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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154272
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20221005BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20221005BHJP
   H01F 27/36 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01F37/00 M
H01F37/00 R
H01F37/00 A
H01F37/00 C
H01F37/00 G
H01F27/24 K
H01F27/36 154
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057208
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】對馬 麻美
(72)【発明者】
【氏名】濱田 勉
【テーマコード(参考)】
5E058
【Fターム(参考)】
5E058CC13
5E058CC15
(57)【要約】
【課題】漏れ磁束の面でもリップル電流の面でも他の回路部品に与える悪影響を低減させることができるリアクトルを提供する。
【解決手段】インターリーブ方式のスイッチング回路に用いられるリアクトル1は、リアクトル本体2と金属ケース5と磁性体板6とを備えるようにした。リアクトル本体2は、磁性体から成る環状コア4と、環状コア4に装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイル3,3とを含んで成る。金属ケース5は、リアクトル本体2を完全に収容する。即ち、金属ケース5は、設置面51、四方の側面52及び対向面53によって、リアクトル本体2を上下を含めて全周囲に亘って覆う。磁性体板6は、リアクトル本体2と共に金属ケース5内に設けられ、コイル3とは離間しつつ、当該コイル3に沿って延びる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターリーブ方式のスイッチング回路に用いられるリアクトルであって、
磁性体から成る環状コアと、
前記環状コアに装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイルと、
前記環状コアと前記2個のコイルを含んで成るリアクトル本体と、
前記リアクトル本体を完全に収容する金属ケースと、
前記リアクトル本体と共に前記金属ケース内に設けられ、前記コイルとは離間しつつ、当該コイルに沿って延びる磁性体板と、
を備えること、
を特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記コイルは、3.6cm以上30cm以下の断面積を有する平角状の導電線が巻回されて成り、
前記環状コアは、最大微分透磁率が30以上であること、
を特徴とする請求項1記載のリアクトル。
【請求項3】
前記コイルは、20A以上200A以下の電流が流されること、
を特徴とする請求項2記載のリアクトル。
【請求項4】
前記磁性体板は、前記環状コアの環状面と対面する前記金属ケースの対向面に向けて、前記環状コアよりも高く立ち上がっていること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のリアクトル。
【請求項5】
前記磁性体板は、前記環状コアの環状面と対面する前記金属ケースの対向面の近傍まで高く立ち上がっていること、
を特徴とする請求項4記載のリアクトル。
【請求項6】
前記磁性体板は、前記2個のコイルの間に延在すること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のリアクトル。
【請求項7】
前記磁性体板は、少なくとも2枚が前記2個のコイルを挟んで当該コイル群の両外側に設けられていること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気結合を有するインターリーブ方式のスイッチング回路に用いられるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
昇圧チョッパ等のスイッチング回路としてインターリーブ方式がある。インターリーブ方式のスイッチング回路は、リアクトルとスイッチング素子とダイオードを多相化して有し、スイッチング素子は位相をずらして交互にオンオフされる。各相のリップル電流が相殺され、スイッチング回路内の平滑コンデンサを大幅に小型化できるため、高電力密度化が実現される。更に、2つのコイルを磁気結合させたリアクトルをインターリーブ方式のスイッチング回路に用いることで、直流磁束を互いに打ち消しつつ、交流磁束を共有でき、リアクトルのコア内の磁束が低減され、リアクトルも小型化でき、更なる高電力密度化が実現される。
【0003】
磁気結合を有するインターリーブ方式のスイッチング回路は、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等の車載用途のように20A~200A程度の大電流が流れる状況で使用される可能性がある。そこで、2つのコイルを磁気結合させたリアクトル(以下、単にリアクトルという)についても、コイルに用いられる導電線を平角線としたり、導電線の断面積を例えば3.6cm以上30cm以下にしたり、コアの最大微分透磁率を30以上にしたりして、大電流用途に対応させている。
【0004】
リアクトルに対する上記のような大電流用途への対応は、リアクトルから生じる漏れ磁束の増大を招いている。リアクトルに対する上記のような大電流用途への対応による漏れ磁束は、スイッチング回路内の他の電気部品等に悪影響を与えかねない。そこで、対応策の一つとして、コイルとコアの集合体であるリアクトル本体を、上面が開口した金属ケースに収容し、金属製のカバーで開口を閉じる案が検討されている。要するに、リアクトル本体の全周囲を上下を含めて金属で覆ってしまうことで、リアクトル本体で発生する漏れ磁束を金属ケース内に閉じ込め、金属ケース外の他の電気部品が存在する環境に漏洩する漏れ磁束を抑制しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6763013号
【特許文献2】特開平11-102825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方のコイルから発生した漏れ磁束の一部は、金属ケース内に閉じ込められたために、リアクトル本体に戻り、他方のコイル内を貫いてしまう。そのため、相互インダクタンスの結合度kが変化する。ここで、リップル電流と相互インダクタンスの結合度kには、下記式(1)及び式(2)のように関係式が成り立つ。
【0007】
式中、di1/dtは、一個の環状コアに嵌る2個のコイルのうちの一方に流れるリップル電流の時間変化であり、V1は同コイルへの印加電圧である。di2/dtは、一個の環状コアに嵌る2個のコイルのうちの他方に流れるリップル電流の時間変化であり、V2は同コイルへの印加電圧である。Lは自己インダクタンスであり、kは相互インダクタンスの結合度である。
【0008】
上記式(1)及び(2)で示すように、結合度kが変化するとリップル電流も変化する。金属ケース内に漏れ磁束を閉じ込めたことを起因としてリップル電流が大きくなる方向に結合度kが変化してしまった場合には、実効電流が大きくなり、リアクトルの損失が上がり、他の回路部品に対しても悪影響を与える虞がある。即ち、金属ケースを設けることで、漏れ磁束の面で他の回路部品に対する悪影響を抑えることができるが、代わりにリップル電流の面で他の回路部品に悪影響を与える虞が生じる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、漏れ磁束の面でもリップル電流の面でも他の回路部品に与える悪影響を低減させることができるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の実施形態に係るリアクトルは、インターリーブ方式のスイッチング回路に用いられるリアクトルであって、磁性体から成る環状コアと、前記環状コアに装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイルと、前記環状コアと前記2個のコイルを含んで成るリアクトル本体と、前記リアクトル本体を完全に収容する金属ケースと、前記リアクトル本体と共に前記金属ケース内に設けられ、前記コイルとは離間しつつ、当該コイルに沿って延びる磁性体板と、を備えること、を特徴とする。
【0011】
前記コイルは、3.6cm以上30cm以下の断面積を有する平角状の導電線が巻回されて成り、前記コアは、最大微分透磁率が30以上であるようにしてもよい。
【0012】
前記コイルは、20A以上200A以下の電流が流されるようにしてもよい。
【0013】
前記磁性体板は、前記環状コアの環状面と対面する前記金属ケースの対向面に向けて、前記環状コアよりも高く立ち上がっているようにしてもよい。前記磁性体板は、前記環状コアの環状面と対面する前記金属ケースの対向面の近傍まで高く立ち上がっているようにしてもよい。
【0014】
前記磁性体板は、前記2個のコイルの間に延在するようにしてもよい。
【0015】
前記磁性体板は、少なくとも2枚が前記2個のコイルを挟んで当該コイル群の両外側に設けられているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、漏れ磁束の面でもリップル電流の面でも、他の回路部品に対して悪影響を与える虞を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】金属ケースを透視した第1の例のリアクトルの上面図である。
図2】第1の例のリアクトルのA-A断面図である。
図3】金属ケースを透視した第2の例のリアクトルの上面図である。
図4】第2の例のリアクトルのB-B断面図である。
図5】金属ケースを透視した第3の例のリアクトルの上面図である。
図6】第3の例のリアクトルのC-C図である。
図7】比較例のリアクトルの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のリアクトルについて説明する。各図面においては、理解容易のため、厚み、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0019】
図1は、後述する金属ケース5内を透視した第1の例のリアクトル1の上面図である。図2は、第1の例のリアクトルのA-A断面図である。図1及び図2に示すように、リアクトル1は、2個のコイル3,3と1個の環状コア4の集合体であるリアクトル本体2を備えている。コイル3,3は、通電により巻数に従って磁束を発生させる。環状コア4は、コイル3,3が発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。即ち、リアクトル本体2は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0020】
このリアクトル1は、例えば昇圧コンバータ回路等のような、磁気結合リアクトルを用いたインターリーブ形式のスイッチング回路に組み込まれる。2個のコイル3,3は環状コア4に嵌っており、スイッチング回路の各相に分配して組み込まれ、電源に一端が接続され、組み込まれた相のダイオード及びスイッチング素子に他端が接続されることになる。2個のコイル3,3の巻数は同数であり、逆方向の磁束が発生するような巻回方向に巻かれ、または逆方向の磁束が発生するように電流が流される。
【0021】
各コイル3は、巻軸に沿って1ターンごとに巻位置をずらしながら螺旋状に導電線を巻回することで形成される。導電線は、エナメル被覆等の絶縁被覆がされた銅線等の平角線であり、絶縁被覆領域を除いた断面積が3.6cm以上30cm以下であることが好ましい。巻回態様は、導電線の幅広面がコイル3の巻軸に沿って拡がるように、導電線が巻回されて成る螺旋状のフラットワイズ巻きであっても、導電線の幅広面がコイル3の巻軸との直交方向に拡がる螺旋状のエッジワイズ巻きでも何れでもよい。
【0022】
環状コア4は磁性体である。磁性体は、例えば圧粉磁心、フェライト磁心、メタルコンポジットコア又は積層鋼板等である。圧粉磁心は、磁性粉末を押し固めた圧粉成形体を焼鈍して成る。磁性粉末は、鉄を主成分とし、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが挙げられる。メタルコンポジットコアは、磁性粉末と樹脂とが混練され成型されて成る。
【0023】
この環状コア4は、例えば厚みのあるU字形コアブロックを突き合わせたり、一対のU字形コアブロックの間に直線形コアブロックを挟んだりして成る。2個のコイル3,3は、この環状コア4に横並びになって嵌っている。環状コア4の最大微分透磁率は30以上が好ましい。30以上の最大微分透磁率を有する環状コア4としては、純鉄やセンダスト合金が好ましい。
【0024】
コイル3の導電線が平角線であり、断面積が3.6cm以上30cm以下であり、また環状コア4の最大微分透磁率が30以上であることにより、リアクトル本体2は、20A以上200A以下の大電流用途に好適となる。但し、このような大電流用途のリアクトル本体2からは、周辺の電子部品に影響を与えかねない漏れ磁束が生じる虞がある。そのため、リアクトル1は、リアクトル本体2を完全に収容する金属ケース5を備えている。
【0025】
金属ケース5は、リアクトル本体2が設置される設置面51と、設置面51の縁から立ち上がる四方の側面52と、四方の側面52に繋がって設置面51と対面する対向面53とを有する。金属ケース5は、これら設置面51、側面52及び対向面53でリアクトル本体2を上下を含めて全周囲を覆っている。リアクトル本体2は、環状コア4の環形状が表れた環状面41やコイル3の巻き軸を設置面51や対向面53と平行にして、金属ケース5の設置面51に設置されている。コイル3と金属ケース5の設置面51や対向面53との間には隙間が設けられる。
【0026】
この金属ケース5は、リアクトル本体2からの漏れ磁束が金属ケース5の外部に漏洩するのを阻止する。尚、金属ケース5は、設置面51と四方の側面52から成る容器と、対向面53により成る蓋により構成されていてもよいし、6面全てがセパレート可能なパネルであってもよいし、漏れ磁束を内部に封じることが出来れば、如何様な構成をも採り得る。
【0027】
金属ケース5によって封じられた漏れ磁束は、コイル3に戻ってコイル3を貫き、結合度kが大きくなる虞がある。ここで上記式(1)及び(2)で示すように、結合度kが変化するとリップル電流も変化する。リップル電流が大きくなる方向に結合度kが変化した場合には、実効電流が大きくなり、リアクトル1の損失が上がり、他の回路部品に対しても悪影響を与える虞がある。
【0028】
そこで、このリアクトル1は、磁性体板6を更に備えている。磁性体板6は、金属ケース5内にリアクトル本体2と共に収容されている。磁性体板6は、磁性体を板状に加工して成る。この磁性体板6は、コイル3と離間し、磁性体板6の平面がコイル3の巻き軸と平行に拡がるように配置されている。磁性体板6は、環状コア4のような厚みを有する必要はなく、環状コア4より薄くてよい。
【0029】
この磁性体板6は、例えば2個のコイル3,3の間に延在している。2個のコイル3,3の間に延在する磁性体板6は、環状コア4の内周面42に突き当てられていてもよいし、環状コア4の内周面42と離間していてもよい。この磁性体板6は、コイル3の漏れ磁束を捕捉して内部を流すことで、漏れ磁束によって2個のコイル3,3が結合されることを抑制する。即ち、この磁性体板6によって、リアクトル本体2が漏れ磁束を生じさせ、且つ金属ケース5が存在していても、結合度kの上昇が抑制され、リップル電流の振幅が大きくなることを抑制される。
【0030】
図3は、金属ケース5内を透視した第2の例のリアクトル1の上面図である。図4は、第2の例のリアクトル1のB-B断面図である。図3及び図4に示すように、磁性体板6は、金属ケース5の対向面53側に環状コア4の環状面41よりも高く立ち上がり、金属ケース5の対向面53の近傍にまで至っている。この磁性体板6は、より多くの漏れ磁束を捕捉することができる。
【0031】
即ち、コイル3の漏れ磁束は、3次元的に拡がる。具体的には、コイル3の漏れ磁束は、2個のコイル3,3を含む平面に拡がるのみならず、当該平面から離れる方向にも拡がる。この2個のコイル3,3を含む平面とは離れる方向に拡がる漏れ磁束も、磁性体板6が金属ケース5の対向面53側に環状コア4の環状面41よりも高く立ち上がることで、磁性体板6によって捕捉される。そのため、更に結合度kを低くすることができる。
【0032】
図5は、金属ケース5内を透視した第3の例のリアクトル1の上面図である。図6は、第3の例のリアクトル1のC-C断面図である。図5及び図6に示すように、磁性体板6は、2個のコイル3,3の合間に限らず、金属ケース5内に収容されていれば、漏れ磁束を捕捉できる可能性があり、結合度kの上昇を抑制することができる。例えば、磁性体板6は、金属ケース5内に2枚配置され、2個のコイル3,3を挟んで、2個のコイル3,3の外側に延在していてもよい。更に、2個のコイル3,3を挟む2枚の磁性体板6に加えて、2個のコイル3,3の間に1枚の磁性体板6を追加して延在させてもよい。
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例のリアクトル1を次のようにして作製した。まず、2個のコイル3,3を環状コア4に装着したリアクトル本体2を金属ケース5に完全に収容し、更に磁性体板6を2個のコイル3,3間に配置した。この金属ケース5は、設置面51と四方の側面52に加えて、対向面53を有する。リアクトル本体2は上から下まで全周囲が金属ケース5によって包囲されていることになる。
【0034】
また、実施例のリアクトル1において、磁性体板6は、コイル3の巻き軸に沿って延在させ、環状コア4の内周面42に両端面を突き当てて配置された。この磁性体板6は、環状コア4の一方の環状面41から他方の環状面41まで拡がる。換言すると、磁性体板6は、金属ケース5の対向面53に向けて、環状コア4の一方の環状面41と一致する高さまで立ち上がっている。
【0035】
ここで、設置面51と四方の側面52に加えて対向面53を有する金属ケース5を備えるリアクトル1を蓋有り形状と呼ぶ。また、磁性体板6を備えるリアクトル1を板有り形状と呼ぶ。実施例のリアクトル1は、板有り及び蓋有り形状である。この実施例に対し、板有り及び蓋無し形状の比較例1のリアクトル、板無し及び蓋無し形状の比較例2のリアクトル、及び板無し及び蓋有り形状の比較例3のリアクトルを作製した。
【0036】
比較例1乃至3のリアクトルは、リアクトル本体2を備える点で実施例のリアクトル1と共通である。但し、板無し形状のリアクトルは、磁性体板6を備えていない。図7に示すように、蓋無し形状のリアクトルは、リアクトル本体2の一部が露出した蓋無し金属ケースE5に収容されている。蓋無し金属ケースE5は、リアクトル本体2の設置面51と四方を囲む側面52で画成され、金属ケース5と同一材質により成り、金属ケース5と同一の厚みを有する。一方、蓋無し金属ケースE5の側面52は、リアクトル本体2よりも低く、また蓋無し金属ケースE5には対向面53が無い。
【0037】
これら実施例のリアクトル1、並びに比較例1乃至3のリアクトルの漏れ磁束、結合度k及びリップル電流の振幅を解析した。結合度kは、0A、30A、60A、90A及び120Aの電流値をセットして解析した。0Aは無負荷時である。漏れ磁束は、金属ケース5及び蓋無し金属ケースE5の外側四隅であって、金属ケース5の対向面53と同じ高さの位置で解析された各最大値である。漏れ磁束の解析時の電流・電圧は、各相に対して100V/400V、30kHz及び60Aである。また、各相及び合成のリップル電流の振幅を、各相に対して100V/400V、30kHz及び60Aの電流・電圧で解析した。
【0038】
漏れ磁束の解析結果を下表1に示し、結合度kの解析結果を下表2に示し、リップル電流の振幅の解析結果を下表3に示す。
【0039】
(表1)
【0040】
(表2)
【0041】
(表3)
【0042】
表1に示すように、リアクトル本体2の収容が不完全な比較例1及び比較例2のリアクトルと比べると、リアクトル本体2が金属ケース5によって完全に収容された実施例のリアクトル1と比較例3のリアクトルは、漏れ磁束を桁違いに低減させていることがわかる。
【0043】
但し、表2に示すように、リアクトル本体2が金属ケース5によって完全に収容されているが、磁性体板6が無い比較例3のリアクトルは、リアクトル本体2の収容が不完全な比較例1及び比較例2のリアクトルと比べて、2個のコイル3,3の結合度kが大きくなってしまっている。そして、表3に示すように、この比較例3のリアクトルは、比較例1や比較例2と比べて、リップル電流の振幅が大きくなっていることがわかる。
【0044】
一方、表2に示すように、リアクトル本体2が金属ケース5によって完全に収容されており、且つ磁性体板6がある実施例のリアクトル1は、比較例3のリアクトルと比べて結合度kが小さくなっていることがわかる。そして、表3に示すように、リアクトル本体2が金属ケース5によって完全に収容されており、且つ磁性体板6がある実施例のリアクトル1は、同じく金属ケース5によってリアクトル本体2が完全に収容されている比較例3のリアクトルと比べてリップル電流の振幅が抑制されていることがわかる。
【0045】
このように、インターリーブ方式のスイッチング回路に用いられるリアクトル1は、リアクトル本体2と金属ケース5と磁性体板6とを備えるようにした。リアクトル本体2は、磁性体から成る環状コア4と、環状コア4に装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイル3,3とを含んで成る。金属ケース5は、リアクトル本体2を完全に収容する。即ち、金属ケース5は、設置面51、四方の側面52及び対向面53によって、リアクトル本体2を上下を含めて全周囲に亘って覆う。磁性体板6は、リアクトル本体2と共に金属ケース5内に設けられ、コイル3とは離間しつつ、当該コイル3に沿って延びる。
【0046】
これにより、リアクトル本体2の漏れ磁束の外部漏洩を金属ケース5によって抑制できると共に、磁性体板6によってリップル電流の振幅も小さくできる。従って、漏れ磁束の面でも、リアクトル1の損失の面でも、他の回路部品に対して悪影響を与える虞を低減できる。
【0047】
このリアクトル1は、20以上200A以下の大電流用途であり、3.6cm以上30cm以下の断面積を有する平角状の導電線が巻回されて成るコイル3と、最大微分透磁率が30以上である環状コア4を備える場合に有用である。
【0048】
また、磁性体板6を、環状コア4の環状面41と対面する金属ケース5の対向面53に向けて、環状コア4よりも高く立ち上げ、特に、金属ケース5の対向面53の近傍まで高く立ち上げるようにした。これにより、2個のコイル3,3を含む平面から離れる方向に漏れ出す漏れ磁束も磁性体板6で捕捉でき、更にリップル電流の振幅を小さくできる。
【0049】
尚、この実施形態及び実施例は例として提示したものであって、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。上記実施形態及び実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。そして、実施形態及び実施例やその変形は本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
1 リアクトル
2 リアクトル本体
3 コイル
4 環状コア
41 環状面
42 内周面
5 金属ケース
51 設置面
52 側面
53 対向面
6 磁性体板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7