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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154280
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】複合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/48 20060101AFI20221005BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20221005BHJP
   E04B 5/32 20060101ALI20221005BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
E04B1/48 A
E04B1/30 H
E04B1/30 D
E04B5/32 D
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057223
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】521134031
【氏名又は名称】ワンス設計事務所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】萩野 毅
(72)【発明者】
【氏名】眞邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 喜照
(72)【発明者】
【氏名】横山 眞一
(72)【発明者】
【氏名】田中 照久
(72)【発明者】
【氏名】尾宮 洋一
【テーマコード(参考)】
2D059
2E125
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA14
2D059GG55
2E125AA13
2E125AA57
2E125AB01
2E125AC15
2E125AE04
2E125AG41
2E125AG58
2E125BA02
2E125BB28
2E125BE08
2E125CA82
(57)【要約】
【課題】多数の接合部材を配置せずとも大きなせん断力が作用する箇所で使用することができ、なおかつ、とくに接合部材の製造や溶接量といった面での改良を可能とする複合構造を提供する。
【解決手段】接合部材30が設けられた鋼部材10と、接合部材30が埋設されたコンクリート系部材とを含む複合構造1である。接合部材30は、板状の平板部31と、平板部31に設けられた貫通孔32と、平板部31に設けられた該平板部31の表面と垂直な方向に突出する突部36と、を有する。接合部材30は、鋼部材10の長手方向に沿って複数配置される。隣接する接合部材30の貫通孔32の中心間の距離は第1の所定値PV1以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部材が設けられた鋼部材と、前記接合部材が埋設されたコンクリート系部材とを含む複合構造であって、
前記接合部材は、板状の平板部と、前記平板部に設けられた貫通孔と、前記平板部に設けられた該平板部の表面と垂直な方向に突出する突部と、を有し、
前記接合部材は、前記鋼部材の長手方向に沿って複数配置され、
隣接する前記接合部材の前記貫通孔の中心間の距離が第1の所定値以上である、複合構造。
【請求項2】
前記コンクリート系部材の長手方向の端部から一番近い前記接合部材の端部までの距離が第2の所定値以上である、請求項1に記載の複合構造。
【請求項3】
構造物中に配置され使用状態にある当該複合構造の前記接合部材の平板部の上端部と、該上端部と前記コンクリート系部材の上端との間の厚さを表すコンクリート被り厚さが第3の所定値以上である、請求項1または2に記載の複合構造。
【請求項4】
構造物中に配置され使用状態にある当該複合構造の、前記接合部材が接合された前記鋼部材の表面から、前記コンクリート系部材の上端までの距離が第4の所定値以上である、請求項1から3の何れか1項に記載の複合構造。
【請求項5】
当該複合構造が構造物中に配置され使用状態にあるとき、前記接合部材の前記突部は一方の側を向いて突出しており、前記突部が突出していない側では、前記接合部材の前記平板部の板厚中心からコンクリート縁までの距離は第5の所定値以上である、請求項1から4の何れか1項に記載の複合構造。
【請求項6】
当該複合構造が構造物中に配置され使用状態にあるとき、前記接合部材の前記突部は一方の側を向いて突出しており、前記突部が突出している当該側では、前記接合部材の前記平板部の板厚中心からコンクリート縁までの距離は第6の所定値以上である、請求項1から4の何れか1項に記載の複合構造。
【請求項7】
当該複合構造が構造物中に配置され使用状態にあるとき、前記接合部材の平板部を挟むようにコンクリート嵩上げ材が設置され、前記接合部材の平板部の板厚中心からそれぞれの前記コンクリート嵩上げ材までの距離が第7の所定値以上である、請求項1から6の何れか1項に記載の複合構造。
【請求項8】
前記コンクリート嵩上げ材の嵩上げ量は50mm以下である、請求項7に記載の複合構造。
【請求項9】
前記貫通孔は、前記平板部に1つ設けられ、前記貫通孔の周縁に前記突部が設けられている、請求項1から8の何れか1項に記載の複合構造。
【請求項10】
前記接合部材は、一対で、前記鋼部材の長手方向に沿って並列に配置されている、請求項1から9の何れか1項に記載の複合構造。
【請求項11】
前記一対の接合部材の前記平板状の基材の板厚中心の間隔は、第8の所定値以上である、請求項10に記載の複合構造。
【請求項12】
前記一対の接合部材のそれぞれの突部が内側を向いている、請求項10または11に記載の複合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物や土木構造物などを構築する際に鋼部材とコンクリート系部材とを一体的に接合して形成される複合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼部材とコンクリート系部材とを一体的に接合して形成される構造(本明細書では当該構造を「複合構造」と呼ぶ)が、建築構造物や土木構造物などの分野において広く使用されている。これら鋼部材とコンクリート系部材との接合部において、このような異種材料の間での確実かつ円滑な応力伝達を実現するには、ずれ止めによる抵抗作用が必要不可欠である。この点をふまえつつ、従来、たとえば鉄骨梁とコンクリートスラブとを接合する部分において、鉄骨梁フランジ上面に溶接されたスタッドを介してコンクリートスラブを鉄骨梁に接合するといった構造が利用されている(例えば特許文献1,2等参照)。
【0003】
このように鉄骨梁とコンクリートスラブとを接合する複合構造において、スタッドはそれ自体の変形を生じながらせん断力を伝達するため、両者を良好に接合した状態を実現するには多数のスタッドを必要とする。このため、スタッドを配置するために広い配置スペースを必要とすることが多い。
【0004】
従来、このような問題を解消しうる接合部材として、複数の貫通孔が所定間隔ごとに設けられた帯板状の孔あき鋼板ジベル(本明細書では貫通孔が設けられた鋼板のことをいう)が用いられている(例えば特許文献3,4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-204425号公報
【特許文献2】特許2000-129778号公報
【特許文献3】特開平10-102503号公報
【特許文献4】特許第6086452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のごとき孔あき鋼板ジベルは、ずれ変形(ここではスラブと鉄骨の相対的な変位)を抑制する効果は高いが、せん断耐力が小さいため、大きなせん断力が作用する箇所で使用するにあたっては多数を配置せざるを得なくなる。
【0007】
また、特許文献4のごとく、矩形状の長い鋼板に複数の貫通孔を空けた形状の接合部材を用いる技術が提案されてはいるが、このような接合部材には、製造の面、溶接の量といった面でまだ改良の余地があると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、多数の接合部材を配置せずとも大きなせん断力が作用する箇所で使用することができ、なおかつ、とくに接合部材の取付けや溶接量といった面での改良を可能とする複合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、接合部材が設けられた鋼部材と、接合部材が埋設されたコンクリート系部材とを含む複合構造であって、
接合部材は、板状の平板部と、平板部に設けられた貫通孔と、平板部に設けられた該平板部の表面と垂直な方向に突出する突部と、を有し、
接合部材は、鋼部材の長手方向に沿って複数配置され、
隣接する接合部材の貫通孔の中心間の距離が第1の所定値以上である、複合構造である。
【0010】
上記のごとき態様の複合構造によれば、貫通孔と突部とを有し、ずれ変形の抑制とせん断力伝達に優れる接合部材を用いることで、合成構造(本明細書では、鋼部材(鉄骨梁)とコンクリート系部材(コンクリートスラブ)が一体化して抵抗する構造を意味する用語として用いる)を形成し、構造性能(本明細書では、剛性、耐力を意味する用語として用いる)を向上させつつ、接合部材の数量を削減できる。接合部材の数量を削減できるということは、配置箇所が減少し、作業場の障害物が減少し、溶接量が減少することにつながる。そのうえ、少ない接合部材で合成構造を実現できるため、同等性能の鉄骨梁と比較すると、梁断面を縮小できるなど鋼材量を削減でき経済的である。
【0011】
また、上記のごとき態様の複合構造は、効果的にせん断力を伝達できるようにする配置を可能とする。すなわち、鋼部材とコンクリート系部材とのずれ変形に対する抵抗力(部材間のせん断耐力)を高める場合、多数の接合部材を配置したいところだが、間隔を詰めて配置すると、鋼板が変形せずコンクリート破壊が先行するおそれがあるのに対し、上記のごとく接合部材の数量を削減させた複合構造は、コンクリート破壊が先行することを回避しつつせん断力を伝達することを可能とする。
【0012】
上記のごとき態様の複合構造においては、コンクリート系部材の長手方向の端部から一番近い接合部材の端部までの距離が第2の所定値以上であってもよい。
【0013】
上記のごとき態様の複合構造において、構造物中に配置され使用状態にある当該複合構造の接合部材の平板部の上端部と、該上端部とコンクリート系部材の上端との間の厚さを表すコンクリート被り厚さが第3の所定値以上であってもよい。
【0014】
上記のごとき態様の複合構造において、構造物中に配置され使用状態にある当該複合構造の、接合部材が接合された鋼部材の表面から、コンクリート系部材の上端までの距離が第4の所定値以上であってもよい。
【0015】
上記のごとき態様の複合構造において、当該複合構造が構造物中に配置され使用状態にあるとき、接合部材の突部は一方の側を向いて突出しており、突部が突出していない側では、接合部材の平板部の板厚中心からコンクリート縁までの距離は第5の所定値以上であってもよい。
【0016】
上記のごとき態様の複合構造において、当該複合構造が構造物中に配置され使用状態にあるとき、接合部材の突部は一方の側を向いて突出しており、突部が突出している当該側では、接合部材の平板部の板厚中心からコンクリート縁までの距離は第6の所定値以上であってもよい。
【0017】
上記のごとき態様の複合構造において、当該複合構造が構造物中に配置され使用状態にあるとき、接合部材の平板部を挟むようにコンクリート嵩上げ材が設置され、接合部材の平板部の板厚中心からそれぞれのコンクリート嵩上げ材までの距離(図15のような使用状態のとき、嵩上げ材が鋼部材縁部からなだらかに嵩上げされている場合には、その高さの平均位置までの距離)が第7の所定値以上であってもよい。
【0018】
上記のごとき態様の複合構造において、コンクリート嵩上げ材の嵩上げ量は50mm以下であってもよい。
【0019】
上記のごとき態様の複合構造において、貫通孔は、平板部に1つ設けられ、貫通孔の周縁に突部が設けられていてもよい。
【0020】
上記のごとき態様の複合構造において、接合部材は、一対で、鋼部材の長手方向に沿って並列に配置されていてもよい。
【0021】
上記のごとき態様の複合構造において、一対の接合部材の平板状の基材の板厚中心の間隔は、第8の所定値以上であってもよい。
【0022】
上記のごとき態様の複合構造において、一対の接合部材のそれぞれの突部が内側を向いていてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、多数の接合部材を配置せずとも大きなせん断力が作用する箇所で使用することができ、なおかつ、とくに接合部材の取付けや溶接量といった面での改良を可能とする複合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態における補強構造の一例を概略的に示す図(B)を、参考として示す従来構造を示す図(A)とともに表したものである。
図2】鋼部材上に設けられた接合部材の一例を示す斜視図である。
図3】補強構造の一例を概略的に示す斜視図である。
図4】接合部材の構造例を示す図である。
図5】(A)接合部材に作用する支圧抵抗力を説明する図、(B)接合部材の見附面積について説明する図である。
図6】接合部材に作用する力について説明する図である。
図7】コンクリート系部材による接合部材に対する拘束機能について説明する、(A)拘束なしの場合、(B)拘束ありの場合のそれぞれの図である。
図8】(A)図7(A)の場合の鋼板の変形状況と、(B)図7(B)の場合の鋼板の変形状況と、をそれぞれ概略的に示す図である。
図9】(A)X方向に長い鋼板にX方向のせん断力が作用する様子と、(B)高さ方向に長い鋼板にX方向のせん断力が作用する様子と、をそれぞれ概略的に示す図である。
図10】小口面からスラブ端までの距離について説明する図である。
図11】スラブ厚(コンクリート系部材の厚み)について説明する図である。
図12】接合部材(以下、本明細書では「バーリングシアコネクタ」ということもある)の平板部板厚中心から床スラブの縁までの距離について示す図である。
図13】並列に配置する場合のバーリングシアコネクタどうしの間隔について説明する、(A)突縁部が内向きの場合、(B)突縁部が外向きの場合の図である。
図14】デッキプレート等による梁上のスラブ嵩上げがある場合のスラブ嵩上げ幅について説明する、(A)デッキプレートが梁と直交する場合、(B)デッキプレートが梁と平行である場合、(C)デッキプレートの代わりに嵩上げコンクリート用いた場合の図である。
図15】エンドクローズ加工をしたデッキプレートを使用する場合のスラブ有効幅について説明するための、(A)バーリングシアコネクタが単列配置された場合、(B)バーリングシアコネクタが並列配置された場合の図である。
図16】二面せん断抵抗力について説明する断面図である。
図17】支圧力に抵抗する支承面積について説明する、(A)せん断力作用方向に沿って見た図、(B)せん断力作用方向に垂直な側面から見た図、(C)平面図である。
図18】突縁部が内向きの場合のバーリングシアコネクタ(接合部材)の支承面積を示す(A)せん断力作用方向に沿って見た図、(B)平面図である。
図19】突縁部が外向きの場合のバーリングシアコネクタ(接合部材)の支承面積を示す(A)せん断力作用方向に沿って見た図、(B)平面図である。
図20】せん断力が作用して変形した、ある試験体からなる接合部材(の鋼板)の画像である。
図21】せん断力が作用して変形した、別の試験体からなる接合部材(の鋼板)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する(図1等参照)。
【0026】
[接合部材と補強構造の概要]
複合構造(以下、「補強構造」ともいう)100は、鋼部材10とコンクリート系部材20とを一体的に接合して形成される構造であり(図1参照)、建築構造物や土木構造物などの分野において広く使用される。鋼部材10は、例えば建築物における鉄骨梁などとして用いられる(以下、単に「梁」という場合がある。なお、図3等では、当該鋼部材10の一部のみを図中に示している)。一例として本実施形態の鋼部材10は、図1においては水平方向に延びる長辺10Xと、図1においては鉛直方向に延びる短辺10Yとを有している。コンクリート系部材(例えば、スラブ)20は、構造物の躯体(柱、壁、など)を構成する部材として用いられる。接合部材30は、鋼部材10とコンクリート系部材20とを接合する部材として用いられる。
【0027】
接合部材(本明細書では「バーリングシアコネクタ」ということもある)30は、鋼部材10とコンクリート系部材20とを接合する部材であり、両者を接合することによって補強構造100を構成する(図1図3参照)。この補強構造100には、鋼板(平板状の基材)31の衝立上に設置した一辺を表面31f、図示しない裏面ともに隅肉溶接32によって接合された平板状の接合部材30と、接合部材30を埋設した状態で鋼板31の表面31f上に形成されたコンクリート系部材20と、が含まれる。接合部材30は、鋼部材10の長辺10Xの方向に沿って複数配置されている(図1参照)。これら接合部材30には貫通孔35が設けられている。貫通孔35の縁には、当該接合部材30の片方の表面31fからめくり上がるように突出する突縁部36が設けられている(図2参照)。貫通孔35は例えば円形であり、突縁部36は、貫通孔35の内周縁に沿って周方向に連続したスリーブ形状のごときボス状ないし周状の形をしている。鋼板31の表面31fからの突縁部36の突出高さは本実施形態においては均一であるが(図2等参照)、これとは逆にあえて高さを不均一にしてもよい。本実施形態では鋼板31で平板状の基材を形成しているが材料・材質はこれに限定されることはなく、この他、特に図示はしないが、鋼管にバーリング加工したものや形鋼にバーリング加工したものなどを採用してもよい。
【0028】
補強構造100においては、貫通孔35に充填された状態となっているコンクリート系部材20とその周囲のコンクリート系部材20のせん断抵抗によって接合部材30とコンクリート系部材20とのずれが防止される(図3図16等参照)。また、貫通孔35に設けられた突縁部36とその近傍のコンクリート系部材20、および鋼板31の長手方向の小口面31Aとコンクリート系部材20が支圧抵抗によってずれ防止機能を発揮するので、剛性が高く、せん断耐力を大幅に向上させる。また、鋼板31の表面31fに接合部材30を接合するための隅肉溶接32は、予め工場などで行った後、施工現場に搬入することができるので、こうすることで施工現場での溶接作業を回避することが可能となり、施工性が良好となる。なお、隅肉溶接32は、図3等のように長辺2辺を溶接するものであってもよいし、小口面31Aを含めて周回するように溶接するものであってもよく、隅肉溶接の形状が図に示すものに限定されることは無い。
【0029】
また、貫通孔35に突縁部36を設けたことにより、接合部材30自体の剛性が高まり、変形し難くなるので、運搬したり保管したりする際の取り扱い性が良くなり、施工性の向上に有効であり、補強構造100の強度向上に寄与する。また、接合部材30の剛性が向上することにより、隅肉溶接32を行うときの熱影響による変形を防止することができる。
【0030】
なお、接合部材30に開設された貫通孔35は、接合部材30が接合された鋼材をクレーンで吊り上げる際に、ワイヤーロープやシャックルなどの挿通孔として利用することもできる。また、接合部材30の貫通孔35には鉄筋を挿通させることもできるので、建築・土木構造物の施工現場において鉄筋の配筋作業を行う際に鉄筋の位置や高さを保持するスペーサとして活用することもできる。
【0031】
貫通孔35の突縁部36を形成する際の加工方法は特に限定しないが、本実施形態においてはバーリング加工によって形成している。バーリング加工は、接合部材30の材料である鋼板31に開設された下孔の内周縁をパンチとダイを用いて当該鋼板31の板厚方向に立ち上げる加工技術である。
【0032】
なお、補強構造100を構成する鋼部材10としては、接合部材30が接合可能な材料であればH形鋼の鉄骨梁に限定されることはなく、例えば、I形鋼、T形鋼、山形鋼、溝形鋼あるいは鋼管など梁はどんな形鋼でもよい。
【0033】
なお、接合部材30の貫通孔35には鉄筋(図示せず)を挿通させることができるので、それぞれの貫通孔35に対して1本若しくは複数本の割合で鉄筋(図示せず)を挿通させ、接合部材30及び鉄筋(図示せず)を埋設した状態で鋼板31の表面31f上にコンクリート系部材20を形成した構造とすることもできる。このような構造とすれば、せん断力(鋼板31の表面31fと平行方向のせん断力を指し、図中では符号Fで表す。また、せん断力Fが作用する方向(本実施形態の場合であれば水平方向)をせん断力作用方向といい、符号Xで表す)を鉄筋に分担させることができるので変形能力が向上し、コンクリート系部材20の浮き上がりに対する抵抗力も向上するなどの優れた効果を得ることができる。
【0034】
[「ずれ変形性能」を向上させた接合部材]
上記のごとく鋼部材10とコンクリート系部材20とを接合する接合部材30において、これら異種材料の間での確実かつ円滑な応力伝達を実現するには、ずれ止めによる抵抗を作用させた状態を維持することが重要である。外力の作用時(図1参照)、接合部材30が変形なり破断なりするよりも先にコンクリート系部材20が破壊してしまうことは通常的に起こりうるが、上記の点(ずれ止めによる抵抗を作用させた状態を維持することが重要である点)に照らせば、コンクリート系部材20が破壊した瞬間、ずれ止めによる抵抗を作用させた状態が途切れるということにならざるを得ない。コンクリート系部材の完全な破壊とならずとも、一般的に用いられているスタッド等のずれ止めは、ずれ止めとコンクリートがずれようとする力に対して支圧力で抵抗していることから、コンクリートの支圧変形により、力が繰返し作用した場合に耐力が劣化していくことが知られている。この点を考慮し、実施形態では、接合部材30を、外力が作用することによってコンクリート系部材20と鋼部材10の両方に応力が生じたとき(図1参照)、当該接合部材30がコンクリート系部材20に先行して破壊する形状に形成している。接合部材30をコンクリート系部材20に先行して破壊させるという発想を取り入れることで、接合部材30の断面に着目して設計することが可能となる。また、接合部材30自体を十分に変形する形状・構造とすることにより、脆性的な破壊を起こさせないようにし、ずれ止めの変形性能((ずれに伴う相対的な変位を抑制する機能ないしその性能)を向上させることが可能となる。
【0035】
接合部材30の形状・構造を決めるにあたり、鋼板面内の曲げ耐力ではなくせん断耐力で決定されることで、鋼板31のせん断力伝達能力をフルに発揮できる。例えば、鋼板31がせん断力作用方向Xに長い1枚板状の長尺の矩形板であって、接合部材30が当該鋼板31からなる単一の板状であるとすれば(図9(A)参照)、せん断力Fの作用時における接合部材30の耐力はもっぱら、鋼板31のせん断耐力(せん断応力)の影響が支配的(ずれ方向力に対しては鋼板31のせん断力が卓越し、曲げ破壊は生じない。本実施形態では、いわば分断された状態の複数の接合部材30を断続的に配置することで、せん断耐力ではなくむしろ曲げ耐力のほうが支配的となる構造を構築している(図9(B)参照)。ただし、このように高さ(h)が長い物は、せん断力作用方向X(ずれ方向)に対しては鋼板31の曲げ応力が卓越し、せん断破壊は生じない。この点、本実施形態では、コンクリート系部材20による拘束機能に着目し、せん断破壊が生じるようにしている。これについては後述する。
【0036】
[補強構造の特徴(1):断続的に配置された接合部材による高いせん断伝達性能]
上記のごとく、本実施形態の補強構造100では、鋼板31の1枚につき1つの貫通孔35を有する形状とした複数の接合部材30を、連続的にではなく、断続的かつ不連続に配置している。こうした構造は、そうでない構造(つまり、連続的に連なる構造)に比べ、鋼板31それぞれの小口面(鋼板31の側面のうち、せん断力Fが作用する面のことを指し、図中では符号31Aで示す)の支圧抵抗、および突縁部36の支圧抵抗(突縁部36の見附部分(図5において符号36Aで示す)に作用するせん断力に応じた抵抗)が加算されることにより、鋼板31全体としてのせん断伝達性能(せん断方向に作用する力を伝達する性能)が向上する。このことは、鋼板31が例えばせん断力作用方向Xに長い1枚板状の矩形板である場合、小口の数が少なく(例えばこのように1枚板状の鋼板31である場合、小口は1箇所)、小口に作用するせん断力Fの加算分が少なくなることを想定すればより容易に理解することができる。なお、図5図7においては、小口面31Aに作用する力、見附部分36Aに作用する力を矢印(力線図)で示したうえで「支圧抵抗」と表記している。
【0037】
上述したごとくせん断伝達性能が向上した本実施形態の補強構造100によれば、突縁部36に対して貫通孔35を1対1で(ひとつの突縁部36に対して貫通孔35をひとつ)設けることにより、突縁部36の見附部分36Aの耐力増加分を考慮できるため、1つ当たりのせん断耐力が大きくなり従来技術よりも部材数を減少することができる。また、接合部材30の部材数が減少する分、および各部材が小型化する分、作業性(作業のしやすさ)が向上する。また、本実施形態の補強構造100によれば、溶接量が減少し、施工しやすさが向上する。また、本実施形態のごとく鋼板31の1枚あたり貫通孔35を1つ形成する構造の場合、コンクリート系部材20に作用する力を、小口面31Aと、突縁部36の周面(の投影面)つまり見附部分36Aとで分散して受けることができるため、全体として耐力を確保しやすく、そのぶん性能向上を図りやすい。
【0038】
また、上記のごとき高いせん断伝達性能を実現する場合の具体例を挙げると、接合部材30の鋼板31の幅(ここでいう幅とは、せん断力作用方向Xに沿った長さを意味する(図6等参照))Bの好適な範囲の例は、貫通孔35の孔径の1.6~3倍程度であり、具体的な数値例を挙げるとすれば、1つの貫通孔35と突縁部36あたり80~150[mm]である。別の表現で説明するならば、貫通孔35の径φ40~60[mm]に対して幅Bが80~150[mm]の範囲内の鋼板31を採用した場合、せん断力作用方向Xに沿って貫通孔35および突縁部36が所定の好適な間隔ごとに位置する構成としやすくなり、好適である。ちなみに、幅Bが所定値(本例においては80[mm])よりも短いと、接合部材30の全体としてのせん断力伝達能力が小さくなることから、所定以上のせん断力伝達能力を確保するにはより多数の接合部材30を配置することが必要となる(鋼板幅Bが80mmを下回るようであれば、鋼板31の破壊で決定するせん断耐力が実用的な範囲を外れ、1つあたりのせん断耐力が小さくなる。このため、コンクリート系部材20と鋼部材10の必要な接合強度を得るためには、多数枚のずれ止めが必要となる)。ただし、多くの接合部材30を過剰に配置した場合には、間隔が小さくなり、コンクリート系部材20の耐力が確保できないため、「鋼板31のせん断耐力」<「コンクリート系部材20のせん断耐力」が成立しなくなる。一方で、幅Bが所定値(本例においては150[mm])よりも長いと、鋼板31の耐力は増えるものの、コンクリート系部材20(例えば、スラブ。以下、単に「スラブ」という場合がある)が当該接合部材30によっていわば縁切りされた状態となり、これら接合部材30で保持されているコンクリート系部材20に破壊が生じやすくなるし、鋼板31自体の変形能力が乏しくなりコンクリート系部材20の破壊が先行するようになる。さらには、接合部材30の幅Bが所定値(本例においては150[mm])よりも長いと、鋼部材10と接合部材30との溶接部分が増す、鋼板31が大型化する、といった理由に伴って、材料増や作業増により相対的に高価になりやすい。
【0039】
なお、鋼板31の幅Bについての上記説明中、「1つの貫通孔35と突縁部36あたり」と記載したが、これは、突縁部36を仮に複数設けることで(鋼板31の一方の面側のみに設けてもよいし、両面それぞれに設けてもよい)、コンクリート系部材20の耐力が上昇するので、その分鋼板31の幅Bを大きくしずれ止め全体のせん断耐力を大きくできる。ただし、ここでもコンクリート系部材20の耐力は、鋼板31の耐力を上回る必要がある。小口が1つしかない場合は単純に個数倍ではないが、突縁部36を増やすことにより、コンクリートの抵抗力を増加することができるため、鋼板31の長さは長くすることができる。鋼板31の長さが長くなった分、鋼板せん断耐力を増加できる。
【0040】
また、本実施形態の補強構造100では、隣接する接合部材30が、それらの貫通孔35の中心間の距離が第1の所定値PV1以上となるように配置されている(図1参照)。好適な一例を挙げると、所定値PV1は180mmである。接合部材30の鋼板31の設置間隔(本実施形態の場合、PV1)がスラブ厚(すなわちコンクリート系部材20の厚みのことであり、図11において符号Gで示す。一例として、スラブ厚Gは150mm)より小さくなる(要するに接合部材30の間隔が小さくなる)と、支承面積Acが小さくなると評価する。支承面積Acが小さくなると後述の[数5]式の1行下にあるコンクリート支圧強度fbが小さくなり、[数5]式の支圧抵抗によるせん断耐力が小さくなる。一方で、間隔が大きくなれば、支承面積Acが大きくなる(ただしスラブ厚Gを上限とする)。その結果、支圧強度fbが大きくなり、[数5]式のコンクリート耐力が大きくなる。このような補強構造100によれば、従来よりも少量の接合部材30で鋼部材(鉄骨梁など)10とコンクリート系部材(コンクリートスラブなど)20とを接合するための構造を形成することができる。また、この補強構造100によれば、複数とされた接合部材30により鋼部材10とコンクリート系部材20の両者をより良好な状態で接合することができる。また、このような補強構造100によれば施工性(現場での作業性、など)が向上する。また、このような補強構造100によれば、せん断力伝達に優れた接合部材30を用いることで、鋼部材とコンクリート系部材の相対変位の抑制と複合構造(鉄骨梁とコンクリートスラブが一体化して抵抗する構造)を形成し構造性能(剛性、耐力)を向上させつつ、接合部材30の数量を削減できる。接合部材30の数量を削減することは、配置箇所が減少することになり、作業場の障害物が減少する、溶接量が減少する等の施工性の向上につながるうえ、複合構造の梁とすることで、同等性能の鉄骨梁と比較して鋼材量を削減できる、といったことにつながる。
【0041】
[補強構造の特徴(2):鋼板の上部を拘束するコンクリートで鋼板曲げを抑制]
本実施形態では、鋼板31の上部(例えば、隅肉溶接32部分よりも上方の部分すべて)をコンクリート系部材20で覆って拘束した状態(別言すれば、曲げ変形しようとする鋼板31を上から押さえつけることで、曲げ変形させないようにした状態)の補強構造100を構築している。
【0042】
ここで、拘束機能を図とともに説明すると(図7図8参照)、コンクリート系部材20による拘束を受けていない鋼板31は、鋼部材10やコンクリート系部材20にずれに伴う相対的な変位を生じさせる力が生じた際に、鋼板31は面内に曲げられようとする。(図7(A)、図8(A)参照)。これだと、鋼板31は面内曲げによる応力が卓越するため、鋼板31が早期に曲げ破壊を生じる。一方、コンクリート系部材20により拘束されている鋼板31は、ずれに伴う相対的な変位を生じさせる力が生じた際に、コンクリート系部材20によって、鋼板31は面内曲げが拘束された状態となり、いわば上から押さえつけられた状態にあるので鋼板31の根元位置(断面31d)における曲げ応力が抑えられる(図7(B)参照)。このため鋼板根元位置におけるせん断応力によって鋼板31が破壊するに至るまで、曲げ応力による破壊が抑えられる。
【0043】
(拘束力を考慮せずに)鋼板31をせん断変形させるためには幅Bを大きくしなくてはならない。しかし、鋼板31の幅Bを拡大するにつれ、材料費増・溶接増、といった、鋼板31を長尺かつ連続とした場合の課題が顕在化し、かつ、鋼板31に先行してコンクリート系部材20が破壊するようになる。別言すれば、上記のごとき本実施形態の補強構造100は、上側に配置されるコンクリート系部材20が鋼板31の曲げ変形を拘束することで、鋼板31の幅Bは小さいままに当該鋼板31のせん断耐力が限界に至るまで性能を発揮できるようにした構造であるということができる。
【0044】
上記のごとき拘束機能を十分に発揮させるという観点からすれば、コンクリート系部材の被り厚さ(鋼板31の端面(ただし鋼部材10とは逆側となる上端部の端面)31Bからコンクリート系部材20の天端(上端)21までの間の厚さを表す距離をいう)Cは、第3の所定値PV3以上、具体例を挙げれば好ましくは最低でも30mm以上、より好ましくは50mm以上であるとよい。コンクリートスラブなどの場合には、スラブ厚Gやかぶり厚PV3を少なくし、重量を軽減させたいところではあるが、鋼板31の上部に拘束力が少ないと、鋼板31の根元位置(断面31d)で曲げ応力による破壊が先行してしまうため、せん断伝達能力が低下してしまうという懸念が生じる。これを防ぐため、鋼板31の上部をPV3以上、コンクリート部材20で拘束することで、鋼板31のせん断耐力まで性能を発揮できるようになり、全体でのせん断力伝達能力が向上する。
【0045】
[補強構造の特徴(3):接合部材がコンクリート系部材に先行して破壊する形状]
上記のごとく、本実施形態の補強構造100の接合部材30は、コンクリート系部材20に先行して破壊するという考えに基づき、
(鋼板のせん断耐力)<(コンクリート系部材の耐力)
となる形状に形成されている。ただし、接合部材30の形状の具体例は特に限定されることはない。要は、接合部材30がそのような形状であること自体に本実施形態の接合部材30およびこれを備える補強構造100の特徴があるといえるが、その考え方の具体例とそれにより具現化される形状・構造例を示せば以下のとおりである。
【0046】
せん断力作用方向Xに沿った鋼板31(突縁部36を含む)の投影面積(図5参照。本明細書では見附面積といい、符号Aで表す。なお、図5(B)ではハッチングを付して分かりやすく示しているが、これは断面を表しているわけではないことに留意されたい)と、もっとも大きなせん断作用を受けると考えられる鋼板31の断面31dの断面積D(図4参照)と、を考慮した場合に、これらの比、つまり見附面積A/鋼板断面積Dが、
見附面積A/鋼板断面積D=1.20~3.45
の範囲内にあることが、コンクリート系部材20に先行して接合部材30が破壊するようにするうえで、好適である。この比の値が2.55程度である接合部材30はこのような観点からはさらに好適であるといえる。
【0047】
上記のごとく、本実施形態の接合部材30は、当該接合部材30に作用するせん断力Fの作用方向に沿った断面積Dと接合部材30のせん断力の作用方向Xに沿った見附面積Aとの比を所定の範囲内とし、ここまで説明したように、接合部材30(の鋼板31)のせん断耐力<コンクリート系部材の耐力 となるようにすることで、鋼板31が降伏した後もせん断耐力を保持したまま変形することができる接合部材30を鋼板31の断面積Dをパラメーターとして設計することが可能となる。なお、当然のことながら、接合部材30に形成された本実施形態のごとき突縁部36は見附面積Aを増大させる向きに突出しており、上記式に基づき設計する際に影響を与える。
【0048】
[補強構造の特徴(4):接合部材のせん断耐力]
補強部材100の接合部材(バーリングシアコネクタ)30のせん断耐力について説明する(図5図6等参照)。コンクリート系部材のせん断耐力は、突縁部36及び小口面からなる見附面積による支圧抵抗力と貫通孔内部に充填されたコンクリートと周辺部コンクリートとのせん断抵抗力を累加することで求められる。
【0049】
バーリングシアコネクタのせん断耐力を求めるにあたっての前提条件を以下に示す。なお、以下に示す具体的な数値が好適な一例にすぎないことはいうまでもない。
(1)バーリングシアコネクタ上面のコンクリート被り(コンクリート系部材20の被り厚さ)Cは30mm以上とする(図6参照)。
(2)バーリングシアコネクタを配置する箇所のスラブ厚(コンクリート系部材20の厚み)Gは、鋼部材(具体的には、図11に示すような梁フランジなど)10の上面から第4の所定値PV4以上、具体例を挙げれば150mm以上とする(図11参照)。数式(後述の[数6]式を参照)等から、「スラブ厚Gが小さい→支承面積が小さい→コンクリート耐力が低下する」ことがいえるのに対し、本実施形態ではこれを考慮してスラブ厚Gを所定値PV4以上とする。
(3)スラブ端(コンクリート系部材20の長手方向の端部)から、当該スラブ端から一番近いバーリングシアコネクタのせん断力作用方向X(本実施形態では、コンクリート系部材20の長手方向と等しい)の前方の小口面31Aまでの距離Jは、第2の所定値PV2以上(例えば、250mm以上)とする(図10参照)。このようにすることは、接合部材30の小口面31Aおよび突縁部36が周辺コンクリートを支圧することにより、コンクリート系部材20の端部を押し抜くような破壊を先行させないことで、バーリングシアコネクタのせん断力伝達能力を担保することにつながる。
(4)スラブ内の鉄筋もコンクリート部材の拘束力に寄与することは知られているが、明確に拘束効果を評価して設計することは困難である。本実施例においても、前提条件として、当然構成するスラブは各種の設計基準に従った鉄筋の量が入っているものとする。
(5)バーリングシアコネクタの平板状の鋼板31の平板部(図12(A)において符号37で示す)の板厚中心から床スラブ(コンクリート系部材20)の縁までの距離Kは、突縁部36がコンクリート系部材20の外側を向くようにバーリングシアコネクタが配置されている場合は第6の所定値PV6以上、例えば200mm以上とし(図12(A)参照)、突縁部36がコンクリート系部材20の内側を向くようにバーリングシアコネクタが配置されている場合は第5の所定値PV5以上、例えば100mm以上とする(図12(B)参照)。突縁部36に生じる支圧力は図17のごとくコンクリート部材に伝達していくため、突縁部36側のコンクリートが十分にないと支承面積が十分に確保できずコンクリート耐力が低下するところ(後述の[数6]式など参照)、本実施形態では上記のごとく距離Kを所定値以上とすることでコンクリート耐力が低下しないようにする。
(6)バーリングシアコネクタを梁フランジ(鋼部材10)上に並列に配置する場合は2枚1組までとする(図13参照)。この場合、一組のバーリングシアコネクタどうしの間隔Lは、平板状の鋼板31の板厚中心間距離で100mm 以上とする(図13(A),(B)参照)。ただし、並列配置されたバーリングシアコネクタのそれぞれの突縁部36の向きは図13に限定されるものではない。
(7)鋼部材10の上面に、接合部材30の平板部を挟むようにデッキプレート(コンクリート嵩上げ材)300が設置され、当該デッキプレート300による梁(鋼部材10)上の嵩上げ(スラブ嵩上げと呼ぶ)がある場合、その嵩上げ量(デッキプレート300の山高さ)Nは所定値以下たとえば50mm 以下とする(図14参照)。なお、これは本実施形態の接合部材30に特有の条件のひとつであり、貫通孔35の中心の鋼板31からの高さが50mmである場合、嵩上げ量が50mmを超えてしまうと突縁部36と嵩上げ部のせん断面に引っかかる面積が不十分となり嵩上げ部のせん断面で破壊してしまうことから、せん断破壊を生じないことを確認できた範囲が50mm以下ということになる。なお、この場合、梁フランジ幅方向の中心から均等になるよう嵩上げ幅を200mm 以上(バーリングシアコネクタの鋼板31の板厚中心からそれぞれ100mm 以上)確保する。また、エンドクローズ加工(特開2005-290671などに記載のごとく、凹凸のあるデッキプレートの端部を平たんに押しつぶし、コンクリートが山部から漏れ出ないようにした加工)をしたデッキプレート300を使用する場合は、嵩上げ下端と上端のスラブ幅の平均をスラブ有効幅とし、梁フランジ幅方向中心から均等に有効幅を所定値たとえば200mm 以上(バーリングシアコネクタ平板部板厚中心からそれぞれ第7の所定値PV7以上、たとえば100mm 以上)確保する(図15参照)。一般に、幅が狭くなるとコンクリート部材の嵩上げ部とスラブとの境界面で割れるようにせん断破壊してしまうため、本実施形態ではこれを回避するべく上記のようにしている。
【0050】
バーリングシアコネクタのせん断耐力は、鋼板31のせん断耐力とコンクリート抵抗力によるせん断耐力のいずれか小さいほうの耐力で表され、[数1]式とする。鋼板31のせん断耐力については、もっとも大きなせん断作用を受けると考えられる鋼板31の断面31dの断面積D(図4参照)の部分を設計断面とする。
【数1】
【0051】
コンクリート抵抗力には、貫通孔5内の充填コンクリートとスラブコンクリートとの間にせん断力が働くことによる二面せん断抵抗力(孔の前面と背面の二面、すなわち突縁部36がある側の前面と無い側の背面)と、小口面31Aと突縁部36の側面からスラブコンクリートに圧縮力が働くことによる支圧抵抗力がある。
【数2】
【0052】
鋼板31のせん断耐力は以下の式で求めることができる。
【数3】
【0053】
貫通孔35内の充填コンクリートとスラブコンクリートとの間の二面せん断によるせん断耐力は [数4]式とする。
【数4】
【0054】
小口面31Aと突縁部36の支圧抵抗によるせん断耐力を[数5]式とする。支圧面積は小口面31Aと突縁部36の見付面積の合計とする。また、このときの支承面積(支圧力を負担するコンクリート系部材の影響部影響面積(突縁部36と小口面31Aの接地面に生じる支圧力は、コンクリート内を図17(B)(C)のごとく広がっていく。広がっていく範囲を影響部、ある位置でその広がった力を支えているとすれば、その支えている範囲の面積を支承面積(影響面積)と解釈している。ある位置とは、本実施形態では小口面31Aからスラブ厚G(tc)だけ離れた位置で支圧力を支えていると仮定している)を図17図19に示す。
【数5】
【0055】
ここで、支承面積は図17に示すようにバーリングシアコネクタの前方1.5tc(tc:コンクリートスラブ厚)の範囲とする。また、支承面積を[数6]式に示す。ただし、バーリングシアコネクタを単列配置した時の小口面31Aどうしの距離(bpde)がスラブ厚未満となる場合の支承面積は[数7]式とする。
【数6】
【数7】
【0056】
また、上記のごとき態様の補強構造100において、接合部材30は、一対で、鋼部材10の長手方向に沿って並列に配置されていてもよい。鋼部材10の上に必要な接合部材30の枚数は変わらないため、当該接合部材30を並列配置とすることで、直列配置に比べて間隔を単純に2倍に大きくすることができる。間隔が大きくなれば配置箇所が半減するため、鋼部材10上を歩行して作業する人にとって障害物が減り、現場作業性が向上しうる。バーリングシアコネクタを並列配置した場合の支承面積を図18図19に示す。一対の接合部材30の平板状の鋼板31の板厚中心の間隔は第8の所定値PV8以上たとえば100mm以上であることが好ましい。これは、突縁部36側のコンクリートが十分にないと支圧力に対する必要な支承面積がなく、コンクリート耐力が低下することによる([数6]式など参照)。ちなみに、100mmという数値は、試験体で性能を発揮することが確認出来た値であり、これ以上狭くなると性能が発揮できなくなる可能性がある。この値が広くなる分には、[数6]式などから導かれるように支承面積が大きくとれるので性能が向上する方向となる。
【0057】
ここで、突縁部36が内向きの場合は図18、突縁部36が外向きの場合は図19にそれぞれ示すようになり、バーリングシアコネクタ一枚当たりの支承面積がそれぞれ[数8]式、[数9]式で求められる。ここで、バーリングシアコネクタを並列に配置する場合は2枚1組までとし、バーリングシアコネクタの平板状の鋼板31の板厚中心間距離をbrdgとする。ただし、バーリングシアコネクタの小口面31Aどうしの距離(bpde)がスラブ厚未満となる場合は tc bpde とおき支承面積を算定する。
【数8】
【数9】
【0058】
上記のごとき態様の補強構造100において、一対の接合部材30のそれぞれの突縁部36が内側を向いている場合(図18参照)、図19に示す形態と比較して互いの支承面積が干渉するため、接合部材30の1枚当たりの支承面積は単列配置(図17等参照)に比べて小さくなる。このため、接合部材30の1枚当たりのコンクリート耐力は減少すると考えられる。なお、コンクリート耐力の計算値は、「コンクリート系部材の耐力計算値」列にあり、単列配置の場合の一例が200kN程度であるのに対し、並列配置の場合の一例は、支承面積が減少することから160kN程度と算出される。しかし、実際の実験結果はこの傾向ではない事が確認されており、一例では最大荷重367.3kN左4列目)を発揮しており、これは単列配置とした場合の一例の2倍に相当する。その要因は、支圧強度が上昇したため(突縁部36を内側に向けたことにより、鋼板31で挟まれたコンクリートの拘束効果)と考えられる。
【0059】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、接合部材30に設けた貫通孔35の縁にめくり上がるように突縁部36を設けたが、これは、コンクリート系部材20に先行して鋼板31を先に破壊させるようにするための好適な構造の一例にすぎない。特に図示はしないが、鋼板31に貫通孔35は設けず突縁部(突部)36のみ設けていてもよい。要は、接合部材30がコンクリート系部材20と引っかかる面積(つまりは見附面積)を十分に取るために機能するものであれば具体的な形状、構造は限定されない。
【実施例0060】
発明者らは、ここまで説明した各種理論や数式、好適な数値範囲などの裏付けや実証結果を得るべく種々の試験を行ってきた。その中で、実際の様子を示す具体例として、せん断作用を受けて変形した接合部材30(の鋼板31)の画像を、試験体No.2(間隔130mm)について図20に、試験体No.3(間隔180mm)について図21に示す。試験体No.2では、図中上側の鋼板31が全く変形していないこと、鋼板31に作用したせん断力が小さいこと、鋼板31間のコンクリート破壊が先行したことといった、間隔を180mm以下とした場合の各種弊害が確認された(図20参照)。一方、試験体No.3では、図中上側の鋼板31も変形したことが確認された。また、鋼板31に作用したせん断力が大きいことが確認された。これらの因果関係から、鋼板31間のコンクリート破壊が先行しなかったと考えられた(図21参照)。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明にかかる接合部材およびこれを備える補強構造は、建築産業や土木建設産業などの分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10…鋼部材
10X…長辺
10Y…短辺
20…コンクリート系部材
21…天端(上端)
30…バーリングシアコネクタ(接合部材)
31…鋼板(平板状の基材)
31A…小口面
31B…端面
31f…表面
32…隅肉溶接
35…貫通孔
36…突縁部(突部)
36A…見附部分
37…平板部
100…補強構造(複合構造)
300…デッキプレート(コンクリート嵩上げ材)
A…鋼板の見附面積
B…鋼板の幅
C…コンクリート系部材の被り厚さ
D…もっとも大きなせん断作用を受ける断面の断面積
F…せん断力
G…スラブ厚(コンクリート系部材20の厚み)
J…バーリングシアコネクタのせん断力作用方向の前方の小口面からスラブ端(コンクリート系部材の端部)までの距離
K…バーリングシアコネクタの鋼板の板厚中心から床スラブの縁までの距離
L…一組のバーリングシアコネクタどうしの間隔
N…デッキプレート山高さ
Ac…支承面積
fb…コンクリート支圧強度
F…せん断力
t…鋼板の板厚
X…せん断力作用方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21