(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154291
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】心拍出量計測センサーおよび心拍出量計測センサーの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/029 20060101AFI20221005BHJP
A61B 5/026 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A61B5/029
A61B5/026 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057242
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】矢部 滝太郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 圭
(72)【発明者】
【氏名】須田 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】曽根 淳
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA03
4C017AA11
4C017AB04
4C017AB05
4C017AC40
4C017BC01
4C017BC11
(57)【要約】
【課題】測定対象者の個体差に応じて心拍出量の推定を行うことのできる、心拍出量計測センサーを提供する。
【解決手段】電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナ11と、生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナ12と、受信アンテナ12が受信した電磁波の信号強度の経時的変化を表す波形データを作成する1次分布作成部211と、波形データから心拍出量を推定する心拍出量推定部214と、生体に向けて送信された電磁波を受信することで得られる信号から生体特徴データを抽出する生体特徴データ抽出部417と、生体特徴データから生体の特徴を生体パターンに分類する分類判定部418と、心拍出量推定部214による心拍出量の推定の算出過程に対して、分類された生体パターンに基づき補正を実行する補正実行部419と、を有する、心拍出量計測センサー。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナに対して、前記生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、
前記受信アンテナが受信した前記電磁波の信号強度の経時的変化を表す波形データを作成する波形データ作成部と、
前記波形データから、心拍出量を推定する心拍出量推定部と、
前記生体に向けて送信された前記電磁波を受信することで得られる信号から前記生体の特徴を表す生体特徴データを抽出する生体特徴データ抽出部と、
前記生体特徴データから前記生体の特徴を生体パターンに分類する分類判定部と、
前記心拍出量推定部による前記心拍出量の推定の算出過程に対して、分類された前記生体パターンに基づき補正を実行する補正実行部と、
を有する、心拍出量計測センサー。
【請求項2】
前記生体特徴データ抽出部は、前記生体を透過した前記電磁波の信号強度の変化量、および前記生体から反射した前記電磁波から得られる反射係数のうち、少なくともいずれか一つを前記生体特徴データとして抽出する、請求項1に記載の心拍出量計測センサー。
【請求項3】
前記補正実行部は、前記算出過程において、前記波形データから得られる前記心拍出量の変化に由来する信号強度を、前記生体パターンに基づき補正する、請求項1または2に記載の心拍出量計測センサー。
【請求項4】
前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの少なくとも一方は、前記生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子を含み、
前記波形データ作成部は、前記アンテナ素子ごとに前記波形データを作成する、請求項1~3のいずれか一つに記載の心拍出量計測センサー。
【請求項5】
前記生体特徴データ抽出部は、前記アンテナ素子ごとの信号強度の変化量の違いを、前記生体特徴データとして抽出する、請求項4に記載の心拍出量計測センサー。
【請求項6】
複数の前記アンテナ素子ごとに、それぞれのON/OFFを所定の周期で順次切り替える高速切替部と、
前記波形データ作成部は、前記受信アンテナが受信した前記電磁波の信号強度から、前記高速切替部によりONとなった前記アンテナ素子それぞれに対応する前記波形データを作成する、請求項4または5に記載の心拍出量計測センサー。
【請求項7】
前記所定の周期は、複数の前記アンテナ素子へのONが一巡する1サイクル時間が、心周期よりも短い、請求項6に記載の心拍出量計測センサー。
【請求項8】
複数の前記アンテナ素子は、同一平面上に格子状に配置されたアンテナアレイである、請求項4~7のいずれか一つに記載の心拍出量計測センサー。
【請求項9】
前記生体ごとに計測された体型データを取得する体型データ取得部と、
前記体型データと前記生体特徴データとの対応関係から補正値があらかじめ決められた補正データテーブルを記憶する記憶部と、をさらに有し、
前記補正実行部は、前記補正データテーブルを用いて前記算出過程に対して補正を実行する、請求項1~8のいずれか一つに記載の心拍出量計測センサー。
【請求項10】
電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナに対して、前記生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、を有し、
前記受信アンテナで受信した、前記生体を透過した前記電磁波を用いて、心拍出量を推定する心拍出量計測センサーを制御するコンピューターで実行される制御プログラムであって、
前記受信アンテナが受信した前記電磁波の信号強度の経時的変化を表す波形データを作成する段階(a)と、
前記生体に向けて送信された前記電磁波を受信することで得られる信号から前記生体の特徴を表す生体特徴データを抽出する段階(b)と、
前記生体特徴データから前記生体の特徴を生体パターンに分類する段階(c)と、
前記波形データを用いて前記心拍出量を推定する段階であって、前記心拍出量の推定の算出過程に対して、分類された前記生体パターンに基づき補正しつつ、前記心拍出量を推定する段階(d)と、
を有する、制御プログラム。
【請求項11】
前記段階(b)は、前記生体を透過した前記電磁波の信号強度の変化量、および前記生体から反射した前記電磁波から得られる反射係数のうち、少なくともいずれか一つを前記生体特徴データとして抽出する、請求項10に記載の制御プログラム。
【請求項12】
前記段階(d)は、前記算出過程において、前記波形データから得られる前記心拍出量の変化に由来する信号強度を、前記生体パターンに基づき補正する、請求項10または11に記載の制御プログラム。
【請求項13】
前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの少なくとも一方は、前記生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子を含み、
前記段階(a)は、前記アンテナ素子ごとに前記波形データを作成する、請求項10~12のいずれか一つに記載の制御プログラム。
【請求項14】
前記段階(b)は、前記アンテナ素子ごとの受信強度の変化量の違いを、前記生体特徴データとして抽出する、請求項13に記載の制御プログラム。
【請求項15】
前記段階(d)より前に、前記生体ごとに計測された体型データを取得する段階(e)を、さらに有し、
前記体型データと前記生体特徴データとの対応関係から補正値があらかじめ決められた補正データテーブルが、前記コンピューター内に記憶されており、
前記段階(d)は、前記補正データテーブルを用いて、前記算出過程に対して補正を実行する、請求項10~14のいずれか一つに記載の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍出量計測センサーおよび心拍出量計測センサーの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心拍出量の検出に関する従来技術には送信アンテナと、受信アンテナと、推定部と、を備えた特許文献1に記載の装置等がある。上記装置において送信アンテナは患者の胸部にマイクロ波等を送信し、受信アンテナは送信アンテナから送信され、生体を透過したマイクロ波等を受信し、推定部は、受信アンテナが受信したマイクロ波の位相または信号強度に基づいて、測定対象者の心拍出量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術は、心臓の収縮、拡張による、生体を透過したマイクロ波の変化から、心拍出量を推定している。生体を透過したマイクロ波の信号強度は、測定対象者の個体差、たとえば、体型や、体脂肪率の違いなどによって異なる。
【0005】
しかしながら、従来の技術は、心拍出量を推定する際に、測定対象者の個体差について考慮されていないため、心拍出量の推定精度が低下することとなっていた。
【0006】
そこで、本発明は、測定対象者の個体差に応じて心拍出量の推定を行うことのできる、心拍出量計測センサーおよび心拍出量計測センサーの制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明は、
電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナに対して、前記生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、
前記受信アンテナが受信した前記電磁波の信号強度の経時的変化を表す波形データを作成する波形データ作成部と、
前記波形データから、心拍出量を推定する心拍出量推定部と、
前記生体に向けて送信された前記電磁波を受信することで得られる信号から前記生体の特徴を表す生体特徴データを抽出する生体特徴データ抽出部と、
前記生体特徴データから前記生体の特徴を生体パターンに分類する分類判定部と、
前記心拍出量推定部による前記心拍出量の推定の算出過程に対して、分類された前記生体パターンに基づき補正を実行する補正実行部と、
を有する、心拍出量計測センサーである。
【0008】
また、上記目的を達成する本発明は、
電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナに対して、前記生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、を有し、
前記受信アンテナで受信した、前記生体を透過した前記電磁波を用いて、心拍出量を推定する心拍出量計測センサーを制御するコンピューターで実行される制御プログラムであって、
前記受信アンテナが受信した前記電磁波の信号強度の経時的変化を表す波形データを作成する段階(a)と、
前記生体に向けて送信された前記電磁波を受信することで得られる前記信号から前記生体の特徴を表す生体特徴データを抽出する段階(b)と、
前記生体特徴データから前記生体の特徴を生体パターンに分類する段階(c)と、
前記波形データを用いて前記心拍出量を推定する段階であって、前記心拍出量の推定の算出過程に対して、分類された前記生体パターンに基づき補正しつつ、前記心拍出量を推定する段階(d)と、
を有する、制御プログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体に電磁波を照射して得られた信号から、生体の特徴を表す生体特徴データ抽出して、これをさらに生体パターンに分類し、分類した生体パターンに合わせて、心拍出量の算出過程を補正することとした。これにより、本発明は、測定対象者の個体差に応じた精度の高い心拍出量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態における心拍出量計測センサー全体を示す概略斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る心拍出量計測センサーの構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【
図4A】変形例における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【
図4B】別の変形例における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【
図5A】素子走査処理における各アンテナ素子の高速切り替え処理を示す模式図である。
【
図5B】
図5Aの処理で得られた点データを示す模式図である。
【
図5C】
図5Bの点データにより生成した波形データを示す模式図である。
【
図6】アンテナ素子決定処理から心拍出量測定処理を示すメインルーチンフローチャートである。
【
図7】
図6のステップS19の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図8】波形分布データ(1次分布データ)の例を示す模式図である。
【
図10A】ピークタイミングの差分時間を説明する模式図である。
【
図10B】位置による差分時間の違いを説明するための模式図である。
【
図11】第1の実施形態における、評価値を各アンテナ素子の位置に対応付けて並べて作成した2次分布データの例を示す模式図である。
【
図12】第1の実施形態における
図6のステップS20の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図16】第1の実施形態における生体パターンの分類の例を示す生体パターンテーブルである。
【
図17】体型データの例を示す体型データテーブルである。
【
図18】第1の実施形態における生体パターンと体型データの組み合わせから決められた補正値の例を示す補正データテーブルである。
【
図19】変形例を説明するためのグラフであって、ある一つのアンテナ素子rに対応して、受信されたマイクロ波の信号の波形データを示すグラフである。
【
図20】第1の実施形態の変形例の補正値として、フィルター係数および電界強度補正係数の例を示す補正データテーブルである。
【
図21】第2の実施形態に係る心拍出量計測センサーの構成を示すブロック図である。
【
図22】第2の実施形態における
図6のステップS20の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図23】生体に対する反射係数の傾向を説明するための模式図である。
【
図24】第2の実施形態における生体パターンの分類の例を示す生体パターンテーブルである。
【
図25】第2の実施形態における生体パターンと体型データの組み合わせから決められた補正値の例を示す補正データテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本発明の技術的範囲は、以下に説明する実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々形態を変更して実施することができる。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る心拍出量計測センサー1000全体を示す概略図である。
図2は、第1の実施形態に係る心拍出量計測センサー1000の構成を示すブロック図であり、
図3は、第1の実施形態における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【0013】
図1では、ベッド95上に患者90(生体または被検者ともいう)が横たわっている状態(仰臥位)を示している。心拍出量計測センサー1000により患者90の心拍出量等の心臓から拍出される血液量を測定(推定)する。たとえば、心拍出量計測センサー1000は、心不全の検査、心臓手術後の経過観察、心臓病の投薬効果・副作用等の検証、等で用いられる。
【0014】
測定時には、看護師、医師等のユーザーにより、送信アンテナ11と受信アンテナ12の中心を結ぶ線が、心臓91に対応するように、両アンテナユニット(以下、単に「送受信アンテナ」ともいう)は、心臓91を挟んで互いに対向するように配置される。なお、外部電波による影響を減少させるために、測定中は、布製の電波シールドで、患者90の胸部および送受信アンテナ全体を覆うようにしてもよい。たとえば、受信アンテナ12は、患者90の下に配置され、送信アンテナ11は、患者90の上方に配置される。具体的には、受信アンテナ12はベッド95の上に配置され、その上に患者90が仰向けに寝る。上方の送信アンテナ11は、側面視でコの字型の移動式の固定台(図示せず)に取り付けられる。この固定台は、手動で送信アンテナ11の高さを調整可能である。送信アンテナ11は、固定台により、患者90からわずかに離間した状態で、患者90の上方に配置される。離間させるのは、患者90の呼吸動作を妨げないことと、患者90との接触による、意図しない送信アンテナ11の移動を防止するためである。なお、送受信アンテナの配置は、
図1等の配置に限定されない。送信および受信アンテナの配置は、たとえば、上下を逆にし、送信アンテナ11を患者90の下方(背面側)に配置し、受信アンテナ12を患者90の上方側(前面側)に配置してもよい。
【0015】
図2に示すように、心拍出量計測センサー1000は、送信アンテナ11、受信アンテナ12、および装置本体20を含む。装置本体20は、移動式の架台(図示せず)に載せられてベッド95の脇に配置される。装置本体20は、内蔵バッテリまたは、商用電源から供給された電力により動作する。また、両アンテナユニットは、信号ケーブル13を通じて、装置本体20と接続されており、この信号ケーブル13を通じて、データ信号の送受信および電力供給が行われる。送受信アンテナに関しては、後述する。
【0016】
(装置本体20)
装置本体20は、送受信コントローラー14、制御部21、記憶部22、入出力I/F(インターフェース)23、および通信I/F24を備える。
【0017】
(送受信コントローラー14)
送受信コントローラー14は、信号ケーブル13を介して、送信アンテナ11および受信アンテナ12と電気的に接続される。制御部21の制御の下で、送受信コントローラー14は、両アンテナユニット間の送受信のタイミングを制御したり、受信アンテナ12からの計測値(受信信号)を取得したりする。
【0018】
(制御部21)
制御部21は、CPU、RAM、およびROM等を含み、ROMまたは記憶部22に記憶されたプログラムにしたがって、装置内の各部の制御を行う。制御部21は、プログラムを実行することにより、1次分布作成部211、2次分布作成部212、素子決定部213、心拍出量推定部214、設置状態判定部215、指示部216、生体特徴データ抽出部417、分類判定部418、補正実行部419、および体型データ取得部420として機能する。また、1次分布作成部211には、点データ記録部301、および波形データ生成部302が含まれる。
【0019】
1次分布作成部211は、点データ記録部301と波形データ生成部302の機能によりアンテナ素子それぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成する(以下、「前段処理」という)。また1次分布作成部211は、この波形データをアンテナ素子それぞれと対応付けた波形分布データを作成する(以下、「後段処理」という)。
【0020】
2次分布作成部212は、評価値(後述)を算出するとともに、アンテナ素子の位置に応じた評価値の分布データを作成する。
【0021】
素子決定部213は、1次分布作成部211が作成した波形分布データに基づいて、心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する。すなわち、素子決定部213は、1次分布作成部が作成した波形分布データに基づいて、2次分布作成部212により作成された評価値の分布データに基づいて、心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する。また、素子決定部213は、1次分布作成部211が作成した波形分布データに基づいて、算出された評価値に基づいて、心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定してもよい。
【0022】
心拍出量推定部214は、患者90の心拍出量、すなわち心臓91から拍出される血液量を推定(算出)する。
【0023】
設置状態判定部215は、送受信アンテナ(アンテナアレイ)の設置状態の適否を判定する。
【0024】
指示部216は、第1指示部として機能し、設置状態判定部215の判定結果に応じて、再計測または再配置の指示を出力する。また、指示部216は第2指示部として機能し、再配置の移動方向を指示する。
【0025】
生体特徴データ抽出部417は、1次分布作成部211(波形データ作成部)によって作成されたアンテナ素子ごとの波形データから、生体の特徴を表す生体特徴データを抽出する。
【0026】
分類判定部418は、生体特徴データ抽出部417によって取得された生体特徴データから、あらかじめ決められた生体ごとの特徴を生体パラメータとして分類する。
【0027】
補正実行部419は、心拍出量推定部214による心拍出量を推定(算出)する算出過程に対して、分類された生体パターンごとに補正を実行する。この補正実行部419による補正が行われることで、心拍出量推定部214は、体型に合わせて補正された心拍出量を推定(算出)することができる。
【0028】
体型データ取得部420は、測定対象者の体型データを取得する。
【0029】
これらの制御部21内各部の機能についての詳細は後述する。
【0030】
(記憶部22)
記憶部22は、あらかじめ各種プログラムや各種データを格納しておく半導体メモリや、ハードディスク等の磁気メモリから構成される。また、記憶部22には、点データ、波形データ、波形分布データ、比較分布パターン、心拍出特徴データの設定範囲、FFTデータおよびノイズ成分である周波数成分等(いずれも後述)が記憶される。また、記憶部22には、アンテナアレイにおけるアンテナ素子(後述のアンテナ素子r1~rx、またはt1~tx)の位置情報が記憶されている。位置情報は、たとえば、基板上のXY座標や、相対的な位置関係(距離、方向)の情報である。
【0031】
(入出力I/F23)
入出力I/F23は、入出力部として機能し、USB、DVIの規格等に準拠した入出力端子を備え、キーボード、マウス、マイク等の入力装置およびディスプレイ、スピーカ、プリンタ等の出力装置と接続するインターフェースである。
図1、
図3に示す例では、入出力I/F23には、タッチパネル51が接続されている。また、XYステージ52が接続されていてもよい。タッチパネル51は、液晶パネルおよびこれに重畳させたタッチパッドで構成され、これを介して、ユーザーからアンテナ素子決定処理、および心拍出量測定の開始指示を受け付ける。XYステージ52は、指示部216の再配置の指示におじて、両アンテナユニットの少なくとも一方を移動させ、配置位置を変更する。なお、タッチパネル51、XYステージ52等の入出力装置を、装置本体20または心拍出量計測センサー1000の構成に含めてもよい。
【0032】
(通信I/F24)
通信I/F24は、PC(パーソナルコンピュータ)、タブレット端末、等の外部の端末装置とネットワーク経由、またはピアツーピアで、有線または無線通信によるデータの送受信を行うインターフェースである。有線通信では、イーサネット(登録商標)、SATA、PCI Express、IEEE1394、等の規格によるネットワークインターフェースを用いてもよく、無線通信では、Bluetooth(登録商標)、IEEE802.11、4Gなどの無線通信インターフェースを用いてもよい。
図1、
図3に示す例では、通信I/F24には、PC61が接続されている。
【0033】
(送信アンテナ11)
図2、
図3に示すように送信アンテナ11は、基板110、送信波形生成部111、およびアンテナ素子t1で構成される。
図3に示す第1の実施形態では、後述の変形例(
図4A等)とは異なり、送信アンテナ11は、単一のアンテナ素子t1を備え、受信側は複数のアンテナ素子を備える(1対多の構成)。
【0034】
送信アンテナ11は、生体を透過する電磁波(電波)を送信する。基板110は、各辺が数十mm~二百数十mmの全体が矩形板状の部材であり、この基板110上に送信波形生成部111、およびアンテナ素子t1が配置される。アンテナ素子t1として、一辺または直径が数十mmから百数十mmのパッチアンテナ、ダイポール形式の線状アンテナ、またはループアンテナを適用できる。たとえば、アンテナ素子t1は、パッチアンテナである。
【0035】
送信波形生成部111は、電波生成器を含む。生成する電磁波の周波数は、生体の心臓91を電離作用なく透過することができれば特に限定されない。たとえば、周波数300MHzから30GHzのマイクロ波が好ましく、より好ましくは400M~1.0GHzのマイクロ波である。マイクロ波は、生体透過性と、心臓91の収縮、拡張における損失変化による感度(電界強度の変化率)が高いため、心拍出量の測定に好適である。生成する電波の電力は、受信アンテナ12において十分な電力が検出できれば特に限定されないが、たとえば、数mW~数十mWとしてもよい。また、生成する電波は、連続波、パルス波、または位相変調もしくは周波数変調を施した電波のいずれでもよい。
【0036】
(受信アンテナ12)
図2、
図3に示すように受信アンテナ12は、基板120、アンテナアレイ121、高速切替部122、およびサンプリング部123を含む。アンテナアレイ121、高速切替部122、およびサンプリング部123は、各辺が数十mm~二百数十mmの全体が矩形板状の基板120上に形成される。
【0037】
アンテナアレイ121は、複数のアンテナ素子r1~rx(以下、これらを総称して、「アンテナ素子r」ともいう(アンテナ素子tも同じ)。また図面においては「素子」と記載する)で構成され、これらは平面状の基板120の表面に、同一平面上で格子状に配置される。送信側を単一のアンテナ素子t、受信側を複数のアンテナ素子rで構成することで、電界を作る送信アンテナの位置が一定となり、電磁波による電界が安定する。
【0038】
図3に示す第1の実施形態においては、各アンテナ素子rとして、ダイポール形式の線状アンテナ、または微小ループアンテナを適用できる。アンテナ素子rは、たとえばそれぞれが、一辺または直径が数mm~十数mmのループアンテナである。隣接するアンテナ素子r同士は、密着することなく配置している。アンテナアレイ121全体のサイズとしては、生体の背面側から視たときの心臓91のサイズよりも大きいサイズに設定している。アンテナアレイ121全体のサイズとしては、具体的には、たとえば、1辺が100~500mmの矩形形状であり、一般的な成人男性の胸部の幅と同等か、それより大きくしてもよい。
【0039】
また、アンテナ素子rの総個数は、好ましくは40個以上100個以下である。後述の使用するアンテナ素子rを決定する際の位置精度(位置解像度)の観点から、40個以上とすることが好ましい。上限個数は、周期tsと総個数を乗じることで算出される1サイクル時間tc(サンプリングレート)の観点や、コストの観点から100個以下が好ましい。たとえば
図3に示す例では、アンテナ素子rそれぞれは12mmの略矩形のループアンテナであり、アンテナアレイ121は、縦横7個ずつの総数49個のアンテナ素子r1~r49で構成される。そして、隣接するアンテナ素子r同士の間隔は2mm程度で配置され、アンテナアレイ121全体のサイズは約100mm角である。以下においては、横軸(後述の行A-Gの行方向)をX方向、縦軸(後述の列1-7の列方向)をY方向ともいう。これらのアンテナ素子rそれぞれの位置情報(XY座標)は、上述のように記憶部22に記憶されており、2次分布作成部212の処理に用いられる。
【0040】
アンテナアレイ121全体のサイズおよび個数は、上記のサイズおよび個数とすることで、確実に、狙いとする心臓の部分に、少なくとも一つのアンテナ素子を対応させることができる。アンテナアレイ121全体のサイズや個数は、上記のサイズや個数に限定されない。
【0041】
高速切替部122は、各アンテナ素子r1~rxに対応した複数のスイッチング素子s1~sx(以下、これらを総称して、「スイッチング素子s」ともいう)で構成される。高速切替部122では、いずれか1個のスイッチング素子s(たとえば素子s1(
図2参照))のみをON状態にし、その他のスイッチング素子s(たとえば素子s2~sx)はすべてOFFにする。複数のアンテナ素子を同時にON状態で動作させた場合、アンテナ同士が結合し、一つのアンテナとして動作してしまい、所望の計測値が得られない虞がある。このような現象を避けるため、高速切替部122では、一つのアンテナ素子r(および
図4A等の例では送信アンテナ素子t)のみをON状態にする。
【0042】
また、高速切替部122は、OFF状態のアンテナ素子rの終端条件を制御する、すなわち、OFF状態のアンテナ素子rを、高周波的に接地する。このようにすることで、OFF状態のアンテナ素子による誘導障害等の影響を減らせる。
【0043】
サンプリング部123は、サンプリング回路と、AD変換回路、バッファー回路を含む。サンプリング部123は、ON状態のアンテナ素子r(たとえば素子r1)が受信した電波信号をサンプリングし、電界強度をデジタル信号(計測値)に変換する。各アンテナ素子rに対応したデジタル化した計測値は、逐次、または所定単位(たとえば、1サイクル周期)でまとめて、装置本体20の送受信コントローラー14に送られる。
【0044】
(送受信アンテナの変形例)
図4Aは、変形例(多対多)における送受信アンテナの構成例を示す図であり、
図4Bは、別の変形例(多対1)における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【0045】
上述した
図3に示す第1の実施形態(1対多)では、受信アンテナ12側に複数のアンテナ素子を配置した。すなわち、受信アンテナ12がアンテナアレイ121、およびこれをスイッチング制御する高速切替部122を備えた。しかしながら、
図4Aに示す変形例のように、送信アンテナ11b側にも複数のアンテナ素子t1~txを配置してもよい。すなわち、
図4Aに示すように、送信アンテナ11bが、送信波形生成部111とともに、アンテナアレイ113、およびこれをスイッチング制御する高速切替部112を備えてもよい。なお、アンテナアレイ113および高速切替部112は、受信アンテナ12のアンテナアレイ121および高速切替部122と同様の構成を備えるため、説明を省略する。
【0046】
また、
図4Bに示す別の変形例(多対1)のように、受信アンテナ12b側を一つのアンテナ素子としてもよい。
図4Bに示す受信アンテナ12bは、一つの受信アンテナr1とこれに接続したサンプリング部123で構成される。なお、
図3、
図4A、
図4Bの実施形態でのアンテナアレイを構成する送受信アンテナ素子の数は、あくまでも例示であり、49個よりも少なくともよく、多くてもよい。たとえば、送信アンテナアレイ113のアンテナ素子tの個数を数個にしてもよく、100個以上にしてもよく、受信アンテナアレイ121のアンテナ素子rの個数を数個にしてもよく、100個以上にしてもよい。これらの数の下限はアンテナ素子の配置の位置精度に影響し、上限は、サンプリングレートに影響する。数を多くすると、1サイクル時間tcが長くなり、サンプリングレートが低くなり、正しい波形データ(後述の
図5C参照)が得られなくなる。
【0047】
図4Aに示した変形例(多対多)の場合も、
図4Bに示した変形例(多対1)の場合も、送信アンテナアレイ113のサイズは、たとえば、1辺が100~500mmの矩形形状であり、患者90の胸部の幅と同等か、それより大きくすることがより好ましい。
【0048】
なお、
図3に示した受信アンテナ12側をアレイにする構成と、
図4Bに示した送信アンテナ11b側をアレイにする構成を比較すると、受信アンテナ12側をアレイにする構成の方が、送信アンテナ11b側をアレイにする構成よりも、心拍出量の測定に好適なアンテナ素子をより正確に選定できる。
【0049】
(1次分布作成部211の前段処理)
次に、
図5A~
図5Cを参照し、1次分布作成部211による、波形データ作成までの前段処理について説明する。この前段処理は、以下に説明するように、主に点データ記録部301、および波形データ生成部302により行われる。なお、以下の説明においては、送受信アンテナの構成は、
図3に示した第1の実施形態のような構成例であるとして説明する(
図6以降も同様)。この場合、以下に説明するように点データ記録部301は、高速切替部122によりONとなったアンテナ素子rそれぞれに関して計測された計測値を、アンテナ素子rそれぞれと紐付けて点データとして記録する。
【0050】
なお、
図4Aに示した変形例(多対多)を適用する場合には、送信側のアンテナ素子t、および受信側のアンテナ素子rを順次、高速切替部112、122により切り替える。すなわち、ある時刻では、同時に1系統のアンテナ素子t、rの伝播経路のみが作動するように、両アンテナユニットを同期させながら高速で切り替える。この場合、点データ記録部301は、高速切替部112、122によりONとなったアンテナ素子t、rそれぞれに関する計測値を、アンテナ素子t、rそれぞれと紐付けて点データとして記録する。たとえば、ある時刻では、送信のアンテナ素子txと受信のアンテナ素子rxの伝播経路で送受信された受信信号を、これらの送受信のアンテナtx、rxに紐付けて、点データとして記録される。
図4Bに示した別の変形例(多対1)でも同様の処理により、それぞれのアンテナ素子tx(と一つのアンテナ素子r1)に紐付けて、点データとして記録される。
【0051】
図5Aは、素子走査処理における各アンテナ素子の高速切り替え処理を示す模式図である。送受信コントローラー14は、素子走査処理時(後述の
図6のステップS101~S107に対応)には、高速切替部122を制御する。
図5Aでは、巡回モードが「全巡回モード」で、所定の周期tsが100μsecに設定された例を示している。素子走査処理時においては、高速切替部122は巡回モードと周期の設定に応じて、アンテナ素子r1~r49まで、それぞれのON/OFFを周期tsで順次切り替える。なお、他の巡回モードとしては、「一部巡回モード」がある。この一部巡回モードでは、アンテナアレイ121のうち一部のアンテナ素子rのみを間引いて一巡させる。たとえば、アンテナ素子r1、r3,r5……r47、r49のように一つ置きのアンテナ素子rを使用したり、奇数列のアンテナ素子rのみを使用したりする。
【0052】
また、周期tsおよび/または1サイクル時間tcは、任意の値に設定できる。たとえば周期tsは、10μsec~1msecの間で任意の値を設定できる。また、1サイクル時間tcは、周期tsの設定に伴い1msec~100msecの間で任意の値に設定したり、周期tsによらず、たとえば周期tsを固定(たとえば100μsec固定)で、ウェイト時間を調整することで、1サイクル時間tcを5~100msecの間で任意の設定にしたりしてもよい。この巡回モードと周期/1サイクル時間の設定は、ユーザーにより行われてもよく、制御部21側で自動に行ってもよい。この巡回モードと周期の設定は、ユーザーにより行われてもよく、制御部21側で自動に行ってもよい。
【0053】
制御部21により自動で行う場合には、走査時間の短縮、および必要なメモリ容量を低減させるという観点から、たとえば、多段階で変更する。この多段階の変更は、一連の素子走査処理(
図6参照)で行ってもよく、再計測(後述の12B等)する際に、変更するようにしてもよい。たとえば、最初は、半分または1/4間引きの一部巡回モードで動作させ、粗くアンテナ素子の候補を決定し、次にその周辺のアンテナ素子の周辺を動作させ、より細かく、アンテナ素子の受信特性を判定する。また、最初は周期tsを短くして、粗くアンテナ素子の候補を決定し、次に、減じた個数の(たとえば半分の)アンテナ素子に対して周期tsをその逆数分(たとえば2倍)長くして、より詳細に候補のアンテナ素子の受信特性を判定する。
【0054】
サンプリング部123はON状態にあるアンテナ素子rが受信した電界強度に応じた受信信号を取得する。点データ記録部301は、送受信コントローラー14を介して、この受信信号を取得し、各素子rと紐付けて、記憶部22またはRAMに一時的に記録する。
【0055】
図5Bは、
図5Aの処理で得られた点データを示す模式図である。隣接するアンテナ素子rでは、一つの周期ts(100μsec)分だけ、取得タイミングがずれる。たとえば、素子r2の点データp12の取得時刻は、素子r1の点データp11の取得時刻よりも周期ts分だけ遅れた時刻になる。同様に最後のアンテナ素子r49の点データp149は、素子r1の点データp11よりも、48の周期ts分(4.8msec)遅れることになる。また、一つの素子においては、隣接する点データは、1サイクル時間tc分の間隔となる。たとえば、素子r1の点データp11よりも1サイクル時間tc後に点データp21が取得されることになる。1サイクル時間tcは、総個数(多対多の場合は組み合わせ数)に周期tsを乗じることにより算出できる。たとえば
図5Bでは、1サイクル時間tcは4.9msec(=49×100μsec)となる。なお、
図5Bおよび以下においては、数値を丸めて4.9msecを5msecで表記する。
【0056】
図5Cは、
図5Bの点データにより生成した波形データを示す模式図である。この波形データは、波形データ生成部302が、点データ記録部301が記録した点データを、素子rごとに収集して、経時的に並べたものである。
図5Cでは、心拍出量による信号強度の変化をとらえている、一つの素子rの波形データw1を代表として示している。この波形データは、この素子rに紐付けられた多数の点データp11、p21、p23等で構成される。
【0057】
(所定の周期tsの範囲)
周期tsの上限は、複数のアンテナ素子rへのONが一巡する1サイクル時間tcが、心周期よりも十分に短くなるような周期である。具体的には、心拍数の最大値は、心疾患を考慮して最大180回/分、すなわち3Hzとする。一般に、精度よく波形を生成するためのサンプリングレートは、その10倍以上が好ましく30Hz(33msec)となる。これをアンテナ素子rの総個数の好ましい範囲40~100個の下限個数の40で除すると0.8msecとなる。周期tsの上限としては、これよりも少し広めの1.0msec(サンプリングレートを8倍程度想定)とした。なお周期tsの下限は、回路構成に依存するサンプリングの安定性により適宜決定される。たとえば周期tsの下限は数十μsecである。特に、1サイクル時間tcは、心周期よりも十分に短くなるような周期、たとえば1msec以下に設定されることで、十分なサンプリングレートを確保でき、波形を精度よく生成できる。
【0058】
(アンテナ素子決定処理から心拍出量測定処理)
図6は、アンテナ素子決定処理から心拍出量測定処理を示すメインルーチンフローチャートである。
【0059】
(ステップS11)
制御部21は、ユーザーの測定開始指示により送受信アンテナによる送受信を開始させる。具体的には、ユーザーは、送信アンテナ11と受信アンテナ12を互いに、心臓91を挟んだ状態で対向させて配置する。その後、ユーザーは、タッチパネル51やキーボード等により、測定開始の指示を入力する。この時に、ユーザーは、巡回モードと周期tsの設定を行ってもよい。以下においては、
図5A~
図5Cと同様に、巡回モードは全巡回モードで、素子数は49個で、周期tsが100μsec、1サイクル時間tcが5msecとして説明する。
【0060】
(素子走査処理(S12からS17))
このステップS12からS17の処理は素子走査処理である。この素子走査処理では、複数のアンテナ素子の中から心拍出量の測定に好適な、すなわち、心臓91に対する配置位置が最もよいアンテナ素子rを決定するために、各アンテナ素子rを順に走査して、計測信号を収集する。なお、素子走査処理の実行中は、送信アンテナ11では、マイクロ波を送信し続ける、または、受信側のアンテナ素子rの切り替えタイミングに合わせた、パルス波を送信する。
【0061】
(ステップS12)
ステップS12では、制御部21は、ステップS16との間でループaの処理を行う。このループaでは、全巡回モードの設定に応じて、アンテナ素子r1から最後のアンテナ素子rx(r49)まで一つずつ順々に対象のアンテナ素子rを切り替える。
【0062】
(ステップS13)
高速切替部122により、対象となるアンテナ素子rをON状態に切り替える。たとえば、アンテナ素子r1をOFF状態からON状態に変更し、他のON状態のアンテナ素子rがあればこれをOFF状態に変更する。
【0063】
(ステップS14)
サンプリング部123は、ON状態のアンテナ素子rでの計測値を取得する。
【0064】
(ステップS15)
点データ記録部301は、ステップS14で取得した計測値を、対象のアンテナ素子rと紐付けて点データとして記録する。なお、このステップS15は所定単位(たとえば1サイクル周期の49個分)でまとめて処理するようにしてもよい。たとえば、サンプリング部123のバッファーで所定単位のデータを保持しておく。そして点データ記録部301では、この所定単位のデータをまとめて取得し、一括して処理する。
【0065】
(ステップS16)
最後のアンテナ素子rxでなければ、所定周期tsで、対象のアンテナ素子rを次に変更して、ステップS12以下のループ処理を繰り返す。最後のアンテナ素子rxであればループを抜けて処理をステップS17に進める。
【0066】
(ステップS17)
制御部21は、終了条件を満たしているか判定し、満たしていれば(YES)、処理をステップS18に進め、満たしていなければ(NO)、ステップS12以下のループ処理を繰り返す。終了条件としては、たとえば1~数回の心拍相当の時間(たとえば数秒から十数秒)が経過した場合、または繰り返し回数(数百~千回)に到達した場合である。
【0067】
(ステップS18)
波形データ生成部302は、点データから素子r1~素子rxの波形データを生成する。たとえば
図5Cのような波形データを生成する。ここまでが1次分布作成部211による前段処理である。
【0068】
(ステップS19)
ここでは、1次分布作成部211、2次分布作成部212、および素子決定部213が協働することで、最も特性がよいアンテナ素子rを決定する。
図7は、このステップS19の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【0069】
(ステップS511)
ここでは、1次分布作成部211は後段処理を行う。すなわち、1次分布作成部211は、ステップS18で作成した、各アンテナ素子rの波形データを、アンテナ素子rそれぞれと対応付けた波形分布データを作成する。
図8は、ステップS511で作成した波形分布データの例を示す模式図である。波形分布データは、各アンテナ素子rに対応付けて波形データを並べたものである。以下においては、波形分布データを1次分布データともいう。
【0070】
(ステップS512)
2次分布作成部212は、1次分布に基づいて各アンテナ素子rに対応する波形の評価を行い、評価値を算定する。そして、アンテナ素子rの位置に応じた評価値の分布データ(以下、「2次分布データ」ともいう)を作成する。
図9は、各種の評価値の例を示す表である。2次分布作成部212が算出する評価値の指標としては、同図に示すように指標1~6のいずれを用いてもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0071】
(1)指標1の「波形データの振幅」は、波形データに含まれる1波形の振幅である。通常の心周期に近い周波数の波形を抽出し、その波形の振幅を指標1の評価値として求める。波形データに数個の波形が含まれていれば、振幅の平均値を用いてもよい。この評価値を求める際の前処理として、通常の心周期の範囲(30~180回/分)に対応した特定周波数(0.5~3Hz)よりも、外側の周波数を除外するようにバンドパスフィルターによるノイズ除去処理を行ってもよい。波形データの振幅の大きさからアンテナ素子と心臓の位置関係を推定可能である。なお、ここでいう「振幅」とは、マイクロ波の振幅ではなく、心拍に伴うマイクロ波の受信強度の変動幅である(以下、特に断りのない限り同様である)。
【0072】
(2)指標2の「フーリエ変換後の特定周波数における強度」は、波形データに関してFFT処理を行い、心周期に対応する周波数およびその整数倍(2~4倍)までの範囲の特定周波数(0.5~10Hz)における強度を指標2の評価値として求める。特定周波数における強度分布によって心臓との位置関係を推定できる。
【0073】
(3)指標3は、「波形データの変曲点時間」である。変曲点時間は、波形データを2階微分することにより算出できる。この指標3の評価値は、波形の形状を表す評価値である。アンテナ素子と心臓の位置関係によって波形の形状が変化する傾向があるため、この指標3の評価値から心臓との位置関係を推定できる。
【0074】
(4)指標4は、「波形データの時間積分値」であり、1波形を時間積分することにより算出できる。
【0075】
(5)指標5は、「自己相関係数」であり、複数の波形が含まれる波形データから算出できる。自己相関係数は、連続する波形の類似性を表す評価値である。安定して波形取得ができているアンテナ素子の波形は変化が少ないと考えられるため、連続するアンテナ素子の波形の類似性が高い(自己相関係数が大きい)アンテナ素子を心拍出量推定に用いる。
【0076】
(6)指標6は、「ピークのタイミングの差分時間」である。2次分布作成部212は、最初に、心臓91の収縮(または拡張)に伴う信号強度が最大(または最小)となるピークのタイミングを算出する。次に、このピークタイミングを、基準波形と比較することで差分時間を算出する。基準波形とは、あらかじめ定められたいずれかのアンテナ素子rの波形データである。たとえば、アンテナアレイ121の中央付近のアンテナ素子r(たとえばアンテナ素子r25)の波形データである。ピークのタイミングが進んでいるアンテナ素子rの近くに心臓がある傾向がある。その理由は、心臓から拍出される血流のピークは、心臓から離れるほど遅れて到達すると考えられるからである。
【0077】
ここで、指標6について、
図10A、
図10Bを参照し、より詳細に説明する。
図10Aは、ピークタイミングの差分時間を説明する模式図である。
図10Bは、位置による差分時間の違いを示す模式図である。
図10Aでは、対象となるアンテナ素子rx(たとえば素子r1)における波形と、基準波形を示している。基準波形は、上述したように中心のアンテナ素子r25から得られた波形データである。
【0078】
2次分布作成部212は、同時、または略同時に計測した2つの対象アンテナ素子r1と基準アンテナ素子r25の点データから作成した波形データのピークタイミングの差分時間を算出し、この差分時間から評価値を算出する。ここで略同時に計測した点データから作成した波形データとは、
図5A等で説明したように、1サイクル時間tcが、心周期よりも十分に短くなるような周期で、計測した点データから作成した波形データである。同時とは、文字通り一つの送信アンテナ素子tから送信された電磁波を、複数のアンテナ素子rで同時に計測した点データから作成した波形データである。この場合、アンテナ同士が結合し、一つのアンテナとして動作しないように、互いにある程度、距離が離れた、アンテナ素子rxで計測された点データを用いる。
【0079】
図10Bでは、あるアンテナ素子rのX方向の位置を変位させながら測定させた際の波形データの差分時間の変化を示している。
図10Bの実験においては、実施形態と異なり差分時間の算出時は、基準波形として心電図の波形を用いる。
図10Bに示すように、差分時間(遅延時間)は、左端で最も(絶対値が)大きく、X方向のプラス方向に移動させることで徐々に小さくなり、-10~-30mmの範囲で最小となり、-40でまた増加傾向を示すことがわかる。この遅延時間は、心臓の各位置(左心室、右心室、またはこの各部分)による動きの違いにより生じると考えられる。このようなことから、アンテナ素子rの心臓91との相対位置が離れる程、すなわち、受信アンテナ12のアンテナ素子tと、アンテナ素子rとの間の電波の伝播経路が、心臓91の中心(特に左心室)から離れる程、ピークの遅延時間が長くなる。つまり、指標6の評価値においては、2次分布作成部212は、差分時間が少ない(または、ピークタイミングが最も早い)程、高い評価値を算出する。そして、素子決定部213は、複数のアンテナ素子rから、最も評価値が高い位置にあるアンテナ素子rを選択する。
【0080】
2次分布作成部212は、このような指標1~6の少なくともいずれかにより、2次分布データを作成する。2次分布データは、各アンテナ素子rの位置(XY座標)と、そのアンテナ素子rの波形データから算出した評価値の分布を表したものである。
【0081】
(ステップS513)
素子決定部213は、ステップS512で作成された2次分布データから心拍出量の推定に用いるアンテナ素子を決定する。
図11は、第1の実施形態における、評価値を各アンテナ素子rの位置に対応付けて並べて作成した2次分布データの例を示す模式図である。
図11に示す例では、模式的に、評価値の高低に応じてレベル0~5の6段階の濃淡で示している。レベルが高い程、最も評価値が高く、最も特性が好適なアンテナ素子rである。通常は、心臓91(特に左心室)との位置関係が良好なアンテナ素子rほど、評価値が高くなる。
【0082】
素子決定部213は、
図11に示す2次分布データの例では、評価値が最も高い位置E4(列4、行E)にあるアンテナ素子r32を決定する。
【0083】
なお、評価値のレベルは、
図11に示すようにある位置(たとえば
図11では位置E4)が最も高く、その位置から離れるにしたがって、評価値が変化するという特性を示す。このようなことから、素子決定部213は、2次分布データを、X軸、Y軸、またはXY平面上で、多項式近似することによりピーク位置を算出し、そのピーク位置に最も近い位置にあるアンテナ素子rを、心拍出量測定用のアンテナ素子rとして選択(決定)するようにしてもよい。また、素子決定部213は、記憶部22に記憶してある比較分布パターンと比較することで、心拍出量測定用のアンテナ素子rを決定するようにしてもよい。また、別の例として、素子決定部213は、(2次分布データの生成を経由せずに)、2次分布作成部212により算出された評価値(たとえば指標1~5)から、心拍出量測定用のアンテナ素子rを決定するようにしてもよい。以上により、
図7のサブルーチンフローチャートでの処理を終了し、
図6の処理に戻る。
【0084】
(ステップS20)
ここでは、生体特徴データ抽出部417、分類判定部418、補正実行部419、および体型データ取得部420が協働することで、波形データから生体特徴データを抽出して、生体パターンを分類し、さらに補正値を決定する。
図12は、ステップS20の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【0085】
(ステップS811)
まず、生体特徴データ抽出部417は、ステップS18で作成されたアンテナ素子rごとの波形データから、生体特徴データを抽出する。波形データから抽出される生体特徴データは、たとえば、呼吸に伴うマイクロ波の信号強度の変化(呼吸性振幅)と分布分散性である。
【0086】
呼吸に伴うマイクロ波の信号強度の変化は、たとえば、各アンテナ素子の波形データから、呼吸のタイミングに同期している波形を抽出することで得られる。また、呼吸に伴うマイクロ波の信号強度の変化は、たとえば、アンテナ素子rごとに波形データを高速フーリエ変換(FFT)し、その周波数が、呼吸タイミングの周波数に近い周波数成分を抽出することでも得られる。この場合、信号強度は、抽出された周波数成分の強度を使用することができる。また、呼吸に伴う信号強度の変化は、心拍出量に伴う信号強度の変化よりも、多くのアンテナ素子に分布している。したがって、呼吸に伴う信号強度の変化は、より多くのアンテナ素子rに分布が広がっている信号強度の変化があれば、それを呼吸に伴うものと判断してもよい。
【0087】
図13は、呼吸性振幅の一例を示すグラフである。
図13では、第1体型と第2体型の呼吸波形を示している。ここで第1体型と第2体型は、第1体型の人の胸囲<第2体型の人の胸囲とする。
【0088】
図13に示すように、呼吸性振幅は、測定対象者の体型によって異なり、第1体型の人の振幅aの方が、第2体型の人の振幅bよりも大きい。これは、第1体型の人の方が、第2体型の人よりも、呼吸による胸部の動き、特にアンテナによって挟まれた方向の変化が大きい。生体に対するマイクロ波の損失は、生体の変化が大きいほど大きくなる傾向がある。このため、胸部の変化が大きい第1体型の人の振幅aの方が、第2体型の人の振幅bよりも大きくなる。
【0089】
分布分散性は、呼吸に起因したマイクロ波の信号強度の変化(すなわち振幅)が、どの程度に広がっているかを示す。たとえば、分布分散性は、最大振幅に対して、所定振幅以上となっているアンテナ素子rの個数とその広がりである。より具体的には、分類判定部418は、まず、すべてのアンテナ素子rの中から最大振幅を求める。続いて、分類判定部418は、求めた最大振幅に対する所定振幅以上となっているアンテナ素子rを抽出し、その位置を求める。所定振幅は、たとえば、最大振幅に対して80%以上などとする。
【0090】
本実施形態では、この分布分散性をアンテナアレイのマトリックスにおける配置と個数から分類した。
図14は、分布分散性の分類の例を示す図である。
図14(a)は、呼吸による信号の振幅が最大振幅に対して80%以上となっているアンテナ素子の広がりが、3行3列の合計9個のアンテナ素子の範囲の場合分散性「1」とする。
図14(b)は、同様に、5行5列の合計25個のアンテナ素子の範囲の場合、分散性「2」とする。
図14(c)は、同様に、7行7列の合計49個のアンテナ素子の範囲場合、分散性「3」とする。なお、分布分散性とアンテナ素子の個数の関係は、任意に決定すればよく、この例に限定されない。また、アンテナアレイのマトリックスを用いずに、単純に所定振幅以上となっているアンテナ素子の個数から分布分散性を分類してもよい。
【0091】
図15は、呼吸の分布分散性の一例を示すグラフである。
図15では、第1体型と第2体型の呼吸の分布分散性を示している。
【0092】
図15に示すように、呼吸の分布分散性は、測定対象者の体型によって異なる。呼吸によるマイクロ波の信号が、最大振幅に対して80%以上となっているアンテナ素子rは、は、
図15(b)に示した第2体型の方が、
図15(a)に示した第1体型よりも多く分布している。これは、第2体型の人の方が、第1体型の人よりも、胸部の幅が大きいためである。なお、
図14の分類に照らして、
図15(a)に示した第1体型の分布分散性=1であり、
図15(b)に示した第2体型の分布分散性=3である。
【0093】
(ステップS812)
分類判定部418は、生体特徴データを生体パターンに分類する。
図16は、第1の実施形態における生体パターンの分類の例を示す生体パターンテーブルである。生体パターンは、
図16に示すように、ステップS811で説明した生体特徴データ、すなわち、呼吸性振幅と分布分散性の組み合わせから分類される。たとえば、呼吸性振幅が1.0dbで、分布分散性が2であれば、生体パターンは、生体パターンNo.5に分類される。このような生体パターンテーブルは、あらかじめ記憶部22に記憶させておくとよい。
【0094】
(ステップS813)
体型データ取得部420は、体型データを、たとえば、PC61などから取得して記憶部22へ記憶する。
図17は、体型データの例を示す体型データテーブルである。体型データは、
図17に示すように、たとえば、測定対象者の体重、体脂肪率、性別などである。このような体型データは、あらかじめ体重体脂肪計などを用いて、測定対象者を測定し、PC61に記憶しておく。なお、体型データは、PC61以外にも、外部のサーバーから取得してもよいし、心拍出量の測定前に、体重体脂肪計などを用いて、測定対象者を測定し、測定結果を入力して、記憶部22へ記憶してもよい。
【0095】
(ステップS814)
補正実行部419は、生体パターンと体型データの組み合わせから補正値を求める。本実施形態では、あらかじめ生体パターンと体型データの組み合わせから決められた補正値を補正データテーブルとして記憶部22に記憶させている。
【0096】
図18は、生体パターンと体型データの組み合わせから決められた補正値の例を示す補正データテーブルである。
図18に示す補正データテーブルにおいて、補正値の強度係数は、後述する(2)式において、定数β(後述)を補正するための補正係数であり、振幅係数は振幅h(後述)を補正するための補正係数である。
【0097】
補正実行部419は、
図18に示す補正データテーブルを参照して補正値を決定する。補正実行部419は、たとえば、分類された生体パターンNo.が「1」で、取得された体型No.が「A」であれば、補正No.A1として、補正値を強度係数=1.2、振幅係数0.8とする。
【0098】
そして、補正実行部419は、後述のステップS21において、心拍出量推定部214による心拍出量の推定(算出過程)に対して補正を実行する。
【0099】
以上により、
図12のサブルーチンフローチャートでの処理を終了し、
図6の処理に戻る。
【0100】
(ステップS21)
心拍出量推定部214は、ステップS19で決定されたアンテナ素子rの波形データを用いて、心拍出量、または心臓から拍出される血液量を推定する。この時、補正実行部419による補正が実行される。
図5Cに示したような心拍波形において、心臓が収縮期にあるときと、拡張期にあるときの信号強度の差分を振幅hとし、患者90の心臓91の心拍出量、または心臓から拍出される血液量を推定する。心臓91は、収縮期に比べて拡張期においては、マイクロ波の損失がより大きくなり、信号の減衰が大きくなる。すなわち収縮期の受信信号の強度は、ベース強度bより小さくなり、拡張期の受信信号の強度は、ベース強度bより大きくなる。そして、波形w1の山の頂点と谷の底の差が振幅hである。なお、ベース強度bは、すべてのアンテナ素子rで受信したマイクロ波の電界強度の平均値である。
【0101】
このような信号強度の変化である振幅hは、心臓の大きさの変化、すなわち1拍出量に比例するので、振幅hにより心拍出量を推定(算出)できる。具体的には、たとえば、下記(1)式により算出される。
【0102】
心拍出量=振幅h×定数α-定数β (1)
(1)式中、定数αおよびβの項は、受信信号の電界強度から求めた値を心臓から拍出される血液量としてのmL(またはL)の値に変換するための定数である。このような定数αおよびβに代えて、電界強度による心拍出量の数値を血液量の数値に換算するための検量線などを用いて変換してもよい。
【0103】
そして、本実施形態では、このような心拍出量の算出過程において、定数βおよび振幅hをステップS20において求めた補正値による補正する。したがって、補正する場合の心拍出量は、下記(2)式による算出される。
【0104】
心拍出量=振幅h×振幅係数×定数α-定数β×強度係数 (2)
心拍出量推定部214は、この(2)式を用いて、心拍出量を推定する。
【0105】
以上説明した第1の実施形態は、以下の効果を奏する。
【0106】
心拍出量計測センサー1000は、生態を透過して、受信された信号の波形データから、測定対象者の生体特徴を抽出し、それを生体パターンとして分類し、分類ごとに決められた補正値により心拍出量の算出過程を補正することとした。
【0107】
これにより本実施形態は、計測目的である心拍出量を、測定対象者の個体差に応じて高い精度で推定することができる。
【0108】
また、本実施形態においては、別途測定された体型データも、生体パターンの分類と合わせて使用することで、心拍出量の推定精度を一層向上させることができる。
【0109】
また、本実施形態においては、生体特徴データの抽出に、呼吸による受信強度の変動(振幅)を用いた。呼吸による受信強度の変動は、体型の大きさに依存するため、生体パターンの分類精度が向上する。
【0110】
また、本実施形態においては、同時または略同時に、各アンテナ素子で計測された計測値を用い、得られた計測値から波形データを作成する。このように同時または略同時に計測された計測値を用いることにより、指標1~6のいずれかの評価値を用いた2次分布データを用いた心拍出特徴データを抽出する際の精度が向上する。
【0111】
また、本実施形態においては、高速切替部122(または高速切替部112)を含み、1次分布作成部211は、点データ記録部301および波形データ生成部302を含む。これにより、略同時に複数のアンテナ素子での計測を行え、ひいては上述の精度向上を図れる。
【0112】
なお、ピークのタイミングの差分時間(指標6の評価値)以外を用いる場合においては、各アンテナ素子で異なる時刻に計測した計測値を用いてもよい。たとえば、一つの送信側アンテナ素子tと一つの受信側アンテナ素子rとの間の伝播経路での受信信号の計測を数秒周期で順次切り替えながら行い、これをアンテナ素子r全数分繰り返すことにより、計測値を取得するようにしてもよい。
【0113】
また、本実施形態では電磁波としてマイクロ波を用いる。マイクロ波は、人体を透過する際の減衰が他の周波数よりも少なく、また心臓の拡張/収縮の動きに応じた損失変化に伴う信号の変化の感度(振幅の増減率)が他の周波数よりも大きく、心拍出量の測定に好適である。
【0114】
なお、第1の実施形態においては、呼吸性振幅のデータを用いず、分布分散性のみを生体特徴データとして用いてもよい。分布分散性のみ用いた場合、生体における胸部(特に心臓周辺)の筋肉や脂肪の広がり方などの違いを判別できる。筋肉や脂肪の広がり方が違うと、電磁波の通りやすさ(損失の違い)が異なるので、それによる生体パターンの分類ができる。そして、分類した生体パターンに基づき、補正を行うことで心拍出量の推定精度を向上させることができる。
【0115】
また、第1の実施形態においては、分布分散性のデータを用いず、呼吸性振幅のみを生体特徴データとして用いてもよい。呼吸性振幅のみ用いた場合でも、生体に対する電磁波の通りやすさ(損失の違い)を判別できるので、生体パターンの分類ができる。そして、分類した生体パターンに基づき、補正を行うことで心拍出量の推定精度を向上させることができる。この場合、送信アンテナ11および受信アンテナ12は、いずれも1個のアンテナ素子からなるように構成してもよい。送信アンテナ11および受信アンテナ12をともに1個のアンテナ素子とする場合、可能な限り、心臓、特に左心室を挟むように設置することが望まれる。また、この場合、ステップS11~S17およびS19の処理は不要であり、一つのアンテナ素子における波形データを作成して、用いることになる。
【0116】
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態による、生体の違いによる補正は、受信したマイクロ波の信号の波形生成過程にも適用することができる。
【0117】
図19は、変形例を説明するためのグラフであって、ある一つのアンテナ素子rに対応して、受信されたマイクロ波の信号の波形データを示すグラフである。
ある一つのアンテナ素子rに対応して、受信されたマイクロ波の信号の波形データを示すグラフであって、
図19(a)はフィルターリング前を示し、
図19(b)はフィルターリング後を示している。ここでのフィルターリングとは、平滑化フィルターを適用し、高周波成分を除去する処理である。具体的には、
図19(a)に示したグラフ中の高周波成分を、
図19(b)に示すように、平滑化フィルターによって除去する。
【0118】
本変形例では、このような平滑化フィルターで使用するフィルター係数および電界強度補正係数を、分類された生体パターンごとに設定する。
【0119】
図20は、第1の実施形態の変形例の補正値として、フィルター係数および電界強度補正係数の例を示す補正データテーブルである。
【0120】
図20に示す補正データテーブルにおいて、補正値は、第1の実施形態同様に、生体パターンと体型データの組み合わせから決められている。なお、生体パターンの分類、および体型データは第1の実施形態において説明したとおりである。
【0121】
補正値となるフィルター係数は、高周波成分を除去する際の係数であり、強度係数は、信号強度の低い値を高くして、信号強度を均等化するために用いる補正係数である。
【0122】
補正実行部419は、
図20に示す補正データテーブルを参照して補正値を決定する。補正実行部419は、たとえば、分類された生体パターンNo.が「1」で、取得された体型No.が「A」であれば、補正No.A1として、その補正値をフィルター係数=1.2、電界強度補正係数0.8とする。
【0123】
そして、ステップS21において、心拍出量推定部214は、補正値によって補正された平滑化フィルターによって、平滑化処理された波形データを用いて心拍出量の推定(算出過程)を実行する。
【0124】
(第2の実施形態)
図21は、第2の実施形態に係る心拍出量計測センサーの構成を示すブロック図である。
【0125】
第2の実施形態は、生体特徴データとして、生体の反射係数を用いる。このために、第2の実施形態の心拍出量計測センサー1000は、ネットワークアナライザー600を有する。ネットワークアナライザー600は、送受信コントローラー14を介して、送信アンテナ11から、生体へ向けて電磁波を照射させ、送信アンテナ11を受信アンテナとして機能させて、生体からの反射波を受信させる。そして、ネットワークアナライザー600が反射係数を求め、生体特徴データ抽出部417が反射係数を生体特徴データとして抽出する。
【0126】
送信アンテナ11のアンテナ素子tが複数ある場合(
図4Aおよび
図4B参照)、使用するアンテナ素子tは、いずれか一つでよい。
【0127】
その他の構成は、第1の実施形態と同様であるので、それらの説明は省略する。また、第2の実施形態は、制御部21における、生体特徴データ抽出部417、分類判定部418、および補正実行部419の一部の機能が、第1の実施形態と異なる。ここでは、これら各部の機能のうち、第1の実施形態と異なる部分のみ説明する。
【0128】
図22は、第2の実施形態における
図6のステップS20の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【0129】
(ステップS20)
ここでは、生体特徴データ抽出部417、ネットワークアナライザー600、分類判定部418、補正実行部419、および体型データ取得部420が協働することで、反射係数を測定して、生体特徴データとし、生体パターンを分類し、さらに補正値を決定する。
【0130】
(ステップS911)
まず、生体特徴データ抽出部417は、ネットワークアナライザー600を起動して、生体に向けて電磁波を照射させる。使用する電磁波は、心拍出量を推定するために用いるマイクロ波と同じでよい。これにより、ネットワークアナライザー600は、生体の反射係数を測定する。なお、反射係数の測定には、専用の電磁波が使用されてもよい。その場合、生体特徴データ抽出部417は、送受信コントローラー14を介することなく、ネットワークアナライザー600から送信アンテナ11へ直接アクセスさせて、専用の電磁波を送信させてもよい。専用の電磁波は、マイクロ波であってもよいし、マイクロ波以外であってもよいが、生体に対して影響がない、または極めて少ない(安全基準をクリアしている)電磁波を用いる。
【0131】
反射係数は、入射波に対する反射波の比であり、S11パラメータと称されており、下記(3)式のように表されている。入射波は生体に向けて照射される電磁波であり、反射波は、生体からの反射である。
【0132】
反射係数(S11)=(反射波の電界強度)/(入射波の電界強度) (3)
ネットワークアナライザー600によって計測された反射係数は、接触面、すなわち生体表面の電気定数によって変化する。そして、生体表面の電気定数が変化すると、生体を透過するマイクロ波の損失も変化する。
【0133】
ネットワークアナライザー600によって計測された反射係数は、生体特徴データ抽出部417によって生体特徴データとして抽出される。
【0134】
図23は、生体に対する反射係数の傾向を説明するための模式図である。
図23(a)の第3体型の人は、
図23(b)の第4体型の人より、筋肉が多い(逆にいうと、第4体型の人の方が第3体型の人より脂肪が多い)。
【0135】
生体に対する反射係数(S11パラメータ)は、
図23(a)に示した第3体型のように筋肉量の多い人の方が、脂肪が多い人よりも高くなる傾向がある。
【0136】
したがって、本実施形態は、反射係数を測定し、これを生体特徴データとすることで、似たような体型(たとえば、胸囲が同じ)であっても、筋肉のよく発達した人とそうでない人のマイクロ波の損失の違いを見分けられるようになる。
【0137】
(ステップS912)
分類判定部418は、反射係数(生体特徴データ)を生体パターンに分類する。
図24は、第2の実施形態における生体パターンの分類の例を示す生体パターンテーブルである。第2の実施形態における生体パターンは、
図24に示すように、ネットワークアナライザー600によって測定された反射係数ごとに分類される。
【0138】
(ステップS913)
体型データ取得部420は、第1の実施形態と同様であり、体型データを、たとえば、PC61などから取得して記憶部22へ記憶する。
【0139】
(ステップS914)
補正実行部419は、生体パターンと体型データの組み合わせから補正値を求める。
図25は、第2の実施形態における生体パターンと、体型データの組み合わせから決められた補正値の例を示す補正データテーブルである。第2の実施形態では、第1の実施形態と異なり、補正値としては振幅係数のみが決定される。第2の実施形態においても、補正値は、
図25に示すように、あらかじめ生体パターンと体型データの組み合わせから決められている。このような補正データテーブルは記憶部22に記憶させておく。補正実行部419は、この補正データテーブルを参照して、補正値を決定する。
【0140】
そして、補正実行部419は、後述のステップS21において、心拍出量推定部214による心拍出量の推定(算出過程)に対して補正を実行する。
【0141】
以上により、
図22のサブルーチンフローチャートでの処理を終了し、
図6の処理に戻る。
【0142】
(ステップS21)
心拍出量推定部214は、第1の実施形態と同様に、ステップS19で決定されたアンテナ素子rの波形データを用いて、心拍出量、または心臓から拍出される血液量を推定する。この時、補正実行部419による補正が実行される。ここでの補正は、振幅hに対する補正である。したがって、補正する場合の心拍出量は、下記(4)式による算出される。
【0143】
心拍出量=振幅h×振幅係数×定数α-定数β (4)
心拍出量推定部214は、この(4)式を用いて、心拍出量を推定する。なお、(4)式においても、定数αおよびβは、(1)式と同様である。
【0144】
以上説明した第2の実施形態は、第1の実施形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0145】
本実施形態では、生体特徴データとして反射係数を測定することとしたので、生体内の筋肉量や脂肪量の違いによる電磁波の損失の違いを見分けることができる。したがって、本実施形態では、見た目の体型が同じであっても、実際には電磁波の損失量が異なるような場合にも、正確に心拍出量を推定できるようになる。これにより本実施形態は、計測目的である心拍出量を、測定対象者の個体差に応じて高い精度で推定することができる。
【0146】
なお、第2の実施形態においては、送信アンテナ11および受信アンテナ12は、いずれも1個のアンテナ素子からなるように構成してもよい。なぜなら、反射係数を生体特徴データとする場合は、第1の実施形態のように、その分布分散性を用いない。このため反射係数の測定だけであれば、生体に対して1ポイントで電磁波を照射し、その反射を受信すればよいからである。送信アンテナ11および受信アンテナ12をともに1個のアンテナ素子とする場合、心拍出量測定の際に、送信アンテナ11および受信アンテナ12は、可能な限り、心臓、特に左心室を挟むように設置することが望まれる。また、この場合、ステップS11~S17およびS19の処理は不要であり、一つのアンテナ素子における波形データを作成して、用いることになる。
【0147】
また、第2の実施形態では、ネットワークアナライザー600を心拍出量計測センサー1000に組み込み、制御部21から制御することで、反射係数を求めることとした。しかし、本第2の実施形態は、ネットワークアナライザー600を単独で用いて、あらかじめ反射係数を求めたのち、第1実施形態による心拍出量計測センサーにより心拍出量の推定を実施することとしてもよい。その場合、ネットワークアナライザー600を単独で用いて計測した反射係数の値は、心拍出量計測センサーに入力して生体特徴データとして使用する。生体パターンの分類、および補正は、心拍出量計測センサーによって実行させる。また、生体パターンの分類、および補正は、別途、コンピューター(PC)などによって実行して、補正値を心拍出量計測センサーに提供して、心拍出量を推定させることとしてもよい。
【0148】
以上に説明した実施形態は、上述の構成に限られず、特許請求の範囲内において、種種改変することができる。
【0149】
上述した各実施形態では、体型データを取得して、生体パターンの分類と合わせて使用することとしたが、体型データを用いることなく、生体パターンの分類を用いるだけでも、心拍出量の推定精度を向上させることができる。体型データを使用しない場合、体型データ取得部420はなくてもよい。また、ステップS813およびS913は不要である。
【0150】
また、補正値については、第1の実施形態においては、強度係数と振幅係数の両方を用いるとしたが、補正値は、いずれか一方だけでもよい。すなわち、補正値は、強度係数のみ用いたり、振幅係数のみ用いたりしてもよい。変形例においても同様であり、フィルター係数のみ用いたり、電界強度補正係数のみ用いたりしてもよい。また、第2の実施形態においては、振幅係数による振幅の補正だけでなく、反射係数の違いによる、透過したマイクロ波の受信強度の違いから、信号強度に対する補正(強度係数)を用いることとしてもよい。
【0151】
また、上述した心拍出量計測センサー1000における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピューターのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、たとえば、USBメモリやDVD-ROM等のコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、一機能として装置のソフトウエアに組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0152】
1000 心拍出量計測センサー
11、11b 送信アンテナユニット
110 基板
111 送信波形生成部
112 高速切替部
113 アンテナアレイ(送信側)
t1~tx アンテナ素子(送信側)
12、12b 受信アンテナユニット
120 基板
121 アンテナアレイ(受信側)
122 高速切替部
123 サンプリング部
13 信号ケーブル
14 送受信コントローラー
20 装置本体
21 制御部
211 1次分布作成部
301 点データ記録部
302 波形データ生成部
212 2次分布作成部
213 素子決定部
214 心拍出量推定部
215 設置状態判定部
216 指示部
217 生体特徴データ抽出部
218 分類判定部
219 補正実行部
600 ネットワークアナライザー
22 記憶部
23 入出力I/F
24 通信I/F
51 タッチパネル
52 XYステージ
61 PC