容量3の容量値の変化に対する共振周波数の変化の感度に基づいて決定することができる。
【0028】
式(9)は、頂点温度の調整前後において2次温度係数aが変化しないという条件の元での式であるが、頂点温度の調整後に2次温度係数がaからa’に変化する場合には、負荷容量の負荷容量温度特性を式(10)で表すように調整すればよい。2次温度係数aに負荷容量依存性がある場合であっても、本実施の形態の考え方を適用できることは明らかである。
負荷容量温度特性(dCL/dT)[pF/℃]
=[4(a’T0’-aT0)・(C0+CL)2]/C1 ・・・(10)
【0029】
<頂点温度調整の具体例>
本実施の形態における頂点温度の具体例について説明する。以下に説明する具体例では、式(9)において、+25℃に頂点温度がある圧力センサを、頂点温度が+500℃の高温センサ用途に調整する場合を想定する。
【0030】
本具体例では、本発明の有効性を比較するために温度特性に2次曲線を有する振動子として、水晶を用いた音叉型振動子X1と他の振動子X2の2種を用いた場合を説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係る共振回路の具体例を示す図である。
【0031】
図3および、式(3)、式(4)に基づいた負荷時周波数特性、負荷時周波数感度特性をそれぞれ
図4、
図5に示す。本具体例では、
図4、
図5に示す負荷時周波数特性、負荷時周波数感度特性を有する共振回路の温度特性の頂点温度を調整する。
【0032】
図6は、本発明の実施の形態に係る温度特性における頂点温度の調整を説明するための図である。頂点温度は、上述した式(2)で表すことができるので、調整前後において2次温度係数aが一定の場合には、1次温度係数を所望の値に変化させれば頂点温度を所望の値に調整することができる。
【0033】
図7は、本発明の実施の形態に係る負荷容量条件を説明するための図である。頂点温度を+25℃から+500℃にする場合、1次温度係数は、調整前の値1.5[ppm/℃]の20倍、つまり30[ppm/℃]にする必要がある。振動子2には1次温度係数として、既に1.5[ppm/℃]が存在するため、負荷容量3の温度特性を用いて、1次温度係数として+28.5[ppm/℃]を加算すればよい。
【0034】
式(4)によれば、負荷容量CL=10pFにおける負荷時周波数感度(dFL/dCL)は、音叉型振動子X1、振動子X2において、それぞれ、-23[ppm/pF]、-227[ppm/pF]である。
【0035】
式(8)と上記1次温度係数、負荷時周波数感度から、1次温度係数として+28.5[ppm/℃]を加算して、頂点温度+500℃の温度特性を実現するには、負荷容量温度特性(dCL/dT)[pF/℃]を、音叉型振動子X1、振動子X2において、それぞれ-1.239[pF/℃]、-0.1255[pF/℃]にすればよい。
【0036】
このように、頂点温度を所望の値に調整するための負荷容量温度特性は、振動子2の温度特性に加算する1次温度係数項と、負荷容量3の容量値の変化に対する共振周波数の変化の感度(負荷時周波数感度)に基づいて決定することができる。
【0037】
本実施の形態の共振回路において、周囲温度変動を±25℃とすると、音叉型振動子X1、振動子X2において、それぞれ、約±30pF、±3pFの負荷容量の変化が必要となる。振動子X2では、音叉型振動子X1より等価直列容量C1の値が一桁大きいため、必要となる負荷容量変化量が少なくて済むという特徴がある。
【0038】
所望の負荷容量3の負荷容量温度特性を実現する方法としては、温度センサの出力に基づいて、バリキャップダイオードを用いてアナログ的に容量変化させる方法や、容量バンクを用いてデジタル的に容量変化させる方法等が考えられる。
【0039】
上述したように、振動子X2の方が音叉型振動子X2に比べて必要な容量変化が小さいため、回路の集積化や高分解能化に適し、バリキャップダイオードの選定自由度が高いというメリットがある。
【0040】
振動子X2に近い実在の振動子としては、ランガサイト型圧電単結晶を用いた振動子CTGS(Ca3TaGa3Si2O14)がある。ランガサイト型圧電単結晶を用いた振動子CTGSは、等価直列容量が10fF~100fFの振動子である。振動子CTGSを用いることで、回路の集積化や高分解能化に適し、バリキャップダイオードの選定自由度の高い共振回路を実現することができる。
【0041】
本実施の形態の共振回路は、発振回路や圧力センサ等の電子機器に組み込んで使うこともできる。
図8は、本発明の実施の形態に係る共振回路を適用した圧力センサの構成例を示す図である。
【0042】
圧力センサ20は、測定対象30の圧力を検出するためのセンサであり、発振回路10、周波数カウンタ11、温度センサ12、制御回路13、振動子温度特性等のパラメータが保存されているメモリ14を備える。発振回路10は、本実施の形態の共振回路1と増幅回路4から構成されている。周波数カウンタ11等を使って発振回路10の出力を計測することで、測定対象30の圧力変化を周波数変化として容易に観測することができる。
【0043】
制御回路13は、温度センサ12で測定した周囲温度Tの変化に応じて、共振回路1の負荷容量3の容量値を制御し、共振回路1の頂点温度が所望の値になるように負荷容量3の温度特性を制御するように構成されている。
【0044】
以上のように、本実施の形態によれば、振動子カット角を調整することなく2次温度特性の頂点温度を制御できる共振回路を実現することができる。
【0045】
上述した実施の形態では、高温圧力センサ等のように頂点温度を高温にする場合を例として説明したが、本実施の形態の温度特性の修正の考え方は、温度特性の頂点温度を低温にする場合にも適用できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の共振回路は、発振回路や様々な電子機器に組み込んで使うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1…共振回路、2…振動子、3…負荷容量。