(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154302
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】タンディッシュ
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20221005BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B22D11/10 310F
B22D11/10 310H
B22D11/10 310J
B22D41/02 A
B22D41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057259
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】原田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】笠松 智行
【テーマコード(参考)】
4E014
【Fターム(参考)】
4E014BA01
4E014BA02
(57)【要約】
【課題】タンディッシュの鋼浴部における耐火物の亀裂の発生を抑制することが可能な、タンディッシュを提供する。
【解決手段】溶鋼を保持する容器の外殻となる鉄皮と、鉄皮の内面を覆うウェア材と、鉄皮の内面に固定され、ウェア材を支持する金属製の複数の支持体と、を有し、複数の支持体は、容器の高さ方向において、上部側から底部側に向かうにつれて配置密度が減少するように設けられている、タンディッシュが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼を保持する容器の外殻となる鉄皮と、
前記鉄皮の内面を覆うウェア材と、
前記鉄皮の内面に固定され、前記ウェア材を支持する金属製の複数の支持体と、
を有し、
前記複数の支持体は、前記容器の高さ方向において、上部側から底部側に向かうにつれて配置密度が減少するように設けられている、タンディッシュ。
【請求項2】
前記容器の高さ方向において、前記容器に保持される前記溶鋼の湯面の設定高さ位置から底部側を鋼浴部とし、前記溶鋼の湯面の設定高さ位置より上部側を非鋼浴部としたとき、
前記複数の支持体は、前記非鋼浴部のみに設けられている、請求項1に記載のタンディッシュ。
【請求項3】
前記鉄皮に前記支持体が設けられている支持体設置部分を除き、前記鉄皮と前記ウェア材との間にはパーマ材が設けられており、
前記支持体のそれぞれは、当該支持体に対応する前記支持体設置部分において前記鉄皮に固定された固定部材を介して、前記鉄皮の内面に固定され、
前記固定部材は、
前記支持体と、前記支持体設置部分の上側に位置する上側パーマ材と、前記支持体設置部分の下側に位置する下側パーマ材と、を支持する第1部分、及び、
前記第1部分から、前記下側パーマ材の上端面に沿って前記容器の内面側へ延設される第2部分、
を有する、請求項1または2に記載のタンディッシュ。
【請求項4】
前記第1部分と前記上側パーマ材との間には、常温時において隙間が設けられている、請求項3に記載のタンディッシュ。
【請求項5】
前記固定部材は、前記第2部分から、前記下側パーマ材に沿って前記容器の底部側へ延設される第3部分を有する、請求項3または4に記載のタンディッシュ。
【請求項6】
前記パーマ材は耐火れんがであり、
前記第3部分は、水平方向に隣接する前記耐火れんがの一対に兼用されるように設けられ、前記一対の耐火れんがの双方を支持する、請求項5に記載のタンディッシュ。
【請求項7】
前記支持体は、棒状部材からなり、
前記鉄皮の内面に沿って延在し、前記鉄皮に固定される基部と、
前記基部から前記容器の内面側に向かって延びる支持部と、
を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のタンディッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造において、鋳型内に溶鋼を安定して注入するために、取鍋によって鋳型に輸送される溶鋼を当該鋳型に注入する前に一旦受け入れる、タンディッシュと呼ばれる容器が用いられている。タンディッシュは、取鍋の溶鋼を受け入れて安定させる役割とともに、溶鋼中の介在物を除去して、溶鋼の清浄度を向上させる機能を有している。
【0003】
タンディッシュは、容器の外殻となる鉄皮の内面に、耐火物が施工されている。タンディッシュの耐火物は、溶鋼流出防止の観点から、3層構造以上に設計することが一般的である。例えば、容器内部の溶鋼側から鉄皮側に向かって、耐火物としてコーティング材、ウェア材、パーマ材が施工される。コーティング材は、直接溶鋼と接触し、都度更新される部材である。ウェア材は、コーティング材が溶損もしくは剥離した場合に、溶鋼と接触する。パーマ材は、ウェア材が溶損もしくは剥離した場合の非常時に溶鋼と接触する。
【0004】
ここで、タンディッシュの整備時には、次回鋳造時の溶鋼汚染を防止するために、内部に残留した地金やスラグ、コーティング材を除去する作業が行われる。かかる作業は、タンディッシュを傾動させて実施される。この際、タンディッシュ内部の耐火物が自重により脱落することもあり得るため、ウェア材またはパーマ材がタンディッシュから脱落しないように支持する必要がある。
【0005】
耐火物が被施工物から脱落しないようにする方法として、例えば、特許文献1には、ランスパイプにおいて、金属管の外周面に2つ以上の脚部により接合される金属製のスタッドを複数設け、金属管の外周面を覆う耐火物をスタッドにより支持させることが開示されている。各スタッドが2つ以上の脚部を有することにより、金属管から脚部を通じて得られるスタッドの冷却効果が高まる。これにより、スタッドの熱膨張が抑制され、耐火物に発生する損傷が抑制されるため、耐火物の脱落を防止することができる。
【0006】
また、例えば特許文献2には、耐火物を鉄皮などの外殻に支持させるアンカー金物が開示されている。特許文献2に記載のアンカー金物は、取付け対象面に取り付けられる基端部と、基端部から突出した突出部とを備え、突出部の少なくとも一部がコイルバネで形成されている。コイルバネは、軸方向に伸縮すると共に、軸方向に対して湾曲するように変形する。突出部で保持する耐火物が膨張及び収縮すると、その膨張及び収縮に追随してコイルバネが伸縮、変形する。これにより、アンカー金物の突出部と耐火物との間での熱応力の発生を抑制し、耐火物における亀裂の発生を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-196525号公報
【特許文献2】特開2014-163659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、溶鋼を保持するタンディッシュにおいて、容器の内面側に耐火物を支持する支持体を設けたとしても、上記特許文献1に記載のランスパイプのスタッドのように高い冷却効果を与える構成とすることは難しい。
【0009】
また、上記特許文献2に記載のアンカー金物をタンディッシュの内面に設置すれば、当該アンカー金物のコイルバネの伸縮、変形によって耐火物との間での熱応力の発生が抑制され、耐火物に亀裂を生じにくくさせることができると考えられる。しかし、アンカー金物の設置数が多くなりすぎると、耐火物との間で生じる熱応力は抑制されるといえども、アンカー金物の設置箇所それぞれにおいて熱応力が発生していることから、耐火物に亀裂が生じる可能性は高まると考えられる。特に、タンディッシュが溶鋼と接触する鋼浴部において耐火物に亀裂が発生すると溶鋼が流出する恐れがある。したがって、タンディッシュの鋼浴部における耐火物の亀裂の発生を抑制できるように、アンカー金物を設置することが重要となる。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、タンディッシュの鋼浴部における耐火物の亀裂の発生を抑制することが可能な、タンディッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、溶鋼を保持する容器の外殻となる鉄皮と、鉄皮の内面を覆うウェア材と、鉄皮の内面に固定され、ウェア材を支持する金属製の複数の支持体と、を有し、複数の支持体は、容器の高さ方向において、上部側から底部側に向かうにつれて配置密度が減少するように設けられている、タンディッシュが提供される。
【0012】
容器の高さ方向において、容器に保持される溶鋼の湯面の設定高さ位置から底部側を鋼浴部とし、溶鋼の湯面の設定高さ位置より上部側を非鋼浴部としたとき、複数の支持体は、非鋼浴部のみに設けられるようにしてもよい。
【0013】
鉄皮に支持体が設けられている支持体設置部分を除き、鉄皮とウェア材との間にはパーマ材が設けられており、支持体のそれぞれは、当該支持体に対応する支持体設置部分において鉄皮に固定された固定部材を介して、鉄皮の内面に固定してもよい。固定部材は、支持体と、支持体設置部分の上側に位置する上側パーマ材と、支持体設置部分の下側に位置する下側パーマ材と、を支持する第1部分、及び、第1部分から、下側パーマ材の上端面に沿って容器の内面側へ延設される第2部分、を有する。
【0014】
第1部分と上側パーマ材との間には、常温時において隙間が設けられているのがよい。
【0015】
固定部材は、第2部分から、下側パーマ材に沿って容器の底部側へ延設される第3部分を有してもよい。
【0016】
パーマ材は耐火れんがであり、第3部分は、水平方向に隣接する耐火れんがの一対に兼用されるように設けられ、一対の耐火れんがの双方を支持するようにしてもよい。
【0017】
支持体は、棒状部材からなり、鉄皮の内面に沿って延在し、鉄皮に固定される基部と、基部から容器の内面側に向かって延びる支持部と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、タンディッシュの鋼浴部における耐火物の亀裂の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタンディッシュを側面視したときの概略端面図である。
【
図2】
図1のA-A切断線におけるタンディッシュの概略断面図である。
【
図3】
図1のB-B切断線におけるタンディッシュの概略端面図である。
【
図4】タンディッシュの鋼浴部及び非鋼浴部を示す模式図である。
【
図5】固定部材を用いて鉄皮に固定される支持体の一例を示す概略平面図であって、
図6のD-D切断線における位置から見た状態を示す。
【
図6】常温時において、
図5のC-C切断線における位置から見た状態を示す部分断面図である。
【
図7】支持体及び固定部材の一配置例を示す、タンディッシュの側壁の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
[1.タンディッシュの構成]
まず、
図1~
図3に基づいて、本発明の一実施形態に係るタンディッシュの概略構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るタンディッシュ1を側面視したときの概略端面図である。
図2は、
図1のA-A切断線におけるタンディッシュ1の概略断面図である。
図3は、
図1のB-B切断線におけるタンディッシュ1の概略端面図である。なお、以下において、タンディッシュ1の幅方向をX方向、長手方向をY方向、高さ方向をZ方向とする。また、
図1及び
図3では、タンディッシュ1に施工されるウェア材30は二点鎖線によって外郭のみ示している。
【0022】
本実施形態に係るタンディッシュ1は、取鍋によって鋳型に輸送される溶鋼を鋳型に注入する前に一旦受け入れる容器である。タンディッシュ1において溶鋼を保持する空間Vは、
図1~
図3に示すように、4つの側壁1a~1dと、底面1eとにより形成されている。4つの側壁1a~1dの内面は平面であり、各側壁1a~1dは、容器上部側の上底が容器底部側の下底よりも長い略台形状を有している。あるいは、各側壁1a~1dは、長方形状であってもよい。底面1eには、保持した溶鋼を鋳型へ注ぐためのノズル3a~3cが設けられている。容器の上部は開口している。タンディッシュ1を、側壁1a~1dを平面とし、上部が大きく開口した形状とすることで、タンディッシュ1を傾動させて、内部に残留した地金やスラグ、コーティング材の除去作業を容易にする。
【0023】
タンディッシュ1には、容器の外殻となる鉄皮10の内面に、耐火物が施工されている。
図1~
図3に示すタンディッシュ1では、耐火物として、容器内部の溶鋼側から鉄皮10側に向かって、コーティング材(図示せず。)、ウェア材30、パーマ材20が施工されている。
【0024】
コーティング材は、鋳造後にタンディッシュ1の内部に残った地金やスラグの除去作業の簡素化や、ウェア材30の保護を目的として施工されるものである。コーティング材は、1キャスト使用する毎に解体され、再度施工される。これにより、溶鋼に触れる部位の清浄性を保つことができ、溶鋼の汚染も防止することができる。コーティング材としては、例えばマグネシア(MgO)質の材料が用いられ、こて塗りまたは吹き付けにより施工される。
【0025】
ウェア材30は、コーティング材が溶損もしくは剥離した場合に溶鋼と接触する耐火物である。ウェア材30としては、例えば、アルミナ-シリカ(Al2O3-SiO2)質の耐火物が用いられる。ウェア材30は、補修頻度が高いため、施工が容易である不定形耐火物が用いられることが多い。
【0026】
パーマ材20は、鉄皮10の内面に施工される耐火物であり、例えば、耐火れんが、不定形耐火物等が用いられる。パーマ材20として耐火れんがを用いた場合、耐火れんがは、
図1及び
図3に示すように積み重ねられ、タンディッシュ1の容器の内面を覆う。パーマ材20は、ウェア材30が溶損もしくは剥離した場合の非常時に溶鋼と接触する。
【0027】
本実施形態に係るタンディッシュ1は、側壁1a~1dの内面に、鉄皮10の内面に固定され、ウェア材30を支持する金属製の支持体40が複数設けられている。支持体40は、スタッドとも称される。支持体40は、ウェア材30に覆われており、ウェア材30及びパーマ材20の脱落を抑制する。支持体40の配置及び鉄皮10への固定方法については後述する。
【0028】
[2.支持体]
[2-1.支持体の配置]
タンディッシュ1の側壁1a~1dの内面に設けられる支持体40は、ウェア材30を支持する部材であるが、金属製であることから、タンディッシュ1の使用中に溶鋼から熱を受け膨張する。支持体40の膨張量が大きいと、ウェア材30を押し割り、亀裂を生じさせる。ウェア材30に発生した亀裂は、溶鋼流出の経路となり得る。特に、タンディッシュ1が溶鋼と接触する鋼浴部のウェア材30に亀裂が発生すると、溶鋼流出の可能性が高まる。一方で、ウェア材30に亀裂を生じさせないために支持体40の設置数を少なくすると、ウェア材30及びパーマ材20の支持力が不足し、タンディッシュ1を傾動させた際にウェア材30あるいはパーマ材20が脱落する可能性がある。
【0029】
そこで、本実施形態に係るタンディッシュ1では、支持体40を、容器の高さ方向において、上部側から底部側に向かうにつれて配置密度が減少するように、側壁1a~1dの内面に設ける。これにより、容器の上部側に比べて、溶鋼が保持されている容器の底部側では支持体40の設置数が少なくなるため、ウェア材30に亀裂が生じる可能性を低減することができ、溶鋼流出を防止することができる。なお、支持体40の配置密度d[個/mm]は、例えば、タンディッシュ1の底面1eからの高さh[mm]に対する支持体40の設置数n[個](d=n/h)により表してもよい。
【0030】
また、タンディッシュ1からの溶鋼流出をより確実に防止するために、支持体40はタンディッシュ1の非鋼浴部にのみ設けるのがよい。ここで、
図4に、タンディッシュ1の鋼浴部S2及び非鋼浴部S1を示す。
図4に示すように、容器の高さ方向(Z方向)において、容器に保持される溶鋼の湯面の設定高さ位置Lvから底部側を鋼浴部S2とし、溶鋼の湯面の設定高さ位置Lvより上部側を非鋼浴部S1とする。
【0031】
溶鋼の湯面の設定高さ位置Lvは、タンディッシュ1の形状や、溶鋼の介在物除去処理等を考慮した溶鋼のタンディッシュ滞留時間(取鍋から流入しタンディッシュ1から流出するまでの時間)等に応じて設定される値であり、変化する。このため、鋼浴部S2及び非鋼浴部S1も変化する。タンディッシュ1の側壁1a~1dの高さをH、非鋼浴部S1の高さをH1、鋼浴部S2の高さをH2としたとき、例えば、湯面の設定高さ位置Lvは、鋼浴部S2の高さH2が側壁1a~1dの高さHの60~80%くらいとなるように設定し得る。
【0032】
なお、非鋼浴部S1の高さH1は、少なくとも50mm以上としてもよい。これにより、タンディッシュ1に保持される溶鋼の湯面位置がタンディッシュ1の上端近傍となり、溶鋼がタンディッシュ1から流出することを防止できる。
【0033】
支持体40を、タンディッシュ1の非鋼浴部S1にのみ設け、鋼浴部S2には設けないようにすることで、ウェア材30に亀裂が発生したとしても溶鋼流出の経路となるのを回避することができ、タンディッシュ1からの溶鋼流出をより確実に防止できる。また、鋼浴部S2では支持体40が溶鋼の熱の影響をより顕著に受けることから、支持体40を鋼浴部S2に設けると熱膨張量も大きくなり、ウェア材30に亀裂を生じさせやすい。ウェア材30の亀裂の発生を抑制する観点からも、支持体40をタンディッシュ1の非鋼浴部にのみ設けることは望ましい。
【0034】
また、支持体40自体では、タンディッシュ1からの溶鋼流出を抑制することはできない。ウェア材30中に支持体40を設けることによって、ウェア材30が溶鋼流出を防止できる有効厚み(後述する
図5の有効厚みt
w1)は減少する。鋼浴部S2におけるウェア材30の寿命を延ばし、タンディッシュ1からの溶鋼流出を防止する観点においても、支持体40を、タンディッシュ1の非鋼浴部S1にのみ設け、鋼浴部S2には設けないようにすることは有効である。
【0035】
[2-2.固定部材を用いた支持体の設置]
本実施形態に係るタンディッシュ1では、支持体40を、容器の高さ方向において、上部側から底部側に向かうにつれて配置密度が減少するように、側壁1a~1dの内面に設けることにより、鋼浴部S2における支持体40の設置密度を低減させ、ウェア材30の亀裂の発生を抑制する。ここで、非鋼浴部S1では、鋼浴部S2に比べて支持体40の設置密度が高いため、ウェア材30に亀裂が発生する可能性が高まる。このとき、非鋼浴部S1におけるタンディッシュ1からの溶鋼流出の可能性は鋼浴部S2ほど高くはないが、亀裂の発生が生じないようにすることが望ましい。
【0036】
支持体40の設置数については、タンディッシュ1の傾動時に耐火物(ウェア材30及びパーマ材20)にかかる力のつり合いより、以下の関係が成り立つ。
【0037】
支持体の設置数
=(支持体に負荷される耐火物の自重)÷(支持体1個あたりの支持荷重)
【0038】
上記関係より、支持体40に負荷される耐火物の自重を低減させれば、支持体40の設置数を低減させることができる。また、支持体40と鉄皮10との溶接面積を増大させれば、支持体40の1個あたりの支持荷重を増加させることができる。そこで、支持体40を、固定部材を用いて鉄皮10に固定することにより、支持体40の設置数を低減させ、ウェア材30の亀裂の発生をさらに抑制することができる。
【0039】
以下、
図5及び
図6に基づいて、本実施形態に係る支持体40と、固定部材50を用いた支持体40の設置について説明する。
図5は、固定部材50を用いて鉄皮10に固定される支持体40の一例を示す概略平面図であって、
図6のD-D切断線における位置から見た状態を示す。
図6は、常温時において、
図5のC-C切断線における位置から見た状態を示す部分断面図である。
図5及び
図6は、
図3の領域Qの拡大図に相当する。
【0040】
図5及び
図6に示す支持体40は、棒状部材からなり、鉄皮10に固定される基部41と、基部41から容器の内面側に向かって延びる支持部43と、を有する。
【0041】
基部41は、後述する固定部材50に溶接によって固定されている。基部41は、鉄皮10の内面に沿って延在している。例えば、
図5及び
図6に示すように、基部41は、側壁1a、1bにおいて長手方向(Y方向)に延在している。基部41は、鉄皮10の内面に沿っていればよく、その延在方向は特に限定されない。固定部材50との溶接面積を大きくすることができるように、長く延在させることの可能な方向に向けて基部41を延在させればよい。固定部材50との溶接面積を増加させることにより、基部41と固定部材50とを強固に固定することができる。
【0042】
支持部43は、一端が基部41に位置し、基部41から容器の内面側に向かって延びる軸部43aと、軸部43aの他端からそれぞれ離隔するように延びる先端部43b、43cとを有する。支持部43は、
図5に示すように、平面視してY形状となるように形成してもよい。これにより、支持部43におけるウェア材30の支持力を高めることができる。また、支持部43は、ウェア材30の厚みをt
wとしたとき、先端がウェア材30の厚みt
wの60%程度に位置に存在するように配置してもよい。すなわち、パーマ材20とウェア材30の境界位置からウェア材30側に延びる支持部43の突出長t
w2をt
wの60%程度とする。支持部43の存在しないウェア材30の厚み部分がウェア材30の有効厚みt
w1(=t
w-t
w2)である。
【0043】
固定部材50は、金属製の部材であって、上側パーマ材支持部材51と、下側パーマ材支持部材53とを有する。固定部材50は、パーマ材20を除去して鉄皮10に固定される。
【0044】
上側パーマ材支持部材51は、鉄皮10に溶接により固定され、支持体40の設置部分の上側に位置する上側パーマ材20a及び下側に位置する下側パーマ材20cを支持する。上側パーマ材支持部材51は、鉄皮固定部分51aと延設部分51bとにより構成されるL形状の部材である。鉄皮固定部分51aは、本発明における固定部材の第1部分に相当し、鉄皮10に固定され、支持体40と、上側パーマ材20aと、下側パーマ材20cとを支持する。延設部分51bは、本発明における固定部材の第2部分に相当し、鉄皮固定部分51aから、下側パーマ材20cの上端面に沿って容器の内面側へ延設される。
【0045】
鉄皮固定部分51aを介して支持体40を鉄皮10に固定させることで、支持体40の基部41を直接鉄皮10に固定するよりも溶接面積を大きくすることができる。これにより、支持体40の1個あたりの支持荷重を増加させることができる。また、鉄皮固定部分51aは平板であることから、棒状部材である支持体40よりも容易に鉄皮10に固定することができる。
【0046】
また、支持体40の設置部分では、
図6に示すように、支持体40の設置部分の上側の上側パーマ材20aと下側の下側パーマ材20cとの間のパーマ材20は一部除去されている。このため、上側パーマ材20aは、他のパーマ材20と比べて脱落しやすい状況にある。ここで、パーマ材20は、タンディッシュ1の整備時には、保持していた溶鋼の熱によって熱膨張している。このとき、支持体設置部分の上側パーマ材20aは下方に膨張し、下側パーマ材20cは上方に膨張する。上側パーマ材20aと下側パーマ材20cとの間に設けられている鉄皮固定部分51aは、上側パーマ材20aを下方から支持するとともに、下側パーマ材20cを上方から支持するように機能する。このように、固定部材50に高さ方向におけるパーマ材20の支持機能を持たせることで、支持体40の設置数を低減させることによる耐火物の支持力の低下を補うことができる。
【0047】
鉄皮固定部分51aと上側パーマ材20aとの間には、
図6に示すように、常温時において隙間が設けられる。この隙間にはウェア材30が流入している。これにより、上側パーマ材20aへの負荷の軽減を図ることができる。すなわち、鉄皮固定部分51aが高温時に熱膨張した場合に、鉄皮固定部分51aと上側パーマ材20aとの間に存在しているウェア材30及び周辺のウェア材30に応力が分散するため、熱膨張した鉄皮固定部分51aから直接局所的に上側パーマ材20aに応力が作用することがない。そのため、パーマ材20への応力集中を回避してパーマ材20への負荷を軽減できる。
【0048】
下側パーマ材支持部材53は、下側パーマ材20cを容器の内面側から支持する部材である。下側パーマ材支持部材53は、内面支持部分53aと延設部分53bとにより構成されるL形状の部材である。内面支持部分53aは、本発明における固定部材の第3部分に相当し、下側パーマ材20cに沿って容器の底面1e側へ延設される部材である。延設部分53bは、本発明における固定部材の第2部分に相当し、内面支持部分53aから、下側パーマ材20cの上端面に沿って鉄皮10側へ延設される。
【0049】
内面支持部分53aは、下側パーマ材20cの内面を高さ方向に支持することで、タンディッシュ1を傾動させたときに下側パーマ材20cが脱落することを防止する。内面支持部分53aによって下側パーマ材20cを高さ方向に支持する長さhsは、特に限定されるものではないが、下側パーマ材20cの脱落を防止するために、パーマ材20の厚さhpの1/3程度の長さがあればよい。また、内面支持部分53aが鋼浴部S2に位置すると熱膨張が顕著となるため、ウェア材30に亀裂を生じさせる要因となることからも、内面支持部分53aの長さhsは下側パーマ材20cの脱落を防止できる程度の長さであればよい。下側パーマ材20cよりも底面1e側のパーマ材20は、パーマ材20間の張りによって支持されているため、固定部材50による支持は不要である。
【0050】
本実施形態に係る固定部材50は、上側パーマ材支持部材51と、下側パーマ材支持部材53との2つの部材から形成したが、本発明は係る例に限定されない。固定部材50は、1つの部材から構成してもよい。例えば、
図6に示した下側パーマ材支持部材53の延設部分53bを上側パーマ材支持部材51の延設部分51bと一体化して、鉄皮固定部分51a、延設部分51b及び内面支持部分53aからなる1つの部材を、固定部材50としてもよい。
【0051】
このように固定部材50を介して支持体40を鉄皮10に固定させる場合、固定部材50によってパーマ材20である耐火れんがを効率よく支持するため、
図7に示すように、内面支持部分53aが水平方向に隣接する耐火れんがの一対を支持するように、固定部材50をタンディッシュ1に設けてもよい。すなわち、1つの固定部材50の内面支持部分53aが一対の耐火れんがに兼用され、双方の耐火れんがを支持する。このとき、支持体40及び固定部材50は、支持体40の設置部分のパーマ材20bを構成する耐火れんが1つおきに設ければよい。
【0052】
以上、本発明の一実施形態に係るタンディッシュ1について説明した。本実施形態によれば、支持体40を、容器の高さ方向において、上部側から底部側に向かうにつれて配置密度が減少するように、側壁1a~1dの内面に設ける。これにより、容器の上部側に比べて、溶鋼が保持されている容器の底部側では支持体40の設置数が少なくなるため、ウェア材30に亀裂が生じる可能性を低減することができ、溶鋼流出を防止することができる。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
例えば、上記実施形態では、支持体40の支持部43の形状はY形状であったが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、V形状等であってもよい。また、支持体40の基部41は、支持部43の軸部43aをほぼ直角に屈曲させて形成されていたが、本発明は係る例に限定されず、例えば、延設された基部41の中央付近から軸部43aが延びるように設けられてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 タンディッシュ
1a、1b、1c、1d 側壁
1e 底面
3a、3b、3c ノズル
10 鉄皮
20 パーマ材
20a 上側パーマ材
20c 下側パーマ材
30 ウェア材
40 支持体
41 基部
43 支持部
43a 軸部
43b、43c 先端部
50 固定部材
51 上側パーマ材支持部材
51a 鉄皮固定部分
51b 延設部分
53 下側パーマ材支持部材
53a 内面支持部分
53b 延設部分