(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154261
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
F02D29/02 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057189
(22)【出願日】2021-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)販売日:令和2年12月23日から現在まで (2)販売した場所:日本(マツダ株式会社の日本全国の系列店)
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 健史
(72)【発明者】
【氏名】石山 雄貴
【テーマコード(参考)】
3G093
【Fターム(参考)】
3G093AA01
3G093CB06
3G093CB07
3G093DA06
3G093EA02
3G093FA04
3G093FA07
3G093FA08
(57)【要約】
【課題】アクセルペダルを操作したドライバーに適度な応答感を付与し得るヒステリシス制御を採用しつつ、ドライバーの違和感を軽減する。
【解決手段】車両制御システムは、アクセル開度を検出するアクセルセンサと、検出されたアクセル開度に基づき車両の目標加速度を設定する目標加速度設定部と、設定された目標加速度に基づき駆動源の目標トルクを設定する目標トルク設定部と、設定された目標トルクを発生させるように駆動源を制御する駆動源制御部とを備える。アクセル開度が増加しているときの目標加速度を踏み増し時目標加速度、アクセル開度が減少しているときの目標加速度を踏み戻し時目標加速度としたとき、目標加速度設定部は、アクセル開度が同一の条件において、踏み増し時目標加速度と踏み戻し時目標加速度とが予め定められた上限加速度以下かつ下限加速度以上の範囲で互いに異なるように、目標加速度を設定する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を発生する駆動源と、ドライバーにより操作されるアクセルペダルとを備えた車両を制御するシステムであって、
前記アクセルペダルの開度であるアクセル開度を検出するアクセルセンサと、
前記アクセルセンサにより検出されたアクセル開度に基づき車両の目標加速度を設定する目標加速度設定部と、
前記目標加速度設定部により設定された目標加速度に基づき前記駆動源の目標トルクを設定する目標トルク設定部と、
前記目標トルク設定部により設定された目標トルクを発生させるように前記駆動源を制御する駆動源制御部とを備え、
アクセル開度が増加しているときの前記目標加速度を踏み増し時目標加速度、アクセル開度が減少しているときの前記目標加速度を踏み戻し時目標加速度としたとき、前記目標加速度設定部は、アクセル開度が同一の条件において、前記踏み増し時目標加速度と前記踏み戻し時目標加速度とが予め定められた上限加速度以下かつ下限加速度以上の範囲で互いに異なるように、前記目標加速度を設定する、ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記目標加速度設定部は、前記踏み増し時目標加速度と前記踏み戻し時目標加速度とを異ならせる前記制御を、予め定められた第1開度以上かつ第2開度以下のアクセル開度範囲において実行し、
前記上限加速度と前記下限加速度との差分を上下限差としたとき、前記目標加速度設定部は、前記アクセル開度が前記第1開度または前記第2開度のときに前記上下現差がゼロになり、かつ前記アクセル開度が前記第1開度と前記第2開度との中間値に近づくほど前記上下現差が拡大するように、前記上限加速度および前記下限加速度を設定する、ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御システムにおいて、
車両の走行路の勾配である路面勾配を検出する勾配センサをさらに備え、
前記目標加速度設定部は、前記勾配センサにより検出された路面勾配が大きいほど前記上下現差が縮小するように、前記上限加速度および前記下限加速度を設定する、ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両制御システムにおいて、
前記アクセル開度の変化率の絶対値が所定の閾値未満であるとき、前記目標加速度設定部は、前記上限加速度および前記下限加速度に対する前記目標加速度の内分比が前回と同一の値に保持されるように前記目標加速度を設定する、ことを特徴とする車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の動力を発生する駆動源と、ドライバーにより操作されるアクセルペダルとを備えた車両を制御するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アクセルペダルの操作に応じて車両の駆動源を制御する技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、アクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサと、検出されたアクセル開度に基づいて車両の目標加速度を設定する目標加速度設定部と、設定された目標加速度が実現されるようにエンジンを制御するエンジン制御部とを備えた制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、目標加速度は、アクセル開度が大きいほど大きくなるように設定されるが、アクセル開度が中程度以上の範囲では、アクセル開度の変化に対する目標加速度の変化の傾き(操作ゲイン)が高開度側ほど小さくなるような傾向が与えられる。高開度側で操作ゲインが低下すると、特にドライバーがアクセルペダルを深く踏み込んだ後に少し踏み戻したような状況で、車両の加速度変化(挙動変化)がドライバーに伝わり難くなるという問題がある。このような問題への対策として、アクセル開度が同一の条件における目標加速度をアクセルペダルの踏み増し時と踏み戻し時とで異ならせる制御、つまりヒステリシス制御を採用することが提案される。ただし、当該ヒステリシス制御により踏み増し時/踏み戻し時の加速特性の相違が拡大すると、ドライバーの違和感が増大することになり兼ねない。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、アクセルペダルを操作したドライバーに適度な応答感を付与し得るヒステリシス制御を採用しつつ、ドライバーの違和感を軽減することが可能な車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、走行用の動力を発生する駆動源と、ドライバーにより操作されるアクセルペダルとを備えた車両を制御するシステムであって、前記アクセルペダルの開度であるアクセル開度を検出するアクセルセンサと、前記アクセルセンサにより検出されたアクセル開度に基づき車両の目標加速度を設定する目標加速度設定部と、前記目標加速度設定部により設定された目標加速度に基づき前記駆動源の目標トルクを設定する目標トルク設定部と、前記目標トルク設定部により設定された目標トルクを発生させるように前記駆動源を制御する駆動源制御部とを備え、アクセル開度が増加しているときの前記目標加速度を踏み増し時目標加速度、アクセル開度が減少しているときの前記目標加速度を踏み戻し時目標加速度としたとき、前記目標加速度設定部は、アクセル開度が同一の条件において、前記踏み増し時目標加速度と前記踏み戻し時目標加速度とが予め定められた上限加速度以下かつ下限加速度以上の範囲で互いに異なるように、前記目標加速度を設定する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、アクセル開度が増加しているときの車両の目標加速度である踏み増し時目標加速度と、アクセル開度が減少しているときの車両の目標加速度である踏み戻し時目標加速度とが、アクセル開度が同一の条件で互いに異なるように設定されるとともに、このようなヒステリシス特性を有する目標加速度に基づき駆動源の出力トルクが制御されるので、アクセルペダルの踏み増し時/踏み戻し時にそれぞれ適度な応答感(加速度が適度に変化する感覚)をドライバーに付与することができる。しかも、目標加速度に上限および下限が予め付与されることにより、踏み増し時目標加速度と踏み戻し時目標加速度との差が適度に制限されるので、同じ加速度を得るためのアクセル開度が踏み増し時と踏み戻し時とで大きく異なるのを防止することができ、当該相違がドライバーに与え得る違和感を軽減することができる。
【0008】
好ましくは、前記目標加速度設定部は、前記踏み増し時目標加速度と前記踏み戻し時目標加速度とを異ならせる前記制御(ヒステリシス制御)を、予め定められた第1開度以上かつ第2開度以下のアクセル開度範囲において実行し、前記上限加速度と前記下限加速度との差分を上下限差としたとき、前記目標加速度設定部は、前記アクセル開度が前記第1開度または前記第2開度のときに前記上下現差がゼロになり、かつ前記アクセル開度が前記第1開度と前記第2開度との中間値に近づくほど前記上下現差が拡大するように、前記上限加速度および前記下限加速度を設定する(請求項2)。
【0009】
この構成によれば、踏み増し時目標加速度と踏み戻し時目標加速度との差を特定のアクセル開度範囲内で連続的に変化させることができ、アクセル開度に応じて目標加速度を滑らかに変化させることができる。
【0010】
好ましくは、前記車両制御システムは、車両の走行路の勾配である路面勾配を検出する勾配センサをさらに備え、前記目標加速度設定部は、前記勾配センサにより検出された路面勾配が大きいほど前記上下現差が縮小するように、前記上限加速度および前記下限加速度を設定する(請求項3)。
【0011】
車両を一定速度で走行させるのに必要なアクセル開度を平衡開度とすると、仮に上下現差(上限加速度と下限加速度との差)を路面勾配にかかわらず一律に設定した場合には、車両の登坂走行時に、アクセルペダルの踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差が拡大し易くなる。これに対し、前記構成のように、路面勾配が大きいほど前記上下現差を縮小させるようにした場合には、登坂走行時に生じ得る踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差を縮小できるので、登坂走行時にドライバーが与え得る違和感を軽減することができ、登坂走行時のアクセルペダルの操作性を向上させることができる。
【0012】
好ましくは、前記アクセル開度の変化率の絶対値が所定の閾値未満であるとき、前記目標加速度設定部は、前記上限加速度および前記下限加速度に対する前記目標加速度の内分比が前回と同一の値に保持されるように前記目標加速度を設定する(請求項4)。
【0013】
アクセル開度の変化率の絶対値が小さいことは、車両の加速度を緩やかに変化させようとするドライバーの意図を表している。前記構成では、このような場合に前回と同一の内分比に従って目標加速度が設定されるので、車両の加速度が急変するのを回避することができ、意図しない車両の挙動変化によりドライバーが違和感を覚えるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の車両制御システムによれば、アクセルペダルを操作したドライバーに適度な応答感を付与し得るヒステリシス制御を採用しつつ、ドライバーの違和感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の車両制御システムが適用された車両の具体例を概略的に示す図である。
【
図2】上記車両に搭載されるエンジンの概略構成を示す図である。
【
図3】上記車両もしくはエンジンの制御系統を示す機能ブロック図である。
【
図4】車両の走行中に実行される基本制御の内容を示すフローチャートである。
【
図5】
図4のステップS2の制御の詳細を示すサブルーチンである。
【
図6】
図5のステップS12の制御の詳細を示すサブルーチンである。
【
図7】
図5のステップS13の制御の詳細を示すサブルーチンである。
【
図8】
図5のステップS14の制御の詳細を示すサブルーチンである。
【
図9】アクセル開度と目標加速度との関係を車速およびギヤ段ごとに規定した加速度特性マップを示す図である。
【
図10】特定の車速およびギヤ段におけるアクセル開度と目標加速度との関係を示すグラフである。
【
図11】車速、ギヤ段、路面勾配に応じた下限加速度の設定方法を説明するための図である。
【
図12】設定された下限加速度の一例を示す
図10相当図である。
【
図13】アクセル開度変化率と基本躍度との関係を示すグラフである。
【
図14】目標躍度の算出に用いられる第1補正係数をアクセル開度変化率との関係で示すグラフである。
【
図15】ドライバーがアクセルペダルを一旦踏み増ししてその後に踏み戻した場合の目標加速度の変化を示す図である。
【
図16】車両の登坂走行時におけるアクセル開度と目標加速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)システムの全体構成
図1は、本発明の好ましい実施形態を説明するための図であり、本発明の車両制御システムが適用された車両の具体例を概略的に示す図である。本図に示すように、車両は、エンジンルームERに搭載されたエンジン1と、エンジン1の出力軸であるクランク軸20に連結された変速機101と、変速機101に連結された一対のドライブシャフト102と、各ドライブシャフト102の車幅方向外側の端部に取り付けられた一対の車輪103とを備える。エンジンのクランク軸20の回転(出力回転)は、変速機101で変速された上で各ドライブシャフト102および各車輪103に伝達される。すなわち、本実施形態の車両に搭載されたエンジン1は、車両を走行させる動力の発生源(動力源)であって、変速機101およびドライブシャフト102を介して車輪103を回転駆動する。
【0017】
変速機101にはギヤ機構101Aが内蔵されている。ギヤ機構101Aは、変速比が異なる複数のギヤ段(例えば1速~6速)を達成することが可能な機構であり、エンジン1のクランク軸20(出力軸)と一対のドライブシャフト102とを互いに連動連結している。エンジン1の出力回転は、変速機101のギヤ機構101Aにて達成されているギヤ段に対応した変速比で変速された上で各車輪103に伝達される。変速機101は、ここではドライバーの手動操作を受けてギヤ段を変更する手動変速機(MT)である。ただし、車両もしくはエンジン1の運転条件に応じて自動的にギヤ段を変更する自動変速機(AT)を変速機101として用いてもよい。
【0018】
図2は、エンジン1の概略構成を示すシステム図である。エンジン1は、ここでは4サイクルのガソリンエンジンであり、燃料(ガソリン)と空気との混合気を燃焼させるエンジン本体10と、エンジン本体10に導入される空気(吸気)が流通する吸気通路30と、エンジン本体10から排出された排気ガスが流通する排気通路40とを備えている。
【0019】
エンジン本体10は、
図1にも示される複数の気筒11が内部に形成された筐体(シリンダブロックおよびシリンダヘッド等)と、各気筒11に往復動可能に収容されたピストン21とを備える。ピストン21の下方には上述したクランク軸20が配設されている。ピストン21の往復動に伴いクランク軸20が回転するように、ピストン21とクランク軸20とがコンロッド等を介して連結されている。エンジン本体10の下部(シリンダブロック)には、クランク軸20の角度(クランク角)およびクランク軸20の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1が設けられている。
【0020】
各気筒11のピストン21の上方には、それぞれ燃焼室12が画成されている。各燃焼室12には、吸気ポート13および排気ポート14が開口している。エンジン本体10の上部(シリンダヘッド)には、インジェクタ15、点火プラグ16、吸気弁17、および排気弁18の組合せが、気筒11ごとに設けられている。インジェクタ15は、燃焼室12に燃料(ガソリン)を噴射する噴射弁である。点火プラグ16は、噴射された燃料と空気とが混合した混合気に点火するプラグである。吸気弁17は、吸気ポート13を開閉するバルブである。排気弁18は、排気ポート14を開閉するバルブである。エンジン本体10の上部には、クランク軸20の回転に連動して各気筒11の吸気弁17および排気弁18を開閉駆動する動弁機構19が設けられている。
【0021】
吸気通路30は、各気筒11の吸気ポート13に連通するようにエンジン本体10の一側面に接続されている。吸気通路30には、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、サージタンク33とが、上流側(エンジン本体10から遠い側)からこの順に設けられている。吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。
【0022】
排気通路40は、各気筒11の排気ポート14に連通するようにエンジン本体10の他側面に接続されている。排気通路40には、排気ガス中の有害成分を浄化する複数の触媒41が設けられている。
【0023】
図3は、車両もしくはエンジン1の制御系統を示す機能ブロック図である。この
図3および先の
図1、
図2に示すように、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダル60と、ドライバーによるアクセルペダル60の操作に応じてエンジン1の出力を制御するECU50とが設けられている。また、車両には、アクセルペダル60の開度(以下、アクセル開度という)を検出するアクセルセンサSN3と、車両の走行速度(以下、車速という)を検出する車速センサSN4と、車両が走行している走行路の勾配(以下、路面勾配という)を検出する勾配センサSN5とが設けられている。なお、勾配センサSN5は、車両の傾き度合いを検出することで路面勾配を直接特定するタイプのセンサであってもよいし、車両の加速度等を検出してその検出結果に基づく推定から間接的に路面勾配を特定するタイプのセンサであってもよい。
【0024】
ECU50は、演算を行うプロセッサ(CPU)と、ROMおよびRAM等のメモリーと、各種の入出力バスとを含むマイクロコンピュータにより構成されている。ECU50には、各種センサによる検出情報が入力される。例えば、ECU50は、上述したクランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、アクセルセンサSN3、車速センサSN4、および勾配センサSN5と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された各種情報、つまりクランク角、エンジン回転速度、吸気流量、アクセル開度、車速、および路面勾配等の情報が、それぞれECU50に逐次入力される。
【0025】
ECU50は、上記各センサ(SN1~SN5等)からの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各アクチュエータを制御する。例えば、ECU50は、インジェクタ15、点火プラグ16、およびスロットル弁32を含む複数のアクチュエータと電気的に接続されており、これら各アクチュエータに対し上記判定や演算等に基づく制御信号を適宜出力する。
【0026】
上記制御に関する機能的要素として、ECU50は、目標加速度設定部51と、目標トルク設定部52と、エンジン制御部53と、ギヤ段推定部54とを有している。目標加速度設定部51は、アクセルセンサSN3により検出されたアクセル開度を含む種々の情報に基づき車両の目標加速度を設定する制御モジュールである。目標トルク設定部52は、目標加速度設定部51により設定された目標加速度に基づきエンジン1の目標トルク(クランク軸20の回転トルクの目標値)を設定する制御モジュールである。エンジン制御部53は、目標トルク設定部52により設定された目標トルクを発生させるようにエンジン1を制御する制御モジュールである。ギヤ段推定部54は、車速センサSN4により検出された車速とクランク角センサSN1により検出されたエンジン回転速度との関係から変速機101のギヤ段を推定する制御モジュールである。なお、エンジン制御部53は、本発明における「駆動源制御部」に相当する。
【0027】
(2)基本制御
次に、車両の走行中にECU50により実行される基本制御について、
図4のフローチャートを参照しつつ説明する。この
図4に示す制御がスタートすると、ECU50は、現在の車両もしくはエンジン1の状態を表す各種情報を取得する(ステップS1)。例えば、ECU50は、クランク角センサSN1により検出されたクランク角およびエンジン回転速度と、エアフローセンサSN2により検出された吸気流量と、アクセルセンサSN3により検出されたアクセル開度と、車速センサSN4により検出された車速と、勾配センサSN5により検出された路面勾配と、ギヤ段推定部54により推定された変速機101のギヤ段とをそれぞれ取得する。
【0028】
次いで、ECU50の目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度等の情報に基づいて、車両の目標加速度Acを設定する(ステップS2)。この目標加速度Acの設定方法の詳細については後述の項目(3)にて説明する。
【0029】
次いで、ECU50の目標トルク設定部52は、上記ステップS2で設定された目標加速度Acを実現するのに必要なエンジン1の出力トルクである目標トルクTrを設定する(ステップS3)。具体的に、目標トルク設定部52は、上記ステップS2で設定された目標加速度Acと、上記ステップS1で取得された車速とに基づいて、エンジン1の目標トルクTrを設定する。目標トルクTrの設定に車速が考慮されるのは、車速が高いほど車両の走行抵抗が大きくなるからである。言い換えると、目標トルク設定部52は、上記ステップS1で取得された車速等の情報から現在の車両の走行抵抗を推定するとともに、推定した当該走行抵抗に抗して車両を目標加速度Acで加速させるのに必要なエンジン1の出力トルクを算出し、算出した出力トルクを上記目標トルクTrとして設定する。
【0030】
次いで、ECU50のエンジン制御部53は、エンジン1の各アクチュエータに対し、上記ステップS3で設定された目標トルクTrを実現するための制御目標値を設定する(ステップS4)。例えば、エンジン制御部53は、エンジン1の各気筒11において上記目標トルクTrに相当する燃焼力が発生するように、インジェクタ15の噴射量/噴射時期、点火プラグ16の点火時期、およびスロットル弁32の開度を含む各制御量の目標値を設定する。
【0031】
次いで、エンジン制御部53は、上記ステップS4で設定された制御目標値に従ってエンジン1の各アクチュエータを制御する(ステップS5)。例えば、エンジン制御部53は、インジェクタ15、点火プラグ16、およびスロットル弁32の各制御量が上記ステップS4で設定された制御目標値に一致するように、インジェクタ15、点火プラグ16、およびスロットル弁32をそれぞれ制御する。これにより、上記ステップS3で設定された目標トルクTrと同等の出力トルクがエンジン1で発生する。この出力トルクは、上記ステップS2で設定された目標加速度Acと同等の加速度で車両を加速させる。
【0032】
(3)目標加速度設定の基本フロー
次に、車両の目標加速度Acを設定する上記ステップS2の制御内容を具体的に説明する。
図5は、上記ステップS2の制御の詳細を示すサブルーチンである。本図に示す制御がスタートすると、ECU50の目標加速度設定部51は、上記ステップS1(
図4)で取得されたアクセル開度、車速、およびギヤ段に基づき車両の上限加速度Amaxを算出する(ステップS11)。上限加速度Amaxは、車両の目標加速度Acの上限値であり、ドライバーがアクセルペダル60を踏み増す(アクセル開度を増加させる)操作を行っているときに採用され得る値である。なお、以下では、上記ステップS1で取得されたアクセル開度などの情報のことを、現在のアクセル開度などと言い換えることがあるが、いずれの場合も現在進行中の処理ルーチン内で取得された最新の情報ということであり、意味は同じである。
【0033】
上限加速度Amaxは、アクセル開度と目標加速度との関係(以下、これを加速度特性ともいう)を車速およびギヤ段ごとに規定した加速度特性マップに従って定められる。
図9は、この加速度特性マップの一例を示す図である。
図9には、変速機101が前進6段の変速機である場合に設定される加速度特性マップが例示されており、(a)(b)の各グラフは車速がV1,V2のときのマップをそれぞれ示している。この例において、車速V2は車速V1よりも大きいものとする(V2>V1)。各グラフ中の6本の特性線Q1~Q6は、異なるギヤ段での加速度特性を表しており、Q1は1速、Q2は2速、Q3は3速、Q4は4速、Q5は5速、Q6は6速のときの加速度特性をそれぞれ表している。言い換えると、
図9(a)は、車速がV1であるときの加速度特性をギヤ段(1速~6速)ごとに規定したマップであり、
図9(b)は、車速がV2(>V1)であるときの加速度特性をギヤ段ごとに規定したマップである。いずれのマップに規定される加速度特性についても、アクセル開度が大きいほど目標加速度が大きくなるように設定され、かつ、アクセル開度が同一の条件(ただしアクセル開度が微小なときを除く)ではギヤ段が高いほど目標加速度が小さくなるように設定されている。これらの加速度特性のマップは、V1,V2以外の種々の車速のときのマップとともに、ECU50内の記憶媒体に予め記憶されている。
【0034】
上記ステップS11において、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度、車速、およびギヤ段を、
図9に示した加速度特性マップに適用することにより、上限加速度Amaxを算出する。例えば、現在の車速がV1でかつ現在のギヤ段が3速であった場合、目標加速度設定部51は、
図9(a)のマップにおける特性線Q3上の値であって現在のアクセル開度に対応する値を、上限加速度Amaxとして算出する。
【0035】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度、車速、ギヤ段、および路面勾配に基づき車両の下限加速度Aminを算出する(ステップS12)。下限加速度Aminは、車両の目標加速度Acの下限値であり、ドライバーがアクセルペダル60を踏み戻す(アクセル開度を減少させる)操作を行っているときに採用され得る値である。この下限加速度Aminの算出方法の詳細については後述の項目(4)にて説明する。
【0036】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度、車速、およびギヤ段に基づき車両の目標躍度Jeを算出する(ステップS13)。本明細書において、躍度とは、加速度の変化率(加速度を時間微分した値)のことであり、目標躍度Jeとは、当該躍度の目標値のことである。この目標躍度Jeの算出方法の詳細については後述の項目(5)にて説明する。
【0037】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS11~S13で算出された上限加速度Amax、下限加速度Amin、および目標躍度Jeに基づき車両の目標加速度Acを算出する(ステップS14)。この目標加速度Acの算出方法の詳細については後述の項目(6)にて説明する。
【0038】
(4)下限加速度の算出フロー
次に、車両の下限加速度Aminを算出する上記ステップS12の制御内容を具体的に説明する。
図6は、上記ステップS12の制御の詳細を示すサブルーチンである。本図に示す制御がスタートすると、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度が予め定められたヒステリシス領域Rhに含まれるか否かを判定する(ステップS21)。ヒステリシス領域Rhは、下限加速度Aminと上限加速度Amaxとの間に差が設けられる領域のことであり、車速およびギヤ段の条件ごとに予め定められる。
【0039】
図10は、ヒステリシス領域Rhの一例を示すグラフである。この
図10における実線の特性線Qxは、現在の車速およびギヤ段に適合する目標加速度の特性であり、
図9のマップから選択される。例えば、現在の車速がV1でかつ現在のギヤ段が3速であった場合、特性線Qxとしては、
図9(a)のマップにおける特性線Q3が選択される。
図10に示すように、ヒステリシス領域Rhは、特性線Qx上の2つの境界点X1,X2の間に位置する領域である。このヒステリシス領域Rhにおいて、特性線Qxは、アクセル開度の変化に対する目標加速度の変化の傾き(操作ゲイン)が高開度側ほど小さくなるような特性を有する。言い換えると、ヒステリシス領域Rhは、特性線Qxのうち上側に凸の円弧を描くように湾曲した湾曲部分を包含するように設定される。ヒステリシス領域Rhの境界点X1,X2のうち、低開度側の境界点X1を第1境界点、高開度側の境界点X2を第2境界点とすると、第1境界点X1は、目標加速度がゼロ付近になる位置に設定され、第2境界点X2は、アクセル開度が全開に近い高開度(例えば90%前後)になる位置に設定される。なお、以下では、第1境界点X1に対応するアクセル開度を第1開度Px1、第2境界点X2に対応するアクセル開度を第2開度Px2と称する。
【0040】
上記ステップS21において、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度と、上述した第1・第2境界点X1,X2の各開度つまり第1開度Px1、第2開度Px2とを比較し、アクセル開度が第1開度Px1より大きくかつ第2開度Px2より小さいことが確認された場合に、当該アクセル開度がヒステリシス領域Rhに含まれていると判定する。
【0041】
上記ステップS21でNOと判定されて現在のアクセル開度がヒステリシス領域Rhから外れていることが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS11で算出された上限加速度Amaxと同一の値を下限加速度Aminとして設定する(ステップS26)。このことは、上記ステップS11で算出された上限加速度Amax(つまり
図10の特性線Qx上の値)がそのまま目標加速度Acとして設定されることを意味する。ただし、アクセル開度がヒステリシス領域Rhから外れているため、ここで設定される目標加速度Acは、ヒステリシス領域Rhの外側に位置する特性線Qx上のいずれかの値となる。
【0042】
一方、上記ステップS21でYESと判定されてアクセル開度がヒステリシス領域Rhに含まれることが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度に基づいて仮下限加速度Amin0を算出する(ステップS22)。具体的に、目標加速度設定部51は、
図10に示す仮下限ラインQy0上の値を仮下限加速度Amin0として算出する。仮下限ラインQy0は、ヒステリシス領域Rhの低開度側の境界である第1境界点X1と、ヒステリシス領域Rhの高開度側の境界である第2境界点X2とを直線状に結んだラインとして規定される。上記ステップS22において、目標加速度設定部51は、この仮下限ラインQy0上の値であって現在のアクセル開度に対応する値を、仮下限加速度Amin0として算出する。
【0043】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得された車速およびギヤ段に基づいて、設定すべき下限加速度Aminと上限加速度Amaxおよび仮下限加速度Amin0との関係を規定する第1内分比α1を算出する(ステップS23)。すなわち、下限加速度Aminは、上限加速度Amaxと仮下限加速度Amin0との間で可変的に設定される。そこで、ステップS23では、上限加速度Amaxまたは仮下限加速度Amin0にどの程度近い値に下限加速度Aminを設定するかを定めるべく、車速およびギヤ段に基づく第1内分比α1を算出する。
【0044】
第1内分比α1は、0から1の間で可変的に設定される。具体的に、第1内分比α1は、下限加速度Aminが上限加速度Amaxに一致する場合は0に、下限加速度Aminが仮下限加速度Amin0に一致する場合は1に設定される。また、第1内分比α1は、下限加速度Aminが上限加速度Amaxより小さくかつ仮下限加速度Amin0より大きい場合は0と1の中間値に設定される。言い換えると、第1内分比α1が0に近いほど下限加速度Aminは上限加速度Amaxに近い(仮下限加速度Amin0から遠い)値に設定され、第1内分比α1が1に近いほど下限加速度Aminは仮下限加速度Amin0に近い(上限加速度Amaxから遠い)値に設定される。
【0045】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得された路面勾配およびギヤ段に基づき第2内分比α2を算出する(ステップS24)。第2内分比α2も、上述した第1内分比α1と同様に、設定すべき下限加速度Aminと上限加速度Amaxおよび仮下限加速度Amin0との関係を規定する値であり、0から1の間で可変的に設定される。第2内分比α2が0に近いほど下限加速度Aminは上限加速度Amaxに近い(仮下限加速度Amin0から遠い)値に設定され、第2内分比α2が1に近いほど下限加速度Aminは仮下限加速度Amin0に近い(上限加速度Amaxから遠い)値に設定される。ただし、第2内分比α2を定めるパラメータは路面勾配およびギヤ段であり、その意味において車速およびギヤ段に基づき定められる第1内分比α1とは異なる。
【0046】
上記ステップS23,S24で設定される第1内分比α1および第2内分比α2は、
図11に示すように、車速、ギヤ段、路面勾配のいずれかが大きいほど小さくなるように設定される。このことは、車速が大きいほど下限加速度Aminが上限加速度Amaxに近い値に設定され、ギヤ段が大きいほど下限加速度Aminが上限加速度Amaxに近い値に設定され、路面勾配が大きいほど下限加速度Aminが上限加速度Amaxに近い値に設定されることを意味する。なお、ここでいう「路面勾配が大きい」とは、登坂路の勾配をプラスの勾配として扱うことを前提とする。言い換えると、路面勾配が大きいとは、車両の走行路が比較的急な登坂路であることを意味する。
【0047】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS11で算出された上限加速度Amaxと、上記ステップS22で算出された仮下限加速度Amin0と、上記ステップS23,S24で算出された第1内分比α1および第2内分比α2とに基づいて、車両の下限加速度Aminを算出する(ステップS25)。具体的に、目標加速度設定部51は、下式(1)を用いて下限加速度Aminを算出する。
【0048】
Amin=Amax-min[α1,max{(Amax-Ac’)/(Amax-Amin0),α2}]×(Amax-Amin0) ‥‥(1)
ここに、Ac’は、前回の目標加速度、つまり既に完了した直近の処理ルーチンにより算出された目標加速度のことである。
【0049】
上記式(1)によれば、下限加速度Aminは、原則として、上限加速度Amaxと、仮下限加速度Amin0と、第1内分比α1および第2内分比α2のいずれか小さい方の値とに基づき算出される。すなわち、上限加速度Amaxと仮下限加速度Amin0との差分(Amax-Amin0)に第1内分比α1および第2内分比α2のいずれか小さい方の値を乗じた値を上限加速度Amaxから減じることにより、下限加速度Aminが算出される。ただし、上限加速度Amaxと前回の目標加速度Acとの差分(Amax-Ac’)を上限加速度Amaxと仮下限加速度Amin0との差分(Amax-Amin0)で除して得られた比率(Amax-Ac’)/(Amax-Amin0)が第2内分比αよりも大きくかつ第1内分比α1よりも小さい場合には、上記各内分比α1,α2に代えて当該比率が用いられる。
【0050】
図12は、上記ステップS25で算出された下限加速度Aminの一例を示す図である。本図に示す例において、下限加速度Aminは、上限加速度Amaxを規定する特性線Qxと、仮下限加速度Amin0を規定する仮下限ラインQy0との間に位置する下限ラインQy上に設定されている。下限ラインQyは、特性線Qxと仮下限ラインQy0との間を一定の割合で分割するラインであり、この下限ラインQy上の値であって現在のアクセル開度に対応する値が、上記下限加速度Aminとして算出される。
【0051】
図12に示すように、上限加速度Amaxと下限加速度Aminとの差分を上下現差HAとしたとき、この上下現差HAは、ヒステリシス領域Rhの境界(第1境界点X1または第2境界点X2)に近いほど小さくなり、ヒステリシス領域Rhの中央側ほど大きくなる。言い換えると、上下現差HAは、アクセル開度がヒステリシス領域Rhの境界開度つまり第1開度Px1または第2開度Px2であるときにそれぞれゼロになり、アクセル開度が第1開度Px1と第2開度Px2との中間値に近づくほど拡大するように設定される。上記ステップS25において、目標加速度設定部51は、上下現差HAがこのような傾向で変化するように、下限加速度Aminを設定する。
【0052】
(5)目標躍度の算出フロー
次に、車両の目標躍度Jeを算出する上記ステップS13の制御内容を具体的に説明する。
図7は、上記ステップS13の制御の詳細を示すサブルーチンである。本図に示す制御がスタートすると、目標加速度設定部51は、アクセル開度の変化率である開度変化率ΔPを算出する(ステップS31)。開度変化率ΔPは、アクセル開度を時間微分した値であり、例えば直近の所定期間にわたり取得されたアクセル開度の履歴から算出される。この場合、目標加速度設定部51は、現在進行中の処理ルーチン内(上記ステップS1)で取得されたアクセル開度と、既に完了した直近の処理ルーチン内で取得されたアクセル開度とを含む複数のアクセル開度のデータの変化に基づいて、開度変化率ΔPを算出する。開度変化率ΔPは、アクセルペダル60が踏み増しされているときはプラスの値として算出され、アクセルペダル60が踏み戻しされているときはマイナスの値として算出される。なお、以下では開度変化率ΔPのことを適宜アクセル開度変化率ΔPと称する。
【0053】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS31で算出されたアクセル開度変化率ΔPと、上記ステップS1で取得された車速およびギヤ段とに基づいて、基本躍度Je0を算出する(ステップS32)。具体的に、目標加速度設定部51は、予め定められたマップ等に基づき車速およびギヤ段から求められる係数を、アクセル開度変化率ΔPに乗じることにより、基本躍度Je0を算出する。なお、ここで用いられる係数(アクセル開度変化率ΔPに乗じられる係数)は、車速およびギヤ段に応じて適宜定め得るが、例えばギヤ段が高いほど小さくなるように設定される。
【0054】
図13は、アクセル開度変化率ΔPと基本躍度Je0との関係を示すグラフである。上述したように、車速およびギヤ段から定まる係数をアクセル開度変化率ΔPに乗じて得られる値が基本躍度Je0であるから、この基本躍度Je0は、車速およびギヤ段が同一の条件ではアクセル開度変化率ΔPに比例して変化する。すなわち、基本躍度Je0は、アクセルペダル60が踏み増しされているとき(ΔPがプラスのとき)はプラスの値をとり、かつその踏み増し速度が速いほどプラス側に増大するように算出される。逆に、基本躍度Je0は、アクセルペダル60が踏み戻しされているとき(ΔPがマイナスのとき)はマイナスの値をとり、かつその踏み戻し速度が速いほどマイナス側に増大するように算出される。
【0055】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS31で算出されたアクセル開度変化率ΔPに基づき第1補正係数k1を算出する(ステップS33)。この第1補正係数k1の算出には、例えば
図14に示されるマップが適用される。これにより、第1補正係数k1は、アクセル開度変化率ΔPが-p1以上かつ+p1以下であるときに0に設定され、アクセル開度変化率ΔPが-p1より小さいかまたは+p1より大きいときに1に設定される。なお、p1(絶対値)は比較的小さい値に設定される。これは、車両の振動等に起因してアクセル開度が意図せず微小変動したような場合にまで目標加速度の変化が及ぶのを避けるためである。
【0056】
次いで、目標加速度設定部51は、前回の目標加速度Ac’と、上記ステップS11で算出された上限加速度Amaxと、上記ステップS12で算出された下限加速度Aminとに基づいて、前回内分比α’を算出する(ステップS34)。前回内分比α’は、既に完了した直近の処理ルーチンにより算出された目標加速度である前回の目標加速度Ac’と、上限加速度Amaxおよび下限加速度Aminとの関係を規定する値であり、0から1の間で可変的に設定される。前回の目標加速度Ac’が上限加速度Amaxに近い(下限加速度Aminから遠い)ほど前回内分比α’は0に近い値に設定され、前回の目標加速度Ac’が下限加速度Aminに近い(上限加速度Amaxから遠い)ほど前回内分比α’は1に近い値に設定される。
【0057】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS31で算出されたアクセル開度変化率ΔPがゼロより大きいか否かを判定する(ステップS35)。アクセル開度変化率ΔPがゼロより大きいことは、アクセル開度が増加中であること、つまりアクセルペダル60の踏み増しが行われていることを意味する。逆に、アクセル開度変化率ΔPがゼロより小さいことは、アクセル開度が減少中であること、つまりアクセルペダル60の踏み戻しが行われていることを意味する。
【0058】
上記ステップS35でYESと判定されてアクセル開度が増加中である(アクセルペダル60が踏み増しされている)ことが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度と、上記ステップS34で算出された前回内分比α’とに基づいて、第2補正係数k2を算出する(ステップS36)。例えば、目標加速度設定部51は、予め定められたマップに現在のアクセル開度および前回内分比α’を適用することにより、第2補正係数k2を算出する。第2補正係数k2は、アクセル開度が大きいほど小さくなり、かつ前回内分比α’が小さいほど小さくなるように設定される。
【0059】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS32で算出された基本躍度Je0と、上記ステップS33で算出された第1補正係数k1と、上記ステップS36で算出された第2補正係数k2とに基づいて、車両の目標躍度Jeを算出する(ステップS37)。具体的に、目標加速度設定部51は、下式(2)を用いて目標躍度Jeを算出する。
【0060】
Je=Je0×k1×k2 ‥‥(2)
ここで、当該ステップS37に至る前提として、アクセル開度変化率ΔPはプラスであるから(ステップS35でYES)、上記式(2)中の基本躍度Je0はプラスである。また、第2補正係数k2は、上述したとおり、前回内分比α’が小さいほど小さくなる係数である。したがって、上記式(2)の演算により、目標躍度Jeは、ゼロより大きい範囲で前回内分比α’が小さいほど小さくなるように算出される。このことは、前回の目標加速度Ac’が上限加速度Amaxに近いほど目標躍度Jeが小さく(ゼロに近く)なることを意味する。
【0061】
次に、上記ステップS35でNOと判定された場合、つまりアクセル開度が減少中である(アクセルペダル60が踏み戻しされている)かまたはアクセル開度が一定に保持されていることが確認された場合の制御について説明する。この場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたアクセル開度およびギヤ段に基づき第3補正係数k3を算出する(ステップS39)。例えば、目標加速度設定部51は、予め定められたマップに現在のアクセル開度およびギヤ段を適用することにより、第3補正係数k3を算出する。第3補正係数k3は、アクセル開度が大きいほど小さくなり、かつギヤ段が大きいほど小さくなるように設定される。
【0062】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS1で取得されたギヤ段と、上記ステップS34で算出された前回内分比α’とに基づいて、第4補正係数k4を算出する(ステップS40)。例えば、目標加速度設定部51は、予め定められたマップに現在のギヤ段および前回内分比α’を適用することにより、第4補正係数k4を算出する。第4補正係数k4は、ギヤ段が大きいほど小さくなり、かつ前回内分比α’が大きいほど小さくなるように設定される。
【0063】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS32で算出された基本躍度Je0と、上記ステップS33で算出された第1補正係数k1と、上記ステップS39で算出された第3補正係数k3と、上記ステップS40で算出された第4補正係数k4とに基づいて、車両の目標躍度Jeを算出する(ステップS41)。具体的に、目標加速度設定部51は、下式(3)を用いて目標躍度Jeを算出する。
【0064】
Je=Je0×k1×k3×k4 ‥‥(3)
ここで、当該ステップS41に至る前提として、アクセル開度変化率ΔPはゼロまたはマイナスであるから(ステップS35でNO)、上記式(3)中の基本躍度Je0はゼロまたはマイナスである。また、第4補正係数k4は、上述したとおり、前回内分比α’が大きいほど小さくなる係数である。したがって、上記式(3)の演算により、目標躍度Jeは、ゼロ以下の範囲において、前回内分比α’が大きいほどその絶対値が小さくなるように算出される。このことは、前回の目標加速度Ac’が下限加速度Aminに近いほど目標躍度Jeの絶対値が小さく(ゼロに近く)なることを意味する。
【0065】
(6)目標加速度の算出フロー
次に、車両の目標加速度Acを算出する上記ステップS14の制御内容を具体的に説明する。
図8は、上記ステップS14の制御の詳細を示すサブルーチンである。本図に示す制御がスタートすると、目標加速度設定部51は、目標躍度Jeを積分した積分値Zjを算出する(ステップS51)。積分値Zjは、例えば直近の所定期間にわたり算出された目標躍度Jeを積算することにより算出される。この場合、目標加速度設定部51は、現在進行中の処理ルーチン内(上記ステップS13)で算出された目標躍度Jeと、既に完了した直近の処理ルーチン内で既に算出された目標躍度Jeとを含む複数の目標躍度Jeのデータを積算することにより、積分値Zjを算出する。
【0066】
次いで、目標加速度設定部51は、上記ステップS13で算出された(現在の)目標躍度Jeの絶対値が所定の閾値βより小さいか否か、つまり-β<Je<βの関係が成立するか否かを判定する(ステップS52)。
【0067】
上記ステップS52でYESと判定されて目標躍度Jeの絶対値が閾値βより小さいことが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS11で算出された上限加速度Amaxと、上記ステップS12で算出された下限加速度Aminと、上記ステップS34で算出された前回内分比α’とに基づいて、目標加速度Acを算出する(ステップS53)。具体的に、目標加速度設定部51は、下式(4)を用いて目標加速度Acを算出する。
【0068】
Ac=Amax-α’×(Amax-Amin) ‥‥(4)
上記式(4)のとおり、上記ステップS53では、前回と同一の内分比を用いて目標加速度Acが算出される。すなわち、上記ステップS53が実行された場合、目標加速度Acは、上限加速度Amaxと下限加速度Aminとの間を同一の割合で分割するような値に保持される。
【0069】
一方、上記ステップS52でYESと判定されて目標躍度Jeの絶対値が閾値β以上であることが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS51で算出された目標躍度Jeの積分値Zjが上記ステップS11で算出された上限加速度Amax以上であるか否かを判定する(ステップS54)。
【0070】
上記ステップS54でYESと判定されて目標躍度Jeの積分値Zjが上限加速度Amax以上であることが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS11で算出された上限加速度Amaxを目標加速度Acとして設定する(ステップS55)。
【0071】
一方、上記ステップS54でNOと判定されて目標躍度Jeの積分値Zjが上限加速度Amaxより小さいことが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS51で算出された目標躍度Jeの積分値Zjが上記ステップS12で算出された下限加速度Amin以下であるか否かを判定する(ステップS56)。
【0072】
上記ステップS56でYESと判定されて目標躍度Jeの積分値Zjが下限加速度Amin以下であることが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS12で算出された下限加速度Aminを目標加速度Acとして設定する(ステップS57)。
【0073】
一方、上記ステップS56でNOと判定されて目標躍度Jeの積分値Zjが下限加速度Aminより大きいことが確認された場合、つまりAmin<Zj<Amaxの関係が成立することが確認された場合、目標加速度設定部51は、上記ステップS51で算出された目標躍度Jeの積分値Zjを目標加速度Acとして設定する(ステップS58)。
【0074】
(7)作用等
以上説明したように、本実施形態では、車両の躍度(加速度の変化率)の目標値である目標躍度Jeがアクセル開度変化率ΔPから都度算出されるとともに、当該目標躍度Jeを積分した値である積分値Zjに基づき車両の目標加速度Acが設定されるので、アクセルペダル60の操作ゲイン(アクセル開度の変化に対する加速度の変化の傾き)が高開度側ほど小さくなる開度範囲つまりヒステリシス領域Rhにおいて、アクセルペダル60が踏み戻しされているときの目標加速度Ac(以下、踏み戻し時目標加速度ともいう)を、アクセルペダル60が踏み増しされているときの目標加速度Ac(以下、踏み増し時目標加速度ともいう)よりも小さくすることができる。
【0075】
すなわち、アクセル開度変化率ΔPに応じて(ΔPに比例するように)設定される目標躍度Jeは、アクセル開度が増加する(ΔPがプラスになる)踏み増し時よりも、アクセル開度が減少する(ΔPがマイナスになる)踏み戻し時の方が小さくなる。したがって、このような目標躍度Jeを積分した積分値Zjは、アクセル開度が同一の条件下で、踏み戻し時の方が踏み増し時よりも小さくなる。このことは、当該積分値Zjに基づき算出される目標加速度Acが、アクセルペダル60の踏み戻し時は相対的に小さくなることを意味する。これにより、操作ゲインが高開度側ほど小さくなるヒステリシス領域Rhにおいて、アクセルペダル60を踏み戻したときの車両の加速度の変化をドライバーに実感させ易くすることができる。
【0076】
例えば、上述したヒステリシス領域Rhでは、特性線Qxの傾きに相当する操作ゲインが高開度側ほど小さくなるように目標加速度が設定されるので、当該特性線Qxに沿って一律に目標加速度を設定した場合には、特にアクセルペダル60の踏み戻し時にドライバーが違和感を覚えるおそれがある。例えば、ドライバーがヒステリシス領域Rh内でアクセルペダル60を踏み増ししている状況では、上記特性線Qxに沿って高開度域で操作ゲインが低下しても、エンジンの出力限界を感じ取っているドライバーにとって、そのような操作ゲインの低下は特段の違和感につながるものではない。しかしながら、その後にアクセルペダルが踏み戻されたときに、同一の特性線Qxに沿って目標加速度を変化させた場合には、上述した操作ゲインの低下が原因でドライバーが違和感を覚えるおそれがある。すなわち、アクセルペダル60を踏み戻しているにもかかわらず加速度の変化(低下)がドライバーに実感され難い小さいレベルに留まる可能性が高くなり、そのことがドライバーに違和感(例えば車両が勝手に加速しているような感覚)を与えるおそれがある。これに対し、本実施形態では、ヒステリシス領域Rhにおいて、踏み戻し時目標加速度の方が踏み増し時目標加速度よりも小さくされるので、アクセルペダル60を踏み戻したときの車両の加速度の変化(挙動変化)をドライバーに実感させ易くすることができ、アクセルペダル60による車両の操作性を向上させることができる。
【0077】
また、本実施形態では、アクセル開度を含む複数の情報(アクセル開度、車速、ギヤ段、路面勾配)に基づき上限加速度Amaxおよび下限加速度Aminが設定されるとともに、これら上限・下限加速度Amax,Aminの間に上述した目標躍度Jeの積分値Zjが収まる場合にのみ当該積分値Zjが目標加速度Acとして採用される。言い換えると、積分値Zjが上限加速度Amax以上である場合には当該上限加速度Amaxが、積分値Zjが下限加速度Amin以下である場合には当該下限加速度Aminが、それぞれ目標加速度Acとして採用される。このような構成によれば、踏み増し時目標加速度と踏み戻し時目標加速度との差が適度に制限されるので、同じ加速度を得るためのアクセル開度が踏み増し時と踏み戻し時とで大きく異なるのを防止することができる。これにより、アクセルペダル60の踏み増し/踏み戻し時にそれぞれ適度な応答感(加速度が適度に変化する感覚)をドライバーに付与しつつ、踏み増し時/踏み戻し時の加速特性の相違がドライバーに与える違和感を軽減することができる。
【0078】
図15は、上記のような作用効果を具体的に説明するための図であり、ドライバーがアクセルペダル60を一旦踏み増ししてその後に踏み戻した場合の目標加速度Acの変化を示す図である。この
図15の例では、アクセルペダル60の踏み増しによりアクセル開度がP1からP2まで増大した後、アクセルペダル60の踏み戻しによりアクセル開度がP2からP0(<P1)まで低下している。このようなアクセル開度の変化は、目標加速度AcをAc1→Ac2→Ac3→Ac4へと変化させる。Ac1は、アクセルペダル60の踏み増しが開始されたときの目標加速度であり、その時点のアクセル開度P1における上限加速度Amaxと下限加速度Aminとの中間値となっている。Ac2は、アクセルペダル60の踏み増しが終了したときの目標加速度であり、その時点のアクセル開度P2における上限加速度Amaxに一致している。Ac3は、アクセル開度がP2に減少するまでアクセルペダル60が踏み戻されたときの目標加速度であり、踏み増し開始時の目標加速度Ac1よりも小さくなっている(ここではアクセル開度P2における下限加速度Aminにほぼ一致している)。Ac4は、アクセルペダル60の踏み戻しが終了したときの目標加速度であり、その時点のアクセル開度P0における下限加速度Aminに一致している。
【0079】
上記の例において、P1からP2までの同一のアクセル開度区間において目標加速度Acを比較すると、アクセルペダル60が踏み戻しされているときの目標加速度である踏み戻し時目標加速度(太い一点鎖線矢印)は、アクセルペダル60が踏み増しされているときの目標加速度である踏み増し時目標加速度(太い実線矢印)よりも小さくなっている。このようなヒステリシス特性が付与されることにより、本実施形態では、仮にヒステリシス特性がなかった場合と比べて、アクセルペダル60の踏み戻しによる車両の加速度の変化(低下)が大きくなり、加速度の変化を的確にドライバーに実感させることができる。これにより、アクセルペダル60の踏み戻し時に適度な応答感が得られるので、アクセルペダル60による車両の操作性を向上させることができる。また、踏み増し時目標加速度および踏み戻し時目標加速度は、上限加速度Amaxを規定する特性線Qxと、下限加速度Aminを規定する下限ラインQyとの間に限って設定されるので、踏み増し時目標加速度と踏み戻し時目標加速度との差がむやみに拡大するのを防止でき、ドライバーの違和感を軽減することができる。
【0080】
また、本実施形態では、アクセル開度が第1開度Px1以上かつ第2開度Px2以下のヒステリシス領域Rhにおいて、上限加速度Amaxおよび下限加速度Aminが、ヒステリシス領域Rhの中央側ほど両者の差分(上下現差HA)が拡大するように設定される。すなわち、上限加速度Amaxおよび下限加速度Aminは、アクセル開度が第1開度Px1または第2開度Px2のときに上下現差HAがゼロになり、かつアクセル開度が第1開度Px1と第2開度Px2との中間値に近づくほど上下現差HAが拡大するように設定される。このような構成によれば、踏み増し時目標加速度と踏み戻し時目標加速度との差をヒステリシス領域Rh内で連続的に変化させることができ、アクセル開度に応じて目標加速度を滑らかに変化させることができる。
【0081】
また、本実施形態では、下限加速度Aminを算出する際に、路面勾配(登坂勾配)が大きいほど小さくなる第2内分比α2が適用されることにより、路面勾配が大きいほど上下現差HAが縮小するように(下限加速度Aminが上限加速度Amaxに近づくように)設定されるので、車両を一定速度で走行させるのに必要な開度(以下、これを平衡開度という)が登坂走行時にばらつくのを回避でき、登坂走行時のアクセルペダル60の操作性を向上させることができる。
【0082】
図16は、登坂走行時における加速度特性(アクセル開度と目標加速度との関係)を示すグラフである。本図において、ラインL0,L1は、それぞれ加速度がゼロになる等加速度線(ゼロ加速度線)を表しており、L0が勾配ゼロの平坦路を走行するときのもので、L1が勾配がプラスの登坂路を走行するときのものである。登坂走行時のゼロ加速度線であるラインL1は、平坦路走行時のゼロ加速度線であるラインL0よりも上側にシフトする。シフトしたラインL1は、ヒステリシス領域Rh内の特性線を横切る高さに位置するようになる。その結果、車両を一定速度(加速度ゼロ)で走行させるのに必要なアクセル開度つまり平衡開度は、アクセルペダル60の踏み増し時と踏み戻し時とで異なるようになる。この踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差は、路面勾配がゼロから大きくなるほど(ラインL1がラインL0から遠ざかるほど)拡大するが、特に上下現差HAを路面勾配にかかわらず一律に設定した場合には、当該傾向が顕著になる。例えば、下限加速度Aminを規定する下限ラインQyが、ヒステリシス領域Rhの境界点X1,X2どうしを直線状に結ぶラインQy2(
図10の仮下限ラインQy0に同じ)で固定されていたと仮定すると、踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差は、最大でHP2になる可能性がある。すなわち、路面勾配と無関係な一律の下限ラインQy2を採用した場合、踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差は、最大で、上限加速度Amaxを規定する特性線Qx上の開度P10と、上記下限ラインQy2上の開度P12との差分であるHP2(=P12-P10)まで拡大する可能性がある。これに対し、本実施形態の方法で下限加速度Aminを設定した場合、つまり路面勾配が大きいほど特性線Qxに近づく下限ラインQy1を採用して当該下限ラインQy1上に下限加速度Aminを設定した場合には、踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差は、最大でもHP1までしか拡大しない。すなわち、上記特性線Qx上の開度P10と、上記下限ラインQy1上の開度P11との差分であるHP1(=P11-P10)が、踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差の最大値となり、この値は上述したケース(路面勾配とは無関係に下限加速度Aminを設定した場合)の最大差分HP2よりも小さくなる。
【0083】
このように、本実施形態では、登坂走行時に生じ得る踏み増し時/踏み戻し時の平衡開度の差を縮小できるので、登坂走行時にドライバーに与え得る違和感を軽減することができ、登坂走行時のアクセルペダル60の操作性を向上させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、目標躍度Jeの絶対値が所定の閾値β以下である場合、換言すればアクセル開度変化率ΔPがゼロを含む所定範囲である場合に、上限加速度Amaxおよび下限加速度Aminに対する目標加速度Acの内分比が前回と同一の値(前回内分比α’)に保持されるので、ドライバーの意図に沿って車両の加速度を緩やかに変化させることができる。すなわち、アクセル開度変化率ΔPの絶対値が小さいことは、車両の加速度を緩やかに変化させようとするドライバーの意図を表している。本実施形態では、このような場合に前回と同一の内分比に従って目標加速度Acが設定されるので、車両の加速度が急変するのを回避することができ、意図しない車両の挙動変化によりドライバーが違和感を覚えるのを防止することができる。
【0085】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態では、車両の駆動源として火花点火式内燃機関であるガソリンエンジンを用いたが、駆動源は走行用の動力を発生し得るものであればよく、例えばディーゼルエンジンを駆動源として用いてもよい。また、駆動源は内燃機関に限られず、電気モータであってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 エンジン(駆動源)
51 目標加速度設定部
52 目標トルク設定部
53 エンジン制御部(駆動源制御部)
60 アクセルペダル
Amax 上限加速度
Amin 下限加速度
HA 上下現差
Px1 第1開度
Px2 第2開度
SN3 アクセルセンサ
SN5 勾配センサ