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特開2022-154207分析装置、分析システム、分析方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154207
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】分析装置、分析システム、分析方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20221005BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20221005BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20221005BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12Q1/06
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057121
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小坂 淳也
(72)【発明者】
【氏名】白石 敏光
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA09
4B029BB01
4B029CC02
4B029FA04
4B029GA01
4B029HA04
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ42
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】微生物の培養結果についての人の判断を効果的に支援する。
【解決手段】分析装置は、被監視環境で微生物の採取処理を実施した採取容器内を培養工程において時系列に第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得する手段と、複数の第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または時系列で発生済みのコロニーの存在を検出し、発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する第1の特定手段と、採取容器内を第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する第2の特定手段と、第1の特定手段で特定された形状と第2の特定手段で特定された形状とを基に微生物のコロニーの状態を表示する手段と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を採取するための採取容器の分析装置であって、
被監視環境で微生物の採取処理を実施した採取容器内を培養工程において時系列に第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得する手段と、
前記複数の第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または前記時系列で発生済みのコロニーの存在を検出し、前記発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する第1の特定手段と、
前記採取容器内を第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する第2の特定手段と、
前記第1の特定手段で特定された形状と前記第2の特定手段で特定された形状とを基に微生物のコロニーの状態を表示する手段と、を備える分析装置。
【請求項2】
前記第1の特定手段は、前記複数の第1の画像のそれぞれに存在する陰影の境界線および前記境界線で囲まれた領域の重心の少なくとも一方に基づいて前記微生物のコロニーの発生または前記発生済みのコロニーの存在を検出する請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記第1の特定手段は、前記時系列上の前後の画像のうち、前の画像に存在した陰影が後の画像において存在しない場合、前記前の画像に存在した陰影を微生物のコロニー以外の陰影として除外する請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記微生物のコロニーの陰影と前記微生物のコロニー以外の陰影とを判別する判別手段と、
前記判別手段による判別が困難な場合において、オペレータの介入を促す情報を提示する提示手段と、をさらに備える請求項1から3のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記提示手段は、複数方向からの照明光により前記採取容器を照明した状態で撮影した画像を表示する請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記採取容器は透明の底部を有し、上部が開口した本体と前記本体の上部をカバーする透明の蓋部とを備え、
前記分析装置は、第1の画像および前記第2の画像を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段による撮影が可能な状態で設置された採取容器の表面に空気を吹き付ける送風手段と、をさらに備える請求項1乃至5のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記表示されたコロニーの状態から、微生物の存在の有無についてのユーザの確認を受け付ける手段をさらに備える請求項1乃至6のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記第1の可視光および第2の可視光の一方を用いて光量を段階的に変化させて撮影した複数の画像を基に、前記光量を段階的に変化させて撮影した複数の画像間での陰影数の変化が所定の条件を充足する段階での光量を前記一方を用いて撮影するときの光量に設定する手段をさらに備える請求項1乃至7のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項9】
前記コロニーの状態を時系列に表示する手段をさらに備える請求項1乃至8のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項10】
前記微生物のコロニーの状態を示す情報と前記微生物を分析して得られるDNAの塩基配列に基づく前記微生物の分類結果であるラベルとを含む教師データによる機械学習を実行する手段と、
前記機械学習による学習済みモデルに基づき、新規に得られた前記微生物のコロニーの
状態を示す情報を基に前記微生物を分類する手段と、をさらに備える請求項1乃至9のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項11】
前記採取容器によって微生物のサンプルが採取された前記被監視環境内の位置、採取対象箇所、前記サンプルが培養された培養工程中の段階および前記被監視環境での環境条件の少なくとも1つを含む環境データと、前記分析装置での分析に関係する分析データと、微生物のサンプルが培養された後の前記微生物のサンプルに対する判定結果であるラベルとを含む教師データによる機械学習を実行する手段と、
前記機械学習による学習済みモデルに基づき、新規に得られた前記環境データと前記分析データとを基に前記被監視環境の状態を判定する手段と、をさらに備える請求項1乃至9のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項12】
微生物を採取するための採取容器の分析装置と、
分類装置と、を有し、
前記分析装置は、
被監視環境で微生物の採取処理を実施した採取容器内を培養工程において時系列に第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得する手段と、
前記複数の第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または前記時系列で発生済みのコロニーの存在を検出し、前記発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する第1の特定手段と、
前記採取容器内を第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する第2の特定手段と、
前記第1の特定手段で特定された形状と前記第2の特定手段で特定された形状とを基に微生物のコロニーの状態を示す情報を出力する手段と、を備え、
前記分類装置は、
前記微生物のコロニーの状態を示す情報と前記微生物を分析して得られるDNAの塩基配列に基づく前記微生物の分類結果であるラベルとを含む教師データによる機械学習を実行する手段と、
前記機械学習による学習済みモデルに基づき、新規に得られた前記微生物のコロニーの状態を示す情報を基に前記微生物を分類する手段と、
を備える分析システム。
【請求項13】
微生物を採取するための採取容器の分析装置と、
判定装置と、を有し、
前記分析装置は、
被監視環境で微生物の採取処理を実施した採取容器内を培養工程において時系列に第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得する手段と、
前記複数の第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または前記時系列で発生済みのコロニーの存在を検出し、前記発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する第1の特定手段と、
前記採取容器内を第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する第2の特定手段と、
前記第1の特定手段で特定された形状と前記第2の特定手段で特定された形状とを基に微生物のコロニーの状態を示す情報を出力する手段と、を備え、
前記判定装置は、
前記採取容器によって微生物のサンプルが採取された前記被監視環境内の位置、採取対象箇所、前記サンプルが培養された培養工程中の段階および前記被監視環境での環境条件の少なくとも1つを含む環境データと、前記分析装置での分析に関係する分析データと、微生物のサンプルが培養された後の前記微生物のサンプルに対する判定結果であるラベルとを含む教師データによる機械学習を実行する手段と、
前記機械学習による学習済みモデルに基づき、新規に得られた前記環境データと前記分析データとを基に前記被監視環境の状態を判定する手段と、
を備える分析システム。
【請求項14】
コンピュータが、微生物を採取するための採取容器を分析する分析方法であって、
被監視環境で微生物の採取処理を実施した採取容器内を培養工程において時系列に第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得するステップと、
前記複数の第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または前記時系列で発生済みのコロニーの存在を検出し、前記発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する第1のステップと、
前記採取容器内を第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する第2のステップと、
前記第1のステップで特定された形状と前記第2のステップで特定された形状とを基に微生物のコロニーの状態を表示するステップと、を実行する分析方法。
【請求項15】
コンピュータに、微生物を採取するための採取容器を分析させるためのプログラムであって、
被監視環境で微生物の採取処理を実施した採取容器内を培養工程において時系列に第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得するステップと、
前記複数の第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または前記時系列で発生済みのコロニーの存在を検出し、前記発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する第1のステップと、
前記採取容器内を第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する第2のステップと、
前記第1のステップで特定された形状と前記第2のステップで特定された形状とを基に微生物のコロニーの状態を表示するステップと、を実行するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分析装置、分析システム、分析方法、およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞培養による製品またはバイオ製品等の製造環境、またはこれらの製品等の研究開発の環境では、製品を安全に製造していることを担保することが求められる場合がある。そのような場合には、予め定められた環境モニタリングを実施することが求められている。環境モニタリングでは、製造等が行われる環境内の浮遊菌および付着菌等を培養して観測し、予め定められた基準以下の菌環境に維持されていることを保証することが実施される。さらに、環境モニタリングでは、最終的には人による目視による判断が要求される。そのため、培養結果のモニタリング精度を向上させる様々な画像処理ソフトウェアに関連する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-282220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、人が判断しやすい画像と、画像処理ソフトウェア等のコンピュータその他の装置による処理に適した画像とは、必ずしも一致しない。そのため、環境モニタリングにおいてコンピュータその他の装置によって提供される分析結果の提示の仕方には改善の余地がある。そこで、本発明の目的は、微生物の培養結果についての人の判断を効果的に支援できる分析装置、分析方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの側面は、微生物を採取するための採取容器を分析する分析装置によって例示される。この分析装置は、被監視環境で微生物の採取処理を実施した採取容器内を培養工程において時系列に第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得する手段と、前記複数の第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または前記時系列で発生済みのコロニーの存在を検出し、前記発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する第1の特定手段と、前記採取容器内を第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する第2の特定手段と、前記第1の特定手段で特定された形状と前記第2の特定手段で特定された形状とを基に微生物のコロニーの状態を表示する手段と、を備える。
【0006】
第1の特定手段は、第1の画像の時系列での変化から、微生物のコロニーの発生または時系列で発生済みのコロニーの存在を検出するとともにそれらの形状を特定する。ここで、第1の画像は、第1の画像の処理に適した第1の可視光によって撮影されたものである。
【0007】
第2の特定手段は、第1の可視光とは異なる第2の可視光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する。第2の画像は、第2の画像の処理に適した第2の可視光によって撮影されたものである。したがって、本分析装置は、これら2種類の画像について、第1の画像について時系列にコロニーの発生を検出した結果と第2の画像から特定された結果を基に微生物のコロニーの状態を表示できる。
【発明の効果】
【0008】
本分析装置によれば、微生物の培養結果についての人の判断を効果的に支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、分析装置の構成を例示する図である。
図2図2は分析の処理手順を例示するフローチャートである。
図3図3は分析の処理手順を例示するフローチャートである。
図4図4は分析の処理手順を例示するフローチャートである。
図5図5は光量調整処理の詳細を例示する図である。
図6図6は、既存コロニーと新規コロニーの検出処理の詳細を例示する図である。
図7図7は、培養工程にしたがって、コロニーが発生し、成長する過程の時系列画像を例示する図である。
図8図8は、シャーレPDの中心位置を合わせる処理を例示する図である。
図9図9は、シャーレPDの回転角を合わせる処理を例示する図である。
図10図10は、今回の画像中のコロニーを既存コロニーと新規コロニーに分類する処理を例示する図である。
図11図11は、第2の実施形態の環境判定システムを例示する図である。
図12図12は、第3の実施形態の環境監視システムを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、一実施の形態に係る分析装置および分析方法を説明する。
【0011】
<第1の実施形態>
図1乃至図10を参照して、第1の実施形態の分析装置10を説明する。分析装置10は、細胞培養による製品またはバイオ製品等の製造環境、研究開発環境等の被監視環境において取得されたサンプルを保持するシャーレPDを分析する。被監視環境は、無菌室、滅菌室等とも呼ばれる。シャーレPDは、採取容器ともいう。シャーレPDはペトリ皿とも呼ばれる、透明の円盤状の容器である。シャーレPDは、透明の底部を有し、上部が開口した浅い筒状または皿状の本体と、本体の開口部分をカバーし、閉塞する透明の蓋部を有する。
【0012】
シャーレPDは、被監視環境の所定位置に、蓋部を除いて上部を開口させて設置され、空気中を浮遊ないし落下する微生物、例えば、浮遊菌と呼ばれるもの(落下菌ともいう)の被検査用サンプルを取得する。また、シャーレPDは、被監視環境に置かれた物、被監視環境で作業する作業者の人体または被服等に付着する微生物、例えば、付着菌と呼ばれるものの被検査用サンプルを取得する。人体または被服等に付着する微生物については、検査対象箇所にシャーレPDの内壁底面を接触させることで、被検査用サンプルの採取処理が実施される。
【0013】
被検査用サンプルが取得されたシャーレPDは、細菌、カビ等の微生物を培養する培養工程に置かれる。分析装置10は、培養工程におかれたシャーレPDから所定の期間ごとに画像を取得し分析する。画像は、例えば、透明の蓋部を介して、シャーレPDの内部の底面を撮影した画像である。取得された被検査用サンプルに所定量以上の微生物が含まれる場合、培養工程にしたがって、微生物が徐々に発達する。微生物が発達し、人の目に見える程度の固まりとなったものはコロニーと呼ばれる。
【0014】
本実施形態の分析装置10は、培養工程で培養中または培養完了後のシャーレPDの画像から、微生物のコロニーを検出し、人(オペレータ、ユーザともいう)による環境モニ
タリングを支援する。
【0015】
(構成)
図1は、分析装置10の構成を例示する図である。図1のように分析装置10は、主に、情報処理部と情報取得部と撮影部とを有する。図1では省略されているが、シャーレPDは、撮影部によってシャーレPD内壁の底面を透明な蓋部を介して撮影可能な位置に載置される。その場合、分析装置10は、シャーレPDを載置するための載置台を有してもよい。また、シャーレPDは、撮影部によってシャーレPD内面の底面を透明な蓋部を介して撮影可能な位置に保持されてもよい。その場合、分析装置10は、シャーレPDを保持するためのホルダを有してもよい。
【0016】
分析装置10の情報処理部は、Central Processing Unit(CPU11)と、主記憶部12と、インターフェース(I/F)を通じて接続される外部機器を有し、プログラムにより情報処理を実行する。CPU11はプロセッサとも呼ばれる。外部機器としては、外部記憶部13、表示部14、操作部15、通信部16を例示できる。情報処理部は、分析装置10の筐体に組み込まれたコンピュータであってもよいし、分析装置10の筐体とは別体の通常のパーソナルコンピュータ等であってもよい。
【0017】
CPU11は、主記憶部12に実行可能に展開されたコンピュータプログラムを実行し、分析装置10の機能を提供する。CPU11は、プロセッサとも呼ばれる。CPU11は、単一のプロセッサに限定されず、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、CPU11は、Graphics Processing Unit(GPU)、Digital Signal Processor(DSP)等を含むものであってもよい。また、CPU11は、Field Programmable Gate Array(
FPGA)等のハードウェア回路と連携するものでもよい。主記憶部12は、CPU11が実行するコンピュータプログラム、CPU11が処理するデータ等を記憶する。
【0018】
主記憶部12は、Dynamic Random Access Memory(DRAM)、Static Random Access
Memory(SRAM)、Read Only Memory(ROM)等である。さらに、外部記憶部13
は、例えば、主記憶部12を補助する記憶領域として使用され、CPU11が実行するコンピュータプログラム、CPU11が処理するデータ等を記憶する。外部記憶部13は、ハードディスクドライブ、Solid State Disk(SSD)等である。さらに、分析装置10には、着脱可能記憶媒体の駆動装置を設けてもよい。着脱可能記憶媒体は、例えば、ブルーレイディスク、Digital Versatile Disk(DVD)、Compact Disc(CD)、フラッシュメモリカード、クラウド等である。ここで、クラウドは、ネットワークで接続される外部記憶装置である。
【0019】
表示部14は、例えば、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスパネル等である。操作部15は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等である。本実施形態では、ポインティングデバイスとしてマウス、タッチパッド、タッチパネルが例示される。通信部16は、ネットワーク上の他の装置とデータを授受する。
【0020】
分析装置10の情報取得部は、所定のインターフェースを介して情報処理部と接続される。情報取得部は、撮影部を制御し、撮影環境を調整し、撮影部から画像を取得し、情報処理部に引き渡す。情報取得部は、カメラ制御部17、白色光制御部18、青色光制御部19、LED制御部20、およびファン制御部21を有する。撮影部は、シャーレPDに照明光を投光し、シャーレPDの表面に付着するゴミを除去し、撮影条件を設定し、シャーレPDの画像を撮影する。撮影部は、カメラCM、白色ライトLW、青色ライトLB、LED L1乃至L8、ファンFNを有する。
【0021】
カメラ制御部17は、カメラCMから画像を取得し、取得した画像を画像メモリに保持
する。そして、カメラ制御部17は、画像メモリ上の画像をCPU11に引き渡す。カメラCMは、Charge Coupled Device(CCD)カメラ、Complementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)カメラ等である。カメラCMは、所定のフレーム周期で、画像データをカメラ制御部17に引き渡し、画像メモリに保存させる。
【0022】
白色光制御部18は、CPU11からの指令により、白色ライトLWのオンとオフおよび白色ライトLWから照射される白色光の光量を制御する。白色ライトLWは、例えば、青色Light Emitting Diode(LED)からの光を蛍光体に照射し、白色光を放出する。白色ライトLWは半導体スイッチを有し、白色光制御部18からの制御信号によりオンとなり、白色光を放出する。また、白色ライトLWは、例えば、調光回路を有する。調光回路は、例えば、整流回路と、DC(直流)DC変換器を有し、DCDC変換器のパルス幅(デューティ比)の制御により青色LEDを流れる電流量を制御し、白色ライトLWから放出される光量を調整する。白色光制御部18は、半導体スイッチのオンまたはオフを指令する信号およびDCDC変換器のパルス幅(デューティ比)を指定する信号を白色ライトLWに出力する。なお、白色光制御部18が調光回路を有し、白色ライトLWへの電流値を制御しつつ給電するものであってもよい。
【0023】
青色光制御部19は、CPU11からの指令により、青色ライトLBのオンとオフおよび青色ライトLBから照射される青色光の光量を制御する。青色ライトLBは、例えば、青色LEDまたは青色LEDの配列を含む。青色ライトLBは青色の波長の光を発する蛍光体を有してもよい。青色ライトLBは、シャーレPDの下側から青色光を照射する。カメラCMは、下から青色ライトLBによって青色の照明光が投光されたシャーレPDの底面部を、上側の透明の蓋部を介して撮影する。すなわち、青色ライトLBは、シャーレPDに青色の透過光を照射する。
【0024】
青色ライトLBは、白色ライトLWと同様の半導体スイッチおよび調光回路を有する。青色光制御部19は、半導体のオンまたはオフを指令する信号およびDCDC変換器のパルス幅(デューティ比)を指定する信号を青色ライトLBに出力する。なお、青色光制御部19が調光回路を有し、青色ライトLBへの電流値を制御しつつ給電するものであってもよい。カメラCMは、青色ライトLBでの透過光によるシャーレPDの第1の画像と、白色ライトLWでの反射光による第2の画像を撮影する。したがって、カメラCMは、第1の画像および第2の画像を撮影する撮影手段の一例である。なお、青色ライトLBからの透過光による画像は、画像処理ソフトウェア等のコンピュータプログラムによる処理に適した画像である。画像処理ソフトウェアには単色が適しているからである。また、本分析装置10の発明者らは経験的に青色ライトLBよる画像では、コロニーの検出精度が他の光の場合よりも高いことを認識している。
【0025】
LED制御部20は、8個のLED L1乃至L8をオンオフ制御する。図1では、省略されているが、LED L1乃至L8は、シャーレPDの上方で、円形状に45度の角度でシャーレPDの中心付近を照らすように配置される。LED L1乃至L8は、それぞれ指向性のある白色光を所定の方向に放出する。したがって、LED L1乃至L8は、シャーレPDの上側の8方向から、蓋部を通って、内壁底面の中心に向けて指向性のある光を照射する。なお、LED L1等の数が8個に限定される訳ではない。例えば、撮影部には、4方向から4個のLEDが設けられてもよい。8個のLED L1乃至L8は、異なる方向から指向性のある白色光により、シャーレPD内の微生物のコロニーが立体的に撮影されるように作用する。これにより、分析装置10は、シャーレPDを撮影した画像中の陰影が、立体的な構造のコロニーか、平坦な汚れ、くもり等かを判別できるようにユーザを支援する。LED L1乃至L8の白色光は、白色ライトLWと同様、青色LEDと蛍光体によって放出される。
【0026】
ファン制御部21は、ファンFNをオンオフ制御する。ファンFNはオンになると羽根を回転させ、所定風量の空気による風(図1の点線の太い矢印)をシャーレPDに吹き付ける。分析装置10は、ファンFNの作用により、カメラCMの下に載置または保持されたシャーレPDの表面に付着したゴミ等の異物を除去する。CPU11は、カメラCMによる撮影前に、ファン制御部21に指令し、ファンFNをオンする、あるいはオンとオフを所定回数繰り返すことで、シャーレPD表面の異物を除去する。ファンFNは、シャーレPDの表面、特に、蓋部の上面と、本体底面の両方の表面に風を送り込めるものが望ましい。ファンFNは送風手段の一例である。すなわち、ファンFNは、撮影手段であるカメラCMによる撮影が可能な状態で設置された採取容器の表面に空気を吹き付ける。
【0027】
なお、図1には例示されていないが、培養工程に置かれたシャーレPDを分析装置10の撮影部で撮影可能な位置の載置台またはホルダまで搬送する搬送機構が設けられてもよい。
【0028】
(処理)
図2乃至図6を参照して、分析装置10における分析方法の処理手順を例示する。これらの処理は、主記憶部12に実行可能に展開されたコンピュータプログラムによりCPU11によって実行される。ただし、以下の説明では、主として、分析装置10がこれらの処理を実行するものとして説明する。このうち、図2乃至図4は、分析の処理手順を例示するフローチャートである。図2乃至図4に例示された処理は、シャーレPDが培養工程に入る前を第1回の処理として、培養工程において、所定のタイミングで所定回数実行される。
【0029】
この処理では、まず、分析装置10は、培養工程に置かれているシャーレPDを搬送し、撮影部によって、シャーレPDの内壁底面が撮影可能な状態に設置する(S21)。ただし、分析装置10が搬送機構を有していない場合には、オペレータの介在により、シャーレPDの内壁底面が撮影可能な状態にシャーレPDが設置される。この場合には、分析装置10は、操作部15を通じたオペレータ入力により、シャーレPDの設置が完了し、分析可能な状態になったことを認識する。または、分析装置10は、シャーレPDを載置する載置台に設けられたスイッチ、シャーレPDを保持するホルダに設けられたスイッチ等からの信号により、シャーレPDの設置が完了し、分析可能な状態になったことを認識してもよい。
【0030】
次に、分析装置10は、ファン制御部21によりファンFNを作動させ、シャーレPDに向けて送風し、シャーレPD表面の異物を除去する(S22)。次に、分析装置10は、白色ライトLWおよび青色ライトLBの光量を調整する(S23)。光量を調整する処理の詳細は、図5によって別途説明される。
【0031】
次に、分析装置10は、青色ライトLBによるシャーレPDの下からの透過光を照射した状態で、カメラCMによりシャーレPDを撮影する(S24)。透過光の光量は、S23で調整されている。分析装置10は、培養工程の進行にしたがって、図2乃至図4の処理を時系列に複数回繰り返す。したがって、S24の処理は、採取容器であるシャーレPD内を培養工程において時系列に、青色光である第1の可視光によって撮影した複数の第1の画像を取得することの一例である。分析装置10のCPU11は、カメラ制御部17を介して、時系列に複数回S24の処理で撮影された画像を取得する。したがって、CPU11は、複数の第1の画像を取得する手段ということもできる。
【0032】
次に、分析装置10は、白色ライトLWによるシャーレPDの上からの光を照射した状態で、カメラCMによりシャーレPDを撮影する(S25)。カメラCMは、白色ライト
LWから照射された白色光の反射光で画像を撮影する。白色ライトLWから照射される白色光の光量は、S23で調整されている。
【0033】
次に、分析装置10は、青色ライトLBによる透過光を照射した状態で撮影した画像に対して、以下のS26乃至S42の処理を実行する。すなわち、分析装置10は、S24の処理により前回の培養工程で撮影済みの画像(前回の画像)と今回青色光で撮影された画像(今回の画像)との位置合わせを行う(S26)。なお、前回の画像は培養前の画像も含む。例えば、主記憶部12には、シャーレPDが培養工程に入る前の第1回目の処理で撮影された培養前の画像、その後処理で撮影された前回までの画像が保存されている。図2乃至図4の処理では、撮影済みの画像と今回の画像との間の比較により、コロニーの発生を検出する処理または検出済みのコロニーを特定する処理が実行される。そのような画像間の比較を実行する前処理として、分析装置10は、画像と画像の位置合わせを実行する。
【0034】
図8図9に例示するように、シャーレPDには、上面の縁部分にマークM1、M2が形成されている。位置合わせは、シャーレ同士の中心位置を合わせる処理と、縁部分のマークM1、M2が重なるように、2つの画像の一方を回転させる処理とを含む。
【0035】
次に、分析装置10は、位置合わせ済みの前回の画像と今回の画像とでコロニーを検出する処理を実行する(S27)。この処理は、例えば、今回の画像中の所定寸法以上の陰影を検出する処理である。所定寸法は、例えば、主記憶部12において、システムパラメータとして保存されている。なお、前回の画像におけるコロニーは、前回の処理で検出済みであるので、分析装置10は、前回の画像での検出結果を主記憶部12から読み出せばよい。
【0036】
次に、分析装置10は、今回の画像から初期異物を除去する(S28)。分析装置10は、シャーレPDが培養工程に入る前の第1回目の処理で撮影された培養前の画像を主記憶部12に保存している。培養前の画像中の陰影は、異物、ノイズ等、コロニー以外のものの陰影である。したがって、今回の画像中に、培養前の画像中の陰影と同一の陰影がある場合、分析装置10は、その陰影を除去する(S28)。同一の陰影の除去は、今回の画像中の陰影から、培養前の画像中の陰影を減算することで実行できる。同一の陰影を除去する処理は、CPU11に搭載された画像処理ソフトウェアで提供される。そして、分析装置10は、初期異物除去済みの今回の画像(図2の今回のコロニー検出画像)を主記憶部12に保存する。なお、初期異物除去済みの前回の画像(図2の前回のコロニー検出画像)はすでに主記憶部12に保存されている。
【0037】
次に、図3により処理を説明する。図2のA矢印は図3のA矢印に処理が継続することを示す。分析装置10は、初期異物除去済みの2つの画像、すなわち、前回の画像と今回の画像を比較する(S31)。そして、前回の画像にあった陰影が今回の画像で消えている場合(S32でY)、分析装置10は、消えた陰影が異物であったとして、前回の画像による検出結果の該当箇所のコロニー(多角形)を削除する(S33)。また、分析装置10は、消えた陰影に対応するコロニー数分の数を前回までに検出されたコロニー数から減算する。S33の処理は、時系列上の前後の画像のうち、前の画像に存在した陰影が後の画像において存在しない場合、前の画像に存在した陰影を微生物のコロニー以外の陰影として除外する処理の一例である。また、S32の判定は、微生物のコロニーの陰影と微生物のコロニー以外の陰影とを判別する処理の一例である。したがって、分析装置10のCPU11は、判別手段の一例とて、S32の判定を実行する。
【0038】
ただし、前回の画像と今回の画像の比較が困難な場合(S34でY)、分析装置10は、メッセージを表示部14に出力し、オペレータに判別結果の入力を促す(S35)。こ
のとき、分析装置10は、LED L1乃至L8によって8方向から光を照射した立体画像を表示部14に出力してもよい。S34で判定が困難な場合は、判別手段による判別が困難な場合といえる。8方向から光を照射した立体画像は、複数方向からの照明光により採取容器であるシャーレPDを照明した状態で撮影した画像の一例である。なお、立体画像は、8方向以外、例えば、4報告から光を照射したときの画像でもよい。
【0039】
ここで、判定が困難な場合とは、培養工程が終了後の最後のコロニー検出処理の画像に新たに陰影が現れた場合であって、次回、その新たに現れた陰影が消えるか否かの確認ができない場合である。分析装置10は、例えば、今回が最後のコロニー検出処理であるか否かの情報または培養工程におけるコロニー検出処理の実行回数の情報を保持している。したがって、分析装置10は、今回の画像が培養工程の終了後の最後のコロニー検出処理の画像であるか否かを認識できる。また、判定が困難な場合としては、例えば、今回の画像中に、前回の画像の陰影と一部重複した陰影があって、陰影が消えたか否かの判定が困難な場合が例示される。このような場合、オペレータによる判別結果の入力によって、陰影が異物か否かの判断が決せられる。このとき、分析装置10は、LED L1乃至L8によって8方向から光を照射した立体画像により、オペレータの判断を支援するのである。S35の処理は、オペレータの介入を促す情報を提示する処理の一例である。また、分析装置10のCPU11は提示手段の一例としてS35の処理を実行する。
【0040】
次に、分析装置10は、既存コロニーと新規コロニーの検出処理を実行する(S36)。既存コロニーと新規コロニーの検出処理は、別途図6にしたがって説明される。ここでは、培養工程の各段階で撮影され、時系列に保存された画像(青色ライトLBによる透過光を照射した状態で撮影した画像)に対して処理が実行される。すなわち、分析装置10は、時系列に保存された画像に対してそれぞれ前の画像との比較により、新規に発生したコロニーと、既存のコロニーとを特定し、それぞれの輪郭と重心を抽出する。
【0041】
次に、図4により処理を説明する。図3のB矢印は図4のB矢印に処理が継続することを示す。分析装置10は、S36の処理の結果、今回の画像で新規コロニーが発生したか否かを判定する(S41)。今回の画像で新規コロニーが発生した場合、コロニー数に新規コロニー数を加算する。
【0042】
次に、分析装置10は、白色ライトLWから照射された白色光の反射光で撮影した画像から輪郭を抽出する(S43)。S43の処理は、採取容器であるシャーレPD内を第2の可視光である白色光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する処理といえる。この処理も、培養工程の各段階で実行される。したがって、S43の処理は、採取容器であるシャーレPD内を第2の可視光である白色光により撮影した第2の画像から微生物のコロニーの形状を特定する処理の一例である。なお、本実施形態では、図6の既存コロニーと新規コロニーの検出処理を実行する分析装置10のCPU11を第1の特定手段と呼び、図6の処理を第1のステップと呼ぶ。これは、青色の透過光による画像からコロニーを検出処理である。一方、S43の処理を実行する分析装置10のCPU11を第2の特定手段と呼び、S43の処理を第2のステップと呼ぶことにする。
【0043】
次に、分析装置10は、S36の既存コロニーと新規コロニーの検出処理で取得されたコロニーの輪郭とを突き合わせ処理を実行し、処理結果を表示部14に表示する(S44)。ここでは、分析装置10は、青色の透過光による時系列に取得した前後の画像で抽出した輪郭と、S43の処理で白色光の反射光で撮影した画像から抽出した輪郭とによってコロニーの輪郭を決定する。例えば、分析装置10は、S36の検出処理で取得されたコロニーの輪郭とS43の処理で抽出された輪郭を重畳して表示する。ただし、分析装置10は、S36の検出処理による輪郭とS43の処理での輪郭に不一致があった場合、不一致部分についてはS36の検出処理による輪郭を優先してもよい。なぜなら、S36の検
出処理では、培養工程の各段階で撮影され、時系列に保存された一連の画像により輪郭が取得されるため、検出結果の信頼性が高いからである。また、S36の検出処理では、青色ライトLBによる透過光を照射した状態で撮影した画像が用いられるため、経験上、画像処理の結果の信頼性が高いからである。例えば、分析装置10は、S43の処理で抽出された輪郭のうち、S36の検出処理による輪郭から所定限度以上離れた部分は輪郭として採用しないようにすればよい。
【0044】
なお、白色光の反射光で撮影した画像では、1つの輪郭に見えるが、実際には、複数のコロニーが重なっている場合がある。そのため、分析装置10は、白色光の反射光で撮影した画像に、上記コロニーの輪郭を付加して表示するとともに、計数したコロニー数は、S42の処理で計数した値を保持する。したがって、分析装置10は、オペレータが見る白色光の反射光で撮影した画像に、青色光の画像の時系列処理によるコロニー(多角形)と、白色光の画像上の陰影のエッジとの一致が確認されたコロニーを重畳して表示する。また、分析装置10は、そのときまでの時系列処理で得られたコロニー数をオペレータに提示する。ここで、表示されるコロニーの輪郭、白色光による画像、コロニー数等の情報は、第1の特定手段(図6)で特定された形状と第2の特定手段(S43)で特定された形状とを基にした微生物のコロニーの状態を示す情報といえる。また、分析装置10のCPU11は、微生物のコロニーの状態を表示する手段として、S44の処理を実行する。
【0045】
さらに、オペレータが、分析装置10の操作部15への操作によって時系列表示を要求した場合(S45でY)、分析装置10は、時系列表示を実行する。時系列表示では、分析装置10は、培養工程の各段階ですでに抽出済みの各段階でのコロニーの輪郭または各段階で処理対象となった画像等を時系列で表示する(S46)。このとき、オペレータは、操作部15への操作によって、各段階でのコロニーの輪郭または各段階で処理対象となった画像等を自在に拡大縮小して表示部14に表示させることができる。S46の処理は、コロニーの状態を時系列に表示する処理の一例である。分析装置10のCPU11はコロニーの状態を時系列に表示する手段の一例として、S46の処理を実行する。
【0046】
そして、S44乃至S46の処理で表示されたコロニーの輪郭、画像、計数されたコロニー数等の情報を基に、オペレータ(検査員ともいう)は、コロニーの有無を判定する(S47)。すなわち、検出されたコロニー数が基準値(n個)未満、例えば、0個の場合、オペレータは、陰性判定を入力する(S48)。一方、検出されたコロニー数が基準値(n個)以上の場合、オペレータは、陽性判定を入力する(S49)。S48およびS49の処理は、表示されたコロニーの状態から、微生物の存在の有無についてのユーザの確認を受け付ける処理といえる。分析装置10のCPU11は、ユーザの確認を受け付ける手段として、S48、S49の処理を実行する。そして、分析装置10は、陽性判定、陰性判定の結果とともに、検出したコロニー数等を上書き保存する(S4A)。
【0047】
そして、分析装置10は、今回の処理が培養工程終了後の最終段階の処理か否かを判定する(S4B)。今回の処理が最終段階の処理であった場合、分析装置10は、このシャーレPDに対する処理を終了する。一方、今回の処理が最終段階の処理でない場合、分析装置10は、このシャーレPDを培養工程の次の段階に戻す(S21)。そして、次の段階が終了後、再び、S22以下の処理を実行する。図4のC矢印は、図2のC矢印に処理が継続することを示す。
【0048】
図5に光量調整処理(図2のS23)の詳細を例示する。ここで、光量を調整するのは、シャーレPDにおける微生物の培養状態により、適切な光量が異なる場合があるからである。例えば、シャーレPDの内壁底面でコロニーの占める部分が少ない場合、光量が多いと、撮影部のカメラCMで撮影された画像が明る過ぎる結果となる。この場合には、シャーレPDにコロニーが存在したとしても、撮影された画像中にコロニーの陰影が残らな
い場合が生じ得る。
【0049】
一方、例えば、シャーレPDの内壁底面でコロニーの占める部分が大きい場合、光量が少ないと、撮影部のカメラCMで撮影された画像が暗すぎる結果となる。この場合には、シャーレPDに多数のコロニーが存在したとしても、撮影された画像中で明瞭にコロニーの陰影を識別できない場合が生じ得る。そのため、分析装置10は、光量を変化させて撮影した複数の画像からそれぞれコロニー数を計数し、コロニー数の変化が少ない安定した状態を探索する。この安定した状態における光量を望ましい光量とするのである。以下の処理は、青色ライトLBと白色ライトLWの両方で実施される。ここでは、青色ライトLBに対する処理を例示するが、白色ライトLWについても処理は同様である。すなわち、分析装置10は、第1の可視光である青色ライトLBの光量および第2の可視光である白色ライトLW光量のうちの一方を用いて光量を段階的に変化させた画像からコロニー数を検出する。以下、青色ライトLBを例に説明がされる。
【0050】
この処理では、分析装置10は、複数段階で青色ライトLBの光量を変更してシャーレPDの画像を撮影する(S51)。ここで、撮影される画像は、光量を段階的に変化させて撮影した複数の画像の一例である。そして、分析装置10は、それぞれの画像中のパターン数を計数する(S52)。パターン数の計数は、例えば、画像中の陰影を多角形(IDと頂点列)に変換し、多角形の数(IDの数)を計数することで、実行される。
【0051】
そして、分析装置10は、いずれかの画像中にパターンがあること、つまり、パターン数が0でないことを確認する(S53)。要するに、シャーレPDに全くコロニーがない場合、複数段階で光量変更してもパターン数は変化しないからである。
【0052】
そして、パターン数が0でない場合(S53でY)、分析装置10は、パターン数の変化が所定の閾値以下、例えば、パターン数の変動がない状態での光量を検出し、適正光量として決定する(S54)。ここで、パターン数の変動がない状態は、光量を段階的に変化させて撮影した複数の画像間での陰影数の変化が所定の条件を充足する段階の一例である。さらに、分析装置10は、S54の処理で決定した適正光量で、青色ライトLBの光量を設定する(S55)。S55の処理は、撮影するときの光量に設定する処理の一例である。
【0053】
青色ライトLBは第1の可視光の一例である。また、白色ライトLWは第2の可視光の一例である。したがって、分析装置10のCPU11は、光量に設定する手段の一例として、図5の処理を実行する。
【0054】
図6は、既存コロニーと新規コロニーの検出処理(図3のS36)の詳細を例示する図である。この処理では、分析装置10は、時系列で前後する今回の画像の輪郭から多角形を抽出する(S61)。そして、分析装置10は、今回の画像の多角形の重心を計算する(S62)。そして、分析装置10は、前回の画像ですでにコロニーが検出されているか否かを判定する(S63)。前回の画像ですでにコロニーが検出されている場合(S63でY)、分析装置10は、前回の画像ですでに検出されているコロニーと、今回の画像で検出されたコロニーの対応付けより、新規のコロニーの発生を検出する(S64)。
【0055】
すなわち、分析装置10は、時系列における今回の画像に対する前回の画像ですでに抽出済みの各コロニーの輪郭(多角形)に最も近い今回の像影中の多角形を既存コロニーに分類する。既存コロニーへの分類では、以下の方法が例示できる。
【0056】
(1)前回の画像の多角形のエッジに最も近いエッジを有する今回の画像中の多角形を既存コロニーとして選択する。
【0057】
(2)前回の画像の多角形の重心に最も近いエッジを有する今回の画像中の多角形を既存コロニーとして選択する。
【0058】
(3)前回の画像の多角形の重心に最も近い重心を有する今回の画像中の多角形を既存コロニーとして選択する。
【0059】
(4)上記(1)乃至(3)のそれぞれにおいて、近い順にポイントを付与し、合計ポイントの高い今回の画像中の多角形を選択する。
【0060】
(5)上記(1)乃至(4)において今回の画像中の多角形が、その内部に前回の画像の多角形を包含している場合、今回の画像中のその包含している多角形を優先的に既存コロニーとして選択する。S64の処理は、時系列で発生済みのコロニーの存在を検出する処理と言える。この処理は、青色光で撮影された複数の第1の画像のそれぞれに存在する陰影の境界線および境界線で囲まれた領域の重心の少なくとも一方に基づいて発生済みのコロニーの存在を検出するといえる。
【0061】
さらに、分析装置10は、既存コロニー以外を新規コロニーに分類する。一方、前回の画像までの段階で、まだコロニーの発生が検出されていない場合(S63でN)、分析装置10は、今回の画像で検出されたすべての多角形を新規のコロニーとして検出する(S65)。S65の処理は、微生物のコロニーの発生を検出する処理といえる。したがって、図6の処理は、発生または存在が検出されたコロニーの形状を特定する処理の一例である。本実施形態では、図6の処理を実行する分析装置10のCPU11lを第1の特定手段と呼ぶ。また、図6の処理は、第1のステップと呼ぶ。また、図6の処理は、青色光で撮影した複数の第1の画像のそれぞれに存在する陰影の境界線および境界線で囲まれた領域の重心の少なくとも一方に基づいて微生物のコロニーの発生または発生済みのコロニーの存在を検出する処理の一例である。
【0062】
(処理例)
図7は、培養工程にしたがって、コロニーが発生し、成長する過程の時系列画像を例示する図である。照明は、青色ライトLBによるシャーレPD下側からの透過光である。
【0063】
図7では、上から下に向かう矢印が時間の経過を示す。図7の左側の列の3つの画像は、シャーレPDを撮影した生画像を例示する。また、図7の右側の列の3つの画像は、生画像に画像処理を実行し、ノイズ等が除去された画像を例示する。
【0064】
分析装置10は、まず、培養工程に入る前の状態でシャーレPDを撮影する(画像の行
G1)。この状態では、通常陰影は検出されない。また、この状態で検出された陰影は異
物(ゴミ)と判定できる。そこで、異物の陰影は以降の画像から除外される。これは、図2のS28の処理で述べた通りである。
【0065】
培養工程が進行すると、新規コロニーが発生する(画像の行G2)。前回の画像にない陰影は、新規コロニーと判定される。すなわち、分析装置10は、培養工程の時系列において前後の段階のシャーレPDの画像を比較し、コロニーの位置情報が一致するものがない場合、新規のコロニーと判断する。これは、図6のS65の処理で述べた通りである。
【0066】
また、分析装置10は、前後の段階のシャーレPDの画像を比較し、後の画像(今回の画像)で陰影がなくなっている場合、そのタイミングにおける異物(ゴミ)として除外する。これは、図3のS33の処理で述べた通りである。
【0067】
さらに、培養工程が進行すると、新規コロニーが追加発生する(画像の行G3)。分析装置10は、前回の画像に存在するコロニーに最も近い、今回の画像に存在するコロニーを既存コロニーに分類する(点線の矢印による対応付け参照)。また、分析装置10は、前回の画像に存在する、既存コロニーに分類されないコロニーを新規コロニーに分類する。G3の行では、既存コロニーがハッチングパターンで例示され、新規コロニーが黒の塗り潰しパターンで例示されている。
【0068】
図8および図9は、前回の画像と今回の画像の位置合わせ処理を例示する。図8は、シャーレPDの中心位置を合わせる処理を例示する。図8では、前回の画像は「前」という字が付されている。また、今回の画像は「後」という字が付されている。図8、9のように、シャーレPDには、縁部分にマークM1、M2が付されている。
【0069】
分析装置10は、まず、前回の画像中のシャーレPDの中心位置と今回の画像の中のシャーレPDの中心位置を合わせる。すなわち、分析装置10は、前回の画像と今回の画像のシャーレの中心座標の差分を計算する。そして、分析装置10は、差分の分だけ一方の画像を相対移動させ、シャーレPDの位置を合わせる。
【0070】
図9は、シャーレPDの回転角を合わせる処理を例示する。分析装置10は、図8での中心位置の位置合わせ後、画像を回転させ回転角を合わせる。シャーレPDには、縁部分にマークM1、M2が付されている。そこで、分析装置10は、前回の画像と今回の画像のマークM1、M2の基準位置、例えば、マークM1、M2それぞれの中心位置の角度を計算し、一方を回転させる。
【0071】
図10は、今回の画像中のコロニーを既存コロニーと新規コロニーに分類する処理を例示する。図10で「前」の文字が付された画像は、時系列上の前回の画像から得られたコロニーを示す多角形である。「後」の文字が付された画像は、時系列上の後、すなわち、今回の画像から得られたコロニーを示す多角形である。「前+後」は、両方の多角形を重ね合わせた状態を例示する。
【0072】
この処理では、分析装置10は、前回のコロニー(多角形)からの今回のコロニー(多角形)1つ1つに対する最短距離を算出し、前回のコロニーまでの距離が短い今回の画像のコロニーが成長した既存コロニーと判断する。図では、前回のコロニーが完全に今回のコロニーの1つに包含されている。また、前回のコロニーに最も近いエッジを有するコロニーは、前回のコロニーを包含する今回のコロニーである。そこで、分析装置10は、前回のコロニーを包含する今回のコロニーを既存コロニーと判定する。分析装置10は、以上の処理をすべての前回のコロニーに実施する。そして、分析装置10は、前回のコロニーのどれにも対応付けできなかった今回の画像中のコロニーを新規コロニーと判断する。
【0073】
分析装置10は、新規コロニーについては、境界(多角形)と重心を登録する。既存コロニーについては、境界(多角形)と重心を前回のものから入れ替えて登録する。
【0074】
(実施形態の効果)
上記実施形態では、分析装置10は、時系列に青色の透過光で撮影し前後の画像間で抽出した輪郭と、白色光の反射光で撮影した画像から抽出した輪郭と比較する。そして、分析装置10は、両者が一致したものをコロニーの輪郭とする。時系列で抽出した輪郭は、CPU11による画像処理を繰り返すことで取得されたデータである。また、時系列で抽出した輪郭は、CPU11の画像処理に適した青色ライトLBによる透過光を照射した状態で撮影した画像による輪郭である。また、この輪郭は、時系列での各画像とそれぞれ前の画像との比較により、新規に発生したコロニーと、既存のコロニーとを特定し、抽出されたものである。一方、白色光の反射光で撮影した画像から抽出した輪郭は、人の目によ
る認識に適した画像から得られたものである。このため、分析装置10は、人の目に見やすい画像での処理結果の輪郭と、時系列で抽出した輪郭とを比較し、照合することで、精度よくコロニーを分析し、コロニーの輪郭をオペレータに提示できる。この場合に、分析装置10は、一方の処理で時系列画像を分析するので、培養工程の途中でコロニーの重なりが発生した場合も精度よくコロニーを判別し、コロニー数を計数できる。
【0075】
また、分析装置10は、上記時系列の処理において、前回の画像の各多角形の輪郭(または重心)に最も近い今回の画像中の多角形を既存コロニーに分類し、既存コロニー以外を新規コロニーに分類する。このような時系列の画像から得られる多角形同士の比較により、分析装置10は、精度よく既存コロニーを判別し、新規コロニーの発生を判定できる。
【0076】
分析装置10は、時系列上の前回画像に存在した陰影が今回の画像で消えている場合、消えた画像を異物、例えばゴミと判断し、前回の画像から除外する。したがって、分析装置10は、適切に異物を除外して分析できる。また、分析装置10は、この処理により、精度良くコロニー数を計数できる。
【0077】
分析装置10は、時系列上の前回の画像と今回の画像を比較が困難な場合、メッセージを表示部14に出力し、オペレータ入力を促す。したがって、分析装置10は、適切な時期にオペレータの判断を得ることができる。この場合、分析装置10は、LED L1乃至L8によって8方向から光を照射した立体画像を表示部14に出力することができる。そのため、分析装置10は、コロニーを立体的に表示し、オペレータによる、コロニーかシャーレPDの曇りかの判断を支援できる。
【0078】
分析装置10は、ファン制御部21によりファンFNを作動させ、シャーレPDに向けて送風し、シャーレPD表面の異物を除去する。したがって、分析装置10は、異物による誤認を極力抑制して分析を実行できる。
【0079】
分析装置10は、コロニーの輪郭、画像等を基に、オペレータの入力を受け付け、オペレータによるコロニーの有無の判定結果を保存する。すなわち、分析装置10は、あくまでも、オペレータの判定を支援する装置として機能する。
【0080】
分析装置10は、複数段階で青色ライトLBおよび白色ライトLWの一方で撮影する場合に、その光量を変更してシャーレPDの画像を撮影する。そして、分析装置10は、それぞれの画像中のパターン数を計数するパターン数の変化が所定の閾値以下となる安定した状態での光量を検出し、適正光量として決定する。したがって、分析装置10は、青色ライトLBおよび白色ライトLWのそれぞれにおいて、適正光量で撮影できる。
【0081】
分析装置10は、培養工程の各段階ですでに抽出済みの各段階でのコロニーの輪郭または処理中の画像等を時系列で表示する。このとき、オペレータは、操作部15への操作によって、各段階でのコロニーの輪郭または処理中の画像等を自在に拡大縮小して表示部14に表示させることができる。したがって、分析装置10は、オペレータの判断を適切に支援できる。
【0082】
(変形例)
上記実施形態では、図2乃至図4の処理が一連の処理として例示された。しかし、分析装置10の処理が上記処理に限定される訳ではない。例えば、分析装置10は、図2のS21からS25までを実行し、S26以降の処理は、ネットワークで接続された他のコンピュータが実行するものでもよい。例えば、分析装置10は、S21からS25の処理で得られた画像データ等をネットワークで接続された他のコンピュータ、サーバ、クラウド
上の記録装置等に転送してもよい。そして、ネットワークで接続された他のコンピュータがクラウド等に保存された画像データを参照し、S26以降の処理を実行してもよい。また、分析装置10が図2乃至図4の一連の処理を実行する場合でも、画像データ等はネットワーク上の他のコンピュータ、サーバ、クラウド上の記録装置等に保存しておいてもよい。そして、分析装置10は、今回の処理で取得したデータと、過去に取得され他のコンピュータ等に保存されたデータとから、S26以降の処理を実行してもよい。その場合に、分析装置10は、今回の処理で取得したデータを処理するときに、他のコンピュータ等から過去に取得されたデータをダウンロードすればよい。
【0083】
<第2の実施形態>
図11により、第2の実施形態を説明する。図11は、第2の実施形態の環境判定システム100を例示する図である。環境判定システム100は、分析装置10と、DNA解析装置40と、判定装置50を有する。分析装置10は、第1の実施形態で説明したものと同様である。すなわち、分析装置10は、コロニーの状態を示す情報を出力する手段として、図4のS44乃至S46の処理で表示されたコロニーの輪郭、画像、計数されたコロニー数等の情報を判定装置50に入力する。また、環境判定システム100は分析システムということもできる。
【0084】
DNA解析装置40は、ゲノム解析装置、遺伝子解析装置、DNAシーケンサとも呼ばれる。DNA解析装置40は、培養工程での培養が完了したシャーレPD内の微生物のDNAの塩基配列を解析し、微生物の種類を特定する。さらに、DNA解析装置40は、得られた微生物の種類を基に、微生物の分類情報を出力する。分類情報は、例えば、無害、危険度レベル低、危険度レベル中、危険度レベル高等である。また、分類情報は、例えば、微生物の大まかな分類、例えば、カビ、酵母、細菌等であってもよい。
【0085】
このような分類情報出力のため、DNA解析装置40は、個々の微生物の種類を特定する名称、記号の識別情報と、分類情報との対応関係を定義した分類テーブルを有してもよい。このような分類テーブルは、被監視環境の業務に応じて定義されてもよい。例えば、被監視環境がバイオ医薬の研究開発現場、バイオ医薬の製造現場、食品の研究開発現場、食品の製造現場等の場合に応じて、分類テーブルが定義されればよい。
【0086】
判定装置50は、分析装置10での分析結果に、分析結果に対するDNA解析装置40での分類がラベルとして付与された教師データを基に機械学習を実行する。機械学習は、例えば、深層学習とも呼ばれるものである。判定装置50は、分析装置10と同様、CPU、メモリ等を有する。CPUは図1で述べた通り、GPU、DSP等を含む。判定装置50は、メモリ上に実行可能に展開されたコンピュータプログラムにより、仮想的な複数ノード間で複数階層のニューラルネットワークを形成する。ニューラルネットワークで接続された各ノードは、複数階層のいずれかに配置される。ただし、ニューラルネットワークがハードウェア回路で構成されてもよい。例えば、各ノードはCPU、GPU、DSP、またはFPGAの積和演算回路等を有し、ノード間がネットワークで接続されてもよい。複数階層のうち、分析装置10からのデータが入力される層が入力層となる。また、複数階層のうち、入力層から最も遠い層が出力層となる。
【0087】
複数階層の各相の各ノードは、入力層に近い層のノードの出力を受け、自身に与えられた積和演算等の畳み込み演算、あるいはフィルタリング処理を実行し、処理結果を出力層に近い層のノードに引き渡す。出力層は、入力層に近い層のノードの出力を受け、分類結果を出力する。ここで、積和演算あるいはフィルタリング処理は、例えば、各ノードが有する係数配列または係数と、入力データ(ベクトル)との内積である。
【0088】
学習段階では、入力データとともに、DNA解析装置40からの正解データのラベルが
判定装置50に入力される。入力データと正解データの組は教師データと呼ばれる。出力層の出力である分類結果が正解データと不一致の場合、その分類結果と正解データとの差分値が出力層から入力層に向けて、逆方向伝搬される。この逆方向伝搬において、各階層の各ノードでの誤差が小さくなる方向で係数が調整される。このような学習段階の処理を複数回、異なる教師データによって繰り返すことで、係数が調整され、学習済みモデルが形成される。したがって、学習済みモデルは、図4のS44乃至S46の処理で表示されたコロニーの輪郭、画像、計数されたコロニー数等の情報に含まれる特徴を学習した調整済みの係数(積和演算あるいはフィルタリング処理の係数)を有する。すなわち、学習済みモデルは、上記特徴と、それらの特徴に対するDNA解析装置40での分類情報との関係による調整済みの係数を有する。
【0089】
認識段階では、入力層に、分析装置10からの新たなデータが入力される。判定装置50は、分析装置10からのデータに対して、学習段階で調整された各層の各ノードの係数により、認識処理を実行する。すなわち、学習済みモデルは、各入力データに対して、分類A、B、C・・・等の判定結果を出力する。
【0090】
ここで、入力データは、例えば、各培養工程において得られたデータの集合である。例えば、培養工程が培養工程1から培養工程FLまである場合、それぞれの培養工程で得られた多角形、画像データ等である。また、多角形は、例えば、ID(識別情報)、頂点数、頂点列(X,Y座標値)、重心の座標、色等である。なお、多角形の頂点を定義する座標系は、分析装置10および判定装置50で事前に設定されているものとする。なお、入力データとしては、多角形と画像データのうちのいずれか一方でもよい。これらの入力データは、微生物のコロニーの状態を示す情報の一例である。
【0091】
また、入力データには、環境条件を示すパラメータが含まれてもよい。パラメータは、気温、湿度、日照時間等のである。また、図11では培養工程の各段階(培養工程1乃至FL)のデータが使用されているが、判定装置50の処理はそのような処理に限定されない。例えば、判定装置50は、最終の培養工程FLが完了した培養結果に対するデータだけを入力してもよい。
【0092】
判定装置50は、入力データに対して、DNA解析装置40での分類情報の出力結果が付与された教師データにより繰り返し学習を実行し、畳み込み演算あるいはフィルタリング処理の係数を調整する。したがって、判定装置50は、微生物のコロニーの状態を示す情報と微生物を分析して得られるDNAの塩基配列に基づく微生物の分類結果であるラベルとを含む教師データによる機械学習を実行する。判定装置50のCPUは機械学習を実行する手段の一例である。
【0093】
そして、学習が所定回数実行され、係数の調整が進むと、判定装置50は、認識段階の処理の実行が可能となる。すなわち、判定装置50は、分析装置10からの入力データに対して、分類A、B、C・・・等の分類結果を出力する。
【0094】
分類結果は、例えば、分類A=無害、分類B=危険度低、分類C=危険度中、分類D=危険度高等である。また、分類結果は、例えば、微生物の種類、例えば、分類A=カビ、分類B=酵母、C=細菌等であってもよい。また、分類結果は、より細かい分類、例えば、分類A=真性細菌アクチノバクテリア門、分類B=古細菌の高度好酸性菌等、・・・等であってもよい。また、分類結果は、例えば、かびの種類K1,K2、K3、・・・細菌の種類B1,B2,B3・・・等であってもよい。したがって、判定装置50は、機械学習による学習済みモデルに基づき、新規に得られた微生物のコロニーの状態を示す情報を基に微生物を分類する。判定装置50のCPUは微生物を分類する手段および分類装置の一例である。
【0095】
以上述べたように、本実施形態の環境判定システム100は、被監視環境で得られた微生物の分類を提示できる。すなわち、環境判定システム100は、分析装置10での分析結果である、微生物のコロニーから得られた多角形のデータ、分析処理で用いた画像データまたはこれらに環境パラメータを組み合わせたデータを基に分類を実行する。このような分類は、DNA解析装置40での厳密なDNAの塩基配列での解析結果ではなく、そのような解析結果のおおまかな分類でよい。環境判定システム100が採取された微生物の大まかな分類を示すことで、採取された微生物に対する厳密なゲノム解析の要否が判定できればよい。そのような判定により、被監視環境で採取された微生物のうち、特定の分類に絞り込んで、ゲノム解析が実行される。その結果、ゲノム解析に要する時間とコストが低減される。
【0096】
<第3の実施形態>
図12により第3実施形態の環境監視システム101を説明する。環境監視システム101は分析システムということもできる。図12は、第3の実施形態の環境監視システム101を例示する図である。上記第2の実施形態では、分析装置10での分析結果である、微生物のコロニーから得られた多角形のデータ、画像データまたはこれらに環境パラメータを組み合わせたデータを基に、被監視環境で採取された微生物の大まかな分類を示した。本実施形態では、分析装置10で分析結果または分析に用いた情報(以下、分析に関係する分析データという)とともに、被監視環境の状況を示す環境データを組み合わせて、被監視環境の状態を監視する環境監視システム101を例示する。なお、第2の実施形態と同様、分析装置10は、コロニーの状態を示す情報を出力する手段として、S44乃至S46の処理で表示されたコロニーの輪郭、画像、計数されたコロニー数等の情報を判定装置50に入力する。
【0097】
薬品あるいは食品を研究開発し、あるいは、製造する現場では、厳格な微生物の監視が求められる。そこで、本実施形態では、被監視環境の状況を示す環境データを適切に選択することにより、分析装置10による分析データを活用する、簡易かつ精度の高い環境監視システム101が説明される。
【0098】
ここで、被監視環境での状況を示す環境データは、例えば、微生物のサンプル採取箇所である。サンプル採取箇所は、浮遊菌の採取箇所と、付着菌の採取箇所に分けることができる。浮遊菌は、空気中を漂うか、または、落下する細菌である。浮遊菌の採取箇所は、被監視環境が建物内である場合、建物内の位置、部屋の番号、階、部屋の中の位置等で例示される。部屋の位置は、シャーレPDが置かれる部屋の位置である。部屋の位置は、部屋の中の座標系による座標値、シャーレPDが置かれる机あるいは什器の識別情報であってもよい。ただし、机あるいは什器の識別情報は、固定されているものとする。浮遊菌の採取箇所は、被監視環境内の位置ということもできる。
【0099】
付着菌は、被監視環境で作業するオペレータの人体または被服、例えば、頭、帽子、左右の腕、手袋、白衣の前面、背面、白衣の左右のそれぞれの袖、マスク、くつ、ドアノブ等の採取対象箇所から採取される。したがって、これらの箇所が付着菌の採取箇所となる。さらに、被監視環境での状況を示すパラメータは、室内の人数、気温、湿度等の環境条件のパラメータを含んでもよい。これらのデータは、環境データの一例である。
【0100】
このようにして得られる、被監視環境内の位置、採取箇所、シャーレPDの培養工程、そのときの多角形のデータ(ID、頂点数、頂点列、重心、色)、画像データ、培養された微生物のコロニーの量または個数等を組み合わせて、一まとまりの入力データが得られる。なお、コロニーの量は、例えば、コロニーの形状を示す多角形の面積で例示される。多角形のデータ(ID、頂点数、頂点列、重心、色)、培養工程での時系列に取得される
画像データ、培養された微生物のコロニーの量または個数等は、分析装置での分析に関係する分析データの一例である。本実施形態では、例えば、分析装置10のCPU11または分析装置10と連携するコンピュータ(以下、CPU11等)は、被監視環境内の位置、採取箇所、シャーレPDの培養工程等を管理し、保存する場合を想定する。CPU11等は、分析装置10が出力する多角形のデータ、上記画像データ、コロニーの量または個数等に、採取箇所、シャーレPDの培養工程、環境条件等の情報を追加して入力データを作成し、判定装置50に入力する。被監視環境内の位置、採取箇所、シャーレPDの培養工程、環境条件等は、環境データということができる。また、そのとき、判定装置50は、DNA解析装置40から正解データのラベルとして、DNA解析装置40での判定結果を取得する。DNA解析装置40での判定結果は例えばOK(該当微生物検出なし)、NG(該当微生物検出あり)である。このような判定結果は、微生物のサンプルが培養された後の微生物のサンプルに対する判定結果の一例である。なお、分析装置10のCPU11等がDNA解析装置40での判定結果を取得し、入力データに正解データをラベル付けして、判定装置50に引き渡してもよい。
【0101】
このようにして、環境監視システム101においても、入力データに正解データがラベル付された教師データが作成され、判定装置50に入力される。判定装置50は、このような教師データの入力により、学習処理を実行し、係数調整を行う。したがって、判定装置50は、教師データによる機械学習を実行する。判定装置50のCPUは機械学習を実行する手段の一例である。
【0102】
そして、学習がある程度進行し、係数が適正値に設定されると、判定装置50は、学習済みモデルにより、認識処理を実行する。すなわち、判定装置50は、採取箇所、シャーレPDの培養工程、環境条件等の環境データと、多角形のデータ、画像データ、コロニーの量または個数等を含む分析データとを含む入力データが入力されると、OKかNGの判定結果を出力する。したがって、環境監視システム101は、分析装置10での分析結果分析データと、被監視環境での状況を示す環境データを組み合わせた入力データにより、被監視環境の状況を判定できるようになる。すなわち、判定装置50は機械学習による学習済みモデルに基づき、新規に得られた環境データと分析データとを基に被監視環境の状態を判定するといえる。したがって、判定装置50のCPUは判定手段の一例である。
【0103】
<変形例>
上記第2の実施形態、および、第3の実施形態では、分析装置10と判定装置50が別の装置として説明された。しかし、分析装置10と判定装置50が一体の装置であってもよい。例えば、学習済みモデルを実現するハードウェアが、分析装置10内に組み込まれ、CPU11とバスで接続される構成であってもよい。また、分析装置10のCPU11が主記憶部12上にニューラルネットワークを構築し、学習処理と認識処理を実行するものでもよい。
【0104】
<コンピュータが読み取り可能な記録媒体>
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0105】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、ブルーレイディスク、DAT、8mmテープ、フラッシ
ュメモリなどのメモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスク、ROM(リードオンリーメモリ)等がある。さらに、SSD(Solid State Drive)は、コンピュータ等から取り外し可能な記録媒体としても、コンピュータ
等に固定された記録媒体としても利用可能である。
【符号の説明】
【0106】
10 分析装置
11 CPU
12 主記憶部
13 外部記憶部
14 表示部
15 操作部
16 通信部
17 カメラ制御部
18 白色光制御部
19 青色光制御部
20 LED制御部
21 ファン制御部
100 環境判定システム
101 環境監視システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12